(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】新規なプロモーター及びこれを用いたL-アミノ酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/77 20060101AFI20220202BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220202BHJP
C12P 13/04 20060101ALI20220202BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20220202BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C12N15/77 Z ZNA
C12N1/21
C12P13/04
A23L5/00 J
C12N15/53
(21)【出願番号】P 2020514685
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 KR2019002708
(87)【国際公開番号】W WO2019172702
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】10-2018-0028184
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,チン ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン チュン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ピョン フン
(72)【発明者】
【氏名】リ,チ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ヨンチョン
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】Appl Microbiol Biotechnol,2009年,Vol.83,P.315-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/77
C12N 1/21
C12P 13/04
A23L 5/00
C12N 15/53
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表されるヌクレオチド配列の37番目ヌクレオチドがGに置換された
ヌクレオチド配列を有する、プロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1のヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが、目的タンパク質をコードする遺伝子と作動可能に連結される、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1または2のポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された目的タンパク質をコードする遺伝子を含む、ベクター。
【請求項5】
前記目的タンパク質が、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)である、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
請求項1に記載のポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された目的タンパク質をコードする遺伝子を含む、コリネバクテリウム属微生物。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1のヌクレオチド配列からなる、請求項6に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項8】
前記目的タンパク質が、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)である、請求項6に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項9】
前記コリネバクテリウム属微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項6~8のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか一項に記載のコリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階;及び前記の培地から目的物質を回収する段階を含む、目的物質を生産する方法。
【請求項11】
前記目的物質が、アミノ酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項6~8のいずれか一項に記載のコリネバクテリウム属微生物を培地で培養して発酵する段階を含む、発酵組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、新規なプロモーター及びこれを用いたL-アミノ酸生産方法に関するものであり、より詳細には、プロモーター活性を有する新規ポリヌクレオチド、これを含むベクター及びコリネバクテリウム属微生物、前記微生物を用いたL-アミノ酸の生産方法、発酵組成物の製造方法、及び前記発酵組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタミン酸は発酵によって生産される代表的なアミノ酸であって、特有の独特の味を有し、食品分野ではもちろん、医薬品分野、その他の動物飼料の分野などに広く利用されている重要なアミノ酸の一つである。
【0003】
グルタミン酸を生産する通常の方法としては、主にブレビバクテリウム(Brevibacterium)やコリネバクテリウム属及びその変異株を含むコリネ型バクテリア(Coryneform bacteria)を用いて発酵を介して生産し(非特許文献1)、その他にも大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus)、放線菌(Streptomyces)、ペニシリウム(Penicillum)属、クレブシエラ(Klebsiella)、エルウィニア(Erwinia)、パントエア(Pantoea)属などの微生物を用いる方法などが知られている(特許文献1及び2)。微生物の発酵を介してグルタミン酸を製造する場合、発酵物の内にはL-グルタミン酸のほかに有機酸をはじめとする様々な物質が混合される。
【0004】
前記有機酸は、酸性の有機化合物であって、乳酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸などを含む。食品内の有機酸は、酸味とうま味を示し、食品のpHを下げて腐敗を防止する効果を有する。通常、乳酸は、微生物の発酵を介して生成される有機酸の中で最も多くの割合を占めていることが知られている。
【0005】
しかし、発酵で生産される乳酸の割合が高いほど発酵物内の酸味が増加するため、嗜好性が低下するおそれがある。したがって、微生物の発酵を介して生成された発酵物内の乳酸の生成量を調節する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3,220,929号
【文献】米国特許第6,682,912号
【文献】韓国登録特許公報第10-0292299号
【文献】韓国登録特許第10-0924065号
【文献】国際公開特許第2008-033001号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Amino Acid Fermentation、Gakkai Shuppan Center :195-215、1986
【文献】Karlin & Altschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【文献】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【文献】Sambrook et al.,supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Appl. Microbiol. Biothcenol.,1999,52:541-545
【文献】Nat. Protoc., 2014 Oct;9(10):2301-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、グルタミン酸を生産する微生物の有機酸生成能を低減させるために努力した結果、本出願のプロモーター活性を有する新規ポリヌクレオチドを開発し、これは菌株のグルタミン酸の生成能を増加させて、乳酸の生成能は低下させうることを確認し、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願の一つの目的は、配列番号2で表されるヌクレオチド配列の37番目ヌクレオチドがGに置換された、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを提供することにある。
【0010】
本出願の他の一つの目的は、前記ポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された目的タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを提供することにある。
【0011】
本出願のもう一つの目的は、前記ポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された目的タンパク質をコードする遺伝子を含むコリネバクテリウム属微生物を提供することにある。
【0012】
本出願のもう一つの目的は、前記コリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階;及び前記の培地から目的物質を回収する段階を含む、目的物質を生産する方法を提供することにある。
【0013】
本出願のもう一つの目的は、前記コリネバクテリウム属微生物を培地で培養して発酵する段階を含む、発酵組成物の製造方法を提供することにある。
【0014】
本出願のもう一つの目的は、前記方法により製造された発酵組成物を提供することにある。
【発明の効果】
【0015】
本出願の新規プロモーターは、アミノ酸を生産する微生物に導入され、微生物のアミノ酸の生成量は増加させ、有機酸の生成量は減少させうる。具体的には、本出願の新規プロモーターを用いてグルタミン酸を製造する場合、発酵物内のグルタミン酸の量と有機酸の量を調節して発酵物の味と嗜好性を向上させうる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示された各説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用されてもよい。すなわち、本出願で開示された様々な要素の任意の組み合わせが本出願のカテゴリに属する。また、下記記述された具体的な叙述によって、本出願のカテゴリが制限されるとは見られない。
【0017】
前記のような目的を達成するために、本出願の一つの様態は、配列番号2で表されるヌクレオチド配列の37番目ヌクレオチドがGに置換された、プロモーター活性を有するポリヌクレオチドを提供する。
【0018】
本出願において、用語、「配列番号2で表されるヌクレオチド配列」は、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase:LDH)をコードする遺伝子のプロモーター配列の一部を意味してもよい。
【0019】
この時、前記用語、「乳酸脱水素酵素」は、ピルビン酸を基質として、ラクテート、すなわち乳酸を生成する酵素であり、本明細書で「LDH」と混用されて命名してもよい。具体的には、前記乳酸脱水素酵素の遺伝子は、配列番号3のヌクレオチド配列を含んでもよく、そのタンパク質は配列番号4のアミノ酸配列を含んでもよいが、これに制限されない。
【0020】
本出願において、用語、「プロモーター」は、ポリメラーゼ(polymerase)の結合部位を含み、プロモーター目的遺伝子のmRNAへの転写開始の活性を有する、コーディング領域の上位(upstream)の非解読されたヌクレオチド配列、すなわち、ポリメラーゼが結合して遺伝子の転写を開始するようにするDNA領域を意味する。前記プロモーターは、mRNA転写開始部位の5’部位に位置してもよい。この時、前記プロモーターの目的遺伝子は、乳酸脱水素酵素であってもよいが、これに制限されない。
【0021】
本出願のポリヌクレオチドは、前記配列番号2で表されるヌクレオチド配列、すなわち、乳酸脱水素酵素遺伝子のプロモーター配列が変異されたものであり、具体的には、前記変異は前記配列の37番目ヌクレオチドであるTがGに置換されたものであってもよい。それに応じて、前記ポリヌクレオチドは配列番号1のヌクレオチド配列からなるもの(consist of)であってもよい。
【0022】
この時、前記用語、「変異」は、遺伝的または非遺伝的に安定的な表現型的な変化を意味し、本明細書で「突然変異」と混用して命名してもよい。
【0023】
具体的には、前記ポリヌクレオチドは、変異を含まないポリヌクレオチドに比べて変異された(増加または減少された)プロモーター活性を有してもよい。したがって、前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された目的遺伝子の発現及び前記目的遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を調節(増加または減少)してもよく、さらに目的遺伝子の他の遺伝子以外の発現を調節してもよい。
【0024】
本出願の目的上、前記ポリヌクレオチドは、乳酸脱水素酵素の活性の弱化のためのものであってもよい。
【0025】
また、前記ポリヌクレオチドは、グルタミン酸生成量の増加及び/または乳酸生成量の減少のためのものであってもよい。
【0026】
前記乳酸脱水素酵素は乳酸生成に関与することが知られていたが、グルタミン酸の生成との関連性については公知されておらず、本発明者らによって初めて究明された。特に、前記のような乳酸脱水素酵素のプロモーター変異による乳酸脱水素酵素の活性の減少、及びこれに伴うグルタミン酸生成量の増加と乳酸生成量の減少効果は、本発明者らによって初めて究明された。
【0027】
この時、前記用語、「グルタミン酸」(L-glutamic acid、L-glutamate)は、アミノ酸の一種であり、非必須アミノ酸に区分される。中枢神経系で最も一般的な興奮性神経伝達物質として知られており、また、うま味がでるといわれ、このモノナトリウム塩(monosodium glutamate:MSG)が調味料として開発され、広く用いられている。一般的に、グルタミン酸を生産する微生物の発酵を介して製造される。
【0028】
また、前記用語、「乳酸」は、酸味のある有機酸の一種であり、ラクテート(Lactate)とも呼ばれる。食用には果実エキス、シロップ、清涼飲料の酸味剤として用いられ、酒類の発酵初期に腐敗菌の繁殖防止にも用いられる。一般的に、乳酸を生産する微生物の発酵を介して製造されるが、過剰に生成される場合、過度の酸味によって発酵物の品質を低下させることがあるため、乳酸の濃度は培養時に適切に調節される必要がある。
【0029】
具体的には、前記ポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド配列からなるものであってもよい。
【0030】
また、本出願のヌクレオチド配列は、従来知られている突然変異誘発法、例えば、方向性進化法(direct evolution)及び部位特異的突然変異法(site-directed mutagenesis)などにより変形されてもよい。
【0031】
したがって、前記ポリヌクレオチドは、前記配列番号1のヌクレオチド配列に対して少なくとも60%以上、具体的には、70%以上、より具体的には、80%以上、さらに具体的には、83%以上、84%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、または97%以上の相同性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含んでもよい。前記配列と相同性を有する配列として、実質的に配列番号1のヌクレオチド配列と同一または相応する生物学的活性を有するポリヌクレオチド配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、または付加されたポリヌクレオチド配列を有する場合も、本出願のカテゴリに含まれるのは自明である。
【0032】
本出願において、用語、「相同性」は、与えられたヌクレオチド配列と一致する程度を意味し、パーセンテージとして示してもよい。本明細書で、与えられたヌクレオチド配列と同一または類似の活性を有するその相同性配列が「%相同性」として示される。前記ヌクレオチド配列に対する相同性は、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST [参照:非特許文献2]やPearsonによるFASTA(参照:非特許文献3)を使用して決定してもよい。これらのアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0033】
前記「厳しい条件」は、ポリヌクレオチド間の特異的混成化を可能にする条件を意味する。これらの条件は、文献(例えば、非特許文献4)に具体的に記載されている。例えば、相同性が高い遺伝子同士、60%以上、具体的には、90%以上、より具体的には、95%以上、さらに具体的には、97%以上、特に具体的には、99%以上の相同性を有する遺伝子同士ハイブリッド化し、それより相同性が低い遺伝子同士ハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1 %SDS、より具体的には、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には、2回~3回洗浄する条件を列挙しうる。混成化は、たとえ混成化の厳格度に応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能としても、2つのヌクレオチドが相補的配列を有することを要求する。前記用語「相補的」は、互いに混成化が可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するために用いられる。例えば、DNAに関すると、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願は、また実質的に類似のポリヌクレオチド配列だけでなく、全体の配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片を含んでもよい。
【0034】
具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値で混成化段階を含む混成化条件を用い、上述した条件を用いて探知してもよい。また、前記Tm値は60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて、当業者によって適切に調節してもよい。
【0035】
ポリヌクレオチドを混成化する適切な厳格度は、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野でよく知られている(非特許文献4を参照)。
【0036】
特に、前記配列番号1のヌクレオチド配列からなる(consist of)という表現は、当該ポリヌクレオチドをプロモーターとして目的遺伝子に連結して用いる時、制限酵素の使用のように目的遺伝子に連結する過程の中で発生しうるヌクレオチドの追加、及び/または削除、及び/または変異などの場合を排除しない。
【0037】
例えば、配列番号1で表されるヌクレオチド配列からなるプロモーター活性を有する前記ポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列と厳格な条件下でハイブリッド化され、本出願のプロモーター活性を有するヌクレオチド配列であれば、制限なく含んでもよい。
【0038】
さらに、本出願のポリヌクレオチドは、目的タンパク質をコードする遺伝子と作動可能に連結されてもよい。
【0039】
本出願において、用語、「遺伝子発現調節配列」は、本出願のポリヌクレオチドを含み、これに作動可能に連結されている目的遺伝子を発現させうる配列を意味する。
【0040】
本出願において、用語、「作動可能に連結された」(operatively linked)は、本出願のプロモーター活性を有するポリヌクレオチドが目的遺伝子の転写を開始及び媒介するように、前記遺伝子配列と機能的に連結されていることを意味する。作動可能な連結は、当業界の公知された遺伝子組換え技術を用いて製造してもよく、部位特異的DNA切断及び連結は、当業界の切断及び連結酵素などを用いて製作してもよいが、これに制限されない。
【0041】
さらに、本出願の遺伝子発現調節配列は、遺伝子の転写を実施するためのプロモーターの他に転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列及び転写及び解読の終結を調節するDNAなどをさらに含んでもよい。
【0042】
例えば、原核生物に適した調節配列は、プロモーターの他に、リボソーム結合部位をさらに含んでもよいが、これに制限されない。本出願のプロモーター活性を有するポリヌクレオチドは、通常の当業者によって必要に応じて前記のような遺伝子発現調節のための配列を構成してもよい。
【0043】
本出願で前記目的遺伝子は、微生物で発現を調節しようとする目的タンパク質をコードする遺伝子を意味する。
【0044】
例えば、アミノ酸(グルタミン酸など)、有機酸(乳酸など)、及びこれらの組み合わせで構成された群から選択される産物の生産に関与する遺伝子であってもよいが、これに制限されるものではない。具体的には、前記遺伝子は、アミノ酸(グルタミン酸など)の生合成に関連する酵素をコードする遺伝子及び/または有機酸(乳酸など)の生合成に関連する酵素をコードする遺伝子であってもよいが、これに制限されるものではない。より具体的には、前記遺伝子は、乳酸脱水素酵素(LDH)をコードする遺伝子であってもよいが、これに制限されるものではない。前記LDHをコードする遺伝子の配列は、米国国立衛生研究所のGenBankのような公知のデータベースを介して当業者が容易に入手してもよい。
【0045】
例えば、本出願の前記遺伝子発現調節配列は、LDHをコードする遺伝子配列と作動可能に連結され、微生物内グルタミン酸の生成量を増加させて、乳酸生成量を減少させることができる。
【0046】
本出願のもう一つの様態は、前記ポリヌクレオチド及び前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された目的タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを提供する。
【0047】
前記ポリヌクレオチドは、前述のとおりである。
【0048】
具体的には、前記目的タンパク質は、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase:LDH)であってもよい。
【0049】
本出願において、用語、「ベクター」は、適合した宿主内で目的遺伝子を発現させうるように遺伝物質を保有する人為的DNA分子であって、前記ポリヌクレオチドまたは適合した遺伝子発現調節配列;及びこれに作動可能に連結された目的タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含むDNA製造物を意味する。
【0050】
本出願で用いられるベクターは、宿主細胞内で発現可能なものであれば特に制限されず、当業界に知られている任意のベクターを用いて宿主細胞を形質転換させてもよい。通常用いられるベクターの例としては、天然状態であるか、組換えされた状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。
【0051】
例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、λLB3、λBL4、λIXII、λASHII、λAPII、λt10、λt11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いてもよく、プラスミドベクターとして、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いてもよい。
【0052】
また、宿主細胞内の染色体挿入用ベクターを介して染色体内に内在的プロモーターを本出願のプロモーター活性を有するポリヌクレオチドと交替できる。例えば、pECCG117、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BAC、pCES208、pXMJ19ベクターなどを用いてもよいが、これに制限されない。
【0053】
また、前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界で知られている任意の方法、例えば、相同組換えによって行ってもよい。
【0054】
本出願のベクターは、相同組換えを起こして染色体内に挿入されうるため、前記染色体が挿入されたかどうかを確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、すなわちポリヌクレオチドの挿入有無を確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能な表現型を付与するマーカーが用いられてもよい。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみ生存するか、または他の表現形質を示すため、形質転換された細胞を選別できる。
【0055】
本出願において、用語、「形質転換」は、前記ポリヌクレオチドまたは遺伝子発現調節配列及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを宿主細胞内に導入し、宿主細胞内で前記遺伝子が発現できるようにすることを意味する。さらに、宿主細胞内で目的遺伝子が発現することさえできれば、形質転換された前記ポリヌクレオチド及び目的タンパク質をコードする遺伝子は、宿主細胞の染色体上に位置するか、染色体外に位置するか関係なく、これらすべての場合を含んでもよい。
【0056】
前記形質転換する方法は、前記遺伝子発現調節配列及び目的タンパク質をコードする遺伝子を細胞内に導入するすべての方法を含み、宿主細胞に応じて、当分野で公知のように、適合した標準技術を選択して行ってもよい。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAEデキストラン法、陽イオンリポソーム法、及び酢酸リチウムDMSO法などがあるが、これに制限されない。
【0057】
本出願のもう一つの様態は、前記ポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された目的タンパク質をコードする遺伝子を含む、コリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0058】
前記ポリヌクレオチド及び前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結された目的タンパク質をコードする遺伝子は、先に説明した通りである。
【0059】
本出願において、用語、「微生物」は、野生型微生物や、自然的または人為的に遺伝的変形が起きた微生物をすべて含み、外部遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性が強化されたり弱化されるなどの原因によって特定機序が弱化されたりまたは増強された微生物のすべてを含む概念である。
【0060】
本出願で、前記微生物は前記ポリヌクレオチドを含んでもよく、具体的には、前記ポリヌクレオチド及び/または前記ポリヌクレオチドと作動可能に連結されて、目的タンパク質をコードする遺伝子を含んでもよい。または、前記微生物は、前記ポリヌクレオチドまたは遺伝子発現調節配列及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含むベクターを含んでもよいが、これに制限されない。また、前記ポリヌクレオチド、前記目的タンパク質をコードする遺伝子及びベクターは、形質転換によって前記微生物に導入されてもよいが、これに制限されない。さらに、前記微生物は前記遺伝子が発現できれば、前記ポリヌクレオチド及び目的タンパク質をコードする遺伝子が、染色体上に位置するか、染色体外に位置するかとは関係がない。
【0061】
本出願の目的上、前記ポリヌクレオチド及び目的タンパク質をコードする遺伝子を含む微生物は、グルタミン酸の生成量が増加して、乳酸の生成量が減少したものであってもよい。
【0062】
例えば、前記微生物は、ポリヌクレオチドは、乳酸脱水素酵素の活性が弱化されたものであってもよい。
【0063】
本出願で前記微生物は本出願のプロモーター活性を有するポリヌクレオチドが導入されてプロモーターとして作動できる微生物であれば、制限なく含まれてもよい。
【0064】
具体的には、前記微生物はコリネバクテリウム属微生物であってもよく、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)またはコリネバクテリウム・フラバム(Corynebacterium flavum)であってもよく、最も具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムであってもよいが、これに制限されない。
【0065】
本出願のもう一つの様態は、前記コリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階;及び前記の培地から目的物質を回収する段階を含む、目的物質を生産する方法を提供する。
【0066】
前記ポリヌクレオチド及び微生物は、前述のとおりである。
【0067】
本出願で、前記目的物質はアミノ酸であってもよい。具体的には、前記アミノ酸は別に言及しない限り、L-形態のアミノ酸であってもよく、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、セリン、システイン、グルタミン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、及びこれらの組み合わせで構成された群から選択されてもよいが、これに制限されない。
【0068】
より具体的には、前記アミノ酸はグルタミン酸であってもよいが、これに制限されない。
【0069】
本出願において、用語、「培養」は、微生物を適当に人工的に調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願で前記ポリヌクレオチドを含む微生物を用いて目的物質を生産する方法は、当業界に広く知られている方法を用いて行ってもよい。具体的には、前記培養は、バッチ工程、注入バッチまたは反復注入バッチ工程(fed batch or repeated fed batch process)で連続式で培養してもよいが、これに制限されるものではない。培養に用いられる培地は、適切な方法で特定菌株の要件を満たす必要がある。コリネバクテリウム菌株に対する培養培地は公知されている(例えば、Manual of Methods for General Bacteriology by the American Society for Bacteriology, Washington D.C., USA, 1981)。
【0070】
培地中に用いられる糖源としては、ブドウ糖、サッカロース、乳糖、果糖、マルトース、でん粉、セルロースのような糖及び炭水化物、大豆油、ひまわり油、ヒマシ油、ココナッツ油などのようなオイル及び脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は、個別的に、または混合物として用いられてもよく、これに制限されるものではない。
【0071】
用いられる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆ミール、及び尿素または無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も、個別的に、または混合物として用いてもよく、これに制限されるものではない。
【0072】
用いられるリン源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウムを含有する塩が含まれてもよい。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有してもよい。最後に、前記物質に加えて、アミノ酸及びビタミンのような必須成長物質が用いられてもよい。また、培養培地に適切な前駆体が用いられてもよい。前記された原料は、培養過程で培養物に適切な方法によって回分式または連続式で添加してもよい。
【0073】
前記微生物の培養中に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのような基礎化合物またはリン酸または硫酸のような酸化合物を適切な方法で用いて培養物のpHを調節してもよい。また、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために培養物内に酸素または酸素含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。
【0074】
培養物(培地)の温度は、通常20℃~45℃、具体的には、25℃~40℃であってもよい。培養時間は、所望の目的物質の生成量が得られるまで続いてもよいが、具体的には、10~160時間であってもよい。
【0075】
培養物(培地)からの目的物質の回収は、当業界に知られている通常の方法によって分離されて回収されうる。これらの分離方法には、遠心分離、ろ過、クロマトグラフィー及び結晶化などの方法が用いられる。例えば、培養物を低速遠心分離してバイオマスを除去して得られた上澄み液を、イオン交換クロマトグラフィーを介して分離してもよいが、これに制限されるものではない。別の方法として、培養物(培地)から菌体分離及びろ過工程を行い、別の精製工程なしに目的物質を回収してもよい。別の方法として、前記回収段階は、精製工程をさらに含んでもよい。
【0076】
本出願のもう一つの様態は、前記コリネバクテリウム属微生物を培地で培養して発酵する段階を含む、発酵組成物の製造方法を提供する。
【0077】
本出願のもう一つの様態は、前記方法により製造された発酵組成物を提供する。
【0078】
前記ポリヌクレオチド及び微生物は先に説明した通りであり、前記微生物を培地で培養する段階も前述した通りである。
【0079】
本出願において、用語、「前記発酵組成物」は、本出願の微生物を培養して得られた組成物を意味する。さらに、前記発酵組成物は、前記微生物を培養した後、適切な後処理工程を経た後、得られた液状または粉末形態の組成物を含んでもよい。この時、適切な後処理工程は、例えば、前記微生物の培養工程、菌体除去工程、濃縮工程、ろ過工程、及び担体混合工程を含んでもよく、追加で乾燥工程をさらに含んでもよい。場合に応じて、前記後処理工程は、精製工程を含まなくてもよい。前記発酵組成物は、本出願の微生物を培養することにより、グルタミン酸の生成量が増加して乳酸の生成量が減少した組成物を含むことにより、最適な味を出せる。
【0080】
また、「前記発酵組成物」は、前記の液状または粉末形態の組成物が含まれた調味料製品(例えば、スープ用粉末製品、スナックシーズニング製品など)を排除しない。さらに、「前記発酵組成物」は、本出願の微生物を培養して得られた組成物を含みさえすれば、非発酵の工程で得られた物質及び/または非天然の工程で得られた別の物質を追加で混合した場合を排除しない。
【0081】
以下、本出願の実施例を介してより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本出願を例示的に説明するためのもので、本出願の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
実施例1.乳酸生成能低下変異株の選別
実施例1-1.UV調査を介したランダム突然変異の誘発
発酵の目的産物であるグルタミン酸の生成能は向上され、発酵産物の嗜好性を低下させる乳酸の生成能が低下した変異菌株を選別するために、まず野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum、ATCC13869)を寒天を含む栄養培地に塗抹して、30℃で16時間培養した。このように獲得した数百個のコロニーを室温でUVを照射して菌株内ゲノム上にランダム突然変異を誘発させた。
【0083】
実施例1-2.突然変異誘発菌株の発酵力価の実験及び菌株の選別
以後、ランダム突然変異が誘発された前記突然変異菌株を対象に発酵力価実験を実施した。
【0084】
それぞれのコロニーを栄養培地で継代培養した後、発酵培地で5時間培養した。その後、それぞれの培地に25%ツイン40(tween40)を0.4%濃度で追加し、それぞれのコロニーを再び32時間培養した。
【0085】
栄養培地:
グルコース1%、肉汁0.5%、ポリペプトン1%、塩化ナトリウム0.25%、酵母エキス0.5%、寒天2%、ウレア0.2%、pH7.2
発酵培地:
粗糖6%、炭酸カルシウム5%、硫酸アンモニウム2.25%、1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム0.04%、硫酸鉄10mg /L、ビオチン0.3mg/L、チアミン塩酸塩0.2mg/L
前記条件でそれぞれのコロニーを培養して、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13869)と同等するか、それ以上のL-グルタミン酸を生産する突然変異菌株を選別した。その後、選別した突然変異菌株に対してYSIを用いてL-グルタミン酸濃度を測定し、HPLCを用いて乳酸濃度を測定した。測定したL-グルタミン酸及び乳酸の濃度は下記表1に示した。
【0086】
【表1】
表1を参照して、野生型菌株に比べてグルタミン酸の生産量が増加して、乳酸の生産量が減少した変異体菌株として、「ATCC13869-m7」及び「ATCC13869-m9」を選別した。
【0087】
実施例2.遺伝子シーケンシングを介した変異の確認
前記突然変異菌株の遺伝子変異を確認するために、ATCC13869-m7及びATCC13869-m9菌株の遺伝子を野生型菌株と比較した。
【0088】
その結果、前記ATCC13869-m7及びATCC13869-m9菌株は、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)をコードする遺伝子のプロモーター領域(promoter region)の特定位置に同一の変異を含んでいることを確認した。
【0089】
具体的には、ATCC13869-m7及びATCC13869-m9は、配列番号2で表されるプロモーター領域の配列内37番目ヌクレオチドであるTがGに置換された変異を含んでいることを確認した。配列番号2で表される前記プロモーター領域は、コリネバクテリウム属微生物、より具体的には、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13032、ATCC13869、ATCC14067)に共通的に含まれる配列であることを確認した。
【0090】
したがって、以下実施例3及び4では、前記変異がコリネバクテリウム属微生物のグルタミン酸及び乳酸生成量に影響を与えるかを確認した。
【0091】
実施例3.変異が導入された菌株の製作及び乳酸生成量の確認
実施例3-1.変異が導入された菌株の製作
前記実施例2を介して確認した変異が導入された変異菌株を製作した。具体的には、前記変異を野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13869及びATCC13032)に導入(配列番号2で表されるポリヌクレオチド配列の37番目ヌクレオチドをGに置換)するために、ターゲット変異を含む逆方向のオリゴヌクレオチドを75マー(mer)の長さにデザインした。
【0092】
具体的には、配列番号5のオリゴヌクレオチド30μgをコリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC13869菌株とATCC13032菌株に電気パルス法(非特許文献5)で形質転換し、複合液体培地を1ml添加して、30℃で30分間、160rpmで振とう培養した。その後、培養液を氷で10分間インキュベーション(incubation)して、4℃で10分間4000rpmで遠心分離した後、上澄み液を除去して菌体を確保した。その後、4℃の10%グリセロール溶液を1ml添加し混合した後、4℃で10分間4000rpmで遠心分離し、上澄み液を除去して菌体を洗浄した。このように菌体を1回さらに洗浄し、4℃の10%グリセロール溶液を0.1ml添加して、次の形質転換のための菌株を準備した。その後、前記のような電気パルス法で配列番号5のオリゴヌクレオチドを用いて形質転換する過程を10回繰り返した後、複合平板培地に塗抹してコロニーを確保した(非特許文献6)。
【0093】
前記確保したコロニーの遺伝子配列解析を行った結果、菌株に前記のターゲット変異が導入されたことを確認し、変異が導入された前記菌株を「ATCC13869::ldh-pro-1mt」及び「ATCC13032::ldh-pro-1mt」と命名した。
【0094】
実施例3-2.乳酸生産量の確認
前記実施例3-1を介して製作した変異菌株ATCC13869::ldh-pro-1mt及びATCC13032::ldh-pro-1mtと、これらの各野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13869及びATCC13032)は、それぞれ実施例1-2と同様の方法で培養した。
【0095】
培養が完了した後、各培地内のL-グルタミン酸の濃度及び乳酸の濃度を測定した。測定したL-グルタミン酸及び乳酸の濃度は表2に示した。
【0096】
【表2】
表2に示すように、変異が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869::ldh-pro-1mt菌株が生産したL-グルタミン酸の濃度は、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869が生産したL-グルタミン酸濃度に比べて、約4.7g/L(約32%)がより高いことを確認した。一方、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869は、乳酸を1.5g/L生産したが、ATCC13869::ldh-pro-1mt菌株を培養した培地では乳酸が測定されなかった。
【0097】
また、変異が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032::ldh-pro-1mt菌株が生産したL-グルタミン酸の濃度は、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032が生産したL-グルタミン酸の濃度に比べて、約2.6g/L(約32%)がより高いことを確認した。一方、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032は、乳酸を2.7g/L生産したが、ATCC13032::ldh-pro-1mt菌株を培養した培地では乳酸が非常に微量(0.3g/L)測定された。
【0098】
すなわち、前記変異は、微生物のL-グルタミン酸の生成能を増加させて、乳酸の生成能を低下させるということを確認した。
【0099】
また、前記菌株ATCC13869::ldh-pro-1mtをCA02-9209と命名し、2018年2月28日付でブダペスト条約下の寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に国際寄託してKCCM12227Pの寄託番号を付与された。
【0100】
実施例4.変異が導入されたKFCC11074菌株の乳酸生成量及び酵素活性の確認
実施例4-1.変異が導入されたベクターの製作
野生型菌株の他に、グルタミン酸の生産能が増加された菌株でも前記変異が同様の効果を示すかどうかを確認するために、グルタミン酸生産菌株として知られているKFCC11074菌株(特許文献3)に前記変異を導入した。
【0101】
具体的には、前記菌株が含む配列番号2で表されるポリヌクレオチド配列の37番目ヌクレオチドをGに置換するために遺伝子置換ベクターを製作した。ベクターを製作するための遺伝子断片は、ATCC13869ゲノミックDNAを鋳型としてPCRを介して獲得した。米国国立衛生研究所ジーンバンク(NIH GenBank)に登録されているコリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13869)遺伝子及び周辺の塩基配列に対する情報を基づいて、配列番号6、7、8、及び9のポリヌクレオチドを含むプライマーを製作した。
【0102】
PCRは95℃で5分間変性した後、95℃で20秒の変性、55℃で20秒のアニーリング、72℃で30秒の重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応で行った。より具体的には、配列番号6及び7のプライマーを用いて増幅した500bpのポリヌクレオチドと配列番号8及び9のプライマーを用いて増幅した500bpのポリヌクレオチドを得た。前記得られた2つの遺伝子断片を制限酵素BamHI、SalIで切断したpDZベクター(特許文献4及び5)にインフュージョン酵素を用いて連結することにより、遺伝子置換ベクターを製作し、これを「pDZ-ldh-pro-1mt」と命名した。前記のベクター製作のために用いられたプライマー配列情報は、下記表3に示した。
【0103】
【表3】
実施例4-2.変異が導入されたKFCC11074の製作及び乳酸生成量の確認
前記実施例4-1を介して製作した遺伝子置換ベクターをKFCC11074菌株に導入して変異が導入されたグルタミン酸生産菌株「KFCC11074::ldh-pro-1mt」を製作した。変異が導入されないコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074及び前記KFCC11074::ldh-pro-1mt菌株は、それぞれ実施例1-2と同様の方法で培養した。
【0104】
培養が完了した後、各培地内のL-グルタミン酸濃度及び乳酸濃度を測定した。測定したL-グルタミン酸及び乳酸の濃度は、下記表4に示した。
【0105】
【表4】
表4に示すように、変異が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074::ldh-pro-1mt菌株が生産したL-グルタミン酸の濃度は、変異が導入されないコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074が生産したL-グルタミン酸の濃度に比べて、約8g/L(約88%)がより高いことを確認した。
【0106】
一方、前記KFCC11074::ldh-pro-1mt菌株が生産した乳酸の濃度は、変異が導入されないコリネバクテリウム・グルタミカムKFCC11074が生産した乳酸の濃度に比べて、17g/L低いことを確認した。
【0107】
すなわち、前記変異は微生物のL-グルタミン酸の生成能を増加させて、乳酸の生成能を減少させることをもう一度確認した。
【0108】
実施例4-3.変異が導入されたKFCC11074の酵素活性の確認
前記実施例4-2を介して製作したKFCC11074::ldh-pro-1mt菌株の乳酸生成能の減少に対するメカニズムを確認するとともに、前記変異は乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase:LDH)のプロモーター内に含まれていることを確認し、前記変異に伴う乳酸生産酵素である乳酸脱水素酵素の活性を確認した。
【0109】
具体的には、前記酵素の活性の評価は、次のような方法で行った。まず、細胞を下記組成の#3号培地25 ml(250ml flask)に6時間(30℃、200rpm)培養した後、細胞を沈殿させて(4000rpm、10分)上澄み液を除去し、20mM Tris-HCl(pH7.5)25mlで細胞の洗浄を繰り返して3回行った。洗浄した後、上澄み液を除去し、細胞抽出のために20mM Tris(pH7.5)の組成に15%グリセロールバッファー(glycerol buffer)2mlで再懸濁(resuspension)して、1mlをビードチューブ(bead tube)に入れてホモジナイザーを用いて46/30秒の条件で均質化を6回行った。その後4℃、13000rpmで20分間遠心分離した。
【0110】
#3号培地:
グルコース2%、ポリペプトン1%、(NH4)2SO41%、KH2PO40.52%、K2HPO41.07%、酵母エキス1%、ウレア(urea)0.15%、MgSO4-7H2O0.05%、d-ビオチン(d-Biotin)1.8mg/L、チアミン-HCl(Thiamin-HCl)9mg/L、パントテン酸カルシウム(Ca-pantothenic)9mg/L、ナイアシンアミド(Niacinamide)60mg/L
以後、ビードチューブで得られた上澄み液(サンプル)に含まれているタンパク質の濃度を確認及び標準化するために、ブラッドフォードアッセイ(Bradford assay)を行った。ブラッドフォードアッセイは、以下の表5及び6を参照し、標準曲線(standard curve)を確保して、サンプルの濃度を確認した。この時、総20μl体積のサンプルに1×バイオラッドプロテインアッセイ(Biorad protein assay)試薬を980μl添加及びボルテックス(vortexing)して吸光度を3分内外で595nmで測定した。
【0111】
【0112】
【表6】
以後、KFCC11074及びKFCC11074::ldh-pro-1mt菌株の乳酸脱水素酵素に対する活性の実験は、下記表7の反応液組成比を用いて行い、スターター(Starter)として30mMピルビン酸ナトリウム(sodium pyruvate)を用いた。また、下記表8の条件で測定した前記2つの菌株の乳酸脱水素酵素の活性は下記表9に示した。
【0113】
【0114】
【0115】
【表9】
表9に示すように、変異が導入された菌株では乳酸脱水素酵素の活性が減少することが確認できた。
【0116】
すなわち、前記変異は、微生物の乳酸脱水素酵素の活性を減少させることで乳酸の生成能を低下させるということを確認した。
【0117】
前記結果をすべて総合すると、本出願のポリヌクレオチドは、1つの塩基が置換された変異を含む乳酸脱水素酵素のプロモーターであって、変異されたプロモーター活性を介して野生型またはグルタミン酸の生産菌株で乳酸脱水素酵素の活性を弱化させて発酵の目的産物であるグルタミン酸の生産能を増加させ、さらに発酵産物の嗜好性を低下させる乳酸の生産能を減少させることができるため、グルタミン酸を高収率で生産しようとする様々な産業分野に有用に用いられる。
【0118】
以上の説明から、本願が属する技術分野の当業者は、本願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、制限的なものではないものと理解しなければならない。本願の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0119】
【配列表】