(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】走行台車
(51)【国際特許分類】
B23K 37/02 20060101AFI20220202BHJP
B23K 7/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
B23K37/02 A
B23K7/00 501C
(21)【出願番号】P 2018076020
(22)【出願日】2018-04-11
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000185374
【氏名又は名称】小池酸素工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】特許業務法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】太田 智
(72)【発明者】
【氏名】皆原 雅敏
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-236660(JP,A)
【文献】実開昭50-46735(JP,U)
【文献】特開2001-1185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/02
B23K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材を切断又は溶接する加工トーチを搭載し、台車本体の内部に配置した駆動モータと駆動軸とをクラッチを介して接続・遮断し得るように構成した走行台車であって、
内部に収容空間が形成された台車本体と、
前記台車本体に於ける走行方向の一方の端部側に配置され駆動ローラを有する駆動軸と、
前記収容空間に配置され、前記駆動軸とクラッチを介して回転を接続・遮断するように構成された駆動モータと、
前記収容空間に配置され、前記駆動モータの回転数を調節する調節部材と、
前記台車本体の上面に配置され、前記調節部材を回動操作するための速度設定ダイヤルと、
リング状に形成されると共に所定位置に操作突起を有し、前記速度設定ダイヤルの外周に回動可能に配置されたリング状のハンドルと、
一方の端部側が前記リング状のハンドルの操作突起に回動可能に取り付けられたレバーと、
前記クラッチを接続・遮断する駆動部を有し、前記台車本体に回動可能に配置されると共に、前記レバーの他方の端部側に回動可能に接続された回動部材と、を有することを特徴とする走行台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断トーチ又は溶接トーチを搭載して走行することで被加工材に対して目的の加工を行う走行台車に関し、特にクラッチを操作する操作部の小型化を実現した走行台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板に代表される被加工材を切断し或いは溶接する際に、搭載したガス切断トーチ、プラズマ切断トーチ或いはプラズマ溶接トーチや炭酸ガス溶接トーチなど(以下「加工トーチ」という)を稼動させつつ走行する走行台車が一般的に利用されている。このような走行台車として、被加工材上に設置されたレールに載置されて直線走行のみ行うものと、レールに載置されて直線走行を行うことが可能で且つ被加工材に載置されて作業員の手動による誘導に従って走行が可能なものがある。
【0003】
走行台車は、駆動モータと駆動軸とが機械式のクラッチを介して接続されており、クラッチの操作に対応して駆動モータの回転を駆動軸に接続し、又は遮断し得るように構成されている。このため、走行台車の上面には、一端側に回動中心を有することで回動可能に構成された操作ハンドルが配置されており、この操作ハンドルを作業員が回動操作することで、走行台車の走行、停止を操作し得るように構成されている。
【0004】
また、走行台車の上面には上記クラッチの操作ハンドルの他に、走行台車の走行速度を設定するための速度設定ダイヤルや、走行方向を設定するための方向設定スイッチ、などが配置されている。特に、これらクラッチの操作ハンドルや速度設定ダイヤルは、作業員が手袋をした状態で操作することが多いため、容易に操作し得るように互いに異なる位置に配置されると共に、可及的に大きく形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の如き走行台車では、走行速度を調整したり、走行、停止の操作を容易に行うことができる。しかし、操作ハンドルや速度設定ダイヤルが異なる位置に配置されているため、走行台車の上面の面積を大きくせざるを得ず、小型化をはかることが困難であるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、クラッチ操作部の小型化を実現した走行台車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係る走行台車は、被加工材を切断又は溶接する加工トーチを搭載し、台車本体の内部に配置した駆動モータと駆動軸とをクラッチを介して接続・遮断し得るように構成した走行台車であって、内部に収容空間が形成された台車本体と、前記台車本体に於ける走行方向の一方の端部側に配置され駆動ローラを有する駆動軸と、前記収容空間に配置され、前記駆動軸とクラッチを介して回転を接続・遮断するように構成された駆動モータと、前記収容空間に配置され、前記駆動モータの回転数を調節する調節部材と、前記台車本体の上面に配置され、前記調節部材を回動操作するための速度設定ダイヤルと、リング状に形成されると共に所定位置に操作突起を有し、前記速度設定ダイヤルの外周に回動可能に配置されたリング状のハンドルと、一方の端部側が前記リング状のハンドルの操作突起に回動可能に取り付けられたレバーと、前記クラッチを接続・遮断する駆動部を有し、前記台車本体に回動可能に配置されると共に、前記レバーの他方の端部側に回動可能に接続された回動部材と、を有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る走行台車では、速度設定ダイヤルの外周にリング状のハンドルが配置されているため、速度設定ダイヤルとリング状のハンドルは同一の回動中心を有する。即ち、走行台車を駆動する駆動モータの回転数を調節するために回動操作する速度設定ダイヤルと、走行台車の走行、停止させるクラッチを操作するために回動させるリング状のハンドルとを同一の回動中心を共有させて配置することで、クラッチの操作部の設置面積を小さくすることができる。従って、走行台車の小型化をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本実施例に係る走行台車の操作部の要部を説明する断面図である。
【
図4】ハンドルとクラッチの接続構造を模式的に説明すると共に接続状態、遮断状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る走行台車について説明する。本発明に係る走行台車は、被加工材を切断又は溶接する加工トーチを搭載し、この加工トーチを目的の加工線に沿って移動させるように構成されており、特に、クラッチの操作部の小型化をはかることを実現したものである。そして、クラッチの操作部の小型化をはかるのに伴って、走行台車の全体構成を小型化を可能にしたものである。
【0011】
本発明に係る走行台車は、回動操作することで駆動モータの回転数を調節して走行速度を設定する速度設定ダイヤルと、回動可能に構成され駆動モータの回転を駆動軸に接続又は遮断するクラッチを操作するリング状のハンドル(以下単に「ハンドル」という)とを、同一の回動中心に配置している。即ち、速度設定ダイヤルの外周にハンドルのリング状の部分を嵌合させて両者の回動中心を一致させたクラッチの操作部(以下単に「操作部」という)を採用したことにより、設置面積を節約して小型化を実現したものである。
【0012】
本発明が対象とする走行台車は、加工トーチを搭載して鋼板に代表される被加工材に対して切断や溶接等の目的の加工を行う際に用いるものである。特に、作業員により手動で誘導されて被加工材を曲線を含む加工線に沿って加工することが可能で、且つレールに案内されて被加工材を直線状に加工することが可能なように構成されている。
【0013】
以下、本実施例に係る走行台車Bと、この走行台車Bに採用した操作部Aの構成について図を用いて説明する。先ず、走行台車Bの全体構成について
図1により簡単に説明する。
【0014】
図に示す走行台車Bは内部に後述する駆動モータ15やクラッチ12を収容した台車本体20を有している。この台車本体20の一方の端部側(矢印a方向の端部側)に駆動ローラ21と、該駆動ローラ21の反対側に図示しない従動ローラが配置され、他方の端部側(矢印b方向の端部側)にフリーローラ22が配置されている。
【0015】
台車本体20の上面23には、加工トーチを保持すると共に該加工トーチの被加工材からの高さや傾斜角度を調整し得るように構成された図示しないトーチホルダーを取り付けるためのスタンド24が配置されている。また、台車本体20の上面23には、電源コードを接続するためのコネクタ25、走行方向を設定するためのスイッチ26が配置されている。
【0016】
また、台車本体20の他方の端部側(矢印b方向の端部側)には、作業員が手動操作によって走行台車Bの走行方向を誘導する際に利用する誘導ハンドル27が構成されている。
【0017】
更に、台車本体20の側面には被加工材を加工する際に生じる火炎の熱や、輻射熱或いはスパッタを遮断するための防熱板28が着脱可能に取り付けられており、同様に下面にも防熱板29が着脱可能に取り付けられている。
【0018】
次に、本実施例に係る操作部Aの構成について具体的に説明する。
【0019】
台車本体20の上面23には、操作部Aを構成する駆動モータ15の回転数を調節する調節部材1を回動操作する速度設定ダイヤル2、速度設定ダイヤル2の外周に嵌合して回動するリング状に形成されたハンドル3、が夫々配置されている。
【0020】
調節部材1は、駆動モータ15の回転数を調節するものであり、駆動モータ15の駆動方式に対応して最適なものが用いられる。本実施例では、調節部材1として軸1aを有するエンコーダを用いている。しかし、エンコーダに限定するものではなく、可変抵抗器を用いても良く、要するに駆動モータの回転数を調節する機能を有するものであれば用いることが可能である。この調節部材1は軸1aが上方に突出し得るように取付板4に固定されている。
【0021】
走行台車Bの台車本体20の所定位置には取付座20aが形成されており、取付板4はこの取付座20aにビス4aによって取り付けられている。取付板4が取り付け座20aに固定されることによって、速度設定ダイヤル2、ハンドル3を安定した状態で取り付けることが可能となる。
【0022】
取付板4の上面にはハンドル3を回動可能に支持する支持軸4bが形成されており、該支持軸4bの中心と一致させて調節部材1の軸1aを貫通させる孔4cが形成されている。そして、調節部材1は取付板4の孔4cに軸1aを貫通させて該取付板4に固定されている。
【0023】
取付板4の支持軸4bには、操作突起5を嵌合させて一体化したハンドル3が回動可能に支持されている。ハンドル3はリング状部3aと、該リング状部3aから突出して形成されたレバー3bとを有して構成されている。また、リング状部3aの所定位置には操作突起5の係合部5aを係止する切欠状の係止部3cが形成されている。
【0024】
操作突起5は、ハンドル3のリング状部3aの内側に形成された溝3dに嵌合するリング状の嵌合部5bを有しており、該嵌合部5bの所定位置に係合部5aが形成されている。係合部5aは、一部が嵌合部5bから外周側に突出して形成されると共に、下方に向けて垂下する垂下片5cと該垂下片5cの先端に孔5eを有する操作片5dが形成されている。
【0025】
上記の如く形成された操作突起5の嵌合部5bをハンドル3の溝3dに嵌合すると共に、係合部5aを係止部3cに係止することで、操作突起5をハンドル3に一体化させることが可能である。そして、銘板6を介在させて、操作突起5を一体化したハンドル3のリング状部3aを取付板4の支持軸4bに嵌合することで、ハンドル3の回動操作に伴って操作突起5を回動させることが可能となる。
【0026】
上記の如く本実施例では、ハンドル3と操作突起5は異なる部品として構成されている。しかし、ハンドル3と操作突起5が一つの部品として構成されているか否かは限定するものではなく、製造工程や組立工程などを勘案して決定すれば良い。
【0027】
上記の如くしてハンドル3を取付板4の支持軸4bに嵌合させたとき、該ハンドル3は軸4aを中心として回動可能であるものの、該支持軸4bに沿って摺動して離脱する虞がある。このため、ハンドル3の上方には押さえ部材7が配置されており、該押さえ部材7を図示しないねじによって取付板4に固定することで、ハンドル3の支持軸4aからの離脱を防止し得るように構成されている。
【0028】
また、取付板4に固定された調節部材1の軸1aは該取付板4の孔4cを貫通して上方に突出しており、この軸1aに速度設定ダイヤル2が嵌合している。このため、速度設定ダイヤル2を回動させることで、調節部材1による駆動モータ15の回転数を調節することが可能である。
【0029】
前述したように、支持軸4bの中心と孔4cの中心が一致しているため、速度設定ダイヤル2と、ハンドル3は同一の中心を共有することとなり、設置面積を削減することが可能となる。即ち、従来の速度設定用のダイヤルとクラッチ操作用のレバーが異なる位置に配置されていた走行台車と比較すると、小型化をはかることが可能となる。
【0030】
ハンドル3と一体化された操作突起5の操作片5dには、レバー8の一方の端部側がピン9を介して回動可能に取り付けられている。このレバー8の他方の端部側は、台車本体20に回動可能に配置された回動部材10にピン9を介して回動可能に取り付けられている。
【0031】
回動部材10は、回動片10aと駆動片10bを有する平面視がL字状に形成されており、回動片10aの端部側がピン9を介して台車本体20に回動可能に取り付けられている。そして、駆動片10bにはクラッチ12を駆動する駆動レバー10cが設けられている。
【0032】
クラッチ12は、駆動軸13に回動可能に嵌合された駆動部材12aと、駆動軸13に配置されたキー13aを介して該駆動軸13に摺動可能に取り付けられた伝動部材12bとを有して構成されている。駆動部材12aの外周面は歯車として形成されており、該歯車に駆動モータ15の出力軸に取り付けた歯車15aが噛合して回転が伝達されるように構成されている。
【0033】
上記の如く、クラッチ12を接続又は遮断操作するためのハンドル3と、駆動モータ15の回転数を調節して走行台車Bの走行速度を調節する速度設定ダイヤル2と、が取付板4の支持軸4bの中心と一致した中心を有する。
【0034】
上記の如く構成された操作部Aによるクラッチ12の操作について説明する。
図4(a)に示すように、ハンドル3を矢印c方向に回動させると、この回動に伴ってレバー8が矢印c方向に移動して回動部材10を矢印c方向に回動させる。回動部材10の矢印c方向への回動により、駆動レバー10cがクラッチ12の伝動部材12bをキー13aに沿って駆動部材12aの方向に移動させて接続することが可能である。
【0035】
そして、駆動モータ15の回転は歯車15aを介してクラッチ12の駆動部材12aに伝えられ、該駆動部材12aと接続した伝達部材12bからキー13aを介して駆動軸13に伝えられて該駆動軸13を回転させる。
【0036】
また、同図(b)に示すように、ハンドル3を矢印d方向に回動させると、この回動に伴ってレバー8が矢印d方向に移動して回動部材10を矢印d方向に回動させる。回動部材10の矢印d方向への回動により、駆動レバー10cがクラッチ12の伝動部材12bをキー13aに沿って駆動部材12aから離隔方向に移動させて接続を遮断することが可能である。
【0037】
従って、駆動モータ15の回転が歯車15aを介してクラッチ12の駆動部材12aに伝えられているにも関わらず、回転がキー13aを介して駆動軸13に伝えられることがない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る走行台車Bは、切断装置又は溶接装置として構成される走行台車に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
A 操作部
B 走行台車
1 調節部材
1a 軸
2 速度設定ダイヤル
3 ハンドル
3a リング状部
3b レバー
3c 係止部
3d 溝
4 取付板
4a ビス
4b 支持軸
4c 孔
5 操作突起
5a 係合部
5b 嵌合部
5c 垂下片
5e 穴
5d 操作片
6 銘板
7 押さえ部材
8 レバー
9 ピン
10 回動部材
10a 回動片
10b 駆動片
10c 駆動レバー
12 クラッチ
12a 駆動部材
12b 伝動部材
13 駆動軸
13a キー
15 駆動モータ
15a 歯車
20 台車本体
20a 取付座
21 駆動ローラ
22 フリーローラ
23 上面
24 スタンド
25 コネクタ
26 スイッチ
27 誘導ハンドル
28、29 防熱板