(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】送電ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 9/02 20060101AFI20220202BHJP
H01B 7/14 20060101ALI20220202BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220202BHJP
C23C 28/02 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
H01B9/02 A
H01B7/14
H01B7/18 G
C23C28/02
(21)【出願番号】P 2018521434
(86)(22)【出願日】2016-11-08
(86)【国際出願番号】 EP2016076968
(87)【国際公開番号】W WO2017080998
(87)【国際公開日】2017-05-18
【審査請求日】2019-10-17
(32)【優先日】2015-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502385850
【氏名又は名称】エンベー ベカルト ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】NV Bekaert SA
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】ペタール ゴゴラ
(72)【発明者】
【氏名】ペーテル ヤンセンス
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-514291(JP,A)
【文献】国際公開第2013/117270(WO,A1)
【文献】特開2003-301240(JP,A)
【文献】特開2014-129581(JP,A)
【文献】特開2012-200775(JP,A)
【文献】特開平01-202394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 9/02
H01B 7/14
H01B 7/18
C23C 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の引張強度を有する複数の第1の外装ワイヤ(31)を備える少なくとも第1の部分であって、前記複数の第1の外装ワイヤは100g/m
2より厚い厚さの第1の金属保護コーティング(32)で被覆された第1の金属材料でできており、前記第1の金属材料は第1の透磁率μ1を有する、少なくとも第1の部分と、
第2の引張強度を有する複数の第2の外装ワイヤ(33)を備える少なくとも第2の部分であって、前記複数の第2の外装ワイヤは100g/m
2より厚い厚さの第2の金属保護コーティング(34)で被覆された第2の金属材料でできており、前記第2の金属材料は第2の透磁率μ2を有し、μ2≠μ1である、少なくとも第2の部分と、を含み、
前記複数の第1の外装ワイヤ(31)のそれぞれは、前記複数の第2の外装ワイヤ(33)のうちの1つに継手部(36)で長手方向に接合された、送電ケーブル(20)であって、
前記第1及び前記第2の金属保護コーティングは、前記継手部(36)においては存在せず、前記継手部(36)
の外周面は、前記第1及び前記第2の金属保護コーティングと同じ元素を含む化合物により塗装され
た塗装部を含み、前記継手部(36)は第3の引張強度を有し、
前記第3の引張強度は、前記第1の引張強度と前記第2の引張強度の低い方の引張強度の少なくとも80%超であることを特徴とする、送電ケーブル(20)。
【請求項2】
前記送電ケーブル(20)は3相海底送電ケーブルである、請求項1に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項3】
前記第1の金属材料は炭素鋼である、請求項1又は2に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項4】
前記第2の金属材料は、オーステナイト鋼、銅、青銅、真鍮、合成物及び合金から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項5】
前記オーステナイト鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼である、請求項4に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項6】
前記複数の第1の外装ワイヤ(31)のうちの少なくとも1つは、抵抗バット溶接継手、フラッシュバット溶接継手、及びTIG溶接継手を含むバット溶接継手(36)によって、前記複数の第2の外装ワイヤ(33)のうちの1つと長手方向に接合される、請求項1~5のいずれか一項に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項7】
前記複数の第1の外装ワイヤ(31)の直径は、前記複数の第2の外装ワイヤ(33)の直径と同じである、請求項1~6のいずれか一項に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項8】
前記第1及び前記第2の金属保護コーティング(32,34)は、亜鉛、アルミニウム、亜鉛合金、又はアルミニウム合金から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項9】
前記第1及び前記第2の金属保護コーティング(32,34)の厚さは、200g/m
2~600g/m
2の範囲内である、請求項1~8のいずれか一項に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項10】
前記第1及び前記第2の金属保護コーティング(32,34)は、溶融亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金コーティングである、請求項1~9のいずれか一項に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項11】
前記第1の金属材料及び/又は前記第2の金属材料の表面は、ニッケル、亜鉛、及び/又は亜鉛合金コーティングを用いた電気めっきの前処理により、或いは、加熱された還元ガスか、又はアルゴン、窒素、及び/若しくは水素の混合ガスで充填された管の保護下で亜鉛めっき浴に移動させることにより、得ることができる、請求項10に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項12】
前記塗装
部は、前記継手部から前記第1及び前記第2の外装ワイヤに沿って20cm未満の長さで延在する、請求項
1に記載の送電ケーブル(20)。
【請求項13】
第1の引張強度を有する第1のワイヤを備える少なくとも第1の部分であって、前記第1のワイヤは100g/m
2より厚い厚さの第1の金属保護コーティングで被覆された第1の金属材料でできており、前記第1の金属材料は第1の透磁率μ1を有する、少なくとも第1の部分と、
第2の引張強度を有する第2のワイヤを備える少なくとも第2の部分であって、前記第2のワイヤは100g/m
2より厚い厚さの第2の金属保護コーティングで被覆される第2の金属材料でできており、前記第2の金属材料は第2の透磁率μ2を有し、μ2≠μ1である、少なくとも第2の部分と、を含み、
前記第1のワイヤ及び前記第2のワイヤは継手部で互いに長手方向に接合された、複合ワイヤであって、
前記第1及び前記第2の金属保護コーティングは、前記継手部においては存在せず、前記継手部
の外周面は、前記第1及び前記第2の金属保護コーティングと同じ元素を含む化合物により塗装され
た塗装部を含み、前記継手部は、前記継手部は第3の引張強度を有し、
前記第3の引張強度は、前記第1の引張強度と前記第2の引張強度の低い方の引張強度の少なくとも80%超であることを特徴とする、複合ワイヤ。
【請求項14】
(a)2つの端部と第1の引張強度とを有する第1の外装ワイヤ(31)を設ける工程であって、前記第1の外装ワイヤは100g/m
2より厚い厚さを有する第1の金属保護コーティング(32)で被覆された第1の金属材料でできており、前記第1の金属材料は第1の透磁率μ1を有する、工程と、
(b)2つの端部と第2の引張強度とを有する第2の外装ワイヤ(33)を設ける工程であって、前記第2の外装ワイヤは100g/m
2より厚い厚さを有する第2の金属保護コーティング(34)で被覆される第2の金属材料でできており、前記第2の金属材料は第2の透磁率μ2を有し、μ2≠μ1である、工程と、
(c)前記第1の外装ワイヤの一方の端部
の外周面から前記第1の金属保護コーティングを取り除いて、前記第1の金属材料を有する第1の端部を形成する工程と、
(d)前記第2の外装ワイヤの一方の端部
の外周面から前記第2の金属保護コーティングを取り除いて、前記第2の金属材料を有する第2の端部を形成する工程と、
(e)前記第1の外装ワイヤ(31)と前記第2の外装ワイヤ(33)が継手部(36)で互いに長手方向に接合されるように、前記第1の端部と前記第2の端部を接合して複合外装ワイヤ(30)を形成する工程であって、前記継手部(36)は第3の引張強度を有し、前記第3の引張強度は前記第1の引張強度及び前記第2の引張強度の少なくとも80%超である、工程と、
(f)前記継手部(36)
の外周面、前記第1の端部
の外周面、及び前記第2の端部
の外周面を、前記第1又は前記第2の金属保護コーティング用と同じ元素を含む化合物で塗装する工程と、
(g)複数の前記複合外装ワイヤ(30)をケーブル接続して、複数の前記第1の外装ワイヤを有する送電ケーブル用の少なくとも第1の部分と、複数の前記第2の外装ワイヤを有する前記送電ケーブル用の少なくとも第2の部分とを提供する工程と、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気ケーブル、即ち送電、とりわけ交流(AC)送電用のケーブルの分野に一般的に関し、より詳細には、水中に配置するように実質的に意図された海底送電ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気は、現代社会に欠くことのできない要素である。送電は、発電プラントから需要中心地の近傍に位置する変電所までの電気エネルギーの大量輸送である。送電線は、主として高電圧3相交流(AC)を使用する。電気は、長距離伝送で失われるエネルギーを低減するために、高電圧(110kV以上)で伝送される。電力は通常、高架の送電線を介して伝送される。地下送電は、コストが相当に高く、また運用上の制限が多くなるが、都市部又は重要な場所で用いられることがある。ごく最近では、海底電力ケーブルは、自前の電気生産の無い小さな島々又は沖合の採油プラットフォームに電力を供給する可能性をもたらしている。一方、海底電力ケーブルは、沖合(風、波、海流、…)で生産された電気を本土まで陸上に運ぶ可能性ももたらしている。
【0003】
これらの電力ケーブルは通常、鋼ワイヤ外装ケーブルである。鋼ワイヤ外装ケーブルの典型的な構造10を、
図1に示す。導体12は通常、単純な撚り銅から作られている。架橋ポリエチレン(XLPE)などから出来ている絶縁体14は、良好な耐水性及び優れた絶縁特性を有する。ケーブル内の絶縁体14により、導体及び他の金属物質が互いに接触しないことが確実になる。ケーブルの内側層と外側層との間に保護境界を設けるために、ポリ塩化ビニル(PVC)などで出来ている土台16が用いられる。鋼ワイヤなどで出来ている外装18は、機械的保護を提供し、とりわけ外部からの衝撃に対する保護を提供する。更に、外装ワイヤ18は、設置中の張力を緩和することができ、従って、銅製の導体が引き伸ばされるのを防止することができる。黒色のPVCなどから出来ている、可能なシース19は、ケーブルの全ての構成要素をまとめて保持し、外部の圧力からの更なる保護を提供する。
【0004】
使用時には、海底ケーブルは一般的に水中に設置され、通常は底地面又は海底の下に埋められるが、その一部は異なる環境におかれることがある。これは、例えば、海底のつながりの岸端部、中間の島々の横断、連続的な陸上部分、運河の縁、深海から港までの移行、及び類似の状況でそうである。これらの環境に関連して、沖合への又は陸上への主要経路での状況に関して、熱特性がより悪く、かつ/又は温度がより高いことが多い。
【0005】
定格電流、即ち、ケーブルが連続的に又は所与の負荷に応じて安全に運ぶことができる電流の量は、電力ケーブルにとって重要なパラメータである。定格電流を長期に渡って超過した場合、発生した熱によって引き起こされる温度上昇により、導体の絶縁が損傷を受けることがあり、また、ケーブルの電気的特性又は機械的特性を恒久的に劣化させることがある。従って、電力ケーブルの構成、例えば、コアの寸法は、定格電流によって決定される。ケーブルの定格電流は、ケーブルのコアの寸法、配電回路の動作上のシステムパラメータ、全てのケーブル構成要素について用いられている絶縁及び材料のタイプ、並びに設置条件及び周辺環境の熱特性に依存している。
【0006】
AC電力ケーブルでは、導体に流れる電流によって発生する磁界が、強磁性材料、又は、外装ワイヤとして使用される炭素鋼などの高い透磁率を有する材料における磁気損失を誘発する。この磁気損失は、材料内に熱を引き起こす(又は、熱に変換される)。電流の輸送に起因して導体によって生成される熱に加えて、そのような誘発された熱は、とりわけ電力ケーブルが熱放散能力が低い又は不十分な環境に配置された場合には、電力ケーブルの全体的な通電容量を制限することがある。
【0007】
ケーブル外装での損失によって生成される熱に起因する、電気ケーブルの電力輸送能力の低下を回避するために、解決策が検討されてきた。
【0008】
1つの提案は、ケーブルの寸法を増加させること、特に、不十分な熱放散の状態にあるケーブル部分の寸法を増加させることである。しかしながら、そのような解決策は、より重くより高価なケーブルを意味するので、望ましくない。異なる寸法の別個の部分からなるケーブルを有することの短所は、ケーブルの連続性が損なわれ、ケーブルの機械抵抗にとって有害であること、また、ケーブルの部分間に特別なトランジション継手を必要とし、敷設作業中に注意深い取り扱いを必要とすることである。更に、送電ケーブルのこれらのトランジション継手は、更なる電気的損失を発生させることもある。
【0009】
米国特許出願公開第20120024565号明細書は、この問題を解決するための別の解決策を開示している。この明細書は、第1の金属材料からなるケーブル外装を備えた1つの第1の部分と、第2の金属材料からなるケーブル外装要素を備えた1つの第2の部分とを含む送電ケーブルについて開示している。第2の金属材料には、実質的に強磁性が無い。第1及び第2の部分は互いに長手方向につながっており、第1の部分の外装要素と第2の部分の外装要素との間の接合部に対応して防食保護が設けられている。この防食保護は、第1の部分の外装要素と第2の部分の外装要素との間に挿入された亜鉛のロッド又は細片を含む。この提案された解決策によれば、第1の部分を第2の部分に接合する追加のスリーブ又はベルトには追加の亜鉛のロッド又は細片を取り付けなくてはならず、従って、電力ケーブルの製造が複雑で高価になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の主な目的は、従来技術の問題点を克服することである。
【0011】
本発明の別の目的は、異なる部分で異なる熱発生能力を有し、低コストで製造することができる電力ケーブルを提供することである。
【0012】
本発明の更に別の目的は、電力ケーブル用の外装構造として、異なるワイヤから作られる複合ワイヤを製造することである。そのような複合ワイヤは、電力ケーブルを外装するための要件を満足するのに十分な引張強度を有する。
【0013】
本発明の更に別の目的は、異なる発熱を有する複数の部分を含む既知のケーブルよりも、より信頼できる耐食性能を有する、外装された送電ケーブルを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、送電ケーブルが提供され、この送電ケーブルは、第1の引張強度を有する複数の第1の外装ワイヤを備える少なくとも第1の部分であって、上記複数の第1の外装ワイヤは100g/m2より厚い厚さの第1の金属保護コーティングで被覆される第1の金属材料でできており、上記第1の金属材料は第1の透磁率μ1を有する、少なくとも第1の部分と、
第2の引張強度を有する複数の第2の外装ワイヤを備える少なくとも第2の部分であって、上記複数の第2の外装ワイヤは100g/m2より厚い厚さの第2の金属保護コーティングで被覆される第2の金属材料でできており、上記第2の金属材料は第2の透磁率μ2を有し、μ2≠μ1である、少なくとも第2の部分と、を含み、
上記第1の外装ワイヤのそれぞれは、上記複数の第2の外装ワイヤのうちの1つに継手部で長手方向に接合され、上記継手部は第3の引張強度を有し、
第3の引張強度は、第1の引張強度と第2の引張強度の低い方の引張強度の少なくとも80%超である。
【0015】
本発明による送電ケーブルは、3相の海底送電ケーブルとすることができる。それと共に、電力ケーブルは、高電圧、中電圧に加えて低電圧のケーブルも含む。今日の中~高電圧で使用される一般的な電圧レベルは、例えば、沖合の風力発電所の場内のケーブル配線の場合、場内のケーブル配線用には33kVであり、輸出ケーブル用には150kVである。これは、それぞれ66kV及び220kVに向かって漸進的に変化することがある。高電圧電力ケーブルは、絶縁技術が構築を可能にする場合には、280kV、320kV、又は380kVまで拡張することもできる。一方、本発明による電力ケーブルは、異なる周波数を有する電力を伝送することができる。例えば、本発明による電力ケーブルは、欧州では50Hz、南北アメリカでは60Hzである標準的なAC送電周波数を伝送することができる。更に、この電力ケーブルは、例えばドイツの鉄道などの17Hz又は更に他の周波数を使用する伝送システムに適用することもできる。
【0016】
第1の外装ワイヤの第1の金属材料の透磁率μ1は、第2の金属材料の透磁率μ2とは異なっている。例えば、μ1<μ2である場合、第1の外装ワイヤと第2の外装ワイヤが同じAC電力ケーブルを外装しているなら、第1の外装ワイヤの磁気損失は第2の外装ワイヤの磁気損失よりも小さいことを示す。従って、第1の外装ワイヤは、より少ない磁気損失又は熱を生成し、不十分な熱放散領域で使用するのにより望ましい。第1の外装ワイヤのうちの1つが、第2の外装ワイヤのうちの1つと長手方向に接合される。複数の第1及び第2の外装ワイヤが個別に長手方向に接合されて、複数の複合ワイヤを形成する。そのような複合ワイヤによって外装される電力ケーブルは、異なる部分で異なる熱発生がある。言い換えると、そのような電力ケーブルは、好ましくない熱放散環境ではケーブルの該当部分を第1の外装ワイヤで外装し、好ましい熱放散環境ではケーブルの該当部分を第2の外装ワイヤで外装することによって、異なる熱放散環境でほぼ一定の温度を維持することができる。従って、伝送時に電力ケーブル全体に渡って同じ又は同様の定格電流を有するために、他の構成を変更する必要はない。
【0017】
第1及び第2の外装ワイヤは個別に接合される。従って、接合された外装ワイヤ即ち複合ワイヤは、製品において連続ワイヤとみなすことができる。連続ワイヤとは、通常、同一の材料からできており、接続手段などの中断の無い均一のワイヤを意味する。米国特許出願公開第20120024565号明細書に開示される処理とは対照的に、本発明による電力ケーブルの製造処理、特にケーブル敷設及び束ね処理は、継手に起因して中断されることがない。これにより、別個の継手スリーブ又はベルト並びに亜鉛ロッドのような追加の防食要素の導入に関連した複雑さが回避される。一方、厚い保護コーティングのおかげで、本発明による外装ワイヤは、腐食から十分に保護される。
【0018】
重要なことだが、本発明に従って作られた複合ワイヤ又は継手部分は、電力ケーブルを外装するための要件を十分に満足する高い引張強度を有する。
【0019】
例として、第1の金属材料は炭素鋼とすることができ、第2の金属材料はオーステナイト鋼、銅、青銅、真鍮、合成物及び合金から選択することができる。オーステナイト鋼は、非磁性であるオーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0020】
本発明によれば、上記複数の第1の外装ワイヤのうちの少なくとも1つは、抵抗バット溶接継手、フラッシュバット溶接継手、及びタングステン不活性ガス(TIG)溶接継手を含むバット溶接継手によって、上記複数の第2の外装ワイヤのうちの1つと長手方向に接合される。上記複数の第1の外装ワイヤの直径は、上記複数の第2の外装ワイヤの直径と同じであることが好ましい。このようにして形成された複合ワイヤは、同じ直径を有する連続ワイヤのように見えるか又は連続ワイヤとしてみなすことができ、外装層として一緒にケーブル形成することが容易である。
【0021】
一例として、第1及び第2の金属保護コーティングは、亜鉛、アルミニウム、亜鉛合金、又はアルミニウム合金から選択される。亜鉛アルミニウムコーティングは、亜鉛よりも全般的な耐食性が優れている。亜鉛とは対照的に、亜鉛アルミニウムコーティングはより耐熱性がある。更に亜鉛とは対照的に、亜鉛アルミニウム合金は高温にさらされても剥離しない。亜鉛アルミニウムコーティングは、2重量%~23重量%の範囲、例えば、2重量%~12重量%の範囲、又は例えば、5重量%~10重量%の範囲のアルミニウム含有量を有することがある。好ましい配合は、共析位置、即ち約5重量%のアルミニウムの周辺である。亜鉛合金コーティングは、亜鉛合金の0.1重量%未満の量のランタン又はセリウムなどの湿潤剤を更に有することがある。コーティングの残りの部分は、亜鉛及び不可避の不純物である。別の好ましい混合物は、約10重量%のアルミニウムを含む。このアルミニウムの量の増加により、約5重量%のアルミニウムを有する共析混合物よりも優れた腐食保護がもたらされる。ケイ素及びマグネシウムなどの他の元素を亜鉛アルミニウムコーティングに追加することができる。耐食性を最適化するために、とりわけ良い合金は、2重量%~10重量%のアルミニウム及び0.2重量%~3.0重量%のマグネシウムを含み残りは亜鉛であることが、より好ましい。
【0022】
第1及び第2の金属保護コーティングの厚さは、200g/m2~600g/m2の範囲内であることが好ましい。上記第1及び第2の金属保護コーティングは、溶融亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金コーティングであることが、より好ましい。第1の金属材料と溶融亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金コーティングとの間、並びに第2の金属材料と溶融亜鉛めっき及び/又は亜鉛合金コーティングとの間に、電気めっきをされたニッケル、亜鉛、又は亜鉛合金の中間層が存在することがある。或いは、表面活性化後のワイヤを、加熱された還元ガスか又はアルゴン、窒素、及び/若しくは水素の混合ガスで充填された管の保護下で亜鉛めっき浴に移すことができる。これらの可能な前処理は、活性化された表面を空気又は酸素の汚染から封鎖し、従って活性化された表面上で酸化物が発生するのを回避することを目的としている。従って、これらの前処理は、金属材料の表面が、後で形成される保護コーティング又は耐食性コーティングと良好な接着を形成するのを助ける。
【0023】
継手部分を完全に腐食環境から絶縁するために、継手部分は、第1又は第2の金属保護コーティング用と同じ元素を含む化合物で塗装されることが好ましい。この塗装は、継手部分から第1及び第2の外装ワイヤに沿って、20cm未満、例えば10cm又は5cm以内の長さで延在することがある。
【0024】
本発明の第2の態様によれば、ワイヤアセンブリ又は複合ワイヤが提供され、このワイヤアセンブリ又は複合ワイヤは、第1の引張強度を有する第1のワイヤを備える少なくとも第1の部分であって、上記第1のワイヤは100g/m2より厚い厚さの第1の金属保護コーティングで被覆される第1の金属材料でできており、上記第1の金属材料は第1の透磁率μ1を有する、少なくとも第1の部分と、
第2の引張強度を有する第2のワイヤを備える少なくとも第2の部分であって、上記第2のワイヤは100g/m2より厚い厚さの第2の金属保護コーティングで被覆される第2の金属材料でできており、上記第2の金属材料は第2の透磁率μ2を有し、μ2≠μ1である、少なくとも第2の部分と、を含み、
上記第1のワイヤ及び上記第2のワイヤは継手部分で互いに長手方向に接合され、上記継手部分は第3の引張強度を有し、
第3の引張強度は、第1の引張強度と第2の引張強度の低い方の引張強度の少なくとも80%超である。
【0025】
複数の複合ワイヤを、電力ケーブルの少なくとも一部の周りに巻きつけることができる。電力ケーブルは、上記複合ワイヤでできている少なくとも環状の外装層を有することが好ましい。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、送電ケーブルを製造するための方法が提供され、この方法は、
(a)2つの端部と第1の引張強度とを有する第1の外装ワイヤを設ける工程であって、上記第1の外装ワイヤは100g/m2より厚い厚さを有する第1の金属保護コーティングで被覆された第1の金属材料でできており、上記第1の金属材料は第1の透磁率μ1を有する、工程と、
(b)2つの端部と第2の引張強度とを有する第2の外装ワイヤを設ける工程であって、上記第2の外装ワイヤは100g/m2より厚い厚さを有する第2の金属保護コーティングで被覆される第2の金属材料でできており、上記第2の金属材料は第2の透磁率μ2を有し、μ2≠μ1である、工程と、
(c)上記第1の外装ワイヤの一方の端部から上記第1の金属保護コーティングを取り除いて、上記第1の金属材料を有する第1の端部を形成する工程と、
(d)上記第2の外装ワイヤの一方の端部から上記第2の金属保護コーティングを取り除いて、上記第2の金属材料を有する第2の端部を形成する工程と、
(e)上記第1の外装ワイヤと第2の外装ワイヤが継手部分で互いに長手方向に接合されるように、上記第1の端部と第2の端部を接合して複合外装ワイヤを形成する工程であって、上記継手部分は第3の引張強度を有し、第3の引張強度は第1の引張強度及び第2の引張強度の少なくとも80%超である、工程と、
(f)上記継手部分、上記第1の端部、及び上記第2の端部を、上記第1又は第2の金属保護コーティング用と同じ元素を含む化合物で塗装する工程と、
(g)複数の上記複合外装ワイヤをケーブル接続して、複数の上記第1の外装ワイヤを有する送電ケーブル用の少なくとも第1の部分と、複数の上記第2の外装ワイヤを有する上記送電ケーブル用の少なくとも第2の部分とを提供する工程と、を含む。
【0027】
第1及び第2の外装ワイヤが接合されるのに先立って、金属保護コーティングが除去される。この工程は、継手部分の高い引張強度に寄与する。保護コーティング、例えば亜鉛が除去されていない場合、例えば溶接による接合作業中に、第1又は第2の材料の粒子境界での亜鉛の偏析が、引張強度及び延性の損失を引き起こす。金属保護コーティングの事前の除去は、良好な機械的特性を保証する。
【0028】
海底ケーブル用の外装ワイヤとして本発明のワイヤアセンブリを応用すると、異なるタイプのワイヤを外装することにより、電力ケーブルの磁気損失に起因する熱の発生を調節することができるので、電力ケーブルの耐用年数が実質的に引き延ばされる。同時に、本発明による特に外装用の電力ケーブルの製造は、連続ワイヤの外装用と同じ工程に依然として従うことができる。更に、電力ケーブルの寸法は、複合ワイヤのせいで変更されることはない。従って、電力ケーブルの機械的特性は悪影響を受けない。更に、本発明によるケーブル製造の総コストは、異なる発熱を有する部分を備える他の一般的に知られている送電ケーブルの製造コストよりも低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明は、非限定的な例及び添付の図面と共に考慮されると、詳細な説明を参照してよりよく理解されるであろう。
【
図2】外装ワイヤを有する3相電力ケーブルの断面を示す。
【
図3】本発明による溶接された外装ワイヤの長手方向に沿った断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図2は、本発明の鋼ワイヤで外装された3相海底電力ケーブルの断面を表す。このケーブルは、コンパクトな撚り合わせられた剥き出しの銅の導体21と、これに続く導体シールド22とを含む。導体が互いに接触しないことを確実にするために、絶縁シールド23が設けられる。絶縁された導体は、バインダーテープによって充填剤24と一緒にケーブル形成され、これに鉛合金シース25が続く。鉛合金シース25は、海底ケーブルに対して厳しい環境要求があるために、必要とされることが多い。シース25は通常、ポリエチレン(PE)又はポリ塩化ビニル(PVC)の被覆物を含む外側層26によって覆われている。この構造は、鋼ワイヤ外装層28によって外装される。本発明によれば、使用される鋼ワイヤ28は、強力な腐食保護のための粘着性の亜鉛めっき層を有する、溶接された鋼ワイヤであることがある。PVC又は架橋ポリエチレン(XLPE)又はPVCとXLPE層の組み合わせなどで出来ている外側シース29が、外装層28の外側に設けられることが好ましい。
【0031】
図3は、溶接された外装ワイヤ30の長手方向に沿った断面である。この例では、溶接された外装ワイヤ30は、2つのタイプのワイヤ、例えば、EN10257-2に準拠した低炭素鋼グレード65などの低炭素ワイヤ31、及び、例えばステンレス鋼グレードAISI302などのステンレス鋼ワイヤ33を含む。両方のワイヤとも、例えば亜鉛32、34などの、腐食保護コーティングで被覆されている。
【0032】
例えば6mmの直径を有する、鋼ワイヤ、即ち、低炭素グレード65又はステンレスグレードAISI302が、以降の工程に従ってまず被覆される。
【0033】
この鋼ワイヤはまず、脱脂浴(リン酸を含んでいる)で30℃~80℃で数秒間、脱脂される。脱脂を助けるために、浴内に超音波発生器が設けられる。或いは、鋼ワイヤはまず、アルカリ脱脂浴(NaOHを含んでいる)で30℃~80℃で数秒間、脱脂されてもよい。
【0034】
これに続いて、鋼ワイヤが20℃~30℃の酸洗い浴(100~500g/lの硫酸を含んでいる)に浸される、酸洗い工程が行われる。これに続いて、別の連続する酸洗いが行われ、これは、鋼ワイヤの表面の酸化物を更に取り除くために、鋼ワイヤを20℃~30℃の酸洗い浴(100~500g/lの硫酸を含んでいる)に短時間浸すことにより行われる。全ての酸洗い工程は、十分な活性化を達成するために、電流によって援助されてもよい。
【0035】
この第2の酸洗い工程の後で、鋼ワイヤは直ちに、20℃~40℃の電気分解浴(10~100g/lの硫酸亜鉛を含んでいる)に数十~数百秒間、浸される。鋼ワイヤは、フラックス浴で更に処理される。フラックス浴の温度は、50℃~90℃の間、好ましくは70℃に維持される。その後、過剰なフラックスは除去される。続いて、鋼ワイヤは400℃~500℃の温度に維持された亜鉛めっき浴に浸される。
【0036】
或いは、第2の酸洗い処理の後で、鋼ワイヤは流水すすぎ浴ですすがれる。この例では、過剰な水が取り除かれた後で、ワイヤは更に、加熱された還元ガスか、又はアルゴン、窒素、及び/若しくは水素の混合ガスで充填された管の保護下で亜鉛めっき浴に移される。ワイヤは、亜鉛めっき浴の前に、管内で400℃~900℃に加熱されることが好ましい。
【0037】
亜鉛めっき処理によって、ステンレス鋼ワイヤの表面に亜鉛コーティングが形成される。溶融亜鉛めっきの後、タイ-ワイピング若しくはジェット-ワイピング、木炭又は磁気ワイピングを使用して、コーティングの厚さを制御することができる。例えば、亜鉛めっきコーティングの厚さは、100g/m2~600g/m2の範囲、例えば、200g/m2、300g/m2、又は400g/m2である。次いで、ワイヤは空気中で、又は好ましくは水の助けによって、冷却される。連続的で均一で空隙の無いコーティングが形成される。
【0038】
本発明の溶接ワイヤを形成するために、コーティングされた低炭素鋼ワイヤとコーティングされたステンレス鋼ワイヤの両方のコーティングが、例えば端部から5mm~5cmなど、ワイヤの一方の端部で剥がされる。同じ直径を有する露出した低炭素鋼ワイヤ及びステンレス鋼ワイヤが、例えば、フラッシュバット溶接又は抵抗バット溶接により、溶接される。
図3に示すような2つのワイヤ間の溶接された領域36は、例えば、0.5mm~1cm、好ましくは0.5mm~2mmに、薄く保たれるように意図される。溶接ワイヤの外側表面における溶接領域は研磨され、その後、
図3に示すように、亜鉛ベースのエナメル38で塗装される。
【実施例】
【0039】
4つのタイプのワイヤを製造して、試験して、比較する。タイプ(I)低炭素鋼ワイヤ標準グレード65、タイプ(II)ステンレス鋼ワイヤ標準グレードAISI302、タイプ(III)溶接ワイヤ及びタイプ(IV)溶接ワイヤは両方とも、亜鉛コーティングされたタイプ(I)ワイヤと亜鉛コーティングされたタイプ(II)ワイヤを溶接することによって作られる。タイプ(III)溶接ワイヤはフラッシュバット溶接によって作られ、一方、タイプ(IV)溶接ワイヤは抵抗バット溶接によって作られる。
【0040】
溶接の前に、タイプ(I)ワイヤ及びタイプ(II)ワイヤの意図される溶接領域における亜鉛コーティングは、機械的な剥ぎ取りにより除去される。この意図された溶接領域は、溶接中及び溶接後の亜鉛などの不純物の偏析に起因して発生し得る粒界腐食を回避するために、溶接前に塩酸酸洗いによって更に処理される。
【0041】
4つのタイプのワイヤの引張強度又は極限強度をそれぞれ測定する。引張強度は、破損又は断線の前に引き伸ばされたり又は引っ張られたりしながらも材料が耐えることができる最大応力である。引張強度は、引張試験を実施することによって求められる。試験されるワイヤの2つの端部はそれぞれ、引張試験機械の2つのクロスヘッドにおいて把持される。クロスヘッドは試料の長さに調節され、試験試料に張力を加えるように駆動される。試験されるワイヤの全ての4つのタイプの直径は同じであり、即ち約6mmである。どの試験についても、2つのクロスヘッド間のワイヤの長さは約25cmである。タイプ(I)及びタイプ(II)のワイヤは連続ワイヤであり、即ち、間に溶接部又は任意の接続手段がない。タイプ(III)及びタイプ(IV)のワイヤについては、2つの連続的な部分の溶接領域は、ワイヤが固定されている2つのクロスヘッドのほぼ中間に配置される。試験中に、工学応力対ひずみが記録される。応力-ひずみ曲線の最高点が引張強度である。印加された最大力、引張強度、降伏強度、及び4つのタイプのワイヤの破断時における伸び率が、表1に纏められている。
【0042】
表1に示すように、タイプ(I)ワイヤの平均引張強度は約814MPaであり、タイプ(II)ワイヤの平均引張強度は約672MPaであり、これはタイプ(I)よりも低い。タイプ(III)ワイヤの平均引張強度は577MPaであり、タイプ(IV)ワイヤの平均引張強度は646MPaであり、両方とも、タイプ(II)ワイヤの80%、即ち672×80%=537.6よりも大きい。なお、引張試験において、タイプ(III)ワイヤの場合、破断箇所は溶接領域である。一方タイプ(IV)ワイヤの場合、破断箇所は溶接領域の外部の、溶接ワイヤのタイプ(II)ワイヤ部分に位置する。これらの試験は、特に、溶接無しの連続ワイヤよりも良好に働くタイプ(IV)溶接ワイヤについて、溶接ワイヤが、電力ケーブル用のワイヤ外装要件を満足する十分な引張強度を有することを示している。
【0043】
更に、2つのタイプの溶接ワイヤの降伏強度(RP0.2)は、タイプ(II)ワイヤよりも僅かに高い。タイプ(III)及びタイプ(IV)ワイヤの破断時の平均伸び率A(%)はそれぞれ10%と24%であり、外装ワイヤに対する要件である6%をはるかに超えている。
【0044】