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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20220203BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220203BHJP
【FI】
H02M3/155 K
H02M3/155 H
H02M7/48 F
H02M7/48 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018132216
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2020010569
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-10-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石垣 卓也
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 正樹
(72)【発明者】
【氏名】青山 智之
(72)【発明者】
【氏名】上井 雄介
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-076986(JP,A)
【文献】特開2016-013022(JP,A)
【文献】特開2010-279087(JP,A)
【文献】特開2017-163643(JP,A)
【文献】特開2012-186905(JP,A)
【文献】特開2009-065758(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0218111(US,A1)
【文献】特開2003-324989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00-3/44
H02M 7/42-7/98
H02P 5/00
H02P 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1のスイッチング素子を含み、モータに電力を供給するアンプ回路と、
前記複数の第1のスイッチング素子をスイッチング制御するアンプ制御部と、
リアクトルおよび第2のスイッチング素子を含み、入力電圧を、前記アンプ回路の電源電圧となる出力電圧に変換するパワーユニット回路と、
前記第2のスイッチング素子をスイッチング制御するパワーユニット制御部と、
を有する電力変換装置であって、
前記パワーユニット制御部は、前記モータの角速度およびトルク値と、前記パワーユニット回路の前記入力電圧または前記出力電圧の値とをパラメータに含む演算式によって前記パワーユニット回路に対する電流指令値を算出する電流指令値演算部を有し、
前記電力変換装置は、
前記アンプ制御部が搭載される第1の部品と、
前記パワーユニット制御部が搭載される第2の部品と、
前記第1の部品と前記第2の部品との間に設けられる通信経路と、
を有し、
前記アンプ制御部は、前記モータの角速度とトルク値の積算値を算出し、前記積算値を前記アンプ回路の電源電圧の値で除算した値を、前記通信経路を介して前記パワーユニット制御部へ送信する、
電力変換装置。
【請求項2】
複数の第1のスイッチング素子を含み、モータに電力を供給するアンプ回路と、
前記複数の第1のスイッチング素子をスイッチング制御するアンプ制御部と、
リアクトルおよび第2のスイッチング素子を含み、入力電圧を、前記アンプ回路の電源電圧となる出力電圧に変換するパワーユニット回路と、
前記第2のスイッチング素子をスイッチング制御するパワーユニット制御部と、
を有する電力変換装置であって、
前記パワーユニット制御部は、前記モータの角速度およびトルク値と、前記パワーユニット回路の前記入力電圧または前記出力電圧の値とをパラメータに含む演算式によって前記パワーユニット回路に対する電流指令値を算出する電流指令値演算部を有し、
前記電力変換装置は、
前記アンプ制御部が搭載される第1の部品と、
前記パワーユニット制御部が搭載される第2の部品と、
前記第1の部品と前記第2の部品との間に設けられる通信経路と、
を有し、
前記アンプ回路および前記アンプ制御部のそれぞれをN(Nは2以上の整数)個有し、
前記パワーユニット回路は、前記N個のアンプ回路に対して共通に設けられ、
前記N個のアンプ制御部のいずれか一つは、前記モータの角速度とトルク値の積算値を算出し、前記積算値にNを乗算した値を前記通信経路を介して前記パワーユニット制御部へ送信する、
電力変換装置。
【請求項3】
請求項1記載の電力変換装置において、
前記パワーユニット制御部は、
予め定めたリファレンス電圧値と前記パワーユニット回路の前記出力電圧の値との電圧誤差に基づき、前記電圧誤差をゼロに近づけるリファレンス電流補正値を算出する電圧制御部と、
前記電流指令値演算部からの前記電流指令値と前記リアクトルの電流値との電流誤差に基づき、前記電流誤差をゼロに近づける制御値を算出し、前記制御値に基づいて前記第2のスイッチング素子をスイッチング制御する電流制御部と、
を有し、
前記電流指令値演算部の前記演算式は、さらに、前記リファレンス電流補正値をパラメータに含む、
電力変換装置。
【請求項4】
請求項記載の電力変換装置において、
前記電流指令値演算部は、前記電流指令値を“Iref”、前記モータの角速度およびトルク値をそれぞれ“ω”および“T”、前記パワーユニット回路の前記入力電圧または前記出力電圧の値を“V”、前記リファレンス電流補正値を“ΔIref”、予め定めた係数を“X”(0≦X≦1)として、“Iref={(ω×T)/V}×X+ΔIref”を算出する、
電力変換装置。
【請求項5】
請求項記載の電力変換装置において、
前記パワーユニット回路は、昇圧コンバータであり、
前記電流指令値演算部の前記演算式は、前記パワーユニット回路の前記入力電圧の値をパラメータに含む、
電力変換装置。
【請求項6】
請求項記載の電力変換装置において、
前記パワーユニット回路は、降圧コンバータであり、
前記電流指令値演算部の前記演算式は、前記パワーユニット回路の前記出力電圧の値をパラメータに含む、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、例えば、モータに電力を供給する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータを制御するインバータ回路と、インバータ回路に電源を供給する昇圧コンバータとを有するモータ制御装置が示される。当該モータ制御装置では、モータの通電制御に伴う処理負荷を低減するため、トルク指令演算部からのトルク指令と、逆起電圧演算部からの逆起電圧とを入力として、所定マップに基づき昇圧電圧指令を算出する昇圧電圧指令演算部が設けられる。所定マップでは、予め、モータが最大効率となるように、トルク指令と逆起電圧と昇圧電圧指令との関係が定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-65758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、産業用機器や自動車用機器や電車用機器やエレベータ用機器等では、入力電圧を負荷(具体的にはモータ)が必要とする電圧に変換する電力変換装置が用いられる。このような電力変換装置は、例えば、入力電圧を直流電源電圧に変換するパワーユニット回路と、当該直流電源電圧を用いてモータに電力を供給するアンプ回路とを備える。パワーユニット回路やアンプ回路は、高効率化や低コスト化等のため、通常、スイッチング素子を用いたスイッチング回路で構成される。
【0005】
ここで、モータの定常回転時には、アンプ回路は、モータに安定した電力を供給し、パワーユニット回路も、アンプ回路に安定した直流電源電圧を出力する。しかし、例えば、モータの起動時や高加圧開始時には、負荷が急激に重くなるため、パワーユニット回路からの直流電源電圧に大きな電圧ドロップが生じる恐れがある。パワーユニット回路の制御帯域を高めると、このような負荷変動に対して高速に応答することが可能になるが、通常、制御帯域は、ある程度のレベルまでしか高められない。
【0006】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、負荷変動に対して高速に応答することが可能な電力変換装置を提供することにある。
【0007】
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される実施の形態のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0009】
本発明の代表的な実施の形態による電力変換装置は、アンプ回路と、アンプ制御部と、パワーユニット回路と、パワーユニット制御部とを有する。アンプ回路は、複数の第1のスイッチング素子を含み、モータに電力を供給する。アンプ制御部は、複数の第1のスイッチング素子をスイッチング制御する。パワーユニット回路は、リアクトルおよび第2のスイッチング素子を含み、入力電圧を、アンプ回路の電源電圧となる出力電圧に変換する。パワーユニット制御部は、電流指令値演算部を備え、第2のスイッチング素子をスイッチング制御する。電流指令値演算部は、モータの角速度およびトルク値と、パワーユニット回路の入力電圧または出力電圧の値とをパラメータに含む演算式によってパワーユニット回路に対する電流指令値を算出する。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すると、負荷変動に対して高速に応答することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1による電力変換装置の構成例を示す概略図である。
図2図1の電力変換装置における主要部の動作例を示す波形図である。
図3】本発明の実施の形態2による電力変換装置の構成例を示す概略図である。
図4】本発明の実施の形態3による電力変換装置の構成例を示す概略図である。
図5】本発明の実施の形態4による電力変換装置の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0013】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
(実施の形態1)
《電力変換装置の概略》
図1は、本発明の実施の形態1による電力変換装置の構成例を示す概略図である。図1に示す電力変換装置1aは、パワーユニット回路2aと、アンプ回路3と、パワーユニット制御部4aと、アンプ制御部5aとを備える。電力変換装置1aは、外部に設けられた入力電源101からの入力電圧Viを負荷(具体的にはモータ102)で必要とされる所定の電圧に変換し、変換した電圧をモータ102へ出力する。
【0016】
入力電源101の高電位側の端部は、パワーユニット回路2aの一方の入力端P1と接続され、入力電源101の低電位側の端部は、パワーユニット回路2aの他方の入力端N1と接続されている。パワーユニット回路2aの高電位側の端部は、アンプ回路3の一方の入力端P2と接続され、パワーユニット回路2aの低電位側の端部は、アンプ回路3の他方の入力端N2と接続されている。モータ102の端部は、アンプ回路3の出力端U1,V1,W1とそれぞれ接続されている。
【0017】
パワーユニット回路2aは、リアクトルLおよびスイッチング素子Q0aを含み、入力電圧Viを、アンプ回路3の電源電圧Vaとなる出力電圧Voに変換する。パワーユニット回路2aは、詳細には、入力コンデンサCiと、リアクトルLと、スイッチング素子Q0aと、ダイオードDと、出力コンデンサCoとを備えている。スイッチング素子Q0aは、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等である。
【0018】
入力コンデンサCiは、入力電源101から入力された電圧の平滑用コンデンサである。入力コンデンサCiの両端は、入力端P1,N1とそれぞれ接続され、入力電圧Viが印加されている。リアクトルL、スイッチング素子Q0aおよびダイオードDは、昇圧コンバータを構成する。パワーユニット回路2aは、パワーユニット制御部4aからのPWM信号PWMでスイッチング素子Q0aのゲートが駆動されることで、所望の出力電圧Voを出力コンデンサCoに印加する。
【0019】
アンプ回路3は、アンプ入力コンデンサCaと、複数のスイッチング素子Q1~Q6とを備え、モータ102に電力を供給する。複数のスイッチング素子Q1~Q6は、例えばIGBT等であり、3相インバータ回路を構成する。アンプ入力コンデンサCaには、パワーユニット回路2aの出力電圧Voが印加される。アンプ回路3は、当該アンプ入力コンデンサCaに印加される出力電圧Voを電源電圧Vaとして動作する。アンプ回路3は、アンプ制御部5aからの6本のPWM信号PWMaでスイッチング素子Q1~Q6のゲートがそれぞれ駆動されることで、モータ102に所望の電圧を印加する。その結果、モータ102の回転速度やトルク等が制御される。
【0020】
パワーユニット制御部4aは、例えば、マイクロコントローラ(マイコンと略す)等の部品に搭載され、パワーユニット回路2aのスイッチング素子Q0aをPWM信号PWMでスイッチング制御する。パワーユニット制御部4aは、詳細には、電圧制御部7と、電流フィードフォワード演算部(電流指令値演算部)8aと、電流制御部9とを備える。電圧制御部7には、パワーユニット回路2aの出力電圧Voの値と、予め定めた出力電圧Voの目標値であるリファレンス電圧値(電圧指令値)Vrefとが入力されている。
【0021】
リファレンス電圧値Vrefは、外部装置から入力されたものである。外部装置は、例えば、電力変換装置1aを有する装置内に設けられてもよいし、電力変換装置1aを有する装置の外部に設けられてもよい。電圧制御部7は、入力されたリファレンス電圧値Vrefと出力電圧Voの値との電圧誤差に基づき、例えばPI(比例・積分)制御等を用いて当該電圧誤差をゼロに近づけるリファレンス電流補正値ΔIrefを算出する。
【0022】
電流フィードフォワード演算部(電流指令値演算部)8aは、概略的には、モータ102の角速度ωおよびトルク値Tと、パワーユニット回路2aの入力電圧Viまたは出力電圧Voの値とをパラメータに含む演算式によってパワーユニット回路2aに対するリファレンス電流値(電流指令値)Irefを算出する。詳細は後述するが、電流フィードフォワード演算部8aは、例えば、式(1)によってリファレンス電流値Irefを算出する。“X”は、予め定めた補正割合係数(X:0≦X≦1)である。
Iref(t)={(ω(t)×T(t))/Vi(t)}×X+ΔIref(t) …(1)
【0023】
電流制御部9は、電流フィードフォワード演算部8aからのリファレンス電流値(電流指令値)Irefと、リアクトルLのリアクトル電流値ILとの電流誤差に基づき、例えばPI制御等を用いて当該電流誤差をゼロに近づける制御値(具体的にはデューティ値)を算出する。リアクトル電流値ILは、例えば、パワーユニット回路2aに電流センサを設けること等で検出される。そして、電流制御部9は、算出した制御値に基づいてPWM信号PWMを生成し、当該PWM信号PWMでパワーユニット回路2aのスイッチング素子Q0aをスイッチング制御する。
【0024】
アンプ制御部5aは、例えば、パワーユニット制御部4aとは別のマイコン等の部品に搭載され、アンプ回路3のスイッチング素子Q1~Q6をPWM信号PWMaでスイッチング制御する。アンプ制御部5aは、詳細には、状態量演算部6と、速度制御部10と、トルク制御部11と、駆動電流制御部12とを備えている。状態量演算部6は、アンプ回路3の電源電圧Vaの値と、モータ102の相電流値Iu,Iv,Iwと、モータ102の位置情報PSとを入力として、モータ102の角速度ω、トルク値Tおよび駆動電流値Imを算出する。相電流値Iu,Iv,Iwは、例えば、アンプ回路3に電流センサを設けること等で検出される。位置情報PSは、例えば、モータ102にホール素子、レゾルバ、ロータリエンコーダ等の角度センサを設けること等で検出される。
【0025】
速度制御部10は、別途設定された角速度指令値ωrefと状態量演算部6からの角速度ωとの速度誤差に基づき、例えば、PI制御等を用いて当該速度誤差をゼロに近づけるためのトルク指令値Trefを算出する。トルク制御部11は、トルク指令値Trefと状態量演算部6からのトルク値Tとのトルク誤差に基づき、例えば、PI制御等を用いて当該トルク誤差をゼロに近づけるための駆動電流指令値Irefmを算出する。
【0026】
駆動電流制御部12は、駆動電流指令値Irefmと状態量演算部6からの駆動電流値Imとの電流誤差に基づき、例えば、PI制御等を用いて当該電流誤差をゼロに近づけるための制御値(デューティ値)を算出する。そして、駆動電流制御部12は、算出した制御値に基づいてPWM信号PWMaを生成し、当該PWM信号PWMaでアンプ回路3のスイッチング素子Q1~Q6をスイッチング制御する。
【0027】
ここで、具体例として、アンプ制御部5aは、公知のベクトル制御を用いてモータ102を制御する。状態量演算部6は、uvw軸の相電流値Iu,Iv,Iwをdq軸に座標変換することで、駆動電流値Imであるd軸電流値(Id)およびq軸電流値(Iq)を算出する。また、状態量演算部6は、位置情報PSの微分演算によって角速度ωを算出し、例えば、式(2)によってトルク値Tを算出する。式(2)において、“Pn”は極対数であり、“Ψa”は永久磁石による電機子鎖交磁束の実効値であり、“Ld”および“Lq”は、それぞれ、d軸およびq軸インダクタンス値である。これらの値は、予め固定的に定められる。
T=Pn×{Ψa×Iq+(Ld-Lq)×Id×Iq} …(2)
【0028】
《電力変換装置の主要部の詳細動作》
図2は、図1の電力変換装置における主要部の動作例を示す波形図である。具体例として、図1のモータ102は、プレス機を駆動するサーボモータ等である。この場合、パワーユニット回路2aの入力電圧Viは、200~300V等であり、出力電圧Voは、300~400V等である。図2には、モータ102の起動時(例えば、プレス機を対象物に向けて移動させる期間)におけるモータ102の角速度ωおよびトルク値Tと、パワーユニット回路2aの出力電流Ioおよび出力電圧Voと、パワーユニット制御部4aのリファレンス電流値(電流指令値)Irefの波形例が示される。
【0029】
モータ102が時刻t1から時刻t2まで加速する際、角速度ωは徐々に上昇する。モータ102は、このような角速度ωを得るために必要なトルク(T)を出力する。モータ102の回転に必要な電力(すなわちモータ出力)は、“ω×T”で表される。時刻t1から時刻t2までの期間では、一定のトルク(T)で角速度ωが上昇しているため、モータ出力の変動(すなわち負荷変動)が生じている。この負荷変動に応じて、パワーユニット回路2aが本来出力すべき電力(Po0)は、式(3)で表され、パワーユニット回路2aが本来出力すべき出力電流(Io0)は、式(4)で表される。
Po0(t)=ω(t)×T(t) …(3)
Io0(t)=(ω(t)×T(t))/Vo(t) …(4)
【0030】
また、図1のような昇圧コンバータでは、リアクトル電流値ILと出力電流Io(Io0)の関係は、入力電圧Viと出力電圧Voが変動しない場合は式(5)で表される。よって、式(4)と式(5)から式(6)の関係が導き出される。
Vo(t)×Io0(t)=Vi(t)×IL(t) …(5)
IL(t)=(ω(t)×T(t))/Vi(t) …(6)
【0031】
式(1)に示した電流フィードフォワード演算部8aの演算式は、式(6)に基づくリアクトル電流(IL)(言い換えればフィードフォワード成分)に補正割合係数“X”(X:0≦X≦1)を乗算し、それに、電圧制御部7からのリファレンス電流補正値ΔIref(言い換えればフィードバック成分)を加算したものである。すなわち、式(1)の演算式は、所定のモータ出力を得るために必要とされるリアクトル電流値ILがフィードフォワードされたものである。
【0032】
このような電流フィードフォワード演算部(電流指令値演算部)8aを設けることで、リファレンス電流値Irefは、図2に示されるように、本来出力すべき出力電流(Io0)にほぼ等しい電流を指示するような波形となる。これに応じて、実際の出力電流Ioも、本来出力すべき出力電流(Io0)にほぼ等しい電流となる。その結果、出力電圧Voの電圧ドロップを抑制することができる。言い換えれば、電流フィードフォワード演算部8aを設けることで、負荷変動(モータ出力の変動)に対して高速に応答することが可能になる。
【0033】
なお、式(1)における補正割合係数“X”は、例えば、0.5等に定められる。補正割合係数“X”は、理想上は1.0であってもよい。ただし、この場合、実際上は、各種誤差要因によってリファレンス電流値Irefが過剰となり、出力電圧Voのオーバーシュートを招く可能性がある。そうすると、フィードバック制御の安定性や、素子耐圧等に悪影響が生じ得る。補正割合係数“X”は、このような過剰なリファレンス電流値Irefの発生を防止するための係数である。また、式(1)では、入力電圧Viの値を用いたが、例えば、昇圧比が大きくない場合は、近似的に、出力電圧Voの値を用いた式(7)を適用してもよい。
Iref(t)={(ω(t)×T(t))/Vo(t)}×X+ΔIref(t) …(7)
【0034】
ここで、図2には、第1の比較例として、電流フィードフォワード演算部8aが設けられない場合のリファレンス電流値Iref’、出力電流Io’および出力電圧Vo’が示される。この場合、リファレンス電流値Iref’は、式(1)からフィードフォワード成分を削除したような値となり、電流制御部9には、リファレンス電流補正値ΔIref(フィードバック成分)のみが入力される。
【0035】
第1の比較例では、まず、本来出力すべき出力電流(Io0)に対して実際の出力電流Io’が不足することで出力電圧Vo’の電圧ドロップが生じる。電圧制御部7は、この電圧ドロップに伴う電圧誤差に基づいて、PI制御等を用いて当該電圧ドロップを抑制するためのリファレンス電流値Iref’(リファレンス電流補正値ΔIref)を生成する。ここで、当該電圧制御部7の制御帯域を十分に高く設計できれば、リファレンス電流値Iref’を本来出力すべき出力電流(Io0)に対して高速に追従させることができる。しかし、実際には、フィードバック制御の発振防止等の観点で、制御帯域はある程度までしか高められない。
【0036】
その結果、リファレンス電流値Iref’(ひいては実際の出力電流Io’)と本来出力すべき出力電流(Io0)との間に乖離が生じ、出力電圧Vo’に、比較的大きな電圧ドロップが生じてしまう。一方、電流フィードフォワード演算部8aを設けると、式(1)のフィードフォワード成分によって本来出力すべき出力電流(Io0)の値自体を高速に算出でき、その結果を早期に電流制御部9に反映させることができる。言い換えれば、実際に電圧ドロップが生じた結果として出力電流Ioを増やすのではなく、実際に電圧ドロップが生じる前に出力電流Ioを増やすことができる。その結果、実質的な効果として、電圧制御部7の制御帯域が低い場合であっても、負荷変動に対して高速に応答することが可能になる。
【0037】
また、第2の比較例として、特許文献1の方式を利用することが考えられる。特許文献1の方式は、実施の形態1の方式とは異なる目的で所定マップに基づき昇圧電源の指令値を生成する方式である。ここで、当該方式を利用して、例えば、“ω×T”の算出結果をリファレンス電圧値(電圧指令値)Vrefにフィードフォワードする方式が考えられる。しかし、この場合、応答速度の高速化が十分に図れない恐れがある。
【0038】
具体的に説明すると、電圧指令値を変化させると、電圧制御部7のPI制御に伴う遅延を経て対応する電流指令値(ΔIref)が算出され、その後、電流制御部9のPI制御に伴う遅延を経て実際の電流制御が行われることになる。このため、第2の比較例の方式では、リファレンス電流値(電流指令値)Irefにフィードフォワードを行う実施の形態1の方式と比較して、応答速度が低下する。
【0039】
さらに、図1のように、電圧制御部7に伴う電圧フィードバックループをメジャーループ、電流制御部9に伴う電流フォードバックループをマイナーループとするようなカスケード制御ループでは、一般的に、メジャーループの制御帯域は、マイナーループの1/10程度に設計される。このため、メジャーループに対してフィードバックを行う第2の比較例の方式では、マイナーループに対してフィードバックを行う実施の形態1の方式と比較して、応答速度が大きく低下する。
【0040】
《実施の形態1の主要な効果》
以上、実施の形態1の電力変換装置を用いることで、代表的には、負荷変動に対して高速に応答することが可能になる。その結果、出力電圧Voの電圧ドロップを抑制できることから、出力コンデンサCoの容量値を小さくでき、装置の小型化や低コスト化が実現可能となる。すなわち、図2の出力電圧Vo’に示したような電圧ドロップを抑制するため、出力コンデンサCoの容量値を大きくする方式も考えられるが、その必要性がなくなる。
【0041】
さらに、出力電圧Voの電圧ドロップを抑制できる結果、モータ102に高トルクを安定的に出力させることが可能になる。なお、式(1)では、状態量演算部6からのトルク値Tを用いたが、場合によっては、速度制御部10からのトルク指令値Trefを用いることも可能である。ただし、通常、速度制御部10の制御帯域は低く、所望のトルク指令値Trefは、ある程度の遅延を経て算出されるため、応答速度の観点では、状態量演算部6からのトルク値Tを用いる方が望ましい。
【0042】
(実施の形態2)
《電力変換装置の概略(応用例)》
図3は、本発明の実施の形態2による電力変換装置の構成例を示す概略図である。図3に示す電力変換装置1bは、図1の構成例と比較して、パワーユニット制御部4bおよびアンプ制御部5bの構成が若干異なっている。アンプ制御部5bは、図1に示したアンプ制御部5aと比較して、更に、演算部21を有する。演算部21は、状態量演算部6からの角速度ωとトルク値Tの積算値を算出する。そして、アンプ制御部5bは、当該積算値“ω×T”を、アンプ制御部5bとパワーユニット制御部4bとの間に設けられる所定の通信経路22を介してパワーユニット制御部4bへ送信する。通信経路22は、例えば、シリアル回線等である。
【0043】
一方、パワーユニット制御部4bは、図1の構成例と比較して、電流フィードフォワード演算部8bへの入力情報が異なっている。電流フィードフォワード演算部(電流指令値演算部)8bは、図1の場合のように、角速度ωとトルク値Tの積算値を算出する必要はなく、演算部21で既に算出された積算値“ω×T”を用いて式(1)の演算を行う。なお、演算部21は、更に、当該積算値“ω×T”をアンプ回路3の電源電圧Va(=出力電圧Vo)の値で除算した値を算出し、アンプ制御部5bは、当該算出値をパワーユニット制御部4bへ送信してもよい。この場合、電流フィードフォワード演算部8bは、例えば、式(7)の演算を行えばよい。
【0044】
例えば、アンプ制御部5bは、パワーユニット制御部4bよりも高速なマイコン等で構成される場合が多い。この場合、アンプ制御部5bが積算値“ω×T”(または“(ω×T)/Va”を算出することで、電流フィードフォワード演算部8bの処理負荷を軽減することができる。その結果として、式(1)(または式(7))の演算処理速度を速めることができ、ひいては、応答速度の高速化が図れる。さらに、図1の場合と比較して、通信経路22上の情報量が削減できることから、通信速度の向上や、通信負荷の軽減や、通信回路周りの小面積化、低コスト化等が図れる。
【0045】
《実施の形態2の主要な効果》
以上、実施の形態2の電力変換装置を用いることで、実施の形態1で述べた各種効果と同様の効果が得られる。さらに、実施の形態1の場合と比較して、電流フィードフォワード演算部8bの演算処理速度を速めることができる。なお、この例では、アンプ制御部5bとパワーユニット制御部4bとの間に直接的な通信経路を設けたが、場合によっては、間接的な通信経路を設けることも可能である。例えば、アンプ制御部5bは、工場等の管理サーバに向けて積算値を送信し、パワーユニット制御部4bは、管理サーバから積算値を取得するようなことも可能である。この際に、管理サーバは、受信した積算値に基づき、異常の有無等を判定してもよい。
【0046】
(実施の形態3)
《電力変換装置の概略(変形例)》
図4は、本発明の実施の形態3による電力変換装置の構成例を示す概略図である。図4に示す電力変換装置1cは、図3の構成例と比較して、パワーユニット回路2bおよびパワーユニット制御部4cの構成が異なっている。パワーユニット回路2bでは、図3(および図1)の構成例と異なり、スイッチング素子Q0b、ダイオードDおよびリアクトルLは、降圧コンバータを構成する。パワーユニット制御部4cは、図3とは異なる電流フィードフォワード演算部(電流指令値演算部)8cを有する。電流フィードフォワード演算部8cには、入力電圧Viではなく出力電圧Voの値が入力される。
【0047】
ここで、図3(および図1)のような昇圧コンバータの場合、出力電流Ioとリアクトル電流(IL)は一致しない。この場合、式(4)からリアクトル電流値IL(式(6))を得るためには、式(5)の関係が必要となる。一方、図4のような降圧コンバータの場合、出力電流Ioとリアクトル電流(IL)は一致する。このため、式(8)のように、式(4)をそのまま用いてリアクトル電流値ILを得ることができる。これに伴い、電流フィードフォワード演算部8cは、入力電圧Viの値をパラメータとする式(1)ではなく、出力電圧Voの値をパラメータとする式(7)を用いてリファレンス電流値(電流指令値)Irefを算出する。
IL(t)=(ω(t)×T(t))/Vo(t) …(8)
【0048】
《実施の形態3の主要な効果》
以上、実施の形態3の電力変換装置を用いることで、降圧コンバータを用いる場合であっても、実施の形態1および2で述べた各種効果と同様の効果が得られる。
【0049】
(実施の形態4)
《電力変換装置の概略(応用例)》
図5は、本発明の実施の形態4による電力変換装置の構成例を示す概略図である。図5に示す電力変換装置1dは、図1または図3に示したようなアンプ回路およびアンプ制御部のそれぞれをN(Nは2以上の整数)個有する。この例では、“N=2”であり、電力変換装置1dは、マスタのアンプ回路3mおよびマスタのアンプ制御部5mと、スレーブのアンプ回路3sおよびスレーブのアンプ制御部5sとを有する。パワーユニット回路2およびパワーユニット制御部4は、N個(この例では2個)のアンプ回路3m,3sに対して共通に設けられる。
【0050】
モータ103は、この例では、マスタ軸およびスレーブ軸を有する多軸モータである。電力変換装置1dは、マスタ軸の回転とスレーブ軸の回転とを同期制御する。すなわち、マスタのアンプ回路3mおよびアンプ制御部5mは、マスタ軸の回転を制御し、スレーブのアンプ回路3sおよびアンプ制御部5sは、マスタ軸の回転と同期するようにスレーブ軸の回転を制御する。マスタのアンプ制御部5mは、例えば、図3のような構成例を備え、速度制御部10で算出したトルク指令値Trefと、状態量演算部6で算出した角速度ωとを、位置情報PSと共にスレーブのアンプ制御部5sへ送信する。スレーブのアンプ制御部5sは、例えば、図3の構成例から速度制御部10および演算部21を削除したような構成を備え、マスタのアンプ制御部5mから送信された各種情報を用いて制御動作を行う。
【0051】
ここで、N個のアンプ制御部5m,5sのいずれか一つ(ここでは、マスタのアンプ制御部5m)は、演算部21によって得られた積算値“ω×T”に“N”を乗算した値を通信経路22を介してパワーユニット制御部4へ送信する。パワーユニット制御部4内の電流フィードフォワード演算部は、例えば、式(1)の“ω×T”を“ω×T×N”に置き換えて演算を行う。
【0052】
このように、マスタ軸とスレーブ軸を同期制御するような場合、2個のアンプ制御部5m,5sのそれぞれが“ω×T”の情報をパワーユニット制御部4へ送信するよりも、マスタのアンプ制御部5mが、纏めた情報“ω×T×N”をパワーユニット制御部4へ送信する方が効率的となる。具体的には、電流フィードフォワード演算部における演算処理速度の向上や、パワーユニット制御部4とアンプ制御部との間の通信速度の向上や、通信負荷の軽減や、通信回路周りの小面積化、低コスト化等が図れる。
【0053】
《実施の形態4の主要な効果》
以上、実施の形態4の電力変換装置を用いることで、多軸モータを制御対象とする場合であっても、実施の形態1および2で述べた各種効果と同様の効果が得られる。
【0054】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前述した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0055】
例えば、半導体素子を構成するスイッチング素子およびダイオードは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等の素子で構成されても構わない。また、パワーユニット回路は、昇圧コンバータや降圧コンバータに限らず、例えば、昇降圧コンバータや絶縁型DCDCコンバータ等であってもよい。すなわち、少なくとも電流制御部によって制御されるパワーユニット回路であればよい。
【0056】
さらに、ここでは、パワーユニット回路のスイッチング素子をPWM信号によって制御する構成を例としたが、PFM(Pulse Frequency Modulation)信号によって制御する構成や、PWM信号とPFM信号を適宜切り替えて制御する構成であっても同様に適用可能である。また、電力変換装置は、単独で構成されたものであってもよいし、その他の構成要素とともに、制御IC等の各種装置に組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1a~1d 電力変換装置
2,2a,2b パワーユニット回路
3,3m,3s アンプ回路
4,4a~4c パワーユニット制御部
5a,5b,5m,5s アンプ制御部
7 電圧制御部
8a,8b 電流フィードフォワード演算部(電流指令値演算部)
9 電流制御部
22 通信経路
102,103 モータ
IL リアクトル電流値
Iref リファレンス電流値(電流指令値)
L リアクトル
Q0a,Q0b,Q1~Q6 スイッチング素子
Va 電源電圧
Vi 入力電圧
Vo 出力電圧
Vref リファレンス電圧値
ΔIref リファレンス電流補正値
図1
図2
図3
図4
図5