(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】核除染のための電解処理
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20220203BHJP
C25F 1/06 20060101ALI20220203BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G21F9/06 561
C25F1/06 B
G21F9/28 525B
(21)【出願番号】P 2019502200
(86)(22)【出願日】2017-07-25
(86)【国際出願番号】 GB2017052162
(87)【国際公開番号】W WO2018020228
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-22
(32)【優先日】2016-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518023636
【氏名又は名称】シー-テック イノベーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】コリンズ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】クローフォード ロバート
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-162800(JP,A)
【文献】特開昭60-203495(JP,A)
【文献】特開昭62-044599(JP,A)
【文献】特開平09-113690(JP,A)
【文献】特開2003-285069(JP,A)
【文献】特開2005-140761(JP,A)
【文献】特開2016-031356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0075456(US,A1)
【文献】国際公開第2013/114142(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06
C25F 1/06
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から核汚染を除去する方法であって、
前記方法は、硝酸を電解質として用いた電気酸洗い処理における表面に、方形の交流波形をバイアスにかけた直流を印加することを含み、ここで、硝酸は塩化物または有機キレート添加物が添加されている;、
さらに、前記方法は、電気化学的酸化分解処理を含み、
ここで、電気化学セル内で、ハロゲン化物をハロゲンに変換し、有機物を二酸化炭素に変換し;、
および、ここで、電解液を電気化学的酸化分解処理と電気酸洗い処理の間で再循環させる、方法。
【請求項2】
前記
直流のバイアスは、前記交流波形の周波数よりも低い周波数で周期的に反転される、請求項1に記載の核汚染を除去する方法。
【請求項3】
前記
交流の周波数は、5Hzと100Hzとの間である、請求項1または2に記載の核汚染を除去する方法。
【請求項4】
前記添加される塩化物または有機キレート添加物は、塩酸、クエン酸、シュウ酸、エチレンジアミン四酢酸を含むグループから選択され
る、請求項1から3のいずれか一項に記載の核汚染を除去する方法。
【請求項5】
廃液流を電気化学的に処理して塩化物および有機キレート添加物を除去するステップをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の核汚染を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核汚染、特に表面からのその除去の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面の汚染除去は、金属が放射性核種と接触して汚染される原子力産業を含む産業において一般的な問題である。汚染された金属には、ダクト、配管、グローブボックス、貯蔵容器、撹拌機などの機械的部品が含まれる。いったん金属が放射性種を含む媒体と接触すると、放射性元素が表面と反応するか、さもなければその中に短時間浸透するかのいずれかであるため、単純なすすぎまたは洗浄によって除去することができない残留放射能が表面に残る。金属の表面に直接、および/または金属に伝播する亀裂に沿って、表面へのいくらかの拡散がある場合もある。その結果、表面に放射能が付随する。放射性元素としては、ウラン、プルトニウムおよびそれらの崩壊生成物、ならびに放射能に曝露された他の元素の放射性同位体が挙げられる。
【0003】
これは、そのような材料の取扱いおよび廃棄を危険にさらすので、課題である。近接が許容放射線被ばくに寄与するため、近くに近づくことができないか、近くに長く近づくことができない。したがって、この汚染に対処するために、追加の予防措置および方法および設備が必要とされ、その目的は、汚染を封じ込め、健康に対する危険を最小限にし、従来のリサイクル処理を介して再使用するために除染金属から金属を回収することである。
【0004】
さらなる挑戦は、表面汚染が静的ではなく、表面処理に応じて変化し得ることである。場合によっては、汚染された表面層を除去した後に、汚染が「浸出し戻る」、すなわち、表面の放射能が除染処理後に減少し、その後増加することが見出される。これは、表面下層から新しく作られた表面への種の拡散の結果である。このことは、いかなる汚染除去処理に対しても効果的な制御を行う必要性を強調している。
【0005】
この課題に対処する従来の手段は、品目全体の物理的な除去および廃棄である。この方法の明らかな欠点は、廃棄または貯蔵されるべき汚染された材料の体積がより大きく、リサイクルを介して、いずれの材料も一般的な使用に戻す可能性がないことである。
【0006】
第2の手段は、US5268128A(WESTINGHOUSE)93年12月7日「Method and apparatus for cleaning contaminated particulate material」に記載されているような製錬所を使用することであり、その動作条件は、放射性汚染が最終的にスラグ中になり、これは分離され、次いで、無期限に貯蔵され、US2013296629A(KEPCO NUCLEAR FUEL CO LTD)13年11月07日に記載されているような溶融除染を用いた放射性金属廃棄物の処理と組み合わせられ、再利用のための非汚染流として金属のバルクを回収する。この方法は商業的に操作される。このアプローチの欠点は、大規模な設備が必要とされ、それ自体、広範な規制手段が必要とされることである。
【0007】
それ故、金属ベースの大部分が更なる予防措置なしにリサイクルされ得るように、材料を除染する手段を有することが好ましい。これは、例えば、解体および廃止措置作業を低い危険性で実施することができるように、現場で容器に適用することができ、また、解体後に、再使用のためにより多くの材料を回収する目的で適用することができる。
【0008】
このようなプロセスの第一段階は、グリースまたはペイントのような汚染物質の除去である。適切なプロセスは、グリースを除去するための溶媒の使用、および塗料を除去するためのグリットブラスティングなどの研磨技術の使用を含み得る。US2009060780A(WESTINGHOUSE ELECTRIC GERMANY)09年3月5日「Device & method for the treatment and or decontamination of surfaces」、または表面の機械加工に記載されるようなレーザーアブレーションもまた使用され得る。これらの方法は、効果的であるが、微粒子廃棄物および蒸気を発生させる遅くて手作業で集中的な処理であり、したがって、さらなる危険制御および封じ込めの課題を提示する。溶媒ベースの処理は、後で放射性核種の下流の処理および抽出を汚染する有機材料が導入される可能性があるというさらなる欠点を有する。
【0009】
グリースおよび塗料を除去すると、金属の表面層を除去する手段が必要である。種々の手段が知られている。
【0010】
1つの方法は、任意の酸化物または他の堆積層を含む金属の汚染層を化学的に溶解することである。課題は、この汚染された層を完全に溶解すると同時に、汚染されていない基板金属の有限で制御された量のみを溶解することである。酸処理は、軟鋼および304ステンレス鋼を含むステンレス鋼、ならびに他の材料にも使用される。硝酸は硝酸塩として関心のある汚染物質の高い溶解度のために、また硝酸に対する304ステンレス鋼の良好な耐食性のために、原子力産業において一般に使用される。放射性汚染は、例えば英国、SellafieldのEnhanced Actinide Removal Plant(EARP)で使用されるような沈殿および凝集を含む標準的な手段によって硝酸から回収される。
【0011】
金属表面の他の化学処理は、金属の熱処理によって酸化物表面層が生じ、この酸化物表面層は、さらなる処理ステップを実行する前に除去しなければならない、金属仕上げ産業において知られている。酢酸の使用(「酸洗い」という用語の使用)、硫酸、および軟鋼には塩酸、ステンレス鋼にはフッ化水素酸、またはフッ化水素/硝酸混合物などの他のまたは追加の薬剤の使用を含む様々な化学処理が知られている。これらの処理は、下流の流出物処理プラントのステンレス鋼構造と適合しないので、核除染における使用には好ましくない。
【0012】
溶解剤として硝酸を使用することによる限界は、溶解反応が遅く、非常に長い処理時間が必要とされることである。反応速度は、塩化物、フッ化物などの錯化剤、およびクエン酸、シュウ酸およびエチレンジアミン四酢酸などの有機錯化剤を加算することによって増加させることができる。これらの薬剤は、表面汚染との反応速度を増加させるが、より腐食性であり、従来の核流出物処理プラントを使用して処理することができず、それらの構築に使用される金属に対して腐食性である液体を作り出すという犠牲を払う。
【0013】
表面除染の別の方法は、例えば、US7384529B(US ENERGY)08年6月10日「Method for electrochemical decontamination of radioactive metal」に開示されているような電気化学プロセスを使用することであり、この場合、電流は、導電性電解質浴を使用して汚染された物品を通過する。電気化学的デスケーリング(または「電気酸洗い」)は、金属加工において一般に使用される。この方法は、表面除去率が化学的方法よりもはるかに大きいという点で、化学的方法よりも顕著な利点を有する。実際的な結果は、汚染除去されるべき表面の所与のスループットに対して、電気化学的処理が化学的処理よりもはるかに少ない量の酸性試薬を必要とすることである。さらなる利点は、電気化学的処理が印加される電位によって決定される通過電流のレベルに直ちに応答するので、電気化学的処理が容易に制御可能であることである。しかし、電気化学的処理は、幾何学的形状が対向電極を作業部品の近くに配置することを可能にする場合にのみ有効であるという点で、重大な欠点を有する。これは、対向電極からの距離が増加することにつれて、電界、従って電流密度が急速に減少するからである。本発明において、この制限は、新鮮な溶液が金属と接触する場所に作用する化学エッチング法と比較して、制限された「つきまわり性」と称される。「つきまわり性」は、電気めっき産業で使用される用語である。電気めっきプロセスにおける良好なつきまわり性は、電場が弱い領域における電気めっきの比較的高い速度を指し、電場が弱い同じ領域における堆積速度が比較的遅い不十分なつきまわり性と比較される。本発明の説明において、「つきまわり性」は、表面層の電気化学的除去のために以下の意味で使用される:良好なつきまわり性は、弱い電場の領域における除去速度が比較的低い、より乏しいつきまわり性を有するプロセスと比較して、弱い電場の領域における表面除去速度が比較的高いことを意味する。
【0014】
電気酸洗いに使用するための電気波形の選択は、以前の研究の主題であり、直流オフセットを交流波形に組み合わせることは、直流電流のみの使用または化学的方法の使用のいずれかよりもはるかに速い処理を与えるので、主に有利であることが見出されている。US2003075456A(COLLINSら)03年4月24日では、DCバイアスなしのAC波形を使用する場合よりも、DCバイアス付きのAC波形を使用して、酸化物膜でコーティングされた広範囲の金属をより迅速にスケール除去できることが示されている。また、DCバイアスの極性を周期的に反転させることが有利であることが示された。金属の表面上の酸化物層の除去または洗浄は、AC電流のみの使用と比較して、DCバイアスがAC波形に印加された場合、より速いことが示された。クリーニング機構は、汚染層のいくらかの溶解、下にある金属が溶解するいくらかのアンダーカット、および界面での気泡の発生から生じるいくらかのスクラビング作用を含む。
【0015】
DCバイアスを有するACは、酸化膜の分解をより速く可能にする、なぜなら、溶解が起こる電位範囲において、DC電流のみが、表面の不動態化または酸素の発生およびピッチングのいずれかをもたらし、AC電流のみが、溶解効果の減少をもたらすからである。DCバイアスを有するAC電流は、局所的なピッチングを最小限に抑えながら、最適な溶解を与えることが見出された。
【0016】
超音波エネルギーは、電気酸洗い処理において適用され得る。超音波エネルギーは、表面における拡散速度の増加および表面に近い固体材料の分解を含む物理的効果の組み合わせによって、いくつかの電気化学的プロセスの有効性を改善することが知られている。しかしながら、超音波エネルギーは、トランスデューサの位置決めにおける幾何学的制約のために、全ての状況においてその場で適用することが困難である。
【0017】
要約すると、原子力産業において知られている様々な表面処理除染方法があるが、いずれも、304ステンレス鋼から構築された従来の流出処理プラントを使用する能力を保持しながら、急速な表面除染、良好な制御性、良好なつきまわり性の所望の組合せを達成しない。
【0018】
原子力産業にとって、迅速かつ効果的なプロセスを有することが重要であり、従来のプラントを用いて後で処理することができる流出物を生成するプロセス、すなわち、プラントを腐食させず、特に、塩化物または有機アニオンの使用が回避される。
【発明の概要】
【0019】
本発明によれば、表面から核汚染を除去する方法は、電解質として硝酸を使用する電気酸洗い処理においてDCバイアスAC波形を印加することを含む。
【0020】
驚くべきことに、塩化物または有機キレート添加剤を硝酸に添加することが有利であることが見出された。
【0021】
また、電気化学的酸化分解処理を含むことができる。理想的には、電解質は、電気化学的酸化分解処理と電気酸洗い処理との間で再循環される。
【0022】
これらのステップを組み合わせて使用することは、良好な除去速度およびつきまわり性、良好な表面除去の制御性を達成し、さらに、硝酸ベースの流出物を取り扱うために建設された従来のベースの下流処理プラントで流出物を処理することを可能にする。
【0023】
記載された方法は、ハロゲン化物および有機金属錯化剤の使用を含む電解質組成物のより大きな柔軟性を同時に可能にしながら、従来の処理プラントで処理される流出物と共に、原子力産業における金属の汚染除去に使用することができる。これらは、表面層除去の有効性に寄与し、次いで、それ自体が酸化的電気化学反応によって分解される。
【0024】
処理の酸化分解部分において、ハロゲン化物は、ハロゲンに変換され、有機種は二酸化炭素に変換され、これらの両方は、放射性汚染されていないため、または非常に低い程度にのみ、安全に除去および処分することができる。放射性ヌクレオチドは、電解質中に残存し、沈殿および濾過などのさらなるプロセス工程において除去する準備が整う。
【0025】
以前の処理と比較して、この処理は、システムの有効な制御を伴う迅速な表面処理を可能にし、従来の流出物処理プラントの使用を可能にする。この方法は、より腐食性の化学処理の投射力および速度向上、電気化学除去プロセスの高速度、電気化学プロセスの効果的な制御、および汚染された流れと汚染されていない流れの効果的な分離のための従来の下流処理プラントの使用を組み合わせる。特に、添加された有機種は、ガス状二酸化炭素として除去される。電気波形タイプ、硝酸中の有機金属錯化剤またはハロゲン化物の組み合わせ、および有機酸の電気化学的分解がこの目的を達成する。
【0026】
このシステムは、以下の特徴のいくつかまたはすべてを有する:
(a)汚染除去浴と、有機金属錯化剤を分解し、ハロゲン化物をハロゲンに還元するように設計された電解槽との間の電解質の再循環。
(b)種々の点で溶液中の金属種の濃度をモニターする金属感知電極。
(c)金属濃度センサおよび/または測定された放射能を含む特定の入力に応答して、汚染除去システムに印加される電力のレベルを調整する制御システム。
(d)有機材料を二酸化炭素に変換し、ハロゲン化物をハロゲンに変換するように設計されたセルにおける電解質の再生。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明で使用される電圧/時間シーケンスの一例を示す。
【
図2】
図2は、本発明を実証するために使用される例示的な電極セットアップを概略的に示す。
【
図3】
図3は、電気酸洗い除染プロセスにおける硝酸への塩酸の添加の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実験
硝酸は、基礎電解質である。これは、標準的な無線ヌクレオチド回収プラントと互換性があり、構築材料を腐食しない。可能な添加剤としては、塩酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、エチレンジアミン四酢酸を含む種々の有機酸、窒素またはリンをベースとするものを含む他の有機金属錯化剤またはキレート化剤、ならびにエチレングリコールおよび他の有機化合物が挙げられる。
【0029】
除染プロセスで使用される電気波形は、DCバイアスされたAC波形であることが好ましい。また、DCバイアスの極性を周期的に反転する可能性を有することが望ましい。これは、金属溶解とヒドロキシルイオンと水素生成との間のバランスを変化させる効果を有し、後者は、表面の不動態化およびスクラビングを防止するのに有益である。DCバイアスは、任意選択的に、連続的に変化させることができる。
【0030】
低電力波形を生成し、次いで電力増幅器、例えばポテンショスタットに供給することができる。このようなプロセスの効率は、低い(例えば、50%程度に低い)が、任意の波形が特定され得るので、柔軟な処理である。
【0031】
電流密度は、ヒドロキシルイオンの濃度に影響するので、本発明の重要な側面である。ヒドロキシルイオンは、不動態化および水素生成と対抗するのを助けるので重要である。したがって、より高い電流では電流の二乗に比例する抵抗加熱による効率の損失があるので、より大きな電流密度は有益であるが、1点までのみである。実際には、最適な電流密度が存在する。好ましい電流密度は、0.1~1アンペア/平方センチメートル、より好ましくは0.4~0.7アンペア/平方センチメートルである。
【0032】
使用される波形のAC成分の周波数は、1~1000Hzの範囲であり得る。好ましい周波数は、5~100Hzの範囲である。周波数が増加することにつれて、インタフェースのキャパシタンスのため、所望の電気化学的変換において使用される電気エネルギーは、より少なくなるが、交流電流は、スクラビングおよび他のメカニズムによる不動態化の除去を助け、実際には5~100Hzの周波数が好ましい。好ましい周波数は、使用される電解質に依存し、また金属表面の組成にも依存する。
【0033】
添加されたハロゲン化物イオンまたは他の酸化添加剤は、第2の電気化学的処理を用いて硝酸溶液から除去される。これは、処理溶液が通過する別個の電気化学セルからなる。この処理は、ハロゲン化物または他の添加剤のレベルの所望の減少を達成するために、セルを通る溶液の複数の経路で、連続的にまたはバッチ式のプロセスで実施することができる。
【0034】
304ステンレス鋼の試験片に対して電気化学的表面処理を行い、続いて電気化学的酸化処理を行って塩化物イオンを除去した。処理の有効性は、試料片の厚さおよび重量損失を測定し、電気化学的酸化後の電解質溶液中の塩化物イオンのレベルが、従来の核流出処理プラントにおけるその後の処理に必要な10ppm未満であることをチェックすることによって決定した。この装置は、電気化学酸洗い浴中の作用電極と対向電極との間に電位を提供するための電源、304ステンレス鋼の作用電極および対向電極を有する電気化学酸洗い浴、および硝酸溶液から添加剤(この例では塩化物イオン)を除去するための別個の電気化学酸化工程からなる。
【0035】
電源は、電気波形を生成する駆動回路と、印加電位の極性を反転させて方形波を形成するHブリッジ回路と、DC電源と、から構成されている。印加電位は12Vであり、電源は10Aに供給可能であった。使用した周波数は、10Hzであったが、他の周波数を使用してもよい。使用した波形は、
図1に示す。1サイクルは、順バイアスまたは正バイアス72ms、その後にゼロ電位2ms、その後に負バイアスまたは逆バイアス24ms、その後にゼロバイアス2msとして示し、10Hz電源では合計100msである。図示の波形は、逆バイアスよりも3倍長い順バイアス持続時間を有し、したがって、DCバイアスされたAC波形である。2msのゼロ電位期間は、スイッチング回路の確実な動作を保証するために設けられ、電気化学的動作にとって重要ではない。2msの期間は、電気回路がそれらなしでロバストに動作することができれば、短縮または省略することができる。波形の形状および詳細は変更可能である。それは方形波である必要はなく、DCバイアスされたAC波形であるという制約に適合する限り、代替の波形が適切であろう。この場合、作用電極が陽極バイアスされるようにバイアスは正であったが、これは、この場合には必要ではない。バイアスは、周期的に逆にすることが有用である。
【0036】
以下の表1に表にした第1の実験は、電気化学プロセスを使用した場合に得られる表面除去速度が化学プロセスを使用した場合に得られる表面除去速度よりも非常に有意に大きいことを示している。3cm×3cmの露出面積の2つの304ステンレス鋼クーポンを、硝酸中3Mおよび塩酸中0.3Mの酸洗い溶液中に浸漬した。露出領域の表面からの金属の損失率を、重量損失によって決定した。2つの異なる処理を適用した。最初の段階では、電位が印加されておらず、処理は化学的なものに過ぎなかった。クーポンを6時間暴露し、重量損失を測定した。第2の処理では、同じ化学溶液を使用したが、今度は電位を印加し、上記の波形を使用した。結果を以下の表に示し、電気化学プロセスが、化学プロセスよりも2桁大きい除去速度を与えることを示す。この発見は、化学プロセスと比較して、電気化学プロセスで得られる表面除去の有利な速度を示す。
【0037】
【0038】
第2の実験は、電気化学的表面処理に使用した場合に、異なる溶液特性で得られる異なるつきまわり性を示す。電極の配置を
図2に示す。
【0039】
図示された2つの長方形の電極は、電解質溶液中に完全に沈められている。保持容器は、明確にするために省略されている。ワイヤ1は、電極を電源に接続する。800cm
3の酸洗浴を使用した。電極2および3を形成するための厚さ1mmのステンレス鋼304試験片を、それぞれ幅50mm、互いに平行、および10mm離れたサイズに切断した。作用電極2は、除染される必要がある物体を表す部品であり、長さ100mmである。対向電極3も304ステンレス鋼からなり、長さは40mmである。対向電極に適切な材料は、白金、酸化白金、酸化イリジウム、酸化ルテニウムを含む多くの金属および酸化物のうちの1つでコーティングされたチタン、またはグラファイトベースの材料を含む炭素複合材料からなる電極を含む。電極への給電は、
図1を参照して上述した通りであり、10分間の一定時間実験を行った。その後、作用電極2の厚さの減少を、その長さに沿って間隔を置いて測定した。対向電極の一端に隣接する作用電極の端部を
図2で5とし、対向電極から最も遠い作用電極の端部を
図2で4とし、作用電極の厚さを1cm離れた10箇所で測定した。
【0040】
結果を
図3のグラフに示し、横軸は作用電極2(
図2)の端部4からの距離を示す。したがって、端部4は、0cmとラベル付けされたグラフの原点にある。
図2において5とラベル付けされた作用電極の部分は、4とラベル付けされた端部から10cm離れており、
図3のグラフの横軸に10cmのマークで示されているので、右側の点は、
図2の4付近の作用電極の端部に対応しており、左側の点は、5付近の作用電極の端部に対応している。
【0041】
グラフの上部の2つの太い水平線は、作用電極と対向電極の相対位置を概略的に示す。四角の点は、硝酸溶液を使用した場合の電気化学的プロセスの効果を示す。作用電極の厚さの減少率は、対向電極に平行な作用電極の部分について6%でほぼ定数であり、次いで、予想されるように、対向電極からさらに離れた低い値に低下する。ダイヤモンド形状の点は、0.3M HClを溶液に添加する効果を示す。厚さ損失の全体的な増加は、損失速度の増加と等価である。破線間の距離として示されるつきまわり性7は、効果的に増加し、これはグラフ上に記され、HClを添加した場合の4cm点8における厚さの減少(および材料損失の変化率)が、HClを添加しない場合の6cm点6における厚さの減少とほぼ等しいことを示す。HClを添加した結果は、電極の有効到達範囲を2cm延ばしたとみなすことができる。
【0042】
第3の実験では、添加されたHClを別の電気化学セルで除去した。このセルは、以下の特徴を有していた。活性電極領域は、25cm×25cmであった。セルを、Nafionカチオン選択性イオン交換膜を使用して分割した(他の膜セパレーターおよび膜が使用され得る)。イオン交換膜の目的は、カソード上への金属堆積を最小限にし、そうでなければ電流効率を低下させるのであろう溶解ステンレス鋼からの鉄イオンの存在から生じる寄生Fe(II)/Fe(III)酸化還元対を防止することである。カソード材料は、硝酸溶液を処理する場合に好ましいステンレス鋼であり、アノードは、酸化イリジウムおよび酸化タンタルの混合物で被覆されたチタンであった。セルは、5mmの狭い電極間ギャップを有し、電極ギャップ中にメッシュの形態の乱流促進体を含み、良好な物質輸送および高電流密度で作動する能力を与えた。セル構造の詳細に応じて、他の電極間隔も可能である。セルは、0.4A/cm2の電流密度で動作させた。電解質をこのセルで処理した結果、塩素ガスが発生し、塩素イオン濃度が0.3Mから10ppm未満(または約3×10-4M)に低下した。このより低いレベルは、304ステンレス鋼の従来の核流出物処理プラントにおけるその後の処理に許容される。
【0043】
上記は、良好な投射力を有する迅速な電気化学的表面除去が電気酸洗いプロセスにおける硝酸への添加剤としての塩酸の使用によって達成され得ること、および塩化物イオンが続いて、電気化学的酸化工程を使用して除去され得ることを示す。従って、驚くべきことに、硝酸/塩酸混合物は、核表面除染処理に必要な目的の全てを満たすことができることが示された。
【0044】
本発明の他の実施形態は、異なる電極材料および硝酸への添加剤の使用を含む。硝酸への可能な添加剤としては、とりわけ、塩酸、ギ酸、エチレンジアミン四酢酸、および過酸化水素が挙げられる。電気化学的に分解することができる任意の好適な酸化剤が好適である。酸化分解工程における他のアノード材料は、除去される必要がある添加された試薬に依存して使用され得る。チタン上のイリジウム、白金およびルテニウム金属および金属酸化物コーティングは、塩化物イオン除去(塩素ガス発生)および中間体オキシ塩化物イオンの生成によるギ酸などの有機酸の二酸化炭素への酸化に適している。ホウ素ドープダイヤモンド電極はまた、有機種の酸化のために塩素を発生させ、ラジカルイオンを発生させるのに有効である。システム全体は、任意選択で、アノードタイプの混合物を使用することができる。溶液が304ステンレス鋼処理プラントで処理され得るような化学的酸素要求量(chemical oxygen demand:COD)の適切なレベルは、10ppmCODである。