(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】質量分析器用イオンガイドおよびそれを用いたイオンソース
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20220203BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20220203BHJP
H01J 49/14 20060101ALI20220203BHJP
H01J 49/24 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
H01J49/06 500
H01J49/06 800
H01J49/16 100
H01J49/14 500
H01J49/24
H01J49/06 100
(21)【出願番号】P 2020565807
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 KR2019006710
(87)【国際公開番号】W WO2019235806
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】10-2018-0064056
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】502235773
【氏名又は名称】バイオニア コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】キム テマン
(72)【発明者】
【氏名】パク ハン-オ
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-113944(JP,A)
【文献】特表2010-530120(JP,A)
【文献】特開2011-159422(JP,A)
【文献】特表2015-537335(JP,A)
【文献】米国特許第7838826(US,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0020152(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/06
H01J 49/16
H01J 49/14
H01J 49/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを伝達するイオンガイドであって、
イオンが進入する入口と、イオンを伝達する出口との間に、複数のDCリングと、複数の電極を有する複数のRFマルチポールリングとが互いに交差しながら配列されており、
前記入口から出口への方向において、前記DCリングの内径は一定に維持され、前記RFマルチポールリングの内径は次第に減少することを特徴とする、イオンガイド。
【請求項2】
前記複数のDCリングと前記複数のRFマルチポールリングの各中心が一直線上に位置することを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド。
【請求項3】
前記RFマルチポールリングの内径が一定の割合で減少することを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド。
【請求項4】
前記RFマルチポールリングの複数の電極が互いに離間して配列されることでリングを形成することを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド。
【請求項5】
前記複数のRFマルチポールリングは、内径から外径までの距離が全て等しいことを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド。
【請求項6】
前記RFマルチポールリングの隣り合う各電極に、振幅が同一で、且つ位相が異なるRF電圧が加えられることを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド。
【請求項7】
隣接した前記DCリングと前記RFマルチポールリングには、互いに異なるDCバイアス電圧が加えられることを特徴とする、請求項1に記載のイオンガイド。
【請求項8】
イオンが進入する入口と、イオンを伝達する出口との間に、複数のDCリングと、複数の電極を有する複数のRFマルチポールリングとが互いに交差しながら配列されてイオンを伝達するイオンガイドであって、
前記入口から出口への方向において、前記DCリングと前記RFマルチポールリングの内径が全て次第に減少し、
前記RFマルチポールリングの内径が減少する程度が、前記DCリングの内径が減少する程度よりも大きいことを特徴とする、イオンガイド。
【請求項9】
イオンが進入する入口と、イオンを伝達する出口との間に、複数のDCリングと、複数の電極を有する複数のRFマルチポールリングとが互いに交差しながら配列されてイオンを伝達するイオンガイドであって、
前記入口から所定距離までは、前記DCリングと前記RFマルチポールリングの内径が全て等しい割合で減少し、
前記所定距離の後から前記出口までは、
前記DCリングの内径は一定に維持され、前記RFマルチポールリングの内径は次第に減少するか、
前記DCリングと前記RFマルチポールリングの内径が次第に減少し、前記RFマルチポールリングの内径が減少する程度が、前記DCリングの内径が減少する程度よりも大きいことを特徴とする、イオンガイド。
【請求項10】
イオン化物質を放出するイオン化物質源と、
前記イオン化物質源から放出されるイオン化物質により試料のイオン化が行われるイオン化チャンバーと、
前記イオン化チャンバーによりイオン化された試料のイオンを次のイオン光学系に伝達する少なくとも1つ以上の真空チャンバーと、を含み、
前記真空チャンバーの内部には、請求項1に記載のイオンガイドが内蔵されていることを特徴とする、イオンソース。
【請求項11】
前記イオン化チャンバーは、
前記イオン化チャンバーの出口方向に異なる電圧が加えられるDC電極と、前記DC電極の間の絶縁体と、からなることを特徴とする、請求項10に記載のイオンソース。
【請求項12】
前記イオン化チャンバーの内部の圧力は、
前記イオン化チャンバーのすぐ次のイオン光学系に該当する第1真空チャンバーの内部の圧力より高く、且つ大気圧より低く形成されることを特徴とする、請求項10に記載のイオンソース。
【請求項13】
前記イオン化チャンバーの中心軸と、前記第1真空チャンバーの前記イオンガイドの中心軸は、所定の角度を成して傾斜して配置されるか、離間して配置されるか、若しくは離間し、且つ傾斜して配置されることを特徴とする、請求項12に記載のイオンソース。
【請求項14】
前記イオン化チャンバーの中心軸と、前記第1真空チャンバーの前記イオンガイドの中心軸とが成す角度が10°~170°であることを特徴とする、請求項13に記載のイオンソース。
【請求項15】
前記第1真空チャンバーの内部には、前記イオンガイドの入口側にイオンデフレクタが配置され、
前記イオンデフレクタと前記イオンガイドとの間に前記イオン化チャンバーの出口が配置されることを特徴とする、請求項12に記載のイオンソース。
【請求項16】
前記イオンソースは、
光イオン化(Photoionization)イオンソース、化学イオン化(Chemical Inonization)イオンソース、またはプロトン移動反応(Proton Transfer Reaction)イオンソースであることを特徴とする、請求項10に記載のイオンソース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析器に関し、特に、質量分析器のためのイオンガイドおよびそれを用いたイオンソースに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法において、試料中の目標化合物成分をイオン化する方法として様々な方法が知られている。かかるイオン化法は、真空雰囲気でイオン化する方法と、略大気圧雰囲気でイオン化する方法とに大別され、後者は、一般に大気圧イオン化法(Atmosphere Pressure ionization)またはアンビエントイオン化法(Ambient Ionization)と総称され得る。
【0003】
大気圧イオン化法を利用する質量分析器において、イオンソースから、質量分析器のある高真空のチャンバー内へイオンを効果的に送るための手段が必要である。そのために、圧力が次第に減少する多数の真空段階を含む真空系(vacuum system)を利用することになる。
【0004】
ところで、各真空段階から次の段階にイオンを効率的に送るためには、伝達効率の高いイオンガイドが必要である。特に、一番目の真空チャンバーに入る際に、イオンは空気の流れに沿って移動することになるが、空気は、一番目の真空段階で自由膨張し、イオンも多数の方向に散らばる。多数の方向に散らばったイオンを集め、次の真空段階へのイオンレンズを通過させるためには、イオンを効果的に集めるイオンガイドが必要である。特に、1段階の真空チャンバーの圧力である1torr程度の圧力範囲では、電気的放電が、真空や大気圧下に比べて低い電圧で起こるため、弱い電場でも作動する特別な形態のRFイオンガイドが必要である。
【0005】
これに係り、韓国公開特許第2014-0020152号公報には、複数のDCリングと、複数の電極を有する複数のRFマルチポールリングとが互いに交差しながら配列されている質量分析器用RF/DCイオンガイドが開示されている。
【0006】
図1は、従来のイオンガイドを示した図であって、DCリング110´およびRFマルチポールリング120´が、全て内径が次第に減少する形態のイオンガイド100´が開示されている。しかし、このような形態のイオンガイドは、RFマルチポールリング120´から生成される電場が、RFマルチポールリング120´の周りにのみ形成されるという欠点がある。
【0007】
本発明者らは、上記のような欠点を補完し、イオンをより効果的に伝達することができるイオンガイドを開発するために鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国公開特許第2014-0020152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来のイオンガイドに比べて、イオンガイドの中心軸上にイオンが効果的に集まるようにすることで、イオンの伝達効率をより向上させるイオンガイドを提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、前記イオンガイドを用いてイオン化効率をより増大させることができるイオンソースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するために、本発明の一実施態様に係るイオンガイドは、イオンを効果的に伝達するイオンガイドであって、イオンが進入する入口と、イオンを伝達する出口との間に、複数のDCリングと、複数の電極を有する複数のRFマルチポールリングとが互いに交差しながら配列されており、前記入口から出口への方向において、前記DCリングの内径は一定に維持され、前記RFマルチポールリングの内径は次第に減少してもよい。
【0012】
また、前記複数のDCリングと前記複数のRFマルチポールリングの各中心が一直線上に位置してもよい。
【0013】
また、前記RFマルチポールリングの内径が一定の割合で減少してもよい。
【0014】
また、前記RFマルチポールリングの複数の電極が互いに離間して配列されることでリングを形成してもよい。
【0015】
また、前記複数のRFマルチポールリングは、内径から外径までの距離が全て等しく形成されてもよい。
【0016】
また、前記RFマルチポールリングの隣り合う各電極に、振幅が同一で、且つ位相が異なるRF電圧が加えられてもよい。
【0017】
また、隣接した前記DCリングと前記RFマルチポールリングには、互いに異なるDCバイアス電圧が加えられてもよい。
【0018】
一方、本発明の他の実施態様に係るイオンガイドは、イオンが進入する入口と、イオンを伝達する出口との間に、複数のDCリングと、複数の電極を有する複数のRFマルチポールリングとが互いに交差しながら配列されてイオンを伝達するイオンガイドであって、前記入口から出口への方向において、前記DCリングと前記RFマルチポールリングの内径が全て次第に減少し、前記RFマルチポールリングの内径が減少する程度が、前記DCリングの内径が減少する程度よりも大きく形成されてもよい。
【0019】
一方、本発明のさらに他の実施態様に係るイオンガイドは、イオンが進入する入口と、イオンを伝達する出口との間に、複数のDCリングと、複数の電極を有する複数のRFマルチポールリングとが互いに交差しながら配列されてイオンを伝達するイオンガイドであって、前記入口から所定距離までは、前記DCリングと前記RFマルチポールリングの内径が全て等しい割合で減少し、前記所定距離の後から前記出口までは、前記DCリングの内径は一定に維持され、前記RFマルチポールリングの内径は次第に減少するか、前記DCリングと前記RFマルチポールリングの内径が次第に減少し、前記RFマルチポールリングの内径が減少する程度が、前記DCリングの内径が減少する程度よりも大きく形成されてもよい。
【0020】
一方、本発明の他の実施態様に係るイオンソースは、イオン化物質を放出するイオン化物質源と、前記イオン化物質源から放出されるイオン化物質により試料のイオン化が行われるイオン化チャンバーと、前記イオン化チャンバーによりイオン化された試料のイオンを次のイオン光学系に伝達する少なくとも1つ以上の真空チャンバーと、を含み、前記真空チャンバーの内部には、上述のイオンガイドのうち何れか1つが内蔵されていてもよい。
【0021】
また、前記イオン化チャンバーは、前記イオン化チャンバーの入口から出口への方向に異なる電圧が加えられるDC電極と、前記DC電極の間の絶縁体と、からなっていてもよい。
【0022】
また、前記イオン化チャンバーの内部の圧力は、前記イオン化チャンバーのすぐ次のイオン光学系を内蔵する第1真空チャンバーの内部の圧力より高く、且つ大気圧より低く形成されてもよい。
【0023】
また、前記イオン化チャンバーの中心軸と、前記第1真空チャンバーの前記イオンガイドの中心軸は、所定の角度を成して傾斜して配置されてもよい。
【0024】
また、前記イオン化チャンバーの中心軸と、前記第1真空チャンバーの前記イオンガイドの中心軸とが成す角度は10°~170°であってもよい。
【0025】
また、前記第1真空チャンバーの内部には、前記イオンガイドの反対側にイオンデフレクタが配置されており、前記イオンデフレクタと前記イオンガイドとの間に前記イオン化チャンバーの出口が配置されてもよい。
【0026】
また、前記イオンソースは、光イオン化(Photoionization)イオンソース、化学イオン化(Chemical Inonization)イオンソース、またはプロトン移動反応(Proton Transfer Reaction)イオンソースであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
イオンソースから、質量分析器のある高真空のチャンバー内にイオンを効果的に送るためには、圧力が次第に減少する多数の真空段階を有する真空系を用いるインタフェースが必要である。本発明の課題の解決手段によると、かかるインタフェースのイオン伝達効率が高くなり、質量分析器の検出感度が向上するという優れた効果を発揮することができる。
【0028】
特に、本発明のイオンガイドによると、RFマルチポールリングの電極から遠く離れたイオンガイドの中心軸まで強い電場が形成され、イオンガイドの中心軸上にイオンをさらに効果的に集めることができ、これにより、イオンの伝達効率が向上するという優れた効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】本発明の一実施態様に係るイオンガイドの斜視図である。
【
図3】本発明の一実施態様に係るイオンガイドの側断面と、DCリングおよびRFマルチポールリングを示した例示図である。
【
図4a】本発明の一実施態様に係るイオンガイドのDCリングとRFマルチポールリングの構成および回路連結を詳細に示した図である。
【
図4b】本発明の一実施態様に係るイオンガイドのDCリングとRFマルチポールリングの構成および回路連結を詳細に示した図である。
【
図4c】本発明の一実施態様に係るイオンガイドのDCリングとRFマルチポールリングの構成および回路連結を詳細に示した図である。
【
図4d】本発明の一実施態様に係るイオンガイドのDCリングとRFマルチポールリングの構成および回路連結を詳細に示した図である。
【
図5】本発明の一実施態様に係るイオンガイドの回路構成の例を示した図である。
【
図6a】従来のイオンガイドにより形成される電場を示した図である。
【
図6b】本発明の一実施態様に係るイオンガイドにより形成される電場を示した図である。
【
図7a】本発明の他の実施態様に係るイオンガイドの斜視図である。
【
図7b】本発明の他の実施態様に係るイオンガイドの断面図である。
【
図8a】本発明のさらに他の実施態様に係るイオンガイドの断面図である。
【
図8b】本発明のさらに他の実施態様に係るイオンガイドの断面図である。
【
図9】本発明の他の実施態様に係るイオンソースの構成を概略的に示した図である。
【
図10】
図9のイオン化物質源およびイオン化チャンバーを詳細に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
大気圧イオン化法を用いる質量分析器(API-MS)は、イオンソースから、質量分析器のある真空へどれだけ効率的にイオンを伝達するかが、装備の分析性能を決定する主要要件となる。
【0031】
つまり、イオンを伝達する効率が、質量分析器の検出限界を決定する重要な要素となる。現代のAPI-MSは、圧力が漸次低くなる多数の真空段階を経る真空系を用いており、各真空段階でイオンガイドを用いる。本発明は、多数の角度で散乱するイオンを効果的に収集し、イオンのエネルギーを背景ガスとの衝突により低めることで、イオンをイオンガイドの中心軸上に集め、イオンを次の段階へ効率的に伝達する。
【0032】
本発明に係るイオンガイドは、DCリングとRFマルチポール(Multipole)リング(低い厚さのリング状マルチポール電極)とが交互に積み重なった形状を有する。何れかのRFマルチポールリングにおいて、隣り合う電極には、振幅が同一であり、且つ位相が互いに180度異なるRF電圧が加えられ、リングの内部でマルチポール電場が形成される。
【0033】
この際、複数のDCリングは全て内径が等しく維持され、複数のRFマルチポールリングは、入口から出口への方向において、各RFマルチポールリングの内径が次第に減少するように構成される。これにより、隣り合うRFマルチポールリングから形成されたRFマルチポール電場が、DCリングの内部でもある程度維持されるとともに、イオンガイドの中心軸まで強い電場が形成されることができる。
【0034】
また、隣接したDCリングとRFマルチポールリングとの間に異なるDC電圧が加えられ、イオンガイド内で中心軸方向にDC電場が形成される。DCリングとマルチポール電極との間のRF電場の効果と、半径方向のRFマルチポール電場の効果により、イオンがイオンガイドの中心軸に近く集まることとなり、イオンガイドの軸方向に形成されたDC電場により、イオンがイオンガイドの軸方向に移動され、イオンガイドの次のイオン光学系に伝達される。
【0035】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施のための具体的な内容を説明する。また、本発明を説明するに際し、関連した公知機能において、この分野の技術者にとって自明な事項であって、本発明の要旨を不明瞭にし得ると判断される場合には、その詳細な説明を省略する。
【0036】
図2は本発明の一実施態様に係るイオンガイドを示す。示されたように、本発明のイオンガイド100は、中心軸Xに沿ってDCリング110、110、・・・とRFマルチポールリング120、120、・・・とが連なって交差配列されており、入口101から出口102への方向において、DCリング110の内径は一定に維持され、RFマルチポールリング120の内径は次第に減少する構造を有してもよい。
【0037】
図3は、本発明に係るイオンガイドの側断面と、DCリングおよびRFマルチポールリングをともに示したものであって、本発明のイオンガイド100は、複数のDCリング110と複数のRFマルチポールリング120の各中心が一直線上に位置するように構成されてもよい。
【0038】
本発明のイオンガイド100は、複数のDCリング110の内径R1が中心軸Xに沿って全て等しく形成され、複数のRFマルチポールリング120の内径R2が中心軸Xに沿って次第に減少するように形成されてもよい。
【0039】
ここで、本発明は、イオンガイド100の各RFマルチポールリング120の内径が入口101から出口102への方向に次第に小さくなる形態で形成されるものであれば何れであってもよいが、入口101から出口102への方向に、イオンガイド100の各RFマルチポールリング120の内径R2が一定の割合で減少するように構成されることが好ましい。
【0040】
つまり、入口101に近接した順に、RFマルチポールリング120を第1RFマルチポールリング、第2RFマルチポールリング、・・・、第nRFマルチポールリングとしたときに、本発明のイオンガイド100は、第1RFマルチポールリングの内径と第2RFマルチポールリングの内径の割合が、第2RFマルチポールリングの内径と第3RFマルチポールリングの内径の割合とが等しく形成され、これが第nRFマルチポールリングまで同一に維持されるように形成されてもよい。
【0041】
また、各RFマルチポールリング120は、内径から外径までの距離が全て等しく形成されてもよい。すなわち、上述の第1RFマルチポールリング~第nRFマルチポールリングの内径から外径までの距離が全て等しく形成されてもよい。
【0042】
図4は、イオンガイド100を構成するDCリング110とRFマルチポールリング120をより詳細に示す。
図4aは1個のDCリング110の形態を示し、
図4bは1個のRFマルチポールリング120の形態を示す。
図4bに示されたように、RFマルチポールリング120は、4個の分割電極120a、120b、120c、120dがリング状を成すことになる。
【0043】
また、
図4cに示されたように、DCリング110にはDC電圧が加えられ、
図4dに示されたように、RFマルチポールリング120の各電極120a、120b、120c、120dの隣接した電極には、振幅は同一であるが、位相が異なる電圧が加えられ、且つ同一のDC電圧が重なって加えられる。すなわち、RFマルチポールリング120の隣り合う各電極には、振幅は同一であるが、異なる位相のRF電圧が加えられ、リングの内部でRFマルチポール電場が形成される。
【0044】
イオンガイド100に印加される電圧は、
図5に示されたように、DC分圧電気回路および交流蓄電器の並列接続、DCおよびRF電源装置により加えられることができる。隣り合うマルチポール電極120a、120b、120c、120dにおいて、位相が同一である電極(例えば、120aと120c、120bと120d)は同一の半径方向に配置される。
【0045】
DC分圧電気回路により、異なる電圧が各リングに加えられ、リングのDC電圧差により、イオンガイド100の内部で中心軸Xの方向にDC電場が生じる。本発明によると、隣接したDCリング110とRFマルチポールリング120には互いに異なるDCバイアス電圧が加えられ、リング配列構造の内部で中心軸Xの方向にDC電場が形成されることで、イオンを中心軸Xの方向に移動させることができる。
【0046】
図6は、従来のイオンガイドにより形成される電場(
図6a)および本発明の一実施態様に係るイオンガイドにより形成される電場(
図6b)を示す。
【0047】
図6に示されたように、従来のイオンガイド100´、すなわち、DCリング110´とRFマルチポールリング120´の内径が全て次第に減少する形態のイオンガイドは、電場がRFマルチポールリングの周りにのみ強く形成されるが(
図6a)、本発明に係るイオンガイド100によると、隣り合うRFマルチポールリング120から形成されたマルチポール電場がDCリング110の内部でもある程度維持されるとともに、RFマルチポールリング120から遠く離れたイオンガイドの中心軸Xまで強い電場が形成され、イオンガイド100の中心軸X上にイオンをさらに効果的に集めることができる(
図6b)。
【0048】
また、入口101が出口102に比べて大きく形成されるため、多数の方向に散乱するイオンを入口101で容易に収集することができ、出口102が狭く形成されるため、イオンを所望のところに効率的に伝達することができる。
【0049】
一方、
図7は、本発明の他の実施態様に係るイオンガイドの斜視図(
図7a)および断面図(
図7b)であって、本発明の他の実施態様に係るイオンガイド100は、上述の本発明の一実施態様に係るイオンガイド100と異なって、入口101から出口102への方向において、DCリング110の内径が一定に維持されるのではなく、DCリング110の内径も次第に減少し、この際、RFマルチポールリング120の内径が減少する程度が、DCリング100の内径が減少する程度よりも大きく形成されることができる。
【0050】
また、
図8は、本発明のさらに他の実施態様に係るイオンガイドの断面図である。本発明のさらに他の実施態様に係るイオンガイド100は、入口101から所定距離Sまでは、DCリング110とRFマルチポールリング120の内径が全て等しい割合で減少するように形成される。そして、所定距離Sの後から出口102までは、上述の本発明の一実施態様に係るイオンガイド100と同様に、DCリング110の内径は一定に維持され、RFマルチポールリング120の内径は次第に減少するように形成されるか(
図8a)、上述の本発明の他の実施態様に係るイオンガイド100と同様に、DCリング110とRFマルチポールリング120の内径が次第に減少し、この際、RFマルチポールリング120の内径が減少する程度が、DCリング110の内径が減少する程度よりも大きく形成されることができる(
図8b)。
【0051】
ここで、本発明のイオンガイドはイオンガイドの入口101がDCリング110から始まり、イオンガイドの出口102がRFマルチポールリング120で終わるように配置することが好ましい。
【0052】
上述の本発明の他の実施態様に係るイオンガイドおよびさらに他の実施態様に係るイオンガイドは、本発明において多様に変形可能なイオンガイドの変形例の幾つかの具体的な変形例を示したものである。上述の本発明の他の実施態様に係るイオンガイドおよびさらに他の実施態様に係るイオンガイドも、隣り合うRFマルチポールリング120から形成されたマルチポール電場が、DCリング110の内部でもある程度維持されるとともに、RFマルチポールリング120から遠く離れたイオンガイドの中心軸Xまで強い電場が形成され、イオンガイド100の中心軸X上にイオンをより効果的に集めることができる。
【0053】
また、入口101が出口102に比べて大きく形成されるため、様々な方向に散乱するイオンを入口101で容易に収集することができ、出口102が狭く形成されるため、イオンを所望のところに効率的に伝達することができる。
【0054】
一方、本明細書で示されたDCリング110とRFマルチポールリング120は円形のリング状であるが、楕円や多角形の多様な幾何学的形態を有してもよい。
【0055】
また、本明細書で示されたDCリング110およびRFマルチポールリング120は、その厚さが一定であると示されているが、これに限定されず、各DCリング110とRFマルチポールリング120の厚さは、次第に薄くまたは厚くなってもよい。
【0056】
また、本明細書で示されたRFマルチポールリング120は4個の電極を有すると示されているが、複数の電極であればよく、好ましくは、2、4、6、8個以上の複数の電極であることが望ましい。
【0057】
また、本明細書で示されたイオンガイド100を構成するDCリング110とRFマルチポールリング120は、何ら媒介物なしに互いに離間して設けられている構造であると示されているが、絶縁体で密封されているか、または絶縁体を媒介として互いに連結されている構造を有してもよい。
【0058】
以下では、本発明に係るイオンガイド100が内蔵されたイオンソース1について説明する。
【0059】
図9は、本発明の他の実施態様に係るイオンソース(あるいは、イオンソース)の構成を概略的に示した図であり、
図10は、イオンソースのイオン化チャンバーを詳細に示した図である。
【0060】
本発明に係るイオンソース1は、イオン化物質を放出するイオン化物質源10と、試料のイオン化が行われるイオン化チャンバー20と、少なくとも1つ以上の真空チャンバー30と、を含んで構成されてもよい。
【0061】
イオン化物質は、後述のように、本発明のイオン化ソース1が光イオン化イオンソースである場合には光(photon)であり、化学イオン化イオンソースである場合には試薬(reagent)の一次イオン(primary ion)であり、プロトン移動反応イオンソースである場合にはプロトン(proton)を伝達できる一次イオンであってもよく、この際、イオン化物質源10は、前記各種類のイオン化物質を放出する公知の機器または装置であってもよい。
【0062】
イオン化チャンバー20は、DC電極と、それらの間の絶縁体と、からなり、前記DC電極は、DC分圧電気回路(不図示)によりイオン化チャンバーの出口23の方向に異なる電圧が加えられることで、電圧差によってイオン化チャンバー20の内部でDC電場が形成されることができる。
【0063】
真空チャンバー30内には上述の本発明のイオンガイド100が内蔵されており、真空チャンバー30内のイオンガイド100は、イオン化チャンバーの出口23から真空チャンバー30内に流入されたガス雰囲気下で作動する。
【0064】
以下、本明細書において、イオン化チャンバー20のすぐ次のイオン光学系に該当する真空チャンバー30を第1真空チャンバー30-1と称して説明する。
【0065】
図10に示されたように、本発明のイオンソース1は、イオン化チャンバー20に試料注入口21および補助ガス注入口22がある。分析しようとする試料が試料注入口21を介して注入されてイオン化チャンバー20内に移動し、イオン化チャンバー20内で、イオン化物質源10から放出されたイオン化物質と反応してイオン化される。
【0066】
イオン化チャンバー20の補助ガス注入口22を介して注入される補助ガスは、イオン化チャンバーの圧力を調節することで、試料のイオン化効率を調節する目的で用いられる。
【0067】
本発明によると、分析しようとする試料をイオン化チャンバーの出口23の方から出口の反対側に注入し、試料がイオン化チャンバー20で長く留まるようにすることでイオン化効率を高め、イオン化された試料イオンを、イオン化チャンバー20内のDC電場を利用してイオン化チャンバーの出口23の方に移動させることでイオンの放出効率を高めることができる。
【0068】
イオン化チャンバーの出口23を経て第1真空チャンバー30-1に移動された試料イオンは、第1真空チャンバー30-1内のイオンガイド100により収集され、イオンガイド100の中心軸Xの周りに集められてから、次のイオン光学系に伝達される。
【0069】
この際、第1真空チャンバー30-1の次のイオン光学系は、イオンソース1が多段階真空系から構成される場合には第2真空チャンバー30-2であり、イオンソース1が単一真空系から構成される場合には、質量分析器200のある真空チャンバーであってもよい。
【0070】
ここで、本発明に係るイオンソース1は、イオン化チャンバー20の内部の圧力が、大気圧より低く、且つ第1真空チャンバー30-1の圧力より高いように形成されることができる。一例として、イオン化チャンバー20内の圧力は約10torrで形成され、第1真空チャンバー30-1の圧力は約1torrで形成されることができる。但し、これに限定されるものではなく、イオン化チャンバー20内の圧力が第1真空チャンバー30-1内の圧力に比べて約3倍以上となるように形成されることもできる。
【0071】
このように、イオン化チャンバー20内の圧力が第1真空チャンバー30-1の真空圧力より高く形成されるため、ガスがイオン化チャンバー20内で留まる時間が、真空チャンバー30-1内で留まる時間より増加することとなり、試料のイオン化効率が増加し、試料イオンの加速が少ないため試料イオンの断片化が少なく起こる。
【0072】
また、イオン化チャンバー20内の圧力が大気圧より低く形成されるため、大気圧下で試料をイオン化する場合に比べて、イオン化チャンバー20から第1真空チャンバー30-1に伝達される中性ガス分子の量が減ることになるため、第1真空チャンバー30-1に小さい容量のポンプを適用可能である。
【0073】
一方、
図9に示されたように、本発明に係るイオンソース1は、イオン化チャンバー20の中心軸Yと、イオンガイド100の中心軸Xとが所定の角度を成して傾斜するように配置されてもよい。
【0074】
つまり、イオン化チャンバー20の中心軸Yとイオンガイド100の中心軸Xとが同一線上に形成されるように配置するのではなく、斜めに傾斜させて配置することで、イオン化チャンバーの出口23から放出されるガスが、次のイオン光学系に移送されることを最小化することができる。
【0075】
この際、イオン化チャンバー20の中心軸Yとイオンガイド100の中心軸Xとが成す角は、10~170°であってもよく、好ましくは、イオン化チャンバー20の中心軸Yとイオンガイド100の中心軸Xとが互いに垂直するように形成されてもよいが、これに限定されるものではない。
【0076】
この場合、第1真空チャンバー30-1内にイオンガイド100が配置された側の反対側にイオンデフレクタ(Ion Deflector)300を配置し、イオンデフレクタ300とイオンガイド100との間にイオン化チャンバーの出口23が配置されるようにしてもよい。
【0077】
イオンデフレクタ300により、イオン化チャンバー20から放出されて第1真空チャンバー30-1内で多数の方向に散乱するイオンの進行方向を変え、イオンガイド100に送ることができることになるため、イオンガイド100によるイオン収集効率が増加し、質量分析器の全体のイオン検出感度が増加する。
【0078】
さらに、本発明に係るイオンソース1は、光イオン化(Photoionization:PI)イオンソース、化学イオン化(Chemical Ionization:CI)イオンソース、またはプロトン移動反応(Proton Transfer Reaction:PTR)イオンソースから構成されてもよい。
【0079】
本発明は、上述のように、イオン化チャンバー20内の圧力が真空よりも高く形成されることができるため、特に、イオンソース1がPIイオンソースである場合、光イオン化過程で発生する試料イオンと中性ガス分子や自由電子との衝突による試料イオンの断片化現象を低減することができる。
【0080】
以上、特定事項と、限定された実施態様および図面により本発明が説明されたが、これは、本発明のより全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本発明は上記の実施態様に限定されるものではなく、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、かかる記載から多様な修正および変形が可能である。
【0081】
したがって、本発明の思想は、説明された実施態様に限定して決まってはならず、添付の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的変形のある全てのものなどは、本発明の思想の範疇に属するといえる。
【符号の説明】
【0082】
100 イオンガイド
101 イオンガイドの入口
102 イオンガイドの出口
110 DCリング
120 RFマルチポールリング
120a、120b、120c、120d RFマルチポールリングの各分割電極
1 イオンソース
10 イオン化物質源
20 イオン化チャンバー
21 試料注入口
22 補助ガス注入口
23 イオン化チャンバーの出口
30 真空チャンバー
200 質量分析器
300 イオンデフレクタ