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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】電気機械要素を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/04 20060101AFI20220203BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
H01L41/04
H01L41/09
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018520092
(86)(22)【出願日】2016-10-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 DE2016100490
(87)【国際公開番号】W WO2017067544
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2019-07-24
(31)【優先権主張番号】102015013553.8
(32)【優先日】2015-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505257752
【氏名又は名称】フィジック インストゥルメント(ピーアイ)ゲーエムベーハー アンド ツェーオー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100116322
【弁理士】
【氏名又は名称】桑垣 衛
(72)【発明者】
【氏名】マルト、ハリー
(72)【発明者】
【氏名】ライザー、ヨナス
【審査官】西出 隆二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-085194(JP,A)
【文献】特開2006-231928(JP,A)
【文献】特開2013-229549(JP,A)
【文献】特開2010-056426(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102004009140(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第10028335(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102004021955(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/04
H01L 41/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械要素の少なくとも1つのセクションを制御する方法であって、対応するセクションは、変化セクションを定義しており、
調節要素としての電気機械要素を提供するステップであって、前記電気機械要素の少なくとも前記変化セクションは、相互に離隔した少なくとも2つの電極と、前記電極の間において配設された複数のドメインを有する多結晶性及び強誘電性又は強誘電性-圧電材料と、を有し、初期状態において、前記ドメインの少なくとも一部分は、互いに異なる分極方向を有し、前記ドメインの別の一部分は、互いに同一の分極方向を有する、前記提供するステップと、
前記調節要素の前記変化セクションの制御された永続する延伸の変化のために電圧パルスの振幅および持続時間に依存する前記変化セクションの分極の程度の永続的な変化が生じるように、定義された振幅及び定義された持続時間を有する少なくとも1つの電圧パルスの形態における電圧を印加することにより、前記変化セクションの前記電極の間に電界を生成するステップと、
前記少なくとも1つの電圧パルスに起因して、互いに分岐する分極方向を有するドメインの一部分を同一の分極方向を有する状態に変換し、且つ、これにより、延伸の方向Vに沿った前記電気機械要素の前記変化セクションの定義された増大を生成するか、ここで、前記変化セクションの前記延伸の増大が電圧の存在なしに残留し、或いは、前記少なくとも1つの電圧パルスに起因して、同一の分極方向を有する前記ドメインの一部分を互いに分岐する分極方向を有する状態に変換し、且つ、これにより、延伸の方向Vに沿った前記電気機械要素の前記変化セクションの定義された減少を生成する、ステップであって、ここで、前記変化セクションの前記延伸の減少が電圧の存在なしに残留する、前記ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記電圧パルスの持続時間は、50~150msであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電圧パルスの持続時間は、70~120msであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電気機械要素を提供するステップの後に、且つ、少なくとも1つの電圧パルスの形態における電圧を印加することによって前記変化セクションの前記電極の間に電界を生成するステップの前に、前記変化セクションの定義された初期延伸を生成する更なる方法ステップが実行され、このステップにおいては、前記変化セクションの100%の分極の程度に対応する最大延伸増大及び/又は0%の分極程度に対応する最大延伸減少が結果的に得られるような1つ又は複数の電圧が前記変化セクションの前記電極に印加され、前記最大延伸増大と前記最大延伸減少の間の差は、最大可能延伸変化範囲を定義している請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記最大可能延伸変化範囲の50%未満である意図された延伸の変化において、0%の分極の程度を結果的にもたらすような電圧が前記変化セクションの前記電極に印加され、且つ、前記最大可能延伸変化範囲の50%超である意図された延伸の変化において、100%の分極の程度が結果的に得られるような電圧が前記変化セクションの前記電極に印加されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記初期状態において、前記電気機械要素の前記変化セクションの材料の分極の程度が、40%~60%である、電気機械要素の提供を特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記初期状態において、前記電気機械要素の前記変化セクションの材料の分極の程度が、50%である、電気機械要素の提供を特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記延伸の方向Vに沿った前記電気機械要素の前記変化セクションの前記延伸の定義された増大のための前記少なくとも1つの電圧パルスの前記振幅は、隣接する電極の間の結果的に得られる電界強度が保磁力の50%~200%となるように、サイズ設定されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記延伸の方向Vに沿った前記電気機械要素の前記変化セクションの前記延伸の定義された減少のための前記少なくとも1つの電圧パルスの前記振幅は、隣接する電極の間の結果的に得られる電界強度が保磁力の10%~90%となるように、サイズ設定されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
第2電圧パルスが第1電圧パルスに後続しており、前記第2電圧パルスは、前記第1電圧パルスとは異なる極性を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2電圧パルスの振幅は、前記第1電圧パルスの前記振幅とは異なっていることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2電圧パルスの前記振幅は、前記第1電圧パルスの前記振幅よりも大きさが小さいことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法によって制御された電気機械要素の調節要素としての使用方法。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法によって制御される、互いに対して運動する2つの要素の間における電気機械要素の装置。
【請求項15】
更なる電気機械要素が、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法によって制御される前記電気機械要素と、互いに対して運動する要素のうちの1つとの間において配置されていることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記更なる電気機械要素が圧電アクチュエータであることを特徴とする請求項15に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械要素を制御する方法と、この方法によって制御される電気機械要素の調節要素としての使用と、に関する。
【背景技術】
【0002】
(特許文献1)には、まったく分極していないドメイン状態から十分に分極したドメイン状態に、又はこの逆方向に、変換することにより、即ち、ドメインの折り畳みにより、強誘電性コンポーネントの非線形効果を利用するべく、定義された電界が選択的に個々の層に対して印加されうる、圧電-強誘電性材料のいくつかの層を有するアクチュエータが開示されている。前記ドメインの折り畳みによれば、これらの層内において、非連続的な変形変化、即ち、変形ジャンプを実現することができる一方で、アクチュエータの更なる層内における圧電効果の利用は、線形且つ連続的な変形変化をもたらす。全体として、この結果、拡張された調節移動範囲を有するアクチュエータが得られる。更なる利点は、ドメインの折り畳みによって生成されるアクチュエータの変形は、外部電圧の印加が伴わない場合にも、留まることになるという点にある。
【0003】
(特許文献1)において開示されているアクチュエータの欠点は、変形ジャンプの生成であり、その結果、このアクチュエータは、非常に微細な調節運動の場合には、使用することができず、即ち、非常に大きな制御力を伴う場合にしか使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8,138,658(B2)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、これを非常に微細な且つ定義された調節運動に適したものとする、電気機械要素の少なくとも1つのセクションを制御する、即ち、変化セクションを制御する、方法を提供するという目的に基づいており、この場合に、電界の印加によって生成される変化セクションの変形は、対応する電界の除去の後にも、留まることになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1による方法によって実現されており、この場合に、後続の従属請求項は、少なくとも更なる実施形態を表している。
従って、基礎は、電気機械要素の少なくとも一部分を制御する方法であり、この場合に、この対応する部分は、変化セクションを定義している。この時点において、変化セクションは、電気機械要素の全体を有することもできることを強調しておくべきであろう。換言すれば、本発明は、電気機械要素の全体が変化セクションに対応しており、且つ、電気機械要素の全体が本発明による方法によって起動されることを含んでいる。
【0007】
本発明による方法は、電気機械要素を提供するステップであって、少なくとも変化セクションは、相互に離隔した少なくとも2つの電極と、電極の間において配設された複数のドメインを有する多結晶質及び強誘電性又は強誘電性-圧電材料と、を有し、初期状態において、ドメインの少なくとも一部分は、互いに異なる分極方向を有している、ステップと、定義された振幅及び定義された持続時間を有する少なくとも1つの電圧パルスの形態における電圧を印加することにより、変化セクションの電極の間に電界を生成するステップと、少なくとも1つの電圧パルスに起因して、互いから分岐する分極方向を有するドメインの一部分を同一の分極方向を有する状態に変換し、且つ、これにより、定義された、且つ、電圧の存在を伴わない、延伸方向Vに沿った電気機械要素の変化セクションの延伸の残留する増大を生成するか、或いは、少なくとも1つの電圧パルスに起因して、同一の分極方向を有するドメインの一部分を互いに分岐する分極方向を有する状態に変換し、且つ、これにより、定義された、且つ、電圧の存在を伴わない、延伸方向Vに沿った電気機械要素の変化セクションの延伸の残留する減少を生成するステップと、を有する。
【0008】
本明細書において使用されている「電気機械要素」という用語は、最も一般的な意味においては、電圧のアクション又は電界のアクションに起因して、結果的に、例えば、作動運動のために使用されうる、例えば、延伸の変化などの、機械的反応が誘発される、要素を意味している。同時に、この用語は、最も一般的な意味においては、逆の方式により、例えば、圧縮力の印加などの機械的なアクションが電界又は電圧の生成をもたらす、要素をも意味している。
【0009】
本明細書において使用されている「ドメイン」という用語は、同一の又はほぼ同一の分極方向が存在している、多結晶質及び強誘電性又は強誘電性-圧電材料の一部分を意味している。
【0010】
以上において参照されている「延伸方向V」という用語は、特定の用途において使用可能である、電気機械要素の延伸の大きさが最大である方向を記述している。
電圧パルスの振幅及び持続時間に応じて、電気機械要素の変化セクションの定義されており且つ永続する変形変化が結果的に得られるように、分極状態が、ドメインの相対的に小さな又は相対的に大きな部分において、少なくとも1つの電圧パルスにより、永久的に変更されている。このケースにおいて、異なる分極方向を有する対応するドメインが、同一の分極方向の状態に変換された場合には、結果は、延伸方向Vに沿った電気機械要素の変化セクションの延伸の拡大であるが、同一の分極方向を有するドメインを異なる分極方向の状態に変換すれば、延伸方向Vに沿った電気機械要素の変化部分の延伸の減少がもたらされる。
【0011】
電圧パルスの持続時間が、50~150msであり、且つ、好ましくは、70~120msであることが有利でありうる。
このケースにおいては、電圧パルスの立ち上がりセクションの持続時間及び電圧パルスの立ち下がりセクションの持続時間が、5~20msであり、且つ、好ましくは、8~12msであることが有利でありうる。
【0012】
又、電気機械要素を提供するステップの後に、且つ、少なくとも1つの電圧パルスの形態における電圧を印加することによって変化セクションの電極に間に電界を生成するステップの前に、変化セクションの定義された初期延伸を生成する更なるステップが実行され、この場合に、このような1つ又は複数の電圧は、変化セクションの電極に印加され、その後に、変化セクションの100%の分極程度に対応する最大延伸増大及び/又は0%の分極の程度に対応する最大延伸減少が結果的に得られ、最大延伸増大と最大延伸減少の間の差は、最大可能延伸変化範囲を定義していることが有利でありうる。
【0013】
又、最大延伸変化範囲の50%未満の意図された延伸変化に伴って、0%の分極程度が結果的に得られるような電圧が変化セクションの電極に印加され、且つ、最大延伸変更範囲の50%超の意図された延伸変化に伴って、100%の分極の程度が結果的に得られるような電圧が変化セクションの電極に印加されることが有利でありうる。
【0014】
更には、初期状態において、変化セクションの材料が、40%~60%の分極の程度を有する、且つ、特に好ましくは、50%の分極の程度を有する、電気機械要素を提供することが有利でありうる。このケースにおいては、分極の程度により、同一の分極方向を有する、電気機械要素の変化セクションの材料のドメインの割合が指定される。その初期状態における電気機械要素の変化セクションの材料の対応する分極により、同一の分極方向のドメインの数を低減することによって初期状態からの既に延伸方向Vに沿った電気機械要素の変化セクションの延伸の減少を実現することができる。
【0015】
これに加えて、延伸方向Vに沿った電気機械要素の変化セクションの延伸の定義された増大のための電圧パルスの振幅は、隣接する電極の間の結果的に得られる電界強度が保磁力の50%~200%となるように、サイズ設定されていることが有利でありうる。このケースにおいては、持続時間が大きいほど、且つ/又は、印加される電圧パルスの数が多いほど、対応する振幅が益々小さくなることが可能であり、且つ、この逆も又真であって、持続時間及び/又は印加された電圧パルスの数が小さいほど、対応する増幅は、大きくなりうる。保磁力は、場の方向における強誘電性材料のドメインの双極子モーメントのすべてを充足するのに(飽和分極)、或いは、分極をゼロに低減するのに、十分である場の強度を意味している。
【0016】
更には、延伸方向Vに沿った電気機械要素の変化セクションの延伸の定義された減少のための電圧パルスの振幅は、隣接する電極の間の結果的に得られる電界強度が保磁力の10%~90%となるように、サイズ設定されることが有利でありうる。この場合にも、持続時間が大きいほど、且つ/又は、印加された電圧パルスの数が大きいほど、振幅は小さくなりうると共に、逆も又真であって、持続時間及び/又は印加された電圧パルスの数が小さいほど、対応する増幅が大きくなりうる。
【0017】
これに加えて、第1電圧パルスは、第2電圧パルスによって後続され、第2電圧パルスは、第1電圧パルスとは異なる極性を有することが有利でありうる。
更には、第2電圧パルスの振幅は、第1の電圧パルスの振幅とは異なっており、且つ、好ましくは、第2電圧パルスの振幅は、第1電圧パルスの振幅よりも大きさが小さいことが有利でありうる。
【0018】
又、本発明は、上述した方法に従って制御された電気機械要素の作動要素としての使用にも関する。
これに加えて、本発明は、互いに対して運動する2つの要素の間における、上述の方法による電気機械的被駆動要素の装置にも関する。
【0019】
このケースにおいては、更なる電気機械要素が、好ましくは、圧電アクチュエータが、本発明による方法によって制御される電気機械要素と、相互の関係において運動する2つの要素のうちの1つの間において、配置されることが有利でありうる。但し、同様に、電気機械要素が、そのうちの1つが、本発明による方法によって制御される変化セクションであり、結果的に上述の意味において更なる電気機械要素又は圧電アクチュエータに対応している、残りの部分が、従来のアクチュエータを表している、2つの異なるセクションを有することも想定される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明による方法を使用する電気機械要素の延伸又は厚さの変化を判定する実験セットアップである。
図2】同一の持続時間及び異なる正電圧の複数の電圧パルスを使用する、本発明による方法を使用した際の、図1の実験セットアップによる電気機械要素の延伸又は厚さの増大である。
図3】同一の持続時間及び異なる負電圧の複数の電圧パルスを使用する、本発明による方法を使用した際の、図1の実験セットアップによる電気機械要素の延伸又は厚さの減少である。
図4】同一の持続時間及び同一の正電圧の複数の電圧パルスを使用する、本発明による方法を使用した際の、図1の実験セットアップによる電気機械要素の延伸又は厚さの増大及び位置の安定性である。
図5】同一の持続時間及び異なる正電圧の単純な電圧パルスを使用する、本発明による方法を使用した際の、図1の実験セットアップによる電気機械要素の延伸又は厚さの増大及び位置の安定性である。
図6】同一の持続時間及び異なる負電圧の単純な電圧パルスを使用する、本発明による方法を使用した際の、図1の実験セットアップによる電気機械要素の延伸又は厚さの減少及び位置の安定性である。
図7】本発明の方法によって作動する電気機械要素のアクチュエータとしての使用又はその対応する構成の概略図である。
図8】単一の電圧パルスが印加された電気機械要素の延伸の変化の時間プロファイルの図である。
図9】異なる極性及び振幅の2つの連続的な電圧パルスによって作動する電気機械要素の延伸の変化の時間プロファイルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明による方法を使用する、延伸方向Vに沿った電気機械要素の延伸変化の振る舞いを判定するための実験セットアップを示している。このケースにおける電気機械要素の変化セクションは、電気機械要素の全体を有している。
【0022】
このケースにおいては、16mmの外径、8mmの内径、及び2.5mmの厚さを有するリングの形態を有する電気機械要素3は、チューリンゲン(Thuringia)に所在するピーアイセラミック社(PI Ceramic GmbH)の圧電セラミック材料PIC252から構成されている。この圧電セラミック材料は、1.1kV/mmの保磁力を有する。延伸方向Vは、電気機械要素の厚さの拡大の方向に対応している。
【0023】
電気機械要素3は、圧電セラミック材料の複数の層を有し、この場合に、個々の層は、介在する電極によって分離されており(所謂、多層構造)、且つ、それぞれのケースにおいて、2つの隣接する電極の間には、圧電セラミック材料内において望ましい電界を形成するための対応する電圧を印加することができる。圧電セラミック材料の層及びその間に配置された電極の積層方向は、電気機械要素の厚さの拡大の方向である。従って、延伸方向Vは、実質的に、電極に対して垂直に延在している。但し、電気機械要素の延伸方向Vが電極に対して平行であることも想定可能である。
【0024】
又、電気機械要素用の上述の多層構造に加えて、電極が電気機械要素の外側に配置されており、且つ、従って、電気機械的特性を有する材料のみが電極の間に配置されている、構造も可能である。
【0025】
電気機械要素3は、約100Nの付勢力が結果的に得られるように、ベースプレートのねじ山に螺入されたねじと、ねじ頭部と運動可能なプレートの間において配置されたプレートスプリングと、から構成された付勢装置4により、ベースプレート2と運動可能なプレート1の間において堅固にクランプされている。ベースプレートと運動可能なプレートの間には、これらの距離をキャプチャするべく、静電容量性計測システム5が提供されており、この距離は、電気機械要素の延伸変化と相関している。
【0026】
図2は、室温において判定された、電気機械要素において図1による実験セットアップによって取得された計測結果を示している。このケースにおいては、一方においては、電気機械要素に印加された個々の電圧パルスと、他方においては、電気機械要素の対応する延伸変化と、が示されている。個々の電圧パルスは、10msの持続時間を有し、且つ、印加された電圧パルスの周波数は、1Hzである。
【0027】
10msの持続時間を有する研究室の実験セットアップにおいて使用されている電圧パルスは、実際の用途においては、かなり不利であり、その理由は、対応する電圧供給源の出力段が、通常は、限られた出力パワーしか有しておらず、且つ、このような短いパルス時間において、非常に大きな電流を供給しなければならず、このような大きな電流は、任意選択により、パワー増幅器から保証することができないからである。実際の用途において実際的であるものとして、電圧パルスは、条件を満たす状態において、50~150msの、好ましくは、70~120msの、持続時間を有し、この場合に、電圧パルスの側部における増大及び減少時間は、5~20msであり、且つ、好ましくは、8~12msであることが最良である。
【0028】
80ボルトの正電圧未満の振幅を有する電圧パルスの場合には、電気機械要素における認識可能な延伸又は厚さの変化は、存在していない。+80ボルトの電圧パルスのみにおいて、それぞれの個々のパルスに伴って、延伸又は厚さの特定の増大が発生し、これは、初期パルスにおいては、相対的に大きく、且つ、パルスの数の増大に伴って減少する。
【0029】
図2においては、それぞれの電圧パルスの開始時点において、相対的に大きな延伸又は厚さの変化が発生しているが、これは、当初、電圧パルスの終了に伴って唐突に減少し、且つ、相対的に長い期間にわたって、直接的な接続状態において、非常にわずかにのみ、減少していることがわかる。この延伸の振る舞いは、当初、即ち、電圧パルスの開始時点に伴って、ドメインの永久的な且つ消滅しやすい再方向付けの両方のみならず、逆圧電効果の励起が、電気機械要素内において発生するという事実に起因している。ここで、事実上使用可能であるのは、ドメインの永久的な再方向付け及び対応する残留延伸のみである。消滅しやすいドメインの再方向付けという用語は、電圧パルスによって特定の数のドメインが再方向付けを経験することになるが、これは、安定しておらず、不安定であるのみであって、その結果、以前の状態への再方向付けが発生することになる状況を意味している。クリープと呼称される、このプロセスは、ある程度の時間を所要しており、その結果、このエリア内における延伸の相対的に低速の減少を説明することができる。
【0030】
従って、クリーププロセスを差し引いた延伸又は厚さの残留増大は、電気機械要素の圧電セラミック材料の個々のドメインにおける特定の数の双極子の永続的な又は永久的なアライメントに基づいている。+80ボルトの電圧を有する印加された電圧パルスの数の増大により、電気機械要素は、分極の増大を経験することになり、この場合に、この分極は、永久的な又は残留歪を生成し、この歪は、電圧の除去後にも、留まることになる。
【0031】
図3は、室温における電気機械要素において、即ち、図2による計測の実行後の、図1による実験セットアップに伴って取得された更なる計測結果を示している。従って、初期状態は、第1ステップにおいて-20ボルトの低い負電圧を有するパルスが印加された、延伸方向Vに沿った、即ち、厚さ方向における、延伸において既に拡大済みである電気機械要素である。既に、この低い電圧は、個々のパルスが電気機械要素の延伸又は厚さの低減を生成するのに十分なものであって、これは、後続のパルスよりも初期パルスにおいて相対的に強力である。この延伸又は厚さの低減は、個々のドメインにおいて、既にアライメント済みの双極子がアライメントされていない状態に変換されるように、電気機械要素の圧電セラミック材料の部分的な脱分極に基づいている。
【0032】
負電圧が-40ボルトに更に変更された場合には、対応するパルスに伴う、相対的に大きな延伸又は厚さの低減又は脱分極が存在することになり、これは、当初、格段に強力である。-60ボルトへの負電圧の更なる変更は、再度、2つの予め印加された電圧パルスとの比較において増大された延伸又は厚さの低減を結果的にもたらすことになる。電圧が-80ボルトに設定された際には、所謂、再分極が電気機械要素の圧電セラミック材料のドメイン内において発生し、その結果、以前の脱分極のアライメント方向とは反対の方向における双極子の自発的なアライメントがもたらされる。これにより、-80ボルトの負電圧を有するパルスは、延伸又は厚さの増大の連続的なステップをもたらし、これらのステップは、+80ボルトの正電圧を有するパルスの印加における延伸又は厚さの増大のステップに類似している。
【0033】
図4は、図1の実験セットアップによる電気機械要素における計測結果を示しており、この場合には、10msの個々のパルス持続時間、1Hzのパルス周波数、及び+80ボルトの電圧を有する正確に5つの電圧パルスが、室温において電気機械要素に対して印加され、且つ、次いで、電圧供給源が電気機械要素から分離されている。電気機械要素からの電圧供給源の前記分離の後に、これは、対応する分極に起因して、対応した方式によって誘発された延伸又は厚さの増大を永久的に又は安定的に保持している。
【0034】
図5には、計測結果が示されており、これらも、室温において図1の実験セットアップに従って電気機械要素上において判定されたものである。このケースにおいては、連続的に、3つの個別のパルスが、10msのパルス持続時間により、印加されており、これらのパルスのそれぞれは、電気機械要素上において異なるレベルの正電圧を有しており、個々の電圧は、その後、除去されている。+80ボルトの振幅を有する第1電圧パルスは、延伸又は厚さ又は分極の特定の増大を結果的にもたらしており、これは、電圧の除去の後も留まっている(残留歪)。+90ボルトの振幅を有する後続の第2電圧パルスは、延伸又は厚さの増大を結果的にもたらしており、これは、第1電圧パルスにおけるものを上回っている。又、この延伸又は厚さの増大も、電圧の除去後に、留まっている。最後に、+100ボルトの振幅を有する第3電圧パルスが、延伸又は厚さの最大の増大を結果的にもたらしているが、+90ボルトにおける延伸の増大に対する差は、+80ボルトと+90ボルトの間の対応する差を下回っている。対応する歪は、+100ボルトの電圧の除去後にも、残留状態において留まっている。
【0035】
図5による計測結果の判定の直後に、室温において、且つ、同様に、図1による実験セットアップを使用することより、異なる負電圧を有するパルスを同一の電気機械要素に印加し、その後に除去した(図6を参照されたい)。-5ボルトの非常に低い電圧においても、電気機械要素の延伸又は厚さの対応する低減を有するわずかな脱分極が発生しており、この場合に、結果的に得られる延伸又は厚さの変化は、永久的であり、即ち、残留している。これは、-10ボルト、-20ボルト、-30ボルト、及び-40ボルトの電圧を有する後続の電圧パルスについても同様である。それぞれのケースにおいて、電気機械要素の永久的な又は残留する延伸の低減又は厚さの低減が発生しており、この場合に、個々の低減は、負電圧が大きいほど、大きい。この効果は、最初の4つの電圧パルスにおいて特に明白であるが、-30ボルト及び-40ボルトにおける延伸変化の差は、わずかであるに過ぎない。
【0036】
図7は、概略図において、一方においては、本発明の方法に従って駆動される電気機械要素の制御要素としての使用と、且つ、他方においては、このような電気機械要素の対応する構成と、を示している。図1と同様に、電気機械要素の全体が、電気機械要素の変化部分を表している。
【0037】
電気機械要素又は調節要素3は、このケースにおいては、ベースプレート2の形態における静止要素と運動可能なプレート1の形態におけるベースプレート2との関係において運動する要素の間において配置されており、この場合には、静電容量性計測システム5により、ベースプレート2と運動可能なプレート1の間の距離が計測又は制御されている。このようにして得られた距離データは、コントローラ6に転送され、コントローラ6が、対応する駆動信号を電圧供給源7に送信し、且つ、調節要素3に電気的に接続されている電圧供給源7が、一連の電圧パルスにより、或いは、単一の電圧パルスのみにより、調節要素3に対して作用し、その結果、運動可能なプレート1が調節方向に対して平行である、延伸方向Vにおける作動要素の延伸の定義された増大又は減少に起因した運動可能なプレート1の望ましい位置に接近することになる。この場合に、電圧供給源7と調節要素3の間には、電気的接続の分離が存在しており、調節要素3は、予め設定され且つ定義されたその延伸変化を電圧の印加を伴うことなしに永久的に保持している。
【0038】
又、制御対象のシステムにおける調節要素としての、即ち、計測システムの支援及びコントローラに対する対応する計測値の転送を伴う、本発明による方法によって制御される電気機械要素のこのような記述されている使用法に加えて、これは、開ループシステムにおける調節要素として使用することもできる。本出願人の実験は、約+/-3%の精度を実現できることを示しているが、最適化を通じて、更に高い精度も可能であるものと考えられる。
【0039】
本明細書における本発明の方法に従って制御される調節要素としての電気機械要素の使用は、最小寸法を有する調節運動を許容しており、この場合に、位置決め運動の寸法は、特に、電圧パルスの高さ又は振幅及び持続時間に依存している。
【0040】
又、これは、想定可能である圧電アクチュエータ又はピエゾアクチュエータなどの従来の電気機械要素を伴う、本発明による方法によって制御される電気気機械要素の一構成、具体的には、直列構成でもあり、この場合に、従来のピエゾアクチュエータが、電圧が印加されている限りにおいてのみ、対応する延伸を維持している一方で、本発明の方法に従って制御されている電気機械要素においては、電圧の印加を伴うことなしに、延伸の増大又は延伸の減少が保証されている。上述の「列構成」という用語は、従来の圧電アクチュエータが、電気機械要素と、相互の関係において運動する要素のうちの1つの間において配置されるように、電気機械要素と従来の圧電アクチュエータが互いに前後に配列されている構成を記述している。
【0041】
電気機械要素と従来の圧電要素の上述の直列構成に加えて、本発明は、単一の電気機械要素が存在しており、この場合に、1つのセクションが、即ち、変化セクションが、本発明による方法によって駆動される一方で、電気機械要素の残りの部分又はセクションが、変化する部分と同一又は異なる設計を有し、且つ、電気機械要素のこの残りの部分又は一部が、電気機械要素を駆動するための従来の方法によって駆動されることを提供している。例えば、残りのセクション又は電気機械要素のセクションは、その間にこの圧電材料が配設される少なくとも2つの電極を有する圧電材料であり、この場合に、圧電材料は、完全に分極しており、且つ、印加された電圧に相関する延伸を実現することができるが、これは、電圧の除去に伴って、―変化セクションの延伸の変化とは対照的に―そのオリジナルの値に後退している。従って、電気機械材料の残りの部分又はセクションは、従来の圧電アクチュエータである。
【0042】
電圧の印加によって生成される、従来の圧電アクチュエータの最大可能延伸は、電圧が印加されていない延伸方向におけるその寸法の約1~2%である。対照的に、本発明の方法によって制御される延伸方向における、電圧のアクションを伴わない、永久的に存在する最大の可能な延伸は、(電気機械要素及び従来の圧電アクチュエータが同一の構造を有する)従来の圧電アクチュエータの最大可能延伸の約50~60%である。
【0043】
図8は、図1の試験構成による単一の電圧パルスが印加された電気機械要素の延伸の変化の時間に伴う変動を計測図において示している。電圧パルスは、40ボルトの振幅と、100msの持続時間と、を有し、パルスの側部の増大時間及び減少時間は、約10msの持続時間を有する。電圧パルスの開始の時点において、ほとんど4.5mmだけの、電気機械要素の延伸の迅速な増大が発生している。この延伸の拡大は、電圧パルスの終了に伴って唐突に減少しており、この場合に、初期状態との関係において、約1.2μmの残留歪が残っている。更には、残留歪は、電圧パルスの終了の直後には、まだ一定ではなく、特定の期間にわたって、延伸のわずかな減少が依然として存在していることがわかる。これは、いくつかのドメイン内の電圧パルスに起因して再方向付けが発生してはいるが、導入されるエネルギーが、永久的な且つ永続的な再方向付けのためには十分ではないという事実に起因している。折り返しプロセスが存在しており、これにより、対応するドメインの予め実現されている再方向付けが逆転される(クリーププロセス又はクリーピング)。全体として、この結果、単一の電圧パルスによる延伸の変化のわずかな低減がもたらされる。
【0044】
上述のクリーピングの現象を相殺するべく、第1電圧パルスの直後に第2電圧パルスを印加することが可能であるが、この場合に、第2電圧パルスは、第1電圧パルスとは逆の極性を有する。図9は、第2電圧パルス又はカウンタパルスによって実現されうる効果を計測図に基づいて示しており、この場合には、これを除いて、図8との比較において同一の計測状態が存在している。
【0045】
図9からは、図8から既に判明しているように、正の極性の第1電圧パルスにより、電気機械要素との関係における延伸の振る舞いが実現されていることがわかる。負の極性及び同一の持続時間を有するが、図8とは異なって、第1電圧パルスよりも小さな振幅を有する、後続の第2電圧パルスにより、電気機械要素の予め分極している材料の特定の脱分極が発生しているが、この脱分極は、小さく、且つ、図8との関連において記述した折り返しプロセスが大幅に加速され、その結果、更なるクリーピングが電気機械要素上において計測されないことが基本的に保証されている。最終的に、電気機械要素の残留延伸化は、図8に示されているその他の部分において同一である計測との比較において、カウンタパルスによってわずかに低減されているのみであるが、残留延伸が、時間依存性の変化をもはや経験しておらず、且つ、安定しているという明白な利点を伴っている。
【0046】
本発明による方法は、電気機械要素の望ましい延伸を実現するべく、電圧パルスのシーケンスの印加と、単一の又は唯一の電圧パルスの印加と、の両方を提供しているという点について明白に留意されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9