(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】核融合システム、核融合方法、長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システム及び長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理方法
(51)【国際特許分類】
G21B 3/00 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
G21B3/00 A
(21)【出願番号】P 2020503567
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007564
(87)【国際公開番号】W WO2019168030
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2018032924
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元泰
(72)【発明者】
【氏名】飯吉 厚夫
(72)【発明者】
【氏名】木野 康志
(72)【発明者】
【氏名】武藤 敬
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 美治
(72)【発明者】
【氏名】山本 則正
(72)【発明者】
【氏名】高野 廣久
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸彦
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-239397(JP,A)
【文献】特開2014-196997(JP,A)
【文献】特開2016-114370(JP,A)
【文献】特開2017-198622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21B 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミュオンを発生させるミュオン発生手段と、
原料ガスである重水素ガスまたは重水素・三重水素混合ガスを循環供給するガス供給手段と、
前記ガス供給手段から供給される原料ガスを加速し超音速とするラバールノズルと、
を備え、
前記ラバールノズルは、
前記ガス供給手段と接続されミュオンを減速する整流部と、
前記整流部の下流に設けられ、核融合反応を発生させる反応部と、を備え、
前記反応部には、超音速に加速された原料ガスを衝突させて斜め衝撃波を発生させるための衝撃波発生器が備えられており、
前記ガス供給手段により前記ラバールノズル内に供給され、前記ラバールノズルにより超音速に加速された原料ガスを前記衝撃波発生器に衝突させて斜め衝撃波を発生させ、
斜め衝撃波を前記ラバールノズルの中心軸上に収束させて高密度のガス標的を空中に保持し、
前記高密度のガス標的に前記ミュオン発生手段によりミュオンを導入して核融合反応を生じさせることを特徴とする核融合システム。
【請求項2】
核融合反応を開始させるためのエネルギーを前記高密度のガス標的に導入する核融合点火手段を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の核融合システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の核融合システムを用い、
前記高密度のガス標的を囲んで長寿命核分裂生成物を配置する長寿命核分裂生成物処理ユニットを備え、
当該長寿命核分裂生成物に対して核融合反応により発生した中性子を導入することにより核種変換を行い、半減期を短くすることを特徴とする長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システム。
【請求項4】
ラバールノズルと、前記ラバールノズル内に配置され、斜め衝撃波を発生させるための衝撃波発生器と、を用意し、
原料ガスである重水素ガスまたは重水素・三重水素混合ガスを前記ラバールノズルにより超音速に加速する工程と、
加速された原料ガスを前記衝撃波発生器に衝突させて斜め衝撃波を発生させ、斜め衝撃波を前記ラバールノズルの中心軸上に収束させて高密度のガス標的を空中に保持する工程と、
前記高密度のガス標的にミュオンを導入して核融合反応を生じさせる工程と、
を備えたことを特徴とする核融合方法。
【請求項5】
請求項4に記載の核融合方法により発生した中性子を、核融合の反応領域を囲んで配置された長寿命核分裂生成物に導入することにより核種変換を行い、半減期を短くすることを特徴とする長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミュオン触媒核融合による核融合システム、核融合方法、長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システム及び長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、核融合システムとしては、高温プラズマを磁気で閉じ込める磁気核融合が検討されてきた(例えば、非特許文献1)。
【0003】
また、別方式の核融合システムとして、ミュオン触媒核融合を利用する方法が提案されている。
【0004】
ミュオン触媒核融合は、電子の207倍の質量を有し、負の電荷を持ったミュオン(μ-)を利用する。負ミュオンを重水素または重水素と三重水素との混合物に照射すると、負ミュオンは、原子核を引き寄せミュオン分子を形成する。負ミュオンは電子と電荷は同じであるが、約200倍の質量を持つので束縛軌道半径が約1/200となる。そのため、電子を負ミュオンに置き換えると原子核同士が接近しやすくなり核融合が起こりやすくなる。負ミュオンは消滅までに何度もこの反応に関与できるので触媒のように作用する。
【0005】
例えば、特許文献1には、ミュオン触媒核融合炉が提案されており、特許文献2には、中性子源として、ミュオン触媒核融合を利用する方法が提案されている。
【0006】
高レベル放射性廃棄物の処理方法としては、ガラス固化体とした後の地層処分が検討されてきたが、地層処分場選定に理解が得られにくい等の問題があった。さらに、猿人の誕生から現代人までの種の寿命よりも長い半減期、また、従来、長寿命核分裂生成物(Long Lived Fission Products:LLFP)、例えば、半減期が数百万年もある物質を考古学的年代を超えて残すことに対する倫理上の問題も指摘されている。
【0007】
そこで、LLFPの核種変換により、半減期を低減、または安定同位体へ変換する技術が検討されている。
【0008】
LLFPの核種変換は、LLFPに高強度の中性子を照射することにより行われる。高強度の中性子源としては、プラズマを使った制御熱核融合反応や超ウラン元素の核分裂反応などが候補として挙げられる。
【0009】
しかし、プラズマを使った制御熱核融合反応により、LLFPの処理に必要な中性子数(例えば、1017個/s以上)を得るには、少なくとも国際熱核融合実験炉(ITER) 級の大型設備が必要であり、処理時間短縮にはさらに高い中性子束密度への改造等が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】吉川庄一・飯吉厚夫(1972)核融合入門-高温プラズマの閉じ込め- 共立出版株式会社
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-114370号公報
【文献】特開平7-239397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、従来の熱平衡完全電離超高温プラズマを使う磁気核融合では、反応断面積は、1~5barnと小さい。このように、反応の起きにくい系を使うために、必要な重水素・三重水素の相対エネルギーは30~100keVと大きなエネルギーが必要である。そこで、高温のプラズマで作り、1秒間以上そのプラズマを、真空中に浮かせて閉じ込めておくため、巨大な磁場設備と真空容器などが必要であった。また、核融合反応では大きなエネルギーが放出されるが、これを有効に取り出し機器を冷却する必要がある。磁気核融合では、設備の大型化と溶融塩などの特別な冷却方法が必要であった。
【0013】
特許文献1、2などに記載のミュオン触媒核融合では、ミュオンのターゲットとして、極低温の固体又は液体の重水素(ジュウテリウム、記号d又はD)と三重水素(トリチウム、記号t又はT)を標的とする方法が提案され、基礎的な実験が行われてきた。また、150気圧程度の高圧混合ガスをシリンダ状の容器に封入したガスターゲットを用いている提案も行われている。これらによれば、小さな体積の高密度ガスターゲットに高エネルギー密度のミュオン粒子を入射して、そのターゲット内でDT核融合反応を起こさせるため、極めて短時間にターゲットの蒸発や急膨張が始まるという問題がある。極低温状態からの発生熱を除去することが極めて困難であり、実用性のあるエネルギー源にはなり得なかったのである。また、ガスターゲットの閉じ込めでは圧力が高く、装置上の制約が大きい、という問題があった。
【0014】
本発明の発明者らは、ミュオン核反応について、下記の考察を行った。
【0015】
ミュオン核反応は、ミュオン原子の半径まで原子核が接近した時に起生する反応を、下記の波動関数を設定して解いてきた。
【0016】
【0017】
右辺第3項はミュオン分子の「非断熱+核反応チャンネルへの組み替え」に対応する。上式をガウス関数展開法を使って解いた結果を
図4に示す。
【0018】
図4に、核融合反応の起こり易さの比例常数となる核融合反応断面積と、核反応を起こす原子核の運動エネルギーにより代表した相対速度との関係を示す。縦軸は核融合反応断面積、横軸はエネルギーである。
【0019】
現在、研究開発の主流を担う磁場核融合では、裸の原子核d+-t+間の核融合反応(thermal t-d)を用いる。図中の左側の2線では、原子核の周りを廻る電子を、質量が電子の207倍ある負ミュオンと呼ばれるクオーク(素粒子)に置き換えたときに可能となる核融合断面積を示している。
【0020】
重水素とミュオン三重水素(tμ-d)では、温度(1.4keV)、密度(1021cm-3)において、負ミュオン三重水素原子(tμ)と重水素(d)の間で核融合反応が起こり、その反応断面積は、通常のd-t原子核同士の核融合の100keV、50barn に比べて二桁大きい2000barn(1barnは10-24cm2)になる。また、この反応における核融合反応断面積は、dμ-d間の衝突による核融合反応断面積よりも大きい。
【0021】
ミュオン原子では基底状態における原子半径が、通常の原子の1/200程度に縮小する。このようなミュオン三重水素原子と重水素イオン(裸の原子核)が飛び交い(In-Flight)、相互に接近したとき、波動関数に共鳴が現れ、核融合反応率が増大する。この核融合は、原子の運動量が極めて小さい極低温の固体/液体水素にミュオンが入射して、分子内に共鳴を起こす低温核融合と、高速のイオンが飛びかい二体衝突で発生する高温プラズマ核融合との中間に位置する新しい反応領域である。この独自に開発した核融合反応を、飛翔状態負ミュオン核融合(In-Flight Muon Catalysis Fusion:IFMCF)と呼ぶ。
【0022】
そこで、本発明は、飛翔状態負ミュオン核融合を実現し、標的の保持や冷却などに必要な装置上の大きな制約を解消するための核融合システム及び核融合方法を提供することを目的とする。
また、当該核融合システム及び核融合方法により発生する中性子をLLFPに効率的中に照射して核種変換を行うことができる長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システム及び長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ミュオンを発生させるミュオン発生手段と、原料ガスである重水素ガスまたは重水素・三重水素混合ガスを循環供給するガス供給手段と、前記ガス供給手段から供給される原料ガスを加速し超音速とするラバールノズルと、を備え、前記ラバールノズルは、前記ガス供給手段と接続されミュオンを減速する整流部と、前記整流部の下流に設けられ、核融合反応を発生させる反応部と、を備え、前記反応部には、超音速に加速された原料ガスを衝突させて斜め衝撃波を発生させるための衝撃波発生器が備えられており、前記ガス供給手段により前記ラバールノズル内に供給され、前記ラバールノズルにより超音速に加速された原料ガスを前記衝撃波発生器に衝突させて斜め衝撃波を発生させ、斜め衝撃波を前記ラバールノズルの中心軸上に収束させて高密度のガス標的を空中に保持し、前記高密度のガス標的に前記ミュオン発生手段によりミュオンを導入して核融合反応を生じさせる核融合システム、という技術的手段を用いる。
【0024】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の核融合システムにおいて、核融合反応を開始させるためのエネルギーを前記高密度のガス標的に導入する核融合点火手段を更に備えた、という技術的手段を用いる。
【0025】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の核融合システムを用い、前記高密度のガス標的を囲んで長寿命核分裂生成物を配置する長寿命核分裂生成物処理ユニットを備え、当該長寿命核分裂生成物に対して核融合反応により発生した中性子を導入することにより核種変換を行い、半減期を短くすることを特徴とする長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システム長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システム、という技術的手段を用いる。
【0026】
請求項4に記載の発明では、ラバールノズルと、前記ラバールノズル内に配置され、斜め衝撃波を発生させるための衝撃波発生器と、を用意し、原料ガスである重水素ガスまたは重水素・三重水素混合ガスを前記ラバールノズルにより超音速に加速する工程と、加速された原料ガスを前記衝撃波発生器に衝突させて斜め衝撃波を発生させ、斜め衝撃波を前記ラバールノズルの中心軸上に収束させて高密度のガス標的を空中に保持する工程と、前記高密度のガス標的にミュオンを導入して核融合反応を生じさせる工程と、を備えたことを特徴とする核融合方法、という技術的手段を用いる。
【0027】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の核融合方法により発生した中性子を、核融合の反応領域を囲んで配置された長寿命核分裂生成物に導入することにより核種変換を行い、半減期を短くすることを特徴とする長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理方法、という技術的手段を用いる。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に記載の発明によれば、超音速流中に発生させた衝撃波により高密度のガス標的を核融合領域として空中に保持するとともに、高速気流でガス標的の構造を冷却することができる。これにより、冷却などの工学的な制約を緩めることができ大規模、複雑な装置を用いることなく、高密度のガス標的を核融合領域と定常的かつ安定に維持することができ、飛翔状態負ミュオン核融合を実現することができる。
【0029】
請求項2に記載の発明によれば、核融合点火手段により、高密度のガス標的に核融合反応を開始させるためのエネルギーを導入することができる。
【0030】
請求項3に記載の発明によれば、ミュオン触媒核融合による中性子を用いて、LLFPに効率的に中性子を照射してLLFPの核種変換を行い、半減期を低減することができる。
【0031】
請求項4に記載の発明によれば、超音速流中に発生させた衝撃波により高密度のガス標的を核融合領域として空中に保持するとともに、高速気流でガス標的の構造を冷却することができる。これにより、冷却などの工学的な制約を緩めることができ大規模、複雑な装置を用いることなく、高密度のガス標的を核融合領域と定常的かつ安定に維持することができ、核融合反応を起こすことができる。
【0032】
請求項5に記載の発明によれば、ミュオン触媒核融合による中性子を用いて、LLFPに効率的に中性子を照射してLLFPの核種変換を行い、半減期を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】核融合システム及び長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システムの構成を示す模式図である。
図1(A)は、主なシステム構成を示す斜視模式図であり、
図1(B)は、付帯設備等を含むシステム構成を示す平面模式図である。
【
図2】ガス標的の保持方法を模式的に示した説明図である。
【
図3】LLFPの有効半減期の低減効果を説明するための説明図である。
【
図4】核融合反応の起こり易さの比例常数となる核融合反応断面積と、核反応を起こす原子核の運動エネルギーとの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(核融合システムの構成)
本発明の核融合システムSについて
図1を参照して説明する。
【0035】
図1(A)に示すように、核融合システムSは、ミュオン発生手段1、ガス供給手段2、ラバールノズル3、衝撃波発生器4、拡散筒5及び核融合点火手段6を備えている。
【0036】
ミュオン発生手段1は、ミュオン触媒核融合反応に必要なミュオンを発生させ、ラバールノズル3内に導入するものである。
【0037】
ミュオン発生手段1は、陽子加速器10と、陽子をBeなどの標的に当てパイオンを発生させ、パイオンの自然崩壊によりミュオンを発生させるミュオン発生部11、ミュオン導入部12を備えている。陽子加速器10は、公知の構成のものを使用することができる。
【0038】
陽子加速器10及びミュオン発生部11により発生したミュオンビームは、ミュオン導入部12を経てラバールノズル3の整流部30の入口から整流部30の内部に導入される。
【0039】
ガス供給手段2は、核融合反応の標的となる原料ガスである重水素ガスまたは重水素・三重水素混合ガスを循環供給するものであり、ガスを循環供給するための公知の構成を採用することができる。本発明では、ガス供給手段2は、圧縮機20、蓄圧タンク21、ダンプタンク22、配管23などを備えている。
【0040】
ラバールノズル3は、ガス供給手段2から供給される原料ガスを加速し超音速とする。ラバールノズル3は、ガス供給手段2と上流側で接続され、原料ガスが亜音速で通過する管状の整流部30と、整流部30に対して縮径されたスロート部31と、スロート部31に接続されてスロート部31より大きな径に形成されており、原料ガスが超音速で通過し、核融合反応が生じさせるための管状の反応部32と、から構成される。
【0041】
衝撃波発生器4は、ラバールノズル3の反応部32内に設けられ、超音速に加速された原料ガスを衝突させて斜め衝撃波を発生させるためのものである。衝撃波発生器4は、超音速気流に相対して配置され、超音速気流の衝突により斜め衝撃波を発生させるとともに、斜め衝撃波をラバールノズル3の中心軸上に収束させて高密度のガス標的を空中に保持する。
【0042】
衝撃波発生器4は、上流側の気流の動圧、斜め衝撃波、マッハ衝撃波、反射波で空力的に釣り合いがとれるように構成されていればよく、例えば、
図1に示すような下流に向かって傾斜面を有して対向する板状部材や
図2に示すような円周状に配置された複数の小突起などとして構成することができる。
【0043】
拡散筒5は、ラバールノズル3の下流に設けられた管状の部材で、超音速の原料ガスを亜音速に減速する。
【0044】
核融合点火手段6は、核融合反応を開始させるためのエネルギーを導入するものであり、例えば、エキシマレーザ、ナノ秒レーザー、プラズマガンなどを用いることができる。また、3.5MeV程度のアルファ線源を用いることもできる。ここで、レーザー等の入射を上流側から行うと、高密度なガス標的の安定な発生を阻害することがあるため、核融合点火手段6はラバールノズル3の下流側に配置することが好ましい。
【0045】
核融合システムSは、付帯設備等を備え、
図1(B)に示すような構成を採用することもできる。なお、
図1(B)においては、衝撃波発生器4、核融合点火手段6及び長寿命核分裂生成物処理ユニット7の図示は省略した。
【0046】
ミュオン発生手段1は、ミュオン偏向磁石13を備えており、ミュオンをラバールノズル3の中心軸に対して斜めに入射する。また、ラバールノズル3から漏れる中性子を遮蔽するために、整流部30に接続される配管23はL字状に曲げて配設されている。発電手段8は、配管23に設けられた熱交換器80と発電機81とを備え、排熱を利用して発電を行う。熱交換器80の下流にはヘリウム分離器9を備えられ、反応後のガスからヘリウムを回収する。水冷ジャケット100は、ラバールノズル3を囲むように設けられており、冷却と中性子の遮蔽とを行う。
【0047】
(核融合方法)
核融合システムSの作動方法について、
図1、2を参照して説明する。
【0048】
従来の高エネルギーのミュオン減速と捕獲には、高濃度の重水素または三重水素の液滴を用いる方法などが検討されている。またエネルギーが5MeV程度まで減衰したミュオンに対しては、0.1気圧程度の重水素または三重水素の気体中を通す実験があり、ミュオンの飛程は0.2~0.3m程度であるという実験報告がある。核融合システムSのコンセプトは、ラバールノズル3によって原料ガスの超音速気流を作り、その経路中に衝撃波発生器4を設けて衝撃波を発生させ、中心軸上にマッハ衝撃波面を作る。このマッハ衝撃波面を核融合領域とし、その上流の低圧部で入射ミュオンを減速させることにより、ミュオンを少ない損失で、核融合領域まで輸送することにある。
【0049】
まず、ガス供給手段2により、ラバールノズル3に原料ガスである重水素ガスまたは重水素・三重水素混合ガスを連続的に供給する。以下、原料ガスに重水素・三重水素混合ガスを用いる場合について説明する。
【0050】
重水素・三重水素混合ガスを用いて核融合システムSを定常的に運転するためには、原料ガスの組成は、重水素(d)に対し必要量の三重水素(t)になるように原料ガスの成分を調整する必要があり、好ましくはd:t=1:1である。
【0051】
ラバールノズル3に供給された重水素・三重水素混合ガスは、整流部30を亜音速で通過し、スロート部31を経て反応部32に導入される際に、超音速、例えばマッハ3~5、に加速される。
【0052】
加速された重水素・三重水素混合ガスは、ラバールノズル3の反応部32に設けられた衝撃波発生器4に衝突し、
図2に示すように、斜め衝撃波が発生する。
【0053】
斜め衝撃波は、ラバールノズル3の中心軸上に収束し、マッハ衝撃波と呼ばれる高密度な衝撃波面を形成する。
【0054】
ここで、衝撃波面は、上流が超音速であるため、ガス標的中で発生するacousticな変動、不安定性を上流に伝達することがない。例えば、核融合反応で生じた大きな圧力変動等によっても、ガス標的の高密度のガス標的の発生が妨げられることなく継続する。従って、この強い高密度定在波は空力的に空間に浮いた形で定常的かつ安定に保持される。この高密度のガス標的Gは、負ミュオン核融合の反応領域を構成する。これにより、核融合反応領域に原料ガスを高速度に供給し、核融合反応を連続的に行わせることができる。
【0055】
この高密度のガス標的の現実的な諸元として、例えば、数密度1021cm-3、標準状態で約30気圧、直径2cm、軸長距離1cm程度のガス標的を保持可能である。
【0056】
ミュオン発生手段1により、ラバールノズル3の整流部30の入口から、MeVオーダー、例えば3.5MeVの負ミュオンを、高密度のガス標的Gに導入する。打ち込まれた負ミュオンは、整流部30で亜音速の低密度な原料ガスにより減速され、負ミュオンを捕獲したミュオン捕獲原子が生成する。
【0057】
ここで、ラバールノズル3の内部において、負ミュオンは、入射点から標的に向かって圧力勾配を持った系を飛翔することになる。負ミュオンの入射点から標的の手前まで、1気圧程度のガス密度で0.5~1m程度の助走区間を設け、ガス標的Gに向かってガス密度を上昇させるようにガス圧や長さなどが設定された構成が採用される。
【0058】
標的中への高温イオンの生成は、核融合反応が発生しアルファ粒子が生成されなければ開始されない。従って、核融合反応を開始させるには、ミュオン入射に先立って、点火のために、1~2keVのイオンを冷たい中性ガス中に生成しておく必要がある。
【0059】
そこで、核融合点火手段6により、核融合反応を開始させるためのエネルギーを導入(点火)し、ガス標的に、レーザービームを打ち込んで、1keVの重水素イオンを発生させる。ミュオンをこの高密度の重水素と三重水素ガスのガス標的Gに導入し、三重水素ミュオン捕獲原子を形成させると、ミュオン捕獲原子とガス標的G中の三重水素イオンの衝突により、核融合反応が発生し、エネルギーが14.1MeVの中性子と3.5MeVのアルファ粒子(アルファ線)が発生する。
【0060】
このアルファ粒子のエネルギーを用いて、重水素・三重水素ガスの一部を電離させて 1keVの三重水素イオンを形成する。このイオンとミュオン捕獲原子で、さらに次の核融合反応を起こす。
【0061】
発生したアルファ粒子は、高密度のガス標的と衝突しエネルギーが1~2keVの反跳粒子(イオン)を発生させる。反跳粒子の寿命は1ナノ秒程度である。この反跳粒子と次のミュオン捕獲原子が衝突し、核融合反応が連鎖的におこり、定常的に継続する。
【0062】
超音速流の速さを3マッハとすると、ミュオンの寿命2.2マイクロ秒の間に流れる距離は約2~4mmある。これは、核融合の反応領域に1015個の新しいガスを供給することに相当する。負ミュオンの寿命2.2マイクロ秒の間のミュオンの触媒作用を1000回とすると、ミュオン1世代で個数1010個×触媒回数1000回=1013回の核融合が起こるので、必要な新しい燃料は1013個である。従って、十分な尤度を持って原料ガスを供給することができる。
【0063】
また、ミュオンを捕獲した直後の高エネルギー励起状態の重水素は、ガンマ線を出して基底状態に遷移する。その速い過程で、三重水素と分子を形成するときに、一定の確率で励起状態のエネルギーが重水素または三重水素原子核の1keV以上の運動エネルギーに転化される。これを用いて、核融合反応に先立って、高速イオンをミュオンから直ちに獲得し、ホットスタートできる可能性がある。
【0064】
領域内のガスは、超音速で流入し亜音速で流出する。原料ガスの高速気流は、核融合の反応領域であるガス標的Gに新しい原料ガスを供給し、核融合反応によって生じた熱を除去する機能を有する。
【0065】
核融合領域の入口付近では、約3~5マッハの超音速流で新鮮な冷却ガスが供給される。標的の内部から下流域は約1マッハ程度の亜音速流で、この流出ガスによって標的を支えるエッジの温度を200℃以下に保つことができる。これにより、発生する大きなアルファ線のエネルギーによって、ガス標的Gが短時間に高温になって飛散することを防ぐことができ、核融合反応を安定に維持することができる。
【0066】
(長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システム及び短寿命化処理方法)
核融合システムSは、更に長寿命核分裂生成物(LLFP)処理ユニット7を備えることもできる。この場合、核融合システムSは、長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システムとして構成される。ラバールノズル3の反応部32内側には、高密度のガス標的において発生する14.1MeVの強い中性子線が透過してくる。この中性子線は、核分裂原子炉等で排出される長寿命核廃棄物(LLFP)処理に使うことができる。
【0067】
長寿命核分裂生成物処理ユニット7は、LLFP集合体をラバールノズル3の反応部32の内部に、中性子強度が高い位置、つまり高密度のガス標的を取り囲む位置に配置可能に構成されている。なお、
図1では長寿命核分裂生成物処理ユニット7は上下2か所に配置されているが、これに限定されるものではなく、ラバールノズル3の複数個所に配置したり、反応部32全周を囲むように一体的に形成したりすることができる。
【0068】
LLFP集合体をこのように配置することにより、中性子ソースから広い領域に向かって照射される中性子を、LLFP集合体で効率よく受けることができる。
【0069】
長寿命核分裂生成物処理ユニット7は、ミュオン触媒核融合により多量に発生する高速中性子を減速させて中性子が装置外に漏出しないように遮蔽するための部材である遮蔽部材と、遮蔽部材を取り囲むように設けられ、例えば、純水のような液体媒体を循環させることにより遮蔽部材を冷却するとともに中性子の減速材としての役割を果たす冷却手段と、を備えている(図示せず)。
【0070】
核融合反応により生じた中性子(DT中性子)は、例えば、1019個/秒となる。この中性子は、LLFP集合体に吸収され、一部は背面に透過する。このとき、LLFPの核種変換が行われるため、LLFPの半減期を短くすることができる。
【0071】
ここで、LLFP集合体Lを形成するLLFPタイルの厚さと核種変換効率との関係について説明する。
【0072】
以下の条件により、LLFPの核融合中性子による核種変換率を計算し、LLFPの有効半減期のLLFPタイルの厚さ依存性を調べた。
【0073】
・LLFPの配置:中性子ソースが中心に位置する半径25cmの球殻モデル
・計算方法:時間発展型速度方程式を用いたモンテカルロ法(PHITS)
・照射中性子:DT中性子(14.1MeV)
・核種:Cs-135、Pd-107、Se-79、Zr-93
・中性子強度は1017n/s、1018n/s、1019n/sの3水準
【0074】
ここで、自然崩壊による半減期は、Cs-135:230万年、Pd-107:650万年、Se-79:29.5万年、Zr-93:153万年である。
【0075】
計算結果を
図3に示す。いずれの中性子強度においても、タイル厚さが10cmまでは、厚さが薄くなると急激に有効半減期を低減することができることがわかった。また、有効半減期は、中性子強度が高くなると低減し、例えば、10cmでは、それぞれの核種において、中性子強度が10
17n/sのときには有効半減期は1000年程度、中性子強度が10
18n/sのときには有効半減期は100年程度、中性子強度が10
19n/sのときには有効半減期は10年程度に低減することができる。
【0076】
これにより、LLFPタイルの厚さを10cm以下にすることにより、核種変換効率を高め半減期を短くすることができることがわかった。また、中性子強度を1019n/sまで高めることにより、有効半減期を数十年という極めて短期間まで短縮することができることがわかった。
【0077】
余剰の中性子とアルファ粒子は、遮蔽部材により減速され、遮蔽される。このとき、遮蔽部材において生じた熱を冷却手段で冷却し、排熱を回収する。この遮蔽部材と冷却手段との組み合わせにより、遮蔽部材で中性子が外部に漏出しないように遮蔽し、遮蔽部材において中性子を遮蔽した際に発生する大量の熱を冷却手段により冷却するとともに、排熱を回収し、発電などに有効利用することができる。
【0078】
このような小型で中性子束が高い中性子源として、通常の核融合炉は使えない。以上より、本発明の核融合システムSがLLFPの短寿命化処理の中性子源として好適であることが示された。
【0079】
(実施形態の効果)
本発明の核融合システムS及び核融合方法によれば、超音速流中に発生させた衝撃波により高密度のガス標的を核融合領域として空中に保持するとともに、高速気流でガス標的の構造を冷却することができる。これにより、冷却などの工学的な制約を緩めることができ大規模、複雑な装置を用いることなく、高密度のガス標的を核融合領域と定常的かつ安定に維持することができ、飛翔状態負ミュオン核融合を実現することができる。また、LLFPの核種変換処理に必要な高密度の中性子源とすることができる。
【0080】
本発明の長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理システムS及び長寿命核分裂生成物の核種変換短寿命化処理方法によれば、核融合システムS及び核融合方法により発生させた中性子を用いて、LLFPに効率的に中性子を照射してLLFPの核種変換を行い、半減期を低減することができる。
【0081】
(その他の実施形態)
【0082】
核融合システムS及び核融合方法では、原料ガスとして重水素ガスを用いたDD核融合反応を取り扱うこともできる。
【符号の説明】
【0083】
1…ミュオン発生手段
2…ガス供給手段
3…ラバールノズル
4…衝撃波発生器
5…拡散筒
6…核融合点火手段
7…長寿命核分裂生成物処理ユニット
8…発電手段
9…ヘリウム分離器
10…陽子加速器
11…ミュオン発生部
12…ミュオン導入部
13…ミュオン偏向磁石
20…圧縮機
21…蓄圧タンク
22…ダンプタンク
23…配管
30…整流部
31…スロート部
32…反応部
80…熱交換器
81…発電機
100…水冷ジャケット
G…ガス標的
S…核融合システム