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特許7018267サイアロン焼結体、その製法、複合基板及び電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】サイアロン焼結体、その製法、複合基板及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/599 20060101AFI20220203BHJP
   C04B 37/00 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20220203BHJP
【FI】
C04B35/599
C04B37/00 Z
G01N23/2055 310
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017129086
(22)【出願日】2017-06-30
(65)【公開番号】P2018048059
(43)【公開日】2018-03-29
【審査請求日】2019-01-23
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/77627
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】大光 太朗
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-91272(JP,A)
【文献】特開昭60-191064(JP,A)
【文献】特開平7-196380(JP,A)
【文献】特開平5-97533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B35/599
C04B35/58
C04B37/00
G01N23/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si6-zAlzz8-z(0<z≦4.2)で表され、開気孔率が0.1%以下、相対密度が99.9%以上、且つ、X線回折図において、サイアロンの最大ピークの強度に対する、サイアロン以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比が0.005以下である、
サイアロン焼結体。
【請求項2】
前記サイアロン焼結体の表面は、100μm×140μmの測定範囲における中心線平均粗さ(Ra)が1.0nm以下である、
請求項1に記載のサイアロン焼結体。
【請求項3】
前記サイアロン焼結体の表面は、100μm×140μmの測定範囲における最大山高さと最大谷深さとの高さの差(Pt)が30nm以下である、
請求項1又は2に記載のサイアロン焼結体。
【請求項4】
前記サイアロン焼結体のヤング率は、180GPa以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のサイアロン焼結体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のサイアロン焼結体を製造する方法であって、
いずれも純度が99.8質量%以上の窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ及びシリカの成分の中から、Si:Al:O:N=(6-z):z:z:(8-z)(但し0<z≦4.2)となるように成分を選択すると共に質量割合を決定して各成分を混合して原料粉末を作製し、該原料粉末を所定形状に成形したのち、焼成温度1725~1900℃、プレス圧力100~300kgf/cm2でホットプレス焼成を行うことによりサイアロン焼結体を得る、
サイアロン焼結体の製法。
【請求項6】
支持基板と機能性基板とが接合された複合基板であって、
前記支持基板は、請求項1~4のいずれか1項に記載のサイアロン焼結体である、
複合基板。
【請求項7】
前記接合が直接接合である、
請求項6に記載の複合基板。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の複合基板を利用した電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイアロン焼結体、その製法、複合基板及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
サイアロンは一般式:Si6-zAlzz8-z(0<z≦4.2)で表される物質の総称で、セラミック材料のなかでも、高強度、高ヤング率、低熱膨張、高絶縁性を兼ね備えた材料である。このようなセラミック材料を、弾性波素子の複合基板の支持基板として用いる場合には、接合させるために気孔がなく、表面平坦性が高く、全面に均一な組成であることが求められる。特許文献1に示すように、サイアロンを製造するには焼結助剤を用いて焼成することが一般的である。一方、サイアロンを製造する際に焼結助剤を用いずに焼成する方法も知られている。例えば、特許文献2には、β―サイアロンを窒化珪素とBNの粉末で覆ってN2ガス雰囲気で焼成する方法が開示されている。また、特許文献3には、窒化珪素粉末にアルミニウムアルコキシドを加え、加水分解後、ろ過して得た粉末を600~900℃で仮焼し、1700~1900℃で加圧焼結をしてβ―サイアロン焼結体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-264973号公報
【文献】特開昭61-141671号公報
【文献】特開昭60-108371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにサイアロンの製造時に焼結助剤を用いると、組成が均一にはならず異相成分が多くなったり、気孔が多くなったりするという問題があった。異相成分が多くなると、サイアロンと異相成分との間で研磨のされ易さが異なるため、表面平坦性が十分高くならないという問題があった。例えば、異相成分がサイアロンに比べて硬い場合には異相成分が研磨され難いため凸状に残り易く、異相成分が軟らかい場合には異相成分が研磨され易く穴になり易いことが挙げられる。また、材料内に気孔が多いと、研磨しても気孔由来の凹部分が残るため、表面平坦性が十分高くならないという問題があった。また、特許文献2,3のようにサイアロンの製造時に焼結助剤を用いず常圧焼成した場合、サイアロンは難焼結性の材料であるため、気孔が外部に排出しきらず内部に残留しやすく、相対密度を十分高くすることが難しかった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、表面を鏡面状に研磨したときの表面平坦性が高いサイアロン焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のサイアロン焼結体は、Si6-zAlzz8-z(0<z≦4.2)で表され、開気孔率が0.1%以下、相対密度が99.9%以上、且つ、X線回折図において、サイアロンの最大ピークの強度に対する、サイアロン以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比が0.005以下のものである。このサイアロン焼結体は、開気孔率が低く、相対密度が高く、異相が少ないため、表面を鏡面状に研磨したときの表面平坦性が高くなる。
【0007】
本発明のサイアロン焼結体の製法は、いずれも純度が99.8質量%以上の窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ及びシリカの成分の中から、Si:Al:O:N=(6-z):z:z:(8-z)(但し0<z≦4.2)となるように組成を選択すると共に質量割合を決定して各成分を混合して原料粉末を作製し、該原料粉末を所定形状に成形したのち、焼成温度1725~1900℃、プレス圧力100~300kgf/cm2でホットプレス焼成を行うことによりサイアロン焼結体を得るものである。この製法は、圧力によって気孔を排出しながら緻密化を進められるため、上述した本発明のサイアロン焼結体を製造するのに適している。
【0008】
本発明の複合基板は、支持基板と機能性基板とが接合された複合基板であって、前記支持基板は、上述した本発明のサイアロン焼結体であるものである。この複合基板は、支持基板が上述した本発明のサイアロン焼結体であるため、接合界面のうち実際に接合している面積の割合が大きくなり、良好な接合性を示す。
【0009】
本発明の電子デバイスは、上述した本発明の複合基板を利用したものである。この電子デバイスでは、支持基板であるサイアロン焼結体の熱膨張係数が3.0ppm/K(40-400℃)以下であるため、弾性表面波デバイスとした場合の周波数温度依存性やフィルター性能が大きく改善される。また、ラム波素子、薄膜共振子(FBAR)、LEDデバイス、光導波路デバイス、スイッチデバイス、半導体デバイスなどにおいても、支持基板の熱膨張係数が非常に小さいことで、性能が向上する。更には、サイアロンの組成(前述のz値)を調整することで、熱膨張係数が3.0ppm/K以下のまま、ヤング率を調整することができ、これによって複合基板とした場合の機能性基板の性能の微調整や最大化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】複合基板10の斜視図。
図2】複合基板10を用いて作製した電子デバイス30の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0012】
本実施形態のサイアロン焼結体は、Si6-zAlzz8-z(0<z≦4.2)で表され、開気孔率が0.1%以下、相対密度が99.9%以上(好ましくは99.95%以上)、且つ、X線回折図において、サイアロンの最大ピークの強度に対する、サイアロン以外の各成分(異相成分)の最大ピークの強度の総和の比が0.005以下のものである。なお、X線回折図の測定条件はCuKα、40kV、40mA、2θ=10-70°である。このサイアロン焼結体は、開気孔率が低く、相対密度が高く、異相が少ないため、表面を鏡面状に研磨したときの表面平坦性が高くなる。開気孔率が高かったり相対密度が低かったりすると、研磨しても気孔由来の凹部分が残るため、表面平坦性が十分高くならない。また、異相成分が多いと、サイアロンと異相成分との間で研磨のされ易さが異なり、表面平坦性が十分高くならない。特に異相成分が研磨され難い場合は異相部が凸部として残り易く、機能性基板との接合が難しくなる。異相成分としては、例えばAl23、Si2ON2、Si3Al6122、ムライトなどが挙げられる。
【0013】
本実施形態のサイアロン焼結体によれば、研磨仕上げした表面に存在する気孔数を少なくすることができる。研磨仕上げした表面の100μm×100μmの面積当たりに存在する最大長さ0.5μm以上、且つ、深さ0.08μm以上の気孔数は10個以下が好ましく、5個以下がより好ましく、3個以下が更に好ましい。
【0014】
本実施形態のサイアロン焼結体の表面平坦性については、例えば、鏡面状に研磨仕上げした表面の100μm×140μmの測定範囲における中心線平均粗さRaが1.0nm以下であること、及び、同測定範囲における最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptが30nm以下であることの少なくとも1つを満たすことが好ましい。Raは0.8nm以下がより好ましい。Ptは25nm以下がより好ましい。
【0015】
本実施形態のサイアロン焼結体のヤング率は、180GPa以上が好ましく、200GPa以上がより好ましく、220GPa以上が更に好ましい。
【0016】
本実施形態のサイアロン焼結体において、zの値は0.5≦z≦4.0が好ましい。この範囲であれば、上述した気孔数をより少なくすることができる。zの値は0.5≦z≦3.2がより好ましい。この範囲であれば、上述した気孔数を更に少なくすることができる。
【0017】
次に、サイアロン焼結体の製造方法の実施の形態について説明する。サイアロン焼結体の製造フローは、サイアロン原料粉末を作製する工程と、サイアロン焼結体を作製する工程とを含む。
【0018】
(サイアロン原料粉末の作製)
原料粉末には、不純物金属元素含有量が0.2質量%以下、平均粒径が2μm以下の市販の窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ及びシリカ粉末を用いた。これら原料を用いて、Si:Al:O:N=(6-z):z:z:(8-z)(但し0<z≦4.2)となるように組成を選択すると共に質量割合を決定して各成分を混合して原料粉末を作製する。zの値は0.5≦z≦4.0が好ましく、0.5≦z≦3.2がより好ましい。各粉末は、緻密に焼結するためには細かいものが好ましく、平均粒径が0.5~1.5μmのものが好ましい。なお、加熱によりこれら成分を生成するような前駆体物質を各成分の原料に用いてもよい。各粉末は、混合して溶媒に分散させてサイアロン組成のスラリーを作製する。混合方法に特に制限はなく、例えばボールミル、アトライター、ビーズミル、ジェットミル等を利用することができる。但し、この際、メディアから混入する成分とその量には十分な注意が必要である。すなわち、混入しても不純物とはならないアルミナや窒化珪素製の玉石やポットをメディアに用いることが好ましい。また、樹脂製のポットや玉石も、焼成工程等で除去することができるため使用可能である。金属製のメディアは不純物量が多くなるため好ましくない。得られたスラリーを乾燥し、乾燥物を篩に通してサイアロン原料粉末とする。なお、粉砕時にメディア成分等の混入によって組成がずれた場合は、適宜組成調整するなどして原料粉末とすればよい。あるいは、粉砕物に含まれる各成分の質量が所望のサイアロン組成になるように、予め混合粉末の各成分の質量を調整しておくことにより、粉砕物をそのままサイアロン原料粉末としてもよい。
【0019】
(サイアロン焼結体の作製)
得られたサイアロン原料粉末を所定形状に成形する。成形の方法に特に制限はなく、一般的な成形法を用いることができる。例えば、上記のようなサイアロン原料粉末をそのまま金型によってプレス成形してもよい。プレス成形の場合は、サイアロン原料粉末をスプレードライによって顆粒状にしておくと、成形性が良好になる。他に、有機バインダーを加えて坏土を作製し押出し成形したり、スラリーを作製しシート成形することができる。これらのプロセスでは焼成工程前あるいは焼成工程中に有機バインダー成分を除去することが必要になる。また、CIP(冷間静水圧プレス)にて高圧成形をしてもよい。
【0020】
次に、得られた成形体を焼成してサイアロン焼結体を作製する。この際、焼結粒子を微細に維持し、焼結中に気孔を排出することがサイアロン焼結体の表面平坦性を高めるために重要である。その手法として、ホットプレス法が非常に有効である。ホットプレス法を用いることで常圧焼結に比べて低温で微細粒の状態で緻密化が進み、常圧焼結でよく見られる粗大な気孔の残留を抑制することができる。ホットプレス時の焼成温度は1725~1900℃とすることが好ましく、異相を極力少なくするためには1750~1900℃とすることがより好ましい。また、ホットプレス時のプレス圧力は100~300kgf/cm2とすることが好ましく、150~250kgf/cm2がより好ましい。焼成温度(最高温度)での保持時間は、成形体の形状や大きさ、加熱炉の特性などを考慮し、適宜、適当な時間を選択することができる。具体的な好ましい保持時間は、例えば1~12時間、更に好ましくは2~8時間である。ホットプレス時の焼成雰囲気は、サイアロンの分解を避けるため、窒素雰囲気が好ましい。
【0021】
次に、複合基板の実施の形態について説明する。複合基板は、機能性基板と、上述したサイアロン焼結体製の支持基板とが接合されたものである。接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。このように接合面積割合が大きいと、機能性基板と支持基板とは良好な接合性を示す。機能性基板としては、特に限定されないが、例えばタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、窒化ガリウム、シリコンなどが挙げられる。接合方法は、直接接合でもよいし、接着層を介して接合してもよいが、直接接合が好ましい。直接接合の場合には、機能性基板と支持基板とのそれぞれの接合面を活性化した後、両接合面を向かい合わせにした状態で両基板を押圧する。接合面の活性化は、例えば、接合面への不活性ガス(アルゴンなど)の中性原子ビームの照射のほか、プラズマやイオンビームの照射などで行う。一方、接着層を介して接合する場合には、接着層として、例えばエポキシ樹脂やアクリル樹脂などを用いる。機能性基板と支持基板の厚みの比(機能性基板の厚み/支持基板の厚み)は0.1以下であることが好ましい。図1に複合基板の一例を示す。複合基板10は、機能性基板である圧電基板12と支持基板14とが直接接合により接合されたものである。
【0022】
次に、電子デバイスの実施の形態について説明する。電子デバイスは、上述した複合基板を利用したものである。こうした電子デバイスとしては、弾性波デバイス(弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)など)のほか、LEDデバイス、光導波路デバイス、スイッチデバイスなどが挙げられる。弾性波デバイスに上述した複合基板を利用する場合には、支持基板であるサイアロン焼結体の熱膨張係数が3.0ppm/K(40-400℃)以下と非常に小さく、且つ、ヤング率が高いため、機能性基板の拘束力が高まる。その結果、デバイスの周波数温度依存性が大きく改善される。図2に複合基板10を用いて作製した電子デバイス30の一例を示す。電子デバイス30は、1ポートSAW共振子つまり弾性表面波デバイスである。まず、複合基板10の圧電基板12に一般的なフォトリソグラフィ技術を用いて多数の電子デバイス30のパターンを形成し、その後、ダイシングにより1つ1つの電子デバイス30に切り出す。電子デバイス30は、フォトリソグラフィ技術により、圧電基板12の表面にIDT(Interdigital Transducer)電極32,34と反射電極36とが形成されたものである。
【実施例
【0023】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0024】
1.原料粉末の作製
原料粉末には、市販の窒化珪素粉末(酸素含有量1.3質量%、不純物金属元素含有量0.2質量%以下、平均粒径0.6μm)、窒化アルミニウム(酸素含有量0.8質量%、不純物金属元素含有量0.1質量%以下、平均粒径1.1μm)、アルミナ(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm)、シリカ(純度99.9質量%、平均粒径0.5μm)の粉末を用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
サイアロン原料粉末A~G及びJは、以下のようにして作製した。すなわち、まず、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ、シリカの各粉末を、表1に示すzの値を持つサイアロン組成(Si6-zAlzz8-z)になるように秤量し、アルミナを玉石(φ5mm)とし、溶媒にイソプロピルアルコールを用いてボールミルにて4時間混合し、混合粉末のスラリーを作製した。得られたスラリーを窒素ガスフロー下、110℃で乾燥し、乾燥物を篩に通してサイアロン原料粉末A~G及びJとした。なお、異相成分を抑えるためにサイアロン原料粉末は過剰酸素量が少ないことが好ましく、サイアロン原料粉末A~Gは過剰酸素量を1.0質量%以下とした。一方、サイアロン原料粉末Jは過剰酸素量を2.7質量%とした。
【0027】
窒化珪素原料粉末Hは、前述の窒化珪素粉末を単独で用いた。窒化珪素原料粉末Iは、窒化珪素、イットリア(純度99.9質量%以上、平均粒径1.1μm)、マグネシア(純度99.9質量%、平均粒径1.8μm)の各粉末を表1に示す組成になるように秤量し、サイアロン原料粉末A~G及びJと同様にして乾燥物を作製しそれを篩に通したものとした。
【0028】
2.焼結体の作製及び評価
(1)実験例1
実験例1のサイアロン焼結体は、サイアロン原料粉末Aを金型を用いてφ125mm、厚さ約20mmに成形した後、黒鉛型にて、プレス圧力200kgf/cm2下、最高温度1800℃で4時間、ホットプレス焼成したものである。焼成雰囲気は、窒素雰囲気とした。得られた焼結体は直径125mmで厚さ約8mmであった。この焼結体から4mm×3mm×40mmサイズの抗折棒などを切り出し、各種特性を評価した。各種特性の評価方法を以下に示す。また、結果を表2に示す。なお、焼結体表面の性状は、4mm×3mm×10mm程度の試験片の一面を研磨によって鏡面状に仕上げて評価した。研磨は3μmのダイヤモンド砥粒、最終的に0.5μmのダイヤモンド砥粒のラップ研磨を行った。
【0029】
・嵩密度、開気孔率
蒸留水を用いたアルキメデス法により測定した。
【0030】
・相対密度
相対密度は嵩密度÷見掛け密度として算出した。
【0031】
・結晶相及びピーク強度比Ix
サイアロン焼結体を粉砕し、X線回折装置により、サイアロン、異相の同定と各相の最大ピークの強度の算出を行った。なお、異相の特定においては、焼結体粉砕時の乳鉢や乳棒等のメディアからの混入相及びその量には十分注意が必要である。XRD装置には、全自動多目的X線解析装置D8 ADVANCEを用い、CuKα、40kV、40mA、2θ=10-70°を測定条件とした。X線回折図から、サイアロンの最大ピーク(2θ=32.8~33.5°)の強度(Ic)に対する、検出された各異相(P、Q、R、・・・)の最大ピークの強度(Ip、Iq、Ir、・・・)の総和の比(ピーク強度比Ix)を下記式から求めた。なお、最大ピークが他のピークと重なる場合は、最大ピークの代わりに2番目にピーク強度の大きなピークを採用した。
Ix=(Ip+Iq+Ir・・・)/Ic
【0032】
・サイアロン焼結粒の平均粒径
破断面におけるサイアロン焼結粒をSEMにて127μm×88μmの視野で観察し、視野内の10個以上のサイアロン焼結粒の粒径を求め、その平均値をサイアロン焼結粒の平均粒径とした。なお、1つのサイアロン焼結粒の粒径は、その焼結粒の長径と短径の平均値とした。
【0033】
・気孔数
上記のように鏡面状に仕上げた面を3D測定レーザー顕微鏡で観察し、最大長さが0.5μm以上、深さが0.08μm以上の気孔の単位面積当たりの計数値を4箇所で計測し、その平均値を気孔数とした。単位面積は100μm四方の面積とした。
【0034】
・表面平坦性
上記のように鏡面状に仕上げた面に対し、3次元光学プロファイラー(Zygo)を用いて中心線平均粗さRaと、最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptを測定した。本明細書中のRaとPtは、JIS B 0601:2013で規定される、断面曲線の算術平均粗さRaと断面曲線の最大断面高さPtに対応する。上記のRa、Ptを表面平坦性とした。測定範囲は、100μm×140μmとした。
【0035】
・ヤング率
JIS R1602に準じた、静的撓み法で測定した。試験片形状は3mm×4mm×40mm抗折棒とした。
【0036】
・熱膨張係数(40~400℃)
JIS R1618に準じて、押し棒示差式で測定した。試験片形状は3mm×4mm×20mmとした。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、実験例1のサイアロン焼結体は優れた特性を備えていた。具体的には、実験例1のサイアロン焼結体の嵩密度は3.16g/cm3、開気孔率は0.00%、相対密度は100%であった。結晶相は、サイアロン以外に僅かにアルミナや酸窒化ケイ素が検出された。サイアロンの最大ピークの強度に対する、サイアロン以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比(ピーク強度比)Ixは0.0012であり、極めて小さかった。研磨面の100μm×100μm範囲において、最大長さが0.5μm以上の気孔数は1個と非常に少なかった。研磨面の表面平坦性は、中心線平均粗さRaが0.4nmと小さく、最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptが15nmと小さいことがわかった。
【0039】
(2)実験例2~6
実験例2~6のサイアロン焼結体は、サイアロン原料粉末Aの代わりに表1に示すサイアロン原料粉末B,D~Gを用いて、実験例1と同様にしてホットプレス焼成したものである。各サイアロン焼結体の特性を表2に示す。いずれのサイアロン焼結体も、開気孔率が0.1%以下、相対密度が99.9%以上、気孔数は10個以下、ピーク強度比Ixは0.005以下であり、優れた特性を備えていた。
【0040】
(3)実験例7
実験例7のサイアロン焼結体は、サイアロン原料粉末Cを用いて実験例1と同様にしてホットプレス焼結したものである。サイアロン原料粉末Cは、実験例2で用いたサイアロン原料粉末Bと比べてz値が1.0である点で一致するが、出発原料としてSi34、AlN及びAl23の3つを用いている点で、Si34、AlN及びSiO2の3つを用いているサイアロン原料粉末Bと相違する。実験例7のサイアロン焼結体は、実験例2のサイアロン焼結体と同様に優れた特性を備えていたことから、出発原料はSi34、AlN,Al23及びSiO2の中から所望のサイアロンとなるように適宜選択すればよいことがわかった。
【0041】
(4)実験例8~12
実験例8~11は実験例1,2,4,5の焼成時の最高温度を1750℃に変更した例であり、実験例12は実験例3の焼成時の最高温度を1725℃に変更した例である。実験例8~12のサイアロン焼結体は、表2に示すように、実験例1~5のサイアロン焼結体と同様に優れた特性を備えていることがわかった。
【0042】
なお、実験例1~12のサイアロン焼結体は過剰酸素量が1.0質量%以下である。
【0043】
(5)実験例13~16
実験例13~16は実験例1~3,5の焼成時の最高温度を1700℃に変更した例である。実験例13~15のサイアロン焼結体は、焼成温度が低すぎたため、開気孔率が0.1を超え、相対密度が99.9%以下で緻密化不十分であり、気孔数が多く、33個あるいは50個以上であった。実験例16のサイアロン焼結体は、開気孔率が0.01%、相対密度は99.97%、気孔数は2個であったが、ピーク強度比Ixが0.0221で高く、中心線平均粗さRaや最大断面高さPtの値が悪化した。ピーク強度比Ixが高い原因は、焼成温度が低すぎるために、原料成分の反応(サイアロン化)が不十分になり、中間生成物のひとつであるアルミナが異相としてより多く析出したためと考えられる。また、中心線平均粗さRaや最大山高さと最大谷深さとの高さの差Ptの値が悪化した原因は異相として析出したアルミナとサイアロンの研磨のされ易さが異なることでアルミナが凸部として残ったためだと考えられる。
【0044】
(6)実験例17,18
実験例17では、出発原料として窒化珪素原料粉末H(z=0)を用いたこと以外は、実験例1と同様にホットプレス焼成した。得られた焼成体は、開気孔率が52.1%で相対密度が47.95%であり、焼結していなかった。実験例18では、出発原料として窒化珪素原料粉末I(z=0、焼結助剤であるY23とMgOを添加)を用いたこと以外は、実験例1と同様にホットプレス焼成した。得られた焼結体は、窒化珪素特有の柱状化した結晶が発達した組織からなり、粒界には気孔が見られた。そのため、研磨面の100μm四方の範囲において、最大長さが0.5μm以上の気孔数は50個以上であり、気孔数を減らすことができなかった。
【0045】
(7)実験例19
実験例19のサイアロン焼結体は、サイアロン原料粉末Jを用いて実験例8と同様にホットプレス焼成した。得られた焼成体は、相対密度99.98%で気孔数が3個であり、十分緻密化していた。ただし、ピーク強度比Ixが0.0492と高く、異相が多く析出したために中心線平均粗さRaや最大断面高さPtの値が悪く、十分な平坦性が得られなかった。この実験例19のサイアロン焼結体は過剰酸素量が2.7質量%であり、特開昭62-212268号公報の実施例1に相当する。
【0046】
なお、上述した実験例1~19のうち、実験例1~12が本発明の実施例、実験例13~19が比較例に相当する。
【0047】
3.接合性
実験例2,4,14の焼結体から切り出した直径100mm、厚さ230μmの支持基板に対し、直径100mm、厚さ250μmのLT基板の接合を試みた。接合前の表面の活性化処理では、FABガンを用いてアルゴンの中性原子ビームを両基板に照射した。その後、両基板を貼り合わせた後、接合荷重0.1tonで1分間プレスし、支持基板とLT基板を室温で直接接合した。実験例2,4の焼結体から得られた複合基板は、接合界面に気泡は殆ど観察されず、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が90%以上であり、良好に接合されていた。これに対して、実験例14の焼結体から得られた複合基板は、接合界面に気泡が観察され、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が80%以下であった。ここで、接合面積は、気泡のない部分の面積であり、接合面積割合は、接合界面全体の面積に対する接合面積の割合である。なお、ここではFABガンを用いたが、その代わりにイオンガンを用いてもよい。
【0048】
本出願は、2016年9月20日に出願された国際出願PCT/JP2016/77627を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、表面弾性波素子の他にラム波素子、薄膜共振子(FBAR)などの電子デバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 複合基板、12 圧電基板、14 支持基板、30 電子デバイス、32,34 IDT電極、36 反射電極。
図1
図2