(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】化学強化ガラス及びこれを用いた防火設備
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20220202BHJP
E06B 3/54 20060101ALI20220202BHJP
E06B 1/04 20060101ALI20220202BHJP
A62C 2/06 20060101ALI20220202BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C03C21/00 101
E06B3/54 B
E06B1/04
A62C2/06 502
C03C19/00 Z
(21)【出願番号】P 2017242573
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】599093524
【氏名又は名称】旭ビルウォール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391015786
【氏名又は名称】三芝硝材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】和久井 智
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】増山 隆
【審査官】松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218422(JP,A)
【文献】特開平10-018724(JP,A)
【文献】国際公開第2017/070283(WO,A2)
【文献】特開2015-101502(JP,A)
【文献】特開2002-317510(JP,A)
【文献】特開2006-274661(JP,A)
【文献】特開2003-040635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
27/00-29/00
C03B 23/00-35/26
40/00-40/04
18/02
E06B 3/54- 3/88
A62C 2/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火設備として建物壁面に備え付けられるべきガラス板と、
該ガラス板の中央部分に形成されて引張状態とされている引張領域と、
該引張領域を囲繞して前記ガラス板のエッジ部分に形成されて圧縮状態とされている圧縮領域と、
前記ガラス板の少なくとも一辺における前記エッジ部分に形成されて前記ガラス板の端面が連続した凹凸形状であり、且つ前記圧縮領域内に形成されている凹凸部とを備えたことを特徴とする化学強化ガラス。
【請求項2】
前記凹凸部はその凹凸の高さ及び深さが非一定であり、
前記凹凸部のうち最も外側に位置する最外点から最も内側に位置する最内点までの距離が前記圧縮領域の前記ガラス板に対する内外方向の厚さよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
前記ガラス板のエッジ部分を覆うサッシと、
該サッシ内にて前記ガラス板の端面のみに接しているセッティングブロックと、
前記ガラス板のエッジ部分の表裏面と前記サッシとの間に隙間なく充填されているシーリング材とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の化学強化ガラスを用いた防火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッジ部分の耐熱割れ性能を向上させて防火設備として用いることに好適な化学強化ガラス及びこれを用いた防火設備に関するものである。なお、本発明は特定防火設備にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
従来、防火設備、特定防火設備に用いられるガラスとしては、火災等が発生した際にその延焼を防止する目的で様々なものが用いられている。その例として、(1)網入りガラス、(2)耐熱強化ガラス(超強化ガラス)、(3)低膨張ガラス等が知られている。
【0003】
(1)網入りガラス
鉄線が内在しているガラスである。したがってガラスにひびが生じても、鉄線がガラス片の落下を防止するため、火炎の表出を抑えて延焼を防止することができる。また防火用ガラスとしては最も安価であり、入手も容易である。ガラス製の防火設備において、現在建設省告示で例示されているのは鉄枠に嵌めた網入りガラスのみである。しかしながら、網入りガラスはその製造の制約上、ガラス中央の強度(面強度)が他のガラス(フロートガラス(FL)、倍強度ガラス(HS)、風冷強化ガラス(PT))に比して劣っている。また、鉄線が内在していることにより、切断された網入りガラスの小口には多くの粗い傷が残っている。このためエッジ部分の強度(エッジ強度)は極めて低い。このため日射や火炎を受けることによる小口からの熱割れの可能性が高く、さらには鉄線の発錆による割れの可能性も高い。また、鉄線の存在による視認性の妨げにも問題がある。
【0004】
(2)耐熱強化ガラス
通常の風冷強化ガラス(物理強化ガラス)よりも急冷速度を速め、より表面圧縮応力を強めた強化ガラスである。この風冷強化により発生される圧縮応力層は、後述する化学強化ガラスに比べてとても深く(板厚の約1/6)、ガラスの面だけでなく小口にも形成される。このため傷が多く存在しているエッジ部分も強化されることになるので、熱割れに対して強い。しかしながら、風冷強化の加工方法として、一度ガラスを軟化させてから急速風冷するため、ガラス表面に凹凸が生じガラスを通した透視映像が歪み、視認性に問題がある。また外力が加わっていない状態で急にガラスが割れる自然破損の可能性も残されている。さらにはその高い圧縮応力のせいで破損時の音が大きいという問題もある。
【0005】
(3)低膨張ガラス
通常のガラスとは異なる組成で形成されていて、ガラスの特性の一つである熱膨張率を小さくすることで熱割れを防止するものであり、これによりガラスが熱せられてもエッジ部分に発生する引っ張り応力が小さいガラスである。自然破損もなく、視認性の問題もない。また、耐熱強化ガラスと異なり、ガラスの切断加工も可能である。しかしながら、ガラスの組成が一般的なガラスと異なるため色が着いており、また高価であるという問題がある。このような低膨張ガラスを防火設備に用いたものとして特許文献1が開示されている。
【0006】
一方で、化学強化ガラスが知られている。この化学強化ガラスは、硝酸カリウム溶液にフロートガラスを浸漬し、ガラス内部に存在するナトリウムイオンをこれよりもイオン半径の大きいカリウムイオンに置換し、ガラス表面に極めて薄い(10μm~20μm程度)圧縮応力層を形成して強度を増大させた強化ガラスである。この強化方法により、ガラスの面強度は非常に強く、耐衝撃性は向上している。例えば通常の風冷強化ガラスの表面圧縮応力は約100MPaであるのに対し、化学強化ガラスでは製造方法にもよるが約600MPaである。また、風冷強化ガラスとは異なり透視映像に歪みもなく、自然破損も生じない。さらに、ガラス内部に形成される引っ張り応力が小さいことから、切断加工性がよい。しかしながら、エッジ部分における熱割れに対する耐性は低く、防火や耐火用途として使用することは実用的ではない。このような化学強化ガラスは防火設備に利用されてなく、特許文献1にもその利用については記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
防火設備は主に耐火・準耐火建築物、又は防火・準防火地域の建築物の外壁開口部に使用され、特定防火設備は主に耐火・準耐火建築物の内部において防火区画(面積区画、竪穴区画、異種用途区画)の開口部に使用される。このため、耐風圧強度や耐衝撃強度(面強度)が高いガラスが好ましく、さらには視認性が良く、自然破損がなく、安価なものが好ましい。すなわち、防火設備用ガラス、特定防火設備用ガラスとしては、エッジ部分を除いて考慮すると化学強化ガラスを用いることが好ましい。したがって化学強化ガラスのエッジ部分を強化して耐熱割れ性能を向上させることで将来的な実用性は高くなる。
【0009】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、エッジ部分に対して高い強度を付与して熱割れに対する耐性を高めた化学強化ガラス及びこれを用いた防火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明では、防火設備として建物壁面に備え付けられるべきガラス板と、該ガラス板の中央部分に形成されて引張状態とされている引張領域と、該引張領域を囲繞して前記ガラス板のエッジ部分に形成されて圧縮状態とされている圧縮領域と、前記ガラス板の少なくとも一辺における前記エッジ部分に形成されて前記ガラス板の端面が連続した凹凸形状であり、且つ前記圧縮領域内に形成されている凹凸部とを備えたことを特徴とする防火設備用化学強化ガラスを提供する。
【0011】
好ましくは、前記凹凸部はその凹凸の高さ及び深さが非一定であり、前記凹凸部のうち最も外側に位置する最外点から最も内側に位置する最内点までの距離が前記圧縮領域の前記ガラス板に対する内外方向の厚さよりも小さい。
【0012】
また、本発明では、前記ガラス板のエッジ部分を覆うサッシと、該サッシ内にて前記ガラス板の端面のみに接しているセッティングブロックと、前記ガラス板のエッジ部分の表裏面と前記サッシとの間に隙間なく充填されているシーリング材とを備えたことを特徴とする化学強化ガラスを用いた防火設備を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凹凸部が圧縮領域内に形成されているため、ガラス板のエッジ部分に衝撃があったとしてもこれが引張領域に伝達されることを防止できる。さらに、火炎によりガラス板の面部分とエッジ部分とに温度差が生じたとしても、もろい部分とされる凹凸部が圧縮領域内に収まっているため、熱による応力が凹凸部を介して引張領域に伝達されることを防止でき、熱割れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】本発明に係る防火設備用化学強化ガラスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本発明に係る防火設備101は、例えば建物外壁として使用されている。建物内部には各階の床となっている床板102が配設され、この床板102は建物表面まで延びている。建物外壁に露出している床板102は水平方向に延びる梁103として機能している。この梁103と直交するように、複数本の縦枠104が間隔を存して配設されている。したがって、梁103と縦枠104とで略矩形形状の開口が規定される。縦枠104の間には、下枠105及び上枠106が収められている。これら縦枠104、下枠105及び上枠106にてサッシ110が形成されている。サッシ110に囲まれた部分に、後述する化学強化ガラスからなるガラス板2が配設されている。
【0016】
図2を参照すれば明らかなように、建物の各階に配された床板102は、建物表面まで延びている。建物の外壁として配された部分は、この例では建物内の床板102よりも上下方向に厚く形成され、この部分が梁103となっている。なお、床板102と梁103は別体として形成してもよいし、一体として形成してもよい。下枠105及び上枠106は近接する梁103にそれぞれ密接して取り付けられている。防火設備101は、サッシ110に嵌め込まれているガラス板2を通して建物内で発生した火災を建物外に、建物外で発生した火災を建物内に延焼させないようにするためのものである。
【0017】
図3に示すように、ガラス板2は、その周辺部分であるエッジ部分がサッシ110によって覆われている。サッシ110は内側が溝形状に凹んでいて、その底部にはセッティングブロック107が配設されている。このセッティングブロック107はガラス板2の重みを支持するものであり、クロロプレン、エチレンプロピレン等のゴム材が利用される。したがって、セッティングブロック107はガラス板2の端面にのみ接するように配設される。通常は、セッティングブロック107上にガラス板2が載置されて配設される。このような構造により、ガラス板2は建物外壁の防火設備として位置づけられることになる。
【0018】
セッティングブロック107に対してサッシ110の開口側には、バックアップ材108が配設されている。バックアップ材108はガラス板2の表裏面とサッシ110の内壁との間に配されてガラス板2をサッシ内に固定している。バックアップ材108としてはゴム材料やポリエチレン材料等を利用できる。バックアップ材108のさらにサッシ110の開口側には、シーリング材109が配設されている。このシーリング材109はガラス板2とサッシ110との間の隙間を埋めるためのものであり、サッシ110内の防水、防塵としての機能を有している。このため、シーリング材109はガラス板2のエッジ部分の表裏面とサッシ110との間に隙間なく充填されている。したがってシーリング材109としては水密性、気密性、接着性が求められ、さらには外気にさらされていることから耐候性を有する材料で形成されることが好ましく、例えばシリコーン系樹脂等が用いられる。
【0019】
以上で本発明に係る防火設備101の一例を示したが、この防火設備101は下記のような特徴を有するガラス板2を用いることで、いわゆる防火設備101として求められている20分以上の遮炎性能を発揮できる。
【0020】
図4に示すように、本発明に係る化学強化ガラス1は、いわゆる化学強化ガラスの板体としてのガラス板2として形成されている。このガラス板2は上述したように、防火設備101として建物壁面に備え付けられるべきものである。ガラス板2は化学強化ガラスであるため、溶融したカリウム塩(硝酸カリウム、硫酸カリウム、重硫酸カリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、塩化カリウム等)にフロートガラスを浸漬させ、ガラス表面のイオン半径の小さなナトリウムイオンをより半径の大きいカリウムイオンに置換し、ガラス板2のエッジ部分に圧縮応力層を形成することで製造される。
【0021】
このようにして化学強化ガラスとして製造されたガラス板2は、その中央部分に引張状態とされている引張領域3を有し、この引張領域3を囲繞するようにガラス板2のエッジ部分に圧縮状態として形成されている圧縮領域4を有している。このような構成を有することにより、化学強化ガラスとしてのガラス板2はフロートガラスに比して耐熱性、耐衝撃性に優れ、一般的な風冷強化ガラスに比しては、熱処理工程で生じる凹凸がなく透視映像が良く、また自然破損が生じないという特性を有している。また化学強化ガラスは中央部分での衝撃強度(面強度)が他のガラス(フロートガラス(FL)、網入りガラス(PHW)、倍強度ガラス(HS)、風冷強化ガラス(PT))に比して抜群に優れているという特性も有している。
【0022】
そしてさらに、ガラス板2は以下の構造を有することで、エッジ部分の強度(耐熱性)も向上されている。すなわち、ガラス板2の少なくとも一辺(全辺が好ましい)におけるエッジ部分には、ガラス板2の端面が連続した凹凸形状に形成された凹凸部5が形成されている。そしてさらに、この凹凸部5は圧縮領域4内に収まるように形成されている。換言すれば、
図5を参照すれば明らかなように、凹凸部5のうち、最も外側に位置する最外点6から最も内側に位置する最内点7までの距離Aが圧縮領域4のガラス板2に対する内外方向の厚さDよりも小さいということである。
【0023】
このような構成により、凹凸部5が圧縮領域4内に形成されているため、ガラス板2のエッジ部分に衝撃があったとしてもこれが引張領域3に伝達されることを防止できる。さらに、火炎にさらされるガラス板2の面部分とエッジ部分とに温度差が生じたとしても、もろい部分とされる凹凸部5が圧縮領域4内に収まっているため、熱による応力が凹凸部5を起点にして引張領域3に伝達されることを防止でき、熱割れを防止できる。すなわち、防火設備101として好適に適用できる化学強化ガラス1を得ることができる。
【0024】
化学強化ガラスは上述したようにフロートガラスから製造されるので、凹凸部5はこのフロートガラスを切断した際に形成される。したがって、通常は凹凸部5はその凹凸の高さ及び深さは非一定である。本発明はこのような安価に容易に製造できるフロートガラス(網入りガラスでもよい)から出発する化学強化ガラスを対象としたものであり、したがって凹凸部5を必須とするものである。この点で当初からエッジ部分がほぼ平滑なレーザー切断加工を施したような製造コストが高価なガラス板体は除外される。本発明はあくまでも安価で容易に製造できる態様にて防火設備101に適用できるものを提供するものである。具体的にはフロートガラスの切断時に発生するエッジ部分の粗い傷である凹凸部5を研磨してならし(距離Aを短くするようにし)、そして化学強化処理を施す。圧縮領域4は、最外点6からの距離でその厚さDが決定されるため、距離Aが長いと最内点7が製造当初から引張領域3に入り込んでしまう。このため、距離Aを短くしておくことで確実に凹凸部5を圧縮領域4内に収めている。これにより、小口の研磨処理を行わない切りっぱなしのフロートガラスを用いて製造された化学強化ガラスよりもエッジ部分の強度を格段に向上させることができる。なお、本発明は、凹凸部5の距離Aを短くすることで、相対的に圧縮領域4を厚く形成したということもできる。
【符号の説明】
【0025】
1:防火設備用化学強化ガラス、2:ガラス板、3:引張領域、4:圧縮領域、5:凹凸部、6:最外点、7:最内点、101:防火設備、102:床板、103:梁、104:縦枠、105:下枠、106:上枠、107:セッティングブロック、108:バックアップ材、109:シーリング材、110:サッシ