(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】防湿方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/64 20060101AFI20220202BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20220202BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
E04B1/64 A
E04G23/02 H
E04B5/43 G
(21)【出願番号】P 2018038241
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2017042194
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】中谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】千葉 陽輔
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特公平03-000299(JP,B2)
【文献】特開2000-248651(JP,A)
【文献】登録実用新案第3061709(JP,U)
【文献】特開2001-032394(JP,A)
【文献】特開2001-152589(JP,A)
【文献】特開昭58-115290(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0227090(US,A1)
【文献】特開2002-250088(JP,A)
【文献】特開2000-144940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
E04G 23/00 -23/08
E04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防湿性を有する材料により袋状に形成されるとともに、流体を充填可能な充填口を有する防湿材を
、床下空間に設置する防湿方法であって、
前記床下空間に連通する連通口を通じて前記床下空間に前記防湿材を進入させるセット工程と、
前記防湿材の前記充填口を通して前記防湿材内に前記流体を充填し、前記床下空間で前記防湿材を展開させる展開工程と、を有していることを特徴とする防湿方法。
【請求項2】
前記展開工程の後、前記防湿材から前記流体を排出する排出工程を有していることを特徴とする請求項
1に記載の防湿方法。
【請求項3】
前記排出工程では、前記流体の排出口を前記防湿材に形成することを特徴とする請求項
2に記載の防湿方法。
【請求項4】
前記セット工程では、前記防湿材を折り畳んだ状態で前記床下空間に進入させることを特徴とする請求項
1から請求項
3の何れか1項に記載の防湿方法。
【請求項5】
前記連通口は、基礎換気口及び床下点検口の少なくとも何れかであることを特徴とする請求項
1から請求項
4の何れか1項に記載の防湿方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防湿方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば基礎断熱工法(外周基礎に沿って断熱材を設置する工法)による建物等では、床下空間において地面からの湿気を抑えるための防湿性能を確保する必要がある。具体的に、基礎断熱工法の土間表面は、厚さ100mm以上のコンクリートや、厚さ0.1mm以上の防湿フィルム(重ね幅を300mm以上とし、厚さ50mm以上のコンクリート又は乾燥した砂で押さえたものに限る。)、その他同等の防湿性能があると確かめられた材料で覆われている必要がある(例えば、下記非特許文献1参照)。
【0003】
床下空間の防湿措置を行う技術としては、例えば下記特許文献1に記載の構成が知られている。下記特許文献1に記載の構成は、建物の新築時において、基礎を設置した後、土間表面を覆うように断熱・防湿層を設置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「日本住宅性能表示基準・評価方法基準技術解説(新築住宅)2016」工学図書株式会社、P.207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近時では、耐久性の向上や居住環境の改善等を目的としたリフォーム(基礎断熱改修や長期優良住宅化リフォーム等)において、既存建物の床下空間において地面に対して防湿措置を施す場合がある(以下、まとめて防湿処理という。)。
【0007】
防湿処理を行う第一の方法として、例えば床を一旦撤去した後、床下空間に防湿措置を施す方法がある。しかしながら、第一の方法では、リフォーム工事期間の長期化や、リフォーム費用の増加に繋がる等の課題がある。
【0008】
防湿処理の第二の方法として、床下点検口等を通じて作業員が床下空間に進入して防湿措置を施す方法も考えられる。しかしながら、第二の方法では、床下空間の全体に防湿措置を設置するには、作業性の向上を図る点で改善の余地がある。特に、防湿対象となる床下空間(グリッド)に進入できない場合には、人通点検口を別途形成する等の必要がある。そのため、上述したリフォーム工事期間の長期化や、リフォーム費用の増加を解決することは難しい。
【0009】
そこで、本発明は、上述した事情に考慮してなされたもので、低コスト化や、リフォーム工事期間の短縮、作業性の向上を図った上で、所望の防湿性能を得ることができる防湿方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様に係る防湿方法は、防湿性を有する材料により袋状に形成されるとともに、流体を充填可能な充填口を有する防湿材を、床下空間に設置する防湿方法であって、前記床下空間に連通する連通口を通じて前記床下空間に前記防湿材を進入させるセット工程と、前記防湿材の前記充填口を通して前記防湿材内に前記流体を充填し、前記床下空間で前記防湿材を展開させる展開工程と、を有している。
本態様によれば、防湿材を袋状に形成することで、防湿材内への流体の充填に伴い、防湿材を展開することができる。これにより、床下空間に連通する連通口(例えば、基礎換気口や床下点検口等)を通じて床下空間内に防湿材をセットした後、防湿材を流体によって展開することで、床下空間に防湿材を敷設できる。そのため、上述した第一の方法と異なり、防湿材が進入可能な連通口さえあれば、床下空間に防湿材を敷設できる。その結果、住まいながらに簡単に防湿処理を行うことができ、低コスト化や、リフォーム工事期間の短縮を図ることができる。
しかも、上述した第二の方法と異なり、防湿材の防湿対象となる床下空間全てに作業員が直接進入する必要がない。すなわち、防湿材が進入可能な連通口さえあれば、床下空間に防湿材を設置できるので、作業性を向上させ、更なる低コスト化や、リフォーム工事期間の短縮を図ることができる。
【0016】
上記態様において、前記展開工程の後、前記防湿材から前記流体を排出する排出工程を有していてもよい。
本態様によれば、床下空間の底面上に防湿材が萎んだ状態で敷設されるので、防湿材を床下空間の底面に密着させることができる。これにより、建物の防湿性能を確実に向上させることができる。
【0017】
上記態様において、前記排出工程では、前記流体の排出口を前記防湿材に形成してもよい。
本態様によれば、排出工程において、防湿材に排出口を形成することで、展開工程において、予め排出口を形成する場合に比べて防湿材をスムーズに展開させることができる。また、排出工程において、充填口のみを通じて流体を排出する場合に比べて、防湿材をスムーズに沈降させることができる。
【0018】
上記態様において、前記セット工程では、前記防湿材を折り畳んだ状態で前記床下空間に進入させてもよい。
本態様によれば、連通口が防湿材に対して小さい場合であっても、防湿材を床下空間に進入させることができる。特に防湿処理に伴い新たに連通口を形成する場合には、連通口の小型化を図り、連通口を形成する手間を削減できる。
【0019】
上記態様において、前記連通口は、基礎換気口及び床下点検口の少なくとも何れかであってもよい。
本態様によれば、袋体を床下空間に進入させる連通口として、基礎換気口や床下点検口を用いることで、防湿処理に伴い別途連通口を形成する必要がない。そのため、建物の美観を維持できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、低コスト化や、リフォーム工事期間の短縮、作業性の向上を図った上で、所望の防湿性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係る建物の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態に係る基礎の部分平面図である。
【
図4】第1実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図5】第1実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図6】第1実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図7】第1実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図8】第1実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図9】第1実施形態の他の構成に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図10】第2実施形態に係る防湿材の斜視図である。
【
図12】第2実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図13】第2実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図14】第2実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図15】第2実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図16】第2実施形態に係る防湿処理方法を説明するための工程図である。
【
図17】第2実施形態の他の構成に係る防湿材の斜視図である。
【
図18】実施形態の他の構成に係る防湿構造を説明するための断面図である。
【
図19】実施形態の他の構成に係る防湿材の斜視図である。
【
図20】
図19のXIX-XIX線に相当する防湿材の展開状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明では、本発明の防湿材、防湿構造及び防湿方法を既存建物の床下に採用した場合を例にして説明する。
(第1実施形態)
[既存建物]
図1は、実施形態に係る建物1の概略構成図である。
図1に示す建物1は、所定(例えば、305mm)のモジュールを有する工業化住宅である。すなわち、建物1は、規格化された複数の部材の組み合わせにより躯体が構成されている。
【0023】
建物1の躯体は、基礎2と、基礎2に固定された架構3と、を有している。
基礎2は、例えばRC造の連続布基礎である。基礎2は、上下方向に沿う断面視で逆T字状に形成されている。具体的に、基礎2は、地中に埋設されたフーチング部11と、フーチング部11から上方に突出する立ち上がり部12と、を有している。なお、基礎2は、ベタ基礎であっても構わない。
【0024】
架構3は、例えば鉄骨ラーメン構造である。すなわち、架構3は、角形鋼管等からなる柱(例えば、1階柱や2階柱)や、H形鋼等からなる梁(例えば、基礎梁15や2階梁17、R階梁(若しくは屋根梁)18)等が連結(剛接合)されて構成されている。
【0025】
基礎2及び基礎梁15上や2階梁17上には、それぞれ床(1階床21及び2階床22)が敷設されている。1階床21は、室内空間25と、床下空間26と、を仕切っている。各床21,22は、例えばALCパネル(Autoclaved Lightweight aerated Concretepanels)や合板、床仕上げ材等が積層されて構成されている。
また、2階梁17の下面や、R階梁(若しくは屋根梁)18の下面には、それぞれ天井材23が敷設されている。
【0026】
図2は、基礎2の部分平面図である。
図2に示すように、上述した基礎2は、床下空間26を複数のグリッド31に区画している。グリッド31は、基礎2の立ち上がり部12により四辺が取り囲まれた領域である。なお、各グリッド31の底面には、地面G(
図1参照)が露出している。但し、各グリッド31の底面には、土間コンクリート等が打設されていても構わない。
【0027】
基礎2の立ち上がり部12において、各グリッド31の少なくとも一辺に対応する部分には、グリッド31内にそれぞれ連通する基礎換気口(連通口)32が形成されている。一のグリッド31は、隣り合うグリッド31のうち、少なくとも何れかのグリッド31に基礎換気口32を通じて連通している。各グリッド31のうち、建物1の最外周に位置するグリッド31は、基礎換気口32を通じて建物1の外部に連通している。各グリッド31のうち、何れかのグリッド31は、1階床21に形成された床下点検口(連通口)33を通じて室内空間25(1階空間)内に連通している。なお、各グリッド31の大きさ(平面視での外形)は、適宜変更が可能である。また、
図2の例では、各グリッド31をそれぞれ同等の大きさに形成しているが、この構成のみに限らず、各グリッド31の大きさを互いに異ならせても構わない。
【0028】
[防湿処理]
次に、上述した建物1の防湿処理について説明する。本実施形態の防湿処理では、上述した基礎2で区画された各グリッド31内に、防湿材52(
図3参照)を敷設する。
【0029】
<防湿材>
まず、上述した防湿材52について説明する。
図3は、防湿材52の斜視図である。
図3に示すように、防湿材52は、空気を充填可能な袋体53を備えている。袋体53は、空気が充填されていない状態(萎んだ状態)で折り畳み可能に構成されている。そして、袋体53は、空気の充填に伴い膨張する。なお、袋体53の平面視外形は、萎んだ状態において、グリッド31の平面視外形よりも大きいことが好ましい。
【0030】
袋体53は、例えば2枚のシート54を互いに重ね合わせるとともに、シート54の外周部分同士を互いにシールして形成されている。各シート54は、少なくとも防湿性を有する材料により形成されていることが好ましい。このような材料としては、例えばJIS A6930住宅用プラスチック系防湿フィルムや、JIS Z1702包装用ポリエチレンフィルム、JIS K6781農業用ポリエチレンフィルム等の透湿抵抗のある防湿フィルム等が挙げられる。さらに、シート54は、防湿性に加えて防蟻性を有する材料であることがより好ましい。本実施形態において、シート54は例えばポリエチレン(厚さが0.1mm以上)により形成されている。なお、袋体53の構成は、適宜変更が可能である。例えば、袋体53は、筒状に形成されたシートの両端開口部をシールして形成しても構わない。
【0031】
袋体53の一部には、袋体53内に空気を充填するための充填口55が形成されている。充填口55は、各シート54同士のシール部分のうち第1辺に形成されている。但し、充填口55の形成位置は、適宜変更が可能である。充填口55は、例えば各シート54の何れかに形成しても構わない。
【0032】
<防湿処理方法>
続いて、上述した防湿材52を用いた防湿処理方法(防湿方法)について説明する。
図4~
図8は、防湿処理方法を説明するための工程図である。
本実施形態の防湿処理方法は、袋体セット工程と、展開工程と、排出工程と、確認工程と、押さえ工程と、を主に有している。本実施形態では、各グリッド31にそれぞれ一つずつの防湿材52を設置する。以下の説明では、
図2、
図4に示す各グリッド31のうち、建物1の外部に面していないグリッド31(以下、内側グリッド31aという。)内に防湿材52を設置する方法を例にして説明する。本実施形態において、内側グリッド31aは、床下点検口33を通じて隣接するグリッド(以下、隣接グリッド31bという。)内に連通している。隣接グリッド31bは、床下点検口33を通じて室内空間25に連通している。
【0033】
図4に示すように、袋体セット工程では、まず床下点検口33を開放して、作業員が隣接グリッド31b内に進入する。続いて、ブロワ70と防湿材52とを接続する。具体的には、ブロワ70の充填チューブ71を防湿材52の充填口55(
図3参照)に差し込む。この状態で、基礎換気口32を通じて内側グリッド31a内に防湿材52を進入させる。このとき、防湿材52は、基礎換気口32を通過可能な大きさに折り畳んだ(若しくは丸めた)状態で内側グリッド31aに進入させる。
【0034】
続いて、
図5に示すように、展開工程では、充填チューブ71を通じて防湿材52内に空気を充填する。防湿材52は、空気の充填に伴い内側グリッド31a内で上下方向に膨張しながら水平方向に展開していく。そして、内側グリッド31a内において、防湿材52が所定範囲まで広がった時点(本実施形態では、内側グリッド31a内の全体に防湿材52が広がった時点)で空気の充填を停止する。
【0035】
図6に示すように、排出工程では、充填口55から充填チューブ71を抜き取り、袋体53内の空気を排出する。すると、防湿材52が萎むのに伴い、防湿材52が沈降する。これにより、
図7に示すように、内側グリッド31aに露出する地面Gが防湿材52により覆われる。
【0036】
なお、排出工程において、袋体53に別途排出口を形成しても構わない。この場合、袋体53を構成するシート54のうち、何れかのシート54のみに(防湿材52全体を貫通しないように)形成することが好ましい。また、本実施形態では、袋体53に充填口55のみが形成された構成について説明したが、この構成のみに限らず、予め排出口が形成されていても構わない。予め排出口を形成する場合において、排出口の位置や大きさ、数は、展開工程において防湿材52の展開を妨げないように設定することが好ましい。
【0037】
確認工程では、防湿材52の設置後に、内側グリッド31aにおける防湿材52の到達状況を確認する。確認工程では、例えば建物1の外部に面する基礎換気口32や、作業員やカメラ等が進入可能な隣接グリッド31bの基礎換気口32を通して内側グリッド31a内を観察し、防湿材52の到達状況を確認する。なお、上述した方法による観察が難しい場合には、
図7に示す方法により確認工程を行っても構わない。まず1階床21における内側グリッド31aの四隅に対応する部分に、観察孔72を形成する。観察孔72は、例えば内径が20(mm)~50(mm)程度に形成する。続いて、観察孔72を通じて内視鏡型カメラ等を進入させ、内側グリッド31a内を確認する。なお、観察孔72は、袋体セット工程の前に形成しておいても構わない。また、観察孔72の形成位置や数等は、適宜変更が可能である。
【0038】
確認工程において、内側グリッド31a内での防湿材52の到達状況が不十分の場合には、観察孔72や基礎換気口32を通じて防湿材52を展開させる。一方、内側グリッド31a内での防湿材52の到達状況が十分の場合には、防湿材52の設置が完了する。すなわち、確認工程の終了時には、内側グリッド31aに露出する地面Gが防湿材52により覆われる(防湿構造)。本実施形態において、防湿材52は、中央部分が内側グリッド31aに露出する地面Gの全体を覆い、かつ外周部分が内側グリッド31aを構成する基礎2(立ち上がり部12)に沿って立ち上がっていることが好ましい。但し、防湿材52は、少なくとも地面Gの全体を覆っていれば構わない。なお、確認工程は、排出工程の前に行っても構わない。
【0039】
図8に示すように、押さえ工程では、防湿材52上に押さえ材73を敷設する。本実施形態において、押さえ材73には、流動化処理土が好適に用いられる。押さえ工程では、基礎換気口32や上述した観察孔72等を通して内側グリッド31a内に押さえ材73を充填する。本実施形態において、押さえ材73は、上下方向の厚さが50mm以上になるまで充填されることが好ましい。なお、押さえ材73は、コンクリートや乾燥した砂等であっても構わない。
【0040】
上述した防湿処理方法では、内側グリッド31a内に防湿材52を設置する構成について説明したが、他のグリッド31についても上述した方法に倣って防湿材52を設置することが可能である。例えば建物1の最外周に位置するグリッド31(
図2における外側グリッド31c)に防湿材52を設置する場合には、建物1の外部から基礎換気口32を通じて上述した方法と同様の方法を行う。これにより、外側グリッド31c内に防湿材52を設置できる。なお、基礎断熱改修を目的とした防湿処理の場合には、外側グリッド31cの基礎換気口32等を閉塞して、防湿処理後に床下空間26と建物1の外部との連通を遮断する。
【0041】
また、
図9に示すように、グリッド31のうち、建物1の外部や何れのグリッド31に連通してないグリッド31(
図9における閉塞グリッド31d)に防湿材52を設置する場合には、例えば1階床21に防湿材52が通過可能な連通口74を形成する。その後、連通口74を通じて上述した方法と同様の方法を行う。これにより、閉塞グリッド31d内に防湿材52を設置できる。閉塞グリッド31d内への防湿材52の設置後は、連通口74を蓋部材等で閉塞する。なお、連通口74の形成位置は、建物1の内観意匠を損なわない位置(例えば、クローゼット等)に形成することが好ましい。
【0042】
このように、本実施形態では、袋状の防湿材52を床下空間26に設置する構成とした。
この構成によれば、防湿材52を袋状に形成することで、防湿材52内への空気の充填に伴い、防湿材52を展開することができる。これにより、基礎換気口32等を通じてグリッド31内に防湿材52をセットした後、防湿材52を空気によって展開することで、グリッド31内に防湿材52を敷設できる。そのため、上述した第一の方法と異なり、防湿材52が進入可能な連通口さえあれば、グリッド31内に防湿材52を敷設できる。その結果、住まいながらに簡単に防湿処理を行うことができ、低コスト化や、リフォーム工事期間の短縮を図ることができる。
しかも、上述した第二の方法と異なり、防湿材52の防湿対象となるグリッド31内全てに作業員が直接進入する必要がない。すなわち、防湿材52が進入可能な連通口さえあれば、グリッド31内に防湿材52を設置できるので、作業性を向上させ、更なる低コスト化や、リフォーム工事期間の短縮を図ることができる。
【0043】
本実施形態では、グリッド31に露出する地面G上に、防湿材52が萎んだ状態で敷設された構成とした。
この構成によれば、防湿材52を地面Gに密着させることができる。これにより、建物1の防湿性能を確実に向上させ、建物1の耐久性の向上や居住環境の改善を図ることができる。
【0044】
本実施形態では、防湿材52上に押さえ材73が敷設されているため、防湿材52の捲れ等を抑制し、長期に亘って優れた防湿性能を確保できる。
【0045】
本実施形態では、袋体セット工程において、袋体53を折り畳んだ状態でグリッド31内に進入させる構成とした。
この構成によれば、連通口(基礎換気口32や床下点検口33、連通口74)が防湿材52に対して小さい場合であっても、防湿材52をグリッド31内に進入させることができる。特に防湿処理に伴い新たに連通口74を形成する場合には、連通口74の小型化を図り、連通口74を形成する手間を削減できる。
【0046】
本実施形態では、展開工程の後の排出工程において、防湿材52に排出口を形成することで、展開工程において、予め排出口を形成する場合に比べて防湿材52をスムーズに展開させることができる。また、排出工程において、充填口55のみを通じて空気を排出する場合に比べて、防湿材52をスムーズに沈降させることができる。
【0047】
本実施形態では、袋体53をグリッド31内に進入させる連通口として、基礎換気口32や床下点検口33を用いることで、防湿処理に伴い別途連通口を形成する必要がない。そのため、建物1の美観を維持できる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。本実施形態の防湿材52(袋体53)は、シート54の内面(各シート54の対向面)同士を接合部によって部分的に接合する点で、上述した第1実施形態と相違している。なお、以下の説明では、第1実施形態と同一又は対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0049】
図10は、第2実施形態に係る防湿材52の斜視図である。
図11は、
図10のXI-XI線に沿う断面図である。
図10、
図11に示す防湿材52は、袋体53を構成する各シート54の内面同士を接合する接合部200を有している。接合部200は、各シート54同士のシール部分210のうち、充填口55が形成された第1辺210aに隣り合う第2辺210b及び第3辺210cの延在方向(以下、単にX方向という。)に間隔をあけて複数形成されている。なお、上述したX方向は、充填口55の開口方向に沿う方向と言い換えることもできる。本実施形態の「接合」とは、溶着や接着等を含む。
【0050】
各接合部200は、第1辺210aの延在方向(以下、単にY方向という。)に沿って延びる複数の接合ライン201を有している。同一の接合部200を構成する各接合ライン201は、Y方向に間隔をあけた状態で、Y方向に沿って直線状に並んでいる。X方向で隣り合う接合部200と、シート54のシール部分210と、に画成された部分は、袋体53内に空気が充填された際に膨らむ膨張部202を構成している。なお、上述したY方向は、充填口55の開口方向に直交する方向と言い換えることもできる。
【0051】
一の接合部200において、Y方向で隣り合う接合ライン201同士の間や、接合ライン201と第2辺210bの間、接合ライン201と第3辺210cとの間は、X方向で隣り合う膨張部202同士を連通させる連通部203を構成している。すなわち、連通部203は、一の接合部200を構成する接合ライン201と同一直線状において、シート54同士が接合されていない領域である。なお、本実施形態において、隣り合う接合部200同士のX方向での間隔L1は例えば200mm程度に設定され、隣り合う接合ライン201同士のY方向での間隔L2(連通部203の幅)は20mm程度に設定されていることが好ましい。
【0052】
各接合部200において、接合ライン201のY方向での長さや、各接合ライン201間の間隔等は、適宜変更が可能である。例えば、
図10で示すように、隣り合う接合部200のうち、第1接合部200a及び第2接合部200bのように、第1接合部200aの連通部203と、第2接合部200bの接合ライン201と、がY方向で同位置に配置(接合部200a,200bの連通部203同士がX方向から見て重なり合わないように配置)されていてもよい。
一方、隣り合う接合部200のうち、第3接合部200c及び第4接合部200dのように、各接合部200c,200dの連通部203同士がX方向から見て重なり合っていてもよい。また、本実施形態では、第2辺210b及び第3辺210cとの間に連通部203が形成されている構成について説明したが、この構成のみに限られない。すなわち、第2辺210b及び第3辺210cに接合部200が連なっていてもよい。
【0053】
次に、本実施形態の防湿材52を用いた防湿処理方法について説明する。
図12~
図16は、防湿処理方法を説明するための工程図である。なお、以下の説明では、防湿材52のY方向での幅がグリッド31の幅に対して狭い場合において、一つのグリッド31に対して複数の防湿材52を敷設する方法について説明する。
【0054】
図12に示す袋体セット工程では、まず第1辺201aを自由端とした状態で、基礎換気口32を通過可能な大きさに袋体53を丸める。続いて、袋体53を渦巻き状に丸めた状態で、基礎換気口32を通じて袋体53をグリッド31内に進入させる。
【0055】
続いて、
図13に示す展開工程において、充填口55を通じて防湿材52内に空気を充填する。防湿材52内に充填された空気は、例えば第1接合部200aによってX方向への流通が妨げられることで、膨張部202のうち最も充填口55に近い第1膨張部202a内をY方向に広がる。第1膨張部202a内に充填された空気は、第1接合部200aの連通部203を通じて、第1膨張部202aに隣接する第2膨張部202b内に流入する。このように、防湿材52内に充填された空気は、Y方向に流通しながら、徐々にX方向に流通する。これにより、防湿材52が第1辺210aから第1辺210aに対向する第4辺210dに向けてX方向に徐々に展開していく。
【0056】
図14に示す展開工程の終了後、
図15に示すように防湿材52のうち第1辺210a側に位置する端部を把持し、Y方向における例えば第1側(
図15中の上側)に防湿材52(以下、第1防湿材52aという。)をスライドさせる。なお、防湿材52は、上述した第1実施形態と同様に排出工程を行ってもよく、展開工程後に充填口55を閉塞して防湿材52の展開状態を維持してもよい。
【0057】
続いて、
図16に示すように、上述した袋体セット工程から展開工程と同様の方法により、第2防湿材52bをグリッド31内で展開させる。その後、Y方向における例えば第2側(
図16中の下側)に第2防湿材52bをスライドさせる。これにより、一つのグリッド31内に複数の防湿材52a,52bが敷設される。なお、この際、各防湿材52a,52bの外周部分同士は、150mm以上の重なり代をもって重なり合っていることが好ましい。
【0058】
このように、本実施形態では、Y方向に延びる接合部200がX方向に間隔をあけて形成されるとともに、隣り合う膨張部202同士が連通部203を通じて連通する構成とした。
この構成によれば、防湿材52を丸めた状態で展開工程を行うことで、防湿材52の厚み方向(上下方向)での膨らみを抑制した上で、防湿材52のX方向への展開を促すことができる。これにより、床下空間26のように上下方向のスペースが限られた空間であっても、防湿材52をスムーズに展開させることができる。そのため、例えば砂利等によって地面Gに凹凸が生じている場合であっても、凹凸を乗り越えながら防湿材52を展開させることができる。その結果、作業性の更なる向上を図ることができる。
【0059】
しかも、本実施形態では、グリッド31内に複数の防湿材52を敷設するにあたって、防湿材52を展開させた状態で防湿材52をスライドさせる構成とした。
この構成によれば、防湿材52を展開させることで、防湿材52に剛性を持たせることができる。そのため、展開前に防湿材52をスライドさせる場合に比べて、スライド時に防湿材52の方形を維持することができる。これにより、グリッド31に隙間なく防湿材52を敷設し易くなる。
【0060】
なお、防湿材52は、グリッド31の形状に応じて、現場で適宜切断及び接合することで、所望の形状に形成してもよい。例えば
図17に示すように、防湿材52のうち、隣り合う接合部200同士の間に位置する部分で防湿材52を鋏等で切断する。その後、シート54のうち、切断口の開口縁をハンドシーラ等で接合する。これにより、防湿材52のX方向における長さを適宜調整できる。なお、充填口55は、切断口の開口縁を接合する際に充填口55を除く部分のみを接合して形成してもよく、切断口の開口縁を全長に亘って接合した後、防湿材52に切り込み等を入れることで別途充填口55を形成してもよい。また、防湿材52のY方向の長さを調整してもよい。
【0061】
本発明の技術範囲は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述した実施形態では、上述した実施形態では、鉄骨ラーメン構造の建物1に本発明を採用した場合について説明したが、その他の鉄骨造の建物や木造(2×4工法や在来工法等)の建物に本発明を採用しても構わない。
上述した実施形態では、既存の建物1の防湿処理に本発明の防湿材52を用いた構成について説明したが、この構成のみに限らず、建物1の新築時に床下空間26に本発明の防湿材52を設置しても構わない。
上述した実施形態では、床下空間26の全グリッド31に防湿材52を設置する構成について説明したが、何れかのグリッド31のみに防湿材52を設置する構成であっても構わない。
【0062】
上述した第1実施形態では、一つのグリッド31に対して一つの防湿材52を敷設する場合について説明したが、この構成のみに限られない。例えば
図18に示すように、一つのグリッド31に対して複数の防湿材52を敷設しても構わない。この場合、各防湿材52の外周部分同士は、150mm以上の重なり代をもって重なり合っていることが好ましい。この構成によれば、グリッド31の面積が防湿材52に対して大きい場合であっても、防湿材52によって地面Gを隙間なく覆うことができる。これにより、所望の防湿性能を確保できる。
【0063】
上述した実施形態において、充填口55が袋体53に一つ形成された構成について説明したが、この構成のみに限らず、複数の充填口55を袋体53に形成しても構わない。この場合には、施工環境に応じて使用する充填口55を選択することができる。但し、充填時において、未使用の充填口55は封止することが好ましい。
上述した実施形態では、袋体53内に空気を充填する構成について説明したが、この構成のみに限らず、空気以外の気体や液体(水等)を充填しても構わない。例えば、袋体53内に水を充填すると、蓄熱容量が大きくなり、床下空間26の温度変化を緩やかにできる。その結果、室内の暖房効果を維持しやすい。また、展開工程において、防湿材52内に押さえ材73を流体とともに充填しても構わない。この場合には、防湿材52を展開させながら、押さえ材73によって防湿材52を押さえることが可能になる。また、袋体53内に液体(水等)を充填した場合は、その液体(水等)を固体化させる吸水性ポリマー等により固体化させてもよい。
【0064】
上述した実施形態では、防湿材52を展開した後、防湿材52内の空気を排出する構成について説明したが、防湿材52内に空気が充填された状態(防湿材52が膨張した状態)であっても構わない。特に、展開工程後、充填口55を封止することで、防湿材52がグリッド31内全体に広がった状態に維持される。これにより、グリッド31内において防湿材52の移動が規制されるので、例えば上述した押さえ工程が不要になる等の効果がある。
【0065】
上述した実施形態では、シート54の外周部分同士を互いにシールして袋体53を形成した構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、
図19に示す袋体53(防湿材52)のように、シート54の内面同士を接合部100によって部分的に接合しても構わない。この場合、接合部100は、シート54の内側面同士を点状に接合している。この構成によれば、
図20に示すように、展開工程における防湿材52の厚み方向(上下方向)での膨らみを抑制し、面内方向(水平方向)へスムーズに展開させることができる。なお、接合部100は、点状に限らず、線状や渦巻き状等であっても構わない。
【0066】
また、上述した防湿材52にアルミ蒸着等の遮熱措置を施してもよい。これにより、地面Gからの湿気を抑えた上で、床下空間26の構成部材(例えば、ALC,基礎コンクリート,鉄骨梁、断熱材等)から地面Gへの放射の進入を遮蔽し、床下空間26から地面Gへの熱エネルギーの伝達を抑制できる。なお、防湿材52上に別途遮熱材を敷設する構成であってもよい。
【0067】
以下、本発明に係る防湿材の例を付記する。
[1]:床下空間に設置する防湿材であって、
防湿性を有する材料により形成されるとともに、流体を充填可能な充填口を有する袋体を備える防湿材。
[2]:[1]に記載の防湿材であって、
袋体のうち、対向する内面同士を接合する接合部を有している防湿材。
[3]:[2]に記載の防湿材であって、
接合部は、充填口の開口方向に間隔をあけて複数形成され、
接合部は、袋体のうち充填口の開口方向に交差する交差方向に直線状に延在する接合ラインが交差方向に間隔をあけて形成され、
袋体は、充填口の開口方向で隣り合う接合部同士の間に画成された膨張部と、
交差方向で隣り合う接合ライン同士の間に形成され、充填口の開口方向で隣り合う膨張部同士を連通させる連通部と、を有している防湿材。
【0068】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…建物、2…基礎、3…架構、11…フーチング部、12…立ち上がり部、15…基礎梁、17…2階梁、19…R階梁、21…1階床(仕切部材)、22…2階床、23…天井材、25…室内空間、26…床下空間、31…グリッド、31a…内側グリッド、31b…隣接グリッド、31c…外側グリッド、31d…閉塞グリッド、31b…隣接グリッド、31c…外側グリッド、31d…閉塞グリッド、32…基礎換気口(連通口)、33…床下点検口(連通口)、52…防湿材、53…袋体、54…シート、55…充填口、70…ブロワ、71…充填チューブ、72…観察孔、73…押さえ材、74…連通口、100…接合部、200…接合部、200a…第1接合部、200b…第2接合部、200c…第3接合部、200d…第4接合部、201…接合ライン、201a…第1辺、202…膨張部、202a…第1膨張部、202b…第2膨張部、203…連通部、210…シール部分、210a…第1辺、210b…第2辺、210c…第3辺、210d…第4辺