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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-02
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】銀被覆フレーク状銅粉及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/068 20220101AFI20220203BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220203BHJP
   B22F 1/17 20220101ALI20220203BHJP
【FI】
B22F1/068
B22F1/00 L
B22F1/17
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021568064
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027964
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020142319
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 卓
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-071819(JP,A)
【文献】特表2008-533307(JP,A)
【文献】特開2014-116315(JP,A)
【文献】特開2006-161081(JP,A)
【文献】特開2010-275638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
CiNii
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面に銀を有する銀被覆フレーク状銅粒子を含む銀被覆フレーク状銅粉であって、
前記銀被覆フレーク状銅粉についての、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒径をD90(μm)とし、累積体積10容量%における体積累積粒径をD10(μm)としたとき、
90/D10で定義される分散度に対する、前記銀被覆フレーク状銅粉の明度L*の値が13以上25以下であり、
前記銀被覆フレーク状銅粒子の厚みTが0.1μm以上0.3μm以下である、銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項2】
少なくとも表面に銀を有する銀被覆フレーク状銅粒子を含む銀被覆フレーク状銅粉であって、
前記銀被覆フレーク状銅粉についての、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径をD50(μm)とし、前記銀被覆フレーク状銅粒子の厚みをT(μm)としたとき、
粒径D50に対する、厚みTの値が0.04以下であり、
前記銀被覆フレーク状銅粒子の厚みTが0.1μm以上0.3μm以下である、銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項3】
タップ密度が0.5g/cm以上2.0g/cm以下である、請求項1又は2に記載の銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項4】
銀の割合が5質量%以上20質量%以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項5】
前記銀被覆フレーク状銅粒子の円形度が0.60以上0.95以下である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項6】
明度L*が70以上86以下である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項7】
前記銀被覆フレーク状銅粉についての、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒径D90が15μm以上35μm以下である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項8】
前記銀被覆フレーク状銅粉についての、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積10容量%における体積累積粒径D10が3μm以上8μm以下である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項9】
90/D10で定義される分散度が3.0以上5.3以下である、請求項8に記載の銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項10】
前記銀被覆フレーク状銅粉についての、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が7μm以上17μm以下である、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の銀被覆フレーク状銅粉。
【請求項11】
銅母粉及び第1の錯化剤を含む分散液を、媒体撹拌ミル装置によって処理し、該銅母粉を構成する銅母粒子をフレーク状に変形させ、
フレーク状に変形した前記銅母粒子を含む前記銅母粉を、銀イオン及び第2の錯化剤を含む水性液で処理し、該銅母粒子の表面に銀を析出させて前駆体粒子を得、
前記前駆体粒子と、銀イオンと、銀イオンの還元剤とを水中で接触させて、該前駆体粒子の表面に更に銀を析出させる、銀被覆フレーク状銅粉の製造方法。
【請求項12】
第1の錯化剤及び第2の錯化剤が、同種のものであるか又は異種のものである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
第1の錯化剤及び第2の錯化剤がいずれもエチレンジアミン四酢酸塩である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記銅母粉が、銅イオンを含む電解液を電気分解して得られた電解銅粉である、請求項11ないし13のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀被覆フレーク状銅粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレーク状銅粒子は、その形状に起因して粒子の比表面積が大きく、また粒子どうしが接触しやすいことから、これを樹脂に添加することで該樹脂に導電性を付与することが容易である。しかし銅は酸化されやすく、その結果、銅粒子の電気抵抗が増大しやすいという欠点がある。この欠点を補うことを目的として、銅粒子の表面を、銅よりも電気抵抗の低い金属である銀で被覆して、粒子の電気抵抗の増大を抑制する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1ないし3には、表面に銀を有し、扁平化処理された銀被覆フレーク状銅粒子を含む銀被覆フレーク状銅粉が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-275638号公報
【文献】特開2015-71818号公報
【文献】特開2016-35098号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1ないし3に記載の技術によれば、アトライターなどの粉砕装置を用いて電解銅粉を扁平化し、次いで置換めっきによって銅粉の表面を銀で被覆している。しかし、この方法で得られた銀被覆フレーク状銅粉は、銀の被覆が均一ではなく、銅粉の表面が一部露出した状態になりやすいという課題がある。この課題は、扁平化後の電解銅粉の厚みが薄い場合に特に顕著である。このような被覆状態の銀被覆フレーク状銅粉を樹脂と混合すると、樹脂中に銅が溶出しやすく、そのことに起因して樹脂が経時的に劣化しやすい。
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る銀被覆フレーク状銅粉及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明は、少なくとも表面に銀を有する銀被覆フレーク状銅粒子を含む銀被覆フレーク状銅粉であって、
前記銀被覆フレーク状銅粉についての、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒径をD90(μm)とし、累積体積10容量%における体積累積粒径をD10(μm)としたとき、
90/D10で定義される分散度に対する、前記銀被覆フレーク状銅粉の明度L*の値が13以上である、銀被覆フレーク状銅粉を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、銅母粉及び第1の錯化剤を含む分散液を、媒体撹拌ミル装置によって処理し、該銅母粉を構成する銅母粒子をフレーク状に変形させ、
フレーク状に変形した前記銅母粒子を含む前記銅母粉を、銀イオン及び第2の錯化剤を含む水性液で処理し、該銅母粒子の表面に銀を析出させる、銀被覆フレーク状銅粉の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明は、母材としての銅粒子の少なくとも表面に銀を有する銀被覆銅粒子の集合体である銀被覆銅粉に関するものである。銀被覆銅粒子はその外形に特徴の一つを有する。詳細には、銀被覆銅粒子はフレーク状の形状を有する。したがって以下の説明においては、銀被覆銅粒子のことを「銀被覆フレーク状銅粒子」といい、銀被覆銅粉のことを「銀被覆フレーク状銅粉」という。
【0009】
本明細書において「フレーク状」とは、「扁平状」や「薄片状」と同義であり、粒子が薄板状の形状であることを意味している。フレーク状粒子は、そのアスペクト比によって特定される。アスペクト比とは、フレーク状粒子の厚みTに対する、フレーク状粒子を平面視したときの板面における長径Dの比であるD/Tの値のことである。板面における長径Dは、該板面を横切る線分のうち最も長い線分の長さのことである。本発明において、銀被覆フレーク状銅粒子のアスペクト比は、銀被覆フレーク状銅粉を樹脂に添加したときに高い導電性を付与し得る観点から、5以上160以下であることが好ましく、10以上160以下であることがより好ましく、10以上140以下であることが更に好ましく、15以上140以下であることが一層好ましく、20以上140以下であることが更に一層好ましく、30以上120以下であることが特に好ましく、30以上80以下であることがとりわけ好ましい。
【0010】
アスペクト比は、1個の粒子に対して長径D及び厚みTを測定してD/Tの値を算出する操作を50個以上の粒子に対して行い、それによって得られたD/Tの値の算術平均値とする。
長径D及び厚みTの測定方法は次のとおりである。
長径D:電子顕微鏡によって任意の倍率で試料を撮影後、画像解析粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック社製 Mac-View)を用いて長径を測定する。
厚みT:試料の樹脂埋めを行い、クロスセクションポリッシャによって断面加工を行う。その後、電子顕微鏡を用い任意の倍率で撮影後、長径Dと同様に測定する。
【0011】
銀被覆フレーク状銅粒子は、その平面視での形状、すなわち板面の形状に特に制限はなく、例えば略円形、略長円形、略楕円形、不定形などの形状をとり得る。これらの形状のうち、略円形であることが、銀被覆フレーク状銅粉を樹脂に添加したときに高い導電性を付与し得る観点から好ましい。
【0012】
銀被覆フレーク状銅粒子の板面の形状が略円形である場合、該板面の円形度は0.60以上0.95以下であることが好ましく、0.65以上0.90以下であることが更に好ましく、0.65以上0.85以下であることが一層好ましい。円形度は、板面の面積をSとし、板面の周囲長をLとしたとき、4πS/Lで定義される。円形度は、50個以上の粒子に対して測定された値の算術平均値とする。
【0013】
円形度の具体的な測定方法は次のとおりである。
画像解析粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック社製 Mac-View)を用いて測定する。このソフトウェアを用いて50個以上の試料の輪郭をなぞり、輪郭内の面積を求める。面積から円相当径を計算し、これを平均化する。
【0014】
銀被覆フレーク状銅粒子において、母材であるフレーク状銅粒子の表面の一部が露出した状態になっていると、すなわち銀の被覆が不均一になっていると、銀被覆フレーク状銅粉を樹脂と混合した場合、銅が樹脂と接触することに起因して樹脂が変性してしまう場合がある。したがって銀被覆フレーク状銅粒子は、母材としてのフレーク状銅粒子の表面に銀が極力均一に被覆されていることが好ましい。特に極力少ない量の銀でもってフレーク状銅粒子の表面が均一に被覆されていることが、経済性の観点から好ましい。
【0015】
銀被覆フレーク状銅粒子における銀の被覆の状態は、銀被覆フレーク状銅粉の明度L*の値によって評価できる。この理由は、銅そのものの明度よりも銀そのものの明度の方が高いからである。尤も、フレーク状銅粒子の表面に大きな厚みでもって銀を被覆して明度を高めても経済的に不利になるばかりか、樹脂中での銀被覆フレーク状銅粉の分散性も低下してしまうことが本発明者の検討の結果判明した。したがって、銀被覆フレーク状銅粉の明度L*の値が高いことだけを理由として当該銀被覆フレーク状銅粉が好ましいものであるということはできない。
【0016】
樹脂と混合した場合の樹脂の変性を防止し且つ樹脂中での分散性を高める観点から本発明者が鋭意検討した結果、銀被覆フレーク状銅粉についてのD90/D10の値と、明度L*の値との比率を尺度として採用することが有利であることが判明した。D90とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒径(μm)のことであり、D10とは、同測定法による累積体積10容量%における体積累積粒径(μm)のことである。また、D90/D10の値は粉体の粒度分布の尺度となる値であり一般に分散度と呼ばれている。分散度の値が小さいほど、その粉体は粒子の凝集の程度が低く、また粒度分布がシャープであることを意味する。したがって、L*/分散度の値は、その値が大きければ大きいほど、銀による被覆が均一であり且つ銀被覆フレーク状銅粉の凝集の程度が低いことを意味する。
【0017】
本発明の銀被覆フレーク状銅粉においては、L*/分散度の値は、13以上であることが好ましく、14以上であることが更に好ましく、15以上であることが一層好ましい。L*/分散度の値は、大きければ大きいほど好ましいが25程度にその値が大きければ、本発明の所期の効果は十分に奏される。
【0018】
L*/分散度の値は上述のとおりであることが好ましいところ、L*そのものの値は、銀による均一な被覆の観点から70以上であることが好ましく、73以上であることが更に好ましく、76以上であることが一層好ましい。このようなL*値を有する銀被覆フレーク状銅粉は、後述する方法によって製造することができる。L*の上限値に特に制限はなく、100に近ければ近いほど好ましいが、86程度にL*の値が大きければ本発明の所期の効果は十分に奏される。L*の値は、JIS Z 8722 (幾何条件cに準拠/正反射光含む)記載の拡散照明垂直受光方式、例えばコニカミノルタ株式会社製の色彩色差計(CR-400)、を用いて測定される。
【0019】
一方、分散度の値は、5.3以下、特に5.0以下、とりわけ4.5以下であることが、樹脂中での銀被覆フレーク状銅粉の分散性を高める観点から好ましい。このような分散度を有する銀被覆フレーク状銅粉は、後述する方法によって製造することができる。分散度の下限値に特に制限はなくは1に近ければ近いほど好ましいが、3.0程度に分散度の値が小さければ本発明の所期の効果は十分に奏される。
分散度の値は、例えば以下の方法で算出することができる。銀被覆フレーク状銅粉を少量ビーカーに取り、3質量%トリトンX溶液(関東化学株式会社製)を2、3滴添加し、粉末になじませてから、0.1質量%SNディスパーサント41溶液(サンノプコ株式会社製)50mLを添加する。その後、超音波分散器TIPφ20(株式会社日本精機製作所製、OUTPUT:8、TUNING:5)を用いて2分間分散処理して測定用サンプルを調製する。この測定用サンプルを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3300(マイクロトラックベル株式会社製)を用いて、粒度分布を測定しD90及びD10の値を得る。これらの値から分散度を算出する。
【0020】
樹脂と混合した場合の樹脂の変性を防止し且つ樹脂中での分散性を高める観点からは、D50(μm)に対する、銀被覆フレーク状銅粒子の厚みT(μm)の比率を尺度として採用することも有利であることが本発明者の検討の結果判明した。D50とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径(μm)のことである。本発明においては、T/D50の値が0.04以下であることが好ましく、0.03以下であることが更に好ましい。一方で、T/D50の値は0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることが更に好ましく、0.01以上0.02以下であることが一層好ましい。T/D50の値は、粒径D50を固定して考えた場合、粒径D50に対して、銀被覆フレーク状銅粒子の厚みTが小さいことを意味している。厚みが小さすぎると粒子の表面積が大きくなりすぎ、樹脂との反応性が強くなる。銀被覆フレーク状銅粉は、これを樹脂と混合した場合の樹脂との変性防止に有効であり且つ樹脂中での分散性の向上に有効であることを意味している。一般に、厚みTを小さくするには、原料となる銅母粉に外力を長時間加えて十分に扁平に変形させればよいが、長時間にわたって外力を加えることで銅母粉が凝集してしまいD50が大きくなる傾向にある。つまり、厚みTを小さくすることと、D50を小さくすることとは二律背反の関係にある。しかし本発明においては、後述する方法によって銅母粉をフレーク化することによって、D50の増大を抑制しつつ厚みTを小さくすることが可能となった。
【0021】
厚みTは薄ければ薄いほど好ましく、具体的には0.5μm以下、中でも0.3μm以下、特に0.25μm以下、とりわけ0.20μm以下であることが好ましい。厚みTの下限値に特に制限はないが、0.10μm程度に厚みTが小さければ、本発明の所期の効果は十分に奏される。
【0022】
一方、D50の値は、銀被覆フレーク状銅粉の樹脂への分散性を高める観点から、7μm以上17μm以下であることが好ましく、8μm以上16μm以下であることが更に好ましく、9μm以上15μm以下であることが一層好ましい。D50の値は、上述した分散度の測定と同様の方法で測定できる。
【0023】
先に述べたとおり本発明の銀被覆フレーク状銅粉は凝集の程度が低い、すなわち上述した分散度(D90/D10)の値が小さいものである。したがって本発明の銀被覆フレーク状銅粉においては、D90及びD10の値は、D50の値から大きく離れたものになっていないことが好ましい。この観点から、D90の値は、15μm以上35μm以下であることが好ましく、16μm以上31μm以下であることが更に好ましく、17μm以上30.5μm以下であることが一層好ましい。一方、D10の値は、3.0μm以上8.0μm以下であることが好ましく、3.9μm以上7.0μm以下であることが更に好ましく、5.0μm以上6.2μm以下であることが一層好ましい。
【0024】
以上のとおり本発明の銀被覆フレーク状銅粉は、これを構成する銀被覆フレーク状銅粒子の厚みが薄いものであり、また粒子の凝集の程度が低いものである。このことに起因して本発明の銀被覆フレーク状銅粉は、そのタップ密度が低いものとなる。具体的には、本発明の銀被覆フレーク状銅粉のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm以上2.5g/cm以下であり、より好ましくは0.5g/cm以上2.0g/cm以下であり、更に好ましくは0.7g/cm以上2.0g/cm以下であり、一層好ましくは0.7g/cm以上1.8g/cm以下であり、更に一層好ましくは0.7g/cm以上1.5g/cm以下であり、特に好ましくは0.8g/cm以上1.3g/cm以下である。タップ密度はJIS Z 2512に準拠して測定される。
【0025】
本発明の銀被覆フレーク状銅粉においては、母材であるフレーク状銅粒子の表面が、銀によって可能な限り薄く且つ均一に被覆されていることが望ましい。したがって本発明の銀被覆フレーク状銅粉における銀の割合を高くすることは望ましくない。詳細には、本発明の銀被覆フレーク状銅粉における銀の割合は、5質量%以上20質量%以下であり、更に好ましくは7質量%以上16質量%以下であり、一層好ましくは9質量%以上14質量%以下である。銀被覆フレーク状銅粉における銀の割合は、ICP発光分光分析法よって測定できる。
【0026】
次に本発明の銀被覆フレーク状銅粉の好適な製造方法について説明する。本発明の製造方法は、母材である銅粒子のフレーク化工程と、フレーク状銅粒子に対する銀の被覆工程とに大別される。
フレーク化工程においては、銅母粉及び第1の錯化剤を含む分散液を、媒体撹拌ミル装置によって処理し、該銅母粉を構成する銅母粒子をフレーク状に変形させる。
銀の被覆工程においては、フレーク状に変形した銅母粒子を含む銅母粉を、銀イオン及び第2の錯化剤を含む水性液で処理し、該銅母粒子の表面に銀を析出させる。
以下、それぞれの工程について説明する。
【0027】
銅母粉のフレーク化工程においては、フレーク状以外の形状を有する銅母粉に外力を加え、該銅母粉を扁平な形状に変形させる。銅母粉としては、例えば湿式還元法によって製造された球状の銅母粉、銅イオンを含む電解液を電気分解して得られた電解銅母粉、アトマイズ法によって製造された球状の銅母粉などが挙げられる。これらの銅母粉のうち、電解法によって製造されたデンドライト状銅母粉をフレーク化することが、厚みの小さいフレーク状銅粉を首尾よく製造し得る点から好ましい。
【0028】
電解法によって製造されたデンドライト状銅粒子を母粉として用いる場合には、フレーク化に先立ち、該デンドライト状銅粒子を粉砕することが、厚みの小さいフレーク状銅粉を一層首尾よく製造し得る点から好ましい。粉砕の手段は特に制限はなく、例えば円板式、ローラー式、シリンダー式、衝撃式、ジェット式、高速回転式による粉砕方式が挙げられる。また、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれを用いてもよい。デンドライト状銅粒子における枝部と幹部とを確実に分離させる観点からは乾式粉砕を行うことが好ましい。乾式粉砕には例えば衝突板方式のジェットミルや、粒子どうしを衝突させる方式のジェットミルを用いることが好ましい。
【0029】
粉砕後の銅粒子の粒径D50は、所望の粒径及び厚みを有するフレーク状銅粒子を得る観点から、2μm以上8μm以下であることが好ましく、3μm以上7μm以下であることが更に好ましく、4μm以上6μm以下であることが一層好ましい。
【0030】
次に、母材である銅粒子のフレーク化を行う。フレーク化には、ビーズミル、ボールミル、アトライターなどの媒体撹拌ミルを用いることができる。
媒体撹拌ミルを用いてフレーク化を行うのに先立ち、銅粒子を液媒に分散させて分散液を調製する。分散液の調製に用いられる液媒としては、例えば水や有機溶媒が挙げられる。水と有機溶媒との混合溶媒を用いることもできる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール等の炭素数1~4の低級モノアルコール;エチレングリコール等の炭素数1~4の低級多価アルコール;炭素数1~4の低級カルボン酸;炭素数1~4の低級アミン等を単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの液媒のうち、有機溶媒を用いることが、分散液中での銅粒子の分散性が高まり、且つ媒体撹拌ミルで処理するときの品質の安定性が高まる点から好ましい。特にメタノール等の低級アルコール類を用いることが、媒体の揮発が容易であり、目的とするフレーク状銅粒子に媒体が残留しづらい点から好ましい。
【0031】
分散液中における銅粒子の濃度は、生産性の点や、粗大粒子の発生の防止の点から、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0032】
分散液を調製するには、銅粒子と液媒とを単に混ぜ合わせるだけでよい。場合によっては、撹拌分散装置を用いて分散液を調製してもよい。そのような装置としては、例えば流体ミルやプライミクス株式会社製のT.K.フィルミックス(登録商標)などが挙げられる。
【0033】
本製造方法においては、分散液中に第1の錯化剤を含有させておくことが好ましい。第1の錯化剤の作用によって、フレーク化を行っている間の銅粒子の凝集が効果的に抑制される。また、銅粒子の表面に存在する酸化物が第1の錯化剤によって除去され、フレーク状銅粒子の表面に銀を薄く且つ均一に被覆させることができる。この観点から、分散液に含まれる第1の錯化剤の濃度は、分散液中における銅粒子の濃度が上述の範囲であることを条件として、0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい。
【0034】
従来、銅母粉を媒体撹拌ミルによってフレーク化する場合には、該銅母粉を含む分散液に脂肪酸を含有させて該銅母粉を構成する銅粒子の凝集を抑制することが多かった。しかし脂肪酸を使用すると、フレーク化後の銅粒子の表面に該脂肪酸が付着して残留することから、フレーク化後の銅粒子の表面に銀を被覆させるためにはそれに先立ち脂肪酸を除去する必要があった。脂肪酸を除去するためには脱脂工程が必要となり工程が増えるという不都合と、脱脂工程によって銅粒子の表面が酸化されるという不都合があった。これに対して分散液中に脂肪酸を含有させず、それに代えて第1の錯化剤を含有させる本製造方法によれば、そのような不都合は生じない。
【0035】
第1の錯化剤は、単座のものであってもよく、二座、三座及び四座などの多座のものであってよい。銅への配位性の高さの観点から、第1の錯化剤としては、クエン酸、アスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸塩などが挙げられる。これらの錯化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの錯化剤のうち、フレーク化工程において銅粒子の凝集を効果的に抑制し得る観点から、エチレンジアミン四酢酸塩を用いることが好ましい。
【0036】
フレーク化工程においては、分散液と粉砕メディアとを媒体撹拌ミル装置内に入れて混合撹拌する。
粉砕メディアの直径は0.1mm以上1mm以下であることが好ましい。粉砕メディアの材質は、一般にジルコニアやアルミナである。
媒体撹拌ミル装置の運転時間や回転速度、パスの回数等は、目的とするフレーク状銅粉が得られるように適宜調整すればよい。
【0037】
このようにして銅母粉を構成する銅母粒子をフレーク状に変形させたら、次に銀の被覆工程を行う。銀の被覆工程において、先に述べたとおり、フレーク状に変形した銅母粒子を含む銅母粉を、銀イオン及び第2の錯化剤を含む水性液で処理する。この処理は、以下の処理1及び処理2を含むことが好ましい。
〔処理1〕
銀イオンと、フレーク状銅粒子とを水中で接触させて置換めっきを行い、該フレーク状銅粒子の表面に銀を析出させる。この析出によって前駆体粒子を得る。
〔処理2〕
処理1で得られた前駆体粒子と、銀イオンと、銀イオンの還元剤とを水中で接触させて、該前駆体粒子の表面に更に銀を析出させる。
【0038】
処理1及び処理2で用いられる銀イオンは、銀源となる銀化合物から生成させる。銀化合物としては、例えば硝酸銀等の水溶性銀化合物を用いることができる。水中における銀イオンの濃度は、0.01~10mol/L、特に0.04~2.0mol/Lに設定することが、望ましい量の銀をフレーク状銅粒子の表面に析出させ得る観点から好ましい。
【0039】
処理1において、水中におけるフレーク状銅粒子の量は、1~1000g/L、特に50~500g/Lとすることが、やはり望ましい量の銀をフレーク状銅粒子の表面に析出させ得る観点から好ましい。
【0040】
処理1において、フレーク状銅粒子と銀イオンとの添加の順序に特に制限はない。例えばフレーク状銅粒子と銀イオンとを同時に水中に添加することができる。置換めっきによる銀の析出のコントロールのしやすさの観点からは、水中にフレーク状銅粒子を予め分散させて分散液を調製し、この分散液に銀源となる銀化合物を添加することが好ましい。この場合、分散液は常温でもよく、あるいは0~80℃の温度範囲でもよい。
【0041】
銀化合物の添加に先立ち、分散液中に第2の錯化剤を添加しておき、銀の還元をコントロールすることが好ましい。第2の錯化剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸塩、トリエチレンジアミン、イミノ二酢酸及びその塩、クエン酸及びその塩、並びに酒石酸及びその塩などが挙げられる。
【0042】
先に説明した第1の錯化剤と、前記の第2の錯化剤とは同種のものであってもよく、あるいは異種のものであってもよいが、錯体の安定度定数を合わせる観点から、第1の錯化剤と第2の錯化剤とは同種のものであることが好ましい。特に、フレーク化工程において銅粒子の凝集を効果的に抑制する観点、及び銀の被覆工程において銀を薄く且つ均一に被覆させる観点から、第1の錯化剤と第2の錯化剤とはいずれもエチレンジアミン四酢酸塩であることが好ましい。
【0043】
処理1における銀化合物の添加は水溶液の状態で行うことが好ましい。この水溶液は分散液中に一括添加することもでき、あるいは所定の時間にわたって連続的に又は不連続に添加することもできる。置換めっきの反応を制御しやすい点から、銀化合物の水溶液は、所定の時間にわたって分散液に添加することが好ましい。
【0044】
処理1においは、分散液に銀化合物を添加する前から、又は添加するのと同時に、該分散液に超音波を照射することが好ましい。超音波の照射によって分散液中のフレーク状銅粒子の分散が促進されて、銀による該フレーク状銅粒子の均一被覆が起こりやすくなる。超音波はこれを照射すれば一定の効果はあるが、特に周波数は200kHz以下が好ましく、45kHz以下がより好ましい。下限は10kHzあれば十分である。
【0045】
処理1においては、上述した置換めっきによってフレーク状銅粒子の表面に銀が析出して前駆体粒子が得られる。前駆体粒子における銀の析出量は、最終的に得られる銀被覆フレーク状銅粉における銀の量の0.1~50質量%、特に1~10質量%とすることが、薄く且つ均一な銀の被覆を形成し得る点から好ましい。
【0046】
次に処理2について説明する。処理2においては、処理1で得られた前駆体粒子を含む分散液に、銀イオン及び銀イオンの還元剤を添加する。この場合、処理1で得られた前駆体粒子を一旦固液分離した後に水に分散させて分散液となしてもよく、あるいは処理1で得られた前駆体粒子の分散液をそのまま処理2に供してもよい。後者の場合、分散液中に、処理1で添加した銀イオンが残存していてもよく、あるいは残存していなくてもよい。
【0047】
処理2において添加する銀イオンは、処理1と同じく水溶性銀化合物から生成させる。銀化合物は、水溶液の状態で分散液に添加することが好ましい。水溶液中の銀イオンの濃度は好ましくは0.01~10mol/L、更に好ましくは0.1~2.0mol/Lである。この範囲の濃度の銀イオンを有する水溶液を、1~1000g/L、特に50~500g/Lの前駆体粒子を含む前記分散液における該前駆体粒子100質量部に対して0.1~55質量部、特に1~25質量部添加することが、薄く且つ均一な銀の被覆を形成し得る点から好ましい。
【0048】
処理2において添加する還元剤としては、銀の置換めっき及び還元めっきを同時に進行させ得る程度の還元力を有するものを用いる。このような還元剤を用いることで、薄く且つ均一な銀の被覆を首尾よく形成することができる。還元性の強い還元剤を用いると、還元めっきが一方的に進行してしまい目的とする構造を有する銀の被覆を形成することが容易でない。一方、還元性の弱い還元剤を用いると、銀イオンの還元めっきが進行しづらく、そのことに起因してやはり目的とする構造を有する銀の被覆を形成することが容易でない。以上の観点から、還元剤としては、これを水に溶解したときに酸性を示す有機還元剤を用いることが好ましい。具体的には、蟻酸、シュウ酸、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸、ホルムアルデヒドなどがある。これらの有機還元剤は1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。その中でも、L-アスコルビン酸を用いることが好ましい。ここでいう「酸性」とは、有機還元剤0.1モルを1000gの水に溶解した水溶液が、25℃において1~6のpHを示すことである。
【0049】
還元剤の添加量は、添加する水溶液中の銀イオンに対して0.5~5.0当量、特に1.0~2.0当量とすることが、銀の置換めっき及び還元めっきを同時に進行させやすい点から好ましい。
【0050】
前駆体粒子を含む分散液に還元剤及び銀イオンを添加するときの順序に特に制限はない。銀イオンの還元を制御して、薄く且つ均一な銀の被覆を形成する観点からは、分散液中に還元剤を添加した後に銀イオンを添加することが好ましい。銀源となる銀化合物は、分散液中に一括添加することもでき、あるいは所定の時間にわたって連続的に又は不連続に添加することもできる。銀イオンの還元を制御しやすい点から、銀化合物はその水溶液の状態で、所定の時間にわたって分散液に添加することが好ましい。
【0051】
処理2において、銀の置換めっき及び還元めっきを同時に進行させるときには、分散液を常温の状態にしておいてもよく、あるいは0~80℃の温度範囲で加熱しておいてもよい。
【0052】
処理1の場合と同様に処理2においては、分散液に還元剤を添加する前から、又は添加するのと同時に、該分散液に超音波を照射することが好ましい。超音波の照射によって分散液中の前駆体粒子の分散が促進されて、銀による該前駆体粒子の均一被覆が起こりやすくなる。超音波はこれを照射すれば一定の効果はあるが、特に周波数は200kHz以下が好ましく、45kHz以下がより好ましい。下限は10kHzあれば十分である。
【0053】
このようにして得られた銀被覆フレーク状銅粉は、該銅粉及び樹脂を含む導電性組成物の状態で好適に用いられる。例えば銀被覆フレーク状銅粉を樹脂、有機溶媒及びガラスフリット等と混合して導電ペーストとなすことができる。あるいは、銀被覆フレーク状銅粉を有機溶媒等と混合して導電インクとなすことができる。このようにして得られた導電ペーストや導電インクを適用対象物の表面に施すことで、所望のパターンを有する導電膜を得ることができる。
本発明の銀被覆フレーク状銅粉においては銀の被覆が薄く且つ均一になっているので、該銀被覆フレーク状銅粉は導電性組成物中において銅の溶出が効果的に抑制される。その結果、該導電性組成物に含まれる樹脂の変性が抑制されたものとなる。
また本発明の銀被覆フレーク状銅粉は凝集の程度が低いので、導電性組成物中での分散性が良好である。したがって該導電性組成物から得られた導電膜はその導電性が高いものとなる。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0055】
〔実施例1〕
(1)電解銅粉の製造
2.5m×1.1m×1.5mの大きさ(約4m)の電解槽内に、それぞれ大きさ(1.0m×1.0m)9枚の陰極板と不溶性陽極板(DSE(ペルメレック電極社製))とを電極間距離が5cmとなるように吊設した。電解液としての硫酸銅溶液を20L/分で電解槽を循環させた。この電解液に陽極と陰極を浸漬し、これに直流電流を流して電気分解を行い、陰極表面に粉末状の銅を析出させた。
循環させる電解液の銅イオンの濃度を5g/L、硫酸(HSO)の濃度を100g/L、電流密度を100A/mに調整して40分間電解を実施した。
陰極表面に析出した銅を、機械的に掻き落として回収し、その後、洗浄し、含水銅粉ケーキを得た。このケーキを水3Lに分散させ、10分間撹拌した後、ブフナー漏斗で濾過し、洗浄後、減圧状態(1×10-3Pa)で80℃、6時間乾燥させ、電解銅粉を得た。
【0056】
(2)電解銅粉の粉砕
衝突板方式ジェットミル(日本ニューマチック工業(株)社製のIDS式ジェットミル、IDS-5)によって、粉砕圧力6kgf/cm、供給速度6.7kg/hrの条件で電解銅粉を粉砕した。粉砕後の銅粉の粒径D50は4.5μmであった。
【0057】
(3)フレーク化
粉砕後の電解銅粉3kgと、メタノール9kgと、1kgのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(以下「EDTA2Na」ともいう。)とを混合して、銅粉のメタノール分散液を調製した。この分散液12kgを、アシザワ・ファインテック株式会社製のビーズミルであるスターミル(登録商標)LMZに入れ、更に直径0.2mmのジルコニアビーズを4.85kg入れた。ビーズミルを180分間にわたり運転し、銅粉のフレーク化を行った。その後、分散液とビーズとを濾過によって分離した後、分散液を静置してフレーク状銅粒子を沈降させた。上澄みを除去し、濾過してフレーク状銅粒子を採取した。次いでフレーク状銅粒子を水洗し、引き続きメタノールでの洗浄を2回繰り返した。
【0058】
(4)銀の被覆
40℃に加熱した500mLの純水中に、100gのフレーク状銅粒子を投入し、分散液とした。この分散液を撹拌しながら、4.3gのEDTA2Naを添加し溶解させた。更にこの分散液に、0.44mol/Lの硝酸銀水溶液48mLを6分間にわたって連続添加して置換めっきを行い、フレーク状銅粒子の表面に銀を析出させて前駆体粒子を得た。この際、分散液に超音波(100W、28kHz)を照射した。
次に還元剤としてのL-アスコルビン酸を分散液中に添加し溶解させた。更に、0.44mol/Lの硝酸銀水溶液192mLを24分間にわたって分散液に連続添加した。これによって、還元めっきと置換めっきとを同時に進行させて、前駆体粒子の表面に銀を更に析出させ、目的とする銀被覆フレーク状銅粉を得た。この間も超音波の照射を継続した。
【0059】
〔実施例2ないし8〕
以下の表1に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして銀被覆フレーク状銅粉を製造した。
【0060】
〔比較例1〕
実施例1におけるフレーク化工程においてEDTA2Naを用いず、フレーク化時間を20分とした。また銀の被覆工程において超音波の照射を行わなかった。これら以外は実施例1と同様にして銀被覆フレーク状銅粉を製造した。
【0061】
【表1】
【0062】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた銀被覆フレーク状銅粉について、上述した方法で粒度分布、明度、粒子の板面の円形度、粒子の厚み、タップ密度、銀の含有割合を測定した。それらの結果を以下の表2に示す。
【0063】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた銀被覆フレーク状銅粉を用いて導電性組成物を調製した。
エポキシ樹脂(DIC製 EPICLON850)とブチルカルビトールとを質量比35:65混合し、これに銀被覆フレーク状銅粉を濃度70%となるように添加してペースト状の導電性組成物を調製した。
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一面に導電性組成物を、バーコーターを用いて塗工した。塗工幅は200mmとした。バーコーターのギャップは30μmとなるようにした。
形成した塗膜を、90℃の真空乾燥機内で60分にわたり乾燥させた。その後、塗膜が形成されたPETフィルムをシートで挟み、160℃・20kNの条件で真空プレスを行った。このようにして得られたサンプルについて、マイクロメータ(Nikon製デジマイクロMF-501)を用いて導電膜の厚みを測定した。また導電膜の抵抗値を測定した。抵抗値は、抵抗率測定器(三菱化学MCP-T600)を用い、四探針法によって測定した。結果を表2に示す。
【0064】
〔評価3〕
実施例及び比較例で得られた銀被覆フレーク状銅粉について、銅イオンの溶出量を測定した。
0.2gの銀被覆フレーク状銅粉と、濃度15%の塩酸10mLと、メタノール2mLとを混合して分散液を調製した。この分散液を25℃の環境下に10分間静置した。その後、分散液を濾過し、濾液に含まれる銅イオンの濃度をICP発光分光分析法によって測定した。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた銀被覆フレーク状銅粉を用いて形成された導電膜は、比較例で得られた銀被覆フレーク状銅粉を用いて形成された導電膜に比べて導電性の高いものであることが分かる。
また、各実施例で得られた銀被覆フレーク状銅粉は、比較例で得られた銀被覆フレーク状銅粉よりも銅イオンの溶出が抑制されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、樹脂と混合した場合に、樹脂中での分散性が良好であり、また樹脂の劣化が抑制され、更に、該樹脂から形成される膜の電気抵抗を低減させ得る銀被覆フレーク状銅粉及びその製造方法が提供される。
【要約】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒径をD90(μm)とし、累積体積10容量%における体積累積粒径をD10(μm)としたとき、D90/D10で定義される分散度に対する、明度L*の値が13以上である。銅母粉及び第1の錯化剤を含む分散液を、媒体撹拌ミル装置によって処理し、該銅母粉を構成する銅母粒子をフレーク状に変形させ;フレーク状に変形した前記銅母粒子を含む前記銅母粉を、銀イオン及び第2の錯化剤を含む水性液で処理し、該銅母粒子の表面に銀を析出させる方法で銀被覆フレーク状銅粉を製造する。