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  • 特許-グロープラグ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】グロープラグ
(51)【国際特許分類】
   F23Q 7/00 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
F23Q7/00 U
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017099638
(22)【出願日】2017-05-19
(65)【公開番号】P2018194249
(43)【公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】八谷 洋介
(72)【発明者】
【氏名】田中 智雄
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】吉本 修
(72)【発明者】
【氏名】桜井 利之
(72)【発明者】
【氏名】千藤 彰大
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-078784(JP,A)
【文献】特開2016-142458(JP,A)
【文献】特開2016-095125(JP,A)
【文献】特開2016-075468(JP,A)
【文献】特開2017-083157(JP,A)
【文献】特開2017-083103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23Q 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の中軸と、
前記中軸に電気的に接続されると共にWやMoを主成分とするコイルと、
前記コイル及び前記中軸の先端側が内側に配置されると共に前記コイルが接続される、先端が閉じたチューブと、
前記チューブと前記中軸との間に介在するシール材と、
前記シール材で前記中軸との間が密閉された前記チューブ内に充填される絶縁粉末と、を備え、
前記チューブは、Niを主成分とし、Fe,Cr,Al及びSiを含有するグロープラグであって、
前記絶縁粉末は、MgO及びCaOを含有し、
前記絶縁粉末におけるCaOの含有率は、MgO及びCaOの含有率の合計に対して0.05~1.5wt%であるグロープラグ。
【請求項2】
前記コイルは、Al,Cr及びSiの含有率の合計が0.1wt%以下である請求項1記載のグロープラグ。
【請求項3】
前記コイルの後端と前記中軸との先端とに接続される後端コイルをさらに有し、
前記コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比である抵抗比R1と、前記後端コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比である抵抗比R2とはR1>R2の関係を満たし、
前記後端コイルは、Alの含有率が1wt%以下である請求項1又は2に記載のグロープラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグロープラグに関し、特に発熱温度を高温化できるグロープラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属製のチューブの内側にコイルが配置されたグロープラグが知られている。このグロープラグは、圧縮着火方式によるディーゼルエンジン等の内燃機関の補助熱源として用いられる。また、グロープラグは、内燃機関の規制が厳格化される中、発熱温度の高温化が求められている。特許文献1には、発熱温度の高温化の要求に応えるため、Ni,Cr,Al及びSiを含有するチューブの内側に、WやMoを主成分とするコイルを配置し、MgOからなる絶縁粉末をチューブ内に充填する技術が開示されている。絶縁粉末にMgOを用いることにより、コイルからチューブへの熱伝導性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5255706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、MgOが吸湿して生成されたMg(OH)は、370℃付近で分解され水を放出する。例えばグロープラグの昇温時などのように、チューブの温度よりもコイルの温度が高いときには、チューブよりも温度の高いコイルの表面の反応速度が速いので、水の存在下でコイルの酸化が進行し、コイルの断面積が減少して抵抗値が上昇し、過熱してコイルが断線するおそれがある。従って、コイルの耐久性のさらなる向上が望まれている。
【0005】
本発明は上述した要求に応えるためになされたものであり、発熱温度を高温化しつつコイルの耐久性を向上できるグロープラグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のグロープラグは、金属製の中軸と、中軸に電気的に接続されると共にWやMoを主成分とするコイルと、コイル及び中軸の先端側が内側に配置されると共にコイルが接続される、先端が閉じたチューブと、チューブと中軸との間に介在するシール材と、シール材で中軸との間が密閉されたチューブ内に充填される絶縁粉末と、を備え、チューブは、Niを主成分とし、Fe,Cr,Al及びSiを含有する。絶縁粉末はMgO及びCaOを含有し、絶縁粉末におけるCaOの含有率は、MgO及びCaOの含有率の合計に対して0.05~1.5wt%である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のグロープラグによれば、CaOと水との反応生成物であるCa(OH)はMg(OH)より熱力学的に安定なので、CaOは、Mg(OH)が370℃付近で分解して放出した水と反応してCa(OH)を生成する。Ca(OH)は約580℃以上で分解されて水を放出する。しかし、Ca(OH)の温度が580℃付近になるときは、コイルの温度だけでなくチューブの温度も十分高いので、コイルのWやMoよりも酸化され易いチューブのCrやAlが、水分の存在下で酸化される。チューブのCrやAlが酸化されると、密閉されたチューブ内の酸素分圧が低下する。これにより、WやMoを主成分とするコイルの酸化を防ぐことができる。よって、発熱温度を高温化しつつコイルの耐久性を向上できる。
【0008】
請求項2記載のグロープラグによれば、コイルはAl,Cr及びSiの含有率の合計が0.1wt%以下なので、コイルに含まれるAl,Cr及びSiと、絶縁粉末に含まれるCaOと、が反応してできる低融点の化合物の生成を抑制できる。コイルに低融点の化合物が生成されると、コイルが発熱して化合物が溶融し、コイルの断面積が減少し、抵抗値が上昇してコイルが過熱し断線するおそれがあるが、低融点の生成物の生成を抑制できるので、請求項1の効果に加え、コイルの耐久性をさらに向上できる。
【0009】
請求項3記載のグロープラグによれば、コイルの後端と中軸との先端とに接続される後端コイルをさらに有している。コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比である抵抗比R1と、後端コイルの20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比である抵抗比R2とはR1>R2の関係を満たす。従って、電圧を印加すると、コイル全体の抵抗値を過度に増加させることなく、コイル及びチューブの先端側を所定温度(例えば1000℃)まで上昇させることができる。なお、抵抗比とは「コイル(又は後端コイル)の20℃での抵抗値に対する1000℃での抵抗値の比」である。
【0010】
そして、コイル及び後端コイルの発熱量は各々の抵抗値に比例するので、コイルが所定温度まで上昇したときに、後端コイルの温度をコイルの温度より低くできる。後端コイルはAlの含有率が1wt%以下なので、後端コイルに含まれるAlと絶縁粉末に含まれるCaOとの反応を抑制することができ、後端コイルに低融点の化合物を生成させ難くできる。よって、請求項1又は2の効果に加え、後端コイルの耐久性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】グロープラグの片側断面図である。
図2】一部を拡大したグロープラグの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1及び図2を参照して本発明の一実施の形態におけるグロープラグ10について説明する。図1はグロープラグ10の片側断面図であり、図2は一部を拡大したグロープラグ10の断面図である。図1及び図2では、紙面下側をグロープラグ10の先端側、紙面上側をグロープラグ10の後端側という。
【0013】
図1に示すようにグロープラグ10は中軸20、主体金具30、チューブ40及びコイル50を備えている。これらの部材はグロープラグ10の軸線Oに沿って組み付けられている。グロープラグ10は、ディーゼルエンジンを始めとする内燃機関(図示せず)の始動時などに用いられる補助熱源である。
【0014】
中軸20は円柱形状の金属製の導体であり、コイル50に電力を供給するための部材である。中軸20は先端にコイル50が電気的に接続されている。中軸20は、後端が主体金具30から突出した状態で主体金具30に挿入されている。
【0015】
中軸20は、本実施の形態では、後端部に雄ねじからなる接続部21が形成されている。中軸20は、後端部に、先端側から順に絶縁ゴム製のOリング22、合成樹脂製の筒状部材である絶縁体23、金属製の筒状部材であるリング24、金属製のナット25が組み付けられている。接続部21は、バッテリ等の電源から電力を供給するケーブルのコネクタ(図示せず)が接続される部位である。ナット25は、接続されたコネクタ(図示せず)を固定するための部材である。
【0016】
主体金具30は炭素鋼等により形成される略円筒形状の部材である。主体金具30は、軸線Oに沿って軸孔31が貫通し、外周面にねじ部32が形成されている。主体金具30は、ねじ部32より後端側に工具係合部33が形成されている。軸孔31は中軸20が挿入される貫通孔である。軸孔31の内径は中軸20の外径より大きいので、中軸20と軸孔31との間に空隙が形成される。ねじ部32は、内燃機関(図示せず)に嵌まり合う雄ねじである。工具係合部33は、ねじ部32を内燃機関のねじ穴(図示せず)に嵌めたり外したりするときに用いる工具(図示せず)が関わり合う形状(例えば六角形)をなす部位である。
【0017】
主体金具30は、軸孔31の後端側において、Oリング22及び絶縁体23を介して中軸20を保持する。絶縁体23にリング24が接した状態で中軸20にリング24が加締められることで、絶縁体23は軸方向の位置が固定される。絶縁体23によって主体金具30の後端側とリング24とが絶縁される。主体金具30は、軸孔31の先端側にチューブ40が固定されている。
【0018】
チューブ40は先端41が閉じた金属製の筒状体である。チューブ40は軸孔31に圧入されることで、主体金具30に固定される。チューブ40の材料は、例えばニッケル基合金、ステンレス鋼などの耐熱合金が挙げられる。
【0019】
チューブ40の組成は、例えばNiを50wt%以上、Crを18~30wt%、Alを0.3wt%以上、Siを0.2~1.5wt%、Cを0.04wt%以下、及び、Feを5~15wt%含有する。希土類元素を含有しても良い。
【0020】
チューブ40はNiを50wt%以上含有することにより、チューブ40の耐熱性を確保できる。Crを18~30wt%含有することにより、チューブ40の表面に形成されるCr酸化膜によりチューブ40の耐酸化性を確保しつつ、チューブ40の加工性を確保できる。Alを0.3wt%以上含有することにより、チューブ40の表面に形成されるAl酸化膜によりチューブ40の耐酸化性を確保できる。Siを0.2~1.5wt%含有することにより、チューブ40の耐酸化性を確保しつつ、チューブ40の加工性を確保できる。Cの含有率を0.04wt%以下に抑え、Feを5~15wt%含有することにより、チューブ40の高温下における強度を向上させると共に加工性を確保できる。
【0021】
チューブ40は中軸20の先端側が挿入されている。チューブ40の内径は中軸20の外径より大きいので、中軸20とチューブ40との間に空隙が形成される。シール材26は、中軸20の先端側とチューブ40の後端との間に挟まれた円筒形状の絶縁部材である。シール材26は中軸20とチューブ40との間隔を維持し、中軸20とチューブ40との間を密閉する。コイル50は軸線Oに沿ってチューブ40に収容されている。絶縁粉末60はチューブ40に充填されている。
【0022】
図2に示すように、コイル50は螺旋状に形成されており、通電により発熱する。コイル50は、溶接によりチューブ40の先端41側の部分に先端が接合されている。後端コイル51は、溶接によってコイル50の後端に接合される。コイル50と後端コイル51との間に、溶接で溶けて溶接金属が固まった溶融部52が形成されている。後端コイル51は溶融部52を介してコイル50と直列に接続される。
【0023】
絶縁粉末60は電気絶縁性を有し、且つ、高温下で熱伝導性を有する粉末である。絶縁粉末60は、コイル50及び後端コイル51とチューブ40との間、中軸20とチューブ40との間、コイル50及び後端コイル51の内側に充填される。絶縁粉末60は、コイル50からチューブ40へ熱を移動させる機能、コイル50及び後端コイル51とチューブ40との短絡を防ぐ機能、コイル50及び後端コイル51を振動し難くして断線を防ぐ機能がある。
【0024】
絶縁粉末60は、MgO及びCaOの酸化物粉末を含有する。MgO及びCaOの酸化物粉末に加え、Al,ZrO及びSiO等の酸化物粉末、Si等の粉末を添加できる。CaOの含有率は、MgO及びCaOの含有率の合計に対して0.05~1.5wt%である。なお、MgO及びCaOの含有率の合計は、絶縁粉末60の全体に対して98~100wt%である。
【0025】
コイル50は、W,Moを主成分とする高融点金属からなる。なお、これらの元素の単体、又は、これらの元素のいずれかを主成分とする合金をコイル50として用いることができる。なお、「WやMoを主成分」とは、コイル材料の全体含有量に対するW又はMoの合計含有量が50wt%以上であることをいう。
【0026】
コイル50は、WやMoを99wt%以上含有するのが好ましい。コイル50の耐熱性を向上させるためである。この場合、数ppm~数十ppm程度の不可避不純物や意図的添加物を含有できる。特に純W又は純Moが好適に用いられる。この場合も不可避不純物を含有できる。なかでも純Wが好適である。純Wは純Moに比べて融点が高いからである。融点の高い純W製のコイル50を用いることにより、MgOを含有する絶縁粉末60にCaOを添加してコイル50の耐久性を向上させる効果を高めることができる。
【0027】
コイル50は、Al,Cr及びSiの含有率の合計が0.1wt%以下に設定される。これにより、コイル50に含まれるAl,Cr及びSiと、絶縁粉末60に含まれるCaOと、が反応してできる低融点の化合物の生成(コイル50の腐食)を抑制できる。コイル50に低融点の化合物が生成されると、コイル50の断面積が減少し、抵抗値が上昇してコイル50が過熱し断線するおそれがあるが、コイル50の腐食を抑制できるので、コイル50の耐久性を向上できる。
【0028】
後端コイル51は、コイル50の抵抗比R1より小さい抵抗比R2をもつ導電材料で形成されている。後端コイル51の材料としては、例えばFeCr合金、NiCr合金などが挙げられる。後端コイル51は軸線O(図1参照)に沿ってチューブ40に収容されており、中軸20に接合されている。中軸20は後端コイル51及びコイル50を介してチューブ40と電気的に接続されている。
【0029】
中軸20とチューブ40との間に電圧Vを印加すると、コイル50の抵抗値R及び後端コイル51の抵抗値Rの和R+Rで電圧Vを除した電流Iが、コイル50及び後端コイル51に流れる。単位時間当たりのコイル50の発熱量はR・Iであり、単位時間当たりの後端コイル51の発熱量はR・Iである。
【0030】
後端コイル51の20℃における抵抗値Rは、コイル50の20℃における抵抗値Rよりも大きい値に設定されている。常温においてコイル50に流れる電流I(突入電流)を確保し、コイル50を発熱させるためである。
【0031】
後端コイル51はコイル50の抵抗比R1よりも小さい抵抗比R2をもつので、コイル50及び後端コイル51の発熱による温度上昇に伴い、コイル50の抵抗値Rが後端コイル51の抵抗値Rよりも大きくなる。その結果、コイル50の単位時間当たりの発熱量R・Iを、後端コイル51の単位時間当たりの発熱量R・Iより大きくできる。コイル50はW,Moを主成分とする高融点金属により形成されているので、発熱温度を高温化できる。これにより、所望する温度(例えば1000℃)までコイル50を昇温させ、絶縁粉末60の熱伝導により、チューブ40の先端41付近を所望する温度まで局所的に昇温させることができる。
【0032】
後端コイル51は、Alの含有率の合計が1wt%以下に設定される。後端コイル51の単位時間当たりの発熱量は、コイル50の単位時間当たりの発熱量より少ないので、後端コイル51の温度をコイル50の温度より低くできる。その結果、後端コイル51に含まれるAlと絶縁粉末60に含まれるCaOとの反応速度を遅くし、低融点の化合物の生成(後端コイル51の腐食)を抑制できる。後端コイル51に低融点の化合物が生成されると、後端コイル51の断面積が減少し、抵抗値が上昇して後端コイル51が過熱し断線するおそれがあるが、後端コイル51の腐食を抑制できるので、後端コイル51の耐久性を向上できる。
【0033】
グロープラグ10は、例えば、次のようにして製造される。まず、所定の組成を有する抵抗発熱線をコイル状に加工し、コイル50及び後端コイル51をそれぞれ製造する。次いで、コイル50と後端コイル51との端部同士を溶接により接合し、後端コイル51を中軸20の先端に接合する。
【0034】
一方、所定の組成を有する金属鋼管をチューブ40の最終寸法よりも大径に形成し、かつ、その先端を他の部分よりも減径させて、先端が開口した先窄まり状のチューブ前駆体を製造する。チューブ前駆体の内部に中軸20と一体となったコイル50及び後端コイル51を挿入し、チューブ前駆体の先窄まり状の開口部にコイル50の先端を配置する。チューブ前駆体の開口部とコイル50とを溶接によって溶融し、チューブ前駆体の先端部分を閉塞し、内部にコイル50及び後端コイル51が収容されたヒータ前駆体を形成する。
【0035】
次いで、ヒータ前駆体のチューブ40内に絶縁粉末60を充填した後、チューブ40の後端の開口部と中軸20との間にシール材26を挿入して、チューブ40を封止する。次に、チューブ40が所定の外径になるまでチューブ40にスウェージング加工を施す。
【0036】
次に、スウェージング加工後のチューブ40を主体金具30の軸孔31に圧入固定し、中軸20の後端から主体金具30と中軸20との間にOリング22及び絶縁体23を嵌め込む。リング24で中軸20を加締めてグロープラグ10を得る。
【0037】
本実施の形態では、絶縁粉末60のMgO及びCaOは、チューブ40内の水と反応してMg(OH)及びCa(OH)を生成する。グロープラグ10を昇温させるときは、コイル50及び後端コイル51に通電すると、主にコイル50が発熱する。コイル50の熱は絶縁粉末60を介してチューブ40に伝わる。絶縁粉末60が加熱されると、370℃付近でMg(OH)は分解され水を放出する。
【0038】
一方、Ca(OH)はMg(OH)より熱力学的に安定なので、CaOは、Mg(OH)が370℃付近で分解して放出した水と反応してCa(OH)を生成する。Ca(OH)は約580℃以上で分解されて水を放出する。しかし、Ca(OH)等の絶縁粉末の温度が580℃付近になるときは、コイル50の温度だけでなくチューブ40の温度も十分高いので、コイル50のWやMoよりも酸化され易いチューブ40のCrやAlが、水分の存在下で酸化される。チューブ40のCrやAlが酸化されると、密閉されたチューブ40内の酸素分圧が低下する。これによりコイル50の酸化を防ぐことができる。よって、グロープラグ10の発熱温度を高温化しつつコイル50の耐久性を向上できる。
【実施例
【0039】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(サンプル1~11の作成)
直径Φ0.2mmの純W製の線材を用いて外径Φ1.6mmのコイル50を作成した。同様に、NiCr合金で作られた線材を用いて後端コイル51を作成し、溶接により後端コイル51をコイル50に接合した。
【0041】
68.4Ni-23Cr-7Fe-0.5Al-1Si-0.1Y(wt%)からなる金属鋼管を用いてチューブ40を成形し、図1に示すグロープラグ10と同様の構造を有するグロープラグを前述のとおりに製造した。これにより、絶縁粉末60のMgO及びCaOが種々の比率で混合された表1に示すサンプル1~11のグロープラグを得た。なお、チューブ40は内径Φ2.2mmとし、チューブ40の体積(容積)は100mmとした。
【0042】
【表1】
チューブ40に充填されたMgO及びCaOの比率は、試験後、以下の方法により求めた。まず、グロープラグから絶縁粉末(CaOを含むMgO粉末)を取り出し、この粉末を炭酸カリウムナトリウム及びホウ酸と混合した後、バーナで加熱し融解させた。アルカリ塩となったCaを酸の水溶液に溶解した後、ICP発光分析法によって定量分析した。
【0043】
(コイルの酸化)
コイルの酸化を評価した試験方法を説明する。電圧を印加してから2秒後のチューブ40の先端41付近の温度が1000℃になるように、各サンプルの接続部21と主体金具30との間に直流電圧を印加した。電圧を印加してから2秒後に電圧の印加を止め、チューブ40の先端41を120秒間空冷した。これを1サイクルとして10000サイクルを繰り返す試験を行った。
【0044】
なお、チューブ40の先端41付近の温度は、各サンプルのチューブ40の先端41から軸線O方向の後端側に2mm離れた位置(チューブ40の表面)に接合したPR熱電対により測定した。PR熱電対の代わりに放射温度計を用いても良い。
【0045】
試験後の各サンプル(n=5)について、軸線Oを含む切断面を鏡面研磨し、電子顕微鏡を用いて、コイル50の表面に形成された酸化膜のうち最も厚い部分の厚さを測定し平均を求めた。
【0046】
表1に示すように、CaOの含有率が0wt%のサンプル1は酸化膜の厚さ(平均値)が23μmだった。しかし、CaOの含有率が0.01wt%のサンプル2は20μm、CaOの含有率が0.05wt%のサンプル3は8μmと厚さが次第に低下し、CaOの含有率が0.1wt%以上のサンプル4~11は酸化膜が見られなかった。これにより、CaOの含有率を0.1wt%以上にすれば、コイル50の酸化を防止できることが確認された。
【0047】
(チューブの腐食)
チューブの腐食を評価した試験方法を説明する。サンプル1~11のチューブ40の先端41から軸線O方向の後端側に2mm離れた位置(チューブ40の表面)の温度が1200℃になるように調整した電圧を、各サンプルの接続部21と主体金具30との間に、500時間印加し続ける試験を行った。温度の測定はPR熱電対を用いたが、PR熱電対の代わりに放射温度計を用いても良い。
【0048】
試験後の各サンプルについて、軸線Oを含む切断面を鏡面研磨し、EPMAを用いて、チューブ40の内表面に現出する皮膜をWDS分析した。皮膜に含まれるCaがチューブ40の界面まで到達したサンプルは、チューブ40が腐食した(NG)と判定し、チューブ40の界面までCaが到達していないサンプルは、良い(G)と判定した。
【0049】
表1に示すように、CaOの含有率が1.8wt%のサンプル10及びCaOの含有率が2wt%のサンプル11は判定がNGであったのに対し、CaOの含有率が1.5wt%以下のサンプル1~9は判定がGであった。これにより、CaOの含有率を1.5wt%以下にすれば、チューブ40の腐食を防止できることが確認された。
【0050】
従って、MgO及びCaOの含有率の合計に対してCaOの含有率を0.1~1.5wt%にすることにより、コイル50の酸化の防止とチューブ40の腐食の防止とを両立できることが確認された。
【0051】
(サンプル12~30の作成)
表2に示す種々の線材(線径Φ0.2mm)を用いて外径Φ1.6mmのコイル50を作成した。同様に、NiCr合金で作られた線材を用いて後端コイル51を作成し、溶接により後端コイル51をコイル50に接合した。
【0052】
68.4Ni-23Cr-7Fe-0.5Al-1Si-0.1Y(wt%)からなる金属鋼管を用いてチューブ40を成形し、図1に示すグロープラグ10と同様の構造を有するグロープラグを前述のとおりに製造した。配合比率が99MgO-1CaO(wt%)の絶縁粉末60をチューブ40に充填して、表2に示すサンプル12~30を得た。なお、チューブ40は内径Φ2.2mmとし、チューブ40の体積(容積)は100mmとした。
【0053】
【表2】
(コイルの腐食)
コイルの腐食を評価した試験方法を説明する。サンプル12~30のチューブ40の先端41から軸線O方向の後端側に2mm離れた位置(チューブ40の表面)の温度が1200℃になるように調整した電圧を、各サンプルの接続部21と主体金具30との間に、500時間印加し続ける試験を行った。温度の測定はPR熱電対を用いたが、PR熱電対の代わりに放射温度計を用いても良い。
【0054】
試験後の各サンプルについて、軸線Oを含む切断面を鏡面研磨し、EPMAを用いて、コイル50をWDS分析した。コイル50の内部までCaが到達したサンプルは、コイル50が腐食した(NG)と判定し、コイル50の内部までCaが到達していないサンプルは、良い(G)と判定した。
【0055】
表2に示すように、コイル50に含まれるAl,Cr,Siの含有率の合計が0.1wt%以下であるサンプル12,13,16,17,20,21,23,24,26~28,30は判定がGであった。一方、Al,Cr,Siの含有率の合計が0.1wt%を超えたサンプルは判定がNGであった。従って、コイル50のAl,Cr,Siの含有率の合計を0.1wt%以下にすれば、コイル50の腐食を防止できることが確認された。
【0056】
この実施例では、Wを主成分とするコイル50を備えるサンプルについて評価したが、Moを主成分とするコイル50を備えるサンプルについても同様の結果が得られると推察される。Moは、Wと同様に酸化され易いが、高温下の機械的強度が優れるからである。
【0057】
以上、実施の形態および実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、チューブ40の形状は筒状である限り特に限定されず、軸線Oに直交する断面が円形状、楕円形状、多角形状等であってもよい。
【0058】
上記実施の形態では、コイル50に後端コイル51が接続される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。後端コイル51を省略して、中軸20とチューブ40の先端41側との間に、WやMoを主成分とするコイルを接続することは当然可能である。この場合はチューブ40の全体を加熱することができ、さらに発熱温度の高温化を確保しつつコイルの耐久性を確保できる。
【0059】
上記実施の形態では、チューブ40の外径および内径が軸線Oの全長に亘って同一に設定される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。チューブ40の熱容量等を考慮して、チューブ40の先端側の外径や内径とチューブ40後端側の外径や内径とを異ならせることは当然可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 グロープラグ
20 中軸
40 チューブ
42 シール材
50 コイル
51 後端コイル
60 絶縁粉末
O 軸線
図1
図2