(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】プレス製造条件収集システム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20220202BHJP
B30B 15/28 20060101ALI20220202BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20220202BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
B30B15/28 Q
B30B15/28 K
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2018009907
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-10-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術強力化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】512319232
【氏名又は名称】株式会社KMC
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】安部 新一
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 声喜
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-131182(JP,A)
【文献】特開2009-282822(JP,A)
【文献】特開平07-164199(JP,A)
【文献】特開平06-325048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形機の状態の物理量を検出するセンサーと、
前記センサーの出力から検出データを生成し、この検出データをもとに前記プレス成形機の不良事象を判定するデータ分析装置と、
前記データ分析装置により生成された検出データおよび前記不良事象の推定結果を蓄積するデータ収集装置と、
を具備し、
前記センサーは、前記プレス成形機にセットされた金型が受ける複数点の荷重をそれぞれ検出する複数の圧力センサーであり、
前記データ分析装置は、
前記圧力センサー毎の検出値の時系列である波形データを生成し、この波形データをもとに前記プレス成形機の不良事象を推定するものであり、更に、前記不良事象が推定されたとき、
その不良事象の推定結果と、この不良事象の推定に用いた前記圧力センサー毎の波形データとそれらの前後少なくともいずれか一方の1以上の波形データを含む合計N個の波形データであって、前記不良事象の推定結果に基づきNの値が変更可能な合計N個の波形データを前記データ収集装置に送信するデータ送信部を具備する
プレス製造条件収集システム。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス製造条件収集システムであって、
前記データ送信部は、
前記不良事象が推定されない間に生成された検出データを所定の頻度で前記データ収集装置に送信する
プレス製造条件収集システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプレス製造条件収集システムであって、
前記データ分析装置は、前記圧力センサー毎の検出値の時系列である波形データを生成
し、この波形データをもとに前記プレス成形機の不良事象をAI機能により推定し、
この推定結果に基づき前記合計N個の値を動的に変更する
プレス製造条件収集システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプレス製造条件収集システムであって、
前記データ分析装置のデータ送信部は、ネットワークを通じて前記データ収集装置に前記検出データを送信する
プレス製造条件収集システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形機の不良事象の推定、推定結果等の収集等を行うプレス製造条件収集システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形機による成形品質は、プレス加工の繰り返しに伴って、金型におけるパンチやダイなどの部品の磨耗などの劣化により次第に低下する。劣化した部品が適切なタイミングで交換されずにプレス加工が繰り返されると、多くの不良品を発生させてしまい、結果的に無駄なコストが吊り上がる。
【0003】
プレス成形機の状態を各種センサーにより検出し、その検出データを収集して表示することは従来から行われている。その一例として、位置センサー、圧力センサーなどのセンサーにより、プレス成形機の稼働中の油圧圧力やラム(スライド)の位置データを所定のサンプリング時間毎に自動的に収集し、収集したデータを画面に波形として表示したり、その数値化してファイルとして保存したりすることのできるデータ収集装置などが知られる。また、データ収集装置は、各種センサーにより検出された値と予め決められた警報設定範囲とを比較して、検出値が警報設定範囲を逸脱したときに不良品の発生などを判定することなども記載される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-164635号公報(段落[0020]~[0024])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プレス成形機の成形サイクルは約0.5~2秒程度と非常に短く、センサーの全時間の検出データをデータ収集装置にて収集、蓄積しようとすると、データ蓄積用のストレージデバイスに求められる容量の肥大化、蓄積時間の制限などの問題が発生する。また、センサーの検出データをネットワークを通じてデータ収集装置に送信するような構成を採った場合、リアルタイムでのデータ送信が困難な状況すら生じる可能性がある。さらに、ベリファイのためのデータ再送を考慮すると、データ送信側に大容量のバッファが必要となり、これがコストを大きくつり上げる要因となる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、プレス成形機の状態の物理量を検出するセンサーの検出データをデータ分析装置からデータ収集装置に送信するための通信負荷の軽減、およびストレージデバイスの容量軽減を図ることのできるプレス製造条件収集システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るプレス製造条件収集システムは、プレス成形機の状態の物理量を検出するセンサーと、前記センサーの出力から検出データを生成し、この検出データをもとに前記プレス成形機の不良事象を推定するデータ分析装置と、前記データ分析装置により生成された検出データおよび前記不良事象の推定結果を蓄積するデータ収集装置と、を具備し、前記データ分析装置は、前記不良事象が推定されたときの検出データと少なくともその前後いずれか一方の1以上の検出データを含む、所定数の検出データを前記データ収集装置に送信するデータ送信部を具備する。
【0008】
このプレス製造条件収集システムによれば、データ分析装置のデータ送信部が、不良事象が推定されたときの検出データと少なくともその前後いずれか一方の1以上の検出データを含む、所定数の検出データに絞ってデータ収集装置に送信するので、データ分析装置からデータ収集装置へのデータ送信のための通信負荷を大幅に軽減でき、加えて、データ収集装置において検出データを蓄積するストレージデバイスに必要とされる容量の低減を図れる。
【0009】
本発明の一形態に係るプレス製造条件収集システムにおいて、前記データ送信部は、前記不良事象が推定されない間に生成された検出データを所定の頻度で前記データ収集装置に送信するものであってよい。
これにより、データ分析装置からデータ収集装置へのデータ送信のための通信負荷のさらなる軽減、およびストレージデバイスの容量低減を図れる。
【0010】
本発明の一形態に係るプレス製造条件収集システムにおいて、前記センサーは、前記プレス成形機にセットされた金型が受ける複数点の荷重をそれぞれ検出する複数の圧力センサーであり、前記データ分析装置は、前記圧力センサー毎の検出値の時系列である波形データを生成し、この波形データをもとに前記プレス成形機の不良事象を推定するものとすることができる。
【0011】
本発明の一形態に係るプレス製造条件収集システムにおいて、前記データ分析装置は、前記圧力センサー毎の検出値の時系列である波形データを生成し、この波形データをもとに前記プレス成形機の不良事象をAI機能により推定するものであってよい。
【0012】
さらに、前記データ分析装置のデータ送信部は、ネットワークを通じて前記データ収集装置に前記検出データを送信するものであってよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プレス成形機の状態の物理量を検出するセンサーの検出データをデータ分析装置からデータ収集装置に送信するための通信負荷の軽減、およびストレージデバイスの容量軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る一実施形態のプレス製造条件収集システム100の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のプレス製造条件収集システム100に用いられるセンサープレート2が装着されたプレス成形機10の構成を示す断面図である。
【
図4】センサープレート2における複数の圧力センサー2bの配置を、荷重を受ける方向から示す平面図である。
【
図5】データ分析装置3の構成を示すブロック図である。
【
図6】圧力センサー2bから得られる通常の波形データ51の例を示す図である。
【
図7】カス上がりによって材料の「2枚抜き」が発生した場合のせん断荷重の波形データ71の例を通常の波形データ51と比較して示す図である。
【
図8】「パンチ折れ」が発生している場合のせん断荷重の波形データ81の例を通常時の波形データ51と比較して示す図である。
【
図9】センサープレート2における複数の圧力センサー2bの位置と「2枚抜き」が発生したパンチによる打ち抜き位置との関係を示す図である。
【
図10】金型全体の圧力分布(型抜き力分布)の表示例を示す図である。
【
図11】データ収集装置4のストレージデバイスに、ある期間にわたって蓄積されたある圧力センサー2bの波形データを可視化した図である。
【
図12】データ収集装置4による複数の波形データに基づく不良部位の算出方法を説明する図である。
【
図13】プレス成形機10の不良事象の推定方法について説明する図である。
【
図14】不良事象の推定結果に基づく波形データの選択的送信方法を説明するための図である。
【
図15】不良事象の発生が推定された場合に、その不良事象の推定時の波形データを含む前N個の波形データを送信する場合の例である。
【
図16】不良事象の発生が推定された場合に、その不良事象の推定時の波形データを含む後N個の波形データを送信する場合の例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る一実施形態のプレス製造条件収集システム100の構成を示すブロック図である。
【0016】
このプレス製造条件収集システム100は、プレス成形機10のスライド13の金型(上型11)に対向する側に装着されたセンサープレート2と、センサープレート2の各圧力センサー2bの出力から生成される検出データである波形データを分析して金型の部位毎の不良事象を推定するデータ分析装置3と、データ分析装置3による金型の部位毎の不良事象の推定結果および圧力センサー2b毎の波形データの収集、蓄積、表示、さらには蓄積された波形データの分析による金型の部位毎の不良事象の予兆判定などを行うデータ収集装置4とを備える。
【0017】
次に、各々の構成を説明する。
(センサープレート2)
図2はセンサープレート2が装着されたプレス成形機10の構成を示す断面図である。
符号11は金型の上型、12は金型の下型、13はプレス成形機10のスライド13を示している。センサープレート2は、プレス成形機10のスライド13の下面に、上型11の上面(バッキングプレート11aの上面)との間に挟み込まれた状態で装着される。センサープレート2は、プレート本体2aと、プレート本体2aに埋め込まれた複数の圧力センサー2bとを有する。複数の圧力センサー2bは、プレート本体2aに、荷重を受ける方向に対して直交する面内に互いに離間して配設される。圧力センサー2bとしては、ピエゾ効果による高感度の半導体センサーなどが用いられる。本発明は圧力センサーの種類に限定されるものではないが、高感度で、スライド13の駆動の周期(プレス加工周期)に対して十分短い周期で圧力検出が可能なものであることが要求される。
【0018】
図3はセンサープレート2の断面図、
図4はセンサープレート2における複数の圧力センサー2bの配置を荷重を受ける方向から示す平面図である。
これらの図に示されるように、金型(上型11)全体の応力分布を得ることができるように、センサープレート2において、複数の圧力センサー2bは荷重を受ける方向(Z方向)に対して直交する面(X/Y軸面)においてそれぞれの軸方向に互いに離間して分散配置される。例えば、
図4に示すセンサープレート2は、X軸方向に6個、Y軸方向に4個の計24個の圧力センサー2bを有する。本発明は、センサープレート2の圧力センサー2bの数に限定されるものではなく、より高い検出分解能が要求される場合にはより多くの圧力センサー2bをより高密に配置してもよい。
【0019】
また、センサープレート2には、圧力センサー2bの出力を増幅する増幅器2cが設けられる。各圧力センサー2bの出力は対応する増幅器2cにて増幅され、外部接続用の端子2dを通じて外部(データ分析装置3)に出力することが可能である。なお、
図4において、符合P1、P2、P3、P4は上型11のパンチによるワークの打ち抜き位置を示している。
【0020】
センサープレート2は、本プレス成形機10にセットされる金型に合わせて製造された専用のものではなく、様々な構成の金型に対して利用され得るものである。したがって、センサープレート2に配設される複数の圧力センサー2bは、本実施形態ではセンサープレート2が荷重を受ける面において、例えば各々の軸方向に所定の間隔を置いて配置されてもよいが、必ずしも所定の間隔を置いて配置される必要はない。
【0021】
(データ分析装置3)
図5はデータ分析装置3の構成を示すブロック図である。
同図に示すように、データ分析装置3は、圧力センサー2b毎の出力を増幅する増幅器2cと、増幅器2cの出力のA/D変換およびデータ化を行うA/D変換部31と、A/D変換部31毎の出力をAI機能を用いて分析する分析AI部32と、データ送信部33を有する。A/D変換部31は、圧力センサー2bの出力をアナログ信号からデジタル信号に変換し、さらに所定ビット数例えば8ビットなどのデジタルデータに変換する。
【0022】
A/D変換部31は、スライド13の駆動周期(プレス加工周期)に対して十分短い周期でA/D変換を行って、圧力センサー2b毎の検出値の時系列である波形データ(検出データ)を出力する。
【0023】
分析AI部32は、A/D変換部31より得た波形データの特徴などをAI(Artificial Intelligence)機能により分析することによって、プレス成形において発生する可能性のある「2枚抜き」や、「パンチ折れ」などの不良事象を、圧力センサー2b毎の波形データに基づく不良事象の推定結果として生成する。なお、分析AI部32は、例えば、AI機能を用いて、波形データを画像データとして分析することによって、その波形データの特徴を分析することのできるGPU(Graphics Processing Unit)と、GPUの制御を行うGPU制御部などによって構成される。AIには、一般的なニューラルネットワークのほか、ディープラーニングなども採用し得る。
【0024】
データ送信部33は、それぞれの分析AI部32によって得られた圧力センサー2b毎の不良事象の推定結果および波形データをパケット化し、ハブ5などのネットワーク機器およびネットワーク6を通じてデータ収集装置4に送信する。この際、データ送信部33は、データ収集装置4に送信するデータ量を、不良事象の発生の有無に応じて以下のルールR1、R2に従って制限(圧縮)する。
【0025】
ルールR1.不良事象の発生が推定されない期間は、データ送信部33は、M個に1個の頻度で波形データを選択して送信する。すなわち、不良事象の発生が推定されない期間にすべての回の波形データを送信するとなると、データ分析装置3からデータ収集装置4に送信され、収集されるデータの容量が大きくなりすぎ、通信のための負荷の増大、データ分析装置3およびデータ収集装置4の双方のデータ保存用の記憶部に要求される容量が肥大化する。データ分析装置3からデータ収集装置4にM個に1個の頻度で波形データを選択して送信するようにすることで、不良事象の発生が推定されない期間のデータ伝送量を略1/Mに抑えることができ、データ通信のための負荷、データ収集装置4に必要なストレージデバイスの容量を抑えることができる。
【0026】
2.ルールR2.不良事象の発生が推定された場合、データ送信部33は、その不良事象の推定結果と、この不良事象の推定に用いた波形データとその前後少なくともいずれか一方の1以上の波形データを含む合計N個の波形データを送信する。Nの値は数個、数十、数百程度が妥当である。不良事象の推定に用いた波形データの前後の波形データの数Nは前後で異なっていてもよい。あるいは、不良事象の推定に用いた波形データの前のN個の波形データのみを送信したり、後のN個の波形データのみを送信してもよい。
【0027】
なお、M、Nの値は1以上の値のなかから、予めユーザにより設定されてもよい。あるいは過去の不良事象の頻度などの履歴から自動的に設定されたり、動的に変更されたりしてもよい。
【0028】
さらに、データ分析装置3は、それぞれのA/D変換部31より得られた波形データを保持可能な記憶部であるデータ保持部34を有する。データ保持部34には、それぞれのA/D変換部31より得られた圧力センサー2b毎の最新D個の波形データを、分析AI部32による不良事象の推定結果にかかわらずバッファリングすることが可能な記憶部である。ここで、Dの値はMの値以上とされる。
【0029】
なお、
図5では、データ送信部33のブロックにデータ保持部34が存在する形態を例示したが、本発明はこの限りではなく、データ分析装置3に設けられたものであればよい。
【0030】
ネットワーク6はLAN(Local Area Network)であっても、インタ-ネットなどのWAN(Wide Area Network)であってもよい。また、ネットワーク通信は無線通信であっても有線通信であってもよい。
【0031】
(データ収集装置4)
図1に戻って、データ収集装置4は、ネットワーク6およびハブ5を通じてデータ分析装置3と通信が可能なように接続される。データ収集装置4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)などのメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などのストレージデバイス、LCD(Liquid Crystal Display)モニターなどの表示部など、コンピュータのハードウェアを用いて構成し得る。データ収集装置4は、一般的なパーソナルコンピュータによって構成されてもよい。
【0032】
データ収集装置4は、ネットワーク6を通じてデータ分析装置3より受信した、圧力センサー2b毎の波形データを、図示しないストレージデバイスに蓄積するとともに、ネットワーク6を通じてデータ分析装置3より不良事象の推定結果を受信した場合にはその不良事象の推定結果を、対応する波形データと紐付けてストレージデバイスに蓄積する。
【0033】
データ収集装置4のCPUは、データ分析装置3より収集した上記のデータをもとに、例えば以下のような処理を行うことができる。
1.データ分析装置3によって推定された金型の部位毎の不良事象の表示。
2.収集した波形データを用いた金型全体の圧力分布などの表示。
3.金型の部位毎の不良事象の予兆判定。
【0034】
次に、本実施形態のプレス製造条件収集システム100における各部の動作を説明する。
【0035】
[データ分析装置3による波形データに基づく不良事象推定]
まず、データ分析装置3による波形データに基づく不良事象推定について説明する。
データ分析装置3は、圧力センサー2bの出力を、スライド13の駆動周期(プレス周期)に対して十分短い周期でA/D変換し、所定のビット数のデータとする。これにより、短い周期毎の圧力データの時系列である波形データが得られ、分析AI部32でその分析が行われて、金型の劣化などの問題に起因してプレス成形で発生した様々な不良事象が推定される。分析AI部32で、波形データから様々な不良事象を推定するために、各々の分析AI部32には、様々な不良事象の種類毎に、その不良事象の発生時に圧力センサー2bの出力に現れる傾向のある、あるいは実際に出現した波形データを含む様々な学習データを用いて機械学習が行われたものが利用される。
【0036】
ここで、金型の不良事象が波形データにどのように現れるかを例示する。
パンチで材料を打ち抜く際、パンチ表面とカスが真空状態となるため、カスがパンチ表面に付着して材料と一緒に送られることで「2枚抜き」を誘発し、パンチ(特に角部)の磨耗が促進されることによる「バリ」を引き起こす。これらを総称した不良を「カス上がり」と呼ぶ。これらの影響は、パンチの寿命低下、パンチ折れなどの金型の損傷、さらにはプレス成形機10の損傷にも繋がる。上記の「2枚抜き」、「パンチ折れ」などの不良事象は、圧力センサー2bによるプレス成形の周期よりも十分短い周期で検出されたデータの時系列データである波形データにおける波形の変化として現れる。
【0037】
図6は1つの圧力センサー2bから得られる通常(正常)の波形データ51の例を示す図である。ここで、横軸はスライド13を駆動するクランク機構の主歯車の回転角度、縦軸は圧力センサー2bの検出信号レベルである。この例では、時刻t1からパンチが材料(ワーク)に喰い込みはじめ、次第にせん断荷重が増大する。せん断がはじまる直前の時刻t2にせん断荷重がピークとなり、せん断がはじまると、金型等に蓄えられた圧縮応力による弾性変形エネルギが一気に開放するブレークスルー現象によってせん断荷重が低下し、せん断が完了する。「2枚抜き」や「パンチ折れ」などの不良事象が発生した場合、それら不良事象を反映した波形データが発生する。
【0038】
まず、材料の「2枚抜き」が発生した場合を説明する。「2枚抜き」は、例えばパンチの磨耗により抜きカスのバリがパンチの先端面に吸着し、ダイの上に落ちて載ることなどによって発生する。
図7は材料の「2枚抜き」が発生した場合のせん断荷重の波形データ71を通常時の波形データ51と比較して示す図である。材料の「2枚抜き」が発生した際の波形データ71には、通常時の波形データ51に比べ、ピークのせん断荷重が2倍程度に大きくなったり、せん断荷重の発生時間が2倍程度に広がったりする(図示せず)などの特有の変化が現れる。
【0039】
次に、「パンチ折れ」が発生した場合を説明する。
図8は「パンチ折れ」が発生している場合の波形データ81の例を通常時の波形データ51と比較して示す図である。「パンチ折れ」が発生している場合の波形データ81には、例えば、パンチが材料(ワーク)と接触する期間にせん断荷重が上下に細かく振動し、通常時の波形データ51のような明確なピークが現れない、などの特徴がある。
【0040】
このように、「2枚抜き」や「パンチ折れ」などの不良事象は、センサープレート2における複数の圧力センサー2bのうち、問題となっているパンチに最も近い位置の圧力センサー2bの波形データに顕著に現れる。したがって、データ分析装置3は、不良事象の発生およびその種類を金型の部位毎に推定することができる。
【0041】
[不良事象の推定を契機とするプレス成形の強制停止]
データ分析装置3は、波形データをもと所定の不良事象を推定した場合、プレス成形機10のコントローラ15に対して、連続して実行されるプレス成形を強制的に停止させるための命令を出力する。例えば、データ分析装置3のいずれかの分析AI部32によって「パンチ折れ」の発生が推定された場合、プレス成形を即座に停止させるように、プレス成形機10のコントローラ15に強制停止命令を供給する。
【0042】
このようにデータ分析装置3の各分析AI部32は、対応する個々の圧力センサー2bの波形データを対象に不良事象を推定するので、より高速かつ精度良く不良事象の発生を検出することができる。このため、不良事象の発生から短い経過時間でプレス成形機10の動作を強制停止させることができ、成形不良品の発生数を可及的に最少に抑えることができる。
【0043】
次に、データ収集装置4の動作を説明する。
(金型の部位毎の不良事象の表示)
データ収集装置4のCPUは、データ分析装置3より収集した金型の部位毎の不良事象の推定結果を表示部にリアルタイムで表示させることができる。この際、圧力センサー2bの位置から特定される金型の部位を示す情報とともに不良事象の推定結果が表示されてよい。例えば、
図9に示すように、P4のパンチによる打ち抜き部分で「2枚抜き」が発生した場合、その不良事象による影響が波形データに最も大きく現れる圧力センサー2bは位置(x4,y1)のセンサーである。この場合には、少なくとも、その圧力センサー2bに対応する分析AI部32によって「2枚抜き」の不良事象が推定され、その圧力センサー2bの位置(x4,y1)によって特定される金型の部位を示す情報とともに「2枚抜き」が発生したことが表示部を通してユーザに提示される。
【0044】
(金型全体の圧力分布(型抜き力分布)の表示)
データ収集装置4のCPUは、データ分析装置3の各分析AI部32より出力されたそれぞれの波形データを収集し、それぞれの波形データの同じ時刻の値を、例えば、三次元グラフによって表示部に金型全体の圧力分布(型抜き力分布)として表示することが可能である。
図10は、
図9に示したP4のパンチによる打ち抜き部分で「2枚抜き」が発生したことによって、位置(x4,y1)の圧力センサー2bの出力が顕著に増大したことを示している。これによりユーザは一目で「2枚抜き」の不良事象の発生と部位を特定することができる。
【0045】
(不良事象発生の予兆判定)
データ分析装置3からデータ収集装置4には、不良事象の推定結果のみならず、分析された波形データそのものも送信される。データ収集装置4のCPUは、データ分析装置3から送信された各圧力センサー2bの波形データをストレージデバイスに蓄積する。
【0046】
図11はデータ収集装置4のストレージデバイスに蓄積された、ある圧力センサー2bの波形データを可視化した図である。ここで、横軸は圧力センサーによる累積検出回数、縦軸は検出信号レベルである。このように、圧力センサーによる累積検出回数の増大つまりプレス成形の累積回数が増大するにつれてパンチの磨耗などによる劣化が進行し、検出信号レベルの移動平均の値111が次第に増大する。データ収集装置4のCPUは、この検出信号レベルの移動平均の値111などの評価値が閾値113を越えた状態を「2枚抜き」などの不良事象の予兆、あるいは金型の寿命による交換時期が来ているとして判定し、表示部などを通してこの旨をユーザに提示する。
【0047】
この不良事象の予兆判定は、すべての圧力センサー2bの波形データについて個別に実施される。これにより、金型の部位毎の不良事象の予兆判定を行うことができる。
【0048】
あるいは、データ収集装置4のCPUは、検出信号レベルの移動平均の値111などの評価値と、不良事象の発生回数あるいは発生頻度などから、金型の寿命が来ていることを判定してもよい。
【0049】
[複数の波形データに基づく不良部位の算出]
データ収集装置4のCPUは、センサープレート2の複数の圧力センサー2bの同じタイミングの検出信号レベルをもとに、金型において不良事象の発生部位のより高い精度の座標データを算出することも可能である。
【0050】
例えば、
図12に示すように、2つのパンチP5、P6のうち一方のパンチP6による打ち抜き部位で「2枚抜き」などの不良事象が発生した場合を想定する。データ収集装置4のCPUは、最もせん断荷重のピーク値が高い、位置(x1,y1)の圧力センサー2bとその周囲の複数の圧力センサー2bについて、各々の圧力センサー2bの波形データにおける同じタイミングの値をもとに、不良事象の発生した位置の座標を算出する。これにより、問題のあるパンチ(P6)と問題のないパンチ(P5)とを高い精度で識別することができる。
【0051】
(プレス成形機10の不良事象の推定について)
図13は2ヶ所の圧力センサー2bの波形データを比較して示す図である。この例ではスライド13の往復運動を摺動案内するスライドギブに緩みが発生したことによって、材料のせん断完了後にせん断荷重が抜けて行く期間131において2つの波形データの歪みの伸び縮みの関係が反転している。データ収集装置4は、このように2つの波形データの差分をとらえてスライドギブの緩みの発生を推定し、その結果を表示を通してユーザに提示することができる。
【0052】
(波形データの送信制限)
次に、データ分析装置3にて生成された圧力センサー2b毎の波形データをデータ収集装置4に送信する際の送信制限の動作について説明する。
既に述べたように、本実施形態のプレス製造条件収集システム100では、データ分析装置3にて連続して生成される圧力センサー2b毎の波形データが、不良事象の推定結果をもとに選択的にデータ収集装置4に送信されることによって、データ通信のための負荷、データ収集装置4に必要なストレージデバイスの容量を抑えている。
【0053】
この制御は、すべての圧力センサー2bの波形データについて同様に行われるが、ここでは、技術理解の容易化のため1つの圧力センサー2bの波形データの送信制限に絞って説明する。
【0054】
図14は、不良事象の推定結果に基づく波形データの選択的送信方法を説明するための図である。ここで、0001番目から0911番目までの波形データを例示する。0001番目の波形データは例えば初回プレス成形時に生成される波形データであり、0911番目の波形データは911回目のプレス成形時の波形データである。データ送信の制約条件はM=200、N=40とする。データ送信の制約条件は固定とする。
【0055】
データ分析装置3は、A/D変換部31より得た最新D個までの波形データをデータ保持部34に保持する。DはM以上の値である。
データ分析装置3は、分析AI部32にて、A/D変換部31より得た最新の波形データについて不良事象の推定を前述した方法により行う。
【0056】
例えば、0001番目から0200番目までの波形データについて不良事象が推定されなかったとき、データ送信部33は、ルールR1(M=200)により、その0200番目の波形データをデータ収集装置4にネットワーク6を通じて送信する。続いて、0201番目から0400番目までの波形データについて不良事象が推定されなかったとき、データ送信部33は、同様にルールR1(M=200)により、その0400番目の波形データをデータ収集装置4にネットワーク6を通じて送信する。
【0057】
次いで、0401番目から0490番目までの波形データについて不良事象が推定されなかったが、0491番目の波形データについて不良事象が推定されたとき、データ送信部33は、ルールR2(N=40)により、0471番目から0511番目までの40個の波形データ81をデータ収集装置4にネットワーク6を通じて送信する。ここで、0471番目から0491番目までの20個の波形データはデータ分析装置3のデータ保持部34から読み出されてデータ収集装置4に送信され、0491番目から0511番目までの20個の波形データはデータ保持部34に保存され次第、データ収集装置4に送信される。あるいは、0471番目から0511番目までの40個の波形データ81がデータ保持部34に保存され次第、これらの波形データ81を送信してもよい。この後、0512番目から0711番目までの200個の波形データについて不良事象が推定されたならば、データ送信部33は、ルールR1(M=200)により0711番目の波形データをデータ収集装置4にネットワーク6を通じて送信する。さらに、0712番目から0911番目までの200個の波形データについて不良事象が推定されたならば、データ送信部33は、ルールR1(M=200)により、0911番目の波形データをデータ収集装置4にネットワーク6を通じて送信する。
【0058】
図15は、不良事象の発生が推定された場合に、その不良事象の推定時の波形データを含む前N個の波形データを送信する場合の例である。
この例では、データ送信部34は、0491番目の波形データについて不良事象が推定された場合に、その0491番目の波形データを含む前N個の波形データつまり0451番目から0491番目までの波形データをデータ収集装置4に送信する。
【0059】
図16は、不良事象の発生が推定された場合に、その不良事象の推定時の波形データを含む後N個の波形データを送信する場合の例である。
この例では、データ送信部34は、0491番目の波形データについて不良事象が推定された場合に、その0491番目の波形データを含む後N個の波形データつまり0491番目から0511番目までの波形データをデータ収集装置4に送信する。
【0060】
以上、N個の波形データの前後の比を1対1、1対0、0対1とする例を挙げたが、例えば、1対9、2対8、4対6、9対1とするなど、前後で様々な比にしてもよい。さらに、この前後の比を、各種の条件に応じて動的に変更するようにしてもよい。
【0061】
このように、本実施形態では、不良事象が推定されない期間の波形データについては、M回に1回の頻度で波形データを選択的にデータ収集装置4に送信し、不良事象が推定された場合は、そのときの波形データとその前後の少なくともいずれか一方の1以上の波形データを含むN個の波形データをデータ収集装置4に送信するようにした。これにより、波形データをデータ分析装置3からデータ収集装置4に送信するにあたっての通信負荷の軽減、およびデータ収集装置4におけるストレージデバイスの容量軽減を図ることができる。
【0062】
不良事象が推定されない期間の波形データについてはM回に1回の頻度で波形データを選択的にデータ収集装置4にて収集することは、データ収集装置4にて、実際に波形データを収集している状況や、分析AI部32で検出に漏れた異常な波形データが発生していないかなどを確認するうえで有用である。
【0063】
(変形例1:波形データの送信契機の変形)
なお、本実施形態では、分析AI部32で、前述した「2枚抜き」、「パンチ折れ」のように不良事象が推定されたことを契機に、そのときの波形データとその前後の1以上の波形データを含むN個の波形データがデータ分析装置3からデータ収集装置4に送信されることとしたが、「2枚抜き」、「パンチ折れ」のような明確な不良事象が発生する以前の予兆的な不良事象を分析AI部32で検出できるようにし、検出された予兆的な不良事象の種類や程度などの評価値が設定された閾値を超えたことを契機に、そのときの波形データとその前後の1以上の波形データを含むN個の波形データがデータ分析装置3からデータ収集装置4に送信されるようにしてもよい。
【0064】
(変形例2:M、Nの値の動的制御)
分析AI部32で検出された予兆的な不良事象の種類やレベルなどの評価値に応じて、ルールR1のMの値、ルールR2のNの値が動的に変更されてもよい。例えば、予兆的な不良事象の評価値が高くなるほど、Mの値を小さくして、より高い頻度で不良事象の推定されない期間の波形データを送信したり、Nの値を大きくして、ネガティブな事象が検出された場合に送信する波形データの数を増やしたりしてよい。
【0065】
(変形例3:AI機能に拠らないデータ分析)
上記の実施形態では、波形データについてAI機能により不良事象の発生を推定するデータ分析装置3を用いた場合を想定したが、本発明にこれに限定されるものではない。例えば、センサーの検出データを取り込んで閾値との比較などによってプレス成形機の不良事象を検出し、データ収集装置に検出データを送信するデータ分析装置を用いたものにも適用可能である。
【0066】
(変形例4:センサープレート2に限定されないことについて)
上記の実施形態のプレス製造条件収集システム100によれば、金型が受けるせん断荷重をセンサープレート2における複数の圧力センサー2bで同時に検出し、それぞれの圧力センサー2bにより検出されたせん断荷重の波形データをデータ分析装置3の各々の分析AI部32で分析することによって、金型の劣化に起因した「2枚抜き」や「パンチ折れ」などの不良事象の発生を高速かつ高精度に推定することができる。また、金型の部位毎の不良事象を推定するができるので、金型の部品交換に要する時間的コストを低減することができる。さらに、センサープレート2はプレス成形機10のスライド13に金型(下型11)に対向して装着され、荷重を受ける方向に対して直交する面において複数の圧力センサー2bが互いに離間して配設されたものであるため、どのような構成の金型が用いられても、その金型が受ける部位毎の荷重を検出することができる、という利点を有する。
しかしながら、本発明はセンサープレート2を用いることに限定されるものではない。スライドあるいは下型などに圧力センサーを取り付けた構成にも本発明は適用可能である。
【0067】
(変形例5:圧力センサー以外のセンサーの利用)
上記実施形態では、圧力センサー2bの出力から生成される波形データを分析し、収集するシステムについて説明したが、本発明は、その他の種類のセンサー、例えば温度センサーなど、プレス成形機10における他の物理量を検するセンサーの出力から生成される検出データを分析し、収集するシステムにも応用することが可能である。
【0068】
(その他の変形例)
なお、
図1に示したように、本実施形態のプレス製造条件収集システム100は、ハブ5に複数のデータ分析装置3を接続し、データ収集装置4にこれら複数のデータ分析装置3によって得た、金型の部位毎の不良事象の推定結果および波形データを収集するように構成することができるものである。
【0069】
以上、不良事象として「2枚抜き」、「パンチ折れ」を例示したが、これら以外の不良事象についても推定の対象としてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
2…センサープレート
2b…圧力センサー
3…データ分析装置
4…データ収集装置
10…プレス成形機
31…A/D変換部
32…分析AI部
33…データ送信部
34…データ保持部
100…プレス製造条件収集システム