(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】コンクリート構造物における誘発目地の形成方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20220204BHJP
【FI】
E21D11/10 B
(21)【出願番号】P 2018147241
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】310005294
【氏名又は名称】北陸鋼産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501360120
【氏名又は名称】テクノプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】浜田 元
(72)【発明者】
【氏名】横山 豊也
(72)【発明者】
【氏名】佐土原 千尋
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-299793(JP,A)
【文献】特開2008-308855(JP,A)
【文献】特開2002-322647(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0254202(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物を横断して、ひび割れを誘発する誘発目地を形成するためのコンクリート構造物における誘発目地の形成方法であって、
コンクリートの打設空間を区画するコンクリート型枠の型枠面から打設空間側に突出させて、
複数のプレート部材を、コンクリート構造物の横断方向に
隙間が生じないように隣接させた状態で連設配置するとともに、連設配置された前記複数のプレート部材のうちの一部を、両側の側縁部の間の間隔が打設空間からの引抜き方向に向けて末広がりとなっているハの字状プレート部材として、引抜き可能にコンクリート型枠に取り付けておき、コンクリートの打設空間に打設されたコンクリートが硬化したら、
コンクリート型枠から前記ハの字状プレート部材を先行して引き抜くと共に、各々の前記プレート部材を引き抜くことにより、コンクリート構造物の所望の位置に横断方向に延設する誘発目地を形成するコンクリート構造物における誘発目地の形成方法。
【請求項2】
前記コンクリート構造物が、前記コンクリート型枠としてトンネル覆工型枠を用いて形成されたトンネル覆工コンクリートであり、
前記複数のプレート部材は、前記トンネル覆工型枠の外周部分の型枠面から外側に突出させると共に、前記トンネル覆工型枠の周方向に
隣接させた状態で連設配置されて、前記トンネル覆工型枠に引抜き可能に取り付けられる
請求項1記載のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法。
【請求項3】
前記トンネル覆工コンクリートは、300~500mmの厚さで構築されるようになっており、
前記複数のプレート部材は、前記トンネル覆工型枠の外周部分の型枠面から100~250mmの高さで外側に突出させた状態で連設配置される請求項2記載のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法。
【請求項4】
前記複数のプレート部材は、アルミニウム製又はスチール製の金属プレートである請求項1~3のいずれか1項記載のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法。
【請求項5】
前記複数のプレート部材は、表面が摩擦低減材によって被覆されており、該摩擦低減材は、吸水して膨潤する材料を含んでいる請求項1~4のいずれか1項記載のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法。
【請求項6】
前記摩擦低減材が、高吸水性樹脂を含んでいる請求項5記載のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物における誘発目地の形成方法に関し、特に、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物を横断して、ひび割れを誘発する誘発目地を形成するためのコンクリート構造物における誘発目地の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物として、例えばトンネル覆工コンクリートは、山岳トンネル工法等のトンネル工法において、掘削したトンネルの内周面の地山を所定の厚さで覆って、トンネルの掘進方向に連続して構築されるコンクリート構造物であり、トンネル覆工コンクリートを形成するための方法として、セントルと呼ばれるトンネル覆工用型枠を用いる工法が一般的に採用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。トンネル覆工用型枠50は、例えば
図6に示すように、例えば馬蹄形等のアーチ形状部分52を含む形状のトンネル53の内周面に沿って、トンネル53の側壁部55から上部に亘って設置されるものであり、設置されたトンネル覆工用型枠50と、トンネル53の内周面の吹き付けコンクリート54によって覆われる地山との間の覆工空間61に、好ましくは無筋コンクリートを打設して硬化させることにより、トンネル底部のインバート部51のコンクリートと一体化させて、覆工コンクリートが形成されることになる。
【0003】
また、トンネル覆工用型枠50としては、例えばバラセントルと呼ばれる組立式のトンネル覆工用型枠の他、スライドセントルと呼ばれる移動式のトンネル覆工用型枠が知られており、トンネル53の掘削作業の進行に伴なって、例えば10.5m程度の所定の施工スパン毎にトンネル覆工用型枠50を据え付け直しながら、トンネル53の掘進方向の後方から前方に向かって、トンネル覆工用型枠50を用いてトンネル53の側部及び上部の覆工コンクリートを順次打設して形成して行くことになる。
【0004】
そして、トンネル覆工用型枠50を用いてトンネルの側部及び上部の覆工コンクリートを打設するには、例えば
図7(a)~(d)に示すように、設置したトンネル覆工用型枠50に設けられた検査窓56からコンクリートを打設可能な高さ領域として、例えばトンネル53の側壁部55からアーチ形状部分52の肩部までの領域に対しては、検査窓56を介してコンクリート57を供給すると共に、バイブレータ58を検査窓56から挿入し、供給されたコンクリート57を締固めながらコンクリート57を打設する(
図7(a)~(c)参照)。しかる後に、検査窓56からコンクリート57を供給しながらバイブレータ58によって締固めることが困難な高さ領域として、トンネル53の冠部(クラウン部)59(
図6参照)の領域に対しては、トンネル覆工用型枠50の天端部に設けた吹き上げ投入口60から、コンクリートを吹き上げ方式で圧入して打ち込み、直接バイブレータを用いて締固めを行うことなく冠部59のコンクリート57を形成するパターンが採用されている(
図7(d)参照)。
【0005】
より具体的には、所定位置にトンネル覆工用型枠50を設置した後に、例えば側壁部55の下部より、下段の検査窓56を介してコンクリート57を流し込みながらバイブレータ58を用いて締固める工程(
図7(a)参照)と、さらに側壁部55の上部のアーチ形状部分52に向かって、中段の検査窓56を介してコンクリート57を流し込みながらバイブレータ58を用いて締固める工程(
図7(b)参照)と、さらにアーチ形状部分52の冠部59の手前まで、上段の検査窓56及び必要に応じて吹き上げ投入口60を介してコンクリート57を流し込みながら、バイブレータ58を用いて締固める工程(
図7(c)参照)と、冠部59における既設の覆工コンクリート62側の部分から吹き上げ投入口60を介してコンクリート57を吹き上げ方式で圧入し、直接バイブレータを用いて締固めを行うことなく、妻型枠63までコンクリートを充填する工程(
図7(d)参照)とによって、覆工コンクリートが打設されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-280094号公報
【文献】特開2003-262096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、近年のトンネル工法では、掘削技術の改良によって、コンクリートの打設から養生及びトンネル覆工用型枠の脱型までの、覆工コンクリートを形成するための工程の進捗が、トンネルの切羽面を掘削する工程の進捗に追随できなくなっている。このため、例えばトンネル覆工用型枠を組み立ててからコンクリートを打設するまでの工程と、打設したコンクリートの養生の後にトンネル覆工用型枠を脱型するまでの工程とを、別々の日に行っていたものを、トンネル覆工用型枠の脱型、移動、及び組立から、コンクリートの打設までの工程を、1日のうちに終わらせて、翌日は専らコンクリートの養生期間とするといった施工方法を採用したり、或いは、一般に用いられる10.5m程度の延長を有するトンネル覆工用型枠に代えて、好ましくは18m程度の延長を有するロングスパンのトンネル覆工用型枠10を用いることで、一サイクルで行なう覆工コンクリートの施工スパンを増大させて、工期の短縮を図ると共に、覆工コンクリートの形成するための工程の進捗を早めるようにすることが検討されている。
【0008】
一方、トンネルの掘進方向に連続して所定の厚さで構築されるトンネル覆工コンクリートの、トンネル覆工用型枠を用いた一サイクルの施工スパンを、例えば10.5m程度の延長から18m程度の延長に増大させると、例えば10.5m程度の施工スパンでは、隣接する施工スパンの境目部分で乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを吸収して、施工スパンの間の部分で覆工コンクリートにひび割れが生じるのを効果的に抑制できていたものが、トンネル覆工用型枠を用いた覆工コンクリートの一サイクルの施工スパンが増大することにより、乾燥収縮や温度収縮によるひび割れが、延長が長くなった施工スパンの間の部分で生じ易くなる。このようなことから、トンネルの掘進方向に連続して所定の厚さで構築されるトンネル覆工コンクリートの、トンネル覆工用型枠を用いた一サイクルの施工スパンの延長を長くする場合には、施工スパンの中間部分に、乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを誘発させる誘発目地を設けることが望ましい。
【0009】
トンネル覆工コンクリート等の、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物の中間部分に誘発目地を設ける方法として、打設したコンクリートが硬化して型枠を脱型した後に、例えばコンクリートカッターにより硬化したコンクリートの延長方向の中間部分を溝状に切削して、誘発目地を形成する方法が考えられるが、コンクリートカッターを用いて硬化したコンクリートを溝状に切削する場合、特にトンネル覆工コンクリートに対しては、アーチ形状部分を含む湾曲する横断面形状の内周面に沿って、コンクリートカッターを移動させながらコンクリートを溝状に切削してゆく作業となるため、多くの手間を要することになる。
【0010】
本発明は、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物の、一サイクルの施工スパンの中間部分に、コンクリートの乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを誘発させる誘発目地を、多くの手間を要することなく簡易に設けることのできるコンクリート構造物における誘発目地の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物を横断して、ひび割れを誘発する誘発目地を形成するためのコンクリート構造物における誘発目地の形成方法であって、コンクリートの打設空間を区画するコンクリート型枠の型枠面から打設空間側に突出させて、複数のプレート部材を、コンクリート構造物の横断方向に隙間が生じないように隣接させた状態で連設配置するとともに、連設配置された前記複数のプレート部材のうちの一部を、両側の側縁部の間の間隔が打設空間からの引抜き方向に向けて末広がりとなっているハの字状プレート部材として、引抜き可能にコンクリート型枠に取り付けておき、コンクリートの打設空間に打設されたコンクリートが硬化したら、コンクリート型枠から前記ハの字状プレート部材を先行して引き抜くと共に、各々の前記プレート部材を引き抜くことにより、コンクリート構造物の所望の位置に横断方向に延設する誘発目地を形成するコンクリート構造物における誘発目地の形成方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0012】
そして、本発明のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法は、前記コンクリート構造物が、前記コンクリート型枠としてトンネル覆工型枠を用いて形成されたトンネル覆工コンクリートであり、前記複数のプレート部材は、前記トンネル覆工型枠の外周部分の型枠面から外側に突出させると共に、前記トンネル覆工型枠の周方向に隣接させた状態で連設配置されて、前記トンネル覆工型枠に引抜き可能に取り付けられることが好ましい。
【0013】
また、本発明のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法は、前記トンネル覆工コンクリートが、300~500mmの厚さで構築されるようになっており、前記複数のプレート部材は、前記トンネル覆工型枠の外周部分の型枠面から100~250mmの高さで外側に突出させた状態で連設配置されることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法は、前記複数のプレート部材が、アルミニウム製又はスチール製の金属プレートであることが好ましい。
【0015】
さらにまた、本発明のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法は、前記複数のプレート部材が、表面が摩擦低減材によって被覆されており、該摩擦低減材は、吸水して膨潤する材料を含んでいることが好ましい。
【0016】
また、本発明のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法は、前記摩擦低減材が、高吸水性樹脂を含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法によれば、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物の、一サイクルの施工スパンの中間部分に、コンクリートの乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを誘発させる誘発目地を、多くの手間を要することなく簡易に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の好ましい一実施形態に係るコンクリート構造物における誘発目地の形成方法が採用される、トンネル覆工型枠を用いて形成されるトンネル覆工コンクリートを説明する略示横断面である。
【
図2】本発明の好ましい一実施形態に係るコンクリート構造物における誘発目地の形成方法が採用される、トンネル覆工型枠を用いて構築されるトンネル覆工コンクリートを説明する略示縦断面である。
【
図3】表面が前記摩擦低減材で被覆された複数のプレート部材を、覆工空間に突出させてトンネル覆工型枠の周方向に連設配置した状態を説明する略示横断面である。
【
図4】(a)は、
図3のA部に取り付けられたプレート部材の正面図、(b)は、(a)のプレート部材を覆工空間に突出させてトンネル覆工型枠に仮固定した状態を説明する、
図3のB-Bに沿った略示縦断面である。
【
図5】従来のトンネル覆工コンクリートの打設方法において、トンネル覆工用型枠をトンネルの内周面に沿って設置した状態を説明する略示横断面図である。
【
図6】(a)~(d)は、従来のトンネル覆工コンクリートの打設方法の作業手順を説明する、一部を断面図として示す略示側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい一実施形態に係るコンクリート構造物における誘発目地の形成方法は、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物として、例えば
図1及び
図2に示すような、トンネル40の内周面を覆って構築されるトンネル覆工コンクリート(以下「覆工コンクリート」とする。)20に、コンクリートの乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを誘発させて、それ以外の部分にひび割れが生じないようにすることで、品質の良好なコンクリート面を形成できるようにする誘発目地25(
図2参照)を、覆工コンクリート20の所望の位置に、多くの手間を要することなく簡易に設けることを可能にする方法として採用されたものである。
【0020】
すなわち、近年のトンネル工法では、掘削技術の改良によって、コンクリートの打設から養生及びトンネル覆工用型枠10の脱型までの、覆工コンクリート20を形成するための工程の進捗が、トンネル40の切羽面を掘削する工程の進捗に追随できなくなって、効率良く施工されていないことが多くなっていることから、本実施形態では、一般に用いられる10.5m程度の延長を有するトンネル覆工用型枠に代えて、好ましくは例えば18~22m程度の延長を有するロングスパンのトンネル覆工用型枠10を用いることで、一サイクルで行なう覆工コンクリート20の施工スパンを増大させて、覆工コンクリート20を形成するための工程の進捗を早めることができるようになっている。ロングスパンのトンネル覆工用型枠10を用いることで、覆工コンクリート20の一サイクルの施工スパンの延長を増大させると、隣接する施工スパンの境目部分だけでは、コンクリートの乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを十分に吸収できなくなって、乾燥収縮や温度収縮によるひび割れが施工スパンの中間部分で生じ易くなることから、本実施形態では、後述する誘発目地の形成方法を採用して、施工スパンの中間部分に乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを誘発させる誘発目地25を設けることにより、品質の良好なコンクリート面を覆工コンクリート20に形成できるようになっている。
【0021】
そして、本実施形態のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法は、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物である、覆工コンクリート20を横断して、ひび割れを誘発する誘発目地25を形成するための誘発目地の形成方法であって、
図3~
図5に示すように、コンクリートの打設空間である覆工空間21を区画する、コンクリート型枠であるトンネル覆工用型枠10の外周部分の型枠面15から、外側の覆工空間21側に突出させて、表面が好ましくは高吸水性樹脂を含む摩擦低減材で被覆された複数のプレート部材26を、覆工コンクリート20の横断方向である周方向に連設配置して(
図3参照)、引抜き可能にトンネル覆工用型枠10に取り付けておく(
図4(b)参照)。コンクリートの打設空間である覆工空間21に打設されたコンクリートが硬化したら、トンネル覆工用型枠10から各々のプレート部材26を引き抜くことにより、覆工コンクリート20の縦断方向の所望の位置に、横断方向である周方向に延設する誘発目地25(
図2参照)を形成するようになっている。
【0022】
本実施形態では、一方向に連続して構築されるコンクリート構造物である覆工コンクリート20を形成するためのトンネル覆工用型枠10は、トンネル40の掘進方向Xに移動可能なスライドセントルとなっており、例えば18~22m程度の延長を有するロングスパンのセントルとなっている。トンネル覆工用型枠10は、ロングスパンのセントルとなっていること以外は、例えば特開2015-67949号公報に記載されたトンネル覆工用型枠と、略同様の構成を備えている。
【0023】
すなわち、トンネル覆工用型枠10は、
図1及び
図2に示すように、複数の門型フレームをトンネル40の掘進方向Xに連結一体化して形成された門型台車11と、門型台車11によって支持されると共に、例えば吹付けコンクリートによる一次覆工23によって覆われたトンネル40の内周面に沿って配置されて、覆工空間21の内側の型枠面15を形成する型枠本体12とを含んで構成されている。門型台車11は、基台部11aと、基台部11aを支持する支柱脚部11bとを備えている。支柱脚部11bの下端部には、トンネル40の床面に敷設されたレール14に沿って走行可能な走行部11cが設けられており、これによってトンネル覆工用型枠10は、トンネル40の掘進方向Xに移動できるようになっている。
【0024】
型枠本体12は、一次覆工23によって覆われたトンネル40の内周面に沿った形状を備えるように組み付けられており、外周部分の型枠面15がトンネル40の内周面との間に所定の間隔をおいて配置されることにより、所定の厚さの覆工空間21を形成する。また、型枠本体12は、トンネル40のアーチ形状部分40bの上部の覆工空間21を形成する上部型枠12aと、アーチ形状部分40bの下部及び両側の側壁部分40aの覆工空間21を形成する一対の側部型枠12bと、一対の下端部型枠12cとを含んで構成されている。上部型枠12aは、門型台車11の基台部11aに設けられた複数の昇降ジャッキ13aによって、上下方向に昇降可能に支持されている。一対の側部型枠12bは、上部型枠12aの両側の下端部に各々回転可能に接続されており、一対の下端部型枠12cは、各々の側部型枠12bの下端部に回転可能に接続されている。側部型枠12b及び下端部型枠12cは、一端部が門型台車12に連結された伸縮ジャッキ13b,13cの他端部と連結しており、これらの伸縮ジャッキ13b,13cを伸縮することで、側部型枠12bや下端部型枠12cを、上部型枠12aや側部型枠12bに対して、回動できるようになっている。
【0025】
これらによって、トンネル覆工用型枠10は、昇降ジャッキ13aや伸縮ジャッキ13b,13cを伸縮させることで、型枠本体12を展開したり内側にまとめたりすることが可能になって、トンネル40の内周面に沿うように型枠本体12を組み付けたり、型枠本体12を脱型した後にトンネル40の内部で掘進方向Xに移動させたりすることができるようになっている。
【0026】
本実施形態では、トンネル覆工用型枠10は、例えば18~22m程度の延長を有するロングスパンの型枠となっていることにより施工スパンを増大させて、工期の短縮を図ることを可能にしていることに加えて、好ましくは、前後方向(トンネルの掘進方向)Xの一方及び他方に2分割した状態となるように、分離可能な構成を備えている。トンネル覆工用型枠10を一方及び他方に分離可能な構成としたことで、トンネル覆工用型枠10の移動及びセットをロングスパンのまま一体として行えるようにして、移動及びセットの時間の短縮を図りつつも、例えばトンネル40の坑口部分や断面拡幅部分等の、異なる断面部分の覆工コンクリート20を施工する際に、これらの異なる断面部分の型枠の組み立てや打設したコンクリートの養生などのために、トンネル覆工用型枠10を、移動することなく通常よりも長い期間、同じ位置に保持しておく必要がある場合でも、例えば一方の部分をそのまま保持しておき、異なる断面部分から外れた他方の部分を分離することで、分離した他方の部分を用いることによって、覆工コンクリート20を形成する作業を進めてゆくことが可能になる。これによって、覆工コンクリート20を形成するための工程が、異なる断面部分の影響によって長引くことになるのを、効果的に回避することが可能になる。
【0027】
また、本実施形態では、トンネル覆工用型枠10によって形成された、型枠本体12の外周部分の型枠面15と、一次覆工23で覆われたトンネルの40内周面との間の覆工空間21には、2系統のコンクリートポンプ(コンクリートポンプ車)30及び圧送配管31を介して、コンクリートが供給されるようになっている。すなわち、本実施形態では、コンクリートポンプ30は、
図2に示すように、セットされたトンネル覆工用型枠10を挟んだトンネルの掘進方向Xの前方及び後方に1台ずつ、2台配置されており、各々のコンクリートポンプ30のホッパー部に、コンクリートミキサー車32からコンクリートが投入されるようになっている。前後2台のコンクリートポンプ30には、圧送配管31が各々接続されている。これらの2系統の圧送配管31を介して、2台のコンクリートポンプ30から覆工空間21に、コンクリートを同時に圧送して、供給できるようになっている。2系統のコンクリートポンプ30及び圧送配管31を用いることにより、覆工コンクリート20を形成するための工程の進捗を、より効果的に早めることが可能になる。2台のコンクリートポンプ30を用いる場合、これらの2台のコンクリートポンプ30は、トンネル覆工用型枠10を挟んだトンネルの掘進方向Xの前方又は後方の一方(片側)に、並べて配置することもできる。
【0028】
そして、本実施形態の誘発目地の形成方法では、
図3及び
図4(b)に示すように、トンネル覆工用型枠10の型枠本体12による外周部分の型枠面15から覆工空間21側に突出させて、摩擦低減材として、好ましくは高吸水性樹脂を含む摩擦低減材によって表面が被覆された複数のプレート部材26を、トンネル覆工用型枠10の前後方向(トンネルの掘進方向)Xの中間部分において、覆工コンクリート20の周方向に連設配置して、トンネル覆工用型枠10内側から引抜き可能な状態でトンネル覆工用型枠10に取り付けておく。
【0029】
プレート部材26は、好ましくアルミニウム製又はスチール製の、例えば6~10mm程度の厚さ(本実施形態では、9mm程度の厚さ)の金属ブレートを用いて、
図4(a)に示すように、例えば縦幅が300~600mm程度、横幅が400~700mm程度(本実施形態では、縦幅が500mm程度、横幅が700mm程度)の大きさの、上辺部及び下辺部が僅かに湾曲する略矩形の正面形状を備えるように形成される。また、プレート部材26は、トンネル覆工用型枠10の型枠本体12による外周部分の型枠面15を挟んで、これの外側の覆工空間21側に突出して配置される外側略半分の部分の外側突出埋設部26aと、トンネル覆工用型枠10の型枠本体12による外周部分の型枠面15を挟んで、これの内側に突出して配置される内側略半分の部分の内側突出操作部26bとを含んで構成されている。
【0030】
外側突出埋設部26aは、
図4(b)に示すように、トンネル覆工用型枠10の型枠本体12による外周部分の型枠面15に、周方向に延設して設けられた挿入スリット15aを介して、覆工空間21に向けてプレート部材26が挿入された際に、トンネル覆工用型枠10の型枠本体12による外周部分の型枠面15から、例えば250mm程度の突出高さで外側に突出するように配置される。また外側突出埋設部26aは、突出先端部から200mm程度の部分が、先端に向けて厚さを例えば9mm程度から2mm程度に減少させた、テーパー加工部26cとなっており、これによって覆工コンクリート20の硬化後にプレート部材26をトンネル覆工用型枠10の内側に引き抜く操作を、よりスムーズに行なうことができるようになっている。
【0031】
内側突出操作部26bは、覆工空間21に打設したコンクリートが硬化するまでの間、プレート部材26をトンネル覆工用型枠10に固定しておくための仮固定部として機能すると共に、コンクリートが硬化した後にプレート部材26をトンネル覆工用型枠10の内側に引き抜く際の、持手部として機能する部分であって、下辺部と近接する部分に、持ち手用のハンドル部26dが、両側に突出して一体として設けられている。
【0032】
型枠本体12による外周部分の型枠面15に、周方向に延設して設けられた挿入スリット15aを介して、覆工空間21に向けてプレート部材26の外側突出埋設部26aを挿入した状態で、
図4(b)に示すように、例えばトンネル覆工用型枠10の型枠本体12の内側に溶接等により固着された支持鋼材12dに、ハンドル部26dの背面部分を点付け溶接等することによって、プレート部材26を、破断可能に支持鋼材12dに接合することができる。これによって、外側突出埋設部26aを覆工空間21側に突出させた状態で、覆工コンクリート20の周方向に連設配置される複数のプレート部材26の各々を、トンネル覆工用型枠10に、安定した状態で仮固定しておくことが可能になる。
【0033】
また、覆工空間21に打設したコンクリートが硬化した後に、プレート部材26をトンネル覆工用型枠10の内側に引き抜く際には、破断可能に点付け溶接等がなされたハンドル部26aの背面部分の接合箇所を破断させることで、仮固定された状態を開放することによって、プレート部材26を引き抜く操作を行うことが可能になる。プレート部材26を引き抜く操作は、内側突出操作部26bに設けられたハンドル部26dを把持しながら、容易に行うことができる。
【0034】
さらに、本実施形態では、
図4に示すように、トンネル覆工型枠10の外周部分の型枠面15から覆工空間21側に外側突出埋設部26aを突出させて、トンネル覆工型枠10の周方向に連設配置された複数のプレート部材26は、好ましくは隣接する各一対のプレート部材26の側縁部の間に、隙間が生じないように配設されている。また、これらの連設配置された複数のプレート部材26のうちの一部は、両側の側縁部の間の間隔が、覆工空間21の外側から内側に向けて広くなった、内側に末広がりの正面形状を備えるハの字状のプレート部材26’となっている。
【0035】
周方向に連設配置された複数のプレート部材26のうちの一部が、両側の側縁部の間の間隔が覆工空間21の内側に向けて末広がりのハの字状プレート部材26’となっていることにより、当該ハの字状プレート部材26’を先行して引き抜くようにすることで、トンネル覆工型枠10の周方向に連設配置されたプレート部材26が、隣接するプレート部材26の側縁部同士が競り合うことで引き抜き難くなるのを回避して、各々のプレート部材26をスムーズに引き抜けるようにすることが可能になる。
【0036】
そして、本実施形態では、トンネル覆工用型枠10の周方向に連設配置される複数のプレート部材26の各々は、少なくとも覆工空間21側に突出して配設される外側突出埋設部26aの表面が、好ましくは吸水して膨潤する材料として、例えば高吸水性樹脂を含む摩擦低減材によって被覆されている。高吸水性樹脂を含む摩擦低減材としては、好ましくは、高吸水性を備えるアクリル樹脂を含んでいる摩擦低減材を用いることができる。より具体的には、例えば土木工事における仮設の土留め芯材として地中に埋設される、H形鋼等の鋼材の引き抜きを容易にするために、鋼材の表面に予め塗着したり貼り付けたりして用いる摩擦低減材として公知の、商品名「フリクションカッター」(株式会社日本触媒製)を用いることができる。高吸水性樹脂を含む摩擦低減材は、塗布剤として塗着させたり、被覆材として貼り付けたりすることによって、少なくとも外側突出埋設部26aの表面を被覆して、複数のプレート部材26の各々に容易に付着させることができる。
【0037】
トンネル覆工型枠10の周方向に連設配置される複数のプレート部材26の各々の、少なくとも覆工空間21側に突出して配設される外側突出埋設部26aの表面が、好ましくは高吸水性樹脂を含む摩擦低減材によって被覆されていることにより、打設されたコンクリート中の水分を高吸水性樹脂が吸収することで、コンクリートが硬化した後も、プレート部材26の表面を、周囲の硬化したコンクリートと縁を切った状態に保持することが可能になる。これによって、例えば20kN程度の人の手の力で容易に引き抜くことが可能な引抜き作用力により、所定の養生期間が経過した硬化後の覆工コンクリート20に損傷を与えることなく、各々のプレート部材26をスムーズに引き抜いて、順次撤去することにより、覆工コンクリート20の周方向に延設する誘発目地25を容易に形成することが可能になる。
【0038】
したがって、本実施形態のコンクリート構造物における誘発目地の形成方法によれば、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物である覆工コンクリート20の、一サイクルの施工スパンの中間部分に、コンクリートの乾燥収縮や温度収縮によるひび割れを誘発させる誘発目地25を、多くの手間を要することなく簡易に設けることが可能になる。
【0039】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明の誘発目地の形成方法によって誘発目地が形成される、一方向に連続して所定の厚さで構築されるコンクリート構造物は、トンネル覆工コンクリートである必要は必ずしもなく、例えば道路橋を形成するコンクリート床版等の、一方向に連続して構築されるその他の種々のコンクリート構造物であっても良い。また、引き抜き可能なプレート部材の表面を被覆する摩擦低減材は、高吸水性樹脂を含む摩擦低減材である必要は必ずしも無く、吸水して膨潤する材料を含むその他の摩擦低減材の他、硬化した後のコンクリートからプレート部材を、例えば人の手の力で容易に引き抜くことを可能にする公知の種々の摩擦低減材であっても良い。
【符号の説明】
【0040】
10 トンネル覆工用型枠
11 門型台車
11a 基台部
11b 支柱脚部
11c 走行部
12 型枠本体
12a 上部型枠
12b 下部型枠
12c 下端部型枠
13a 昇降ジャッキ
13b,13c 伸縮ジャッキ
14 レール
15 型枠面
15a 挿入スリット
20 トンネル覆工コンクリート
21 覆工空間
23 一次覆工
25 誘発目地
26 プレート部材
26’ ハの字状のプレート部材
26a 外側突出埋設部
26b 内側突出操作部
26c テーパー加工部
27a 持ち手用の穴
27b 張出し締着リブ
27c 係止孔
28a 固定ボルト
28b ナット
30 コンクリートポンプ(コンクリートポンプ車)
31 圧送配管
32 コンクリートミキサー車
40 トンネル
40a 側壁部分
40b アーチ形状部分
X トンネルの掘進方向(トンネル覆工用型枠の前後方向)