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特許7017751ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法
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  • 特許-ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法 図1
  • 特許-ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/30 20060101AFI20220202BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20220202BHJP
   C30B 11/02 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C30B29/30 A
C30B11/00 C
C30B11/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017177696
(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公開番号】P2019052063
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-06-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】太子 敏則
(72)【発明者】
【氏名】大畑 宙生
(72)【発明者】
【氏名】柴山 卓眞
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/30
C30B 11/00
C30B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がKxNa1-xNbO3(0<x<1)であるニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法であって、
0.05~1.0mm厚の白金ルツボに、種結晶として、前記ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶よりもNa濃度が0.1at%以上高い、ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶及び/又はニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)単結晶を配置し、垂直ブリッジマン法を用いてブリッジマン炉内で前記種結晶を成長させることを特徴とするニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記ブリッジマン炉の内部部材のうち、種結晶に接する白金ルツボを除く部材がアルミナ製であることを特徴とする請求項1に記載のニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶が、Li、Ca、Ba、V、Ta、Ti又はZrを濃度0.1~5.0at%で含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KxNa1-xNbO3(0<x<1)の化学式で表されるニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶はKxNa1-xNbO3(0<x<1)の化学式で表されるが圧電体の一種である。圧電体はチタン酸ジルコン酸鉛に代表される鉛系と、チタン酸バリウムに例示される非鉛系の、大きくは二種類に分類される。圧電体にはその性質を表す特性値が多くあるが、中でも圧電定数とキュリー温度はその代表的なものであるが両者はトレードオフの関係にあり、同一の材料で両者とも高い値を得るのは容易ではない。
【0003】
チタン酸ジルコン酸鉛に代表される鉛系の圧電体はキュリー温度が高い領域においても圧電定数が高い数値を示すので、圧電体としては非常に優れた材料である。ただし、チタン酸ジルコン酸鉛は鉛を多く含んでいるため、環境・衛生を害する恐れが否めない。特に、欧州では、2016年6月から施行された化学品規制「REACH規則」により、鉛を含む製品で消費者に渡る物は、一切販売ができなくなる等、規制が厳しくなっている。そのような背景もあり、非鉛の圧電体材料は、欧州だけではなく欧州以外の外国や日本国内で急速にニーズが高まっている。
【0004】
非鉛系圧電体材料のキュリー温度と圧電定数の関係において同じキュリー温度に対して高い圧電定数を得られるものとしてはニオブ酸カリウムナトリウムが非常に有望である。しかし、鉛系のチタン酸ジルコン酸鉛に比較すると同じキュリー温度に対する圧電定数は低く、より高い圧電定数が得られる非鉛系の圧電体が求められているが、従来のニオブ酸カリウムナトリウムは多結晶体であった。
【0005】
そこで、同じ非鉛系のニオブ酸カリウムナトリウムであっても同じキュリー温度で高い圧電定数が得られるニオブ酸カリウムナトリウム単結晶を利用する事を考えた。ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法としては、これまで湿式法による単結晶の育成が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5578504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
湿式法では育成される結晶の大きさがせいぜい15~20μmと小さく、鉛系のチタン酸ジルコン酸鉛が使われる用途に置き換わるには至らなかった。本発明は、この課題を解決するためになされたものであり、垂直ブリッジマン炉内の部材の材質を選択し、長時間に亘って高温かつカリウムやナトリウムの蒸気に晒すことができ、高品質のニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)結晶を工業的に生産可能なKNN結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法は、組成式がKxNa1-xNbO3(0<x<1)であるニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法であって、0.05~1.0mm厚の白金ルツボに、種結晶として、前記ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶よりもNa濃度が0.1at%以上高い、ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶及び/又はニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)単結晶を配置し、垂直ブリッジマン法を用いてブリッジマン炉内で前記種結晶を成長させることを特徴とする。
【0009】
前記ブリッジマン炉の内部部材のうち、種結晶に接する部材は白金製であり、種結晶に接しない部材はアルミナ製であることが好ましい。
前記ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶は、成長開始部から成長終了部に向かってK/Na比の傾斜分布を有し、かつ、内部歪を有することが好ましい。
前記ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶は、Li、Ca、Ba、V、Ta、Ti又はZrを濃度0.1~5.0at%で含有することが好ましい。
【0010】
前記カリウムナトリウム塩単結晶の製造方法では、育成したニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の切り出し方位を変えて種結晶とするか、若しくはNaNbO3 結晶の結晶方位を変え種結晶とし、種結晶外径に対して増径部を有する白金ルツボを用いて、種結晶から成長結晶へと外径を大型化することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単結晶育成中に、垂直ブリッジマン炉内の部材がカリウム、ナトリウム蒸気と反応して膨れやハガレを生じることがないため、該部材の落下による原料融液の汚染や結晶成長の妨害が発生せず、クラック等の欠陥がない良質なニオブ酸カリウムナトリウム単結晶を製造することができる。本発明の製造方法は、特に、1100℃を超える温度下にカリウムやナトリウムの蒸気に晒される場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明における垂直ブリッジマン炉内全体の構造を示す図である。
図2図2は、結晶成長の過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の製造方法は、組成式がKxNa1-xNbO3(0<x<1)であり、0.05~1.0mm厚の白金ルツボに、種結晶として、前記ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶よりもNa濃度が0.1at%以上高い、ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶及び/又はニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)単結晶をあらかじめ坩堝底に配置させ、垂直ブリッジマン法を用いて前記種結晶を成長させることを特徴とする。
以下、上記製造方法について詳細に説明する。
原料となるニオブ酸カリウムナトリウム単結晶及び/又はニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)単結晶には、ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶よりもNa濃度が0.1at%以上高いものを使用する。これらは従来公知の方法で合成してもよいし、市販品を用いてもよい。なお、Na濃度が0.1at%以上高いことは(原子吸光分析法、電子線マイクロアナライザ(EPMA)等)により確認することができる。
本発明の製造方法にはブリッジマン炉を用いる。ブリッジマン炉は、原料をルツボ中で融解し、温度勾配を設けた炉内でルツボを移動させ、一端より融液を順次固化(結晶化)させる装置である。
【0014】
ブリッジマン炉を用いた単結晶育成法には、水平ブリッジマン法及び垂直ブリッジマン法があり、温度環境を制御して固液界面を移動させる方式や、固定した高温環境の中で容器を移動させる方式がある。本発明においては、円盤状のウエハを得るために円柱状の結晶を育成する垂直ブリッジマン法を用いる。
【0015】
ここで図1は、垂直ブリッジマン法により単結晶育成を行うために用いる単結晶育成炉(ブリッジマン炉)を模式的に示す断面図である。
図1に示す育成炉1は、結晶を育成する環境を外部から遮断した状態に保持する密閉容器2と、密閉容器2内に軸線方向を鉛直向きに配置した抵抗加熱ヒータとしての円筒ヒータ3と、円筒ヒータ3内においてルツボ軸4及びルツボ受け5により昇降自在に支持されたルツボ10とを備える。ルツボ10は、0.05~1.0mm厚の白金ルツボである。また、ルツボ10の上部開口は上蓋15により塞がれている。
密閉容器2は図示しない減圧装置とガス供給機構とに接続され、ルツボ軸4にルツボ10をセットした後、気密容器2内を減圧し、ガス供給機構から気密容器2内に不活性ガスを供給し、気密容器2内を不活性ガス雰囲気として結晶を育成する。
【0016】
前記したように、ルツボ10には0.05~1.0mm厚の白金ルツボを用いる。白金ルツボを使うのは、溶湯成分がナトリウムやカリウムのアルカリ金属の酸化物なので通常用いられるアルミナルツボやマグネシアルツボと反応してしまうからである。また、白金ルツボの厚さが0.05mmより薄いとルツボが溶湯を保持するのに耐えられなくなり、ルツボの厚さが1.0mmより厚いと温度分布が不均一となり、単結晶が生成しにくくなる。ルツボ底部には種結晶30が保持されるが、このように種結晶30を保持する部分(シードホルダー)を白金製とし、かつ、肉薄の白金ルツボを用いることで、ルツボ10の円周方向や高さ方向の温度分布が均一になるという効果が得られる。
【0017】
また、前記ブリッジマン炉の内部部材のうち、白金ルツボ(ルツボ10)のように、種結晶30に接する部材は貴金属製とし、融液40に接しない部材はアルミナ製とすることが好ましい。融液40に接しない部材とは、具体的に、上蓋15などである。
【0018】
さらに、貴金属からなる前記ルツボ10を保持するルツボ軸4及びルツボ受け5はアルミナ製にすることが好ましい。貴金属は高価であるのに対してアルミナは、より安価であり、かつ、耐熱性に優れるためである。また、貴金属からなるルツボ10を保持する部材であれば、種結晶30に接しないため、原料融液40にアルミナの破片が混入するおそれがない。
【0019】
ここで、図2を用いて、本発明に係るニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の育成方法について説明する。図2では、育成炉1内の鉛直方向の温度分布と、各工程におけるルツボ10の位置、及びルツボ10の内部状態を示している。
図2(a)は、結晶原料20と種結晶30とを装填したルツボ10を、密閉容器2内にセットした状態を示す。
【0020】
結晶原料20には、アルミナの焼結体やニオブ酸カリウムナトリウムの端材が用いられる。種結晶30には、収容部の形状に合わせて円盤状に成形したものを使用し、ルツボ底部の収容部にセットする。また、種結晶30として、組成式がKxNa1-xNbO3(0<x<1)であるニオブ酸カリウムナトリウム単結晶よりもNa濃度が0.1at%以上高い、ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶又はニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)単結晶を用いる。
【0021】
結晶原料20と種結晶30とを収納したルツボ10は、育成炉1(気密容器2)内の加熱ゾーンのうち、結晶原料30の溶融温度よりも低温の領域である下側に位置させておく。
次いで、ルツボ10を徐々に上昇させる。ルツボ10は上昇するにつれて、昇温し、結晶原料20が溶融する温度領域内を上昇するにしたがって、ルツボ10の上側から下側へ徐々に結晶原料20が融解され、図2(b)に示すように上部側に融液40が形成される。
【0022】
図2(c)は、結晶原料20が結晶成長部の最下位置まで融解し、融液40が形成された状態である。融液40が種結晶30に接触して種結晶30がわずかに融解した時点で、ルツボ10の動きを上昇から下降に切り替える。図2(c)は、種結晶30が部分的に融解したいわゆる種付け状態であり、この状態からルツボ10を下降動作に切り替える。
【0023】
図2(d)は、種付け後、ルツボ10を徐々に下降させて結晶50を成長させている工程である。結晶成長工程では、結晶成長部の下部側から単結晶50が成長していく。そして、融液40の上部まで完全に結晶化させた後、ルツボ10を室温まで徐々に降温させ、ルツボ10から単結晶50を取り出す。
【0024】
本発明に係る方法では、育成したニオブ酸カリウムナトリウム単結晶から目的の方位の種結晶を切り出し、種結晶とするか、又は、NaNbO3種結晶の結晶方位を変えて、結晶の成長方位を変え、さらに、ルツボ内に入れる原料の重量を調整することにより、種結晶の外径より大きい所定径までニオブ酸カリウムナトリウム単結晶を、増径部を有する白金ルツボを用いて増径させ、かつ、内部歪の大きさを変化させてもよい。
【0025】
ここで、本発明に係る方法により得られたニオブ酸カリウムナトリウム単結晶は、成長開始部のNa濃度が高く、成長終了部のK濃度が高くなるように、成長開始部から成長終了部に向かって濃度傾斜分布を有する。
この濃度傾斜分布を有することにより、通常は引き下げ方向に対して直角に切断して基板を採取するので、基板の上下面で濃度が異なり、その濃度差によって基板内で歪が生じ、圧電特性が向上するという効果が得られる。
【0026】
また、前記した単結晶育成工程においては、ルツボ10内におけるカリウム、ナトリウムの蒸発量を抑えるため、炉内調整用の蒸発材を封入したり、原料融液40中に封止剤を浮かべてもよい。
また、原料であるニオブ酸カリウムナトリウム単結晶及び/又はニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)単結晶の特定の結晶方位を育成するために、所望方位の種結晶から成長するように結晶育成条件を調整することもできる。本発明では、成長結晶及びルツボ10の直径や長さの形状を変えることにより、結晶内に有する内部歪の大きさを変化させる。具体的には原料の量を調節し、結晶の長さを変えた結晶育成を行う。
【実施例
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0028】
[実験1]
ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の育成は図1に示した密閉容器2内で1個の抵抗加熱ヒータ3を用いて結晶育成に必要な温度分布を実現し、この温度分布を一定の1310℃に保持し、ルツボ軸4に支持されたルツボ10を昇降させることにより行った。
また、ルツボ10(図2)の内径を30mm、ルツボ10の厚さを0.5mmとした。原料Nb、KCO、NaCOの充填量は600~650gとした。平均成長速度は2~3mm/時間と推定された。K/Na比は結晶底部、即ち、成長開始部が7.20であったのに対して、結晶頭部、即ち、成長終了部は1.00となり、成長開始部から成長終了部に向かって濃度傾斜分布を示している事がわかる。それにより、単結晶は内部歪を生ずる。
表1にニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の育成条件および育成された結晶の結果をまとめた。
【0029】
【表1】
【0030】
[実験2]
ニオブ酸カリウムナトリウム単結晶育成は図1に示した密閉容器2内で1個のカーボンヒータ3を用いて結晶育成に必要な温度分布を実現し、この温度分布を一定の1320℃に保持し、ルツボ軸4及びルツボ受け5に支持されたルツボ10を昇降させて行った。ルツボ10の内径を20mm、厚さを0.4mmとした。原料Nb、KCO、NaCOの充填量は400~450gとした。平均成長速度は4~5mm/時間と推定された。K/Na比は結晶底部、即ち、成長開始部が1.00であったのに対して、結晶頭部、即ち、成長終了部は0.05となり、成長開始部から成長終了部に向かって濃度傾斜分布を示している事がわかる。それにより、単結晶は内部歪を生ずる。
表2にニオブ酸カリウムナトリウム単結晶の育成条件および育成された結晶の結果をまとめた。
【0031】
【表2】
【符号の説明】
【0032】
1 育成炉
2 密閉容器
3 円筒ヒータ(抵抗加熱ヒータ)
4 ルツボ軸
5 ルツボ受け
10 ルツボ
15 上蓋
20 結晶原料
30 種結晶
40 融液
50 単結晶
図1
図2