(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】嗜好性飲料抽出フィルター用織物
(51)【国際特許分類】
D03D 15/292 20210101AFI20220203BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
D03D15/292
D01F8/14 B
(21)【出願番号】P 2017132338
(22)【出願日】2017-07-05
【審査請求日】2020-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼比良 淳
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280636(JP,A)
【文献】特開2009-202932(JP,A)
【文献】特開2008-163485(JP,A)
【文献】特開2009-005911(JP,A)
【文献】特開2014-210043(JP,A)
【文献】国際公開第2008/035443(WO,A1)
【文献】特開2017-119932(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009386(WO,A1)
【文献】特開2019-014505(JP,A)
【文献】特開2001-271270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 31/00 - 31/60
B65D 67/00 - 79/02
B65D 81/18 - 81/30
B65D 81/38
B65D 85/88
D01F 8/00 - 8/18
D03D 1/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分は、融点が220℃以上のホモポリエステル、鞘成分は、融点が芯成分より40℃以上低い
テレフタル酸とイソフタル酸のモル比(テレフタル酸/イソフタル酸)が90/10~70/30のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートであり、鞘成分の融点+20℃の乾熱収縮率が、5%以上、20%以下である嗜好性飲料抽出フィルター用フィラメントを経糸及び緯糸に用いてなり、引裂き強度が、5N以上である嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
【請求項2】
嗜好性飲料抽出フィルター用フィラメントは、熱水処理後の収縮率が8%以下であることを特徴とする請求項1記載の嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
【請求項3】
嗜好性飲料抽出フィルター用フィラメントは、10質量%濃度のエタノール水溶液中で1時間浸漬後の質量変化率が4%以下、重金属の溶出量が0.1ppm未満であることを特徴とする請求項1または2記載の嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
【請求項4】
鞘成分の共重合ポリエステルの重縮合の触媒が、チタン系触媒であることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
【請求項5】
芯成分のホモポリエステルの重縮合の触媒が、チタン系触媒であることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は嗜好性飲料抽出フィルター用フィラメント及びそれからなる嗜好性飲料抽出フィルター用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、嗜好性飲料抽出フィルターの素材としては、紙やポリプロピレンまたはポリエチレンの不織布が主流として用いられているが、透明性が悪く包装材中の茶葉が見えにくいこと、紙に至っては熱シール加工ができない等の問題がある。そこで、近年の傾向としては、嗜好性飲料抽出用バッグ中の茶葉が見える高級感のある織物製の嗜好性飲料抽出バッグが増えてきている。
【0003】
織物製の嗜好性飲料抽出用バッグに用いられる、嗜好性飲料抽出フィルターの素材繊維としてはポリアミド繊維が主流である。ポリアミド繊維を用いた織物製の抽出フィルターは、立体形状の形態保持性に優れ、また変形に対する弾性回復力にも富んでいることから、織物が柔らかく、風合いに優れている。しかし、ポリアミド繊維製の抽出用バッグは、空気中の酸素の影響による黄変、熱湯中でのポリアミド繊維の膨潤による抽出用バッグの寸法変化、抽出後のバッグを容器から取り出す際の液切れの悪さ、ポリアミドの比重が軽いことによる熱湯中での抽出用バッグの沈降性の悪さ、及び使用後の焼却による窒素酸化物の発生による環境汚染等の問題が以前から指摘されていた。
【0004】
このようなポリアミド繊維の問題点を改善する目的で、ポリエステル繊維による嗜好性飲料抽出フィルター等が研究されてきている。例えば、特許文献1では、イソフタル酸等を共重合成分とした共重合ポリエステルからなる嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルモノフィラメントとなし得る分繊用マルチフィラメント及びそれから得られる嗜好性飲料抽出フィルターが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の共重合ポリエステルを用いた単成分のマルチフィラメントからなる織物は、熱処理した際に、溶着性が高く、剥離し難いものとなるが、織物をシールして、フィルターに成形しようとすると、シール時の熱処理により、生地強度が弱くなり、成形性に劣ったものとなる。加えて、シール時の熱処理の際に、開口率が保ちにくく、布目曲りが生じ、実用的な嗜好性飲料抽出フィルター用ポリエステルフィラメントが得られないという問題がある。
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、生地の強度が保持でき、布目まがりが生じにくく、成形性が良好で、実用的な嗜好性飲料抽出フィルター用のフィラメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するもので、以下の構成を要旨とする。
(1)芯成分は、融点が220℃以上のホモポリエステル、鞘成分は、融点が芯成分より40℃以上低いテレフタル酸とイソフタル酸のモル比(テレフタル酸/イソフタル酸)が90/10~70/30のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートであり、鞘成分の融点+20℃の乾熱収縮率が、5%以上、20%以下である嗜好性飲料抽出フィルター用フィラメントを経糸及び緯糸に用いてなり、引裂き強度が、5N以上である嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
(2)嗜好性飲料抽出フィルター用フィラメントは、熱水処理後の収縮率が8%以下であることを特徴とする上記(1)記載の嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
(3)嗜好性飲料抽出フィルター用フィラメントは、10質量%濃度のエタノール水溶液中で1時間浸漬後の質量変化率が4%以下、重金属の溶出量が0.1ppm未満であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
(4)鞘成分の共重合ポリエステルの重縮合の触媒が、チタン系触媒であることを特徴とする(1)~(3)記載の嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
(5)芯成分のホモポリエステルの重縮合の触媒が、チタン系触媒であることを特徴とする上記(1)~(4)記載の嗜好性飲料抽出フィルター用織物。
(6)芯成分は、融点が220℃以上のホモポリエステル、鞘成分は、融点が芯成分より40℃以上低いテレフタル酸及びジオールを主成分とする共重合ポリエステルであり、鞘成分の融点+20℃の乾熱収縮率が、5%以上、20%以下である、嗜好性飲料抽出フィルター用フィラメント。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生地の強度が保持でき、布目まがりが生じにくく、成形性が良好で、実用的な嗜好性飲料抽出フィルター用のフィラメント及びそれを用いた織物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、嗜好性飲料抽出フィルター用芯鞘型複合フィラメントである。
芯鞘型複合フィラメントの複合形態としては、マルチフィラメントでもモノフィラメントでもよい。成型後の抽出用フィルターの美観性の点からはモノフィラメントであることが好ましく、少ないフィラメント数で良好な抽出性を得る点からはマルチフィラメントであることが好ましい。
【0010】
本発明の嗜好性飲料抽出フィルター用芯鞘型複合フィラメントの芯成分は、融点が220℃以上のホモポリエステルである。ホモポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリアルキレンテレフタレートを主体とするポリエステルが挙げられる。芯成分の融点が220℃未満となると、芯鞘型複合フィラメントを製織した織物は、乾熱処理後の強度保持率が低くなる傾向にある。フィルター用織物の強度保持率を保つ点からは、芯成分は、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0011】
芯成分のポリエステルの固有粘度は、0.4以上、0.8以下の範囲であることが好ましく、中でも0.5以上、0.7以下、特に0.55以上、0.65以下の範囲が好ましい。固有粘度が小さすぎると、製編織後の強度が不足する傾向があり、固有粘度が大きすぎると、原料ポリマーの固有粘度を過剰に引き上げる必要があり、コスト高となる傾向があるため、上記の範囲が好ましい。
【0012】
芯成分のホモポリエステルの重合触媒は、環境安全性の点から、チタン系触媒であることが好ましい。
【0013】
重合触媒として用いられるチタン系触媒としては、酢酸チタン、テトラアルコキサイドチタン、チタンハロゲン化物、チタン酸塩、チタンアルコキシド類等が好適に挙げられる。
これらは、触媒の活性をより高めるために、マグネシウムを用いた化合物との複合体を好適に用いることができる。特に好ましい例として、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物が挙げられる。本発明において、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物とは、5~100℃の範囲の温度、好ましくは、15~70℃の範囲の温度で、マグネシウム化合物の存在下に、チタン化合物を加水分解して、その表面にチタン酸を析出させることによって、マグネシウム化合物の表面にチタン酸からなる被覆層を有せしめたものである。
上記チタン系触媒の含有量は、ポリエステル樹脂に対して10~500ppmであることが好ましく、より好ましくは50~200ppmである。
【0014】
本発明の芯鞘型複合フィラメントの鞘成分は、融点が芯成分に比べて40℃以上低いテレフタル酸及びジオールを主成分とする共重合ポリエステルである。具体的には、テレフタル酸とエチレングリコール等のジオールを主成分とする共重合ポリエステルが好適に挙げられる。共重合成分としては、イソフタル酸、アジピン酸及びセバシン酸等が好適に挙げられる。中でも芯鞘構造の複合のし易さ、取り扱い性を考慮するとイソフタル酸が好ましい。尚、本発明において、融点ピークが生じない非晶性の成分の場合、軟化点を融点とする。
【0015】
また、共重合成分がイソフタル酸の場合、テレフタル酸とイソフタル酸の比率は、熱接着がし易く、取り扱い性に優れている点から、モル比(テレフタル酸/イソフタル酸)で、90/10~70/30範囲であることが好ましい。
尚、鞘成分の融点については、共重合成分とその成分の量を調整することでコントロールすることができる。
【0016】
上述したような共重合ポリエステルを鞘成分に用いると、適度に、芯成分より融点が低く、熱接着加工し易くなるため、成形性に優れたものとなる点からも好ましい。
【0017】
鞘成分の共重合ポリエステルの重合触媒は、環境安全性の点から、チタン系触媒であることが好ましい。
【0018】
重合触媒として用いられるチタン系触媒としては、酢酸チタン、テトラアルコキサイドチタン、チタンハロゲン化物、チタン酸塩、チタンアルコキシド類等が好適に挙げられる。
これらは、触媒の活性をより高めるために、マグネシウムを用いた化合物との複合体を好適に用いることができる。特に好ましい例として、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物が挙げられる。本発明において、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物とは、5~100℃の範囲の温度、好ましくは、15~70℃の範囲の温度で、マグネシウム化合物の存在下に、チタン化合物を加水分解して、その表面にチタン酸を析出させることによって、マグネシウム化合物の表面にチタン酸からなる被覆層を有せしめたものである。
上記チタン系触媒の含有量は、ポリエステル樹脂に対して10~500ppmであることが好ましく、より好ましくは50~200ppmである。
【0019】
本発明の芯鞘型フィラメントの芯鞘比率としては、20/80~80/20(体積比)が好ましく、40/60~60/40がより好ましい。この範囲であると、芯成分により適度な強度を保ち、嗜好性飲料抽出フィルター用芯鞘型複合フィラメントの熱収縮率を抑えることができる。このため、織物の目ずれを防ぎ易いものとなり、フィルターとしての成形性が良好である。
【0020】
本発明の芯鞘型複合フィラメントは、10質量%濃度のエタノール水溶液中に1時間浸漬後の質量変化率が4%以下であることが好ましい。
このような質量変化率とすることにより、飲料抽出用フィルターとして、環境安全性や安全性により優れたものとなる。より好ましくは、質量変化率が2%以下であり、さらに好ましくは、質量変化率が1%以下である。
なお、質量変化率は、以下の式によって、求められる値である。
質量変化率(%)=〔(浸漬前の質量-浸漬後の質量)/(浸漬前の質量)〕×100
【0021】
本発明の芯鞘型複合フィラメントは、重金属の溶出量が0.10ppm未満であることが好ましい。ここで、溶出量は、フィラメントを10質量%濃度のエタノール溶液に100℃で1時間浸漬し溶出させ、真比重5.0以上の金属元素の量を溶出量とする。
このように重金属の溶出量が0.10ppm未満であると、嗜好性飲料抽出フィルターに好適に用いることができ、環境安全性にも優れたものとなる。
【0022】
本発明の芯鞘型複合フィラメントは、熱水処理後の収縮率が、10%以下であることが好ましい。より好ましくは、8%以下である。この範囲とすることにより、織物の熱セット時に湾曲せず、成形時の加工性に優れる。また得られたフィルター用織物は開口率を保つことができ、目ずれせず、布目曲りが生じない。特に接着性が良好で目ずれせずに取扱い易い点からは、熱水収縮率は、3%以上であることが好ましい。芯鞘型複合フィラメントの熱水処理後の収縮率は後述の方法で測定した値である。
【0023】
本発明の芯鞘型複合フィラメントは、鞘成分の融点+20℃の乾熱収縮率が、5%以上、20%以下であることが好ましく、なかでも、10%以上、18%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、織物の熱セット時に湾曲せず、成形時の加工性に優れる。また得られたフィルター用織物は開口率を保つことができ、目ずれせず、布目曲りが生じない。接着性が良好で目ずれせずに取扱い易い点からは、乾熱収縮率は、5%以上であることが好ましい。鞘成分の融点+20℃の乾熱収縮率は後述の方法で測定した値である。
【0024】
本発明の芯鞘型複合フィラメントは、製織することにより、嗜好性飲料抽出フィルターに用いるのに好適な織物を製造することができる。
【0025】
織物の組織としては、平織物等が好適である。
本発明において、嗜好性飲料抽出フィルター用織物としては、本発明の芯鞘型複合フィラメントを、100%用いて製織してもよいし、一部に用いてもよい。好ましくは、40%以上用いることである。
本発明の芯鞘型複合フィラメントを一部に用いる場合は、経糸にホモPETなどのレギュラーポリエステル、緯糸に本発明の芯鞘型複合フィラメントを用いると、織物の交点の熱融着性が良好であるため、好適である。
【0026】
本発明の芯鞘型複合フィラメントを用いた織物は、嗜好性飲料抽出フィルターへ成形する際の加工性を良好にする点から、引裂き強度が、5N以上であることが好ましく、中でも、7N以上であることが好ましい。
【0027】
本発明の芯鞘型複合フィラメントを用いた織物は、嗜好性飲料抽出フィルターとして用いたときに液切れがし易い点、フィルターの目ずれがしにくい点から、開口率は40%~70%が好ましい。
【0028】
本発明の芯鞘型複合フィラメントをからなる織物を用いて、熱処理し、超音波シール法等によりシールして成形することにより、嗜好性飲料用フィルターとして用いることができる。
【0029】
本発明の芯鞘型複合フィラメントをからなる織物は、シールしても生地強度を保持でき、成形性に優れているため、矩形で平面形状のもの、球形状のもの、テトラパック型のもの、四つ手網型のもの、その他、多面体形状のもなど、様々な立体形状の嗜好性飲料抽出用フィルターを容易に得ることができる。
【0030】
本発明の芯鞘型複合フィラメントからなる織物を用いて得られる飲料抽出用フィルターは、紅茶、麦茶、烏龍茶、ジャスミン茶、緑茶、コーヒー等の種々の嗜好性飲料に好適に用いることができる。
【0031】
本発明における嗜好性飲料抽出フィルターの好適な製造方法の例を以下に示す。
芯成分として、重合触媒をチタン系触媒としたポリエチレンテレフタレート、鞘成分として、チタン系触媒を重合触媒としたイソフタル酸共重合ポリエステルを用いて、芯鞘型複合型フィラメントを製造する。次に、得られた芯鞘型複合型フィラメントを、製織した後、織物の交点が目ずれしないように鞘成分を熱処理する。次いで、得られた織物を超音波シール法等によりシールし、テトラパック形状等適宜の形状に成形して、嗜好性飲料抽出用フィルターを得ることができる。
【実施例】
【0032】
物性の測定、評価は以下の通り、実施した。
1)固有粘度
フェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合液50mlに0.5gのポリマーを溶解して、温度20℃においてオストワルド型粘度計を用いて測定した。
2)融点
パーキンエルマー社製DSC-7型を用い、チップ10mg、昇温速度10℃/分の条件にて測定した。
3)強度、伸度
JIS L 1013に準じ、島津製作所(株)製、AGS 1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長200mm、引張速度200mm/minの条件で試料が伸長破断したときの強度(cN/dtex)、伸度(%)を求めた。
4)重金属の溶出量
糸試料を、10質量%濃度のエタノール水溶液に100℃で1時間浸漬し溶出させたエタノール溶液を、アジレントテクノロジー製のICP質量分析装置(Agilent 7500cs)と、アメテック製ICP発光分析装置(CIROS CCD)を用いて測定した。
5)質量変化率
糸試料の質量を測定し浸漬前の質量とした。次に、糸試料を、10質量%濃度のエタノール水溶液に100℃で1時間浸漬させ、乾燥させて、糸試料を測定し、浸漬後の質量とし、以下の式により、質量変化率を算出した。
質量変化率(%)=〔(浸漬前の質量-浸漬後の質量)/(浸漬前の質量)〕×1006)熱水収縮率
荷重2mg/dtexを掛けた試料長500mmの糸を沸騰水中に15分間浸漬し、次いで風乾した後に次式により芯鞘型複合フィラメントの収縮率を求めた。
熱水収縮率(%)=[(初期試料長―収縮後の試料長)/初期試料長]×100
7)乾熱収縮率
荷重2mg/dtexを掛けた試料長500mmの糸を、鞘成分の融点+20℃の恒温槽に5分間静置し、乾熱収縮率を求めた。
乾熱収縮率(%)=[(初期試料長―静置後の試料長)/初期試料長]×100
8)引裂き強度
JIS L1096 8.15.1 A-1法(シングルタング法)に準じ、(株)オリエンティック製テンシロンRTA-500引張試験機を用い、試料幅50mm、試料長250mm、チャック間距離100mm、引張速度100mm/minの条件で試料を引き裂く時の最大荷重を測定した。
【0033】
(実施例1)
テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、PETオリゴマーの重合触媒として、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物を180ppm添加して重縮合し、芯成分に用いるポリエチレンテレフタレートを得た(固有粘度:0.629)。次に、テレフタル酸に対しイソフタル酸25mol%を加えた酸成分とエチレングリコールを原料とし、重合触媒として、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物をポリエステルに対して180ppm加え、重縮合し、鞘成分に用いるイソフタル酸25mol共重合ポリエチレンテレフタレートを得た(固有粘度:0.643)。
上記で得られた2種のポリエステル樹脂を溶融紡糸装置に供給し、芯鞘体積比率1:1の割合でポリマーを吐出し、孔径0.45mmの紡糸口金を用いて、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/minの紡糸条件で溶融紡糸し未延伸ポリエステルモノフィラメント糸を得た。
さらに、この未延伸糸を、加熱ローラー温度90℃で3.4倍に延伸し、加熱プレート温度160℃で弛緩熱処理を施し、ポリエステルモノフィラメントを得た(芯成分の融点:255℃、鞘成分の融点:185℃)。
得られたモノフィラメントを、経密度100本/2.54cm、緯密度100本/2.54cmの条件で平織組織にて製織し織物を得た。得られた織物を精練し、200℃で熱処理し、糸の交点の鞘成分を融着させて、フィルター用織物を得た。得られたフィルター用織物を、超音波シール法により、テトラパック形状に成形し、嗜好性飲料抽出用フィルターを製造した。
【0034】
(実施例2)
芯鞘体積比率7:3に変更する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し未延伸ポリエステルモノフィラメント糸を得た。さらに、この未延伸糸を加熱ローラー温度90℃で3.3倍に延伸し、加熱プレート温度140℃で弛緩熱処理を施し、ポリエステルモノフィラメント(芯成分の融点:255℃、鞘成分の融点:185℃)を得て、実施例1と同様に、嗜好性飲料抽出用フィルターを製造した。
【0035】
(実施例3)
テレフタル酸とエチレングリコールとを原料とし、PETオリゴマーの重合触媒として、チタン酸からなる被覆層が形成されたマグネシウム化合物をPETオリゴマーに対して200ppm加え、重縮合し、芯成分に用いるポリエチレンテレフタレートを得た(固有粘度:0.63)。
また、実施例1記載の方法で鞘成分に用いるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートを得た。
この2種のポリエステル樹脂を、実施例1記載の方法で溶融紡糸、延伸を行いポリエステルモノフィラメントを得た(芯成分の融点:255℃、鞘成分の融点:185℃)。得られたポリエステルモノフィラメントを用いて実施例1と同様に、嗜好性飲料抽出用フィルターを製造した。
【0036】
(実施例4)
芯成分及び鞘成分に用いるポリエチレンテレフタレートの重合触媒を、400ppmの三酸化アンチモンとする以外は実施例1と同様に、重合、溶融紡糸、延伸を実施し、嗜好性飲料抽出用フィルターを製造した。
【0037】
(比較例1)
2種のポリエステル樹脂に代えて、イソフタル酸12mol%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート(融点:205℃)の単独紡糸とし、織物の熱処理温度を210℃とする以外は実施例1と同様に、溶融紡糸を実施し、嗜好性飲料抽出フィルターを製造した。フィルター用織物の引裂き強度は5N未満であり、引裂き強度の低いものであった。
【0038】
実施例1~4で用いる重合触媒、モノフィラメントの芯鞘比率、重金属溶出量、質量変化率、繊度、強度、伸度、収縮率、フィルター用織物の引裂き強度を、表1に示す。
【0039】
【0040】
実施例品はいずれも、熱接着時、開口率を保持することができ、布目曲がりが生じず、得られた織物は、生地強度があり、品位も良好であった。
また実施例1~3より得られたフィルター用織物は、ポリアミドの問題点を改善し、成形性に優れ、生地強度も十分で飲料抽出用バッグとして十分に使用でき、環境安全性に優れた飲料抽出用フィルターであった。また、芯成分にアンチモン触媒を用いた実施例4は、重金属の溶出量が多く、実施例1~3に比べて、環境安全性に劣ったものであった。比較例1から得られたフィルター用織物は、生地強度が十分でなく、成形性に劣っており、嗜好性飲料抽出用フィルターとしては使用できないものであった。