(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】治療器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/80 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
A61B17/80
(21)【出願番号】P 2021098452
(22)【出願日】2021-06-14
(62)【分割の表示】P 2020519939の分割
【原出願日】2019-05-17
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018095326
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595046492
【氏名又は名称】KiSCO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 淳一
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-029709(JP,A)
【文献】特開2016-152861(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0182266(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0079701(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0342653(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56-17/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長管骨の骨折の治療に使用される治療器具であって、
弾性を有
するプレートからなり、
前記プレートは、
幅方向において長管骨の一部を囲むように前記幅方向に沿って湾曲した形状を呈する又は湾曲可能であり、
かつ、前記幅方向における長さが前記幅方向と直交する高さ方向における長さよりも長い長手形状を呈し、
前記プレートは、
前記幅方向の略中央部分と、
前記略中央部分から前記幅方向の一端側に延びる少なくとも1つの一方側アームと、
前記一方側アームの先端に設けられており、前記プレートの前記湾曲を拡げた変形により生じる復元力によって骨折部分を一方から押さえる押圧部と、
前記略中央部分から前記幅方向の前記一端側と反対の他端側に延びて前記一方側アームと向かい合う少なくとも1つの他方側アームと、
前記他方側アームの先端に設けられており、前記復元力によって骨折部分を他方から押さえて前記押圧部とで把持する第2押圧部と、
を備える、治療器具。
【請求項2】
前記プレートは、前記一方側アーム及び前記押圧部を複数備え、
複数の前記一方側アームは、前記プレートの前記高さ方向に間隔をあけて前記略中央部分から延びており、複数の前記押圧部は
、複数の前記一方側アームの先端にそれぞれ設けられて
おり、
前記プレートは、前記他方側アーム及び前記第2押圧部を複数備え、複数の前記他方側アームは、前記プレートの前記高さ方向に間隔をあけて前記略中央部分から延びており、複数の前記第2押圧部は、複数の前記他方側アームの先端にそれぞれ設けられている、請求項1に記載の治療器具。
【請求項3】
前記押圧部及び前記第2押圧部は、先端に内向きに突き出たフックを含む、請求項1又は2に記載の治療器具。
【請求項4】
前記押圧部のフックは、90°を超えて内向きに折れ曲がる、請求項3に記載の治療器具。
【請求項5】
前記第2押圧部のフックは、90°で内向きに折れ曲がる、請求項3又は4に記載の治療器具。
【請求項6】
前記プレートは、前記幅方向と平行な中心軸線に対して上下対称である、請求項1~5のいずれか一項に記載の治療器具。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の治療器具であって、
大腿骨転子部骨折又は転子下骨折の治療に使用され、
前記プレートは、大腿骨に対して髄内釘の接続具よりも上方に設置され、
前記押圧部は、前記湾曲を拡げた変形により生じる復元力によって大腿骨の転子部を後方から押さえ、
前記第2押圧部は、前記湾曲を拡げた変形により生じる復元力によって大腿骨の転子部を前方から押さえる、治療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば上腕骨、橈骨、尺骨、大腿骨、脛骨、腓骨などの長管骨の骨折、例えば大腿骨転子部骨折又は転子下骨折、上腕骨近位部骨折、長管骨骨幹部骨折などを治療する際に、インプラントや手術器械として使用される治療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば大腿骨転子部骨折や転子下骨折に対する骨接合治療を行うための治療方法として、髄内釘による固定手術法(髄内固定法)が知られている。
【0003】
髄内固定法は、大腿骨の髄腔内に金属製の髄内釘を差し込むとともに、ラグスクリューを大腿骨の外側面から骨頭部に向かって斜め上方に髄内釘を貫通するように打ち込む。そして、固定ボルトにより髄内釘を骨幹部に固定することで、骨折により分離した骨片を固定する固定方法である(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大腿骨転子部骨折や転子下骨折では、転子部の外側面にも骨折が生じることで、転子部の後外側部分が主骨部から分離する後外側欠損を伴っているケースが多々存在する。しかし、上述した従来の髄内固定法では、大腿骨転子部骨折等に後外側欠損が伴っていた場合に、この欠損により分離した後外側骨片が主骨部に固定されないために、不安定な状態で大腿骨転子部骨折等の治療が行われるが、後外側骨片が主骨部に固定されていない不安定な状態では、大腿骨転子部骨折等の治療中に、骨頭部の旋回や遷延癒合、カットアウトなどの合併症を引き起こす原因となる。これでは、大腿骨転子部骨折等の骨癒合が阻害されることになるので、従来の髄内固定法では、良好に大腿骨転子部骨折等を治療できないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、長管骨の骨折を良好に治療する、特に大腿骨転子部骨折又は転子下骨折に後外側欠損が伴っていた場合にもこれを良好に治療することができる治療器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る治療器具は、例えば上腕骨、橈骨、尺骨、大腿骨、脛骨、腓骨などの長管骨の骨折、例えば大腿骨転子部骨折又は転子下骨折、上腕骨近位部骨折、長管骨骨幹部骨折などの治療に使用される治療器具に関する。該治療器具は、弾性を有するプレートからなり、前記プレートは、湾曲した形状を呈する又は湾曲可能であり、前記湾曲を拡げた変形により生じる復元力によって骨折部分を一方から押さえる押圧部を少なくとも1つ備えることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る治療器具の第1の好ましい実施態様においては、前記押圧部は、前記プレートの幅方向の一端側に設けられている。
【0009】
本発明に係る治療器具の第1の好ましい実施態様においては、前記プレートは、前記押圧部を複数備え、複数の前記押圧部は、前記プレートの高さ方向に間隔をあけて配される複数のアームの先端にそれぞれ備えられている。
【0010】
第1の実施態様の治療器具においては、前記プレートは、幅方向の他端側に、前記湾曲を拡げた変形により生じる復元力によって骨折部分を他方から押さえて前記押圧部とで把持する第2押圧部を少なくとも1つ備えることが好ましい。
【0011】
また、第1の実施態様の治療器具においては、前記押圧部及び前記第2押圧部は、先端に内向きに突き出たフックを有することが好ましい。
【0012】
また、第1の実施態様の治療器具においては、前記押圧部のフックは、90°を超えて内向きに折れ曲がることが好ましい。
【0013】
また、第1の実施態様の治療器具においては、前記第2押圧部のフックは、90°で内向きに折れ曲がることが好ましい。
【0014】
また、第1の実施態様の治療器具においては、前記プレートは、幅方向と平行な中心軸線に対して上下対称であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る治療器具の第2の好ましい実施態様においては、前記プレートは、長手形状を呈し、前記プレートには、少なくとも前記押圧部以外の領域に貫通孔が少なくとも1つ形成されている。
【0016】
第2の実施態様の治療器具においては、前記プレートには、全域にわたって複数の貫通孔が間隔をあけて均一に形成されていることが好ましい。
【0017】
また、第2の実施態様の治療器具においては、前記押圧部は、前記プレートの他の部分よりも厚みが大きいことが好ましい。
【0018】
また、第2の実施態様の治療器具においては、前記押圧部は、前記プレートの長手方向の一端部が折り重ねられてなることが好ましい。
【0019】
また、第2の実施態様の治療器具においては、前記プレートは、前記押圧部から長手方向の他端部に向けて上端縁が低く傾斜していることが好ましい。
【0020】
上述した本発明に係る治療器具は、大腿骨転子部骨折又は転子下骨折の治療に使用され、前記押圧部は、前記湾曲を拡げた変形により生じる復元力によって大腿骨の転子部を後方から押さえることが好ましい。また、前記第2押圧部は、前記湾曲を拡げた変形により生じる復元力によって大腿骨の転子部を前方から押さえることがより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の治療器具によれば、例えば大腿骨転子部骨折又は転子下骨折の受傷時に、骨折線の発生位置に伴い転子部の後外側部分が主骨部から分離する後外側欠損が生じていても、プレートの押圧部により転子部後外側骨片が後方から押えられ、転子部外側部が一塊となる。このように、転子部において分離した後外側骨片を主骨部に安定的に固定した状態とすることができるので、骨接合術中の髄内釘などの施術の際における後外側骨片と主骨部との離開を抑えることができる。また、骨接合術後の骨癒合中に発生し得る後外側欠損に伴う骨頭部を含む大腿骨近位骨片の旋回や転移に伴うカットアウトなどの合併症のリスクを軽減することができ、良好に大腿骨転子部骨折等を治療することができる。そのうえ、後外側欠損の整復位を良好に維持することができるため、欠損した後外側骨片が主骨部に接合されるまで両者の癒合が阻害されることがない。
【0022】
なお、本発明の治療器具は、大腿骨転子部骨折又は転子下骨折のみならず、長管骨の骨折について、分離した骨片同士を安定的に固定した状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態の治療器具が左大腿骨に取り付けられた状態を示す正面図である。
【
図2】第1実施形態の治療器具が左大腿骨に取り付けられた状態を示す側面図である。
【
図3】第1実施形態の治療器具が左大腿骨に取り付けられた状態を示す背面図である。
【
図10】第2実施形態の治療器具が左大腿骨に取り付けられた状態を示す側面図である。
【
図11】第2実施形態の治療器具の湾曲させる前の状態の側面図である。
【
図12】第2実施形態の治療器具の端部を折り返す前の状態の側面図である。
【
図13】第2実施形態の変形例の治療器具の湾曲させる前の状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本発明に係る治療器具は、例えば上腕骨、橈骨、尺骨、大腿骨、脛骨、腓骨などの長管骨の骨折、例えば大腿骨転子部骨折又は転子下骨折、上腕骨近位部骨折、長管骨骨幹部骨折などを治療する際に使用される治療器具である。本発明に係る治療器具は、具体的には、骨折の外科手術(骨接合術)時において、インプラントや手術器械として使用することで、骨折を良好に治療可能なものであり、例えば大腿骨転子部骨折や転子下骨折の外科手術(骨接合術)時には、インプラントとして髄内釘やコンプレッションヒップスクリューなどの既存の器具と併用したり、髄内釘などの施術の際に必要な手術器械として使用するなどして、大腿骨転子部骨折等を良好に治療可能である。
【0025】
以下の実施形態では、本発明に係る治療器具を大腿骨転子部骨折の治療に適用した場合を例にして説明する。
【0026】
図1~
図3は、例えば大腿骨(図示例では左大腿骨)100の転子部骨折(
図1などの骨折線L1に示す)の治療のために髄内釘10及び治療器具1が装着された状態を表している。なお、本発明においては、
図1~
図3の上側を近位側、下側を遠位側とし、
図1の左側を内側、右側を外側とし、
図2の左側を前方側、右側を後方側としている。同様に、
図10の上側を近位側、下側を遠位側、奥側を内側、手前側を外側、左側を前方側、右側を後方側としている。
【0027】
髄内釘10は、大腿骨100の髄腔内に上方から差し込まれるものであり、骨幹部101の外側面から骨頭部102に向かって斜め上方に差し込まれる接続具11と、髄内釘10を骨幹部101に固定するための固定ボルト12とを含む構成のものである。髄内釘10は、例えばチタン、チタン合金、ステンレスなどの生体親和性を有する材料により形成されている。
【0028】
髄内釘10には、近位側に、接続具11が挿入される挿入孔13が形成されている。挿入孔13は、斜め上方に向けて延びるように髄内釘10を貫通している。接続具11は、挿入孔13を介して骨頭部102に向かって斜め上方に打ち込まれる。また、髄内釘10には、遠位側に、固定ボルト12が挿入される貫通孔14が1つ又は複数(本実施形態では2つ)形成されている。貫通孔14は、略水平に延びるように髄内釘10を貫通しており、これにより、固定ボルト12は、骨幹部101に向けて水平にねじ込まれることで、骨折により分離した骨頭部102を含む骨片を先端部のスクリューで捕捉して固定する。
【0029】
なお、
図1及び
図2中、符号15は補助接続具であり、接続具11と並行に延びるように、髄内釘10を貫通して、骨頭部102に向けて斜め上方に打ち込まれている。この補助接続具15の先端部にもスクリューが形成されており、このスクリューにより骨片が補助接続具15に捕捉されることで、補助接続具15によっても骨片が固定される。このように、骨片が接続具11とともに補助接続具15にも捕捉されることで、治療中に骨片(骨頭部102)が回転することを防止できる。なお、髄内釘10は、必ずしも補助接続具15を含む構成のものである必要はない。
【0030】
ここで、髄内釘10により大腿骨転子部骨折の治療を行う際に、
図2などの骨折線L2に示すように、転子部103の外側面に骨折が生じていて転子部103の後外側部分が主骨部105から分離する後外側欠損を伴っていると、髄内釘10ではこの欠損により分離した後外側骨片104を主骨部105に固定できないため、後外側骨片104が主骨部105に固定されない不安定な状態で大腿骨転子部骨折の治療が行われることになる。しかし、後外側骨片104が主骨部105に固定されていない不安定な状態では、大腿骨転子部骨折の治療中に、骨頭部102の旋回や遷延癒合、カットアウトなどの合併症を引き起こす原因となり、これでは、大腿骨転子部骨折の骨接合が阻害されることになるので、良好に大腿骨転子部骨折を治療することができない。
【0031】
そこで、本実施形態の治療器具1は、大腿骨転子部骨折に後外側欠損が伴っていた場合において、転子部103の欠損により分離した後外側骨片104を主骨部105に固定することを可能とするものであり、これにより、大腿骨転子部骨折の骨癒合中における骨頭部102の旋回や遷延癒合、カットアウトなどの合併症のリスクを軽減できるうえ、欠損した後外側骨片104の整復位を維持することができる。加えて、髄内釘10などの施術時において、欠損により分離した後外側骨片104を主骨部105に固定することもでき、これにより、髄内釘10の埋め込み前から埋め込み完了までの間、後外側骨片104の整復位を維持することができる。
【0032】
図4~
図9は、第1実施形態の治療器具1の外観を示している。治療器具1は、所定の厚みを有するプレート2からなる。プレート2は、弾性を有しており、平面視において幅方向に沿ってカーブを描くように折り曲げられた湾曲形状を呈している。この湾曲形状とは、円弧形状や滑らかな曲線形状だけを指すのではなく、大腿骨の一部を囲むように屈曲した形状も含む。プレート2の素材は、例えばチタン、チタン合金、ステンレスなどの生体親和性を有する材料を挙げることができる。プレート2は、長手形状を呈している。長手形状とは、左右方向(幅方向)における長さが、左右方向(幅方向)と直交する上下方向(高さ方向)における長さよりも十分に長い形状をいう。以下の説明では、プレート2の幅方向を長手方向という。なお、第1実施形態では、プレート2は長手形状を呈しているが、必ずしもプレート2は長手形状である必要はなく、左右方向(幅方向)及び上下方向(高さ方向)がほぼ同じ長さの略正方形状であってもよい。
【0033】
プレート2は、大腿骨100に対して、髄内釘10の接続具11や補助接続具15よりも上方に設置される。プレート2は、大腿骨100の転子部103の後方から大転子の周囲を回って転子部103の前方に至ることが可能な長さ、つまりは、長手方向の両端部が大腿骨100の大転子を跨いで転子部103の前面及び後面に及ぶような長さに形成されている。
【0034】
プレート2の湾曲形状の曲がり具合いは、大腿骨100の転子部103の後方から大転子を経て前方にわたる表面形状の曲がり具合いよりもきつく設定されている。プレート2を大腿骨100に設置する際には、プレート2の両端部を開いてプレート2を前記湾曲を拡げた状態にする。これにより、プレート2の前記湾曲を拡げた変形によって生じる復元力によりプレート2が転子部103に巻き付くので、プレート2をネジなどの固定手段を用いることなく転子部103に装着することができる。また、プレート2の両端部により大腿骨100の転子部103が前後両側から挟まれて、転子部103の欠損により分離した2つの骨片のうち一方の後外側骨片104が他方の主骨部105に押え付けられるので、分離した後外側骨片104を主骨部105に固定することができる。なお、上述したプレート2の変形によって生じる復元力は、弾性変形により生じる復元力であってもよいし、塑性変形中のスプリングバック(弾性回復)により生じる復元力であってもよい。
【0035】
プレート2の湾曲形状の曲がり具合は、基本的には、上述したように転子部103の表面形状の曲がり具合いよりもきつく設定されるが、曲がり具合は特に限定されるものではなく、プレート2を大腿骨100に設置した際の固定力が弱い場合には、術者がプレート2をベンディングすることで曲がり具合を調整してから再度設置することができる。
【0036】
プレート2は、長手方向の一端側に、大腿骨100の転子部103の後面に当接する押圧部20を少なくとも1つ備えている。本実施形態では、プレート2は、2つの押圧部20を備えている。この2つの押圧部20は、プレート2の長手方向の一端側の高さ方向中央位置に長手方向に延びる切り欠きを形成することによって、高さ方向に間隔をあけて並行に延びる2つのアーム22の先端に備えられる。この押圧部20は、骨折により分離している少なくとも2つの骨片の一方を他方に向けて押さえる。
【0037】
プレート2は、長手方向の略中央部分26の中心が大腿骨100の大転子外側の骨性隆起におおよそ位置するように位置決めされたときに、押圧部20が転子間稜106の近傍で転子部103の後面に接触するように、その長さが設定されることが好ましい。転子間稜106の近傍とは、押圧部20の接触位置が転子間稜106の直上位置だけでなく、転子間稜106よりも手前の外側位置又は転子間稜106を越えた内側位置も含む。押圧部20が転子間稜106よりも手前の外側位置で接触している場合には、後述するフック21が転子間稜106の内側にある血管に押圧部20が当たることを防止することができる。転子間稜106の手前の外側位置とは、転子間稜106よりも外側に15mm以下の範囲内の位置を指す。なお、押圧部20が転子間稜106の直上位置又は転子間稜106を越えた内側位置で接触している場合には、押圧部20(後述するフック21も含む)が転子間稜106の内側にある血管に当たらないようにすることが好ましい。なお、転子間稜106は、大腿骨100の後面側において、転子部103と頸部107との間で隆起する箇所を指す。
【0038】
押圧部20は、先端に内向きに突き出たフック21を有している。フック21により、大腿骨100の後面側において、転子部103(又は転子部103上の軟部組織)を押え付ける押圧力を高めることができ、転子部103の欠損により分離した後外側骨片104を主骨部105にしっかりと固定することができる。
【0039】
本実施形態では、フック21は、押圧部20の先端部を内向きに折り曲げることにより形成されており、フック21の先端縁は、先の尖った刃先を構成している。刃先は鋸刃のようなギザギザ形状であってもよいし、真っ直ぐに延びた形状であってもよい。押圧部20のフック21が内向きに折れ曲がる角度は、特に限定されるものではないが、90°を超えて内向きに折れ曲がることが好ましい。これにより、押圧部20のフック21が後外側骨片104に鋭く噛み込んで係合するので、フック21によってプレート2を転子部103(後外側骨片104)に安定して取り付けることができる。
【0040】
プレート2は、長手方向の他端側に、大腿骨100の転子部103の前面に当接する第2押圧部23を少なくとも1つ備えている。本実施形態では、プレート2は、2つの第2押圧部23を備えている。この2つの第2押圧部23は、プレート2の長手方向の他端側の高さ方向中央位置に長手方向に延びる切り欠きを形成することによって、高さ方向に間隔をあけて並行に延びる2つのアーム25の先端に備えられる。この第2押圧部23は、骨折により分離している少なくとも2つの骨片を押圧部20とで挟持する。
【0041】
第2押圧部23は、プレート2が大腿骨100の転子部103に設置した際に、押圧部20とで転子部103を挟んでいれば、転子部103の前面における接触位置は特に限定されるものではなく、転子部103を挟んで押圧部20と向かい合う対向位置であってもよいし、前記対向位置よりも手前の外側位置又は前記対向位置を越えた内側位置であってもよい。
【0042】
第2押圧部23は、先端に内向きに突き出たフック24を有している。フック24により、大腿骨100の前面側において、転子部103(又は転子部103上の軟部組織)を押え付ける押圧力を高めることができ、転子部103の欠損により分離した後外側骨片104を主骨部105にしっかりと固定することができる。
【0043】
本実施形態では、フック24は、フック21と同様に、第2押圧部23の先端部を内向きに折り曲げることにより形成されており、フック24の先端縁は、先の尖った刃先を構成している。刃先は鋸刃のようなギザギザ形状であってもよいし、真っ直ぐに延びた形状であってもよい。第2押圧部23のフック24が内向きに折れ曲がる角度は、特に限定されるものではないが、90°で内向きに折れ曲がることが好ましい。これにより、第2押圧部23のフック24が主骨部105に確実に噛み込んで係合するので、フック24によってプレート2を転子部103(主骨部105)に安定して取り付けることができる。
【0044】
プレート2は、略中央部分26の上端縁及び下端縁が凹状に湾曲するように形成されており、略中央部分26がくびれている。このように、プレート2の上端縁及び下端縁において余剰部分を極力なくすことにより、プレート2を大腿骨100の転子部103に固定した際に、プレート2が体内組織に干渉することが抑制されるので、治療器具1の装着時に感じる患者の痛みや違和感を軽減することができる。また、プレート2が接続具11、補助接続具15と干渉するのを防ぐことができる。
【0045】
プレート2の長さ(長手方向の大きさ)は、大腿骨100の転子部103の後方から大転子の周囲を回って転子部103の前方に至ることが可能な長さであれば特に限定されるものではないが、展開した状態の長さ(フック21,24の長さを含まない)で、例えば30mm以上90mm以下の範囲、より好ましくは40mm以上80mm以下の範囲、より好ましくは50mm以上70mm以下の範囲に設定されている。以上の範囲であれば、多数の人、特に大腿骨骨折を起こしやすい高齢者に対して体格の差があっても、押圧部20及び第2押圧部を転子部103の上述した接触位置に適切に当接させることができる。
【0046】
フック21,24の長さは、特に限定されるものではないが、例えば1mm以上10mm以下の範囲、より好ましくは3mm以上7mm以下の範囲に設定されている。
【0047】
プレート2の高さ(高さ方向の大きさ)W1は、特に限定されるものではなく、例えば10mm以上30mm以下の範囲、より好ましくは16mm以上24mm以下の範囲に設定されている。なお、プレート2の略中央部分26の高さW2も、特に限定されるものではなく、例えば2mm以上20mm以下の範囲、より好ましくは4mm以上12mm以下の範囲に設定されている。
【0048】
プレート2の厚みTは、特に限定されるものではなく、プレート2の素材として選択される材料により適宜設定されるが、例えば0.5mm以上3.0mm以下の範囲、より好ましくは0.8mm以上2.0mm以下の範囲、より好ましくは1.0mm以上1.5mm以下の範囲に設定されている。
【0049】
プレート2には、略中央部分26よりも長手方向の一端側及び他端側に、押圧部20及び第2押圧部23にそれぞれ対応して貫通孔27が形成されている。この貫通孔27は、プレート2を大腿骨100に装着したり大腿骨100から取り外したりする際に、手術器械を引っ掛けるための孔である。また、貫通孔27には、プレート2を大腿骨100の転子部103にネジで留める必要がある際にネジを通すことも可能である。なお、貫通孔27は必ずしもプレート2に形成されている必要はない。
【0050】
プレート2は、長手方向と平行な中心軸線に対して上下対称となるように形成されている。これにより、1種類の治療器具1を、左右両方の大腿骨に対して左右の区別なく適用することができる。なお、プレート2は、必ずしも前記中心軸線に対して上下対称となるように形成されている必要はない。
【0051】
次に、第1実施形態の治療器具1を用いた大腿骨転子部骨折の外科手術(骨接合術)の手順を簡単に説明する。まず、カンシや徒手などでプレート2を転子部103の外側面近傍の切開部分から体内に挿入し、前側の第2押圧部23を転子部103の前面の適当な位置に当接させてフック24を主骨部105に係合させる。その後、プレート2を拡げながら後側の押圧部20を転子部103の後面の転子間稜106の近傍に位置させて、プレート2を拡げた変形により生じる復元力によりフック21を転子部103の欠損により分離した後外側骨片104に係合させることで、プレート2を転子部103に巻き付けて転子部103に固定する。なお、プレート2は、適切な器具を用いて押圧部20を開くことで拡げてもよいし、押圧部20を押し込むことにより転子部103の表面形状に合わせて開くことで自然と拡げてもよい。
【0052】
次に、髄内釘10を従来から公知の差込用器具(図示せず)に装着する。そして、大腿骨100の転子部103上の皮膚を切開し、ドリル(図示せず)で大腿骨100に穿孔を形成して、差込用器具を用いて髄内釘10を髄腔内へ挿入する。そして、転子部103の外側面近傍の皮膚を切開し、接続具11及び補助接続具15を骨頭部102に向けて差し込むとともに髄腔内に差し込んだ髄内釘10で支えることにより、骨折により分離した骨頭部102を含む骨片を転子部103に接続する。その後、骨幹部101の外側面近傍の皮膚を切開し、固定ボルト12を髄内釘10の貫通孔14を介して骨幹部101にねじ込むことで、髄内釘10を骨幹部101に固定する。
【0053】
第1実施形態の治療器具1によると、プレート2が大腿骨100の転子部103に設置されると、プレート2を拡げた変形により生じる復元力によって押圧部20が後外側骨片104を主骨部105に向けて押し付けるので、転子部103の欠損により後外側骨片104が主骨部105から分離している場合、後外側骨片104を主骨部105に固定した安定な状態で骨接合術中の髄内釘10の施術及び骨接合術後の骨癒合を行うことができる。つまり、これまでは、髄内釘10の施術時には、カンシなどで後外側骨片104を主骨部105に仮固定してから髄内釘10を挿入し、その後、カンシを外していた。しかし、カンシを外すと欠損した後外側骨片104の整復位が維持されなくなるので、その後の骨癒合中の骨頭旋回や遷延癒合などの合併症につながっていた。これに対して、第1実施形態の治療器具1を用いると、骨癒合中に、後外側欠損に伴う骨頭旋回や遷延癒合などの合併症のリスクを軽減することができるので、良好に大腿骨転子部骨折を治療することができるうえ、欠損した後外側骨片104が主骨部105に接合されるまで両者を互いに離れることなく固定できるので、両者の癒合が阻害されることがなく良好な整復位を維持することができる。また、髄内釘10の施術時にも、プレート2により欠損した後外側骨片104を主骨部105に固定することができ、髄内釘10の埋め込み前から埋め込み完了までの間、後外側骨片104の整復位を維持することができるので、カンシによる仮固定の必要がない。第1実施形態の治療器具1はカンシのようにハンドルがないので、髄内釘10の施術時の術野を邪魔せず、また、治療器具1を体内に挿入するために切開する皮膚の大きさを小さくすることができる。
【0054】
また、第1実施形態の治療器具1によると、プレート2が第2押圧部23を備えており、プレート2を拡げた変形により生じる復元力によって押圧部20及び第2押圧部23が前後両側から転子部103を挟持してプレート2が転子部103に巻き付くので、何らの固定手段を用いることなく治療器具1を大腿骨100に装着することができる。よって、身体に対する侵襲度を低くすることができるため、患者の負担を低く抑えることができる。
【0055】
また、第1実施形態の治療器具1によると、プレート2の略中央部分26から各アーム22,25が二股に分かれており、各アーム22,25の先端にそれぞれ押圧部20及び第2押圧部23が設けられている。骨表面は3次元形状でうねりがあり、高さに違いがあるため、各アーム22,25が二股に分かれていることで、各押圧部20,23が骨表面のうねりに沿いながら接触しやすくなる。これにより、各押圧部20,23が転子部103を効果的に押さえることができる。これに対して、各アーム22,25が二股に分かれていない場合には、押圧部20及び第2押圧部23の一部が骨表面に接触せずに骨表面から浮いた状態となるため、各押圧部20,23が転子部103を押さえる押圧力が弱まるおそれがある。なお、各アーム22,25はプレート2の略中央部分26から三つ以上に分かれていてもよい。
【0056】
また、第1実施形態の治療器具1によると、大腿骨転子部骨折を治療するための既存の器具である髄内釘10と干渉することなく、髄内釘10とは互いに独立して大腿骨100に装着されるので、施術者の意図した位置に治療器具1を装着することができるうえ、既存の髄内釘10と併用することができる。なお、説明は省略しているが、大腿骨頸部骨折の治療に用いられるコンプレッションヒップスクリューとも併用することができる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態に係る治療器具1について説明したが、本発明の治療器具は上述した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、第1実施形態の治療器具1では、プレート2は押圧部20及び第2押圧部23をそれぞれ2つずつ備えているが、押圧部20及び第2押圧部23の数は限定されるものではなく、それぞれ1つずつでもよいし、3つ以上ずつであってもよい。また、押圧部20及び第2押圧部23の数は、例えば押圧部20が2つで第2押圧部23が1つなど、互いに異なっていてもよい。
【0059】
加えて、第1実施形態の治療器具1では、フック21,24は、それぞれ押圧部20、第2押圧部23の先端部を内向きに折り曲げて形成しているが、これに限定されるものではない。例えば、断面視で円形状、半円形状、矩形状、台形状、三角形状などの突起をそれぞれ押圧部20、第2押圧部23の先端に一体に設けて形成することで、押圧部20、第2押圧部23による転子部103(又は転子部103上の軟部組織)を押え付ける押圧力を高めてもよい。また、プレート2の両端部を折り返して重ね合わせることで押圧部20及び第2押圧部23の厚みを増大させることによって、押圧部20、第2押圧部23による転子部103(又は転子部103上の軟部組織)を押え付ける押圧力を高めてもよい。
【0060】
加えて、第1実施形態では、髄内釘10の施術時において、治療器具1をインプラントとして髄内釘10の埋め込み前から設置しておくことで、埋め込みが完了するまでの間、欠損した後外側骨片104を主骨部105に固定し、骨癒合が得られるまで良好な整復位を維持することができる。しかし、髄内釘10を埋め込むまでの間は、カンシなどで欠損した後外側骨片104を主骨部105に仮固定し、髄内釘10の埋め込みが完了してカンシを外した後に、インプラントとして治療器具1を欠損した後外側骨片104の固定に使用するようにしてもよい。また、髄内釘10の施術時において、髄内釘10の埋め込みが完了するまでの間、欠損した後外側骨片104を主骨部105に固定する手術器械としてのみ治療器具1を使用することもでき、髄内釘10の埋め込みが完了した後は、取り外すようにしてもよい。
【0061】
また、
図10は、他の第2実施形態の治療器具1´が大腿骨(図示例では左大腿骨)100に取り付けられた状態を示しており、
図11は、他の第2実施形態の治療器具1´の外観を示している。なお、
図10では補助接続具15を省略している。
【0062】
治療器具1´は、所定の厚みを有する長手形状のプレート3からなる。なお、この実施形態のプレート3は、左右方向(幅方向)にまっすぐ延びているのではなく、左右方向(幅方向)の途中から斜め上方に折れ曲がっている。プレート3は、弾性を有しており、平面視において長手方向に沿ってカーブを描くように折り曲げられた湾曲形状を呈している。なお、湾曲形状とは、円弧形状や滑らかな曲線形状だけを指すのではなく、大腿骨の一部を囲むように屈曲した形状も含む。プレート3の素材は、例えばチタン、チタン合金、ステンレスなどの生体親和性を有する材料を挙げることができる。
【0063】
プレート3は、大腿骨100に対して、髄内釘10の接続具11よりも下方に設置される。プレート3は、大腿骨100の転子部103の後面から外側面に至る長さ、つまりは、長手方向の一端部が大腿骨100の転子部103より下方の転子下108の外側部にあてがわれた際に他端部が転子部103の後面に及ぶような長さに形成されている。
【0064】
プレート3の高さ(高さ方向の大きさ)W3,W4は、特に限定されるものではなく、例えば3mm以上20mm以下の範囲、より好ましくは9mm以上16mm以下の範囲に設定されている。プレート3の厚みは、特に限定されるものではなく、プレート3の素材として選択される材料により適宜設定されるが、例えば0.3mm以上3mm以下の範囲、より好ましくは0.3mm以上2mm以下の範囲、より好ましくは0.3mm以上1mm以下の範囲に設定されている。
【0065】
プレート3の湾曲形状の曲がり具合いは、大腿骨100の転子部103の後方から転子下108の外側部にわたる表面形状の曲がり具合いよりもきつく設定されている。プレート3を大腿骨100に設置する際には、プレート3の一端部を開いてプレート3を拡げた状態とする。これにより、プレート3の前記湾曲を拡げた変形により生じる復元力によりプレート3の一端部により大腿骨100の転子部103が後方から支持されて、転子部103の欠損により分離した後外側骨片104が主骨部105に押え付けられるので、分離した後外側骨片104を主骨部105に固定することができる。
【0066】
プレート3の湾曲形状の曲がり具合は、基本的には、上述したように大腿骨100の転子部103の後方から転子下108の外側部にわたる表面形状の曲がり具合いよりもきつく設定されるが、曲がり具合は特に限定されるものではなく、プレート3を大腿骨100に設置した際に固定力が弱い場合には、術者がプレート3をベンディングすることで曲がり具合を調整してから再度設置することができる。
【0067】
プレート3は、長手方向の一端側に、大腿骨100の転子部103の後面に当接する押圧部30を備えている。また、プレート3は、長手方向の他端側に、大腿骨100の主骨部105に固定される固定部31を備えている。押圧部30は、
図12に示すように、プレート3の長手方向の一端部を所定の折り曲げ線lに沿って折り返してプレート3に重ね合わせることによって、プレート3の長手方向の一端に備えられる。この重ね合わされるプレート3の部分は、折り曲げ線lに対して対称形状をなしている。このように、押圧部30をプレート3の長手方向の一端部を折り重ねて形成することで、押圧部30の厚みが増大して、押圧部30によって後外側骨片104を主骨部105に押え付ける押圧力を高めることができる。なお、押圧部30は、必ずしも上述した折り曲げ線lでプレート3の長手方向の一端部を折り返して形成する必要はなく、他の位置の折り曲げ線でプレート3の長手方向の一端部を折り返して形成してもよい。
【0068】
プレート3は、押圧部30が転子間稜106の近傍で転子部103の後面に接触したときに、長手方向の他端側の固定部31が復元力を得ながら大腿骨100の主骨部105に接触するように、その長さが設定されることが好ましい。転子間稜106の近傍とは、押圧部30の接触位置が転子間稜106の直上位置だけでなく、転子間稜106よりも手前の外側位置又は転子間稜106を越えた内側位置も含む。押圧部30が転子間稜106よりも手前の外側位置で接触している場合には、押圧部30が転子間稜106の内側にある血管に当たることを防止することができる。転子間稜106の手前の外側位置とは、転子間稜106よりも外側に15mm以下の範囲内の位置を指す。なお、押圧部30が転子間稜106の直上位置又は転子間稜106を越えた内側位置で接触している場合には、押圧部30が転子間稜106の内側にある血管に当たらないようにすることが好ましい。
【0069】
プレート3は、押圧部30から固定部31に向けて上端縁が低く傾斜するように形成されている。これにより、プレート3を大腿骨100に設置した際に、長手方向の他端側の固定部31は大腿骨100の転子下108の外側部を覆うように配置されるが、直上に配置される接続具11が骨幹部101の外側面から突き出ていても、プレート3が接続具11と干渉するのを防止することができる。なお、プレート3の上端縁の傾斜の態様は、押圧部30から固定部31に向けて、曲線状や直線状、又はその組み合わせであってもよく、傾斜の態様は問わない。
【0070】
プレート3には、固定部31に貫通孔32が少なくとも1つ形成されている。この貫通孔32は、プレート3を大腿骨100にネジ留めにより固定するためのネジ33を通すことのできる孔としての役割を果たすことができる。この実施形態では、複数の貫通孔32がプレート3の全域にわたって間隔をあけて均一に形成されている。これにより、任意の部位に適切なネジ止めが可能であるうえ、プレート3が全体的に湾曲しやすくなるため、大腿骨100の表面形状に沿いやすくなっている。なお、貫通孔32は、必ずしもプレート3の全域にわたって形成されている必要はなく、プレート3のネジ留めのために複数の貫通孔32をプレート3の固定部31に形成する一方で、プレート3を全体的に湾曲しやすくするためには、貫通孔32に代えて、プレート3に上下方向に延びる縦長のスリットを長手方向に間隔をあけて複数形成してもよい。
【0071】
また、複数の貫通孔32をプレート3に形成する場合に、全ての貫通穴32の直径を均一にする必要はなく、適宜その役割に応じて変えてもよい。例えば、ある一つの貫通孔32の直径を髄内釘
10の接続具11を通すのに適した大きさにし、この貫通孔32に接続具11を通すことにより、大腿骨100に対するプレート3の固定部31の設置位置を、
図10に示す転子部103より下方の転子下108ではなく、これより上方の転子部103にしても、プレート3が接続具11と干渉することがない。これにより、プレート3を体内に挿入するために切開する皮膚の大きさを小さくすることができる。
【0072】
次に、
図10及び
図11の第2実施形態の治療器具1´を用いた大腿骨転子部骨折の外科手術(骨接合術)の手順を簡単に説明する。まず、カンシや徒手などでプレート3を転子部103の外側面近傍の切開部分から体内に挿入し、プレート3を拡げながら押圧部30を転子部103の後面の転子間稜106の近傍に位置させて、プレート3を拡げた変形により生じる復元力により押圧部30を転子部103の後面に当接させる。その後、大腿骨100の転子部103より下方の転子下108の外側部において、固定部31を主骨部105にネジ33を用いて固定する。なお、プレート3は、固定部31以外の部分を大腿骨100に対してネジ留めしてもよく、例えば押圧部30を後外側骨片104にネジ33を用いて固定してもよい。プレート3は、適切な器具を用いて押圧部30を開くことで拡げてもよいし、押圧部30を押し込むことにより転子部103の表面形状に合わせて開くことで自然と拡げてもよい。
【0073】
プレート3の設置後、髄内釘10を埋め込む。なお、髄内釘10の埋め込み処置についての説明は第1実施形態と同様であるので省略する。
【0074】
第2実施形態の治療器具1´によると、プレート3が大腿骨100に設置されると、プレート3を拡げた変形により生じる復元力によって押圧部30が後外側骨片104を主骨部105に向けて押し付けるので、転子部103の欠損により後外側骨片104が主骨部105から分離している場合、後外側骨片104を主骨部105に固定した安定な状態で骨接合術中の髄内釘10の施術及び骨接合術後の骨癒合を行うことができる。よって、髄内釘10の施術時に、プレート3により欠損した後外側骨片104を主骨部105に固定することができるので、髄内釘10の埋め込み前から埋め込み完了までの間、後外側骨片104の整復位を維持することができ、カンシによる仮固定の必要がない。また、骨癒合中に、後外側欠損に伴う骨頭旋回や遷延癒合などの合併症のリスクを軽減することができるので、良好に大腿骨転子部骨折を治療することができるうえ、欠損した後外側骨片104が主骨部105に接合されるまで両者を互いに離れることなく固定できるので、両者の癒合が阻害されることがなく良好な整復位を維持することができる。
【0075】
また、第2実施形態の治療器具1´によると、大腿骨転子部骨折を治療するための既存の器具である髄内釘10と干渉することなく、髄内釘10とは互いに独立して大腿骨100に装着されるので、施術者の意図した位置に治療器具1´を装着することができるうえ、既存の髄内釘10と併用することができる。
【0076】
なお、第2実施形態の治療器具1´では、プレート3は、長手方向の途中から斜め上方に折れ曲がった外形を呈しているが、プレート3は、
図13に示すように、一方向に長く延びた外形を呈していてもよい。
図10及び
図11のように、プレート3が長手方向の途中から斜め上方に折れ曲がった外形を呈しているほうが、治療器具1´を体内に挿入するために切開する皮膚の大きさを小さくすることができる。
【0077】
また、第2実施形態の治療器具1´では、プレート3の長手方向の一端部を折り返して重ね合わせることで押圧部30の厚みを他の部分の厚みよりも大きくしているが、プレート3自体を長手方向の一端部が他の部分よりも厚みが大きくなるように形成することで、押圧部30による後外側骨片104を主骨部105に押え付ける押圧力を高めてもよい。なお、押圧部30の厚みは、必ずしもプレート3の他の部分の厚みよりも大きい必要はない。
【0078】
また、第2実施形態の治療器具1´では、プレート3は、
図10に示すように、大腿骨100に対して髄内釘10の接続具11よりも下方に設置されているが、例えば
図2に示すプレート2のように、大腿骨100に対して髄内釘10の接続具11や補助接続具15よりも上方に、つまりは、大腿骨100の転子部103の後方から大転子の周囲を回って転子部103の前方に至るように、設置されてもよい。さらに、プレート3は、大腿骨100に対して髄内釘10の接続具11の上下の両方にそれぞれ設置されてもよい。
【0079】
以上の実施形態の治療器具1,1´は、プレート2,3が予め折り曲げられて湾曲した形状を呈しているが、プレート2,3は、当初は平板状を呈していて、大腿骨100の転子部103の表面形状に合わせて湾曲形状とできるように折曲可能なものであってもよい。
【0080】
また、以上の実施形態の治療器具1,1´は、大腿骨転子部骨折の治療に用いられているが、大腿骨転子下骨折の治療にも用いることができる。さらに、上腕骨近位部骨折、長管骨骨幹部骨折など、広く長管骨の骨折の治療にも用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
1,1´ 治療器具
2 プレート
20 押圧部
21 フック
23 第2押圧部
24 フック
3 プレート
30 押圧部
32 貫通孔