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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 5/00 20060101AFI20220202BHJP
   F24F 1/0093 20190101ALI20220202BHJP
【FI】
F24F5/00 101B
F24F5/00 K
F24F1/0093
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017251214
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019117023
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】細沢 貴史
(72)【発明者】
【氏名】桂川 佳裕
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠己
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-055414(JP,A)
【文献】特開2016-183828(JP,A)
【文献】特開2012-141115(JP,A)
【文献】実開平02-009713(JP,U)
【文献】特開2012-247110(JP,A)
【文献】特開2004-132560(JP,A)
【文献】実開昭54-060944(JP,U)
【文献】特開平04-292730(JP,A)
【文献】特開2015-148357(JP,A)
【文献】米国特許第04766951(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 5/00
F24F 1/0093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調対象域に臨む状態で空調対象域の上方側に配設された放射部材と、
前記放射部材に沿わせて配設された熱媒管とが備えられ、
前記熱媒管に熱媒を通流させることで前記放射部材を介して空調対象域を空調する空調システムであって、
前記放射部材が、少なくとも長手方向に延在する底板部と当該底板部から立ち上がる側板部とを有して上方又は側方が開放された長尺型材にて構成されて上方又は側方が開放された状態で配設され、
前記熱媒管が、前記放射部材における前記底板部の上面に載置され、
前記放射部材が、空調対象域の上方側において、前記側板部を空調対象域に露出させ、且つ、空調対象域と天井裏空間とを連通させる隙間を空けた状態で複数配置され、
複数の前記放射部材を平面視で間隔を空けた状態で配設して構成された第一放射部と、
複数の前記放射部材を前記第一放射部の前記放射部材とは平面視で位置ズレさせた状態で前記第一放射部よりも上方側に配設して構成された第二放射部とが備えられ、
前記第一放射部が、複数の前記放射部材を平面視で第一方向に沿って間隔を空けた状態で配設して構成され、
前記第二放射部が、複数の前記放射部材を平面視で前記第一方向に交差する第二方向に沿って間隔を空けた状態で配設して構成されている空調システム。
【請求項2】
前記放射部材どうしの間の隙間は、前記放射部材の長手方向に直交する短手方向における前記放射部材の幅よりも大きく設定されている請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記長尺型材が、前記底板部と左右の前記側板部とを有して上方が開放された建築用鋼製下地材として汎用される断面コの字状の汎用型材である請求項1又は2に記載の空調システム。
【請求項4】
複数の前記放射部材が、平面視で第一方向に沿って所定ピッチで配設されている請求項1~のいずれか1項に記載の空調システム。
【請求項5】
前記放射部材には、放射率を向上させる表面仕上げが施されている請求項1~のいずれか1項に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射部材を介して空調対象域を空調する空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の空調システムは、特許文献1に示すように、空調対象域に臨む状態で空調対象域の上方側に配設された放射部材(第一プレート部(14)、第二プレート部(16)、アルミフィン(18)、第一リブ(22))と、放射部材に沿わせて配設された熱媒管(20)とが備えられ、熱媒管に熱媒を通流させることで放射部材を介して空調対象域を空調するように構成されている。
【0003】
特許文献1記載の空調システムでは、放射部材が、少なくとも長手方向に延在する幅広な底板部(第一プレート部(14)、第二プレート部(16)、アルミフィン(18))と当該底板部の中央部位から立ち上がる中央板部(第一リブ(22))とを有して上方が開放された長尺型材にて構成され、放射パネルを形成するための板状の基部材(12)の下面側に取り付けられて上方開放部が閉塞された状態で配設されている。
また、放射部材は、幅広な底板部を空調対象域に露出させる状態で配置されているとともに、底板部の裏側を通じて空調対象域と天井裏空間とを連通する隙間(通気スリット(28))を空けた状態で複数配置されている。熱媒管は、放射部材とその上方の基部材との間の閉塞された空間に設けられている。
【0004】
この空調システムでは、冷房時において、放射部材の底板部から下方の空調対象域に熱を放射(輻射)させることで、放射による空調を行うことができるとともに、空調対象域での熱負荷により自然上昇して放射部材どうしの隙間を通じて天井裏空間に流入した空気を天井側の基部材を介して冷却し、その冷気を放射部材どうしの隙間を通じて自然降下させることで、自然対流による空調も行うことができ、放射と自然対流とを併用して空調を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-247110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の空調システムでは、放射部材の空調対象域に露出する部位が底板部だけであるので、放射面の面積を確保するためには幅広な底板部を有する専用の長尺型材を用いる必要があり、イニシャルコストがかかる不都合がある。
また、放射部材の上方開放部が基部材にて閉塞されているので、その分、放射部材による天井裏空間の空気の冷却効果が弱くなり、自然対流による空調が効率良く行えない。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、放射部材に要するイニシャルコストを抑えることを可能としながら、放射と自然対流とを併用した空調の効率化を図ることができる空調システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、空調対象域に臨む状態で空調対象域の上方側に配設された放射部材と、
前記放射部材に沿わせて配設された熱媒管とが備えられ、
前記熱媒管に熱媒を通流させることで前記放射部材を介して空調対象域を空調する空調システムであって、
前記放射部材が、少なくとも長手方向に延在する底板部と当該底板部から立ち上がる側板部とを有して上方又は側方が開放された長尺型材にて構成されて上方又は側方が開放された状態で配設され、
前記熱媒管が、前記放射部材における前記底板部の上面に載置され、
前記放射部材が、空調対象域の上方側において、前記側板部を空調対象域に露出させ、且つ、空調対象域と天井裏空間とを連通させる隙間を空けた状態で複数配置され、
複数の前記放射部材を平面視で間隔を空けた状態で配設して構成された第一放射部と、
複数の前記放射部材を前記第一放射部の前記放射部材とは平面視で位置ズレさせた状態で間隔を空けて前記第一放射部よりも上方側に配設して構成された第二放射部とが備えられ、
前記第一放射部と前記第二放射部とは、上下方向に複数段状に並ぶように配設されていると好適である。
【0009】
本構成によれば、まずは、放射部材から下方の空調対象域に熱を放射させることで、放射による空調を行うことができるとともに、空調対象域での熱負荷により自然上昇して放射部材どうしの隙間を通じて天井裏空間に流入した空気を放射部材にて冷却し、その冷気を放射部材どうしの隙間を通じて自然降下させることで、自然対流による空調も行うことができ、放射と自然対流とを併用して空調を行うことができる。
【0010】
そして、放射部材が、側板部を空調対象域に露出させ、且つ、空調対象域と天井裏空間とを連通させる隙間を空けた状態で複数配置されているので、空調対象域と天井裏空間とを連通させる隙間を利用して各放射部材の側板部を斜め下方側からの見つけ面(形態係数)として有効に寄与させることができ、放射部材の底板部と側板部とで空調対象域に対する放射面積を良好に確保することができる。そのため、放射部材を構成する長尺型材が前述した幅広な底板部を有する専用の型材に縛られず、放射部材を構成する長尺型材として他の形状(例えば、幅広な底板部を有さない形状等)の安価な型材を用いることも可能となり、イニシャルコストを抑えることができる。
【0011】
しかも、放射部材が、上方又は側方が開放された長尺型材にて構成されて上方又は側方が開放された状態で配設されているので、放射部材にて天井裏空間の空気を効率良く冷却することができ、自然対流による空調を効率良く行うことができる。
更に、熱媒管が、上方又は側方が開放された状態で配設された長尺型材の底面部の上面に載置されているので、上方又は側方の開放部をメンテナンス用の開口に利用して熱媒管の漏水等の状態確認を容易に行うことができ、メンテナンス性にも優れている。
【0012】
なお、放射部材の底板部の上面に載置された熱媒管の側方への移動を放射部材の側板部にて阻止することができ、放射部材からの熱媒管の脱落を適切に防止することができる。
また、放射部材どうしの間の隙間を通じて空調対象域と天井裏空間とが連通するので、例えば、天井スラブに吸音材を設ける等により、放射部材どうしの間の隙間を通じて有効な吸音を容易に行うことが可能となる。更に、例えば、天井チャンバー式の排煙を採用することも可能となり、その場合には、感知器を天井裏空間に目立たないよう設けることができる。加えて、多数の放射部材を分散配置して放射面を細かく分割した開放天井とすることにより、空調対象域における上方側からの圧迫感を緩和することも可能となる。
更に、本構成によれば、平面視で位置ズレした鉛直方向下側の第一放射部の放射部材と鉛直方向上側の第二放射部の放射部材とにより空調対象域への放射面積を広く確保することができ、その広い放射面積を用いて空調負荷が高い場合にも適切に対応することができる。
本発明の第特徴構成は、空調対象域に臨む状態で空調対象域の上方側に配設された放射部材と、
前記放射部材に沿わせて配設された熱媒管とが備えられ、
前記熱媒管に熱媒を通流させることで前記放射部材を介して空調対象域を空調する空調システムであって、
前記放射部材が、少なくとも長手方向に延在する底板部と当該底板部から立ち上がる側板部とを有して上方又は側方が開放された長尺型材にて構成されて上方又は側方が開放された状態で配設され、
前記熱媒管が、前記放射部材における前記底板部の上面に載置され、
前記放射部材が、空調対象域の上方側において、前記側板部を空調対象域に露出させ、且つ、空調対象域と天井裏空間とを連通させる隙間を空けた状態で複数配置され、
複数の前記放射部材を平面視で間隔を空けた状態で配設して構成された第一放射部と、
複数の前記放射部材を前記第一放射部の前記放射部材とは平面視で位置ズレさせた状態で前記第一放射部よりも上方側に配設して構成された第二放射部とが備えられ、
前記第一放射部が、複数の前記放射部材を平面視で第一方向に沿って間隔を空けた状態で配設して構成され、
前記第二放射部が、複数の前記放射部材を平面視で前記第一方向に交差する第二方向に沿って間隔を空けた状態で配設して構成されている点にある。
本構成によれば、まずは、放射部材から下方の空調対象域に熱を放射させることで、放射による空調を行うことができるとともに、空調対象域での熱負荷により自然上昇して放射部材どうしの隙間を通じて天井裏空間に流入した空気を放射部材にて冷却し、その冷気を放射部材どうしの隙間を通じて自然降下させることで、自然対流による空調も行うことができ、放射と自然対流とを併用して空調を行うことができる。
そして、放射部材が、側板部を空調対象域に露出させ、且つ、空調対象域と天井裏空間とを連通させる隙間を空けた状態で複数配置されているので、空調対象域と天井裏空間とを連通させる隙間を利用して各放射部材の側板部を斜め下方側からの見つけ面(形態係数)として有効に寄与させることができ、放射部材の底板部と側板部とで空調対象域に対する放射面積を良好に確保することができる。そのため、放射部材を構成する長尺型材が前述した幅広な底板部を有する専用の型材に縛られず、放射部材を構成する長尺型材として他の形状(例えば、幅広な底板部を有さない形状等)の安価な型材を用いることも可能となり、イニシャルコストを抑えることができる。
しかも、放射部材が、上方又は側方が開放された長尺型材にて構成されて上方又は側方が開放された状態で配設されているので、放射部材にて天井裏空間の空気を効率良く冷却することができ、自然対流による空調を効率良く行うことができる。
更に、熱媒管が、上方又は側方が開放された状態で配設された長尺型材の底面部の上面に載置されているので、上方又は側方の開放部をメンテナンス用の開口に利用して熱媒管の漏水等の状態確認を容易に行うことができ、メンテナンス性にも優れている。
なお、放射部材の底板部の上面に載置された熱媒管の側方への移動を放射部材の側板部にて阻止することができ、放射部材からの熱媒管の脱落を適切に防止することができる。
また、放射部材どうしの間の隙間を通じて空調対象域と天井裏空間とが連通するので、例えば、天井スラブに吸音材を設ける等により、放射部材どうしの間の隙間を通じて有効な吸音を容易に行うことが可能となる。更に、例えば、天井チャンバー式の排煙を採用することも可能となり、その場合には、感知器を天井裏空間に目立たないよう設けることができる。加えて、多数の放射部材を分散配置して放射面を細かく分割した開放天井とすることにより、空調対象域における上方側からの圧迫感を緩和することも可能となる。
更に、本構成によれば、平面視で位置ズレした鉛直方向下側の第一放射部の放射部材と鉛直方向上側の第二放射部の放射部材とにより空調対象域への放射面積を広く確保することができ、その広い放射面積を用いて空調負荷が高い場合にも適切に対応することができる。
しかも、本構成によれば、平面視で交差する状態で位置ズレした延直方向下側の第一放射部の放射部材と鉛直方向上側の第二放射部の放射部材とにより空調対象域への放射面積を効率良く確保することができる。また、例えば、平面視で交差する状態で位置ズレした延直方向下側の第一放射部の放射部材と鉛直方向上側の第二放射部の放射部材とを安定的且つ強固に組み付けることができ、そのようにすれば、夫々の放射部材の振れ止めを効率良く行うことができる。
本発明の第特徴構成は、前記放射部材どうしの間の隙間は、前記放射部材の長手方向に直交する短手方向における前記放射部材の幅よりも大きく設定されている点にある。
【0013】
本発明の第特徴構成は、前記長尺型材が、前記底板部と左右の前記側板部とを有して上方が開放された建築用鋼製下地材として汎用される断面コの字状の汎用型材である点にある。
【0014】
本構成によれば、壁や天井の鋼製下地材等の建築用鋼製下地材として汎用される断面略コの字状の汎用型材にて放射部材を構成するので、空調対象域の上方側での施工に慣れた汎用型材を用いることによる良好な施工性を確保しながら、イニシャルコストの低廉化を図ることができる。更に、放射部材が、上方が開放された凹部を有する形状であるので、その凹部内に収容された熱媒管側でたとえ結露が発生しても、空調対象域側に滴下するのを抑制することができる。
【0019】
本発明の第特徴構成は、複数の前記放射部材が、平面視で第一方向に沿って所定ピッチで配設されている点にある。
【0020】
本構成によれば、空調対象域の上方側で規則的に並ぶ放射部材により空調作用が均一で意匠性も優れた放射天井を構成することができる。
【0021】
本発明の第特徴構成は、前記放射部材には、放射率を向上させる表面仕上げが施されている点にある。
【0022】
本構成によれば、放射率を向上させる表面仕上げを施すことで、長尺型材からなる放射部材がパネル等に比べて放射面積が小さくなるのを補って所望の放射率を得ることができ、放射による空調を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】空調システムの概念図
図2】空調システムを下方側(空調対象域側)から見た斜視図
図3】熱媒管が配設された状態の放射部材を短手方向に沿って切断した縦断面図
図4】(a)熱媒管が配設された状態の放射部材の要部の平面図、(b)熱媒管が配設された状態の放射部材の要部の側面図
図5】熱媒の流れを示す図
図6】空調システムを上方側(天井裏空間)から見た斜視図
図7図6の要部をX方向に沿って切断した断面図
図8図6の要部をY方向に沿って切断した断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の空調システムの実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1を参照して本空調システムの基本構成について説明する。
図1に示すように、この空調システムは、空調対象域Aに臨む状態で空調対象域Aの上方側に配設された放射部材1と、放射部材1に沿わせて配設された熱媒管2とが備えられ、熱媒管2に冷水(熱媒の一例)を通流させることで放射部材1を介して空調対象域Aを空調するように構成されている。
なお、図1中において、太実線矢印は放射部材1からの放射のイメージを示し、細実線矢印は自然上昇する暖気の流れを示し、細点線矢印は自然降下する冷気の流れを示している。
【0025】
前記放射部材1は、本実施形態では、長手方向に延在する底板部1Aと当該底板部1Aから立ち上がる左右の側板部1Bを有して上方が開放された断面コの字状の長尺型材にて構成され、上方が開放された状態(姿勢)で配設されている。放射部材1を構成する長尺型材としては、建築用鋼製下地材として汎用される汎用型材が好適に用いられる。
そして、放射部材1は、空調対象域Aの上方側の天井レベルにおいて、側板部1Bを空調対象域に露出させ、且つ、空調対象域Aと天井裏空間Cとを連通する隙間3を空けた状態で複数配置されている。
【0026】
前記熱媒管2は、適度な可撓性と熱伝導性とを有する樹脂製の配管材料で構成されており、放射部材1における底板部1Aの上面に複数本が並列状態で載置されている。熱媒管2を通流する冷水の保有熱が放射部材1に伝達され、その放射部材1を介して空調対象域Aが空調される。
【0027】
このように構成された空調システムは、冷房時において、天井側の放射部材1から下方の空調対象域Aに熱を放射(輻射)させることで、放射による空調を行うことができるとともに、空調対象域Aでの熱負荷により自然上昇して放射部材1どうしの隙間3を通じて天井裏空間Cに流入した空気を天井側の放射部材1により冷却し、その冷気を放射部材1どうしの隙間3を通じて自然降下させることで、自然対流による空調も行うことができ、放射と自然対流とを併用して空調対象域Aの空調を行うことができる。
【0028】
そして、空調対象域Aと天井裏空間Cとを連通させる隙間3により、各放射部材1において、底板部1Aの下面部1a(図3参照)だけでなく、側板部1Bの外面部1b(図3参照)を斜め下方側からの見つけ面(形態係数)として有効に寄与させることができ、放射部材1の底板部1Aと側板部1Bとで空調対象域Aに対する放射面積を良好に確保し、放射による空調を効率良く行うことができる。
更に、天井裏空間Cに露出する放射部材1にて天井裏空間Cの空気を効率良く冷却することができ、自然対流による空調も効率良く行うことができる。また、各放射部材1の上方の開放部をメンテナンス用の開口に利用して、放射部材1の底板部1Aの上面に載置された熱媒管2の漏水等の状態確認を容易に行うことができ、メンテナンス性にも優れている。
しかも、放射部材1を、壁や天井の鋼製下地材等の建築用鋼製下地材として汎用される断面略コの字状の汎用型材にて構成するので、天井側での施工に慣れた汎用型材を用いることによる良好な施工性を確保しながら、イニシャルコストの低廉化を図ることができる。
【0029】
なお、放射部材1は、側方が開放された断面コの字状の長尺型材にて構成され、側方が開放された状態で配設されていてもよく、また、底板部1Aと単一の側板部1Bとを有して上方及び側方が開放された断面L字状等の長尺型材にて構成され、上方及び側方が開放された状態で配設されていてもよい。つまり、放射部材1は、少なくとも底板部1Aと側板部1Bとを有して上方又は側方が開放された長尺型材にて構成され、上方又は側方が開放された状態で配設されていればよい。
【0030】
次に、図2図8を参照して本空調システムの具体構成について説明する。
図2に示すように、この空調システムには、多数の放射部材1を平面視で間隔を空けた状態で配設して構成された上下二段(複数段の一例)の放射部4、5が備えられている。
具体的には、鉛直方向下側(図2中手前側)の第一放射部4と、多数の放射部材1を第一放射部4の放射部材1とは平面視で位置ズレさせた状態で第一放射部4よりも上方側に配設して構成された鉛直方向上側(図2中奥側)の第二放射部5とが備えられている。平面視で位置ズレした鉛直方向下側の第一放射部4の放射部材1と鉛直方向上側の第二放射部5の放射部材1とにより空調対象域A(図1参照)への放射面積を広く確保することができる。
【0031】
なお、第一放射部4及び第二放射部5において、放射部材1どうしの間隔は、例えば、放射部材1の短手方向の幅(横幅)よりも大に設定されており、天井裏空間C(図1参照)が開放された圧迫感の少ない開放天井を構成している。また、鉛直方向下側の第一放射部4の放射部材1の下端が天井レベルに配置されている。
【0032】
前記第一放射部4は、平行する多数の放射部材1を平面視で第一方向Xに沿って間隔を空けた状態で配設して構成されている。前記第二放射部5は、平行する多数の放射部材1を平面視で第一方向Xに直交(交差の一例)する第二方向Yに沿って間隔を空けた状態で配設して構成されている。第一放射部4及び第二放射部5を構成する放射部材1は、平面視で格子状に配置されている。
本実施形態では、第一放射部4を構成する放射部材1や第二放射部5を構成する放射部材1は、干渉する別部材が配置される等により間隔を変更する必要がある部位を除き、所定ピッチで配設されている。なお、第一放射部4を構成する放射部材1や第二放射部5を構成する放射部材1のピッチを部位毎に変更するようにしてもよい。
【0033】
図3に示すように、第一放射部4、第二放射部5を構成する放射部材1は、前記底板部1Aと左右の前記側板部1Bを有して上方が開放された建築用鋼製下地材として汎用される断面コの字状の汎用型材にて構成されている。なお、この放射部材1における左右の側板部1Bの上端部には、内向きに延出したのちに下向きに延出する断面L字状の折り返し片部1cが形成され、詳細は後述するが、スラブS(図1参照)に吊り下げ支持する場合に好適に利用される。
【0034】
各放射部材1の底板部1Aの上面部には、熱媒管2と放射部材1との間の熱伝導性を向上させる熱伝導シート6が備えられている。この熱伝導シート6は、例えば、熱伝導率が高い炭素繊維等からなる基材6Aをフィルム6B等で被覆して構成されている。熱伝導シート6の上面には、平行に並ぶ複数本(本例では4本)の熱媒管2との接触面積(伝熱面積)を拡大するとともに熱媒管2を所定位置に保持する複数の凹条6aが形成されている。そのため、凹条6aに装着された熱媒管2を流れる冷水の保有熱を放射部材1に効率良く伝えることができる。
【0035】
また、各放射部材1の少なくとも外周面(底板部1Aの下面部1aと側板部1Bの外面部1b)には、例えば、合同インキ株式会社のユニクール(登録商標)等の放射率の向上機能を有する放熱塗料を塗布して放射率の高い表面層(図示省略)を形成することで、放射率を向上させる表面仕上げが施されている。
なお、放射率を向上させる表面仕上げとしては、アルミシートを貼り付けて放射率の高い表面層(図示省略)を形成するものであってもよく、放射率を向上させる各種の表面仕上げを適宜に用いることができる。
【0036】
図4(a)、(b)に示すように、各放射部材1の長手方向の一端側に往きヘッダ2Aが配設され、その往きヘッダ2Aに複数本の熱媒管2の一端部が接続されている。また、各放射部材1の長手方向の他端側に還りヘッダ2Bが配設され、その還りヘッダ2Bに複数本の熱媒管2の他端部が接続されている。往きヘッダ2Aに供給された冷水は、複数本の熱媒管2を通過して還りヘッダ2Bに至るようになっている。
【0037】
図2図5に示すように、この空調システムには、熱源(図示省略)から第一放射部4及び第二放射部5の各放射部材1の熱媒管2に冷水を循環供給する熱媒循環供給部20が備えられている。
なお、この図5では、放射部材1毎の複数本の熱媒管2をまとめて1本の線で表している。また、第一放射部4及び第二放射部5の一方に対する熱媒供給系のみを示しているが、第一放射部4及び第二放射部5の他方に対する熱媒供給系は、平面視で90度回転させる以外は同様である。
【0038】
熱媒循環供給部20は、第一放射部4及び第二放射部5の各放射部材1に沿わせて配設された熱媒管2に対して熱源(図示省略)から冷水を供給するための往路21と、熱媒管2を通過した冷水を熱源に戻す還路22とが備えられている。
【0039】
本実施形態では、第一放射部4及び第二放射部5において、隣接する複数(本例では4つ)の放射部材1を1グループとし、各グループの放射部材1の熱媒管2に対して直列に冷水を供給する形態で、複数のグループに並列に冷水を供給するように構成されている。そのため、各グループにおいて複数の放射部材1の熱媒管2を直列に接続するための接続路23が備えられている。
具体的には、各グループにおいて、最上流側の放射部材1の往きヘッダ2Aに往路21が接続され、最下流側の放射部材1の還りヘッダ2Bに還路22が接続されている。また、隣接する放射部材1のうち、隣接して配置される上流側の放射部材1の還りヘッダ2Bと下流側の放射部材1の往きヘッダ2Aとが接続路23で接続されている。
【0040】
熱源からの冷水は、熱媒循環供給部20の往路21を通じて各グループの最上流側の放射部材1の熱媒管2に供給され、熱媒循環供給部20の接続路23を通じて各グループの下流側の放射部材1の熱媒管2に直列に順番に送られ、各グループの最下流側の放射部材1の熱媒管2を通過した後、熱媒循環供給部20の還路22に送られて熱源に戻される。
このようにして、熱源から第一放射部4及び第二放射部5に冷水が循環供給されている。
【0041】
次に、第一放射部4及び第二放射部5の支持構造について説明を加える。
図6に示すように、鉛直方向下側の第一放射部4は、スラブS(図1参照)から垂下する複数の吊りボルト12の下端部に接続された鉛直方向下側の複数の第一野縁受け7により上方から支持されている。また、鉛直方向上側の第二放射部5は、複数の第一野縁受け7にて下方から支持された鉛直方向上側の複数の第二野縁受け8により上方から支持されている。なお、第一野縁受け7、及び、第二野縁受け8は、長手方向に延在する底板部と天井板部と側板部とを有するC型鋼等から構成されている。
【0042】
具体的には、図6図8に示すように、上端部がスラブS(図1参照)に固定された吊りボルト12の下端部に第一野縁受け7が第一接続具9を用いて接続されている。第一野縁受け7は、第一方向Xに沿って延びる姿勢で第二方向Yに沿って所定の間隔を空けた状態で並べて配設されている。各第一野縁受け7は、複数本の吊りボルト12が接続されて複数本の吊りボルト12に上方から支持されている。
【0043】
第一接続具9は、公知の各種の接続具を採用可能であり、例えば、図7に示すように、吊りボルト12の下端部が挿入可能な挿通孔を有する上方側の取付板部9Aと、第一野縁受け7を下方から受け止め可能な下方側の凹状の受止板部9Bとを一体に備えたものを採用している。第一野縁受け7を受止板部9Bに受け止めさせ、吊りボルト12の下端部を取付板部9Aの挿通孔に挿通させた状態で、吊りボルト12に螺合させた上下一対のナット9aにて取付板部9Aを上下方向から締め付けることにより、吊りボルト12の下端部に第一野縁受け7を接続することができる。
【0044】
図6図8に示すように、複数の第一野縁受け7の下方側に、第一放射部4を構成する放射部材1が第二接続具10を用いて接続されている。第一放射部4を構成する放射部材1は、第二方向Yに沿って延びる姿勢で第一方向Xに沿って間隔を空けた状態で並べて配設されている。第一放射部4を構成する放射部材1は、複数の第一野縁受け7に接続されて複数の第一野縁受け7に上方から支持されている。
【0045】
第二接続具10は、公知の各種の接続具を採用可能であり、例えば、第一野縁受け7の天井板部に対して上方から被さる状態で係止可能な上方側の掛止板部10Aと、放射部材1の左右の側板部1Bの上端側から内側に延出する折り返し片部1cを下方から引っ掛ける状態で吊り下げ支持可能な下方側の支持板部10Bとを一体に備えた接続具を採用している。第一野縁受け7に掛止板部10Aを掛止させ、支持板部10Bに放射部材1を吊り下げ支持させることで、第一野縁受け7に第一放射部4の放射部材1を接続することができる。
【0046】
図6図7に示すように、第一野縁受け7の上方側に第二野縁受け8が第三接続具11を用いて接続されている。第二野縁受け8は、第二方向Yに沿って延びる姿勢で第一方向Xに沿って間隔を空けた状態で並べて配設されている。各第二野縁受け8は、複数の第一野縁受け7に接続されて複数の第一野縁受け7に下方から支持されている。
【0047】
第三接続具11は、公知の各種の接続具を採用可能であり、例えば、図8に示すように、引き寄せ用のボルト11aが貫通状態で螺合された天井板部11Aと、下端部に掛止片部11bを有する左右の側板部11Bとを備えた接続具を採用している。第二野縁受け8を左右の側板部11Bの間に位置させた状態で、左右の側板部11Bの下端部の掛止片部11bを第一野縁受け7の天井板部の下面部に引っ掛け、ボルト11aを締め込んで第二野縁受け8と第一野縁受け7を上下方向から引き寄せることで、第一野縁受け7に第二野縁受け8を接続することができる。
【0048】
図7に示すように、複数の第二野縁受け8の下方側に、第二放射部5を構成する放射部材1が第一放射部4と同様の接続形態にて第二接続具10を用いて接続されている。第二放射部5を構成する放射部材1は、第一方向Xに沿って延びる姿勢で第二方向Yに沿って間隔を空けた状態で並べて配設されている。第二放射部5を構成する放射部材1は、複数の第二野縁受け8に接続されて複数の第二野縁受け8に上方から支持されている。
このようにして、第一放射部4、及び、第二放射部5がスラブS(図1参照)に支持されている。
【0049】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用するものに限られず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0050】
(1)前述の実施形態では、第一放射部4の放射部材1と第二放射部5の放射部材1とを平面視で位置ズレさせた配置例として、第一放射部4の放射部材1と第二放射部5の放射部材1とを平面視で直交(交差の一例)させる配置例を示したが、第一放射部4の放射部材1と第二放射部5の放射部材1とが、平面視で完全に重ならなければ、どのように配置してもよい。
例えば、平面視において、第一放射部4の平行な放射部材1どうしの間に第二放射部5の放射部材1が位置するように、第一放射部4の放射部材1と第二放射部5の放射部材1とを平行に配置してもよい。その場合は、第一放射部4の放射部材1と第二放射部5の放射部材1とを平面視で全く重ならないように配置することができ、空調対象域Aへの放射面積を一層広く確保することができる。
【0051】
(2)前述の実施形態では、多数の放射部材1を平面視で間隔を空けた状態で配設して構成された放射部が上下二段に備えられている場合を例に示したが、放射部が一段又は三段以上に備えられていてもよい。
【0052】
(3)前述の実施形態では、熱媒の一例として、冷水を例に示したが、冷水に限らず冷媒や温水等であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 放射部材
1A 底板部
1B 側板部
2 熱媒管
3 隙間
4 第一放射部
5 第二放射部
A 空調対象域
C 天井裏空間
X 第一方向
Y 第二方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8