(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】エキスパンションジョイント装置
(51)【国際特許分類】
E04B 1/68 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
E04B1/68 100A
(21)【出願番号】P 2018077691
(22)【出願日】2018-04-13
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000177139
【氏名又は名称】三洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【氏名又は名称】永井 義久
(74)【代理人】
【識別番号】100133145
【氏名又は名称】湯浅 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100142778
【氏名又は名称】加藤 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100176795
【氏名又は名称】永井 望
(72)【発明者】
【氏名】本間 誠士
【審査官】新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-286375(JP,A)
【文献】特開2006-152749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隙を隔てて隣接する躯体同士を継ぐエキスパンションジョイント装置であって、
上記両躯体の一方側及び他方側にそれぞれ取付けられる保持材と、これら両保持材間を連結し、上記両躯体間の間隙を覆うプレート材とを有し、
上記保持材は、上記躯体の上部に固定される平坦な基板部、及び当該基板部の上記間隙側の端部に上方に立設して設けられる受け片部を有する基礎部材と、上記基礎部材の上部を覆う笠木部材と、上記基礎部材の基板部の上部に設けた繋着部と上記プレート材の側端部との間を連結する線材とを具備し、
上記プレート材の左右の各側端部を、それぞれ上記各保持材の上記基礎部材と上記笠木部材との間に嵌めて左右移動可能に配置し、且つ上記線材が張ったときの長さを、上記プレート材の側端部が上記基礎部材の上記受け片部から外れない範囲としたことを特徴とするエキスパンションジョイント装置。
【請求項2】
上記各基礎部材の基板部の中央部近傍を、止着具を用いて上記躯体の上部に固定し、当該止着具と上記プレート材の側端部との間を、それぞれ上記線材を用いて連結したことを特徴とする請求項1に記載のエキスパンションジョイント装置。
【請求項3】
一方側の上記躯体上の上記保持材に設けた上記線材の強度と、他方側の上記躯体上の上記保持材に設けた上記線材の強度との間に、強度差を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のエキスパンションジョイント装置。
【請求項4】
上記笠木部材の上記間隙側の端部の下部にシール材を取り付け、このシール材を上記プレート材の上部に弾性押圧させ、当該プレート材との間を密閉したことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のエキスパンションジョイント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体同士の間隙を継ぐエキスパンションジョイント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物等の構造物の躯体同士の間隙を、地震等の変動に追従して継ぐエキスパンションジョイント装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1の躯体継手装置は、
図6に示すように、間隙50を介して隣接する躯体52上にそれぞれ固着した受材54と、受材54上に固定したカバー板56と、受材54上にこれらを跨いで配設したカバー板58とから構成され、受材54の両端縁に沿って支持壁部59,60を立設し、支持壁部60の内側に支持壁部61を並設して嵌合溝部62を形成し、支持壁部61の上端縁部にビス受片部64を張設してカバー板56を固定することにより、嵌合固定方式また皿ビス固定方式の何れによってもカバー板56を固定支持し得るというものである。
【0004】
特許文献2に記載の伸縮継手装置は、一対の躯体間の間隙を覆うカバー体と、カバー体の両端部を躯体に連結するための旋回部材と、旋回部材の所定角度位置を越える旋回動を阻止する旋回阻止部材とを備え、躯体が近接方向に変位すると、旋回阻止部材によって旋回部材の所定角度位置を越える旋回動が阻止され、旋回部材に対してカバー体の両端部が旋回され、一方、躯体が離隔方向に変位すると、躯体に対して旋回部材が旋回され、これによって旋回部材は躯体間の間隙に向けて旋回され、小型にもかかわらず一対の躯体の大きな変位をも吸収することができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-265577号公報
【文献】特開平11-124915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、上記特許文献1に記載の躯体継手装置は、躯体変動による遠離方向の移動によっては、カバー板58が受材54の支持壁部59から外れて周辺部を破損し或いはカバー板が落下するという問題がある。また、特許文献2の伸縮継手装置は、リンク機構等が必要なため構造が複雑であり施工にも手間がかかるという問題がある。
【0007】
また、本出願人においても、
図7に示す社内試験により、躯体70間が上下左右等に変位し、躯体同士の間隙72が拡大したときのエキスパンションジョイント装置の状態を確認した。
この試験によれば、上記間隙72の変位が所定範囲内では、プレート材74が保持材76から外れないが(同図(a))、変位が拡大するとプレート材74が保持材76から外れかける状態となり(同図(b))、さらに変位が拡大するとプレート材74が保持材76から完全に外れてしまう(同図(c))。このため、間隙72の変位に対する可動量の確保が不十分で適応性を欠き、またプレート材74の外れにより、プレート材74が周囲の部材、躯体等を損傷させ、或いは落下して破損するという問題が確認されている。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、適応性、安全性に優れるとともに、構造が簡単で施工性にも優れたエキスパンションジョイント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の技術的課題を解決するため、本発明は
図1等に示すように、所定の間隙3を隔てて隣接する躯体4,4同士を継ぐエキスパンションジョイント装置であって、上記両躯体4,4の一方側及び他方側にそれぞれ取付けられる保持材6,6と、これら両保持材間を連結し、上記両躯体間の間隙3を覆うプレート材8とを有し、上記保持材6は、上記躯体4の上部に固定される平坦な基板部16、及び当該基板部16の上記間隙3側の端部に上方に立設して設けられる受け片部18を有する基礎部材12と、上記基礎部材12の上部を覆う笠木部材14と、上記基礎部材12の基板部16の上部に設けた繋着部11と上記プレート材8の側端部9との間を連結する線材10とを具備し、上記プレート材8の左右の各側端部9を、それぞれ上記各保持材6の上記基礎部材12と上記笠木部材14との間に嵌めて左右移動可能に配置し、且つ上記線材10が張ったときの長さを、上記プレート材8の側端部9が上記基礎部材12の上記受け片部18から外れない範囲とした構成である。
【0010】
本発明に係るエキスパンションジョイント装置は、上記各基礎部材12の基板部16の中央部近傍を、止着具22を用いて上記躯体4の上部に固定し、当該止着具22と上記プレート材8の側端部9との間を、それぞれ上記線材10を用いて連結した構成である。
【0011】
また、本発明に係るエキスパンションジョイント装置は、一方側の上記躯体4上の上記保持材6に設けた上記線材10の強度と、他方側の上記躯体4上の上記保持材6に設けた上記線材10の強度との間に、強度差を設けた構成である。
【0012】
本発明に係るエキスパンションジョイント装置は、上記笠木部材14の上記間隙3側の端部の下部にシール材24を取り付け、このシール材24を上記プレート材8の上部に弾性押圧させ、当該プレート材8との間を密閉した構成である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るエキスパンションジョイント装置によれば、両躯体の一方側及び他方側にそれぞれ取付けられる保持材と、これら両保持材間を連結するプレート材とを有し、保持材は基板部及び受け片部を有する基礎部材と、基礎部材の上部を覆う笠木部材と、基板部に設けた繋着部とプレート材とを連結する線材とを具備し、プレート材を左右移動可能に配置し、且つ線材が張ったときの長さをプレート材の側端部が受け片部から外れない範囲とした構成を採用したから、プレート材が保持材から外れることが防止され、これにより躯体間の間隙の拡縮があっても、広い範囲でプレート材の可動量が確保され、このプレート材が保持されることから適応性に優れ、併せて周辺部位の損傷及びプレート材の落下による破損等が防止されて安全性にも優れ、また構造が簡単でかつ取り付け作業も容易であることから施工性にも優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係り、エキスパンションジョイント装置を用いた躯体間の継ぎ構造を示す図である。
【
図2】実施の形態に係るエキスパンションジョイント装置の分解図である。
【
図3】実施の形態に係るエキスパンションジョイント装置の平面図である。
【
図4】実施の形態に係るエキスパンションジョイント装置の、(a)は正常時の線材の状態を示す側面図、(b)は躯体同士の間隙が開いたときの線材の状態を示す側面図である。
【
図5】実施の形態に係るエキスパンションジョイント装置の(a)は正常時の側面図、(b)は躯体同士の間隙が拡大したときの側面図、(c)はさらに間隙が拡大したときの側面図である。
【
図7】社内試験に基づき、躯体間の変位に伴うエキスパンションジョイント装置の状態を示す図(a)(b)(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施の形態に係るエキスパンションジョイント装置2及び躯体4,4間の継手構造を示したものである。このエキスパンションジョイント装置2は、躯体4,4同士の間隙3を継ぐ継手装置である。
上記躯体4は、隣接する各建築物等の構造体であり、一対の躯体4,4同士が所定の間隔(数十cm程度)の間隙3を隔てる箇所に、当該間隙3を覆う形態で上記エキスパンションジョイント装置2を配置する。通常、両躯体4,4間は、各躯体4の壁面が向い合って構成されており、この場合、躯体4,4同士の間隙3は壁面間に間隙を形成することにもなる。
【0016】
通常、躯体4,4同士は、一定幅の間隙3を隔てて、この間隙3に沿った所定の長さの奥行(数mから数十m)を有する。また、躯体4,4の上部には、それぞれ防水用のカバー材5が各躯体4,4の上部を覆う状態で取り付けられている。
上記エキスパンションジョイント装置2は、上記間隙3近傍を覆う範囲の幅で、かつ間隙3の長尺(奥行)方向の長さの範囲を覆う状態で配置される。
エキスパンションジョイント装置2は、アルミニウム材、ステンレス材、鋼材等の金属材料が用いられる。ここでは、アルミニウムの押し出し成形品を用いている。
【0017】
上記エキスパンションジョイント装置2は、保持材6,6、プレート材8及びこのプレート材8の落下を防止する線材10,10等からなる。エキスパンションジョイント装置2は長尺材であり、保持材6,6とプレート材8とは略同じ長さである。
保持材6,6は、両躯体4,4のそれぞれに取り付けられ、互いに対称な形態で配置される。プレート材8は、両保持材6,6間を跨ぎかつ連結する形態で配置され、両躯体4,4間の間隙3を覆う。
【0018】
上記保持材6は、躯体4に固定される基礎部材12、及びこの基礎部材12の上部を覆う笠木部材14を有している。これら基礎部材12及び笠木部材14は、何れも断面一定の長尺材である。また、保持材6の内側(間隙3側)の基礎部材12及び笠木部材14間に、プレート材8の側端部9を嵌めこれを保持する。
【0019】
図2に示すように、上記基礎部材12は、平坦な基板部16の内側(間隙3側)の端部には、上方に立設した受け片部18が形成され、外側(反間隙3側)の端部には、上方に立設した保持部20が形成され、この保持部20の上部には平板状の保持片19が設けられている。また、保持片19の中央部には、螺子孔21が長尺方向に所定の間隔をおいて設けられている。
また、基礎部材12の基板部16の中央部近傍には、止着具22の螺設用の孔部17が設けられている。基礎部材12は、止着具22を用いて躯体4の上部に固定される。そして、止着具22の上部(頭部とネジ部間)には、線材10の一端部が繋がれる。
止着具22としては、コンクリート用ネジ、アンカーボルト等が用いられる。
【0020】
上記笠木部材14は、平坦な平板部15を有する板状であり、内側の端部の下部には、ゴム材、合成樹脂材等からなるシール材24が取り付けられている。また、笠木部材14の外側端部寄りの位置には、下方に突出した位置決め片25が形成され、外側端部には下方に屈曲した止め片26が形成されている。笠木部材14の外側端部近傍には、長尺方向に所定間隔をおいて孔部27が設けられている。
上記基礎部材12の上部に、笠木部材14を配置した状態では、笠木部材14の孔部27と基礎部材12の螺子孔21の両孔は位置的に合致(貫通)し、両者をビス23で固定することができる。
【0021】
また、基礎部材12の上部に笠木部材14を配置したとき、笠木部材14の位置決め片25の外側に基礎部材12の保持片19が位置し、また笠木部材14の内側の端部が基礎部材12の受け片部18の上部に位置する。
なお、笠木部材14は可撓性を有しており、その外側端部近傍を、ビス23を用いて基礎部材12に締結した状態では、内側部位及び端部は上下に弾性屈曲可能である。またこのとき、笠木部材14の端部のシール材24が、下部に配置されるプレート材8の上部を軽く弾性押圧し、密閉性を高めている。
【0022】
上記プレート材8は、一定幅の長尺材であり長方形状の板材である。プレート材8の両側端部9,9(長辺部)には、それぞれ下方に突出した端部片30が、側端部9に沿って形成されている。この端部片30は、基礎部材12の受け片部18と係合可能である。また、プレート材8の下部の中央には、長尺方向に向かう突条のリブ片33が形成され、プレート材8を補強している。
さらに、プレート材8の側端部9の近傍には、線材10の他端部を係合、係止させ、この線材10をプレート材8に繋ぐための孔部28が設けられている。当該孔部28は、両側端部9,9に沿ってそれぞれ1箇所或いは複数箇所設けられている。
【0023】
図3に示すように、上記線材10は、保持材6の基礎部材12の基板部16を固定する止着具22を利用し、この止着具22に線材10の一端部を取り付ける。
線材10の一端部は、線材10をループ状に丸く(止着具22を挿通可能な大きさ)形成し、その端部とループ部位31の根元部位の線材10とを、固定具29を用いて両線材33同士を締め付け、両線材10同士を一体に連結して固定する。線材10は、ループ部位31を止着具22の頭部の下部に嵌め、止着具22と繋ぐ。
【0024】
尚、ここでは、上記止着具22を、線材10の一端部を繋ぐための繋着部11として利用しているが、この繋着部11は、他に、例えば基礎部材12の基板部16の他の部位にピン、ネジ等を打ち込み、これらを繋着部11として用い、線材10の一端部を繋ぐようにしてもよい。また、基礎部材12の基板部16の表面に鉤状片等を取り付け(溶着等)、これを繋着部11として用い、これに線材10を繋ぐようにしても良い。
また、繋着部11の位置は、基板部16のどの位置でも良いが、プレート材8が左右スライドする移動距離をある程度確保し、躯体4,4同士の大きな変位にも追従させるためには、基板部16の中心部の位置、或いは中心部より外側(反間隙3側)の位置が好ましい。
上記線材10は、金属製のワイヤー或いは合成樹脂製のロープ等が用いられる。
【0025】
そして、予め平座金34を止着具22に嵌め、さらに線材10の上記ループ部位31を止着具22に嵌め、この状態で止着具22を躯体4に螺設する。こうして、線材10の一端側を止着具22に取り付けて繋ぐ。
また、上記線材10の他端側は、プレート材8の孔部28に係合、係止させ、この孔部28に取り付けて繋ぐようにする。線材10を孔部28を利用して繋ぐ場合、例えば、線材10を孔部28に挿通させた後抜けないよう、線材10の端部にT状の金具を取り付け、或いは線材10の端部を結ぶようにしてもよい。また他の繋ぎ方として、孔部28を挿通させた線材10の端部と、挿通させていない線材10の部位とを、固定具29等を用いて一体に連結固定してもよい。
【0026】
そして、プレート材8の側端部は、保持材6の内部として、基礎部材12と笠木部材14との間を左右にスライド移動が可能であり、地震等による躯体4,4同士間の間隙3の上下或いは水平間隔の変化に追従する。この際、上記線材10により、プレート材8の移動範囲が制限され、プレート材8が保持材6から外れることを防止する。
【0027】
ここで、
図4に基づき、上記線材10の長さについて説明する。
同図(a)は、通常の躯体4,4同士の変位がない状態を示している。この状態では、止着具22とプレート材8の側端部9とを繋ぐ線材10は、緩んだ状態である。
そして、同図(b)に示すように、地震の揺れ等により躯体4,4同士が変位したとき、プレート材8が止着具22から離れる方向に移動する。
【0028】
この場合、線材10が張った状態において、プレート材8の側端部9が保持材6の内部に位置し、これから外れない長さに調整している。つまりこの状態では、プレート材8の側端部9に設けた端部片30は基礎部材12の受け片部18の方へ移動し、この端部片30が上記受け片部18と係合し、同時に線材10が張った状態となり、プレート材8の移動が停止する。
結局、線材10の長さは、基礎部材12の止着具22の位置から受け片部18までの長さとすれば良いことになる。また、各躯体4,4上の保持材6には、それぞれ同じ長さの線材10を取り付ける。
【0029】
上記エキスパンションジョイント装置2は、躯体4,4間の間隙3の幅、及び躯体4,4間の奥行の長さ等に応じた大きさのものを準備する。また、これは主にプレート材8の大きさを変えることにより調整が可能である。
上記準備の際、過去の変位量等から躯体4,4同士の変位の最大量を想定し、上記エキスパンションジョイント装置2の大きさを決める際の判断材料とすれば良い。また、躯体4,4間の奥行長が長い場合には、所定(数m)の長さのエキスパンションジョイント装置2を複数用い、これらを直列に配置する。
【0030】
エキスパンションジョイント装置2を取り付ける躯体4,4には、保持材6,6を配置する外側に、予め、保持材6に沿う状態でシール部材32を接着等により取り付けておく。このシール部材32は、保持材6の基礎部材12と笠木部材14間を密閉し、併せて躯体4と基礎部材12間を密閉する。
上記シール部材32は、断面矩形状の長尺材であり、合成樹脂或いはゴム等からなる。
【0031】
さて、エキスパンションジョイント装置2を躯体4,4間に取り付ける場合、先ず両躯体4,4の一方側及び他方側のそれぞれに、保持材6の基礎部材12を取り付ける。基礎部材12は、受け片部18を内側(間隙3側)に向け、止着具22を用いてその基板部16を躯体4の上部(カバー材5の上部)に固定する。止着具22は、基板部16の孔部17から躯体4に止着する。
【0032】
この場合、止着具22の取り付け箇所は、エキスパンションジョイント装置2の長尺方向に長さに応じて、1乃至複数箇所設ける。各止着具22は、平座金34及び線材10のループ部位31を先に嵌めた状態で、躯体4に捩じ込み或いは埋設し、止着具22を躯体4に固定する。これで、保持材6の基礎部材12が、それぞれ躯体4,4の上部に固定される。また、上記止着具22の固定にともない、線材10の一端部がこの止着具22に取り付けられ繋がれる。
【0033】
次に、各躯体4,4の上部に取り付けた基礎部材12,12同士の間に、これらを跨ぐ状態でプレート材8を被せ、両躯体4,4間の間隙3を覆う。プレート材8は側端部9を含む一部が、基礎部材12の上部の全幅の3分の1程度の範囲(W)を、覆う大きさに形成されている。このため、プレート材8は躯体4,4間の間隙3を覆い、かつプレート材8の左右の側端部9,9が、各基礎部材12,12の上部の一部を覆う状態に配置される。
【0034】
そして、各止着具22に取り付けた線材10の他端部を、プレート材8の側端部9近傍の孔部28に係合係止させ、プレート材8に繋ぐ。
ここで、線材10の長さを、プレート材8が移動しその端部片30が受け片部18と係合したとき、線材10が張ってプレート材8の移動が停止するよう調整する。このため、プレート材8は、躯体4,4同士が変位したとき、プレート材8の端部片30が基礎部材12の受け片部18との間(上記範囲(W))をスライドし、自在に移動できる。
【0035】
さらに、基礎部材12の上部に笠木部材14を被せ、笠木部材14の孔部27から基礎部材12の螺子孔21にかけてビス23を螺設し、両部材の外側(反間隙3側)端部同士を固定する。またこの状態で、笠木部材14の内側端部のシール材24により、笠木部材14とプレート材8間がシール(密閉)される。これにより、プレート材8から保持材6の内部への雨水等の浸入を防止する。
【0036】
なお、保持材6の基礎部材12は止着具22以外に、接着材或いは一部の埋設等によっても躯体4に固定することが可能である。この場合、上記線材10の一端部は、基礎部材12の基板部16にピン等を打ち込みこれに繋ぐことも可能である。
【0037】
ここで、
図5に示すように、地震等の振動により、躯体4,4同士がそれぞれ上下左右或いは間隙3が広がるように移動し変位した場合の、エキスパンションジョイント装置2の作用について説明する。
図5(a)は、通常状態のエキスパンションジョイント装置2の形態を示すものである。この場合、プレート材8の左右の側端部9近傍は保持材6の内部に収納された状態であり、プレート材8は躯体4,4間の間隙3を覆っている。また、保持材6内の線材10は緩んだ状態である。
なお、ここではプレート材8の中心は間隙3の中央部に位置しているが、左右の保持材6内の各線材10には緩みがあるため、プレート材8の位置は左右に偏りがあっても特に差支えはない。
【0038】
そして、同図(b)(c)は、地震等により躯体4,4同士の間が上下左右等に変位し、躯体4,4間の間隙3等が拡大した状態を示しており、同図(b)は中程度の変位、同図(c)はさらに大きな変位の状態を示している。
同図(b)に示す変位では、例えば、図中右側の躯体4が、外側(反間隙3側)斜め下方に移動すると、上部の保持材6も斜め下方に移動し、この結果、プレート材8が斜め右下に傾斜し、同時に保持材6がプレート材8から離れる方向に移動する。
そして、躯体4,4の変位が所定量に至ると、プレート材8の右側の端部片30が基礎部材12の受け片部18と係合し、この状態では線材10が張った状態となり、このまま停止する。
【0039】
一方、図中左側の躯体4の保持材6については、プレート材8が傾斜したことから、プレート材8の側端部9が上方に移動し、これにより笠木部材14の右側部位が上方に押し上げられた状態となっている。
また、この中程度の変位では、プレート材8の左側の端部片30が保持材6の内部を移動することもなく、保持材6内の線材10は緩んだ状態のままである。
【0040】
したがって、上記躯体4,4の変位に対しては、プレート材8の右側の端部片30は線材10によって保持材6からの外れが防止され、またプレート材8の左側の端部片30は保持材6の内部に留まっている。これにより、躯体4,4間の間隙3の拡縮があっても、これに応じてプレート材8が可動し保持されて十分適応し、併せてプレート材8の外れが防げ、周囲の部材、躯体等の損傷が防止され、或いはプレート材8の落下、破損が防止され、再利用も可能となる。
【0041】
そして、躯体4,4の変位が、元の状態に復帰すれば、エキスパンションジョイント装置2も
図5(a)の状態に回復する。
なお、地震等により躯体4,4同士の間が変位し、躯体4,4間の間隔が狭くなった場合には、プレート材8の左右の側端部9がそれぞれ保持材6の奥方向(外側)に押し込まれる状態となるため、プレート材8の外れ等の問題はない。
【0042】
同図(c)は、地震等により、さらに躯体4,4間の間隙3が拡大した状態を示している。このときには、例えば、図中右側の躯体4がさらに(同図(b)と比べて)外側斜め下方に移動し、上部の保持材6が外側に移動する。
この場合、プレート材8の右側の端部片30は、線材10(張り)により基礎部材12の受け片部18と係合した状態を維持するが、このため、プレート材8は右方向に引っ張られ、プレート材8は左側の保持材6から離れる方向(右方向)に移動する。
【0043】
そして、変位が所定量に至ると、プレート材8の左側の端部片30が基礎部材12の受け片部18と係合し、この状態では線材10が張った状態となる。
ここで、躯体4,4同士の変位がこの状態で留まれば、プレート材8の左右の各端部片30がそれぞれ基礎部材12の各受け片部18と係合し、この状態では各線材10が張った状態となり、プレート材8の移動も停止する。
【0044】
したがって、このような躯体4,4の変位に対しても、線材10によりプレート材8は左右の保持材6に保持された状態が維持され、保持材6から外れることはない。これにより、躯体4,4同士(対向する壁面間)の間隙3の拡縮があっても、広い範囲でプレート材8の各端部片30,30が基礎部材12内を可動し、外れることがないため、プレート材8の保持が広く行なえて設計可動量が十分に確保でき、併せてプレート材8の外れが防げ、周囲の部材、躯体等の損傷、プレート材8の落下、破損が防止され、再利用も可能となる。
【0045】
そして、躯体4,4の変位が、元の状態に復帰すれば、エキスパンションジョイント装置2も
図5(a)の状態に回復する。
上記のように、
図5(a)の躯体4,4同士の通常の状態から、同図(b)(c)の躯体4,4同士が変位した状態(想定内)における、躯体4,4同士の変位に対しては、エキスパンションジョイント装置2はこれら変位に順応し、プレート材8が保持材6から外れることはない。
【0046】
次に、躯体4,4同士の変位が、想定外となった場合、上記エキスパンションジョイント装置2において、プレート材8を繋いだ線材10が張力に耐えられず破断し保持材6から外れる可能性がある。
このような、想定外の躯体4,4同士の変位が発生する可能性が考えられる場合には、エキスパンションジョイント装置について、次の手段を講じる。
【0047】
第一の手段として、各躯体4,4に取り付けた左右の各保持材6について、一方の保持材6の線材10の強度を他方保持材の線材10の強度より強いものを使用する。つまり、左右の各保持材6に用いる線材10の強度に、強度差を設ける。例えば、一方の保持材6には1本のワイヤーからなる線材10を用い、他方の保持材6には、ワイヤーを2本束ねて強度を高めた線材10を用いる。なお、この場合、他の構成及び作用等は、上記エキスパンションジョイント装置2と変わらない。
【0048】
この形態の線材10を用いたエキスパンションジョイント装置においては、もし躯体4,4同士の変位が、想定した範囲外の変位となった場合、左右の各保持材6内の線材10は、それぞれ張った状態に至りさらに変位が拡大する。そして、この場合には、強度の弱い方の線材10が張力に耐えられず先に破断し、この線材10に繋がれたプレート材8の側端部9は保持材6から外れる。
【0049】
これに対して、強度の強い線材10を用いた保持材6の線材10は、張力から解放され、依然としてプレート材8の側端部9は線材10と繋がれたままの状態である。これにより、強度の強い線材10によりプレート材8は支持され、下方に落下することはない。このため、周囲の部材、躯体等の損傷も軽減され、プレート材8の破損等も防止され再利用も可能となる。
【0050】
なお、各躯体4,4に取り付けた左右の各保持材6について、一方の保持材6には線材10を取り付け、他方の保持材6については線材10を取り付けない手段もある。
例えば、
図5(a)を参考にした場合、図中左側の保持材6に線材10を取り付け、右側の保持材6には線材10を取り付けない形態とする。
この場合、躯体4,4の変位に対して、仮に右側の保持材6からプレート材8が外れたとしても、左側の保持材6は線材10によりプレート材8を保持する。このため、プレート材8の落下が防げ、周囲の部材、躯体等の損傷も軽減され、プレート材8の破損等も防止され再利用も可能となる。
【0051】
また、第二の手段として、線材10に用いる材料として、弾性を有する材料、例えばゴム材、或いは合成樹脂製の材料を用いる。なお、この場合、他の構成及び作用等は、上記エキスパンションジョイント装置2と変わらない。
この弾性のある線材10を用いる場合、例えば、線材10の長さは、躯体4,4同士に変位のない通常の状態において、線材10に緩みがない状態、或いは少し張力(伸び)が加わるよう調節する。
【0052】
これにより、地震等により躯体4,4同士の間が上下左右等に変位し、躯体4,4間の間隙3が広くなった場合には、各躯体4,4上部の保持材6,6も移動する。この結果、プレート材8の端部片30が、相対的に保持材6の基礎部材12の受け片部18の方へ移動し、併せて各線材10が伸長する。
【0053】
そして、左右の各保持材6,6の各線材10に対して、それぞれ同程度の張力が加わり、左右の各保持材6,6の線材10(弾性)に繋がれたプレート材8も、左右にバランスよく移動する。このため、想定内の最大変位の状態では、プレート材8の左右の各端部片30,30がそれぞれ基礎部材12の各受け片部18と係合し、各線材10が同程度の張力で張った状態となる。このように、プレート材8は容易に保持材6から外れることがない。
また、躯体4,4間に想定外の変位が生じても、線材10の弾性力によりある程度はプレート材8を保持することができる。このため、プレート材8の落下が防げ、周囲の部材、躯体等の損傷も軽減され、プレート材8の破損等も防止され再利用も可能となる。
【0054】
従って、上記実施の形態に係るエキスパンションジョイント装置によれば、躯体の変位によってプレート材が保持材から外れることが防げ、間隙の広い範囲でプレート材8の保持が行なえ、併せて周囲の部材、躯体等の損傷が防止されまたプレート材自体の落下が防げて安全性に優れ、プレート材自体の破損等も防止されて再利用にも寄与し、加えて部品点数も少なくまた構造も簡単であるため経済性に優れ、かつ取り付け作用も容易であることから施工性にも優れる。
【符号の説明】
【0055】
2 エキスパンションジョイント装置
3 間隙
4 躯体
6 保持材
8 プレート材
9 側端部
10 線材
11 繋着部
12 基礎部材
14 笠木部材
16 基板部
18 受け片部
22 止着具
24 シール材