(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】薬剤コート層の形成方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20220202BHJP
【FI】
A61M25/10 502
(21)【出願番号】P 2017224335
(22)【出願日】2017-11-22
【審査請求日】2020-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】北川 悠乃
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 靖夫
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/151876(WO,A1)
【文献】特開2015-217260(JP,A)
【文献】特表2015-536709(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0059316(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体がバルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法であって、
水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液を前記バルーンの表面に供給し、前記溶媒を蒸発させて前記バルーンの表面に複数の前記長尺体を形成するステップと、
膨張、発泡または硬化可能な保護剤を、膨張、発泡または硬化する前の状態で前記バルーンの表面に供給するステップと、
前記保護剤を膨張、発泡または硬化させて複数の前記長尺体の間の隙間の少なくとも一部を満たして保護する保護層を形成するステップと、
前記バルーンを折り畳むステップと、を有
し、
前記バルーンを折り畳むステップの後、前記保護層を収縮、消泡または軟化させる薬剤コート層の形成方法。
【請求項2】
長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体がバルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法であって、
水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液を前記バルーンの表面に供給し、前記溶媒を蒸発させて前記バルーンの表面に複数の前記長尺体を形成するステップと、
膨張、発泡または硬化可能な保護剤を、膨張、発泡または硬化する前の状態で前記バルーンの表面に供給するステップと、
前記保護剤を膨張、発泡または硬化させて複数の前記長尺体の間の隙間の少なくとも一部を満たして保護する保護層を形成するステップと、
前記バルーンを折り畳むステップと、を有し、
前記保護剤は、加水、加熱または酸の供給により発泡する発泡剤を含み、
前記保護層を形成するステップにおいて、前記保護剤に加水、加熱または酸を供給して当該保護剤を発泡させる薬剤コート層の形成方法。
【請求項3】
長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体がバルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法であって、
水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液を前記バルーンの表面に供給し、前記溶媒を蒸発させて前記バルーンの表面に複数の前記長尺体を形成するステップと、
膨張、発泡または硬化可能な保護剤を、膨張、発泡または硬化する前の状態で前記バルーンの表面に供給するステップと、
前記保護剤を膨張、発泡または硬化させて複数の前記長尺体の間の隙間の少なくとも一部を満たして保護する保護層を形成するステップと、
前記バルーンを折り畳むステップと、を有し、
前記保護剤は、冷却により固化する液体を含み、
前記保護層を形成するステップにおいて、前記保護剤を冷却して固化させる薬剤コート層の形成方法。
【請求項4】
前記保護剤は、加水により膨潤可能な膨潤性材料を含み、
前記保護層を形成するステップにおいて、前記保護剤に加水して当該保護剤を膨潤させる請求項1~3のいずれか1項に記載の薬剤コート層の形成方法。
【請求項5】
前記バルーンを折り畳むステップの後に、前記保護層に含まれる液体を蒸発させるステップをさらに有する請求項1~
4のいずれか1項に記載の薬剤コート層の形成方法。
【請求項6】
前記保護剤は水溶性である請求項1~
5のいずれか1項に記載の薬剤コート層の形成方法。
【請求項7】
前記水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有する請求項1~
6のいずれか1項に記載の薬剤コート層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体管腔内に生じた病変部(狭窄部)の改善のために、バルーンカテーテルが用いられている。バルーンカテーテルは、通常、長尺なシャフト部と、シャフト部の遠位側に設けられて径方向に拡張可能なバルーンとを備えている。収縮されているバルーンを、細い生体管腔を経由して体内の目的場所まで到達させた後に拡張させることで、病変部を押し広げることができる。
【0003】
しかしながら、病変部を強制的に押し広げると、平滑筋細胞が過剰に増殖して病変部に新たな狭窄(再狭窄)が発症する場合がある。このため、最近では、バルーンの表面に狭窄を抑制するための薬剤をコーティングした薬剤溶出バルーン(Drug Eluting Balloon:DEB)が用いられている。薬剤溶出バルーンは、拡張することで表面にコーティングされている薬剤を病変部へ瞬時に放出し、これにより、再狭窄を抑制することができる。
【0004】
近年では、バルーンの表面にコーティングされる薬剤の形態型(morphological form)が、病変部におけるバルーン表面からの薬剤の放出性や組織移行性に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。例えば特許文献1には、バルーンの表面に、長軸を有する長尺な薬剤結晶を有するバルーンカテーテルが記載されている。
【0005】
特許文献2には、バルーンの基材の表面に、薬剤結晶と、薬剤結晶の間に配置される柔軟なハイドロゲルとが設けられた構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2014/0271775号明細書
【文献】欧州特許第2271379号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バルーンの表面に形成された長尺な薬剤結晶は、細長いために折れる可能性がある。特に、バルーンを折り畳む際には、バルーンの表面に力が作用するため、長尺な薬剤結晶が折れやすい。薬剤結晶が折れると、バルーンを血管内で搬送する際に、折れた薬剤結晶がバルーンから脱落し、生体へ望ましくない影響を与える可能性がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、バルーンの表面の長尺な薬剤結晶を、生体に作用させるために適切な形状に維持できる薬剤コート層の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る薬剤コート層の形成方法は、長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体がバルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法であって、水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液を前記バルーンの表面に供給し、前記溶媒を蒸発させて前記バルーンの表面に複数の前記長尺体を形成するステップと、膨張、発泡または硬化可能な保護剤を、膨張、発泡または硬化する前の状態で前記バルーンの表面に供給するステップと、前記保護剤を膨張、発泡または硬化させて複数の前記長尺体の間の隙間の少なくとも一部を満たす保護層を形成するステップと、前記バルーンを折り畳むステップと、を有し、前記バルーンを折り畳むステップの後、前記保護層を収縮、消泡または軟化させる。
上記目的を達成する本発明に係る薬剤コート層の形成方法の他の態様は、長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体がバルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法であって、水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液を前記バルーンの表面に供給し、前記溶媒を蒸発させて前記バルーンの表面に複数の前記長尺体を形成するステップと、膨張、発泡または硬化可能な保護剤を、膨張、発泡または硬化する前の状態で前記バルーンの表面に供給するステップと、前記保護剤を膨張、発泡または硬化させて複数の前記長尺体の間の隙間の少なくとも一部を満たして保護する保護層を形成するステップと、前記バルーンを折り畳むステップと、を有し、前記保護剤は、加水、加熱または酸の供給により発泡する発泡剤を含み、前記保護層を形成するステップにおいて、前記保護剤に加水、加熱または酸を供給して当該保護剤を発泡させる。
上記目的を達成する本発明に係る薬剤コート層の形成方法のさらに他の態様は、長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体がバルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法であって、水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液を前記バルーンの表面に供給し、前記溶媒を蒸発させて前記バルーンの表面に複数の前記長尺体を形成するステップと、膨張、発泡または硬化可能な保護剤を、膨張、発泡または硬化する前の状態で前記バルーンの表面に供給するステップと、前記保護剤を膨張、発泡または硬化させて複数の前記長尺体の間の隙間の少なくとも一部を満たして保護する保護層を形成するステップと、前記バルーンを折り畳むステップと、を有し、前記保護剤は、冷却により固化する液体を含み、前記保護層を形成するステップにおいて、前記保護剤を冷却して固化させる。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した薬剤コート層の形成方法は、保護層により長尺体を保護できるため、バルーンを折り畳む際に、バルーンの表面の長尺体の破損や変形を抑制できる。このため、バルーンの表面の長尺体を、生体に作用させるために適切な形状で維持できる。
【0011】
前記バルーンを折り畳むステップの後、前記保護層を収縮、消泡または軟化させてもよい。これにより、長尺体が、保護層に阻害されることなく、効果的に生体に作用できる。
【0012】
前記保護剤は、加水、加熱または酸の供給により発泡する発泡剤であり、前記保護層を形成するステップにおいて、前記保護剤に加水、加熱または酸を供給して当該保護剤を発泡させてもよい。これにより、気泡によって膨張した保護層を形成し、長尺体を良好に保護できる。
【0013】
前記保護剤は、加水により膨潤可能な膨潤性材料であり、前記保護層を形成するステップにおいて、前記保護剤に加水して膨潤させてもよい。これにより、膨張した保護層により、長尺体を良好に保護できる。膨潤した膨潤性材料は、ある程度の強度を有するため、長尺体を良好に保護できる。
【0014】
前記保護剤は、冷却により固化する液体であり、前記保護層を形成するステップにおいて、前記保護剤を冷却して固化させてもよい。これにより、固化した保護層により、長尺体を良好に保護できる。
【0015】
前記バルーンを折り畳むステップの後に、前記保護層に含まれる液体を蒸発させるステップをさらに有してもよい。これにより、バルーンの表面の長尺体が、保護層から露出し、生体に作用させるために適切な形態となる。
【0016】
前記保護剤は、水溶性であってもよい。これにより、保護剤に加水する際に、水不溶性の長尺体が溶けることを抑制できる。また、保護剤が血管内で速やかに溶解し、薬剤である長尺体の血管移行性を妨げない。また、バルーンを折り畳んだ後、水不溶性の長尺体を残して保護層を水で洗い流すこともできる。
【0017】
前記水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、薬剤の結晶である長尺体により、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】薬剤コート層を有するバルーンカテーテルを示す正面図である。
【
図2】バルーンカテーテルの遠位部の断面図である。
【
図3】バルーンの表面の薬剤コート層を示す断面図である。
【
図4】バルーンコーティング装置を示す正面図である。
【
図5】バルーンに接触したディスペンシングチューブを示す断面図である。
【
図6】バルーンの表面に形成された長尺体および添加剤を示す断面図である。
【
図7】バルーンの表面に保護層を形成している状態を示す正面図である。
【
図8】バルーンの表面に保護剤を供給した状態を示す断面図である。
【
図9】バルーンの表面に保護層が形成された状態を示す断面図である。
【
図10】バルーンの表面に気泡を有する保護層が形成された状態を示す断面図である。
【
図11】プリーティング部のブレードを示す正面図である。
【
図12】プリーティング部のブレードを回動させてバルーンに羽根部を形成した状態を示す正面図である。
【
図13】フォールディング部のブレードを示す正面図である。
【
図14】フォールディング部のブレードを回動させてバルーンの羽根部を畳んだ状態を示す正面図である。
【
図15】バルーンを示す断面図であり、(A)はバルーンの折り畳み前の状態、(B)はプリーティング部により羽根部が形成された状態、(C)はフォールディング部により羽根部が折り畳まれた状態を示す。
【
図16】添加剤を有さない薬剤コート層を形成する際を示す断面図であり、(A)はバルーンの表面に保護剤を供給した状態、(B)は保護層を形成した状態、(C)は薬剤コート層が形成された状態を示す。
【
図17】薬剤コート層の形成方法の変形例を説明するための正面図である。
【
図18】氷からなる保護層が形成されたバルーンの表面を示す断面図である。
【
図19】薬剤コート層が形成されたバルーンの表面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
本発明の実施形態に係る薬剤コート層の形成方法は、
図1~3に示すように、薬剤溶出型のバルーンカテーテル10のバルーン30の表面に、薬剤コート層40を形成する。なお、本明細書では、バルーンカテーテル10の生体管腔に挿入する側を「遠位側」、操作する手元側を「近位側」と称することとする。
【0021】
まず、バルーンカテーテル10の構造を説明する。バルーンカテーテル10は、長尺なカテーテル本体20と、カテーテル本体20の遠位部に設けられるバルーン30と、バルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40と、カテーテル本体20の近位端に固着されたハブ26とを有している。
【0022】
カテーテル本体20は、遠位端および近位端が開口した管体である外管21と、外管21の内部に配置される管体である内管22とを備えている。内管22は、外管21の中空内部に納められており、カテーテル本体20は、遠位部において二重管構造となっている。内管22の中空内部は、ガイドワイヤを挿通させるガイドワイヤルーメン24である。また、外管21の中空内部であって、内管22の外側には、バルーン30の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン23が形成される。内管22は、バルーン30の近位側で外管21の側方へ開口する開口部25を有している。内管22は、外管21の遠位端よりもさらに遠位側まで突出している。内管22の遠位部に、別部材である先端チップが設けられてもよい。
【0023】
バルーン30は、近位側端部のバルーン融着部34が外管21の遠位部に融着され、遠位側端部のバルーン融着部35が内管22の遠位部に融着されている。なお、バルーン30を、外管21および内管22に固定する方法は、融着に限定されず、例えば接着されてもよい。これにより、バルーン30の内部が拡張ルーメン23と連通している。拡張ルーメン23を介してバルーン30に拡張用流体を注入することで、バルーン30を拡張させることができる。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、CO2ガス、O2ガス、N2ガス、Arガス、空気、混合ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤等の液体を用いることができる。
【0024】
バルーン30の軸心方向における中央部には、拡張させた際に外径が等しい円筒状のストレート部31が形成され、ストレート部31の軸心方向の両側に、外径が徐々に変化するテーパ部33が形成される。そして、ストレート部31の表面の全体に、薬剤を含む薬剤コート層40が形成される。なお、バルーン30において薬剤コート層40を形成する範囲は、ストレート部31のみに限定されず、ストレート部31に加えてテーパ部33の少なくとも一部が含まれてもよく、または、ストレート部31の一部のみであってもよい。
【0025】
ハブ26は、外管21の拡張ルーメン23と連通して拡張用流体を流入出させるポートとして機能する近位開口部27が形成されている。
【0026】
バルーン30の軸心方向の長さは特に限定されないが、好ましくは5~500mm、より好ましくは10~300mm、さらに好ましくは20~200mmである。バルーン30の拡張時の外径は、特に限定されないが、好ましくは1~10mm、より好ましくは2~8mmである。
【0027】
バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、平滑であり、非多孔質である。バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、膜を貫通しない微小な孔があってもよい。または、バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、平滑であって非多孔質である範囲と、膜を貫通しない微小な孔がある範囲の両方を備えてもよい。微小な孔の大きさは、例えば、直径が0.1~5μm、深さが0.1~10μmであり、1つの結晶に対して、1つまたは複数の孔を有してもよい。また、微小な孔の大きさは、例えば、直径が5~500μm、深さが0.1~50μmであり、1つの孔に対して、1つまたは複数の結晶を有してもよい。
【0028】
バルーン30は、ある程度の柔軟性を有するとともに、血管や組織等に到達した際に拡張されて、その表面に有する薬剤コート層40から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、金属や、樹脂で構成されるが、薬剤コート層40が設けられるバルーン30の少なくとも表面は、樹脂で構成されていることが好ましい。バルーン30の少なくとも表面の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ナイロンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。そのなかでも、好適にはポリアミド類が挙げられる。すなわち、薬剤をコートするバルーン30の表面の少なくとも一部がポリアミド類である。ポリアミド類としては、アミド結合を有する重合体であれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p-フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミドなどが挙げられる。さらに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、または脂肪族ポリエステルなどをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーも、バルーン30の材料として用いられる。上記ポリアミド類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、バルーン30はポリアミドの滑らかな表面を有することが好ましい。
【0029】
バルーン30は、その表面上に、後述する方法によって、直接またはプライマー層等の前処理層を介して薬剤コート層40が形成される。薬剤コート層40は、
図3に示すように、バルーン30の表面に層状に配置される水溶性低分子化合物を含む添加剤層41(賦形剤層)と、独立した長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体42と、膨張または発泡した後に収縮または消泡した保護剤43とを有している。長尺体42の基端45は、バルーン30の表面と直接接触する。なお、基端45がバルーン30の表面と接触しない長尺体42が存在してもよい。長尺体42の先端46は、添加剤層41から突出している。なお、添加剤層41は、設けられなくてもよい。
【0030】
複数の長尺体42は、バルーン30の表面に規則的に配置されてもよい。または、複数の長尺体42は、バルーン30の表面に不規則に配置されてもよい。
【0031】
長尺体42の長軸の、バルーン30の表面に対する傾斜角度は、特に限定されないが、45度~135度であり、好ましくは60度~120度であり、より好ましくは75度~105度であり、さらに好ましくは略90度である。
【0032】
薬剤コート層40に含まれる薬剤量は、特に限定されないが、0.1μg/mm2~10μg/mm2、好ましくは0.5μg/mm2~5μg/mm2の密度で、より好ましくは0.5μg/mm2~3.5μg/mm2、さらに好ましくは1.0μg/mm2~3μg/mm2の密度で含まれる。薬剤コート層40の結晶の量は、特に限定されないが、好ましくは5~500、000[crystal/(10μm2)](10μm2当たりの結晶の数)、より好ましくは50~50、000[crystal/(10μm2)]、さらに好ましくは500~5、000[crystal/(10μm2)]である。
【0033】
各々独立した長軸を有する複数の長尺体42は、これらが組み合された状態で存在していてもよい。隣接する複数の長尺体42同士が異なる角度を形成した状態で接触して存在してもよい。複数の長尺体42はバルーン表面上で空間(結晶を含まない空間)をおいて位置していてもよい。バルーン30の表面に、組み合された状態の複数の長尺体42と、互いに離れて独立した複数の長尺体42の両方が存在してもよい。複数の長尺体42は、異なる長軸方向を有して円周状にブラシ状として配置されてもよい。各々の長尺体42は独立して存在しており、ある長さを有し、その長さ部分の一端(基端45)が、添加剤層41またはバルーン30に固定されている。長尺体42は隣接する長尺体42と複合的な構造を形成せず、連結していない。長尺体42の長軸は、ほぼ直線状である。
【0034】
長尺体42は、互いに接触せずに独立して立っていることが好ましい。長尺体42の基端45は、バルーン30上で他の基端45と接触していてもよい。または、長尺体42の基端45は、バルーン30上で他の基端45と接触せずに独立していてもよい。
【0035】
長尺体42は、中空である場合と、中実である場合がある。バルーン30の表面に、中空の長尺体42と、中実の長尺体42の両方が存在してもよい。長尺体42は、中空である場合、少なくともその先端付近が中空である。長尺体42の長軸に直角な(垂直な)面における長尺体42の断面は中空を有する。当該中空を有する長尺体42は長軸に直角な(垂直な)面における長尺体42の断面が多角形である。当該多角形は、例えば3角形、4角形、5角形、6角形などである。したがって、長尺体42は先端46(または先端面47)と基端45(または基端面)とを有し、先端46(または先端面47)と基端45(または基端面)との間の側面が複数のほぼ平面で構成された長尺多面体として形成される。また、長尺体42は、針状であってもよい。この結晶形態型(中空長尺体結晶形態型)は基端45が接する表面において、ある平面の全体または少なくとも一部を構成する。
【0036】
長軸を有する長尺体42の長軸方向の長さは5μm~20μmが好ましく、9μm~11μmがより好ましく、10μm前後であることがさらに好ましい。長軸を有する長尺体42の径は、0.01μm~5μmであるのが好ましく、0.05μm~4μmであるのがより好ましく、0.1μm~3μmであるのがさらに好ましい。
【0037】
上述した長軸を有する長尺体42は、バルーン30の表面の薬剤結晶全体に対して50体積%以上、より好ましくは70体積%以上である。
【0038】
添加剤層41は、林立する複数の長尺体42の間の空間に分配されて存在する。添加剤層41は、長尺体42がある領域に存在し、長尺体42がない領域にはなくてもよい。添加剤層41を構成する添加剤は、マトリックスを形成しない。添加剤層41を構成する添加剤は、マトリックスを形成してもよい。マトリックスとは、比較的高分子の物質(ポリマーなど)が連続して構成された層であり、網目状の三次元構造を形成し、その中に微細な空間が存在する。したがって、結晶を構成する水不溶性薬剤はマトリックス物質中に付着していない。結晶を構成する水不溶性薬剤は、マトリックス物質中に埋め込まれてもいない。
【0039】
添加剤層41は、バルーン30の表面で水溶液の状態でコートされた後、乾燥して層として形成される。添加剤層41はアモルファス(非結晶質)である。添加剤層41は、結晶粒子であってもよい。または、添加剤層41は、水不溶性薬剤を含まない独立した層として形成されてもよい。添加剤層41の厚みは、特に限定されないが、例えば0.5~20μmである。長尺体42の、添加剤層41の表面から外側へ突出している部分の長さは、特に限定されないが、例えば0.1~19.9μmである。
【0040】
保護剤43は、薬剤コート層40を形成する過程で設けられる保護層50(
図9、10を参照)が、収縮または消泡して最終的に残る材料である。保護剤43は、例えば、膨潤して膨張する膨潤性材料、または発泡する発泡剤を含んでいる。
【0041】
膨潤性材料は、例えば、加水により膨潤して水膨潤性ゲルとなる高吸収性高分子である。高吸収性高分子は、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム系、ポリアスパラギン酸系、(デンプン-アクリル)グラフト共重合体、(アクリル酸-ビニルアルコール)共重合体、イソブチン-無水マレイン酸)共重合体、ケン化物、ポリプロピレン等である。
【0042】
発泡剤は、分解によりガスを生じる物質、またはそれ自体ガスとなる物質を含んでいる。発泡剤は、例えば、加水により発泡する炭酸水素ナトリウム、ポリウレタン(グリコール-ジイソシアネート)等、加熱により発泡するペンタン、ネオペンタン、二塩化メチレン等、酸を供給することにより発泡するADCA(アゾジカルボンアミド)、DPT(ジニトロソペンタメチレンテトラミン)、OBSH(オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等である。なお、発泡剤の種類は、これらに限定されない。
【0043】
長軸を有する長尺体42を含む薬剤コート層40は、体内に送達する際に、毒性が低く、狭窄抑制効果が高い。長尺体42が中空の結晶構造である場合、薬剤が組織に移行した時に結晶の一つの単位が小さくなるために組織への浸透性が良く、かつ、良好な溶解性を有するため、有効に作用して狭窄を抑制できる。また、薬剤が大きな塊として組織に残留することが少ないために毒性が低くなると考えられる。
【0044】
また、薬剤コート層40は、複数の、長軸を有するほぼ均一な長尺体42を有し、かつ基端45が接する表面にほぼ均一に並び立っている形態型である。したがって、組織に移行する結晶の大きさ(長軸方向の長さ)が約10μmと小さい。そのために病変患部に均一に作用し、組織浸透性が高まる。さらに、移行する結晶の寸法が小さいために、過剰量の薬剤が、過剰時間、患部に留まることがなくなる。このため、毒性を発現することなく、高い狭窄抑制効果を示すことが可能であると考えられる。
【0045】
バルーン30の表面にコーティングされる薬剤は、非結晶質(アモルファス)型を含んでもよい。結晶や非結晶質は、薬剤コート層40において規則性を有するように配置されてもよい。または、結晶や非結晶質は、不規則に配置されてもよい。
【0046】
次に、上述したバルーン30上の薬剤コート層40を形成するためのバルーンコーティングシステムを説明する。本システムは、バルーン30に薬剤をコーティングするためのバルーンコーティング装置60(
図4を参照)と、バルーン30に保護層50を形成する装置100(
図7を参照)と、薬剤コート層40が形成されたバルーン30を折り畳むためのバルーン折り畳み装置(
図11、13を参照)とを備えている。
【0047】
まず、バルーンコーティング装置60について説明する。バルーンコーティング装置60は、
図4、5に示すように、バルーンカテーテル10を回転させる回転機構部61と、バルーンカテーテル10を支持する支持台70とを有する。バルーンコーティング装置60は、さらに、バルーン30の表面にコーティング溶液を塗布するディスペンシングチューブ94が設けられる塗布機構部90と、ディスペンシングチューブ94をバルーン30に対して移動させるための移動機構部80と、バルーンコーティング装置60を制御する制御部99とを有する。
【0048】
回転機構部61は、バルーンカテーテル10のハブ26を保持し、内蔵されるモータ等の駆動源によってバルーンカテーテル10を、バルーン30の軸心を中心に回転させる。バルーンカテーテル10は、ガイドワイヤルーメン24内に芯材62が挿通されて保持されるとともに、芯材62によってコーティング溶液のガイドワイヤルーメン24内への流入が防止されている。また、バルーンカテーテル10は、拡張ルーメン23への流体の流通を操作するために、ハブ26の近位開口部27に、流路の開閉を操作可能な三方活栓が接続される。
【0049】
支持台70は、カテーテル本体20を内部に収容して回転可能に支持する管状の近位側支持部71と、芯材62を回転可能に支持する遠位側支持部72とを備えている。なお、遠位側支持部72は、可能であれば、芯材62ではなしにカテーテル本体20の遠位部を回転可能に支持してもよい。
【0050】
移動機構部80は、バルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動可能な移動台81と、ディスペンシングチューブ94が固定されるチューブ固定部83とを備えている。移動台81は、内蔵されるモータ等の駆動源によって、直線的に移動可能である。チューブ固定部83は、ディスペンシングチューブ94の上端を移動台81に対して固定している。したがって、移動台81が移動することで、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動する。また、移動台81は、塗布機構部90が載置されており、塗布機構部90を軸心に沿う両方向へ直線的に移動させる。
【0051】
塗布機構部90は、バルーン30の表面にコーティング溶液を塗布する部位である。塗布機構部90は、コーティング溶液を収容する容器92と、任意の送液量でコーティング溶液を送液する送液ポンプ93と、コーティング溶液をバルーン30に塗布するディスペンシングチューブ94とを備えている。
【0052】
送液ポンプ93は、例えばシリンジポンプであり、制御部99によって制御されて、容器92から吸引チューブ91を介してコーティング溶液を吸引し、供給チューブ96を介してディスペンシングチューブ94へコーティング溶液を任意の送液量で供給することができる。送液ポンプ93は、移動台81に設置され、移動台81の移動により直線的に移動可能である。なお、送液ポンプ93は、コーティング溶液を送液可能であればシリンジポンプに限定されず、例えばチューブポンプであってもよい。
【0053】
ディスペンシングチューブ94は、供給チューブ96と連通しており、送液ポンプ93から供給チューブ96を介して供給されるコーティング溶液を、バルーン30の表面へ吐出する部材である。ディスペンシングチューブ94は、可撓性を備えた円管状の部材である。ディスペンシングチューブ94は、チューブ固定部83に上端が固定されており、チューブ固定部83から鉛直方向下方へ延在し、下端である吐出端97に開口部95が形成されている。ディスペンシングチューブ94は、移動台81を移動させることで、移動台81に設置される送液ポンプ93とともに、バルーンカテーテル10の軸心方向に沿う両方向へ直線的に移動可能である。ディスペンシングチューブ94はバルーン30に押し付けられて撓んだ状態で、コーティング溶液をバルーン30の表面に供給可能である。
【0054】
なお、ディスペンシングチューブ94は、コーティング溶液を供給可能であれば、円管状でなくてもよい。また、ディスペンシングチューブ94は、開口部95からコーティング溶液を吐出可能であれば、鉛直方向に延在していなくてもよい。
【0055】
ディスペンシングチューブ94は、バルーン30への接触負担を低減し、かつバルーン30の回転に伴う接触位置の変化を撓みにより吸収できるように、柔軟な材料であることが好ましい。ディスペンシングチューブ94の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素系樹脂等を適用できるが、可撓性を有して変形可能であれば、特に限定されない。
【0056】
ディスペンシングチューブ94の外径は、特に限定されないが、例えば0.1mm~5.0mmである。ディスペンシングチューブ94の内径は、特に限定されないが、例えば0.05mm~3.0mmである。ディスペンシングチューブ94の長さは、特に限定されないが、バルーン直径の5倍以内の長さであることがよく、例えば1.0mm~50mmである。
【0057】
制御部99は、例えばコンピュータにより構成され、回転機構部61、移動機構部80および塗布機構部90を統括的に制御する。したがって、制御部99は、バルーン30の回転速度、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する軸心方向への移動速度、ディスペンシングチューブ94からの薬剤吐出速度等を、統括的に制御できる。
【0058】
ディスペンシングチューブ94によりバルーン30に供給されるコーティング溶液は、薬剤コート層40の構成材料を含む溶液または懸濁液であり、水不溶性薬剤、添加剤(賦形剤)、有機溶媒および水を含んでいる。コーティング溶液がバルーン30の表面に供給された後、有機溶媒および水が揮発することで、バルーン30の表面に、独立した長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体42を有する薬剤コート層40が形成される。
【0059】
コーティング溶液の粘度は、0.5~1500cP、好ましくは1.0~500cP、より好ましくは1.5~100cPである。
【0060】
水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5~8で5mg/mL未満である。その溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
【0061】
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
【0062】
水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
【0063】
添加剤は、バルーン30上で添加剤層41を構成する。添加剤は、水溶性の低分子化合物を含む。水溶性の低分子化合物の分子量は、50~2000であり、好ましくは50~1000であり、より好ましくは50~500であり、さらに好ましくは50~200である。水溶性の低分子化合物は、水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは10~5000質量部、より好ましくは50~3000質量部、さらに好ましくは100~1000質量部である。水溶性の低分子化合物の構成材料は、セリンエチルエステル、グルコースなどの糖類、ソルビトールなどの糖アルコール、クエン酸エステル、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、水溶性ポリマー、造影剤、アミノ酸エステル、短鎖モノカルボン酸のグリセロールエステル、医薬として許容される塩および界面活性剤等、あるいはこれら二種以上の混合物等が使用できる。水溶性の低分子化合物は、親水基と疎水基を有し、水に溶解することを特徴とする。水溶性の低分子化合物は、非膨潤性または難膨潤性であることが好ましい。水溶性の低分子化合物を含む添加剤は、バルーン30の表面上で水不溶性薬剤を均一に分散させる効果を有する。添加剤層41となる添加剤は、ハイドロゲルでないことが好ましい。添加剤層41は低分子化合物を含有することで、水溶液に接すると膨潤することなく速やかに溶解する。さらに、血管内でのバルーン30の拡張時に添加剤層41が溶解しやすくなることで、バルーン30の表面上の水不溶性薬剤の結晶粒子を放出しやすくなり、血管への薬剤の結晶粒子の付着量を増加させる効果を有する。添加剤層41がウルトラビスト(Ultravist)(登録商標)のような造影剤からなるマトリクスである場合、結晶粒子がマトリクスに埋め込まれ、バルーン30上からマトリクスの外側に向かって結晶が生成しない。これに対し、本実施形態の長尺体42は、バルーン30の表面から添加剤層41の表面へ向かって延在する。
【0064】
有機溶媒は、特に限定されず、テトラヒドロフラン、アセトン、グリセリン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテートである。中でも、テトラヒドロフラン、エタノール、アセトンのうち、これらのいくつかの混合溶媒が好ましい。
【0065】
有機溶媒と水の混合例として、例えば、テトラヒドロフランと水、テトラヒドロフランとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンと水、アセトンとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンとエタノールと水が挙げられる。
【0066】
次に、上述したバルーンコーティング装置60を用いてバルーン30の表面に水不溶性薬剤の結晶を形成する方法を説明する。
【0067】
初めに、バルーンカテーテル10の近位開口部27に接続した三方活栓を介して拡張用の流体をバルーン30内に供給する。次に、バルーン30を拡張させた状態で三方活栓を操作して拡張ルーメン23を密封し、バルーン30を拡張させた状態を維持する。バルーン30は、血管内での使用時の圧力(例えば8気圧)よりも低い圧力(例えば4気圧)で拡張される。なお、バルーン30を拡張させずに、バルーン30の表面に薬剤の結晶を形成することもでき、その場合には、拡張用の流体をバルーン30内に供給する必要はない。
【0068】
次に、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の表面と接触しない状態で、バルーンカテーテル10を支持台70に回転可能に設置し、ハブ26を回転機構部61に連結する。
【0069】
次に、移動台81の位置を調節して、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して位置決めする。このとき、バルーン30において薬剤コート層40を形成する最も遠位側の位置に、ディスペンシングチューブ94を位置決めする。一例として、ディスペンシングチューブ94の延在方向(吐出方向)は、バルーン30の回転方向と逆方向である。したがって、バルーン30は、ディスペンシングチューブ94を接触させた位置において、ディスペンシングチューブ94からのコーティング溶液の吐出方向と逆方向だけに回転させることができる。これにより、コーティング溶液に物理的な刺激を与え、薬剤結晶の結晶核の形成を促すことができる。そして、ディスペンシングチューブ94の開口部95へ向かう延在方向(吐出方向)が、バルーン30の回転方向と逆方向であることで、バルーン30の表面に形成される水不溶性薬剤の結晶は、独立した長軸を有する複数の長尺体42を含む形態型(morphological form)を含んで形成されやすい。なお、ディスペンシングチューブ94の延在方向は、バルーン30の回転方向と逆方向でなくてもよく、したがって同方向とすることができ、またはバルーン30の表面と垂直とすることもできる。
【0070】
次に、送液ポンプ93により送液量を調節しつつコーティング溶液をディスペンシングチューブ94へ供給し、回転機構部61によりバルーンカテーテル10を回転させる。さらに、移動台81を移動させて、ディスペンシングチューブ94をバルーン30の軸心方向に沿って徐々に近位方向へ移動させる。ディスペンシングチューブ94の開口部95から吐出されるコーティング溶液は、ディスペンシングチューブ94がバルーン30に対して相対的に移動することで、バルーン30の外周面に螺旋を描きつつ塗布される。
【0071】
ディスペンシングチューブ94の移動速度は、特に限定されないが、例えば0.01~2mm/sec、好ましくは0.03~1.5mm/sec、より好ましくは0.05~1.0mm/secである。コーティング溶液のディスペンシングチューブ94からの吐出速度は、特に限定されないが、例えば0.01~1.5μL/sec、好ましくは0.01~1.0μL/sec、より好ましくは0.03~0.8μL/secである。バルーン30の回転速度は、特に限定されないが、例えば10~300rpm、好ましくは30~250rpm、より好ましくは50~200rpmである。コーティング溶液を塗布する際のバルーン30の直径は、特に限定されないが、例えば1~10mm、好ましくは2~7mmである。
【0072】
この後、バルーン30の表面に塗布されたコーティング溶液に含まれる有機溶媒が水よりも先に揮発する。したがって、バルーン30の表面に、水不溶性薬剤、水溶性低分子化合物および水が残された状態で、有機溶媒が揮発する。このように、水が残された状態で有機溶媒が揮発すると、水不溶性の薬剤が、水を含む水溶性低分子化合物の内部で析出し、結晶核から結晶が徐々に成長して、
図6に示すように、バルーン30の表面に、結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体42を含む形態型の薬剤結晶が形成される。有機溶媒が揮発して薬剤結晶が複数の長尺体42として析出した後、水が有機溶媒よりもゆっくり蒸発し、水溶性低分子化合物を含む添加剤層41が形成される。水が蒸発する時間は、薬剤の種類、水溶性低分子化合物の種類、有機溶媒の種類、材料の比率、コーティング溶液の塗布量等に応じて適宜設定されるが、例えば、1~600秒程度である。
【0073】
そして、バルーン30を回転させつつディスペンシングチューブ94を徐々にバルーン30の軸心方向へ移動させることで、バルーン30の表面に、軸心方向へ向かって長尺体42および添加剤層41を徐々に形成する。バルーン30のコーティングする範囲の全体に、長尺体42および添加剤層41が形成された後、回転機構部61、移動機構部80および塗布機構部90を停止させる。
【0074】
次に、バルーン30に保護層50を形成する装置100について説明する。装置100は、
図7に示すように、保護剤供給部101と、加水部102と、加熱部103とを有する。保護剤供給部101は、粉末状の保護剤43を収容し、バルーン30の表面に供給する。加水部102は、バルーン30の表面に水を供給する。加水部102は、例えば、ピペットやシリンジ等である。加熱部103は、例えば電流が流れることにより発熱する。
【0075】
次に、上述した装置100を用いて、長尺体42および添加剤層41が設けられたバルーン30(
図6を参照)の表面に保護層50を形成する方法を説明する。
【0076】
まず、
図7、8に示すように、バルーン30の表面に、保護剤供給部101から、粉末状の保護剤43を供給する。保護剤43は、バルーン30の表面の長尺体42の隙間に入り込み、保持される。保護剤43の粉末の大きさは、例えば、0.01~15μm、好ましくは0.05~10μm、より好ましくは0.1~5μmである。
【0077】
保護剤43が膨潤性材料である場合、バルーン30の表面に保護剤43を供給した後、
図7に示すように、加水部102から水を供給する。これにより、
図9に示すように、保護剤43が給水して膨潤し、体積が増加してゲル状の保護層50を形成する。保護層50は、体積が増加することで、複数の長尺体42の隙間の少なくとも一部を満たす。さらに、保護層50は、長尺体42の少なくとも一部、好ましくは全体を覆う。保護層50は、膨潤性ゲルであるため、ある程度の強度を備え、長尺体42を良好に保護できる。なお、長尺体42は、水不溶性であるため、加水しても溶けることはない。
【0078】
保護剤43が水または酸により発泡する発泡剤である場合、バルーン30の表面に保護剤43を供給した後、加水部102から水、または酸性の水溶液を供給する。これにより、
図10に示すように、保護剤43が発泡して気泡51を形成し、体積が増加して保護層50を形成する。保護層50は、体積が増加することで、複数の長尺体42の隙間の少なくとも一部を満たす。さらに、保護層50は、長尺体42の少なくとも一部、好ましくは全体を覆う。このため、保護層50は、長尺体42を良好に保護できる。保護剤43は、膨潤性材料および発泡剤の両方を含んでもよい。この場合、保護層50は、気泡51を有するゲル状の層となり、ある程度の強度を備え、長尺体42を良好に保護できる。
【0079】
保護剤43が加熱により発泡する発泡剤である場合、
図7に示すように、加水部102から水を供給する。この後、加熱部103により、保護剤43を含んだ溶液を加熱する。これにより、
図10に示すように、保護剤43が発泡して気泡51を形成し、体積が増加して保護層50を形成する。保護層50は、体積が増加することで、複数の長尺体42の隙間の少なくとも一部を満たす。さらに、保護層50は、長尺体42の少なくとも一部、好ましくは全体を覆う。このため、保護層50は、長尺体42を良好に保護できる。保護剤43は、膨潤性材料および発泡剤の両方を含んでもよい。この場合、保護層50は、気泡51を有するゲル状の層となり、ある程度の強度を備え、長尺体42を良好に保護できる。
【0080】
保護層50は、長尺体42の全体を覆うことが好ましいが、これに限定されない。保護層50の厚さは、例えば0.1~50μm、好ましくは0.5~25μm、より好ましくは1.0~20μmである。
【0081】
バルーン30の表面に水溶性の添加剤43が設けられる場合、保護剤43に水を供給することで、添加剤43の少なくとも一部が溶けることがあり得る。
【0082】
なお、保護剤43は、粉末状ではなく、例えば水等の溶媒を含む溶液であってもよい。保護剤43が溶液である場合、保護剤供給部101は、ピペットやシリンジ等である。
【0083】
バルーン30の表面への保護剤43の供給および保護層50の形成は、バルーンカテーテル10がバルーンコーティング装置60に設置された状態で行われてもよいが、バルーンコーティング装置60から取り外して行われてもよい。
【0084】
次に、バルーン折り畳み装置について説明する。バルーン折り畳み装置は、バルーン30を内管22に対し巻き付けるように折り畳むことのできる装置である。
【0085】
バルーン折り畳み装置は、
図11に示すプリーティング部120と、
図13に示すフォールディング部130とを備えている。プリーティング部120は、
図12に示すように、バルーン30に径方向に突出する羽根部32を形成できる。フォールディング部130は、
図14に示すように、バルーン30に形成された羽根部32を周方向に寝かせて畳むことができる。バルーン30に形成される羽根部32は、バルーン30の略軸心方向に延びる折り目によって形成され、バルーン30の軸心に対して垂直な断面で見たとき、折り目がバルーン30の長軸から周方向に突出するように形成される。羽根部32の長軸方向の長さは、バルーン30の長さを超えない。羽根部32がカテーテル本体20から周方向に突出する方向の長さは、約1~8mmである。羽根部32の数は特に限定されず、例えば2~7枚であるが、本実施形態では3枚である。
【0086】
まず、プリーティング部120について説明する。プリーティング部120は、
図11、12に示すように、内部に3つのブレード122を有している。各ブレード122は、挿入されるバルーンカテーテル10の軸心方向に沿う各位置における断面形状が、同形状で形成される板状の部材である。ブレード122は、バルーン30が挿通される中心位置を基準として、それぞれが120度の角度をなすように配置されている。すなわち、各ブレード122は、周方向において等角度毎に配置されている。ブレード122は、外周端部付近に回動中心部122aを有し、この回動中心部122aを中心として回動することができる。また、ブレード122は、回動中心部122aより内周側に、軸心方向に延びる移動ピン122dを有している。移動ピン122dは、回動中心部122aを中心として移動可能である。移動ピン122dが移動すると、各々のブレード122が回動中心部122aを中心として回動する。3つのブレード122が回動することにより、ブレード122に囲まれた中心部の空間領域を狭めることができる。なお、ブレード122の数は、2つ以上であれば、特に限定されない。
【0087】
ブレード122は、回動中心部122aと反対側の内周端部に、略弧状の第1形状形成部122bと第2形状形成部122cとを有している。第1形状形成部122bは、ブレード122が回動するのに伴い、プリーティング部120内に挿通されるバルーン30の表面に当接して、バルーン30に径方向に突出する羽根部32を形成することができる。第2形状形成部122cは、ブレード122が回動するのに伴い、バルーン30に形成される羽根部分に当接し、羽根部32を所定方向に湾曲させることができる。また、プリーティング部120は、ブレード122を加熱するためのヒーター(図示しない)を有している。
【0088】
ブレード122には、一方向側へ流れるように供給される樹脂製の第1フィルム123および第2フィルム124が供給される。第1フィルム123は、上部に配置されているブレード122の表面に係っている。第2フィルム124は、下部に配置されている2つのブレード122に係っている。これらにより、バルーン30が挿通されるプリーティング部120の中心位置は、第1フィルム123と第2フィルム124に囲まれた状態となっている。
【0089】
第1フィルム123と第2フィルム124は、バルーン30がプリーティング部120に挿入され、ブレード122が回動してバルーン30に羽根部32を形成する際に、バルーン30がブレード122の表面に直接接触しないように保護する。バルーン30の羽根部32を形成した後、第1フィルム123と第2フィルム124は所定長さ移動する。すなわち、第1フィルム123および第2フィルム124のバルーン30に一度接触した部分は、再度バルーン30に接触せず、バルーン30が挿入される度に新しい部分がプリーティング部120の中心位置に供給される。
【0090】
次に、フォールディング部130について説明する。フォールディング部130は、
図13、14に示すように、内部に10個のブレード132を有している。各ブレード132は、挿入されるバルーンカテーテル10の軸心方向に沿う各位置における断面形状が、同形状で形成される板状の部材である。ブレード132は、バルーンが挿通される中心位置を基準として、それぞれが36度の角度をなすように配置されている。すなわち、各ブレード132は、周方向において等角度毎に配置されている。ブレード132は、略中央付近に回動中心部132aを有し、この回動中心部132aを中心として回動することができる。また、各ブレード132は、略外周端部付近に、軸方向に延びる移動ピン132cを有している。移動ピン132cは、回動中心部132aを中心に移動可能である。移動ピン132cが移動すると、各々のブレード132が回動中心部132aを中心として回動する。10個のブレード132が回動することにより、ブレード132に囲まれた中心部の空間領域を狭めることができる。なお、ブレード132の数は、10個に限定されない。
【0091】
ブレード132は、先端側が屈曲すると共に、先端部132bは尖った形状を有している。先端部132bは、ブレード132が回動するのに伴い、フォールディング部130内に挿通されるバルーン30の表面に当接して、バルーン30に形成された羽根部32を周方向に寝かせるように畳むことができる。また、フォールディング部130は、ブレード132を加熱するためのヒーター(図示しない)を有している。
【0092】
ブレード132には、一方向側へ流れるように供給される樹脂製の第3フィルム133および第4フィルム134が供給される。第3フィルム133と第4フィルム134は、ブレード132によって囲まれた中央の空間領域を挟むように対向配置される。これら第3フィルム133と第4フィルム134は、バルーン30がフォールディング部130に挿入された際に、バルーン30がブレード132の表面に直接接触しないように保護する。
【0093】
次に、バルーン折り畳み装置を用いて、バルーンコーティング装置60によりバルーン30を折り畳む方法を説明する。バルーン30の表面の長尺体42は、保護層50で保護されている。
【0094】
まず、バルーン30に羽根部32を形成するために、バルーンカテーテル10のバルーン30を、
図11に示すプリーティング部120に挿入する。プリーティング部120のブレード122は、加熱されている。次に、
図12に示すように、ブレード122を回動させる。これにより、各ブレード122の第1形状形成部122bが互いに近づき、ブレード122間の中心領域が狭まる。これに伴い、ブレード122間の中心領域に挿入されたバルーン30は、第1形状形成部122bによって内管22に対し押し付けられる。バルーン30のうち第1形状形成部122bによって押圧されない部分は、ブレード122の先端部と、当該ブレード122に隣接するブレード122の第2形状形成部122cとの間の隙間に押し出され、一方に湾曲した羽根部32が形成される。ブレード122によりバルーン30は約50~60度に加熱されるので、形成された羽根部32はそのままの形を維持することができる。このようにして、バルーン30に周方向3枚の羽根部32が形成される。
【0095】
このとき、各ブレード122のバルーン30と接触する表面は、第1フィルム123および第2フィルム124によって覆われており、バルーン30はブレード122の表面に直接接触することはない。バルーン30に羽根部32を形成した後、ブレード122を元の位置に戻すように回動させ、バルーン30はプリーティング部120から引き抜かれる。なお、プリーティングの過程において、バルーン30の内部の体積が減少するため、それに合わせて、三方活栓を調節して拡張用流体を外部に排出してバルーン30を収縮(deflate)させることが好ましい。これにより、バルーン30に過剰な力が作用することを抑制できる。
【0096】
バルーン30は、
図15(A)に示すように、内部に拡張用流体が注入された状態で断面略円形状を有する。この状態から、バルーン30は、突出する羽根部32が形成されることで、
図15(B)に示すように、第2形状形成部122cに押圧されて羽根部32の外側面を構成する羽根外側部34aと、ブレード122の先端部に押圧されて羽根部32の内側面を構成する羽根内側部34bと、第1形状形成部122bに押圧されて羽根外側部34aと羽根内側部34bの間に位置する中間部34cとが形成される。そして、バルーン30の表面は、ブレード122により押圧される第1フィルム123と第2フィルム124から押圧力を受けて、加熱される。しかしながら、バルーン30の表面の複数の長尺体42は、隙間の少なくとも一部が保護層50により満たされるとともに、少なくとも一部が覆われている。このため、バルーン30の表面の長尺体42は、保護層50により保護されて、押圧力および加熱によって折れや倒れなどの破損や変形が抑制される。なお、長尺体42の一部が、破損したり変形することはあり得る。
【0097】
次に、バルーンカテーテル10をプリーティング部120から引き抜く。次に、バルーンカテーテル10のバルーン30を、
図13に示すフォールディング部130内に挿入する。フォールディング部130のブレード132は既に50~60度程度に加熱されている。
【0098】
羽根部32が形成されたバルーン30をフォールディング部130に挿入した後、
図14に示すように、ブレード132を回動させる。これにより、各ブレード132の先端部132bが互いに近づき、ブレード132間の中心領域が狭まる。これに伴い、ブレード132間の中心領域に挿入されたバルーン30は、各ブレード132の先端部132bによって羽根部32が周方向に寝かされた状態となる。ブレード132は、バルーン30の挿入前に予め加熱されており、ブレード132によってバルーン30が加熱されるので、ブレード132により周方向に寝かされた羽根部32は、そのままの形を維持できる。このとき、各ブレード132のバルーン30と接触する表面は、第3フィルム133および第4フィルム134によって覆われており、バルーン30はブレード132の表面に直接接触することはない。
【0099】
バルーン30の羽根部32が折り畳まれると、
図15(C)に示すように、羽根内側部34bと中間部34cが重なって接触し、バルーンの表面同士が対向して重なる重複部35が形成される。そして、中間部34cの一部および羽根外側部34aは、羽根内側部34bに覆われず、外側に露出する。また、バルーン30が折り畳まれた状態では、羽根部32の根元部と中間部34cとの間に、根元側空間部36が形成される。根元側空間部36の領域では、羽根部32と中間部34cとの間に、微小な隙間が形成される。一方、羽根部32の根元側空間部36よりも先端側の領域は、中間部34cに対して密接した状態となっている。バルーン30の羽根外側部34aは、ブレード132に押圧される第1フィルム181と第2フィルム182から周方向に擦れるような押圧力を受け、加熱される。しかしながら、バルーン30の表面の複数の長尺体42は、隙間の少なくとも一部が保護層50により満たされるとともに、少なくとも一部が覆われている。このため、バルーン30の表面の長尺体42は、保護層50により保護されて、押圧力および加熱によって折れや倒れなどの破損や変形が抑制される。なお、長尺体42の一部が、破損したり変形することはあり得る。
【0100】
バルーン30の羽根部32を畳んだ後、ブレード132を元の位置に戻すように回動させる。次に、バルーン30をフォールディング部130から引き抜く。これにより、バルーン30の折り畳みが完了する。
【0101】
この後、バルーン30の表面の保護層50に含まれる水を蒸発させる。これにより、
図3に示すように、保護層50が保護剤43となって体積を減少する。このため、折り畳まれたバルーン30の表面に、長尺体42、添加剤43および保護剤43を有する薬剤コート層40が形成される。長尺体42の少なくとも一部は、保護剤43から露出する。保護層50に含まれる水の蒸発は、自然乾燥でもよいが、加熱や送風により蒸発が促進されてもよい。保護層50が気泡51を有する場合、気泡51を除去するための消泡剤を保護層50に供給してもよい。消泡剤は、例えば、ジメチルポリシロキサン、有機変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等である。保護剤43は、水を供給する前の状態と、水を供給した後に乾燥させた状態で、異なる形状や組成となり得る。保護剤43が発泡剤である場合、発泡する際に少なくとも一部が分解されてガスとなり、水を蒸発させた後に、薬剤コート層40に残存しない、または異なる組成で一部が残存し得る。
【0102】
また、バルーン30を折り畳んだ後、保護層50に含まれる水を蒸発させるのではなく、ピペットやシリンジ等の水供給部から水をバルーン30の表面へ供給し、保護層50を洗い流した後、乾燥させてもよい。このとき、長尺体42は、水不溶性であるため、バルーン30の表面に残存する。なお、バルーン30の表面に水溶性の添加剤43が設けられる場合、保護層50を水により洗い流すことにより、添加剤43の少なくとも一部が一緒に流される可能性がある。
【0103】
次に、薬剤コート層40の作用を説明する。
【0104】
バルーン30を狭窄部に配置した後、
図1、2に示すように、ハブ26の近位開口部27より、インデフレーターまたはシリンジ等を用いて拡張用流体を所定量注入し、拡張ルーメン23を通じてバルーン30の内部に拡張用流体を送り込む。これにより、折り畳まれたバルーン30が拡張する。これにより、バルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40が、狭窄部に接触する。薬剤コート層40を生体組織に押し付けると、薬剤コート層40に含まれる水溶性の保護剤43および水溶性の低分子化合物である添加剤層41が溶けつつ、薬剤が生体へ送達される。また、バルーン30が拡張することで添加剤層41に亀裂が入って溶けやすくなり、添加剤層41から薬剤結晶である長尺体42が放出されやすくなる。
【0105】
バルーン30の表面の薬剤コート層40の長尺体42は、バルーン30に羽根部32を形成して折り畳む過程で、保護層50によって折れたり変形することが抑制されている。このため、折り畳んだバルーン30を血管内に挿入する際に、長尺体42から脱落した薬剤結晶が、バルーン30の送達時に血液中に流出することを抑制できる。したがって、脱落した薬剤結晶が生体へ望ましくない影響を与えることを抑制できる。
【0106】
バルーン30の内部から、拡張用流体をハブ26の近位開口部27より吸引して排出すると、バルーン30が収縮して折り畳まれた状態となる。これにより、バルーンカテーテル10を、血管より抜去できる。
【0107】
以上のように、実施形態に係る薬剤コート層40の形成方法は、長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体42がバルーン30に設けられる薬剤コート層40の形成方法であって、水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液をバルーン30の表面に供給し、溶媒を蒸発させてバルーン30の表面に複数の長尺体42を形成するステップと、膨張、発泡または硬化可能な保護剤43を、膨張、発泡または硬化する前の状態でバルーン30の表面に供給するステップと、保護剤43を膨張、発泡または硬化させて複数の長尺体42の隙間の少なくとも一部を満たす保護層50を形成するステップと、バルーン30を折り畳むステップと、を有する。
【0108】
上記のように構成した薬剤コート層40の形成方法は、保護層50により長尺体42を保護できるため、バルーン30を折り畳む際に、バルーン30の表面の長尺体42の破損や変形を抑制できる。このため、バルーン30の表面の長尺体42を、生体に作用させるために適切な状態で維持できる。
【0109】
また、バルーン30を折り畳むステップの後、保護層50を収縮、消泡または軟化させてもよい。これにより、長尺体42が、保護層50に阻害されることなく、効果的に生体に作用することができる。
【0110】
保護剤43は、加水、加熱または酸の供給により発泡する発泡剤であり、保護層50を形成するステップにおいて、保護剤43に加水、加熱または酸を供給して当該保護剤43を発泡させてもよい。これにより、気泡によって膨張した保護層50を形成し、長尺体42を良好に保護できる。
【0111】
保護剤43は、加水により膨潤可能な膨潤性材料であり、保護層50を形成するステップにおいて、保護剤43に加水して膨潤させてもよい。これにより、保護剤43を膨張させた保護層50により、長尺体42を良好に保護できる。膨潤した膨潤性ゲルは、水よりも高いある程度の強度を有するため、長尺体42を良好に保護できる。
【0112】
保護剤43は、水溶性である。これにより、保護剤43に加水する際に、水不溶性の長尺体42が溶けることを抑制できる。また、保護剤43が血管内で速やかに溶解し、薬剤である長尺体42の血管移行性を妨げない。また、バルーン30を折り畳んだ後、水不溶性の長尺体42を残して保護剤43を水で洗い流すこともできる。
【0113】
水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。これにより、薬剤の結晶である長尺体42により、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
【0114】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述の実施形態に係るバルーンカテーテル10は、ラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)であるが、オーバーザワイヤ型(Over-the-wire type)であってもよい。
【0115】
また、本実施形態の変形例として、添加剤層41は、バルーン30の表面に設けられなくてもよい。この場合、
図16(A)に示すように、バルーン30の表面に長尺体42を形成した後、長尺体42の隙間に、保護剤43を供給する。次に、
図16(B)に示すように、保護剤43に加水、加熱または酸を供給して、保護層50を形成する。次に、保護層50により長尺体42を保護しつつ、バルーン30を折り畳む。この後、保護層50に含まれる水を蒸発させる。これにより、
図16(C)に示すように、折り畳まれたバルーン30の表面に、長尺体42および乾燥した添加剤43を有する薬剤コート層40が形成される。
【0116】
また、本実施形態の他の変形例として、保護剤43は、冷却により固化する液体であってもよい。冷却して固化する液体は、例えば水である。なお、冷却して固化する液体は、水以外の材料を含んでもよい。
【0117】
保護剤43が水である場合、
図17に示すように、長尺体42が形成されたバルーン30(
図8、16(A)を参照)の表面に、シリンジやピペット等である水供給部104から、水である保護剤43を供給する。保護剤43は、複数の長尺体42の隙間の少なくとも一部を満たし、長尺体42の少なくとも一部、好ましくは全体を覆う。次に、冷却部105から、例えば0℃未満の冷風を供給し、保護剤43を固化させる。なお、保護剤43の冷却方法は、特に限定されない。例えば、冷却部105は、液体窒素をバルーン30上に供給してもよい。また、バルーン30が、0℃未満の冷凍室に入れられてもよい。固化した保護剤43は、水から氷となることで硬化し、
図18に示すように、保護層50となる。なお、保護層50には、気泡が含まれてもよい。この後、保護層50が固化した状態を維持しつつ、バルーン30を折り畳む。バルーン30の表面の長尺体42は、保護層50により保護されて、押圧力によって折れや倒れなどの破損や変形が抑制される。なお、バルーン30を折り畳む過程で、固化した保護層50が溶けて軟化することもあり得る。次に、バルーン30の表面の保護層50を溶かして水とした後、蒸発させる。保護層50が、水のような蒸発可能な液体のみからなる場合、保護層50が溶けて蒸発することで、
図19に示すように、保護剤43がバルーン30の表面に残存しない。したがって、保護剤43が残存しない薬剤コート層40を容易に形成できる。なお、薬剤コート層40は、添加剤層41を有しても有さなくてもよい。
【0118】
また、保護剤43は、膨潤性材料および発泡剤の少なくとも一方、および水であってもよい。すなわち、膨潤または発泡して形成された保護層50(
図9または
図10)を、冷却して固化させた状態で、バルーン30を折り畳んでもよい。
【符号の説明】
【0119】
10 バルーンカテーテル
30 バルーン
40 薬剤コート層
41 添加剤層
42 長尺体
43 保護剤
50 保護層
60 バルーンコーティング装置
94 ディスペンシングチューブ
120 プリーティング部
130 フォールディング部