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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】銑滓状態判定装置および該方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/24 20060101AFI20220202BHJP
   F27D 3/15 20060101ALI20220202BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20220202BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20220202BHJP
【FI】
C21B7/24
F27D3/15 Z
F27D21/00 A
G01J5/00 101D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018197161
(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公開番号】P2020063496
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】迫田 尚和
(72)【発明者】
【氏名】桑名 孝汰
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】豊田 人志
(72)【発明者】
【氏名】新田 和明
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-160627(JP,A)
【文献】特開2006-119110(JP,A)
【文献】特開2009-236898(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02554959(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 7/24
G01J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出銑滓流の熱放射輝度分布を、当該熱放射輝度に対応する画素ごとの画素値を持つ各画素から構成される対象画像として撮像する撮像部と、
前記撮像部で撮像された対象画像における前記出銑滓流の画像中に所定のサイズの評価領域を設定する設定部と、
前記設定部で設定された評価領域における最大画素値および最小画素値を抽出する抽出部と、
前記抽出部で抽出した最大画素値と最小画素値との比に基づいて、前記出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定する状態判定部とを備え、
前記状態判定部は、前記最大画素値に対する前記最小画素値の比と、予め設定された所定の閾値または範囲とを比較し、前記比が前記閾値以上または前記範囲内である場合に、前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定し
前記溶滓リッチな状態とは、前記出銑滓流を表面から見た場合の見かけの放射率が溶滓の放射率と見なせる状態である
銑滓状態判定装置。
【請求項2】
前記抽出部は、前記設定部で設定された評価領域における最小画素値から下位一定割合の画素値までを代表する下位画素代表値を前記最小画素値として求め、前記設定部で設定された評価領域における最大画素値から上位一定割合の画素値までを代表する上位画素代表値を前記最大画素値として求める、
請求項1に記載の銑滓状態判定装置。
【請求項3】
記状態判定部が前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定した場合に、予め求めた、最大画素値と溶銑温度との対応関係と前記最大画素値とから、溶銑温度を求める温度演算部をさらに備える、
請求項1または請求項2に記載の銑滓状態判定装置。
【請求項4】
出銑滓流の熱放射輝度分布を、当該熱放射輝度に対応する画素ごとの画素値を持つ各画素から構成される対象画像として撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像された対象画像における前記出銑滓流の画像中に所定のサイズの評価領域を設定する設定工程と、
前記設定工程で設定された評価領域における最大画素値および最小画素値を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で抽出した最大画素値と最小画素値との比に基づいて、前記出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定する状態判定工程とを備え、
前記状態判定工程は、前記最大画素値に対する前記最小画素値の比と、予め設定された所定の閾値または範囲とを比較し、前記比が前記閾値以上または前記範囲内である場合に、前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定し
前記溶滓リッチな状態とは、前記出銑滓流を表面から見た場合の見かけの放射率が溶滓の放射率と見なせる状態である
銑滓状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出銑口から流出する出銑滓流の混合状態を判定する銑滓状態判定装置および銑滓状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鉱石を熱処理することによって鉄を取り出す高炉では、その操業管理等のために、高炉の出銑口から流出する銑滓混合物(以下、「出銑滓流」と適宜に略記する。)の温度が、しばしば測定される。このような出銑滓流の温度を測定する技術の一つが例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示された高炉出銑温度測定方法は、高炉に形成された出銑口から流出した溶融物を含む領域の熱放射輝度分布を、当該熱放射輝度に対応する画素毎の濃度値を持つ各画素から構成される画像として撮像する撮像工程と、前記撮像工程により撮像された画像の画素毎の濃度と画素数との関係を示す濃度ヒストグラムとして、溶銑の濃度分布と、溶融スラグの濃度分布とを含む濃度ヒストグラムを作成する濃度ヒストグラム作成工程と、前記濃度ヒストグラム作成工程により作成された濃度ヒストグラムに対して、溶銑の濃度分布において画素数が最大となる濃度である溶銑濃度分布ピークの探索範囲を設定する溶銑濃度分布ピーク探索範囲設定工程と、前記溶銑濃度分布ピーク探索範囲設定工程により設定された溶銑濃度分布ピークの探索範囲内で、画素数が最大となる濃度を、前記溶銑濃度分布ピークの濃度として前記濃度ヒストグラムから抽出する溶銑濃度分布ピーク抽出工程と、前記溶銑濃度分布ピーク抽出工程により抽出された溶銑濃度分布ピークの濃度に基づいて、溶銑の温度を導出する溶銑温度導出工程と、を有する。そして、前記溶銑濃度分布ピーク探索範囲設定工程は、予め設定された、前記溶銑の濃度分布において画素数が最大となる濃度である溶銑濃度分布ピークの濃度と、前記溶融スラグの濃度分布における最高の濃度であるスラグ最高濃度と、の比である濃度比の上限値及び下限値と、前記濃度ヒストグラムにより作成された濃度ヒストグラムにおける前記スラグ最高濃度と、に基づいて、前記溶銑濃度分布ピークの探索範囲を導出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-160627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1に開示された高炉出銑温度測定方法は、前記濃度ヒストグラムが2個のピークを備えて成る双峰性のプロファイルを持つ場合には、比較的良好に温度を測定できる。しかしながら、実際に測定すると、必ずしも、前記双峰性のプロファイルを持つ濃度ヒストグラムが得られるとは限らず、例えばなだらかに変化するプロファイルを持つ濃度ヒストグラムに成ってしまい、温度の測定が難しい場合があった。特に、出銑滓流は、溶銑と溶滓(溶融スラグ)とが混じり合い、溶銑上に、半透明な溶滓が乗るため、出銑滓流の表面から見た溶銑の放射率は、見かけの値となってしまう。しかも、通常、場所(領域)ごとに、溶銑上に乗る溶滓の厚さが異なるため、見かけの放射率も場所(領域)ごとに変化してしまい、一層、温度の測定が難しい。このため、出銑滓流の温度をより精度良く測定するためには、まず、出銑滓流の混合状態を判定することが重要である。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、出銑滓流の混合状態を判定できる銑滓状態判定装置および銑滓状態判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる銑滓状態判定装置は、出銑滓流の熱放射輝度分布を、当該熱放射輝度に対応する画素ごとの画素値を持つ各画素から構成される対象画像として撮像する撮像部と、前記撮像部で撮像された対象画像における前記出銑滓流の画像中に所定のサイズの評価領域を設定する設定部と、前記設定部で設定された評価領域における最大画素値および最小画素値を抽出する抽出部と、前記抽出部で抽出した最大画素値と最小画素値との比に基づいて、前記出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定する状態判定部とを備え、前記状態判定部は、前記最大画素値に対する前記最小画素値の比と、予め設定された所定の閾値または範囲とを比較し、前記比が前記閾値以上または前記範囲内である場合に、前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定し前記溶滓リッチな状態とは、前記出銑滓流を表面から見た場合の見かけの放射率が溶滓の放射率と見なせる状態である。好ましくは、上述の銑滓状態判定装置において、前記状態判定部は、前記最大画素値に対する前記最小画素値の比と、予め設定された所定の第1閾値(第1判定閾値)とを比較し、前記比が前記第1閾値以上である場合に、前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定する。前記溶滓リッチな状態とは、表面から見た場合、実質的に溶銑の影響を受けない溶滓ばかりに見え、銑滓状態判定装置の仕様に応じて許容される、見かけの放射率が溶滓の放射率とみなせる状態である。好ましくは、上述の銑滓状態判定装置において、前記状態判定部は、前記最大画素値に対する前記最小画素値の比と、予め設定された所定の第2閾値(第2判定閾値)とを比較し、前記比が前記第2閾値以下である場合に、前記混合状態として前記溶滓リッチな状態を除く他の状態(溶滓と溶銑とが入り混じった状態および溶銑リッチな状態のいずれかの状態)と判定する。前記溶銑リッチな状態とは、表面から見た場合、実質的に溶滓の影響を受けない溶銑ばかりに見え、銑滓状態判定装置の仕様に応じて許容される、見かけの放射率が溶銑の放射率とみなせる状態である。前記入り混じった状態とは、前記溶滓リッチな状態と前記溶銑リッチな状態との間の状態である。好ましくは、上述の銑滓状態判定装置において、前記状態判定部は、前記最大画素値に対する前記最小画素値の比と、予め設定された所定の第1範囲(第1判定範囲)とを比較し、前記比が前記第1範囲内である場合に、前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定する。好ましくは、上述の銑滓状態判定装置において、前記状態判定部は、前記最大画素値に対する前記最小画素値の比と、予め設定された所定の第2範囲(第2判定範囲)とを比較し、前記比が前記第2範囲内である場合に、前記混合状態として前記溶滓リッチな状態を除く他の状態(溶滓と溶銑とが入り混じった状態および溶銑リッチな状態のいずれかの状態)と判定する。
【0008】
一般に、溶銑の放射率が約0.4程度であり、溶滓の放射率が約0.9~0.95程度であると考えられている。通常、出銑滓流は、溶銑と溶滓とが混じり合い、見かけの放射率も場所(領域)ごとに変化しているが、出銑滓流全体の中には、溶銑上に乗る溶滓でも、表面から充分な厚さを有する結果、表面から見た場合、実質的に前記溶銑の影響を受けない溶滓のみに見える領域(実効溶滓領域)が存在すると考えられ、対象画像の評価領域の中で最も明るい箇所を前記実効溶滓領域に比定することが最も確からしい。一方、出銑滓流全体の中には、溶銑上に溶滓が乗らない、あるいは、溶銑上に溶滓が乗っている場合でも、表面から見た場合、実質的に前記溶滓の影響を受けない溶銑のみに見える領域(実効溶銑領域)が存在すると考えられ、対象画像の評価領域の中で最も暗い箇所を前記実効溶銑領域に比定することが最も確からしい。このため、通常の、溶銑と溶滓とが混じり合って見かけの放射率も場所(領域)ごとに変化している出銑滓流では、最大画素値と最小画素値との比、例えば、最大画素値に対する最小画素値の比は、上記から、0.4を(0.9~0.95)で割った約0.45前後に落ち着くと考えられる。その一方で、ときとして、出銑滓流が、表面から見た場合、実質的に溶銑の影響を受けない溶滓ばかりに見える状態(溶滓リッチな状態)になることがある。この場合では、最小画素値が最大画素値に近づき、最大画素値に対する最小画素値の比は、前記約0.45前後より大きな値になると考えられる。このため、上記銑滓状態判定装置は、最大画素値と最小画素値との比に基づいて、出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定できる。
【0009】
他の一態様では、上述の銑滓状態判定装置において、前記抽出部は、前記設定部で設定された評価領域における最小画素値から下位一定割合の画素値までを代表する下位画素代表値を前記最小画素値として求め、前記設定部で設定された評価領域における最大画素値から上位一定割合の画素値までを代表する上位画素代表値を前記最大画素値として求める。
【0010】
このような銑滓状態判定装置は、下位画素代表値で前記最小画素値を求め、上位画素代表値で前記最大画素値を求めるので、ロバスト性を向上でき、ノイズ耐性が高く、より安定した判定結果を得ることができる。
【0011】
他の一態様では、これら上述の銑滓状態判定装置において、記状態判定部が前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定した場合に、予め求めた、最大画素値と溶銑温度との対応関係と前記最大画素値とから、溶銑温度を求める温度演算部をさらに備える。
【0012】
発明者は、種々検討した結果、出銑滓流が溶滓リッチな状態である場合に、表面から見た場合に溶銑は見えないが、溶銑も溶滓とともに出銑滓流に含まれるため、最大画素値(最大画素値に基づいて求めることができる溶滓温度)と溶銑温度とに相関性があることを見出した。上記銑滓状態判定装置は、出銑滓流が溶滓リッチな状態である場合でも、予め求めた、互いに相関する最大画素値と溶銑温度との対応関係を用い、前記抽出部で抽出した最大画素値から溶銑温度を求めることができる。
【0013】
本発明の他の一態様にかかる出銑温度測定方法は、出銑滓流の熱放射輝度分布を、当該熱放射輝度に対応する画素ごとの画素値を持つ各画素から構成される対象画像として撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像された対象画像における前記出銑滓流の画像中に所定のサイズの評価領域を設定する設定工程と、前記設定工程で設定された評価領域における最大画素値および最小画素値を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出した最大画素値と最小画素値との比に基づいて、前記出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定する状態判定工程とを備え、前記状態判定工程は、前記最大画素値に対する前記最小画素値の比と、予め設定された所定の閾値または範囲とを比較し、前記比が前記閾値以上または前記範囲内である場合に、前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定し、前記溶滓リッチな状態とは、前記出銑滓流を表面から見た場合の見かけの放射率が溶滓の放射率と見なせる状態である
【0014】
通常の、溶銑と溶滓とが混じり合った状態の出銑滓流では、最大画素値と最小画素値との比、例えば、最大画素値に対する最小画素値の比は、0.45前後に落ち着くと考えられる一方で、溶滓リッチな状態の出銑滓流は、最大画素値に対する最小画素値の比は、0.45前後より大きな値になると考えられる。このため、上記銑滓状態判定方法は、最大画素値と最小画素値との比に基づいて、出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる銑滓状態判定装置および銑滓状態判定方法は、出銑滓流の混合状態を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態における銑滓状態判定装置の構成を示すブロック図である。
図2】前記銑滓状態判定装置によって判定される出銑滓流が流出する様子を説明するための図である。
図3】溶滓リッチな状態において、最大画素値と溶銑温度との関係を示す図である。
図4】出銑滓流の対象画像の一例を示す図である。
図5】出銑滓流における最小画素値と最大画素値との意義を説明するために、出銑滓流の一部断面を模式的に示す図である。
図6】一例として、出銑滓流における最大画素値に対する最小画素値の比を示す図である。
図7】他の一例として、出銑滓流における最大画素値に対する最小画素値の比を示す図である。
図8】前記銑滓状態判定装置における動作を示すフローチャートである。
図9】前記銑滓状態判定装置の変形形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0018】
図1は、実施形態における銑滓状態判定装置の構成を示すブロック図である。図2は、前記銑滓状態判定装置によって判定される出銑滓流が流出する様子を説明するための図である。図3は、溶滓リッチな状態において、最大画素値と溶銑温度との関係を示す図である。図3の横軸は、最大画素値であり、その縦軸は、温度である。図4は、出銑滓流の対象画像の一例を示す図である。図4Aは、溶滓リッチな状態での出銑滓流の対象画像を示し、図4Bは、通常の、溶銑と溶滓とが混じり合った状態での出銑滓流の対象画像を示す。図5は、出銑滓流における最小画素値と最大画素値との意義を説明するために、出銑滓流の一部断面を模式的に示す図である。図6は、一例として、出銑滓流における最大画素値に対する最小画素値の比を示す図である。図7は、他の一例として、出銑滓流における最大画素値に対する最小画素値の比を示す図である。図6および図7における各横軸は、時間であり、それら各縦軸は、最大画素値に対する最小画素値の比である。
【0019】
本実施形態における銑滓状態判定装置Dは、高炉の出銑口から流出する銑滓混合物(以下、「出銑滓流」と適宜に略記する。)を撮像することによって得られた前記出銑滓流の対象画像に基づいて前記出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定する装置である。そして、本実施形態では、銑滓状態判定装置Dは、出銑滓流を溶滓リッチな状態と判定した場合に、さらに、最大画素値に基づいて溶銑温度を求める。前記銑滓混合物(出銑滓流)は、溶銑と溶滓(溶融スラグ)との混合物であり、高炉の出銑口から高温の流体状で流出される。このような銑滓状態判定装置Dは、例えば、図1に示すように、撮像部1と、制御処理部2と、記憶部3とを備え、本実施形態では、さらに、入力部4と、出力部5と、インターフェース部(IF部)6とを備える。
【0020】
撮像部1は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、出銑滓流の熱放射輝度分布を、当該熱放射輝度に対応する画素ごとの画素値を持つ各画素から構成される対象画像として撮像する装置である。撮像部1は、出銑滓流の対象画像を制御処理部2へ出力する。撮像部1は、例えば、被写体における光学像を所定の結像面上に結像する結像光学系、前記結像面に受光面を一致させて配置され、前記被写体における光学像を電気的な信号に変換するエリアイメージセンサ、および、エリアイメージセンサの出力を画像処理することで前記被写体における画像を表すデータである画像データを生成する画像処理回路等を備えるデジタルカメラ等である。撮像部1は、静止画を生成するスチルカメラであって良く、また、動画像を生成するビデオカメラ(ムービーカメラ)であって良い。
【0021】
撮像部1は、例えば、図2に示すように、高炉SFに形成された出銑口PHから、出銑樋カバーCVを備える出銑樋SGへ、流出する出銑滓流PSを撮像できるように適宜に配設される。出銑滓流PSは、比較的高速に出銑口PHから流出するので、撮像部1は、この出銑滓流PSの流出速度に応じた速度で撮像可能に構成される。撮像部1は、銑滓状態判定装置Dにおける他の各部2~6とともに図略の筐体に収容され、前記他の各部2~6と一体に構成されて良いが、本実施形態では、撮像部1は、前記他の各部2~6とは、別体に構成され、撮像部1は、前記出銑滓流PSを撮像できるように、前記他の各部2~6から遠隔に配置され、有線または無線によって制御処理部2と通信可能に接続される。
【0022】
図1に戻って、入力部4は、制御処理部2に接続され、例えば、混合状態の判定や温度の測定開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば評価領域の設定入力等の混合状態の判定や温度を測定する上で必要な各種データを銑滓状態判定装置Dに入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ、キーボードおよびマウス等である。出力部5は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、入力部4から入力されたコマンドやデータ、および、当該銑滓状態判定装置Dによって判定された混合状態やその求められた温度等を出力する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示部(表示装置)や、プリンタ等の印刷装置等である。
【0023】
IF6は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、例えば、外部の機器との間でデータを入出力する回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部6は、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等の、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であっても良い。
【0024】
記憶部3は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、銑滓状態判定装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御する制御プログラムや、撮像部1で撮像された対象画像における出銑滓流の画像中に所定のサイズの評価領域ROIを設定する設定プログラムや、前記設定プログラムで設定された評価領域ROIにおける最大画素値(最も明るい画素値、最大輝度値)および最小画素値(最も暗い画素値、0より大きい値での最小輝度値)を抽出する抽出プログラムや、前記抽出プログラムで抽出した最大画素値と最小画素値との比に基づいて、出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定する状態判定プログラムや、前記状態判定プログラムが後述のように前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定した場合に、予め求めた、最大画素値と溶銑温度との対応関係と前記抽出プログラムで抽出した最大画素値とから、溶銑温度を求める温度演算プログラム等の制御処理プログラムが含まれる。本実施形態では、温度演算プログラムは、さらに、前記状態判定プログラムが後述のように前記混合状態として溶滓リッチな状態を除く他の状態と判定した場合に、前記抽出プログラムで抽出した最大画素値に基づいて、出銑滓流に含まれる溶滓の溶滓温度を求め、前記抽出プログラムで抽出した最小画素値に基づいて、出銑滓流に含まれる溶銑の溶銑温度を求める。前記各種の所定のデータには、例えば対象画像や校正情報や温度変換情報等の、各プログラムを実行する上で必要なデータ等が含まれる。記憶部3は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。記憶部3は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部2のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部3は、比較的大きな記憶容量を持つハードディスク装置を備えても良い。
【0025】
そして、記憶部3は、前記校正情報を記憶する校正情報記憶部31および前記温度変換情報を記憶する温度変換情報記憶部32を機能的に備える。
【0026】
前記校正情報は、いわゆる黒体炉を前記撮像部1で撮像することによって得られた画像の画素値と前記黒体炉の黒体放射輝度の輝度値との第1対応関係であり、例えば、互いに異なる複数の温度それぞれで、前記黒体炉を前記撮像部1で撮影することによって予め作成される。前記黒体放射輝度の輝度値は、温度の関数であるので、前記校正情報は、黒体炉を前記撮像部1で撮像することによって得られた画像の画素値と前記黒体炉の温度との対応関係となる。例えば、前記対象画像における各画素の各画素値を、前記校正情報によって、各輝度値へ変換することによって、熱放射輝度の輝度画像、すなわち、温度画像が生成できる。前記校正情報は、前記第1対応関係を表す関係式の形式で校正情報記憶部31に記憶されて良く、あるいは、前記第1対応関係を表すテーブルの形式で校正情報記憶部31に記憶されて良い。
【0027】
前記温度変換情報は、出銑滓流が溶滓リッチな状態である場合における、最大画素値と溶銑温度との第2対応関係であり、複数のサンプルを用いることによって予め求められる。出銑滓流が溶滓リッチな状態である場合、表面から見た場合に溶銑は見えないが、溶銑も溶滓とともに出銑滓流に含まれるため、最大画素値(最大画素値に基づいて求めることができる溶滓温度)と溶銑温度とに相関性があるとの知見から、後述の温度演算部25で出銑滓流が溶滓リッチな状態である場合に溶銑温度を求めるために、前記温度変換情報を予め求め、記憶部3に記憶しておくものである。前記温度変換情報の一例が図3に示されている。図3に示す例では、最大画素値xと溶銑温度yとは、線形回帰直線によれば、相関係数Rとして、y=0.6224x+1404.6、R=0.9567の関係にある。前記温度変換情報は、このように前記第2対応関係を表す関係式の形式で温度変換情報記憶部32に記憶されて良く、あるいは、前記第2対応関係を表すテーブルの形式で温度変換情報記憶部32に記憶されて良い。
【0028】
制御処理部2は、銑滓状態判定装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、出銑滓流の混合状態を判定し、溶銑の温度や溶滓の温度を求めるための回路である。制御処理部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部2は、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部21、設定部22、抽出部23、状態判定部24および温度演算部25を機能的に備える。
【0029】
制御部21は、銑滓状態判定装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、銑滓状態判定装置D全体の制御を司るものである。
【0030】
設定部22は、撮像部1で撮像された対象画像における出銑滓流の画像中に所定のサイズの評価領域ROIを設定するものである。設定部22は、例えば、対象画像を出力部5に出力し、ユーザによる設定操作を入力部4で受け付けて、対象画像における出銑滓流の画像中に評価領域ROIを設定して良い。あるいは、設定部22は、例えば、対象画像における出銑滓流の画像中に評価領域ROIを自動的に設定して良い。より具体的には、例えば、設定部22は、まず、エッジフィルタを用いることによって対象画像における出銑滓流の画像領域のエッジを検出し、これによって対象画像における出銑滓流の画像領域を抽出する。そして、設定部22は、この抽出した対象画像における出銑滓流の画像領域内に前記所定のサイズの評価領域ROIを設定する。例えば、高炉の操業管理等を目的に出銑滓流PSの温度を測定している観点や、出銑口PHから離れるに従って生じる煙等によって出銑滓流PSの撮像が妨害される観点等から、設定部22は、前記出銑滓流の画像において、出銑口付近のスラグ堆積や煙等の影響のなるべく少ない位置に、評価領域ROIを設定する。評価領域ROIのサイズは、複数のサンプルを用いて適宜に設定されるが、例えば、前記出銑滓流の画像領域の幅(前記流出方向に略直交する幅方向の長さ)の約2/3や約1/2の長さを持つ正方形や矩形等で設定される。
【0031】
抽出部23は、設定部22で設定された評価領域ROIにおける最大画素値(最も明るい画素値、最大輝度値)および最小画素値(最も暗い画素値、0より大きい値での最小輝度値)を抽出するものである。
【0032】
状態判定部24は、抽出部23で抽出した最大画素値と最小画素値との比に基づいて、出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定するものである。
【0033】
一般に、溶銑の放射率が約0.4程度であり、溶滓の放射率が約0.9~0.95程度であると考えられている。出銑滓流は、溶銑と溶滓とが混じり合い、例えば、図5Aおよび図5Bに示すように、溶銑上に、半透明な溶滓が乗るため、出銑滓流の表面から見た溶銑の放射率は、見かけの値となってしまう。しかも、通常、場所(領域)ごとに、溶銑上に乗る溶滓の厚さD11、D12、D2が異なるため、見かけの放射率も場所(領域)ごとに変化してしまい、出銑滓流の画像は、一例では、図4Bに示すように、マーブル模様の画像となる。なお、出銑滓流PHの流速から、対象画像の各画素間で時間的に10ms以下しか異ならないので、この微小時間で急激にその温度が低下するとは考え難く、この輝度差は、溶銑上に乗る溶滓の厚さが異なり、前記溶滓の影響が異なると考えられる。
【0034】
しかしながら、出銑滓流全体の中には、図5Bに示すように、溶銑上に乗る溶滓でも、表面から充分な厚さを有する結果、表面から見た場合、実質的に前記溶銑の影響を受けない溶滓のみに見える領域(実効溶滓領域)が存在すると考えられ、対象画像の評価領域の中で最も明るい箇所を前記実効溶滓領域に比定することが最も確からしい。一方、出銑滓流全体の中には、図5Aおよび図5Bに示すように、溶銑上に溶滓が乗らない、あるいは、溶銑上に溶滓が乗っている場合でも、表面から見た場合、実質的に前記溶滓の影響を受けない溶銑のみに見える領域(実効溶銑領域)が存在すると考えられ、対象画像の評価領域の中で最も暗い箇所を前記実効溶銑領域に比定することが最も確からしい。このため、図4Bに示すように、通常の、溶銑と溶滓とが混じり合って見かけの放射率も場所(領域)ごとに変化している出銑滓流では、最大画素値と最小画素値との比、例えば、最大画素値に対する最小画素値の比は、上記から、0.4を(0.9~0.95)で割った約0.45前後に落ち着くと考えられる。その一方で、ときとして、図4Aに示すように、出銑滓流が、表面から見た場合、実質的に溶銑の影響を受けない溶滓ばかりに見える状態(溶滓リッチな状態)になることがある。この場合では、最小画素値が最大画素値に近づき、最大画素値に対する最小画素値の比は、前記約0.45前後より大きな値になると考えられる。
【0035】
実際に、図6に示す一実施例において、時刻100以降のマーブル模様に見える出銑滓流の対象画像では、最大画素値に対する最小画素値の比は、0.58±0.03(標準偏差1σ=0.03)の範囲で変動しており、出銑(時刻0)から時刻50までの溶滓リッチな状態の出銑滓流の対象画像では、最大画素値に対する最小画素値の比は、0.80±0.05(標準偏差1σ=0.05)の範囲で変動している。また、図7に示す他の一実施例において、時刻65以降のマーブル模様に見える出銑滓流の対象画像では、最大画素値に対する最小画素値の比は、0.55±0.06(標準偏差1σ=0.06)の範囲で変動しており、出銑(時刻0)から時刻65までの溶滓リッチな状態の出銑滓流の対象画像では、最大画素値に対する最小画素値の比は、0.85±0.07(標準偏差1σ=0.07)の範囲で変動している。図6に示すデータと図7に示すデータとの相違は、実際に用いられた撮像部1の個体差や撮像部1の設置態様のバラツキ等の実験系の微差に起因しているものと、発明者は、推察している。
【0036】
このことから、例えば、最大画素値に対する最小画素値の比と、予め設定された所定の閾値とを比較することによって、前記出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態が判定できる。より具体的には、状態判定部24は、最大画素値に対する最小画素値の比と、予め設定された所定の第1閾値(第1判定閾値)とを比較し、前記比が前記第1閾値以上である場合に、前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定する。前記溶滓リッチな状態とは、一例では図4Aに示すように、表面から見た場合、実質的に溶銑の影響を受けない溶滓ばかりに見え、銑滓状態判定装置の仕様に応じて許容される、見かけの放射率が溶滓の放射率とみなせる状態である。前記第1判定閾値は、図6および図7に示す実施例から、例えば、0.65や0.7や0.75等に適宜に設定される。状態判定部24は、最大画素値に対する最小画素値の比と、予め設定された所定の第2閾値(第2判定閾値)とを比較し、前記比が前記第2閾値以下である場合に、前記混合状態として前記溶滓リッチな状態を除く他の状態(溶滓と溶銑とが入り混じった状態および溶銑リッチな状態のいずれかの状態)と判定する。前記溶銑リッチな状態とは、表面から見た場合、実質的に溶滓の影響を受けない溶銑ばかりに見え、銑滓状態判定装置の仕様に応じて許容される、見かけの放射率が溶銑の放射率とみなせる状態である。前記入り混じった状態とは、一例では図4Bに示すように、溶滓と溶銑とが入り混じった、前記溶滓リッチな状態と前記溶銑リッチな状態との間の状態である。前記第2判定閾値は、図6および図7に示す実施例から、例えば、0.7や0.65等に適宜に設定される。前記第2判定閾値は、前記第1判定閾値と同値であって良く、上述の趣旨を満たす限りにおいて異なっていても良い。
【0037】
上述のことから、あるいは、例えば、最大画素値に対する最小画素値の比と、予め設定された所定の範囲とを比較することによって、前記出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態が判定できる。状態判定部24は、最大画素値に対する最小画素値の比と、予め設定された所定の第1範囲(第1判定範囲)とを比較し、前記比が前記第1範囲内である場合に、前記混合状態として溶滓リッチな状態と判定する。前記第1判定範囲は、図6および図7に示す実施例から、例えば、0.92から0.78までの範囲や、0.85から0.75までの範囲や、0.89から0.77までの範囲((0.92+0.85)/2≒0.89、(0.78+0.75)/2≒0.77)等に適宜に設定される。状態判定部24は、最大画素値に対する最小画素値の比と、予め設定された所定の第2範囲(第2判定範囲)とを比較し、前記比が前記第2範囲内である場合に、前記混合状態として前記溶滓リッチな状態を除く他の状態(溶滓と溶銑とが入り混じった状態および溶銑リッチな状態のいずれかの状態)と判定する。前記第2判定範囲は、図6および図7に示す実施例から、例えば、0.61から0.55までの範囲や、0.61から0.49までの範囲や、0.61から0.52までの範囲((0.61+0.61)/2=0.61、(0.55+0.49)/2=0.52)等に適宜に設定される。
【0038】
温度演算部25は、状態判定部24が混合状態として溶滓リッチな状態と判定した場合に、予め求めて温度変換情報記憶部32に記憶された、最大画素値と溶銑温度との第2対応関係と、抽出部23で抽出した最大画素値とから、溶銑温度を求めるものである。本実施形態では、温度演算部25は、さらに、抽出部23で抽出した最大画素値に基づいて、出銑滓流に含まれる溶滓の溶滓温度を求める。より具体的には、温度演算部25は、抽出部23によって抽出した最大画素値を、前記校正情報を用いることによって、熱放射輝度の輝度値に変換し、その温度を前記溶滓温度として求める。そして、本実施形態では、温度演算部25は、さらに、状態判定部24が混合状態として、溶滓リッチな状態を除く他の状態(溶滓と溶銑とが入り混じった状態および溶銑リッチな状態のいずれかの状態)と判定した場合に、抽出部23で抽出した最小画素値に基づいて、出銑滓流に含まれる溶銑の溶銑温度を求め、抽出部23で抽出した最大画素値に基づいて、出銑滓流に含まれる溶滓の溶滓温度を求める。より具体的には、温度演算部25は、抽出部23で抽出した最小画素値を、記憶部3の校正情報記憶部31に記憶された校正情報を用いることによって、熱放射輝度の輝度値に変換し、その温度を前記溶銑温度として求める。同様に、温度演算部25は、抽出部23で抽出した最大画素値を、前記校正情報を用いることによって、熱放射輝度の輝度値に変換し、その温度を前記溶滓温度として求める。
【0039】
なお、前記校正情報は、上述したように、黒体炉を用いることによって得られた値である。実施の出銑滓流は、黒体ではないので、その分、誤差を有する。このため、温度演算部25は、例えば、前記特許文献1に開示されているように、前記誤差を補正して溶銑温度や溶滓温度を求めても良い。
【0040】
これら制御処理部2、記憶部3、入力部4、出力部5およびIF部6は、例えば、デスクトップ型やノード型等のコンピュータによって構成可能である。
【0041】
次に、本実施形態の動作について説明する。図8は、前記銑滓状態判定装置における動作を示すフローチャートである。
【0042】
このような構成の銑滓状態判定装置Dは、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。その制御処理プログラムの実行によって、制御処理部2には、制御部21、設定部22、抽出部23、状態判定部24および温度演算部25が機能的に構成される。
【0043】
そして、出銑滓流における混合状態や温度を評価するにあたって、図8において、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2によって、撮像部1で、高炉SFに形成された出銑口PHから流出する出銑滓流PSを撮像し、前記出銑滓流PSの画像を含む対象画像を取得する(S11)。
【0044】
次に、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の設定部22によって、前記処理S11において撮像部1で撮像された対象画像における出銑滓流の画像中に所定のサイズの評価領域を設定する(S12)。前記評価領域の設定は、上述したように、ユーザ(オペレータ)の設定操作を入力部4で受け付けて、あるいは、自動的に、実施される。
【0045】
一例では、処理S11の実行によって、図4Aに示す対象画像POaが取得され、処理S12の実行によって、対象画像POaにおける出銑滓流の画像PPa中に、正方形で示す評価領域ROIaが設定される。対象画像POaにおける出銑滓流の画像PPaは、溶滓リッチな状態により、大多数が輝度の高い領域となっている。また、他の一例では、処理S11の実行によって、図4Bに示す対象画像PObが取得され、処理S12の実行によって、対象画像PObにおける出銑滓流の画像PPb中に、正方形で示す評価領域ROIbが設定される。対象画像PObにおける出銑滓流の画像PPbは、溶銑の放射率と溶滓の放射率との差およびこれらの混合状態により、いわゆるマーブル模様となっている。
【0046】
次に、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の抽出部23によって、前記処理S12において設定部22で設定された評価領域ROI(ROIa、ROIb)における最大画素値(最も明るい画素値、最大輝度値)および最小画素値(最も暗い画素値、0より大きい値での最小輝度値)それぞれを抽出する(S13)。
【0047】
次に、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の状態判定部24によって、前記処理S13において抽出部23で抽出した最大画素値と最小画素値との比を求める。より具体的には、本実施形態では、状態判定部24は、最大画素値に対する最小画素値の比を求める(比=最小画素値/最大画素値)。
【0048】
次に、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の状態判定部24によって、最大画素値に対する最小画素値の比と、前記第1判定範囲とを比較し、前記比が前記第1判定範囲内であるか否かを判定する(S15)。なお、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の状態判定部24によって、最大画素値に対する最小画素値の比と、前記第1判定閾値とを比較し、前記比が前記第1判定閾値以上であるか否かを判定しても良い。
【0049】
この判定の結果、前記比が前記第1判定範囲内である場合(Yes)には、銑滓状態判定装置Dは、次に、処理S16および処理S17の各処理を順次に実行した後に、処理S18を実行する。なお、前記比と前記第1判定閾値とを比較する場合では、前記比が前記第1判定閾値以上である場合(Yes)には、銑滓状態判定装置Dは、次に、処理S16および処理S17の各処理を順次に実行した後に、処理S18を実行する。
【0050】
この処理S16では、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の状態判定部24によって、前記混合状態を溶滓リッチな状態と判定する。
【0051】
そして、前記処理S17では、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の温度演算部25によって、温度変換情報記憶部32に記憶された、最大画素値と溶銑温度との第2対応関係と、処理S13で抽出部23によって抽出した最大画素値とから、溶銑温度を求める。より具体的には、温度演算部25は、前記第2対応関係から、処理S13で抽出部23によって抽出した最大画素値に対応する溶銑温度を求める。そして、温度演算部25は、処理S13で抽出部23によって抽出した最大画素値を、前記校正情報を用いることによって、熱放射輝度の輝度値に変換し、その温度を前記溶滓温度として求める。
【0052】
一方、前記処理S15における判定の結果、前記比が前記第1判定範囲内ではない場合(No)には、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の状態判定部24によって、前記混合状態を、溶滓リッチな状態を除く他の状態と判定し(S21)、次に、処理S22を実行する。なお、前記比と前記第1判定閾値とを比較する場合では、前記比が前記第1判定閾値以上ではない場合(No)には、銑滓状態判定装置Dは、前記処理S21を実行した後に、処理S22を実行する。
【0053】
この処理S22では、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の状態判定部24によって、最大画素値に対する最小画素値の比と、前記第2判定範囲とを比較し、前記比が前記第2判定範囲内であるか否かを判定する。なお、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の状態判定部24によって、最大画素値に対する最小画素値の比と、前記第2判定閾値とを比較し、前記比が前記第2判定閾値以下であるか否かを判定しても良い。
【0054】
この判定の結果、前記比が前記第2判定範囲内である場合(Yes)には、銑滓状態判定装置Dは、次に、処理S23を実行した後に、処理S18を実行する。一方、前記判定の結果、前記比が前記第2判定範囲内ではない場合(No)には、銑滓状態判定装置Dは、本処理を終了する。なお、前記比と前記第2判定閾値とを比較する場合では、前記比が前記第2判定閾値以下である場合(Yes)には、銑滓状態判定装置Dは、次に、処理S23を実行した後に、処理S18を実行し、前記比が前記第2判定閾値以下ではない場合(No)には、銑滓状態判定装置Dは、本処理を終了する。
【0055】
この処理S23では、銑滓状態判定装置Dは、制御処理部2の温度演算部25によって、前記処理S13で抽出部23によって抽出した最大画素値および最小画素値それぞれに基づいて、出銑滓流に含まれる溶滓および溶銑それぞれの溶滓温度および溶銑温度それぞれを求める。より具体的には、温度演算部25は、前記処理S13で抽出部23によって抽出した最大画素値を、記憶部3の校正情報記憶部31に記憶された校正情報を用いることによって、熱放射輝度の輝度値に変換し、その温度を前記溶滓温度として求める。そして、温度演算部25は、前記処理S13で抽出部23によって抽出した最小画素値を、前記校正情報を用いることによって、熱放射輝度の輝度値に変換し、その温度を前記溶銑温度として求める。
【0056】
そして、前記処理S18では、銑滓状態判定装置Dは、制御部21によって、前記混合状態(溶滓リッチな状態、または、他の状態)、溶銑温度および溶滓温度それぞれを出力部5から外部へ出力し、本処理を終了する。なお、必要に応じて、制御部21は、これら前記混合状態、溶銑温度および溶滓温度それぞれをIF部6から外部の機器へ出力しても良い。
【0057】
このような出銑滓流における混合状態、溶銑温度および溶滓温度それぞれを求める上述の各処理が、高炉SFの操業中、所定の時間間隔で、例えば撮像部1が動画像を生成する場合に複数のフレームおきに、繰り返し実行され、出銑滓流における混合状態、溶銑温度および溶滓温度がモニタ(監視)される。
【0058】
以上説明したように、本実施形態における銑滓状態判定装置Dおよびこれに実装された銑滓状態判定方法は、最大画素値と最小画素値との比に基づいて、出銑滓流における溶銑と溶滓との混合状態を判定できる。
【0059】
上記銑滓状態判定装置Dおよび銑滓状態判定方法は、出銑滓流が溶滓リッチな状態である場合でも、予め求めた、互いに相関する最大画素値と溶銑温度との第2対応関係を用い、抽出部23で抽出した最大画素値から溶銑温度を求めることができる。
【0060】
なお、上述の実施形態では、1個の撮像部1で出銑滓流を1方向から撮像して出銑滓流における混合状態や温度が測定されたが、出銑滓流に対し互いに直交する水平方向および鉛直方向の2方向から2個の撮像部1それぞれで撮像してこれら2方向から観測した出銑滓流における各混合状態や各温度が測定されても良い。
【0061】
また、上述の実施形態において、抽出部23は、設定部22で設定された評価領域ROI(ROIa、ROIb)における最小画素値から下位一定割合の画素値までを代表する下位画素代表値を前記最小画素値として求め、設定部22で設定された評価領域ROI(ROIa、ROIb)における最大画素値から上位一定割合の画素値までを代表する上位画素代表値を前記最大画素値として求めても良い。状態判定部24は、このように求められた最大画素値および最小画素値に基づいて前記混合状態を判定し、温度演算部25は、このように求められた最大画素値および最小画素値に基づいて出銑滓流における溶銑温度および溶滓温度それぞれを求める。
【0062】
図9は、前記銑滓状態判定装置の変形形態を説明するための図である。図9の横軸は、画素値(明るさ)であり、その縦軸は、度数である。評価領域ROIにおける各画素の画素値の度数をグラフ化すると、一例では、図9に示すグラフとなる。上述の実施形態では、図9に示す例では、最小画素値minのみが用いられたが、この変形形態では、最小画素値minから下位一定割合の画素値X1までを代表する下位画素代表値が最小画素値とみなされる。下位一定割合は、例えば、10%、7%、5%、3%、1%、下位10位までに対応する割合、下位5位までに対応する割合、および、下位3位までに対応する割合等であり、適宜に、設定される。前記下位画素代表値は、下位一定割合での画素値X1そのものや、最小画素値minから下位一定割合以内の画素値に対して、度数を考慮した加重平均値や時間的な変動を考慮した算術平均値等の統計学的な値である。同様に、上述の実施形態では、図9に示す例では、最大画素値maxのみが用いられたが、この変形形態では、最大画素値manから上位一定割合の画素値X2までを代表する上位画素代表値が最大素値とみなされる。上位一定割合は、例えば、10%、7%、5%、3%、1%、上位10位までに対応する割合、上位5位までに対応する割合、および、上位3位までに対応する割合等であり、適宜に、設定される。前記上位画素代表値は、上位一定割合での画素値X2そのものや、最大画素値manから上位一定割合以内の画素値に対して、度数を考慮した加重平均値や時間的な変動を考慮した算術平均値等の統計学的な値である。
【0063】
このような変形形態における銑滓状態判定装置Dおよびその方法は、各代表値を用いるので、ロバスト性を向上でき、ノイズ耐性が高く、より安定した測定結果を得ることができる。
【0064】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0065】
D 銑滓状態判定装置
ROIa、ROIb 評価領域
1 撮像部
2 制御処理部
3 記憶部
21 制御部
22 設定部
23 抽出部
24 状態判定部
25 温度演算部
31 校正情報記憶部
32 温度変換情報記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9