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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】導電素材およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08K 9/04 20060101AFI20220204BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20220204BHJP
   C08F 259/08 20060101ALI20220204BHJP
   C08L 101/04 20060101ALI20220204BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20220204BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220204BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220204BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20220204BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20220204BHJP
【FI】
C08K9/04
C08L51/06
C08F259/08
C08L101/04
C08K3/10
C08K3/22
C08L33/06
C08F20/34
H01G11/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018537596
(86)(22)【出願日】2017-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2017032012
(87)【国際公開番号】W WO2018043760
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2016190315
(32)【優先日】2016-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】597054253
【氏名又は名称】パイオトレック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐田 勉
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/063994(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/088671(WO,A1)
【文献】特開2006-049158(JP,A)
【文献】国際公開第2010/113971(WO,A1)
【文献】特開2015-038870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08F,H01G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体を、フッ素系重合体、ビニルアセタール系重合体、極性基を含むゴム、またはヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を有するセルロース系重合体に、2~90モル%グラフト重合またはリビングラジカル重合、または共重合して得た高分子導電組成物(X1)を、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X2)に、(X1)と(X2)の合計量に対し5~90重量%含有する導電素材を、金属及び/或いは金属酸化物粒子の界面にコーティングした導電カプセル化した金属類。
【請求項2】
オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体を、フッ素系重合体、ビニルアセタール系重合体、極性基を含むゴム、またはヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を有するセルロース系重合体に、2~90モル%グラフト重合またはリビングラジカル重合、または共重合して得た高分子導電組成物(X1)を、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X2)に、(X1)と(X2)の合計量に対し5~90重量%含有する導電素材に、セラミック系固体電解質および/または誘電素材を含む導電素材。
【請求項3】
オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体を、フッ素系重合体、ビニルアセタール系重合体、極性基を含むゴム、またはヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を有するセルロース系重合体に、2~90モル%グラフト重合またはリビングラジカル重合、または共重合して得た高分子導電組成物(X1)を、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X2)に、(X1)と(X2)の合計量に対し5~90重量%含有する導電素材を、カーボネート系電解質、ガンマーブチロラクトン電解質に配合して作製したゲル状電解質、またはこれに電荷移動イオン源を含有するゲル状電解質。
【請求項4】
オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体を、フッ素系重合体、ビニルアセタール系重合体、極性基を含むゴム、またはヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を有するセルロース系重合体に、2~90モル%グラフト重合またはリビングラジカル重合、または共重合して得た高分子導電組成物(X1)を、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X2)に、(X1)と(X2)の合計量に対し5~90重量%含有する導電素材を、重合性官能基を有する2-(メタアクリロイロキシ)ジアルキルアンモニウムーアニオン塩、ジアリルジメチルアンモニウムーアニオン塩、エチルビニルイミダゾールアニオン塩から選ばれるイオン液体を含むまたは重合性官能基を含まないイオン液体に配合して加熱処理するか、または紫外線重合触媒にて紫外線照射や熱重合触媒を配合して加熱処理して重合させた固体電解質。
【請求項5】
請求項2記載の導電素材を基材の界面に表面加工したイオン導電加工物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温不揮発そして耐久性に優れた導電素材および/またはセラミック系固体電解質または誘電素材を含有する導電素材およびその用途に関するものであり、とくにこの導電素材をリチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタのセパレーターに使用して、また負極および/または正極に使用して優れた効果を発揮するものである。更に、この導電素材は、金属酸化物粒子の導電カプセル化材、そして樹脂フィルムやシート並びに木材、紙、繊維生地や糸などイオン導電性を保有しない或いは体積抵抗率が10-10Ω・cmより大きい素材に透明なコート層を表面加工することによって10-9S/cmより高い導電率(体積抵抗率としては10-7Ω・cm以下に相当)である導電性能を付与できる。一般的な樹脂素材の体積抵抗率(Ω・cm)は、ポリエステル10-13以上、ABS樹脂10-13以上、ポリスチレン10-14以上、ポリアミド樹脂10-13以上、アセチルセルロース10-10以上、ポリエチレン10-16以上、ポリカーボネート10-15以上で、比較的体積抵抗率が低い樹脂素材としてエポキシ樹脂で10-9以上となっている。これらの樹脂素材と比較して本発明の導電素材は、10-7より低い体積抵抗率(Ω・cm)の導電性能を保有していることから殆どのプラスチック種に高い導電性能を付与できる機能を保有していることが分かる。
【背景技術】
【0002】
最近、4級アンモニウムカチオンとハロゲン原子含有アニオンからなる4級アンモニウム塩構造と重合性官能基を持っている溶融塩単量体、及び電荷移動イオン源を含んでいる単量体組成物を、ポリフッ化ビニリデン等の高分子補強材料の存在下で重合(例えばグラフト重合)することにより製造された複合高分子電解質組成物が開発されている(特許文献1~2)。しかし、ここで開示されているグラフト重合体を使用した複合高分子電解質組成物を使用しただけでは、イオン導電性が、必ずしも高くならないだけでなく、耐久性の維持も困難である。
導電効果を向上させる為に、一般的に使用される導電材はカーボン類、例えばカーボンブラックなどが多く、透明なコートやシートにはならないことから使用用途が限定される。透明な導電材としては、SnO/Sb系導電材、ITO(インジウム錫酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化錫)、そして水酸化マグネシウム{Mg(OH)}が使われるが、コストが高く且つ金属類が含有していることから重量が重くなり、応用用途が制限されていた。そのため、市場から軽くて薄くて透明でコストが安価な作業性の良好な新しい導電素材の開発が求められていた。
また溶融塩単量体の重合体を含有する高分子電解質も開発されている(特許文献3)が、溶融塩単量体の重合体を使用しただけでは、イオン導電性能、接着粘着性、そしてこれらの耐久性が不十分であり、そのため用途も限られた範囲となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開番号WO2004-88671(特許請求の範囲)
【文献】国際公開WO2010/113971(特許請求の範囲、0040)
【文献】特開平10-83821(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の導電素材のイオン導電性および接着密着性を向上させ、さらにそれらの耐久性やイオン移動速度性や高密度導電性を向上させたものあり、とくに本発明の導電素材及びセラミック系固体電解質または誘電素材を配合した導電素材を金属および/または金属酸化物粒子の界面にコーテイングして導電カプセル化した金属類、さらには、この導電素材を樹脂フイルム基材または多孔質樹脂フイルム基材の表面に加工した導電フイルム、さらにはこれらの導電素材を、負極および/または正極の電極に組み込んだリチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタ、そしてカーボネート系やブチロラクトン系電解質及びまたはイオン液体を含有したゲル/固体電解質層を作製することにより、従来からの課題である酸化還元反応に対する劣化や不十分な低温特性を克服することができる。さらにまた、本発明の導電素材をイオン導電性を保有しないで帯電や酸化劣化する素材への表面加工や含浸処理、あるいは本発明の導電素材を導電性能が不足しているか或いは不透明で重い金属系導電材を使用しなければならなかった接着剤、粘着剤、塗料などに配合し、高い導電性に加えて高誘電性を兼ね備えた導電性能とその耐久性や高密度導電性を向上させることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的は、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体をフッ素系重合体に2~90モル%グラフト重合またはリビングラジカル重合または共重合して得た高分子導電組成物(X)をオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)に、(X)と(X)の合計量に対し5~90重量%含有する導電素材、とくに10~75重量%含有する導電素材を提供することによって達成される。
さらに前記目的は、前記の導電素材を、金属及び/或いは金属酸化物粒子の界面にコーティングした導電カプセル化した金属類を提供することによってさらに好適に達成される。ここで金属としては、すべての金属があげられるが、鉄、鋼、銅、亜鉛、錫、アルミ、やケイ素などの半金属とこれらの金属酸化物などが好適である。
さらに、前記目的は、前記の導電素材を、基材の界面に表面加工した導電基材を提供することによってさらに好適に達成ざれる。ここで基材としては、樹脂フイルム(セパレーターに使用される多孔質樹脂フイルムを含む)、樹脂シートが好適に使用されるが、板状や棒状そして球状やチップ状であっても差し支えない。
さらに、前記目的は、前記の導電素材を、正極および/または負極の活物質と導電材を接着させるバインダーとして使用した正極および/または負極電極を提供することによってさらに好適に達成される。
さらに、前記目的は、前記の導電素材を、正極/多孔質セパレーターを含む導電素材電解質層またはセラミック系固体電解質を含む導電素材電解質層/負極の積層構造体に使用した、リチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタを提供することによってさらに好適に達成される。これらの導電素材には誘電素材を含有させることは自由である。
さらに前記目的は、前記の電解質層に、電荷移動イオン源として、LiBF、LiPF、C2n+1COLi(nは1~4の整数)、C2n+1SOLi(nは1~4の整数)、(FSONLi、(CFSONLi、(CSONLi、(FSOLi、(CFSOCLi、(CFSO-N-COCF)Li、
(R-SO-N-SOCF)Li(Rは脂肪族基または芳香族基)、および(CN-N)2n+1Li(nは1~4の整数)からなる群から選ばれたリチウム塩を含有するリチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタを提供することによって達成される。
さらに前記目的は、前記の導電素材をエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどのカーボネート系電解質、ガンマーブチロラクトン電解質に配合した、またはこれに電荷移動イオン源を含有するゲル状電解質、またはこれに各種イオン液体を配合したゲル状電解質を提供することによって達成される。ここでイオン液体としては、重合性官能基を有するイオン液体、たとえば本発明で使用されるオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体(イオン液体)、または重合性官能基を有しないイオン液体が使用できる。
さらに前記目的は、前記の導電素材に重合性官能基を保有する2-(メタアクリロイロキシ)ジアルキルアンモニウム(MOETMA)ーアニオン塩、ジアリルジメチルアンモニウム(DAA)アニオン塩、エチルビニルイミダゾールアニオン塩などのイオン液体に紫外線重合触媒を配合して紫外線照射や熱重合触媒を配合して加熱或いは加熱処理のみにより重合させて作製する固体電解質を提供することによって達成される
さらに前記目的は、前記の導電素材単独、これにセラミック系固体電解質および/または誘電素材を含有する導電素材または電荷移動イオン源を含有する導電素材を、樹脂フィルム、シートまたは板、または金属酸化物を含む金属類、ガラス板、木工板、不織紙を含む紙類、糸を含む繊維類に含浸或いは表面に被覆して素材表面にイオン導電性能を付与し、防錆、酸化防止、帯電防止、高誘電性付与、防汚、防炎または紫外線劣化防止などを素材に機能付与して、高い導電性に加えて素材の耐久性維持効果を向上させたり、静電容量を向上させる高誘電性を付与したイオン導電加工物質を提供することによって達成される。
この場合、セラミック系固体電解質を併用して導電フィルム化し安全性を向上させることが出来る。
ここでセラミック系固体電解質としては、LiLaZr12(LLZ)、LLZ-Nb、LLZA-Ta、Li1.5Al0.5Ge1.512(LAGP)、Li1.3Al0.3Ti1.712(LATP)などの固体電解質が挙げられるが、このうちLLZ,LAGPが好適である。また、誘電素材としては、BaTiO、LiNbOなどの誘電素材、さらには無鉛ペロブスカイト構造体、ビスマス層状構造の単結晶等が挙げられるが、このうち無鉛ペロブスカイト構造体、ビスマス層状構造の単結晶が好適である。これらの誘電素材を含有する導電素材を、樹脂フィルム、シートまたは板、または金属酸化物を含む金属類、ガラス板、木工板、不織紙を含む紙類、糸を含む繊維類に含浸或いは表面に被覆することにより、素材表面に、超高レート導電性能と汎用レート導電性能のダブルレイヤ―導電機能などの複合機能性、安全性、耐久性の維持効果を向上させたイオン導電・誘電加工物質を提供することができる。
さらに、前記目的は、前記の導電素材、またはこれにセラミック系固体電解質或いは誘電素材を含有する導電素材を含む、導電粘着剤、導電接着剤、導電塗料、導電成形用樹脂組成物、積層体、導電繊維または糸、導電板、導電管、電磁波シールド、電飾材を提供することによって達成される。この場合、LiTFSI(トリフルオロスルフォニルリチウム塩)などのCFLi基を前記の導電素材に付加重合して使用することも好適である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電素材を、とくに金属および/または金属酸化物の界面にコーテイングすることにより、導電性およびその耐久性、接着密着性が向上し、また樹脂フイルムまたは多孔質樹脂フイルム(多孔質セパレーターなど)に含浸または表面加工することにより、導電性およびその耐久性、接着密着性が向上し、さらに含浸性が優れているためリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシター用途では、導電被膜の形成に拠ってリチウムイオンの移動性が向上する。さらにまた、本発明の導電素材を負極および/または正極の電極製作用バインダーとして使用することにより導電ネットワークが均質となり、リチウムイオン移動の安定性が良くなることからレート特性が向上し、さらにこれらの導電セパレーター、導電バインダーを使用した負極、正極をリチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタに使用した場合は、IRドロップを抑制でき、リチウムイオン移動係数が向上したことから初期充放電特性、レート特性、放電容量、サイクル特性が向上する。さらに本発明の導電素材は透明であり、薄膜形成が可能で、さらに燃焼させれば不燃で炭化するのみという安全性の高い特性も有する固体電解質を形成することが可能で、セラミック系固体電解質或いは誘電材料を含有しているイオン導電素材を固体電解質として使用した場合には、超高レート導電性能と汎用レート導電性能のダブルレイヤ―導電機能を保有する複合機能性固体電解質リチウムイオン電池或いはリチウムイオンキャパシタを製作することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1はLiCoO2酸化金属粒子(SEMx1000)の写真1
図2は導電素材カプセル化粒子(SEMx1000)の写真2
図3は多孔質セパレーター原体の写真3
図4は相分離製法による多孔質膜PEセパレーターの写真4(網目状立体構造SEMx5000)
図5は相分離製法による多孔質膜PEセパレーターの写真5(網目状立体構造同x10000)
図6は導電素材のTダイコート製法によるフラット成膜の写真6
図7は導電素材の相分離法によるPTFEシート表面加工の写真7(網目構造SEMx1000)
図8は導電素材の相分離法によるPTFEシート表面加工の写真8(網目構造SEMx5000)
図9はLiCoO2正極-天然グラファイト負極のLIB捲回フルセル(実施例1)
図10はLiNiCoMnO2正極―Li箔のハーフセル(実施例3)
左 汎用品比較例セル、右 導電素材使用セル)
図11はLFP-LTO処方LIBフラットセル(レート特性)(実施例4)
左 汎用品比較例セル、右 導電素材使用セル)
図12はLFP-LTO処方LIBフラットセル(サイクル特性)(実施例4)
図13は固体電解質層LIBフラットセル(実施例5)と汎用処法フラットセル性能比較
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、導電素材は、前記した溶融塩単量体をフッ素系重合体にグラフト重合して得た高分子電解質組成物(X)および溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)を含むことが重要であり、これにより、前記したような効果が発揮される。
まず高分子電解質組成物(X)について述べる。
グラフト重合および/またはリビングラジカル重合又は共重合に使用されるフッ素系重合体としては、ポリフッ化ビニリデン重合体または共重合体(コポリマー)が好適例として挙げられる
また、ポリフッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンに
式:-(CR-CFX)-
式中、Xは、フッ素以外のハロゲン原子であり、R及びRは、水素原子又はフッ素子であり、両者は同一であってもよいし異なっていてもよい、ここでハロゲン原子としては、塩素原子が最適であるが、臭素原子、ヨウ素原子も挙げられる、
で示される単位を有する共重合体が好適例として挙げられる。
また、フッ素系重合体としては、
式:-(CR-CRF)-(CR-CFX)
式中、Xは、フッ素以外のハロゲン原子であり、
、R、R、R及びRは、水素原子又はフッ素原子であり、これらは
同一であってもよいし異なっていてもよく、
nは65~99モル%であり、
mは1~35モル%である、
で示される共重合体も挙げられ、特に、
式;-(CH-CF-(CF-CFCl)
式中、nは65~99モル%であり、
mは1~35モル%である、
で示される共重合体が好適である。
nとmの合計を100モル%とした場合、nは65~99モル%、mは1~35モル%であることが好適であり、より好適にはnは67~97モル%、mは3~33モル%であり、最適にはnは70~90モル%、mは10~30モル%である。
前記フッ素系重合体は、交互重合体、ブロック重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。また、他の共重合し得る単量体を、本発明の目的が阻害されない範囲で使用することもできる。
前記フッ素系重合体の分子量は、重量平均分子量として30,000~2,000,000が好適であり、より好適には100,000~1,500,000である。ここで、重量平均分子量は、後述するとおり、固有粘度法[η]により測定される。
前記フッ素系重合体に溶融塩単量体をグラフト重合するには、遷移金属錯体を用いる原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)法を適用することができる。この錯体に配位している遷移金属が前記共重合体のフッ素以外のハロゲン原子(例えば、塩素原子)、さらには水素原子も引き抜きぬいて開始点となり、溶融塩単量体が前記重合体にグラフト重合する。
本発明で使用される原子移動ラジカル重合では、フッ化ビニリデン単量体とフッ素及びフッ素以外のハロゲン原子(例えば塩素原子)を含むビニル単量体との共重合体が好適に用いられる。幹ポリマーにフッ素原子とフッ素原子以外のハロゲン原子(例えば塩素原子)があることにより炭素-ハロゲン間の結合エネルギーが低くなるため、遷移金属によるフッ素以外のハロゲン原子(例えば塩素原子)の引き抜きが、さらには水素原子の引き抜きが、フッ素原子より容易に起こり、溶融塩単量体のグラフト重合が開始される。また本発明ではフッ化ビニリデン単量体の単独重合体も使用可能である。
この水素原子の引き抜きが出来ることにより、ビニル系重合体、ヒドロキシ基やカルボキシル基を含有するセルロース系重合体などのプロトン電子を保有する重合体に溶融塩単量体をグラフト重合することができる。したがってまた、本発明には次のような態様も含まれる。
オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体をビニルアセタール系重合体に2~90モル%グラフト重合またはリビングラジカル重合または共重合して得た高分子導電組成物(X)を含有するか、または好適にはこれをオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)に、(X)と(X)の合計量に対し5~90重量%含有する導電素材、とくに10~75重量%含有する導電素材。
さらには、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体をヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を保有するセルロース系重合体に2~90モル%グラフト重合またはリビングラジカル重合または共重合して得た高分子導電組成物(X)を含有するか、または好適にはこれをオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)に、(X)と(X)の合計量に対し5~90重量%含有する導電素材、とくに10~75重量%含有する導電素材。
さらには、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体を極性基を含むゴムに2~90モル%グラフト重合またはリビングラジカル重合または共重合して得た高分子導電組成物(X)を含有するか、または好適にはこれをオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)に、(X)と(X)の合計量に対し5~90重量%含有する導電素材、とくに10~75重量%含有する導電素材。
ビニルアセタール系重合体としては、ビニルホルマール系(共)重合体、ビニルブチラール系(共)重合体}などが挙げられる。
また、ヒドロキシ基および/またはカルボキシル基を保有するセルロース系重合体としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アセチルセルロース、酢酸セルロース、メチル繊維素、エチル繊維素などが挙げられる。
また、極性基を含むゴムとしては、ハロゲン系ゴム、ジエン系ゴム{ブタジエン系(共)重合体ゴム、イソプレン系(共)重合体ゴム、ブチルゴム}、シリコーンゴム、極性基が付加された変性天然ゴムなどが挙げられる。このうちハロゲン系ゴムが好適であり、ハロゲン系ゴムとしてはエピクロルヒドリン系ゴムが最適である。エピクロルヒドリン系ゴムとしてはエピクロルヒドリン系単独重合体、またはエチレンオキサイドとの共重合体などが挙げられる。
原子移動ラジカル重合で使用される触媒は遷移金属ハロゲン化物が用いられ、特に塩化銅(I)、アセチルアセトナート銅(II)、CuBr(I)、CuI(I)等の銅原子を含む銅触媒が好適に用いられる。また錯体を形成するリガンドとしては4,4’-ジアルキル-2,2’-ビピリジル(bpyなど)(ここでアルキルとしては、好適にはメチル、エチル、プロピル、ブチルなどのC~Cのアルキルが挙げられる)、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン(Me-TREN)、N,N,N’,N”,N”-ペンタルジエチレントリアミン(PMDETA)、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、トリス(2-ピリジルメチル)アミン(TPMA)等が使用される。中でも、塩化銅(I)(CuCl)と4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル(bpy)などとで形成される遷移金属ハロゲン化錯体を好適に使用することができる。その他、レドックス触媒として使用される触媒は、ヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウムや可視光照射下で光レドックス触媒としてのイリジウム(III)フェニルピリジル錯体,ルテニウム(II)ポリピリジル錯体などが使用できる。
反応溶媒としては、フッ素系重合体を溶解可能な溶媒を使用することができ、フッ化ビニリデン単量体とフッ素及びフッ素以外のハロゲン原子(例えば塩素原子)を含むビニル単量体との共重合体を溶解するN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド、アセトン等を用いることができる。反応温度は使用する錯体のリガンドによって異なるが、通常、10~110℃の範囲である。
グラフト重合させるために紫外線(光重合開始剤を使用)や電子線等の放射線を照射することもできる。電子線重合は、重合体自体の架橋反応や単量体の補強材料へのグラフト反応も期待でき、好ましい態様である。照射量は0.1~50Mradが好ましく、より好ましくは1~20Mradである。
また本発明では、オニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体をフッ素系重合体、ビニル系重合体、セルロース系重合体または極性基を含むゴムに2~90モル%リビング重合して得た高分子導電組成物(X)を使用することもできる。ここでリビング重合する方法としては、リビングラジカル重合法や熱重合法が挙げられる。
重合体を構成するモノマー単位を98~10モル%と溶融塩単量体を2~90モル%のモル比の範囲になるように、すなわちグラフト化率または重合比率が2~90モル%になるように、目標とする可塑物性、pH安定性に合わせてグラフト重合する。溶融塩単量体を前記重合体にグラフト重合する場合、前記重合体は溶液、固体、のいずれであってもよい。これらのグラフト重合体は前記した本件出願人の先行特許WO2010/113971に記載の方法により得られる。
本発明において、オニウムカチオンとフッ素原子含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を含む溶融塩単量体の塩構造とは、脂肪族、脂環族、芳香族又は複素環のオニウムカチオンとフッ素原子含有アニオンからなる塩構造を包含する。ここでオニウムカチオンとは、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオン、オキソニウムカチオン、グアニジウムカチオン、を意味し、アンモニウムカチオンとしては、第4級アンモニウムカチオン、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピペリジニウムなどの複素環アンモニウムカチオンなどが挙げられる。下記アンモニウムカチオン群から選ばれた少なくとも1つのカチオンと下記アニオン群から選ばれた少なくとも1つのアニオンからなる塩構造が好適である。
アンモニウムカチオン群:
ピロリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ベンズイミダゾリウムカチオン、インドリウムカチオン、カルバゾリウムカチオン、キノリニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピペラジニウムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン{但し、炭素原子数1~30(たとえば炭素原子数1~10)のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基で置換されているものを含む}が挙げられる。いずれも、N及び/又は環に炭素原子数1~30(例えば、炭素原子数1~10)の、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基が結合しているものを含む。
ホスホニウムカチオンとしては、テトラアルキルホスホニウムカチオン(炭素原子数1~30のアルキル基)、トリメチルエチルホスホニウムカチオン、トリエチルメチルホスホニウムカチオン、テトラアミノホスホニウムカチオン、トリアルキルヘキサデシルホスホニウムカチオン(炭素原子数1~30のアルキル基)、トリフェニルベンジルホスホニウムカチオン、炭素原子数1~30のアルキル基を3個有するホスフィン誘導体のホスホニウムカチオン、ヘキシルトリメチルホスホニウムカチオン、トリメチルオクチルホスホニウムカチオンの非対称ホスホニウムカチオン、ジメチルトリアミンプロピルメタンホスフェートなどが挙げられる。
また、スルホニウムカチオンとしては、トリアルキルスルホニウムカチオン(アルキル基)、ジエチルメチルスルホニウムカチオン、ジメチルプロピルスルホニウム、ジメチルヘキシルスルホニウムの非対称スルホニウムカチオンが挙げられる。
フッ素原子含有アニオン群:
BF 、PF 、C2n+1CO (nは、1~4の整数)、C2n+1SO (nは、1~4の整数)、(FSO、(CFSO、(CSO、(CFSO、CFSO-N-COCF 、R-SO-N-SOCF (Rは、脂肪族基)、ArSO-N-SOCF (Arは、芳香族基)、CFCOO等のハロゲン原子を含むアニオンが例示される。
前記オニウムカチオン、とくにアンモニウムカチオン群及びフッ素原子含有アニオン群に挙げられた種は、耐熱性、耐還元性又は耐酸化性に優れ、電気化学窓が広くとれ、電圧領域を0.7から5.5Vまでの高低電圧に耐性のリチウムイオン二次電池や-45℃まで低温特性に優れたリチウムイオンキャパシタへ好適に用いられるだけでなく、汎用用途での塗料、接着剤、粘着剤、表面コート剤、練り込み添加剤として不導体樹脂へ温度特性に優れた機能性静電防止性能を付与することが出来る。また、樹脂との混合処方で樹脂や添加剤の分散性能や平滑性能にも効果がある。
単量体における重合性官能基としては、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、アリル(Allyl)基等の炭素-炭素不飽和基、エポキシ基、オキセタン基等を有する環状エーテル類、テトラヒドロチオフェン等の環状スルフィド類やイソシアネート基等を例示できる。
(A)重合性官能基を有するオニウムカチオン、とくにアンモニウムカチオン種としては、特に好ましくは、トリアルキルアミノエチルメタクリレートアンモニウムカチオン、トリアルキルアミノエチルアクリレートアンモニウムカチオン、トリアルキルアミノプロピルアクリルアミドアンモニウムカチオン、1-アルキル-3-ビニルイミダゾリウムカチオン、4-ビニル-1-アルキルピリジニウムカチオン、1-(4-ビニルベンジル)-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、2-(メタアクリロイロキシ)ジアルキルアンモニウムカチオン、1-(ビニルオキシエチル)-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1-ビニルイミダゾリウムカチオン、1-アリルイミダゾリウムカチオン、N-アルキル-N-アリルアンモニウムカチオン、1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1-グリシジル-3-アルキル-イミダゾリウムカチオン、N-アリル-N-アルキルピロリジニウムカチオン、及び4級ジアリルジアルキルアンモニウムカチオン等を挙げることができる。但し、アルキルは炭素原子数1~10のアルキル基である。
(B)フッ素原子含有アニオン種としては、特に好ましくは、ビス{(トリフルオロメタン)スルフォニル}イミドアニオン、ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン、2,2,2-トリフルオロ-N-{(トリフルオロメタン)スルフォニル)}アセトイミドアニオン、ビス{(ペンタフルオロエタン)スルフォニル}イミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフロオロフォスヘートアニオン、トリフルオロメタンスルフォニルイミドアニオン等のアニオンを挙げることができる。
更に、溶融塩単量体(前記カチオン種とアニオン種との塩)としては、特に好ましくは、トリアルキルアミノエチルメタクリレートアンモニウム(但し、アルキルはC~C10アルキル)ビス(フルオロスルフォニル)イミド(但し、アルキルはC~C10アルキル)、2-(メタアクリロイロキシ)ジアルキルアンモニウムビス(フルオロスルフォニル)イミド(但し、アルキルはC~C10アルキル)、N-アルキル-N-アリルアンモニウムビス{(トリフルオロメタン)スルフォニル}イミド(但し、アルキルはC~C10アルキル)、1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメタン)スルフォニル}イミド(但し、アルキルはC~C10アルキル)、1-ビニル-3-アルキルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC~C10アルキル)、4-ビニル-1-アルキルピリジニウムビス{(トリフルオロメタン)スルフォニル}イミド(但し、アルキルはC~C10アルキル)、4-ビニル-1-アルキルピリジニウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC~C10アルキル)、1-(4-ビニルベンジル)-3-アルキルイミダゾリウムビス{(トリフルオロメタン)スルフォニル}イミド(但し、アルキルはC~C10アルキル)、1-(4-ビニルベンジル)-3-アルキルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC~C10アルキル)、1-グリシジル-3-アルキル-イミダゾリウムビス{(トリフルオロメタン)スルフォニル}イミド(但し、アルキルはC~C10アルキル)、トリアルキルアミノエチルメタクリレートアンモニウムトリフルオロメタンスルフォニルイミド(但し、アルキルはC~C10アルキル)、1-グリシジル-3-アルキル-イミダゾリウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC~C10アルキル)、N-ビニルカルバゾリウムテトラフルオロボレート(但し、アルキルはC~C10アルキル)等を例示できる。これらの溶融塩単量体は、1種又は2種以上で使用することができる。これらの溶融塩単量体は前記した本件出願人の先行特許WO2010/113971に記載の方法により得られる。
前記フッ素系重合体、ビニルアセタール系重合体、セルロース系重合体、極性着を含むゴムへの溶融塩単量体のグラフト化率または重合比率は、2~90モル%が好適であり、更に好適には10~80モル%、最適には20~75モル%である。この範囲のグラフト化率または重合比率を満足することにより、本発明の目的をより好適に達成することができる。グラフト化率または重合比率が比較的低い領域、たとえば2~40モル%、好適には10~35モル%、さらに好適には13~30モル%においては、スポンジ性状の柔軟性を保持することができ、支持体との結合密着性、弾力性、接着性改良という効果が期待できる。またグラフト化率または重合比率が比較的高い領域、たとえば42~90モル%、とくに45~90モル%、さらに好ましくは45~75モル%の領域においては、粘弾性が増加することから密着強度が向上し、さらには粘着性、耐衝撃性、ナノ粒子カーボンなどの粒子素材の分散平滑性、pH安定性、温度安定性、さらには導電性能向上という効果が期待できる。グラフト化率または重合比率は赤外吸光スペクトル法FTIR)により測定される。
溶融塩単量体のグラフト重合は、単独で用いてもよいし、又はこれと共重合し得る他の単量体と共重合させることもできる。
なおここで、高分子電解質組成物(X)には、ビニレンカーボネート類、ビニレンアセテート、2-シアノフラン、2-チオフェンカルボニトリル、アクリロニトリル等のSEI(固体電解質界面相:Solid Electrolyte Interphase)膜形成素材あるいは溶剤等を含む単量体組成物を包含する。
本発明においては、前記のグラフト重合および/またはリビングラジカル重合または共重合して得られた高分子導電組成物(X)に溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)を配合することにより、優れた導電素材を得ることができるので、次に溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)について述べる。
溶融塩単量体としては、前記した高分子導電組成物(X)に用いたオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体を使用することができる。これらの溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)としては同種の溶融塩単量体のホモポリマー、異種の溶融塩単量体との共重合体が挙げられる。具体的な好適例としては、1-アルキル-3-ビニルイミダゾリウムカチオン(AVI)、4-ビニル-1-アルキルピリジニウムカチオン、1-(4-ビニルベンジル)-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1-(ビニルオキシエチル)-3-アルキルイミダゾリウムカチオン、1-ビニルイミダゾリウムカチオン、4級ジアリルジアルキルアンモニウムカチオン(DAA)、2(メタクリロイロキシ)エチルトリメチルアンモニウム(MOETMA)}カチオン、ジアルキル(アミノアルキル)アクリルアミド、ジアルキル(アミノアルキル)アクリレート、ヒドロキシアルキルメタアクリレートのホモポリマー、またはこれらの単量体の2種以上の共重合体が挙げられるが、ホモポリマーが好適である。
またこれらの溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)には、溶融塩単量体以外の単量体を本発明の目的が阻害されない範囲で使用することもできる。
これらの溶融塩単量体の重合体または共重合体は、アゾ系重合開始剤(AIBNなど)、過酸化物系重合開始剤(BPOなど)を用いたラジカル重合、またはブレンステッド酸やルイス酸などの重合開始剤に拠るカチオン重合反応、AIBNやBPOを用いたリビングラジカル重合により得ることができる。これらの重合の内リビングラジカル重合が好適である。
グラフト重合またはリビングラジカル重合、または共重合して得られた高分子導電組成物(X)の配合割合は、高分子導電組成物(X)と溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)の合計量に対し5~90重量%、好適には10~75重量%である。本発明においては、(X)に(X)を配合することにより、導電性、接着密着性、およびこれらの耐久性が一段と向上する。
(X)と(X)配合して使用する際、分散剤、充填剤(シリカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、セラミックスなど)、重合禁止剤、紫外線吸収剤、などをそれぞれ目的に応じ適宜配合することが好適である。ここで分散剤としては、低分子化合物(ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ブチラート系樹脂)が好適に使用される。とくに紫外線吸収剤を含有させることにより、紫外線表面硬化として加熱養生などを必要としない効果的な塗膜形成が可能となり、また塗膜層の強度も向上する。
本発明の導電素材を使用することにより、導電性を10-9S/cm以下の抵抗値にすることができる、好適には10-7S/cm以下、最適には10-6S/cm以下にすることができる。また導電性の耐久性や低温特性にも優れており、これは後述の実施例に示す。また接着密着性およびその耐久性も優れており、これも後述の実施例に示す。
次に本発明の導電素材の用途について述べる。
本発明の導電素材は、活物質とナノカーボンやハードカーボンなどの導電材を接着させるバインダとして電極作製で使用されるが、電極(正極または負極)の活物質の表面に本発明の導電素材をコートし、次いでカーボン系等導電材を配合して電極を製造する方法が、とくに均質で薄膜の導電ネットワークを形成できるのでイオン移動係数が向上して初期容量の維持率を高め、レート特性が向上し、さらに1サイクル当たりの容量活用率を高める、又、初期容量のサイクル維持率を向上させることができるので最適である
前記の活物質の表面に先行コートすることがより好ましいが、一般的にはカーボン系等導電材にバインダーを滴下して混練りした上で活物質を配合して電極塗液を製作するが、活物質或いは導電コート活物質に導電バインダーを先行して混練りした上でカーボン系導電材を後配合して正極および/または負極を製作することも可能である。
とくに、電極(正極または負極)の活物質の表面に導電素材をプレコートしてカプセル化し、次いでこのカプセル化活物質に導電バインダーを入れて混練りした上でキェッチェンブラックやアセチレンブラックなどのカーボン系等導電材を配合する。これを混練りして塗液を作製、塗工した電極を製造する方法が、イオン移動における酸化還元のREDOX反応に対して、電極層に均質で安定した導電ネットワークを形成することができるので、イオン移動係数が向上して初期容量の維持率を高め、レート特性が向上し、さらに1サイクル当たりの容量活用率を高めることができる。更に、上記した導電コート正負極活物質の界面抵抗が大幅に改善し、リチウムイオンの挿入脱離を円滑に行うことが可能となり、充放電特性の安定と高容量での維持率が向上する最適な電極構造が形成されることになる。前記の活物質の表面に導電素材を先行コートした活物質を配合して正極および/または負極を製作することは活物質のREDOX反応への耐性を向上させて、充放電特性の安定化や充放電末での容量維持とサイクル特性としての容量維持の両面からリチウムイオン二次電池の性能向上に寄与出来る。
本発明の導電素材を活物質にプレコートする方法としては、浸漬法、カレンダーコート法、ダイコート法、真空含浸法、透析膜製法、噴霧コート法などが挙げられる。
さらにまた、本発明の導電素材は、前記した活物質および/または導電剤と混合し、塗液として正極、負極のいずれか、または両方の集電体である正極の箔(アルミ箔など)、負極の箔(銅箔など)の金属箔に塗工することにより使用することもできる。
導電素材を配合したバインダの使用量は、総重量(活物質、カーボン系等導電材、バインダーの合計重量)100重量に対し、1~10重量部が好適であり、さらに好適には2~7重量部である。
次に、リチウムイオン二次電池またはリチウムイオンキャパシタ用の正極および/または負極に使用する活物質および導電材について述べる。
ここで正負極の電極に使用する活物質とは、リチウムイオンをインターカレーションによって取り入れそして放出する物質、すなわちリチウムイオンを挿入脱離する物質を意味し、導電材とは、活物質間に配置して導電ネットワークを形成するイオン導電補助剤を意味する。
導電材としては、カーボンブラックが代表例として挙げられる。カーボンとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、多孔質カーボン、低温焼成カーボン、非晶質カーボン、ナノチューブ、ナノフォーン、繊維状カーボンおよび黒鉛(グラファイト)などが挙げられる。また他の導電材として、金属炭化物なども挙げられる。ここで金属炭化物としてはCoC、CrC、FeC、MoC、WC、TiC、TaC、ZrCなどである。これらの金属炭化物、カーボンは前記単独金属または合金または複合金属に被覆して使用することもできる。
リチウムイオン二次電池用途向け正負極の電極に使用する本発明の導電素材にて被覆対象としている活物質としては、リチウム酸化物、たとえばコバルト酸リチウム、錫酸化リチウム、シリコーン酸化リチウム、鉄リン酸リチウム、チタン酸リチウムとこれらの合金酸化リチウムやハイブリッド結合酸化リチウム、黒鉛(グラファイト)、ハードカーボンが代表例として挙げられる。一方、正負極の電極に使用する金属及び半金属類としては、シリコン、錫およびアルミニウムから選ばれる少なくとも1種の金属(第1の金属)、鉄、コバルト、銅、ニッケル、クロム、マグネシウム、鉛、亜鉛、銀、ゲルマニウム、マンガン、チタン、ジルコニア、バナジウム、ビスマス、インジウムおよびアンチモンから選ばれる少なくとも1種の金属(第2の金属)、モリブテン、ラタン、ニオブ、nタングステン、タンタル、タリウム、クロム、テリウム、ベリリウム、カルシウム、ニッケル、銀、銅、および鉄から選ばれる少なくとも1種の金属(第3の金属)の単独金属、または第1の金属と第2の金属との合金、または第1の金属と第2の金属の合金にさらに第3の金属を合金したものが挙げられる(ただし、第2の金属と第3の金属は同時に同一の金属であることは除く)。
例えば、リチウムイオン二次電池の場合は、次のような負極、正極が使用され、本発明の導電素材にて被覆対象としている活物質は、負極では典型的にはグラファイトであるリチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料よりなる活物質層を備えた負極と、LiCoO、LiNiCo1-n、LiFePO、LiMn、LiSn1-n、LiSi1-n及びLiNiMe1-nあるいはLiCoMe1-n(Meは、Co、Ni、Mn、Sn、Si、Al、Fe、Ti及びSb等から選ばれる1種又は2種以上)等に代表されるリチウムイオンを吸蔵放出するリチウムを含む複合金属酸化物よりなる活性物質層を有する正極が使用される。負極活物質として金属リチウム又はその合金が使用される場合は、正極活物質は二酸化マンガン、TiS、MoS、NbS、MoO及びVのようなLiを含まない金属酸化物又は硫化物を使用することができる。これらの処法でリチウムイオンキャパシタの場合は、通常、グラファイトの代わりにキャパシタ電極であるハードカーボンが負極に使用される。
次に電解質層について述べる。
電解質としては、環状炭酸エステル系、鎖状炭酸エステル系溶剤、および/またはイミダゾールカチオン、環状脂肪族カチオン、ピロリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオンおよびオニウムカチオンから選ばれる少なくとも1種のカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩、または前記高分子組成物(X)に使用するオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる溶融単量体塩(液体)、または前記の高分子導電組成物(ゲルまたは固体)(X)及び或いはオニウムカチオンとフッ素含有アニオンからなる塩構造を有し、かつ重合性官能基を有する溶融塩単量体の重合体または共重合体(X)を使用することができる。電解質として(X)および/または(X)を使用する場合は初期容量の維持率、1サイクル当たりの容量活用率が向上するので好適である。
電解質層には、電荷移動イオン源を配合することにより、導電性、導電耐久性が向上する。ここで電荷移動イオン源としては、典型的には、リチウム塩であり、好ましくは下記のリチウムカチオンとフッ素原子含有アニオンとからなるリチウム塩が使用される。
電荷移動イオン源としては、LiBF、LiPF、C2n+1COLi(nは1~4の整数)、C2n+1SOLi(nは1~4の整数)、(FSONLi、(CFSONLi、(CSONLi、(FSOLi、
(CFSOCLi、(CFSO-N-COCF)Li、
(R-SO-N-SOCF)Li(Rはアルキル基などの脂肪族基または芳香族基)、および(CN-N)2n+1Li(nは1~4の整数)からなる群から選ばれたリチウム塩などが挙げられる。さらにリチウム塩以外のものとしては、錫インジウムオキサイド(TIO)、炭酸塩などの電荷移動イオン源も挙げられる。
また電荷移動イオン源としては、窒素含有の塩、好ましくは下記のアルキルアンモニウムカチオン(例えば、テトラエチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン)とフッ素原子含有アニオンとからなる塩も使用される、
Et-NBF 、EtMe-NBF
Et-NPF 、EtMe-NPF 等。
上記電荷移動イオン源は、2種以上を配合することも出来る。
上記電荷移動イオン源の配合量は高分子電解質組成物(X)に対して0.5~2モル、好適には0.7~1.5モルである。
電荷移動イオン源の対イオンであるテトラアルキレングリコールジアルキルエーテル(TAGDAE)のアルキレンとしては、メチレン、エチレン、プロピレンなどの炭素数1~30のアルキレン、アルキルとしてはメチル、エチル、プロピルなどの炭素数1~30のアルキルが挙げられる。これらの中でテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)が最適である。TAGDAEの電荷移動イオン源に対する配合割合は0.2~2.0モル、好適には0.4~1.5モルである。
また、前記電荷移動イオン源を支持するアニオン(イオン導電支持塩)として、ビス{(トリフルオロメタン)スルフォニル}イミド、2,2,2-トリフルオロ-N-{(トリフルオロメタン)スルフォニル)}アセトイミド、ビス{(ペンタフルオロエタン)スルフォニル}イミド、ビス{(フルオロ)スルフォニル}イミド、テトラフルオロボレート、ヘキサフロオロフォスヘート及びトリフルオロメタンスルフォニルイミドなどが効果的に機能する。
次に電解質層のセパレータについて述べる。
セパレーターとしては、リチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシターに通常使用されて微多孔フイルムが挙げられる。たとえば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど挙げられる)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリアラミド、ポリイミド系樹脂などのセパレーターが好適に使用される。またセパレーターとしては、樹脂繊維、ガラス繊維を素材とする紙、不織布なども使用できる。セパレーターはこれらのセパレーターフイルム単層でもよいし、積層たとえばポリエチレンフイルム/ポリプロピレンフイルム/ポリエチレンフイルムの積層フイルムなどでもよい。
セパレーターの片面および/または両面には、本発明で使用する前記した導電素材を、コートまたは含浸させることが好適である。このようにコートまたは含浸させることにより多孔質コートからシート膜コートの各種表面被膜形態をコントロールすることによって、セパレーターに対する粘性の高い電解質・ゲル電解質の含浸性、貫通抵抗やリチウムイオンの移動係数を向上させ充放電特性の安定性、リサイクル特性の初期容量維持率を向上させ、さらにレート特性を向上させることができる。LLZやLAGPなどのセラミック系固体電解質を配合した導電素材をコートまたは含浸させた場合には、短絡を防止する効果を付与することが出来る。これらをコートする方法としては、浸漬法、カレンダーコート法、ダイコート法、噴霧コート法、真空含浸法、透析膜製法、相分離法などが挙げられ、これを自然乾燥または熱乾燥することにより導電セパレーター素材を作製することができる。
これらのセパレーターを含む電解質層としては、セパレーターに電解質をコートまたは含浸したもの、正負極電極間にセパレーターを含む電解質層を配置したもの、などが挙げられるが、本発明で使用する前記した導電素材を3から15ミクロン膜厚で片面電極界面に塗布する一体成形によってセパレーター機能を付与することもできる。この一体成形による導電セパレーター層の形成は、電解質層がゲルまたは固体である場合に特に有効である。
本発明のリチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシターは、正極/セパレーターを含む電解質層/負極を基本構成とするが、これらの基本構成を複数個有する構造とすることもできる。これらの積層構造物は、平板な積層ラミネートセルにすることもできるし、円筒形セル、捲回セルにすることもできる。
さらに本発明の導電素材は、工業用への応用用途向けに、イオン導電性を保有していない素材に導電素材、LiTFSIなどのCFLi基を二重結合を保有するイオン液体に付加重合した導電素材或いはLLZやLAGPを含などのセラミック系固体電解質を含む導電皮膜を形成して素材表面の導電性能付与によって素材特性を改質する事が出来る。イオン導電性を保有しない素材としては、樹脂シート、セラミックス、木材、紙、繊維、糸、織物布などが挙げられる。これらの素材の表面に本発明の導電素材、またはLLZやLAGPなどの固体電解質を含む導電素材或いは誘電素材を含む導電素材を含浸、塗布して導電被膜を成形することによって表面改質が可能となり、導電成形用樹脂組成物、
導電機能を保有した積層体、導電繊維または糸、導電シート、導電板、導電管、電磁波シールドを創製することが出来る。又、本発明の導電素材を、電飾材導電粘着剤、導電接着剤、導電塗料、などにも有効に使用できる。これらに本発明の導電素材を使用することにより、イオン導電性能、帯電防止性、防汚性、防炎性さらにはこれらの耐久性が向上する。更に、金属類の表面に本発明の導電素材を表面コートすることによって防錆性被膜を形成することも出来る。
さらに、本発明の導電素材は積層体に使用した場合も有用であるので、以下に積層体について述べる。
積層体は、自由電子を持たない絶縁体の不導体樹脂(W)層の片面に前記の導電素材を含有する樹脂組成物(たとえば粘着剤または接着剤)を塗布する方法、またはその上に不導体樹脂(W)層を重ねる方法、または不導体樹脂層(W)の片面に樹脂組成物を塗布し、その上に不導体樹脂(W)層を押出し成形する方法、または2層または3層以上を共押出し成形する方法などにより得られる。両側の不導体樹脂(W)層を設ける場合は、不導体樹脂(W)は同一であっても異なっていても良い。不導体樹脂(W)層はフイルムであることが好適である。
不導体樹脂(W)としては、前記した樹脂(Y)が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂(ポロエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリスチレン)、酢酸ビニル系樹脂(ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール)、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオキシベンゾエート、不飽和ポリエステル、ポリカーボネート)、エピクロルヒドリンが好適である。
樹脂組成物からなる層、さらには中間層の厚さは好適には1~100ミクロン、さらに好適には5~50ミクロンである。また不導体樹脂(W)層の片面の厚さは好適には1~200ミクロン、さらに好適には5~50ミクロンである。さらに3層からなる積層体の全厚さは好適には5~300ミクロン、さらに好適には15~150ミクロンである。
積層体の層構成としては、樹脂組成物層/W層/樹脂組成物層、W層/樹脂組成物層、W層/樹脂組成物層/W層、W層/樹脂組成物層/W層/樹脂組成物層/W層、W層/樹脂組成物層/W層/樹脂組成物層/W層/樹脂組成物層/W層など多層構造とすることは自由である。また、本発明の層構成は、W層/樹脂組成物層、W層/樹脂組成物層/W層、樹脂組成物層/W層/樹脂組成物層が好適であって、これにさらに層、たとえば樹脂、金属、ガラス、木材、紙、繊維、編織物、不職布などの層を設けることは自由である。
このようにして得られた積層体は、不導体樹脂(W)層の表面でも極めて優れた導電性、および優れた導電耐久性を示し、帯電防止性も優れている。つまり、樹脂組成物層に導電性クラスタを形成しなくても、樹脂組成物層中のイオン(アニオンまたはカチオン)をW層表面に更により効率的に電子移動させることができ、導電性、導電耐久性を大幅に改善できる。樹脂組成物層はラメラ構造になっていなくても良いが、ラメラ構造にすることでより効率的に電子移動を促進させることが可能となる。
次に実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0009】
リチウムコバルト酸(LiCoO)LCO正極活物質の90gをディスパー型塗料混練り器に入れて、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム塩のビスフルオロスルフォニルイミド(FSI)化物(MOETMA・FSI)を46モル%グラフト重合したポリフッ化ビニリデン重合体(PVdF)(X)90重量%とイオン溶融塩単量体の重合体(X){2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム塩のビスフルオロスルフォニルイミド(FSI)化物(MOETMA・FSI)のホモポリマー}10重量%を配合した導電素材バインダーをN-メチルピロリドン(NMP)溶剤で7重量%に希釈した溶液の57gを同正極活物質粉末に散布しながら混練りを行い、活物質界面へ均質にコートされたことを確認した上で、カーボン系導電材としてアセチレンブラックの6gを投下して混練りした。
その上で、NMP溶剤にて希釈し固形分58%濃度の塗料を作製してカンマコートにて塗工乾燥し、1.5mAh/cm容量のLCO正極を製作した。
一方、天然球状グラファイト(Gr)負極活物質95gをディスパー型塗料混練り器に入れて、MOETMA・FSIを46モル%グラフト重合したPVdF(X)90重量%とMOETMA・FSIのイオン溶融塩単量体の重合体(X)10重量%を配合した導電素材バインダーをNMP溶剤で10重量%に希釈した溶液を、同負極活物質粉末に28.6g散布しながら混練りを行い、活物質界面へ均質にコートされたことを確認した上で、導電材としてアセチレンブラックの3g重量部を投下して混練りした。その上で、NMP溶剤にて希釈し固形分63%濃度の塗料を作製してカンマコートにて塗工乾燥し、1.6mAh/cm容量のGr負極を製作した。
前記のグラフト重合したPVdF(X)50重量%とMOETMA-FSIのイオン溶融塩単量体の重合体(X)50重量%とをDMSO溶剤に溶解した導電素材をセパレーター{ポリプロピレン単層多孔質品(Celgard#2400、25μm厚み)}に薄膜コート法にて表裏面に各1ミクロンオーダーにて表面加工して導電性セパレーターを製作した。
電解液は、鎖状エステル溶媒(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの3:7混合溶剤)と、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムビスフルオロスルフォニルイミド(MPPY・FSI)と1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビスフルオロスルフォニルイミド(EMI-FSI)の1:1:1混合品にLiPF及びLiFSIを7:3比率で混合した支持塩1モルを配合して製作した。
上記にて作製したLCO正極とGr負極にそれぞれ端子タブを取り付けた上で、同じく作製したセパレーターを組み合わせたスタック系ラミネートセルを3方シールにて作製した後、同じく作製した支持塩処方電解液を真空含浸して完全シール化したLCO-Gr系リチウムイオン二次電池(LIB)ラミセルを製作した。
製作したLIBラミセルを化成処理した上で充放電初期特性、レート特性そしてサイクル特性の電気化学特性試験を実施した。
【実施例2】
【0010】
実施例1において、グラフト率46モル%の(X)の代わりに、グラフト率60モル%の(X)を使用し、それ以外は実施例1と同様にして、正極、負極、セパレーターおよびLIBを作製した。
比較例1
実施例1において、イオン溶融塩単量体の重合体(X)を使用せず、グラフト重合PVdF(X)のみを使用し、それ以外は実施例1と同様にして、正極、負極、セパレーターおよびLIBを作製した。
比較例2
実施例1において、グラフト重合PVdF(X)を使用せず、イオン溶融塩単量体の重合体(X)のみを使用し、それ以外は実施例1と同様にして、正極、負極、セパレーターおよびLIBを作製した。
実施例および比較例の結果を表1~3に示す。
【表1】
【表2】
【実施例3】
【0011】
実施例2の導電素材を使用してカプセル化したLiNiCoMnO活物質粒子を活物質に使用し、導電材を配合して実施例1の導電素材をバインダーとして製作したLiNiCoMnO正極とセパレーターに使用してLIBハーフセル(対極Li金属)を1M LiPF EC/DEC 1:1電解液を使用して作製した。
【実施例4】
【0012】
実施例1の導電素材をバインダーとして使用したLiFePO正極とLTO負極に汎用セパレータを使用したLFP-LTO(正負極処方)LIBフラットセルを1M LiPF EC/DEC 1:1電解液を使用して作製した。
【表3】
【実施例5】
【0013】
本発明(実施例1)の導電バインダーを使用したLiCoO正極とハードカーボン負極そして本発明の導電素材を表面コートしたポリオレフィンセパレーター(ICPセパレーター)を組み合わせてフラットセルを製作し、導電素材(実施例1)とイオン液体(実施例1)の1:1配合による流動性ゲル電解質を製作して、セル内に真空含浸した後、セルを封止し、80℃x1時間の条件でホットプレスを行うと、セル内部でICPセパレーターへの含侵が効率よく進んでマトリックスポリマーが形成されて電解質層は硬化した固体電解質となって固体電解質系LIBセルが完成した。この性能は、液状有機電解質と同等の10の4乗S・cmの導電性能を発揮した。この固体電解質が含まれたLiCoO正極とハードカーボン負極を使用したLIBセルの性能は、有機電解質系に匹敵する放電容量を発揮することを図13に示す。
【実施例6】
【0014】
金属及び金属酸化物表面加工:
乾燥したコバルト酸リチウムLiCoO2粉末(LiCoO)を10g秤量し、実施例1記載の本発明の導電素材の粉末をnメチルピロリドン(NMP)に溶解し、導電ポリマーの10重量%溶液を作製する。自公転ミキサーに導電ポリマー10重量%溶液10gを入れてLiCoO粉末を投下して分散した後、110℃で3時間乾燥しカプセル化を完了した。その結果、下記の写真の通り原体と比較して数ミクロンの導電被膜がLiCoO酸化物の表面に形成された。導電被膜が形成されたことによってSEM測定における活物質表面の電荷が発生したことから黒くなっている。図1(写真-1)および図2(写真-2)に示す。
【実施例7】
【0015】
樹脂シート表面加工コート:
イオン導電性の無いポリエチレン(PE)製多孔質セパレーター素材の表面に、導電素材{実施例1の(X1)75重量%と(X2)25重量%からなり、さらに他の添加剤を配合したもの}をカレンダーコート法と相分離製法の両製法を活用して製作した。その結果、下記の写真の導電膜を成形することが出来た。図3(写真-3)~図5(写真-5)に示す。
多孔質セパレーターの原体の写真(SEM x10000)にて一軸延伸で製作されていることから他方向の引っ張り強度が弱い欠点がある。本発明(実施例1)の導電素材を多孔質セパレーターの表面に立体構造のサブミクロンから数ミクロンオーダーの薄膜導電層を形成することによって大幅な引き裂き並びに引っ張り強度が向上し、且つ電解液の含浸性が改善される機構になっていることが確認出来る。リチウムイオン二次電池の捲回工程での電極とセパレーターの捲回ずれの防止や静電気の発生防止が可能となり大幅なセル製作加工性が向上する。
樹脂シート表面への導電素材コートを図6図8(写真6~8)に示す。
各種樹脂シート、紙シートなどのシート形状素材を導電素材で表面コートする場合に加工コート法を使い分ける事によって単なる一面表面コート被膜形状から網目状の形状を成形することが出来、樹脂素材のバリアー機能や浸透膜機能を保持しながら表面のクッション性付与や柔軟性を付与することが可能となる。又、繊維生地や糸が保有する本来の特徴性状を維持しながら表面加工層が導電性を保有しつつ防汚や抗菌性を配合剤による付加価値をマトリックスとして組み込むことが可能になった。
【実施例8】
【0016】
導電粘着剤、導電接着剤、導電塗料用途での配合成分の一つとして実施例1記載の本発明の導電素材を配合し、乾燥した後に形成される導電被膜によって帯電防止性能として10の7乗Ω・cm以下の抵抗値が得られている。また、酸化劣化の抑制や耐久性の面で汎用商品と比較して優位性が確認された。
【実施例9】
【0017】
導電粘着剤、導電接着剤、導電塗料、導電成形用樹脂組成物、積層体、導電繊維または糸、導電シート、導電板、導電管、電磁波シールド、電飾材などについて応用していく基本的なコンセプトは、汎用粘着剤、同接着剤そして導電塗料の処方に対して5重量%以下の配合で10の7乗Ω・cm以下の体積固有抵抗値が得られることが判明している。次に、繊維や糸への加工は、浸漬含浸法や紡糸工程での表面コート製法によって浸透含浸させることで導電性の付与が出来る。
【実施例10】
【0018】
ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール(積水化学製PVB高重合度品BH-6と低重合度品BX-L)を使用して遷移金属触媒のレドックス触媒を使用して2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム塩のビスフルオロスルフォニルイミド(FSI)化物(MOETMA・FSI)を20モル%グラフト重合したポリビニルブチラール重合体(PVB導電ポリマー)2種を重合した後、それぞれ25重量%をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解してキャスト液を作製し、ポリオレフィン樹脂シート(PETフィルム)のコートした後、100℃x1時間で真空乾燥し20μm厚みのPVB導電ポリマーシート2種類を作製した。併せて、比較対象ポリビニルアセタール樹脂シートを同じくBH-6とBX-Lにて同条件でシートを作製した。これらの比較対象ポリビニルアセタール樹脂シート2種類と本発明の導電シート2種類を表面抵抗測定計(三菱ケミカルアナリテック製ハイレスターUX-MCP HT450使用)をして抵抗値を測定した。その結果は下記の通りとなった。
さらに、BH-6導電化シートを作製する際、PVB導電ポリマーにMOETMA.FSIのホモポリマーをPVBと同量配合し、以下上記と同様にして。BH-6シート(2)を作製した。又、同様にBX-Lシート(2)を作製した。この結果を併せて示す。
【実施例11】
【0019】
ヒドロキシ基及びカルボキシル基を保有するセルロースポリマーとしてヒドロキシアルキルセルロース(HEC,HPC,MC,HMPC,CMCなど)からカルボキシメチルセルロース(CMC-Na)を選択して、イオン導電ポリマーを製作した実施例を掲載する。CMC-Na(DKS製セロゲンBSH-12高分子量DS7グレード)を遷移金属触媒のレドックス触媒を使用して2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム塩のビスフルオロスルフォニルイミド(FSI)化物(MOETMA・FSI)を20モル%グラフト重合したカルボキシメチルセルロース重合体(CMC導電ポリマー)を製作した、その25重量%をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解してキャスト液を作製し、ポリオレフィン樹脂シート(PETフィルム)のコートした後、100℃x1時間で真空乾燥し20μm厚みのCMC樹脂導電ポリマーシートを作製した。併せて、比較対象CMC樹脂シートを同じく同条件でシートを作製した。これらの比較対象CMC樹脂シートと本発明のCMC導電シートを表面抵抗測定計(三菱ケミカルアナリテック製ハイレスターUX-MCP HT800使用)を使用してRH40%の25℃で抵抗値を測定した。その結果は下記の通りとなった。
さらに、CMC導電化シートを作製する際、CMC導電ポリマーにMOETMA.FSIのホモポリマーをCMC導電ポリマーと同量配合し、以下上記と同様にして。CMC導電化シート(2)を作製した。この結果を併せて示す。
【実施例12】
【0020】
極性基を含むゴムの中から、エピクロルヒドリンゴムとして(大阪ソーダ製エピロマーHグレード)を使用して2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム塩のビスフルオロスルフォニルイミド(FSI)化物(MOETMA・FSI)を遷移金属触媒を使用して20モル%グラフト重合したエピクロルヒドリンゴム重合体(PtEC導電ポリマー)を作製した。その25重量%をジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解してキャスト液を作製し、ポリオレフィン樹脂シート(PETフィルム)のコートした後、100℃x1時間で真空乾燥し20μm厚みのエピクロルヒドリン樹脂導電ポリマーシートを作製した。併せて、比較対象エピクロルヒドリン樹脂シートを同じく同条件でシートを作製した。これらの比較対象エピクロルヒドリン樹脂シートと本発明の導電シートを表面抵抗測定計(三菱ケミカルアナリテック製ハイレスターUX-MCP HT450使用)を使用して抵抗値を測定した。その結果は下記の通りとなった。
さらに、エピクロルヒドリン樹脂導電化シートを作製する際、エピクロルヒドリン導電化ゴムに、MOETMA.FSIのホモポリマーをエピクロルヒドリンゴム重合体と同量配合し、以下上記と同様にして、エピクロルヒドリン樹脂導電化シート(2)を作製した。この結果を併せて示す。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の導電素材は、導電性、イオン移動速度性、高密度導電性、接着粘着性およびその耐久性に優れているので、金属または金属酸化物の界面の表面加工、樹脂フイルムまたは多孔質樹脂フイルム、とくにリチウムイオン二次電池、キャパシタなどの導電セパレーターの界面の表面加工剤として有用であり、さらには導電粘着剤、導電接着剤、導電塗料、導電成形用樹脂組成物、導電繊維または糸、導電シート、導電板、導電管、電磁波シールド、電飾材などとしても有用である。さらにまた積層体は偏光板などの光学用積層体、磁気テープ積層体などの導電性を要求される分野で有用である。特に、誘電材料を含有した導電素材は、高速レスポンス性能が改良され、ウェアアラブルLIB電池や各種フィルム電池用途における超高速レート特性によるクイックレスポンス機能を付与したICカード用途などへの応用が期待される。
図1
図2
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