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特許7017923皮膚に水分補給するために使用するためのTonEBPの活性化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】皮膚に水分補給するために使用するためのTonEBPの活性化剤
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20220202BHJP
   G01N 33/50 20060101ALN20220202BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N33/50 Q
A61Q19/00
【請求項の数】 4
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017247115
(22)【出願日】2017-12-25
(65)【公開番号】P2018138017
(43)【公開日】2018-09-06
【審査請求日】2020-01-15
(31)【優先権主張番号】16306833.1
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508283406
【氏名又は名称】シャネル パフュームズ ビューテ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ボーイソー-カディオ エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ゲンドロニュー ガエル
(72)【発明者】
【氏名】ルジューン フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ベルリン イリナ
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-516441(JP,A)
【文献】国際公開第2016/016515(WO,A1)
【文献】American Journal of Translational Research,2009年,Vol. 1, No. 2,pp. 184-202
【文献】The FASEB Journal,2008年,Vol. 22,pp. 4218-4227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に水分補給するための候補化粧用化合物をスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
a.少なくとも1つの試験化合物を、角化細胞の試料と接触させるステップ、
b.前記角化細胞中のTonEBPの核内の量を測定するステップ、
c.未処理の角化細胞と比較して、a.において処理された前記角化細胞中のTonEBPの核内の量を増加させる前記化合物を選択するステップ
を含む方法であって、
ステップa.およびb.の間で、前記角化細胞が浸透圧ストレスをかけられるステップをさらに含む、方法
【請求項2】
ステップb.が、ステップa.の前および後に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下のステップ:
a’.角化細胞の少なくとも2つの試料を調製するステップ、
a.前記試料のうちの1つを、少なくとも1つの試験化合物と接触させるステップ、
b.前記試料中のTonEBPの核内の量を測定するステップ、ならびに
c.未処理の角化細胞の前記試料と比較して、a.において処理された前記角化細胞中のTonEBPの核内の量を増加させる前記化合物を選択するステップを含む方法であって
ステップa.およびb.の間で、前記角化細胞が浸透圧ストレスをかけられるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試験化合物が、植物抽出物から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に水分補給するための、TonEBPの核内の量または活性を刺激する化合物の同定および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
浸透圧調節は、細胞における水の恒常性を維持するために不可欠である。皮膚はおよそ30%の水を含有しており、このことは皮膚の肉感(plumpness)、弾力性および復元力に寄与する。皮膚は、主に3つの層、すなわち、最上層から始めて表皮、真皮および皮下組織からなる。
【0003】
表皮は、角化細胞(主として)、メラニン細胞(皮膚の色素沈着に関与する)およびランゲルハンス細胞を含む。皮膚の機能は、身体を外部環境から保護することおよびその完全性を確保すること、ならびにとりわけ、微生物または化学物質の侵入および皮膚に含有されている水の蒸発を防ぐことである。
【0004】
表皮は、4つの層(layers)(層(strata)):表皮の最下層である基底層、有棘層、顆粒層、および表皮の最上層であり、したがって外部環境と直接接触する角質層に分けられる。
【0005】
表皮は、水の勾配を含有する:皮膚表面上で15%の水、角質層-顆粒層境界面で30%、(Warnerら, The Journal of investigative dermatology 1988, 20 (2) 218-224頁;Caspersら, The Journal of investigative dermatology 2001 116 (3) 434-442頁)および最後に有棘層において70%。この勾配の乱れは、内部または外部要因(例えば、乾燥/湿潤環境またはUV曝露)によって生じ、通常は、適応応答の活性化を引き起こす。これには、細胞の水分補給、形態変化(容積調整)および機能を維持するための、浸透圧調節物質輸送体の上方調節および/または浸透圧調節物質の取込みが関与し得る(SchliessおよびHaussinger, 2002, Biol Chem, 383, 577-83頁)。このような適応機序がない場合、角化細胞は、浸透圧不均衡、バリア機能の崩壊および細胞内構造の変化を経験し得る(Kuperら, Curr. Genomics 2007, 8, 209-218頁)。
【0006】
したがって、これらの事象は、皮膚の乾燥、および通常それに伴って現れる発熱または赤みの不快な感覚に直接つながる可能性がある。
【0007】
いくつかの組成物が、皮膚の脱水を防ぐ/処置するために、現在利用可能である。しかしながら、皮膚の乾燥によって生じる、皮膚の不快さ、ピリピリ感および赤みの感覚を減少させるように、皮膚の脱水を防ぐ/処置するための新規の、より効果的な化粧用薬剤を提案する必要性が常に存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/016515号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【文献】Warnerら, The Journal of investigative dermatology 1988, 20 (2) 218-224頁
【文献】Caspersら, The Journal of investigative dermatology 2001 116 (3) 434-442頁
【文献】SchliessおよびHaussinger, 2002, Biol Chem, 383, 577-83頁
【文献】Kuperら, Curr. Genomics 2007, 8, 209-218頁
【文献】Miyakawaら, 1999, Proc Natl Acad Sci USA 96 (5): 2538-2542頁
【文献】Wooら, Mol Cell Biol 2002, 22:5753-5760頁
【文献】Shim EH, EMBO Rep 2002, 3:857-861頁
【文献】The Cosmetic, Toiletry and Fragrance Associationによって出版されたInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook, 第11版, 2006
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、角化細胞中の張度応答性エンハンサー結合タンパク質(tonicity-responsive enhancer binding protein)(TonEBP)の活性および/または核内の量を刺激することによって、皮膚の水分補給を改善することが可能であることを実証した。
【0011】
唯一の既知の張度調節転写因子であるTonEBPは、浸透圧保護性有機浸透圧調節物質の蓄積の中心的なレギュレーターである。TonEBPは、有機浸透圧調節物質、例えば、ナトリウム/ミオイノシトール共輸送体(SMIT)、塩化ナトリウム/ベタイン共輸送体(BGT1)、塩化ナトリウム/タウリン共輸送体(TauT)およびアルドース還元酵素(AR、ソルビトールの生合成のため)の生成および取込みに関与する遺伝子の発現を調節する(Miyakawaら, 1999, Proc Natl Acad Sci USA 96 (5): 2538-2542頁)。さらに、TonEBPは、高張ストレス下での細胞生存に不可欠であるHsp70ヒートショックタンパク質および他の浸透圧ストレスタンパク質の発現を誘導する(Wooら, Mol Cell Biol 2002, 22:5753-5760頁;Shim EH, EMBO Rep 2002, 3:857-861頁)。
【0012】
TonEBPの活性は浸透圧調節物質の角化細胞への進入を誘導する。したがって、適切な恒常性を維持するために、細胞は、水の流出を制限しおよび/または水の流入を増加させ、それによって皮膚の水分補給を誘導する。
【0013】
したがって、本発明は、角化細胞中のTonEBPの活性および/または核内の量を増加させる化合物を使用することによって、皮膚に水分補給するために有用な薬剤を同定する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
したがって、本発明は、皮膚に水分補給するための候補化合物をスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
a.少なくとも1つの試験化合物を、角化細胞の試料と接触させるステップ、
b.前記角化細胞中のTonEBPの核内の量または活性を測定するステップ、
c.未処理の角化細胞と比較して、a.において処理された角化細胞中のTonEBPの核内の量および/または活性を刺激する化合物を選択するステップ
を含む方法に関する。
【0015】
第1の実施形態によれば、ステップb.は、ステップa.の前および後に実施される。この場合、ステップa.の前に測定された、角化細胞中のTonEBPの核内の量または活性は、対照値(すなわち、未処理の角化細胞)に相当する。したがって、ステップc.は、ステップa.の前の同じ角化細胞と比較して、a.において処理された角化細胞中のTonEBPの発現を刺激する化合物の選択を含む。
【0016】
別の実施形態によれば、方法は、角化細胞の試料を調製する第1のステップa’.を含む。したがって、好ましくは、本発明は、皮膚に水分補給するための候補化合物をスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
a’.角化細胞の少なくとも2つの試料を調製するステップ、
a.試料のうちの1つを、少なくとも1つの試験化合物と接触させるステップ、
b.前記試料中のTonEBPの核内の量または活性を測定するステップ、ならびに
c.未処理の角化細胞の試料と比較して、a.において処理された角化細胞中のTonEBPの核内の量および/または活性を刺激する化合物を選択するステップ
を含む。
【0017】
この第2の実施形態では、ステップa.にかけられていない角化細胞の試料中で測定された、TonEBPの核内の量または活性は、対照値(すなわち、未処理の角化細胞)に相当する。特定の実施形態では、本発明の方法に従って選択された化合物は、未処理の角化細胞と比較して、a.において処理された角化細胞中のTonEBPの活性および/または核内の量の、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%の刺激を誘導する。
【0018】
特定の実施形態では、本発明による方法を実施するために使用される角化細胞は、浸透圧ストレスをかけられた角化細胞である。
【0019】
本発明の文脈では、「皮膚に水分補給する」とは、皮膚の自然な湿気を維持し、その乾燥を防ぐことを意味する。
【0020】
「張度調節転写因子」または「活性化T細胞核内因子5」(NFAT5)とも呼ばれる「TonEBP」は、転写因子、活性化T細胞核内因子(NFAT)ファミリーのメンバーである。TonEBPは、Ensembl遺伝子データベースにおいて参照名ENSG00000102908で利用可能なNFTA5遺伝子によってコードされる。TonEBPは、有機浸透圧調節物質の生成および取込みに関与する、アルドース還元酵素(AR)、塩化ナトリウム-ベタイン共輸送体(BGT1、SLC6A12)、ナトリウム/ミオイノシトール共輸送体(SMIT、SLC5A3)、タウリン輸送体(TauT、SLC6A6)および神経病標的エステラーゼをコードする遺伝子の転写を刺激する。
【0021】
試験される試験化合物は、任意の種類のものであってよい。それらは、天然由来のものであってよく、化学合成によって生成されてもよい。これには、化合物、未同定の化合物もしくは物質、または化合物の混合物を構造的に定義したライブラリーが関与し得る。
【0022】
天然の化合物には、植物のような植物性由来の化合物が含まれる。好ましくは、試験化合物は、植物性、好ましくは植物抽出物から選択される。
【0023】
ステップa.により、試験化合物は、角化細胞の試料と接触する。
【0024】
ステップb.により、前記角化細胞中のTonEBPの核内の量および/または活性が測定される。
【0025】
「TonEBPの核内の量」とは、角化細胞の核中のTonEBPの量を指す。当業者であれば、TonEBPの核内の量を測定するためのいくつかの技術を知っている。このような技術としては、例えば、免疫蛍光法技術または蛍光タンパク質のタグ付けが挙げられる。
【0026】
用語「TonEBPの活性」とは、浸透圧ストレスに対して細胞容積を調節する、TonEBPの能力を意味することが意図される。前記活性は、例えば、TonEBPがハイブリダイズする遺伝子(例えば、遺伝子SLC6A12、SLC5A3、SLC6A6)の転写レベルを決定することによって、評価することができる。当業者であれば、TonEBPがハイブリダイズする遺伝子の転写レベルを測定するための技術を熟知している。ノーザンブロッティング、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)、定量的RT-PCR(qRT-PCR)のような、特定のヌクレオチドプローブとの配列のハイブリダイゼーションに基づく技術が最も一般的である。ウェスタンブロットは、その発現がTonEBPによって調節されるタンパク質のレベルを評価するために使用することもできる。
【0027】
次いで、試験化合物での処理後のTonEBPの核内の量または活性は、対照値、すなわち処理前の同じ角化細胞で得られた値、または未処置である、角化細胞の別の試料で得られた値と比較される。
【0028】
特定の実施形態では、有用な化合物は、未処理の角化細胞と比較して、処理された角化細胞において、TonEBPの活性および/または核内の量の、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%の刺激が測定されるものである。
【0029】
本明細書に定義のスクリーニング方法によって選択された化合物は、その後、皮膚の水分補給に対するその効果について、他のin vitroモデルおよび/またはin vivoモデル(動物またはヒトにおける)で試験され得る。本発明に従って選択された化合物は、TonEBPの「活性化剤」である。
【0030】
本発明の主題は、皮膚に水分補給するための、上記の方法に従って同定された、TonEBPの活性化剤の非治療的使用でもある。「非治療的使用」は、例えば、美容的使用である。
【0031】
別の態様によれば、本発明の目的は、皮膚に水分補給するための治療用組成物を作製するための、上記の方法に従って同定された、少なくとも1つのTonEBP活性化剤の使用である。したがって、本発明は、皮膚に水分補給するための治療法において使用するための、上記の方法に従って同定されたTonEBP活性化剤にも関する。
【0032】
活性化剤とは、TonEBPの核内の量および/または活性を、実質的に増加させる化合物を指す。用語「実質的に」とは、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%の増加を表す。
【0033】
TonEBP活性化剤は、組成物の0.001~10質量%の割合、好ましくは0.01~5質量%の割合で使用され得る。
【0034】
上記のスクリーニング方法に従って同定されたTonEBP活性化剤は、生理学的に許容される担体、好ましくは美容的に許容される媒質、すなわち、毒性、不適合性、不安定性またはアレルギー応答のいずれのリスクもなしに、ヒトの皮膚と接触させて使用するのに好適であり、とりわけ、使用者にとって許容できない不快な感覚(赤み、つっぱり(tautness)、ピリピリ感など)をまったく生じない媒質と組み合わせて、組成物中に配合され得る。これらの組成物は、例えば、経口的にまたは局所的に投与され得る。好ましくは、組成物は、局所的に適用される。経口投与の場合、組成物は、錠剤、ゲルカプセル剤、糖衣錠、シロップ、懸濁液、溶液、散剤、顆粒、エマルション、制御放出のための微粒子もしくはナノ粒子または脂肪小胞もしくは高分子ベシクルの懸濁液の形態であり得る。局所投与の場合、組成物は、より具体的には、皮膚および粘膜の処置における使用のためであり、膏薬、クリーム、乳液、軟膏、粉末、含浸パッド、溶液、ゲル、スプレー、ローションまたは懸濁液の形態であり得る。組成物は、制御放出のための微粒子もしくはナノ粒子または脂肪小胞もしくは高分子ベシクルの懸濁液または高分子パッチまたはヒドロゲルの形態でもあってもよい。局所適用のためのこの組成物は、無水物形態、水性形態またはエマルションの形態であってもよい。局所投与のための組成物は、水中油型、油中水型または多層エマルション(W/O/WもしくはO/W/O)の形態であってもよく、組成物は、場合によりマイクロエマルションもしくはナノエマルション、または水性分散液、溶液、水性ゲルもしくは粉末の形態であってもよい。好ましい変形例では、組成物はゲル、クリームまたはローションの形態である。
【0035】
組成物の生理学的に許容される担体は、一般に、水および場合により他の溶媒、例えばエタノールを含む。
【0036】
この組成物は、好ましくは、顔および/または身体の皮膚のためのケアおよび/またはクレンジング製品として使用され、とりわけ、例えば、ポンプディスペンサーボトル、エアゾール噴霧器もしくはチューブに入れられた、液体、ゲルもしくはムースの形態、または例えば、ビンに入れられたクリームの形態であり得る。変形例として、組成物は、メーキャップ製品の形態、特にファンデーションまたはルースもしくはコンパクトパウダーであり得る。
【0037】
組成物は様々なアジュバント、例えばこのリストに限定されることなく、以下から選択される少なくとも1つの化合物を含み得る:
- とりわけ、直鎖状または環状、揮発性または不揮発性シリコーンオイル、例えば、ポリジメチルシロキサン(ジメチコン)、ポリアルキルシクロシロキサン(シクロメチコン)およびポリアルキルフェニルシロキサン(フェニルジメチコン);合成油、例えばフルオロ油、安息香酸アルキルおよび分枝状炭化水素、例えばポリイソブチレン;植物油、とりわけダイズ油またはホホバ油;ならびに鉱油、例えば液体ワセリンから選択され得る、油、
- ワックス、例えば、オゾケライト、ポリエチレンワックス、蜜ロウまたはカルナウバワックス、
- とりわけ、触媒の存在中での、末端および/または側鎖位に、少なくとも1つの反応性基(とりわけ水素またはビニル)を含有し、少なくとも1つのアルキル基(とりわけメチル)またはフェニルを有するポリシロキサンの、有機シリコーン、例えば、オルガノヒドロゲノポリシロキサン(organohydrogenopolysiloxane)との反応によって得られるシリコーンエラストマー、
- 非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性のいずれかの界面活性化剤、好ましくは乳化界面活性化剤、特にポリオールの脂肪酸エステル、例えばグリセロールの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステルおよびスクロースの脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールの脂肪アルキルエーテル;アルキルポリグルコシド;ポリシロキサン変性ポリエーテル;ベタインおよびその誘導体;ポリクオタニウム;エトキシル化脂肪アルキル硫酸塩;スルホコハク酸塩;サルコシン塩;アルキルおよびジアルキルリン酸エステルおよびこれらの塩;ならびに脂肪酸石鹸、
- 共界面活性化剤、例えば、直鎖状脂肪族アルコール、特にセチルアルコールおよびステアリルアルコール、
- 増粘剤および/またはゲル化剤、特に架橋または非架橋、親水性または両親媒性の、アクリロイルメチルプロパンスルホン酸(AMPS)のホモポリマーおよびコポリマーならびに/またはアクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマーならびに/またはアクリル酸のホモポリマーおよびコポリマーならびに/またはアクリル酸塩もしくはエステルのホモポリマーおよびコポリマー;キサンタンガムまたはグアーガム;セルロース誘導体;ならびにシリコーンガム(ジメチコノール)、
- 有機スクリーニング剤、例えば、ジベンゾイルメタン誘導体(ブチルメトキシジベンゾイルメタンを含む)、桂皮酸誘導体(メトキシケイヒ酸エチルヘキシルを含む)、サリチル酸、パラアミノ安息香酸、β,β’-ジフェニルアクリレート、ベンゾフェノン、ベンジリデンカンファー誘導体、フェニルベンズイミダゾール、トリアジン、フェニルベンゾトリアゾールおよびアントラニル酸誘導体、
- コーティングまたは非コーティング顔料またはナノ顔料の形態の鉱物酸化物に基づく、特に二酸化チタンまたは酸化亜鉛に基づく、無機スクリーニング剤、
- 染料、
- 保存剤、
- 補足剤、例えば、EDTA塩、
- 芳香剤、ならびに
- これらの混合物。
【0038】
このようなアジュバントの例は、とりわけ、皮膚ケア産業において通常使用される、広範な化粧品および医薬品成分を、限定なしに記載しているCTFA辞典(The Cosmetic, Toiletry and Fragrance Associationによって出版されたInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook, 第11版, 2006)において言及されており、これらは本発明による組成物における追加の成分として使用するのに好適である。
【0039】
組成物は、光学効果を有する少なくとも1つの化合物、例えば、充填剤、顔料、真珠層、張力付加剤および艶消しポリマー、ならびにこれらの混合物も含み得る。
【0040】
用語「充填剤」は、組成物に、量感もしくは硬さおよび/または柔らかさ、艶消し効果ならびに塗布した直後の均一性を与えるのに好適な、無色または白色、無機または合成、板状または非板状の粒子を意味すると理解されるべきである。とりわけ例示され得る充填剤としては、タルク、雲母、ケイ土、カオリン、Nylon(登録商標)粉末、例えばNylon-12(Atochem社によって販売されているOrgasol(登録商標))、ポリエチレン粉末、ポリウレタン粉末、ポリスチレン粉末、ポリエステル粉末、場合により加工されたデンプン、シリコーン樹脂マイクロビーズ、例えば株式会社東芝によってTospearl(登録商標)の名称で販売されているもの、ヒドロキシアパタイト、および中空シリカ微粒子(Maprecos社製のSilica Beads(登録商標))が挙げられる。
【0041】
用語「顔料」は、組成物を着色するおよび/または不透明にすることを意図した、媒質に不溶性の、白色または有色の、無機または有機粒子を意味すると理解されるべきでる。これらは、標準的な大きさのものであってもよく、ナノメートルの大きさのものであってよい。例示され得る無機顔料は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムおよび二酸化セリウム、ならびにまた酸化亜鉛、酸化鉄および酸化クロムである。
【0042】
用語「真珠層」は、光を反射する、真珠光沢の粒子を意味すると理解されるべきである。想起され得る真珠層のうち、天然の真珠質、酸化チタンでコーティングされた雲母、酸化鉄でコーティングされた雲母、天然顔料でコーティングされた雲母またはオキシ塩化ビスマスでコーティングされた雲母、およびまた、着色雲母チタンが例示され得る。
【0043】
これらの充填剤および/または顔料および/または真珠層の水性相における質量濃度は、一般に組成物の総質量に対して0.1質量%~20質量%、好ましくは0.2質量%~7質量%である。
【0044】
用語「張力付加剤」は、皮膚にハリをもたらすのに好適であり、この張力効果によって皮膚を滑らかにし、しわおよび微細な線を皮膚から減少させるか、またはさらにただちに取り除く化合物を意味すると理解されるべきである。例示され得る張力付加剤としては、天然由来の高分子が挙げられる。用語「天然由来の高分子」とは、植物由来の高分子、外皮由来の高分子、卵タンパク質および天然由来のラテックスを意味する。これらの高分子は、好ましくは親水性である。とりわけ例示され得る、植物由来の高分子としては、タンパク質およびタンパク質加水分解物、ならびにより具体的には、穀物の抽出物、マメ科植物の抽出物および油を産生する植物の抽出物、例えば、コーン、ライムギ、コムギ、ソバ、ゴマ、スペルトコムギ、エンドウマメ、マメ、レンズマメ、ダイズおよびハウチワマメの抽出物が挙げられる。合成高分子は一般にラテックスまたはシュードラテックスの形態であり、重縮合物型であってもよく、フリーラジカルの重合によって得られるものであってもよい。とりわけ、ポリエステル/ポリウレタンおよびポリエーテル/ポリウレタン分散液が例示され得る。好ましくは、張力付加剤はPVP/ジメチコニルアクリレートのコポリマーおよび親水性ポリウレタン(Hydromer社製のAquamere S-2001(登録商標))のコポリマーである。
【0045】
用語「艶消しポリマー」とは、本明細書において、皮膚のてかりを減少させ、顔色を一様にする、溶液中、分散液中または粒子の形態の任意のポリマーを意味する。例示され得る例としては、シリコーンエラストマー、樹脂粒子およびこれらの混合物が挙げられる。例示され得るシリコーンエラストマーの例としては、信越化学工業株式会社によってKSG(登録商標)の名称で、Dow Corning社によってTrefil(登録商標)、BY29(登録商標)もしくはEPSX(登録商標)の名称で、またはGrant Industries社によってGransil(登録商標)の名称で販売されている製品が挙げられる。
【0046】
本発明に従って使用される組成物は、TonEBP活性化剤以外の活性物質、特に、このリストに限定されることなく、以下から選択される、少なくとも1つの活性物質も含み得る:増殖因子の生成を刺激する薬剤;抗糖化または脱糖化剤;コラーゲンの合成を増加させるかまたはその分解を防ぐ薬剤(抗コラゲナーゼ剤、とりわけマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤);エラスチンの合成を増加させるかまたはその分解を防ぐ薬剤(抗エラスターゼ剤);インテグリンまたは接着斑構成成分、例えばテンシンの合成を刺激する薬剤;グリコサミノグリカンもしくはプロテオグリカンの合成を増加させるかまたはそれらの分解を防ぐ薬剤(抗プロテオグリカナーゼ剤);線維芽細胞増殖を増加させる薬剤、脱色または抗色素沈着剤;抗酸化剤またはフリーラジカルスカベンジャーまたは抗汚染剤;ならびにこれらの混合物。
【0047】
このような薬剤の例は、とりわけ:植物抽出物、特にヤハズツノマタ(Chondrus crispus)、高度好熱菌(Thermus thermophilus)、エンドウ(Pisum sativum)(Proteasyl(登録商標)TP LS)、ツボクサ(Centella asiatica)、セネデスムス、ワサビノキ(Moringa pterygosperma)、アメリカマンサク、ヨーロッパグリ(Castanea sativa)、ローゼル(Hibiscus sabdriffa)、ゲッカコウ(Polianthes tuberosa)、アルガン(Argania spinosa)、アロエベラ(Aloe vera)、ニホンスイセン(Narcissus tarzetta)またはカンゾウの抽出物;ダイダイ(Citrus aurantium)(ネロリ)の精油;α-ヒドロキシ酸、例えば、グリコール酸、乳酸およびクエン酸、ならびにそれらのエステル;β-ヒドロキシ酸、例えばサリチル酸およびその誘導体;植物タンパク質加水分解物(とりわけ、ダイズまたはヘーゼルナッツのもの);アシル化オリゴペプチド(とりわけ、Sederma社によって商品名Maxilip(登録商標)、Matrixyl(登録商標)3000、Biopeptide(登録商標)CLまたはBiopeptide(登録商標)ELで販売されているもの);酵母エキス、特に、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のもの;藻類抽出物、特に、ラミナリア属のもの;ビタミンおよびその誘導体、例えば、パルミチン酸レチニル、アスコルビン酸、アスコルビルグルコシド、アスコルビルリン酸マグネシウムまたはナトリウム、パルミチン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸アスコルビル、アスコルビルソルベート(ascorbyl sorbate)、トコフェロール、酢酸トコフェロールおよびトコフェリルソルベート(tocopheryl sorbate);アルブチン;コウジ酸;エラグ酸;ならびにこれらの混合物である。
【0048】
変形例としてまたは加えて、本発明に従って使用される組成物は、少なくとも1つのエラスターゼ阻害剤(抗エラスターゼ)、例えば、とりわけ、Laboratoires Serobiologiques/Cognis France社によって商品名Proteasyl TP LS(登録商標)で販売されているエンドウ(Pisum sativum)の種の抽出物を含み得る。
【0049】
組成物は、不活性添加剤またはこれらの添加剤の組合せ、例えば、湿潤剤、安定剤、水分調節剤、pH調節剤、浸透圧調整剤またはUV-AおよびUV-Bスクリーンも含有し得る。
【実施例
【0050】
実施例1: 未処理細胞に対する浸透圧ストレスに曝露された正常ヒト角化細胞におけるTonEBPタンパク質の局在化の評価
実験の目的は、TonEBP細胞内局在化およびタンパク質の量に対する高浸透圧ストレスの影響を可視化することである。このプロトコルにより、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)におけるTonEBPに特異的な免疫蛍光シグナルを可視化することが可能になる。
【0051】
材料および方法:
2名の若年ドナー由来のNHEK(Promocell)を、4ウェルチャンバースライドで、角化細胞成長培地(KGM2基本培地+SupplementMix、Promocell)中、37℃、5%COで培養した。70%コンフルエントになったところで、細胞を、PBS緩衝液(Life Technologies)で洗浄し、100または200mM NaCl(Sigma S5150)を6時間添加することによって、ストレスをかけた。非ストレス細胞については、NaClなしで、細胞の培養を続けた。
ストレスをかけた後、細胞を、PBS 1X緩衝液ですすぎ、10%ホルマリンで15分間固定し、Triton X-100(0.1%)で10分間透過処理した。非特異的結合を防ぐために、ヤギ血清3%-PBS 1Xを、室温で1時間添加した。一次抗体(1/300)を、4℃で一晩添加した。二次抗体、Alexafluor 546ヤギ抗ウサギIgG(H+L)を、室温で1時間インキュベートし、DAPI(Sigma 32670-25MG-F 10mg/ml)を使用して、細胞核を可視化した。試料を免疫蛍光のための専用の封入剤(Vectashield Vector Laboratories H-1000)に封入し、マニキュア液で密封した。
【0052】
結果:
TonEBPタンパク質は、非ストレス細胞において、核および角化細胞の両方で良好に検出される。100または200mMのNaClを用いた高浸透圧ストレス処理の後、非ストレス細胞と比較して、TonEBP核シグナルは増加し、細胞容積は減少する(データ示さず)。
【0053】
実施例2: 植物抽出物を用いた処理後の、浸透圧ストレスをかけたヒト角化細胞におけるTonEBPタンパク質の局在化/レベル評価
高浸透圧ストレスおよび非ストレス条件において、特異的免疫蛍光染色によって、TonEBPのタンパク質レベルおよび細胞内局在化に対する、植物抽出物Oleo Camellia Noirの効果を評価した。
【0054】
Oleo Camellia Noir抽出物は、国際公開第2016/016515号パンフレットに開示されている手順に従って、ツバキの花から得た、植物抽出物である。
【0055】
材料および方法:
2名の若年ドナー由来のNHEK(Promocell)を、4ウェルチャンバースライドで、角化細胞成長培地(KGM2基本培地+SupplementMix、Promocell)中、37℃、5%COで培養した。およそ50%コンフルエントになったところで、細胞を、0.05% Oleo Camellia Noir(OA Noir)で48時間前処理し、次いで、100または200mM NaCl(Sigma S5150)を、6時間添加して、高浸透圧ストレスを誘導した。
【0056】
結果:
高浸透圧ストレス下(NaCl 100または200mM)では、OA Noir処理細胞は、未処理細胞と比較して、TonEBP核シグナルの明らかな増加を示した。OA処理は、未処理細胞と比較して、処理細胞において細胞容積の増加を誘導した(データ示さず)。
【0057】
OA処理は、TonEBP核シグナルを増加させるだけでなく、細胞質へのその伝播を制限した。Oleo Camellia Noir処理は、高浸透圧ストレスに応答してTonEBP合成を促進し、これによって皮膚の水分補給を向上させた。
なお、本発明には、以下の実施形態が包含されるものとする。
[1]皮膚に水分補給するための候補化合物をスクリーニングする方法であって、以下のステップ:
a.少なくとも1つの試験化合物を、角化細胞の試料と接触させるステップ、
b.前記角化細胞中のTonEBPの細胞内の量または活性を測定するステップ、
c.未処理の角化細胞と比較して、a.において処理された前記角化細胞中のTonEBPの細胞内の量および/または活性を刺激する前記化合物を選択するステップ
を含む方法。
[2]ステップb.が、ステップa.の前および後に実施される、前記[1]に記載の方法。
[3]以下のステップ:
a’.角化細胞の少なくとも2つの試料を調製するステップ、
a.前記試料のうちの1つを、少なくとも1つの試験化合物と接触させるステップ、
b.前記試料中のTonEBPの発現または活性を測定するステップ、ならびに
c.未処理の角化細胞の前記試料と比較して、a.において処理された前記角化細胞中のTonEBPの発現および/または活性を刺激する前記化合物を選択するステップを含む、前記[1]に記載の方法。
[4]前記角化細胞が、浸透圧ストレスをかけられた角化細胞である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]前記試験化合物が、植物抽出物から選択される、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]ステップc.で選択された前記化合物が、TonEBPの細胞内の量および/または活性を少なくとも30%刺激する、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。