IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグの特許一覧

<>
  • 特許-フェライト合金 図1
  • 特許-フェライト合金 図2
  • 特許-フェライト合金 図3
  • 特許-フェライト合金 図4
  • 特許-フェライト合金 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】フェライト合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220203BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/32
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017530265
(86)(22)【出願日】2015-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 EP2015079457
(87)【国際公開番号】W WO2016092085
(87)【国際公開日】2016-06-16
【審査請求日】2018-10-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】14197362.8
(32)【優先日】2014-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ラーヴェ, フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】サカロス, ペータ
(72)【発明者】
【氏名】ヨンソン, ボー
(72)【発明者】
【氏名】イーイェンスタム, イェスパー
(72)【発明者】
【氏名】ヘルストレーム セリン, スザンヌ
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】井上 猛
【審判官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-180945(JP,A)
【文献】特開平01-290749(JP,A)
【文献】特開平05-331552(JP,A)
【文献】特開平05-202449(JP,A)
【文献】特開昭58-177437(JP,A)
【文献】特開平06-330247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト合金であって、
0.01から0.1重量%のC、
0.001から0.1重量%のN、
≦0.2重量%のO、
≦0.01重量%のB、
9から11重量%のCr、
2.5から8重量%のAl、
≦0.5重量%のSi、
≦0.4重量%のMn、
≦2.2重量%のY、
≦0.2重量%のSc+Ce+La、
≦4.0重量%のMo+W、
≦1.7重量%のTi、
≦3.3重量%のZr、
≦3.3重量%のNb、
≦1.8重量%のV、
≦6.5重量%のHf+Ta+Th
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である、フェライト合金であり、
Ti+Zr+Nb+V+Hf+Ta+Th及びC、N及びOの量が、
1.2≦(at%Ti+at%Zr+at%Nb+at%V+at%Hf+at%Ta+at%Th-x×at%O-at%N)/at%C≦2.0
であるように平衡し、
式中、Yの含有量が0.01重量%以上でない限り、xが0.5であり、Yの含有量が0.01重量%以上である場合、xが0.67である、フェライト合金。
【請求項2】
前記フェライト合金が、Sc+Ce+Laの重量%の追加又はCe+Laの重量%の追加を含まない、請求項1に記載のフェライト合金。
【請求項3】
Cが0.02から0.08重量%の範囲内にある、請求項1又は2に記載のフェライト合金。
【請求項4】
Nが0.001から0.08重量%の範囲内にある、請求項1からのいずれか一項に記載のフェライト合金。
【請求項5】
Oが0.001から0.08重量%の範囲内にある、請求項1からのいずれか一項に記載のフェライト合金。
【請求項6】
Oが0.01から0.1重量%の範囲内にある、請求項1からのいずれか一項に記載のフェライト合金。
【請求項7】
Alが3から7重量%の範囲内にある、請求項1からのいずれか一項に記載のフェライト合金。
【請求項8】
Yが0.01から1.2重量%の範囲内にある、請求項1からのいずれか一項に記載のフェライト合金。
【請求項9】
Tiが0.02から1.3重量%の範囲内にある、請求項1からのいずれか一項に記載のフェライト合金。
【請求項10】
Zrが0.04から2.4重量%の範囲内にある、請求項1からのいずれか一項に記載のフェライト合金。
【請求項11】
Nbが0.04から2.4重量%の範囲内にある、請求項1から10のいずれか一項に記載のフェライト合金。
【請求項12】
300から800℃の温度範囲内での、請求項1から11のいずれか一項に記載のフェライト合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、請求項1の前文によるフェライト合金(FeCrAl合金)に関する。本開示は、さらに、請求項16による300~800℃の温度範囲内でフェライト合金を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる鉛冷却高速炉(LFR)システムでは、液体鉛が冷却剤として使用される。液体鉛及び鉛ビスマス共晶合金(LBE)は、受動的な冷却の可能性をもたらし、したがって原子力の安全に貢献する。しかしながら、液体鉛は、腐食性が高く、LFRシステムで使用される構成材料の耐食性に対する要件が高くなる。
【0003】
FeCrAl合金は、その優れた酸化性のゆえに、鉛冷却高速炉で使用する材料の候補として最近提案されている。FeCrAl合金の優れた酸化性は、合金表面にアルミナ(Al)の層が形成される結果である。FeCrAl合金は、アルミニウム、クロム、及び鉄を基礎としており、耐酸化性及び優れた耐クリープ性を有するため、これらの合金は、約1000℃の温度及び1000℃を越える温度で、加熱要素及びワイヤにおいて使用されることが多い。しかしながら、鉛冷却高速炉は、400℃から600℃の温度間隔で動作するが、この温度範囲では、典型的に約15から20重量%のCrを含む市販のFeCrAl合金では、Fe‐Cr系に存在する溶解度ギャップにゆえに、α‐α’相分離(α-α’ phase separation)という問題が生じる。α‐α’相分離により、FeCrAl合金の脆化が引き起されるので、市販のFeCrAl合金は、(LFR)システムで使用される温度範囲における構成材料としては不適切となる。
【0004】
FeCrAl組成は、液体鉛又は液体鉛‐ビスマス‐共晶溶液(liquid lead-bismuth-eutectic solution)で試験されてきた。Weisenburgerらの研究は、≧12.5重量%のCr及び≧6重量%のAlを含む典型的なFeCrAl合金が、400℃から600℃の温度間隔内で薄い保護アルミナスケールを形成することができたことを示した[Weisenburger、Jianu、Doyle、Bruns、Fetzer、Heinzel、DelGiacco、An、Muller著「Oxide scales formed on Fe-Cr-Al-based model alloys exposed to oxygen containing molten lead」、Journal of Nuclear Materials誌、437(2013)、282-292]。Limらによる別の研究は、Fe-13Cr-4Alが、500℃から保護アルミナを形成し得ることを示した[Lim、Hwang、Kim著「Design of alumina forming FeCrAl steels for lead or lead-bismuth cooled fast reactors」Journal of Nuclear Materials誌、441(2013)、650-660]。
【0005】
韓国特許KR10-1210531は、原子力用途での使用が意図されたFeCrAl合金を示している。
【0006】
FeCrAl合金は、酸素及び炭素に対して高い親和性を有する元素である、反応性元素(RE)をさらに含み得る。約1000℃の高温でY、Zr、及びHfなどの反応性元素を添加することが、金属イオンの外方拡散及び酸素の内方拡散を平衡させ、合金の酸化性が改善される。それにより、均衡のとれた酸化物成長、ひいては、酸化物スケールにおける機械的応力及び/又は多孔性の減少が生じる。550℃で液体鉛内のFe-10Cr-6Al合金の長期間(10、000時間)にわたる耐食性に対して、Zr及びTiの添加が及ぼす影響について研究が行われた[Ejenstamら著「Oxidation studies of Fe10CrAl-RE alloys exposed to Pb at 550°C for 10,000 h」、Journal of Nuclear Materials誌、443(2013)、161-170]。
【0007】
しかしながら、前述の研究は、FeCrAl合金の特性の改善に貢献してきたが、これらの合金の耐食性をさらに向上させる必要が依然としてある。
【0008】
したがって、本開示の態様は、改善された耐食性を有するFeCrAl合金を提供する。具体的には、本開示の態様は、高い腐食性環境において、300℃から800℃の範囲内の温度で非常に優れた耐食性を有するFeCrAl合金を提供する。さらに、本開示の態様は、300℃から800℃の範囲内の温度で液体鉛合金において腐食に耐性のあるFeCrAl合金を提供する。本開示のさらなる態様は、ボイラー、炉、並びに熱及びエネルギー生成プラント及びプロセスのような適用例において構成材料として適切なFeCrAl合金を提供する。その他の適切な適用例には、肉盛溶接、スプレー塗装、又は複合材管が含まれる。具体的には、本開示の態様は、300℃から800℃の範囲内の温度で鉛冷却高速炉システムにおける構成材料として適切なFeCrAl合金を提供する。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本開示は、フェライト(FeCrAl)合金であって、
0.01から0.1重量%のC、
0.001から0.1重量%のN、
≦0.2重量%のO、
≦0.01重量%のB、
9から13重量%のCr、
2.5から8重量%のAl、
≦0.5重量%のSi、
≦0.4重量%のMn、
≦2.2重量%のY、
≦0.2重量%のSc+Ce+La、
≦4.0重量%のMo+W、
≦1.7重量%のTi、
≦3.3重量%のZr、
≦3.3重量%のNb、
≦1.8重量%のV、
≦6.5重量%のHf+Ta+Th
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である、フェライト(FeCrAl)合金であって、
Ti+Zr+Nb+V+Hf+Ta+Th及びC、N及びOの量が、
(at%Ti+at%Zr+at%Nb+at%V+at%Hf+at%Ta+at%Th-x×at%O-at%N)/at%C≧1
であるように平衡し、
式中、Yの含有量が0.01重量%以上でない限り、xが0.5であり、Yの含有量が0.01重量%以上である場合、xが0.67である、フェライト(FeCrAl)合金に関する。
【0010】
本開示は、さらに、フェライト合金であって、
0.01から0.1重量%のC、
0.001から0.1重量%のN、
≦0.2重量%のO、
≦0.01重量%のB、
9から11重量%のCr、
2.5から8重量%のAl、
≦0.5重量%のSi、
≦0.4重量%のMn、
≦2.2重量%のY、
≦0.2重量%のSc+Ce+La、
≦4.0重量%のMo+W、
≦1.7重量%のTi、
≦3.3重量%のZr、
≦3.3重量%のNb、
≦1.8重量%のV、
≦6.5重量%のHf+Ta+Th
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である、フェライト合金であって、
Ti+Zr+Nb+Hf+V+Ta+Th及びC、N及びOの量が、
(at%Ti+at%Zr+at%Nb+at%V+at%Hf+at%Ta+at%Th-x×at%O-at%N)/at%C≧1
であるように平衡し、
式中、Yの含有量が0.01重量%以上でない限り、xが0.5であり、Yの含有量が0.01重量%以上である場合、xが0.67である、フェライト合金に関する。
【0011】
本開示は、さらに、フェライト合金であって、
0.01から0.1重量%のC、
0.001から0.1重量%のN、
≦0.2重量%のO、
≦0.01重量%のB、
9から11重量%のCr、
2.5から8重量%のAl、
≦0.5重量%のSi、
≦0.4重量%のMn、
≦2.2重量%のY、
≦0.2重量%のSc+Ce+La、
≦4.0重量%のMo+W、
≦1.7重量%のTi、
≦3.3重量%のZr、
≦3.3重量%のNb、
≦1.8重量%のV、
≦6.5重量%のHf+Ta+Th
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である、フェライト合金であって、
Ti+Zr+Nb+Hf+V+Ta+Th及びC、N及びOの量が、
(at%Ti+at%Zr+at%Nb+at%V+at%Hf+at%Ta+at%Th-x×at%O-at%N)/at%C≧1
であるように平衡し、
式中、Yの含有量が0.01重量%以上でない限り、xが0.5であり、Yの含有量が0.01重量%以上である場合、xが0.67である、フェライト合金に関する。
【0012】
本開示は、フェライト合金であって、
0.01から0.1重量%のC、
0.001から0.1重量%のN、
≦0.2重量%のO、
≦0.01重量%のB、
9から13重量%のCr、
2.5から8重量%のAl、
≦0.5重量%のSi、
≦0.4重量%のMn、
≦2.2重量%のY、
≦4.0重量%のMo+W、
≦0.2重量%のSc、
≦1.7重量%のTi、
≦3.3重量%のZr、
≦3.3重量%のNb、
≦1.8重量%のV、
≦6.5重量%のHf+Ta+Th
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である、フェライト合金であって、
Ti+Zr+Nb+Hf+V+Ta+Th及びC、N及びOの量が、
(at%Ti+at%Zr+at%Nb+at%V+at%Hf+at%Ta+at%Th-x×at%O-at%N)/at%C≧1
であるように平衡し、
式中、Yの含有量が0.01重量%以上でない限り、xが0.5であり、Yの含有量が0.01重量%以上である場合、xが0.67である、フェライト合金にさらに関する。
【0013】
本開示は、フェライト合金であって、
0.01から0.1重量%のC、
0.001から0.1重量%のN、
≦0.2重量%のO、
≦0.01重量%のB、
9から13重量%のCr、
2.5から8重量%のAl、
≦0.5重量%のSi、
≦0.4重量%のMn、
≦2.2重量%のY、
≦4.0重量%のMo+W、
≦1.7重量%のTi、
≦3.3重量%のZr、
≦3.3重量%のNb、
≦1.8重量%のV、
≦6.5重量%のHf+Ta+Th
を含み、残部がFe及び不可避的不純物である、フェライト合金であって、
Ti+Zr+Nb+Hf+V+Ta+Th及びC、N及びOの量が、
(at%Ti+at%Zr+at%Nb+at%V+at%Hf+at%Ta+at%Th-x×at%O-at%N)/at%C≧1
であるように平衡し、
式中、Yの含有量が0.01重量%以上でない限り、xが0.5であり、Yの含有量が0.01重量%以上である場合、xが0.67である、フェライト合金にさらに関する。
【0014】
本開示の合金は、クロム、並びにTi、Zr、Nb、Hf、V、Ta、及びThなどの反応性元素をさらに含む。反応性元素は、合金の中に個別に存在し得るか、又は任意の組み合わせで存在し得る。以下でより詳細に説明されるように、これらの元素は、保護Al層の形成又はその特性を改善するために合金に添加される。FeCrAl合金は、典型的に炭素を含む。炭素は、例えば、強度を増し加えるために意図的に添加された可能性があり、又は、例えば、製造工程から生じた偶発的な不純物として合金の中に存在し得る。Ti、Zr、Nb、Hf、V、Ta、及びThなどの反応性元素は、強力な炭化物形成元素(carbide former)でもあり、すなわち、これらの反応性元素は炭素への親和性が高く、合金の中に存在する炭素は、クロム又は反応性元素に引き寄せられ、炭化物が形成される。
【0015】
発明者らは、意外にも、実験を通して、反応性元素と炭素との間の商が1以上であるように、反応性元素の量(原子パーセント)を合金の中の炭素の量(原子パーセント)と平衡させたときに、FeCrAl合金の耐酸化性が大いに改善されることを発見した。
【0016】
本開示の背景のメカニズムは、炭素に関連して反応性元素の欠損がある合金について腐食の研究が行なった場合により容易に理解される。
【0017】
図1は、反応性元素と炭素との間の商が1に近いか、又は1未満であるFeCrAl合金を概略的に示す。
【0018】
合金を鋳造した後の固化作用の間、反応性元素(RE)は、最初に、合金のバルク中に炭化物及び窒化物を形成する。
【0019】
本開示によれば、炭化物の形成に利用可能な反応性元素と利用可能な炭素との間の商が1以上となるように、反応性元素の量(原子パーセント)が、合金の中の炭素の量(原子パーセント)と平衡される。これにより、以上又は以下で定義されているように、利用可能な反応性元素と利用可能な炭素との少なくとも等しい量の原子が合金の中に存在することになる。反応性元素は、合金の中で最も強い炭化物形成元素であり、クロム及びその他の合金成分よりも強いため、すべての遊離炭素が、利用可能な反応性元素に引き寄せられ、そこに炭化物が形成される。したがって、利用可能な反応性元素の含有量が十分である限り、クロムリッチ炭化物を形成するために合金に残される遊離炭素はもはやない状態となる。
【0020】
さらなる肯定的な効果は、反応性元素の形成された炭化物は、以上又は以下で定義されているように、FeCrAl合金のバルクを通して均質に分配され、分散硬化によって合金の機械的強度に貢献することである。
【0021】
以上又は以下で定義されているFeCrAl合金の一実施形態では、利用可能な反応性元素と炭素との間の商は、1以上であり、すなわち、合金の中に反応性元素が余分にある。その理由は、幾つかの反応性元素が、保護Al層の形成工程において消費されて、Al層と合金表面との間の接着の向上に役立つからである。炭素及び窒素と反応した後に反応性元素が余分にあるように、反応性元素の量を平衡させることにより、クロムリッチ炭化物が形成されることが微量であっても回避される。
【0022】
別の実施形態では、以上又は以下で定義されたFeCrAl合金に対する最も低い商は、少なくとも1.1である。この商の値は、すべての遊離炭素を消費するためにAl層を形成した後に、合金の中に反応性元素が少なくとも十分にあることを意味する。
【0023】
反応性元素と炭素との間の商として最も可能性のある値は、合金の中で反応性元素が形成し得る金属間化合物の安定性によって決定される。このFeCrAl合金の実施形態では、最も高い商は2.3以下であり得る。
【0024】
反応性元素と炭素との間の商は、1.1から2.2(1.2から2.0等)であり得る。
【0025】
以上又は以下で定義されたフェライト合金は、いわゆる溶融冶金法(melt metallurgy)のような従来の製造方法によって製造され得、それには、誘導炉内の溶融、熱間圧延の後に型に入れて鋳ることによる溶融物の炉外製錬が含まれる。以上又は以下で定義されたフェライト合金は、粉末冶金法によっても製造することができ、この場合、粉末をアトマイズ、圧縮成形し、その後、焼結又は熱間等方加圧(HIP)によって、金属粉を製造する工程を含む。
【0026】
以上又は以下で定義された合金の成分は、以下で詳細に説明される。
【0027】
以上又は以下で定義されたFeCrAl合金の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物の例としては、意図的に添加されたわけではないが、例えば、FeCrAl合金の製造に使用される材料において通常不純物として生じてしまうために完全に防止することができない元素及び化合物がある。
【0028】
「≦」という記号が、「元素≦数」という文で用いられるとき、当業者であれば、別の数値が特に述べられていない限り、範囲の下限が0重量%であることを知っている。
【0029】
炭素(C)
炭素は、析出硬化によって強度を高めるために、以上又は以下で定義されたFeCrAl合金内に含まれている。炭素は、製造工程から生じた不可避的不純物として存在する場合もある。合金内で十分な強度を実現するために、炭素は、少なくとも0.01重量%の量で存在するべきである。含有量が高すぎると、炭素は、材料の形成に対する障害となり、耐食性に対して否定的な効果をもつようになる場合がある。したがって、炭素の最大量は、以上又は以下で定義された合金の中で0.1重量%である。例えば、炭素は、0.02から0.09重量%(0.02から0.08重量%、0.02から0.07重量%、0.02から0.06重量%、0.02から0.05重量%、0.02から0.04重量%等)である。
【0030】
窒素(N)
窒素は、析出硬化によって強度を高めるために、以上又は以下で定義されたFeCrAl合金内に含まれ得る。窒素は、製造工程から生じた不可避的不純物として存在する場合もある。含有量が高すぎると、窒素は、材料の形成に対する障害となり、耐食性に対して否定的な効果をもつようになる場合がある。したがって、窒素の最大量は、以上又は以下で定義されたFeCrAl合金の中で0.1重量%である。溶融冶金法で十分な析出硬化を達成するためには、窒素は、少なくとも0.001重量%であるべきであり、窒素の適切な範囲の例としては、0.001から0.08重量%(0.001から0.05重量%、0.001から0.04重量%、0.001から0.03重量%、0.001から0.02重量%、0.001から0.01重量%等)が挙げられる。粉末冶金法では、窒素含有量は、少なくとも0.01重量%であり得る。例えば、粉末冶金法では、窒素は、0.01から0.1重量%(0.01から0.08重量%等)である。
【0031】
酸素(O)
酸素は、最大0.02重量%(最大0.005重量%等)の量で、製造工程から生じた不純物として、以上又は以下で定義されたフェライト合金内に存在し得る。溶融冶金法では、酸素は、0.001から0.08重量%(0.001から0.05重量%、0.001から0.02重量%等)であり得る。粉末冶金法では、析出硬化効果を達成するために酸素が意図的に添加され得る。以上又は以下で定義された合金は、最大0.2重量%の酸素(0.01から0.2重量%、0.01から0.1重量%、0.01から0.08重量%の酸素等)を含む。
【0032】
クロム(Cr)
クロムは、いわゆる第三元素の効果(third element effect)を通して、すなわち、一時的な酸化段階において酸化クロムを形成することによって、以上又は以下で定義された合金上にAl層を形成することを促進する。クロムは、少なくとも9重量%の量で、以上又は以下で定義された合金の中に存在するようになる。しかしながら、以上又は以下で定義された合金は、300から800℃の温度範囲内で使用されることが意図されているので、α‐α’相分離がFeCrAl合金の脆化を引き起こすFe‐Cr系における溶解度ギャップを回避するために、クロムは13重量%を超過してはならない。例えば、クロムは、9から13重量%(9から12重量%、9から11重量%、9から10重量%等)であり得る。特定の一実施形態によると、Crは、9から11重量%(9から10重量%等)の範囲内にある。別の特定の一実施形態によると、Crは、9から11.5重量%の範囲内にある。
【0033】
アルミニウム(Al)
アルミニウムは、高温で酸素に曝露された際に、さらなる酸化から下層の合金表面を保護する高密度で薄い酸化Alを形成するので、以上又は以下で定義された合金内で重要な元素である。アルミニウムの量は、Al層が確実に形成されるように、且つAl層が損傷した際に修復のためにアルミニウムが十分にあるように、少なくとも2.5重量%であるべきである。しかしながら、アルミニウムは、合金の形成に対して否定的な影響を及ぼすものであり、アルミニウムの量は、以上又は以下で定義された合金内で8重量%を超過してはならない。例えば、アルミニウムは、3から7重量%(3から5重量%、3.5から6重量%、4から6重量%等)であり得る。
【0034】
ケイ素(Si)
ケイ素は、最大0.5重量%(0から0.4重量%等)で以上又は以下で定義された合金内で不純物として存在し得る。
【0035】
マンガン(Mn)
マンガンは、最大0.4重量%(0から0.3重量%等)で以上又は以下で定義された合金内で不純物として存在し得る。
【0036】
イットリウム(Y)
イットリウムは、Al層の接着を改善するために、最大0.8重量%(最大0.3重量%、最大0.1重量%等)の量で添加され得る。しかしながら、イットリウムが、0.01重量%以上の量で以上又は以下で定義されたフェライト合金に添加された場合、酸化イットリウムの形成が商に影響を与え、xは0.67となる。さらに粉末冶金法を用いる際に、イットリウムが添加された場合、酸化物及び/又は窒化物による所望の分散硬化効果を達成するために、イットリウム含有量は少なくとも0.01重量%の量で存在する。分散硬化された合金内のイットリウムの最大量は、最大2.2重量%(最大1.2重量%、最大1重量%等)であり得る。適切な範囲の例は、0.01から1.2重量%、0.01から1重量%、及び0.04から1重量%であり得る。
【0037】
スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)、及びランタン(La)
スカンジウム、セリウム、及びランタンは、交換可能な元素であり、酸化性、Al層の自己修復、又は合金とAl層との間の接着を改善するために、最大0.2重量%の総量で個別に又は組み合わせて添加され得る。特定の一実施形態によれば、以上又は以下で定義されたフェライト合金は、Sc、Ce、及びLaを少しも含まず、すなわち、意図的に添加されるSc、Ce、及び/又はLaが0重量%である。別の特定の一実施形態によれば、以上又は以下で定義されたフェライト合金は、Ce及び/又はLaを少しも含まない。
【0038】
モリブデン(Mo)及びタングステン(W)
モリブデン及びタングステンは、両方とも、以上又は以下で定義された合金の熱間強度に対して肯定的な影響を有し、最大4.0重量%(0から2.0重量%等)で個別に又は組み合わせて添加され得る。
【0039】
反応性元素(RE)
定義によると、反応性元素は、炭素、窒素、及び酸素との反応性が高い。チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、パナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、及びトリウム(Th)は、炭素に対して高い親和性を有するという意味で反応性元素であり、それゆえに強力な炭化物形成元素である。酸化物成長プロセスの動特性を支配する金属イオン及び酸素の拡散を平衡させることにより、以上又は以下で定義された合金の酸化性を改善するために、これらの元素は、添加される。それぞれの反応性元素の最大量は、有害な金属間化合物相を形成する元素の傾向に主に左右される。イットリウムは、通常、反応性元素であるとみなされるが、本開示では、異なる段落で説明されており、上述の他の反応性元素のように強力な炭化物を形成するわけではないので、(xの数値に影響を及ぼすこと以外には)商の一部でもない。
【0040】
したがって、チタンの最大量は、以上又は以下で定義された合金の中で1.7重量%(0.02から1.7重量%等)である。溶融冶金法では、チタンの適切な量は、0.02から1.3重量%(0.02から0.98重量%、0.02から0.85重量%、0.04から0.75重量%等)である。粉末冶金法では、チタンの適切な量は、0.02から1.3重量%(0.04から0.75重量%、0.05から0.75重量%等)である。
【0041】
ジルコニウム及びニオブの最大量は、それぞれ、以上又は以下で定義された合金の中で3.3重量%である。ジルコニウム及びニオブの量は、それぞれ、0.04から3.3重量%であり得る。溶融冶金法では、ジルコニウムは、0.04から2.4重量%(0.04から1.9重量%、0.04から1.6重量%、0.08から1.4重量%、0.1から0.9重量%、0.1から0.6重量%等)であり得る。粉末冶金法では、ジルコニウムは、0.04から2.4重量%(0.08から1.4重量%、0.3から1.4重量%、0.1から0.9重量%、0.1から0.6重量%等)であり得る。溶融冶金法では、ニオブは、0.04から2.4重量%(0.04から1.9重量%、0.04から1.6重量%、0.08から1.4重量%等)であり得る。粉末冶金法では、ニオブは、0.04から2.4重量%(0.08から1.4重量%、0.08から1.2重量%等)であり得る。
【0042】
一例として、合金は、0.04から3.1重量%の量でTi+Zrを含み得る。溶融冶金法に適した合金は、0.06から2.0重量%(0.12から1.7重量%等)の量でTi+Zrを含み得る。粉末冶金法に適した合金は、0.04から2.3重量%(0.06から2.0重量%等)の量でTi+Zrを含み得る。
【0043】
他の例として、合金は、0.04から3.1重量%の量でTi+Nbを含み得る。溶融冶金法に適した合金は、0.06から2.0重量%(0.12から1.7重量%等)の量でTi+Nbを含み得る。粉末冶金法に適した合金は、0.04から2.3重量%(0.06から2.0重量%等)の量でTi+Nbを含み得る。
【0044】
合金は、0.04から4.6重量%の量でZr+Nbを含み得る。溶融冶金法に適した合金は、0.08から2.8重量%(0.16から2.5重量%等)の量でZr+Nbを含み得る。粉末冶金法に適した合金は、0.04から3.3重量%(0.08から2.8重量%等)の量でZr+Nbを含み得る。
【0045】
パナジウムの最大量は1.8重量%である。ハフニウム、タンタル、及びトリウムは、交換可能な元素であり、最大6.5重量%の総量で、個別に又は組み合わせて、以上又は以下で定義された合金に添加され得る。
【0046】
鉄(Fe)及び不可避的不純物は、以上又は以下で定義された合金の残部を構成する。
【0047】
利用可能な反応性元素と、酸素、窒素、及び炭素との間の商:
(at%Ti+at%Zr+at%Nb+at%V+at%Hf+at%Ta+at%Th-x×at%O-at%N)/at%C
【0048】
以上又は以下で定義された合金では、合金の製造中に優先する条件下で熱力学的に安定している炭化物の種類に関連して、各反応性元素の量が炭素の量と平衡される。
【0049】
合金の製造中に優先する熱力学的条件の下では、反応性元素は以下の炭化物を形成する:
Ti+C⇔TiC
Nb+C⇔NbC
Zr+C⇔ZrC
Hf+C⇔HfC
V+C⇔VC
【0050】
幾つかの状況下では、反応性元素Nb及びVもさらに低炭化物を形成し得る:
2V+C⇔V
2Nb+C⇔Nb
【0051】
しかしながら、製造工程中に合金で優先する熱力学的条件下では、これらの炭化物は安定性が低く、したがって、商から除外され得る。
【0052】
さらに、炭素の含有に加えて、FeCrAl合金は、さらに窒素及び/又は酸素を含んでもよく、したがって、これらの2つの元素も商において検討しなければならない。上述のように、窒素及び酸素は、不純物として合金の中に存在してもよく、又は、FeCrAl合金の特性を改善するために意図的に添加されてもよい。例えば、FeCrAl合金が粉末冶金用途において使用される場合、FeCrAl合金の中の窒素及び酸素の含有量は、実質的であり得る。窒素及び酸素が存在する場合、幾つかの反応性元素は、窒化物及び酸化物の形で消費される。これにより、安定した炭化物を形成するために遊離炭素と反応する反応性元素がより少なくなり、結果的に保護酸化物の形成に影響が及ぶ。
【0053】
合金の中で熱力学的に安定した窒化物の例としては、TiN、ZrN、HfN、VN、TaN、及びThNがあり、合金の中で反応性元素の熱力学的に安定した酸化物の例としては、TiO、ZrO、HfO、Y、及びThOがある。
【0054】
したがって、安定した窒化物及び酸化物を形成することによって消費された反応性元素の埋め合わせを行うためには、商において、合金の中の窒素及び酸素の量を反応性元素の量から差し引く。
【0055】
商における酸素の量は、補正係数「x」と乗算されなければならなく、「x」は、0.5又は0.67から選択される。補正係数の値は、どのような種類の酸化物が形成されるに左右される。すなわち、合金の中にどの元素が含まれるか、且つさらにどの酸化物が製造中に優先する条件で最も熱力学的に安定するかに左右される。最も頻繁に形成される酸化物は、二酸化物であり、補正係数は、約0.5が選択され得る。しかしながら、元素イットリウムが合金の中に存在している場合(0.01重量%以上で)、形成される最も安定した酸化物は、Y又はAlYOなどの三酸化物であり、その場合、xは0.67である。
【0056】
商において、反応性元素、炭素、且つ適用可能である場合、窒素及び酸素は、それぞれの元素の原子パーセンテージに基づいて平衡される。なぜなら、所望の炭化物が形成されるように、合金の中の遊離炭素原子の数に適合するため、各反応性元素について、十分な量が確実に添加されることが重要であるからである。
【0057】
操作中、以上又は以下で定義されたフェライト合金は、表面酸化層を形成し、したがって、表面酸化層を含むようになる。表面酸化層は、(AlFe)O-酸化物の外部層、Cr酸化物の中間層、及びAlの内部層を含むようになる。
【0058】
以上又は以下で定義されたフェライト合金は、ZrC及び/又はNbC及び/又はNbC及び/又はHfC及び/又はVC及び/又はThC及び/又はTaCの分散質をさらに含み得る。分散質は、TiC分散質コア(TiC dispersoid core)を含み、且つZrC及び/又はNbC及び/又はNbC及び/又はHfC及び/又はVC及び/又はThC及び/又はTaCの分散質によって封入されたクラスターの形態であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】RE及び炭素を平衡させる目的で示す概略図である。
図2】比較対象の合金内で形成されたクロムリッチ炭化物を示す顕微鏡写真である。
図3】比較対象の合金内の酸化挙動を示す顕微鏡写真である。
図4】本開示の第1の代替例に係る、合金内の酸化挙動を示す顕微鏡写真である。
図5】本開示の第2の代替例に係る、合金内の酸化挙動を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本開示は、以下の非限定的実施例によって説明される。本実施例は、Fe-10Cr-4Al合金を調査し、具体的には、550℃で液体鉛に対する長期間(8,760時間)にわたる耐食性に対する種々の反応性元素(RE)の影響を調査することを目的とする。さらに、450℃で短期間(1000時間)の試験が比較のために行われた。
【0061】
反応性元素(RE)の添加の影響:Zr、Nb、及びYは、実施例のために選択された。各種のRE含有物を有する9つの実験的な合金が、真空誘導炉において生成された。試料は、8×1mmのストリップに熱間圧延され、各工程の後に、5分間、1050℃で均質化された。すべての研究された合金に対して分析された化学成分は、表1で示されている。
【0062】
【0063】
9つの試料の中でRE及び炭素の含有量が変化し、幾つかの試料は、炭素の量に比べてREが不足し(試料Zr-0.1、Y-0.02、Y-0.1)、幾つかの試料では、RE及び炭素の量は、平衡化され(試料Zr-0.2、Nb-0.8C、Y-0.2)、幾つかの試料では、REは、炭素に比べて過剰であった(Zr-0.4、Nb-0.4、Nb-0.8)。
【0064】
寸法30×8×1mmのクーポンが、酸化の研究のために各合金のために調製された。クーポンが、エタノールで超音波処理され、その後、2mmの99.9%(金属系)鉛ショットで充填されたアルミナるつぼの中に配置された後に、表面は、Sic研磨紙を用いて#800グリットの仕上がりに磨かれた。酸化試験が管状炉で行われ、そこでるつぼは密封された石英管の中に配置された。液体鉛内の溶存酸素量が、流動するAr-H-HOガス混合物を用いて制御された。1.3対0.2の比率でH/HOが、それぞれ、550℃及び450℃で液体鉛内において10-7重量%の溶存酸素量を達成するために用いられた。450℃で1000時間、550℃で8760時間、酸化試験を完了した後、試料は、空気冷却され、酢酸と過酸化水素の(1:1)の溶液内で残存鉛から洗浄された。透過型電子顕微鏡(TEM)の試料が、FEI quanta 3Dの電界放射型走査電子顕微鏡(FEG-SEM)を用いて、標準的なリフトアウトを通して調整された。TEM評価は、JEOL JEM-2100F FEG TEMを用いて行われた。Oxford instrumentsの80mmX-Maxシリコンドリフト検出器(SDD)を用いて、エネルギー分散分光法(EDS)の元素分析が行われた。SEMの試料は、酸化された試料を導電性樹脂に作り上げ、その後、最終的に0.25μmのダイヤモンドステップまで精密研磨することにより、調製された。Zeiss Leo 1530 FEG-SEM及びOxford 50 mm X-Max SDD EDSが、一般的な特性評価に使用された。TCFE7及びSSOL4データベースを実行するTheremo Calcを用いて熱力学モデリングが実施された。
【0065】
調査結果
550℃における8,760時間の酸化試験の結果は、様々なRE添加物に対して、酸化性において明確な違いがあることを示した。
【0066】
炭素に比べてREが不足した3つの合金(Zr-0.1、Y-0.02、及びY-0.1)は、著しい量のクロムリッチ炭化物を形成した。図2aは、試料の表面(3)に形成されたAlリッチ酸化物スケール(Al-rich oxide scale)(2)近辺のCr系炭化物(1)を示す。図2aでは、クロムリッチ炭化物は、円で囲った領域内の白い形状として検出され得る。図2bは、図2aで円で囲まれたクロムリッチ炭化物領域(1)のTEM Cr EDSマップである。ここでは、クロムリッチ領域の形状が明らかに可視可能である。
【0067】
これらの実施例は、ほとんどすべてのCr系炭化物が、試料表面におけるAlリッチ酸化物との接触により形成されたことを示した。これは、アルミニウムが、炭化物の形成を抑圧する、すなわち、グラファイトを安定化させると説明することができる。Cr系炭化物の核生成は、Alが枯渇した金属-酸化物相境界において促進されるようである。したがって、保護Al酸化物は適切に形成されなかった。
【0068】
さらに、3つの合金、Zr-0.1、Y-0.02、及びY-0.1は、すべて酸化試験において貧相な酸化性を示した。この貧相な結果は、550℃と450℃の両方の温度で一貫しており、以上又は以下で説明されているように、正しい商を選択することが重要であることを示した。
【0069】
図3aは、550℃の温度における酸化の後にZr-0.1合金からとられた試料の断面のSEM画像を示す。この画像では、合金のバルク内に成長した不規則な形状の混合酸化物を明らかに見ることができる。Zr-0.1試料の金属-酸化物界面においてクロムリッチ表面の炭化物の量が多いことにより、点食タイプの酸化促進が生じるようであり、最大約5μmの、内側に成長する混合金属酸化物が広がる。
【0070】
α‐α’相分離を回避するためにCrの含有量が低くなければならないより低い温度では、クロムリッチ表面の炭化物の存在により、結果的に非保護酸化物スケールが形成された。このことは、450℃におけるより短期間(1000時間)の酸化試験で確認された。表面の近辺で炭化物を含有し、炭素に比べてREが不足した同じ3つの合金(Zr-0.1、Y-0.02、Y-0.1)は、3層の酸化物構造で完全に覆われた。この3層の酸化物構造は、外側に成長するFe3O4スケール、及び内側に成長するFeCrAl混合酸化物からなり、その間に内部酸化物ゾーンが見られる。図3bは、上述の酸化層構造を有するY-0.02試料のSEM顕微鏡写真を示す。Y-0.02試料での腐食浸入の総深さは、3から4μmと測定された。
【0071】
バランス合金
したがって、C及びREの含有量を平衡させることにより、FeCrAl合金の耐腐食性が向上した。研究における3つの合金、Zr-0.2、Y-0.2、及びNb-0.8Cは、Cの含有量にほぼ均等したREを含み、550℃で著しく異なる酸化挙動を示した。
【0072】
Zr-0.2
Zr-0.2合金には、酸化侵入の徴候が示されなかった。Zr-0.2試料の表面を研究するためにTEM評価が行なわれ、液体鉛への8,760時間にわたる曝露の間に形成された約100nmの厚さの薄い酸化物の存在が示された(図4b参照)。この酸化物は、薄いCrリッチ酸化層によって区切られた、内側に成長するAl層と、外側に成長するFeAl混合酸化物との3つの層に分割された。図4bは、層の表面からの距離の関数として、図3aの層の化学組成を示すTEM像のEDSラインスキャンである。
【0073】
450℃でZr-0.2合金は、好ましい酸化性を示した(すなわち、保護酸化層が形成された)(図4a参照)。その表面に形成された薄い酸化物は、TEMによって調査され、約40nmと測定された。550℃におけるTEMの結果と同じように、450℃で形成された酸化物は、3つのゾーン、Alで主に富化された内部層、Feで富化された外部、Crが豊かな中間層に分割された(図4b)。図5bは、層の表面からの距離の関数として、図5aの層の化学組成を示すTEM像のEDSラインスキャンである。
【0074】
Nb-0.8C
Nb-0.8C合金は、550℃で酸化浸入を示さなかった。
【0075】
Y-0.2
Y-0.2では、Cに関連してYがわずかに過剰であるにも関わらず、550℃で処理された後、局所的な酸化点食が見付かった。この事象は、Zr及びNbと比べて、イットリウム炭化物の安定性が比較的弱いということで説明することができる。微細構造の特性評価により、C、O、S、及び特にFeで富化されたYリッチ析出物(Y-rich precipitate)が発見された。
【0076】
過剰比率合金
Cに比べてREが大幅に過剰な試料(すなわち、Zr-0.4、Nb-0.4、Nb-0.8)は、550℃及び450℃の両方で貧相な酸化性を示した。Zr-0.4合金は、550℃で点食タイプの酸化浸入を示し、Fe及びZrリッチ相は、2μmと測定され、マトリックスにわたって散見された。さらに、同じ合金での酸化点食は、Zrで富化された。
【0077】
合金Zr-0.4及びY-0.2も450℃で同様の結果であった。Y及びZrが過剰であることにより、550℃のように、450℃では酸化性が著しく減少することはなかった。しかしながら、550℃に比べて、450℃において、反応速度が遅かったことと、曝露時間が短かったことが、結果に影響を与えたかもしれない。
【0078】
Nb-0.8合金は、550℃で処理された後、5μmにも及ぶ酸化点食でほぼ全体が覆われた。これらの析出物は、好ましくは、ラーベス相の挙動と同じように、合金粒界を装飾することが発見されたが、Nb-0.8合金の粒子の中にも発見された。
【0079】
結論
RE添加物が、合金の炭素の含有量と平衡したとき、すなわち、REがわずかに過剰であるときに、最も優れた耐酸化性が達成されることが示された。炭素に関連してREが不足することにより、合金の表面近辺でクロムリッチ炭化物が形成されることになり、結果的に酸化性が貧相となり、点食耐性が低下する。さらに、REを過剰にドーピングすると、金属間化合物又はラーベス相が形成され、これによっても合金の耐酸化性が減少する。
図1
図2
図3
図4
図5