(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物、およびその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220202BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20220202BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L77/06
C08K5/521
(21)【出願番号】P 2018063904
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 馨
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
(72)【発明者】
【氏名】天野 晶規
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-222553(JP,A)
【文献】特開平08-134260(JP,A)
【文献】特開平02-073837(JP,A)
【文献】特開平05-156078(JP,A)
【文献】特表2008-527129(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0009918(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00-77/12
C08K 5/49-5/5397
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が290℃以上340℃以下であるポリアミド樹脂(A)と、
示差走査熱量計(DSC)で測定した、昇温過程(昇温速度:10℃/min)における融解熱量(ΔH)が0J/g以上5J/g以下であるポリアミド樹脂(B)と、
環状リン酸エステルの金属塩である結晶核剤(C)と、
を含むポリアミド樹脂組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との含有質量比(A)/(B)は、45/55~100/0であり、
前記結晶核剤(C)の含有量は、前記ポリアミド樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100質量部に対し、0.1~1.5質量部であり、且つ
結晶化度が14%以上24%以下である、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂(A)は、
テレフタル酸成分単位を含むジカルボン酸成分単位(a1)と、
炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位を含むジアミン成分単位(a2)とを含み、
前記ジカルボン酸成分単位(a1)は、前記ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を20~100モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位を0~80モル%、炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸成分単位を0~60モル%含む、
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)において、
前記ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を40~80モル%、アジピン酸成分単位を20~60モル%含む、
請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂(A)において、
前記ジカルボン酸成分単位(a1)に含まれる前記テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位は、イソフタル酸成分単位を含む、
請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂(A)において、
前記ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を55~80モル%、イソフタル酸成分単位を20~45モル%含む、
請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂(A)において、
前記ジアミン成分単位(a2)に含まれる炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位は、炭素原子数4~20の直鎖状アルキレンジアミン成分単位を含む、
請求項2~5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記直鎖状アルキレンジアミン成分単位が1,6-ジアミノヘキサン成分単位であり、
前記ジアミン酸成分単位(a2)の合計量100モル%に対して、1,6-ジアミノヘキサン成分単位を80~100モル%含む、
請求項6に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ジアミン成分単位(a2)に含まれる炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位は、1,6-ジアミノヘキサン成分単位及び2-メチル-1,5-ジアミノペンタン成分単位を含む、
請求項2~5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂(A)において、前記ジカルボン酸成分単位(a1)がテレフタル酸成分単位及びイソフタル酸成分単位を含み、前記ジアミン成分単位(a2)が1,6-ジアミノヘキサン成分単位を含む、
請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリアミド樹脂(A)において、前記ジカルボン酸成分単位(a1)がテレフタル酸成分単位及びアジピン酸成分単位を含み、前記ジアミン成分単位(a2)が1,6-ジアミノヘキサン成分単位を含む、
請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリアミド樹脂(B)は、
イソフタル酸成分単位を含むジカルボン酸成分単位(b1)と、
炭素原子数4~15の脂肪族ジアミン成分単位を含むジアミン成分単位(b2)とを含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリアミド樹脂(B)において、
前記ジカルボン酸成分単位(b1)は、テレフタル酸成分単位をさらに含んでいてもよく、
前記ジカルボン酸成分単位(b1)の合計量100モル%に対して、イソフタル酸成分単位を55~100モル%、テレフタル酸成分単位を0~45モル%含む、
請求項11に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項13】
充填材(D)をさらに含み、
前記充填材(D)の含有量は、前記ポリアミド樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100質量部に対し、0.3~3.0重量部である、
請求項1~1
2のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~1
3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物、およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両内に装備された各種電装品の配線はヒューズボックスに集められ、各種電装品毎に設けられたヒューズ素子等を介してバッテリーに接続されている。近年、電装系の複雑化、回路の小型化がすすめられており、ヒューズ素子用のカバーとして、ヒューズ溶断の視認が可能な透明樹脂カバーが求められている。透明樹脂カバーは、ヒューズの溶断箇所の特定を容易にすることができるとの利点がある。
【0003】
透明樹脂製のヒューズ素子用カバーには、従来、透明性に優れたポリエーテルスルホンなどが使用されているが、溶断時に炭化してしまうことがあり、リーク電流を遮断できずにヒューズ素子を容損してしまう可能性がある。
【0004】
このような問題点を考慮して、ヒューズ素子用カバーに、透明であり、且つ耐アーク性に優れたポリアミド樹脂の使用が検討されている。例えば、特許文献1には、脂肪族ポリアミド(ポリアミド66など)と芳香族ポリアミド(ポリアミド6Iなど)との共重合体および/または混合物を使用した、ヒューズ素子用カバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今の自動車は、燃費改善に向け、エンジンルーム内部品の小型化が強く望まれており、エンジンルーム内にあるヒューズ素子も同様な傾向にある。ヒューズ素子が小型化する事で、ヒューズとカバーとの距離が近接する為、ヒューズが溶断した場合には、ヒューズ溶断部の熱がカバーへと伝わりやすくなる。そのため、ヒューズ素子用カバーには、より高い耐熱性が望まれている。
【0007】
よって、ヒューズ素子用カバー等の成形品には、さらなる耐熱性や透明性(視認性)が求められている。しかし、特許文献1に記載のヒューズ素子用カバーについては、その実施例に記載されている融点が最も高いものでも252℃であることから、さらなる耐熱性の向上が望まれる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ポリアミド樹脂の耐熱性を損なうことなく、透明性(視認性)や成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一は、以下のポリアミド樹脂組成物に関する。
[1] 示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が290℃以上340℃以下であるポリアミド樹脂(A)と、
示差走査熱量計(DSC)で測定した、昇温過程(昇温速度:10℃/min)における融解熱量(ΔH)が0J/g以上5J/g以下であるポリアミド樹脂(B)(ただし、ポリアミド樹脂(A)とは異なる)と、
有機リン酸エステルの金属塩である結晶核剤(C)と
を含むポリアミド樹脂組成物であって、
前記ポリアミド樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との含有質量比(A)/(B)は、45/55~100/0であり、
前記結晶核剤(C)の含有量は、前記ポリアミド樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100質量部に対し、0.1~1.5質量部であり、且つ
結晶化度が14%以上24%以下である、ポリアミド樹脂組成物。
[2] 前記ポリアミド樹脂(A)は、
テレフタル酸成分単位を含むジカルボン酸成分単位(a1)と、
炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位を含むジアミン成分単位(a2)とを含み、
前記ジカルボン酸成分単位(a1)は、前記ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を20~100モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位を0~80モル%、炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸成分単位を0~60モル%含む、[1]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3] 前記ポリアミド樹脂(A)において、
前記ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を40~80モル%、アジピン酸成分単位を20~60モル%含む、[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4] 前記ポリアミド樹脂(A)において、
前記ジカルボン酸成分単位(a1)に含まれる前記テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位は、イソフタル酸成分単位を含む、[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[5] 前記ポリアミド樹脂(A)において、
前記ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を55~80モル%、イソフタル酸成分単位を20~45モル%含む、[4]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[6] 前記ポリアミド樹脂(A)において、
前記ジアミン成分単位(a2)に含まれる炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位は、炭素原子数4~20の直鎖状アルキレンジアミン成分単位を含む、[2]~[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[7] 前記直鎖状アルキレンジアミン成分単位が1,6-ジアミノヘキサン成分単位であり、
前記ジアミン成分単位(a2)の合計量100モル%に対して、1,6-ジアミノヘキサン成分単位を80~100モル%含む、[6]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[8] 前記ジアミン成分単位(a2)に含まれる炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位は、1,6-ジアミノヘキサン成分単位及び2-メチル-1,5-ジアミノペンタン成分単位を含む、[2]~[5]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[9] 前記ポリアミド樹脂(A)において、前記ジカルボン酸成分単位(a1)がテレフタル酸成分単位及びイソフタル酸成分単位を含み、前記ジアミン成分単位(a2)が1,6-ジアミノヘキサン成分単位を含む、[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[10] 前記ポリアミド樹脂(A)において、前記ジカルボン酸成分単位(a1)がテレフタル酸成分単位及びアジピン酸成分単位を含み、前記ジアミン成分単位(a2)が1,6-ジアミノヘキサン成分単位を含む、[2]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[11] 前記ポリアミド樹脂(B)は、
イソフタル酸成分単位を含むジカルボン酸成分単位(b1)と、
炭素原子数4~15の脂肪族ジアミン成分単位を含むジアミン成分単位(b2)とを含む、[1]~[10]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[12] 前記ポリアミド樹脂(B)において、
前記ジカルボン酸成分単位(b1)は、テレフタル酸成分単位をさらに含んでいてもよく、
前記ジカルボン酸成分単位(b1)の合計量100モル%に対して、イソフタル酸成分単位を55~100モル%、テレフタル酸成分単位を0~45モル%含む、[11]に記載のポリアミド樹脂組成物。
[13] 前記結晶核剤(C)である前記有機リン酸エステルの金属塩は、環状リン酸エステルの金属塩である、[1]~[12]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[14] 充填材(D)をさらに含み、
前記充填材(D)の含有量は、前記ポリアミド樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との合計100質量部に対し、0.3~3.0重量部である、[1]~[13]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【0010】
本発明の第二は、以下の成形品に関する。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、ポリアミド樹脂の耐熱性を損なうことなく、透明性(視認性)や成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述の通り、樹脂組成物には、高温下での使用に耐える耐熱性と、高い透明性(視認性)とを両立することが望まれる。
【0013】
高融点(高結晶性)のポリアミド樹脂(A)を含む成形物は、高温下での高い強度(剛性)・耐熱性に優れるが、結晶性樹脂であることから、それ単独では視認性が不十分な場合がある。
【0014】
他方、高融点のポリアミド樹脂(A)はガラス転移温度が高いため、十分な剛性を発現させるには金型温度を高温にする必要がある。その為、成形品の固化が十分でなく成形時の離型が困難となる。そこで、結晶核剤を添加する事で結晶化速度を増加し、離型時の樹脂組成物の剛性を高めることが必要となるが、一方、結晶核剤の添加は透明性の低下を招く傾向にある。そこで本発明者らが、鋭意検討した結果、結晶核剤としてリン酸エステルの金属塩を所定の割合で用いることで、ポリアミド樹脂組成物の透明性を損なうこと無く、離型性を向上させることを見出した。その結果、生産性を損なうこと無く、成形品にヒューズボックス部材に適した高い耐熱性と透明性を付与することが可能になった。本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
【0015】
1.ポリアミド樹脂組成物
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、有機リン酸エステルの金属塩である結晶核剤(C)と、所望によりポリアミド樹脂(B)とを含む。
【0016】
1-1.ポリアミド樹脂(A)
ポリアミド樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)により測定される、融点(Tm)が290℃以上340℃以下のポリアミド樹脂である。そのようなポリアミド樹脂(A)は、成形品に高温での強度(剛性)や耐熱性を付与しうる。
【0017】
ポリアミド樹脂(A)の、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)は、290℃以上340℃以下であり、300℃以上340℃以下であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)が290℃以上であると、高い耐熱性と強度(剛性)を有する成形品が得られやすい。ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)が340℃以下であると、成形温度を過剰に高くする必要がないため、溶融重合や溶融成形時にポリマーや各種添加材の熱分解が生じるのを抑制することができる。
【0018】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)は、示差走査熱量計(例えばDSC220C型、セイコーインスツル(株)製)にて測定することができる。具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで340℃まで加熱する。ポリアミド樹脂を完全融解させるために、340℃で5分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで340℃まで2度目の加熱を行う。2度目の加熱でのピーク温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。
【0019】
ポリアミド樹脂(A)の融点は、例えばジカルボン酸成分単位やジアミン成分単位の組成によって調整されうる。ポリアミド樹脂(A)の融点を高めるためには、例えばテレフタル酸成分単位の含有比率を多くすればよい。
【0020】
ポリアミド樹脂(A)は、前述の融点を有する半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分単位又は芳香族ジアミン成分単位を含むポリアミド樹脂であり、好ましくは芳香族ジカルボン酸成分単位を含むポリアミド樹脂である。
【0021】
即ち、ポリアミド樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸成分単位を含むジカルボン酸成分単位(a1)と、脂肪族ジアミン成分単位を含むジアミン成分単位(a2)とを含むことが好ましい。
【0022】
(ジカルボン酸成分単位(a1))
ジカルボン酸成分単位(a1)は、少なくともテレフタル酸成分単位を含むことが好ましい。テレフタル酸成分単位を含むポリアミド樹脂は、結晶性が高く、樹脂組成物に良好な耐熱性や剛性を付与しうる。
【0023】
ジカルボン酸成分単位(a1)は、テレフタル酸成分単位20~100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位0~80モル%及び炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸成分単位0~60モル%の少なくとも一方を含むことがより好ましい。但し、ジカルボン酸成分単位の合計(総モル数)を100モル%とする。
【0024】
テレフタル酸の例には、テレフタル酸や、テレフタル酸エステル(テレフタル酸の炭素数1~4のアルキルエステル)が含まれる。
【0025】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びこれらのエステルが含まれ、好ましくはイソフタル酸でありうる。
【0026】
炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸は、炭素原子数6~12の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましく、その例には、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等が含まれ、好ましくはアジピン酸でありうる。
【0027】
ジカルボン酸成分単位(a1)中の、テレフタル酸成分単位とテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(好ましくはイソフタル酸成分単位)の含有量は、ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を20~100モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(好ましくはイソフタル酸成分単位)を0~80モル%含むことが好ましく、テレフタル酸成分単位を55~80モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(好ましくはイソフタル酸成分単位)を20~45モル%含むことがより好ましく、テレフタル酸成分単位を60~85モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(好ましくはイソフタル酸成分単位)を15~40モル%含むことがさらに好ましい。テレフタル酸成分単位の量が一定以上であると、得られる成形品の耐熱性や剛性が高まりやすい。テレフタル酸成分単位の量が一定以下であると、得られる成形物の耐衝撃性が高まりやすい。
【0028】
また、ジカルボン酸成分単位(a1)は、テレフタル酸成分単位と、炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸とを含むことも好ましく、テレフタル酸成分単位と、アジピン酸成分単位とを含むことがより好ましい。この場合、ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を40~80モル%、炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸(好ましくはアジピン酸成分単位)を20~60モル%含むことが好ましい。
【0029】
ジカルボン酸成分単位(a1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、脂環族ジカルボン酸成分単位をさらに含んでもよい。脂環族ジカルボン酸の例には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸等が含まれる。
【0030】
(ジアミン成分単位(a2))
ジアミン成分単位(a2)は、炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位を含む。炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位は、成形物に疎水性を付与し、吸湿性や吸水性を低くすることができる。
【0031】
炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位は、1)炭素原子数4~20の直鎖状アルキレンジアミン成分単位、及び、2)炭素原子数4~20の分岐状アルキレンジアミン(側鎖を有するアルキレンジアミン)成分単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0032】
直鎖状アルキレンジアミン成分単位の炭素原子数は、4~15であることが好ましく、6~12であることがより好ましい。直鎖状アルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等が含まれる。これらの中でも、1,6-ジアミノヘキサン及び1,9-ノナンジアミンが好ましい。直鎖状アルキレンジアミン成分単位は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0033】
直鎖状アルキレンジアミン成分単位の含有量は、炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位の合計(総モル数)に対して40~100モル%であることが好ましい。直鎖状アルキレンジアミン成分単位の含有量が一定以上であると、得られる成形物の耐水性が高まりやすいと考えられる。特に直鎖状アルキレンジアミン成分単位が1,6-ジアミノヘキサンである場合には、ジアミン成分単位(a2)の合計量100モル%に対して、1,6-ジアミノヘキサン成分単位を80~100モル%含むことがより好ましい。
【0034】
分岐状アルキレンジアミン成分単位の炭素原子数は、4~15であることが好ましく、6~12であることがより好ましい。分岐状アルキレンジアミンの例には、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,6ージアミノヘキサン、2-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、2-メチル-1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,10-ジアミノデカン、2-メチル-1,11-ジアミノウンデカン等が含まれる。これらの中でも、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン及び2-メチル-1,8-ジアミノオクタンが好ましい。分岐状アルキレンジアミン成分単位は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0035】
分岐状アルキレンジアミン成分単位の含有量は、炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位の合計(総モル数)に対して60モル%以下であることが好ましい。分岐状アルキレンジアミン成分単位の含有量が60モル%以下であると、結晶性が過剰に低下することによる、成形品の強度の低下や成形時の不良を生じるおそれが少ないからである。
【0036】
炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位が、直鎖状アルキレンジアミン成分単位と分岐状アルキレンジアミン成分単位の両方を含む場合、それらの好ましい組み合わせの例には、1,6-ジアミノヘキサン成分単位と、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン成分単位の組み合わせが含まれる。脂肪族ジアミン成分単位の総モル数に対して、1,6-ジアミノヘキサン成分単位の含有量は45モル%超55モル%未満であり、かつ2-メチル-1,5-ジアミノペンタンの含有量は45モル%超55モル%未満であることが好ましい。好ましい組み合わせの他の例には、1,9-ノナンジアミン成分単位と、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン成分単位との組み合わせが含まれる。脂肪族ジアミン成分単位の総モル数に対して、1,9-ノナンジアミン成分単位の含有量は45モル%超85モル%未満であり、かつ2-メチル-1,8-ジアミノオクタン成分単位の含有量は15モル%超55モル%未満であることが好ましい。
【0037】
脂肪族ジアミン成分単位の含有量は、ジアミン成分単位(a2)の合計(総モル数)に対して50~100モル%であることが好ましく、60~100モル%であることがより好ましい。
【0038】
ジアミン成分単位(a2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素原子数4~20の脂肪族ジアミン成分単位以外の他のジアミン成分単位をさらに含んでもよい。他のジアミン成分単位の例には、脂環族ジアミン成分単位や芳香族ジアミン成分単位が含まれる。脂環族ジアミンの例には、1,4-ジアミノシクロヘキサン及び1,3-ジアミノシクロヘキサン等が含まれる。芳香族ジアミンの例には、メタキシリレンジアミン等が含まれる。他のジアミン成分単位の含有量は、50モル%以下であり、好ましくは40モル%以下でありうる。
【0039】
ポリアミド樹脂(A)の具体例としては、以下の樹脂が挙げられる。
ジカルボン酸成分単位(a1)がテレフタル酸成分単位であり、ジアミン成分単位(a2)が1,6-ジアミノヘキサン成分単位及び2-メチル-1,5-ジアミノペンタン成分単位であるポリアミド樹脂;
ジカルボン酸成分単位(a1)がテレフタル酸成分単位であり、ジアミン成分単位(a2)が1,9-ノナンジアミン成分単位及び2-メチル-1,8-ジアミノペンタン成分単位であるポリアミド樹脂;
ジカルボン酸成分単位(a1)がテレフタル酸成分単位及びイソフタル酸成分単位であり、ジアミン成分単位(a2)が1,6-ジアミノヘキサン成分単位であるポリアミド樹脂;及び
ジカルボン酸成分単位(a1)がテレフタル酸成分単位及びアジピン酸成分単位であり、ジアミン成分単位(a2)が1,6-ジアミノヘキサン成分単位であるポリアミド樹脂。
ポリアミド樹脂(A)は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0040】
ポリアミド樹脂(A)の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.7~1.6dl/gであることが好ましく、0.8~1.2dl/gであることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が一定以上であると、成形物の強度が十分に高まりやすい。極限粘度[η]が一定以下であると、樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂(A)の分子量によって調整される。
【0041】
極限粘度は、約0.5gのポリアミド樹脂(A)を96.5%濃硫酸50mlに溶解させ、得られた溶液の、25度±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、以下の式に基づき算出される。
[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t0)/t0
【0042】
ポリアミド樹脂(A)は、公知のポリアミド樹脂と同様の方法で製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0043】
ポリアミド樹脂(A)の極限粘度を調整する場合は、反応系に分子量調整剤(例えば末端封止剤)を配合することが好ましい。分子量調整剤は、例えばモノカルボン酸又はモノアミンでありうる。モノカルボン酸の例には、炭素原子数2~30の脂肪族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸及び脂環族モノカルボン酸が含まれる。これらの分子量調整剤は、ポリアミド樹脂(A)の分子量を調整すると共に、ポリアミド樹脂(A)の末端アミノ基の量を調整することができる。芳香族モノカルボン酸及び脂環族モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基を有していてもよい。
【0044】
脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノ-ル酸等が含まれる。芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸及びフェニル酢酸等が含まれる。脂環族モノカルボン酸の例には、シクロヘキサンカルボン酸等が含まれる。
【0045】
分子量調整剤は、ジカルボン酸とジアミンとの反応系に添加される。添加量はジカルボン酸の合計量1モルに対して、0.07モル以下であることが好ましく、0.05モル以下であることがより好ましい。このような量で分子量調整剤を使用することにより、少なくともその一部がポリアミド中に取り込まれ、これによりポリアミドの分子量、即ち極限粘度[η]が所望の範囲内に調整される。
【0046】
1-2.ポリアミド樹脂(B)
ポリアミド樹脂(B)は、示差走査熱量計(DSC)で測定した昇温過程(昇温速度:10℃/min)における融解熱量(ΔH)が0J/g以上5J/g以下のポリアミド樹脂である。そのようなポリアミド樹脂(B)は結晶性が低いので、ポリアミド樹脂組成物に含まれると、樹脂組成物に良好な透明性(視認性)を付与しうる。
【0047】
ポリアミド樹脂(B)の、示差走査熱量測定(DSC)により得られる昇温過程(昇温速度:10℃/min)における融解熱量(ΔH)は、0J/g以上5J/g以下であり、0J/gであることが好ましい。融解熱量は、樹脂の結晶性の指標であり、融解熱量が小さい程、結晶性が低いことを示す。ポリアミド樹脂(B)の融解熱量(ΔH)が5J/g以下であり、結晶性が低いと、視認性に優れ、かつ樹脂組成物の成形品の外観が優れる点で好ましい。ポリアミド樹脂(B)は非晶性の樹脂であることが好ましい。
【0048】
融解熱量(ΔH)とは、JIS K7122に準じて求められる値である、即ち、昇温速度10℃/minで走査した時に得られる示差走査熱量測定チャートにおいて、結晶化に伴う発熱ピークの面積から求められる値である。融解熱量(ΔH)は、履歴を消さない1回目の昇温における値である。
【0049】
ポリアミド樹脂(B)は、前述の融解熱量(ΔH)を満たす半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分単位又は芳香族ジアミン成分単位を含むポリアミド樹脂であり、好ましくは芳香族ジカルボン酸成分単位を含むポリアミド樹脂である。
【0050】
即ち、ポリアミド樹脂(B)は、芳香族ジカルボン酸成分単位を含むジカルボン酸成分単位(b1)と、脂肪族ジアミン成分単位を含むジアミン成分単位(b2)とを含むことが好ましい。
【0051】
(ジカルボン酸成分単位(b1))
ジカルボン酸成分単位(b1)は、少なくともイソフタル酸成分単位を含むことが好ましい。イソフタル酸成分単位は、ポリアミド樹脂の結晶性を低くし、当該ポリアミド樹脂を含む成形物に良好な視認性や成形物の良外観を付与しうる。
【0052】
イソフタル酸成分単位の含有量は、ポリアミド樹脂(B)中のジカルボン酸成分の合計(総モル数)に対して40モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましい。イソフタル酸成分単位の含有量が40モル%以上であると、成形品に視認性や良外観を付与しやすい。
【0053】
ジカルボン酸成分単位(b1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、イソフタル酸成分単位以外の他のジカルボン酸成分単位をさらに含んでいてもよい。他のジカルボン酸の例には、テレフタル酸、2-メチルテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等のイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂環族ジカルボン酸が含まれる。脂肪族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸は、前述の脂肪族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸とそれぞれ同様でありうる。これらの中でも、イソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0054】
ジカルボン酸成分単位(b1)中の、イソフタル酸成分単位とイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸(好ましくはテレフタル酸)成分単位の含有量は、ジカルボン酸成分単位(b1)の合計量100モル%に対して、イソフタル酸成分単位が55~100モル%、イソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸(好ましくはテレフタル酸)成分単位が0~45モル%であることが好ましく、イソフタル酸成分単位が60~90モル%、イソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸(好ましくはテレフタル酸)成分単位が10~40モルであることがより好ましい。イソフタル酸成分単位及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸(好ましくはテレフタル酸)成分単位の含有量がそれぞれ上記範囲内にあると、ポリアミド樹脂(B)は非晶性となり、且つポリアミド樹脂(A)との相溶性もよいため、ポリアミド樹脂組成物の視認性や強度(剛性)を高めやすい。
【0055】
(ジアミン成分単位(b2))
ジアミン成分単位(b2)は、炭素原子数4~15の脂肪族ジアミン成分単位を含む。
【0056】
脂肪族ジアミンの炭素原子数は、4~9であることがより好ましい。脂肪族ジアミンの例には、前述の直鎖状アルキレンジアミンや分岐状アルキレンジアミンと同様のものが含まれ、好ましくは1,6-ジアミノヘキサンである。
【0057】
脂肪族ジアミン成分単位の含有量は、ジアミン成分単位(b2)の合計(総モル数)に対して50~100モル%であることが好ましく、60~100モル%であることがより好ましい。
【0058】
ジアミン成分単位(b2)は、本発明の効果を損なわない範囲で、脂肪族ジアミン成分単位以外の他のジアミン成分単位をさらに含んでもよい。他のジアミン成分の例には、脂環族ジアミン及び芳香族ジアミンが含まれる。脂環族ジアミン及び芳香族ジアミンは、前述の脂環族ジアミン及び芳香族ジアミンとそれぞれ同様でありうる。他のジアミン成分単位の含有量は、50モル%以下であり、好ましくは40モル%以下でありうる。
【0059】
ポリアミド樹脂(B)の具体例には、イソフタル酸/テレフタル酸/1,6-ジアミノヘキサン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/1,6-ジアミノヘキサンの重縮合体、イソフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン/2,4,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサンの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン/2,4,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体、及びイソフタル酸/テレフタル酸/その他ジアミン成分の重縮合体等が含まれる。中でも、イソフタル酸/テレフタル酸/1,6-ジアミノヘキサンの重縮合体が好ましい。ポリアミド樹脂(B)は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0060】
ポリアミド樹脂(B)の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.55~1.6dl/gであることが好ましく、0.6~1.2dl/gであることがより好ましい。
【0061】
ポリアミド樹脂(B)は、前述と同様の方法で製造することができる。
【0062】
本発明のポリアミド樹脂組成物における、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との含有質量比(A)/(B)は、45/55~100/0である。当該範囲であると、ポリアミド樹脂組成物が十分な耐熱性と透明性(視認性)とを両立しやすい。
【0063】
尚、含有質量比(A)/(B)の好ましい範囲は、ポリアミド樹脂(A)の組成によって異なる。具体的には、ポリアミド樹脂(A)が、ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を40~80モル%、アジピン酸成分単位を20~60モル%含む場合、含有質量比(A)/(B)は、50/50~65/35であることが好ましい。また、ポリアミド樹脂(A)が、ジカルボン酸成分単位(a1)の合計量100モル%に対して、テレフタル酸成分単位を55~80モル%、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位(好ましくはイソフタル酸成分単位)を20~45モル%含む場合、含有質量比(A)/(B)は、80/20~100/0であることが好ましい。
【0064】
1-3.結晶核剤(C)
本発明のポリアミド樹脂組成物は、さらに有機リン酸エステルの金属塩である結晶核剤を含む。
【0065】
このようなリン酸エステルの金属塩としては、例えば、2-ヒドロキシ-2-オキソ-4,6,10,12-テトラ-tert-ブチル-1,3,2-ジベンゾ[d,g]ペルヒドロジオキサホスファロシンのナトリウム塩、リン酸-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)アルミニウム塩系化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、結晶核剤(C)としては、環状リン酸エステルの金属塩が好ましい。
【0066】
また、市販の有機リン酸エステル系の結晶核剤として、例えば、アデカスタブNA-11(2-ヒドロキシ-2-オキソ-4,6,10,12-テトラ-tert-ブチル-1,3,2-ジベンゾ[d,g]ペルヒドロジオキサホスファロシンのナトリウム塩)、アデカスタブNA-18、アデカスタブNA-27、アデカスタブNA-21、アデカスタブNA-71(いずれも株式会社ADEKA製)などが挙げられる。
【0067】
有機リン酸エステル系の結晶核剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
本発明のポリアミド樹脂組成物における、結晶核剤(C)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との合計100質量部に対し、0.1~1.5重量部であり、好ましくは0.3~1.0質量部である。
【0069】
1-4.充填材(D)
ポリアミド樹脂組成物は、充填材(D)をさらに含んでいてもよい。充填材(D)は、成形品に強度(剛性)を付与しうるものであり、繊維状、粉状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状等の形状を有する充填材でありうる。
【0070】
繊維状の充填材(D)の例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、セピオライト、ゾノトライト、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバー、カットファイバー、全芳香族ポリアミド繊維(例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維及びジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸又はイソフタル酸との縮合物から得られる繊維等)、ホウ素繊維及び液晶ポリエステル繊維、炭素繊維等が含まれる。これらの中でも、成形物の強度(剛性)や耐熱性を高めやすいことから、ガラス繊維、ワラストナイトや炭素繊維が好ましい。充填材(D)は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上が含まれてもよい。
【0071】
繊維状の充填材(D)の平均繊維長は、成形性を損なうことなく、十分な強度の成形物を得る観点から、1μm~20mmであることが好ましく、5μm~10mmであることがより好ましく、7mm~10μmであることがさらに好ましい。繊維状の充填材(D)のアスペクト比は、5~2000であることが好ましく、30~1000であることがより好ましい。
【0072】
繊維状の充填材(D)の平均繊維長と平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。
1)樹脂組成物又は成形品を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)前記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの繊維長(Li)と繊維径(Di)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これを充填材(D)の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li2)/(Σqi×Li)
同様に、繊維径がDiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(Dw)を算出し、これを充填材(D)の平均繊維径とする。
重量平均径(Dw)=(Σri×Di2)/(Σri×Di)
【0073】
樹脂組成物中又は成形品中の充填材(D)の平均繊維長や平均繊維径は、通常、溶融混練前の充填材(D)の平均繊維長や平均繊維径とほぼ同程度である。
【0074】
繊維状の充填材の他に、粉末状、粒状、板状、針状、クロス状、マット状等の形状を有する他の充填材も充填材(D)として使用することができる。そのような他の充填材の例には、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、ワラストナイト、ケイソウ土、クレー、カオリン、球状ガラス、マイカ、セッコウ、ベンガラ、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛等の粉状或いは板状の無機化合物、チタン酸カリウム等の針状の無機化合物が含まれる。これらの充填材は、2種以上混合して使用することもできる。
【0075】
他の充填材の平均粒径は、通常0.1~200μm、好ましくは1~100μmの範囲内にある。
【0076】
充填材(D)は、ポリアミド樹脂との接着性が改善され、得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性が大幅に向上することから、表面処理が施されていることが好ましい。このような表面処理における表面処理剤の例には、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤及びアルミネート系カップリング剤等のカップリング剤や、集束剤が含まれる。
【0077】
カップリング剤の例には、アミノシラン、エポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン及びビニルトリメトキシシランが含まれる。集束剤の例には、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物、カルボン酸系化合物、ウレタン/マレイン酸変性化合物及びウレタン/アミン変性系化合物等が含まれる。これらの表面処理剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、カップリング剤と集束剤とを併用すると、充填材(D)とポリアミド樹脂との接着性が一層改善され、得られる樹脂組成物の機械的特性がより向上する。
【0078】
充填材(D)の含有量は、前記ポリアミド樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対し、0.3~3.0重量部であることが好ましく、0.3~2.0重量部であることがより好ましい。充填材(D)が上記含有量であると、樹脂組成物に高い剛性を付与しやすい。
【0079】
1-5.任意の添加剤
本発明のポリアミド樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、用途に応じて、任意の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例には、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類、リン類等)、耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類、オギザニリド類等)、難燃剤(臭素系、塩素系、リン系、アンチモン系、無機系等)、滑剤、蛍光増白剤、可塑剤、増粘剤、帯電防止剤、離型剤、顔料、結晶核剤、種々公知の添加剤が含まれる。
【0080】
また、ポリアミド樹脂組成物は、前述のポリアミド樹脂(A)及び(B)以外の他の重合体(ポリエチレン等のオレフィン単独重合体;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体;プロピレン・1-ブテン共重合体等のプロピレン・α-オレフィン共重合体;ポリスチレン;ポリカーボネート樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリサルフォン樹脂;ポリフェニレンオキシド樹脂;フッ素樹脂;シリコーン樹脂;液晶ポリマー(LCP)等)を含んでいてもよい。
【0081】
さらにポリアミド樹脂組成物は、前述の有機リン酸エステルの金属塩以外の結晶核剤(ソルビトール系化合物、ノニトール系化合物、ロジン系化合物、カルボン酸金属塩系化合物、アミド系化合物、芳香族スルホン酸系化合物、キナクリドン系化合物など)を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。有機リン酸エステル金属塩以外の結晶核剤においては、含んでいてもよく、量を組成物中で1質量%以下に限定をしてください。
【0082】
2.ポリアミド樹脂組成物の物性
ポリアミド樹脂組成物の結晶化度は、14%以上24%以下であり、18%以上24%以下であることが好ましく、18%以上22%以下であることがより好ましい。当該範囲であると、ポリアミド樹脂組成物が十分な耐熱性と透明性(視認性)とを両立しやすい。
【0083】
尚、ポリアミド樹脂組成物の結晶化度は、以下の方法により測定することができる。
ポリアミド樹脂組成物を射出成型機で厚さ0.7mmの角板(30mm×30mm)に成形して試験片とし、当該試験片に150℃で2時間のアニール処理を施した後に、23℃でX線回折法により測定する。
【0084】
ポリアミド樹脂組成物の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)は、290℃以上340℃以下であることが好ましく、300℃以上330℃以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂組成物の融点(Tm)が290℃以上であると、高い耐熱性と強度(剛性)を有する成形品が得られやすい。340℃以下であると、成形加工時に起こる分解等を低減しやすい。とりわけ300℃以上330℃以下であると、耐熱性と成形加工性とを両立しやすい。
【0085】
尚、ポリアミド樹脂組成物の融点(Tm)は、上述したポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)と同様の方法で測定することができる。
【0086】
3.ポリアミド樹脂組成物の製造方法
本発明のポリアミド樹脂組成物は、少なくとも上記の比率のポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)、および結晶核剤(C)と、所望により充填材(D)や他の添加剤とを、公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダーもしくはタンブラーブレンダー等で混合する方法、又は混合後さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー若しくはバンバリーミキサー等で溶融混練した後、造粒若しくは粉砕する方法により製造することができる。また各成分の混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどで溶融混練し、造粒あるいは粉砕を行ってもよい。
【0087】
4.ポリアミド樹脂組成物の用途
本発明のポリアミド樹脂組成物は、例えば、射出成形、押出成形等、公知の成形方法により成形することで、成形品を作製することができる。
【0088】
本発明のポリアミド樹脂組成物を含む成形品は、前述のように、透明性(視認性)、成形性、および耐熱性に優れることから、各種ヒューズハウジングの材料として好適である。尚、本明細書において、「ヒューズハウジング」とは、ヒューズ関連の部材をいう。本発明のポリアミド樹脂組成物の成形品の一例となるヒューズハウジングとしては、バッテリーヒューズリンク、バッテリーヒューズターミナルの絶縁部や、ヒューズボックスの筐体等が挙げられる。
【実施例】
【0089】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0090】
<ポリアミド樹脂(A)>
[合成例1]ポリアミド樹脂(A-1)の調製
テレフタル酸1787g(10.8モル)、1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.1モル)、アジピン酸1921g(13.1モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水554gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.01MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。抜き出した低次縮合物を室温まで冷却し、その後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。得られた低次縮合物の水分量は3600ppm、極限粘度[η]は0.14dl/gであった。
【0091】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置にいれ、窒素置換後、約1時間30分かけて220℃まで昇温した。その後、1時間反応し、室温まで降温した。得られたポリアミドの極限粘度[η]は0.48dl/gであった。その後、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合して、ポリアミド樹脂(A-1)を調製した。
ポリアミド樹脂(A-1)の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は310℃、ガラス転移温度は85℃であった。
【0092】
[合成例2]ポリアミド樹脂(A-2)の調製
1,6-ジアミノヘキサン2800g(24.3モル)、テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、安息香酸36.6g(0.3モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。抜き出した低次縮合物を室温まで冷却し、その後、低次縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低次縮合物の水分量は4100ppm、極限粘度[η]は0.15dl/gであった。
【0093】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置にいれ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温した。その後、1時間30分反応し、室温まで降温させた。得られた化合物の極限粘度[η]は0.20dl/gであった。
【0094】
その後、上記で得た化合物をスクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合して、ポリアミド樹脂(A-2)を調製した。
ポリアミド樹脂(A-2)の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は330℃、ガラス転移温度は125℃であった。
【0095】
[合成例3]ポリアミド樹脂(A-3)の調製
1,6-ジアミノヘキサン1312g(11.3モル)、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン1312g(11.3モル)、テレフタル酸3655g(22.0モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム5.5g(5.2×10-2モル)、及びイオン交換水640ml、を1リットルの反応器に仕込み、窒素置換後、250℃、35kg/cm2の条件で1時間反応させた。1,6-ジアミノヘキサンと2-メチル-1,5-ジアミノペンタンとのモル比は50:50とした。1時間経過後、この反応器内に生成した反応生成物を、この反応器と連結され、かつ圧力を約10kg/cm2低く設定した受器に抜き出し、極限粘度[η]が0.15dl/gであるポリアミド前駆体を得た。
【0096】
次いで、このポリアミド前駆体を乾燥し、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度330℃で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(A-3)を得た。
ポリアミド樹脂(A-3)において、ジアミン成分単位中の1,6-ジアミノヘキサン成分単位の含有率は50モル%であり、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン成分単位含有率は、50モル%であった。
ポリアミド樹脂(A-3)の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は300℃、ガラス転移温度は140℃であった。
【0097】
<ポリアミド樹脂(B)>
[合成例4]ポリアミド樹脂(B-1)の調製
テレフタル酸1390g(8.4モル)、1,6-ヘキサンジアミン2800g(24.1モル)、イソフタル酸2581g(15.5モル)、安息香酸109.5g(0.9モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.02MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。抜き出した低次縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。得られた低次縮合物の水分量は3000ppm、極限粘度[η]は0.14dl/gであった。
【0098】
次に、この低次縮合物を、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(B-1)を得た。得られたポリアミド樹脂(B-1)の極限粘度[η]は0.68dl/g、融点(Tm)は観測されず、ガラス転移温度は125℃であった。
ポリアミド樹脂(B-1)において、ジカルボン酸成分単位中のテレフタル酸成分単位の含有率は32.5%であり、イソフタル酸成分単位の含有率は67.5モル%であった。
また、ポリアミド樹脂(B-1)の融解熱量(ΔH)をJIS K7122に準じて、結晶化の発熱ピークの面積より求めたところ、0J/gであった。
【0099】
合成例1~4で合成したポリアミド樹脂(A-1)~(A-3)および(B-1)の組成及び物性を下記表1に示した。
【0100】
【0101】
<ポリアミド樹脂(A-4)>
比較用のポリアミド樹脂(A-4)として、以下の樹脂を使用した。
A-4(PA66): 東レ社製のナイロン樹脂である「アミランCM3001-N」(66ナイロン、融点(Tm):265℃)
【0102】
<結晶核剤(C)>
結晶核剤(C)として、以下の化合物を使用した。
結晶核剤(C-1):ADEKA社製の有機リン酸エステル金属塩である「アデカスタブNA-11」(2,4,8,10-テトラ-tert-ブチル-6-(ソジオオキシ)-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン6-オキシド)
結晶核剤(C-2):ADEKA社製の有機リン酸エステル金属塩である「アデカスタブNA-21」(アルミニウム=ビス(4,4’,6,6’-テトラ-tert-ブチル-2,2’-メチレンジフェニル=ホスファート)=ヒドロキシド)
結晶核剤(C-3):ADEKA社製の有機リン酸エステル金属塩の複合物である「アデカスタブNA-27」
結晶核剤(C-4):有機リン酸エステル金属塩以外の結晶核剤であるタルク(平均粒子径1.6μm)
【0103】
<充填材(D)>
充填材(D)として、以下のガラス繊維を使用した。
ガラス繊維:オーウェンスコーニング社製の「FT756D」(ガラス繊維長3mm、アスペクト比300)
【0104】
<実施例1>
表1に示される量の、ポリアミド樹脂(A-1)、ポリアミド樹脂(B-1)、結晶核剤(C-1)を、タンブラーブレンダーを用いて混合し、二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド樹脂(A)のTm+15)℃で原料を溶融混錬した。溶融混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却した。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットしてペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0105】
<実施例2~11、比較例1~6>
組成を表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。
【0106】
得られた樹脂組成物について、全光線透過率、成形時の冷却時間、融点及び結晶化度を、以下の方法で評価した。
【0107】
<全光線透過率>
全光線透過率は、株式会社村上色彩技術研究所製の「Haze meter HM-150」を用い、JIS K7361に従い、厚さ0.7mmの試験片について測定した。
なお、各ポリアミド樹脂組成物を射出成型機で厚さ0.7mmの角板(30mm×30mm)に成形し、試験片を得た。得られた試験片は、150℃で2hのアニール処理を施した後に、測定に供した。全光線透過率は高い程、透明性が高く好ましい。
【0108】
<成形時の冷却時間>
下記の射出成型機、成型条件で厚さ0.7mmの角板(30mm×30mm)を成形した。
射出成形機:住友重機械工業(株)社製 SE50-DU
成形条件:シリンダー温度;Tm+10℃、金型温度;150℃
成形品の突き出し時に、成形品が金型に付着、変形しなくなる冷却時間(秒)を、成形時の冷却時間とした。成形時の冷却時間は、成形性の指標であり、短い方が好ましい。
【0109】
<融点>
各ポリアミド樹脂組成物の融点(Tm)を以下のようにして測定した。
ポリアミド樹脂組成物を、PerkinElemer社製DSC7を用いて、10℃/分の速度で昇温させた。そして、このときの融解に基づく吸熱ピ-クのピークトップを融点(Tm)とした。融点は高い程、耐熱性が高く好ましい。
【0110】
<結晶化度>
各ポリアミド樹脂組成物の結晶化度を以下のようにして測定した。
各ポリアミド樹脂組成物を射出成型機で厚さ0.7mmの角板(30mm×30mm)に成形し、試験片を得た。得られた試験片は、150℃で2hのアニール処理を施した後に、23℃でX線回折法により測定した。
【0111】
実施例1~11および比較例1~6のポリアミド樹脂組成物の組成およびその評価結果を、下記表2に示した。
【0112】
【0113】
特定の量のポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)および有機リン酸エステルの金属塩である結晶核剤(C)を含み、結晶化度が14%以上24%以下の範囲内である実施例1~8及び10のポリアミド樹脂組成物は、いずれも全光線透過率が60%以上と高く、成形時の冷却時間が20秒位内と短く、融点が300℃以上と高かった。このような優れた結果は、ポリアミド(B)を含まない実施例9、及び充填剤(D)を添加した実施例11でも認められた。
【0114】
一方、結晶核剤(C)を含まない比較例1のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)および(B)の種類と量が同じ実施例1と比べて、全光線透過率が低く、成形時の冷却時間が長かった。また、結晶核剤が有機リン酸エステルの金属塩ではない比較例2のポリアミド樹脂組成物は、結晶核剤の種類以外は同じ組成である実施例1と比べて、全光線透過率が55%未満で非常に低かった。
【0115】
ポリアミド樹脂(A)の含有量が少ない(即ち、ポリアミド樹脂(A)と(B)との含有質量比が45/55未満である)比較例3のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と(B)との含有質量比以外は同じ組成である実施例1と比べて、成形時の冷却時間が50秒と非常に長かった。また、結晶化度が24%を超える比較例4のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、ポリアミド樹脂(B)および結晶核剤(C)の含有量が同じ実施例6と比べて、全光線透過率が55%未満で非常に低かった。さらに融点が290℃未満であるポリアミド樹脂(A-4)をポリアミド樹脂(A)として使用した比較例5のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)の種類以外は同じ組成である実施例1と比べて、融点が低かった。
【0116】
ポリアミド樹脂(A-2)のみからなる比較例6の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A-2)と、ポリアミド樹脂(B-1)と、結晶核剤とからなる実施例6のポリアミド樹脂組成物や、ポリアミド樹脂(A-2)と結晶核剤とからなる実施例9のポリアミド樹脂組成物と比べて、融点が少し高いものの、全光線透過率が57%で非常に低かった。この結果から、有機リン酸エステルの金属塩である結晶核剤(C)の添加によって、ポリアミド樹脂の融点に大きな影響を与えることなく、全光線透過率を向上させることが可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、ポリアミド樹脂の耐熱性を損なうことなく、透明性(視認性)や成形性を向上させた、ポリアミド樹脂組成物を提供することができる。