(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】積層体の製造方法、積層体、及び、暖房便座装置
(51)【国際特許分類】
B32B 37/02 20060101AFI20220203BHJP
B32B 38/18 20060101ALI20220203BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220203BHJP
B29C 65/64 20060101ALI20220203BHJP
B29C 65/70 20060101ALI20220203BHJP
C09J 5/02 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
B32B37/02
B32B38/18 F
B32B15/08 N
B29C65/64
B29C65/70
C09J5/02
(21)【出願番号】P 2020519953
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2019019757
(87)【国際公開番号】W WO2019221288
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2018096240
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重藤 暁津
(72)【発明者】
【氏名】楊 弘偉
【審査官】吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/010738(WO,A1)
【文献】特開2015-051542(JP,A)
【文献】国際公開第2008/007787(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/084622(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/129726(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
B29C 65/00 - 65/82
B29C 63/00 - 63/48
C09J 1/00 - 5/10
C09J 9/00 - 201/10
A47K 13/00 - 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体の製造方法であって、
第1級アルコール、及び、第2級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール化合物を含有する雰囲気で、前記第1基材、及び、前記第2基材のそれぞれに対し紫外線を照射して、
前記第1基材上に、前記金属原子とカルボン酸とが結合した金属カルボン酸塩化合物を含有する前駆体層aを形成し、
前記第2基材上に、前記重合体に架橋性基が結合した架橋性重合体を含有する前駆体層bを形成する工程A、ならびに
前記前駆体層a、及び、前記前駆体層bを接触させ、前記架橋層を形成することで前記積層体を製造する工程B
を有
し、
前記第1基材に含有される金属原子が第3族~第13族の金属原子である、
積層体の製造方法。
【請求項2】
前記金属原子は、水和物を形成可能な金属原子である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記工程Bの後に、前記積層体を加熱する工程Cを更に有する、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記紫外線が真空紫外線である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記金属原子が、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Ag(銀)、Zn(亜鉛)、Al(アルミニウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、及び、Pb(鉛)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記第1基材が、前記金属原子を基材の全質量に対して50質量%を超えて含有する金属基材である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体であって、
前記架橋層は、前記金属原子と同種の金属原子と、前記第2基材に含有される重合体とは異なる特定重合体とを含有し、
前記特定重合体は、前記第2基材に含有される重合体にカルボキシ基を有する基が結合したものであり、
前記カルボキシ基の少なくとも一部は、前記架橋層中の前記金属原子と結合して
おり、
前記第1基材に含有される金属原子が第3族~第13族の金属原子である、
積層体。
【請求項8】
前記金属原子が、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Ag(銀)、Zn(亜鉛)、Al(アルミニウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、及び、Pb(鉛)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記第1基材が、前記金属原子を基材の全質量に対して50質量%を超えて含有する金属基材である、請求項7又は8に記載の積層体。
【請求項10】
金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体であって、
前記架橋層は、前記金属原子と同種の金属原子と、前記第2基材に含有される重合体とは異なる特定重合体とを含有し、
前記特定重合体は、前記第2基材に含有される重合体にカルボキシ基を有する基が結合したものであり、
前記カルボキシ基の少なくとも一部は、前記架橋層中の前記金属原子と結合しており、
前記第1基材が発熱体であり、前記第2基材が便座であり、
発熱体付き便座として用いられる
、積層体。
【請求項11】
請求項10に記載の積層体を有する暖房便座装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法、積層体、及び、暖房便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つ以上の基材同士を接合してなる積層体の製造方法として、基材を構成する材料の構造、及び、基材の有する機能等を維持するために、大きなエネルギ(典型的には大きな熱エネルギ)をできるだけ付加せずに、複数の基材同士を接合して積層体を得る、積層体の製造方法が求められている。特に、重合体を含有する基材の接合には、重合体のガラス転移温度以下の温度で基材を接合する方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、「第1材料と第2材料とを離間させた状態で、第1材料の接合面と第2材料の接合面とに、紫外線を照射する照射工程を含む洗浄工程と、第1材料の接合面と第2材料の接合面とのうち少なくとも一方を、架橋物質に曝露する曝露工程と、第1材料の接合面と第2材料の接合面とを当接させる当接工程と、を備えることを特徴とする接合方法。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記の従来の接合方法を用いて様々な材料で構成された基材同士を接合し、その接合面の形態を観察し、また接着性の長期的な経時変化を調査する等して検討した。その結果、上記の従来の接合方法を用いて形成された積層体は、長期信頼性、すなわち、製造から一定期間経過した後の基材同士の接着性に改善の余地がある場合が存在することを知見した。
この傾向は、重合体を含有する基材と金属原子を含有する基材とを接合した場合に、より顕著であることも本発明者らは知見した。
【0006】
そこで、本発明は、優れた長期信頼性を有する積層体を製造できる、積層体の製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、そのような積層体、及び、暖房便座装置を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の諸態様は、以下のとおりである。
[1].
金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体の製造方法であって、
第1級アルコール、及び、第2級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール化合物を含有する雰囲気で、前記第1基材、及び、前記第2基材のそれぞれに対し紫外線を照射して、
前記第1基材上に、前記金属原子とカルボン酸とが結合した金属カルボン酸塩化合物を含有する前駆体層aを形成し、
前記第2基材上に、前記重合体に架橋性基が結合した架橋性重合体を含有する前駆体層bを形成する工程A、ならびに
前記前駆体層a、及び、前記前駆体層bを接触させ、前記架橋層を形成することで前記積層体を製造する工程B
を有する積層体の製造方法。
[2].
前記金属原子は、水和物を形成可能な金属原子である、上記[1]項に記載の積層体の製造方法。
[3].
前記工程Bの後に、前記積層体を加熱する工程Cを更に有する、上記[1]又は[2]項に記載の積層体の製造方法。
[4].
前記紫外線が真空紫外線である、上記[1]~[3]項のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
[5].
金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体であって、
前記架橋層は、前記金属原子と同種の金属原子と、前記第2基材に含有される重合体とは異なる特定重合体とを含有し、
前記特定重合体は、前記第2基材に含有される重合体(すなわち前記第2基材に由来する重合体)にカルボキシ基を有する基が結合したものであり、
前記カルボキシ基の少なくとも一部は、前記架橋層中の前記金属原子と結合している、積層体。
[6].
前記第1基材が発熱体であり、前記第2基材が便座であり、
発熱体付き便座として用いられる、上記[5]項に記載の積層体。
[7].
上記[6]項に記載の積層体を有する暖房便座装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた長期信頼性を有する積層体を製造可能な、積層体の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、そのような積層体、及び、暖房便座装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】工程Aにおいて、所定の雰囲気で、第1基材、及び、第2基材に紫外線を照射する操作を示す模式図である。
【
図2】工程Aにおいて、各基材に紫外線が照射された後に得られた、前駆体層a付き第1基材、及び、前駆体層b付き第2基材の模式図である。
【
図3】工程Bにおいて、前駆体層同士が向かい合うように、前駆体層a付き第1基材と前駆体層b付き第2基材とを接触させる操作を示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法により製造される積層体を示す模式図である。
【
図5】雰囲気中におけるエタノールの相対湿度が異なる条件で紫外線照射した場合の前駆体層a付きAl基材のO1sスペクトルと、紫外線照射前のAl基材のO1sスペクトルである。
【
図6】紫外線照射前のAl基材のO1sスペクトルを波形分離し、各ピークエネルギが由来する化学結合状態を同定した結果である。
【
図7】雰囲気中のエタノールの相対湿度が9.45RH%としたときの前駆体層a付きAl基材のO1sスペクトルを波形分離し、各ピークエネルギが由来する化学結合状態を同定した結果である。
【
図8】雰囲気中のエタノールの相対湿度が24.85RH%としたときの前駆体層a付きAl基材のO1sスペクトルを波形分離し、各ピークエネルギが由来する化学結合状態を同定した結果である。
【
図9】雰囲気中のエタノールの相対湿度を5.2RH%、26.6RH%として作成した前駆体層a付き基材のFT-IR(Fourier transform infrared spectrometer)測定結果、及び、比較として、紫外線照射前のAl基材の測定結果である。
【
図10】Al基材とポリイミド基材の接合界面(架橋層)の透過電子顕微鏡(TEM)像である。
【
図11】Al基材とポリイミド基材の接合界面(架橋層)の透過電子顕微鏡(TEM)像における、架橋層の拡大図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る暖房便座装置の要部を示す斜視図である。
【
図13】便座を閉じた状態の暖房便座装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、実施例を除いて、それらの数値は「約」によって修飾されていると認識され得る。
【0012】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表す。また、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルの双方、又は、いずれかを表す。
【0013】
[積層体の製造方法]
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法は、金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体の製造方法であって、第1級アルコール、及び、第2級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール化合物を含有する雰囲気で、上記第1基材、及び、上記第2基材のそれぞれに対し紫外線を照射して、第1基材上に、金属原子とカルボン酸とが結合した金属カルボン酸塩化合物を含有する前駆体層aを形成し、第2基材上に、上記重合体に架橋性基が結合した架橋性重合体を含有する前駆体層bを形成する工程A、ならびに前駆体層a、及び、前駆体層bを接触させ、架橋層を形成することで前記積層体を製造する工程Bを有する積層体の製造方法である。
【0014】
上記積層体の製造方法は、言い換えれば、以下の積層体の製造方法である。
【0015】
金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体の製造方法であって、
第1級アルコール、及び、第2級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール化合物を含有する雰囲気で、第1基材、及び、第2基材のそれぞれに対し紫外線を照射して、
第1基材上に前駆体層aが形成された前駆体層a付き第1基材と、
第2基材上に前駆体層bが形成された前駆体層b付き第2基材とを得る工程であって、
前駆体層aは、金属原子とカルボン酸とが結合した金属カルボン酸塩化合物を含有し、
前駆体層bは、重合体に架橋性基が結合した架橋性重合体を含有する工程A、ならびに
前駆体層a、及び、前駆体層bが向かい合うように、前駆体層a付き第1基材と前駆体層b付き第2基材とを接触させ、第1基材と第2基材との間に架橋層を形成することで前記積層体を製造する工程B
を有する積層体の製造方法。
【0016】
また、上記積層体の製造方法は、言い換えれば、以下の積層体の製造方法である。
【0017】
金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体の製造方法であって、第1級アルコール、及び、第2級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール化合物を含有する雰囲気で、第1基材、及び、第2基材のそれぞれに対し紫外線を照射し、金属原子とカルボン酸とが結合した金属カルボン酸塩化合物を含有する前駆体層aが第1基材上に形成された前駆体層a付き第1基材と、重合体に架橋性基が結合した架橋性重合体を含有する前駆体層bが第2基材上に形成された前駆体層b付き第2基材とを得る工程A、ならびに、前駆体層a、及び、前駆体層bが向かい合うように、前駆体層a付き第1基材と前駆体層b付き第2基材とを接触させ、第1基材と第2基材との間に架橋層を形成することで前記積層体を製造する工程Bを有する積層体の製造方法。
【0018】
上記積層体の製造方法により得られる積層体が優れた長期信頼性を有する機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のとおり推測している。なお、以下に説明する機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれる。
【0019】
本発明者は、特許文献1に記載された接合方法によって得られた積層体の基材同士の接着力が経時的に弱まる場合があることについて、その原因を鋭意検討してきた。その結果、上記接合方法によって得られた積層体が保持される(典型的には使用に供される)環境中に、水(典型的には水蒸気)が存在する場合、特にその傾向が顕著であることを突き止めた。これは、水分子によって経時的に基材同士の接着力(特に、架橋層の接着力)が弱まる可能性を示唆しており、その機序として、基材同士の接合(典型的には、架橋層)が加水分解で解離してしまうことが推測された。
【0020】
すなわち、基材同士の接合界面をパスとして、外部環境中の水分子が架橋層中を拡散し、基材間の架橋結合を解離させたものと推測された。特に、基材の少なくとも一方が重合体を含有する基材の場合、基材自体も水分子を透過しやすいため、上記の傾向がより顕著となるものと考えられた。
【0021】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、金属カルボン酸塩化合物を含有する前駆体層aと、架橋性重合体を含有する前駆体層bとから、架橋層を形成している点に特徴点の一つがある。このようにして得られる積層体は、第1基材と第2基材との接合に、架橋層におけるカルボン酸と金属原子との結合、すなわち、カルボン酸と金属原子との結合(以下、本明細書において、「金属カルボン酸塩構造」ともいう。)が寄与しているものと推測される。この結合は典型的には配位結合であり、結合自体が強固であるうえ、その形成反応が可逆的であり、その結合の一部が解離(加水分解)した場合でも、同時に再結合が起こりうると推測される。本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法により製造された積層体は、架橋層において、金属カルボン酸塩構造の解離-形成が平衡しており、これにより積層体は、優れた長期信頼性を有する、言い換えれば、優れた耐水性を有するものと推測される。
以下では、本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0022】
〔工程A〕
工程Aは、第1級アルコール、及び、第2級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール化合物(以下、「特定アルコール」ともいう。)を含有する雰囲気で、第1基材、及び、第2基材のそれぞれに対し紫外線を照射し、金属原子とカルボン酸とが結合した金属カルボン酸塩化合物を含有する前駆体層aを第1基材上に形成し(すなわち、前駆体層a付き第1基材を形成し)、重合体に架橋性基が結合した架橋性重合体を含有する前駆体層bを第2基材上に形成する(すなわち、前駆体層b付き第2基材を形成する)工程である。以下では本工程について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、工程Aにおいて、所定の雰囲気で、第1基材、及び、第2基材に紫外線を照射する操作を示す模式図である。
図1は、第1基材11、及び、第2基材12のそれぞれ一方の主面側から、第1基材及び第2基材に対して、紫外線を照射する様子を示している。
【0024】
<第1基材>
第1基材は、金属原子を含有する基材である。本明細書において、金属原子を含有するとは、第1基材が、材料成分として金属原子を含有することを意味する。
金属原子を含有する基材中における金属原子の含有量としては特に制限されないが、一般に、材料成分として金属原子を基材の全質量に対して50質量%を超えて含有する基材(以下このような基材を「金属基材」ともいう。)が好ましく、80質量%以上含有する基材がより好ましく、90質量%以上含有する基材が更に好ましい。金属基材は金属原子の2種以上を含有してもよいが、この場合、金属原子の合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0025】
第1基材が含有する金属原子としては特に制限されず、一般に、第3族~第13族の金属原子が好ましく、水和物を形成可能な金属原子がより好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、金属原子としては、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Ag(銀)、Zn(亜鉛)、Al(アルミニウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、及び、Pb(鉛)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、Ti、Ta、Cr、Fe、Ni、Cu、Ag、Zn、Al、Sn、及び、Pbからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0026】
第1基材は、材料成分として金属原子の1種を単独で含有していてもよい。この場合、第1基材は、金属の単体から主になってもよいし、非金属原子を更に含有していてもよい。
第1基材が、非金属原子を更に含有する場合、非金属原子としては特に制限されないが、例えば、炭素、窒素、酸素、及び、水素等が挙げられ、典型的には酸素が挙げられる。
第1基材が材料成分として金属原子と、非金属原子とを含有する場合、第1基材の形態としては、例えば、表面に酸化被膜を有する金属基材等が挙げられるが、上記に制限されない。
第1基材が金属原子と非金属原子とを含有する場合、上記は基材全体に均一に存在する形態であってもよいし、いずれか一方が基材の一部に局在する形態であってもよい。後者の典型例としては、例えば、金属基材と、金属基材上に形成された金属酸化物層、及び/又は、金属窒化物層等を有する複合体が挙げられる。
【0027】
なお、第1基材が、金属原子の1種と非金属原子とを含有する場合、第1基材の組織構造としては特に制限されないが、固溶体、共融混合物、金属間化合物、又は、これらが共存する構造のいずれであってもよい。
【0028】
また、第1基材は、材料成分として金属原子の2種以上を含有していてもよく、更に、非金属原子を含有していてもよい。
この場合、第1基材の組織構造としては特に制限されず、合金、固溶体、共融混合物、金属間化合物、又は、これらが共存する構造のいずれであってもよい。
【0029】
第1基材の大きさ、及び、形状としては特に制限されず、用途に応じて自由に選択できる。第1基材の形状としては、例えば、平面状、曲面を含む三次元形状、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
第1基材の厚みとしては特に制限されず、用途に応じて自由に選択できる。典型的には、第1基材の厚みとしては、一般に50nm~100mmが好ましい。
なお、第1基材は、別の支持体上に形成された形態であってもよい。典型的には、支持体の少なくとも一部の表面を被覆するように形成される形態であってもよい。より具体的には、第1基材は、支持体上に層状形成された形態(例えば、蒸着により支持体上に形成された第1基材)であってもよい。別の支持体は、特に限定されないが、例えばセラミック等の無機物や合成樹脂等の有機物であってよい。
【0030】
<第2基材>
第2基材は、重合体を含有する基材である。本明細書において、重合体を含有するとは、第2基材が、材料成分として重合体を含有することを意味する。
重合体を含有する基材中における重合体の含有量としては特に制限されないが、一般に、基材の全質量に対して材料成分として重合体を50質量%を超えて含有する基材(以下このような基材を「重合体基材」ともいう。)が好ましく、80質量%以上含有する基材がより好ましく、90質量%以上含有する基材が更に好ましい。第2基材は重合体の2種以上を含有してもよいが、この場合、全重合体の合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0031】
重合体(樹脂)としては特に制限されず、公知の重合体が使用できる。
重合体としては、例えば、
ポリエチレン、ポリプロピレン、及び、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系重合体;
ポリ酢酸ビニル、及び、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリ酢酸ビニル系重合体;
ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール系重合体;
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、ポリε-カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート、及び、液晶ポリエステル(LCP)(例えば全芳香族ポリエステル等が挙げられる。)等のポリエステル系重合体;
ナイロン6、ナイロン66、及び、ナイロン12等のポリアミド系重合体;
ポリエチレングリコール、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、及び、ポリフェニレンオキサイド等のポリエーテル系重合体;
ポリ塩化ビニル、及び、ポリ塩化ビニリデン等の含塩素重合体;
ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロアルコキシアルカン、及び、パーフルオロエチレンアルケンコポリマー等の含フッ素重合体;
ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、及び、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体(ABS)等のアクリル系重合体;
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及び、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)等のポリケトン(特に芳香族ポリケトン)系重合体;
ポリイミド系重合体;
ポリカーボネート(PC);及び
これらの共重合体等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリエステル(LCP)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体(ABS)、PET、又は、ポリイミド系重合体が好ましく、ポリイミド系重合体がより好ましい。
【0032】
なお、ポリイミド系重合体としては、イミド結合を有する繰り返し単位からなる重合体であれば特に制限されないが、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、例えば、芳香族ジアミンと酸無水物とを重合させて得られた重合体が挙げられる。
【0033】
芳香族ジアミンとしては、例えば、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンジジン、パラキシリレンジアミン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3′-ジメトキシベンジジン、1,4-ビス(3-メチル-5-アミノフェニル)ベンゼン及びこれらのアミド形成性誘導体等が挙げられる。
【0034】
酸無水物成分(又は酸のアミド形成性誘導体)としては、例えば、ピロメリット酸、3,3′,4,4′-ジフェニルテトラカルボン酸、2,3′,3,4′-ジフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、及び、ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸の無水物が挙げられる。
【0035】
また、重合体の他の形態としては、(前駆体層b形成のためのアルコール雰囲気下の紫外線照射以前において)ヒドロキシ基、カルボキシ基、エチレン性不飽和基、アミノ基、及び、エポキシ基等の架橋性基を実質的に有していないことも好ましい。実質的に有していないとは、重合体の繰り返し単位に架橋性基を有していないことを意味する。また、重合体の他の形態としては、更に、ケイ素原子を実質的に有していないことも好ましい。
【0036】
また、重合体の他の形態としては、主鎖、及び、側鎖からなる群から選択される少なくとも一方に炭素原子とヘテロ原子とが結合した部分構造を有し、その結合の結合エネルギー(理論値)が、1000kJ/mol以下である重合体が好ましく、600kJ/mol以下である重合体がより好ましい。
重合体が、上記の範囲内の結合エネルギーを有する炭素-ヘテロ原子の結合を有することで、紫外線を第2基材に照射した際に、紫外線により上記結合が解離しやすく、結果として、架橋性基を生じさせやすい。
【0037】
重合体としては、より具体的には、下記の式(1)で表される繰り返し単位を有する重合体であってもよい。
【0038】
【0039】
上記式(1)中、R3は4価の連結基であり、R4は2価の連結基であり、R5~R8はカルボニル基を表す。なお、R3は4価の連結基及びR4は2価の連結基は、後述する式(2)におけるR3及びR4と同様である。
また、この式の繰り返し単位数は、重合体が上述の平均分子量を有することになる数であってよい。
【0040】
第2基材の大きさ、及び、形状としては特に制限されず、用途に応じて自由に選択できる。第2基材の形状としては、例えば、平面状、曲面を含む三次元形状、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
第2基材の厚みとしては特に制限されず、用途に応じて自由に選択できる。なかでも、より優れた効果を有する積層体が得られる点で、第2基材の厚みとしては、一般に50nm~10mmが好ましい。
なお、第2基材は、別の支持体上に形成された形態であってもよい。典型的には、支持体の少なくとも一部の表面を被覆するように形成される形態であってもよい。より具体的には、支持体に(一時的に)固定された薄膜状であってもよい。別の支持体は、特に限定されないが、例えばセラミック等の無機物や合成樹脂等の有機物であってよい。
【0041】
所定の雰囲気で、上記第1基材及び第2基材に対して紫外線が照射されると、各基材上には前駆体層が形成される。このとき、照射される紫外線の波長としては特に制限されないが、一般に波長が400nm以下が好ましく、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、波長が200nm以下(本明細書において、波長が200nm以下の紫外線を真空紫外線ともいう。)がより好ましい。
紫外線の波長の下限値としては特に制限されないが、一般に10nm以上が好ましい。
第1基材及び第2基材に対して紫外線を照射する方法としては特に制限されないが公知の紫外線照射装置を用いる方法が挙げられる。
なお、理論に拘束される意図はないが、前駆体形成のための紫外線照射時間について以下の事項が考察される。
前駆体層の形成は、アルコール分子が真空紫外線照射雰囲気内で乖離することで得られるラジカル種の数に比例し、ある量で形成反応が律速する。すなわち、前駆体層の形成は、導入されたアルコール分子密度と照射時間との積で定義可能である。律速量は、基材の本来の化学構造により異なるが、大体の重合体において、アルコールを通常の大気と同等の常温・相対湿度20~50%程度の量まで導入した場合、概ね10分以内で十分な量の前駆体が形成されうる。
【0042】
図1においては、第1基材11と第2基材12のそれぞれに対し、同時に紫外線を照射しているが、本発明に係る積層体の製造方法としては上記に制限されず、第1基材11及び第2基材12のいずれか一方から順に紫外線を照射してもよい。また、同時に照射する場合、複数の第1基材及び/又は第2基材に照射してもよい。
また、
図1においては、シート状の第1基材11及びシート状の第2基材12の一方側の主面から紫外線を照射しているが、これに制限されず、各基材の両方の主面から紫外線を照射してもよい。基材に対して紫外線を照射する方向としては特に制限されない。
【0043】
上記紫外線の照射は特定アルコールを含有する雰囲気において行われる。雰囲気としては、特定アルコールを含有していれば特に制限されず、他の成分を含有していてもよい。また、雰囲気中における特定アルコールはガス状であってもよく、霧状(の液滴)であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0044】
雰囲気は、特定アルコール以外の他の成分を含有していてもよく、他の成分としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、不活性気体が好ましい。不活性気体としては例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、及び、これらの混合物等が挙げられるが、中でも窒素を含有する気体が好ましく、窒素が好ましい。
【0045】
なお、本工程における圧力としては特に制限されず、典型的には大気圧であってよい。例えば、霧化した特定アルコールを含有する大気圧窒素雰囲気であることが好ましい。
【0046】
雰囲気中の特定アルコールの含有量としては特に制限されないが、パラメータとして紫外線照射量kg・s・m-3を用い、相対湿度1~100%RHの環境中でこの値を変化させることが好ましい。なお、雰囲気中における特定アルコールの紫外線照射量は、相対湿度×特定アルコールの飽和蒸気圧×紫外線照射時間により測定可能である。
なお、雰囲気中における特定アルコールの相対湿度は、相対湿度測定装置を用いて測定可能である。
【0047】
雰囲気中の特定アルコールの相対湿度としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、3.0%RH以上が好ましく、10.0%RH以上がより好ましく、30.0%RH以下が好ましい。
雰囲気は特定アルコールの1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。なお、雰囲気が2種以上の特定アルコールを含有する場合は、雰囲気における特定アルコールの合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0048】
特定アルコールは第1級アルコール、及び、第2級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコール化合物である。
特定アルコールによれば、紫外線を照射した際に、ヒドロキシラジカル、及び、CHラジカルが生じやすく、結果としてカルボキシ基を生じさせやすくなると考えられる。その結果として優れた長期信頼性を有する積層体を得ることができる。
【0049】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られやすい点で、上記アルコール化合物の炭素数は1~5個であることが好ましい。そのようなアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2ーペンタノール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール、tert-ブチルアルコール、及び、tert-アミルアルコールが挙げられる。
なかでも、炭素数1~5個の第1級アルコールが好ましく、また、有害性がより低い(ヒトの体内において有害なホルムアルデヒド、及び、ギ酸等を生じにくい)点で、炭素数2~5個の第1級アルコールがより好ましく、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、又は、1-ペンタノールが更に好ましく、エタノール、及び、1-プロパノールが特に好ましく、エタノールが最も好ましい。
【0050】
また、本工程における雰囲気温度としては特に制限されないが、一般に、紫外線(特に真空紫外線)照射中は5~70℃が好ましく、15~30℃がより好ましい。
雰囲気温度が70℃以下であると、第2基材に軟化等の損傷がより生じにくい。雰囲気温度が5℃以上であると、特定アルコール自体が凍結しにくい点で好ましい。
【0051】
上記特定アルコールを含有する雰囲気において紫外線照射(典型的には、真空紫外線照射)を受けると、第1基材及び第2基材上には、それぞれ前駆体層a及び前駆体層bが形成され、前駆体層付き基材が得られる。これらの前駆体層は、後述する工程Bにおいて、互いに接触することによって架橋層を形成し得る層である。
【0052】
金属原子を含有する第1基材は、一般に、最表面には上記金属原子の酸化物を含有する層(金属酸化物層)、及び/又は、コンタミ層(汚染物質層)が形成されていることが多い。なお、コンタミ層は、一般に、有機化合物を含有していることが多い。
【0053】
特定アルコールを含有する雰囲気において、上記第1基材に紫外線を照射すると、紫外線のエネルギにより、第1基材上に物理的に吸着していたコンタミ層が除去されるものと推測される。
また、理論に拘束される意図はないが、第1基材の最表面に金属酸化物層が形成されている場合の前駆体層aの形成の機序は以下のようであると考えられる。紫外線のエネルギにより特定アルコールが解離し、ヒドロキシラジカル、水素ラジカル、及び、CHラジカル等のラジカル種が発生する。このうち、水素ラジカルは、第1基材の最表面の金属酸化物層の少なくとも一部を還元し、第1基材上に陽イオンサイトを生ずる。次いで、この陽イオンサイトにヒドロキシラジカル、及び/又は、CHラジカルが作用し、第1基材上に金属原子とカルボン酸と結合した金属カルボン酸塩化合物を含有する前駆体層aが形成される。
【0054】
このとき、前駆体層aは第1基材上の少なくとも一部に形成されていればよく、第1基材表面の全体に形成されていてもよい。
前駆体層aの厚みとしては特に制限されないが、一般に5nm~10mmが好ましい。
【0055】
また、特定アルコールを含有する雰囲気において、上記第2基材に紫外線を照射すると、紫外線のエネルギにより生じた上記ラジカル種によって、重合体の主鎖、及び/又は、側鎖に、すでに説明したような架橋性基(非限定的な例としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エチレン性不飽和基、アミノ基等)、典型的にはヒドロキシ基が付加される。これにより、第2基材上には、第2基材(いわゆるバルク部分)に含有される重合体とは異なる構造を有する重合体、具体的には、架橋性基が付加された重合体(架橋性重合体)が含まれることとなる。言い換えれば、第2基材上には、架橋性重合体を含有する前駆体層bが形成される。
【0056】
このとき、前駆体層bは第2基材上の少なくとも一部に形成されていればよく、第2基材表面の全体に形成されていてもよい。
前駆体層bの厚みとしては特に制限されないが、一般に5nm~10mmが好ましい。
【0057】
図2には、金属カルボン酸塩化合物を含有する前駆体層a(21)を、第1基材11上に有する、前駆体層a付き第1基材20と、架橋性重合体を含有する前駆体層b(23)を、第2基材12上に有する、前駆体層b付き第2基材22の模式図を示した。
なお、
図2においては、第1基材11の一方側の主面に前駆体層a(21)が形成され、第2基材12の一方側の主面に前駆体層b(23)が形成されている。しかし、本工程において得られる前駆体層a付き第1基材、及び、前駆体層b付き第2基材としては上記に制限されず、第1基材、及び/又は、第2基材の両方の主面にそれぞれ前駆体層が形成されていてもよい。
また、
図2においては、各基材の表面の全体に前駆体層が形成されているが、本発明に係る積層体の製造方法としては上記に制限されず、各基材の少なくとも一部の表面に前駆体層が形成されていればよい。
【0058】
〔工程B〕
工程Bは、前駆体層a、及び、前駆体層bが向かい合うように、前駆体層a付き第1基材と前駆体層b付き第2基材とを接触させ、第1基材と第2基材との間に架橋層を形成する工程である。
【0059】
本工程の流れを
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は、工程Bにおいて、前駆体層同士が向かい合うように、前駆体層a付き第1基材20と、前駆体層b付き第2基材22とを接触させる操作を示す模式図である。
本工程において、2つの基材を接触させる際の雰囲気としては特に制限されないが、一般に、工程Aにおける雰囲気と同様の雰囲気が好ましく、一般大気中であってもよい。
また、2つの基材を接触させる際の温度としては特に制限されないが、一般に15~30℃が好ましく、常温程度であってもよい。
なお、各基材を接触させる際、必要に応じて各基材を加圧してもよい。
【0060】
前駆体層a付き第1基材20と、前駆体層b付き第2基材22とを各前駆体層を向かい合うように(対向させて)接触させると、前駆体層a中の金属カルボン酸塩化合物と、前駆体層b中の架橋性重合体の架橋性基とが反応するものと推測される。典型的には、架橋性重合体の架橋性基に金属カルボン酸塩化合物が付加されるものと推測される。
その結果、
図4に示したような、第1基材11と、架橋層32と、第2基材12とをこの順に有する積層体31が形成される。この時、架橋層は、第2基材に含有される重合体と同様の重合体に、カルボキシ基を有する基が結合して形成された特定重合体と、第1基材に含有される金属原子と同種の金属原子とを含有し、かつ、少なくとも一部の上記金属原子が、特定重合体が有するカルボキシ基と結合している状態である。
上記特定重合体におけるカルボキシ基を有する基は、典型的には、架橋性重合体が有していた架橋性基と、金属カルボン酸塩化合物とが結合して形成されたものである。
【0061】
本工程により形成される架橋層は、上記の成分を含有しており、これは、言い換えれば、第1基材からその構成材料である金属原子が拡散し、第2基材からその構成材料である重合体が拡散し、これらが金属カルボン酸塩構造により結合され、架橋層が形成されているということもできる。本実施形態に係る積層体の製造方法によって得られる、このような構造の架橋層を第1基材と第2基材との間に有する積層体は、優れた長期信頼性を有する。
【0062】
<特定重合体>
特定重合体は、第2基材が有する重合体に、カルボキシ基を有する基が結合した重合体である。すなわち、特定重合体は、第2基材が含有する重合体とは、少なくとも部分的に異なる構造を有する重合体である。ここで、カルボキシ基を有する基としては、少なくとも1つのカルボキシ基を有していれば特に制限されない。カルボキシ基を有する基と重合体との結合位置についても特に制限されない。カルボキシ基を有する基は、重合体の主鎖に結合してもよく、側鎖に結合してもよく、両方に結合してもよい。
架橋層は、特定重合体の1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0063】
カルボキシ基を有する基としては、例えば以下の基が挙げられる。
【0064】
【0065】
上記式中、LA、及び、LCは互いに独立して、単結合、又は、2価の連結基を表し、LBは(m+n+1)価の連結基を表し、R1は水素原子、又は、1価の置換基を表し、nは0以上の整数(10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が更に好ましく、2以下が特に好ましい。)、mは1以上の整数(10以下が好ましく、5以下が好ましく、3以下が特に好ましい。)を表し、複数あるR1及びLCは同一でも異なっていてもよい。また、*は結合位置を表す。上記1価の置換基は、例えば、ヘテロ原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~10の脂肪族または芳香族炭化水素基を表す。
【0066】
LA及びLCの2価の連結基としては特に制限されないが、例えば、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-NR2-(R2は水素原子又は1価の置換基を表す)、アルキレン基(炭素数1~5個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3~5個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~5個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、アルキレン基、アルケニレン基、又は、これらの組み合わせが好ましく、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、アルキレン基、又は、これらの組み合わせが更に好ましい。上記1価の置換基は、例えば、ヘテロ原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1~10の脂肪族または芳香族炭化水素基を表す。
【0067】
LBの(m+n+1)価の連結基としては特に制限されないが、2価の連結基である場合、例えば、LA及びLCとして例示したものが挙げられる。
3価以上の連結基としては、特に制限されないが、例えば、以下の式(1a)~(1d)で表される基が挙げられる。
【0068】
【0069】
式(1a)中、L3は3価の連結基を表す。T3は単結合又は2価の連結基を表し、3個のT3は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
L3としては、3価の炭化水素基(炭素数1~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L3の具体例としては、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及びシクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0070】
式(1b)中、L4は4価の基を表す。T4は単結合又は2価の連結基を表し、4個のT4は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、L4の好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L4の具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0071】
式(1c)中、L5は5価の基を表す。T5は単結合又は2価の連結基を表し、5個のT5は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、L5の好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L5の具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0072】
式(1d)中、L6は6価の基を表す。T6は単結合又は2価の連結基を表し、6個のT6は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、L6の好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L6の具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン残基、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0073】
一般式(1a)~一般式(1d)中、T3~T6で表される2価の連結基の具体例及び好適形態は、すでに説明したLA、及び、LCの2価の連結基と同様であってよい。
【0074】
特定重合体は、カルボキシ基を有する基の1種を単独で有していてもよく、2種以上を有していてもよい。
【0075】
カルボキシ基を有する基としては、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、*-LD-COOHで表される式(*は結合位置を表す)が好ましい。ここで、LDはヘテロ原子を含有してもよい2価の脂肪族炭化水素基(炭素数1~5個が好ましく、炭素数1~4個がより好ましい)を表す。
【0076】
特定重合体としては、より具体的には、以下の式(2)で表される繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0077】
【0078】
上記式(2)中、R3は4価の連結基であり、R4は2価の連結基であり、R5’~R8’はそれぞれ独立にカルボニル基、又は、-C(R9)(R10)-で表される基であり、R9、及び、R10は、それぞれ独立に水素原子、ヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基(炭素数1~5個が好ましい)、又は、すでに説明したカルボキシ基を有する基を表す。ただし、R5’~R8’の少なくとも1つは、-C(R9)(R10)-で表される基であり、かつ、上記繰り返し単位に含まれるR9、及び、R10の少なくとも1つはすでに説明したカルボキシ基を有する基である。
この式の繰り返し単位数は、特定重合体が上述の平均分子量を有することになる数であってよい。
【0079】
ここで、R3の4価の連結基としては特に制限されないが、単環式の脂肪族基、及び、単環式の芳香族基、並びに、縮合多環式の脂肪族基、及び、縮合多環式の芳香族基等が挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、単環式の芳香族基、又は、単環式の縮合多環式の芳香族基が好ましい。
【0080】
単環式の芳香族基としては、ベンゼン環基、及び、ピリジン環基等が挙げられる。縮合多環式の芳香族基としては、ナフタレン環基、及び、ペリレン環基等が挙げられる。単環式の脂肪族基としては、例えば、シクロブタン環基、シクロペンタン環基、及び、シクロへキサン環基等が挙げられる。縮合多環式の脂肪族基としては、ビシクロ[2.2.1]へプタン環基、ビシクロ[2.2.2]オクタン環基、及び、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン環基等が挙げられる。
【0081】
R4の2価の連結基としては、脂環基を有する2価の連結基、芳香族基を有する2価の連結基、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
R2が有してもよい脂環基としては、炭素数3~20の2価の脂環基が好ましく、シクロペンチレン基、及び、シクロヘキシレン基等の単環のシクロアルキレン基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチレン基、ノルボルニレン基、テトラシクロデカニレン基、テトラシクロドデカニレン基、及び、アダマンチレン基等の多環のシクロアルキレン基等が挙げられる。
【0082】
R4の脂環基を有する2価の基としては、脂環基そのものであってもよいが、複数の脂環基がアルキレン基(炭素数1~6のアルキレン基が好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、及び、プロピレン基等)で連結されて、脂環基を有する2価の連結基を形成していてもよい。
脂環基を有する2価の連結基を構成し得る脂環基、アルキレン基は置換基を有していてもよく、そのような置換基としてアルキル基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)、及び、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0083】
<金属原子>
架橋層は、金属原子を含有する。上記金属原子は、第1基材が含有する金属原子が拡散したものである。従って、これは、第1基材に含有される金属原子と同種の金属原子である。
なお、第1基材が2種以上の金属原子を含有する場合、架橋層は、第1基材が含有する金属原子の少なくとも1種を含有すればよく、2種以上を含有していてもよい。
架橋層における金属原子の形態としてはすでに説明したとおりである。上記金属原子は、架橋層中に単体として存在してもよいし、他の非金属原子(典型的には酸素原子)と結合した状態(典型的には金属酸化物)として存在していてもよい。
架橋層において、上記金属原子の少なくとも一部は、上記特定重合体が有するカルボキシ基と結合し、金属カルボン酸塩構造を形成している。
【0084】
〔その他の工程〕
一実施形態において、本発明に係る積層体の製造方法は、上記の各工程に加えて、更に、積層体を加熱する工程Cを有していてもよい。加熱工程を有することにより、より優れた層間の接着力を有する積層体が得られる。
【0085】
本工程における加熱温度としては特に制限されないが、一般に75~180℃が好ましい。また、加熱時間としては特に制限されないが、一般に5分~1時間が好ましい。
また、加熱の際の雰囲気としては特に制限されないが、すでに説明した工程Aと同様の雰囲気であってもよい。
【0086】
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法は、公知の装置を用いて実施できる。例えば、特開2015-51542号公報の
図3に記載の装置を用いて実施でき、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【0087】
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法によれば、基材に対して、大きな熱エネルギを付加せずとも、積層体を得ることができる。また、本発明に係る積層体の製造方法により得られる積層体は、優れた長期信頼性を有する。
本発明の一実施形態に係る製造方法は、第1基材として金属原子を含有する基材を用い、第2基材として重合体を含有する基材を用いているが、この製造方法において、第2基材に代えて、金属原子を含有する基材(典型的には金属基材)を用いた場合であっても優れた接着力を有する積層体が得られる。
【0088】
[積層体]
本発明の一実施形態に係る積層体は、金属原子を含有する第1基材と、架橋層と、重合体を含有する第2基材とをこの順に有する積層体であって、架橋層は、第1基材に含有される金属原子と同種の金属原子と、第2基材に含有される重合体とは異なる特定重合体とを含有し、この特定重合体は、第2基材に含有される重合体にカルボキシ基を有する基が結合したものであり、上記カルボキシ基の少なくとも一部は、架橋層中の上記金属原子と結合している。
【0089】
上記積層体における各層の好適形態としてはすでに説明したとおりである。
架橋層の厚みとしては特に制限されないが、一般に5nm~15mmが好ましい。
【0090】
また、上記積層体は、第1基材と、架橋層と、第2基材とをこの順に有してればよく、更に別の部材または層を有していてもよい。
例えば、第1基材と、架橋層と、第1基材と、架橋層と、第2基材とをこの順に有していてもよい。この場合2つの第1基材は同一でも異なっていてもよい。2つの第1基材の間の接合には、上記で説明した第1基材と、第2基材との接合方法を適用可能である。
【0091】
本発明の一実施形態に係る積層体は、その層間の結合に金属カルボン酸塩構造が寄与しているため、優れた長期信頼性を有する。このような積層体は、ハイブリッド軽量構造材料、及び、可撓性エレクトロニクス基板等に好適に用いることができる。
【0092】
[発熱体付き便座、暖房便座装置]
本発明の一実施形態に係る発熱体付き便座は、すでに説明した積層体であって、その第1基材が発熱体であり、第2基材が便座である、発熱体付き便座である。
また、本発明の一実施形態に係る暖房便座装置は、上記発熱体付き便座を有する暖房便座装置である。
【0093】
図12~13を参照して、本発明の一実施形態に係る暖房便座装置について説明する。なお、各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0094】
図12は、本暖房便座装置の要部を示す斜視図である。暖房便座装置120は、便鉢122と、便鉢122のリム123上に配置された便座121と、蓋128とを有している。便座121と、蓋128とは、ヒンジ124を支点に回転自在に便鉢122に取り付けらえており、便鉢122に対して上げ下ろしできる。便座121は、左右方向より前後方向が長く形成され、中央付近に中孔部125が設けられ、中孔部125の内側には空間が形成されている。特に、上記空間は、上下に延在する空間であって、中孔部125に環囲される領域である。
図13は、便座121を閉じた状態の暖房便座装置120のX-X′断面模式図である。便座121は主に、上面に設けられる暖房面126を加熱するために、典型的には電気発熱体で構成される発熱体127を内部に有する。
【0095】
図12に示すように、便座121のヒンジ124が設けられる側を後方と、その反対側を前方と表記する(
図12中の「Y」で表される軸)と、蓋128及び便座121は、前方から後方に向かって上げて開いたり、下ろして閉じたりすることができるようになっている。
【0096】
便座の材料としてはすでに説明した第2基材の材料であればその種類は特に制限されない。その非限定的な例としては、射出成型法を用いてより簡便に成形できる点で、ポリオレフィン系重合体、並びに、スチレン系重合体(ポリスチレン樹脂、HIPS(High Impact Polystyrene)樹脂、及び、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂等)等が挙げられる。
【0097】
発熱体の材料としてはすでに説明した第1基材の材料であればその種類は特に制限されない。その非限定的な例としては、水和物を形成可能な金属原子を含有することが好ましく、そのような金属種として、タングステン、モリブデン、及び、タンタル等が挙げられる。発熱体の材料として、より具体的には、上記金属の単体、タングステンカーバイド、及び、モリブデンカーバイド等が挙げられる。また、発熱体の構造としては特に制限されず、線状であっても、面状であってもよい。
【0098】
発熱体付き便座の製造方法としては、すでに説明した積層体の製造方法が適用可能である。すなわち、上記方法により製造した第2基材から構成される便座と、第1基材から構成される発熱体とを、上記方法により接着して積層体とする方法が挙げられる。
上記方法により得られた発熱体付き便座は、便座を形成する重合体が、従来、金属、及び、金属酸化物等との接着が困難であると考えられていたもの(典型的にはポリオレフィン系重合体)であっても、優れた長期信頼性を有する。
【実施例】
【0099】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0100】
[Al基材上に形成された前駆体層の評価]
(試験1)
第1基材としてAl基材(金属基材に該当する)を準備し、真空紫外線(波長172nm、強度はAl基材の表面において約5mW/cm2)を5分間照射した。このとき雰囲気温度は、室温(24℃)であった。また、雰囲気は窒素とエタノールとを含有し、雰囲気中のエタノールの相対湿度は、9.45%RH、16.90%RH、及び、24.85%RHとした。
【0101】
図5~8は、Al基材の真空紫外線照射側(前駆体層側)表面のX線光電子分光計(XPS)測定結果である。より具体的は、
図5~8は、Al基材上に形成された前駆体層における酸素の結合状態の変化を表すO1sスペクトルである。
【0102】
図5には、雰囲気中におけるエタノールの相対湿度(RH)が異なる条件で紫外線照射した場合の前駆体層a付きAl基材のO1sスペクトルと、比較のために、紫外線照射前のAl基材のO1sを示した。なお、各スペクトルは各最大強度で正規化(縦軸)してある。グラフ横軸は、結合エネルギー(binding energy)を示す。
なお、
図5に記載した凡例において、「initial」とあるのは、紫外線照射前のAl基材のスペクトル、9.45%RH、16.90%RH、及び、24.86%RHとあるのは、それぞれ、雰囲気中のエタノールの相対湿度を9.45%RH、16.90%RH、及び、24.85%RHとした場合のスペクトルを示している。
【0103】
図6~8は、それぞれ、紫外線照射前のAl基材、雰囲気中のエタノールの相対湿度が9.45RH%としたときの前駆体層a付きAl基材、雰囲気中のエタノールの相対湿度が24.85RH%としたときの前駆体a層付きAl基材のO1sスペクトルを波形分離し、各ピークエネルギが由来する化学結合状態を同定した結果である。
なお、エネルギーの同定にはNIST(National Institute of Standards and Technology)データベース等を利用した。
【0104】
図6から、紫外線照射前のAl基材(図中には、「Initial」と記載した。)におけるO1sスペクトルは、ほぼO
2-(Al
2O
3由来)とOH
-(Al水和物(Al hydrate)由来)に由来するピークで構成されている。ここから、自然酸化物(Al
2O
3)とその最表面の水和物が支配的に存在していることがわかった。
【0105】
一方、
図7及び
図8によれば、エタノールを含有する雰囲気で真空紫外線照射したAl基材の表面には、C=O、及び、C-OHに由来するピークが検出された。このピークは、雰囲気中におけるエタノールの相対湿度の上昇にともない酸化物由来のピークに対して、その比が上昇していることがわかる。C=O、及び、C-OHは金属カルボン酸塩架橋(金属カルボン酸塩構造)のもととなるカルボキシ基に由来すると考えられる。
【0106】
(試験2)
図9は、雰囲気中のエタノールの相対湿度を(B)5.2RH%、及び、(C)26.6RH%としたことを除いては、試験1と同様の方法で作成した前駆体層a付き基材のFT-IR(Fourier transform infrared spectrometer)測定結果、及び、比較として、(A)紫外線照射前(initial)のAl基材の測定結果を表す。グラフの縦軸は吸光度(Absorbance)、横軸は波数(wavenumber)を表す。
【0107】
図9によれば、雰囲気中におけるエタノールの含有量の増加とともに、カルボキシ基に由来するC=OとCOO
-のピークが水和物に対して優先的に成長していることが確認された。ここから、所望の表面改質効果が得られたと判断できる。
【0108】
[実施例1]
積層体を、特開2015-51542号公報の
図3に記載された装置と同様の装置を用いて作成した。まず、チャンバ内に対向して配置されたステージに、それぞれ第1基材(Al基材、厚み150nm、厚み0.5mmのSi支持体上に蒸着したもの)、及び、第2基材(ポリイミドシート、デュポン社製「カプトン(登録商標)-HN」、厚み25μm)をそれぞれ戴置した。次に、チャンバ内を減圧(真空排気)し、その後、高純度窒素と霧化したエタノールとを混合した気体を導入し、大気圧雰囲気を作成した。このとき、雰囲気中におけるエタノールの相対湿度は25%RH、温度は24℃であった。
【0109】
なお、高純度窒素はチャンバに接続された導入経路から導入し、エタノールは、超音波アトマイザを用いて、直径約5μm以下の霧状にされたものとした。
次に、第1基材、及び、第2基材のそれぞれに対し、真空紫外線を10分間照射し、各基材上に前駆体層を形成した。
次に、前駆体層同士を常温で接触させた後、面圧0.04MPaで加圧し、150℃で5分間保持して積層体を得た。
【0110】
図10には、Al基材とポリイミド基材の接合界面(架橋層)の透過電子顕微鏡(TEM)像を示す。
図10によれば、観察領域全域において、2つの基材が架橋層を介して原子レベルで密着し、有意な空隙が無い状態が観察された。
図11は、
図10の画像中の円形の破線で囲んだ領域(架橋層)を拡大したものである。
図11では、Al基材側から結晶格子像が架橋層を貫通して観察されており、従来手法より低温条件下でも良好に相互拡散が進行した様子がわかる。主要なクラック進展経路になり得る粒界状の明確な界面は観察領域全域で見られず、引張試験では基材内部での破断モードが観察された。半年以上一般大気中に放置した接合体においても界面の微細構造は大きな変化はなく、同様の強度試験結果を得ていることから、積層体は優れた長期信頼性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0111】
11 第1基材
12 第2基材
20 前駆体層a付き第1基材
21 前駆体層a
22 前駆体層b付き第2基材
23 前駆体層b
31 積層体
32 架橋層
120 暖房便座装置
121 便座
122 便鉢
123 リム
124 ヒンジ
125 中孔部
126 暖房面
127 発熱体
128 蓋