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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】甘味増強に関する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220202BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20220202BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
A23L27/00 F ZNA
C07K14/705
C12N15/12
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018175554
(22)【出願日】2018-09-20
(62)【分割の表示】P 2017094295の分割
【原出願日】2007-04-20
(65)【公開番号】P2019030304
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2018-10-18
(31)【優先権主張番号】60/793,686
(32)【優先日】2006-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】60/793,521
(32)【優先日】2006-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】60/814,866
(32)【優先日】2006-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】60/853,813
(32)【優先日】2006-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】60/853,821
(32)【優先日】2006-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】60/853,823
(32)【優先日】2006-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】60/881,402
(32)【優先日】2007-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501105842
【氏名又は名称】ジボダン エス エー
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】スラック,ジェイ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】シモンズ,クリストファー,トッド
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン,チャド,アレン
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-262599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
C07K 14/705
C12N 15/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5%~2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度のネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)の、羅漢果抽出物および甘味閾値よりも上の濃度の甘味物質との使用であって、
該甘味物質が、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であってエリスリトールではなく
前記NDHCと前記甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記NDHCのみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強するための使用。
【請求項2】
甘味物質がスクロースである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
消費材において甘味を増強する方法であって、
消費材に、甘味増強化合物を、羅漢果抽出物および0.5%以上2%未満のスクロース溶液と等甘味度の濃度で含ませることを含み、
ここで、前記甘味増強化合物はネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)であり
その消費材は、Gタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であってエリスリトールではない甘味料をその甘味検出閾値よりも上の濃度で含有している、前記方法。
【請求項4】
甘味物質がスクロースである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)および羅漢果抽出物を含む甘味増強剤であって、0.5%~2%スクロースのスクロースと等甘味度の濃度で、甘味閾値よりも上の濃度のGタンパク質共役受容体のビーナスフライトラップドメインに結合可能であってエリスリトールではない甘味物質と混合した場合に、前記剤と前記甘味物質との混合物の甘味を、該甘味物質のみまたは前記剤のみを含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強することに用いられる、前記甘味増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、新規な甘味受容体タンパク質に基づいたアッセイによる、ヒトの味覚応答を調節可能な剤(特に甘味増強剤)の同定、前記甘味受容体タンパク質を形成する核酸構築物を含む異種発現系、およびスクリーニングにおける甘味受容体タンパク質の利用に関する。甘味増強剤は一部の食物をより口当たりのよいものとし、または経口薬剤および栄養補助食品に対する患者コンプライアンスを増大させる。かかる甘味増強剤には、ヒトにおける味覚応答を誘発する甘味料を含む。
【背景技術】
【0002】
甘味調節剤および特に甘味増強剤は、食品および香辛料業界において、例えば消費製品における糖および人工甘味料を含む甘味料のレベルの低減を可能にするために、大いに有益かつ重要である。甘味増強剤の利用はカロリーを低減し、糖による歯へのダメージを防ぎ、多くの人工甘味料に伴う苦い/金属性の異味および後味を回避するかまたは低減することができる。
【0003】
甘味の感知は受容体、味覚受容体細胞に特異的に発現し、甘味受容体ダイマー複合体(T1R2/T1R3ヘテロダイマー)を形成する、2つのサブユニットT1R2およびT1R3を含むTAS1Rによって媒介されることが知られている。双方のサブユニットはともに、「Gタンパク質共役受容体」またはGPCRと呼ばれるファミリー、特にクラスC GPCRに属する。
【0004】
他のほとんどのGPCRのように、クラスC受容体は7本へリックス膜貫通ドメイン(TMD)を有する。しかしながら他のタイプのGPCRとは異なり、クラスC GPCRは2つの部分:リガンド結合に関連する「ビーナスフライトラップモジュール」(VFTM)と、高度に保存された9つのシステインを含有し、VFTMをTMDに連結しているシステインリッチドメイン(CRD)、からなる大きな細胞外ドメインも有する。様々な長さの細胞内C末端によってクラスC受容体が完成する。
【0005】
甘味受容体応答の活性化には甘味受容体ダイマー複合体の両サブユニットが必要であると考えられており、これまでのところ、全ての試験された甘味料はT1R2/T1R3ヘテロダイマーを活性化する。T1R2/T1R3ヘテロダイマーが、天然の糖(スクロース、フルクトース、グルコース、マルトース)、甘味アミノ酸(D-トリプトファン)、および人工甘味料(アセスルファム-K、アスパルテーム、サイクラミン酸塩、サッカリン、スクラロース)から、甘味タンパク質(モネリン、ソーマチン、ブラゼイン)に至る範囲の、広範囲の化学的に異なった甘味料に応答するにもかかわらず、ヒト甘味受容体の分離したサブユニット(T1R2ホモマーまたはT1R3ホモマー)による公知の試験は、何らの活性も示さなかった(例えばLi et al., 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99(7),4692~6など参照)。
【0006】
現在知られた甘味調節物質のスクリーニングにはT1R2/T1R3ヘテロダイマー甘味受容体が採用されている。これらのスクリーニングは通常、甘味料の存在下における潜在的調節物質を含むサンプルと含まないサンプルの結果を比較することにより甘味調節物質を同定または特性化する。しかしながら、甘味料、特に糖はモル浸透圧濃度に大きな影響を有し、および/または粘稠性がある。粘稠性やモル浸透圧濃度などのサンプルの特性の変化のために、標準的なスクリーニング法を用いた場合、正しくない結果の原因となるアーティファクトが起こり得る。
【0007】
知られたスクリーニングの他の不利点は、野生型のT1R2/T1R3受容体が複数の結合ドメイン、特にスクロース、グルコース、フルクトースなどの炭水化物甘味料、ならびに人工甘味料アスパルテームおよびスクラロースと結合するビーナスフライトラップ(「VFT」)ドメインを含む細胞外アミノ末端ドメインを含むことである。したがって、特定リガンドの特異的調節物質、特にVFTリガンド以外の膜貫通ドメイン(「TMD(単数または複数)」)のリガンドのスクリーニングは、知られたスクリーニング法では不可能である。
【0008】
受容体との結合において糖と競合し得る剤の同定を防止するために、VFTドメインと物理的に異なる、特にTMDおよび/またはシステインリッチドメインにおける部位と結合する、推定される甘味増強剤の同定を可能にするスクリーニングが求められている。本発明はこの要求に応えるものである。例えば、本発明者らによって作出されたキメラT1R受容体(CSR:T1R2またはCSR:T1R3キメラ受容体、集合的にCSR:T1Rキメラ受容体(「CSR」はカルシウム感知受容体のことを言う))を用いる本発明の方法は、甘味化合物サイクラミン酸塩がT1R3のTMDに結合し、それによってT1R2/T1R3受容体ヘテロダイマー複合体を活性化することを示す。
【0009】
今まで、1つのTAS1RモノマーのTMDが甘味化合物と結合し、さらに他の必須のモノマーパートナーの不在下でGタンパク質を活性化し得ることは知られていなかった。以前には、当分野では両サブユニットの存在がシグナル伝達に不可欠であると信じられていた。本発明者らは、T1R2/T1R3受容体ヘテロダイマー複合体のT1R2ホモマーの重度に切断された配列と一致する新規な受容体タンパク質(「T1R2-TMD」)が、驚くべきことに、甘味リガンドと結合する機能的甘味受容体を形成し、Gタンパク質を活性化できることを見出した。この新規な受容体タンパク質T1R2-TMDは全長T1R2ホモマーとは異なるアゴニストアゴニスト範囲を有することがわかった。前者は驚くべきことにリガンドと結合できるだけではなく、下流シグナリングの活性化もできることがわかった。
【0010】
ここで提供される方法は、T1R2および/またはT1R3の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに結合および/またはそれらを活性化するリガンドの同定を可能にする。したがって、CSR:T1Rキメラ受容体またはT1R2-TMDのいずれかとGタンパク質とを発現する細胞を、任意に知られたまたは新たに決定された甘味物質と組み合わせた試験剤と接触させ、甘味増強剤としての前記剤の特性を決定する。ここで提供されるアッセイは、したがって、甘味物質または甘味応答の増強剤としての味覚剤の同定に利用することができる。受容体およびGタンパク質における剤の機能的な効果は、適した機能的アッセイ、例えば細胞内IPおよびCa2+などの伝達経路のパラメータの変化を計測するアッセイなどアッセイによって、またはGTPγSを標識するなどの他のGタンパク質特異的アッセイによって、当業者に知られた技術に従って決定される。代替的に、アッセイCSR:T1Rキメラ受容体またはT1R2-TMDへのリガンドの結合の決定に結合アッセイを用いてもよい。同定された剤は、その後、限定されずに本明細書に後述される、当業者に知られた技術に従って、その甘味増強剤としての活性について試験できる。
【0011】
本明細書に記載されているクローニング、リガンド-受容体ペアの解明、および甘味応答の増強剤の検索に関する様々な側面および態様の実践において、分子生物学、微生物学および組換え技術および甘味試験における慣習的な技術が利用される。これらは、CSR:T1Rキメラ受容体またはT1R2-TMDを含むGタンパク質共役受容体(GPCR)に適した様々な知られた方法を含む。したがって、当業者にはかかる技術が十分に知らされており、それゆえ以下では、本発明の状況をより十分に記載するために、かかる技術はごく簡略化して論じる。
【発明の概要】
【0012】
概要
その最初の側面において、本発明は、剤が、甘味閾値よりも上の濃度の、知られたまたは事前に決定された甘味物質と、甘味閾値の近傍または僅かに下の濃度で混合された場合に、前記剤と前記知られたまたは事前に決定された甘味物質との混合物の甘味を、前記甘味物質のみまたは前記剤のみ含有する混合物の甘味と比較して相加的よりも増強する剤であって、前記剤が、前記剤の存在下での味覚受容体の活性アッセイによって生成されるシグナルと前記剤の非存在下での味覚受容体の活性アッセイによって生成されるシグナルとを比較して同定可能であり、前記味覚受容体の活性アッセイが、味覚受容体のビーナスフライトラップドメインに結合する剤を除外しながら、味覚受容体の膜貫通ドメインに結合する剤を同定することを含む、前記剤を含む。
【0013】
第2の側面において、本発明は、推定される甘味増強剤を同定する方法であって、前記剤の存在下での味覚受容体への結合および/またはその活性化のアッセイによって生成されるシグナルと、前記剤の非存在下における同様のアッセイによって生成されるシグナルとを計測すること、および当該2つの計測結果を比較することを含み、前記アッセイが、味覚受容体の細胞外ドメインではなく、味覚受容体以外のGタンパク質結合受容体の細胞外ドメインと連結した味覚受容体の膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含むタンパク質を利用して、味覚受容体のビーナスフライトラップドメインに結合する剤を除外しながら、味覚受容体の膜貫通ドメインに結合および/またはそれを活性化する剤を同定することを含む、前記方法を含む。
【0014】
第3の側面において、本発明は、推定される甘味増強剤を同定する方法であって、前記剤の存在下での味覚受容体への結合および/またはその活性化のアッセイによって生成されるシグナルと、前記剤の非存在下における同様のアッセイによって生成されるシグナルとを計測すること、および当該2つの計測結果を比較することを含み、前記アッセイが、味覚受容体のビーナスフライトラップドメインを欠損した、切断された味覚受容体を含むタンパク質を利用して、味覚受容体のビーナスフライトラップドメインに結合する剤を除外しながら、味覚受容体の膜貫通ドメインに結合する剤を同定することを含む、前記方法を含む。
【0015】
第4の側面において、本発明は、推定される甘味増強剤を同定する方法であって、前記剤の存在下での味覚受容体の活性化のアッセイによって生成されるシグナルと、前記剤の非存在下での味覚受容体の活性化のアッセイによって生成されるシグナルとを計測すること、および当該2つの計測結果を比較することを含み、前記味覚受容体の活性化のアッセイが、味覚受容体のビーナスフライトラップドメインを切断して取り除いた味覚受容体を含むタンパク質を利用して、味覚受容体のビーナスフライトラップドメインに結合する剤を除外しながら、TAS1R味覚受容体のT1R2サブユニットの膜貫通ドメインに結合する剤を同定することを含む、前記方法を含む。
【0016】
さらなる側面において、本発明は、本明細書中に開示された方法で同定された甘味増強剤を甘味料と混合することを含み、甘味料がスクロースの甘味度の少なくとも2%となる濃度で存在し、甘味増強剤が少なくとも1ppbから100,000ppmの濃度で存在し、甘味増強剤が甘味料でもある場合、その甘味検出閾値に近い濃度で、2%(w/w)スクロース以下のスクロースと等甘味度で存在する、甘味料の甘味を増強する方法を含む。甘味増強剤は単一の化合物または化合物の混合物であり得る。
【0017】
またさらなる側面において、本発明は、推定される甘味増強剤を同定する方法であって、野生型ビーナスフライトラップドメインが代替的なクラスCのGPCRビーナスフライトラップドメインによって置き換えられているキメラ味覚受容体サブユニットと野生型味覚受容体のサブユニットとを組み合わせることを含み、アッセイが、前記剤の存在下での組み合わされたキメラ受容体/野生型味覚受容体ダイマーの活性化のアッセイによって生成されるシグナルと、前記剤の非存在下での組み合わされたキメラ受容体/野生型味覚受容体ダイマーの活性化のアッセイによって生成されるシグナルとを計測すること、および当該2つの計測結果を比較することを含む、前記方法を含む。
【0018】
さらなる側面において、本発明は、味覚受容体のビーナスフライトラップドメインの外部で味覚受容体と結合および/またはそれを活性化する化合物を同定する方法であって、改変された味覚受容体と化合物とを接触させること、および当該化合物が改変された受容体と結合し、かつ/またはそれを活性化するかどうかを決定することを含み、改変された受容体が:
a)自身のビーナスフライトラップドメインを欠損したT1R2および/または自身のビーナスフライトラップドメインを欠損したT1R3、
b)T1R2-TMD、CSR:T1R、T1R3-TMD、T1R2-TMDおよびT1R3-TMDの両方、CSR:T1R2、CSR:T1R3、CSR:T1R2およびT1R3-TMDの両方、T1R2-TMDおよびCSR:T1R3の両方、
c)クラスCのGタンパク質共役受容体由来のビーナスフライトラップドメインおよびビーナスフライトラップドメイン欠損T1R2を含むキメラタンパク質および/またはクラスCのGタンパク質共役受容体由来のビーナスフライトラップドメインおよびビーナスフライトラップドメイン欠損T1R3を含むキメラタンパク質、
d)a)~c)に列挙された任意のタンパク質とアミノ酸レベルで少なくとも95%同一である任意のタンパク質、
e)a)~c)に列挙された任意のタンパク質の実質的に相同である任意のタンパク質、
f)配列番号1、13、15、および27によってコードされる任意のタンパク質、
g)ストリンジェントな条件で配列番号1、13、15および27とハイブリダイズする核酸によってコードされる任意のタンパク質、
からなる群から選択されたポリペプチドを含み、改変された味覚受容体が任意にシグナル配列および抗体エピトープから選択される1または2以上の配列タグをさらに含み、ただし、改変された受容体の少なくとも1つのサブユニットがT1R2またはT1R3ビーナスフライトラップドメインを含まない、前記方法を含む。
【0019】
さらなる側面において、本発明は、甘味を増強する化合物または化合物群を同定する方法であって、
a)改変された味覚受容体と化合物または化合物群とを接触させること、および、化合物または化合物群が改変された受容体に結合および/またはそれを活性化するかどうかを決定することを含む、化合物または化合物群が味覚受容体にそのビーナスフライトラップドメインの外部で結合し、かつ/またはそれを活性化するかどうかの決定、ならびに
b)改変された受容体に結合するおよび/またはそれを活性化する化合物または化合物群が甘味を増強するかどうかの、
i)化合物または化合物群が、その受容体に対するリガンドによるキメラ受容体との結合および/またはその活性化を増強するかどうかを決定すること、または
ii)化合物または化合物群が甘味料の甘味を増強するかどうかを、甘味料が濃度2%またはそれ以上のスクロース溶液と等甘味度の濃度で存在し、化合物が濃度2%以下のスクロース溶液と等甘味度の濃度で存在する状態で決定すること
による決定
を含み、
キメラ受容体が、1)クラスCのGタンパク質共役受容体由来のビーナスフライトラップドメイン、および2)自身のビーナスフライトラップドメインを欠損したT1R2を含むサブユニット、および任意に、1)クラスCのGタンパク質共役受容体由来のビーナスフライトラップドメイン、および2)自身のビーナスフライトラップドメインを欠損したT1R3を含むサブユニットを含み、少なくとも1つのサブユニットがT1R2またはT1R3ビーナスフライトラップドメインを含有せず、および
【0020】
改変された受容体が
a)自身のビーナスフライトラップドメインを欠損したT1R2および/または自身のビーナスフライトラップドメインを欠損したT1R3、
b)T1R2-TMD、CSR:T1R、T1R3-TMD、T1R2-TMDおよびT1R3-TMDの両方、CSR:T1R2、CSR:T1R3、CSR:T1R2およびT1R3-TMDの両方、T1R2-TMDおよびCSR:T1R3の両方、
c)クラスCのGタンパク質共役受容体由来のビーナスフライトラップドメインおよび自身のビーナスフライトラップドメインを欠損したT1R2を含むキメラタンパク質、および/またはクラスCのGタンパク質共役受容体由来のビーナスフライトラップドメインおよび自身のビーナスフライトラップドメインを欠損したT1R3を含むキメラタンパク質、
d)a)~c)に列挙された任意のタンパク質とアミノ酸レベルで少なくとも95%同一である任意のタンパク質、
e)配列番号1、13、15および27によってコードされる任意のタンパク質、
f)ストリンジェントな条件で配列番号1、13、15および27とハイブリダイズする核酸によってコードされる任意のタンパク質、
からなる群から選択されるポリペプチドを含み、
【0021】
改変された受容体が任意に、シグナル配列および抗体エピトープから選択される1または2以上の配列タグをさらに含み、ただし、改変された受容体の少なくとも1つのサブユニットがT1R2またはT1R3ビーナスフライトラップドメインを含有しない、
前記方法を含む。
【0022】
ある例示的な態様において、上記に定義された方法は、Gタンパク質をも発現する細胞を利用する。
ある例示的な態様において、上記に定義された方法は、T1R2および/またはT1R3の膜貫通ドメインを含むタンパク質をコードする1または2以上の核酸を、一過性にまたは安定的にトランスフェクトした細胞を利用する。
上記に定義された方法の他の態様において、Gタンパク質は、Gαq-ガストデューシンに基づくキメラGタンパク質である。
【0023】
上記に定義された方法のさらなる態様において、Gタンパク質は、キメラGタンパク質Gアルファ16-ガストデューシン44である。
上記に定義された方法のまたさらなる態様において、少なくとも1つの剤が細胞における味覚受容体の機能活性に作用するかどうかの、細胞における少なくとも1つの機能的応答による決定は、細胞内メッセンジャーの変化または細胞内メッセンジャーに起因する変化の計測によって行われる。
上記に定義された方法のさらなる態様において、機能的応答は、IPおよびカルシウム2+から選択される細胞内メッセンジャーの変化を計測することで決定される。
【0024】
上記に定義された方法の他の態様において、細胞は、細菌細胞、真核細胞、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳類細胞、両生類細胞、およびぜん虫細胞からなる群より選択される。
上記に定義された方法のある態様において、細胞は哺乳類細胞である。
上記に定義された方法のさらなる態様において、細胞は、CHO、COS、HeLaおよびHEK-293細胞からなる群より選択される哺乳類細胞である。
上記に定義された方法のまたさらなる態様において、i)は甘味料の存在下でT1R2甘味受容体を試験剤に接触させることをさらに含む。
【0025】
他の側面において、キットが提供され、当該キットは、
試験剤をT1R2-TMDの調節物質として同定するために組み合わせて利用される、
(i)T1R2-TMD甘味受容体、または実質的に類似するそのホモログを発現するが、T1R3受容体は発現しない組換え細胞、および
(ii)T1R2-TMD甘味受容体のアゴニスト
を含む。
【0026】
他の側面において、上記に定義されたキットを利用する方法が提供される。当該方法は、
(i)固体支持体上で組換え細胞を成長させること、
(ii)定義されたプレートまたはウェルの培養培地へ、アゴニストの存在下、適切な濃度で試験剤を添加すること、および
(iii)試験剤の存在下および非存在下での応答を比較することにより、細胞の機能的応答の変化を決定し、その結果、試験剤がT1R2甘味受容体またはその実質的に類似するホモログの調節物質であることが同定されることを含む。
【0027】
他の側面において、T1R2-TMDを調節する剤を同定する方法が提供され、同方法は、
(i)リガンドのT1R2-TMDへの結合に応答して変化するパラメータを計測すること、
(ii)任意にリガンドの存在下で、試験剤に応答したパラメータの、ネガティブコントロールと比較した変化を決定し、それにより調節物質またはリガンドを同定すること
を含む。
上記に定義された方法のある態様において、リガンドは、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、ステビオシド、ルブソシド、レバウディオシドAおよびネオヘスペリジンジヒドロカルコンからなる群から選択される。
【0028】
上記に定義された方法のある態様において、(i)は、蛍光分光法、NMR分光法、1または2以上の吸収、屈折率の計測、流体力学法、クロマトグラフィ、溶解度計測、生物化学的方法からなる群より選択される方法で行われ、これらの方法は、溶液、二重膜、固相への連結、単脂質膜中、膜上への結合、および小胞内からなる群より選択された適切な環境においてT1R2-TMDポリペプチドの特性を計測する。
本発明の態様は上述の方法を包含するが、ただし、本発明は、全長野生型T1R2および全長野生型T1R3タンパク質の両方を採用する方法を包含しない。
【0029】
さらなる側面において、本発明は、消費材において甘味を増強する方法であって、消費材に、甘味増強剤を、その甘味検出閾値以下またはその近傍の、濃度2%未満のスクロース溶液と等甘味度の濃度で含ませることを含み、ここでその消費材は甘味料をその甘味検出閾値よりも上の濃度で含有している、前記方法を含む。
【0030】
詳細な説明
候補甘味増強剤
化合物または化合物群は、推定される増強剤および甘味料を含有する混合物が、推定される増強剤単独の甘味(混合物中と同濃度において)と甘味料単独の甘味(混合物中と同濃度において)との総和よりも甘かった場合、甘味増強剤である。本発明者らは、限定することなく、TAS1Rの膜貫通ドメインに結合する後述の化合物を候補甘味増強剤として同定した:ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、ナリンジンジヒドロカルコン、サイクラミン酸塩、ステビオシド、ルブソシド、レバウディオシドA、モグロシドV、およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン。ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、シンナモニトリル、ステビオシド、ルブソシド、レバウディオシドAおよびネオヘスペリジンジヒドロカルコンの化学構造は、http://chem.sis.nlm.nih.gov/chemidplus/で見出すことができる。ナリンジンジヒドロカルコンの化学構造は、http://www.chemblink.com/products/18916-17-1.htmで見出すことができる。サイクラミン酸塩の化学構造は、http://chemicalland21.com/lifescience/foco/SODIUM%20CYCLAMATE.htmで見出すことができる。モグロシドVの化学構造は、http://en.wikipedia.org/wiki/Image:LuHanGuo-Mogroside5.jpgで見出すことができる。候補甘味増強剤は、精製または単離形態あるいは甘味増強活性物質を含有する植物抽出物の形態で利用することができる。
【0031】
甘味料
甘味料は味の甘味を増大する化合物である。甘味料は、限定されずに、糖類のスクロース、フルクトース、グルコース、ブドウ糖果糖液糖(フルクトースおよびグルコースを含有する)、タガトース、ガラクトース、リボース、キシロース、アラビノースおよびラムノース、糖アルコールのエリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールおよびイノシトール、および人工甘味料のAceK、アスパルテーム、ネオテーム、スクラロースおよびサッカリン、ならびにこれら甘味料の組合わせを含む。
【0032】
テーブルシュガーまたはサッカロースとしても知られているスクロースは、グルコースとフルクトースの二糖類である。その組織名はα-D-グルコピラノジル-(1→2)-β-D-フクルトフラノースである。フルクトース、グルコース、タガトース、ガラクトース、リボース、キシロース、アラビノースおよびラムノースは単糖類である。ブドウ糖果糖液糖(HFCS)はグルコースおよびフルクトースの混合物からなる。通常のコーンシロップのように、この高果糖品はコーンスターチから酵素を用いて製造する。コーンシロップ(グルコース)のフルクトース含有量は酵素処理により増大する。一般的な業務用のブドウ糖果糖液糖は、42%、55%、または90%のフルクトース含量を含む。55%の等級がソフトドリンクで最も一般的に利用されている。
【0033】
エリスリトール(組織名:1,2,3,4-ブタンテトロール)は天然のノンカロリー糖アルコールである。AceK、アスパルテーム、ネオテームおよびスクラロースは人工甘味料である。アセスルファムカリウム(AceK)は、6-メチル-1,2,3-オキサチアジン-4(3H)-オン2,2-ジオキシドのカリウム塩で、N-スルホニルアミドである。これはまたアセスルファムKまたはAceKとして、またはSunett(R)およびSweet One(R)を含む様々な商標名で知られている。欧州連合においては、E番号(添加物コード)E950で知られている。アスパルテームは、ジペプチドのアスパルチル-フェニルアラニン-1-メチルエステルに対する名称である。Equal(R)およびCanderel(R)を含む様々な商標名で知られている。欧州連合においてはE番号(添加物コード)E951でも知られている。スクラロースは、クロロデオキシ糖である6-ジクロロ-1,6-ジデオキシ-β-D-フルクト-フラノシル4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシドに対する名称である。商品名Splenda(R)としても知られている。欧州連合においては、E番号(添加物コード)E955でも知られている。
【0034】
天然甘味料は精製または部分精製形態で用いてよく、化学合成、醗酵などの生物工学的処理、または天然給源、特に植物給源(限定することなく、果物、サトウキビ、甜菜を含む)、例えば、限定することなく、コーンシロップ、ブドウ糖果糖液糖、ハチミツ、糖蜜、メープルシロップ、果実濃縮物、ならびに他のシロップおよび抽出物を含む植物抽出物またはシロップなどからの単離を含む任意の方法で調製することができる。
【0035】
甘味増強剤および甘味料の混合物
本発明者らによって、甘味増強剤およびその複合物の甘味検出閾値が決定された。甘味検出閾値とは、ヒトが甘味と甘味なしの区別を検出するために必要な最小の濃度である。甘味検出閾値は異なる個体で多少違っている。例えばある個体はスクロースの甘味を、0.4%という非常に低い濃度で検出でき、他の個体は少なくとも0.7%またはそれ以上が必要である。全ての例は、少なくとも0.5%またはそれ以下のスクロースを検出可能な甘味感受性のパネリストで行った。平均的な消費者によって検出可能な濃度はしたがってそれより高いだろう。
【0036】
本明細書中では、甘味増強剤の甘味検出閾値は、甘味感受性のパネリストにより検出された、2%スクロース以下、例えば1%スクロースまで、0.8%まで、0.75%まで、0.7%まで、または0.5%スクロースまでのスクロースと等甘味度の濃度として定義されている。これらの甘味増強剤相互のおよびこれらと任意成分との組合わせは、本明細書に記載されているように、甘味料に対して特に高い甘味増強効果を有することが見出された。
【0037】
甘味増強剤の利用
甘味増強剤は単一の甘味増強成分として、例えば0.0001%から15%(重量/重量)またはそれ以上の少なくとも1種の甘味料を含有する配合物において、下記に示される濃度で利用可能である。甘味料の有用な濃度は、少なくとも2%、例えば2%から15%、または5%から12%などのスクロース溶液と等甘味度をそれ自体で提供する濃度である。例えば、スクロース、フルクトース、グルコース、ブドウ糖果糖液糖(HFCS)またはエリスリトールの有用な濃度は約5%から約12%であろう。
【0038】
消費材は、限定することなく、シリアル製品、コメ製品、タピオカ製品、サゴ製品、パン屋製品、ビスケット製品、ペストリー製品、パン製品、菓子類製品、デザート製品、ガム、チューインガム、チョコレート、アイス、ハチミツ製品、糖蜜製品、酵母製品、ベーキングパウダー、塩および香辛料製品、風味製品、マスタード製品、酢製品、ソース(調味料)、刻みたばこ製品、葉巻、巻きたばこ、加工食品、調理済み果物および野菜製品、肉および肉製品、ゼリー、ジャム、果物ソース、卵製品、ミルクおよび乳製品、ヨーグルト、チーズ製品、バターおよびバター代用製品、ミルク代用製品、大豆製品、食用油および脂肪製品、薬剤、飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、ビール、ソフトドリンク、ミネラルおよび発泡水、ならびに他のノンアルコール飲料、フルーツ飲料、フルーツジュース、コーヒー、再構成が必要な形態を含む人工コーヒー、茶、ココア、食物エキス、植物エキス、肉エキス、調味料、甘味料、栄養補助食品、ゼラチン、医薬および非医薬ガム、錠剤、トローチ剤、ドロップ、乳剤、エリキシル、シロップおよび飲料を作るための他の調製物、ならびにそれらの組合せを含む、全ての食品を含む。
【0039】
消費材は低いpHを提供するために酸を含有してもよい。例えば、多くの飲料は例えばpH2.6~3などの低いpHを有する。本明細書に記載された甘味増強剤もまた、低pH状態下で機能し、増強効果を示す。十分な量の本明細書に記載された甘味料を利用して、どのように消費材を甘くするかは、当業者によく知られている。消費材に応じて、甘味料の量は、本明細書に記載された甘味増強剤を加えることで減少可能である。例えば、スクロースを甘味料とした場合、約1~4°Bx(°Bx(ブリックス度)は液体中の水に溶解したスクロースの質量比の計測値である)またはそれ以上の減少が達成可能である。消費材は、本明細書に記載されているように、いかなる量の甘味料も含有してよい。有用な範囲は、例えば、少なくとも2%、例えば約2%から15%、または約5%から12%の、スクロース、フルクトース、グルコース、ブドウ糖果糖液糖、またはエリスリトールから選択される1または2以上などである。人工甘味料の有用な範囲は、約2から15%スクロースと等甘味度の濃度である。異なる甘味料を、スクロースとの等甘味度の少なくとも2%に相当する濃度で組み合わせて利用してよい。例えば、炭酸飲料は通常約10%から12%のブドウ糖果糖液糖および/またはスクロースを含有する。
【0040】
甘味増強剤の同定
キメラ味覚受容体または切断して細胞外ドメインを取り除いた味覚受容体のいずれかが、候補甘味増強剤を同定するためのアッセイに利用される。
【0041】
切断味覚受容体を利用したアッセイ
T1R2ホモマー結合アッセイは、US20050032158に記載されている。結合アッセイは、機能的受容体活性化ではなく結合のみを示し、エンドポイントに基づくものであり、反応速度測定を含むより迅速な機能アッセイと比較すると時間がかかる。US20050032158はさらに、知られた機能的受容体T1R1/T1R3およびT1R2/T1R3に適した、T1Rsの細胞ベースのアッセイを含む、機能アッセイについても記載している。
【0042】
本明細書で以下に使用されている、T1R2「ホモマー」または「ホモマーの」ポリペプチド、タンパク質、または受容体という用語は、ヘテロダイマーT1R2/T1R3受容体複合体ではなく、T1R2ポリペプチドまたはタンパク質のモノマーモノマー、ダイマーまたはオリゴマーを包含することを意味する。
本発明者らは、T1R2/T1R3ヘテロダイマー受容体複合体のT1R2サブユニットの大きく切断された配列に相当する、「T1R2-TMD」と呼ぶ新規な受容体タンパク質が、驚くべきことに、甘味リガンドと結合し、Gタンパク質を活性化できる機能的甘味受容体を形成することを見出した。
【0043】
新規受容体タンパク質T1R2-TMDは、驚くべきことにリガンドと結合するだけでなく、T1R3の非存在下で下流シグナリングを活性化することが見出された。ここで提供される方法によれば、T1R2-TMDおよびGタンパク質の両方を発現しているがT1R3は発現しない細胞を、任意に知られたまたは新たに決定された甘味物質と組み合わせた試験剤と接触させ、前記剤がT1R2のTMDドメインと結合および/またはそれを活性化可能かどうかを決定する。T1R2ドメインと結合および/またはそれを活性化する剤は候補甘味料および候補甘味増強剤である。ここで提供されるアッセイは、したがって、試験剤を候補甘味料または甘味応答の候補増強剤として同定するために利用することができる。
【0044】
剤の受容体およびGタンパク質に対する機能的効果は、適切な機能アッセイ、例えば細胞内IPおよびCa2+濃度などの伝達経路のパラメータの変化を計測するアッセイにより、またはGTPγSによる標識などの、他のGタンパク質特異的アッセイにより、当業者に知られた技術に従ってアッセイ決定される。代替的に、結合アッセイをT1R2-TMDに結合するリガンドの決定に利用してもよい。
【0045】
本明細書に記載されている、クローニング、リガンド-受容体ペアの解明、および甘味応答の増強剤の検索に関する様々な側面および態様の実施において、分子生物学、微生物学および組換えDNA技術における慣習的な技術が利用される。これらはT1R2-TMDを含むGタンパク質共役受容体(GPCR)に適した様々な知られた方法を含む。したがって、当業者にはかかる技術が十分に知らされており、それゆえ以下では、本発明の状況をより十分に記載するために、かかる技術はごく簡略化して論じる。
【0046】
キメラ受容体を利用するアッセイ
キメラタンパク質は、2または3以上の異なるタンパク質由来のアミノ酸配列を含む。キメラタンパク質は、求める特性を組み合わせるか、または不要なものを排除することができる場合がある。以下で用いる、CSR:T1Rという用語は、キメラCSR:T1R2ホモマー、CSR:T1R3ホモマー、CSR:T1R2とCSR:T1R3または野生型T1R3とのヘテロダイマー複合体(CSR:T1R2/CSR:T1R3またはCSR:T1R2/T1R3)、またはCSR:T1R3とCSR:T1R2または野生型T1R2とのヘテロダイマー複合体(CSR:T1R2/CSR:T1R3またはT1R2/CSR:T1R3)のことを指す。
【0047】
キメラ味覚受容体について、CSR:T1Rキメラタンパク質は、特に、CSR:T1R2モノマー、CSR:T1R3モノマー、CSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマー、CSR:T1R2/T1R3ヘテロダイマー(キメラT1R2サブユニットと野生型T1R3)、およびT1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマー(キメラT1R3サブユニットと野生型T1R2)を含む。CSR:T1Rキメラタンパク質は、T1R2、T1R3またはT1R2およびT1R3のVFTドメインを有しておらず、したがってT1R2および/またはT1R3のTMDドメインと結合する化合物を特異的に同定することができる。これらの同定された化合物は、インビボでの甘味受容体との結合において、VFT部位に結合する炭水化物と競合することが期待されないので特に興味深く、したがって炭水化物の特に興味深い候補甘味増強剤である。
【0048】
本発明者らは、キメラモノマー、CSR:T1R2およびCSR:T1R3、が機能的であり、機能的CSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーを形成することを見出した。本発明者らの実験は、CSR:T1R2モノマーサブユニットがまた、ヘテロダイマーを形成することなく、それ自体で機能的甘味受容体として機能することを示している。予備実験は、CSR:T1R3が特定のGタンパク質との連動および/またはその活性化において困難を有し得ることを示している。しかしながら、CSR:T1R3は、Gタンパク質を活性化する能力を必要としない結合アッセイには有用である。
【0049】
したがって、CSR:T1R2およびCSR:T1R3はまた、モノマー形態においても、本明細書に記載された方法において有用である。これらの方法において利用可能な代替的なヘテロダイマーはキメラサブユニット/野生型サブユニットヘテロダイマー(CSR:T1R2/T1R3およびT1R2/CSR:T1R3)である。CSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーにおいて、ヘテロダイマー複合体のそれぞれのCSR:T1Rサブユニットは、2つの給源タンパク質からの配列断片の組合せからなる。2つの給源タンパク質はヒトカルシウム感知受容体(hCaSR)、およびT1Rタンパク質(T1R2またはT1R3)である。両サブユニットに共通するhCaSR由来断片(CSR)は、hCaSRの細胞外ドメイン(ECD)を含む。T1R由来断片は、T1R配列の膜貫通ドメイン(TMD)を含み、T1R2またはT1R3に由来するため、2つの異なるタイプを有する。
【0050】
提供されるキメラCSR:T1R構築物(DNA、ベクター、トランスフェクト細胞、タンパク質)は、例えば本明細書に記載されている候補甘味増強剤などの甘味応答の増強剤をスクリーニングする場合に有用である。従来のスクリーニング方法および結合アッセイもまた増強剤をスクリーニングするのに利用し得る。かかるスクリーニング方法論は当業者によく知られており、概要を以下に記す。
【0051】
代替的に、キメラCSR:T1R構築物中のCSR(hCaSRのカルシウム感知受容体部分)の利点は、得られる受容体がカルシウム応答性であることである。その結果、T1R受容体のリガンド/アゴニストの存在/非存在下において増強剤をスクリーニングする場合、リガンドを甘味化合物の代りにhCaSR刺激性リガンドに置き換えることが可能である(例えば、塩化カルシウムの形態に)。これには、実際に存在するリガンド/アゴニストのあらゆる否定的な効果を回避できるという付加的な利点がある。例えば、糖リガンド/アゴニストの増強剤をスクリーニングする場合、浸透圧濃度などへの糖の不利な効果を回避できる。カルシウム感知受容体に加えて、キメラ受容体の潜在的パートナーとしてまた考えられる、他のクラスC GPCRからの細胞外ドメインは、例えば代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)、GPRC型受容体(すなわちGPRC5およびGPRC6a)、V2Rフェロモン受容体、およびGABA-B受容体などを含む。hCaSR細胞外ドメインを利用するのと同様に、他のクラスC GPCRの細胞外ドメインのリガンドを利用することは、甘味増強剤のスクリーニングにおいて、糖に代替するリガンドの利用を潜在的に可能にする。
【0052】
切断味覚受容体を用いるアッセイに利用される細胞
切断味覚受容体にとって、本発明によるスクリーニングまたはアッセイに有用な細胞は、T1R3を含まない細胞である。トランスフェクトされたまたは内在性のT1R3は、T1R2-TMDのアゴニスト応答または他の増強剤による前記応答の変化を決定する方法を否定的に妨害し得る。T1R3の非存在は、T1R2-TMD活性化の決定にヌルバックグラウンド(null background)を提供し、観察されるシグナルは直接T1R2-TMD活性の結果とすることができる。このことは、T1R2-TMDを特異的に調節する剤の同定を可能にし、T1R3が甘味およびうま味ヘテロダイマー両方の一部であるため、うま味物質をも含み得るT1R3を活性化する剤を排除できる。
【0053】
適切な真核細胞は、T1R3を含まない真核細胞、例えば、限定することなく、哺乳類細胞、酵母細胞、または昆虫細胞(Sf9を含む)、両生類細胞(メラニン保有細胞を含む)、またはCaenorhabditis細胞(Caenorhabditis elegansを含む)を含むぜん虫細胞などを含む。T1R3を含まない適切な哺乳類細胞は、例えば、限定することなく、COS細胞(Cos-1およびCos-7を含む)、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293T-RexTM細胞、または他のトランスフェクト可能な真核細胞細胞系を含む。T1R3を含有しない適切な細菌細胞は、限定することなく、E.Coliを含む。
【0054】
CSR:T1R2および/またはCSR:T1R3アッセイに利用される細胞
トランスフェクトされたまたは内在性のT1R3およびT1R2は、CSR:T1R2および/またはCSR:T1R3それぞれのアゴニスト応答または他の増強剤による前記応答の変化を決定する方法を否定的に妨害し得る。T1R3およびT1R2の非存在は、CSR:T1R2および/またはCSR:T1R3活性化の決定にヌルバックグラウンドを提供し、観察されるシグナルを直接CSR:T1R2および/またはCSR:T1R3活性の結果とすることができる。このことは、CSR:T1R2および/またはCSR:T1R3を特異的に調節する剤の同定を可能にし、T1R3について言えば、T1R3は甘味およびうま味ヘテロダイマー両方の一部となるため、うま味物質をまた含み得る野生型T1R2およびT1R3を活性化する剤を排除できる。
【0055】
内在性の野生型T1R2および/またはT1R3の存在は、望ましくないいくつかのバックグラウンドシグナルの原因となるだろう。内在性のT1R2および/またはT1R3を有する細胞は、十分低いバックグラウンドを伴う結果を得るのに依然として有用ではあるが、通常、よりよい選択は内在性T1R2およびT1R3受容体を含有しない細胞である。しかしながら、CSR:T1R2/T1R3キメラタンパク質を利用する場合、細胞はバックグラウンドに不利な効果を有さない野生型T1R3を含有してもよい。同様にT1R2/CSR:T1R3キメラタンパク質を利用する場合、細胞はバックグラウンドに不利な効果を有さない野生型T1R2を含有してもよい。
【0056】
下記に列挙した細胞は内在性野生型T1R3または内在性野生型T1R2を含まないため特に有用である。しかしながら代替的な細胞もまた本明細書に記載された方法において有用である。
【0057】
適切な真核細胞は、例えば、限定することなく、哺乳類細胞、酵母細胞、または昆虫細胞(Sf9を含む)、両生類細胞(メラニン保有細胞を含む)、またはCaenorhabditis細胞(Caenorhabditis elegansを含む)を含むぜん虫細胞などを含む。T1R3を含有しない適切な哺乳類細胞は、例えば、限定することなく、COS細胞(Cos-1およびCos-7を含む)、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293T-RexTM細胞、または他のトランスフェクト可能な真核細胞細胞系を含む。T1R3を含まない適切な細菌細胞は、限定することなく、E.Coliを含む。
【0058】
細胞は、当業者によく知られているように、GPCRおよびGタンパク質(受容体をホスホリパーゼCシグナル伝達経路に連結する)を一過性にまたは安定的にトランスフェクトされてもよい。味覚GPCRとの増強されたカップリングを提供するキメラGタンパク質Gアルファ16-ガストデューシン44の優れた異種発現系はWO2004/055048(G.sub..alpha.16 gust(ducin)44、G.sub.alpha.16gust(ducin)44、Gα16gust(ducin)44、Ga16gust(ducin)44、Gα16-ガストデューシン 44、または以下で使用されているように「Gα16gust44」としても知られている)に詳細に記載されている。代替的に、WO2004/055048に記載されているGαq-ガストデューシンに基づいた他のキメラGタンパク質、または、例えばG16またはG15などの、他のGタンパク質もまた利用してよい。
【0059】
CSR:T1Rは、受容体を、例えばホスホリパーゼCシグナル伝達経路などの、シグナル伝達経路、または例えば後述のものを含むシグナル伝達経路に連結するGタンパク質とともに、細胞内で発現させることが可能である:アデニル酸シクラーゼ、グアニル酸シクラーゼ、ホスホリパーゼC、IP、GTPase/GTP結合、アラキドン酸、cAMP/cGMP、DAG、プロテインキナーゼc(PKC)、MAPキナーゼ、チロシンキナーゼ、またはERKキナーゼ。代替的に、以下に詳述するように、いかなる適切なリポーター遺伝子もCSR:T1R活性化応答プロモーターに連結し、CSR:T1R活性の決定に利用することができる。
【0060】
上述の細胞に利用されるベクター構築物
かかる細胞中でT1R2-TMDまたはCSR:T1Rならびに/あるいはGタンパク質を発現するベクター構築物は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)を利用する知られた技術あるいは方法によって産生することができる。配列の確認後、cDNA断片は、例えばpcDNA3.1哺乳類細胞用哺乳類発現ベクターなど、適切なベクター内へサブクローニングされてよく、正しい遺伝子の発現を可能にするために対応する宿主細胞に一過性にトランスフェクトされてよい。
【0061】
例えば48時間の、トランスフェクト後期間の後、タンパク質の正しい発現を確認するために細胞溶解物を調製し、ウェスタンブロットによって解析してもよい。一度正しいタンパク質の発現が確認されれば、例えばHEK293T細胞およびHEK T-RexTMを含む哺乳類細胞などの適切な細胞は、当業者に知られた技術に従って、安定してタンパク質を発現する細胞を生成するためにトランスフェクトされてよい。
【0062】
代替的に、様々な非哺乳類発現ベクター/宿主システムが、Gタンパク質共役受容体(GPCR)T1R2-TMDまたはCSR:T1Rをコードする配列の含有および発現に利用可能である。これらは、例えば組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌を含む微生物、酵母発現ベクターで形質転換された酵母、ウィルス発現ベクター(例えばバキュロウィルス)、または細菌発現ベクター(例えばpBR322プラスミド)で感染させた昆虫細胞システムなどを含む。以上に記載された系とともに利用することができる特定のベクターの例は、G-protein coupled receptors, Signal Transduction Series, Tatsuya Haga and Gabriel Berstein編、第1版、CRC Press - Boca Raton FL; September 1999に記載されている。
【0063】
細菌系において、多くのクローニングおよび発現ベクターが、T1R2-TMDまたはCSR:T1Rをコードするポリヌクレオチド配列について意図する利用に応じて選択し得る。例えば、GPCRをコードするポリヌクレオチド配列のルーチンのクローニング、サブクローニング、および増殖が、pBLUESCRIPT(Stratagene, La Jolla Calif.)またはpSPORT1プラスミド(Life Technologies)などの多機能性大腸菌ベクターを利用して行える。GPCRをコードする配列の、ベクターのマルチクローニングサイトへのライゲーションはlacZ遺伝子を妨害し、組換え分子を含有する形質転換細菌の同定のための比色スクリーニング手法を利用可能にする。加えて、これらベクターはインビトロ転写、ジデオキシシークエンシング、ヘルパーファージによる一本鎖レスキュー(single strand rescue)、およびクローニングされた配列内のネストされた欠失の作出にも有用であり得る。例えば抗体の産生など、多量のGPCRが必要な場合、GPCRの高発現を導くベクターが利用し得る。例えば強い、誘導可能なSP6またはT7バクテリオファージプロモーターを含むベクターなどが利用し得る。
【0064】
酵母発現系はGPCRの産生に利用されてよい。アルファファクター、アルコールオキシダーゼ、およびPGHプロモーターなどの構成的または誘導プロモーターを含む多数のベクターが酵母Saccharomyces cerevisiaeまたはPichia pastorisに利用し得る。加えて、かかるベクターは、発現タンパク質の分泌または細胞内の保持を導き、安定的増殖のための外来性配列の宿主遺伝子への統合を可能にする。
【0065】
異種タンパク質を昆虫細胞細胞系で発現するために、例えば、Lepidopteran baculovirusまたはAutographia californicaマルチカプシドヌクレオウィルス(AcMNPV)の誘導体が利用可能である。このシステムにおいて、外来性遺伝子発現は、ポリヘドリンまたはp10プロモーターのいずれかの、非常に強い後期ウィルスプロモーターに導かれ、多様なベクターが、組換えタンパク質の発現および回収の最適化に利用可能である。これらのベクターは膜結合型および分泌型タンパク質の両方を高度に発現することが可能であり、また哺乳類システム中で起こることが知られる、N-およびO-連結糖鎖付加、リン酸化、アシル化、タンパク質分解および分泌ワクチン成分を含む多くの翻訳後修飾も可能である。例えばInvitrogenのInsectSelectTMなどの多くのベクターが商業的に入手可能である。
【0066】
発現系
求めるタンパク質(例えばGタンパク質およびCSR:T1RまたはT1R2-TMDのいずれか)をコードするcDNAを発現するために、転写を導く強力なプロモーター、転写/翻訳ターミネーターおよび翻訳開始のためのリボソーム結合領域を含む、適切なcDNAが入った発現ベクターを典型的にサブクローニングする。例えばE.coli、Bacillus sp.、およびSalmonellaなど、適切な細菌プロモーターは当業者によく知られており、かかる発現系のためのキットが商業的に入手可能である。同様に、哺乳類細胞、酵母、および昆虫細胞のための真核細胞発現系も商業的に入手可能である。真核細胞発現ベクターは、例えばアデノウィルスベクター、アデノ随伴ベクター、またはレトロウィルスベクターなどであってよい。
【0067】
プロモーターに加えて、発現ベクターは典型的に、宿主細胞においてタンパク質をコードする核酸を発現するのに必要な付加的要素の全てを含む、転写ユニットまたは発現カセットを含む。典型的な発現カセットはしたがって、タンパク質をコードする核酸配列に作動可能に連結したプロモーターおよび、転写の効率的なポリアデニレーションに必要なシグナル、リボソーム結合領域、および翻訳ターミネーションを含む。タンパク質をコードする核酸配列は典型的に、組換えタンパク質の効率的な細胞表面発現を推進するために、ラットソマトスタチン-3受容体配列のN末端45アミノ酸などの、細胞表面受容体に有用な膜標的化シグナルに連結していてよい。付加的なベクター要素は、例えばエンハンサーなどを含んでもよい。発現カセットはまた、構造遺伝子の下流に、効果的なターミネーションを提供するための転写終止領域も含むべきである。終止領域はプロモーター配列と同じ遺伝子から得てもよく、また異なる遺伝子から得てもよい。
【0068】
タンパク質の発現のために、真核細胞または原核細胞における発現のために当業者によく知られた、慣用のベクターを利用してよい。ベクターの例は、例えばpBR322ベースのプラスミド、pSKF、およびpET23Dを含むプラスミドなどの細菌発現ベクター、および例えばGSTおよびLacZなどの融合発現系を含む。
【0069】
真核ウィルス由来の制御要素を含む発現ベクター、例えばSV40ベクター、サイトメガロウィルスベクター、パピローマウィルスベクター、およびエプスタイン・バーウィルス由来のベクターなどは、典型的に真核発現ベクターとして利用される。他の真核ベクターの例には、pMSG、pAV009/A、pMTO10/A、pMAMneo-5、バキュロウィルスpDSVE、pcDNA3.1、pIRES、およびSV40早期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳腺腫瘍ウィルスプロモーター、ラウス肉腫ウィルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または真核細胞内での発現に効果を示す他のプロモーターの指揮下でタンパク質を発現させられる他のいかなるベクターも含む。いくつかの発現系は、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、ジヒドロ葉酸リダクターゼなどの遺伝子増幅を提供するマーカーを有する。
【0070】
典型的に発現ベクターに含まれる要素には、E.Coli中で機能するレプリコン、組換えプラスミドを取り込んだ細菌の選別を可能にする薬剤耐性をコードする遺伝子、および真核配列の挿入を可能にするプラスミドの本質的でない領域のユニークな制限部位なども含んでよい。選択される特定の薬剤耐性遺伝子は重大ではない。当該技術分野で知られたあらゆる多くの薬剤耐性遺伝子が適している。原核および真核細胞の両方で利用されるベクターに関して、原核配列は、真核細胞内でのDNAの複製を妨害しないように任意に選択される。
【0071】
細菌システムにおいて、T1R2-TMDまたはCSR:T1RのcDNA断片は、単独で、または、対象となるT1R2-TMDまたはCSR:T1Rが、E.Coliペリプラズムマルトース結合タンパク質(MBP)であって、シグナルペプチドを含むMBPがT1R2-TMDまたはCSR:T1Rのアミノ末端に連結しているものに融合した融合タンパク質として発現されてよい。T1R2-TMDまたはCSR:T1RのcDNAあるいはT1R2-TMDまたはCSR:T1RとMBPとの融合タンパク質cDNAは、例えばE.Coli GPCRの発現がlac野生型プロモーターによって駆動されるpBR322など、適切なプラスミドへサブクローニングされる。E.ColiにおけるGPCRの発現方法は、例えばG-protein coupled receptors, Signal Transduction Series, Tatsuya Haga and Gabriel Berstein編, 第1版, CRC Press - Boca Raton FL; September 1999などに記載されている。
【0072】
内在性GPCRを欠損した遺伝子操作酵母システムおよび昆虫細胞システムは、CSR:T1R活性化スクリーニングまたはT1R2-TMD活性化スクリーニングに対してヌルバックグラウンドであるという利点を提供する。遺伝子操作酵母システムはヒトGPCRおよびGαタンパク質を、対応する内在性酵母フェロモン受容体経路の成分と代替するものである。下流シグナル経路はまた、通常の酵母シグナル応答が選択培地上でのプラス成長またはレポーター遺伝子発現に転換するように、改変される(Broach, J. R. and J. Thorner, 1996, Nature, 384 (supp.):14~16に記載)。遺伝子操作された昆虫システムは、受容体をホスホリパーゼCシグナル経路に連結できるヒトGPCRおよびGαタンパク質を組み込んでいる(例えばKnight and Grigliatti, 2004, J. Receptors and Signal Transduction, 24: 241~256参照)。両生類細胞システム、特にメラニン含有細胞は、例えばGPCR発現系について記載した国際特許出願92/01810などに記載されている。
【0073】
T1R2-TMDまたはCSR:T1Rの過剰発現
T1R2-TMDまたはCSR:T1Rは、例えばCMV早期プロモーターなどの強力な構成的プロモーターの制御下に置くことにより過剰発現されることができる。代替的に、保存されているGPCRアミノ酸またはアミノ酸ドメインのある変異を導入し、利用するGPCRを構成的に活性化させることが可能である。
【0074】
誘導プロモーターもまた、T1R2-TMDまたはCSR:T1R発現の誘導、制御、および調節に利用してもよい。例えば、限定することなく、T-RexTM発現系(Invitrogen Corp., Carlsbad, CA)を用いることができる。T-RexTMシステムは、E.Coli Tn10にコードされたテトラサイクリン(Tet)耐性オペロン由来の調節エレメントを利用したテトラサイクリン制御哺乳類発現系である。T-RexTMシステム中のテトラサイクリン調節は、テトラサイクリンのTetリプレッサーへの結合および対象となる遺伝子の発現を制御するプロモーターの抑制解除に基づいている。
【0075】
T1R2-TMDまたはCSR:T1R発現ベクター構築物の細胞内へのトランスフェクション
T1R2-TMDまたはCSR:T1Rなどの対象となるタンパク質を大量に発現する細菌、哺乳類、酵母または昆虫の細胞系を作出するために、標準的なトランスフェクション法が利用可能である。核酸配列を宿主細胞に導入するために知られたいかなる方法も利用してよい。用いる特定の遺伝子操作手順は、対象となるタンパク質を発現できる宿主細胞中に関係する遺伝子を首尾良く導入できさえすればそれでよい。これらの方法は、クローニングされたゲノムDNA、cDNA、合成DNAまたは他の外来性の遺伝物質を宿主細胞中に導入することを伴ってもよく、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソーム、マイクロインジェクション、プラズマベクター、ウィルスベクターなどを含む。
【0076】
細胞培養
トランスフェクト後、トランスフェクトされた細胞は、当業者によく知られた標準的な培養条件で培養することができる。異なる細胞は、適切な温度および細胞培養培地を含む、異なる培養状態を要求することは、当業者に明らかである。
【0077】
T1R2-TMDまたはCSR:T1R受容体タンパク質回収
必要に応じて、タンパク質を標準的な技術を利用して細胞培養から回収することができる。例えば、沈殿およびクロマトグラフィ工程に供する前に細胞を機械的にまたは浸透圧ショックによって破裂させてよく、その性質と順序は回収される特定の組換え物質次第である。あるいは、組換えタンパク質を、組換え細胞が培養された培養培地から回収することもできる。
【0078】
本明細書のアッセイによって同定され得る味覚調節物質
T1R受容体活性の調節物質(リガンド、アゴニスト、部分的アゴニスト、アンタゴニスト、逆アゴニスト、阻害剤、増強剤を含む様々なタイプ)は、本明細書に記載されたアッセイによって同定可能である。調節物質のタイプは同時に1以上のタイプを含んでもよく、濃度に依存し得る。例えば、剤がある濃度範囲においてアゴニストとして作用するが、別の濃度範囲においては他のアゴニスト(例えば甘味料または糖)の増強剤として作用することもある。したがって、剤はその調節活性の決定のために異なる濃度で試験されるべきである。これから本明細書に記載された方法において同定可能な剤の定義について述べる。
【0079】
増強剤は、1または2以上の後述のものの増大を引き起こす剤である:受容体の細胞表面発現、リガンドの受容体への結合、リガンド誘導性の受容体活性、または受容体の活性化形態によって開始される細胞内応答(アゴニストの存在下または非存在下における)。阻害剤は、1または2以上の後述のものの減少を引き起こす剤である:受容体の細胞表面発現、リガンドの受容体への結合、リガンド誘導性の受容体活性、または受容体の活性化形態によって開始される細胞内応答(アゴニストの存在下または非存在下における)。増強剤はそれ自身が受容体に結合し、それを活性化し、それによって細胞内応答の増大を調節するアゴニストであり得る。
【0080】
増強剤は、小分子、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体またはその断片を含む様々なタイプの化合物を含む。それらは、合成または天然物質、天然材料の抽出物を含む様々な給源、例えば動物、哺乳類、昆虫、植物、細菌または真菌細胞材料または培養細胞、またはかかる細胞の馴化培地などに由来し得る。
【0081】
リガンドは受容体と結合する剤であり、アゴニスト、部分的アゴニスト、増強剤、阻害剤、アンタゴニスト、または逆アゴニストであってもよい。アゴニストは、受容体を活性化し、受容体に結合したときにアゴニストの非存在下での細胞内応答と比較して、細胞内応答を増大させるT1R受容体のリガンドである。付加的にまたは代替的に、アゴニストは、アゴニストの非存在下で細胞表面に存在する細胞表面受容体の数と比較して、受容体の細胞表面発現を増大させるように、細胞表面受容体の内在化を減少させ得る。T1Rのアゴニストは、例えばカルシウム、p-エトキシベンズアルデヒド、ペリラルチン、サイクラミン酸塩、NDHC、シンナモニトリルなどを含む。CSR:T1Rキメラタンパク質のリガンドは、CSRドメインリガンド(例えばカルシウム)およびTAS1Rドメインリガンド(例えばT1R2またはT1R3膜貫通ドメインに結合する候補甘味増強剤)を含む。
【0082】
部分的アゴニストは、受容体を最大限活性化する他のアゴニストと比べて、部分的にしか作用しないアゴニストである。アンタゴニストは、アゴニストと同じ(競合的アンタゴニスト)または異なる(アロステリックアンタゴニスト)受容体の部位に結合するが、受容体の活性化形態によって起こる細胞内応答を活性化せず、それゆえアゴニストの存在下およびアンタゴニストの非存在下と比較して、アゴニストによって誘導される細胞内応答を阻害するリガンドである。受容体と結合する逆アゴニストは、受容体によって媒介される構成的細胞内応答を、逆アゴニストの非存在下における細胞内応答と比較して減少させる。阻害剤は、阻害剤の非存在下におけるアゴニストの結合と比較して、アゴニストと受容体との結合を減少させ、および/またはアゴニストによって誘導される細胞内応答を減少させる。
【0083】
リガンドを結合し、例えばGタンパク質(すなわち増強剤との種々の相互作用に起因して)などによりシグナルを伝達する受容体の活性または活性の変化は、以下に記載されるアッセイによって決定可能である。
【0084】
T1R2-TMDまたはCSR:T1R受容体の増強剤同定のためのアッセイ
増強剤は、機能的効果/パラメータを決定および比較するための、多種多様なインビトロおよびインビボアッセイを利用して、または代替的に結合アッセイによって、同定可能である。受容体の機能上の試験剤の効果は適切な機能的パラメータを分析することで計測可能である。受容体活性に影響するあらゆる生理学的変化は、増強剤の同定のために利用可能である。
【0085】
かかる機能的アッセイは、例えば動物から単離された無傷の細胞または組織を利用したアッセイおよび濃度、活性またはそれらの二次メッセンジャーの変化(例えば細胞内カルシウム(Ca2+)、cAMP、cGMP、イノシトールリン酸(IP)、ジアシルグリセロール/DAG、アラキドン酸、MAPキナーゼまたはチロシンキナーゼなどを含む)、イオンフラックス、リン酸化レベル、転写レベル、神経伝達物質レベルの計測に基づいたアッセイ、およびGTP結合性、GTP分解酵素、アデニル酸シクラーゼ、リン脂質分解、ジアシルグリセロール、イノシトール三リン酸、アラキドン酸放出、PKC、キナーゼおよび転写レポーターに基づいたアッセイなど、当業者によく知られている。いくつかの適切なアッセイが、例えばWO 01/18050に記載されている。
【0086】
受容体活性化は、典型的には例えば、例えば細胞内に貯蔵されたカルシウムイオンを放出するIPなどの二次メッセンジャーの増大など、後続する細胞内イベントの起点となる。いくつかのGタンパク質共役受容体活性化は、ホスホリパーゼC媒介ホスファチジルイノシトール加水分解を通したイノシトール三リン酸(IP)の形成を刺激する。IPは次に細胞内に貯蔵されたカルシウムイオンの放出を刺激する。全ての機能的アッセイは、例えば受容体をその表面または単離細胞膜画分上に発現する細胞を含有するサンプルで行うことができる。有用な細胞は上述されている。また、例えば遺伝子組換え動物からの組織も利用してよい。
【0087】
それ自身がアゴニストではない(例えば、代わりにアンタゴニスト、部分的アゴニスト、逆アゴニスト、阻害剤、または増強剤である)増強剤を同定するため、いずれもアゴニストを含有する、試験剤を含むサンプルおよび含まないサンプルを比較する。受容体がCSR:T1Rの場合、アゴニストとして例えばカルシウムを用いることができる。カルシウムの使用は、両方のTMDがアクセス可能となる利点を有する。他の知られたまたは同定されたアゴニスト、例えば、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、サイクラミン酸塩、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)、およびシンナモニトリルなどもまた利用可能である。
【0088】
しかしながら、これらは、推定増強剤の増強剤結合部位と一致し得るリガンド/アゴニスト結合部位を部分的にふさぎ、低シグナルの原因となり得る。例えば、コントロール(アゴニストを含むが増強剤は含まない)の相対的受容体活性値を100とする。コントロールに対する活性の減少により阻害剤、アンタゴニストまたは逆アゴニストが同定され、一方、増大により増強剤が同定される。計測された活性における、例えば10%またはそれ以上(または統計学的に有意な任意の差異)の増大または減少は、試験剤を含むサンプルにおいて試験剤を含まないサンプルと比べて、または試験剤を含むサンプルにおいて、試験剤を含むが、細胞がT1R2-TMDまたはCSR:T1Rを発現しない(モックトランスフェクション細胞)コントロールサンプルに比べて有意であるとみなされる。
【0089】
アゴニストまたは部分的アゴニストの同定
VFTドメインに結合しないアゴニストまたは部分的アゴニストを同定するために、試験剤を有するサンプルを、アゴニスト(例えば塩化カルシウム(受容体がCSR:T1Rの場合)、ペリラルチン、サイクラミン酸塩、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)、シンナモニトリル、または他の同定されたリガンド/アゴニスト)を有するポジティブコントロールと比較する。代替的に/付加的に、試験剤を有するおよび有さないサンプルが、そのT1R2-TMDまたはCSR:T1Rキメラタンパク質との活性について比較される。例えば、アゴニストまたは部分的アゴニストは、アゴニストまたは部分的アゴニストが100mMまたはそれ以下で存在していた場合、ポジティブコントロール甘味アゴニストの最大生物学的活性の少なくとも10%に相当する生物学的活性を有しており、例えばアゴニストの最大生物学的活性に匹敵するまたはそれ以上の最大生物学的活性を有し得る。
【0090】
最大生物学的活性は、与えられた受容体アッセイフォーマット内で達成可能なアゴニスト、例えば塩化カルシウム、ペリラルチン、サイクラミン酸塩、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)、シンナモニトリルなどアッセイに対する最大達成可能な受容体応答であって、その応答が、同じアゴニストの濃度を増大させて適用してもさらに増大できないものと定義される。
【0091】
上述のアゴニストは、異なる濃度において、T1R2-TMDまたはCSR:T1Rキメラタンパク質のアゴニストの増強剤としても働き得る。これは、アゴニスト-試験剤を甘味増強効果を示すシグナルについて試験するために、カルシウムまたは他のアゴニストを利用したスクリーニング法で試験することができる。代替的に、試験剤を有するサンプルにおける、例えば10%またはそれ以上の計測活性の増大が、試験剤を有さないサンプルまたは試験剤を有するがT1R2-TMDまたはCSR:T1Rを発現しない細胞(モックトランスフェクション細胞)に基づくサンプルと比較される。
【0092】
アンタゴニストを同定するために、知られたアゴニストの存在下における、試験剤の存在下および非存在下での受容体活性が比較される。アンタゴニストは、例えば少なくとも10%の、アゴニスト刺激性受容体活性の減少を示す。逆アゴニストを同定するために、試験剤の存在下および非存在下での受容体活性が、上述のように、受容体を過剰発現する動物/細胞/膜を含有するサンプルで比較される。逆アゴニストは、例えば少なくとも10%の、受容体の構成的活性の減少を示す。
【0093】
多くのスクリーニングはカルシウム活性に頼っており、これらについては、細胞、受容体、酵素またはリポーター遺伝子を非特異的に刺激することを回避するために、カルシウムの少ない緩衝系を利用すべきである。細胞質イオン濃度または膜電位の変化を決定するために、G-protein coupled receptors, Signal Transduction Series, Tatsuya Haga and Gabriel Berstein編, 第1版, CRC Press - Boca Raton FL; September 1999に詳述されているように、受容体活性を報告するために、細胞にイオン感受性色素を負荷することができる。細胞質または膜電位におけるイオン濃度の変化は、それぞれイオン感受性または膜電位蛍光指標を利用して計測される。上述のアッセイにおけるT1R2-TMDまたはCSR:T1R受容体活性を計測する適切な検出法の様々な例を以下に記載する。
【0094】
カルシウムフラックスアッセイ
GPCRの活性化によって誘導される細胞内カルシウム放出は、カルシウムに結合する細胞持続性(cell-permanent)色素を利用して決定される。カルシウム結合性色素は、細胞内のカルシウム上昇に比例する蛍光シグナルを発生する。この方法は、受容体活性の迅速かつ定量的な計測を可能にする。
【0095】
用いる細胞は、上述のようにホスホリパーゼC経路に連結できるようにするために、T1R2-TMDまたはCSR:T1R GPCRとGタンパク質とを共発現するトランスフェクト細胞である。ネガティブコントロールは、候補化合物の可能な非特異的効果を排除するために、T1R2-TMDまたはCSR:T1Rを発現しない細胞またはその膜(モックトランスフェクションしたもの)を含む。カルシウムフラックス検出手順はG-protein coupled receptors, Signal Transduction Series, Tatsuya Haga and Gabriel Berstein編, 第1版, CRC Press - Boca Raton FL; September 1999に詳述されており、適合させたバージョンの概略を以下に記載する。
【0096】
0日目:96ウェルプレートに、1ウェルあたり8500個の細胞を播種し、栄養成長培地中、一晩37℃で維持する。
1日目:1ウェルあたり150ngのGPCR DNAおよび0.3μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)を利用して、細胞をトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞は栄養成長培地中、一晩37℃で維持する。
【0097】
2日目:成長培地を捨て、細胞を、1.5μMのFluo-4 AM(Molecular Probes)および2.5μMのプロベニシドを、37℃で130mMのNaCl、5mMのKCl、10mMのHepes、0.5mMのCaClおよび10mMのグルコース(pH7.4)を含有する、低カルシウムC1緩衝液(標準C1緩衝液の組成は下記例1参照)に溶かしたものからなる50μlのカルシウムアッセイ溶液で1時間(室温にて暗所で)インキュベートする。125μlの低カルシウムC1緩衝溶液をそれぞれのウェルに加え、プレートをさらに30分室温にて暗所でインキュベートする。緩衝溶液を捨て、プレートを100μlの低カルシウムC1緩衝溶液を洗浄緩衝液として5回洗浄し、細胞を200μlの低カルシウムC1緩衝液中で再構成する。プレートを、例えばFlexstation(Molecular Devices)またはFLIPR(蛍光イメージングプレートリーダー)(Molecular Devices)などの蛍光マイクロプレートリーダーに設置し、20μlの10倍濃縮リガンドストック溶液を加えて受容体活性化を開始する。
【0098】
蛍光は、リガンドを加える15秒前からリガンドを加えた後45~110秒後まで継続的に監視する。受容体活性化レベルは以下の2つの方程式で定義される:活性化の%=((最大蛍光-基準蛍光)/基準蛍光)×100、または蛍光増加=最大蛍光-基準蛍光、式中基準蛍光はリガンド添加前の平均蛍光レベルを表す。代替的に、受容体活性化は、基準蛍光(F)で標準化されたピーク蛍光(F)の増大で検出することもできる。データは以下の方程式を用いて標準化される:ΔF/F=(F-F0)/F0、式中Fはピーク蛍光シグナルおよびF0は基準蛍光シグナルであり、基準蛍光はリガンド添加前の最初の10~15秒から計算される平均蛍光を表す。
【0099】
有用な細胞は、これに限定するものではないが、例えばHEK293T細胞およびHEK293T-RexTM細胞などの上述した哺乳類細胞である。細胞は、当該技術分野でよく知られているとおりに、GPCRとGタンパク質で一過性にまたは安定的にトランスフェクトすることができる。優れた異種発現系は、WO2004/055048に詳述されている。カルシウムフラックスアッセイは、例えば後述の例1に記載されているように行うことができる。増強剤の同定は、上述の方法を以下のように変更して行われる。シグナルは、アゴニストの存在下だが試験剤の非存在下でT1R2-TMDまたはCSR:T1Rを発現する遺伝子組換え細胞から得られた、T1R2-TMDまたはCSR:T1R活性の基準レベルと比較される。T1R2-TMDまたはCSR:T1R活性の増大または減少、例えば、これに限定するものではないが、10%、20%、50%、または100%またはそれ以上などの、統計学的に有意なあらゆる増大により増強剤を同定する。代替的に、同定は、増強剤が存在しないサンプルと比較した場合または増強剤は存在するがT1R2-TMDまたはCSR:T1Rポリペプチドを発現しない細胞(モックトランスフェクションした細胞)のサンプルと比較した場合、例えばこれに限定するものではないが10%またはそれ以上の、蛍光強度の統計的に顕著な増大または減少を伴う。
【0100】
アデニル酸シクラーゼ活性
アデニル酸シクラーゼ活性のためのアッセイは、例えばKenimer & Nirenberg, 1981, Mol. Pharmacol. 20: 585~591に詳述されているように行われる。反応混合物は通常37℃で10分以下インキュベートされる。インキュベーション後、反応混合物は0.9mlの冷6%トリクロロ酢酸を添加して除タンパクする。チューブを遠心し、それぞれの上清をDowex AG50w-X4カラムに加える。カラムからのcAMP画分を、アゴニストによる受容体活性化を受けて発生したcAMPレベルを計測するために、4mlの0.1mMイミダゾール-HCl(pH7.5)で計数バイアル中に溶出する。コントロール反応もまた、T1R2-TMDまたはCSR:T1Rポリペプチドを発現しない細胞のタンパク質ホモジネートを利用して行うべきである。
【0101】
IP /Ca 2+ シグナル
Gタンパク質を発現している細胞中で、イノシトール三リン酸(IP)/Ca2+およびその結果としての受容体活性に相当するシグナルを、蛍光を利用して決定可能である。GPCRを発現している細胞は、細胞内貯蔵およびイオンチャネルの活性化経由の寄与の結果、細胞質カルシウムレベルの増大を見せ得、必須ではないが、カルシウムフリー緩衝液中でかかるアッセイを実施し、内在ストアからのカルシウム放出(G-protein coupled receptors, Signal Transduction Series, Tatsuya Haga and Gabriel Berstein編, 第1版, CRC Press - Boca Raton FL; September 1999参照)の結果による蛍光応答と区別するために、随意にEDTAなどのキレート剤を補完することが望ましいだろう。
【0102】
ホスホリパーゼC/細胞内Ca 2+ シグナル
T1R2-TMDまたはCSR:T1Rは、受容体とホスホリパーゼCシグナル伝達経路を連結するGタンパク質を有する細胞で発現される。細胞内Ca2+濃度の変化は、例えば蛍光Ca2+指示色素および/または蛍光イメージングなどを利用して、計測する。(G-protein coupled receptors, Signal Transduction Series, Tatsuya Haga and Gabriel Berstein編, 第1版, CRC Press - Boca Raton FL; September 1999参照)
【0103】
GTPase/GTP結合
T1R2-TMDまたはCSR:T1Rを含むGPCRにとって、受容体活性の指標はT1R2-TMDまたはCSR:T1Rを含む細胞膜によるGTPの結合である。本方法は、標識GTPの結合を決定することで膜と連結するGタンパク質を計測する。受容体を発現する細胞から単離された膜は、35S-GTPγSおよび未標識GDPを含有する緩衝液中でインキュベートされる。活性を有するGTPaseは無機リン酸塩として標識を放出し、これは20mMのHPO中の活性炭5%懸濁液中で遊離無機リン酸塩を分離した後にシンチレーションカウンティングによって決定される。混合物をインキュベートし、未結合標識GTPをGF/Bフィルターでろ過して取り除く。結合した標識GTPを液体シンチレーションカウンティングで計測する。コントロールは、試験剤の非特異的効果の可能性を排除するために、T1R2-TMDまたはCSR:T1Rを発現しない細胞(モックトランスフェクションしたもの)から単離した膜を利用するアッセイを含む。方法はTraynor and Nahorski, 1995, Mol. Pharmacol., 47: 848~854に詳述されている。
【0104】
増強剤または阻害剤を同定するために、上述の、GTP結合またはGTPase活性などの、統計学的に有意な、例えば10%またはそれ以上の変化(増大または減少)は通常十分である。しかしながら、作用薬を同定するためには、上述のアッセイは以下のように変更して実施する。剤は、化合物が100mMまたはそれ以下、例えば10μMから500μMの範囲など、例えば約100μMで存在したときに、活性が、知られた作用薬(例えばペリラルチン)のそれの少なくとも50%であった場合、または知られた作用薬によって誘導されるレベルと同じまたはそれ以上のレベルを誘導する場合、通常作用薬として同定される。
【0105】
マイクロフィジオメーターまたはバイオセンサー
かかるアッセイはHafner, 2000, Biosens. Bioelectron. 15: 149~158に詳述されているように行うことができる。
アラキドン酸
アラキドン酸の細胞内レベルは受容体活性の指標として採用される。かかる方法はGijon et al., 2000, J. Biol. Chem., 275:20146~20156に詳述されている。
【0106】
cAMP/cGMP
細胞内または細胞外cAMPは、cAMPラジオイムノアッセイ(RIA)または、例えばHorton & Baxendale, 1995, Methods Mol. Biol. 41: 91~105に記載されているような、cAMP結合タンパク質を利用して計測可能である。例えばLJL BiosystemsおよびNEN Life Science Productsの高効率蛍光偏光ベースホモジニアスアッセイなど、複数のcAMP計測のためのキットもまた商業的に入手可能である。代替的に、cGMPの細胞内または細胞外レベルもまた、例えばイムノアッセイを利用して計測可能である。例えば、Felly-Bosco et al., Am. J. Resp. Cell and Mol. Biol., 11:159~164(1994)に記載の方法などが、cGMPレベルを決定するのに利用され得る。代替的に、米国特許4,115,538に記載されているcAMPおよび/またはcGMPを計測するアッセイキットもまた利用可能である。試験剤の非特異的効果の可能性を排除するためのモックトランスフェクションされた細胞またはその抽出物を有するネガティブコントロールが利用され得る。
【0107】
DAG/IP
例えばPhospholipid Signaling Protocols, Ian M. Bird, Totowa, N.J.編, Humana Press, 1998に記載のように、受容体活性に起因するリン脂質分解によって放出される、二次メッセンジャーのジアシルグリセロール(DAG)および/またはイノシトール三リン酸(IP)を検出し、GPCR(T1R2-TMDまたはCSR:T1R)活性の指標として利用することが可能である。例えばPerkin Elmer and CisBio Internationalから商業的に入手可能な、イノシトール三リン酸の計測のためのキットもまた利用可能である。試験剤の非特異的効果の可能性を排除するためのモックトランスフェクションされた細胞またはその抽出物を有するネガティブコントロールが利用され得る。
【0108】
PKC活性
成長因子受容体チロシンキナーゼは、リン脂質およびカルシウム活性化タンパク質キナーゼファミリーの、タンパク質キナーゼC(PKC)の活性化を伴う経路を通してシグナリング可能である。PKCに誘導される遺伝子産物の増大は、PKCの活性化およびその結果としての受容体の活性化を示す。これらの遺伝子産物は、例えばガン原遺伝子転写因子コード遺伝子(c-fos、c-mycおよびc-junを含む)、プロテアーゼ、プロテアーゼ阻害剤(コラーゲナーゼタイプIおよびプラズミノーゲン活性化因子阻害剤を含む)、および接着分子(細胞内接着因子I(ICAM I)を含む)などを含む。PKC活性はKikkawa et al., 1982, J. Biol. Chem., 257: 13341に記載されているように、その後ホスホセルロースペーパーに結合することによって分離されるPKC基質ペプチドのリン酸化を計測することで、直接計測し得る。これは精製キナーゼまたは粗細胞抽出物中の活性の計測に利用可能である。タンパク質キナーゼCサンプルは20mM HEPES/2mM DTTでアッセイ直前に希釈可能である。代替的なアッセイは、PanVeraから商業的に入手可能なタンパク質キナーゼCアッセイキットを利用して行うことも可能である。
【0109】
上述のPKCアッセイは、T1R2-TMDまたはCSR:T1Rを発現する細胞からの抽出物に対して行う。活性はまた、PKC活性化によって活性化される遺伝子の制御配列によって駆動するリポーター遺伝子構築物の利用を通して計測可能である。試験剤の非特異的効果の可能性を排除するためのモックトランスフェクションされた細胞またはその抽出物を有するネガティブコントロールが利用され得る。
【0110】
MAPキナーゼ活性
MAPキナーゼ活性は、例えばNew England Biolabsのp38MAPキナーゼアッセイキット、またはPerkin-Elmer Life ScienceのFlashPlateTM MAPキナーゼアッセイなど、商業的に入手可能なキットを利用して計測可能である。p42/44MAPキナーゼまたはERK1/2は、GqおよびGi結合GPCRを発現する細胞を利用している場合、GPCR(CSR:T1R)活性を示すために計測可能であり、GPCR活性化に続く内在性ERK1/2キナーゼのリン酸化を計測するERK1/2アッセイキットはTGR Biosciencesから商業的に入手可能である。知られた合成または天然チロシンキナーゼ基質および標識リン酸塩を通したチロシンキナーゼ活性の直接計測はよく知られており、また利用可能であり、他のタイプのキナーゼ(例えばセリン/スレオニンキナーゼ)の活性も同様に計測可能である。
【0111】
全てのキナーゼアッセイは、精製キナーゼまたは1または2以上のT1R2-TMDまたはCSR:T1Rポリペプチドを発現する細胞から調製した粗抽出物で行うことができる。利用するキナーゼの基質は、全長タンパク質または基質の代わりとなる合成ペプチドであり得る。Pinna & Ruzzene(1996, Biochem. Biophys. Acta 1314: 191~225)は、キナーゼ活性の検出に有用な複数のリン酸化基質部位を列挙している。複数のキナーゼ基質ペプチドが商業的に入手可能である。特に有用なものは、多くの受容体および非受容体チロシンキナーゼの基質である、「Src-関連ペプチド」RRLIEDAEYAARG(Sigmaから商業的に入手可能)である。いくつかの方法は、ペプチド基質のフィルターへの結合を必要とし、そこでペプチド基質は、結合を促進するために、正味で正に荷電しているべきである。一般的に、ペプチド基質は少なくとも2つの塩基性残基および遊離アミノ末端を有しているべきである。反応は一般的に、0.7~1.5mMのペプチド濃度を利用する。試験剤の非特異的効果の可能性を排除するためのモックトランスフェクションされた細胞またはその抽出物を有するネガティブコントロールが利用され得る。
【0112】
転写レポーター/T1R-TMDまたはCSR:T1R応答性プロモーター/レポーター遺伝子アッセイ
レポーター遺伝子アッセイで増強剤を同定するためには、レポーター遺伝子発現における、例えば100%の増大が有意である。アゴニストは、試験剤の存在下において試験剤の非存在下よりも例えば100、500、または1000%高いレポーター遺伝子発現を刺激する。T1R2-TMDまたはCSR:T1Rへのアゴニストの結合によって開始される細胞内シグナルは、細胞内事象のカスケードを作動させ、最終結果として1または2以上の遺伝子の転写または翻訳における迅速かつ検出可能な変化をもたらす。受容体の活性はしたがって、T1R2-TMDまたはCSR:T1R活性化に応答するプロモーターによって駆動されるレポーター遺伝子の発現の計測によって決定される。
【0113】
本明細書で使用される「プロモーター」は、遺伝子発現の受容体媒介制御に必要な1または2以上の転写制御エレメントまたは配列であり、これは受容体調節発現に必要な1または2以上の基本プロモーター、エンハンサーおよび転写因子結合部位を含む。T1R2-TMDまたはCSR:T1Rへのアゴニストの結合の結果もたらされる細胞内シグナルに応答するプロモーターは、選択され、発現または遺伝子産物活性が容易に検出および計測可能な、対応するプロモーター制御レポーター遺伝子に作動可能に連結される。
【0114】
レポーター遺伝子は、例えばルシフェラーゼ、CAT、GFP、β-ラクタマーゼ、β-ガラクトシダーゼ、およびいわゆる「前初期」遺伝子、c-fosガン原遺伝子、転写因子CREB、血管作動性腸ペプチド(VIP)遺伝子、ソマトスタチン遺伝子、プロエンケファリン遺伝子、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)遺伝子、NF-κBに応答する遺伝子、およびAP-1応答遺伝子(FosおよびJun、Fos関連抗原(Fra)1および2、IκBα、オルニチンデカルボキシラーゼ、およびアネキシンIおよびIIの遺伝子を含む)から選択されてよい。プロモーターは、当業者には明らかなように、選択されたレポーター遺伝子に応じて選択される。ルシフェラーゼ、CAT、GFP、β-ラクタマーゼ、β-ガラクトシダーゼおよびその産物の検出のためのアッセイは当該技術分野でよく知られている。さらなるレポーター遺伝子の例は以下に記載されている。
【0115】
「前初期」遺伝子は好適であり、速やかに誘導される(例えば受容体とエフェクタータンパク質またはリガンドとの接触から数分以内)。レポーター遺伝子の好ましい特性には、次の1または2以上のものが含まれる:リガンド結合に対する速やかな応答性、休眠細胞における低発現または検出できない発現、新たなタンパク質合成の一過性かつ独立した誘導、後続する転写の遮断に新たなタンパク質合成が必要であること、およびこれらの遺伝子から転写されたmRNAが数分から数時間の短い半減期を有すること。同様に、プロモーターも好ましくは、これらの特性を1つ、数個、または全て有している。
【0116】
c-fosガン原遺伝子は、複数の異なる刺激に応答し、速やかな誘導を有する遺伝子の例である。c-fos調節エレメントは、転写開始に必要なTATAボックス、基本転写のための2つの上流エレメント、および、二回対称性を有するエレメントを含む、TPA、血清、EGF,およびPMAによる誘導に必要なエンハンサーを含む。c-fosのmRNAキャップ部位の上流-317~-298bpの間に位置する20bpのc-fos転写エンハンサーエレメントは、血清枯渇NIH3T3細胞の血清誘導に不可欠である。2つの上流エレメントのうちの1つは-63~-57に位置し、cAMP調節のためのコンセンサス配列に類似する。
【0117】
転写因子CREB(サイクリックAMP応答エレメント結合タンパク質)は細胞内cAMPのレベルに応答する。したがって、cAMPレベルの調節を通してシグナルする受容体の活性化は、転写因子の結合か、またはCREB結合エレメント(CRE、またはcAMP応答エレメントと称する)に連結されたレポーター遺伝子の発現を検出することで決定可能である。CREのDNA配列はTGACGTCAである。CREB結合活性に応答するレポーター構築物は米国特許5,919,649に記載されている。
【0118】
他の好適なレポーター遺伝子およびそのプロモーターは、血管作動性腸ペプチド(VIP)遺伝子およびcAMP応答性のそのプロモーター、ソマトスタチン遺伝子およびcAMP応答性のそのプロモーター、プロエンケファリンおよびcAMP、ニコチンアゴニストおよびホルボールエステルに応答性のそのプロモーター、およびホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)遺伝子およびcAMP応答性のそのプロモーターを含む。
【0119】
GPCR活性の変化に応答するレポーター遺伝子およびそのプロモーターのさらなる例は、AP-1転写因子およびNF-κBを含む。AP-1プロモーターは、回文配列TGA(C/G)TCAであるコンセンサスAP-1結合部位により特徴付けられる。AP-1はまた、ホルボールエステル12-O-テトラデカノイルホルボール-β-アセテート(TPA)を含む腫瘍プロモーターによる誘導の媒介に関与しており、したがって、TRE(TPA応答性エレメント)と呼ばれることもある。AP-1は、増殖刺激に対する細胞の早期の応答に関与する複数の遺伝子を活性化する。AP-1応答性遺伝子の例は、FosおよびJun(タンパク質それ自体がAP-1活性を組成する)、Fos関連抗原(Fra)1および2、IκBα、オルニチンデカルボキシラーゼ、およびアネキシンIおよびIIの遺伝子を含む。
【0120】
NF-κBプロモーター/結合エレメントはコンセンサス配列GGGGACTTTCCを有する。多くの遺伝子がNF-κB応答性であると同定されていて、その制御エレメントをリポーター遺伝子と連結し、GPCR活性を監視することが可能である。NF-κBに応答する遺伝子は、例えばIL-1β、TNF-α、CCR5、P-セレクチン、Fasリガンド、GM-CSFおよびIκBαをコードするものを含む。NF-κB応答性レポーターをコードするベクターは当該技術分野で知られているか、または当該技術分野の通常の技術、例えば合成NF-κBエレメントおよび最小プロモーターを用いて、またはNF-κB制御に従うことが知られる遺伝子のNF-κB応答性配列を用いて容易にに形成可能である。さらに、NF-κB応答性レポーター構築物は、例えばCLONTECHから商業的に入手可能である。
【0121】
与えられたプロモーター構築物は、構築物をトランスフェクトした、GPCR(T1R2-TMDまたはCSR:T1R)発現細胞を、アゴニスト(例えばペリラルチン)に曝露することで簡単に試験できる。アゴニストに応答するレポーター遺伝子の発現における、例えば100%の増大は、レポーターがGPCR(T1R2-TMDまたはCSR:T1R)活性を計測するのに適していることを示す。転写アッセイのためのコントロールは、GPCR(T1R2-TMDまたはCSR:T1R)を発現しないがレポーター構築物を保持している細胞およびプロモーターのないレポーター構築物を有する細胞の両方を含む。
【0122】
レポーター遺伝子の活性化によって示されるGPCR(T1R2-TMDまたはCSR:T1R)活性を調節する剤は、他のプロモーターおよび/または他の受容体を用いて、シグナルのGPCR(T1R2-TMDまたはCSR:T1R)特異性を立証し、およびその活性範囲を決定することによって立証可能であり、これにより、あらゆる非特異的シグナル、例えばレポーター遺伝子経路経由の非特異的シグナルなどを排除する。
【0123】
イノシトールリン酸(IP)計測
ホスファチジルイノシトール(PI)加水分解は、少なくとも48時間またはそれ以上のH-ミオイノシトールによる細胞標識を伴う、米国特許5,436,128に記載されているように決定されてよい。標識細胞は試験剤に1時間接触させ、次いでそれらの細胞を溶解し、クロロホルム-メタノール-水に抽出する。その後、イノシトールリン酸をイオン交換クロマトグラフィで分離し、シンチレーションカウンティングで定量する。アゴニストに関して、刺激比(fold stimulation)は、試験剤の存在下における計数毎分(cpm)の、緩衝液コントロールの存在下でのcpmに対する比を計算して決定される。同じように、阻害剤、アンタゴニストおよび逆アゴニストに関して、阻害比は、試験剤の存在下における計数毎分(cpm)の、緩衝液コントロール(アゴニストを含有してもしなくてもよい)の存在下でのcpmに対する比を計算して決定される。
【0124】
結合アッセイ
リガンド結合に対する機能的応答に起因するパラメータ変化を計測する上述の機能的アッセイに加えて、リガンド結合を、T1R2-TMDまたはCSR:T1R受容体へのリガンドの結合を計測する結合アッセイで決定してもよい。結合アッセイは当該技術分野でよく知られており、溶液中、任意に固相に付着した二重膜中、脂質単層中、または小胞中で試験可能である。T1R2-TMDまたはCSR:T1Rポリペプチドへの増強剤の結合は、例えば分光特性(例えば蛍光、吸収、または屈折率)の変化の計測、水力学的手法(例えば外見の採用)、およびT1R2-TMDまたはCSR:T1Rペプチドの可溶特性を計測するクロマトグラフィ等によって決定可能である。1つの態様において、結合アッセイは生物化学的であり、組換えT1R2-TMDまたはCSR:T1Rポリペプチドを発現する細胞/組織からの膜抽出物を利用する。結合アッセイは、例えば、T1RについてAdler et al.によってUS20050032158の段落[0169]から[0198]に記載されているように実施することができる。
【0125】
T1R2-TMDまたはCSR:T1R受容体ポリペプチドおよび核酸、ならびに実質的に相同なポリペプチドおよび核酸
本明細書に記載されている方法に有用なCSR:T1Rキメラタンパク質は、配列番号14、配列番号16、配列番号14および配列番号16のキメラヘテロダイマー、配列番号14と野生型T1R3のヘテロダイマー、および配列番号16と野生型T1R2のヘテロダイマーから選択されるポリペプチドからなる群から選択されてよい。あるいは、CSR:T1Rキメラタンパク質(またはCSR:T1Rをコードする核酸配列)は、上記ポリペプチドと実質的に相同(少なくとも90%、例えば少なくとも95%または少なくとも98%などの%配列同一性)であって、依然として機能的である(すなわちリガンドと結合するおよび/またはリガンドによって活性化される、またはかかる受容体をコードしている)タンパク質(またはかかるCSR:T1R受容体をコードする核酸配列)であってよい。
【0126】
本発明による方法に有用なT1R2-TMD受容体は配列番号2の受容体か、または代替的に、配列番号2と実質的に相同な受容体(またはT1R2-TMD受容体をコードする核酸配列)であって、依然として機能的である(すなわちリガンドと結合し、リガンドによって活性化される)受容体であってよい。かかる相同的な受容体は配列番号2と少なくとも90%同一であってもよく、好ましくは配列番号2と少なくとも95%同一であってもよい。かかる相同的な受容体は、例えば配列番号2の対立遺伝子変異体であるか、あるいはラット(約77.9%のアミノ酸配列同一性および約81.2%の核酸配列同一性)、マウス(約76.2%のアミノ酸配列同一性および約80.9%の核酸配列同一性)、イヌ(約74.4%のアミノ酸配列同一性および約82.6%の核酸配列同一性)、またはヒト受容体と十分なアミノ酸配列同一性を有する他のあらゆる種を含む異なる種の対応する相同配列などであってよい。
【0127】
実質的に相同なCSR:T1Rキメラタンパク質は、T1R2またはT1R3部分が、対立遺伝子変異体またはマウス、ラット、ハムスター、サル、およびイヌ由来のT1R2および/またはT1R3を含む、異なる種の関連する部分に置き変えられているかかるタンパク質を含む。さらに、実質的に相同なT1R2-TMDまたはCSR:T1R核酸またはポリペプチド配列は、保存的変異および/または点突然変異により形成されてもよく、下記のあらゆる保存的に改変された変異体を含む。
核酸配列について、保存的に改変された変異体は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列(保存的に置換されたアミノ酸、すなわちアルギニンに差し替えられたリシンおよび下記に説明されているさらなる例など)をコードする核酸を意味する。
【0128】
遺伝コードの縮重によって、配列は異なるが機能的に同一な複数の核酸が任意の与えられたポリペプチド/タンパク質をコードする。かかる核酸変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の1種である。ポリペプチドをコードするそれぞれの核酸配列はまた、全ての可能な核酸のサイレント変異を記載している。したがって、それぞれの核酸中のコドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)は、同一のポリペプチドを産生する機能的に同一の核酸配列を得るために改変し得る。したがって、ポリペプチドをコードする核酸のそれぞれのサイレント変異は、それぞれの与えられた核酸配列に内在する。
【0129】
アミノ酸配列について、アミノ酸置換は、かかる変化をT1R2-TMDまたはCSR:T1R配列に導入するのに利用することができる、PCR、遺伝子クローニング、cDNAの部位特異的突然変異誘発法、宿主細胞のトランスフェクション、およびインビトロ転写を含む、遺伝子組換え技術の知られた手順を利用して導入することができる。次いで、変異体を、味覚細胞特異的GPCR機能活性についてスクリーニングすることができる。機能的に類似しているアミノ酸を提供する保存的置換表は当該技術分野でよく知られている。例えば、保存的置換を選択する1つの典型的な指針は(オリジナルの残基の後に典型的な置換が続く):ala/glyまたはser、arg/lys、asn/glnまたはhis、asp/glu、cys/ser、gln/asn、gly/asp、gly/alaまたはpro、his/asnまたはgln、ile/leuまたはval、leu/ileまたはval、lys/argまたはglnまたはglu、met/leuまたはtyrまたはile、phe/metまたはleuまたはtyr、ser/thr、thr/ser、trp/tyr、tyr/trpまたはphe、val/ileまたはleuを含む。
【0130】
代替的な典型的な指針は、お互いが保存的置換であるアミノ酸をそれぞれ含有する後続の6群:1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、4)アルギニン(R)、リシン(K)、5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、および6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)を利用する。他の代替的な指針は、全ての荷電アミノ酸を、正であるか負であるかで、相互の保存的置換を認めるものである。加えて、独立的コードされた配列における単一のアミノ酸または小さい割合(例えば26%まで、20%まで、10%まで、または5%まで)のアミノ酸を変化させ、追加し、または削除する個別の置換、欠失または付加もまた保存的に改変された変異とみなされる。実質的に相同なヌクレオチドまたはペプチド配列は、以下に示す配列同一性の度合いを有するか、または以下に示すある一定のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。
【0131】
%配列同一性
CSR:T1Rについて、実質的に相同なヌクレオチド配列は、例えば少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%のパーセント配列同一性を有する。さらに、CSR:T1Rについて、実質的に相同なポリペプチド配列は、例えば少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%の%配列同一性を有する。
【0132】
T1R2-TMDについて、実質的に相同なヌクレオチド配列は、例えば少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%の%配列同一性を有する。さらに、T1R2-TMDについて、実質的に相同なポリペプチド配列は、例えば少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%の%配列同一性を有する。
【0133】
配列同一性の計算は、後述のように決定される:BLAST(Basic Local Alignment Serch Tool)は、http://www.ncbi.nlm.nih.govで利用可能なプログラムblastnに使用されているヒューリスティックな検索アルゴリズムである。他のヌクレオチド配列に対するヌクレオチドクエリー配列の%同一性を決定するために、10のEXPECT(データベース配列に対する一致を報告するための統計学的に有意な閾値)、およびDUSTフィルタリングを含む、BLASTバージョン2.2.1.3のデフォルトパラメーターを用いたBlastnが利用される。他のポリペプチド配列に対するポリペプチドクエリー配列の%同一性を決定するために、10のEXPECT、およびDUSTフィルタリングを含む、BLASTバージョン2.2.1.3のデフォルトパラメーターを用いたBlastpが利用される。
【0134】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件
ヌクレオチド配列はまた、本明細書で提示するヌクレオチド配列、またはその相補体と、以下に詳述するストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で選択的にハイブリダイズできた場合、実質的に相同であると考えられる。
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、50%のホルムアミド、5×SSC、および1%のSDSからなる溶液中の42℃の温度、および0.2×SSCおよび0.1%のSDS(1×SSC=0.15MのNaCl、0.015Mのクエン酸ナトリウム、pH7.0)からなる溶液中での65℃での洗浄である。バックグラウンドハイブリダイゼーションは、他のヌクレオチド配列が、例えばスクリーニングされるcDNAまたはゲノムDNA中に存在するために起こり得る。バックグラウンドの少なくとも2倍、任意にバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍の陽性シグナルが、標的DNAとの特異的相互作用であるとみなされる。相互作用の強度は、例えば、プローブを、例えば32Pによって放射性標識して計測することができる。
【0135】
増強剤を同定するためのキット
本発明は1つの態様において、キット、例えば、T1R2-TMDまたはCSR:T1R、もしくはそれと実質的に相同な配列を発現する組換え細胞を含み、かつ、T1R2-TMDまたはCSR:T1Rのアゴニスト、例えば、限定することなく、塩化カルシウム、ペリラルチン、p-エトキシベンズアルデヒド、NDHC、サイクラミン酸塩、およびシンナモニトリルなどを含む、スクリーニングキットまたはハイスループットスクリーニングキットを含む。カルシウムを含むキットの利用は、野生型受容体またはキメラタンパク質のT1R2およびT1R3部分ではなく、キメラタンパク質のみに結合し、それを活性化するという利点を有する。
【0136】
任意に、細胞はさらに例えばカルシウムシグナリングのためのGタンパク質を含む。好適なGタンパク質は既知であり、上述されており、当業者は必要な場合にそれをどのように細胞に導入すればよいかを承知している。非常に有用なキメラGタンパク質はGアルファ16-ガストデューシン44である。アゴニストは、例えば1nM~10mM、または0.1μM~1mM、例えば0.1μM~100μMなどの好適な濃度で提供される。好適な濃度は、例えば、塩化カルシウムについては0.2~20mM、p-エトキシベンズアルデヒドについては5~500μM、ペリラルチンについては5~500μM、シンナモニトリルについては10~1000μM、サイクラミン酸塩については0.01~5mM、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)については0.033~3.3mMである。
【0137】
キットの任意構成要素は、提供される組換え細胞を培養するための好適な培地、および、細胞をその上で成長させるための固体支持体、例えば細胞培養皿またはマイクロタイタープレートなどを含んでよい。これらの任意構成要素は当業者が容易に入手できる。
キットは以下のように利用されてよい:
(i)CSR:T1Rキメラタンパク質を発現する組換え細胞を固体支持体上で成長させる。
(ii)約1nMまたはそれ以下から100mMまたはそれ以上までの濃度の試験剤を、所定のプレートまたはウェルの培養培地に好適な濃度のアゴニストの存在下で加える。
(iii)細胞の機能的応答の変化が、試験剤の存在下および非存在下での応答を比較することで決定され、その結果試験剤が増強剤であり得るかどうかが決定される。
【0138】
例えば、(iii)は上述のアッセイのいずれかに従い、上述の受容体活性を報告する検出方法のいずれかと組合せて行うことができる。これは、同じく上述された、特別に選択したまたは適応させた組換え細胞を必要とすることがある。好適なアッセイは、例えば、CSR:T1Rの活性化および試験剤に応答したその変化を決定するためのカルシウムフラックスアッセイである。
【0139】
キットは増強剤を同定するために以下のように利用することができる:
(i)CSR:T1Rキメラタンパク質を発現する組換え細胞を固体支持体上で成長させる。
(ii)約1nM~100mMまたはそれ以上の濃度の試験剤を、所定のプレートまたはウェルの培養培地に好適な濃度のカルシウムアゴニスト(例えば、限定することなく、塩化カルシウムの形態のもの)の存在下で加える。好適な塩化カルシウムの濃度は、例えば、約0.2~20mM、または0.5~10mM、または約1mMである。
(iii)カルシウムに対する細胞の機能的応答の変化が、試験剤の存在下および非存在下での応答を比較することで決定され、その結果試験剤が増強剤であり得るかどうかが決定される。
【0140】
同定された増強剤の確認:上述の方法によって同定された増強剤は、フレーバリストのパネルまたは試験者に同定された増強剤をテイスティングさせる単純な官能試験によって簡単に確認し得る。化合物は、例えば、甘味を確認するために水中で、または甘味を増強する調節剤であることを確認するために甘味料と一緒に、増強剤のないネガティブコントロールと比較してテイスティングする。
【0141】
大規模スクリーニングアッセイ
上述の転写レポーターアッセイおよびほとんどの細胞ベースのアッセイは、ライブラリーをCSR:T1RまたはT1R-TMD活性を調節する剤についてスクリーニングするのに適している。アッセイは、アッセイ工程の自動化および、典型的には平行して実行される(例えばロボットアッセイにおけるマイクロタイタープレート上のマイクロタイター形式など)、任意の好都合な給源からの化合物のアッセイへの供給によって、巨大な化学的ライブラリをスクリーニングするように設計され得る。
【0142】
アッセイは、多くの潜在的増強剤を含むコンビナトリアルケミカルまたはペプチドライブラリーの提供を伴う、ハイスループットスクリーニング法で実行されてもよい。かかるライブラリーは、次いで、上述の活性を呈するライブラリー剤(特に化学種またはサブクラス)を同定するために、上述の1またはそれ以上のアッセイでスクリーニングされる。こうして同定された増強剤は直接利用でき、または、誘導体を製造および試験することでさらなる増強剤を同定するためのリードとして利用することができる。合成化合物ライブラリは、Maybridge Chemical Co.(Trecillet, Cornwall, UK)、Comgenex(Princeton, N.J.)、Brandon Associates(Merrimack, N.H.)、およびMicrosource(New Milford, Conn.)を含む多くの企業から商業的に入手可能である。
【0143】
試験剤のライブラリ
コンビナトリアルケミカルライブラリは、試薬などの多くの化学的「ビルディングブロック」の組合せることにより、化学合成または生物学的合成のいずれかによって生成された様々な化学化合物のコレクションである。例えば、ポリペプチドライブラリなどのリニアコンビナトリアルケミカルライブラリは、所定の化合物長(すなわち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)について、化学的ビルディングブロック(アミノ酸)のセットをあらゆる可能な方法で組合せることによって形成される。何百万もの化学的化合物が、かかる化学的ビルディングブロックの組合せ混合を通して合成可能である。レアケミカルライブラリはAldrich(Milwaukee, Wis.)から入手可能である。
【0144】
細菌、真菌、植物および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリは、例えばPan Laboratories(Bothell, Wash.)またはMycoSearch(NC)から商業的に入手可能であり、あるいは、当該技術分野で知られた方法で容易に生成可能である。さらに、天然および合成的に産生されたライブラリおよび化合物は、慣用の化学的、物理的および生化学的手法で容易に改変される。他のライブラリとしては、タンパク質/発現ライブラリ、例えば食物、植物、動物、細菌を含む天然給源からのcDNAライブラリ、1または2以上のポリペプチドをランダムにまたは体系的に変異させた変異体を発現するライブラリ、および1つの細胞または組織のmRNA内容を発現させるのに利用されるウィルスベクターでのゲノムライブラリを含む。
【0145】
ハイスループットアッセイでは、数千の異なる増強剤またはリガンドを1日でスクリーニングすることが可能である。特に、マイクロタイタープレートの各ウェルは、選択された潜在的増強剤に対する別個のアッセイの実施に利用でき、または、濃度またはインキュベーション時間の効果を観察すべき場合、各5~10ウェルで1つの増強物を試験可能である。したがって、1つの標準的なマイクロタイタープレートは約100の増強剤をアッセイ可能である。1536ウェルプレートを利用した場合、1つのプレートは、約100から約1500の異なる化合物を、簡単にアッセイ可能である。1日にいくつかの異なるプレートをアッセイ可能なので、約6,000~20,000の異なる化合物のためのアッセイスクリーニングが可能である。
【0146】
本アッセイ方法でT1R-TMDまたはCSR:T1Rの調節効果を試験し得る試験剤のタイプ
試験剤は、小化学化合物、化学ポリマー、生物ポリマー、ペプチド、タンパク質、糖、炭水化物、核酸および脂質を含む任意の剤であってもよい。剤は、合成化合物、化合物の混合物、天然産物または天然サンプル、例えば植物抽出物、培養上清、または組織サンプルなどであり得る。甘味を改変し得る化合物の例として、メチルカビコール、テアサポニンE1、アセスルファムK、アリテーム、アスパルテーム、CH401、ズルチン、ネオテーム、サイクラミン酸ナトリウム、スクラロース、スーパーアスパルテーム、シナリン、グリシフィリン、レバウジオシドC、アブルソシドA(Abrusoside A)、
【0147】
アブルソシドB、アブルソシドC、アブルソシドD、アブルソシドE、アピオグリチルリチン、アラボグリチルリチン、バイユノシド、ブラゼイン、ブリオズルコシド、カルノシフルオシドV(Carnosifloside V)、カルノシフルオシドVI、D.クミンシー、シクロカリオシドA、シクロカリオシドI、ズルコシドA、グリチルリチン酸、ヘルナンズルチン、ヘルナンズルチン、4ベータ-ヒドロキシ-ヘスペリチン-7-グルコシドジヒドロカルコン、ハンキオシドE(Huangqioside E)、ハンキオシドE、3-ヒドロキシフロリジン、2,3-ジヒドロ-6-メトキシ3-O-アセテート、マビンリンマルトシル-アルファ-(1,6)-ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、モグロシドIIE、モグロシドIII、モグロシドIIIE、モグロシドIV、モグロシドV、11-オキソモグロシドV、
【0148】
モナチン、グリチルリチン酸モノアンモニウム(Mag)、ムクロジオシドIib(Mukurozioside Iib)、ナリンジンジヒドロカルコン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NHDHC)、ネオモグロシド、オスラジン、ペリアンドリンI、ペリアンドリンII、ペリアンドリンIII、ペリアンドリンIV、ペリアンドリンV、フロミソシドI(Phlomisoside I)、フロリジン、フィロズルチン、ポリポドシドA、グリチルリチンカリウムマグネシウムカルシウム、プテロカリオシドA(Pterocaryoside A)、プテロカリオシドB、レバウジオシドA、レバウジオシドB、ルブソシド、スカンデノシドR6(Scandenoside R6)、シアメノシドI、グリチルリチン酸ナトリウム、
【0149】
ステビオールビオシド、ステビオシド、アルファ-グリコシルスアビオシドA、スアビオシドB、スアビオシドG、スアビオシドH、スアビオシドI、スアビオシドJ、タウマチン、グリチルリチン酸トリアンモニウム(TAG)、トリロバチンクルクリン、ストロジン1、ストロジン2、ストロジン4、ミラクリン、ホダルシン、ジュジュバサポニンII、ジュジュバサポニンIII、アブルソシドE、ペリアンドリン酸I、モノグルクロニド、ペリアンドリン酸II、モノグリクロニド、クロロゲン酸、ベータ-(1,3-ヒドロキシ-4-メトキシベンジル)-ヘスペルチンジヒドロカルコン、3’-カルボキシ-ヘスペルチンジヒドロカルコン、3’-ステビオシドアナログを挙げることができる。
【0150】
本明細書に記載の方法によって同定された甘味増強剤は、例えば、甘味知覚を誘発することが可能な人工甘味料の増強剤を含んでもよい。消費材は食料製品、飲料、口腔ケア製品、およびかかる製品に混合するための組成物、特に風味組成物を含む。風味組成物は、加工食品または飲料にその加工の最中に添加することができ、またはそれら自身が、例えばソースなどの調味料などの消費材となり得る。甘味料は、菓子類およびデザートおよび風味のあるおよび甘酸っぱい消費材を含む他の甘味消費材に特に有用である。
【0151】
消費材の例は、菓子製品、ケーキ、シリアル製品、パン屋製品、パン製品、ガム、チューインガム、ソース(調味料)、スープ、加工食品、調理果物および野菜製品、肉および肉製品、卵製品、ミルクおよび乳製品、チーズ製品、バターおよび代替バター製品、代替乳製品、大豆製品、食用油および油脂製品、薬剤、飲料、アルコール飲料、ビール、ソフトドリンク、食品抽出物、植物抽出物、肉抽出物、調味料、甘味料、栄養補助食品、錠剤、トローチ、ドロップ、乳剤、エリキシル剤、シロップおよび飲料を製造するための他の調製物、インスタント飲料および発泡錠を含む。
【0152】
核酸およびタンパク質の配列
本明細書に記載の構築物および方法に用いた配列は、後述の配列表に見出すことができる。
T1R2-TMD配列
配列は後述の配列表に示されている。配列番号1はT1R2-TMD受容体をコードするヌクレオチド/核酸配列に対応し、配列番号2はT1R2-TMD受容体タンパク質のポリペプチド/アミノ酸配列に対応する。
トランスフェクトされた構築物において、新規T1R2-TMDタンパク質をコードする核酸(配列番号1)がSSTタグ(配列番号3)に後続し、その後にHSVタグ核酸(配列番号5)が続いている。
したがって、得られるタンパク質は、以下のアミノ酸を指示された順序で含む:配列番号4、配列番号2および配列番号6のアミノ酸。
【0153】
配列番号1+2:T1R2-TMD核酸およびタンパク質
配列番号3+4:SSTタグ核酸およびタンパク質
配列番号5+6:HSVタグ核酸およびタンパク質
配列番号7+8:T1R2-TMDベクター構築物のフォワードおよびリバースプライマー
配列番号9+10:T1R2全長(核酸およびタンパク質)
配列番号11+12:T1R3全長(核酸およびタンパク質)
【0154】
CSR:T1R配列
配列番号13はCSR:T1R2キメラタンパク質をコードするヌクレオチド/核酸配列に対応し、配列番号14はCSR:T1R2キメラタンパク質のポリペプチド/アミノ酸配列に対応している。
配列番号15はCSR:T1R3キメラタンパク質をコードするヌクレオチド/核酸配列に対応し、配列番号16はCSR:T1R3キメラタンパク質のポリペプチド/アミノ酸配列に対応している。
二つのサブユニットを含む複合体として一緒になって、CSR:T1R2キメラタンパク質およびCSR:T1R3キメラタンパク質は機能的キメラ甘味受容体を形成する。
【0155】
トランスフェクトされた構築物は、例えば、C末端に配列番号17のHSVタグを後続させる配列番号13または15を含む。
得られるタンパク質はしたがって次のアミノ酸を含有する:配列番号18が後続する配列番号14、または配列番号18が後続する配列番号16のアミノ酸。
既知の全長hCaSR受容体核酸およびタンパク質配列は配列番号19+20に与えられている。
【0156】
配列番号13+14:CSR:T1R2核酸+タンパク質
配列番号15+16:CSR:T1R3核酸+タンパク質
配列番号17+18:C末端のHSVタグ核酸+タンパク質
配列番号19+20:hCaSR核酸+タンパク質
配列番号21~24:プライマー配列、例3および例5を参照
配列番号25~26:プライマー配列
配列番号27~28:T1R3TMD核酸+タンパク質
【0157】
これより以下に、上述の方法を例証する一連の例が続く。以下の例は単なる例示であって、いかようにも本方法またはキットを限定すると解すべきではない。
【0158】

例の概要を以下に与える。
例1は、味覚受容体活性を計測する一般的な方法を記載する。
例2~5は、種々のT1Rベクター構築物の調製を記載する。
例6~8は、構築物の細胞へのトランスフェクションを記載する。
例9~12は、限定のない、様々な甘味増強剤の同定について記載する。
例13は、甘味を計測する一般的な方法を記載する。
例14~20は、他の甘味物質の非存在下における増強剤の甘味を計測するコントロール実験を記載する。
例21~29は、甘味増強剤と甘味物質との混合物に関する。
例30~33は、他の甘味物質の非存在下における増強剤の甘味を計測するコントロール実験を記載する。
例34~36は、2または3以上の甘味増強剤と甘味物質との混合物を示す。
【0159】
1. Fluo-4カルシウムアッセイ
Fluo-4は、細胞内カルシウムの蛍光指示薬であり、カルシウム濃度の変化、特にリガンド添加後に起こる受容体活性化に応答した増加の決定を可能にする。
Gα16-ガストデューシン44(Gα16gust44)を安定発現するHEK293細胞を宿主細胞として利用し、例2~5に記載のとおりに様々な構築物でトランスフェクトした。
【0160】
黒く、底が透明な96ウェルプレートを全てのアッセイで利用した。アッセイの前日、プレートに、ウェル毎に8500個のトランスフェクト細胞を播種し、用いた細胞に適した成長培地中、37℃で一晩維持した。HEK293については、高グルコース、L-グルタミン、塩酸ピロキシジンを含有し、10%ウシ胎仔血清を添加したダルベッコ改変イーグル培地をHEK293細胞の成長および維持に利用した。
【0161】
アッセイの際に成長培地を廃棄し、細胞を1時間(37℃にて暗所で)、C1緩衝溶液に溶解した1.5μMのFluo-4AM(Molecular ProbesTM, Invitrogen, US)および2.5μMのプロベニシド(Sigma-Aldrich)からなる50μlのカルシウムアッセイ溶液でインキュベートした。C1緩衝溶液は130mMのNaCl、5mMのKCl、10mMのHepes、2mMのCaClおよび10mMのグルコース(pH7.4)を含有する。
【0162】
最初の1時間の負荷期間の後、プレートをウェルあたり100μlのC1緩衝液で5回、自動プレート洗浄機(BioTek)を利用して洗浄し、洗浄の後、Fluo-4-AMの完全な脱エステル化をもたらすために、細胞をウェルあたり100μlのC1緩衝液中、室温にて30分間暗所でさらにインキュベートした。緩衝溶液を廃棄し、プレートを100μlのC1洗浄緩衝液で洗浄し、最終的に細胞を180μlのC1洗浄緩衝液中に入れた。
【0163】
アッセイの読み取りのため、プレートをFLIPR(蛍光イメージングプレートリーダー(FLIPR-Tetra, Molecular Devices))中に置き、受容体活性化を、20μlの10×濃縮リガンドストック溶液の添加後に開始させた。
蛍光は、リガンド添加前15秒間およびリガンド添加後105秒間で継続的に監視した(45~105秒で十分であろう)。
受容体活性化は相対蛍光単位(RFU)で与えられ、次の等式で定義される:
蛍光増加=最大蛍光-基準蛍光
式中、基準蛍光はリガンド添加前の最初の10~15秒について計算した平均蛍光を表す。
【0164】
代替的に、受容体活性化は、基準蛍光(F)に対して標準化したピーク蛍光(F)の増加によって決定される。データは次の等式によって標準化される:ΔF/F=(F-F)/F
式中Fはピーク蛍光シグナル、Fは基準蛍光シグナルであり、基準蛍光はリガンド添加前の最初の10~15秒について計算した平均蛍光を表す。
ネガティブコントロールとして、モックトランスフェクションした細胞を同濃度のリガンドに曝露し、シグナルに対応しない微量のカルシウム濃度を決定した。活性化された受容体を有する細胞は、ネガティブコントロールを有意に上回るシグナル(RFUまたはΔF/F)によって同定した。
【0165】
2. T1R2-TMDベクター構築物の調製
Pfuポリメラーゼ(Invitrogen)を利用したPCRを、下記に列挙した特定のプライマーを利用して、T1R2-TMD構築物を生成するのに用いた。
T1R2-TMDフォワードプライマー(配列番号7)
5’-TAT AGA ATT CGC ACC CAC CAT CGC TGT GGC C - 3’
T1R2-TMDリバースプライマー(配列番号8)
5’-ATA TGC GGC CGC AGT CCC TCC TCA TGG T - 3’
【0166】
PCR増幅の鋳型は、ヒト茸状乳頭味覚組織から生成されたcDNAライブラリから単離されたヒトT1R2の全長cDNAであった。反応条件は、94℃で5分間の後、94℃で45秒、54℃で15秒および68℃で1分を35サイクル、その後最終伸長サイクルの68℃で10分間であった。
【0167】
得られた核酸断片(配列番号1を参照)をゲル電気泳動によって分離し、精製し、およびpCR-Topo-IIベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、PCR増幅によって起こった変異が無いことを保証するために、得られたクローンをDNAシークエンシングによって確認した。シークエンシングの後、T1R2-TMD挿入物をpcDNA4/TO(Invitrogen)に基づく発現カセットにサブクローニングした。クローニングカセットは、導入遺伝子の細胞表面膜標的化を促進するために、ラットソマトスタチンタイプ3受容体の最初の45アミノ酸をN末端に既に含んでいる(Bufe et al., 2002, Nat. Genet. 32(3), 397~401に記載)。
【0168】
このベクターのC末端は単純ヘルペスウィルス(HSV)糖タンパク質Dエピトープをコードしており、このエピトープに結合する特異抗体を利用した免疫細胞化学研究に利用可能である。得られたベクター構築物は、配列番号4(ラットソマトスタチンの45アミノ酸)が前に位置し、配列番号6(HSVエピトープ)が後続する(アミノ末端からC末端方向に)配列番号2(T1R2-TMD)の連結アミノ酸配列のT1R2-TMDタンパク質の発現を可能にする。
【0169】
上記に概説したのと類似の方法によって、T1R3の細胞外ドメインを切断して除いたT1R3-TMD受容体が作出可能である。これはPCR鋳型にT1R3のcDNAを(したがってT1R3膜貫通ドメインコード領域の5’および3’末端に特異的な異なるフォワードおよびリバースプライマーと一緒に)利用することを必要とする。その後、T1R3-TMD受容体は、本明細書に開示されているT1R2-TMDと同様のアッセイを行うのに利用可能である。例えば、T1R3-TMD単独を結合アッセイに利用可能であり、または例えばT1R2-TMDと共に、結合または活性化アッセイに利用可能である。
【0170】
3. CSR:T1R2ベクター構築物の調製
CSR:T1R2キメラcDNAベクター構築物は、hCaSRの細胞外アミノ末端ドメイン(ATD)(1~Phe539)をコードする断片およびシステインリッチドメイン(CRD)、膜貫通ドメイン(TMD)およびSer493から始まるT1R2のC末端を含むものをコードする断片である、PCRによって生成された2つのDNA断片を、両方のPCR産物にある共通の制限酵素部位を介して連結することによって作出した。
CSR:T1R2キメラDNAの調製を容易にするために、SacII部位を、上述の2つの断片を形成するために利用したプライマーに導入した。これらの導入部位および適した制限酵素を当該技術分野でよく知られたバッファー条件下で利用し、断片を酵素ライゲーションによって連結した。
【0171】
形成されたPCR産物/断片中のこれらのSacII部位は、hCaSRのATD断片のC末端およびT1R2断片のN末端にそれぞれ位置し、キメラDNAの2つのPCR産物/断片のライゲーションを可能にする。このSacII部位の組み込みは、hCaSR中のPhe539をアルギニン残基に変換する。CSR:T1R2キメラcDNA断片を含む断片を、以下に与えられる配列番号21~24の特異的プライマーを用いて、PCRを利用して増幅した。Fはフォワードプライマーを示し、Rはリバースプライマーを示す。
下線文字は、後続するPCR産物のサブクローニングのための、プライマー内に存在する制限部位を示す。
【0172】
hCaSR-ATDプライマーF(配列番号21)
CACCAAGCTTATGGCATTTTATAGCTGC
hCaSR-ATDプライマーR(配列番号22)
ATATCCGCGGCACCTCCCTGGAGAACCC
T1R2-断片プライマーF(配列番号23)
ATATCCGCGGTCCATGTGTTCCAAGAGG
T1R2-断片プライマーR(配列番号24)
ATATGCGGCCGCAGTCCCTCCTCATGGT
【0173】
PCR増幅のための鋳型は、ヒトCaSRをコードする全長cDNA(Origene Inc., USAから商業的に入手可能)、およびヒト茸状乳頭味覚組織から作出したcDNAライブラリーから単離したヒトT1R2をコードする全長cDNAであった。PCR反応条件は、94℃で5分の後、94℃で45秒、54℃で15秒および72℃で2分を35サイクル、その後最終伸張サイクルとして72℃で10分であった。
【0174】
得られた核酸断片はゲル電気泳動によって分離し、精製し、およびpCR-Topo-IIベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、PCR増幅によって起こった変異が無いことを保証するために、得られたクローンをDNAシークエンシングによって確認した。シークエンシングの後、挿入物をpcDNA4/TO(Invitrogen, USAから購入)に基づく発現カセットベクター構築物に3ピースライゲーションによりサブクローニングし、ベクター構築物においてCSR:T1R2キメラcDNA断片のアッセンブリを可能にした。
【0175】
得られた挿入物のC末端は単純ヘルペスウィルス(HSV)糖タンパク質Dエピトープ(pcDNA4/TOベクターによって提供される)をコードしており、このエピトープに結合する特異抗体を利用した免疫細胞化学研究に利用可能である。CSR:T1R2 cDNAを有する得られたCSR:T1R2ベクター構築物は、(アミノ末端からC末端方向に)配列番号18(HSVエピトープ)が後続する配列番号14(CSR:T1R2)の連結アミノ酸配列であるCSR:T1R2:HSVタンパク質の発現を可能にする。
【0176】
4. CSR:T1R3ベクター構築物の調製
CSR:T1R3キメラcDNAベクター構築物は、PCRによって作出した2つのDNA断片を、両方のPCR産物にある共通の制限酵素部位を介して連結すること、すなわちhCaSRの細胞外アミノ末端ドメイン(ATD)(1~Phe539)をコードする断片の、システインリッチドメイン(CRD)、膜貫通ドメイン(TMD)およびSer493から始まるC末端をコードするT1R3の断片への連結によって作出した。
CSR:T1R3キメラDNAの調製を容易にするために、SacII部位を、上述の2つの断片を形成するために利用したプライマーに導入した。
【0177】
形成されたPCR産物/断片中のこれらのSacII部位は、hCaSRのATD断片のC末端およびT1R3断片のN末端にそれぞれ位置し、2つの断片のライゲーションを可能にする。このSacII部位の組み込みは、原型のhCaSR中の539番目にあるフェニルアラニンの代わりにをアルギニンをコードするベクター構築物をもたらす。当該技術分野でよく知られた緩衝液中、当該技術分野でよく知られた条件下でこれらの導入部位および適した制限酵素を利用し、断片を酵素ライゲーションによって連結した。
【0178】
CSR:T1R3キメラcDNA断片を含む断片を、以下に列挙した配列番号25および配列番号26の特異的プライマーを用いて、PCRを利用して増幅した。その後、T1R3の増幅PCR産物およびhCaSRの増幅PCR産物(後者は上記例2に記載されているように形成)を、下記に列挙したプライマーに示された制限部位を介してライゲーションした。Fはフォワードプライマーを示し、Rはリバースプライマーを示す。下線文字は、後続する増幅PCR産物のライゲーションおよびサブクローニングのための、プライマー内に存在する制限部位を示す。
【0179】
hCaSR-ATD FおよびhCaSR-ATD R:
上記例3に示した配列番号21および配列番号22。
T1R3-断片プライマーF(配列番号25)
ATATCCGCGGTCCCGGTGCTCGCGGCAG
T1R3-断片プライマーF(配列番号26)
ATATGCGGCCGCACTCATGTTTCCCCTGATT
【0180】
PCR増幅のための鋳型は、hCaSRの全長cDNA(Origene Inc., USAから購入)、またはヒト茸状乳頭味覚組織から作出したcDNAライブラリーから単離したhT1R3の全長cDNAであった。PCR反応条件は、94℃で5分の後、94℃で45秒、54℃で15秒および72℃で2分を35サイクル、その後最終伸張サイクルとして72℃で10分であった。
【0181】
得られた核酸断片(ライゲーションは断片が確認された後に行われる)はゲル電気泳動によって分離し、精製し、およびpCR-Topo-IIベクター(Invitrogen, USA)にサブクローニングした。PCR増幅によって起こった変異が無いことを保証するために、得られたクローンをDNAシークエンシングによって確認した。
【0182】
シークエンシングの後、挿入物をpcDNA4/TOベクター(Invitrogen, USAから購入)に基づく発現カセットベクター構築物に3ピースライゲーションによりサブクローニングし、CSR:T1R3ベクター構築物を形成した。ベクター構築物のC末端は単純ヘルペスウィルス(HSV)糖タンパク質Dエピトープをコードしており、このエピトープに結合する特異抗体を利用した免疫細胞化学研究に利用可能である。得られたベクター構築物は、(アミノ末端からC末端方向に)配列番号18(HSVエピトープ)が後続する配列番号16(CSR:T1R3)の連結アミノ酸配列であるCSR:T1R3:HSVタンパク質の発現を可能にする。
【0183】
5. T1R2、T1R3ベクター構築物(比較のための野生型受容体)の調製
T1R2およびT1R3ベクター構築物の形成のため、ヒトT1R2およびT1R3の全タンパク質コード配列を含むcDNA断片をヒト茸状乳頭cDNAライブラリから単離し、完全にシークエンスし、そしてpCDNA3.1(Invitrogen)に標準的な方法でサブクローニングした。
【0184】
6. 細胞へのT1R2-TMDのトランスフェクション、T1R2-TMDおよびGα16gust44を安定的に発現する細胞
ヒトT1R2-TMDを安定的に発現するヒト細胞系を、ヒトT1R2-TMD(例2で記載したように形成)を含む線状化pcDNA4/TOベクター(Invitrogen)をGα16gust44発現細胞系(WO2004/055048に記載されているように形成)へトランスフェクトすることで作出した。この細胞系は味覚受容体への増強された結合を示し、テトラサイクリンによって誘導され、非特異的Gタンパク質Gα16gust44を安定的に発現し、HEK-293-T-Rex細胞系(Invitrogen, USAから商業的に入手可能)に基づいている。
【0185】
トランスフェクションは以下のように行われた。
0日目に、HEK293T/Gα16gust44細胞を6ウェルの黒い、透明底のプレートに、ウェルあたり900,000個の密度で播種し、選択的成長培地で一晩成長させた。1日目に、培地を抗生物質不含かつ血清不含の成長培地に変更し、細胞を4μgの線状化T1R2 TMDベクター構築物DNAおよび0.3μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)を利用してトランスフェクトした。リポフェクタミン/DNA混合物を細胞上で3~4時間インキュベートし、その後抗生物質不含の血清含有成長培地に交換した。24時間後、細胞を10%FBS、0.005mg/mlのブラストシジン、0.36mg/mlのG418、および0.1mg/mlのゼオシン(Invitrogen)を添加したDMEMを含有する選択培地に37℃で再播種した。2~4週間後ゼオシン耐性コロニーを選択し、拡大し、50μMのペリラルチンへの応答について例1に記載したようにカルシウムイメージングで試験した。
【0186】
耐性コロニーを拡大し、T1R2-TMDを含有していことを、10μg/mlのテトラサイクリンによるT1R2-TMD発現の誘導の後に例1に記載されている方法を利用して、FLIPR-Tetra装置(Molecular Devices)での自動蛍光イメージングを介して決定される50μMのペリラルチンへのその応答によって同定した。
【0187】
全ての潜在的クローンはまた、低レベルであるが機能的に十分なレベルのT1R2-TMD受容体を基底的に発現するあらゆるクローンを同定するために、テトラサイクリン誘導の非存在下での50μMのペリラルチンへの機能的応答も評価した(T-Rex HEK-293(Invitrogen)などのテトラサイクリン調節システムは、システムの固有の漏出性に起因して、導入遺伝子が基底的に低レベルで発現していることが知られている)。
【0188】
前記評価の結果として、これらの細胞系をペリラルチンに曝露した場合、多くの細胞クローンがこの刺激に対して、ネガティブコントロール(非特異的Gタンパク質Gα16gust44を発現するがT1R2-TMDは発現しない細胞)のシグナルと比較して10倍以上のシグナルの有意な蛍光の増加を伴って応答することが分かった。
【0189】
シグナルは、T1R2-TMDの過剰発現を誘導するためにテトラサイクリンで処理した細胞において顕著に低い。テトラサイクリン誘導T1R2-TMD細胞における応答の欠如は、T1R2-TMDのテトラサイクリン誘導性の過剰発現によって起こった細胞毒性に起因するものと考えられる。
【表1】
【0190】
7. T1R2/T1R3甘味受容体ヘテロダイマーおよびGα16gust44を安定的に発現する細胞のトランスフェクション
T1R3は、テトラサイクリン調節T1R2の存在下において、両タンパク質の構成的過剰発現の細胞毒性効果の可能性を回避するために構成的に過剰発現させた。ヘテロダイマーの1つのサブユニットをテトラサイクリン調節ベクター内に置くことにより、その発現レベルを調節し、その結果、安定クローン株の生存率および機能性を最適化することが可能となる。
【0191】
ヒトT1R2/T1R3甘味ヘテロダイマーを安定的に発現するヒト細胞系は、まずヒトT1R3を含む線状化pIRES-Puroベクター(Clontech)を、WO2004/055048に記載されているように形成したGα16gust44発現細胞系にトランスフェクトすることで作出する。この細胞系は、味覚受容体への増強された結合を示し、テトラサイクリンによって誘導され、非特異的Gタンパク質Gα16gust44を安定的に発現し、HEK-293-T-Rex細胞系(Invitrogen, USAから商業的に入手可能)に基づいている。T1R3を安定的に発現する不均一な細胞集団の作出後、ヒトT1R2 cDNAを含む線状化pcDNA4/TOベクター(Invitrogen)をトランスフェクトした。
【0192】
24時間後、細胞を、10%FBS、0.005mg/mlのブラストシジン、0.36mg/mlのG418、および0.4μg/mlのピューロマイシンを添加したGlutamax DMEM(Invitrogen)を含有する選択培地に、1:150,000までの10×希釈で37℃にて再播種した。2週間後、ピューロマイシン耐性のT1R3発現細胞の不均一な集団を、次いで4μgの線状化T1R2ベクター構築物DNAおよび0.3μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)を利用してトランスフェクトした。リポフェクタミン/DNA混合物を細胞上で3~4時間インキュベートし、その後抗生物質不含の血清含有成長培地に交換した。24時間後、細胞を10%FBS、0.005mg/mlのブラストシジン、0.36mg/mlのG418、0.4μg/mlのピューロマイシンおよび0.1mg/mlのゼオシンを添加したGlutamax DMEMを含有する選択培地に37℃で再播種した。
【0193】
耐性コロニーを拡大し、T1R2/T1R3甘味ヘテロダイマーを含むことを、例1に記載されている方法を利用して、FLIPR-Tetra装置(Molecular Devices)上の自動蛍光イメージングにより決定される、スクロース、スクラロース、アスパルテームおよびアセスルファムKを含む様々な甘味化合物へのその応答によって同定した。全ての潜在的クローンはまた、10μg/mlのテトラサイクリン(T1R2の過剰発現を誘導するため)の存在下における甘味物質に対する機能的な応答ついて評価した。潜在的クローンはまた、低レベルであるがT1R3と合わさって機能的な甘味ヘテロダイマー複合体を成すことができるのに十分なレベルのT1R2を基底的に発現するあらゆるクローンを同定するために、テトラサイクリン誘導の非存在下でも試験した(T-Rex HEK-293(Invitrogen)などのテトラサイクリン調節システムは、システム固有の漏出性に起因して、導入遺伝子が基底的に低レベルで発現していることが知られている)。
【0194】
前記評価の結果として、テトラサイクリン処理されていないこれらの細胞系が甘味物質に曝露した場合、多くの細胞クローンがこの刺激に対して、有意な蛍光の増加(ネガティブコントロールと比較して10倍以上のシグナル)を伴って応答することが分かった。シグナルは、T1R2の過剰発現を誘導するためにテトラサイクリンで処理した細胞において顕著に低い。テトラサイクリン誘導T1R2/T1R3細胞における低応答は、T1R2のテトラサイクリン誘導性の過剰発現によって起こった細胞毒性に起因するものと考えられる。甘味物質に対する最も大きな応答を見せた1つのクローン細胞系を増殖させ、後続の比較に利用した。
【0195】
8. CSR:T1R2/CSR:T1R3のトランスフェクション、およびT1R2/T1R3の異種発現
トランスフェクトされたベクター構築物は、上記のとおりに形成した例3、4および5に記載されているものを利用した。hCaSRについては、全長cDNAに基づく、商業的に入手可能なpCMVベースのベクター構築物を利用した(TRUECLONE collection, Origene Inc., USA)
【0196】
安定的にGα16gust44を発現するHEK293T細胞(WO2004/055048に記載されているように形成した)に、CSR:T1R2およびCSR:T1R3ベクター構築物、またはT1R2およびT1R3、またはhCaSRを次のようにトランスフェクトした:
0日目に、HEK293T/Gα16gust44細胞を96ウェルの黒い、透明底のプレートに、ウェルあたり8500個の密度で播種し、選択的成長培地で一晩成長させた。1日目に、培地を抗生物質不含かつ血清不含の成長培地に変更し、細胞をそれぞれ75ngのCSR:T1R2およびCSR:T1R3(合計150ng)、T1R2およびT1R3(合計150ng)、または75ngのhCaSRベクター構築物DNAおよび0.3μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)を利用してトランスフェクトした。
【0197】
hCaSRベクターは、カルシウムに感受性であり、カルシウム結合部位が、キメラのVFTが由来するこの受容体のVFTに存在するため、カルシウムに感受性のGPCRのポジティブコントロールとして利用した。
CSR:T1R2/CSR:T1R3またはT1R2/T1R3ヘテロダイマーのトランスフェクションのため、それぞれ75ngのベクター構築物を、ペア毎に合計150ngになるように組み合わせ、0.3μlのリポフェクタミン2000と一緒に利用した。75ngのhCaSRベクターDNAは、このカルシウム感知モノマーGPCRに利用した。
【0198】
上述のリポフェクタミン/DNA混合物を細胞上で3~4時間インキュベートし、その後抗生物質不含の血清含有成長培地に交換した。細胞は一晩成長させ、Fluo-4カルシウムアッセイを例1に記載したように行った。
上記ベクター構築物の内の1つを一過性にトランスフェクトした細胞を、例1に記載したように蛍光イメージングプレートリーダー(FLIPR-Tetra, Molecular Devices)を利用して同定した。
【0199】
9. T1R2-TMDアゴニストとしてのp-エトキシベンズアルデヒドの同定
用いた細胞は、例6に記載されているように形成した、Gα16gust44を安定的に発現し、T1R2-TMDを安定的にトランスフェクトされたHEK293T細胞であった。
100μMのp-エトキシベンズアルデヒドに対する細胞内カルシウム応答が決定された。
【0200】
細胞を、黒い、透明底のプレート(Costar)に、8500細胞/ウェルの密度で播種し、例1で記載したように受容体活性決定の前に選択的成長培地(例6で記載のもの)中で48時間維持した。
選択した特定のクローンは、リガンド刺激に続く細胞内カルシウムの強い増大を生成するのに十分なレベルのT1R2-TMDを既に基底的に発現しているため、細胞をテトラサイクリンで誘導しなかった。
【0201】
データは例1で記載したように計算され、100μMのp-エトキシベンズアルデヒドによる細胞刺激後の蛍光の基準値以上の正味の増大を示した。データは平均値±6回の反復実験の標準偏差を表している。
p-エトキシベンズアルデヒド刺激によって、カルシウムシグナリングにおける顕著な増大が、ヒトT1R2-TMDを発現する細胞内で観察されたが、ネガティブコントロール(Gα16gust44キメラGタンパク質を発現するがT1R2-TMDは発現しない宿主細胞)では観察されなかった。
【0202】
【表2】
【化1】
p-エトキシベンズアルデヒド
【0203】
10. T1R2-TMDホモマーおよびT1R2/T1R3ヘテロダイマーのp-エトキシベンズアルデヒドに対する用量反応曲線
本方法は、T1R2-TMD活性を定量し、例えば、甘味物質を含む同定された候補増強剤の有効性の予測を可能にする。
Gα16gust44およびT1R2-TMD(例6で記載されているように形成した)を安定的に発現するHEK293T細胞にカルシウム色素Fluo-4を負荷し、そのp-エトキシベンズアルデヒドに対する応答を、例1に記載されているように蛍光カルシウムシグナルを利用して計測する。データは例1に記載されているように計算した(0.1~200μMの範囲に及ぶ、p-エトキシベンズアルデヒドの増大する用量による細胞刺激に続く基準値を超える蛍光の正味の増大量)。データは平均値±3回の反復実験の標準偏差を含んでいる。
【0204】
インビボでの妥当性を確認するため、T1R2-TMD発現細胞中でp-エトキシベンズアルデヒドによって誘発されるシグナルの用量反応曲線を、T1R2/T1R3ヘテロダイマーを安定的に発現する細胞中で得られるシグナルと比較した。二つの用量反応曲線は厳密に一致することが見出された(図1参照)。
【0205】
結果は下表に示されており、用量反応曲線は図1に示されている。表中のデータはGraphPad Prismソフトウェアパッケージ(GraphPad Software, Inc.)で、下に示す4パラメータロジスティック非線形回帰方程式を利用して曲線適合した:
Y=基底値+(最高値-基底値)/(1+10^((LogEC50-X)×傾斜)
式中、Xはp-エトキシベンズアルデヒド濃度の対数であり、Yは応答であり、EC50は最大応答の50%を誘発するアゴニスト濃度を表す。
応答対log濃度のプロットにおいて、Yの値は濃度の増大に伴ってS字形状に上昇するように見える。
【0206】
受容体感受性を示すEC50値(低いEC50値はアゴニストに対する高い感受性を示す)は、蛍光および200μMおよびそれ以下の半増加(half-increments)におけるp-エトキシベンズアルデヒド濃度データ(下表に記載)から計算した。計算したT1R2-TMDのEC50値は124μMであり、T1R2/T1R3ヘテロダイマーのものは64.51μMである。T1R2-TMDはp-ヒドロキシベンズアルデヒドに対してより大きな最大応答を見せたが、甘味ヘテロダイマーと同じ感受性範囲にある、同じようなEC50を有しており、T1R2-TMDが生物学的に関連性のある受容体であることを示している。
【0207】
【表3】
【表4】
図1 T1R2-TMDホモマー(黒三角)およびT1R2/T1R3ヘテロダイマー(白三角)の用量反応曲線
【0208】
11. T1R2-TMDを活性化するがT1R2/T1R3ヘテロダイマーは活性化しない化合物の同定
例1に記載のカルシウムフラックスアッセイを利用して、88個の試験剤のパネルがT1R2-TMD受容体依存性応答について評価された。試験剤は最終濃度100μMでデュプリケートで試験した。Gα16gust44を安定的に発現する細胞およびT1R2-TMD含有細胞(例6に記載されているように形成した)内で試験剤によって誘発されたシグナルは、Gα16gust44およびT1R2/T1R3ヘテロダイマーを安定的に発現する細胞(例7に記載されているように形成した)内で得られたシグナルと比較し、そしてネガティブコントロールとしてGα16gust44を安定的に発現する細胞を利用した。
【0209】
データは例1で記載したように計算し(試験剤による細胞刺激後の蛍光の基準値以上の正味の増大)、T1R2-TMDを強く活性化するがT1R2/T1R3ヘテロダイマーまたはネガティブコントロールは僅かにしか誘発しないまたは活性化しない、同定された剤のカルシウムシグナルの結果を下表に示す。データは、1つの代表実験からの2つの複製の平均に対応し、その代表実験は引き続く試験によって確認した。
【0210】
下表に示されている同定された化合物では、T1R2-TMDを安定的に発現する細胞内における前記化合物による刺激でカルシウムシグナルの顕著な増大が観察された。T1R2/T1R3ヘテロダイマーを発現する細胞ではネガティブコントロールを顕著に上回るシグナルは見られなかった。
結果は、T1R2-TMDがT1R2/T1R3ヘテロダイマーを活性化しない化合物によって活性化されることを示している。したがって、T1R2-TMDホモマーに基づくアッセイは、T1R3の存在下で行われるT1R2/T1R3ヘテロダイマーに基づくアッセイを利用しては同定できない増強剤を同定できる。
【0211】
メチルカビコール(FEMA#2411、エストラゴール、p-メトキシアリルベンゼン)は、甘味を有することが記載されている既知の香味料であり、その味は次のように記載されている:「甘く、草のような、アニス-ウイキョウ臭(anise-fennel odour)」、「甘く、フェノール性の、アニスのような、辛辣な、香辛料のような、青々とした、ハーブのような、ミントのような」臭いおよび10ppmで「甘い、甘草の、フェノール性の、雑草のような、香辛料のような、セロリのような」味。
【0212】
【表5】
【化2】
メチルカビコール
【0213】
T1R3-TMDに特異的に結合する化合物もまた、上記例11に記載の方法に類似するが、機能アッセイの代わりに結合アッセイを利用する方法で同定可能である。さらなるアッセイは、下記の例12Aおよび12Bで利用されている方法に類似する方法によって、T1R2-TMD/T1R3-TMDヘテロダイマーを使って行うこともできる。
【0214】
12. CSR:T1R2/CSR:T1R3の活性化
下記の受容体、核酸、ポリペプチド、方法およびキットは、本発明で実施されるインビトロアッセイの例示的な態様であるが(例12Aおよび12B)、同様の機能を実施するために、他の同様の態様が利用されてよく、または記載された態様に改変および付加がなされてもよい。さらに、全ての開示された態様は必ずしも互いの排他的ではなく、様々な態様を所望の特性を提供するために組み合わせてもよい。本開示の精神と範囲から離れることなく、当業者によって変更がなされてもよい。したがって、本受容体、核酸、ポリペプチド、方法およびキットはいかなる単一の態様に限定されるべきではなく、むしろ請求項の記載に従った幅および範囲で解釈されるべきである。
【0215】
12A. CSR:T1R2/CSR:T1R3を発現する、一過性にトランスフェクトされた細胞系の調製およびアッセイ
様々なリガンドによる刺激後の細胞内カルシウム応答は、Gα16gust44を安定して発現し、かつCSR:T1R2/CSR:T1R3キメラヘテロダイマーをトランスフェクトされたHEK293T細胞において決定した。結果は、(T1R2/T1R3甘味ヘテロダイマーを形成するために)例5に記載のT1R2ベクター構築物およびT1R3ベクター構築物の両方、または(モノマーhCaSRを形成するために)例4に記載のhCaSRベクター構築物をトランスフェクトした細胞から得られた結果と比較した。
【0216】
トランスフェクトは例8に記載されているように実施した。結果は例1に記載されているように計算した(データは刺激後の蛍光の基準値以上の正味の増大(相対蛍光単位またはRFU)を示し、平均(AVG)および±6回の反復実験の標準偏差(S.D.)が与えられている)。次のリガンドを、括弧内に示されている濃度でトランスフェクト細胞を刺激するのに利用した:塩化カルシウム(2mM)、スクラロース(0.5mM)、アスパルテーム(0.85mM)、ペリラルチン(50μM)、シンナモニトリル(2mM)、サイクラミン酸塩(1mM)、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)(0.33mM)。得られたシグナルは、トランスフェクトされた受容体との直接的または間接的な相互作用に応答した細胞のカルシウム増大(「シグナル」)に対応するRFU表示の蛍光である。
【0217】
甘味受容体を発現しない、構築物なしでトランスフェクトされた、モックトランスフェクションされたHEK293T/Gα16gust44細胞は、蛍光のバックグラウンドレベルを決定するためにネガティブコントロールとして利用した。トランスフェクト細胞は、示された甘味料およびカルシウム感知ドメインを含むタンパク質のポジティブコントロール(カルシウム)、およびネガティブコントロール(C1緩衝液)に曝露した。
【0218】
結果は下表に示されている。AVG欄は平均蛍光を与え、S.D.欄は試験した様々なベクター構築物のそれぞれについての6回の反復実験の標準偏差を与える。
【表6】
【0219】
ネガティブコントロール/モックトランスフェクションはバックグラウンドシグナルに対応するシグナルレベルを示す。
ポジティブコントロール(カルシウム)が示すように、カルシウム感知ドメインを有する全てのトランスフェクト細胞はカルシウムに反応した(CSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーおよびhCaSR)。キメラヘテロダイマーのカルシウムに対する応答は、甘味ヘテロダイマーから得られたそれと比較できない。カルシウムはT1R2/T1R3甘味ヘテロダイマーのアゴニストではないので、Gα16gust44Gタンパク質のみを発現するモックトランスフェクションした細胞よりも大きなシグナルを与えない。
【0220】
アスパルテームおよびスクラロースについて、シグナルはT1R2/T1R3ヘテロダイマーをトランスフェクトした細胞でのみ検出された。これは、スクラロースおよびアスパルテームがCSR:T1Rキメラには欠損しているT1R2のVFTに結合すると考えられるため、予期されたことである。
hCaSRは塩化カルシウムのみに応答し、試験したどの甘味物質によっても活性化される得なかった。塩化カルシウム、ペリラルチン、シンナモニトリル、サイクラミン酸塩およびNDHCについては、シグナルの顕著な増大が、CSR:T1R2/CSR:T1R3キメラヘテロダイマーを発現する細胞で観察された。ペリラルチン、シンナモニトリル、サイクラミン酸塩およびNDHCについて、これらのシグナルはT1R2/T1R3ヘテロダイマーで検出されたシグナルの強度に匹敵するものであった。
【0221】
キメラCSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーをトランスフェクトされた細胞で検出されたシグナルは、ネガティブコントロール(モックトランスフェクションされたHEK293T/Gα16gust44)から得られたバックグラウンドよりも顕著に高い。
結果は、CSR:T1R2/CSR:T1R3が、カルシウム、ペリラルチン、サイクラミン酸塩、シンナモニトリル、ナリンジンジヒドロカルコン(NarDHC)およびネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NDHC)によって活性化されるが、スクラロースまたはアスパルテームでは活性化されないことを明示している。サイクラミン酸塩はキメラダイマーを活性化するがT1R2-TMDは活性化せず、これは活性化にT1R3膜貫通ドメインが必要であることを示す。このことは、サイクラミン酸塩がT1R3膜貫通ドメインに結合することを示す文献中の知見と矛盾しない。ジヒドロカルコンは、細胞系からのデータに基づけば、両方の膜貫通ドメインに結合部位を有しているとみられる。
【0222】
12B. CSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーを発現する安定細胞系の調製
安定細胞系は、両タンパク質の構成的過剰発現による細胞毒性効果の可能性を回避するため、テトラサイクリン調節CSR:T1R2の存在下でCSR:T1R3が構成的に過剰発現するように作出した。ヘテロダイマー(CSR:T1R2)の1つのサブユニットをコードするDNAをテトラサイクリン調節ベクター中に配置して、発現レベルを調節し、安定クローン系の生存率および機能性を最適化できるようにした。
【0223】
要すれば、キメラヒトCSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーを安定的に発現するヒト細胞系は、まず、WO2004/055048に記載されているように調製したヒトCSR:T1R2を含む線状化pcDNA4/TOベクター(Invitrogen)をGα16gust44発現細胞系にトランスフェクトすることにより、順次作出した。Gα16gust44発現細胞系は、味覚受容体への増強された結合を示し、テトラサイクリンで誘導可能であり、非特異的Gタンパク質であるGα16gust44を安定的に発現し、HEK-293-T-Rex細胞系(Invitrogen, USAから商業的に入手可能)に基づいている。CSR:T1R2およびCSR:T1R3の両方を発現する二重安定クローン細胞系を得るために、CSR:T1R2を発現するクローン細胞系を同定し、ヒトCSR:T1R3のcDNAを含有する線状化pcDNA3.1-Hygroベクター(Invitrogen)をトランスフェクトした。
【0224】
4マイクログラムの線状化CSR:T1R2/pcDNA4/TO構築物および0.3μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)のトランスフェクトの24時間後、細胞を10%FBS、0.005mg/mlのブラストシジン、0.36mg/mlのG418、および0.2mg/mlのゼオシンを添加したDMEM(Invitrogen)を含有する選択培地に、1:150,000までの10×希釈で37℃にて再播種した。2~3週間後、ゼオシン耐性コロニーを個々に拡大し、安定クローンを、CSR:T1R2のcDNAを発現させるための10μg/mlのテトラサイクリンによる4時間の誘導後、50マイクロモーラーのペリラルチンに対する機能的応答に基づいて選択した。我々は、CSR:T1R2のcDNAの最小の基底発現を呈する単一のクローン(#17)を同定し、ヘテロダイマー受容体複合体の安定細胞系を作出するために、これをCSR:T1R3構築物のレシピエントとして利用した。
【0225】
誘導可能なCSR:T1R2を含むクローン17に、4μgの線状化CSR:T1R3/pcDNA3.1-Hygroベクター構築物DNAおよび0.3μlのリポフェクタミン2000(Invitrogen)をトランスフェクトした。リポフェクタミン/DNA混合物を細胞上で3~4時間インキュベートし、その後抗生物質不含の血清含有成長培地に移した。24時間後、細胞を10%FBS、0.005mg/mlのブラストシジン、0.36mg/mlのG418、および0.2mg/mlのゼオシン(Invitrogen)、および0.2mg/mlのハイグロマイシンを添加したDMEMを含有する選択培地に37℃で再播種した。
【0226】
耐性コロニーを拡大し、例1に記載されている方法を利用してFLIPR-Tetra装置(Molecular Devices)上での自動化蛍光イメージングにより決定される、ペリラルチン(CSR:T1R2の結合/活性化が寄与する)およびサイクラミン酸ナトリウム(CSR:T1R3の結合/活性化が寄与する)の両方に対する応答に基づいて、CSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーを含むものとして同定した。全ての潜在的なクローンを、10μg/mlのテトラサイクリンによる誘導(CSR:T1R2の過剰発現を誘導するため)の後、甘味物質に対する機能応答について評価した。
【0227】
潜在的クローンはまた、T1R2を低レベルで基底的に発現するが、CSR:T1R3と合わさり機能的ヘテロダイマー複合体をもたらすことができるCSR:T1R2受容体の十分な発現を有しているあらゆるクローンを同定するために、テトラサイクリン誘導無しでも試験した(T-Rex HEK-293(Invitrogen)などのテトラサイクリン調節システムは、システム固有の漏れやすさに起因して、導入遺伝子が基底的に低レベルで発現していることが知られている)。誘導性の機能的CSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーを発現する安定クローンは、50マイクロモーラーのペリラルチンおよび5mMのサイクラミン酸ナトリウムの両方に対する応答に基づいて同定した。複数の甘味物質に対して最も大きなテトラサイクリン誘導性の応答を呈した1つのクローン細胞系を増殖させ、続く比較に利用した。
【0228】
【表7】
【0229】
データは、次の方程式を利用した刺激後における基準値以上の蛍光の標準化された増大(ΔF/F)を示す:ΔF/F=(F-F)/F、式中Fはピーク蛍光シグナルおよびFは、リガンドの添加前に計測された蛍光シグナルの平均から決定した基準値蛍光シグナルである。得られたΔF/F値は、トランスフェクトされた受容体との直接的または間接的な相互作用に応答した細胞カルシウムの増加(「シグナル」)に対応する(3回の反復実験の平均値(AVG)および標準偏差(S.D.)が与えられている)。
【0230】
p-ETBZ=p-エトキシベンズアルデヒド
【化3】
NDHC
【化4】
【0231】
【化5】
サイクラミン酸ナトリウム(ナトリウムイオンは水溶性を改善し、甘味には貢献しない)
ナリンジンDHC
【化6】
【0232】
例12Aまたは12Bで概説した方法と類似の方法によって、CSR:T1R2/T1R3またはT1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマーを利用したアッセイを行った。いずれのケースにおいても、CSR:T1R2およびCSR:T1R3モノマー構築物は、上記例3または4にそれぞれ記載されているように作出した。野生型のT1R2またはT1R3モノマーは上記例5に記載されているように作出した。これらの他のヘテロダイマーの1つを発現する細胞は、したがって、例12Bおよび上記の他所に記載されているCSR:T1R2/CSR:T1R3ヘテロダイマー発現細胞の調製方法と類似の方法で作出可能である。得られた細胞系は野生型VFTドメインを発現し、T1R2/T1R3膜貫通ドメイン結合体自身およびVFTドメイン結合体と組み合わせたT1R2/T1R3膜貫通ドメイン結合体の活性についてのアッセイを含む、例1に記載のアッセイの実施に利用可能である。
【0233】
さらなるアッセイが、CSR:T1R2/T1R3-TMDおよびT1R2-TMD/CSR:T1R3ヘテロダイマー発現細胞系を作出することを含む、例12Aおよび12Bの方法と類似の方法によって実施される。いずれのケースにおいても、CSR:T1R2およびCSR:T1R3モノマー構築物は上記例3または4にそれぞれ記載されているように作出する。T1R2-TMDまたはT1R3-TMDの発現を導く切断受容体ベクター構築物は例2に説明されている方法と類似の方法によって作出する。ヘテロダイマー発現細胞は、したがって、例7および12Bおよび上記の他所に記載されているものと類似の方法で作出可能である。得られた細胞系は単一のCSR細胞外ドメインを含むヘテロダイマーを発現し、例1に記載のアッセイの実施に利用可能である。
【0234】
加えて、アッセイは、味覚受容体の膜貫通ドメインに結合する2または3以上の剤とを組み合わせることによって生成される受容体活性について、例12Aおよび12Bに記載の方法によって実施される。代替的に例12Aおよび12Bに記載の方法と類似の方法を、候補甘味増強剤をカルシウム感知受容体のリガンドと組み合わせることによって生成される受容体活性を試験するのに利用できる。CSR:T1R2またはCSR:T1R3受容体の作出方法(例3および例4)と類似の方法が、代替的なクラスC GPCR細胞外ドメインを利用したキメラ受容体の作出に利用可能である。これらの代替的なキメラ受容体は、ここに開示される試験と類似の試験に利用可能である。代替的なキメラ受容体は、代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)、GPRC型受容体(すなわちGPRC5およびGPRC6)、V2Rフェロモン受容体、およびGABA-B受容体などの、他のクラスC GPCR細胞外ドメインを含む。
【0235】
13. スクロース溶液に対する甘味増強剤の甘味等強度を決定するためのランキング試験
比較ランキングのために、0.5%、1%、1.5%、7%、8%、9%、10%および11%スクロース溶液を調製した。
a)スクロース溶液中の甘味増強剤の甘味等強度
官能評価はランキング法を利用して実施した。常温のサンプルが無作為に15mlの盲検化されたアリコート(パネリストによって特定できない)で提供された。パネルは10名の甘味感受性対象によって構成され、サンプルは1セッションにつき3反復で提供された。それぞれのサンプルを味わった後、次のサンプルを味わう前に、口内を常温の水で完全に洗浄した。パネリストは7%、8%、9%、10%、11%スクロースサンプルおよび6番目のサンプルとして7%スクロースに、その甘味検出閾値に近い濃度の甘味増強剤を加えたものを提供された。彼らに、サンプルを、感じた甘味に関して低い方から高い方へランク付けすることを求めた。7%スクロースと甘味増強剤対7%、8%、9%、10%または11%スクロースについてR指数(下記参照)を計算した。
【0236】
b)水中の甘味増強剤の閾値付近甘味等強度
官能評価はランキング法を利用して行った。常温のサンプルが無作為に15mlの盲検化されたアリコート(パネリストによって特定できない)で提供された。パネルは10名の甘味感受性対象によって構成され、サンプルは1セッションにつき3反復で提供された。それぞれのサンプルを味わった後、次のサンプルを味わう前に、口内を常温の水で完全に洗浄した。パネリストは0.5%および1%スクロース、または1%および1.5%スクロース、および3番目のサンプルとして水に、その甘味検出閾値に近い濃度の甘味増強剤を加えたものを提供された。彼らに、サンプルを、感じた甘味に関して低い方から高い方へランク付けすることを求めた。水と甘味増強剤対0.5%および1%スクロースまたは1%および1.5%スクロースについてR指数(下記参照)を計算した。R指数は、シグナル検出に基づく分析的手順によって得られる統計量であり、1つのサンプルを他のサンプル以上に選択した対象の比率を決定するための簡略法である。(O'Mahony, 1992, J. Sens. Stud., 7:1~47参照)。ランキング型の官能試験から、応答のマトリクス(下記表X参照)を、各セルが、与えられたサンプルが特定の場所にランクされた回数を含むように構築した。
【0237】
【表8】
【0238】
基本的に、R指数は2つのサンプルの差異の大きさである。R指数は50%の検出の期待値を有している。したがって、2つのサンプルを比較した場合、それらが異なっていると考えるためには、導出されるR指数は50%から有意に異なっていなくてはならない。臨界値は、導出されるR指数が有意とみなされるために、それから逸脱して(すなわちそれより大きいかまたは小さい)いなければならない統計学的に関連のある値である。
【0239】
高い臨界値よりも大きなR指数は、甘味増強剤サンプルがスクロースサンプルより有意に甘いことを意味する。臨界値と有意に差がないR指数は、甘味増強剤サンプルが比較したスクロースサンプルと同程度の甘味を有していることを意味する。低い臨界値よりも小さなR指数は、スクロースサンプルが甘味増強剤サンプルよりも甘いことを示している。
【0240】
14. 150ppm、200ppm、250ppmの水中サイクラミン酸塩のランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
150ppm、200ppm、または250ppmの水中サイクラミン酸塩を含有する水性混合物を、0.5%スクロース溶液に対する等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法(サイクラミン酸塩濃度を変化させ、他の手順は同様にした)を利用して評価した。結果を下表に表す。
【表9】
【0241】
低い臨界値(35.39%)に基づく期待値と有意に差のない41%というR指数は、150ppmサイクラミン酸塩サンプルが0.5%のスクロースと等甘味度であることを意味する。臨界値(35.39%)よりも低い0%というR指数は、200ppmおよび250ppmのサイクラミン酸塩サンプルが0.5%スクロースよりも有意に甘いことを意味する。
【0242】
15. 250ppmの水中サイクラミン酸塩のランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
250ppmの水中サイクラミン酸塩を、0.5~1%の濃度のスクロース溶液に対する等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。結果を下表に表す。
【表10】
【0243】
臨界値(64.61%)よりも高い89%というR指数は、サイクラミン酸塩サンプルが0.5%スクロースよりも甘いことを意味する。臨界値(35.39%)よりも低い12%というR指数は、サイクラミン酸塩サンプルが1%スクロースよりも有意に甘くないことを意味する。補間により、250ppmのサイクラミン酸塩の甘味は、約0.75%のスクロースと等価であった。
【0244】
16. 1700~2500ppmの水中サイクラミン酸塩のランキング試験、甘味識別レベルの決定
1700ppm、1900ppm、2100ppm、2300ppmおよび2500ppmの水中サイクラミン酸塩の溶液を、例13の方法の変法(サイクラミン酸塩を閾値上甘味料として利用した)を利用して、甘味について順位付けをした。対象は、1700~2500ppmのサイクラミン酸塩を含有する5つのサンプルを与えられ、最も甘くないものから最も甘いものまで順位付けるように依頼された。結果を下表に表す。
【0245】
【表11】
【0246】
臨界値(64.61%)よりも高い90%というR指数は、対象が1700ppmのサイクラミン酸塩の甘味度を1900ppmのサイクラミン酸塩と区別可能であることを意味する。臨界値(64.61%)よりも高い81%というR指数は、対象が1900ppmのサイクラミン酸塩の甘味度を2100ppmのサイクラミン酸塩と区別可能であることを意味する。臨界値(64.61%)よりも高い76%というR指数は、対象が2100ppmのサイクラミン酸塩の甘味度を2300ppmのサイクラミン酸塩と区別可能であることを意味する。臨界値(64.61%)よりも高い76%というR指数は、対象が2300ppmのサイクラミン酸塩の甘味度を2500ppmのサイクラミン酸塩と区別可能であることを意味する。これらの結果に基づいて、パネリストらは5つのサイクラミン酸塩濃度を、相互に確実に識別可能であった。
【0247】
17. 75ppmの水中p-エトキシベンズアルデヒドのランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
75ppmの水中p-エトキシベンズアルデヒドサンプルを、濃度0.5~1%のスクロース溶液に対する等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【表12】
【0248】
臨界値(35.39%)よりも低い0%もしくは7%というR指数は、p-エトキシベンズアルデヒドサンプルが0.5%のスクロースよりも甘くないことを意味する。補間によって、75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドは0.25%のスクロースと甘味において等価であるか、甘味検出閾値未満であった。
【0249】
18. 0.5%の水中スクロースのランキング試験、そのp-エトキシベンズアルデヒド等甘味度の決定
0.5%の水中スクロース溶液を、100ppmおよび150ppmの濃度のp-エトキシベンズアルデヒド溶液に対する等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法(例14のように改変したが、p-エトキシベンズアルデヒド濃度を変えた)を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【0250】
【表13】
【0251】
臨界値範囲(35.39~64.61%)内である63%というR指数は、期待値と有意な差が無く、0.5%スクロース溶液は100ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液と等甘味度であったことを示す。臨界値(35.39%)よりも低い3%というR指数は、0.5%スクロース溶液が150ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液よりも有意に甘くないことを意味する。
【0252】
19. 600~1000ppmの水中p-エトキシベンズアルデヒドのランキング試験、甘味識別レベルの決定
600ppm、700ppm、800ppm、900ppmおよび1000ppmの水中p-エトキシベンズアルデヒドを、例13の方法の変法(スクロースではなくp-エトキシベンズアルデヒドを閾値上甘味料として利用した)を利用して、甘味について順位付けした。対象は、600~1000ppmのp-エトキシベンズアルデヒドを含有する5つのサンプルを与えられ、最も甘くないものから最も甘いものまで順位付けるように依頼された。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【0253】
【表14】
【0254】
臨界値(64.61%)よりも高い74%というR指数は、対象が600ppmのp-エトキシベンズアルデヒドの甘味度を700ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと区別可能であることを意味する。臨界値(64.61%)よりも高い72%というR指数は、対象が700ppmのp-エトキシベンズアルデヒドの甘味度を800ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと区別可能であることを意味する。臨界値(64.61%)よりも高い67%というR指数は、対象が800ppmのp-エトキシベンズアルデヒドの甘味度を900ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと区別可能であることを意味する。臨界値(64.61%)よりも高い73%というR指数は、対象が900ppmのp-エトキシベンズアルデヒドの甘味度を1000ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと区別可能であることを意味する。これらの結果は、パネリストらは5つのp-エトキシベンズアルデヒド濃度を、相互に確実に識別可能であったことを示す。
【0255】
20. 100ppmの水中p-エトキシベンズアルデヒドのランキング試験、そのサイクラミン酸塩等甘味度の決定
100ppmの水中p-エトキシベンズアルデヒドサンプルを、150~250ppmの濃度のサイクラミン酸塩溶液に対する等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法(p-エトキシベンズアルデヒドに対する等甘味度を計算するために、サイクラミン酸塩濃度を変えた)を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【0256】
【表15】
【0257】
臨界値範囲(35.39~64.61%)内である51%というR指数は、p-エトキシベンズアルデヒドサンプルが150ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度であったことを意味する。臨界値(35.39%)よりも低い5%および17%というR指数は、p-エトキシベンズアルデヒドサンプルが、200ppmまたは250ppmのいずれのサイクラミン酸塩よりも甘くないことを意味する。
【0258】
21. 7%スクロース中の250ppmのサイクラミン酸塩のランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
7%スクロース中の250ppmのサイクラミン酸塩サンプルを、7~11%の濃度のスクロース溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。結果を下表に表す。
【0259】
【表16】
【0260】
臨界値(64.61%)よりも高い80%および96%というR指数は、7%スクロース中のサイクラミン酸サンプルが、7%または8%のスクロースよりも有意に甘いことを意味する。臨界値範囲(35.39~64.61%)内である38%というR指数は、サイクラミン酸塩サンプルが9%スクロースと等甘味度であったことを意味する期待値と等価である。臨界値(35.39%)よりも低い0%および24%というR指数は、サイクラミン酸塩サンプルが、10%または11%のいずれのスクロースよりも甘くないことを意味する。したがって、7%スクロース中の250ppmのサイクラミン酸塩は、2°ブリックスのスクロース甘味強度を付加し、9%スクロース溶液と等価になるまで甘味度を増強する。7%スクロース+250ppmサイクラミン酸塩(250ppmのサイクラミン酸塩は0.75%スクロースと等甘味度である。例15参照)は、効果が単に相加的であるならば、7.5%以上から8%以下までのスクロース、補間して7.75%のスクロースと甘味において等価であると期待される。しかしながら、上で示されているように、250ppmのサイクラミン酸塩と7%スクロースとの組合せは9%スクロースと等甘味度であり、期待された効果よりも明らかに大きい。
【0261】
22. 1700ppmのサイクラミン酸塩中の0.5%スクロースのランキング試験、そのサイクラミン酸塩等甘味度の決定
1700ppmのサイクラミン酸塩中の0.5%スクロースサンプルを、1700~2500ppmの濃度のサイクラミン酸塩溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法(サイクラミン酸塩を閾値上甘味料として利用した)を利用して評価した。結果を下表に表す。
【表17】
【0262】
臨界値(64.61%)よりも高い85%というR指数は、1700ppmのサイクラミン酸中のスクロースサンプルが、1700ppmのサイクラミン酸塩サンプルよりも有意に甘いことを意味する。臨界値範囲(35.39~64.61%)内である60%というR指数は、スクロースサンプルが1900ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度であったことを意味する期待値と等価である。臨界値(35.39%)よりも低い4%から21%というR指数は、スクロースサンプルが、2100ppm、2300ppm、2500ppmのどのサイクラミン酸塩よりも甘くないことを意味する。したがって、1700ppmのサイクラミン酸塩中の0.5%スクロースは、200ppmサイクラミン酸塩溶液と等価な甘味度を付加する(すなわち1700ppmサイクラミン酸塩+0.5%スクロース=1900ppmサイクラミン酸塩)。この等価性はさらに、水中の0.5%スクロースの甘味度と150ppmのサイクラミン酸塩を比較した結果によって立証される(例14参照)。したがって、1700ppmのサイクラミン酸塩+0.5%スクロースは1850ppmのサイクラミン酸塩と甘味度において等価であると期待される。
【0263】
サイクラミン酸塩を甘味についての閾値上レベルで利用した場合、甘味感受性パネリストの検出閾値は200ppmのサイクラミン酸塩であった(例16参照)。パネリストが1850ppmのサイクラミン酸塩と1900ppmのサイクラミン酸塩を区別することは期待できない。要するに、データは、サイクラミン酸塩甘味度におけるスクロースの効果は単に相加的であったことを示している。
【0264】
23. 1700ppmのサイクラミン酸塩中の100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドのランキング試験、そのサイクラミン酸塩等甘味度の決定
1700ppmのサイクラミン酸塩中の100ppmのp-エトシキベンズアルデヒドサンプルを、1700~2500ppmの濃度のサイクラミン酸塩溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【表18】
【0265】
臨界値(64.61%)よりも高い80%および87%というR指数は、1700ppmのサイクラミン酸塩中のp-エトシキベンズアルデヒドサンプルが、1700ppmおよび1900ppmのサイクラミン酸塩サンプルよりも有意に甘いことを意味する。臨界値範囲(35.39~64.61%)内である50%というR指数は、p-エトシキベンズアルデヒドサンプルが2100ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度であったことを意味する期待値と等価である。臨界値(35.39%)よりも低い17%および22%の間のR指数は、p-エトシキベンズアルデヒドサンプルが2300ppm、2500ppmのいずれのサイクラミン酸塩よりも甘くないことを意味する。したがって、1700ppmのサイクラミン酸塩中の100ppmのp-エトシキベンズアルデヒドは、400ppmサイクラミン酸塩溶液と等価な甘味を付加する(すなわち1700ppmサイクラミン酸塩+100ppmのp-エトシキベンズアルデヒド=2100ppmサイクラミン酸塩)。水中の100ppmのp-エトシキベンズアルデヒドと150ppmのサイクラミン酸塩の比較によって(例20参照)、1700ppmのサイクラミン酸塩+100ppmのp-エトシキベンズアルデヒドは1850ppmのサイクラミン酸塩と甘味において等価であると期待される。
【0266】
しかしながら、上記のように、100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと1700ppmのサイクラミン酸塩の混合物は、2100ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度であり、期待された効果よりも明らかに大きく、効果が単に相加的ではないことを示している。
【0267】
24. 7%スクロース中の75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドのランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
7%スクロース中の75ppmのp-エトシキベンズアルデヒドサンプルを、7~11%の濃度のスクロース溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【表19】
【0268】
臨界値(64.61%)よりも高い74%というR指数は、75ppmのp-エトシキベンズアルデヒドサンプルが、7%スクロースサンプルよりも有意に甘いことを意味する。臨界値範囲(35.39~64.61%)内である36%というR指数は、p-エトシキベンズアルデヒドサンプルが8%のスクロースと等甘味度であったことを意味する期待値と等価である。臨界値(35.39%)よりも低い0%、1%および12%というR指数は、スクロースサンプルがp-エトシキベンズアルデヒドサンプルよりも甘いことを示している。データは、7%スクロースと75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドの混合物の認識された甘味度が8%スクロースと等甘味度であることを示している。比較すると、水中の75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドは0.5%以下のスクロースと等甘味度であった(例17参照)。効果が単に相加的であるならば、7%スクロース+75ppmのp-エトシキベンズアルデヒドサンプルはしたがって、7.5%以下のスクロース、補間して7.25%スクロースの甘味度と等価であることが期待される(例17を受けて)。
【0269】
しかしながら、上記のように、75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと7%スクロースの組み合わせは、8%スクロースと等甘味度であり、期待された効果よりも明らかに大きい。
【0270】
25. 7%スクロース中の250ppmのサイクラミン酸塩および75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドのランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
7%スクロース中の250ppmのサイクラミン酸塩および75ppmのp-エトシキベンズアルデヒドの混合物サンプルを、7~11%の濃度のスクロース溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【表20】
【0271】
74~98%というR指数は高臨界値(64.61%)よりも高く、サイクラミン酸塩/p-エトシキベンズアルデヒド混合物サンプルが、7%、8%および9%スクロースサンプルよりも甘いことを示している。12%から29%というR指数は臨界値(35.39%)よりも低く、サイクラミン酸塩/p-エトシキベンズアルデヒドサンプルが10%または11%スクロースサンプルよりも甘くないことを示している。データは、250ppmのサイクラミン酸塩および75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドを伴う7%スクロースの認識された甘味度は、9%スクロースの甘味度より有意に高いが、10%スクロースの甘味度よりも低く、または補間法により9.5%であることを示している。
【0272】
比較すると、水中の250ppmのサイクラミン酸塩は0.5%以上のスクロースと等甘味度だが1%以下のスクロースと等甘味度であり、補間して0.75%と等甘味度であり(例14および15参照)、水中の75ppmのp-エトキシベンズアルデヒドは0.5%以下のスクロース、補間して0.25%、と等甘味度であった(例17参照)。したがって、7%スクロース+250ppmのサイクラミン酸塩(1%以下のスクロースおよび0.5%以上のスクロース、補間して0.75%のスクロースと等甘味度)+75ppmのp-エトシキベンズアルデヒド(0.5%以下のスクロース、補間して0.25%のスクロースと等甘味度)は、8.5%以下のスクロース、補間して8%スクロースと等甘味度であることが期待される。しかしながら、決定された等甘味度は9%スクロース以上、補間して9.5%スクロースであり、期待された効果よりも明らかに上である。
【0273】
26. 1700ppmのサイクラミン酸塩中の100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドおよび0.5%スクロースのランキング試験、そのサイクラミン酸塩等甘味度の決定
1700ppmのサイクラミン酸塩中の100ppmのp-エトシキベンズアルデヒドおよび0.5%スクロースの混合物サンプルを、1700~2500ppmの濃度のサイクラミン酸塩溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【表21】
【0274】
79~98%というR指数は高臨界値(64.61%)よりも高く、p-エトシキベンズアルデヒド/スクロース混合物サンプルが、1700ppm、2100ppmおよび2300ppmのサイクラミン酸塩サンプルよりも甘いことを示している。56%というR指数は臨界値範囲(35.39~64.61%)内であり、p-エトシキベンズアルデヒド/サイクラミン酸塩サンプルが2300ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度であったことを示している。低臨界値(35.39)%と等価な期待値である44%というR指数は、p-エトシキベンズアルデヒド/サイクラミン酸塩サンプルが2500ppmのサイクラミン酸塩サンプルと等甘味度であることを意味する。データは、100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドおよび0.5%スクロースを伴う1700ppmのサイクラミン酸塩の認識された甘味は、2100ppmのサイクラミン酸塩より有意に高いが、2300ppmおよび2500ppmのサイクラミン酸塩とは区別できないことを示している。
【0275】
比較すると、水中の100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドは150ppmのサイクラミン酸と等甘味度であり(例20参照)、水中の0.5%スクロースは150ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度である(例14参照)。したがって、1700ppmのサイクラミン酸塩+100ppmのp-エトシキベンズアルデヒド(150ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度)および0.5%スクロース(150ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度)は、2100ppm以下のサイクラミン酸塩、または2000ppmのサイクラミン酸塩と等甘味度であることが期待される。しかしながら、決定された等甘味度は2100ppm以上のサイクラミン酸塩、2300ppmおよび2500ppmのサイクラミン酸塩の間の等甘味度範囲であり、期待された(相加的)効果よりも明らかに上である。
【0276】
27. 600ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液中の150ppmのサイクラミン酸塩のランキング試験、そのp-エトキシベンズアルデヒド等甘味度の決定
600ppmのp-エトシキベンズアルデヒド水溶液サンプル中の150ppmのサイクラミン酸塩の混合物を、600ppmおよび700ppmの濃度のp-エトキシベンズアルデヒド溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【表22】
【0277】
92%および70%というR指数は臨界値(64.61%)よりも高く、600ppmのp-エトシキベンズアルデヒド水溶液サンプル中の150ppmのサイクラミン酸塩が、600ppmおよび700ppmのp-エトキシベンズアルデヒド溶液単独よりも甘いことを示している。
比較すると、水中の150ppmのサイクラミン酸塩は水中の100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと等甘味度である(例20参照)。600ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液への150ppmのサイクラミン酸塩の添加は、効果が単に相加的であるならば、700ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液と等甘味度であるはずである。しかしながら、600ppmのp-エトシキベンズアルデヒド水溶液サンプル中の150ppmのサイクラミン酸塩は、700ppmのp-ヒドロキシベンズアルデヒドよりも甘いことが見出され、これは期待された効果を明らかに上回る。
【0278】
28. 600ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液中の0.5%スクロースのランキング試験、そのp-エトキシベンズアルデヒド等甘味度の決定
600ppmのp-エトシキベンズアルデヒド水溶液サンプル中の0.5%スクロースの混合物を、600ppmおよび700ppmの濃度のp-エトキシベンズアルデヒド溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【表23】
【0279】
臨界値(64.61%)よりも高い68%というR指数は、600ppmのp-エトシキベンズアルデヒド水溶液サンプル中の150ppmのサイクラミン酸塩が、600ppmのp-エトキシベンズアルデヒド溶液単独よりも甘いことを意味する。高臨界値(64.61%)の期待値と等価である59%というR指数は、600ppmのp-エトシキベンズアルデヒド水溶液サンプル中の150ppmのサイクラミン酸塩が、700ppmのp-エトキシベンズアルデヒドの水溶液と等甘味度であることを意味する。
【0280】
比較すると、水中の0.5%スクロースは水中の100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと等甘味度である(例18参照)。600ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液への0.5%スクロースの添加は、700ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液と等甘味度であり、効果が単に相加的であることを意味する。
【0281】
29. 600ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液中の150ppmのサイクラミン酸塩および0.5%スクロースのランキング試験、そのp-エトキシベンズアルデヒド等甘味度の決定
600ppmのp-エトシキベンズアルデヒド水溶液中の150ppmのサイクラミン酸塩および0.5%スクロースのサンプル混合物を、600ppmおよび700ppmの濃度のp-エトキシベンズアルデヒド溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法の変法を利用して評価した。対象は、甘味における香気の効果を取り除くために鼻クリップを着ける必要があった。結果を下表に表す。
【表24】
【0282】
94%および96%というR指数は臨界値(64.61%)よりも高く、600ppmのp-エトシキベンズアルデヒド水溶液サンプル中の150ppmのサイクラミン酸塩および0.5%スクロースが、600ppmおよび700ppmのp-エトキシベンズアルデヒド溶液よりも甘いことを示している。
【0283】
比較すると、水中の150ppmのサイクラミン酸塩は水中の100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと等甘味度であり(例20参照)、水中の0.5%スクロースは水中の100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと等甘味度である(例18参照)。したがって、600ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液への150ppmのサイクラミン酸塩(100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと等甘味度)および0.5%スクロース(100ppmのp-エトキシベンズアルデヒドと等甘味度)の添加は、800ppmのp-エトキシベンズアルデヒド水溶液と等甘味度であることが期待される。決定された等甘味度は700ppmのp-エトキシベンズアルデヒド以上であった。
【0284】
30. 水中の60ppmのNarDHCのランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
水中の60ppmのNarDHCサンプルを、0.5~1%の濃度のスクロース溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。結果を下表に表す。
【表25】
【0285】
99%および71%というR指数は臨界値(64.61%)よりも高く、NarDHCサンプルは、0.5%および1%のスクロースよりも甘いことを示している。臨界値(35.39%)よりも低い20%というR指数は、NarDHCサンプルが1.5%スクロースよりも有意に甘くないことを意味する。
補間により、60ppmのNarDHCの甘味度は約1.25%スクロースと等価であった。
【0286】
31. 水中の2ppmのNDHCのランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
水中の2ppmのNDHCサンプルを、0.5~1%の濃度のスクロース溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。結果を下表に表す。
【表26】
【0287】
臨界値(35.39%)よりも有意に高くない41%というR指数は、NDHCサンプルが、0.5%スクロースと等甘味度であることを意味する。臨界値(35.39%)よりも低い5%というR指数は、NDHCサンプルが1%スクロースよりも有意に甘くないことを意味している。
【0288】
32. 水中の45ppm、50ppm、55ppmおよび60ppmのNarDHC対0%、0.5%、1%または1.5%スクロースの一対比較
水中のNarDHC(45ppm、50ppm、55ppm、60ppm)サンプルを、0~1.5%の濃度のスクロース溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されている一対比較法の変法を利用して評価した。NarDHCサンプルは0%、0.5%、1%または1.5%スクロースそれぞれと比較した。結果を下表に表す。
【表27】
【0289】
45ppmのNarDHC溶液は0%スクロースと比較した場合若干甘く、0.5%スクロースの甘味と等甘味度であった。50ppmのNarDHCサンプルは0.5%スクロースより明らかに甘かったが、1%スクロースよりは甘くないことが見出された。55ppmのNarDHCサンプルは0.5%スクロースより明らかに甘く、1%スクロースの甘味と等甘味度であることが決定された。60ppmのNarDHCサンプルは1%スクロースより明らかに甘かったが、1.5%スクロースより有意により甘くなかった。
【0290】
33. 水中の60ppmの羅漢果抽出物対0%、0.5%および1%スクロースの強制選択試験
甘味料としての羅漢果抽出物の強制選択官能評価を、例13に記載されているようにだが、次のように改変して行った(強制選択法については、O'Mahony, 1992, J.Sens. Stud., 7:1-47もまた参照):羅漢果抽出物は水中で60ppmの濃度を有し、0%スクロース/水、0.5%スクロース/水または1%スクロース/水とそれぞれ比較した。結果を下表に表す。
【表28】
【0291】
60ppmの羅漢果抽出物は、その甘味知覚閾値濃度に近く、若干甘い1%スクロースよりも有意により甘くなかった。水中の60ppmの羅漢果サンプルは、全てのパネリストに0%スクロース/水よりも甘いと知覚された(30人中30人のパネリスト、p<0.001の強制選択の統計的有意水準で)。0.63という低い甘味強度評定は、非常に弱い知覚可能な甘味(0%スクロースは0.1という評定であることを参照。考えられる最高の甘味度は10と評定される)を反映している。水中の60ppmの羅漢果サンプルは、多くのパネリストによって、0.5%スクロース/水よりも甘いと知覚された(30人中28人のパネリスト、p<0.001の強制選択の統計的有意水準で)。大多数のパネリスト(30人中24人)は若干甘い1%スクロース溶液を、60ppmの羅漢果抽出物溶液よりも甘いものとして、p<0.001の強制選択の統計的有意水準で選択した。水中の羅漢果抽出物に対する0.58という低い甘味強度評定対1%スクロースに対する0.72は、1%スクロースの甘味度よりも有意に低い、60ppmの羅漢果の非常に弱い知覚可能な甘味を反映している。補間により、60ppmの羅漢果抽出物の甘味度は約0.75%のスクロースと等価である。
【0292】
34. 水中の60ppmの羅漢果抽出物+60ppmのNarDHC+2ppmのNDHC対0%、2.25%スクロースの強制選択試験
羅漢果抽出物、NarDHC、およびNDHCの混合物の強制選択試験を、例13に記載されているようにだが、次のように改変して行った:水中の60ppmの羅漢果抽出物+60ppmのNarDHC+2ppmのNDHCサンプルを2.25%スクロースと比較した。2.25%スクロース濃度は、補間された各甘味増強剤のスクロースに対する等甘味度の相加的な個別の効果よりもわずかに小さいものとして選択した:2ppmのNDHCについては0.5%(例31)+60ppmの羅漢果抽出物については0.75%(例33)+60ppmのNarDHCについては1.25%(例30および32)。
【0293】
2ppmのNDHC+60ppmの羅漢果抽出物+60ppmのNarDHCは、下表に示すように、2.25%スクロースよりも有意に甘くなかった。この結果は、水中の甘味増強剤の混合物(スクロースを添加しない)は、各含有物の甘味の総和よりも低くなることを示している。さらに、甘味増強剤それ自体はお互いの甘味を少しも増強しない。
【表29】
【0294】
35. 60ppmの羅漢果抽出物および2ppmのNDHC+7%スクロース中のランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
7%スクロースサンプル中の60ppmの羅漢果抽出物+2ppmのNDHCを、7~11%の濃度のスクロース溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。結果を下表に表す。
【表30】
【0295】
82および98%というR指数は臨界値(72.18%)よりも高く、NDHC+羅漢果サンプルが、7%または8%のスクロースサンプルよりも有意に甘いことを示している。期待値と有意に差がない43%というR指数は、NDHC+羅漢果抽出物サンプルが9%スクロースと等甘味度であったことを示している。臨界値(27.82%)よりも低い4~12%というR指数は、NDHC+羅漢果抽出物サンプルが10%または11%スクロースよりも有意に甘くないことを示す。水中の2ppmのNDHCは0.5%スクロースと等しい甘味度を有する(例31参照)。水中の60ppmの羅漢果は0.5%以上だが1%以下(補間により0.75%)のスクロースと等しい甘味度を有する(例33参照)。したがって、7%スクロース+2ppmのNDHC(0.5%スクロースと等強度)+60ppmの羅漢果抽出物(1%以下のスクロース、補間して0.75%スクロースと等甘味度)は、8.5%以下のスクロース、または補間により8.25%以下のスクロースと等甘味度であることが期待される。しかしながら、決定された等甘味度は9%スクロースであり、単なる相加的な効果より明らかに高かった。
【0296】
36. 60ppmの羅漢果抽出物+60ppmのNarDHC+2ppmのNDHC+7%スクロース中のランキング試験、そのスクロース等甘味度の決定
7%スクロース中の60ppmの羅漢果抽出物+60ppmのNarDHC+2ppmのNDHCサンプルを、7~11%の濃度のスクロース溶液に対するその等甘味度について、例13に記載されているランキング法を利用して評価した。結果を下表に表す。
【表31】
【0297】
79~100%というR指数は臨界値(74.89%)よりも高く、NDHC+羅漢果+NarDHCサンプルが、7%、8%、9%および10%のスクロースサンプルよりも有意に甘いことを示している。50%から臨界値(74.89%)間でのR指数は、NDHC+羅漢果+NarDHCサンプルが比較スクロースサンプルと等甘味度であることを意味する。48%において、NDHC+羅漢果+NarDHCサンプルは11%スクロースと等価であった。比較すると、水中の2ppmのNDHCは0.5%スクロースと等しい甘味度を有する(例31参照)。水中の60ppmのNarDHCは1%スクロース以上だが1.5%スクロース以下、補間して1.25%スクロースと等しい甘味度を有する(例30および32参照)。水中の60ppmの羅漢果は0.5%以上だが1%以下のスクロース、補間して0.75%スクロースと等しい甘味度を有する(例33参照)。したがって、相加的効果と仮定すれば、7%スクロース+2ppmのNDHC(0.5%スクロースと等甘味)+60ppmのNarDHC(1.5%以下のスクロース、補間して0.75%スクロースと等強度)+60ppmの羅漢果抽出物(1%以下のスクロース、補間して0.75%スクロースと等甘味度)は、10%以下のスクロース、または補間により9.5%以下のスクロースと等甘味度であることが期待される。さらに、水中の2ppmのNDHC+60ppmの羅漢果抽出物+60ppmのNarDHCは、2.25%スクロースよりも甘くないことが決定されており(例34参照)、したがって、相加的効果であると仮定すれば、7%スクロース中の混合物の等甘味度は9.25%スクロース以下であると期待されるだろう。しかしながら、決定された甘味等強度は11%スクロースと等甘味度であり、単なる相加的な効果より明らかに高かった。
【配列表】
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