(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】ロジウム回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20220202BHJP
C22B 3/28 20060101ALI20220202BHJP
B01D 11/04 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/28
B01D11/04 B
(21)【出願番号】P 2018051635
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
(72)【発明者】
【氏名】寺境 光俊
(72)【発明者】
【氏名】片桐 洋史
(72)【発明者】
【氏名】山川 澄人
(72)【発明者】
【氏名】瀬崎 勇斗
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-519905(JP,A)
【文献】特開2005-194546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B01D 11/00-12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族第一級アミン化合物、または、脂肪族第一級アミン化合物から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物を含有するロジウム回収剤を用いて、ロジウムを含む混合物からロジウムを回収する方法であって、前記ロジウム回収剤、前記混合物および有機溶媒を塩酸に添加して、式(1)に示すアミン化合物とロジウム塩化物との複合体を形成させて、該複合体を有機溶媒に回収する、ロジウムの回収方法。
【化1】
(式(1)中のZは、アミン化合物の残基を表す。)
【請求項2】
前記アミン化合物のアミノ基と前記混合物中のロジウムとのモル比(NH
2/Rh)が、6以上20以下である、請求項1に記載のロジウムの回収方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、キシレンの何れか一種または二種以上の混合物である、請求項1または2に記載のロジウムの回収方法。
【請求項4】
前記芳香族第一級アミン化合物が、下記式(2)で示される化合物である、請求項1~3のいずれかに記載のロジウムの回収方法。
【化2】
(式(2)中のXは、炭素数2以上12以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基、または、炭素数2以上10以下の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基である。)
【請求項5】
前記脂肪族第一級アミン化合物が、下記式(3)で示される化合物である、請求項1~3のいずれかに記載のロジウムの回収方法。
【化3】
(式(3)中のYは、炭素数6以上14以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
【請求項6】
前記塩酸の濃度が、2mol/L以上12mol/L以下である、請求項1~5のいずれかに記載のロジウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジウム回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロジウムは極めて希少で最も高価な貴金属の一つであり、産出地が偏在しているため、安定供給のためにはリサイクルが必須である。例えば、ロジウムは白金やパラジウムとともに自動車排気ガス浄化用触媒として用いられており、リサイクルの際は、白金やパラジウムを含む溶液からロジウムを選択的に回収する技術が必要となる。
【0003】
一般に貴金属の回収には電解析出法やセメンテーション法、イオン交換法、溶媒抽出法などの方法が用いられる。これらの方法の中で経済性や操作性に優れた溶媒抽出法が広く用いられている。例えば、ジアルキルスルフィドを用いた溶媒抽出法により複数の貴金属を含む溶液からパラジウムを選択的に回収する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、ロジウムは効率的かつ選択的に回収できる抽出剤が存在しないため、他の貴金属を抽出した後の抽残液中から回収されてきた(特許文献2)。このような方法では最も高価な貴金属であるロジウムの回収が後回しになるため、回収コストがかかるという問題がある。
【0004】
溶媒抽出法によるロジウム回収技術として、ピリジン環含有化合物を用いた例が報告されている(特許文献3)。該抽出剤では、ロジウムとベースメタルを分離することが可能であるが、白金やパラジウムとの分離については記載されていない。また、イミダゾール誘導体を用いた例では、金および白金とロジウムとの分離はある程度達成されているが、パラジウムとの分離はできていない(特許文献4)。白金およびパラジウムとロジウムとの分離は、アミド含有3級アミン化合物を用いることで可能であることが報告されている(特許文献5)。この方法では、該抽出剤を含む有機相に白金、パラジウム、ロジウムを含む水相を接触させることで、すべての金属を有機相に抽出する。その後、有機相を高濃度塩酸溶液と接触させることで、ロジウムのみを水相に逆抽出させることで選択的にロジウムを回収するものである。しかし、このような方法では、ロジウムを分離するために少なくとも2回の抽出工程を必要とするため、廃液が多量になることや工程の増加によってコストがかかるといった問題がある。また、ロジウムが白金およびパラジウムよりも抽出剤に吸着されにくいことを利用して、ロジウムのみを抽出剤から選択的に外す方法であるため、最初の抽出の段階においてロジウムのみを回収することは原理的に不可能である。
【0005】
また、本発明者らは、所定のアミンをロジウムを含有する塩酸溶液に加え、沈殿を形成させることによりロジウムを回収する方法を提案している(特許文献6および7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-279264号公報
【文献】特開2004-332041号公報
【文献】特開平5-295458号公報
【文献】特開2013-032563号公報
【文献】国際公開第2009/001897号
【文献】特開2017-179409号公報
【文献】国際公開第2017/170444号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献6および7に記載の回収方法では、十分なロジウム回収を行うためにはロジウムに対して過剰量のアミンの添加が必要であり、コスト、効率の点で改良の余地があった。本発明は、コストおよび効率の点において有利な、新たなロジウム回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ロジウム塩化物アニオンは、イオン対が形成されにくく、イオン対の構造を解析した例はこれまで無かった。よって、特許文献6および7において生成した沈殿の詳細な構造については、不明であったが、一般的には、3価のロジウム塩化物アニオンに対し,3つのアンモニウムカチオンが結合したイオン対が形成されると考えられていた。
しかしながら、本発明者らは、該沈殿物について、単結晶X線測定、粉末X線測定、熱重量分析、XPS測定等を行うことにより、1つのロジウム塩化物アニオンに対して、6つのアンモニウムカチオンが取り囲み、さらに3つの塩化物アニオンを含むことで全体の電荷をキャンセルさせた複合体となっていることを見出した。
上記発見に基づき、本発明者らは、上記複合体を形成するのに必要十分な量のアミンと、さらに上記複合体を溶解できる有機溶媒を用いることにより、新たな方法によりロジウムを回収可能であることを見出し、以下の発明を完成させた。
【0009】
第1の本発明は、芳香族第一級アミン化合物、または、脂肪族第一級アミン化合物から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物を含有するロジウム回収剤を用いて、ロジウムを含む混合物からロジウムを回収する方法であって、前記ロジウム回収剤、前記混合物および有機溶媒を塩酸に添加して、式(1)に示すアミン化合物とロジウム塩化物との複合体を形成させて、該複合体を有機溶媒に回収する、ロジウムの回収方法である。
【0010】
【化1】
(式(1)中のZは、アミン化合物の残基を表す。)
【0011】
第1の本発明において、前記アミン化合物のアミノ基と前記混合物中のロジウムとのモル比(NH2/Rh)が、6以上20未満であることが好ましい。
【0012】
第1の本発明において、前記有機溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、キシレンの何れか一種または二種以上の混合物であることが好ましい。
【0013】
第1の本発明において、前記芳香族第一級アミン化合物は、下記式(2)で示される化合物であることが好ましい。
【0014】
【化2】
(式(2)中のXは、炭素数2以上12以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基、または、炭素数2以上10以下の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基である。)
【0015】
第1の本発明において、前記脂肪族第一級アミン化合物は、下記式(3)で示される化合物であることが好ましい。
【0016】
【化3】
(式(3)中のYは、炭素数6以上14以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
【0017】
第1の本発明において、前記塩酸の濃度は、2mol/L以上12mol/L以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、コストおよび効率の点において有利である、新たなロジウム回収方法である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】単結晶X線回折測定により得られた単結晶の構造を示す模式図である。
【
図2】単結晶から予測される粉末X線回折パターン(Caluculated)と沈殿の粉末X線回折パターン(Measured)である。
【
図3】4-ヘキシルアミンを用いて作製した沈殿のXPSスペクトルである。
【
図4】4-ヘキシルアミンを用いて作製した沈殿の熱重量分析結果である。
【
図5】4-ブチルアニリン添加量を変化させたときのロジウム抽出率を示した図である。
【
図6】4-ヘキシルアニリンを用いたときの各金属抽出率を示す図である。
【
図7】4-ブチルアニリン添加量を変化させたときのロジウム沈殿率を示す図である。
【
図8】4-ヘキシルアニリンを用いて、塩酸濃度を変化させたときのロジウム抽出率を示す図である。
【
図9】4-ヘキシルアニリンを用いて、振とう時間を変化させた時のロジウム抽出率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[ロジウムの回収方法]
本発明は、少なくも1種の所定のアミン化合物を含有するロジウム回収剤を用いて、ロジウムを含む混合物からロジウムを回収する方法であって、所定のロジウム回収剤および有機溶媒を用いることで、所定の複合体を形成させて、該複合体を有機溶媒に回収する方法である。本発明の回収方法は、工程毎に記載すれば、例えば、添加工程、混合工程、ロジウム回収工程に分けることができるので、以下、その順に説明する。
【0021】
<添加工程>
添加工程においては、ロジウム回収剤、ロジウムを含有する混合物、および、有機溶媒を塩酸に添加する。
なお、本発明は、所定のロジウム回収剤と有機溶媒とを用いて、ロジウムを含む塩酸溶液からロジウムを回収する点に特徴があり、該特徴に影響しないそれ以外の部分を適宜変更した形態も発明の範囲に含む。例えば、ロジウムを含む混合物を塩酸に添加しないで、当初から、ロジウムが溶解した塩酸溶液に対して、ロジウム回収剤および有機溶媒を添加するような形態も、ここでいう添加に含む。
【0022】
(ロジウム回収剤)
本発明にて使用するロジウム回収剤は、芳香族第一級アミン化合物、または、脂肪族第一級アミン化合物から選ばれる少なくとも一つのアミン化合物を含有する。
芳香族第一級アミン化合物は、下記式(2)で示される化合物であることが好ましい。
【0023】
【化4】
(式(2)中のXは、炭素数2以上12以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基、または、炭素数2以上10以下の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基である。)
【0024】
Xであるアルキル基としては、炭素数は3以上11以下であることが好ましく、4以上10以下であることがより好ましい。また、直鎖アルキル基であることが好ましい。好ましいXであるアルキル基としては、ブチル基、ヘキシル基、デシル基を挙げることができる。
【0025】
Xであるアルコキシ基としては、炭素数は3以上9以下であることが好ましく、4以上8以下であることがより好ましい。また、直鎖アルコキシ基であることが好ましい。好ましいXであるアルコキシ基としては、ブトキシ基、オクチロキシ基を挙げることができる。
【0026】
脂肪族第一級アミン化合物は、下記式(3)で示される化合物であることが好ましい。
【0027】
【化5】
(式(3)中のYは、炭素数6以上14以下の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。)
【0028】
Yであるアルキル基としては、炭素数は7以上13以下であることが好ましく、炭素数8以上12以下であることがより好ましい。また、直鎖のアルキル基であることが好ましい。好ましいYであるアルキル基としては、オクチル基、ドデシル基を挙げることができる。
【0029】
上記した本発明にて使用するロジウム回収剤としては、ロジウムを選択抽出する観点からは、芳香族第一級アミン化合物を使用することが好ましい。
【0030】
本発明において使用するロジウム回収剤は、後で説明するロジウムとの複合体が有機溶媒に溶解すればよいのであり、ロジウム回収剤自体は、必ずしも有機溶媒に溶解する必要はない。その点で、従来の溶媒抽出法とは異なっており、従来の溶媒抽出法では使用できないような回収剤も使用できる点で、回収剤の適用範囲が広がっている。
【0031】
ロジウム回収剤の添加量は、下記に示す複合体を形成するのに必要十分な量であればよい。よって、ロジウム回収剤を構成するアミン化合物のアミノ基と、混合物中のロジウムとのモル比(NH2/Rh)は、6以上20以下とすることが好ましく、効率の点から、上限は12以下とすることがより好ましく、10未満とすることがさらに好ましく、9以下とすることがさらに好ましく、8以下とすることが特に好ましい。また、下記に示す複合体を適切に形成する観点からは、下限は6以上とすることが好ましいが、効率を若干落としつつ、アミン量を削減してもよく、その点からすると、下限は6を若干下回ってもよい。ただし、その場合であっても、回収効率の点から、下限は、5.8以上であることが好ましく、5.9以上であることがより好ましい。
【0032】
(ロジウムを含む混合物)
混合物には少なくともロジウムが含まれており、さらにその他の金属や貴金属が含まれていてもよい。本発明者らの知見によれば、混合物中にロジウム以外の貴金属として、パラジウム及び白金から選ばれる少なくとも一つが含まれていたとしても、本開示のロジウム回収剤によってロジウムを優先的に回収できる。例えば、混合物として、自動車排気ガス浄化用触媒そのものを適用することができる。
【0033】
(有機溶媒)
本発明において使用する有機溶媒としては、後に説明する複合体を溶解可能であれば、特に限定されずに種々のものを使用可能である。また、有機溶媒は二種以上を混合して使用してもよい。有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、キシレンを挙げることができ、また、これらの混合物を用いてもよい。また、有機溶媒としては、水と完全に相溶する溶媒は使用できない。
【0034】
(塩酸)
本発明において使用する塩酸の濃度は、ロジウムの抽出率の観点から、下限が2.0mol/L以上が好ましく、3.0mol/L以上がより好ましく、4.0mol/L以上がさらに好ましく、5.0mol/L以上が特に好ましい。また、本発明の方法では、高濃度の塩酸中であっても、下記の複合体が有機溶媒(好ましくは塩素系有機溶媒)に溶解できるため、塩酸濃度の上限は特に限定されないが、実用上は、12.0mol/L以下が好ましく、10mol/L以下がより好ましく、9.0mol/L以下がさらに好ましく、8.0mol/L以下が特に好ましい。
また、高いロジウム選択性を発揮する観点からは、塩酸の濃度を2.5mol/L以上とすることが好ましい。また、本発明において、ロジウム回収剤は、濃度2.0mol/L未満の塩酸においては、ロジウムだけでなく他の貴金属元素をも回収してしまう。
【0035】
<混合工程>
混合工程においては、上記したロジウム回収剤、ロジウムを含む混合物、有機溶媒、および、塩酸を混合して、アミン化合物とロジウム塩化物との複合体を形成する。
混合は、振とう、または、攪拌により行うことができる。振とう条件や、攪拌条件については、特に限定されず、溶媒抽出においてこれまで採用されてきた条件を適宜採用可能である。振とう、攪拌時間としては、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。なお、上限は特に限定されないが、概ね60分以上となると、攪拌の効果が見られないことから、効率の点から、60分以下とすることが好ましい。
【0036】
(複合体)
本発明のロジウムの回収方法において形成される、アミン化合物とロジウム塩化物との複合体の構造は以下の通りである。
【0037】
【化6】
(式(1)中のZは、アミン化合物の残基を表す。)
【0038】
ロジウムは、塩酸中において、3価のロジウム塩化物アニオン([RhCl6]3-)を形成する。これまで、複合体の構造は不明であったが、当業者の常識としては、3価のロジウム塩化物アニオンに対して、3つのアンモニウムカチオンが結合したイオン対が形成されると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、上記式(1)の複合体が形成されていることを、後にしめす、種々の分析により見出した。
式(1)の複合体においては、3価のロジウム塩化物アニオンに対して、6つのアンモニウムカチオンと、3つの塩化物アニオンが複合体化している。
式(1)において、Zは、上記したアミン化合物の残基を表している。よって、アミン化合物が芳香族第一級アミン化合物の場合は、Zは、「X-Ph-」を表し、アミン化合物が脂肪族第一級アミン化合物の場合は、Zは「Y-」を表す。
【0039】
本発明においては、ロジウム回収剤が有機溶媒に溶解する必要が必ずしも無い点は、上記した通りであるが、式(1)の複合体は、有機溶媒に溶解する必要がある。その観点から、好適な有機溶媒が選択される。
【0040】
<ロジウム回収工程>
上記した混合工程において形成した有機溶媒に溶解した複合体を回収して、所定の精製操作ののち、ロジウムを回収することができる。精製操作は、特に限定されないが、例えば、塩基性水溶液でロジウムのみ抽出する方法や複合体を燃焼させる方法などが挙げられる。
【実施例】
【0041】
<参考例1>
ロジウムを100ppm含む6mol/L塩酸溶液に4-ヘキシルアニリンをロジウムとのモル比(NH
2/Rh)が30となるように添加し、3時間振とうさせた。生成した沈殿をろ過により回収し、2mol/L塩酸水で洗浄した。得られた沈殿を室温で減圧乾燥させた後、粉末X線回折測定(
図2)、XPS測定(
図3)および熱重量分析(
図4)を行った。また,この沈殿を1mol/L塩酸水に溶解させ,長期間放置することで単結晶を作製した。得られた単結晶について単結晶X線回折測定を行った(
図1)。
【0042】
単結晶X線回折測定の結果、複合体は
図1に示す構造を有すると予想される。
図2に、粉末X線回折パターンを示す。上段は、単結晶から予想される粉末X線回折パターンであり、下段は、ヘキシルアニリンによるロジウム回収後の沈殿の粉末X線回折パターンである。二つのデータがほぼ一致していることより、ロジウム回収時に生じる沈殿は単結晶と同じく、Rh:アミンが1:6の複合体となっていることが確認された。
【0043】
また、
図3に示したXPS測定結果より、XPSピークから算出した沈殿物の原子比は、N:Cl:Rh=6.1:8.8:1.0であるのに対して、
図1の構造から求められる原子比(理論値)は、N:Cl:Rh=6:9:1であった。
【0044】
また、
図4に熱重量分析(空気雰囲気下)を示したように、得られた沈殿物について、700℃での熱重量分析の結果、8.6%の残渣が得られた。また、RhCl
3は、900℃以下の酸化雰囲気での燃焼でRh
2O
3を生じることが報告されている(Thermochimica Acta,2005,435,151-161.)。そうすると、
図1で示した複合体を燃焼させた時のRh
2O
3の理論値は8.5%であるので、理論値と熱重量分析の結果とほぼ一致していた。
以上すべての解析結果より、沈殿物は、[RhCl
6]
3-と6つのアミンからなる複合体であることが明らかとなった。
【0045】
<参考例2>
アミン化合物として4-ヘキシルアニリンに替えて、アニリン、4-ブチルアニリン、4-ヘキシロキシアニリン、4-フェノキシアニリン、n-オクチルアミンを用いて実施例1と同様の操作で実験を行い、沈殿を得た。得られた沈殿について熱重量分析を行った。結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
表1に示した結果より、いずれにおいても、沈殿物の残渣は、理論値とほぼ一致していた。これより、4-ヘキシルアニリン以外のアミンについても、Rh:アミン=1:6の複合体を形成していることが分かった。
【0048】
<実施例1>
ロジウムを100ppm含む6mol/L塩酸溶液3mLに4-ブチルアニリンをロジウムとのモル比(NH
2/Rh)が、それぞれ3、6、9および30となるように添加し、さらにクロロホルム0.75mLを加えて30分間振とうさせた。水層を回収し,当該水溶液に含まれるロジウムの濃度をICPにて分析することで、有機層に移動したロジウムの割合(ロジウム抽出率)を算出した。結果を
図5に示す。また、モル比6の結果は表2にも示した。
モル比(NH
2/Rh)が6以上であれば、50%超の高い抽出率を示すことが分かった。
【0049】
<実施例2>
アミン化合物として4-ブチルアニリンに替えて、4-ヘキシルアニリン、4-デシルアニリン、4-ブトキシアニリン、4-オクチロキシアニリン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミンを用いて実施例1と同様の操作で実験を行い、ロジウム抽出率を算出した。結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
<実施例3>
アミン化合物として4-ブチルアニリンに替えて、4-ヘキシルアニリンを用い、有機溶媒としてクロロホルムに替えて、ジクロロメタン、トルエンを用いて実施例1と同様の操作で実験を行い、ロジウム抽出率を算出した。結果を表3に示した。
【0052】
【表3】
溶媒を替えた場合でも、高いRh抽出率を示した。
【0053】
<実施例4>
パラジウム,白金及びロジウムをそれぞれ100ppmずつ含む6mol/L塩酸3mLに4-ヘキシルアニリンをロジウムとのモル比(NH
2/Rh)が6となるように添加し、さらにクロロホルム0.75mLを加えて30分間振とうさせた。水層を回収し、当該水溶液に含まれるパラジウム、白金及びロジウムの濃度をICPにて分析することで、有機層に移動した金属の割合(金属抽出率)を算出した。結果を
図6に示した。
図6に示したように、Rhを選択的に抽出することができた。なお、それぞれの抽出率は、Pdが0%、Ptが1%、Rhが70%であった。
【0054】
<比較例1>
ロジウムを100ppm含む6mol/L塩酸溶液3mLに4-ブチルアニリンをロジウムとのモル比(NH
2/Rh)がそれぞれ、3、6、9、12、15、20、30となるように添加し、3時間振とう後、沈殿を遠心分離により分離させた。上澄み液を回収し,当該水溶液に含まれるロジウムの濃度をICPにて分析することで、沈殿に含まれるロジウムの割合(ロジウム沈殿率)を算出した。結果を
図7に示す。また、モル比6の結果を表4に示す。
モル比(NH
2/Rh)が9以下だと、Rh抽出率はほぼゼロであり、また、モル比を15としても抽出率が50%程度であった。
【0055】
<比較例2>
アミン化合物として4-ブチルアニリンに替えて、4-ブトキシアニリン、n-オクチルアミンを用い,比較例1と同様の操作で実験を行い,ロジウム沈殿率を算出した。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
アミンを変更した場合であっても、表4に示したモル比では、Rh抽出率はゼロであった。
【0057】
<実施例5>
ロジウムを100ppm含む1~8mol/L塩酸溶液3mLに4-ヘキシルアニリンをロジウムとのモル比(NH
2/Rh)が12となるように添加し、さらにクロロホルム0.75mLを加えて30分間振とうさせた。水層を回収し、当該水溶液に含まれるロジウムの濃度をICPにて分析することで、有機層に移動したロジウムの割合(ロジウム抽出率)を算出した。結果を
図8に示す。
【0058】
<実施例6>
ロジウムを100ppm含む6mol/L塩酸溶液3mLに4-ヘキシルアニリンをロジウムとのモル比(NH
2/Rh)が12となるように添加し、さらにクロロホルム0.75mLを加えて、それぞれ1分、5分、10分、20分、30分、60分間振とうさせた。水層を回収し,当該水溶液に含まれるロジウムの濃度をICPにて分析することで、有機層に移動したロジウムの割合(ロジウム抽出率)を算出した。結果を
図9に示す。