(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2021547183
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2021021071
【審査請求日】2021-08-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504451690
【氏名又は名称】半澤 薫和
(74)【代理人】
【識別番号】100142550
【氏名又は名称】重泉 達志
(72)【発明者】
【氏名】半澤 薫和
(72)【発明者】
【氏名】半澤 和夫
【審査官】新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-039290(JP,A)
【文献】特開2008-101346(JP,A)
【文献】特開2015-224488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の基礎に埋設されて土台を固定するアンカーボルトと、前記アンカーボルト間の基礎と土台の間に介挿される摩擦減震装置と、を備え、
前記アンカーボルトに螺入して基礎に土台を固定する締付ナットと、
前記アンカーボルトが土台を貫通する貫通孔と、を有し、
前記締付ナットは、長ナット部の先端に丸座を具える丸座付きナットであり、
前記貫通孔は、土台の表面から順に第1の貫通孔及び第2の貫通孔を有し、
前記第2の貫通孔の直径は、前記第1の貫通孔の直径より大きく、
前記第1の貫通孔の長さは、前記締付ナットの長ナット部より長く、
前記摩擦減震装置は、上段に位置し土台に接触する第1の滑り平板と、下段に位置し基礎に接触する第2の滑り平板と、を有し、
前記第1の滑り平板及び前記第2の滑り平板が重ね合わされる面は平滑であり、
前記丸座付きナットで固定された前記アンカーボルト及び摩擦減震装置が協働して地震に対抗するアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構。
【請求項2】
前記摩擦減震装置は、基礎と柱に接続された土台との間に介挿される請求項
1に記載のアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構。
【請求項3】
締付後の前記アンカーボルト及び前記丸座付きナットの天端は、土台の表面と同一レベルかそれ以下である請求項
1または
2に記載のアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーボルト及び摩擦減震装置が協働して地震力に対抗するアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築に適した免震技術として、平板間の摩擦力を利用した減震装置が提案されていて、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示の「摩擦減震装置」は本願出願人の発明であり「簡単な構造で施工性に優れ、中規模や大規模地震に有効に機能する摩擦減震装置であって、滑り面が1つであっても2つの場合と同様の減震効果を得ることができる摩擦減震装置を提供する」ことを課題としていて、その解決手段を「土台または基礎に接触する円盤状の第1の滑り平板と、基礎または杭頭に接触する円盤状の第2の滑り平板とからなり、前記第2の滑り平板の表面には略等脚台形を呈する1つ以上のリング状のリング突条が凸設される一方、該第1の滑り平板の底面には断面が下方向に広がる略等脚台形を呈し該リング突条に対置して該リング突条を跨るように被包する略等脚台形でリング状のリング被包溝が刻設され、前記第1の滑り平板はその厚さを調整する嵩上げ部を有する」構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の「摩擦減震装置」は、アンカーボルトに挿入する必要があることから、設置個所に制約があるとともに、アンカーボルトの挙動にも制限が加えられる。
【0005】
そこで、本発明は、摩擦減震装置にアンカーボルトを挿入する必要がなく、設置箇所の制約がなく、アンカーボルトの挙動に制限が加えられることのないアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、木造建築の基礎に埋設されて土台を固定するアンカーボルトと、該アンカーボルト間の基礎と土台との間に介挿される摩擦減震装置と、からなり、前記アンカーボルトに螺入して基礎に土台を固定する締付ナットは外観が円柱状で長さが30mm程度の長ナット部の先端に丸座を具える丸座付きナットであって締付後の該アンカーボルトおよび該丸座付きナットの天端は土台の表面と同一レベルかそれ以下であり、該アンカーボルトが土台を貫通する貫通孔は土台の表面から順に第1の貫通孔および第2の貫通孔からなり、該第1の貫通孔の直径は該丸座付きナットの長ナット部の外径と略同一であって、該第2の貫通孔の直径は該第1の貫通孔の直径よりも大きく形成されるとともに、該第1の貫通孔の長さは該締付ナットの長ナット部よりも長く、かつ該第1の貫通孔の長さおよび該第2の貫通孔の長さの比率は1:1ないし1:2であり、前記摩擦減震装置は上段に位置し土台に接触する第1の滑り平板と、下段に位置し基礎に接触する第2の滑り平板と、から構成され、該第1の滑り平板および該第2の滑り平板は円盤状を呈するとともに、該第1の滑り平板の直径は土台の幅と略同一であって該第2の滑り平板よりも大きく形成され、該第1の滑り平板および該第2の滑り平板が重ね合わされる面は平滑であり、前記丸座付きナットで固定された前記アンカーボルト及び摩擦減震装置が協働して地震に対抗するアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構が提供される。
【0007】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、摩擦減震装置がアンカーボルトとアンカーボルトの間に介挿されるので、摩擦減震装置の設置位置が制約されることはない。
また、締付後のアンカーボルト及び丸座付きナットの天端を土台の表面と同一レベル以下とすることにより、在来工法は勿論のこと根太レス工法にも適したものとなる。
また、アンカーボルトは丸座付きナットを介して土台に貫設された第1の貫通孔の孔壁に当接するため、第1の貫通孔の孔壁へのめり込みが軽減されて、アンカーボルト頂部の動きが殆ど拘束されない従来よりも半固定支持状態となって、アンカーボルト頂部の回動が拘束される。
また、第1の貫通孔の直径よりも直接基礎に対面する第2の貫通孔の直径が大きくなっているので、建物に地震時の横荷重が作用したときにアンカーボルトの曲がりが孔壁に邪魔されることなく許容されて、地震エネルギーはアンカーボルトに対する曲げ応力となって費消される。
また、摩擦減震装置は第1の滑り平板と第2の滑り平板と、から構成されていて、その構成は至って単純な構成であるので、故障がなく信頼性も大きい。また、第1の滑り平板および第2の滑り平板はともに円盤状を呈するとともに、第1の滑り平板の直径は土台の幅と略同一であって第2の滑り平板よりも大きく形成されているので、土台と基礎の間に無理なく収納されることができる。そして、地震時には第1の滑り平板および第2の滑り平板との重ね合わせ面で水平な滑りが生じて静止摩擦が発生して、地震エネルギーは費消される。
【0008】
また、上記目的を達成するため、本発明では、建築物の基礎に埋設されて土台を固定するアンカーボルトと、前記アンカーボルト間の基礎と土台の間に介挿される摩擦減震装置と、を備え、前記アンカーボルトに螺入して基礎に土台を固定する締付ナットと、前記アンカーボルトが土台を貫通する貫通孔と、を有し、前記締付ナットは、長ナット部の先端に丸座を具える丸座付きナットであり、前記貫通孔は、土台の表面から順に第1の貫通孔及び第2の貫通孔を有し、前記第2の貫通孔の直径は、前記第1の貫通孔の直径より大きく、前記第1の貫通孔の長さは、前記締付ナットの長ナット部より長く、前記摩擦減震装置は、上段に位置し土台に接触する第1の滑り平板と、下段に位置し基礎に接触する第2の滑り平板と、を有し、前記第1の滑り平板及び前記第2の滑り平板が重ね合わされる面は平滑であり、前記丸座付きナットで固定された前記アンカーボルト及び摩擦減震装置が協働して地震に対抗するアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構が提供される。
【0009】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、摩擦減震装置がアンカーボルトとアンカーボルトの間に介挿されるので、摩擦減震装置の設置位置が制約されることはない。
また、アンカーボルトは丸座付きナットを介して土台に貫設された第1の貫通孔の孔壁に当接するため、第1の貫通孔の孔壁へのめり込みが軽減されて、アンカーボルト頂部の動きが殆ど拘束されない従来よりも半固定支持状態となって、アンカーボルト頂部の回動が拘束される。
また、第1の貫通孔の直径よりも直接基礎に対面する第2の貫通孔の直径が大きくなっているので、建物に地震時の横荷重が作用したときにアンカーボルトの曲がりが孔壁に邪魔されることなく許容されて、地震エネルギーはアンカーボルトに対する曲げ応力となって費消される。
また、摩擦減震装置は第1の滑り平板と第2の滑り平板と、から構成されていて、その構成は至って単純な構成であるので、故障がなく信頼性も大きい。そして、地震時には第1の滑り平板および第2の滑り平板との重ね合わせ面で水平な滑りが生じて静止摩擦が発生して、地震エネルギーは費消される。
【0010】
上記アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構において、前記摩擦減震装置は、基礎と柱に接続された土台との間に介挿されてもよい。
【0011】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、摩擦減震装置が建築物の柱に接続された土台の下方に配置されるので、負担する荷重が増大してその効果が大きくなるとともに、摩擦減震装置の設置個数を減らすことができる。
【0012】
上記アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構において、締付後の前記アンカーボルト及び前記丸座付きナットの天端は、土台の表面と同一レベルかそれ以下であってもよい。
【0013】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、締付後のアンカーボルト及び丸座付きナットの天端を土台の表面と同一レベル以下とすることにより、在来工法は勿論のこと根太レス工法にも適したものとなる。
【0014】
上記アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構において、前記第2の滑り平板が前記第1の滑り平板に重ね合わされる平滑な面には該第2の滑り平板と同心で断面が略二等辺三角形または略等脚台形を呈する1つ以上のリング状のリング突条が凸設される一方、該第1の滑り平板が該第2の滑り平板に重ね合わされる平滑な面には断面が下方向に広がる略等脚台形を呈し該リング突条に対置して該リング突条を跨るように被包するリング状のリング被包溝が刻設され、該リング突条の第2の滑り平板の中心からの距離は該リング被包溝の第1の滑り平板の中心からの距離と略同一であって、断面における該リング突条の斜辺は直線である一方、該リング被包溝の斜辺は下に凸の曲線または直線としてもよい。
【0015】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、第2の滑り平板の表面に凸設されたリング突条と第1の滑り平板の裏面にリング突条を緩やかに被包するリング被包溝が刻設されているため、例えば、地震の揺れが比較的小さい場合には、第1の滑り平板と第2の滑り平板との重ね合わせ面で生じる静止摩擦により、上記の減震効果を奏するが、地震の揺れが比較的大きい場合には、リング突条およびリング被包溝の斜面同士が接触してリング突条にリング被包溝が乗り上がり、歪による摩擦が生じて減震効果を奏するようになる。この2つのダブル効果により、減震効果はより一層高くなる。
【0016】
上記アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構において、前記丸座付きナットの丸座の土台に接触する裏面には、中心から外側に向けて放射状に断面が略三角形で頂角が尖った1つ以上の三角突条が凸設されていてもよい。
【0017】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、丸座付きナットの丸座の裏面に中心から外側に向けて放射状に断面が略三角形の三角突条が凸設されていることにより、丸座付きナットをアンカーボルトに螺入することで、土台の表面が削れるので、木材の面から飛び出さないように予め木材を掘り込む座彫りが不要となって、施工精度とともに施工能率が上昇する。
【0018】
上記アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構において、前記第1の滑り平板の土台に接触する表面には先端が尖った複数の表面突起が略均等に凸設され、前記第2の滑り平板の基礎に接触する裏面の中心部には先端が尖った裏面突起が凸設されていてもよい。
【0019】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、第1の滑り平板の土台に接触する表面には先端が尖った複数の表面突起が略均等に凸設され、第2の滑り平板の基礎に接触する裏面の中心部には先端が尖った裏面突起が凸設されているので、設置したときにはこれらの突起部分が土台や基礎に食い込んで、この表面や裏面で滑りが生ずるおそれが少なく、第1の滑り平板と第2の滑り平板との重ね合わせ面で滑りが生ずる。
【0020】
上記アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構において、前記第1の滑り平板はその厚さを調整する嵩上げ部を有し、該嵩上げ部は外周面が前記第2の滑り平板の外周縁に一致する外周壁と、該第2の滑り平板の中心部を環囲する内周壁と、該外周壁および該内周壁に連結する複数の連結壁と、からなり、前記第1の滑り平板は前記第2の滑り平板に面接触する滑り平面を具えるとともに、前記内周壁、前記外周壁および前記連結壁が形成する空間は上部が開放されていてもよい。
【0021】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、第1の滑り平板の嵩上げ部は外周壁と内周壁と外周壁および内周壁に連結する複数の連結壁とから形成されていて上部が開放されている中空となっているので、軽量で扱い易く経済的であるばかりでなく、鋳造が可能となるので、安価に製造することができる。また、嵩上げ部の高さを調整することで、第1の滑り平板および第2の滑り平板の組み合わせでは、例えば略5mmないし30mm程度の高さの摩擦減震装置が提供できるため、床下空間が密閉型や換気型等のあらゆる木造住宅に適用できる。
【0022】
上記アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構において、前記第1の滑り平板の表面および前記第2の滑り平板の裏面には表面または裏面を横断する2本の横断溝が対置して刻設されるとともに、該第1の滑り平板の横断溝の両端部には前記第2の滑り平板をその中心を一致させて重ね合わせたときに該第2の滑り平板の外周縁まで達するスリットが形成され、該横断溝にリング状合成ゴムを嵌入したときには該リング状合成ゴムは該第1の滑り平板の表面および該第2の滑り平板の裏面より突出することなく巻回されてもよい。
【0023】
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、第1の滑り平板および第2の滑り平板の組み合わせたものを予めリング状合成ゴムで巻回することにより、取付施工時には単にリング状合成ゴムで巻回した組み合わせ済みセットを基礎上に載置するだけの作業となって効率的となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構によれば、摩擦減震装置にアンカーボルトを挿入する必要がなく、設置箇所の制約がなく、アンカーボルトの挙動に制限が加えられることはない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1はアンカーボルトおよび貫通孔の側面図、および基礎と土台との間に介挿された実施例1に係る摩擦減震装置の側面図である。
【
図2】
図2はアンカーボルトおよび貫通孔の拡大部分側面図である。
【
図3】
図3は摩擦減震装置の第1の滑り平板および第2の滑り平板の重ね合わせ面の部分断面拡大図である。
【
図4】
図4は実施例1に係る摩擦減震装置の第1の滑り平板の平面図である。
【
図5】
図5は実施例1及び実施例2に係る摩擦減震装置の第2の滑り平板の裏面図である。
【
図6】
図6は実施例2に係る摩擦減震装置の側面図である。
【
図7】(a)は実施例2に係る摩擦減震装置の第1の滑り平板の平面図であり、(b)は実施例2に係る摩擦減震装置の第1の滑り平板のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための形態に係る実施例について、
図1から
図7を参照して説明する。なお、
図1から
図7において、符号11は丸座付きナット、符号111は丸座部、符号113は三角突条、符号115は長ナット部、符号13はアンカーボルト、符号15は貫通孔、符号151は第1の貫通孔、符号152は第2の貫通孔、符号31は実施例1に係る摩擦減震装置、符号32は実施例2に係る摩擦減震装置、符号41は第1の滑り平板、符号410はリング被包溝、符号411は表面突起、符号412はリング状合成ゴム溝、符号413はスリット、符号414は水抜き孔、符号42は嵩上げ部、符号421は外周壁、符号422は内周壁、符号423は連結壁、符号43は第2の滑り平板、符号430はリング突条、符号431は裏面突起、符号432はリング状合成ゴム溝、符号433は滑り止め、符号51は土台、符号53は基礎、符号55は柱、である。
なお、符号Rは第2の貫通孔152の直径、符号rはアンカーボルト13の直径、符号Wはリング被包溝410の上辺の長さ、符号wはリング突条430の上辺の長さ、を示している。
【実施例1】
【0027】
丸座付きナット11で締め付けられたアンカーボルト13と摩擦減震装置31の構成について、
図1から
図5を基にして説明する。
このアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構は、建築物の基礎53に埋設されて土台51を固定する複数のアンカーボルト13と、各アンカーボルト13間の基礎53と土台51の間に介挿される摩擦減震装置31と、を備えている。本実施例では、建築物は、木造である。また、アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構は、アンカーボルト13に螺入して基礎53に土台51を固定する丸座付きナット11を有し、丸座付きナット11は、長ナット部115の先端に丸座111を具えている。
【0028】
また、アンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構は、アンカーボルト13が土台51を貫通する貫通孔15を有し、締付後のアンカーボルト13及び丸座付きナット11の天端は、土台51の表面と同一レベルとなっている。尚、締付後のアンカーボルト13及び丸座付きナット11の天端は、土台51の表面より低くともよい。貫通孔15は、土台51の表面から順に第1の貫通孔151及び第2の貫通孔152を有する。第2の貫通孔152の直径は、第1の貫通孔151の直径より大きく、第1の貫通孔151の長さは、丸座付きナット11の長ナット部115より長い。摩擦減震装置31は、上段に位置し土台51に接触する第1の滑り平板41と、下段に位置し基礎に接触する第2の滑り平板42と、を有し、第1の滑り平板41及び第2の滑り平板42が重ね合わされる面は平滑である。
【0029】
実施例1ではアンカーボルト13を12mmφのボルトとしている。そのアンカーボルト13が螺入する丸座付きナット11は、長ナット状の長ナット部115と長ナット部115の先端に連接される円盤状の丸座部111から形成されていて、長ナット部115は直径16mmφ×長さ30mmの円柱であり、丸座部111は外径が45mmφであって厚さ4.5mmとなっていて、その中心には12mmφの螺入孔が螺刻されている。長ナット部115の長さは、典型的には30mm程度であるが、任意に変更することができる。そして、丸座部111の土台51に接触する裏面には、中心から外側に向けて放射状に断面が略三角形で頂角が尖った複数の三角突条113が凸設されていて、外側に行くにつれて三角突条113の凸設の高さが増している。
【0030】
また、土台51を貫通する貫通孔15は第1の貫通孔151および第2の貫通孔152から形成されていて、その中心は一致し、上段に位置する第1の貫通孔151は18mmφ×長さ50mmであり、下段に位置する第2の貫通孔152は24mmφ×長さ50mmとなっていて、丸座付きナット11の長ナット部115の外径は第1の貫通孔151の内径よりもやや小さい16mmφとなっている。この程度の差ならば、第1の貫通孔151の直径と、丸座付きナット11の長ナット部115の外径は、略同一ということができる。第1の貫通孔151の長さおよび第2の貫通孔152の長さの比率は、特に限定されるものではないが、例えば1:1ないし1:2とすることができる。
【0031】
摩擦減震装置31は、上段に位置し土台51に接する第1の滑り平板41と、下段に位置し基礎53に接する第2の滑り平板43と、から構成されている。このように、摩擦減震装置は第1の滑り平板41と第2の滑り平板43と、から構成されていて、その構成は至って単純な構成であるので、故障がなく信頼性も大きい。本実施例では、第1の滑り平板41の直径は、土台51の幅と略同一である。第1の滑り平板41は90mmφ×厚さ略3mmの円盤であり、第2の滑り平板43は75mmφ×厚さ略3mmの円盤である。尚、第1の滑り平板41及び第2の滑り平板42を、円盤状以外の形状とすることもできる。また、本実施例では、第1の滑り平板41の直径が第2の滑り平板43よりも大きく形成されているが、第1の滑り平板41の直径を第2の滑り平板43と同一もしくは小さくすることもできる。そして、互いに密着する滑り面は平滑であり、第1の滑り平板10の滑り面には後述するリング突条430に対応する位置に断面形状が略等脚台形を呈する第1の滑り平板41と同心円のリング被包溝410が刻設されている。リング被包溝410は、断面が下方向に広がる略等脚台形を呈しリング突条430に対置してリング突条430を跨るように被包する。リング被包溝410は上辺の長さ(W)が15.0mm、下辺の長さが20.0mm、高さ(溝の深さ)が0.2mm、となっていて、斜辺は下に凸の曲線となっている。なお、リング被包溝410の斜面、すなわち断面形状としての斜辺は曲線としているが、直線であっても良い。この場合、斜辺の勾配はリング突条430の斜辺の勾配と一致させることが好ましい。また、第2の滑り平板43の滑り面には第2の滑り平板43と同心円のリング突条430が凸設されていて、その断面形状は下方向に広がる略等脚台形であって、上辺の長さ(w)が1.0mm、下辺の長さが11.0mm.高さが0.2mm、となっている。本実施例では、リング突条430の幅方向中央の第2の滑り平板43の中心からの距離は、リング被包溝410の幅方向中央の第1の滑り平板41の中心からの距離と略同一である。尚、リング突条430の断面形状は、適宜変形することができ、例えば、略等脚台形に代えて略二等辺三角形とすることもできる。
【0032】
さらに、第1の滑り平板41の表面には複数の先のとがった棘のような表面突起411が凸設され、第2の滑り平板43の裏面の中心部には先端が尖った裏面突起431が凸設されている。実施例1では、各表面突起411は、第1の滑り平板41の中心から所定の距離で周方向に等間隔に並んで配置され、略均等に凸設されている。そして、第1の滑り平板41および第2の滑り平板43を重ね合わせると、表面突起411や裏面突起431を除く本体の厚さが略6mmとなって、気密性を要する床下空間に適したものとなっている。
【0033】
また、第1の滑り平板41の表面および第2の滑り平板43の裏面には、それぞれ2本の平行なリング状合成ゴム溝412,432が刻設され、その両端部にはスリット413が形成されていて、図示外のリング状合成ゴムで巻回することができる。第1の滑り平板41の表面または第2の滑り平板43の裏面を横断する横断溝としての各リング状合成ゴム溝412,432は、対置して刻設される。また、第1の滑り平板41のリング状合成ゴム溝412の両端部のスリット413は、第1の滑り平板41と第2の滑り平板43を中心を一致させて重ね合わせたときに、第2の滑り平板43の外周縁まで達する。リング状合成ゴム溝412,432にリング状合成ゴムを嵌入したときには、リング状合成ゴムは第1の滑り平板41の表面および第2の滑り平板43の裏面より突出することなく巻回される。さらに、第2の滑り平板43の裏面には、多数の円板状の滑り止め433が凸設されている。なお、第1の滑り平板41の中心部には5mmφの水抜き孔414が貫設されている。
【0034】
摩擦減震装置31は、アンカーボルト13とアンカーボルト13間の所定の位置の基礎53の表面に予めコンクリート釘等で穴を穿ち、その穴に裏面突起431を合わせて基礎53上に設置する。基礎53の表面への穴の形成方法は任意であり、例えば、コンクリート釘に代えてコンクリート用の錐を用いることもできる。このとき、第1の滑り平板41及び第2の滑り平板43の組み合わせたものを予めリング状合成ゴムで巻回しておくことにより、単にリング状合成ゴムで巻回した組み合わせ済みセットを基礎53上に載置するだけの作業となって効率的となる。その後、土台51に貫設した貫通孔15をアンカーボルト13に挿入することで摩擦減震装置31の設置作業は終了する。なお、摩擦減震装置31は、負担する荷重が大きいほどその効果が大きくなるとともに、設置個数を減らすことができるので、例えば柱下のような大きな荷重が作用する箇所するようにすると効果的である。
図1には、摩擦減震装置31が、柱55が接続された土台51と、基礎53との間に介挿された状態を示している。
図1では、1個の摩擦減震装置31を、土台51における柱55の直下に配置した状態を示している。尚、複数個の摩擦減震装置31を、柱55が接続された土台51に対応して配置してもよく、この場合は柱軸力の伝達範囲に各摩擦減震装置31が半分以上かかるようにすればよい。
【0035】
そして、摩擦減震装置31の配置後に貫通孔15が貫設された土台51を基礎53上に設置する。その後にアンカーボルト13に丸座付きナット11を螺入してインパクトレンチ等でさらに丸座付きナット11を螺入するが、外側に行くほど凸設の高さが増す三角突条113により土台51が削れて、丸座付きナット11の天端を土台51の表面と同一レベルかそれ以下とするように設置することは極めて容易となる。また、土台51の表面が削れるので、木材の面から飛び出さないように予め木材を掘り込む座彫りが不要となって、施工精度とともに施工能率が上昇する。なお、アンカーボルト13の天端は予め基礎53の埋め込み時に土台51の表面と同一レベルかそれ以下となるように設置する。
【0036】
摩擦減震装置31は、第1の滑り平板41及び第2の滑り平板43がともに円盤状を呈するとともに、第1の滑り平板41の直径は土台の幅と略同一であって第2の滑り平板43よりも大きく形成されているので、土台51と基礎53の間に無理なく収納されることができる。第1の滑り平板41の土台51に接触する表面には先端が尖った複数の表面突起411が凸設され、第2の滑り平板43の基礎53に接触する裏面の中心部には先端が尖った裏面突起431が凸設されているので、設置したときにはこれらの突起部分が土台51や基礎53に食い込んで、この表面や裏面で滑りが生ずるおそれは少なくなっている。
【0037】
つぎに、アンカーボルト13と摩擦減震装置31の地震時の作用について説明する。なお、
図1は地震時に基礎53に対して土台51(建物)が左方向に動いたときの状態を示している。
【0038】
基礎53に対して土台51が摺動すると、アンカーボルト13に曲げ応力が働いてアンカーボルト13は曲がるが、アンカーボルト13は丸座付きナット11を介して第1の貫通孔151で掴持されているため第2の貫通孔152内で曲がりが生ずる。ここで、第1の貫通孔151の直径よりも直接基礎53に対面する第2の貫通孔152の直径が大きくなっているので、建物に地震時の横荷重が作用したときにアンカーボルト13の曲がりが孔壁に邪魔されることなく許容されて、地震エネルギーはアンカーボルト13に対する曲げ応力となって費消される。また、アンカーボルト13は丸座付きナット11を介して土台51に貫設された第1の貫通孔151の孔壁に当接するため、第1の貫通孔151の孔壁へのめり込みが軽減されて、アンカーボルト頂部の動きが殆ど拘束されない従来よりも半固定支持状態となって、アンカーボルト頂部の回動が拘束される。このように、アンカーボルト頂部の動きが半ば拘束される半固定支持となって、土台に対する基礎の摺動に抵抗することで、地震のエネルギーを費消し、地震の揺れを和らげることができる。例えば、地震の揺れが比較的小さい場合は、第1の滑り平板41と第2の滑り平板43との重ね合わせ面で水平の滑りが生じて、地震エネルギーは費消される。
このときの摺動長さは、
リング被包溝410の上辺の長さ(W)-リング突条430の上辺の長さ(w)
=15.0mm-1.0mm
=14.0mm・・・・・(1)
であり、一方で、アンカーボルト13の第2の貫通孔152に対するクリアランスは、
第2の貫通孔152の直径(R)-アンカーボルト13の直径(r)
=24mm-12mm
=12mm・・・・・(2)
となって、地震の揺れが比較的小さい場合には、アンカーボルト13が第2の貫通孔152の孔壁にめり込むようなことは殆どない。
【0039】
また、地震の揺れが比較的大きい場合には、リング突条430およびリング被包溝410の斜面同士が接触してリング突条430にリング被包溝410が乗り上がるようになるが、リング突条430およびリング被包溝410の斜面同士が接触した後は第1の滑り平板41は第2の滑り平板43に対して持ち上がり状態となり、第1の滑り平板41および第2の滑り平板43を締め付けているアンカーボルト13の軸力が大きくなって摩擦力が増大して減衰効果を高め、第1の滑り平板41および第2の滑り平板43の滑り面同士は線接触することにより第2の貫通孔152の孔壁をアンカーボルト13が押圧することになって集中荷重が発生し、その時に発生する歪が摩擦抵抗となって上昇して減衰効果を高めることとなる。
このようにして、実施例1のアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構ではアンカーボルト13および摩減震装置31が協働して地震の揺れに対抗する。この協働機構によれば、摩擦減震装置31がアンカーボルト13とアンカーボルト13の間に介挿されるので、摩擦減震装置31の設置位置が制約されることはない。
実施例1のアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構は、締付後のアンカーボルト13及び丸座付きナット11の天端を土台51の表面と同一レベル以下とすることにより、木造建築における在来工法は勿論のこと、根太を介することなく厚手の床下地材を大引きに直接貼り付ける工法(以下、「根太レス工法」という。)にも適していて、地震の揺れに対して従来以上の効果を生じさせる。
【0040】
尚、実施例1では、丸座付きナット11の三角突条113が複数設けられるものを示したが、三角突条113は少なくとも1つ設けられていればよい。さらに、必要に応じて、三角突条113を省略した構成とすることもできる。
【0041】
また、第1の滑り平板41及び第2の滑り平板43の材質は、それぞれ任意であり、例えば、金属、プラスチック等から構成することができる。さらに、第1の滑り平板41及び第2の滑り平板43は、同じ材料であっても、異なる材料であってもよく、必要な摩擦抵抗等に応じ、各滑り平板41,43の材料を選定することができる。例えば、各滑り平板41,43の一方を金属、他方をプラスチックとしたり、各滑り平板41,43の両方を同種の合金として、合金中に含まれる元素の配合比率を異なるようにしてもよい。
【実施例2】
【0042】
つぎに実施例2について説明するが、丸座付きナット11で締め付けられたアンカーボルト13と摩擦減震装置32の地震時における作用については、実施例1で説明した内容と略同一であるので、ここでは摩擦減震装置32について、主に摩擦減震装置31と異なる構成のみ説明する。
【0043】
摩擦減震装置32は、上段に位置し土台51に接する第1の滑り平板41と、下段に位置し基礎53に接する第2の滑り平板43と、から構成されている。第2の滑り平板43については、摩擦減震装置31と同様であるが、第1の滑り平板41は下部に位置する滑り円盤と上部に位置する円柱状の嵩上げ部42が合体した形状となっている。嵩上げ部42は、第1の滑り平板41の厚さを調整する。嵩上げ部42の土台51に直に接する円盤は90mmφであるが、それに続く円柱状の嵩上げ部の直径は75mmφで厚さが略17mmである。そして、嵩上げ部42の外周部分は壁状の外周壁421が形成されるとともに、中心部を環囲する内径が23mmφの内周壁422が形成されて、内周壁422から放射状に外周壁421を結ぶ連結壁423が出ている。実施例2では、外周壁421は、外周面が第2の滑り平板43の外周縁に一致し、外周壁421及び内周壁422を連結する連結壁423は複数設けられる。内周壁422、外周壁421及び連結壁423が形成する空間は、上部が開放されている。このように、第1の滑り平板41の嵩上げ部42は、上部が開放されている中空となっているので、軽量で扱い易く経済的であるばかりでなく、鋳造が可能となるので、安価に製造することができる。なお、外周壁421、内周壁422および連結壁423が形成する有底の空間は、結露水、冠水時に流入した水、雨水等が溜まらないように水抜き孔414が貫設されている。
【0044】
第1の滑り平板41の表面には摩擦減震装置31と同様に、複数の先のとがった棘のような表面突起411が凸設されている。また、第1の滑り平板41および第2の滑り平板43を重ね合わせると、略20mmとなって、換気性を要する床下空間に適したものとなっている。このように、嵩上げ部42の高さを調整することで、第1の滑り平板41および第2の滑り平板43の組み合わせでは、例えば略5mmないし30mm程度の高さの摩擦減震装置32が提供できるため、床下空間が密閉型や換気型等のあらゆる木造住宅に適用できる。
【0045】
以上、本発明の実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0046】
11 丸座付きナット
113 三角突条
13 アンカーボルト
15 貫通孔
151 第1の貫通孔
152 第2の貫通孔
31 実施例1に係る摩擦減震装置
32 実施例2に係る摩擦減震装置
41 第1の滑り平板
410 リング被包溝
411 表面突起
412 リング状合成ゴム溝
413 スリット
42 嵩上げ部
421 外周壁
422 内周壁
423 連結壁
43 第2の滑り平板
431 裏面突起
430 リング突条
432 リング状合成ゴム溝
51 土台
53 基礎
55 柱
【要約】
摩擦減震装置にアンカーボルトを挿入する必要がなく、設置箇所の制約がなく、アンカーボルトの挙動に制限が加えられることのないアンカーボルト及び摩擦減震装置の協働機構を提供する。協働機構は、アンカーボルトに螺入する丸座付きナットと、アンカーボルトが土台を貫通する貫通孔と、を有し、貫通孔は、土台の表面から順に第1の貫通孔及び第2の貫通孔を有し、第2の貫通孔の直径は、第1の貫通孔の直径より大きく、第1の貫通孔の長さは、丸座付きナットの長ナット部より長く、摩擦減震装置は、上段に位置し土台に接触する第1の滑り平板と、下段に位置し基礎に接触する第2の滑り平板と、を有し、第1の滑り平板及び第2の滑り平板が重ね合わされる面は平滑であり、丸座付きナットで固定されたアンカーボルト及び摩擦減震装置が協働して地震に対抗する。