(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】大腸がん検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220204BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20220204BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/49 Z
G01N33/50 D
G01N27/62 C
G01N27/62 X
G01N27/62 D
(21)【出願番号】P 2017069354
(22)【出願日】2017-03-30
【審査請求日】2020-02-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 http://www.impactjournals.com/oncotarget/index.php?journal=oncotarget&page=article&op=view&path%5B%5D=15081&path%5B%5D=48221、平成29年2月4日 [刊行物等] http://www.shimadzu.co.jp/news/press/n00kbc000000at71.html、平成29年2月15日 [刊行物等] http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/research/2017_02_15_01.html、平成29年2月15日 [刊行物等] http://www.nccri.ncc.go.jp/s007/020/20170216105720.html、平成29年2月15日 [刊行物等] http://www.amed.go.jp/news/other/20170215.html、平成29年2月15日 [刊行物等] https://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201703/0009960971.shtml、平成29年3月2日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、(医療分野研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム)「全自動超早期大腸がんスクリーニング診断システムの実用化」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾島 典行
(72)【発明者】
【氏名】川名 修一
(72)【発明者】
【氏名】海野 結実
(72)【発明者】
【氏名】坂井 健朗
(72)【発明者】
【氏名】大林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 優
(72)【発明者】
【氏名】西海 信
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆
(72)【発明者】
【氏名】東 健
(72)【発明者】
【氏名】岡本 康司
(72)【発明者】
【氏名】山田 康秀
(72)【発明者】
【氏名】沖田 南都子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 一起
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-531226(JP,A)
【文献】特開2011-247869(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0005183(US,A1)
【文献】特開2013-246080(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0237937(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106124763(CN,A)
【文献】特開2010-266386(JP,A)
【文献】藤川研人 ほか,新生児タンデムマス・スクリーニングにおけるGC/MSの運用成績 一東京都における2012年度実績一,日本マス・スクリーニング学会誌,2013年,第23巻 2号,82(228)
【文献】PENG, Minzhi et al.,Rapid quantification of metabolic intermediates in blood by liquid chromatography-tandem mass spectrometry to investigate congenital lactic acidosis,Analytica Chimica Acta,2016年,942,50-57
【文献】NISHIUMI, S. et al.,A Novel Serum Metabolomics-Based Diagnostic Approach for Colorectal Cancer ,PLoS ONE,2012年,Vol.7 Issue 7,e40459
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 33/48-33/98
G01N 30/00-30/96
H01J 49/00-49/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、ピルビン酸、グリコール酸、オルニチン、及びトリプトファンの測定値を求め、該測定値を用いてステージ0からステージ2の間の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項2】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、ピルビン酸、グリコール酸、フマル酸、及び2-ケト-イソ吉草酸の測定値を求め、該測定値を用いてステージ0からステージ2の間の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項3】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、乳酸、オルニチン、トリプトファン、フマル酸、及びリンゴ酸の測定値を求め、該測定値を用いてステージ0からステージ2の間の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項4】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、オルニチン、グリコール酸、トリプトファン、ピルビン酸、フマル酸、パルミトレイン酸、リジン、及び3-ヒドロキシイソ吉草酸の測定値を求め、該測定値を用いてステージ0からステージ2の間の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項5】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、乳酸、及びオルニチンの測定値を求め、該測定値を用いてステージ0の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項6】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、乳酸、グリコール酸、尿酸、及びグリセリン酸の測定値を求め、該測定値を用いてステージ0の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項7】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、乳酸、2-ヒドロキシブチル酸、オルニチン、及びトリプトファンの測定値を求め、該測定値を用いてステージ0の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項8】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、グリコール酸、グリセリン酸、及びトリプトファンの測定値を求め、該測定値を用いてステージ1の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項9】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、グリコール酸、ピルビン酸、ガラクトース、グリシン、尿酸、及びグリセリン酸の測定値を求め、該測定値を用いてステージ1の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項10】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、乳酸、オルニチン、トリプトファン、クエン酸の測定値を求め、該測定値を用いてステージ1の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項11】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、ピルビン酸、グリコール酸、フマル酸、及びサッカロースの測定値を求め、該測定値を用いてステージ2の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項12】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、ピルビン酸、グリコール酸、ロイシン、リン酸、サッカロース、及びフマル酸の測定値を求め、該測定値を用いてステージ2の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項13】
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、
前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、乳酸、オルニチン、フマル酸、及びトリプトファンの測定値を求め、該測定値を用いてステージ2の大腸がんである可能性を示す指標
値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項14】
請求項1
から13のいずれかに記載の大腸がんの指標値取得方法において、
前記生体試料が、全血、血漿、及び血清から選択されるいずれかである、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項15】
請求項
14に記載の大腸がんの指標値取得方法において、
前記生体試料が血漿である、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項16】
請求項1
から15のいずれかに記載の大腸がんの指標値取得方法において、
前記クロマトグラフ-MS/MS分析が、ガスクロマトグラフ-MS/MS分析である、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項17】
請求項1
から16のいずれかに記載の大腸がんの指標値取得方法において、
前記各々の生体内代謝産物の測定値の多重ロジスティック回帰分析によ
り前記指標値を求める、大腸がんの指標値取得方法。
【請求項18】
前記指標値がカットオフ値よりも高い
ことに基づいて前記大腸がんの可能性があると判定する
ためのものである、
請求項17に記載の大腸がんの指標値取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者から採取した生体試料中の生体内代謝産物を定量分析した結果を用いた大腸がんの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
早期の大腸がんは高い確率で治癒できることが知られているものの、早期の段階では自覚症状がなく、自覚症状が現れたときには既に病状が進行していることが多い。そのため、早期の大腸がん罹患者の発見を目的としたスクリーニングが、例えば病院などの医療機関で行われる、健常者を対象にした一般的な定期検診で実施されている。
【0003】
スクリーニングは、便潜血検査法と呼ばれる大腸がん検査により行われるのが一般的である。便潜血検査法では、消化管の出血により糞便の中にごく微量に含まれる血液(潜血)を、抗ヒトヘモグロビン抗体を用いた免疫学的方法により検出する。便潜血検査法で陽性(つまり、大腸がんの疑いがある)と判定された被検者に対しては、さらに、直腸指診、内視鏡検査、或いは造影X線検査といった精密検査が実施され、その結果を医師などの専門家が総合的に判断して大腸がんを判定する。
【0004】
当然ながら、スクリーニングには高い判定感度が求められるところ、消化管に出血がみられるのは主に中期以降の段階の大腸がんであるため、早期の段階の大腸がんの罹患者が便潜血検査法で陽性と判定される確率は50%程度である。
【0005】
一方、近年の質量分析技術の進展に伴い、被検者から採取した生体試料(血液、尿、糞便、唾液、或いは生体組織の一部など)を質量分析することで得られたデータに対してデータ解析を行うことで、特定の疾病の診断を行う試みがなされている。例えば特許文献1には、生体試料に対して質量分析を行うことで得られたマススペクトルデータに基づき、該生体試料に含まれる生体内代謝産物であるキヌレニン、シスタミン、2-ヒドロキシ酪酸及びアスパラギン酸の量を測定し、これらの生体内代謝産物の測定値の結果によりステージ0からステージ2までの早期の大腸がんを判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大腸がんは、がん組織の存在部位の違いによって0~4のステージに分類されており、大腸以外の組織への転移がみられるステージ3、4の大腸がんに対して、ステージ0~2の大腸がんは大腸の組織内にがん組織が存在する。具体的には、ステージ0の大腸がんは大腸の最内層である粘膜にがん組織が存在し、ステージ1の大腸がんは粘膜から固有筋層にわたってがん組織が存在する。また、ステージ2の大腸がんは粘膜から固有筋層を越えて大腸の最外層近くまでがん組織が広がる。このようながん組織の存在部位の違いにより、ステージ0~2の各ステージで生体試料に含まれる生体内代謝産物の種類が異なることが予想されるが、特許文献1に記載の検査方法では、ステージ0~2の全てのステージの大腸がんを同じ4種類の生体内代謝産物の測定値に基づいて判定しており、ステージによっては、判定の精度に差がでてくる。また、生体内代謝産物の測定値がガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)の分析データから求められたものであり、GC-MSによる分析のための前処理操作も手動で行われているため、定量性や再現性が低い。従って、高い再現性で定量的に分析できる生体内代謝物の種類が限られてしまい、早期の大腸がんを精度よく判定することができる生体内代謝産物及びその組み合わせが正しく選択されていない可能性がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ステージ0からステージ2までの早期の大腸がんを正確に判定することができる大腸がん検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る大腸がん検査方法は、
被検者から採取された生体試料に対してクロマトグラフ-MS/MS分析を行うことで得られたデータに基づき、前記生体試料に含まれる複数種の生体内代謝産物のうち少なくとも乳酸、ピルビン酸、及びグリコール酸の量を測定し、
乳酸、ピルビン酸、及びグリコール酸のうち少なくとも1種の測定値に基づき、ステージ0からステージ2までのいずれかのステージの大腸がんを判定する。
【0010】
ここで、クロマトグラフMS/MS分析とは、ガスクロマトグラフ、又は液体クロマトグラフと、これらクロマトグラフで分離された試料の検出装置としてのトリプル四重極型質量分析装置、Q-TOF型質量分析装置、TOF-TOF型質量分析装置、イオントラップ質量分析装置、又はイオントラップ飛行時間型質量分析装置等の質量分析装置とから成る装置を用いた分析をいい、それにより得られるデータとは、MS/MSスペクトルデータをいう。クロマトグラフで分離された試料の検出装置として、トリプル四重極型質量分析装置、Q-TOF型質量分析装置、TOF-TOF型質量分析装置、イオントラップ質量分析装置、イオントラップ飛行時間型質量分析装置などを用いると、分析対象物(生体内代謝産物)以外の夾雑物を多く含む試料であっても高感度な分析が可能であり、分析安定性が向上するため、高い再現性で且つ定量的に、生体試料に含まれる生体内代謝産物の量を測定することができ、この結果、早期の大腸がんを正確に判定することができる。
【0011】
上記大腸がん検査方法においては、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、オルニチン、及びトリプトファンの量を測定し、
乳酸、ピルビン酸、及びグリコール酸から選択された少なくとも1種の生体内代謝産物と、乳酸、ピルビン酸、グリコール酸、オルニチン、及びトリプトファンから選択された、前記少なくとも1種の生体内代謝産物とは異なる少なくとも1種の生体内代謝産物の、計2種以上の生体内代謝産物の測定値に基づき、ステージ0からステージ2までのいずれかのステージにある大腸がんを判定すると良い。
【0012】
この場合、ピルビン酸、グリコール酸、オルニチン、及びトリプトファンの測定値に基づき、ステージ0からステージ2のいずれかのステージにある大腸がんを判定するようにしても良い。
【0013】
また、本発明に係る大腸がん検査方法においては、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、フマル酸、及び2-ケト-イソ吉草酸の量を測定し、
ピルビン酸、グリコール酸、フマル酸、及び2-ケト-イソ吉草酸の測定値に基づき、ステージ0からステージ2のいずれかのステージにある大腸がんを判定することができる。
【0014】
本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、フマル酸、及びリンゴ酸の量を測定し、
乳酸、オルニチン、トリプトファン、フマル酸、及びリンゴ酸の測定値に基づき、ステージ0からステージ2のいずれかのステージにある大腸がんを判定するようにしても良い。
【0015】
本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、フマル酸、パルミトレイン酸、リジン、及び3-ヒドロキシイソ吉草酸の量を測定し、
オルニチン、グリコール酸、トリプトファン、ピルビン酸、フマル酸、パルミトレイン酸、リジン、及び3-ヒドロキシイソ吉草酸の測定値に基づき、ステージ0からステージ2のいずれかのステージにある大腸がんを判定することも可能である。
【0016】
また、本発明に係る大腸がん検査方法は、乳酸、及びオルニチンの測定値に基づき、ステージ0にある大腸がんを判定する。
【0017】
また、本発明に係る大腸がん検査方法は、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、乳酸、ピルビン酸、グリコール酸、オルニチン、及びトリプトファンに加えて、さらに、尿酸、及びグリセリン酸の量を測定し、
乳酸、グリコール酸、尿酸、及びグリセリン酸の測定値に基づき、ステージ0にある大腸がんを判定する。
【0018】
また、本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、2-ヒドロキシブチル酸の量を測定し、
乳酸、2-ヒドロキシブチル酸、オルニチン、及びトリプトファンの測定値に基づき、ステージ0にある大腸がんを判定するようにしても良い。
【0019】
また、本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物である、グリセリン酸の量を測定し、
グリコール酸、グリセリン酸、及びトリプトファンの測定値に基づき、ステージ1にある大腸がんを判定することも可能である。
【0020】
また、本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物であるガラクトース、グリシン、尿酸、及びグリセリン酸の量を測定し、
グリコール酸、ピルビン酸、ガラクトース、グリシン、尿酸、及びグリセリン酸の測定値に基づき、ステージ1にある大腸がんを判定するようにしても良い。
【0021】
また、本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物であるクエン酸の量を測定し、
乳酸、オルニチン、トリプトファン、クエン酸の測定値に基づき、ステージ1にある大腸がんを判定する。
【0022】
また、本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物であるフマル酸、及びサッカロースの量を測定し、
ピルビン酸、グリコール酸、フマル酸、及びサッカロースの測定値に基づき、ステージ2にある大腸がんを判定する。
【0023】
また、本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物であるロイシン、リン酸、サッカロース、及びフマル酸の量を測定し、
ピルビン酸、グリコール酸、ロイシン、リン酸、サッカロース、及びフマル酸の測定値に基づき、ステージ2にある大腸がんを判定する。
【0024】
また、本発明に係る大腸がん検査方法では、さらに、前記生体試料に含まれる生体内代謝産物であるフマル酸の量を測定し、
乳酸、オルニチン、フマル酸、及びトリプトファンの測定値に基づき、ステージ2にある大腸がんを判定する。
【0025】
本発明者は、ステージ0からステージ2までの各ステージの大腸がん患者の生体試料に特異的に存在する生体内代謝産物を探索するため、健常者、及びステージ0からステージ2までの各ステージの大腸がん患者から血液を採取し、その血漿成分を試料として該試料に含まれる生体内代謝産物の量を網羅的に測定した。その結果、所定の複数種の生体内代謝産物が各ステージの大腸がん患者の試料に特異的に存在することを見出し、本発明に想到した。生体内代謝産物の探索に用いた試料は血液(血漿)であり、該試料中の生体内代謝産物の分析に用いた装置はガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS/MS)であるため、本発明に係る大腸がん検査方法は、分析装置をGC-MS/MS、生体試料を血液(血漿)とすることが好ましいが、これらに限定されない。
【0026】
すなわち、本発明に係る大腸がん検査方法において、「被検者から採取された生体試料」は、該生体試料に含まれる生体内代謝産物の量を測定することができるものであれば血液、生体組織、糞便、尿等、どのようなものでも良いが、試料の採取のし易さ、生体内代謝産物の含有量を考慮すると血液(全血、血清、又は血漿)が好ましく、特に血漿が好適である。血清としては、全血に対して抗凝固剤を添加せずに血球成分を凝固させてから得られる液性成分を使用することができる。また、血漿としては、全血に対して抗凝固剤を添加して血球成分を凝固させずに得られる液性成分を使用することができる。
【0027】
また、本発明に係る大腸がん検査方法においては、ステージ0~ステージ2の各ステージにある早期の大腸がん患者、或いはステージ0~ステージ2のいずれかにある早期の大腸がん患者と健常者の生体内代謝産物の測定値を多変量解析により比較解析することで、健常者と早期の大腸がん患者を区別できる予測式を作成することができる。この予測式により分析値(P値)を求め、P値がカットオフ値よりも高い場合に大腸がんの可能性が高いと判断することができる。
具体的には、或るステージの大腸がんを判定するために用いられる生体内代謝産物をA、B、Cの3種類とし、各生体内代謝産物の測定値を[A]、[B]、[C]とすると、分析値(P値)を算出するための予測式は以下の式(1)で表される。
【数1】
【0028】
上記式(1)で求められるP値が0に近いほど健常であり、1に近づくほど大腸がんの可能性が高いと判定することができるように、前記式(1)の切片(i)及び解析対象分子(つまり、各生体内代謝産物の測定値[A]、[B]、[C])に付与される係数a~cを決定する。このようにして、各ステージについてP値を求めることにより、P値がカットオフ値よりも高い場合にそのステージの大腸がんの可能性が高いと判断することができる。
【0029】
前記予測式の性能を評価するにはROC解析(Receiver Operating Characteristic analysis)を用いる。ROC解析によって得られるROC曲線(ROC curve)は、縦軸を真陽性率、つまり感度、横軸を偽陽性率、つまり「1-特異度」を尺度としてプロットしたものである。前記P値に対してカットオフ値を決め、その値よりもP値が大きければ大腸がんの可能性が高い、つまり陽性と判断する。そして、大腸がん患者全体に対する、陽性と判断された大腸がん患者の割合より感度を計算し、健常者全体に対する、陽性と判断された健常者(非疾病者)の割合より偽陽性率を計算する。同様にして他のカットオフ値での感度と偽陽性率を計算し、このようにして求めた値をグラフにプロットし、ROC曲線を描く。カットオフ値は、大腸がんのステージや検査の位置づけ、その他種々の条件より決定することができる。このROC曲線がより左上方に位置するほど検査方法として、優れていると判断することができる。
【0030】
また、本発明に係る大腸がん検査方法においては、前記生体内代謝産物の測定値を標準値と比較した結果から各ステージの大腸がんを判定することも可能である。この場合、各組の生体内代謝産物の測定値を、それぞれ対応する標準値と比較し、その結果から総合的に判断するようにしても良く、各組の生体内代謝産物の測定値の多重ロジスティック回帰分析の分析結果を標準値と比較することにより大腸がんを判定するようにしても良い。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、クロマトグラフMS/MS分析を行うことによって得られたデータに基づき、生体試料に含まれる1種以上の生体内代謝産物の量を測定し、その測定値に基づいてステージ0~2までのいずれかのステージの大腸がんを判定するため、早期の大腸がんを正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る大腸がん検査方法において、ステージ0からステージ2までの各ステージにある大腸がん、及びステージ0-2のいずれかにある大腸がんの判定に用いられる生体内代謝産物の候補を示す図。
【
図2】大腸がんの判定のための予測式に用いられる生体内代謝産物の組み合わせを示す図。
【
図3】モデル1におけるステージ0のROC曲線を示す図。
【
図4】モデル2におけるステージ0のROC曲線を示す図。
【
図5】モデル3におけるステージ0のROC曲線を示す図。
【
図6】モデル1におけるステージ1のROC曲線を示す図。
【
図7】モデル2におけるステージ1のROC曲線を示す図。
【
図8】モデル3におけるステージ1のROC曲線を示す図。
【
図9】モデル1におけるステージ2のROC曲線を示す図。
【
図10】モデル2におけるステージ2のROC曲線を示す図。
【
図11】モデル3におけるステージ2のROC曲線を示す図。
【
図12】モデル1におけるステージ0-2のROC曲線を示す図。
【
図13】モデル2におけるステージ0-2のROC曲線を示す図。
【
図14】モデル3におけるステージ0-2のROC曲線を示す図。
【
図15】モデル4におけるステージ0-2のROC曲線を示す図。
【
図16】乳酸及びオルニチンを用いたステージ0のROC曲線を示す図。
【
図17】乳酸及びオルニチンを用いたステージ1のROC曲線を示す図。
【
図18】乳酸及びオルニチンを用いたステージ2のROC曲線を示す図。
【
図19】乳酸及びオルニチンを用いたステージ0-2のROC曲線を示す図。
【
図20】ピルビン酸及びトリプトファンを用いたステージ0のROC曲線を示す図。
【
図21】ピルビン酸及びトリプトファンを用いたステージ1のROC曲線を示す図。
【
図22】ピルビン酸及びトリプトファンを用いたステージ2のROC曲線を示す図。
【
図23】ピルビン酸及びトリプトファンを用いたステージ0-2のROC曲線を示す図。
【
図24】乳酸を用いたステージ0のROC曲線を示す図。
【
図25】乳酸を用いたステージ1のROC曲線を示す図。
【
図26】乳酸を用いたステージ2のROC曲線を示す図。
【
図27】乳酸を用いたステージ0-2のROC曲線を示す図。
【
図28】グリコール酸を用いたステージ0のROC曲線を示す図。
【
図29】グリコール酸を用いたステージ1のROC曲線を示す図。
【
図30】グリコール酸を用いたステージ2のROC曲線を示す図。
【
図31】グリコール酸を用いたステージ0-2のROC曲線を示す図。
【
図32】ピルビン酸を用いたステージ0のROC曲線を示す図。
【
図33】ピルビン酸を用いたステージ1のROC曲線を示す図。
【
図34】ピルビン酸を用いたステージ2のROC曲線を示す図。
【
図35】ピルビン酸を用いたステージ0-2のROC曲線を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態に係る大腸がん検査方法について具体例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0034】
被検者から採取した生体試料をGC-MS/MSを用いて分析し、該検体に含まれる所定の複数種の生体内代謝産物を候補物質としてその量を測定し、その測定値(MS/MS測定値)を解析対象分子として多重ロジスティック回帰分析による解析を行った。ここでは、神戸大大学及び国立研究開発法人国立がん研究センター医学倫理委員会の承認を得て、大腸がん患者及び健常者から取得した検体を生体試料とした。そして、その結果から、ステージ0~2までの各ステージ、及びステージ0~2までのいずれかのステージの早期の大腸がんの判定に用いる1種もしくは複数種の生体内代謝産物を導き出した。
【0035】
本実施形態においては、早期の大腸がんの判定に用いる生体内代謝産物の候補として、21種類の生体内代謝産物(乳酸、オルニチン、グリコール酸、尿酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシブチル、トリプトファン、ピルビン酸、ガラクトース、グリシン、クエン酸、フマル酸、サッカロース、ロイシン、リン酸、2-ケト-イソ吉草酸、リンゴ酸、パルミトレイン酸、リジン、3-ヒドロキシイソ吉草酸、アスパラギン酸)を選定した。そして、これら21種類の生体内代謝産物を、
図1に示すように、(1)ステージ0、(2)ステージ1、(3)ステージ2、(4)ステージ0~2、の大腸がんの判定に用いられる4つの候補群に分類し、各候補群に含まれる生体内代謝産物の測定結果から対応するステージの大腸がんの判定に用いられる生体内代謝産物の組み合わせを導き出した。なお、21種類の生体内代謝産物の選定及び4種類の候補群への分類は、大腸がんのマーカとして知られている物質、該マーカとなる可能性が高い物質等、これまで知られている大腸がんのマーカに関する情報を参考に行った。
【0036】
<試料の調製>
空腹状態にある、上記の大腸がん患者及び健常者からEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含んだ採血管に採取した血液を混和後、4℃に保存し、遠心分離(3000rpm、10分間、4℃)して血漿を得た。
次に、血漿50μLをチューブに分注し、これに内部標準として2-イソプロピルリンゴ酸と前記生体内代謝物の安定同位体試薬を含んだメタノールを270μL添加して混合した。
続いて、凍結乾燥機により混合溶液から水分を除去した後、ピリジンに溶解したメチルヒドロキシアミン塩酸塩を添加し、30℃で90分間振盪してオキシム誘導体化を行い、MSTFAを添加し37℃で30分振盪してトリメチルシリル化し、これを試料とした。
【0037】
<マススペクトルデータ(MS/MSデータ)の収集>
上記試料に対して、トリプル四重極型ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS-TQ8040、株式会社島津製作所製)で質量分析することにより、MS/MSデータを収集した。質量分析は、以下の条件で行った。
試料のインジェクション容量は1μLとし、GCキャピラリーカラムとして、「BPX-5(SGE Analytical Science Pty. Ltd社)」を用いた。カラム温度は、測定開始から2分間は60℃に保持し、その後、1分あたり15℃ずつ330℃まで上昇させた後、3分間、330℃に保持した。イオン源の温度は250℃に設定した。
【0038】
<生体内代謝産物の測定>
試料のMS/MSデータからマススペクトルのピークを網羅的に検出し、そのピーク情報(質量電荷比及び信号強度)、及びMSライブラリに格納されている多数の生体内代謝産物に特異的な物質の質量電荷比、内部標準のピーク情報等に基づき、それらの生体内代謝産物の測定値(以下、MS/MS測定値という。)を求めた。
【0039】
<実施例1>
70例以上の健常者及び大腸がん患者から採取した、生体内代謝産物のMS/MS測定値について適宜のデータ解析を行い、ステージ0~2の各ステージにある大腸がんの判定、及びステージ0~2のいずれかにある大腸がんの判定を行った。この実施例では、判定に用いる1ないし複数の生体内代謝産物を決定し、該生体内代謝産物のMS/MS測定値を用いて予測式を作成し、この予測式を用いた大腸がんの判定を行った。本実施例では、生体内代謝産物のMS/MS測定値の多重ロジスティック回帰分析での分析値(P値)を算出するための式を予測式とした。この予測式で求められるP値が0に近いほど健常であり、1に近づくほど大腸がんの可能性が高いと判定することができる。
図2に、予測式の算出に用いた4種類の生体内代謝産物の組み合わせを示す。
【0040】
図2に示すモデル1では、多重ロジスティック回帰分析法により、乳酸とオルニチンのMS/MS測定値を用いてステージ0の大腸がんの予測式を作成し、グリコール酸、グリセリン酸、及びトリプトファンのMS/MS測定値を用いてステージ1の大腸がんの予測式を作成し、ピルビン酸、グリコール酸、フマル酸、及びサッカロースのMS/MS測定値を用いてステージ2の大腸がんの予測式を作成した。また、オルニチン、グリコール酸、トリプトファン、及びピルビン酸のMS/MS測定値を用いて、ステージ0からステージ2のいずれかのステージにある大腸がんの予測式を作成した。
【0041】
図2に示すモデル2では、ステップワイズ法により、乳酸、グリコール酸、尿酸、及びグリセリン酸の測定値を用いてステージ0の大腸がんの予測式を作成し、グリコール酸、尿酸、グリセリン酸、ピルビン酸、ガラクトース、及びグリシンの測定値を用いてステージ1の大腸がんの予測式を作成し、グリコール酸、ピルビン酸、ロイシン、リン酸、サッカロース、及びフマル酸の測定値を用いてステージ2の大腸がんの予測式を作成した。また、グリコール酸、ピルビン酸、フマル酸、及び2-ケト-イソ吉草酸のMS/MS測定値を用いてステージ0からステージ2のいずれかのステージにある大腸がんの予測式を作成した。
【0042】
図2に示すモデル3では、
図1の各候補群の中から安定同位体で測定値を補正可能な生体内代謝産物を優先的に選択するようにし、ステップワイズ法により、乳酸、2-ヒドロキシブチル酸、オルニチン、及びトリプトファンのMS/MS測定値を用いてステージ0の大腸がんの予測式を作成し、多重ロジスティック回帰分析法により、乳酸、オルニチン、トリプトファン、及びクエン酸のMS/MS測定値を用いてステージ1の大腸がんの予測式を作成し、同じく多重ロジスティック回帰分析法により、乳酸、オルニチン、トリプトファン、及びフマル酸のMS/MS測定値を用いてステージ2の大腸がんの予測式を作成した。また、同じく多重ロジスティック回帰分析法により、乳酸、オルニチン、トリプトファン、フマル酸、及びリンゴ酸のMS/MS測定値を用いてステージ0からステージ2のいずれかのステージにある大腸がんの予測式を作成した。
【0043】
図2に示すモデル4では、より高度な予測式を作成するため、
図1の候補群から多くの生体内代謝産物の組み合わせを選定し、多重ロジスティック回帰分析法により、オルニチン、グリコール酸、トリプトファン、ピルビン酸、フマル酸、パルミトレイン酸、リジン、及び3-ヒドロキシイソ吉草酸のMS/MS測定値を用いてステージ0からステージ2のいずれかのステージにある大腸がんの予測式を作成した。
【0044】
次に、モデル1~4の生体内代謝産物のMS/MS測定値を用いて作成された予測式に基づく判定結果について説明する。
【0045】
<1.ステージ0の大腸がんの判定>
年齢、性別、BMIを揃えた健常者及びステージ0の大腸がん患者それぞれ79名について、上述した手法に基づいて、
図2のモデル1~3に示す生体内代謝産物のMS/MS測定値を求め、それらMS/MS測定値を使って以下の式(2)~(4)を確立した。式(2)はモデル1、式(3)はモデル2、式(4)はモデル3の生体内代謝産物を用いた予測式を示す。また、式中、[乳酸]、[オルニチン]等は、それぞれ括弧内に示す生体内代謝産物のMS/MS測定値を示す。
【0046】
P =1/[1+exp{-(-13.506931+49.9697673*[乳酸]+4.26878539*[オルニチン])}]
・・・式(2)
P =1/[1+exp{-(-27.2172815+97.973150029*[乳酸]+ 219.03142781*[グリコール酸]-5.222210335*[尿酸]-68.8976813*[グリセリン酸])}]
・・・式(3)
P =1/[1+exp{-(-5.945008762+61.715859951*[乳酸]-0.690292331*[2-ヒドロキシブチル酸]+7.782649017*[オルニチン]-9.877482547*[トリプトファン])}]
・・・式(4)
【0047】
上記式(2)~(4)で求められるP値のカットオフ値をそれぞれ0.63、0.6、0.5としたときのROC解析(Receiver Operating Characteristic analysis)の結果を
図3~
図5に示す。
図3はモデル1、
図4はモデル2、
図5はモデル3の解析結果(ROC曲線)を示す。また、モデル1の感度は89.9%、特異度は94.9%、正診率は92.4%、モデル2の感度は96.2%、特異度は98.7%、正診率は97.5%、モデル3の感度は92.4%、特異度は97.5%、正診率は95.0%であった。
【0048】
<2.ステージ1の大腸がんの判定>
年齢、性別、BMIを揃えた健常者とステージ1の大腸がん患者それぞれ80名について、上述したステージ0と同様の手法で、
図2のモデル1~3に示す生体内代謝産物のMS/MS測定値を求め、それらMS/MS測定値を使って以下の式(5)~(7)を確立した。式(5)はモデル1、式(6)はモデル2、式(7)はモデル3の生体内代謝産物の組み合わせを用いた予測式を示す。
P =1/(1+exp(-(-5.244098866-39.34118597*[グリセリン酸]+137.16175377*[グリコール酸]-3.169957639*[トリプトファン])))
・・・式(5)
P =1/(1+exp(-(-14.99143949+373.05777093*[グリコール酸]+36.504337562*[ピルビン酸]-1.92165145*[ガラクトース]-198.2189077*[グリシン]-3.311584205*[尿酸]-30.15525187*[グリセリン酸])))
・・・式(6)
P =1/(1+exp(-(3.5655473738+25.015349738*[乳酸]+4.7551912842*[オルニチン]-7.667356818*[トリプトファン]-14.85882644*[クエン酸])))
・・・式(7)
【0049】
上記式(5)~(7)で求められるP値のカットオフ値をそれぞれ0.48、0.495、0.489としたときのROC解析(Receiver Operating Characteristic analysis)の結果を
図6~
図8に示す。
図6はモデル1、
図7はモデル2、
図8はモデル3の解析結果(ROC曲線)を示す。また、モデル1の感度は93.8%、特異度は92.4%、正診率は93.1%、モデル2の感度は98.8%、特異度は98.9%、正診率は98.8%、モデル3の感度は87.5%、特異度は88.0%、正診率は87.8%であった。
【0050】
<3.ステージ2の大腸がんの判定>
年齢、性別、BMIを揃えた健常者とステージ2の大腸がん患者それぞれ123名について、上述したステージ0と同様の手法で、
図2のモデル1~3に示す生体内代謝産物のMS/MS測定値を求め、それらMS/MS測定値を使って以下の式(8)~(10)を確立した。式(8)はモデル1、式(9)はモデル2、式(10)はモデル3の生体内代謝産物の組み合わせを用いた予測式を示す。
P =1/(1+exp(-(-19.5140397+22.817689838*[ピルビン酸]+68.301755498*[グリコール酸]+214.36183256*[フマル酸]+25.33111413*[サッカロース])))
・・・式(8)
P =1/(1+exp(-(-13.29001781+41.289331856*[ピルビン酸]+147.27766415*[グリコール酸]-1.508033407*[ロイシン]-3.04399115*[リン酸]+82.577937486*[サッカロース]+361.20773121*[フマル酸])))
・・・式(9)
P =1/(1+exp(-(-4.98049072+25.353666196*[乳酸]+7.0154960778*[オルニチン]+118.40574539*[フマル酸]-6.242588904*[トリプトファン])))
・・・式(10)
【0051】
上記式(8)~(10)で求められるP値のカットオフ値をそれぞれ0.75、0.5、0.41としたときのROC解析の結果を
図9~
図11に示す。
図9はモデル1、
図10はモデル2、
図11はモデル3の解析結果(ROC曲線)を示す。また、モデル1の感度は90.2%、特異度は99.2%、正診率は94.7%、モデル2の感度は96.8%、特異度は98.3%、正診率は97.6%、モデル3の感度は91.9%、特異度は89.2%、正診率は90.6%であった。
【0052】
<4.ステージ0~2の大腸がんの判定>
次に、年齢、性別、BMIを揃えた健常者とステージ0~2の大腸がん患者それぞれ282名について、上述したステージ0~2と同様の手法で、
図2のモデル1~3に示す生体内代謝産物のMS/MS測定値を求め、それらMS/MS測定値を使って以下の式(11)~(1
4)を確立した。式(11)はモデル1、式(12)はモデル2、式(13)はモデル3、式(14)はモデル4の生体内代謝産物の組み合わせを用いた予測式を示す。
【0053】
P =1/(1+exp(-(-8.910098221+16.291903021*[ピルビン酸]+68.3503626855752*[グリコール酸]-7.011317019*[トリプトファン]+4.9721464301*[オルニチン])))
・・・式(11)
P =1/(1+exp(-(-11.00126848+23.045661795*[ピルビン酸]+62.493803471*[グリコール酸]-583.6163492*[2-ケト-イソ吉草酸]+235.04693604*[フマル酸])))
・・・式(12)
P =1/(1+exp(-(-3.340652437+29.789478677*[乳酸]-7.212093514*[トリプトファン]+5.5597551347*[オルニチン]+237.87196106*[フマル酸]-59.94751789*[リンゴ酸])))
・・・式(13)
P =1/(1+exp(-(-8.992407686+19.375560943*[ピルビン酸]+82.332483986*[グリコール酸]-6.864158669*[トリプトファン]+9.6859550708*[オルニチン]-67.47807685*[パルミトレイン酸]-5.757937815*[リジン]-24.99353052*[3-ヒドロキシイソ吉草酸]+296.32483475*[フマル酸])))
・・・式(14)
【0054】
上記式(11)~(14)で求められるP値のカットオフ値をそれぞれ0.45、0.45、0.4、0.19としたときのROC解析の結果を
図12~
図15に示す。
図12はモデル1、
図13はモデル2、
図14はモデル3、
図15はモデル4の解析結果(ROC曲線)を示す。また、モデル1の感度は95.4%、特異度は92.8%、正診率は94.1%、モデル2の感度は96.5%、特異度は94.9%、正診率は95.7%、モデル3の感度は93.3%、特異度は89.7%、正診率は91.5%、モデル4の感度は98.3%、特異度は93.8%、正診率は96.1%であった。
【0055】
以下の表1は、上述のモデル1~4の予測式で求められたP値に基づく各ステージの大腸がんの判定結果をまとめて示したものである。表1中、AUCは血中濃度-時間曲線下面積(Area Under the blood concentration-time Curve)を示す。
【表1】
【0056】
表1から分かるように、モデル1~4のいずれの予測式においても、ステージ0~2の早期の大腸がんを、ステージ毎に高い感度で正確に診断することができることが示唆された。また、ステージ0~2までのいずれかのステージにある早期の大腸がんを高い感度で正確に診断することができることも示唆された。
【0057】
<実施例2>
年齢、性別、BMIを揃えた健常者及び大腸がん患者それぞれ282名について、実施例1と同様の手順で生体内代謝産物のMS/MS測定値を求め、該MS/MS値について適宜のデータ解析を行い、実施例1とは別の方法で、ステージ0~2の各ステージにある大腸がんの判定、及びステージ0~2のいずれかにある大腸がんの判定を行った実施例2について以下に説明する。
この実施例では、ステージ0~2の各ステージにある大腸がんの判定、及びステージ0~2のいずれかにある大腸がんの判定を、共通の生体内代謝産物のMS/MS測定値を用いた点が実施例1と異なる。
【0058】
<1.乳酸及びオルニチンを用いた判定>
乳酸及びオルニチンのMS/MS測定値を使った、各ステージの予測式を以下に示す。また、各予測式から求められるP値のカットオフ値とそのときのROC解析の結果を
図16~
図19及び以下の表2に示す。
<ステージ0>
P =1/[1+exp{-(-13.506931+49.9697673*[乳酸]+4.26878539*[オルニチン])}]
<ステージ1>
P =1/[1+exp{-(-3.87236783+15.326042355*[乳酸]+1.2883608996*[オルニチン])}]
<ステージ2>
P =1/[1+exp{-(-8.659104135+25.441015108*[乳酸]+5.2519152847*[オルニチン])}]
<ステージ0-2>
P =1/[1+exp{-(-7.109178221+24.600621297*[乳酸]+3.2254288676*[オルニチン])}]
【0059】
【0060】
<2.ピルビン酸及びトリプトファンを用いた判定>
ピルビン酸及びトリプトファンのMS/MS測定値を使った、各ステージの予測式を以下に示す。また、各予測式から求められるP値のカットオフ値とそのときのROC解析の結果を
図20~
図23及び上述の表2に示す。
<ステージ0>
P =1/[1+exp{-(-3.024371454-4.885245141*[トリプトファン]+29.99823801*[ピルビン酸])}]
<ステージ1>
P =1/[1+exp{-(1.4528990406-4.070618917*[トリプトファン]+9.2766738843*[ピルビン酸])}]
<ステージ2>
P =1/[1+exp{-(-0.438767321-4.66996093*[トリプトファン]+17.635049962*[ピルビン酸])}]
<ステージ0-2>
P =1/[1+exp{-(-0.20906188-3.903240175*[トリプトファン]+ 14.960074677*[ピルビン酸])}]
【0061】
<3.乳酸を用いた判定>
乳酸のMS/MS値のみを用いてステージ0~2の各ステージにある大腸がん、及びステージ0~2のいずれかにある大腸がんの判定を行った結果を上述の表2に示す。この例のように、1種類の生体内代謝産物のMS/MS値を用いる場合は、予測式は作成せず、MS/MS値がカットオフ値よりも大きければ大腸がんの可能性が高い(陽性)と判断し、その結果に基づき、感度、特異度、正診率を求めた。このようにして求めた感度及び特異度から作成したROC曲線を
図24~
図27に示す。
【0062】
<4.グ
リコール酸を用いた判定>
グリコール酸のMS/MS値のみを用いてステージ0~2の各ステージにある大腸がん、及びステージ0~2のいずれかにある大腸がんの判定を行った結果を上述の表2に示す。この例でも 乳酸を用いた判定と同様、予測式は作成せず、MS/MS値がカットオフ値よりも大きければ大腸がんの可能性が高い(陽性)と判断し、その結果に基づき、感度、特異度、正診率を求めた。このようにして求めた感度及び特異度から作成したROC曲線を
図28~
図31に示す。
【0063】
<5.ピルビン酸を用いた判定>
ピルビン酸のMS/MS値のみを用いてステージ0~2の各ステージにある大腸がん、及びステージ0~2のいずれかにある大腸がんの判定を行った結果を上述の表2に示す。この例でも 乳酸を用いた判定と同様、予測式は作成せず、MS/MS値がカットオフ値よりも大きければ大腸がんの可能性が高い(陽性)と判断し、その結果に基づき、感度、特異度、正診率を求めた。このようにして求めた感度及び特異度から作成したROC曲線を
図32~
図35に示す。
【0064】
表2から分かるように、共通の生体内代謝産物のMS/MS値を用いた場合でも、ステージ0~2の全てのステージの大腸がんを高い感度で、正確に診断することができることが示唆された。特に、ピルビン酸とトリプロファン、グリコール酸のみ、ピルビン酸のみを用いた大腸がんの判定では、全てのステージにおいて、80%以上の正診率が得られことから、これらの生体内代謝産物のMS/MS値は大腸がんの有効なマーカとなりうることが推測された。