(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-01
(45)【発行日】2022-02-09
(54)【発明の名称】味噌の製造方法及び味噌製造キット
(51)【国際特許分類】
A23L 11/50 20210101AFI20220202BHJP
【FI】
A23L11/50 107
(21)【出願番号】P 2021098161
(22)【出願日】2021-06-11
【審査請求日】2021-06-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519042308
【氏名又は名称】広瀬 絵里加
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 絵里加
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特許第162236(JP,C2)
【文献】特開昭56-099767(JP,A)
【文献】特開2006-174814(JP,A)
【文献】特開平01-252269(JP,A)
【文献】特開2007-006833(JP,A)
【文献】特開平11-103825(JP,A)
【文献】レシピサイト「楽天レシピ」で2015年 9月19日に公開されたレシピ情報「発酵女子に☆手作りが断然おいしい!手前味噌」(レシピID: 1720021523)のレシピ情報,[オンライン], 検索日:2021年8月24日,URL,https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1720021523/
【文献】日本経済新聞サイトで2010年12月 9日に公開された記事「大豆使わずコメみそ 山崎醸造がアレルギー対応品」[オンライン], 検索日:2021年8月24日,URL,https://www.nikkei.com/article/DGXNASFB08035_Y0A201C1L21000/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google,Cookpad,楽天レシピ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
味噌原料、塩、麹、及び水を少なくとも含む第1の混合物を得る工程、
第1の混合物を発酵させて、第1の発酵物を得る第1の発酵工程、
第1の発酵物、及び塩を少なくとも混合して、第2の混合物を得る工程、及び
第2の混合物を発酵させて、第2の発酵物を得る第2の発酵工程、
を含む、味噌の製造方法であって、
第1の混合物の塩分が、第2の混合物の塩分よりも低く、
2.0~9.0質量%であり、かつ水分が30~70質量%であり、かつ
第1の混合物及び/又は第2の混合物に、さらに味噌が添加されている、味噌の製造方法。
【請求項2】
第1の混合物の塩分が、4.0質量%~8.0質量%であ
る、請求項1に記載の味噌の製造方法。
【請求項3】
第1の混合物の水分量に対する塩分が、7.5質量%~20.0質量%である、請求項1又は2に記載の味噌の製造方法。
【請求項4】
第2の混合物の塩分が、5.5質量%~10.0質量
%であり、かつ水分が30~70質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の味噌の製造方法。
【請求項5】
第2の混合物の水分量に対する塩分が、10.0質量%~20.0質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の味噌の製造方法。
【請求項6】
第1の混合物及び/又は第2の混合物には、第2の混合物の質量を基準として、合計で味噌が2.0~15質量%添加されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の味噌の製造方法。
【請求項7】
前記味噌原料が、小麦又は米を含む食品である、請求項1~6のいずれか一項に記載の味噌の製造方法。
【請求項8】
前記味噌原料が、食品廃棄物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の味噌の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の味噌の製造方法に用いるための味噌製造キットであり、第1の混合物を得るための第1の組成物と、第2の混合物を得るための第2の組成物とを含む、味噌製造キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味噌の製造方法及び味噌製造キットに関する。特に、本発明は、発酵期間を短縮でき、香味の良好な味噌を、非常に容易に製造することができる味噌の製造方法及び味噌製造キットに関する。
【背景技術】
【0002】
味噌は、大豆を蒸煮したものを味噌原料に、麹及び食塩を添加し、この原料混合物を、発酵及び熟成させることによって製造される。麹は、蒸煮した米等を基質として麹菌を培養したものである。大豆の代わりに米又は麦を使用した、米味噌又は麦味噌も知られている。
【0003】
発酵では、まず麹菌の酵素によって味噌原料が分解される第1段階が行われる。これによって、グルコース、アミノ酸、ペプチド等が混合物中に豊富になる、乳酸菌及び酵母を含む微生物が活動を始める第2段階が開始される。乳酸菌は、乳酸を生成し、pHを低下させて酵母の成育しやすい環境を作ると共に、変敗微生物の成育を阻止して保存性を向上させる。酵母は、グルコースからエタノールを生成し、またアミノ酸から高級アルコールを生成する等によって、香味形成に重要な役割を果たす。発酵終了後、微生物が関与しない、化学的合成による熟成の段階に入る。発酵によって生成された様々な物質で、化合、分解、重合などが起こることによって、味噌の香味がさらに形成される。特に、熟成工程では、糖とアミノ酸によるメイラード反応によって、味噌の色が濃色に変化していく。
【0004】
発酵には、30℃前後の温度で行われ、その後の熟成も同一の温度で行われるが、このとき雑菌の増殖を抑制し腐敗を防止するために、通常、原料混合物の全質量に対し7~13質量%程度の食塩が添加されている。この範囲の量の食塩を含有する原料混合物を発酵させ、さらに熟成させることにより、香味の良好な味噌を得ることができる。
【0005】
味噌の製造に必要な時間は、味噌の種類によって異なるが、仕込み後、発酵及び熟成に必要とされる時間が長く、通常の味噌は、5~12ケ月程度である。発酵及び熟成に必要な時間は、発酵温度、塩分、添加剤の使用等によって短縮することができ、従来、様々な検討がされている。
【0006】
例えば、特許文献1は、糖化及び発酵が完了している焼酎滓を原料として用いることによって、通常の味噌の製造工程における発酵及び熟成を大幅に短縮する味噌の製造方法を開示している。
【0007】
特許文献2は、低い塩分の原料混合物を使用し、低温による第1の発酵工程と、高温による第2の発酵工程とを行うことで、雑菌の繁殖を抑制し、味噌として良好な香味を得ることができる減塩味噌の製造方法を開示している。この方法では、比較的短期間で味噌を製造することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-81号公報
【文献】特開2017-29068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、同じ塩分の味噌を製造する場合と比較して発酵期間を短縮でき、かつ香味の良好な味噌を、非常に容易に製造することができる味噌の製造方法及び味噌製造キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの実施形態において、本発明は、
味噌原料、塩、麹、及び水を少なくとも含む第1の混合物を得る工程、
第1の混合物を発酵させて、第1の発酵物を得る第1の発酵工程、
第1の発酵物、及び塩を少なくとも混合して、第2の混合物を得る工程、及び
第2の混合物を発酵させて、第2の発酵物を得る第2の発酵工程、
を含む、味噌の製造方法であって、
第1の混合物の塩分が、第2の混合物の塩分よりも低く、かつ
第1の混合物及び/又は第2の混合物にさらに味噌が添加されている、
味噌の製造方法である。
【0011】
この味噌の製造方法によれば、第1の混合物の塩分が比較的低いために発酵期間を短縮することができ、また第1の混合物及び/又は第2の混合物に味噌が添加されているために、様々な味噌原料を使用しても最終的に得られる味噌の香味が良好となる。
【0012】
また、この製造方法では、第1の発酵工程と第2の発酵工程との両方を室温で実行できるため、一般家庭内、レストラン内等においてさえも容易に行うことが可能である。また、非常に容易に製造することができるため、味噌のことを詳しく知らない人、例えば日本人以外の外国人であっても、香味の良い味噌を再現性よく製造することができる。
【0013】
さらなる実施形態において、本発明の方法は、第1の混合物の塩分が、4.0~8.0質量%であり、かつ水分が30~70質量%である。特に、本発明の方法は、第1の混合物の水分量に対する塩分が、7.5質量%~20.0質量%である。
【0014】
第1の混合物の塩分及び水分がこのような範囲である場合には、腐敗が発生しにくく、かつ発酵期間を短縮化することができるため有利である。
【0015】
さらなる実施形態において、本発明の方法は、第2の混合物の塩分が5.5質量%~10.0質量%以下であり、かつ水分が30~70質量%である。特に、本発明の方法は、第2の混合物の水分量に対する塩分が、10.0質量%~20.0質量%である。
【0016】
第2の混合物の塩分及び水分がこのような範囲である場合には、最終的に得られる味噌の賞味期限を比較的長期にすることができるため有利である。
【0017】
さらなる実施形態において、第1の混合物及び/又は第2の混合物には、第2の混合物質量を基準として、合計で味噌が2.0~15質量%添加されていてもよい。
【0018】
第1の混合物及び第2の混合物が、上記のような範囲で各成分を含む場合には、短い発酵期間で香味の良好な味噌が得られやすいため好ましい。
【0019】
さらなる実施形態において、本発明の方法は、味噌原料が、小麦又は米を含む食品である。
【0020】
この実施形態によれば、味噌原料が通常用いられる蒸煮した大豆ではなく、小麦又は米を含む食品であっても香味が良好な味噌を製造することができるため、有利である。小麦又は米を含む食品
【0021】
特に味噌原料が小麦又は米を含む食品である実施形態において、本発明の方法は、その味噌原料が食品廃棄物である。
【0022】
本発明の方法は、上記のとおり、一般家庭内、レストラン内等においてさえも容易に行うことができるが、この実施形態によれば、家庭内、レストラン内等でのフードロスを削減することができるため社会的に非常に有益である。
【0023】
他の1つの実施形態において、本発明は、上記の本発明の方法を実施するための味噌製造キットであり、第1の混合物を得るための第1の組成物と、第2の混合物を得るための第2の組成物とを含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、同じ塩分の味噌を製造する場合と比較して発酵期間を短縮でき、香味の良好な味噌を、非常に容易に製造することができる味噌の製造方法及び味噌製造キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
《味噌の製造方法》
本発明の味噌の製造方法は、味噌原料、塩、麹、及び水を少なくとも含む第1の混合物を得る工程;第1の混合物を発酵させて、第1の発酵物を得る第1の発酵工程;第1の発酵物、及び塩を少なくとも混合して、第2の混合物を得る工程;及び第2の混合物を発酵させて、第2の発酵物を得る第2の発酵工程を含む、味噌の製造方法であって、第1の混合物の塩分が、第2の混合物の塩分よりも低く、かつ第1の混合物及び/又は第2の混合物にさらに味噌が添加されている。
【0026】
〈第1の混合物を得る工程〉
第1の混合物は、味噌原料、塩、麹、及び水を少なくとも含むが、他の成分がさらに混合されていてもよい。例えば、第1の混合物は、本発明の有利な効果が得られる限りにおいて、さらに調味料(アミノ酸等)、アルコール、ビタミン類等が第1の混合物にさらに混合されていてもよい。
【0027】
第1の混合物には、さらに味噌が添加されていてもよいが、第2の混合物に味噌を添加する場合には、第1の混合物には、味噌を全く添加しなくてもよい。第1の混合物に味噌が添加される場合、添加される味噌は、本発明の方法の工程の途中で発酵して生じたものとは区別される。添加される味噌は、通常の市販の味噌であってもよく、本発明の方法によって最終的に得られるような香味の良好な味噌を用いてもよい。味噌を第1の混合物に添加することによって、どのような種類の味噌原料を用いたとしても、香味の良好な味噌を容易に得ることができる。ただし、好ましくは、添加される味噌は、発酵が停止されていない味噌、例えば火入れされていない生味噌、アルコール未添加味噌等である。これにより、第1の混合物に由来する麹に加えて、添加される味噌によっても、混合物の発酵を促進することができる。
【0028】
第1の混合物に味噌を添加する場合、味噌の添加量は、第1の混合物の全質量に対して、例えば、0.1質量%~50質量%、0.5質量%~50質量%、1.0質量%~30質量%、1.5質量%~10質量%、又は2.0質量%~5.0質量%の範囲とすることができる。理論に拘束されないが、第1の混合物に味噌が添加されている場合には、微生物の活動が早期に開始され、発酵期間をさらに短縮できると考えられる。本明細書において、味噌の添加量は、添加する味噌の質量から味噌中の塩分及び水分を除いた量をいう。
【0029】
味噌原料としては、麹によって発酵して味噌となることができれば特に限定されないが、蒸煮した豆類、米類、麦類、その他の穀物を挙げることができ、例えばキヌアのような雑穀であっても、本発明の方法によれば、香味の良好な味噌を製造することができる。
【0030】
本発明の方法においては、味噌原料は、通常用いられる蒸煮した大豆ではなく、小麦又は米を含む食品、例えばパン、パスタ、うどん、ご飯等であってもよい。パンの種類も特に限定されず、食パン、コッペパン、ライ麦パン、タコス、ナン、黒パン、レーズンパン、フランスパンのようなものであってもよく、ご飯は、白米だけではなく、玄米であってもよい。このように様々な味噌原料を用いた場合であっても、本発明の方法によれば、香味の良好な味噌を製造することができる。
【0031】
本発明の方法において、味噌原料として、上記のような食品の食品廃棄物を利用することで、家庭内、レストラン内等でのフードロスを削減することができるため社会的に非常に有益である。ここで、食品廃棄物とは、必要以上に製造されて余った食品をいう。
【0032】
第1の混合物中の味噌原料の乾燥質量に基づく含有量は、第1の混合物の全質量に対して、例えば、5質量%~50質量%、10質量%~45質量%、15質量%~40質量%、又は20質量%~35質量%の範囲とすることができる。ここで、乾燥質量とは、水分を除いた質量をいう。
【0033】
第1の混合物は、塩分を含み、第1の混合物の塩分は、第2の混合物の塩分よりも低い。これにより、第1の発酵工程を比較的低い塩分で行うことができるため、同じ塩分の味噌を製造する場合と比較して、発酵期間を短縮することができる。
【0034】
塩分は、微生物の活動に大きな影響を与えるため、発酵工程に重要な役割を果たす。第1の混合物中の塩分は、2.0質量%以上、3.0質量%以上、4.0質量%以上、5.0質量%以上、5.5質量%以上、6.0質量%以上、6.5質量%以上であってもよく、10.0質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.5質量%以下、又は6.0質量%以下であってもよい。第1の混合物中の塩分は、例えば、2.0質量%~10.0質量%、4.0質量%~8.0質量%、又は5.0質量%~6.5質量%の範囲とすることができる。このような塩分であれば、比較的短い発酵期間で第1の発酵工程を行うことができる。なお、本明細書において、塩分について言及する場合には、塩の添加量だけではなく、添加される味噌の塩分等も含めて計算される。一方で、味噌原料に含まれる塩分については、本明細書における塩分では通常は無視されるが、味噌原料に、無視できないほどに塩分が含まれる場合には、当然に塩分の計算に味噌原料中の塩分を含める。味噌原料に含まれる塩分は、味噌原料の質量に対して5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、又は1.0質量%以下であることが好ましい。
【0035】
第1の混合物は、麹を含む。麹は、コウジカビを含めば特に限定されないが、米麹、麦麹、豆麹等を挙げることができる。麹は、乾燥状態のものを用いてもよく、又は乾燥していない生麹を用いてもよい。これらは、通常の製造方法で製造されたものを使用することができる。
【0036】
第1の混合物中の麹の含有量は、乾燥した状態で、例えば、5.0質量%~40質量%、6.0質量%~30質量%、7.0質量%~20質量%、8質量%~18質量%、又は10質量%~15質量%の範囲とすることができる。麦麹や他の米麹を用いる場合には、上記乾燥米麹のコウジカビの量を基準として、上記の質量範囲から換算して、添加量を決定することができる。
【0037】
第1の混合物は、水分を含む。第1の混合物に含まれる水分は、味噌原料等の他の成分から由来するものであってもよく、又は水が混合されて含まれるものであってもよい。
【0038】
発酵中に、酵素及び/又は微生物は水中でその役割を果たすため、水分は発酵に重要な役割を果たす。第1の混合物中の水分は、例えば、20質量%~80質量%、30質量%~70質量%、40質量%~60質量%、45質量%~55質量%、又は47質量%~53質量%の範囲とすることができる。
【0039】
混合物中の水分量に対する塩分量も、酵素及び/又は微生物が水中で役割を果たし、かつ塩分が水溶液として存在するので、重要な意味を有している。本発明の方法の第1の混合物では、水分量に対する塩分は、一般的な味噌の製造方法と比較して、低めの値とすることができ、具体的には、混合物中の水分量に対する塩分は、例えば、5.0質量%~25.0質量%、7.5質量%~20.0質量%、8.0質量%~15.0質量%、又は10.0質量%~13.0質量%の範囲とすることができる。
【0040】
麹、塩及び水は、塩麹液として第1の混合物に添加することができる。その場合、液体塩麹液は、麹の水に対する質量比(麹の質量/水の質量)を、0.2~1.5、0.3~1.2、0.4~1.0、又は0.5~0.7の範囲とすることができる。また、その塩分は、3質量%~25質量%、5質量%~20質量%、10質量%~18質量%、12質量%~16質量%、又は13質量%~15質量%の範囲とすることができる。この塩麹液を、麹、水、及び塩が上述のような質量となるようして、少なくとも味噌原料と混合することができる。
【0041】
〈第1の発酵工程〉
本発明の方法は、第1の混合物を得た後、これを発酵させる工程を含む。第1の発酵工程によって、第1の混合物をかなりの程度まで発酵させる。第1の発酵工程では、麹菌の酵素によって味噌原料が分解される第1段階と共に、乳酸菌及び酵母を含む微生物が活動をする第2段階との両方を行うことができる。
【0042】
第1の発酵工程における発酵条件は、第1の混合物の腐敗が進まずに発酵が進むのであれば特に限定されないが、例えば、室温で、直射日光が当たらない場所で静置させておくだけでもよい。ただし、第1の混合物は、よく揉んで混ぜ合わされていることが好ましく、定期的に混ぜ合わされることが好ましい。
【0043】
発酵工程における温度及び期間は、第1の混合物の塩分にも依存するが、例えば発酵温度は、0℃~50℃、5℃~40℃、10℃~35℃、又は15℃~30℃の範囲とすることができ、また発酵期間は、1日~2ヶ月、3日~1ヶ月、又は1週間~3週間とすることができる。発酵温度及び発酵期間は、味噌の発酵に重要な影響を与えるが、これらについては味噌の発酵条件についての周知技術を参照することができる。
【0044】
〈第2の混合物を得る工程〉
本発明の方法は、上記のようにして得られた第1の発酵物に、少なくとも塩を混合して第2の混合物を得る工程を含む。第2の混合物は、第1の発酵物に対して、少なくとも塩が混合されるが、他の成分がさらに混合されていてもよい。例えば、第2の混合物は、本発明の有利な効果が得られる限りにおいて、さらに味噌、麹、塩、水、調味料(アミノ酸等)、アルコール、ビタミン類等が第2の混合物にさらに混合されていてもよい。
【0045】
第2の混合物中に添加される塩分は、第1の混合物100質量部に対して、例えば、0.1質量部~5.0質量部、0.3質量部~4.0質量部、0.5質量部~3.0質量部、0.8質量部~2.5質量部、又は1.0質量部~2.0質量部の範囲とすることができる。
【0046】
第2の混合物中の塩分は、第1の混合物の塩分より高く、5.0質量%以上、5.5質量%以上、6.0質量%以上、6.5質量%以上、又は7.0質量%以上であってもよく、15.0質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、又は7.0質量%以下であってもよい。第2の混合物中の塩分濃度は、例えば、5.0質量%~15.0質量%、5.5質量%~10.0質量%、6.0質量%~8.0質量%の範囲とすることができる。特に、第2の混合物中の塩分の上限は、発酵期間を短くする上で重要である。
【0047】
第2の混合物には、さらに味噌が添加されていてもよいが、第1の混合物に味噌を添加する場合には、第2の混合物には、味噌を全く添加しなくてもよい。第2の混合物に添加される味噌は、第1の混合物に添加されるような上記の味噌とすることができる。味噌を第2の混合物に添加することによって、どのような種類の味噌原料を用いたとしても、香味の良好な味噌を容易に得ることができる。
【0048】
第2の混合物に味噌を添加する場合、味噌の添加量は、第1の混合物100質量部に対して、例えば、0.1質量部~40質量部、0.5質量部~30質量部、1.0質量部~20質量部、2.0質量部~10質量部、又は3.0質量部~5.0質量部の範囲とすることができる。
【0049】
第1の混合物及び/又は第2の混合物に添加される味噌は合計で、第2の混合物の質量を基準として、例えば、1.0質量%~40質量%、1.5質量%~20質量%、2.0質量%~15質量%、2.5質量%~8質量%、又は3.0質量%~6質量%の範囲とすることができる。
【0050】
第2の混合物には、麹及び/又は水を添加することができる。第2の混合物への麹及び/又は水の添加量は、それぞれ、例えば、第1の混合物100質量部に対して、例えば、0.1質量部~20.0質量部、0.5質量部~15.0質量部、1.0質量部~10.0質量部、1.5質量部~8.0質量部、又は2.0質量部~5.0質量部の範囲とすることができる。この場合、第1の混合物を得る工程と同様に、麹、塩及び水は、塩麹液として第2の混合物に添加することができる。
【0051】
第1の混合物及び/又は第2の混合物に添加される麹は合計で、第2の混合物の質量を基準として、例えば、3.0質量%~50質量%、5.0質量%~40質量%、8.0質量%~30質量%、10質量%~25質量%、又は12質量%~20質量%の範囲とすることができる。
【0052】
第2の混合物の水分は、第2の混合物の質量を基準として、例えば、20質量%~80質量%、30質量%~70質量%、40質量%~60質量%、45質量%~55質量%、又は47質量%~53質量%の範囲とすることができる。
【0053】
本発明の方法の第2の混合物では、水分量に対する塩分は、一般的な味噌の製造方法と比較して、低めの値とすることができ、具体的には、第2の混合物中の水分量に対する塩分は、例えば、6.0質量%~30.0質量%、8.0質量%~25.0質量%、10.0質量%~20.0質量%、又は12.0質量%~16.0質量%の範囲とすることができる。
【0054】
第1の混合物及び/又は第2の混合物に添加される味噌原料は乾燥質量に基づく合計で、最終的に得られる味噌の質量を基準として、例えば、10質量%~50質量%、10質量%~40質量%、15質量%~35質量%、又は20質量%~30質量%の範囲とすることができる。
【0055】
〈第2の発酵工程〉
本発明の方法は、第2の混合物を得た後、これを発酵させる工程を含む。第2の発酵工程によって、味噌として十分な香味が発現するまで第2の混合物を発酵させる。第2の発酵工程では、発酵と同時に熟成も進めることができる。
【0056】
第2の発酵工程における発酵条件は、第1の発酵工程と同様であるが、発酵期間は、第1の発酵工程よりも短くてもよく、例えば1日~1ヶ月、3日~3週間、又は1週間~2週間とすることができる。
【0057】
本発明の方法は、第2の発酵物を得たあとで、これをさらに通常の味噌の熟成工程を有していてもよい。ただし、本発明の方法では、通常の熟成工程を行わなくても、香味の良い味噌を製造することができる。
【0058】
《味噌製造キット》
本発明は、さらに上記のような製造方法に用いるための味噌製造キットに関する。したがって、本発明の味噌製造キットの各構成については、本発明の味噌の製造方法に関して説明した各構成を参照することができる。この味噌製造キットは、第1の混合物を得るための第1の組成物と、第2の混合物を得るための第2の組成物とを少なくとも含む。
【0059】
第1の組成物は、第1の混合物のうち、味噌原料以外の成分がすべて含まれていることが好ましい。このようにすることで、味噌製造キットの使用者は、味噌原料と第1の組成物のみを混合すれば、第1の混合物を得ることができる。しかし、第1の組成物は、第1の混合物のうち少なくともいくつかの成分については、含まれていなくてもよく、その場合には、第1の混合物を得る際に、その含まれていない成分を混合すればよい。同様に、第2の組成物は、第2の混合物のうち、第1の発酵物以外の成分がすべて含まれていることが好ましいが、いくつかの成分については含まれていなくてもよい。
【0060】
味噌製造キットの第1の組成物は、麹を、0質量%~50質量%、10質量%~45質量%、20質量%~40質量%、25質量%~35質量%、又は27質量%~33質量%で含み、塩分を8質量%~25質量%、10質量%~20質量%、又は12質量%~15質量%で含み、水分を30質量%~70質量%、45質量%~65質量%、又は50質量%~60質量%で含み、添加された味噌を、その塩分及び水分を除いて、0質量%~50質量%、1質量%~30質量%、又は2質量%~10質量%で含むことができる。
【0061】
味噌製造キットの第2の組成物は、麹を、0質量%~50質量%、5質量%~30質量%、8質量%~20質量%、又は10質量%~15質量%で含み、塩分を8質量%~20質量%、9質量%~15質量%、又は10質量%~14質量%で含み、水分を10質量%~50質量%、15質量%~35質量%、又は18質量%~25質量%で含み、添加された味噌を、その塩分及び水分を除いて、0質量%~80質量%、20質量%~70質量%、又は30質量%~60質量%で含むことができる。
【0062】
第1の組成物の質量に対する第2の組成物の質量の比(第2の組成物の質量/第1の組成物の質量)は、0.10以上、0.20以上、0.25以上、0.30以上、又は0.50以上であってもよく、2.0以下、1.5以下、1.0以下、0.80以下、0.60以下、0.50以下、又は0.40以下であってもよい。例えば、この比は、0.20以上1.0以下、又は0.25以上0.50以下であってもよい。
【0063】
第1の組成物及び第2の組成物の質量の合計に対する味噌原料の使用量の比(味噌原料の質量/第1及び第2の組成物の合計量)は、0.1以上、0.3以上、0.5以上、0.7以上、又は1.0以上であってもよく、10.0以下、5.0以下、4.0以下、3.0以下、2.0以下、1.5以下、又は1.0以下であってもよい。例えば、この比は、0.1以上10以下、又は0.3以上1.5以下であってもよい。とすることができる。
【0064】
味噌製造キットには、上記のような本発明の製造方法を実施するための説明書が含まれていることが好ましい。この説明書は、味噌製造キットの包装体に直接印字されているものであってもよく、味噌製造キットの包装体中に別紙として含まれていてもよく、実施するための説明が記載されているウェブサイトのURL又はそのリンク先のQRコード等のコードのみであってもよい。
【0065】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
乾燥していない生の米麹、塩、及び水を加えて、液体塩麹(塩分約13.8質量%、水分約43.1質量%)を調製した。この液体塩麹140グラムと、市販の生味噌10グラム(水分約45%)を混ぜて、150グラムの第1の組成物を得た。この第1の組成物150グラムと、細かく切った食パン200グラム(乾燥質量約100グラム)とをよく混ぜ合わせて、第1の混合物(塩分約5.8質量%、水分約52質量%)を得た。
【0067】
第1の混合物を、室温で、直射日光が当たらずに、温度変化の少ない場所に保管をし、一日一回30秒から1分程よく揉んで混ぜ合わせて、これを2週間続けた。これにより、第1の発酵物を得た。なお、1周間経過した段階で、細かく切った食パンの形状は消失しており、2週間経過した段階では、パンの耳の色が少し残るものの白味噌のような外観となっていた。
【0068】
上記の液体塩麹20グラムと、上記の市販の生味噌30グラムとを混合し、第2の組成物(塩分約12%)50グラムを得た。この50グラムの第2の組成物を、第1の発酵物とよく混ぜ合わせて、第2の混合物(塩分約6.6質量%、水分約48.7質量%)を得た。第2の混合物は、茶色の生味噌が比較的多く含まれており、これを第1の発酵物に混ぜただけの状態で、第2の混合物は、少し茶色掛かって通常の味噌の外観に近づいた。
【0069】
第2の混合物を、室温で、直射日光が当たらずに、温度変化の少ない場所に保管をし、一日一回30秒から1分程よく揉んで混ぜ合わせて、これを1週間続けた。これにより、第2の発酵物を得た。
【0070】
このようにして得られた第2の発酵物は、その外観は市販の味噌を大きく変わらず、香味も非常に良好な味噌そのものであった。
【0071】
上記と同様の条件で、味噌原料としてレーズンパン、炊いたお米、キヌア等を用いたところ、いずれも香味の良好な味噌を製造することができた。
【0072】
なお、レーズンパンを用いた場合には、レーズンを含む味噌を製造することができ、キヌアを用いた場合には、キヌアの粒子形状がわずかに観察可能な味噌を製造することができた。お米を用いた場合には、パンと比較して水分が多いため、水の量を調整して第1の混合物を得た。水の量を調整しない場合には、味噌に水気が多少多く含まれていた。
【要約】
【課題】 本発明は、発酵期間を短縮でき、香味の良好な味噌を、非常に容易に製造することができる味噌の製造方法及び味噌製造キットを提供する。
【解決手段】 本発明は、味噌原料、塩、麹、及び水を少なくとも含む第1の混合物を得る工程、第1の混合物を発酵させて、第1の発酵物を得る第1の発酵工程、第1の発酵物、及び塩を少なくとも混合して、第2の混合物を得る工程、及び第2の混合物を発酵させて、第2の発酵物を得る第2の発酵工程、を含む、味噌の製造方法であって、第1の混合物の塩分が、第2の混合物の塩分よりも低く、かつ第1の混合物及び/又は第2の混合物にさらに味噌が添加されている、味噌の製造方法に関する。また、本発明は、味噌製造キットであり、第1の混合物を得るための第1の組成物と、第2の混合物を得るための第2の組成物とを含む。
【選択図】 なし