IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポゾリス ソリューションズ株式会社の特許一覧

特許7018304遠心成形コンクリート用混和剤及びこれを含む遠心成形コンクリート
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】遠心成形コンクリート用混和剤及びこれを含む遠心成形コンクリート
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/30 20060101AFI20220203BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20220203BHJP
   C04B 24/20 20060101ALI20220203BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20220203BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20220203BHJP
   C08G 10/06 20060101ALI20220203BHJP
   C08L 61/18 20060101ALI20220203BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20220203BHJP
   C08F 20/58 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C04B24/30 Z
C04B24/26 D
C04B24/26 F
C04B24/20
C04B22/08 A
C04B28/04
C08G10/06
C08L61/18
C08L33/26
C08F20/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017246162
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019112251
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】518208716
【氏名又は名称】ポゾリス ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】杉山 知己
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝太
(72)【発明者】
【氏名】大島 正記
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502140(JP,A)
【文献】特開平11-060311(JP,A)
【文献】特開2015-120630(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00- 32/02
C04B 40/00- 40/06
C08G 10/06
C08L 61/18
C08L 33/26
C08F 20/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの構造単位(I)と、少なくとも1つの構造単位(II)と、少なくとも1つの構造単位(III)とを有する重縮合物を含み、
前記構造単位(I)が、アルキレングリコール単位を有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分であり、ただし、前記側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、9~41であり、かつエチレングリコール単位の含分は、前記ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超であり、
前記構造単位(II)が、少なくとも1個のリン酸エステル基及び/又はその塩を有する芳香族部分であり、ただし、構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比の値は、0.3~4であり、
前記構造単位(III)が、少なくとも1個のメチレン単位(-CH2-)であり、該
メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)の2つの芳香族構造単位に結合しており、ここで該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
前記構造単位(I)、(II)及び(III)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwは、3,000~50,000の範囲である、遠心成形コンクリート用混和剤。
【請求項2】
前記重縮合物が、少なくとも1つの構造単位(IV)をさらに有し、
前記構造単位(IV)が、前記構造単位(I)及び前記構造単位(II)とは異なる芳香族構造単位によって表され、
前記メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)と前記構造単位(IV)の3つの芳香族構造単位に結合しており、ここで該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
前記構造単位(I)、(II)、(III)及び(IV)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwは、3,000~50,000の範囲である、請求項1に記載の混和剤。
【請求項3】
さらに、増粘剤を含む、請求項1又は2に記載の混和剤。
【請求項4】
前記増粘剤が、下記一般式(1)
【化1】
・・・(1)
(式中、Rは水素又はメチル基、R10、R11、R12は、水素、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基又はメチル基で置換されていてもよいフェニル基であり、Nは、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム又は有機基で置換されたアンモニウムであり、aは、1/2又は1である。)で表される、スルホ基含有(メタ)
アクリル酸誘導体であるモノマー由来の構成単位を有する水溶性高分子を含む、請求項3に記載の混和剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の混和剤と、硬化促進剤としてC-S-H系微粒子を含む、遠心成形コンクリート用混和剤含有組成物。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の混和剤を含む遠心成形コンクリート
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心成形コンクリートに適用される混和剤、特に、遠心成形コンクリートに適用される化学混和剤及びこれを含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の杭、電柱、ヒューム管等、中空のコンクリート成形品を製造する際に、コンクリートを遠心成形する手法が広く行われている。遠心成形の手法は、中空構造をもった密実なコンクリート成形品を製造でき、コンクリート成形品の外側表面に気泡が残ることを防止できるので、滑らかな肌面を有するコンクリート成形品を製造できる。一方で、遠心成形の手法は、製造設備が限られるだけでなく、コンクリート成形品の内側に水と少量のセメント分を含んだ脆弱な物質(いわゆるノロ)を生じやすい。従って、現状では、ノロを除去する工程を組み込まねばならず、また、別途、除去されたノロを処理する工程も必要となってしまう。また、ノロを除去したとしても、コンクリート成形品の内側が脆弱となってしまう場合があるという問題点がある。従って、できるだけノロの発生量を低減することが要求される。
【0003】
さらに、ノロ自体の発生量を低減することの他に、ノロに含まれるセメント分を減らすことで、ノロに含まれる有効成分を減容することも求められている。
【0004】
また、遠心成形コンクリートは、その強力な遠心力によって成形されるため、通常の生コンクリートほどセメント分散剤を必要としないが、コンクリートを練り混ぜる際の練り混ぜ性能の向上、セメント表面の湿潤、セメントの強度向上、ノロ発生量の低減等のため、さらには遠心時間の短縮化のため、やはり、セメント分散剤が添加されるのが一般的である。遠心成形コンクリートに添加される分散剤としては、例えば、ナフタレン・ホルマリン縮合物を主成分とするものが挙げられる。
【0005】
セメント分散剤が添加されることがある遠心成形コンクリートについて、様々なノロの除去方法やノロ発生量の低減方法が提案されている。例えば、低速、中速、及び高速の遠心力を連続してかけて遠心力成形を終了した後、低速以下の回転数にしてから、高速より5G低い値以上の遠心力で1分以上回転させ再度遠心力成形することでノロの発生量を低減する方法(特許文献1)、予めコンクリートに吸水性を持つ物質(粘土鉱物、吸水性ポリマーなど)を適用するもの(特許文献2)、所定の構造を有するポリカルボン酸系共重合体を含有する水硬性粉体用分散剤をセメント等と混合したコンクリートを用いてノロの発生量を低減すること(特許文献3)等が提案されている。
【0006】
しかし、上記した従来技術では、製造工程の変更を余儀なくされること、コンクリート成形品の製造工程が煩雑となること、余分な添加物を配合することでコストアップすること等の問題があり、また、ポリカルボン酸系共重合体を主成分として含有する分散剤では、ノロの発生を低減することやノロに含まれるセメント分を減らすことに改善の余地があった。
【0007】
さらに、コンクリートの遠心成形では、ミキサ等で練り混ぜられた比較的固練りのコンクリートをベルトコンベア等で型枠まで運搬することが多く、運搬中のコンクリートは、分離を起こさずに一体となっていることが必要である。コンクリートの分離は、製造上の作業性を低下させるため、遠心成形コンクリートには、ある程度の変形性を有しつつ、分離しにくい特性(以下、「一体変形性」ということがある。)が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-217228号公報
【文献】特開平5-105496号公報
【文献】特開2017-001897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、コンクリートを遠心成形して製造するコンクリート成形品において、発生するノロ中のセメント分を低減させてノロ中に含まれる有効成分を減容でき、コンクリートの内側部分にセメント分を残存させてコンクリート成形品の内側部分の強度低下を抑制でき、また、遠心成形に要する時間を低減し、さらにコンクリートの一体変形性が得られる、遠心成形コンクリート用混和剤及びこれを含むセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、特定の構造単位を有する重縮合物を含む混和剤を遠心成形コンクリートに適用することにより、ノロの中のセメント分を低減させ、遠心成形に要する時間を低減させ、コンクリートの一体変形性が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]少なくとも1つの構造単位(I)と、少なくとも1つの構造単位(II)と、少なくとも1つの構造単位(III)とを有する重縮合物を含み、
前記構造単位(I)が、アルキレングリコール単位を有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分であり、ただし、前記側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、9~41であり、かつエチレングリコール単位の含分は、前記ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超であり、
前記構造単位(II)が、少なくとも1個のリン酸エステル基及び/又はその塩を有する芳香族部分であり、ただし、構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比の値は、0.3~4であり、
前記構造単位(III)が、少なくとも1個のメチレン単位(-CH2-)であり、該メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)の2つの芳香族構造単位に結合しており、ここで該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
前記構造単位(I)、(II)及び(III)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwが、3,000~50,000の範囲である、遠心成形コンクリート用混和剤。
[2]前記重縮合物が、少なくとも1つの構造単位(IV)をさらに有し、
前記構造単位(IV)が、前記構造単位(I)及び前記構造単位(II)とは異なる芳香族構造単位によって表され、
前記メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)と前記構造単位(IV)の3つの芳香族構造単位に結合しており、ここで該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
前記構造単位(I)、(II)、(III)及び(IV)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwが、3,000~50,000の範囲である、[1]に記載の混和剤。
[3]さらに、増粘剤を含む、[1]又は[2]に記載の混和剤。
[4]前記増粘剤が、下記一般式(1)
【化1】
・・・(1)
(式中、Rは水素又はメチル基、R10、R11、R12は、水素、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基又はメチル基で置換されていてもよいフェニル基であり、Nは、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム又は有機基で置換されたアンモニウムであり、aは、1/2又は1である。)で表される、スルホ基含有(メタ)アクリル酸誘導体であるモノマー由来の構成単位を有する水溶性高分子を含む、[3]に記載の混和剤。
[5][1]乃至[4]のいずれか1つに記載の混和剤と、硬化促進剤としてC-S-H系微粒子を含む、遠心成形コンクリート用混和剤含有組成物。
[6][1]乃至[4]のいずれか1つに記載の混和剤を含むセメント組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の混和剤は、遠心成形コンクリートに用いることにより、コンクリート成形品において、発生するノロ中のセメント分を低減させてノロ中に含まれる有効成分を減容でき、コンクリートの内側部分にセメント分を残存させてコンクリート成形品の内側部分の強度低下を抑制できる。また、本発明の混和剤は、遠心成形に要する時間を低減し、さらにコンクリートの一体変形性が得られる。また、本発明の混和剤を遠心成形コンクリートに用いるにあたり、特別な製造工程や設備を要することなく、余分な添加剤を追加する必要もないので、生産効率が向上し、コストや環境負荷を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施態様を詳細に説明する。本明細書中、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[混和剤]
本発明に係る混和剤は、遠心成形コンクリート用混和剤であり、少なくとも1つの構造単位(I)と、少なくとも1つの構造単位(II)と、少なくとも1つの構造単位(III)とを有する重縮合物を含んでいる。
構造単位(I)は、アルキレングリコール単位を有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分であり、ただし、ポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、9~41であり、かつ前記エチレングリコール単位の含分は、ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超であり、
構造単位(II)は、少なくとも1個のリン酸エステル基及び/又はその塩を有する芳香族部分であり、ただし、構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比の値は、0.3~4であり、
構造単位(III)は、少なくとも1個のメチレン単位(-CH2-)であり、該メチレン単位は、前記構造単位(I)と前記構造単位(II)の2つの芳香族構造単位Yに結合しており、ここで該芳香族構造単位Yは、相互に独立して、同一であるか又は異なり、かつ、
構造単位(I)、(II)及び(III)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwが、3,000~50,000の範囲である。
このような混和剤を、遠心力で成形されるコンクリートに使用することにより、ノロ中のセメント分を低減させてノロ中に含まれる有効成分を減容でき、コンクリートの内側部分にセメント分を残存させてコンクリート成形品の内側部分の強度低下を抑制でき、また、遠心成形に要する時間を低減し、さらにコンクリートの一体変形性が得られる。
【0015】
<構造単位(I)>
構造単位(I)は、セメント結合材系、特に遠心成形コンクリートにおいて妥当な分散作用を得るためには、最小のポリエーテル側鎖長を有することが有利であると実証されている。非常に短い鎖は、経済的には好ましくない。なぜならば、混和剤の分散性が低く、また分散作用を得るために必要な供給量が多くなるからであり、その一方で、重縮合物のポリエーテル側鎖が長すぎると、粘度が増大して、このような混和剤で作製したコンクリートのレオロジー特性が悪くなる。ポリエーテル側鎖中におけるエチレングリコール単位の含分は、重縮合物生成物を充分に可溶性にするため、ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超であることが好ましく、85mol%超であることがより好ましく、90mol%超であることがさらに好ましく、95mol%超であることが特に好ましい。
【0016】
構造単位(I)において芳香族部分は、1個以上のポリエーテル側鎖、好ましくは1個のポリエーテル側鎖を有する。構造単位(I)は相互に独立して、同一であるか、又は異なる。従って、構造単位(I)の1種又は複数種が、重縮合物中に存在してもよい。構造単位(I)は、例えば、ポリエーテル側鎖の種類の点、芳香族構造の種類の点で、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0017】
構造単位(I)は、それぞれの芳香族モノマーから誘導され、該芳香族モノマーは、アルキレングリコール単位を含有するポリエーテル側鎖を有する。芳香族モノマーの側鎖長及び側鎖中におけるエチレングリコールの含分は、上記構造単位(I)のものに対応する。上記芳香族モノマーは、重縮合反応によって重縮合物へと組み込まれる。具体的には、モノマーのホルムアルデヒド及び構造単位(I)になる芳香族モノマーによって、重縮合物へと組み込まれる。特に、構造単位(I)は、重縮合反応の間にモノマーから引き抜かれた2個の水素原子(該水素原子は、ホルムアルデヒドからの酸素原子1個とともに水を形成する。)が存在しない点で、誘導された芳香族モノマーとは異なる。
【0018】
構造単位(I)における芳香族部分は、好ましくは、本発明によるポリエーテル側鎖を有する、置換又は非置換の芳香族部分であり、芳香族はベンゼン環であってもナフタレン環であってもよい。1個以上のポリエーテル側鎖、好ましくは1個又は2個のポリエーテル側鎖、特に好ましくは1個のポリエーテル側鎖が、構造単位(I)中に存在することが可能である。上記「置換された芳香族部分」とは、好ましくは、ポリエーテル側鎖以外又は本発明によるポリエーテル側鎖以外のあらゆる置換基を意味する。置換基は、好ましくは、C~C10アルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。芳香族部分は、好ましくは芳香族構造中に炭素原子を5~10個、より好ましくは芳香族構造中に炭素原子を5~6個、特に好ましくは芳香族構造中に炭素原子を6個有する、ベンゼン又はベンゼンの置換誘導体である。また、構造単位(I)における芳香族部分は、炭素とは異なる原子、例えば酸素(フルフリルアルコール中)を含む複素環式芳香族構造であってもよいが、芳香族環構造中の原子は、炭素原子であることが好ましい。
【0019】
構造単位(I)のポリエーテル側鎖中におけるエチレングリコール単位の数は、9~41であり、好ましくは9~35、より好ましくは12~23である。比較的短いポリエーテル側鎖長は、構造単位(I)を有する重縮合物を含む本発明の遠心成形コンクリート用混和剤を用いて作製したコンクリートにレオロジー特性を付与し、特に低い塑性粘度が得られる。一方、ポリエーテル側鎖長が短過ぎると、遠心成形コンクリート用混和剤の分散作用が減少し、一定水準のワーカビリティー(例えば、コンクリート試験におけるスランプ)を得るために、供給量が増加してしまう。
【0020】
構造単位(I)は、比較的長い親水性ポリエーテル側鎖を有し、これにより、セメント粒子の表面に吸着された重縮合物の間に立体的な反発をもたらし、その結果、分散作用を向上させることができる。
【0021】
構造単位(I)に由来する芳香族モノマーは、構造単位(I)を構成できるものであれば、特に限定されず、例えば、芳香族アルコール又はアミンのエトキシ化された誘導体が好ましく、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ナフトール、フルフリルアルコール又はアニリンのエトキシ化された誘導体がより好ましく、エトキシ化されたフェノールが特に好ましい。レゾルシノール、カテコール及びヒドロキノンは、1個又は2個のポリエーテル側鎖を有することができ、ポリエーテル側鎖を2個有することが好ましい。それぞれの場合、20mol%未満のアルキレングリコール単位が含有されており、上記アルキレングリコール単位は、エチレングリコール単位ではない。
【0022】
構造単位(I)は、好ましくは、以下の一般式(Ia):
【化2】
(式(Ia)中、
Aは、同一であるか、又は異なり、炭素原子を5~10個有する、置換若しくは非置換の芳香族又は複素環式芳香族化合物によって表され、
Bは、同一であるか、又は異なり、N、NH、又はOであり、その際、BがNであれば、nは2であり、BがNH又はOであれば、nは1であり、
1及びR2は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、分枝鎖状若しくは直鎖状のC1~C10アルキル基、C5~C8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はHであり、ただし、ポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位(R1及びR2がHである)の数は、9~41であり、エチレングリコール単位の含分は、ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコールに対して80mol%超であり、
aは、同一であるか、又は異なり、12~50の整数であり、かつ
Xは、同一であるか、又は異なり、直鎖状若しくは分枝鎖状のC1~C10アルキル基、C5~C8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、又はHである。)によって表される。上記式(Ia)において、基「A」が後述する構造単位(III)のメチレン単位と結合することより、本発明における遠心成形コンクリート用混和剤の主成分となる重縮合物が形成される。
【0023】
式(Ia)中、Aは、好ましくは芳香族構造内に炭素原子を5~10個、より好ましくは炭素原子を5~6個を有し、特に好ましくは芳香族構造内に炭素原子を6個有する、ベンゼン又はベンゼンの置換誘導体である。
【0024】
式(Ia)中、Bは、好ましくはO(酸素)である。
【0025】
式(Ia)中、R1及びR2は、好ましくは、H、メチル、エチル又はフェニルであり、より好ましくは、H又はメチルであり、特に好ましくは、Hである。
【0026】
式(Ia)中、aは、好ましくは9~35の整数である。
【0027】
式(Ia)中、Xは、好ましくはHである。
【0028】
構造単位(I)は、ポリエーテル側鎖の端部にヒドロキシ基を有するアルコキシ化された芳香族アルコールモノマーから誘導されていることが好ましく、特に、フェニルポリアルキレングリコールの重縮合体であることが好ましい。フェニルポリアルキレングリコールは、比較的容易にまた安価に得ることができ、さらには、芳香族化合物の反応性も比較的良好である。
【0029】
構造単位(I)は、好ましくは、以下の一般式(V)で表されるフェニルポリアルキレングリコールの構造を有する:
-[C63-O-(ZO)p-H]- (V)
【0030】
式(V)において、pは、9~41の整数、好ましくは9~35の整数、より好ましくは12~23の整数であり、Zは、2~5個の炭素原子、好ましくは2~3個の炭素原子を有するアルキレンであり、ただし、エチレングリコール単位の含分(Z=エチレン)は、ポリエーテル側鎖(ZO)n中にある全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超、好ましくは85mol%超、より好ましくは90mol%超、特に好ましくは95mol%超である。上記式(V)において、「C63」の芳香族構造部分が、後述する構造単位(III)のメチレン単位に結合される。
【0031】
芳香族ベンゼン単位(上記式(V)ではC63)における置換パターンは、ベンゼン環に結合した酸素原子の活性作用(電子供与作用)により、ベンゼン環に結合した酸素原子の位置(1位)に対して主にオルト置換位(2位)及びパラ置換位(4位)である。
【0032】
<構造単位(II)>
構造単位(II)は、重縮合物にアニオン基をもたらし(リン酸エステルから、その酸若しくは塩の形態へ)、このアニオン基は、水性セメント分散液中のセメント粒子の表面に存在する正電荷と干渉し、強アルカリ性である。静電引力が原因で、重縮合物はセメント粒子の表面に吸着し、セメント粒子が分散される。ここで、「リン酸エステル」という用語には、好ましくは、リン酸モノエステル(PO(OH)2(OR)1)、リン酸ジエステル(PO(OH)(OR)2)、及び/又はリン酸トリエステル(PO(OR)3)の混合物が含まれる。リン酸エステルにおける基Rは、エステル反応後においてOH基を有さないアルコール類であり、これが反応して、リン酸とのエステルになる。基Rは、好ましくは芳香族部分を有する。リン酸モノエステルは、通常、リン酸化反応の主生成物である。
【0033】
「リン酸化モノマー」という用語には、芳香族アルコールと、リン酸、ポリリン酸若しくはリン酸化物との反応生成物、並びに芳香族アルコールと、リン酸、ポリリン酸及びリン酸化物の混合物との反応生成物が含まれる。
【0034】
リン酸モノエステルの含分は、好ましくは、全てのリン酸エステルの合計に対して50質量%超である。リン酸モノエステルから誘導される構造単位(II)の含分は、好ましくは、全ての構造単位(II)の合計に対して50質量%超である。
【0035】
構造単位(II)において、芳香族部分は、好ましくは、1個のリン酸エステル基及び/又はその塩を含有する。これは、芳香族モノアルコールの使用が好ましいということを意味する。また、構造単位(II)は、リン酸エステル基及び/又はその塩を1個超有することができ、2個有するのが好ましい。この場合、少なくとも1種の芳香族ジアルコール、又は芳香族ポリアルコールを使用する。構造単位(II)は、相互に独立して、同一であるか、又は異なる。これはつまり、構造単位(II)の1種又は複数種が、重縮合物中に存在し得るということである。
【0036】
重縮合物における構造単位(II)はリン酸エステル基及び/又はその塩を少なくとも1個有する芳香族部分であり、構造単位(II)に対する構造単位(I)のモル比の値は、0.30~4.0であり、好ましくは0.40~3.5、より好ましくは0.45~3.0、特に好ましくは0.45~2.5である。上記モル比の範囲であることにより、遠心成形コンクリート中において、重縮合物はより充分な初期分散性(構造単位(II)の比較的高い含分)、及びより充分なスランプ保持特性(構造単位(I)の比較的高い含分)を達成できる。
【0037】
上記の構造単位(I)と同様に、構造単位(II)も、重縮合反応の間にモノマーから引き抜かれた2個の水素原子が存在しない点で、誘導された芳香族モノマーとは異なる。
【0038】
構造単位(II)における芳香族部分は、好ましくは、リン酸エステル基及び/又はその塩を少なくとも1個有する、置換若しくは非置換の芳香族部分であり、芳香族はベンゼン環であってもナフタレン環であってもよい。1個以上のリン酸エステル基及び/又はその塩が構造単位(II)中に存在すること、好ましくは1個又は2個のリン酸エステル基及び/又はその塩が存在すること、特に好ましくは1個のリン酸エステル基及び/又はその塩が存在することがあり得る。構造単位(II)の芳香族部分は、好ましくは、芳香族構造中に炭素原子を5~10個、好ましくは炭素原子を5~6個有し、特に好ましくは、芳香族構造単位は、炭素原子を6個有する、ベンゼン又はベンゼンの置換誘導体である。また、構造単位(II)における芳香族部分は、炭素とは異なる原子、例えば酸素(フルフリルアルコール中)を含むヘテロ芳香族構造であってもよいが、芳香族環構造中における原子は、炭素原子であることが好ましい。
【0039】
構造単位(II)は、芳香族アルコールモノマーから誘導されていることが好ましい。芳香族アルコールモノマーは、第一の工程でアルコキシ化され、得られた、ポリエーテル側鎖の端部にヒドロキシ基を有するアルコキシ化された芳香族アルコールモノマーを第二の工程でリン酸化して、リン酸エステル基を形成する。
【0040】
それぞれのリン酸化芳香族アルコールモノマーから誘導される構造単位(II)は、各モノマーから2個の水素原子を引き抜いたことによる前述したものとは異なる。構造単位(II)に由来する芳香族モノマーは、構造単位(II)を構成できるものであれば、特に限定されず、例えば、芳香族アルコールのリン酸化生成物又はヒドロキノンのリン酸化生成物が好ましく、フェノキシエタノールホスフェート(芳香族アルコール:フェノキシエタノール)、フェノキシジグリコールホスフェート(芳香族アルコール:フェノキシジグリコール)、(メトキシフェノキシ)エタノールホスフェート(芳香族アルコール:(メトキシフェノキシ)エタノール)、メチルフェノキシエタノールホスフェート(芳香族アルコール:メチルフェノキシエタノール)、ノニルフェノールホスフェート(芳香族アルコール;ノニルフェノール)、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルホスフェート(ヒドロキノン:ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテル)、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルジホスフェート(ヒドロキノン:ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテル)がより好ましく、フェノキシエタノールホスフェート、フェノキシジグリコールホスフェート、ビス(β-ヒドロキシエチル)ヒドロキノンエーテルジホスフェートがさらに好ましく、フェノキシエタノールホスフェートが特に好ましい。なお、構造単位(II)が誘導される上記モノマーの混合物を使用してもよい。
【0041】
リン酸化反応(例えば、ヒドロキノンを含む上記芳香族アルコールと、リン酸との反応)の間には通常、上記主生成物(リン酸と芳香族アルコール1当量とのモノエステル:(PO(OH)2(OR)1))以外に、副生成物も形成されることに留意するべきである。副生成物は、特に、リン酸と、芳香族アルコール2当量とのジエステル(PO(OH)(OR)2)、又はリン酸と、芳香族アルコール3当量とのトリエステル(PO(OR)3)である。トリエステルの形成には、150℃超の温度が必要となるため、通常は生成されない。ここで、リン酸エステルにおける基Rは、エステル反応後においてOH基を有さない芳香族アルコール構造である。なお、未反応のアルコールが、反応混合物中にある程度存在することがあり得る。その含分は、通常、使用する芳香族アルコールの35質量%未満、好ましくは5質量%未満である。リン酸化反応後の主生成物(モノエステル)は、通常、反応混合物中に、使用する芳香族アルコールに対して50質量%超、好ましくは65質量%超の水準で存在する。
【0042】
構造単位(II)は、好ましくは、以下の一般式(IIa):
【化3】
(式(IIa)中、
Dは、同一であるか、又は異なり、炭素原子を5~10個有する、置換若しくは非置換の芳香族又は複素環式芳香族化合物によって表され、
Eは、同一であるか、又は異なり、N、NH、又はOであり、EがNであれば、mは2であり、EがNH又はOであれば、mは1であり、
3及びR4は、相互に独立して、同一であるか、又は異なり、直鎖状若しくは分枝鎖状のC1~C10アルキル基、C5~C8シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はHであり、
bは、同一であるか、又は異なり、0~10の整数であり、かつ
Maは、相互に独立して、同一であるか、又は異なり、H又はカチオン等価物である)で表される。上記式(IIa)において、基「D」が後述する構造単位(III)のメチレン単位と結合することより、本発明における混和剤の主成分となる重縮合物が形成される。
【0043】
式(IIa)中、Dは、好ましくは芳香族構造内に炭素原子を5~10個、より好ましくは芳香族構造内に炭素原子を5~6個有し、特に好ましくは芳香族構造内に炭素原子を6個有する、ベンゼン又はベンゼンの置換誘導体である。
【0044】
式(IIa)中、Eは、好ましくはO(酸素)である。
【0045】
式(IIa)中、R及びRは、相互に独立して、好ましくはH、メチル、エチル、又はフェニルであり、より好ましくはH又はメチルであり、さらに好ましくはHであり、特に好ましくは、R3及びR4はともにHである。
【0046】
式(IIa)中、bは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~2の整数、特に好ましくは1である。
【0047】
式(IIa)で表わされるリン酸エステルは、2個の酸性プロトンを有する酸であり得る(Ma=H)。リン酸エステルは、脱プロトン化形態でも存在することができ、この場合、プロトンはカチオン等価物によって置き換えられている。リン酸エステルは、部分的に脱プロトン化されていてもよい。「カチオン等価物」という用語は、あらゆる金属カチオン、又は置換されていてもよいアンモニウムカチオン(プロトンを置き換え可能なもの)を意味するが、分子が電気的に中性である。Maは、好ましくは、NH4、アルカリ金属又は1/2アルカリ土類金属である。
【0048】
上記構造単位(Ia)の基Aと上記構造単位(IIa)の基Dは、例えば、相互に独立して、フェニル、2-メチルフェニル、3-メチルフェニル、4-メチルフェニル、2-メトキシフェニル、3-メトキシフェニル、4-メトキシフェニルであることが好ましく、フェニルであることがより好ましい。異なる種類の基Aを有する構造単位(Ia)が重縮合物中に複数存在していてよく、異なる種類の基Dを有する構造単位(IIa)もまた、重縮合物中に複数存在していてよい。基B及び基Eは、相互に独立して、O(酸素)であることが好ましい。
【0049】
構造単位(II)は、好ましくは、以下の一般式(VI)で表されるような、アルコキシ化されたフェノールリン酸エステル、又は以下の一般式(VII)で表されるような、アルコキシ化されたヒドロキノンリン酸エステルの構造を有する:
-[C63-O-(ZO)q-PO32]-(VI)
-[[M23P-(ZO)r]-O-C62-O-[(ZO)s-PO32]]-(VII)
【0050】
式(VI)及び(VII)のいずれにおいても、q、r、sは、1~5の整数、好ましくは1~2の整数、特に好ましくは1であり、Z、Z及びZは、互いに独立して、炭素原子を2~5個、好ましくは2~3個有するアルキレンであり、より好ましくは、エチレンである。Mは、相互に独立して、同一であるか又は異なり、H、又はカチオン等価物である。上記式(VI)においては「C63」の芳香族構造部分が、上記式(VII)においては「C62」の芳香族構造部分が、それぞれ後述する構造単位(III)のメチレン単位に結合される。
【0051】
一般式(VI)及び(VII)のエステルは、2個の酸性プロトンを有する酸であってもよい(M=H)。このエステルは、脱プロトン化形態でも存在することができ、この場合、プロトンはカチオン等価物によって置き換えられている。このエステルは、部分的に脱プロトン化されていてもよい。カチオン等価物という用語は、上述の通りであり、Mは、好ましくは、NH4、アルカリ金属、又は1/2アルカリ土類金属である。よって、例えば、2個の正電荷を有するアルカリ土類金属の場合、中性を保証するためには、1/2という係数が存在しなければならず(1/2アルカリ金属)、例えば、金属成分「M」がAl3+である場合、1/3Alがカチオン等価物となる。また、例えば、2種類以上の金属カチオンを有する混合型カチオン等価物であってもよい。
【0052】
このようなアルコキシ化されたフェノールリン酸エステル、又はアルコキシ化されたヒドロキノンリン酸エステルは、比較的容易にまた安価に得ることができ、さらには、重縮合反応における芳香族化合物の反応性も比較的良好である。
【0053】
<構造単位(III)>
構造単位(III)は、少なくとも1個のメチレン単位(-CH2-)であり、該メチレン単位は、構造単位(I)と構造単位(II)の2つの芳香族構造単位に結合しており、芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか又は異なり、構造単位(I)及び構造単位(II)における上記の芳香族部分に相当する。メチレン単位は、重縮合の間に水を形成しながら、ホルムアルデヒドの反応によって導入され、好ましくは1個超のメチレン単位が重縮合物中に含有される。
【0054】
<構造単位(IV)>
重縮合物は、少なくとも1つの構造単位(IV)をさらに有していてもよい。構造単位(IV)は、構造単位(I)及び構造単位(II)とは異なる、重縮合物の芳香族構造単位であり、あらゆる芳香族構造単位であり得る。また、構造単位(IV)が含まれる場合、構造単位(III)におけるメチレン単位は、構造単位(I)と構造単位(II)と構造単位(IV)の3つの芳香族構造単位に結合しており、構造単位(IV)における該芳香族構造単位は、相互に独立して、同一であるか、又は異なる。これはつまり、構造単位(IV)の1種又は複数種が、重縮合物中に存在し得るということである。
【0055】
構造単位(IV)は、例えば、重縮合反応においてホルムアルデヒドと反応可能なあらゆる芳香族モノマー(各芳香族モノマーから2個の水素原子が引き抜き)から誘導することができる。構造単位(IV)を誘導するモノマーとして、例えば、フェノキシアルコール、フェノール、ナフトール、アニリン、ベンゼン-1,2-ジオール、ベンゼン-1,2,3-トリオール、2-ヒドロキシ安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、フタル酸、3-ヒドロキシフタル酸、1,2-ジヒドロキシナフタレン、及び2,3-ジヒドロキシナフタレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
また、構造単位(IV)は、側鎖におけるエチレングリコール単位の数のみが異なる点で構造単位(I)と相違する、構造単位(I)に似た構造単位であってもよい。このような構造単位(IV)として、好ましくは、アルキレングリコール単位を有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分であり、ただし、ポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、42~120であり、かつエチレングリコール単位の含分は、ポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超である、構造単位である。
【0057】
<重縮合物>
本発明の遠心成形コンクリート用混和剤に含まれる上記重縮合物は、遠心成形コンクリート用混和剤の主成分であり、構造単位(I)、(II)及び(III)を含有する重縮合物、並びに、構造単位(I)、(II)、(III)、及び(IV)を含有する重縮合物の質量平均分子量Mwは、3,000~50,000の範囲である。
【0058】
重縮合物は、構造単位(II)からのリン酸エステル単位に対する構造単位(I)からのエチレングリコール単位のモル比の値は、11~40/1が好ましく、12~35/1がより好ましく、13~30/1が特に好ましい。このモル比の比率を特定するため、異なる種類の構造単位(I)の存在も考慮し、構造単位(I)からの全てのエチレングリコール単位の合計を計算する。
【0059】
構造単位(II)からのリン酸エステル単位に対する構造単位(I)からのエチレングリコール単位のモル比の値を計算すると、構造単位(I)中にある最小で9個、及び最大で41個のアルキレングリコールは、構造単位(II)に対する構造単位(I)の0.30~4.0というモル比の値と組み合わされて、最小値は9/8である(構造単位(I)/構造単位(II)のモル比の値が4.0である9EOの短い側鎖、並びに2個のリン酸エステル基が構造単位(II)中に存在し得る可能性を考慮)。一方、構造単位(I)/構造単位(II)のモル比の下限値である0.30と組み合わせて、41個のEOの長い側鎖、及び構造単位(II)中に存在するリン酸エステルを考慮すると、最大値は136.7(41/0.3)が得られる。構造単位(II)からのリン酸エステル単位に対する構造単位(I)からのエチレングリコール単位のモル比が下限値(9/8)より低いと、リン酸エステル基は余剰であるため、遠心成形用コンクリート試験体におけるスランプ保持性は、より悪くなる。その一方、このモル比が上限値(136.7)より大きいと、セメント粒子に対する吸着性が弱すぎるため、減水特性(遠心成形用コンクリート試験体における初期減水率)があまり良好ではない。このように、構造単位(II)からのリン酸エステル単位に対する構造単位(I)からのエチレングリコール単位のモル比の範囲が、9/8~136.7の範囲であることにより、遠心成形用コンクリート試験体において、スランプ保持性と減水率の2つの特性の適切なバランスが得られ、良好な減水率と良好なスランプ保持性の双方が得られる。また、遠心成形用コンクリートの粘度も低くすることができる。
【0060】
構造単位(III)に対する構造単位(I)及び(II)の合計のモル比は、好ましくは0.8/1~1/0.8、より好ましくは0.9/1~1/0.9、特に好ましくは1/1である。
【0061】
構造単位(IV)が、重縮合物中にさらに含有されている場合、構造単位(IV)に対する構造単位(I)及び構造単位(II)の合計のモル比は、好ましくは1超/1、より好ましくは3超/1、さらに好ましくは5超/1である。
【0062】
構造単位(IV)が、アルキレングリコール単位を含有するポリエーテル側鎖を有する芳香族部分である重縮合物が最も好ましいが、ただし、構造単位(IV)のポリエーテル側鎖におけるエチレングリコール単位の数は、42~50であり、エチレングリコール単位の含分は、構造単位(IV)のポリエーテル側鎖中の全てのアルキレングリコール単位に対して80mol%超である。
【0063】
重縮合物の質量平均分子量は、3,000~50,000g/molであり、好ましくは、5,000g/mol~25,000g/mol、更に好ましくは8,000g/mol~22,000g/mol、特に好ましくは10,000g/mol~19,000g/molである。
【0064】
重縮合物の質量平均分子量Mwは、GPCにより特定される重縮合物の質量平均分子量である。カラムの組み合わせは、OH-Pak SB-G、OH-Pak SB 804 HQ、及びOH-Pak SB 802.5 HQ(日本国、Shodex社製)であり、溶離剤は、80体積%のHCO2NH4水溶液(0.05mol/l)、及び20体積%のアセトニトリルとし、その他、注入体積;100μl、流速;0.5ml/分とする。分子量の較正は、UV検知器についてはポリ(スチレンスルホネート)標準で、RI検知器についてはポリ(エチレンオキシド)標準で行う。両方の標準は、ドイツ国のPSS Polymer Standards Serviceから購入できる。ポリマーの分子量を特定するために、UV検知を254nmで使用する。UV検知機は、無機不純物を感知しないため、芳香族化合物に対してのみ感知させることができる。
【0065】
<増粘剤>
本発明の遠心成形コンクリート用混和剤は、上記の重縮合物の他に、増粘成分として、さらに増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤は、遠心成形コンクリートの流動性、粘性、材料分離抵抗性、間隙通過性を調整でき、これらの特性を経時変化させないことに寄与する。増粘剤としては、(コ)ポリマー、天然多糖類、多糖類誘導体等の増粘効果を有する化合物を挙げることができる。(コ)ポリマーの質量平均分子量Mwは500,000超であることが好ましく、1,000,000超であることがより好ましい。
【0066】
また、(コ)ポリマーは、下記式(1)で表され、スルホ基含有(メタ)アクリル酸誘導体であるモノマーに由来する構成単位を含む水溶性高分子が好ましい。
【0067】
【化4】
・・・(1)
(式中、Rは水素又はメチル基を表し、R10、R11、及びR12はそれぞれ独立して水素、炭素数1~6の炭化水素基、又は、メチル基で置換されていてもよいフェニル基であり、Nは、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム又は有機基で置換されたアンモニウムであり、aは、1/2又は1である。)
【0068】
上記(1)で表される構成単位を含む水溶性高分子は、他の添加剤との相溶性に優れるため、混和剤の供給面や添加時の負担を軽減させることができる。
【0069】
上記(1)で表される構成単位を含む水溶性高分子はその他のモノマーに由来する下記の構成単位(2)~(4)を含有してもよい。
構成単位(2):アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-シクロヘキシルアクリルアミド、N-ベンジルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミドに由来する構成単位、
構成単位(3):トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-メタクリレート、ベヘニルポリエチレングリコール-1100-メタクリレート、ステアリルポリエチレングリコール-1100-メタクリレート、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-アクリレート、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-モノビニルエーテル、ベヘニルポリエチレングリコール-1100-モノビニルエーテル、ステアリルポリエチレングリコール-1100-モノビニルエーテル、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-1100-ビニルオキシ-ブチルエーテル、ベヘニルポリエチレングリコール-1100-ビニルオキシ-ブチルエーテル、トリスチリルフェノール-ポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコールアリルエーテル、ベヘニルポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコールアリルエーテル、ステアリルポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコールアリルエーテルに由来する構成単位、
構成単位(4):アリルポリエチレングリコール-(350~2000)、メチルポリエチレングリコール-(350~2000)-モノビニルエーテル、ポリエチレングリコール-(500~5000)-ビニルオキシ-ブチルエーテル、ポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコール-(500~5000)-ビニルオキシ-ブチルエーテル、メチルポリエチレングリコール-ブロック-プロピレングリコールアリルエーテルに由来する構成単位。
【0070】
上記(1)で表される構成単位を含む水溶性高分子中の構成単位(1)~(4)の割合としては、構成単位(1)3~96mol%、構成単位(2)3~96mol%、構成単位(3)0.01~10mol%、構成単位(4)0.1~30mol%であることが好ましい。
【0071】
増粘剤として使用可能なその他の(コ)ポリマーとしては例えば、非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマー誘導体及びスルホン酸モノマー誘導体からなる群から選択されたモノマーから製造したものを挙げることができる。非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマー誘導体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N―ジエチルアクリルアミド、N-シクロヘキシルアクリルアミド、N-ベンジルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド及びN-tert-ブチルアクリルアミドからなる群から選択れたモノマーを挙げることができる。スルホン酸モノマー誘導体としては、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミドブタンスルホン酸及び2-アクリルアミド-2,4,4-トリメチルペンタンスルホン酸からなる群から選択されたモノマーを挙げることができる。該(コ)ポリマーは、非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマー誘導体及びスルホン酸モノマー誘導体に由来する構造単位以外の構造単位を有していてもよい。非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマー誘導体及びスルホン酸モノマー誘導体に由来する構造単位以外の構造単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸とC1~C10-アルコールとのエステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及びスチレンなどのモノマーに由来する構造単位を挙げることができる。(コ)ポリマーが非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマー誘導体及びスルホン酸モノマー誘導体に由来する構造単位とそれ以外の構造単位とを含む場合、(コ)ポリマー中の、非イオン性(メタ)アクリルアミドモノマー誘導体及びスルホン酸モノマー誘導体に由来する構造単位の含量は50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であることがより好ましい。
【0072】
また、増粘剤としては、天然多糖類を用いることができる。天然多糖類としては、例えば、ウェランガム及びキサンタンなどの微生物によって生産された多糖類、ならびに、アルギン酸塩、カラゲナン及びガラクトマンナンなどが挙げられる。
【0073】
また、増粘剤としては、多糖類誘導体を用いることができる。多糖類誘導体としては例えば、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース、プロピルセルロース及びメチルエチルセルロースなどのアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)及びプロピルヒドロキシプロピルセルロースなどのアルキルヒドロキシアルキルセルロースが挙げられる。好ましくは、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)及びエチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)の多糖類誘導体を用いるのがよい。より好ましくは、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)及びメチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)である。また、カルボキシメチルセルロース(CMC)の多糖類誘導体を用いるのがよい。また、多糖類誘導体として、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン及びメチルヒドロキシプロピルデンプンなどの非イオン性デンプンエーテル誘導体を用いてもよい。
【0074】
増粘剤は、本発明の混和剤の成分の一部として含有させてもよいし、本発明の混和剤とは別にコンクリートに添加してもよい。本発明の混和剤の成分の一部とする場合、本発明の効果を阻害しない範囲に限られ、本発明の混和剤に対して、0.1~3質量%含有することが好ましい。
【0075】
[混和剤含有組成物]
本発明の遠心成形コンクリート用混和剤含有組成物は、上記遠心成形コンクリート用混和剤と硬化促進剤とを含んでいる。すなわち、混和剤含有組成物とは、硬化促進剤が上述の混和剤の成分の一部として含有されている一液型の状態のみを意図するものではなく、硬化促進剤が上述の混和剤とは別に添加された二液型(別添型)の状態でもよい。このうち、硬化促進剤は上述の混和剤とは別にコンクリートに添加することが好ましい。このような硬化促進剤としては、C-S-H系微粒子としてC-S-H系ナノ粒子を分散させた硬化促進剤であることが好ましい。C-S-H系ナノ粒子を分散させた硬化促進剤は、主成分が、セメント水和物と同じであるため好ましい。C-S-H系ナノ粒子を分散させるための分散剤は、特に限定されず、例えば、末端に官能基を有するポリアルキレングリコール、水溶性櫛形ポリマー、及びポリアリールエーテル化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0076】
C-S-H系ナノ粒子を構成するケイ酸カルシウム水和物は、下記一般式(A)
dCaO・SiO・eHO (A)
で表される(式中、0.1≦d≦2であることが好ましく、より好ましくは0.66≦d≦1.8であり、0.6≦e≦6であることが好ましく、より好ましくは1.2≦e≦5.5である。)。
【0077】
ケイ酸カルシウム水和物の粒径は、特に限定されず、1000nm未満であることが好ましく、より好ましくは300nm未満、特に好ましくは200nm未満である。ケイ酸カルシウム水和物の粒子径は、分析用超遠心法によって測定することができる。
【0078】
ケイ酸カルシウム水和物としては、例えば、フォシャグ石、ヒレブランド石、ゾノトライト、ネコ石、単斜トベルモリ石、9Å-トバモライト(リバーサイド石)、11Å-トバモライト、14Å-トバモライト(プロンビエル石)、ジェンニ石、メタジェンナイト、カルシウムコンドロダイト、アフィライト、α-CSH、デルライト、ジャフェ石、ローゼンハーン石、キララ石、スオルン石が挙げられる。特に、ゾノトライト、9Å-トバモライト(リバーサイド石)、11Å-トバモライト、14Å-トバモライト(プロンビエル石)、ジェンニ石、メタジェンナイト、アフィライト、ジャフェ石が好ましい。
【0079】
硬化促進剤は、さらに、上記した増粘剤ポリマーを含有していてもよい。増粘剤ポリマーは、特に限定されず、例えば、上記した各種(コ)ポリマー、天然多糖類、多糖類誘導体が好ましく、また、質量平均分子量Mwとしては、500,000g/mol超が好ましく、特に好ましくは1,000,000g/mol超である。
【0080】
このような硬化促進剤は1種単独の使用であっても、2種以上を互いに併用してもよい。また、硬化促進剤の含有量は、特に限定されず、使用状況等に応じて、適宜設定することができる。
【0081】
本発明の遠心成形コンクリート用混和剤は、必要に応じて、適宜、他の添加剤を添加することができる。他の添加剤としては、従来より慣用されているAE剤、ポリサッカライド誘導体、リグニン誘導体、乾燥収縮低減剤、促進剤、起泡剤、消泡剤、防錆剤、急結剤、水溶性高分子物質等が挙げられる。他の添加剤は、本発明の遠心成形コンクリート用混和剤の成分の一部として含有させてもよいし、本発明の遠心成形コンクリート用混和剤とは別にコンクリートに添加してもよい。本発明の遠心成形コンクリート用混和剤の成分の一部とする場合、本発明の効果を阻害しない範囲に限られ、本発明の遠心成形コンクリート用混和剤に対して、1~20質量%含有することが好ましい。
【0082】
<セメント組成物>
本発明に係る遠心成形コンクリート用混和剤を含むセメント組成物は、セメントとして、市販のセメントを使用することができる。このようなセメントの中でも、汎用性及び/又は早強性の観点から、普通ポルトランドセメント及び/又は早強ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0083】
(他の粉体)
本発明に係る遠心成形コンクリート用混和剤を含むセメント組成物に含まれるセメントの一部代用又は追加される粉体として、石灰石粉、炭酸カルシウム、シリカフュ-ム、高炉スラグ微粉末、フライアッシュなどの微粉末混和材料を添加することができる。これらの粉体は、材料分離を抑制し、適度な粘性と高い流動性を保つために、また、本発明の効果を妨げない範囲で、セメント組成物1m中の配合量が、0~100kg/mであることが好ましい。
【0084】
(膨張材)
本発明に係る遠心成形コンクリート用混和剤を含むセメント組成物に、膨張材を添加することができる。膨張材の効果により、収縮補償やひび割れ防止や曲げ耐力向上の効果が付与される。膨張材としては、例えば、水和反応によって膨張性の水酸化カルシウムやエトリンガイトなどを生成する、石灰系の膨張材やカルシウムスルホアルミニウム系の膨張材が挙げられ、また、反応によりガスを発生する、アルミニウム粉末やメチルエチルケトン過酸化物、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸ナトリウム、p-トルエンスルホニルヒドラジド、スルホニルヒドラジド化合物、アゾ化合物及びニトロソ化合が挙げられる。遠心成形用コンクリートには、強力な遠心力が作用されるため、石灰系の膨張材、カルシウムスルホアルミニウム系の膨張材、これらを混合した膨張材が好ましい。上市されている膨張材としては、具体的な商品名として、例えば、デンカ社の「デンカCSA#20」、太平洋セメント社の「太平洋エクスパン」、住友大阪セメント社の「サクス」等が挙げられる。
【0085】
(骨材)
本発明に係る遠心成形コンクリート用混和剤を含むセメント組成物では、天然の骨材を使用することが好ましい。細骨材として、海砂、陸砂、山砂、砕砂等を使用することが好ましく、粗骨材として、山砂利、川砂利、海砂利、砕石を使用することが好ましい。これらの骨材を使用した遠心成形コンクリートは本添加剤の効果を得られやすい。また、骨材の粒度は、流動性の確保の観点から、適度な粒度分布を持った骨材が好ましく、JIS A 5308 付属書A レディーミクストコンクリート用骨材に規定される骨材の粒度分布を有していることが好ましい。
【0086】
<コンクリート種別>
本発明の遠心成形コンクリート用混和剤は、遠心力で成形されるコンクリートであれば、いずれにも使用できる。その用途は、コンクリート製の杭、電柱、ヒューム管等、中空のコンクリート成形品が挙げられる。
【0087】
<コンクリートの製造>
本発明に係る遠心成形コンクリート用混和剤を含むセメント組成物は、従来より公知の方法により製造することができ、例えば、日本土木学会制定のコンクリート標準示方書や建築学会制定の日本建築学会が作成した建築工事標準仕様書に準じた公知の設備及び公知の手法で作製することができる。具体的には、予め、混練水に本発明に係る遠心成形コンクリート用混和剤を混和した後、セメント、骨材等、他の原材料をミキサに投入して製造する方法や、本発明に係る遠心成形コンクリート用混和剤を含むセメント組成物の全ての原料をまとめて、ミキサに投入して製造する方法が好ましい。また、本発明に係る遠心成形コンクリート用混和剤を含むセメント組成物は、JIS A 5308に準じた生コンプラントで製造することが好ましい。
【実施例
【0088】
以下、本発明の遠心成形コンクリート用混和剤及びこれを用いたセメント組成物について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0089】
下記表1に示す使用材料を用い、下記表3に示す配合条件でコンクリートを製造し、目視によりコンクリートの状態を観察し、スランプ、ノロの発生量、固形分率、固形分量並びに材齢28日における圧縮強度を測定した実験1と、下記表2に示す使用材料を用い、下記表3に示す配合条件でコンクリートを製造し、スランプ及びコンクリートの成形時間を測定した実験2を行った。
【0090】
実験1の使用材料を下記表1に、実験2の使用材料を下記表2に示す。
【表1】
【表2】
【0091】
セメント組成物の配合割合を下記表3に示す。
【表3】
【0092】
混和剤の製法:特表2017-502140号公報を参照
増粘剤の製法:特表2008-505234号公報を参照
【0093】
練混ぜ方法
上記使用材料のうち、セメント及び骨材を、太平洋機工社の「二軸強制練りミキサSD-55型」に投入して60秒間空練りし、一旦混合を止めてから水及び混和剤を投入し、さらに60秒混練し、コンクリートを得た。なお、混和剤及び増粘剤の添加量を、下記表4及び下記表5に示す配合量で調整し、目標のスランプに調整した。
【0094】
遠心成形方法
実験2において、製造したコンクリートのスランプを測定した後、ベルトコンベアで運搬しこれを、内径800mm、管厚80mm、長さ1200mmの遠心成形機に0.60mのコンクリートを投入した。その後、成形機の回胴を加速度5Gで2分間、11Gで3分間、37Gを6分間、回転させ、コンクリートに遠心力を作用させた。
【0095】
スランプ
スランプ値は、JIS A 1101に準拠して測定した。
【0096】
スランプの状態
スランプ試験におけるスランプの変形挙動を、測定者の目視により、下記の3段階にて評価した。
◎優れる :一体となって変形した
○良好 :スランプがやや崩れたが、概ね一体となって変形した
×分離 :スランプが崩れて変形した
【0097】
ノロ発生量
所定時間の遠心締固め完了後、試験体内部に発生したノロを全量掻き出し、バケツに採取し、その重量を測定した。その重量をコンクリート1m3あたりに換算したものを、ノロ発生量とした。
【0098】
ノロ中の固形分率
上記のようにして得られたノロの一部を500g採集し、これを105℃で乾燥させ、残分からノロ中の固形分率を求めた。なお、ノロには5mmを超える細骨材と認められるものは観察されなかったため、固形分の主成分はセメント分であると推定された。
【0099】
ノロ中の固形分量
上記のようにして測定したノロの発生量とノロ中の固形分率の積から、ノロ中の固形分量を算出した。なお、本実施例において、ノロ中の固形分量とは、コンクリート1m中に発生するノロの固形分量を意味し、下記の2段階にて評価した。
○良好 :10kg/m以下
×不良 :10kg/m
【0100】
材齢28日における圧縮強度
JIS A 1108に基づき、材齢28日における圧縮強度を測定した。
【0101】
遠心時間
実験2において、上記コンクリートの製造条件及び遠心成形機への投入条件を同じとして、成形までに要する時間を遠心時間として測定した。遠心時間は、遠心成形コンクリートに熟達した者の目視による判断により、遠心成形完了時間を決定した。
【0102】
実験1の結果を下記表4に示す。
【表4】
【0103】
実験2の結果を下記表5に示す。
【表5】
【0104】
実験1において、実施例1、2から、本発明の混和剤であるSP1を用いたコンクリートは、スランプの状態が良好であり、ノロ中の固形分率及び固形分量が少なく良好な結果を示した。このうち、さらに増粘剤を添加した実施例2では、ノロ中の固形分率及び固形分量をさらに低減させ、さらにはノロの発生量もより低減させることができた。また、実施例1、2では、良好な材齢28日における圧縮強度が得られた。
【0105】
一方で、本発明の混和剤ではないSP2を用いたコンクリートは、スランプの状態は良好だったものの、ノロ中の固形分率及び固形分量も増大してしまった。同じく、本発明の混和剤ではないSP3を用いたコンクリートは、ノロ中の固形分率及び固形分量は良好だったものの、スランプが崩れて変形してしまい、スランプの状態に劣っていた。
【0106】
また、実験2において、SP1を用いたコンクリートは、SP2を用いたコンクリートよりも遠心時間を低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の混和剤を、遠心成形コンクリートに適用することにより、すなわち、遠心成形コンクリート用混和剤として使用することにより、コンクリートにまとまりのある一体性を与えることができ、輸送中の作業ロスを減らし、発生するノロ中の固形分を低減させ、遠心時間を短縮できることから、遠心成形コンクリートの製造において、廃棄物の量を減容させ、製造効率の向上を可能とする。