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特許7018402熱安定プロテアーゼ、並びにその生成方法及び使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】熱安定プロテアーゼ、並びにその生成方法及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/57 20060101AFI20220203BHJP
   C12N 9/56 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220203BHJP
   A23K 20/189 20160101ALI20220203BHJP
   A23K 10/14 20160101ALI20220203BHJP
【FI】
C12N15/57
C12N9/56 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A23K20/189
A23K10/14
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018557012
(86)(22)【出願日】2017-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 US2017029628
(87)【国際公開番号】W WO2017189720
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】62/328,051
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518379577
【氏名又は名称】バイオリソース インターナショナル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジェン-ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ルパシンゲ,サンジーワ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】LIU, B., et al.,"Enhanced thermostability of keratinase by computational design and empirical mutation.",J. IND. MICROBIOL. BIOTECHNOL.,2013年,Vol.40,pp.697-704,doi: 10.1007/s10295-013-1268-4
【文献】MARTINEZ, R., et al.,"Increasing activity and thermal resistance of Bacillus gibsonii alkaline protease (BgAP) by directed evolution.",BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING,2013年,Vol.110,pp.711-720,doi: 10.1002/bit.24766
【文献】ZHAO, H., et al.,"Directed evolution converts subtilisin E into a functional equivalent of thermitase.",PROTEIN ENGINEERING,1999年,Vol.12, No.1,pp.47-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00- 9/99
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00- 3/00
PubMed
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼのポリペプチドバリアントであって、該バリアントのプロテアーゼが、
(a)A298P:N322S:S363D(配列番号1)またはN322S(配列番号2)の配列、
(b)上記(a)に示すバリアント配列であって、該配列の残部において少なくとも90%の配列同一性を有するものであり、プロテアーゼ活性を有し、バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼと比べて高い熱安定性を保持しているバリアント配列、
(c)上記(b)に示すバリアント配列であって、該少なくとも90%の配列同一性は保守的置換のみからなるバリアント配列、または
(d)上記(a)、(b)または(c)に示すバリアント配列の断片であって、プロテアーゼ活性を有し、バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼと比べて高い熱安定性を保持しているバリアント配列の断片
に示す配列を含む、ポリペプチドバリアント。
【請求項2】
前記少なくとも90%の配列同一性は少なくとも95%の同一性を含む、請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼ。
【請求項3】
請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含む核酸構築物または発現ベクターであって、該ポリヌクレオチドは、発現宿主細胞内において前記バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、核酸構築物または発現ベクター。
【請求項5】
請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む組み換え型発現宿主細胞であって、該ポリヌクレオチドは、該バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、組み換え型発現宿主細胞。
【請求項6】
請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼの生成方法であって、
請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む組み換え型発現宿主細胞を培養することを含み、前記ポリヌクレオチドは、該バリアントのプロテアーゼの生成を促す条件下にて該バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、バリアントのプロテアーゼの生成方法。
【請求項7】
前記バリアントのプロテアーゼを回復することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼを含む、全培養液成分または細胞培養組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼを含む動物用飼餌料であって、前記バリアントのプロテアーゼは、動物による該飼餌料の消化率を高めるのに十分な量を含んでいる、動物用飼餌料。
【請求項10】
前記量は飼餌料1kg当たり60000~3000000ユニット(2~1000%)である、請求項9に記載の動物用飼餌料。
【請求項11】
前記動物用飼餌料は家禽用飼餌料または豚用飼餌料である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼを含む、動物用飼餌料添加物。
【請求項13】
脂溶性ビタミン、水溶性ビタミンまたは微量の鉱物及びそれらの組み合わせのうち1つ以上をさらに含む、請求項12に記載の動物用飼餌料添加物。
【請求項14】
動物用飼餌料の栄養価を高める方法であって、
請求項1に記載のバリアントのプロテアーゼを前記動物用飼餌料に添加することを含む、方法。
【請求項15】
前記動物用飼餌料は家禽用飼餌料または豚用飼餌料である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本出願は、2016年4月27日に出願された米国仮特許願第62/328051号の本出願であり、それを参照することにより、その内容の全てが本書に含まれる。
【0002】
〔技術分野〕
本明細書に開示する主題は、広義には、バチルス・リケニホルミス由来kerAプロテアーゼの熱安定バリアントに関する。本明細書に開示する主題は、さらに、開示するプロテアーゼをコードするDNA、核酸構築物、ベクター、及び該ポリヌクレオチドを含む宿主細胞に関し、また、これらの生成方法及び使用方法に関する。
【0003】
〔背景技術〕
消化率を高めるため、動物用飼餌料の添加物として、酵素が一般的に用いられる。これにより、飼餌料は効率が良いものとなり、飼餌料のエネルギー量が増加する。特に、プロテアーゼ酵素は、消化しづらいタンパク質を加水分解してより有用なペプチドに分解することでタンパク質の消化を助ける。しかしながら、加工時における動物用飼餌料の加熱処理は、飼餌料の栄養補助剤としてのプロテアーゼの開発及び使用において大きな課題となる。一般的な飼餌料の造粒工程において、約70℃~80℃の温度で飼餌料を前処理した後、80℃~85℃の温度範囲で造粒する。多くの場合、この温度の上昇により酵素が不可逆的に失活してしまう。よって、加工時における熱安定性が向上した酵素を提供することは有益であろう。
【0004】
〔概要〕
幾つかの実施形態において、本明細書に開示する主題は、バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼのポリペプチドバリアントであって、ポリペプチドバリアントの含む配列が、(a)A298P:N322S:S363D(配列番号1)、N322S(配列番号2)、G222S:N265C:N322S(配列番号3)、P145E:A298P:N322S:S363D(配列番号4)、N322S:S363D(配列番号5)、P145E:N322S(配列番号6)、N265C:N322S(配列番号7)、P145E:A298P:S363D(配列番号8)、N265C(配列番号9)、G222S:N265C(配列番号10)、G222S:N227Y(配列番号11)、N265C:G270R(配列番号12)、P145E:S363D(配列番号13)、またはG222S:N227Y:N265C:A298P(配列番号14)の配列、(b)上記(a)に示すバリアント配列であって、該配列の残部において少なくとも70%の配列同一性を有するものであり、プロテアーゼ活性を有し、バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼと比べて高い熱安定性を保持しているバリアント配列、(c)上記(b)に示すバリアント配列であって、該少なくとも70%の配列同一性は保守的置換のみからなるバリアント配列、または(d)上記(a)、(b)または(c)に示すバリアント配列の断片であって、プロテアーゼ活性を有し、バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼと比べて高い熱安定性を保持しているバリアント配列の断片であるポリペプチドバリアントに関する。
【0005】
幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。
【0006】
幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む核酸構築物または発現ベクターであって、該ポリヌクレオチドは、発現宿主細胞内において上記バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、核酸構築物または発現ベクターを提供する。
【0007】
幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む組み換え型発現宿主細胞であって、該ポリヌクレオチドは、該バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、組み換え型発現宿主細胞を提供する。
【0008】
幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼの生成方法であって、該バリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む組み換え型発現宿主細胞を培養することを含み、前記ポリヌクレオチドは、該バリアントのプロテアーゼの生成を促す条件下にて該バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、バリアントのプロテアーゼの生成方法を提供する。
【0009】
幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼを含む動物用飼餌料であって、上記バリアントのプロテアーゼは、動物による該飼餌料の消化を高めるのに十分な量を含んでいる動物用飼餌料を提供する。
【0010】
幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼを含む動物用飼餌料添加物を提供する。
【0011】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、本明細書に開示する主題の1以上の実施形態に係る、60℃にて30分間酵素を培養した後の野生型バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼ:アクセッション番号Q53521(「kerA」)及びkerAのバリアントの活性の回復率を示す棒グラフである。
【0012】
図2は、本明細書に開示する主題の1つ以上の実施形態に係る、pH4にて30分間培養した後の野生型kerAプロテアーゼ及びkerAのバリアントの活性の回復率を示す棒グラフである。
【0013】
図3は、本明細書に開示する主題の1つ以上の実施形態に係る、85℃にて20秒間インビトロで培養を行った後の野生型kerAプロテアーゼ及びkerAのバリアント1の活性率を示す棒グラフである。
【0014】
図4は、本明細書に開示する主題の1つ以上の実施形態に係る、造粒条件下に置かれた後の野生型kerAプロテアーゼ及びkerAのバリアント1の活性率を示すボックスプロットである。
【0015】
〔詳細な説明〕
以下、(全てではないが)幾つかの実施形態を示す添付図面を参照して、本明細書に開示する主題をより詳細に説明する。ここで説明する本明細書に開示する主題の多くの変形例及びその他の実施形態は、当業者であれば、上記説明における教示内容及び対応図面を用いて想起できるものであろう。したがって、本明細書に開示する主題は、ここに開示する特定の実施形態に限定されるものではなく、添付する特許請求の範囲内で変形例及びその他の実施形態が含まれることを理解されたい。
【0016】
本明細書に開示する主題は、バチルス・リケニホルミス由来のkerAプロテアーゼのバリアント(すなわち、熱安定性が向上したバチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼ:アクセッション番号Q53521(「kerA」))に関する。熱安定バリアントはそれぞれ、少なくとも1つの修飾したアミノ酸を含み、バリアントの幾つかは野生型kerA酵素と比べて、アミノ酸配列内に最大で4つの修飾を有する。上記1つ(あるいは複数)の修飾したアミノ酸を有することにより、バリアントの、熱、低pH、またはその両方に対する安定性が向上する。さらに、本明細書に開示する主題は、上記プロテアーゼのバリアントをコードするDNA、核酸構築物、発現ベクター及び上記ポリヌクレオチドを含む宿主細胞に関し、また、これらの生成方法及び使用方法に関する。幾つかの実施形態において、本明細書に開示する主題は、飼餌料の消化率及び/または栄養価を高めるための、該バリアントのプロテアーゼの飼餌料添加物としての使用に関する。
【0017】
特に記載がない限り、本明細書内で用いられる技術用語は、本開示が属する分野において通常の知識を有する者が通常理解する意味で用いられる。
【0018】
長年の特許法の慣例に従って、特許請求の範囲を含む本出願においては、不定冠詞「a」、「an」または定冠詞「the」が付された用語が示すものは、1つ以上であるとする。したがって、例えば、「タンパク質(a protein)」に言及している場合、別の意味が明示されない限り、複数のタンパク質を包括するものである。
【0019】
本明細書及び添付する特許請求の範囲において、「約」(「about」)という用語は、1つ以上の数値または1つ以上の数値範囲に関連して用いられるとき、そのような数値全てを指し、ある範囲に含まれる全ての数値を含み、また該数値の上限下限に幅を持たせて上記範囲を変更するものであると理解されたい。端点を示した数値範囲の記載には、例えば、該範囲に含まれる全ての整数と、それらの端数も含まれ(例えば、「1~5」という記載には、1、2、3、4、5だけではなく、それらの端数(例えば、1.5、2.25、3.75、4.1等))、該範囲内のいずれの範囲も含まれる。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、別の解釈が示唆される場合を除き、「含む」(「comprise」、「comprises」、「comprising」)という用語は、包括的な意味合いで用いられる。同様に、「含む」(「include」)及びそれに類する用語には、限定する意図はなく、項目を列挙する記載は、列挙した項目に対して代替可能または追加可能な他の類似項目を排除するものではない。
【0021】
ここで用いる「飼餌料」という用語は、動物が摂取するのに適した、あるいは摂取する目的で作られた化合物、調合物、混合物または組成物を指すものである。幾つかの実施形態において、上記飼餌料は家禽用飼餌料または豚用飼餌料組成物であってよい。
【0022】
「核酸構築物」または「発現ベクター」という用語は、直鎖状または環状DNA分子を指し、該DNA分子はバリアントkerAプロテアーゼの発現をもたらすその他のヌクレオチドに作動可能に連結されているkerバリアントをコードするポリヌクレオチドを含んでいる。
【0023】
本明細書で用いる「向上した熱安定性」、「増強された熱安定性」または「高められた熱安定性」という表現は、バリアントが、高温での培養期間(幾つかの実施形態において、60℃~85℃にて20秒~30分)後に、野生型kerAに比べて高いプロテアーゼ活性保持率を示していること、または、緩衝液に浸した状態または製品保管/輸送時の条件等の条件下またはこれに類似した産業利用時の条件のいずれか一方にて、低pH(幾つかの実施形態において、pH4)での活性が向上していること、を意味している。開示するバリアントのプロテアーゼが野生型kerAプロテアーゼよりも熱安定性が向上しているか否かは実施例に示すように判定できる。さらに、本明細書で用いる「安定性」及び「熱安定性」という用語は、明細書及び特許請求の範囲において交換可能に用いられるものである。
【0024】
「単離されている」及び「精製されている」という用語は、明細書及び特許請求の範囲において交換可能に用いられるものであり、ここでは元々の環境(例えば、天然のものであればその自然環境)から分離された物質を指す。例えば、ある物質が、ある特定の組成物において、天然または野生型の生物における濃度よりも高いまたは低い濃度で存在している場合、もしくは天然または野生型の生物から発現したときには通常存在しない成分と共に存在している場合は、その物質は「精製」されているとする。よって、動物の生体内に存在する天然のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドであっても、自然の系において共存している物質の一部または全部から分離されたものは単離されている。幾つかの実施形態において、このようなポリヌクレオチドはベクターの一部であり、及び/またはこのようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドは組成物の一部である。そしてさらに、該ベクターまたは組成物がポリヌクレオチドまたはポリペプチドの自然環境の一部ではない場合、このポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されている。幾つかの実施形態において、核酸またはタンパク質が電気泳動ゲルまたはブロットにおいて実質的に1つのバンドとして現れる場合、該核酸またはタンパク質が精製されているとされる。
【0025】
本明細書で用いる「プロテアーゼ」という用語は、いかなるプロテアーゼ酵素をも指し、「プロテアーゼ」及び「酵素」という用語は、明細書及び特許請求の範囲において交換可能に用いられる。よって、幾つかの実施形態において、プロテアーゼとは、農業において飼餌料の消化率を高めるために動物用飼餌料添加物として用いられるプロテアーゼの一種である。
【0026】
本明細書で用いる「タンパク質」という用語はタンパク質、ポリペプチド、及びペプチドを含むものである。幾つかの実施形態において、「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」の用語は交換可能に用いることができる。
【0027】
本明細書で用いる「配列同一性」という用語は、二つのアミノ酸配列または二つのヌクレオチド配列の関連性を表すものである。本明細書に開示する主題においては、二つのアミノ酸配列の配列同一性度は、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277)のNeedleプログラムにおいて実施されるNeedle-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)を用いて求められる。幾つかの実施形態において、任意のパラメータとして用いられるものは、ギャップオープンペナルティ(gap open penalty)10、ギャップ延長ペナルティ(gap extension penalty)0.5、及びEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換基質である。「longest identity」(-nobrief optionを用いて得る)とされたNeedleの出力を同一性のパーセンテージとし、配列同一性度は(同一残基×100)/(整列長-整列内の総ギャップ数)を用いて計算される。
【0028】
本明細書で用いる「安定性」という用語は、プロテアーゼのバリアントが、標準状態における野生型と同等またはそれ以上の活性を有するための能力を示し、また高温及び/または酸性条件(約pH4.0)に30分間晒された後において活性を保持するための高い能力を示す。幾つかの実施形態において、「安定性」と「熱安定性」とは交換可能に用いることができる。
【0029】
本明細書で用いる「バリアント」という用語は、以下のようなポリペプチドを指すものである。すなわち、プロテアーゼ活性を有し、野生型と比べて1つ以上の位置において変異(すなわち、置換、挿入及び/または欠失)が生じているポリペプチドである(上記野生型とは、該バリアントと同一のアミノ酸配列を有しているが、上記に特定した位置の1つ以上の位置において変異が生じていないプロテアーゼを指す)。置換とは、ある位置を占めるアミノ酸が他のアミノ酸と入れ替わることを意味し、欠失とは、ある位置を占めるアミノ酸が取り除かれることを意味し、挿入とは、1つ以上のアミノ酸が付加されることを意味する。幾つかの実施形態において、開示するバリアント配列は、少なくとも1つの変異を有し、配列の残部は、配列番号1に示すアミノ酸と少なくとも70%同一である。よって、幾つかの実施形態において、開示する各バリアントの配列の残部は、配列番号1に対して少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または少なくとも99%同一である。
【0030】
本明細書で用いる「野生型」または「野生型プロテアーゼ」または「野生型kerA」または「kerA」という用語は、バチルス・リケニホルミスPWD-1プロテアーゼkerA:アクセッション番号Q53521を示す。
【0031】
本明細書に開示する主題は、野生型プロテアーゼに比べて熱安定性が向上している、タンパク質分解酵素kerAのバリアントに関する。表1に示すように、開示するプロテアーゼのバリアントは、成熟したバチルス・リケニホルミスPWD-1プロテアーゼkerA(「kerA」)の少なくとも1つのアミノ酸残基の変異によってもたらされたものである。
【0032】
当業者であれば理解し得るように、下記の表1において、Aで示されるアミノ酸はアラニン、Pはプロリン、Nはアスパラギン、Sはセリン、Dはアスパラギン酸、Gはグリシン、Cはシステイン、Eはグルタミン酸、Yはチロシン、そしてRはアルギニンを示す。同様に、表1において、Aで示されるDNAの塩基はアデニン、Tはチミン、Gはグアニン、そしてCはシトシンを示す。表1におけるアミノ酸置換には、「天然のアミノ酸-位置-置換アミノ酸」という命名規約を用いている。したがって、野生型kerAアミノ酸配列の298番目のアラニンがプロリンに置換したものは「A298P」と表される。
【0033】
【表1】
【0034】
開示するバリアントは、発達野生型kerAプロテアーゼの145、222、227、265、270、298、322、及び/または363番目に対応する少なくとも1つの位置においてアミノ酸の変異を生じている。当該分野の当業者であれば理解し得るように、開示するバリアントは任意で、さらに1つ以上の別の位置において1つ以上の別の修飾を含んでもよい。このアミノ酸の変異は軽微な性質のもの(タンパク質のフォールディング及び/または活性に大きな影響を与えないアミノ酸の保存的置換または挿入)、少数の欠失(通常1~30のアミノ酸)、少数のアミノ末端またはカルボキシル末端の延長(アミノ末端のメチオニン残基など)、少数の結合ペプチド(最大20~25残基)、ならびに/もしくは実効電荷を変化させるか、またはその他の作用によって精製を容易にするような少数の延長(ポリヒスチジン領域、抗原エピトープ、及び/または結合領域など)である。
【0035】
このように、幾つかの実施形態において、本開示のバリアントのプロテアーゼは、熱安定性を向上させる修飾に加えて、アミノ酸残基において1つ以上の置換を有してもよい。これら1つ以上の置換は保存的または非保存的置換であってよく、いずれの場合も、このようなさらなる置換を有するバリアントのプロテアーゼは十分なプロテアーゼ活性を有しており、野生型酵素に比べて高い熱安定性を保持している。保守的置換とは例えばアラニン、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニン等の1つの非極性(疎水性)残基の他の基への置換、アスパラギンとグルタミンとの間の置換、トリプトファン、チロシンまたはフェニルアラニン等の1つの大きな芳香族残基の別の基への置換、グリシン、セレオニン、セリン、及びプロリン間の置換のような、1つの小さな極性(親水性)残基の別の基への置換、リシン、アルギニンまたはヒスチジン等の1つの塩基性残基の別の基への置換あるいはアスパラギン酸またはグルタミン酸等の酸性残基の別の基への置換である。
【0036】
本明細書に開示する主題は、プロテアーゼ活性を有し、野生型kerAプロテアーゼと比べて高い熱安定性を保持していれば、ここで述べるバリアント配列の断片を含んでもよい。
【0037】
開示するバリアントは、(それに限定するわけではないが)約60℃~約85℃という高温条件にて、熱安定性が向上している(すなわち、野生型kerAプロテアーゼに比べて安定している)。バリアントのプロテアーゼが野生型プロテアーゼに比べて熱安定性が向上しているか否かは実施例に示すように判定できる。
【0038】
幾つかの実施形態において、本明細書に開示する主題は、バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼのポリペプチドバリアントであって、(a)A298P:N322S:S363D(配列番号1)、N322S(配列番号2)、G222S:N265C:N322S(配列番号3)、P145E:A298P:N322S:S363D(配列番号4)、N322S:S363D(配列番号5)、P145E:N322S(配列番号6)、N265C:N322S(配列番号7)、P145E:A298P:S363D(配列番号8)、N265C(配列番号9)、G222S:N265C(配列番号10)、G222S:N227Y(配列番号11)、N265C:G270R(配列番号12)、P145E:S363D(配列番号13)、またはG222S:N227Y:N265C:A298P(配列番号14)の配列、(b)上記(a)に示すバリアント配列であって、該配列の残部において少なくとも70%の配列同一性を有するものであり、プロテアーゼ活性を有し、バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼと比べて高い熱安定性を保持しているバリアント配列、(c)上記(b)に示すバリアント配列であって、該少なくとも70%の配列同一性は保守的置換のみからなるバリアント配列、または(d)上記(a)、(b)または(c)に示すバリアント配列の断片であって、プロテアーゼ活性を有し、バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼと比べて高い熱安定性を保持しているバリアント配列の断片、に示す配列を含むポリペプチドバリアントに関する。幾つかの実施形態において、上記少なくとも70%の配列同一性は、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも98%の同一性、または少なくとも99%の同一性を含む。
【0039】
幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む核酸構築物または発現ベクターであって、ポリヌクレオチドが、発現宿主細胞内において上記バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている核酸構築物または発現ベクターを提供する。
【0040】
幾つかの実施形態において、上記バリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む組み換え型発現宿主細胞であって、該ポリヌクレオチドが、該バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている組み換え型発現宿主細胞を提供する。
【0041】
幾つかの実施形態において、本開示におけるバリアントのプロテアーゼの生成方法であって、該バリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む組み換え型発現宿主細胞を培養することを含み、前記ポリヌクレオチドが、該バリアントのプロテアーゼの生成を促す条件下にて該バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、バリアントのプロテアーゼの生成方法を提供する。上記方法は、該バリアントのプロテアーゼを回復することをさらに含む。
【0042】
幾つかの実施形態において、本開示におけるバリアントのプロテアーゼを含む全培養液成分または細胞培養組成物を提供する。
【0043】
本明細書に開示する主題は、開示するkerAバリアントを得る方法にも関する。幾つかの実施形態において、開示する方法は野生型kerAプロテアーゼを得ることと、該野生型kerAの145、222、227、265、270、298、322、363番目のアミノ酸位置、または、その組み合わせに置換を導入することと、該バリアントを回復することとを含む。開示するプロテアーゼのバリアントの由来となる上記野生型プロテアーゼは、バチルス・リケニホルミスから得られるkerAプロテアーゼである。幾つかの実施形態において、kerA遺伝子は、B.リケニホルミス野生株から染色体DNAを単離し、該kerAプロテアーゼの領域をコードすると推定されるDNA配列と相同なDNAプローブを作製し、該単離した染色体DNAからゲノムライブラリを作成し、該プローブをハイブリダイゼーションして対象遺伝子のライブラリをスクリーニングすることによって得てもよい。
【0044】
kerAバリアントは、当該分野において公知の突然変異誘発法を用いて生成してもよく、該誘発法としては(それに限定するわけではないが)部位特異的突然変異誘発法、合成遺伝子構築法、半合成遺伝子構築法、ランダム変異誘発法、シャッフリング等が含まれる。よって、幾つかの実施形態において、開示するバリアントは、所望の変異を含むオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRにより、インビトロで野生型kerA遺伝子の部位特異的突然変異誘発法を用いることで得てもよい。幾つかの実施形態において、部位特異的突然変異誘発は当該分野において公知の方法を用いてインビボで実施してもよい。尚、開示する方法が限定されるものではないことを理解されたい。
【0045】
幾つかの実施形態において、kerAのバリアントは、目的とする変異に特化したプライマーをプールしたものを用いて生成し、様々な変異を組み合わせたkerA変異体のライブラリを作成してもよい。幾つかの実施形態において、発現プラスミドにクローニングしたkerA遺伝子を用いてライブラリを作成できる。発現プラスミドは組み換え型DNA処理を行うことができるプラスミドであればよく、プラスミドはそれを導入する宿主細胞に応じて選択すればよい。部位特異的突然変異誘発の実施後は、該プラスミドのプールはE.coliを形質転換してもよい。プラスミドプールはその後E.coliから単離させ、B.サブチリスを形質転換してもよい。次に、各クローンを発現させて、高温及び/または酸性pH環境に晒した後にプロテアーゼ活性を分析してもよい。陽性のクローンの塩基配列を決定し、各クローンの変異の組み合わせを特定してもよい。
【0046】
ここで述べるバリアントkerAプロテアーゼの他に、本明細書に開示する主題は、該バリアントkerAプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドも含むことを理解されたい。本明細書に開示する主題は、宿主発現細胞内においてバリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、開示するポリヌクレオチドを含む核酸構築物及び/または発現ベクターをさらに含む。バリアントのプロテアーゼをコードする組み換え型ポリヌクレオチドを含む組み換え型発現宿主細胞も本明細書に開示する主題の範囲に含まれる。
【0047】
幾つかの実施形態において、開示するプロテアーゼのバリアントを当該分野において公知かつ使用されている多種多様な方法を用いて精製され得る。例えば、該バリアントはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、親和クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング(等電点電気泳動)、及びサイズ排除クロマトグラフィー)、電気泳動(例えば、分取等電点電気泳動)、示差溶解度法(例えば、硫安沈殿)、SDS-PAGE、及び/または抽出法を用いて精製してもよい。
【0048】
幾つかの実施形態において、本明細書に開示する主題は、開示するバリアントのプロテアーゼの生成方法に関する。特に、開示する方法は、バリアントのプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む組み換え型発現宿主細胞を培養することを含む方法であって、前記ポリヌクレオチドは、上記バリアントのプロテアーゼの生成を促す条件下にて上記バリアントのプロテアーゼの生成を指示する1つ以上の制御配列に作動可能に連結されている、バリアントのプロテアーゼの生成方法を提供する。幾つかの実施形態において、開示する方法は、該バリアントのプロテアーゼを回復することをさらに含む。幾つかの実施形態において、本明細書に開示する主題は、上記バリアントのプロテアーゼを含む全培養液成分または細胞培養組成物を含む。
【0049】
幾つかの実施形態において、本開示におけるバリアントのプロテアーゼを含む動物用飼餌料添加物を提供する。
【0050】
本明細書に開示する主題はさらに、開示するkerAのバリアントのプロテアーゼを含む組成物(動物用飼餌料組成物等)に関する。幾つかの実施形態において、上記組成物には、動物による動物用飼餌料の消化率を高めるのに十分な量の上記バリアントのプロテアーゼが含まれている。幾つかの実施形態において、開示するkerAのバリアントのプロテアーゼを含む動物用飼餌料は家禽用飼餌料または豚用飼餌料である。開示する組成物は、当該分野において公知の方法に従って生成してもよく、また、液状または乾燥した状態の組成物であってよい。例えば、kerAのバリアントを含む組成物は粒状または微粒子状であってよい。該組成物に含まれるポリペプチドの安定化は当該分野において公知の方法に従って実施してもよい。よって、幾つかの実施形態において、開示するkerAのバリアントは動物用飼餌料の組成物に直接添加してもよく、あるいは、飼餌料に後から添加されるか処理工程において用いられる飼餌料添加物または混合飼餌のような1つ以上の中間の動物用飼餌料組成物製品に用いてもよい。組成物中の該バリアントのプロテアーゼは、動物による動物用飼餌料の消化率を高めるのに十分な量を含んでいる。幾つかの実施形態において、開示するバリアントは、栄養学的に許容可能なキャリア、栄養学的に許容可能な希釈剤、栄養学的に許容可能な賦形剤、栄養学的に許容可能なアジュバント及び/または栄養学的に有効な成分と共に用いてもよい。幾つかの実施形態において、開示する組成物または添加物は、脂溶性ビタミン、水溶性ビタミン、微量の鉱物、またはそれらを組み合わせたものを含んでもよい。
【0051】
幾つかの実施形態において、開示するプロテアーゼのバリアントは、飼餌料1g当たり約6ユニット~約3000ユニットのプロテアーゼ活性を有して組成物中に含まれてもよい(すなわち、6U~約3000U/g飼餌)。プロテアーゼ活性1ユニット(U)は、37℃、pH8.0の条件にて、波長410nmにおける15分間の吸光度の変化量が0.01である場合として定義する。幾つかの実施形態において、飼餌料は飼餌料1g当たり約6~3000、約10~2000、または約12~1500ユニットのプロテアーゼのバリアントを含んでもよい。
【0052】
幾つかの実施形態において、開示する組成物は、(a)小粒穀物(例えば、小麦、大麦、ライ麦、オート麦及びこれらの組み合わせ)等の穀物及び/またはトウモロコシまたはモロコシ等の大粒穀物、(b)コーングルテンミール、乾燥蒸留穀物残渣可溶分(DDGS)、小麦ブラン、粗挽き小麦、小麦微麩、米ブラン、米もみ殻、オート麦もみ殻、ヤシ殻、及び柑橘類のパルプ等の穀物の副産物、(c)大豆、ひまわり、落花生、ルピナス、えんどう豆、空豆、綿、カノラ、魚粉、乾燥血漿タンパク質、肉骨粉、じゃがいもタンパク質、乳清、コプラ、ゴマ等から得られるタンパク質、(d)植物性または動物性の油脂及び/または(e)鉱物およびビタミン、からなる群から選ばれた飼餌料と共に用いることができる。
【0053】
本明細書に開示する主題は、高温において、熱安定性が向上したプロテアーゼのバリアントを提供する。よって、該バリアントが動物用飼餌料組成物の一部として含まれる場合、飼餌料の加工サイクル後に残存するプロテアーゼの量が増加する。その結果、飼餌料組成物の栄養価が高まる。
【0054】
〔実施例1〕安定性が向上したバチルス・リケニホルミスkerAのバリアントの同定
熱安定性及び酸性条件下における安定性に最も影響があると考えられるバチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼ:アクセッション番号Q53521(「kerA」)のアミノ酸配列における位置の特定を目的とした。これまでの人工プロテアーゼの文献を精査することによって、アミノ酸の置換基の候補を特定した。文献から3つのタンパク質配列を選び出した。これらの配列を整列させ、これに基づいて、触媒反応に影響を与える可能性がある位置を除いて、潜在的ホットスポットを特定した。特定された変異候補はMartinez et al., Biotechnology & Bioengineering, Vol. 110, No. 3, 2013に記載のバチルス・ギブソニイアルカリプロテアーゼ由来のP145E、S363Dと、Liu et al., World Journal of Microbiology and Biotechnology, 2013, Vol. 29, No. 29, pp. 825-832に記載のバチルス・リケニホルミスBBE11-1由来のN227Yと、Zhao et al., Protein Engineering, Vol. 12、No. 1, 1999, pp. 47-53に記載のサブチリシンE由来のG222S、N265C、G270R、A298P、N322Sとを含む。
【0055】
目的とする変異に特化したプライマープールを用いてkerAのバリアントをランダムに生成し、様々な変異を組み合わせてkerA変異体のライブラリを作成した。該ライブラリは、B.サブチリス発現プラスミド(pRB374)にクローニングしたkerA遺伝子を用いて作成した。PCR後に(ここでは部位特異的突然変異誘発法の標準プロトコルを用いた)、該プラスミドプールをE.coliを形質転換した。その後、該プラスミドプールをE.coliから単離させ、B.サブチリスを形質転換させた。続いて、各クローンを発現させ、高スループットな手法を用いてプロテアーゼ活性を分析した。標準状態下において野生型プロテアーゼと同等またはそれ以上の活性を有し、高温及び/または酸性pH(4.0)の環境に30分間晒された後の活性保持力が高い変異体を陽性とした。これら陽性のクローンの配列を決定して各クローンにつき1つ以上の変異体を特定した。合計14のkerAバリアントが熱安定性に関して良好な性質を有していると認められた。具体的なアミノ酸及びDNAの塩基の変異を上記表1に示している。
【0056】
活性の測定のために、発現したバリアントのプロテアーゼを60℃にて30分間培養して室温下で保持し、これを一反復した。回復率は各バリアントの活性保持力を比較することで算出した。そのデータを図1のグラフに示した。野生型kerA酵素は、高温での培養後に約26%のプロテアーゼ活性を保持していた。kerAのバリアントは、全て30~82%の活性を保持しており、野生型酵素と比較して著しく向上していた。
【0057】
上記14のkerAのバリアントのそれぞれのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を上記表1に列記している。
【0058】
〔実施例2〕pH4におけるバチルス・リケニホルミスkerAのバリアントの活性試験
バリアント1~14及び野生型kerA酵素を室温、pH4.0にて30分間培養した。30分間の培養後に残存する活性率を測定し、図2に示した。図2に示すように、野生型kerA酵素は、pH4での培養後に約24%のプロテアーゼ活性を保持していた。20%の活性しか保持していなかったバリアント8を除いて、試験を行った各kerAのバリアントは野生型酵素よりも高い活性を示した(約25~69%の活性)。
【0059】
〔実施例3〕飼餌料ミルの処理環境の検討
野生型kerA及びバリアント1の両方を緩衝液内にて85℃で培養し、ペレットミルの処理を再現した。培養後、標準状態において両サンプルのプロテアーゼ活性を分析した。そのデータを図3のグラフに示す。kerAサンプルは、20秒間の培養後に当初の活性の65%を保持していた。バリアント1サンプルは、20秒間の培養後に当初の活性の82%の活性を保持しており、試験条件下での熱安定性が23%向上した。両サンプル共に、培養しない場合(対照)のプロテアーゼ活性も分析した。対照の分析では、両サンプルが100%の活性を示した。
【0060】
〔実施例4〕飼餌料ミルの造粒の検討
熱安定kerAのバリアント酵素の熱安定性が野生型kerAと比べて向上していることを確認するために、高温での造粒を検討した。トウモロコシ・大豆を主原料とする二種類のブロイラー用飼料(一方はkerA酵素を含み、他方はkerAの熱安定バリアント(バリアント1)を含む)を混合して粉餌にして、毎時1トンのペレットミルを用いて目標処理温度である90℃(195°F)にて造粒した。製造速度を毎時約1トン、60RPM、及び型のサイズ5/32"、有効厚み1.25"として、目標処理時間は35秒とした。造粒後に、標準状態において両方のサンプルのプロテアーゼ活性を評価した。活性を図4のグラフに示した。上記条件において、バリアント1の造粒後の回復率は野生型kerAと比べて80%の上昇が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、本明細書に開示する主題の1以上の実施形態に係る、60℃にて30分間酵素を培養した後の野生型バチルス・リケニホルミスkerAプロテアーゼ:アクセッション番号Q53521(「kerA」)及びkerAのバリアントの活性の回復率を示す棒グラフである。
図2図2は、本明細書に開示する主題の1つ以上の実施形態に係る、pH4にて30分間培養した後の野生型kerAプロテアーゼ及びkerAのバリアントの活性の回復率を示す棒グラフである。
図3図3は、本明細書に開示する主題の1つ以上の実施形態に係る、85℃にて20秒間インビトロで培養を行った後の野生型kerAプロテアーゼ及びkerAのバリアント1の活性率を示す棒グラフである。
図4図4は、本明細書に開示する主題の1つ以上の実施形態に係る、造粒条件下に置かれた後の野生型kerAプロテアーゼ及びkerAのバリアント1の活性率を示すボックスプロットである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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