(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】認知機能出力システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20220202BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20220202BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20220202BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B5/11 100
A61B5/16 130
A61B10/00 H
(21)【出願番号】P 2019082892
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2020-12-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-13
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513302477
【氏名又は名称】エコナビスタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】清石 彩華
(72)【発明者】
【氏名】川又 大祐
(72)【発明者】
【氏名】安田 輝訓
【合議体】
【審判長】渡邊 聡
【審判官】松田 直也
【審判官】関口 明紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145566(WO,A1)
【文献】特開2017-200572(JP,A)
【文献】特開2016-022310(JP,A)
【文献】特開2019-016060(JP,A)
【文献】特開2019-013375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の睡眠中の生体データを取得する取得手段と、
複数日を単位とする第1の期間に前記取得手段により取得された前記生体データを分析し、第1の分析結果を出力する第1の分析手段と、
複数日を単位とする、前記第1の期間後の第2の期間に前記取得手段により取得された前記生体データを分析し、第2の分析結果を出力する第2の分析手段と、
前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて、
前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する出力手段と、
を有する認知機能出力システム。
【請求項2】
前記出力手段は、前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて、前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の前記認知機能の変調を判定し、判定の結果を、前記認知機能の変調に関する情報として出力する、請求項1に記載の認知機能出力システム。
【請求項3】
前記第1の期間に取得された前記生体データ又は前記第1の分析結果に対する医師の診断情報を取得する診断情報取得手段を更に有する、請求項1
又は2に記載の認知機能出力システム。
【請求項4】
前記第1の分析結果に対する前記第2の分析結果の変化が予め定めた
基準を
満たす場合、前記出力手段は、
前記認知機能の
変調に関する情報を前記
被検者及び関係者に通知する、請求項1
~3のいずれか1項に記載の認知機能出力システム。
【請求項5】
前記認知機能の変調に関する情報は、認知機能の改善の可能性又は認知機能の低下の可能性である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の認知機能出力システム。
【請求項6】
前記出力手段は、前記第1の分析結果、前記第2の分析結果、前記第1の期間と前記第2の期間との間における入浴に関する情報の変化に基づいて、前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する、請求項1
又は2に記載の認知機能出力システム。
【請求項7】
前記入浴に関する情報は、前記
被検者が居住する住宅に設置された浴室に関連する設備の稼働情報又は検知情報に基づいて分析される、請求項
6に記載の認知機能出力システム。
【請求項8】
前記第1の分析手段と前記第2の分析手段のそれぞれは、分析の対象とする複数日の各日に取得された前記生体データのうちで睡眠の特徴が現れる一部の時間帯だけを分析の対象に選択する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の認知機能出力システム。
【請求項9】
前記第1の分析手段及び前記第2の分析手段が分析の対象に使用した一部の時間帯に対応する前記生体データだけを記憶装置に蓄積する、請求項
8に記載の認知機能出力システム。
【請求項10】
コンピュータに、
被検者の睡眠中の生体データを取得する機能と、
複数日を単位とする第1の期間に取得された前記生体データを分析し、第1の分析結果を出力する機能と、
複数日を単位とする、前記第1の期間後の第2の期間に取得された前記生体データを分析し、第2の分析結果を出力する機能と、
前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて、
前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する機能と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能出力システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被検者の睡眠時の生体データを取得する生体データ検出センサと、生体データ検出センサにより取得された被検者の生体データから、時間の経過に伴なう被検者の睡眠の深さ及び体動変化を含む睡眠データを生成する睡眠データ生成装置と、所定の認知症に関する症状について、実際の発症患者から得られた各症状特有の睡眠データを記憶した記憶部を具備し、睡眠データ生成装置で生成された被検者の睡眠データと、記憶部に記憶されている各症状の睡眠データとを比較して、被検者の睡眠データから3つの認知症のリスクを判定する認知症リスク判定装置とを備えた認知症リスク判定システムが開示されている。
【0003】
特許文献2には、ユーザの睡眠時間帯の体動の測定結果を単位期間毎に取得する取得部と、健常者の睡眠時間帯の体動に係る基準データと取得部により取得された測定結果との差異の大きさが所定閾値を超える単位期間の発生頻度に基づき、ユーザが軽度認知症等を発症している可能性を示す認知症情報を出力する出力部とを備えた認知症情報出力システムにおける認知症判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-22310号公報
【文献】国際公開第2017/154805号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2の技術では、1日の睡眠時間帯毎に取得される被検者の体動に関する情報と基準データとを比較して、認知症のリスクや発症の可能性を判定している。この場合、生体データを取得する際に生じた突発的な事由等により、睡眠中の生体データに基づいて認知機能の変調を正確に捉えることが難しい場合がある。
【0006】
本発明は、1日の睡眠時間帯毎に取得される被検者の睡眠中の体動に関する情報と基準データとの比較により被検者の認知機能を判定する場合に比べ、被検者の特性に応じた認知機能の変調をより正確に予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、被検者の睡眠中の生体データを取得する取得手段と、複数日を単位とする第1の期間に前記取得手段により取得された前記生体データを分析し、第1の分析結果を出力する第1の分析手段と、複数日を単位とする、前記第1の期間後の第2の期間に前記取得手段により取得された前記生体データを分析し、第2の分析結果を出力する第2の分析手段と、前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて、前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する出力手段と、を有する認知機能出力システムである。
請求項2に記載の発明は、前記出力手段は、前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて、前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の前記認知機能の変調を判定し、判定の結果を、前記認知機能の変調に関する情報として出力する、請求項1に記載の認知機能出力システムである。
請求項3に記載の発明は、前記第1の期間に取得された前記生体データ又は前記第1の分析結果に対する医師の診断情報を取得する診断情報取得手段を更に有する、請求項1又は2に記載の認知機能出力システムである。
請求項4に記載の発明は、前記第1の分析結果に対する前記第2の分析結果の変化が予め定めた基準を満たす場合、前記出力手段は、前記認知機能の変調に関する情報を前記被検者及び関係者に通知する、請求項1~3のいずれか1項に記載の認知機能出力システムである。
請求項5に記載の発明は、前記認知機能の変調に関する情報は、認知機能の改善の可能性又は認知機能の低下の可能性である、請求項1~4のいずれか1項に記載の認知機能出力システムである。
請求項6に記載の発明は、前記出力手段は、前記第1の分析結果、前記第2の分析結果、前記第1の期間と前記第2の期間との間における入浴に関する情報の変化に基づいて、前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する、請求項1又は2に記載の認知機能出力システムである。
請求項7に記載の発明は、前記入浴に関する情報は、前記被検者が居住する住宅に設置された浴室に関連する設備の稼働情報又は検知情報に基づいて分析される、請求項6に記載の認知機能出力システムである。
請求項8に記載の発明は、前記第1の分析手段と前記第2の分析手段のそれぞれは、分析の対象とする複数日の各日に取得された前記生体データのうちで睡眠の特徴が現れる一部の時間帯だけを分析の対象に選択する、請求項1~7のいずれか1項に記載の認知機能出力システムである。
請求項9に記載の発明は、前記第1の分析手段及び前記第2の分析手段が分析の対象に使用した一部の時間帯に対応する前記生体データだけを記憶装置に蓄積する、請求項8に記載の認知機能出力システムである。
請求項10に記載の発明は、コンピュータに、被検者の睡眠中の生体データを取得する機能と、複数日を単位とする第1の期間に取得された前記生体データを分析し、第1の分析結果を出力する機能と、複数日を単位とする、前記第1の期間後の第2の期間に取得された前記生体データを分析し、第2の分析結果を出力する機能と、前記第1の分析結果と前記第2の分析結果とに基づいて、前記第1の期間と前記第2の期間との間における前記被検者の認知機能の変調に関する情報を出力する機能と、を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、1日の睡眠時間帯毎に取得される被検者の睡眠中の体動に関する情報と基準データとの比較により被検者の認知機能を判定する場合に比べ、被検者の特性に応じた認知機能の変調をより正確に予測できる。
請求項2記載の発明によれば、1日の睡眠時間帯毎に取得される被検者の睡眠中の体動に関する情報と基準データとの比較により被検者の認知機能を判定する場合に比べ、被検者の特性に応じた認知機能の変調をより正確に予測できる。
請求項3記載の発明によれば、認知機能の変調に関する情報をより正確に予測できる。
請求項4記載の発明によれば、認知機能の低下の可能性を速やかに通知できる。
請求項5記載の発明によれば、認知機能の改善の可能性を速やかに通知できる。
請求項6記載の発明によれば、被検者の入浴行動の変化を加味することで認知機能の変調に関する情報をより正確に予測できる。
請求項7記載の発明によれば、被検者の入浴行動を自動的に収集できる。
請求項8記載の発明によれば、分析時間の短縮を実現できる。
請求項9記載の発明によれば、蓄積される生体データの増大を抑制することができる。
請求項10記載の発明によれば、1日の睡眠時間帯毎に取得される被検者の睡眠中の体動に関する情報と基準データとの比較により被検者の認知機能を判定する場合に比べ、被検者の特性に応じた認知機能の変調をより正確に予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】情報処理システムの概要を説明する図である。
【
図2】認知機能変調情報通知サーバの構成例を示す図である。
【
図3】記憶装置に記憶される各種のデータの構造例を示す図である。(A)は生体データDBのデータ構造例であり、(B)は入浴行動DBのデータ構造例であり、(C)は分析結果DBのデータ構造例であり、(D)は病歴等DBのデータ構造例であり、(E)は診断情報DBのデータ構造例である。
【
図4】情報処理システムで実行される処理動作の例を説明する図である。
【
図5】携帯端末に表示されるメッセージの例を示す図である。(A)は軽度の認知障害との診断がある場合に認知機能の低下が予測される変調があった場合のメッセージであり、(B)は軽度の認知障害との診断がある場合に認知機能の改善が予測される変調があった場合のメッセージである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
<実施の形態1>
<システムの全体構成>
図1は、情報処理システム1の概要を説明する図である。
図1に示す情報処理システム1は、インターネット10を通じて接続された、被検者が居住する住宅20内の機器、認知機能変調情報通知サーバ30、医療機関端末40、被検者と関係者(以下「被検者等」という)が操作する携帯端末50で構成されている。
ここでの関係者には、例えば被検者の家族、被検者宅を訪問するホームヘルパー、被験者が入居する施設の職員が含まれる。
図1の例は、被検者が一人の場合を想定しているため、住宅20が1つであるが、被験者が複数の場合には住宅20も複数となる。
なお、
図1に示す情報処理システム1では、認知機能変調情報通知サーバ30、医療機関端末40、携帯端末50のそれぞれが1つであるが、いずれも複数存在してもよい。
【0011】
住宅20には、通信装置21が設けられており、宅内の機器とインターネット10との接続を実現している。通信装置21は、例えば光回線の終端装置である。もっとも、宅内の機器は、移動体通信網に直接接続してもよい。
図1の場合、宅内の機器は、ネットワーク22を通じて通信装置21に接続されている。
図1には、宅内の機器の例として、睡眠中の被検者の生体データを取得するベッドセンサ23、浴室を含む居室毎の被検者の在不在を検知する人感センサ24、浴室の扉を含む扉の開閉を検知する扉開閉センサ25、給湯器の稼働に関する情報を収集する給湯器センサ26、浴室や台所などに設置される給湯コントローラ27が示されている。
【0012】
ベッドセンサ23には、被検者の体動に関するデータを非接触で測定可能なセンサが用いられる。本実施の形態では、ベッドセンサ23として、寝具の下に敷いて使用するマット型のセンサを想定する。例えばベッドセンサ23は、導電性の生地と複数個の圧電素子によって構成され、周期的な微振動を検知の対象とする。なお、ベッドセンサ23には、マイクロ波ドップラーレーダーを使用してもよい。本実施の形態の場合、ベッドセンサ23は、生体データとして、脈拍、呼吸数、寝返り等の体動を検知する。
【0013】
もっとも、体動を検知できれば、マット型のセンサやマイクロ波ドップラーレーダーに限らない。例えばベッドセンサ23として、スマートフォンを代用してもよい。現在、スマートフォン用のアプリケーションプログラムとして、スマートフォンに内蔵された加速度センサの出力を用いて、被検者の睡眠時間や睡眠サイクル等を計測できるものがある。
ネットワーク22は、有線LAN(=Local Area Network)でも無線LANでもよい。
図1の場合、宅内の機器からの出力は、機器毎に定めた周期で、又は、機器毎に定めたイベントが検知されたタイミングで、各機器から認知機能変調情報通知サーバ30に送信される。
【0014】
認知機能変調情報通知サーバ30は、被検者の住宅20から各種のデータを収集して分析するサーバであり、認知機能の変調を、対応する被検者等の携帯端末50に通知する機能を備えている。
ここでの認知機能変調情報通知サーバ30は、認知機能出力システムの一例である。
認知機能変調情報通知サーバ30には、提携する医療機関に設けられている医療機関端末40に対して被検者毎に収集された生体データ等を送信する機能、被検者の認知機能に関する診断情報を医療機関端末40から受信する機能等が設けられている。
なお、認知機能に関する診断情報は、医療機関端末40を操作する医師が入力する。
携帯端末50は、表示部及び無線通信部を備える情報機器であり、例えばスマートフォン、タブレット型端末、ノート型のコンピュータである。
【0015】
<認知機能変調情報通知サーバの構成>
図2は、認知機能変調情報通知サーバ30の構成例を示す図である。
認知機能変調情報通知サーバ30は、いわゆるコンピュータであり、アプリケーションプログラムを実行する演算装置301と、各種のデータを記憶する記憶装置302と、インターネット10(
図1参照)との通信に使用される通信装置303と、これらを接続するバスその他の配線304で構成されている。なお、通信装置303は、取得手段及び診断情報取得手段の一例である。
演算装置301は、CPU(=Central Processing Unit)と、BIOS(=Basic Input Output System)等が記憶されたROM(=Read Only Memory)と、ワークエリアとして用いられるRAM(=Random Access Memory)とを有している。ここでのROMは、不揮発性の半導体メモリであれば書き換えが可能でもよい。
【0016】
演算装置301は、不図示のCPUによるアプリケーションプログラムの実行を通じ、被検者毎の認知機能の変調に関する情報(以下「変調情報」という)を出力する機能を提供する。
この機能の実現のため、演算装置301は、生体データを分析する分析部311と、被検者毎の認知機能の変調を判定する判定部312として動作する。言うまでもなく、分析部311と判定部312も、アプリケーションプログラムの実行を通じて実現される。
本実施の形態における分析部311は、予め定めた複数日を単位とする期間内に取得された生成データを分析し、分析の結果を出力する。ここでの分析結果は、例えば就寝時間と起床時間、睡眠時間の長さ、睡眠深度のパターン、中途覚醒の回数である。
【0017】
本実施の形態の場合、複数日の各日に対応する生体データを分析の対象とする。もっとも、分析に用いる生体データは、各日の睡眠中に取得された生体データの全てである必要はない。例えば睡眠の特徴が現れ易い時間帯の生体データだけを分析の対象に選択してもよい。睡眠の特徴が現れ易い時間帯には、例えば体動が大きい時間帯、体動がほとんどない時間帯、体動の頻度が多い時間帯、呼吸数が多い時間帯、呼吸数が少ない時間帯、入眠直後の時間帯、最初のレム睡眠とノンレム睡眠の時間帯、最後のレム睡眠とノンレム睡眠の時間帯、起床直前の時間帯を用いてもよい。もっとも、これらは例示に過ぎない。なお、分析には、例示した時間帯のうちの1つ又は複数を使用する。また、分析に使用する時間帯は、被検者毎に異なってもよいし、日によって異なってもよい。
睡眠の特徴が現れ易い時間帯の生体データだけを分析の対象とすることで、各日の睡眠中に取得された生体データの全てを分析の対象とする場合に比して、分析時間を短縮することが可能になる。
【0018】
本実施の形態では、分析の対象である生成データが対応する期間を区別する必要がある場合、2つの期間のうち時間軸上の先に出現する期間を第1の期間といい、時間的に後に出現する期間を第2の期間という。
なお、各期間は、例えば数日、1週間、数週間、数カ月を単位とする。なお、分析に使用する生体データの種類に応じて期間の単位を定めてもよい。
また、本実施の形態では、第1の期間に対応する分析の結果を第1の分析結果、第2の期間に対応する分析の結果を第2の分析結果という。
第1の分析結果を出力する分析部311は第1の分析手段の一例であり、第2の分析結果を出力する分析部311は第2の分析手段の一例である。
【0019】
なお、分析部311には、浴室内に設けられている人感センサ24のセンサ信号、浴室の扉の開閉を検知する扉開閉センサ25のセンサ信号、給湯器の稼働状態、給湯温度、浴槽の水位その他のデータを検知する給湯器センサ26のセンサ信号、浴室や台所などに設置される給湯コントローラ27に集約されるセンサ信号や操作ログ等を分析し、被検者の入浴行動に関する情報(以下「入浴に関する情報」ともいう)を出力する機能を設けてもよい。
ここで、給湯器センサ26のセンサ信号と給湯コントローラ27の操作ログ等は、浴室に関連する設備の稼働情報の一例である。また、浴室内に配置される人感センサ24のセンサ信号や浴室の扉に取り付けられる扉開閉センサ25のセンサ信号は、被検者の行動の検知情報の一例である。
【0020】
本実施の形態の場合、入浴に関する情報には、例えば入浴の日時、入浴している時間の長さ、入浴の頻度、浴室内の給湯温度がある。分析部311は、入浴に関する情報と生活環境の情報との関係を分析してもよい。ここでの生活環境の情報は、入浴に関する情報に影響を及ぼす情報であり、例えば天気、気温、湿度、季節(例えば日付)等である。入浴に関する情報を分析した結果も、第1の分析結果と第2の分析結果の一例である。もっとも、入浴行動を分析した結果を、睡眠中の生体データを分析した結果とは別に管理してもよい。
【0021】
本実施の形態における判定部312は、第1の分析結果と第2の分析結果の差異が予め定める基準を満たす場合、認知機能の変調を被検者等に通知する機能を有している。
判定部312は、例えば第1及び第2の分析結果のうち対応する項目間の差異が予め定めた閾値を超えるとき、認知機能に変調があったと判定する。閾値は、項目毎に定められる。
1つでも閾値を超える項目があれば、判定部312は、認知機能に変調があったと判定してもよいが、閾値を超える項目が複数であることを条件として、認知機能の変調を判定してもよい。なお、単に閾値を超えた項目の数に着目するのではなく、予め定めた特定の項目の組み合わせを条件としてもよい。
なお、変調には、認知機能の低下が予想される場合と、認知機能の改善が予想される場合とがある。
【0022】
ところで、本実施の形態に係る認知機能変調情報通知サーバ30には、収集された各種のデータを提携する医療機関端末40に通知する機能も設けられている。被検者の認知機能に対する診断を医師に求めるためである。
本実施の形態における判定部312は、第1の分析結果に対する医師の診断を含む診断情報を基準に、被検者等に通知する認知機能に関する情報の内容を決定する機能も有している。
例えば軽度の認知障害があると診断されている場合において認知機能の低下が疑われる変調が検知されたとき、判定部312は、軽度の認知症の可能性がある旨を通知する。
一方、軽度の認知障害があると診断されている場合において認知機能の改善を示す変調が検知されたとき、判定部312は、認知機能が正常化した旨を通知する。
この判定部312は、出力手段の一例でもある。
【0023】
更に、本実施の形態の判定部312には、睡眠中の生体データと入浴に関する情報とに基づいて認知機能の低下又は改善を判定する機能も設けられている。
睡眠中の生体データに閾値を超える差異が認められた場合でも、認知機能の変調としての認定が難しい場合もある。このため、本実施の形態では、睡眠中の生体データと入浴行動を記録した入浴に関する情報とに基づいて、認知機能の変調を判定する機能も用意している。
例えば睡眠中の生体データだけでは判定が難しい場合でも、入浴の回数の顕著な減少や増加が認められる場合には、認知機能に変調が生じたとみなせる場合がある。
もっとも、この機能の実行は任意でよい。
【0024】
記憶装置302は、不揮発性の書き換え可能な記憶媒体にデータを読み書きする装置であり、例えばハードディスク装置、半導体メモリ等で構成される。本実施の形態の場合、記憶装置302には、基本ソフトウェアやアプリケーションプログラムも記憶されている。CPUによるアプリケーションプログラムの実行を通じ、前述した分析部311や判定部312の機能が実現される。
本実施の形態における記憶装置302には、被検者の住宅20や医療機関端末40から取得される各種のデータが記憶される。
図2には、各種のデータの一例として、被検者の住宅20から収集される生体データを記憶する生体データDB(=Data Base)321と、同じく被験者の住宅20から収集される入浴行動に関する情報を記憶する入浴行動DB322と、分析部311による分析の結果を記憶する分析結果DB323と、被検者や親族の病歴を記憶する病歴等DB324と、医師が入力した診断情報を記憶する診断情報DB325とが示されている。
【0025】
図3は、記憶装置302(
図2参照)に記憶される各種のデータの構造例を示す図である。(A)は生体データDB321のデータ構造例であり、(B)は入浴行動DB322のデータ構造例であり、(C)は分析結果DB323のデータ構造例であり、(D)は病歴等DB324のデータ構造例であり、(E)は診断情報DB325のデータ構造例である。
図3に示すように、各種のデータは、いずれも被検者の管理に使用するID(=Identifier)によって管理されている。従って、被検者の数だけ、記憶装置302(
図2参照)には、
図3に示す構造のデータが記憶される。
【0026】
生体データDB321には、被検者を識別する情報(以下「識別情報」という)と生体データが記憶される。
識別情報は、例えば被検者の氏名、住所、年齢、性別、体格、被検者や家族等の連絡先である。住所には、例えば被検者が生活する住宅20の住所や被検者が入居する施設の住所が記録される。体格には、例えば身長、太っている、痩せている、中肉中背との身体的な特徴が記録される。被検者や家族等の連絡先には、例えば携帯端末50(
図1参照)の電話番号、メールアドレスが記録される。
生体データは、新たな生体データが被験者の住宅20から受信される度に追加される。
【0027】
本実施形態の場合、生体データは、住宅20内のセンサにより例えば1分単位で検知される。
図3では、分析部311(
図2参照)による分析の単位に対応する生体データの部分に「期間1」と「期間2」のラベルを付している。
図3の場合、「期間1」は、4月1日から4月7日であり、「期間2」は、4月8日から4月14日である。なお、記憶装置302に記憶される生体データは、2つの期間分に限らない。例えば測定開始後の全ての生体データでもよい。その場合、対応する期間の数は3以上になる。
図3では、説明の都合のため、変調情報の通知に使用する2つの期間分の生体データを示している。他のデータベースに記憶する情報についても同様である。
【0028】
本実施の形態の場合、ベッドセンサ23(
図1参照)において取得された生体データの全てが生体データDB321に記憶される。記憶された生体データの全てを、分析部311(
図2参照)による分析後もそのまま蓄積してもよいが、分析部311で分析に使用した生体データだけを蓄積し、その他の生体データは生体データDB321から消去してもよい。生体データDB321に蓄積する生体データを取得されたデータの一部に限定することにより、分析前に記憶された生体データの全てを蓄積する場合に比して、生体データDB321に蓄積されるデータ量の増加を抑制することができる。
【0029】
入浴行動DB322には、被検者の入浴行動の検知用に配置された各種のセンサから出力されるセンサ信号(以下「入浴行動データ」といいう)が記憶される。入浴行動データの数や内容は、被検者の住宅20(
図1参照)に設けられているセンサの数や種類によって異なる。入浴行動データは、新たな入浴行動データが被検者の住宅20から受信される度に追加される。ここで、入浴行動DB322に蓄積する入浴行動データは、例えば検知の対象とする事象が検知された日時である。
分析結果DB323には、被検者の住宅20から収集された生体データ及び入浴行動データを分析した結果が記憶される。ここでの分析は、分析部311(
図2参照)が実行する。前述したように、分析部311は、予め定めた複数日の間に収集された生体データ等を分析の単位とする。
図3では、期間1に対応する分析結果データと期間2に対応する分析結果データが記録されている。
【0030】
病歴等DB324には、被検者本人や家族の病歴が記憶される。家族の病歴は申告があった場合に記憶される。ここでの病歴には、通院中の病気、既往歴が含まれる。
診断情報DB325には、被検者の認知機能に対する医師の診断を含む診断情報が記憶される。前述したように、医師は、医療機関端末40(
図1参照)で受信した生体データ等に対する診断を含む診断情報を、医療機関端末40を通じて入力する。
図3では、期間1に対応する分析結果データと期間2に対応する分析結果データが記録されている。
【0031】
<処理動作の例>
図4は、情報処理システム1で実行される処理動作の例を説明する図である。なお、図中に示す記号はステップを表している。
被検者の住宅20に設けられている通信装置21(
図1参照)は、宅内に設置した各種のセンサから出力されるセンサ信号を、インターネット10(
図1参照)を介して認知機能変調情報通知サーバ30に送信する(ステップ101)。ここでのセンサ信号には、被検者の生体データと入浴行動データが含まれる。
【0032】
認知機能変調情報通知サーバ30は、新たなセンサ信号を受信すると、記憶装置302(
図2参照)に受信したセンサ信号を記憶する(ステップ102)。
本実施の形態の場合、受信されたセンサ信号は、生体データDB321(
図2参照)と入浴行動DB322(
図2参照)に記憶される。
この処理は、予め定めた期間の間、継続的に実行される。
図4では、ステップ101とステップ102を含む期間を「期間1」として表している。
【0033】
本実施の形態における認知機能変調情報通知サーバ30は、センサ信号を受信する度、又は、「期間1」が経過した後、センサ信号として受信した生体データ及び入浴行動データを提携先の医療機関端末40に送信する。
「期間1」が経過すると、認知機能変調情報通知サーバ30は、同期間内に収集されたセンサ信号を分析する(ステップ103)。本実施の形態の場合、睡眠に関する分析では、例えば就寝時間と起床時間、睡眠時間の長さ、睡眠深度のパターン、中途覚醒の回数を出力し、入浴行動に関する分析では、例えば入浴の日時、入浴の時間の長さ、入浴の頻度、浴室内の給湯温度を出力する。ここでの分析には、認知症のリスクを判定する情報を含めてもよい。
図4の場合、分析の結果を医療機関端末40に送信していないが、認知機能変調情報通知サーバ30による分析の結果を、医療機関端末40に送信してもよい。
【0034】
医療機関端末40を操作する医師は、睡眠中に計測された生体データ及び起床中に計測された入浴行動データ等に基づいて被検者の認知機能を診断し、診断の結果を含む診断情報を入力する。
医療機関端末40は、医師が入力した診断情報を認知機能変調情報通知サーバ30に送信する(ステップ104)。
本実施の形態の場合、受信された診断情報は、診断情報DB325(
図2参照)に記憶される(ステップ105)。
認知機能についての診断情報には、病状の重篤度に関する情報が含まれる。病状の重篤度に関する情報には、例えば認知症、軽度の認知症、軽度の認知障害が含まれる。ここで、軽度の認知障害とは、軽度の認知症の前段階をいう。
【0035】
なお、医師による診断の周期は、予め定めた期間と同じとは限らない。例えば予め定めた期間が1週間であるのに対し、医師による診断は1月単位である場合、ステップ104とステップ105の実行は、
図4に示すタイミングとは異なる周期で実行される。
「期間1」が経過すると「期間2」が開始する。このため、「期間1」を単位とするセンサ信号の分析等が実行されている間(ステップ103~105)も、被検者の住宅20は、各種のセンサから出力されるセンサ信号を認知機能変調情報通知サーバ30に送信する(ステップ106)。一方、認知機能変調情報通知サーバ30は、新たに受信したセンサ信号を、記憶装置302(
図2参照)に記憶する(ステップ107)。
【0036】
このステップ106及び107は、ステップ103~ステップ105の処理と並行して実行される。
「期間2」の場合も、認知機能変調情報通知サーバ30は、センサ信号を受信する度、又は、「期間2」が経過した後、センサ信号として受信した生体データ及び入浴行動データを提携先の医療機関端末40に送信する。
また、「期間2」が経過すると、認知機能変調情報通知サーバ30は、同期間内に収集されたセンサ信号を分析する(ステップ108)。
【0037】
「期間1」と「期間2」の分析結果が得られると、認知機能変調情報通知サーバ30は、変調を判定する(ステップ109)。判定の処理は、判定部312(
図2参照)が実行する。判定の結果には、変調が有る場合と無い場合がある。変調が有る場合には、認知機能の低下が予想される場合と認知機能の改善が予測される場合がある。
図4では不図示であるが、期間2に対応するセンサ信号等に対する医師の診断を含む診察情報も認知機能変調情報通知サーバ30に通知される。
【0038】
図4の場合、変調が見つかった場合を想定している。このため、認知機能変調情報通知サーバ30は、携帯端末50に変調情報を通知している(ステップ110)。ここでの携帯端末50は、電話番号やメールアドレスが事前に登録されている端末であり、通知先には被検者本人、被検者の家族、ホームヘルパー等が含まれる。
通知を受けた携帯端末50は、通知を受けた変調情報を表示する(ステップ111)。変調情報は、例えばメッセージとして表示される。
図5は、携帯端末50に表示されるメッセージの例を示す図である。(A)は軽度の認知障害との診断がある場合に認知機能の低下が予測される変調があった場合のメッセージであり、(B)は軽度の認知障害との診断がある場合に認知機能の改善が予測される変調があった場合のメッセージである。
【0039】
図5の場合、被検者は太郎さんである。
このため、(A)の例では、「太郎さんには、軽度の認知症が疑われます。正確な診断には、医療機関への受診をお勧めします。」とのメッセージが表示されている。
一方、(B)の例では、「太郎さんの認知機能は、正常な状態に戻ったと思われます。正確な診断には、医療機関への受診をお勧めします。」とのメッセージが表示されている。
なお、ステップ110(
図4参照)の時点で医師の診察情報が存在しない場合には、相対的な認知機能の変調の通知にとどまる。例えば認知機能の低下が予測される変調があった場合、携帯端末50には、「太郎さんの認知機能は以前に比して低下しているようです。正確な診断のため、医療機関への受診をお勧めします。」等のメッセージが表示される。
また例えば認知機能の改善が予測される変調があった場合、携帯端末50には、「太郎さんの認知機能は以前に比して改善が認められます。正確な診断のため、医療機関への受診をお勧めします。」等のメッセージが表示される。
【0040】
<他の実施の形態>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、前述の実施の形態に記載の範囲に限定されない。前述した実施の形態に、種々の変更又は改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0041】
例えば前述の実施の形態においては、被検者の住宅20で発生するセンサ信号の全てを認知機能変調情報通知サーバ30に送信しているが、住宅20内でセンサ信号を分析し、認知機能変調情報通知サーバ30には分析結果だけを送信してもよい。この場合、分析処理は、前述したアプリケーションプログラムをインストールした被検者の情報処理端末で実行される。この実施の形態の場合、コンピュータとしての情報処理端末と認知機能変調情報通知サーバ30とが認知機能出力システムとして機能する。
【0042】
前述の実施の形態においては、変調の判定に使用する閾値として、認知機能が低下する場合と改善する場合で同じ値を用いているが、認知機能の低下の判定に使用する閾値と認知機能の改善の判定に使用する閾値で異なる値を使用してもよい。認知機能の低下の判定に使用する閾値は、認知機能の改善の判定に使用する閾値よりも、変化の幅を小さくしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…情報処理システム、10…インターネット、20…住宅、23…ベッドセンサ、24…人感センサ、25…扉開閉センサ、26…給湯器センサ、27…給湯コントローラ、30…認知機能変調情報通知サーバ、40…医療機関端末、50…携帯端末、301…演算装置、302…記憶装置、311…分析部、312…判定部、321…生体データDB、322…入浴行動DB、323…分析結果DB、324…病歴等DB、325…診断情報DB