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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】鋼管杭及び鋼管杭の引き抜き方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 11/00 20060101AFI20220202BHJP
   E02D 9/02 20060101ALI20220202BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
E02D11/00
E02D9/02
E02D5/28
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020037803
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139163
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511230543
【氏名又は名称】日建商事株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598027847
【氏名又は名称】株式会社設計室ソイル
(73)【特許権者】
【識別番号】517206580
【氏名又は名称】ダイオーワールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅一
【審査官】三笠 雄司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-316380(JP,A)
【文献】特開2009-228418(JP,A)
【文献】特開平11-247183(JP,A)
【文献】特開2011-132702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22-13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設した状態において、管内に挿入した鋼管杭引抜き用の連結ロッドと連結可能な鋼管杭であって、
中空の杭本体と、
前記杭本体の先端に設けた係合部と、を備え、
前記係合部は、前記杭本体の管内と連通する係合空間と、前記係合部の内面に設けた係合手段と、を有し、
前記係合手段は、前記連結ロッド先端の連結端を前記係合空間内に挿入して回転させることによって、前記連結端と係合可能な構造であり、
前記係合部が、前記係合部の側面を前記杭本体の長手方向と直交する方向に連通し、前記係合空間を横断する、中空の流路管を有し、
前記流路管は、前記連結ロッドの前記連結端が前記係合部と係合した状態において、前記連結端によって前記係合部の先端側に押し込まれる高さに位置し、
前記係合部と前記連結端との係合を介して、前記連結ロッドの回転力及び引抜き力を伝達可能に構成したことを特徴とする、
鋼管杭。
【請求項2】
前記係合手段が突起又は鍵溝であって、前記連結ロッドの前記連結端の外周には、鍵溝又は突起が設けられており、前記係合手段の鍵溝又は前記連結端の鍵溝は、前記連結端の前記係合空間内への挿入に伴う前記連結端の突起又は前記係合手段の突起の相対移動を許容する第一部分と、前記第一部分と連続し、前記連結端の前記係合空間内での回転に伴う前記連結端の突起又は前記係合手段の突起の相対移動を許容する第二部分と、を有することを特徴とする、請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項3】
地上に配置した施工機と、前記施工機と連結した連結ロッドと、を用いて地中に埋設した請求項1又は2に記載の鋼管杭を引き抜く、鋼管杭の引き抜き方法であって、
前記連結ロッドは、前記鋼管杭の頭部から管内に挿入可能な中空のロッド本体と、前記ロッド本体の先端に付設した連結端と、を備え、前記連結端の外周に、前記連結端を前記鋼管杭先端の係合部内に挿入して回転させることによって、前記係合部と係合可能な構造を有し、
前記鋼管杭の頭部から、前記杭本体の管内に前記連結ロッドを挿入して、前記連結端を前記係合部内に挿入する、挿入工程と、
前記施工機によって、前記連結ロッドに軸周りの回転力を付与して、前記連結端を前記係合部と係合させて連結する、連結工程と、
前記施工機によって、前記連結ロッドを介して、前記係合部に軸周りの回転力を付与して、前記鋼管杭と周囲の地盤との縁を切る、縁切り工程と、
前記施工機によって、前記連結ロッドを介して、前記鋼管杭に軸周りの回転力及び引抜き力を付与しつつ引き抜く、引き抜き工程と、を備えることを特徴とする、
鋼管杭の引き抜き方法。
【請求項4】
前記縁切り工程において、前記連結ロッドの管内を介して、前記係合部から前記係合部周囲の地盤へ掘削水を送水することを特徴とする、請求項に記載の鋼管杭の引き抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼管杭、連結ロッド、及び鋼管杭の引き抜き方法に関し、特に先端に係合部を備えた鋼管杭、鋼管杭の係合部と連結可能な連結ロッド、及び両者の連結を介して鋼管杭の先端へ回転力及び引抜き力を付与して引き抜く鋼管杭の引抜き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の基礎地盤に鋼管杭を埋設して、建物の基礎を支持する工法や地盤を補強する工法が、広く利用されている。
これらの工法では、ストレート鋼管杭や、先端の外周にオーガー羽根を付設した先端翼付き鋼管杭を用い、地上に配置した施工機によって、鋼管杭に軸周りの回転力を付与しつつ掘進方向へ推進して、鋼管杭を地盤に貫入し、杭の先端を支持地盤まで到達させる。支持地盤が深い場合には、溶接や、無溶接タイプの機械式継手により、鋼管杭を継ぎ足す。
【0003】
鋼管杭を埋設した土地を売買する場合や、建物を建て替える場合には、地中に埋設した鋼管杭を引抜き撤去する必要がある。鋼管杭の撤去方法には、例えば以下のような方法が存在する。
<1>把持装置で引抜く方法。
地盤から露出させた鋼管杭の頭部に把持装置を固定してワイヤを連結し、クレーン等の揚重機でワイヤを吊り上げて鋼管杭を直線状に引き抜く。この方法は、主にストレート鋼管杭に適用する。
<2>回転引き抜きによる方法。
施工機によって鋼管頭部に埋設時と逆方向の回転を加えつつ、地上側への推進力を与えて引き抜く。この方法は、主に先端翼付き鋼管杭に適用するが、ストレート鋼管杭にも用いることができる。
<3>被せ掘りによる方法(特許文献1)。
鋼管杭の外径より内径が大きいケーシングを、鋼管杭の外側に回転圧入し、鋼管杭の周囲とケーシング外側の地盤との縁を切り、鋼管杭の頭部を把持装置で把持して揚重機で引き抜く。この方法は、ストレート鋼管杭と先端翼付き鋼管杭のいずれにも適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-8146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術には以下の問題点がある。
<1>把持装置で引抜く方法は、地中に拘束された鋼管杭を直線状に引き抜くため、鋼管杭の周面摩擦力を上回る大きな引抜き力が必要となる。このため、鋼管杭を溶接や機械式継手で連結している場合、引抜きに伴い、継手部に応力が集中して破損し、鋼管杭の先端側が地中に残される可能性がある。鋼管杭が地中に残された場合、鋼管杭の地中での位置が特定しにくいことや孔曲がり等の理由により、掘り起こして撤去するのは非常に困難であり、多大な手間とコストがかかる。
<2>回転引き抜きによる方法は、地上に配置した施工機から鋼管杭の先端まで回転力を伝達させるために、鋼管杭の周面と地盤との摩擦を、鋼管杭の頭部から先端方向へ順次縁切りしてゆく必要がある。しかし、供用期間における地盤の復元などにより、引き抜きには貫入時より大きな力を要するため、回転に伴い、鋼管杭の継手部が破損して、先端が地中に残置されるおそれがある。鋼管杭の先端が地中に残った場合、<1>と同様の問題が生じる。
<3>被せ掘りによる方法は、ケーシングの圧入時に、ケーシングの先端が鋼管杭の外周と接触することで、鋼管杭が切断されるおそれがある。鋼管杭の先端が地中に残った場合、<1>と同様の問題が生じる。
<4>ケーシングと鋼管杭の接触を防ぐためには、ケーシングの内面と鋼管杭の外面の間に十分なクリアランスを確保する必要がある。このため、鋼管杭打設時の孔曲がりや削孔機との軸心のずれなどを考慮すると、鋼管杭が長尺になるほどケーシングの内径を大きくする必要が生じる。これにより、大型の回転圧入装置が必要となるため、施工コストが高騰する。また、装置が大型化すると狭隘な住宅現場で施工することができない。
<5>ケーシングの外径が大きくなることで、広範囲の地盤を乱して、地盤強度の低下を惹起するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決可能な、鋼管杭、連結ロッド、及び鋼管杭の引き抜き方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鋼管杭は、中空の杭本体と、杭本体の先端に設けた係合部と、を備え、係合部は、杭本体の管内と連通する係合空間と、係合部の内面に設けた係合手段と、を有し、係合手段は、連結ロッド先端の連結端を係合空間内に挿入して回転させることによって、連結端と係合可能な構造であり、係合部と連結端との係合を介して、連結ロッドの回転力及び引抜き力を伝達可能に構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明の鋼管杭は、係合手段が突起又は鍵溝であって、連結ロッドの連結端の外周には、鍵溝又は突起が設けられており、係合手段の鍵溝又は連結端の鍵溝は、連結端の係合空間内への挿入に伴う連結端の突起又は係合手段の突起の相対移動を許容する第一部分と、第一部分と連続し、連結端の係合空間内での回転に伴う連結端の突起又は係合手段の突起の相対移動を許容する第二部分と、を有していてもよい。
【0009】
本発明の鋼管杭は、係合部が、係合部の側面を杭本体の長手方向と直交する方向に連通し、係合空間を横断する、中空の流路管を有し、流路管は、連結ロッドの連結端が係合部と係合した状態において、連結端によって係合部の先端側に押し込まれる高さに位置していてもよい。
【0010】
本発明の連結ロッドは、鋼管杭の頭部から管内に挿入可能な中空のロッド本体と、ロッド本体の先端に付設した連結端と、を備え、連結端の外周に、連結端を鋼管杭先端の係合部内に挿入して回転させることによって、係合部と係合可能な構造を有し、連結端と係合部との係合を介して、連結ロッドの回転力及び引抜き力を鋼管杭に伝達可能に構成したことを特徴とする。
【0011】
本発明の鋼管杭の引き抜き方法は、鋼管杭の頭部から、杭本体の管内に連結ロッドを挿入して、連結端を係合部内に挿入する、挿入工程と、施工機によって、連結ロッドに軸周りの回転力を付与して、連結端を係合部と係合させて連結する、連結工程と、施工機によって、連結ロッドを介して、係合部に軸周りの回転力を付与して、鋼管杭と周囲の地盤との縁を切る、縁切り工程と、施工機によって、連結ロッドを介して、鋼管杭に軸周りの回転力及び引抜き力を付与しつつ引き抜く、引き抜き工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の鋼管杭の引き抜き方法は、縁切り工程において、連結ロッドの管内を介して、係合部から係合部周囲の地盤へ掘削水を送水してもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成より、本発明の鋼管杭、連結ロッド、及び鋼管杭の引き抜き方法は次の効果の少なくともひとつを備える。
<1>最も固く拘束されている鋼管杭の先端に、回転力と引抜き力を直接付与することができるため、固く締まった地盤であっても比較的小さな力で鋼管杭を引き抜くことができる。
<2>鋼管杭の先端側から、鋼管杭の全長にわたって地盤と縁切りした後に、引き抜くことにより、鋼管杭を効率的に引き抜くことができる。
<3>鋼管杭を先端側から引き抜くため、引抜力は継手部へ圧縮力として作用し、引張方向の応力がかからない。このため、継手部が破損しにくく、鋼管杭が分解するおそれが少ない。
<4>鋼管杭を先端側から引き抜くため、継手部が破損した場合であっても、鋼管杭の先端を地中に残置することがなく、確実に回収することができる。
<5>ケーシングを使用しないため、鋼管杭の切断による先端の残置、施工コストの高騰、広範囲の地盤を乱すことによる地盤強度の低下、等の問題の発生を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の鋼管杭及び連結ロッドの説明図。
図2】係合部及び連結端の説明図。
図3】流路管の説明図。
図4】本発明の鋼管杭の引抜き方法のフロー図。
図5A】本発明の鋼管杭の引抜き方法の説明図(1)。
図5B】本発明の鋼管杭の引抜き方法の説明図(2)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の鋼管杭、連結ロッド、及び鋼管杭の引き抜き方法について詳細に説明する。
なお、本明細書中における「上」「下」「縦」「横」等の各方位は、本発明の実施時における各方位、すなわち図5A、5Bにおける各方位を意味する。
また、本明細書中における、鋼管杭及び連結ロッドの「頭部」とは、地中に埋設した鋼管杭内に連結ロッドを連結した状態における上方の端部を、「先端」とは、同状態における下方の端部を、それぞれ意味する。
【実施例1】
【0016】
[鋼管杭及び連結ロッド]
<1>鋼管杭(図1)。
本発明に係る鋼管杭10は、中空の杭本体11と、杭本体11の先端に設けた係合部12と、を備える杭体である。
本例では鋼管杭10として、複数の鋼管単体を溶接によって長手方向に連結してなる、ストレート鋼管杭を採用する。
ただし、鋼管杭10はこれに限らず、先端の外周にオーガー羽根を付設した先端翼付き鋼管杭であってもよい。
また、鋼管杭10は、溶接による連結構造に限らず、連結ロッド20を挿通可能な無溶接タイプの継手材を介して連結した構造であってもよいし、連結構造ではなく一体構造であってもよい。
本例の鋼管杭10は、係合部12の側面を杭本体11の長手方向と直交する方向に連通する、流路管13を更に備える。
【0017】
<1.1>係合部(図2)。
係合部12は、連結ロッド20と係合して連結するための構成要素である。
係合部12は、係合部12の内面に設けた係合手段12aと、杭本体11の管内と連通する係合空間12cと、を少なくとも有する。
本例では、係合部12が、係合空間12cの先端を塞ぐ閉塞端12bを更に有する閉塞構造からなる。
本例では、係合部12として、杭本体11の先端に溶接した鋼製のキャップ状部材を採用する。この他、係合部12として、例えば、鋼管杭10先端の内面に係合手段12aを形成した、杭本体11と一体の構造や、内面に係合手段12を形成した切削刃を装着した先端ビットを溶接などで杭本体11と一体化した構造を採用してもよい。
【0018】
<1.1.1>係合手段(図2)。
係合手段12aは、後述する連結ロッド20の連結手段22aと係合するための構成要素である。
係合手段12aは、連結ロッド20先端の連結端22を係合空間12c内に挿入して回転させることによって、連結手段22aと係合可能な構造である。
本例では係合手段12aとして、係合部12の内面から突起した、一対の矩形のブロック体を採用する。一対のブロック体は、係合部12の内面の対向する両側に設ける。
係合手段12aと連結手段22aの連結構造については後述する。
【0019】
<1.2>流路管(図3)。
流路管13は、連結ロッド20の押込により、充填材A及び掘削水Bの流路を形成するための構成要素である。
流路管13は、中空の管状体からなる。本例では流路管13として、ステンレス製の薄肉管を採用する。
流路管13は、係合部12の側面を杭本体11の長手方向と直交する方向に連通する。詳細には、流路管13の両端が係合部12の両面を連通し、流路管13の中央部が係合空間12c内を横断する。
流路管13は、後述する連結ロッド20の連結端22を係合空間12c内に押し込むことによってせん断され、係合空間12cと係合部12の外部とを連通する流路を形成可能な構成とする。詳細には、流路管13を、係合部12と係合させた状態において、連結端22によって閉塞端12b側に押し込み変形させ、せん断することができる程度の高さに配置する。
また、流路管13の押し込み変形を容易にするため、流路管13の外周面に、肉厚内で溝等を設けてもよい。
【0020】
<2>連結ロッド(図1)。
連結ロッド20は、鋼管杭10と連結して引抜くための構成要素である。
連結ロッド20は、ロッド本体21と、ロッド本体21の先端に付設した連結端22と、ロッド本体21と連結端22の内部を長手方向に沿って連通する送液路23と、を備える。
連結ロッド20の長さは、地中に埋設した鋼管杭10の頭部から管内に挿入して、連結端22を係合部12内に到達可能な長さとする。
送液路23によって、ロッド本体21の頭部から連結端22まで、充填材Aや掘削水B等を圧送して、連結端22の先端から吐出させることができる。
【0021】
<2.1>連結端(図2)。
連結端22は、鋼管杭10と係合して連結するための構成要素である。
連結端22の外周には、連結手段22aを設ける。
本例では連結端22をロッド本体21の先端にネジ係合して連結しているが、ロッド本体21と一体の構造としてもよい。
【0022】
<2.1.1>連結手段(図2)。
連結手段22aは、鋼管杭10の係合手段12aと、係合するための構成要素である。
連結手段22aは、連結端22を係合空間12c内に挿入して、回転させることによって、係合手段12aと係合可能な構造とする。
本例では連結手段22aとして、連結端22の外周における両側面に形成した一対の鍵溝を採用する。
一対の鍵溝はそれぞれ、連結端22の先端から基端方向へ延在する第一部分22bと、第一部分22bと連続し、連結端22の周方向に延在する第二部分22cと、からなる。
一対の第一部分22bは、係合手段12aの一対のブロック体と対応する位置に配置し、第一部分22bの溝幅は係合手段12aのブロック体の幅より広い。
一対の第二部分22cは、第一部分22bの先端側から、連結端22の周方向に対して同一方向に延在し、第二部分22cの溝幅は係合手段12aのブロック体の長さより広い。
なお、係合手段12aと連結手段22aの連結構造は、本例に限らず、例えば本例と反対に、係合手段12aを鍵溝とし、連結手段22aをブロック体としてもよい。要は、係合手段12aと連結手段22aとの係合を介して、両者を連結可能、かつ連結ロッド20の回転力及び引抜き力を鋼管杭10に伝達可能な構成であればよい。
また、係合手段12aと連結手段22aが螺着構造である例については、実施例2で後述する。
【0023】
[鋼管杭の引抜き方法]
<1>全体の構成(図4)。
本発明の鋼管杭の引抜き方法は、連結ロッド20及び施工機30を用いて地中に埋設した鋼管杭10を引抜き撤去する方法である。
本発明の鋼管杭の引抜き方法は、少なくとも、鋼管杭10の内部に連結ロッド20を挿入する、挿入工程S2と、連結ロッド20を鋼管杭10と係合連結する、連結工程S3と、鋼管杭10と周囲の地盤との縁を切る、縁切り工程S4と、鋼管杭10を引き抜く、引き抜き工程S5と、を備える。
本例ではさらに、挿入工程S2の前に杭位置確認のための杭頭出し工程S1を備える。
本発明の鋼管杭の引抜き方法は、鋼管杭10に、先端側から直接回転力と引抜き力を付与する点に一つの特徴を有する。
【0024】
<2>杭頭出し工程。
鋼管杭10の頭部を露出させる。
詳細には、地盤に頭部まで埋まっている鋼管杭10の周囲をバックホウ等によって掘り下げ、鋼管杭10の頭部を地盤から20cmほど露出させる(図5A[2])。
鋼管杭10の頭部に杭頭キャップが被せられている場合には、これを取り外す。
【0025】
<3>挿入工程。
鋼管杭10の頭部から杭本体11の管内に連結ロッド20を挿入する。
詳細には、地上に配置した施工機のリーダーに連結ロッド20の頭部をセットし、リーダーに沿って連結ロッド20を杭本体11の管内に差し入れ(図5A[3])、連結端22を係合部12の係合空間12c内に到達させる。
この際、連結端22の連結手段22a(鍵溝)における第一部分22bの先端を、係合部12内の係合手段12a(ブロック体)と位置合わせし、係合手段12aを、第一部分22bの先端まで相対移動させる。
【0026】
<3.1>流路管の破断。
本例では、係合部12内に、係合空間12cを横断する流路管13を備える。
連結端22を係合空間12c内へ挿入すると、連結端22の先端が流路管13を閉塞端12b側に押し込む。これによって、流路管13がせん断されて、流路管13の管壁が破断する(図3)。
流路管13の破断によって、係合空間12cが流路管13を介して係合部12の外部と連通し、充填材Aと掘削水Bを管外に噴出可能な流路を形成する。
【0027】
<4>連結工程。
連結ロッド20の連結端22を、鋼管杭10の係合部12と係合させて連結する。
詳細には、挿入工程S2によって、係合手段12a(ブロック体)が、第一部分22bの先端側に位置している状態で、施工機によって、連結端22を連結ロッド20の軸周りに回転させる(図5A[4])。
すると、係合手段12aが、連結手段22aの第二部分22c内を連結端22の周方向に沿って相対移動し、第二部分22cの先端に突き当たる。
これによって、連結端22が係合部12と連結し、連結ロッド20の回転力及び引抜き力を鋼管杭10へ伝達可能になる。
【0028】
<5>縁切り工程。
鋼管杭10の周面と周囲の地盤との縁を切る。
本例では、縁切り工程S4において、予め係合部12周辺の地盤に掘削水Bを送水する(図5B[5])。
詳細には、地上から、連結ロッド20の送液路23を介して、係合空間12cの内部に掘削水Bを圧送する。掘削水Bは、流路管13の破断によって形成された管内の流路を通って、係合空間12cから係合部12周囲の地盤に浸入する。
係合部12と地盤との間に掘削水Bを浸入させることにより、係合部12の周面が部分的に地盤と縁切りされ、連結ロッド20の回転トルクが減少する。
続いて、施工機によって、連結ロッド20を介して係合部12に軸周りの回転力を付与して、鋼管杭10と周囲の地盤との縁を切る(図5B[6])。
本発明の鋼管杭の撤去方法は、予め鋼管杭10と地盤との縁を切って、地盤による拘束を解除しておくことによって、後続する引き抜き工程S5において、鋼管杭10を小さな力で引き抜くことが可能になる。
【0029】
<6>引き抜き工程。
鋼管杭10を引き抜く。
詳細には、連結ロッド20を介して、施工機から鋼管杭10の係合部12に軸周りの回転力を付与しながら、連結ロッド20を施工機のリーダーに沿って上方に引き上げる(図5B[7])。
なお、鋼管杭10の引抜きは、回転力を付与する方法に限られず、鋼管杭10に回転を与えず、直線状に引き抜いてもよい。
本発明の鋼管杭の引き抜き方法は、鋼管杭10を先端側から引き抜くため、引抜き力が鋼管杭10の継手部への圧縮力として作用し、継手部へ引張方向の応力がかからない。このため、継手部が破損しにくい。
また、仮に継手部が破損しても、連結ロッド20が鋼管杭10の先端と連結しているため、鋼管杭10の先端だけが地中に残ることがない。
【0030】
<6.1>充填材の充填。
本例では、施工機30によって鋼管杭10を地中から引抜きつつ、同時に引抜き後の跡穴内へ充填材Aを充填してゆく(図5B[7])。
詳細には、地上から、連結ロッド20の送液路23を介して、係合部12の係合空間12c内へ充填材Aを送液し、係合空間12cから流路管13を介して、充填材Aを吐出し、跡孔内を充填してゆく。
本例では、充填材Aとして、セメント・ベントナイト系の自硬性混合材を採用する。セメント・ベントナイト系の自硬性混合材は、水、セメント、及びベントナイトを配合してなる混合材であって、極めて流動性が高く、地盤内への優れた充填性及び止水性を併有する。さらに配合調整によって固化後の強度を広範囲に容易に変えることができる。
ただし、充填材Aはこれに限らず、例えば流動化処理土、適切に強度調整したセメントペースト、砂などに増粘剤を加えて流動調整したスラリー等を採用してもよい。
充填材Aの強度は、地盤強度より極端に大きくすると将来地中障害物となる可能性があるので、地盤強度より少し高めに設定する。
跡孔内の充填材Aが硬化することによって跡穴は完全に塞がれ、地盤が原状回復する(図5B[8])。
【実施例2】
【0031】
[係合手段が螺着構造である例]
実施例1では、係合部12の係合手段12aと、連結端22の連結手段22aとして、突起と鍵溝の組み合わせを採用した。
本例では、係合手段12a及び連結手段22aとして、係合部12の内面に刻設した雌ネジ溝と、連結端22の外周に刻設した雄ネジ溝の組み合わせによる、螺着構造を採用する。
本例の場合、連結工程S3において、連結ロッド20を軸周りに回転させることで、連結手段22aの雄ネジ溝を係合手段12aの雌ネジ溝に螺着させて、両者を連結させる。
【実施例3】
【0032】
[鋼管杭が先端開放タイプである例]
実施例1では、鋼管杭10の係合部12として、先端に閉塞端12bを設けたキャップ状部材を採用したが、閉塞端12bを備えない先端開放タイプであってもよい。
本例の場合、鋼管杭10の貫入時に、係合部12の先端から土砂が侵入して、鋼管杭10の管内を塞いでいる。
そこで、引抜き時には、挿入工程S2において、送液路23を介して連結端22の先端から掘削水Bを噴射し、管内の土砂を洗堀しながら、連結ロッド20を挿入してゆく。洗堀された土砂はスラリー状となって順次鋼管杭10の頭部から外へ排除される。
本例では、掘削水Bの逆流を防ぐため、送液路23の先端に逆流防止弁を設けることが望ましい。
縁切り工程S4では、係合部12の先端から係合部12周囲の地盤へ掘削水Bを噴射しつつ、鋼管杭10を回転させて、地盤との縁を切る。
引き抜き工程S5では、掘削水Bを充填材Aに切り替え、係合部12の先端から充填材Aを跡孔内へ吐出して充填する。
本例では、鋼管杭10の管内に地下水が浸入している場合であっても、充填材Aを孔底から直接充填して地下水と置き換えることができるため、充填材Aの希釈や分離が生じにくい。
【実施例4】
【0033】
[引抜き後に充填材を充填する例]
実施例1では、引き抜き工程S5において、鋼管杭10の引抜きと同時に充填材Aを充填したが、鋼管杭10の引抜き後に充填してもよい。
詳細には、引き抜き工程S5の完了後、地上から鋼管杭10引抜き後の跡穴に注入管を挿入して孔底まで到達させ、注入管の先端から充填材Aを吐出しながら充填材Aを孔底から充填してゆく。充填後に、注入管を跡孔から引き上げて回収する。
【実施例5】
【0034】
[連結ロッドに打撃力を付与する例]
本例では、縁切り工程S4において連結ロッド20に打撃力を付与する。
詳細には、掘削水Bの送水や、連結ロッド20の回転と併せて、施工機から連結ロッド20の頭部へ打撃力を加える。
連結ロッド20の頭部へ加えた打撃力は、杭本体11の管内を介して連結ロッド20の連結端22に伝達され、鋼管杭10の先端に直接作用する。
連結ロッド20のロッド本体21が、鋼管杭10や周囲の地盤に拘束されていないため、本例では、施工機から受けた打撃力を殆ど減衰させることなく、鋼管杭10の先端へ直接伝達させることができる。このため、効率よく縁切りすることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 連結構造
10 鋼管杭
11 杭本体
12 係合部
12a 係合手段
12b 閉塞端
12c 係合空間
13 流路管
20 連結ロッド
21 ロッド本体
22 連結端
22a 連結手段
22b 第一部分
22c 第二部分
23 送液路
23a 逆止弁
30 施工機
A 充填材
B 洗堀液
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B