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特許7017996感熱塗料及びそれを用いたレーザーマーキング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】感熱塗料及びそれを用いたレーザーマーキング方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/28 20060101AFI20220202BHJP
   B41M 5/46 20060101ALI20220202BHJP
   B41M 5/323 20060101ALI20220202BHJP
   B41M 5/337 20060101ALI20220202BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
B41M5/28 250
B41M5/28 280
B41M5/46 210
B41M5/323 220
B41M5/337 220
C09D201/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018162320
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020032649
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】會田 航平
(72)【発明者】
【氏名】川崎 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】相馬 憲一
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健二郎
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-309070(JP,A)
【文献】特開昭63-081082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/26-8/34,5/46
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱で変色する感温材料を含む感熱塗料であって、
前記感温材料は、結晶化速度が互いに異なる第1感温材料及び第2感温材料を含み、
前記第1感温材料は、ロイコ染料、顕色剤及び消色剤が混和した非晶質第一粒子を含み、所定の昇温速度R 未満で昇温した場合に、顕色温度T a1 以上かつ消色温度T d1 未満の温度範囲で顕色し、前記R 以上で昇温した場合に顕色しない材料であり、
前記第2感温材料は、ロイコ染料、顕色剤及び消色剤が混和した非晶質第二粒子を含み前記R 未満の昇温および前記R 以上の昇温の両方の場合で、顕色温度T a2 以上かつ消色温度T d2 未満の温度範囲で顕色する材料であり、
前記T a1 、T d1 、T a2 、T d2 の間に「T a1 <T a2 <T d1 <T d2 」又は「T a1 <T a2 <T d2 <T d1 」の関係があることを特徴とする感熱塗料。
【請求項2】
請求項に記載の感熱塗料において
前記感温材料に対して、前記T d1 又はT d2 の高い方の温度まで前記R 未満の条件で昇温する示差走査熱量測定を行った場合に前記非晶質第一粒子及び前記非晶質第二粒子の結晶化に由来する発熱ピークが2つ観察され
前記T d1 又はT d2 の高い方の温度まで前記R 以上の条件で昇温する示差走査熱量測定を行った場合に、前記非晶質第二粒子の結晶化に由来する発熱ピークが1つ観察されることを特徴とする感熱塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の感熱塗料において
前記感温材料の昇温速度および到達温度を制御すると、3段階に顕色することを特徴とする感熱塗料。
【請求項4】
請求項乃至のいずれか一項に記載の感熱塗料において
前記非晶質第一粒子と前記非晶質第二粒子は、同じ波長のレーザーにより顕色することを特徴とする感熱塗料。
【請求項5】
請求項乃至のいずれか一項に記載の感熱塗料において
前記非晶質第一粒子及び/又は前記非晶質第二粒子がマイクロカプセル化されていることを特徴とする感熱塗料。
【請求項6】
熱塗料を用いたレーザーマーキング方法であって、
前記感熱塗料は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の感熱塗料であり、
レーザーの波長を変えずに出力又は照射時間を制御しながら前記レーザー前記感熱塗料に照射して、照射領域の昇温速度および到達温度を制御することにより、前記感熱塗料の色調を制御することを特徴とするレーザーマーキング方法。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザーマーキング方法において、
前記非晶質第一粒子及び前記非晶質第二粒子は、それぞれ、前記ロイコ染料、前記顕色剤及び前記消色剤を揮発性溶媒に溶解させ、その後ガラス転移点以下の温度で前記揮発性溶媒を乾燥させる溶媒急速蒸発法により作製したものであることを特徴とするレーザーマーキング方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のレーザーマーキング方法において、
前記レーザー光は、赤外線レーザー光であることを特徴とするレーザーマーキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱塗料及びそれを用いたレーザーマーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、化粧品、電子部品等幅広い分野で、高速印字が可能な非接触の産業用インクジェットプリンタやレーザーマーカが用いられている。しかしながら、これらのマーキング装置は単色に印字する装置が多く、多色での印字が難しい。インクジェットプリンタにおいて多色に印字するためには、インク、インクタンク、インクを噴出するノズルが複数必要になる。レーザーマーキングは、対象物にレーザー光を照射して、表面を溶かす、焦がす、剥離する、酸化させる、削る、変色させることで印字する方法である。レーザーマーカにおいて、多色に印字するためには、レーザー波長に依存して多色に発色する塗料を印字面に事前に塗布する必要がある。多色に発色する塗料としては、例えば、特定波長において材料が構造変化し色変化を引き起こす物質を含む塗料が挙げられる。そのため、多色に発色させるためには、多種の波長のレーザービームを照射する必要がある。また、材料の構造変化を引き起こすために、高出力のレーザー装置が求められる場合が多い。
【0003】
一方、サーマルヘッドを備えたサーマルプリンタでは、多色感熱記録材料を用いて、多色にプリンタする技術が知られている。
【0004】
特許文献1には、少なくとも、電子供与性化合物と、電子受容性化合物と、組成系の一部または全部の可逆的な結晶質-非晶質転移または2つの相分離状態もしくは相分離状態-非相分離状態の変化を発現させる可逆材と、示温特性制御材とを含有する示温材料が開示されている。示温特性制御剤は室温で固体であり、電子受容性化合物または可逆材もしくは電子受容性化合物および可逆材に対して少なくとも示温特性制御剤の一部が相溶し、その結晶質-非晶質転移または相分離状態-非相分離状態の変化により組成系の結晶質-非晶質転移または相分離状態-非相分離状態速度を変化させ、相分離後に前記電子供与性化合物と電子受容性化合物との相互作用を阻害しないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-348568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている示温材料は、発色状態からその融点以上に加熱すると、流動状態になり、電子供与性化合物と電子受容性化合物とが相互作用を弱め、電子受容性化合物または可逆材、もしくは、電子受容性化合物および可逆材と、示温特性制御剤の少なくとも一部が相溶し、示温特性制御剤と顕色剤および可逆材との相互作用が強くなり消色する。その状態から急冷すると、可逆材、電子受容性化合物および示温特性制御剤の3成分間の相互作用を強めたまま、非晶質状態で固化し、消色状態が保持される。
【0007】
この非晶質状態の示温材料は、加熱温度に応じた速度で可逆材および示温特性制御剤が結晶化し、顕色する。この非晶質状態の示温材料を、微粒子化し塗料中に混合することで、レーザーでの加熱により顕色する塗料を作製することが可能である。
【0008】
レーザーマーキングにおいては印字速度が速いことが要求されている。印字速度をあげるためには、顕色速度が速い示温材料を用いることが望ましい。
【0009】
しかしながら、顕色速度が速いということは結晶化しやすいということであるため、消色状態のまま非晶質状態で固化させることが難しい。非晶質状態の示温材料は、融点以上に加熱して融解させた状態から、ガラス転移点以下の温度に急冷することで形成される。このとき、融点とガラス転移点の中間温度にある結晶化しやすい温度を経由する。示温材料の急冷工程において、この結晶化しやすい温度で結晶化してしまうと、示温材料は非晶質状態にならず結晶化し顕色してしまう。そのため、レーザーでの加熱により顕色する塗料として使用することができない。
【0010】
そこで、本発明は、レーザーで顕色可能であって、顕色速度の速い感熱塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る感熱塗料はロイコ染料、顕色剤及び消色剤を含み、非晶質な第一粒子を備え、第一粒子のガラス転移点以下の温度から融点まで、加熱速度30℃/分で加熱すると、第一粒子のガラス転移点以上であって融点未満の温度で顕色することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーザーで顕色可能であって、顕色速度の速い感熱塗料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態で用いた感温材料の温度と色濃度の関係を示すグラフである。
図2】結晶化速度の速い感温材料のDSC曲線である。
図3】結晶化速度の遅い感温材料のDSC曲線である。
図4】第2実施形態で用いた感温材料の温度と色濃度の関係を示すグラフである。
図5】第2実施形態に係る塗料の色変化を示す模式図である。
図6】第3実施形態で用いた感温材料の温度と色濃度の関係を示すグラフである。
図7】第3実施形態で用いた感温材料の温度と色濃度の関係を示すグラフである。
図8】第3実施形態に係る塗料の色変化を示す模式図である。
図9】実施例3に係る塗料の温度依存性を示す写真である。
図10】実施例3に係る塗料のレーザー印字結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0015】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る感熱塗料は、塗料にレーザービームを照射することで塗料を局所的に加熱し、変色させることにより、マーキングを形成するレーザーマーキング用塗料に関する。
【0016】
感熱塗料は、レーザー光の照射による熱で変色する感温材料と、溶媒と、を含む。感熱塗料には、粘度の調整や、塗膜(溶媒が乾燥した後の塗料)の強度の調整のため、樹脂、粘性調整剤、表面張力調整剤、などを添加しても良い。
【0017】
<溶媒>
レーザーマーキング用塗料は、レーザービームにより印字するために、予め印字面に塗布される。印字面に塗布するために、溶媒(塗料溶液)が必要になる。溶媒は、印字面を形成している材料の性質に合わせて選択することができる。紙などの親水性を有する印字面の場合は、親水性の溶媒を用いることが好ましい。
【0018】
<感温材料>
感温材料は、ロイコ染料、顕色剤、及び消色剤を含む粒子であって、非晶質―結晶質相転移により変色する材料である。また、感温材料は、色濃度-温度曲線にヒステリシス特性を示し、可逆性を有する。
【0019】
第1実施形態に係る感温材料は、非晶質で消色した状態から昇温していくと結晶化により顕色するという特徴を有する。図1に第1実施形態に係る感温材料の色濃度と温度の関係を示す。破線は冷却速度が遅い場合の色濃度と温度の関係を示す。図1において、縦軸は色濃度、横軸は温度であり、Taは感温材料の顕色温度、Tdは消色温度であり、斜線部はマーキング対象物の使用温度である。第1実施形態に係る感温材料は、昇温過程においてTaで顕色が開始し、Tdに達すると消色が開始する。また、消色させた状態から温度を下げていく際に、冷却速度が速い場合は、消色した状態のまま固体化する。冷却速度が遅い場合は破線で示すようにTa´で顕色が開始し、顕色した状態で固体化する。
【0020】
したがって、非晶質状態で消色した感温材料に、レーザーで温度Taに相当する熱エネルギーを与えることにより、塗料をレーザー照射部分のみ顕色させることができる。顕色後、Td以上に温度をあげることなく、冷却することにより、顕色状態を維持することができる。また、Taは、マーキング対象物の使用温度の範囲よりも高い温度(使用過程で想定されない温度)とすることにより、新たな顕色を抑制できる。例えば、マーキング対象物を常温で保管、使用する場合、60℃以上で顕色する材料を用いることが好ましい。
【0021】
図2および図3は、感温材料の示差走査熱量測定(DSC)により得られるDSC曲線である。図2は結晶化速度が速い感温材料のDSC曲線であり、昇温速度30℃/min、降温速度20℃/minで測定したときの模式図である。図3は結晶化速度が遅い感温材料のDSC曲線であり、昇温速度5℃/min、降温速度20℃/minで測定したときの模式図である。縦軸は熱流束(W)、横軸は温度、Tgはガラス転移点、Taは昇温過程における結晶化による発熱ピークの開始温度(以下、昇温過程における結晶化開始温度という。)、Tdは融点である。図2および図3における融点Td、昇温過程における結晶化開始温度Taはそれぞれ図1における消色温度Td、顕色温度Taに相当する。
【0022】
図2および図3において、温度を上昇させていくと、ガラス転移点Tgでガラス転移に伴いベースラインが低下する。昇温過程の結晶化開始温度Taで結晶化が始まり発熱ピークが観測される。結晶化開始により解離していたロイコ染料と顕色剤とが結合し顕色が開始する。融点Tdで吸熱ピークが観測される。融点に達した感温材料は融解し、ロイコ染料と顕色剤の結合が解離することにより消色する。昇温速度が遅い場合は、より低温に昇温過程における結晶化開始温度Taが現れ、昇温速度が速い場合は、より高温に昇温過程における結晶化開始温度Taが現れるか、あるいは結晶化開始温度Taが現れずに融点Tdで融解する。
【0023】
結晶化速度の速い感温材料は、図2に示すように、融点Td以上の温度から冷却していくと、結晶化が起こり、発熱ピークが観察される。これにより、解離していたロイコ染料と顕色剤とが結合し顕色が開始する。この状態で再び加熱した場合、すでに結晶化しているため、ガラス転移に伴うベースラインの低下、および結晶化に伴う発熱ピークは観察されない。
【0024】
結晶化速度の遅い感温材料は、図3に示すように、融点Td以上の温度から冷却していくと、結晶化が起こらないため結晶化による発熱ピークが観察されない。感温材料は、ロイコ染料と顕色剤とが解離したまま固体化するため、消色状態が維持される。図3には示していないが、降温速度が遅い場合は、ロイコ染料と顕色剤が結合し呈色した状態で固体化する。冷却速度に依存して呈色状態が異なる。結晶化しやすい材料の場合、ガラス転移点以上の温度になると容易に結晶化するため、結晶化開始温度Taとガラス転移点Tgが同じ温度になることが多い。
【0025】
先に述べたように、レーザーマーキングにおいては、印字速度が速いことが要求されている。レーザーマーキングにおいて印字速度をあげるためには、感温材料として結晶化速度の速い材料を用いることが望ましい。
【0026】
しかしながら、レーザーマーキングにおいては、レーザー照射前に、感温材料を消色状態にしておく必要がある。消色状態の感温材料にTa以上Td以下の温度になるようにレーザービームを照射することにより、感温材料を顕色させるためである。図2及び図3から分かるように、結晶化しにくい感温材料の場合、感温材料を融解した後、急冷することにより、レーザー照射前に感温材料を消色した状態にしておくことができる。一方、結晶化しやすい感温材料の場合、冷却過程で結晶化し、顕色してしまうため、消色状態にしておくことができない。
【0027】
急冷方法としては、多種の冷却方法が想定されるが、感温材料の熱容量の関係上、昇温速度30℃/min以上でのDSC測定において結晶化ピークが観察される程度に、結晶化速度が速い感温材料を作製することは難しい。さらに、レーザー照射によるスポット加熱など、昇温速度1000℃/min以上の加熱で結晶化が起こり顕色するような感熱材料を作製することは困難である。
【0028】
発明者らが鋭意検討した結果、ロイコ染料と顕色剤と消色剤を含む感温材料を揮発性溶媒に溶解させ、感温材料のガラス転移点Tg以下で溶媒を乾燥する溶媒急速蒸発法を用いることにより、結晶化速度が速く、非晶質の状態で消色した材料を作製できることを見出した。
【0029】
溶媒急速蒸発法としては、例えば、ロイコ染料と顕色剤と消色剤からなる感温材料を揮発性溶媒に溶解したものに対し、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、真空乾燥法、冷風乾燥法を適用することが考えられる。いずれの方法においても、揮発性溶媒を急速に揮発させることができる。乾燥速度にも依存するが、ガラス転移点以下であれば、感温材料は結晶化することがないため、結晶化しやすい材料でも非晶質を作製することが可能である。揮発性溶媒としては、揮発性が高く、ロイコ染料と顕色剤と消色剤を溶解することができる溶媒を用いることができる。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類、ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの無極性溶媒等を用いることができる。
【0030】
上記方法で作製した感温材料を含む塗料は、感温材料のガラス転移点以下の温度から融点まで加熱速度30℃/分で加熱した際に、感温材料のガラス転移点以上であって融点未満の温度で顕色し、感温材料の融点において消色する。結晶化速度(顕色速度)の速い材料は、加熱速度が遅くても早くても、ガラス転移点以上、かつ融点未満の温度で顕色する。一方、結晶化速度(顕色速度)の遅い材料は、加熱速度が遅い場合はガラス転移点以上、かつ融点未満の温度で顕色するが、加熱速度が速い場合は顕色せずに融点で融解する。したがって、感温材料のガラス転移点以下の温度から融点まで加熱速度30℃/分で加熱した際に、感温材料のガラス転移点以上、かつ融点未満の温度で顕色し、感温材料の融点において消色する材料は、結晶化速度(顕色速度)が速い材料であるといえる。結晶化速度が速い材料を用いることにより、レーザーマーキングにおける印字速度を向上することができる。
【0031】
また、DSC測定において、感温材料のガラス転移点以下の温度から融点まで、加熱速度30℃/分で加熱した際に、感温材料のガラス転移点以上であって融点未満の温度において、感温材料の結晶化に由来する発熱ピークが観察されることが好ましい。
【0032】
すでに説明した通り、結晶化速度の速い材料は、DSC測定において昇温速度が遅くても早くても、ガラス転移点以上かつ融点未満の温度範囲に、結晶化に由来する発熱ピークが観測される。一方、結晶化速度の遅い材料は、DSC測定において昇温速度が遅い場合は、結晶化に由来する発熱ピークが観測されるが、昇温速度が速い場合は、結晶化に由来する発熱ピークがあらわれずに融点で融解する。したがって、加熱速度30℃/分で加熱した際に、感温材料のガラス転移点以上であって融点未満の温度において、感温材料の結晶化に由来する発熱ピークが観察される材料は、結晶化速度が速い材料であるといえる。
【0033】
レーザーマーキング速度向上の観点から、感温材料のガラス転移点以下の温度から融点まで加熱速度100℃/分で加熱した際に、感温材料のガラス転移点以上であって融点未満の温度で顕色し、感温材料の融点において消色することが、より好ましい。
【0034】
レーザーによるスポット加熱の速度は、レーザー出力、スポット面積により異なるが、例えば高出力レーザ(500W)で直径14mmを加熱すると、6000℃/分程度になる。しかし、実際に感熱塗料を塗布した基材に加わるスポット加熱の速度は、塗料の厚さ、基材の厚さ、スポット面積、塗料および基材を構成する材料の熱伝導率を考慮し、さらに加熱速度および熱緩和速度を考慮する必要がある。これらを考慮し、例えば厚み100μmのPETフィルムに感熱塗料を10μm程度塗布した基材に対し、10WのCOレーザーを直径1mmに照射すると、レーザーによるスポット加熱の加熱速度は1000℃/分程度になると推察される。したがって、感温材料のガラス転移点以下の温度から融点まで、加熱速度1000℃/分で、レーザーでスポット加熱した際に、感温材料のガラス転移点以上であって融点未満の温度で顕色することが、さらに好ましい。
【0035】
(ロイコ染料)
ロイコ染料は、電子供与性化合物であって、従来、感圧複写紙用の染料や、感熱記録紙用染料として公知のものを利用できる。例えば、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系等が挙げられる。ロイコ染料の具体例としては、9-(N-エチル-N-イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン-12,3’-フタリド]、2-メチル-6-(Np-トリル-N-エチルアミノ)-フルオラン6-(ジエチルアミノ)-2-[(3-トリフルオロメチル)アニリノ]キサンテン-9-スピロ-3’-フタリド、3,3-ビス(p-ジエチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルスピロ[フタリド-3,9’-キサンテン]、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1-エチル-8-[N-エチル-N-(4-メチルフェニル)アミノ]-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロスピロ[11H-クロメノ[2,3-g]キノリン-11,3’-フタリドが挙げられる。
【0036】
1つの感温材料に対して、1種または2種以上のロイコ染料を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(顕色剤)
顕色剤は、電子供与性のロイコ染料と接触することで、ロイコ染料の構造を変化させて呈色させるものである。顕色剤としては、感熱記録紙や感圧複写紙等に用いられる顕色剤として公知のものを利用できる。このような顕色剤の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2′-ビフェノール、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、パラオキシ安息香酸エステル、没食子酸エステル等のフェノール類等を挙げることができる。顕色剤は、これらに限定されるものではなく、電子受容体でありロイコ染料を変色させることができる化合物であればよい。また、カルボン酸誘導体の金属塩、サリチル酸及びサリチル酸金属塩、スルホン酸類、スルホン酸塩類、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル類、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類等を用いてもよい。特に、ロイコ染料や後述する消色剤に対する相溶性が高いものが好ましく、2,2′-ビスフェノール、ビスフェノールA、没食子酸エステル類等の有機系顕色剤が好ましい。
【0038】
1つの感温材料に対して、顕色剤を2種類以上組み合わせてもよい。顕色剤を組合せることによりロイコ染料の呈色時の色濃度を調整可能である。顕色剤の使用量は所望される色濃度に応じて選択する。例えば、ロイコ染料1重量部に対して、0.1~100重量部程度の範囲内で選択すればよい。
【0039】
(消色剤)
消色剤は、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能な化合物であり、ロイコ染料と顕色剤との呈色温度を制御できる化合物である。一般的に、ロイコ染料が呈色した状態の温度範囲では、消色剤が相分離した状態で固化している。また、ロイコ染料が消色状態となる温度範囲では、消色剤は融解しており、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させる機能が発揮された状態である。消色剤としては、消色剤の材料としては、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能である材料を幅広く用いることができる。極性が低くロイコ染料に対して顕色性を示さず、ロイコ染料と顕色剤を溶解させる程度に極性が高ければ、様々な材料が消色剤になり得る。その中でも、レーザーマーキング用塗料における消色剤として用いる場合、消色剤としては、結晶化しやすい材料が好ましい。代表的には、ヒドロキシ化合物、エステル化合物、ペルオキシ化合物、カルボニル化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ハロゲン化合物、アミノ化合物、イミノ化合物、N-オキシド化合物、ヒドロキシアミン化合物、ニトロ化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、アジ化合物、エーテル化合物、油脂化合物、糖化合物、ペプチド化合物、核酸化合物、アルカロイド化合物、ステロイド化合物など、多様な有機化合物を用いることができる。具体的には、トリカプリン、ミリスチン酸イソプロピル、酢酸 m-トリル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、1、4-ジアセトキシブタン、デカン酸デシル、フェニルマロン酸ジエチル、フタル酸ジイソブチル、クエン酸トリエチル、フタル酸ベンジルブチル、ブチルフタリルブチルグリコラート、N-メチルアントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、サリチル酸2-ヒドロキシエチル、ニコチン酸メチル、4-アミノ安息香酸ブチル、p-トルイル酸メチル、4-ニトロ安息香酸エチル、フェニル酢酸2-フェニルエチル、けい皮酸ベンジル、アセト酢酸メチル、酢酸ゲラニル、こはく酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、オキサル酢酸ジエチル、モノオレイン、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸エチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、酢酸リナリル、フタル酸ジ-n-オクチル、安息香酸ベンジル、ジエチレングリコールジベンゾアート、p-アニス酸メチル、酢酸 m-トリル、けい皮酸シンナミル、プロピオン酸2-フェニルエチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸メチル、アントラニル酸メチル、酢酸ネリル、パルミチン酸イソプロピル、4-フルオロ安息香酸エチル、シクランデラート (異性体混合物)、ブトピロノキシル、2-ブロモプロピオン酸エチル、トリカプリリン、レブリン酸エチル、パルミチン酸ヘキサデシル、酢酸 tert-ブチル、1、1-エタンジオールジアセタート、しゅう酸ジメチル、トリステアリン 、アセチルサリチル酸メチル、ベンザルジアセタート、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2、3-ジブロモ酪酸エチル、2-フランカルボン酸エチル、アセトピルビン酸エチル、バニリン酸エチル、イタコン酸ジメチル、3-ブロモ安息香酸メチル、アジピン酸モノエチル、アジピン酸ジメチル、1、4-ジアセトキシブタン、ジエチレングリコールジアセタート、パルミチン酸エチル、テレフタル酸ジエチル、プロピオン酸フェニル、ステアリン酸フェニル、酢酸1-ナフチル、ベヘン酸メチル、アラキジン酸メチル、4-クロロ安息香酸メチル、ソルビン酸メチル、イソニコチン酸エチル、ドデカン二酸ジメチル、ヘプタデカン酸メチル、α-シアノけい皮酸エチル、N-フェニルグリシンエチル、イタコン酸ジエチル、ピコリン酸メチル、イソニコチン酸メチル、DL-マンデル酸メチル、3-アミノ安息香酸メチル、4-メチルサリチル酸メチル、ベンジリデンマロン酸ジエチル、DL-マンデル酸イソアミル、メタントリカルボン酸トリエチル、ホルムアミノマロン酸ジエチル、1、2-ビス(クロロアセトキシ)エタン、ペンタデカン酸メチル、アラキジン酸エチル、6-ブロモヘキサン酸エチル、ピメリン酸モノエチル、乳酸ヘキサデシル、ベンジル酸エチル、メフェンピル-ジエチル、プロカイン、フタル酸ジシクロヘキシル、サリチル酸4-tert-ブチルフェニル、4-アミノ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、トリパルミチン、1、2-ジアセトキシベンゼン、イソフタル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、バニリン酸メチル、3-アミノ-2-チオフェンカルボン酸メチル、エトミデート、クロキントセット-メキシル、ベンジル酸メチル、フタル酸ジフェニル、安息香酸フェニル、4-アミノ安息香酸プロピル、エチレングリコールジベンゾアート、トリアセチン、ペンタフルオロプロピオン酸エチル、3-ニトロ安息香酸メチル、酢酸4-ニトロフェニル、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチル、くえん酸トリメチル、3-ヒドロキシ安息香酸エチル、3-ヒドロキシ安息香酸メチル、トリメブチン、酢酸4-メトキシベンジル、ペンタエリトリトールテトラアセタート、4-ブロモ安息香酸メチル、1-ナフタレン酢酸エチル、5-ニトロ-2-フルアルデヒドジアセタート、4-アミノ安息香酸エチル、プロピルパラベン、1、2、4-トリアセトキシベンゼン、4-ニトロ安息香酸メチル、アセトアミドマロン酸ジエチル、バレタマートブロミド、安息香酸2-ナフチル、フマル酸ジメチル、アジフェニン塩酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、酪酸ビニル、ビタミンK4、4-ヨード安息香酸メチル、3、3-ジメチルアクリル酸メチル、没食子酸プロピル、1、4-ジアセトキシベンゼン、メソしゅう酸ジエチル、1、4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル (cis-、trans-混合物)、1、1、2-エタントリカルボン酸トリエチル、ヘキサフルオログルタル酸ジメチル、安息香酸アミル、3-ブロモ安息香酸エチル、5-ブロモ-2-クロロ安息香酸エチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、アリルマロン酸ジエチル、ブロモマロン酸ジエチル、エトキシメチレンマロン酸ジエチル、エチルマロン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジエチル、1、3-アセトンジカルボン酸ジメチル、フタル酸ジメチル、3-アミノ安息香酸エチル、安息香酸エチル、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、ニコチン酸エチル、フェニルプロピオル酸エチル、ピリジン-2-カルボン酸エチル、2-ピリジル酢酸エチル、3-ピリジル酢酸エチル、安息香酸メチル、フェニル酢酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸アミル、2、5-ジアセトキシトルエン、4-オキサゾールカルボン酸エチル、1、3、5-シクロヘキサントリカルボン酸トリメチル(cis-、trans-混合物)、3-(クロロスルホニル)-2-チオフェンカルボン酸メチル、ペンタエリトリトールジステアラート、ラウリン酸ベンジル、アセチレンジカルボン酸ジエチル、メタクリル酸フェニル、酢酸ベンジル、グルタル酸ジメチル、2-オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル、フェニルシアノ酢酸エチル、1-ピペラジンカルボン酸エチル、ベンゾイルぎ酸メチル、フェニル酢酸メチル、酢酸フェニル、こはく酸ジエチル、トリブチリン、メチルマロン酸ジエチル、しゅう酸ジメチル、1、1-シクロプロパンジカルボン酸ジエチル、マロン酸ジベンジル、4-tert-ブチル安息香酸メチル、2-オキソシクロペンタンカルボン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸メチル、4-メトキシフェニル酢酸エチル、4-フルオロベンゾイル酢酸メチル、マレイン酸ジメチル、テレフタルアルデヒド酸メチル、4-ブロモ安息香酸エチル、2-ブロモ安息香酸メチル、2-ヨード安息香酸メチル、3-ヨード安息香酸エチル、3-フランカルボン酸エチル、フタル酸ジアリル、ブロモ酢酸ベンジル、ブロモマロン酸ジメチル、m-トルイル酸メチル、1、3-アセトンジカルボン酸ジエチル、フェニルプロピオル酸メチル、酪酸1-ナフチル、o-トルイル酸エチル、2-オキソシクロペンタンカルボン酸メチル、安息香酸イソブチル、3-フェニルプロピオン酸エチル、マロン酸ジ-tert-ブチル、セバシン酸ジブチル、アジピン酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、1、1-エタンジオールジアセタート、アジピン酸ジイソプロピル、フマル酸ジイソプロピル、けい皮酸エチル、2-シアノ-3、3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル、ネオペンチルグリコールジアクリラート、トリオレイン、ベンゾイル酢酸エチル、p-アニス酸エチル、スベリン酸ジエチル、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ステアリン酸アミド、モノステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、3-(tert-ブトキシカルボニル)フェニルボロン酸、ラセカドトリル、4-[(6-アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]-4’-シアノビフェニル、2-(ジメチルアミノ)ビニル3-ピリジルケトン、アクリル酸ステアリル、4-ブロモフェニル酢酸エチル、フタル酸ジベンジル、3、5-ジメトキシ安息香酸メチル、酢酸オイゲノール、3、3’-チオジプロピオン酸ジドデシル、酢酸バニリン、炭酸ジフェニル、オキサニル酸エチル、テレフタルアルデヒド酸メチル、4-ニトロフタル酸ジメチル、(4-ニトロベンゾイル)酢酸エチル、ニトロテレフタル酸ジメチル、2-メトキシ-5-(メチルスルホニル)安息香酸メチル、3-メチル-4-ニトロ安息香酸メチル、2、3-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、4’-アセトキシアセトフェノン、trans-3-ベンゾイルアクリル酸エチル、クマリン-3-カルボン酸エチル、BAPTA テトラエチルエステル、2、6-ジメトキシ安息香酸メチル、イミノジカルボン酸ジ-tert-ブチル、p-ベンジルオキシ安息香酸ベンジル、3、4、5-トリメトキシ安息香酸メチル、3-アミノ-4-メトキシ安息香酸メチル、ジステアリン酸ジエチレングリコール、3、3’-チオジプロピオン酸ジテトラデシル、4-ニトロフェニル酢酸エチル、4-クロロ-3-ニトロ安息香酸メチル、1、4-ジプロピオニルオキシベンゼン、テレフタル酸ジメチル、4-ニトロけい皮酸エチル、5-ニトロイソフタル酸ジメチル、1、3、5-ベンゼントリカルボン酸トリエチル、N-(4-アミノベンゾイル)-L-グルタミン酸ジエチル、酢酸2-メチル-1-ナフチル、7-アセトキシ-4-メチルクマリン、4-アミノ-2-メトキシ安息香酸メチル、4、4’-ジアセトキシビフェニル、5-アミノイソフタル酸ジメチル、1、4-ジヒドロ-2、6-ジメチル-3、5-ピリジンジカルボン酸ジエチル、4、4’-ビフェニルジカルボン酸ジメチルなどのエステル化合物や、コレステロール、コレステリルブロミド、β-エストラジオール、メチルアンドロステンジオール、プレグネノロン、安息香酸コレステロール、酢酸コレステロール、リノール酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、n-オクタン酸コレステロール、オレイン酸コレステロール、3-クロロコレステン、trans-けい皮酸コレステロール、デカン酸コレステロール、ヒドロけい皮酸コレステロール、ラウリン酸コレステロール、酪酸コレステロール、ぎ酸コレステロール、ヘプタン酸コレステロール、ヘキサン酸コレステロール、こはく酸水素コレステロール、ミリスチン酸コレステロール、プロピオン酸コレステロール、吉草酸コレステロール、フタル酸水素コレステロール、フェニル酢酸コレステロール、クロロぎ酸コレステロール、2、4-ジクロロ安息香酸コレステロール、ペラルゴン酸コレステロール、コレステロールノニルカルボナート、コレステロールヘプチルカルボナート、コレステロールオレイルカルボナート、コレステロールメチルカルボナート、コレステロールエチルカルボナート、コレステロールイソプロピルカルボナート、コレステロールブチルカルボナート、コレステロールイソブチルカルボナート、コレステロールアミルカルボナート、コレステロール n-オクチルカルボナート、コレステロールヘキシルカルボナート、アリルエストレノール、アルトレノゲスト、
9(10)-デヒドロナンドロロン、エストロン、エチニルエストラジオール、エストリオール、安息香酸エストラジオール、β-エストラジオール17-シピオナート、17-吉草酸β-エストラジオール、α-エストラジオール、17-ヘプタン酸β-エストラジオール、ゲストリノン、メストラノール、2-メトキシ-β-エストラジオール、ナンドロロン、(-)-ノルゲストレル、キネストロール、トレンボロン、チボロン、スタノロン、アンドロステロン、アビラテロン、酢酸アビラテロン、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロンアセタート、エチステロン、エピアンドロステロン、17β-ヒドロキシ-17-メチルアンドロスタ-1、4-ジエン-3-オン、メチルアンドロステンジオール、メチルテストステロン、Δ9(11)-メチルテストステロン、1α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン、17α-メチルアンドロスタン-17β-オール-3-オン、スタノゾロール、テストステロン、プロピオン酸テストステロン、アルトレノゲスト、16-デヒドロプレグネノロンアセタート、酢酸16、17-エポキシプレグネノロン、11α-ヒドロキシプロゲステロン、17α-ヒドロキシプロゲステロンカプロアート、17α-ヒドロキシプロゲステロン、酢酸プレグネノロン、17α-ヒドロキシプロゲステロンアセタート、酢酸メゲストロール、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸プレグネノロン、5β-プレグナン-3α、20α-ジオール、ブデソニド、コルチコステロン、酢酸コルチゾン、コルチゾン、コルテキソロン、デオキシコルチコステロンアセタート、デフラザコート、酢酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、17-酪酸ヒドロコルチゾン、6α-メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、酢酸プレドニゾロン、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、コール酸メチル、ヒオデオキシコール酸メチル、β-コレスタノール、コレステロール-5α、6α-エポキシド、ジオスゲニン、エルゴステロール、β-シトステロール、スチグマステロール、β-シトステロールアセタートなどのステロイド化合物などが挙げられる。ロイコ染料および顕色剤との相溶性の観点から、これらの化合物を含むことが好ましい。また、これらの消色剤を2種類以上組み合わせてもよい。消色剤を組合せることにより、凝固点および融点の調整が可能である。
【0040】
感温材料には、少なくとも上記のロイコ染料、顕色剤、消色剤を含む。ただし、1分子中に顕色作用及び消色作用を含む材料を用いる場合は、顕色剤および消色剤は無くてもよい。また、結晶化により色が変わる性能が保持されれば、ロイコ染料、顕色剤、消色剤以外の材料を含むこともできる。例えば、顔料を含むことで、消色時、顕色時の色を変更することが可能である。
【0041】
(粒子化)
第1実施形態に係る塗料は、感温材料を構成する少なくともロイコ染料、顕色剤および消色剤を含む非晶質粒子が、塗料中に独立して存在する必要がある。
【0042】
上記の条件を満たす塗料化の手法として、非晶質粒子を直接塗料中に分散させる手法と、非晶質粒子をマイクロカプセル化して、マイクロカプセルを塗料中に分散させる手法がある。
【0043】
例えば、溶媒急速蒸発法により、ロイコ染料、顕色剤および消色剤を含む非晶質材料を形成し、その後、粉砕することにより、感温材料を微粒子化することができる。微粒子化の手法は特に限定されず、乳鉢、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ホモジナイザーなど様々な粉砕手法を用いることができる。溶媒急速蒸発法において、噴霧乾燥法を用いた場合、そのまま粒子として用いることもできる。
【0044】
非晶質粒子の粒径は、特に限定されないが、視認性の観点から目視及びカメラの分解能以下であることが好ましく、20μm以下であることが好ましい。一方で、粒径が小さすぎると、発色性が損なわれることが実験的に示されており、100nm以上であることが好ましい。
【0045】
また、ロイコ染料、顕色剤および消色剤をマイクロカプセルに内包することにより塗料中に分散させてもよい。マイクロカプセル化することにより、組成の湿度等に対する耐環境性が向上し、保存安定性、変色特性の安定化等が可能となる。さらに、塗料を調製した際に、ロイコ染料、顕色剤、消色剤が他の樹脂剤、添加剤等の化合物から受ける影響を抑制することが可能となる。本明細書において、マイクロカプセル化とは、内包物を樹脂による壁膜で保護することを意味する。
【0046】
マイクロカプセルに用いる樹脂被膜としては、多価アミンとカルボニル化合物から成る尿素樹脂被膜、メラミン・ホルマリンプレポリマ、メチロールメラミンプレポリマ、メチル化メラミンプレポリマーから成るメラミン樹脂被膜、多価イソシアネートとポリオール化合物から成るウレタン樹脂被膜、多塩基酸クロライドと多価アミンから成るアミド樹脂被膜、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニル等の各種モノマー類から成るビニル系の樹脂被膜が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、形成した樹脂被膜の表面処理を行い、インクや塗料化する際の表面エネルギーを調整することで、マイクロカプセルの分散安定性を向上させる等、追加の処理をすることもできる。
【0047】
また、保存安定性の観点から、マイクロカプセルの直径は、0.1~100μm程度の範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.1~1μmの範囲が好ましい。
【0048】
<添加物>
感温材料及び塗料には、感温機能に影響しない程度で添加物を添加してもよい。添加剤としては、例えば、樹脂、染料、顔料、蓄熱材料、高熱伝導材料及び光吸収材料を用いることができる。染料又は顔料を感温材料に添加することにより、顕色時及び/又は消色時の色合いを調整することができる。蓄熱カプセルなどの蓄熱性のある材料や高熱伝導材料を感温材料又は塗料に添加することで、感温材料の外部が顕色温度又は消色温度に達して、感温材料そのものが変色するために必要な熱エネルギーを調整することが可能である。
【0049】
光吸収材料を感温材料又は塗料に添加することにより、特定波長において感温材料に加わる熱エネルギーを増加させることが可能になり、必要なレーザー出力を低くすることができる。
【0050】
<レーザーマーキング方法>
第1実施形態に係る塗料を用いてレーザーマーキングする際は、レーザービームの波長、出力、照射時間は、感温材料(ロイコ染料、顕色剤、消色剤の組合せ)、添加剤、マイクロカプセルに用いる樹脂被膜等、の種類によって適宜調整する。
【0051】
本実施形態では、レーザービームの照射による塗料の発熱を利用して印字するため、レーザービームの波長は、感温材料及び塗料が吸収する波長を選択すればよい。塗料には有機材料が多く使われるため、レーザービームは、有機材料が大きな吸収を有する赤外線であることが好ましい。レーザービームの出力は特に限定されない。感温材料及び塗料が大きな吸収を有する波長を選択することによって、出力の低いレーザービームを用いた場合であっても、塗料を変色させ、マーキングを形成することができる。
【0052】
[第2実施形態]
<感熱塗料>
第2実施形態に係る塗料は、マーキングを多色化するために、顕色時の色調が異なる2種の感温材料(以下、第1感温材料、第2感温材料という。)を含む。以下の実施形態では、第1実施形態と同様な構成については説明を省略する。
【0053】
第1感温材料及び第2感温材料としては、第1実施形態で用いた感温材料を用いることができる。第1感温材料及び第2感温材料は、ガラス転移点又は顕色温度が異なる。なお、DSC測定において、昇温速度が速くなると、ガラス転移点と結晶化開始温度Taの温度が近づく。
【0054】
以下では、2種の感温材料を用いた塗料の色変化について図4及び図5を用いて説明する。図4は、第2実施形態に係る塗料に用いた2種の感温材料の温度と色濃度の関係を示すグラフである。図4において、縦軸は色濃度、横軸は温度であり、Ta1は第1感温材料の顕色温度、Ta2は第2感温材料の顕色温度、Td1は第1感温材料の消色温度(融点)、Td2は第2感温材料の消色温度(融点)、斜線部はマーキング対象物の使用温度範囲である。
【0055】
図4に示すように、第1感温材料及び第2感温材料は、それぞれ顕色温度が異なっており、変色するために必要な熱エネルギーが異なる。第1感温材料は、温度Ta1で顕色し始め、温度Td1で消色が開始する。第2感温材料は温度Ta1で顕色し始め、温度Td2で消色が開始する。また、第1、第2の感温材料の消色温度、顕色温度はTa1<Ta2<Td1<Td2の関係を有する。なお、Ta1<Ta2<Td2<Td1の関係であってもよい。
【0056】
図5は第1感温材料と第2感温材料を含む塗料の色変化の様子を示す模式図である。レーザー光の照射前は、第1感温材料と第2感温材料を両方とも消色状態(図5(a))にしておく。
【0057】
第1感温材料が顕色するために必要な熱(Ta1)の熱エネルギー以上で、かつ第2感温材料が顕色するために必要な熱Ta2の熱エネルギー未満の、熱エネルギーをレーザービームにより塗料に付与すると、第1感温材料は顕色するが、第2感温材料は消色したままとなる。したがって、第1感温材料のみが顕色した色(図5(b))を呈する。
【0058】
第2感温材料が顕色するために必要な熱(Ta2)の熱エネルギー以上であり、Td1、Td2未満の熱エネルギーをレーザービームにより塗料に付与すると、第1感温材料及び第2感温材料が両方とも顕色する。そのため、第1感温材料と第2感温材料が両方顕色した色(図5(c))を呈する。
【0059】
このように、複数の感温材料を混合することにより、マーキングを多色化することが可能である。一度顕色した塗料を、Td1、Td2よりも高い温度で消色させたとしても、結晶化速度が速い材料を用いた場合、冷却過程において結晶化するため、消色状態を保持することは困難である。そのため、不可逆的な印字が可能である。
【0060】
感熱塗料は、第1感温材料のガラス転移点Tg1と第2感温材料のガラス転移点Tg2のうち低い温度Tから、第1感温材料の融点Td1と第2感温材料の融点Td2のうち低い温度Tまで加熱速度30℃/分で加熱した際に、温度T以上であって温度T未満の温度範囲で2段階に顕色する。また、示差走査熱量測定(DSC)において、温度Tから温度Tまで加熱速度30℃/分で加熱した際に、温度T以上であって温度Tm未満の温度範囲に、結晶化に由来する発熱ピークが2つ観察されることが好ましい。例えば第1感温材料と第2感温材料の特性温度が、Tg1<Tg2<Td1<Td2の関係となっている場合は、Tg1以上Tg2未満の温度範囲に結晶化に由来する一つ目の発熱ピークが観測され、Tg2以上Td1未満の温度範囲に結晶化に由来する2つ目の発熱ピークが観測されることが好ましい。
【0061】
また、温度Tから温度Tまで、加熱速度1000℃/分で、レーザーでスポット加熱した際に、温度T以上であって温度T未満の温度範囲で2段階に顕色することを特徴とすることがさらに好ましい。
【0062】
なお、本実施形態では、2種の感温材料を含む塗料について説明したが、感熱塗料は、2種以上の感温材料を含んでいても良い。
【0063】
<レーザーマーキング方法>
レーザーマーキング方法は、第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
【0064】
塗料が複数の感温材料を含む第2実施形態の場合は、レーザー光の波長を変えずに、レーザー光の出力又は照射時間を変えてレーザー光を照射することにより、感熱塗料の色調を制御することが好ましい。感温材料同士が同じ波長領域に吸収を有する場合は、すべての感温材料が吸収を有する波長のレーザーを用いることで、1波長のレーザーのみで出力又は照射時間を変えることで塗膜の色調を制御することができる。
【0065】
したがって、第1感温材料と第2感温材料は同じ波長のレーザービームにより顕色することが好ましい。
【0066】
[第3実施形態]
<感熱塗料>
第3実施形態に係るレーザーマーキング用塗料は、感温材料の顕色時間を変更したこと以外第2実施形態と同様の構成である。第3実施形態では、第1感温材料と第2感温材料の結晶化速度、すなわち顕色時間が異なる。例えば、第1感温材料として、昇温速度R(例えば昇温速度100℃/min)未満において、結晶化により顕色するが、昇温速度R(例えば昇温速度100℃/min)以上において結晶化せずに融点まで達し、顕色しない材料を用いる。第2感温材料として、昇温速度R(例えば昇温速度100℃/min)以上においても結晶化し顕色する材料を用いる。
【0067】
塗料の色変化について図6図8を用いて説明する。図6は、昇温速度R(例えば昇温速度100℃/min)未満における、塗料に含まれる第1感温材料と第2感温材料の温度と色濃度の関係を示すグラフである。図7は、昇温速度R(例えば昇温速度100℃/min)未満における、塗料含まれる第1感温材料と第2感温材料の温度と色濃度の関係を示すグラフである。図6及び図7において、縦軸は色濃度、横軸は温度であり、Ta1は第1感温材料の顕色温度、Ta2は第2感温材料の顕色温度、Td1は第1感温材料の消色温度(融点)、Td2は第2感温材料の消色温度(融点)、斜線部はマーキング対象物の使用温度範囲である。
【0068】
図6に示すように、昇温速度R(例えば昇温速度100℃/min)未満において、第1、第2の感温材料は、それぞれ顕色温度が異なっており、変色するために必要な熱エネルギーが異なっている。第1感温材料は、温度Ta1で顕色し始め、温度Td1で消色が開始する。第2感温材料は温度Ta1で顕色し始め、温度Td2で消色が開始する。また、第1、第2の感温材料の消色温度、顕色温度はTa1<Ta2<Td1<Td2の関係を有する。なお、Ta1<Ta2<Td2<Td1の関係であってもよい。この構成は、第1実施形態と同様である。
【0069】
一方、昇温速度R(例えば昇温速度100℃/min)以上の場合は、図7に示すように、第1感温材料は顕色せず、第2感温材料のみ、顕色温度Ta2以上で顕色する。
【0070】
図8は第3実施形態に係る塗料の色変化の様子を示す模式図である。第1感熱材料、第2感温材料は、熱エネルギーを付与することにより消色状態から顕色状態に変化する材料であり、レーザービーム照射前は、第1、第2感温材料を両方とも消色状態(図8(a))にしておく。
【0071】
第1感温材料が顕色するために必要な熱(Ta1)の熱エネルギー以上、かつ第2感温材料が顕色するために必要な熱(Ta2)の熱エネルギー未満の熱エネルギーを、昇温速度R(例えば、昇温速度100℃/min)未満となるように、レーザービームで塗料に与えると塗料は、第1感温材料のみが顕色し、第2感温材料は消色したままとなる。したがって、第1感温材料のみが顕色した色を呈する(図8(b))。
【0072】
第2感温材料が顕色するために必要な熱(Ta2)の熱エネルギー以上、かつTd1、Td2未満の熱エネルギーを、昇温速度R(例えば、昇温速度100℃/min)未満となるように、レーザービームで塗料に与えると、塗料は第1感温材料と第2感温材料の両方が顕色する。したがって、第1感温材料と第2感温材料が両方顕色した色(図8(c))を呈する。
【0073】
第2感温材料が顕色するために必要な熱(Ta2)の熱エネルギー以上、かつTd1、Td2未満の熱エネルギーを、昇温速度R(例えば、昇温速度100℃/min)以上となるように、レーザービームで塗料に与えると、第1感温材料は顕色せず、第2感温材料のみが顕色する。したがって、第2感温材料のみが顕色した色(図8(d))を呈する。
【0074】
以上のように、結晶化速度(顕色速度)の異なる感温材料を含みわせることにより2種の感温材料で3種の色を印字することが可能となる。
【0075】
また、結晶化速度を制御するため、図2のように結晶化速度が速い感温材料だけではなく、図3のように結晶化速度が遅い感温材料を混合することも可能である。
【0076】
<レーザーマーキング方法>
レーザーマーキング方法は、第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
【0077】
塗料が複数の感温材料を含む第3実施形態の場合は、第2実施形態と同様にレーザー光の波長を変えずに、レーザー光の出力又は照射時間を変えてレーザー光を照射することにより、感熱塗料の色調を制御することが好ましい。
【0078】
また、レーザービームによる塗料の昇温速度を変化するためには、レーザービームの出力を制御すれば良い。
【0079】
次に、実施例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0080】
<感熱塗料の作製>
感温材料として、ロイコ染料として2´-メチル-6´-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9´-[9H]キサンテン]-3-オン(山田化学工業製RED520)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤として東京化成工業製メチルアンドロステンジオールを100重量部用いた。
【0081】
感温材料を構成するロイコ染料、顕色剤、消色剤と、揮発性溶媒としてテトラヒドロフラン1000重量部を混合し、感温材料のガラス転移点以下である0℃において、テトラヒドロフランを真空乾燥し、非晶質で消色した状態の感温材料を作製した。作製した感温材料を乳鉢で粉砕することで、感温材料の非晶質粒子を作製した。感温材料は無色透明であった。
【0082】
次に、作製した感温材料を用いて感熱塗料を以下の通り作製した。攪拌羽根を設けた容器に純水、樹脂として数平均分子量(Mn)10,000のポリビニルアルコールとポリビニル酢酸ビニルの共重合物(ポリビニルアルコールユニットの繰り返し数:ポリ酢酸ビニルユニットの繰り返し数≒36:64、水酸基価は285)、感温材料の非晶質粒子を投入し、約1時間混合することにより、感温材料を含む塗料を調製した。
【0083】
<DSC測定>
作製した塗料を、示差走査熱量測定(DSC)により、感温材料のガラス転移点以下である0℃から、感温材料の融点以上である220℃まで、昇温速度30℃/minで昇温した。その結果、80℃付近に結晶化に由来する発熱ピークが、195℃付近に融点に由来する吸熱ピークが観察された。
その後、示差走査熱量測定(DSC)により、作製した塗料を降温速度20℃/minで降温した。その結果、降温過程において結晶化に由来する発熱ピークが観察された。以上の結果より、実施例1に用いた感温材料は結晶化しやすい材料であることが確認された。
【0084】
<顕色機能の確認>
作製した塗料を、感温材料のガラス転移点以下の温度である0℃から感温材料の融点以上の温度である220℃まで、加熱速度30℃/minで加熱した。その結果、80℃で赤色に顕色し、融点である195℃で消色することが確認できた。
【0085】
(比較例1)
感温材料を液体急冷法により、冷却し、非晶質粒子を作製しようとしたこと以外実施例1と同様に感温材料を作製した。
【0086】
具体的には、実施例1と同様のロイコ染料、顕色剤、消色剤を混合し、感温材料の融点以上である220℃に加熱し、融解させた後、サンプル容器を液体窒素中に含浸することにより急冷した。冷却後の感温材料は赤色に着色していた。冷却過程で、結晶化し、顕色してしまったと考えられる。そのため、非晶質で消色した状態の感温材料を得ることができなかった。
【0087】
以上のように、実施例1及び比較例1から、揮発性の高い有機溶媒に感温材料を構成するロイコ染料、顕色剤、消色剤を溶解し、ガラス転移点以下で溶媒を蒸発させることにより、結晶化速度の速い非晶質な感温材料を得ることができることが分かった。
【実施例2】
【0088】
感温材料として、ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤として東京化成工業製17α-ヒドロキシプロゲステロンアセタートを100重量部用いた、こと以外実施例1と同様に感温材料、及び塗料を調製した。作製した塗料について、実施例1と同様にDSC測定を行い、顕色機能の確認を行った。
【0089】
DSC測定では、昇温過程において110℃付近に結晶化に由来する発熱ピークが、215℃付近に融点に由来する吸熱ピークが観察された。降温過程において結晶化に由来する発熱ピークが観察された。以上の結果より、実施例2に用いた感温材料は結晶化しやすい材料であることが確認された。
【0090】
また、作製した塗料を、感温材料のガラス転移点以下の温度である0℃から感温材料の融点以上の温度である220℃まで、加熱速度30℃/minで加熱した。その結果、110℃で青色に顕色し、融点である215℃で消色することが確認できた。
【0091】
(比較例2)
感温材料を液体急冷法により、冷却し、非晶質粒子を作製しようとしたこと以外実施例2と同様に感温材料を作製した。
【0092】
具体的には、実施例2と同様のロイコ染料、顕色剤、消色剤を混合し、感温材料の融点以上である220℃に加熱し、融解させた後、サンプル容器を液体窒素中に含浸することにより急冷した。冷却後の感温材料は青色に着色していた。冷却過程で、結晶化し、顕色してしまったと考えられる。そのため、非晶質で消色した状態の感温材料を得ることができなかった。
【0093】
(比較例3)
感温材料として、ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を1重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを1重量部、消色剤として東京化成工業製ビタミンK4を100重量部用いたこと以外、実施例1と同様に感温材料及び、感熱塗料を調製した。作製した塗料について、実施例1と同様にDSC測定を行い、顕色機能の確認を行った。
【0094】
なお、比較例3の感温材料は、液体急冷法でも非晶質で消色した状態とすることができた。感温材料をそれぞれ構成するロイコ染料、顕色剤、消色剤をそれぞれ混合し、感温材料の融点以上である220℃から、サンプル容器を液体窒素中に含浸することで急冷した。感温材料を乳鉢で粉砕することで、非晶質粒子とした。作製した非晶質粒子は無色透明であった。
【0095】
DSC測定において、昇温過程では融点に由来する吸熱ピークのみ観察された。また、降温過程では発熱ピークは観察されなかった。この結果から、第3感温塗料は結晶化し難い材料であることが確認された。
【0096】
また、作製した塗料を、感温材料のガラス転移点以下の温度である0℃から感温材料の融点以上の温度である220℃まで、加熱速度30℃/minで加熱した。その結果、顕色しないまま、融点である120℃になった。結晶化速度が遅いために、加熱速度30℃/minでは結晶化せずに、顕色しなかったと考えられる。
【実施例3】
【0097】
<感温塗料の調製>
実施例1及び実施例2で作製した感温材料を両方含む塗料を以下の方法で作製した。
【0098】
攪拌羽根を設けた容器に純水、樹脂として数平均分子量(Mn)10,000のポリビニルアルコールとポリビニル酢酸ビニルの共重合物(ポリビニルアルコールユニットの繰り返し数:ポリ酢酸ビニルユニットの繰り返し数≒36:64、水酸基価は285)、実施例1で作製した非晶質の感温材料粒子と、実施例2で作製した非晶質の感温材料粒子を投入し、約1時間混合することにより、2種の感温材料を含む感温塗料を調製した。
【0099】
調製した塗料中に、基材(紙)をそれぞれ10分間含浸させることで、基材表面に塗料を吸収させた。その後、塗料から基材を取り出し純水を揮発させることで、塗料が吸収された基材を作製した。
【0100】
<顕色機能の確認>
作製した基材について、ホットプレートで熱エネルギーを与えた。図9に実施例に係る塗料の熱エネルギーによる色変化の様子を示す。30℃/minで昇温していき、基材の表面温度が第1感温材料の顕色温度Ta1である80℃に達した時点で基材の加熱箇所が赤色に変色した。一方、加熱速度を100℃/minにあげて高速に熱エネルギーを加えていくと、基材の表面温度が、第2感温材料の顕色温度Ta2である110℃に達した時点で、基材の加熱箇所が青色に変色した。また、一度変色した基材を20℃の環境に置いたところ、変色状態が保持されたままであることが確認できた。
【0101】
次に、作製した基材について、低出力でレーザーを照射した場合と、高出力でレーザーを照射した場合の塗料の変色機能を確認した。
【0102】
まず、作製した基材に出力0.5WのCOレーザーを照射することで熱エネルギーを加えた。塗料を吸収した基材の表面温度が、第1感温材料の顕色温度Ta1である80℃に達した時点で、基材のレーザー照射箇所が赤色に変色した。
【0103】
次に作製した基材について、レーザー出力を1.5Wに上げて、高速に熱エネルギーを加えた。塗料を吸収した基材の表面温度が、第2感温材料の顕色温度Ta2である110℃に達した時点で、基材のレーザー照射箇所が青色に変色することが確認できた。図10に、レーザーの出力を上げて110℃まで加熱したときの実施例に係る塗料の色変化の様子を示す。110℃までの昇温速度は100℃/minであった。
【0104】
また、レーザーの照射を停止し、一度変色した基材を20℃の環境に置いたところ、変色状態が保持されたままであることが確認できた。
【0105】
以上より、本実施例に係る塗料を用いることにより、レーザー照射による多色での変色が可能であることを確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10