(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】金属チタン製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 34/12 20060101AFI20220202BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20220202BHJP
C22B 9/02 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C22B34/12 102
C22B5/04
C22B9/02
(21)【出願番号】P 2020523564
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017638
(87)【国際公開番号】W WO2019235098
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2018108973
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度および平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業」「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」、「省エネルギー社会に向けた革新的軽量材料の創製」、「軽量・超耐食性社会のためのチタンの新連続製造プロセス」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】宇田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】國友 美信
(72)【発明者】
【氏名】岸本 章宏
(72)【発明者】
【氏名】熊本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】百々 泰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】吉村 昭彦
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133939(JP,A)
【文献】特開平02-088727(JP,A)
【文献】特公昭61-037338(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 34/12
C22B 5/04
C22B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスとマグネシウムとの存在下で四塩化チタンを還元処理することにより、チタン及び前記ビスマスからなる液体合金を得る還元工程と、
前記液体合金を偏析処理することにより析出物を得る偏析工程と、
前記析出物を蒸留処理して金属チタンを得る蒸留工程と、
を有し、
前記蒸留工程では、前記析出物に付帯する前記ビスマスを優先的に蒸発させるように前記析出物回りの雰囲気を設定し、その後に前記析出物を形成する前記ビスマスを蒸発させるように前記雰囲気を設定する、金属チタン製造方法。
【請求項2】
前記蒸留工程では、前記偏析工程で得た前記析出物に含まれるチタンの構造を維持でき、且つ前記析出物内部からその表面に向けてビスマスが拡散することで当該表面からのビスマスの蒸発が維持されるような第1の温度で前記析出物を加熱し、その後、前記第1の温度よりも高い第2の温度で前記析出物を加熱する、請求項2に記載の金属チタン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属チタン製造装置及び方法に関する。
本願は、2018年6月6日に日本に出願された特願2018-108973号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、効率よくチタン合金を得ることができ、当該チタン合金を精製することで金属チタンを低コストで連続的に製造(製錬)することができるチタンの製造方法が開示されている。この製造方法は、ビスマスとマグネシウムとを含む混合物に四塩化チタン(TiCl4)を添加してビスマスとチタンとの液体合金を得る工程1(還元工程)と、液体合金に蒸留処理を施すことによりチタン以外の成分を除去する工程2(蒸留工程)とを基本工程として含み、工程1と工程2との間に液体合金を偏析させて液体部分と、固体及び液体が共存する固液共存部分とに分離する工程(偏析工程)を補助工程として含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記蒸留工程(蒸留処理)では、多大なエネルギーを投入する必要があるので、金属チタンの製造コスト(製錬コスト)をさらに低減させるためには蒸留工程(蒸留処理)の処理効率(蒸留効率)を向上させる必要がある。
【0005】
本開示は、上述した事情に鑑みてなされ、蒸留処理における処理効率(蒸留効率)を従来よりも向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様に係る金属チタン製造装置は、ビスマスとマグネシウムとの存在下で四塩化チタンを還元処理することにより、チタン及び前記ビスマスからなる液体合金を得る還元装置と、前記液体合金を偏析処理することにより析出物を得る偏析装置と、前記析出物を蒸留処理して金属チタンを得る蒸留装置とを備え、前記蒸留装置は、前記析出物に付帯する前記ビスマスを優先的に蒸発させるように雰囲気を設定し、その後に前記析出物を形成する前記ビスマスを蒸発させるように雰囲気を設定する。
【0007】
本開示の上記第1の態様に係る金属チタン製造装置は、前記析出物に付帯する前記ビスマスを前記析出物から分離することにより濃縮金属間化合物を得る濃縮装置をさらに備え、前記蒸留装置は、前記析出物に代えて前記濃縮金属間化合物を蒸留処理してもよい。
【0008】
本開示の上記第1の態様に係る金属チタン製造装置では、前記蒸留装置は、前記析出物に付帯する前記ビスマスを優先的に蒸発させるための雰囲気として前記析出物が800℃またはその近傍の温度となるように設定してもよい。
【0009】
本開示の上記第1の態様に係る金属チタン製造装置では、前記蒸留装置は、前記析出物を形成する前記ビスマスを蒸発させるための雰囲気として前記析出物が1000℃またはその近傍の温度となるように設定してもよい。
【0010】
本開示の上記第1の態様に係る金属チタン製造装置では、前記蒸留装置は、前記析出物を形成する前記ビスマスを蒸発させるための雰囲気として前記析出物が1100℃またはその近傍の温度となるように設定してもよい。
【0011】
本開示の上記第1の態様に係る金属チタン製造装置では、前記蒸留装置は、前記析出物を形成する前記ビスマスを蒸発させるための雰囲気として、前記析出物が1000℃またはその近傍の温度となるように設定し、その後、前記析出物が1100℃またはその近傍の温度となるように設定してもよい。
【0012】
本開示の上記第1の態様に係る金属チタン製造装置では、前記蒸留装置は、前記偏析装置で得た前記析出物に含まれるチタンの構造を維持でき、且つ前記析出物内部からその表面に向けてビスマスが拡散することで当該表面からのビスマスの蒸発が維持されるような第1の温度で前記析出物を加熱し、その後、前記第1の温度よりも高い第2の温度で前記析出物を加熱してもよい。
【0013】
また、本開示の第2の態様に係る金属チタン製造方法は、ビスマスとマグネシウムとの存在下で四塩化チタンを還元処理することにより、チタン及び前記ビスマスからなる液体合金を得る還元工程と、前記液体合金を偏析処理することにより析出物を得る偏析工程と、前記析出物を蒸留処理して金属チタンを得る蒸留工程とを有し、前記蒸留工程では、前記析出物に付帯する前記ビスマスを優先的に蒸発させるように前記析出物回りの雰囲気を設定し、その後に前記析出物を形成する前記ビスマスを蒸発させるように前記雰囲気を設定する。
【0014】
本開示の上記第2の態様に係る金属チタン製造方法では、前記蒸留工程において、前記偏析工程で得た前記析出物に含まれるチタンの構造を維持でき、且つ前記析出物内部からその表面に向けてビスマスが拡散することで当該表面からのビスマスの蒸発が維持されるような第1の温度で前記析出物を加熱し、その後、前記第1の温度よりも高い第2の温度で前記析出物を加熱してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、蒸留処理における処理効率(蒸留効率)を従来よりも向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の一実施形態に係る金属チタン製造装置のシステム構成図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る金属チタン製造装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】本開示の一実施形態におけるBi-Ti二元系状態図である。
【
図4】本開示の一実施形態における多孔質状の構造体の形状を示す拡大写真である。
【
図5】本開示の一実施形態における温度プロファイルとチタン含有量との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態について説明する。本実施形態に係る金属チタン製造装置は、
図1に示すように還元炉1、Bi供給装置2、TiCl
4供給装置3、Mg供給装置4、MgCl
2回収装置5、偏析装置6、濃縮装置7、蒸留装置8及び排気装置9を備えている。
【0018】
これら構成要素のうち、還元炉1、Bi供給装置2、TiCl4供給装置3、Mg供給装置4及びMgCl2回収装置5は、本開示の還元装置を構成している。すなわち、還元炉1、Bi供給装置2、TiCl4供給装置3、Mg供給装置4及びMgCl2回収装置5は、全体的な機能として、ビスマス(Bi)X1とマグネシウム(Mg)X3との存在下で四塩化チタン(TiCl4)X2を還元処理することにより、チタン(Ti)及びビスマス(Bi)からなる液体合金(Bi-Ti液体合金X4)を得る装置である。
【0019】
還元炉1は、ビスマスX1及びマグネシウムX3のいずれの融点よりも高い温度(還元温度)でビスマスX1及びマグネシウムX3の存在下で四塩化チタンを還元処理することにより、上記Bi-Ti液体合金X4と塩化マグネシウム(MgCl2)X5とを生成する加熱炉である。上記還元温度は例えば900℃である。この還元温度は適宜調整してよい。このような還元温度に温度設定された還元炉1内では、液体状態のビスマスX1及びマグネシウムX3に液体状態の四塩化チタンX2が添加されることにより、液体状態のBi-Ti液体合金X4及び液体状態の塩化マグネシウムX5とが生成される。このような還元炉1は、一方の生成物であるBi-Ti液体合金X4を偏析装置6に供給し、他方の生成物である塩化マグネシウムX5をMgCl2回収装置5に供給する。
【0020】
Bi供給装置2は、還元炉1に上記還元処理の原料の1つであるビスマスX1を供給するビスマス供給源である。TiCl4供給装置3は、還元炉1に上記還元処理の原料の1つである四塩化チタンX2を供給する四塩化チタン供給源である。Mg供給装置4は、還元炉1に上記還元処理の原料の1つであるマグネシウムX3を供給するマグネシウム供給源である。MgCl2回収装置5は、還元炉1から生成物の1つである塩化マグネシウムX5を回収する装置である。
【0021】
偏析装置6は、上記Bi-Ti液体合金X4に偏析処理を施すことにより固液混合物を得る装置である。すなわち、この偏析装置6は、Bi-Ti液体合金X4を所定の偏析温度、例えば500℃に保持することにより、Bi-Ti液体合金X4よりもチタン濃度が高いBi-Ti液体合金(Ti8Bi9液体合金)を選択的に析出させ、Ti8Bi9金属間化合物(固相、析出物)とビスマス濃度の高いビスマス合金X7(液相)とからなる固液混合物を生成する。この偏析装置6は、このような固液混合物のうち、Ti8Bi9を比較的多く含む混合物X6を濃縮装置7に提供し、ビスマス合金X7を還元炉1に提供する。なお、この偏析装置6で得られる混合物X6においては、Ti8Bi9結晶(固体)間にビスマス(固体または液体)が付着または内包されている。
【0022】
濃縮装置7は、このような混合物X6から当該混合物X6に付帯するビスマスを分離することにより濃縮金属間化合物X9を得る装置である。この濃縮装置7は、
図1に示すように、濃縮炉7a、Arガス供給装置7b及び駆動源7cを少なくとも備えている。濃縮炉7aは、混合物X6を収容して所定雰囲気に保持する有底円筒状容器であり、その軸線が鉛直方向となる姿勢で設置されている。
【0023】
このような濃縮炉7aは、混合物X6を収容する穴開きドラム、穴開きドラムを収容する受け容器、受け容器に設けられるヒータ、断熱部材等を備えている。濃縮炉7aが備える穴開きドラムは、駆動源7cにより回転可能とされている。
【0024】
続いて、Arガス供給装置7bは、濃縮炉7aにArガスX8を供給する装置である。このArガス供給装置7bが濃縮炉7aにArガスX8を供給することによって、濃縮炉7a内はArガス雰囲気(不活性ガス雰囲気)となる。駆動源7cは、濃縮炉7a内の混合物X6を回転させるための回転動力源である。すなわち、この駆動源7cは、濃縮炉7a内に収容された穴開きドラムを回転駆動することにより、当該穴開きドラムに収納された混合物X6を回転させる。
【0025】
このように構成された濃縮装置7は、穴開きドラムに収納した混合物X6をArガス雰囲気下で上記ヒータによって加熱しつつ、穴開きドラムを回転させることにより混合物X6に遠心力を作用させる。このような濃縮装置7は、一種の遠心分離器として機能し、混合物X6に遠心力を作用させることにより液相のビスマスと固相のTi8Bi9の結晶とを固液分離する。濃縮装置7は、このような遠心分離によって液相のビスマスの大部分が混合物X6から除去され、混合物X6よりもチタン濃度が高い合金つまり濃縮金属間化合物X9を得て、それを蒸留装置8に供給する。なお、上記遠心力は、周知のように慣性力の一種である。
【0026】
蒸留装置8は、濃縮金属間化合物X9に精製処理の一種である蒸留処理を施して金属チタンを得る装置である。すなわち、この蒸留装置8は、減圧雰囲気下で濃縮金属間化合物X9を所定の蒸留温度に加熱することにより、濃縮金属間化合物X9を形成するビスマスを選択的に気化させて金属チタンを得る。上記蒸留温度は、例えば1000℃である。また、このような蒸留装置8は、精製装置の一種である。
【0027】
排気装置9は、蒸留装置8の内部ガスを外部に排気する真空ポンプである。この排気装置9は、排気装置9の排気処理によって得られたビスマスX10を還元炉1に供給する。なお、排気装置9の作動によって、蒸留装置8の内部は減圧雰囲気となる。
【0028】
ここで、このように構成された金属チタン製造装置は、制御装置10によって統括的に制御される。すなわち、上述したBi供給装置2、TiCl
4供給装置3、Mg供給装置4、MgCl
2回収装置5、偏析装置6、濃縮装置7、蒸留装置8及び排気装置9は、制御装置10によって各々の動作が適宜制御されることによって、以下に説明するような一連の製造工程を行う。本実施形態における金属チタン製造装置は、制御装置10を備えている。
制御装置10はコンピュータから構成されており、このコンピュータは、CPU(中央処理装置)、記憶装置、及び入出力装置等を備える。記憶装置は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリ、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、及びSSD(Solid State Drive)等のうちの1以上を含む。入出力装置は、有線または無線でBi供給装置2、TiCl
4供給装置3、Mg供給装置4、MgCl
2回収装置5、偏析装置6、濃縮装置7、蒸留装置8及び排気装置9と信号やデータ(温度や圧力等の計測データ)のやり取りを行う。
図1においては、簡略化のため制御装置10が蒸留装置8のみに有線または無線で接続されていることを示しているが、制御装置10は各装置に接続されている。コンピュータは、記憶装置に保存されたプログラム等に基づいて所定の機能を果たすことができる。なお、Bi供給装置2、TiCl
4供給装置3、Mg供給装置4、MgCl
2回収装置5、偏析装置6、濃縮装置7、蒸留装置8及び排気装置9に各別に設けられたコンピュータによって制御装置10が構成されてもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る金属チタン製造装置の動作、つまり当該金属チタン製造装置を用いた金属チタン製造方法について、
図2をも参照して詳しく説明する。
【0030】
この金属チタン製造装置は、最初に還元装置によって還元工程(還元処理)が行われる(ステップS1)。すなわち、還元装置では、還元炉1の雰囲気温度が所定の還元温度に設定され、またBi供給装置2がビスマスX1を還元炉1に供給し、TiCl4供給装置3が四塩化チタンX2を還元炉1に供給し、Mg供給装置4がマグネシウムX3を還元炉1に供給する。
【0031】
この結果、還元炉1では、下式(1)の化学反応(還元反応)が進行し、チタン及びビスマスからなるBi-Ti液体合金X4と塩化マグネシウムX5とが生成される。
TiCl4+Bi+2Mg→Bi-Ti+2MgCl2 (1)
【0032】
なお、式(1)において、「Bi-Ti」は、チタン及びビスマスからなるBi-Ti液体合金X4を示している。また、還元炉1に供給する各原料の供給量、つまりビスマスX1、四塩化チタンX2及びマグネシウムX3の還元炉1への供給量は、上式(1)に示される還元反応における各原料のモル比に基づいて適宜設定される。
【0033】
ここで、Bi-Ti液体合金X4及び塩化マグネシウムX5は、還元炉1において液体として存在するが、両者は比重の違いに起因して二層に分離した状態となる。すなわち、Bi-Ti液体合金X4は、比重が比較的大きいので、還元炉1において下層液体生成物となる。一方、塩化マグネシウムX5は、比重が比較的小さいので、還元炉1において上層液体生成物となる。下層のBi-Ti液体合金X4は、還元炉1の底部から取り出されて偏析装置6に供給され、上層の塩化マグネシウムX5は、還元炉1の中間部から取り出されてMgCl2回収装置5に回収される。
【0034】
この金属チタン製造装置は、続いて偏析装置6によって偏析工程(偏析処理)が行われる(ステップS2)。すなわち、偏析装置6は、Bi-Ti液体合金X4に偏析処理を施す。
図3の状態図に示すように、Bi-Ti液体合金X4は、偏析温度が500℃となり、Bi-Ti液体合金X4におけるチタン濃度が47at%以下である場合に、Ti
8Bi
9金属間化合物が析出する。なお、本実施形態の偏析工程(偏析装置6)では、析出物としてTi
8Bi
9金属間化合物を得ているが、これに限定されず、他のBi-Ti金属間化合物(例えばTi
3Bi
2)を析出物として得るように偏析温度や原子組成百分率を調整してもよい。
【0035】
このTi8Bi9金属間化合物は、Bi-Ti液体合金X4の析出物であり、チタン濃度がBi-Ti液体合金X4よりも高い固形物である。また、このTi8Bi9金属間化合物は、Bi-Ti液体合金X4よりも密度が低いので、Bi-Ti液体合金X4において浮上して浮体物となる。すなわち、偏析装置6では、Bi-Ti液体合金X4が所定の偏析温度に曝されることによりTi8Bi9金属間化合物(固相)とビスマス(液相)からなる固液混合物(混合物X6)が生成される。
【0036】
濃縮装置7では、混合物X6のTi8Bi9結晶(固体)に付帯するビスマス(固体または液体)が液体状態に維持され、遠心力の作用によって固液分離を行い、混合物X6よりもチタン濃度が高い金属間化合物、つまり混合物X6の濃縮物である濃縮金属間化合物X9が得られる。
【0037】
この金属チタン製造装置は、続いて蒸留装置8を用いて蒸留工程(蒸留処理)を行う。すなわち、蒸留装置8は、濃縮金属間化合物X9を所定の蒸留温度下かつ減圧雰囲気下に置くことにより、濃縮金属間化合物X9を形成するビスマスを選択的に気化させて金属チタンを得る。
【0038】
具体的には、金属チタン製造装置は、蒸留工程として、まず蒸留装置8内部を減圧する(ステップS3)。すなわち、金属チタン製造装置は、排気装置9により、濃縮金属間化合物X9の貯留される蒸留装置8内部を、例えば10Pa以下の減圧雰囲気下とする。蒸留装置8内の圧力は適宜調整してよい。
【0039】
そして、金属チタン製造装置は、蒸留工程として、蒸留装置8内部の温度を800℃またはその近傍(第1の温度)まで上昇させる(ステップS4)。蒸留装置8内部の温度を800℃またはその近傍まで上昇させることにより、濃縮金属間化合物X9は、内部の温度が徐々に上昇し、濃縮金属間化合物X9に付帯するビスマスが蒸発を開始する。すなわち、蒸留装置8は、上記析出物に付帯するビスマスを優先的に蒸発させるように雰囲気(析出物回りの雰囲気)を設定する。そして、濃縮金属間化合物X9の内部から蒸発したビスマスは、濃縮金属間化合物X9の表面より気体として放出される。このとき、濃縮金属間化合物X9の表面(液面)においては、ビスマスが蒸発し、多孔質状の構造体(
図4参照)が形成される。そして、多孔質状の構造体の孔を介して、濃縮金属間化合物X9からビスマスが放出されると考えられる。
言い換えれば、本実施形態の蒸留装置8(蒸留工程)は、偏析装置6(偏析工程)で得た析出物(本実施形態ではTi
8Bi
9金属間化合物)に含まれるチタンの構造を維持でき、且つ上記析出物内部からその表面に向けてビスマスが拡散することで当該表面からのビスマスの蒸発が維持されるような第1の温度(本実施形態では800℃またはその近傍の温度)で上記析出物を加熱する。上記第1の温度による加熱では、析出物内部からその表面に向かうビスマスの拡散が維持されるため、析出物の表面からビスマスが蒸発しても当該表面でのビスマスの含有量は適切に維持される。言い換えれば、析出物の表面でチタンの含有量が高くなりチタンが膜状になることを防止できるため、析出物内部からその表面に向かうビスマスの拡散と当該表面からのビスマスの蒸発とが適切に維持される。さらに、上記第1の温度による加熱では、析出物に含まれるチタンが融解せず、その金属構造を維持できるため、析出物からビスマスが蒸発し続けることで、次第に析出物は多数の孔を備える多孔質状に変化する。これらの孔を介することで、さらに析出物内部からのビスマスの拡散及び蒸発を促進することができる。なお、蒸留装置8内の圧力等に応じて、第1の温度は適宜調整してもよい。
【0040】
さらに、金属チタン製造装置は、蒸留工程として、蒸留装置8内部の温度を1000℃またはその近傍(第2の温度)まで上昇させる(ステップS5)。すなわち、蒸留装置8は、上述したように析出物に付帯するビスマスを優先的に蒸発させるように雰囲気を設定した後に、上記析出物を形成するビスマスを蒸発させるように雰囲気を設定する。このとき、ビスマスの蒸気圧はチタンの蒸気圧と比較して極めて高いことにより、濃縮金属間化合物X9におけるTi8Bi9からビスマスの蒸発が選択的に促進されると考えられる。このために多孔質状の濃縮金属間化合物X9のチタン濃度が高まることにより融点の上昇が期待される。このため1000℃を越えた条件下においても、構造体は溶融または崩壊せずに強度を保った状態のまま、さらに高い温度下でのビスマスの蒸留を可能とする。
言い換えれば、上記第1の温度による加熱の後に、上記第1の温度よりも高い第2の温度(本実施形態では1000℃もしくはその近傍の温度、または1100℃もしくはその近傍の温度)で上記析出物をさらに加熱する。上述したように、析出物からビスマスが蒸発することで、当該析出物におけるチタンの含有量は増加し、よって析出物の融点の上昇が期待される。このため、上記第1の温度よりも高い第2の温度で析出物を加熱しても、そこに含まれるチタンの金属構造を維持しつつ、析出物内部から表面に向かうビスマスの拡散及び表面からの蒸発をさらに促進することができる。よって、析出物におけるビスマスの含有量を効果的に減少させることができる。上記第2の温度は、析出物の融点の上昇に応じて適宜選択すればよい。
【0041】
そして、金属チタン製造装置は、蒸留工程として、蒸留装置8内部の温度を1100℃またはその近傍まで上昇させる(ステップS6)。これにより、蒸留装置8は、濃縮金属間化合物X9が含有するビスマスを完全に蒸発させ、金属チタンを得る。
【0042】
そして、排気装置9が蒸留装置8から取得したビスマス(気相)は、
図1に示されているように還元炉1に供給される。また、偏析装置6の固液混合物に含まれるビスマス(液相)は、同じく
図1に示されているように還元炉1に供給される。
【0043】
このように、本実施形態では、蒸留工程において、濃縮金属間化合物X9に付帯するビスマスを優先的に蒸発させることで、濃縮金属間化合物X9の表面に多孔質状の構造体を形成させ、その後にTi8Bi9が含有するビスマスを蒸発させる。これにより、多孔質状の構造体の孔を介して内部の蒸発したビスマスを放出させることができ、蒸留処理における処理効率(蒸留効率)を従来よりも向上させることが可能である。
【0044】
なお、上述したステップS4~S6を実施した場合の各ステップにおけるチタン濃度を温度条件1とし、ステップS5を実施せずに1100℃による蒸留を3回行った場合のチタン濃度を温度条件2としたグラフを
図5に示す。この図において、温度条件1は最終的に得られる金属中のチタン濃度が97.80%であり、温度条件2は最終的に得られる金属中のチタン濃度が81.76%であった。すなわち、1000℃において蒸留を実施するステップS5を行うことにより、多孔質状の構造体の崩壊を防いでビスマスの蒸発を促進させ、チタンの純度を高めることができる。
【0045】
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、金属チタン製造装置は、混合物X6を固液分離することで濃縮する濃縮装置7を備えるが、本開示はこれに限定されない。金属チタン製造装置は、濃縮装置7を備えず、蒸留装置において、混合物X6を直接蒸留してもよい。
【0046】
(2)上記実施形態では、金属チタン製造装置は、Bi-Ti液体合金X4からTi8Bi9金属間化合物(固相)とビスマス(液相)からなる混合物X6を生成する偏析装置6を備えるが、本開示はこれに限定されない。金属チタン製造装置は、偏析装置6を備えず、蒸留装置において、Bi-Ti液体合金X4を直接蒸留してもよい。
【0047】
(3)上記実施形態では、混合物X6に遠心力(慣性力)を作用させる濃縮装置7を用いたが、本開示はこれに限定されない。力学的な慣性力を混合物X6に作用させる他の装置形態として、例えば混合物X6を所定方向に所定速度で移動させた状態で制止(停止)させることが考えられる。なお、混合物X6から液相のビスマスを分離するために、フィルタを用いた濾過装置や、真空脱水機、ベルトプレス等を用いてもよい。
【0048】
(4)上記実施形態では、濃縮温度を例えば500℃としたが、本開示はこれに限定されない。
図3に示す状態図によれば、濃縮温度は、最大幅として425~930℃の範囲内であればよく、より好ましくは425~700℃の範囲内が好ましい。
【0049】
(5)上記実施形態では、蒸留装置8において、一例として蒸留温度を800℃、1000℃、1100℃と変化させるものとしたが、本開示はこれに限定されない。蒸留温度は、状況により変更されるものしてもよい。すなわち、ステップS5がステップS4よりも高い温度であり、ステップS6がステップS5よりも高い温度に設定されていればよい。上記実施形態の蒸留装置8(蒸留工程)では、異なる3つの温度で蒸留したが、異なる2つの温度、または異なる4つ以上の温度で蒸留してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 還元炉
2 Bi供給装置
3 TiCl4供給装置
4 Mg供給装置
5 MgCl2回収装置
6 偏析装置
7 濃縮装置
7a 濃縮炉
7b Arガス供給装置
7c 駆動源
8 蒸留装置
9 排気装置