(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】描画装置及び描画方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/13 20060101AFI20220202BHJP
【FI】
G02B6/13
(21)【出願番号】P 2020025209
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2020-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 幹寛
(72)【発明者】
【氏名】小熊 学
(72)【発明者】
【氏名】日比野 善典
(72)【発明者】
【氏名】山田 智之
(72)【発明者】
【氏名】陣内 啓光
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-275268(JP,A)
【文献】特開2004-325706(JP,A)
【文献】特開2005-014059(JP,A)
【文献】特開2001-100001(JP,A)
【文献】特開2008-040334(JP,A)
【文献】特開2004-077747(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0011840(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0264910(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短パルスレーザからのレーザ光を複数に分岐するビームスプリッタと、
分岐された複数の前記レーザ光を対向しないように照射する位置にあり、分岐された複数の前記レーザ光をガラス基板の内部の同一の所定領域に集光するレンズと、
前記ガラス基板を所望の運動で移動するステージと、
を備え、
前記ステージの運動による前記所定領域の軌跡に光導波路を描画することを特徴とする描画装置。
ただし、前記対向とは、前記ガラス基板の前記レンズ側の表面において、分岐した全ての前記レーザ光の
光軸の入射点が同一直線上にあり、且つ前記所定領域の中心点から前記表面におろした垂線と前記表面との交点が前記直線上に存在する状態である。
【請求項2】
ガラス基板に光導波路を描画する描画方法であって、
短パルスレーザからのレーザ光を複数に分岐すること、
分岐された複数の前記レーザ光を対向しないように前記ガラス基板の内部の同一の所定領域に集光すること、
前記ガラス基板を所望の運動で移動すること、及び
前記所定領域の軌跡に前記光導波路を形成すること
を特徴とする描画方法。
ただし、前記対向とは、
複数の前記レーザ光が入射する側の前記ガラス基板の
表面において、分岐した全ての前記レーザ光の
光軸の入射点が同一直線上にあり、且つ前記所定領域の中心点から前記表面におろした垂線と前記表面との交点が前記直線上に存在する状態である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光を照射してガラス基板に光導波路を描画する描画装置及び描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信ネットワーク需要の拡大に伴い光通信ネットワークの大容量化に対する要求は光部品の小型化、低消費電力化に対する要求とともに一層強くなっている。このような要求を解決するために、光伝送の多重化、高密度化が進められており、そのキーデバイスとなるのは機能回路を備えた光導波路デバイスである。
【0003】
従来では、光導波路デバイスの光導波路や機能回路は、火炎加水分解法等により、Si基板上のアンダークラッド層状に積層されたコア層をエッチング加工して形成されていたが、二次元に限定されていた光導波路や光回路を三次元的に形成する試みもなされている(例えば、特許文献1を参照。)。これは、
図4に示すように、レーザ光の集光照射によりガラス材料の内部の屈折率を連続的に変化させ導波路を形成する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】可変式ビームスプリッタ“https://bit.ly/2OaXze2”、2020年1月31日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1は、1つのレーザ光を用いて光導波路を描画するため、光導波路を1本ずつしか描画できず、チャネル数の多い光回路の形成には適していない。つまり、この技術には、形成する光導波路数に応じて描画時間が増加し、描画効率が悪いという第1の課題があった。
【0007】
また、特許文献1の技術は、ガラス基板に層状に光導波路を形成することが可能である。しかし、1つのレーザ光を用いて光導波路を描画するため、複数の層に光導波路を描画する場合、下層の光導波路を描画するとき上層の光導波路の影響を受けることがある。
図5は、レーザ光Lでガラス基板に光導波路を描画して形成したマッハツエンダー干渉計(MZI)である。当該ガラス基板には、本MZIの上層に光導波路Guが先に形成されていた。その下層に光導波路Glを形成する場合、光導波路Gu(コア導波路)の屈折率は周りのクラッド層と異なるため、光導波路Glを描画するレーザ光が光導波路Guを横切るときにレーザ光Lの集光位置がずれ、光導波路Glがずれて形成されることになる。MZIは、2本の導波路長差が重要であり、
図5の部分Tのように光導波路がずれると導波路長が設計値と異なり、所望する波長で干渉が生じなくなる。
このように、特許文献1は、ガラス基板に層状に光導波路を形成するときに上層の光導波路の影響を受けることがあるという第2の課題があった。
【0008】
そこで本発明は、前記課題を解決するために、光導波路の描画効率を改善でき、層状に光導波路を形成するときでも上層の光導波路の影響を受け難い描画装置及び描画方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る描画装置は、描画用高強度レーザ光を複数パスに分岐してガラス基板に照射することとした。
【0010】
具体的には、本発明に係る描画装置は、
短パルスレーザからのレーザ光を複数に分岐するビームスプリッタと、
分岐された前記レーザ光をガラス基板の内部の所定領域に集光するレンズと、
前記ガラス基板を所望の運動で移動するステージと、
を備え、前記ステージの運動による前記所定領域の軌跡に光導波路を描画することを特徴とする。
ここで、本発明に係る第1の描画装置は、前記レンズが、分岐された複数の前記レーザ光をそれぞれの前記所定領域に集光することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る描画方法は、ガラス基板に光導波路を描画する描画方法であって、
短パルスレーザからのレーザ光を複数に分岐すること、
分岐された前記レーザ光を前記ガラス基板の内部の所定領域に集光すること、
前記ガラス基板を所望の運動で移動すること、及び
前記所定領域の軌跡に前記光導波路を形成することを特徴とする。
ここで、本描画方法は、分岐された複数の前記レーザ光をそれぞれの前記所定領域に集光することを特徴とする。
【0012】
レーザ光を複数パスに分岐し(分岐したレーザ光を「分岐レーザ光」と記載する。)、それぞれの分岐レーザ光をガラス基板に照射すれば複数本の光導波路を同時に描画できるようになる。このため、描画時間は形成する光導波路数に関わらず一定である。このため、本発明に係る描画装置及び描画方法は、描画効率を改善でき、第1の課題を解決できる。
従って、本発明は、光導波路の描画効率を改善できる描画装置及び描画方法を提供することができる。
【0013】
さらに、本発明に係る描画装置の前記ビームスプリッタは、前記レーザ光の分岐比を前記ステージの運動に応じて変化させることを特徴とする。
本発明に係る描画装置及び描画方法は、同時に描画する複数の光導波路の特性を揃えることができる。
【0014】
一方、本発明に係る第2の描画装置は、前記レンズが、分岐した複数の前記レーザ光を1つの前記所定領域に集光することを特徴とする。
【0015】
複数の分岐レーザ光で1つの光導波路を形成するため、いずれかの分岐レーザ光が上層の光導波路により集光位置がずれたとしても、他の分岐レーザ光で所望の光導波路を描画できる。このため、本発明に係る描画装置及び描画方法は、ガラス基板に層状に光導波路を形成するときに上層の光導波路の影響を受け難くなり、第2の課題を解決できる。
従って、本発明は、層状に光導波路を形成するときでも上層の光導波路の影響を受け難い描画装置及び描画方法を提供することができる。
【0016】
また、本発明に係る描画装置の前記レンズは、前記レーザ光を対向しないように照射する位置にあることが好ましい。ここで、前記対向とは、前記ガラス基板の前記レンズ側の表面において、全ての前記分岐レーザ光の入射点が同一直線状にあり、且つ前記集光領域の中心点から前記表面におろした垂線と前記表面との交点が前記直線上に存在する状態である。複数の分岐レーザ光が同時に上層の光導波路の影響を受けることを回避できる。
【0017】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、光導波路の描画効率を改善でき、層状に光導波路を形成するときでも上層の光導波路の影響を受け難い描画装置及び描画方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】本発明に係る描画装置の集光領域を説明する図である。
【
図5】本発明に係る描画装置の課題を説明する図である。
【
図6】本発明に係る描画装置の課題を説明する図である。
【
図7】本発明に係る描画装置の集光領域を説明する図である。
【
図8】本発明に係る描画装置の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本実施形態の描画装置301を説明する図である。描画装置301は、
短パルスレーザ51からのレーザ光Lmを複数に分岐するビームスプリッタ12と、
分岐された前記レーザ光(分岐レーザ光Ls)をガラス基板50の内部の所定領域に集光するレンズ13と、
ガラス基板50を所望の運動で移動するステージ11と、
を備え、
ステージ11の運動による前記所定領域の軌跡に光導波路を描画することを特徴とする。
描画装置301では、レンズ13が、分岐レーザ光Lsをそれぞれの所定領域(Aa、Ab、Ac、Ad)に集光する。
【0022】
描画装置301は、4つの光導波路を同時に描画できる装置例である。本発明に係る描画装置は、同時に描画できる光導波路の数を4つに限定しない。
【0023】
短パルスレーザ光源51は、短パルスレーザとそれを駆動する電源から成る。短パルスレーザとしては、例えばチタンサファイアレーザを用いることができる。レーザ照射条件を事前に最適化する必要があり、最適化パラメータとしては、波長、平均強度、パルス幅、繰り返し周波数、基板の移動速度、基板材料が挙げられる。本実施形態では、中心波長を800nm、繰り返し周波数を2MHz、パルス幅を140fs、平均強度を120mWに設定した。なお、ステージ11の移動速度を500μm/sとしている。
【0024】
ガラス基板50は、レーザ光が透過する材料であればガラス以外の材料でも良い。例えば、石英、ボロシリケートガラス、BK7などの光学ガラスや、ニオブ酸リチウム、YVO4などの結晶材料や、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの有機ポリマー材料を光導波路を形成する基板として用いても良い。基板材料の屈折率変化を誘起する条件にレーザ光の光強度を調整することで光導波路を描画可能である。
【0025】
短パルスレーザ光源51から出射したレーザ光Lmは、3つ広帯域ビームスプリッタキューブ(12a、12b、12c)と広帯域全反射ミラー12dで分岐レーザ光Lsに4分岐される。本実施形態では、3つの広帯域ビームスプリッタキューブ(12a、12b、12c)が連結されたものと広帯域全反射ミラー12dがビームスプリッタ12に相当する。
【0026】
広帯域ビームスプリッタキューブ12aの分波比は3:1、広帯域ビームスプリッタキューブ12bの分波比は2:1、広帯域ビームスプリッタキューブ12cの分波比は1:1である。このためビームスプリッタ12で分波された4つの分岐レーザ光Lsの光強度は、それぞれレーザ光Lmの1/4となり、同一の光強度である。
【0027】
分岐レーザ光Lsは、それぞれの光路にあるレンズ13でステージ11上に固定されたガラス基板50の4つの集光領域(Aa、Ab、Ac、Ad)に集光される。
ステージ11は、3軸ステージでありコンピュータなどの制御装置により運動が制御される。ステージ11を移動させて集光領域(Aa、Ab、Ac、Ad)を移動させれば連続した光導波路(Ga、Gb、Gc、Gd)が同時に4つ形成される。
【0028】
図1では、4つの光導波路が平行に描画されているが、個々の広帯域ビームスプリッタキューブ(12a、12b、12c)と広帯域全反射ミラー12dを別個に制御して反射方向を変えることで集光領域(Aa、Ab、Ac、Ad)の位置を自在に変えられるので、平行でない4つの光導波路を形成することもできる。
【0029】
ガラス基板50の厚み方向に集光領域の位置を変える場合、焦点距離の異なるレンズを用いればよい。形成する導波路の数が多い場合、レーザ光Lmの光強度を高めるか、ガラス基板50の移動速度を低速にするなどして、集光領域の光強度の積算値(光強度×照射時間)を、ガラス基板の屈折率を変化させる値に保つようにすればよい。
【0030】
ビームスプリッタ12は、レーザ光Lmの分岐比をステージ11の運動に応じて変化させてもよい。
直線の光導波路を描画するため、ステージ11の動作が直線運動であれば、分岐レーザ光Lsの光強度はいずれも同じでよい。つまり、ビームスプリッタ12はレーザ光Lmを等分岐して分岐レーザ光Lsを出力する。しかし、曲がった光導波路を描画するため、ステージ11が回転運動をした場合、分岐レーザ光Lsの光強度が同じであると回転の中心側の集光領域と外側の集光領域とで光エネルギーの積分値に違いが生じる。具体的には、回転の中心側の集光領域は光エネルギーの積分値が大きく光導波路が太くなり、回転の外側の集光領域は光エネルギーの積分値が小さく光導波路が細くなる。光導波路の太さが変化すると光導波路の特性が異なることになる。このため、ステージ11の動作が回転運動の場合、ビームスプリッタ12は全ての集光領域での光エネルギーの積分値が等しくなるようにレーザ光を分岐する。
なお、このような場合、ビームスプリッタ12として、入射角度を変えることで透過率と反射率を変化させて分岐比を変化させるビームスプリッタ(例えば、非特許文献1を参照。)を使用することができる。
【0031】
(効果)
描画装置301は、レーザ光Lmをビームスプリッタ12で分割し、複数の集光領域(Aa、Ab、Ac、Ad)に照射することで、一括して複数の導波路を描画することができる。その際、分割部分(スプリッタキューブ)を個別に移動することにより任意の導波路をガラス基板に描画することができる。
【0032】
(実施形態2)
図2は、本実施形態の描画装置302を説明する図である。描画装置302は、ビームスプリッタ12、レンズ13、ステージ11、反射ミラー(21a、21b、21c)、及びプリズム(22a、22b、22c)を備える。ビームスプリッタ12は、広帯域ビームスプリッタキューブ(12a、12b)と全反射ミラー12dで構成される。レンズ13は、個々の分岐レーザ光Lsに対応したレンズ(13a、13b、13c)で構成される。なお、
図2において、短パルスレーザ光源51とガラス基板50は描画装置302に含まれない。
【0033】
実施形態1の描画装置301は、それぞれの分波レーザ光で光導波路を描画した。すなわち、4つの分波レーザ光で同時に4つの光導波路を描画した。一方、描画装置302は、3つの分波レーザ光Lsを1つの集光領域Atに集光し、1つの光導波路を形成する点が描画装置301と異なる。すなわち、レンズ13は、複数の分岐レーザ光Lsを1つの集光領域Atに集光する。
【0034】
描画装置302は、1つの短パルスレーザ光源51から出射したレーザ光Lmをビームスプリッタ12で3つの分岐レーザ光Lsに分岐する。分岐レーザ光Lsは、それぞれ反射ミラー(21a、21b、21c)で反射され、プリズム(22a、22b、22c)及びレンズ13を介してステージ11上に固定されたガラス基板50の1つの集光領域Atに集光される。
【0035】
ステージ11は、コンピュータなどの制御装置20により移動が制御され、所望の運動でガラス基板50を移動できる。このため、ステージ11を運動させ集光領域Atを移動させれば連続した光導波路が1つ形成される。なお、ステージ11をガラス基板50の厚み方向へ移動させることで、ガラス基板50内に複数の層状に光導波路を描画できる。
図2の場合、ガラス基板50内に上層の光導波路Guと下層の光導波路Glが形成されている。
【0036】
描画装置302は、2つの分岐レーザ光Lsが重畳したときの光強度をガラス基板50の屈折率が変化する光強度未満、且つ3つの分岐レーザ光Lsが重畳したときの光強度をガラス基板50の屈折率が変化する光強度以上となるように、短パルスレーザ光源51を制御し、レーザ光Lmの光強度を調整する。
【0037】
つまり、3以上の分波レーザ光Lsが重なる領域ではガラス基板50の屈折率が変化し、2つの分岐レーザ光Lsが重畳し照射される領域ではガラス基板50の屈折率は変化しない。
図3を用いて説明する。Ls1、Ls2、Ls3は、それぞれの分岐レーザ光Lsの集光位置を示す。
【0038】
図3(A)はそれぞれの分岐レーザ光Lsの集光位置が重なっていない状態である。レーザの集光領域は双曲線で挟まれた形状に類似しており、
図3では模式的に鼓形状で表している。
図3(B)はビームスプリッタ12、反射ミラー21、プリズム22及びレンズ13を調整してそれぞれの分岐レーザ光Lsの3つの集光位置を重畳した状態である。集光位置が重なれば光強度が高くなりガラス基板50の屈折率を変化させることができ、光導波路を描画できる。
【0039】
図3(C)は1つの分岐レーザ光Ls1の集光位置がずれ、Ls1’の位置にある状態である。このような状態であっても3つの分岐レーザ光Lsの集光位置が重なった領域(Ls1’+Ls2+Ls3)の位置と形状は元の領域((Ls1+Ls2+Ls3)とほとんど変化していない。そのため、1つの分岐レーザ光の集光位置がずれたとしても、位置ずれがない
図3(B)と同様の位置においてガラス基板50の屈折率を変化させることができ、光導波路を描画できる。
【0040】
したがって、複数に分岐されたレーザ光が重畳した場合にのみ、ガラス基板50の屈折率を変化させることができる構成とすれば、レーザ光の集光位置がずれてもその影響はほとんどない。
【0041】
分岐レーザ光Lsの集光位置がずれる原因のひとつに、
図2のガラス基板50のように、集光領域Atの上方(光源方向)に光導波路Guが存在することが挙げられる。前述のように、光導波路Gu(コア導波路)の屈折率は周りのクラッド層と異なるため、分岐レーザ光Lsが光導波路Guを横切るときに焦点距離がずれるためである(
図6参照。)。
【0042】
図6では、説明容易のため分岐レーザ光Lsがガラス基板50の表面に対して垂直に入射する場合を記載している。この場合、光導波路Guにより集光位置は本来の位置より上方に移動する。なお、分岐レーザ光Lsがガラス基板50の表面に対して垂直でない方向から入射した場合、光導波路Guにより集光位置は上方だけでなく水平方向にも移動する。
【0043】
このように、上層の光導波路Guで分岐レーザ光Lsの焦点領域がずれるような場合であっても、レーザ光の集光形状(鼓形状)は光軸方向に伸びているので、3つの分岐レーザ光Lsの重畳位置とその形状はほとんど変わらないので、光導波路Guを横切ることにより分岐レーザ光Lsの焦点距離がずれたとしても、光導波路Guが存在しない場合と同様な位置に光導波路を描画することができる。
【0044】
なお、本実施形態では分岐レーザ光Lsの数が3である場合を説明したが、本発明に係る描画装置は、分岐レーザ光Lsの数を3に限定しない。分岐レーザ光Lsの数は2であっても4以上であってもよい。
【0045】
また、レンズ13は、分岐レーザ光Lsを対向しないように照射する位置にあることが好ましい。すなわち、少なくとも2つの分岐レーザ光Lsの光軸は非180度対向としておく。ここで、前記対向(180度対向)とは、
図7のように、ガラス基板50のレンズ13側の表面50sにおいて、全ての分岐レーザ光Lsの入射点Pinが同一直線上にあり、且つ集光領域Atの中心点Atcから表面50sにおろした垂線と表面50sとの交点Patが当該直線上に存在する状態である。
図7(A)はガラス基板50を厚み方向に切断した断面図であり、
図7(B)はガラス基板50をレンズ13側から見た図である。ここで、
図7は分岐レーザ光が2つの場合であるが、3以上でも同様である。
【0046】
光導波路の曲率半径(R≧数百μm)はレーザ照射系に対して大きく、分岐レーザ光にとって上層の光導波路Guは殆ど直線とみなせる。
もし、2つの分岐レーザ光Lsの光軸が180度対向であれば、
図8のように偶然2つの光軸が光導波路Guの影響を受けることがあり得る。一般的に、隣り合う光導波路の間隔は50μmより広く光導波路の太さ(≒集光領域Atの径)が数μmであることに比べ十分に粗である、よって、2つの分岐レーザ光Lsの光軸を非180度配置とすれば分岐レーザ光Lsが2つ以上同時に光導波路Guの影響を受けることはほとんど無いからである。このような状態を避けるためにも、分岐レーザ光の数を3以上とし、且つ全ての分岐レーザ光が上層の光導波路の影響を受けないように分岐レーザ光の位置を調整しておくことが好ましい。なお、2つの分岐レーザ光Lsが同時に、光導波路Guを横切る場合でもその影響は小さい。それは、レーザ光の焦点形状が光軸方向に伸びているため、同時に2つの集光位置が光軸方向に移動しても、3つの分岐レーザ光の重畳位置とその形状はほとんど変わらないためである。
【0047】
(効果)
描画装置302は、複数のパスで分岐レーザ光Lsを同期して照射し、また上層の光導波路Guの下部に集光領域Atを調節することで、光導波路Guの影響を受けずに下層に光導波路Glを描画することができる。
【符号の説明】
【0048】
11:ステージ
12:ビームスプリッタ
21a、12b、12c:広帯域ビームスプリッタキューブ
12d:広帯域全反射ミラー
13、13a、13b、13c:レンズ
21a、21b、21c:反射ミラー
22a、22b、22c:プリズム
50:ガラス基板
51:短パルスレーザ光源
301、302:描画装置