(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパおよびそれを用いた一方向移動制動装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/50 20060101AFI20220204BHJP
F16F 9/14 20060101ALI20220204BHJP
E05F 5/02 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
F16F9/50
F16F9/14 A
E05F5/02 A
(21)【出願番号】P 2018044768
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】野村 一平
(72)【発明者】
【氏名】室井 翔太
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-153066(JP,A)
【文献】特開2013-050117(JP,A)
【文献】特開2010-190268(JP,A)
【文献】特開2001-303845(JP,A)
【文献】特開2017-110675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/50
F16F 9/14
E05F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に粘性流体が充填されたハウジングと、一部が前記ハウジング内に収容されて前記ハウジングに対して回転自在に支持されたシャフトとを備え、粘性流体の粘性抵抗により生じるトルクによって前記シャフトの回転に抵抗を付与する回転ダンパにおいて、
回転中心方向が平行になるように並んで回転自在に配置される複数の調整ロータ、前記複数の調整ロータの各側面に対向する側面を有し、前記複数の調整ロータの各回転中心方向に移動自在にかつ前記複数の調整ロータと連動して回転しないように前記ハウジングに保持されるトルク調整部材、および、前記トルク調整部材に形成された第1従動カム部に係合する第1原動カム部が形成され、前記第1原動カム部が回転することによって前記第1従動カム部を介して前記トルク調整部材を前記複数の調整ロータの各回転中心方向に移動させるアジャスタから構成され、前記アジャスタによって前記複数の調整ロータの各側面と前記トルク調整部材の側面との間の距離が変化させられて大きさが調整される第1のトルクを生成する複列式調整トルク生成機構列と、
回転中心方向が前記複数の調整ロータの各回転中心方向と平行になるように前記複数の調整ロータに並んで配置されて前記複数の調整ロータの回転が伝達される第1速度依存ロータ、前記第1速度依存ロータの回転中心方向に移動自在に支持され、前記第1速度依存ロータに形成された第2原動カム部に係合する第2従動カム部が形成され、前記第2原動カム部が回転することによって前記第2従動カム部を介して前記第1速度依存ロータの回転が伝達される第2速度依存ロータ、前記第2速度依存ロータの側面に対向する側面を有し、前記第2速度依存ロータと連動して回転しないように前記ハウジングに保持されるトルク生成部材、および、前記第2速度依存ロータを前記トルク生成部材から離れる側へ付勢する弾性部材から構成され、前記第1速度依存ロータの回転駆動力を前記第2速度依存ロータへ伝えて前記第2速度依存ロータを前記弾性部材の弾発力に抗して前記トルク生成部材に近付ける側へ移動させることで、前記第2速度依存ロータの側面と前記トルク生成部材の側面との間の距離を変化させて前記第1速度依存ロータの回転速度に応じた第2のトルクを生成する速度依存トルク生成機構列と
を前記ハウジング内に並列に備え、
前記シャフトは、前記複数の調整ロータのいずれかの回転中心または前記第1速度依存ロータの回転中心と同心に設けられて前記複数の調整ロータのいずれかまたは前記第1速度依存ロータと連動して回転する
ことを特徴とする複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項2】
前記トルク生成部材は、前記第2速度依存ロータの側面に対向する前記ハウジングの内壁によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記トルク生成部材側の端部が前記第2速度依存ロータと共に回転する支持部材によって支持されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項4】
前記複数の調整ロータの少なくともいずれか1つの側面および当該側面に対向する前記トルク調整部材の側面に、前記複数の調整ロータに対する前記トルク調整部材の相対移動により対向する面積が変化する側面を有する凸部または凹部が形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項5】
前記第2速度依存ロータの側面および当該側面に対向する前記トルク生成部材の側面に、前記トルク生成部材に対する前記第2速度依存ロータの相対移動により対向する面積が変化する側面を有する凸部または凹部が形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項6】
前記第2速度依存ロータの側面に対向する前記トルク生成部材の側面に、弾性変形する材質からなる摩擦抵抗部材が前記第2速度依存ロータの回転に連れて滑らないように設けられ、前記第2速度依存ロータの前記摩擦抵抗部材に当接する側面に凹凸が形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項7】
前記複数の調整ロータおよび前記第1速度依存ロータ間における回転の伝達は各前記ロータの外周に形成された歯車によって行われ、各前記ロータ間における歯車の歯数比が所定値に設定されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項8】
前記複数の調整ロータおよび前記第1速度依存ロータは、前記複数の調整ロータが隣接して互いに逆方向に回転するように配置されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項9】
前記複数の調整ロータおよび前記第1速度依存ロータは、前記複数の調整ロータが所定距離離れて互いに同方向に回転するように配置されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ。
【請求項10】
前記ハウジングが制動対象物に固定される請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の回転ダンパと、前記ハウジングから露出する前記シャフトに取り付けられる一方向クラッチとを備えて構成される一方向移動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内の粘性流体により生じるトルクによってシャフトの回転に抵抗を付与する回転ダンパ、およびそれを用いた一方向移動制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の回転ダンパとしては、例えば、特許文献1に開示された回転ダンパがある。この回転ダンパに備えられる一対のトルク発生部材は、第1トルク発生面を備えた第1トルク発生部材、および、第1トルク発生面に対向し得る第2トルク発生面を備えた第2トルク発生部材からなる。一方のトルク発生部材は、他方のトルク発生部材に対して軸方向に移動可能な可動部材として構成される。可動部材に対向する他方のトルク発生部材にはアジャスタが嵌合して移動調整機構が構成されており、アジャスタの回転により他方のトルク発生部材が軸方向に移動する。この移動により、第1トルク発生面および第2トルク発生面間の対向面積が変化して、一対のトルク発生部材に生じるトルクの大きさが調整される。
【0003】
また、この回転ダンパには、シャフトが回転駆動されるとき、その回転速度に応じて第1トルク発生面および第2トルク発生面間の対向面積を変化させるトルク自動調整機構が設けられている。このトルク自動調整機構は、シャフトに装着された管体をシャフトに連動して回転させることで、管体に係合する可動部材を、弾性部材の弾発力に抗して軸方向に他方のトルク発生部材側へ移動させる。この移動はシャフトの回転速度に応じて行われ、この移動により、トルク発生面間の対向面積が変化して、一対のトルク発生部材には回転速度に応じたトルクが生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された上記従来の回転ダンパでは、一対のトルク発生部材に生じるトルクの大きさを調整する移動調整機構と、一対のトルク発生部材に回転速度に応じたトルクを生成させるトルク自動調整機構とがシャフトの軸と同軸に直列に設けられている。このため、従来の回転ダンパは、そのシャフトの軸方向における幅寸法が大きくなり、取付部に大きな幅寸法を必要とする。したがって、従来の回転ダンパは、取り付けることの出来る対象に制約が生じ、広範囲に適用することが出来なかった。
【0006】
一方、回転ダンパのこの幅寸法を小さくすると、第1トルク発生部材および第2トルク発生部材間の相対距離が短くなる。このため、移動調整機構によって他方のトルク発生部材を軸方向に可動部材側へ移動させると、可動部材の移動範囲が狭まる。したがって、上記従来の回転ダンパでは、回転ダンパの幅寸法を小さくすると、トルク自動調整機構によるトルクの自動調整範囲が狭まり、回転ダンパの動作範囲が制限されてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
内部に粘性流体が充填されたハウジングと、一部がハウジング内に収容されてハウジングに対して回転自在に支持されたシャフトとを備え、粘性流体の粘性抵抗により生じるトルクによってシャフトの回転に抵抗を付与する回転ダンパにおいて、
回転中心方向が平行になるように並んで回転自在に配置される複数の調整ロータ、複数の調整ロータの各側面に対向する側面を有し、複数の調整ロータの各回転中心方向に移動自在にかつ複数の調整ロータと連動して回転しないようにハウジングに保持されるトルク調整部材、および、トルク調整部材に形成された第1従動カム部に係合する第1原動カム部が形成され、第1原動カム部が回転することによって第1従動カム部を介してトルク調整部材を複数の調整ロータの各回転中心方向に移動させるアジャスタから構成され、アジャスタによって複数の調整ロータの各側面とトルク調整部材の側面との間の距離が変化させられて大きさが調整される第1のトルクを生成する複列式調整トルク生成機構列と、
回転中心方向が複数の調整ロータの各回転中心方向と平行になるように複数の調整ロータに並んで配置されて複数の調整ロータの回転が伝達される第1速度依存ロータ、第1速度依存ロータの回転中心方向に移動自在に支持され、第1速度依存ロータに形成された第2原動カム部に係合する第2従動カム部が形成され、第2原動カム部が回転することによって第2従動カム部を介して第1速度依存ロータの回転が伝達される第2速度依存ロータ、第2速度依存ロータの側面に対向する側面を有し、第2速度依存ロータと連動して回転しないようにハウジングに保持されるトルク生成部材、および、第2速度依存ロータをトルク生成部材から離れる側へ付勢する弾性部材から構成され、第1速度依存ロータの回転駆動力を第2速度依存ロータへ伝えて第2速度依存ロータを弾性部材の弾発力に抗してトルク生成部材に近付ける側へ移動させることで、第2速度依存ロータの側面とトルク生成部材の側面との間の距離を変化させて第1速度依存ロータの回転速度に応じた第2のトルクを生成する速度依存トルク生成機構列と
をハウジング内に並列に備え、
シャフトが、複数の調整ロータのいずれかの回転中心または第1速度依存ロータの回転中心と同心に設けられて複数の調整ロータのいずれかまたは第1速度依存ロータと連動して回転することを特徴とする。
【0008】
本構成においては、シャフトが回転すると、複数の調整ロータのいずれかまたは第1速度依存ロータがシャフトに連動して回転する。複数の調整ロータのいずれかがシャフトに連動して回転すると、複数の調整ロータにおける残りの調整ロータおよび第1速度依存ロータも複数の調整ロータのいずれかに連動して回転する。また、第1速度依存ロータがシャフトに連動して回転すると、複数の調整ロータの全ても第1速度依存ロータに連動して回転する。
【0009】
複列式調整トルク生成機構列を構成する複数の調整ロータが回転すると、複数の調整ロータの各側面とこれら各側面に対向するトルク調整部材の側面との間における粘性流体により、複数の調整ロータの各回転に抵抗を与えるトルクが発生する。このトルクは、複数の調整ロータの各側面とトルク調整部材の側面との間の距離に応じた大きさとなる。複数の調整ロータの各側面とトルク調整部材の側面との間の距離は、アジャスタを操作してアジャスタに形成された第1原動カム部を回転させ、第1原動カム部に係合する第1従動カム部を介してトルク調整部材を各調整ロータの回転中心方向に移動させることで、変化する。このため、複列式調整トルク生成機構列においては、アジャスタによって大きさが調整される第1のトルクが生成される。
【0010】
また、速度依存トルク生成機構列を構成する第1速度依存ロータが回転すると、その回転駆動力が第2原動カム部および第2従動カム部を介して第2速度依存ロータへ伝えられ、第2速度依存ロータが弾性部材の弾発力に抗してトルク生成部材側へ移動する。この移動により、第2速度依存ロータの側面とトルク生成部材の側面との間の距離が変化し、第2速度依存ロータの側面とトルク生成部材の側面との間の距離に応じた第2のトルクが、第1速度依存ロータの回転抵抗として粘性流体によって生成される。第2速度依存ロータの側面とトルク生成部材の側面との間の距離は、第1速度依存ロータの回転速度に応じて変化し、第1速度依存ロータの回転に抵抗を与える第2のトルクは、第1速度依存ロータの回転速度に応じた大きさとなる。
【0011】
したがって、複数の調整ロータのいずれかがシャフトに連動して回転する場合、および、第1速度依存ロータがシャフトに連動して回転する場合にも、シャフトの回転には、複列式調整トルク生成機構列で生成される第1のトルクと速度依存トルク生成機構列で生成される第2のトルクとが合わさった大きさのトルクによる抵抗が付与される。
【0012】
上記の複列式調整トルク生成機構列と速度依存トルク生成機構列とは、ハウジング内に並列に配置される。このため、本構成による回転ダンパは、従来の、移動調整機構とトルク自動調整機構とがシャフトの軸と同軸に直列に設けられる回転ダンパに比べて、そのシャフトの軸方向における幅寸法を小さくすることが出来る。したがって、回転ダンパの取付部に大きな幅寸法を必要としなくなり、回転ダンパは、幅スペースの狭い場所に設置することが出来、取り付ける対象に制約が生じなくなって、広範囲に適用することが可能になる。
【0013】
また、複列式調整トルク生成機構列と速度依存トルク生成機構列とが別々に独立して配置されるため、複列式調整トルク生成機構列において生成される第1のトルクの大きさをアジャスタによって調整しても、速度依存トルク生成機構列ではその調整による影響を受けない。このため、従来の回転ダンパのように、移動調整機構によってトルク調整をすると、トルク自動調整機構によるトルクの自動調整範囲が狭まり、回転ダンパの動作範囲が制限されてしまう問題は解消される。また、複列式調整トルク生成機構列におけるアジャスタによる第1のトルクのトルク調整は、速度依存トルク生成機構列における第2のトルクの自動調整を考慮することなく、簡潔に行える。
【0014】
また、調整ロータが複数並列に配置される複列式に調整トルク生成機構列が構成されるため、複数の調整ロータの各側面とトルク調整部材の側面との間に大きな対向面積を形成することができる。したがって、複数の調整ロータの各側面とトルク調整部材の側面との間に多量の粘性流体を介在させることができる。このため、シャフトの軸方向における回転ダンパの幅寸法を小さくしながら、複数の調整ロータの各側面とトルク調整部材の側面との間における粘性流体によって第1のトルクを大きな値に設定して、複列式調整トルク生成機構列において大きなトルクを調整用に生成することができる。また、複列式調整トルク生成機構列で生成される第1のトルクの大きさの可変範囲を広くとることができるため、シャフトの軸方向における回転ダンパの幅寸法を小さくしながら、シャフトの回転に付与する抵抗の大きさを広範囲に調整することができる。
【0015】
また、本発明は、トルク生成部材が、第2速度依存ロータの側面に対向するハウジングの内壁によって形成されることを特徴とする。
【0016】
本構成によれば、トルク生成部材がハウジングに一体に形成されるため、回転ダンパの幅寸法をさらに小さくすることが出来ると共に、構成部品点数が減って回転ダンパを低価格化することが出来る。
【0017】
また、本発明は、弾性部材が、トルク生成部材側の端部が第2速度依存ロータと共に回転する支持部材によって支持されることを特徴とする。
【0018】
本構成によれば、弾性部材は、トルク生成部材と摺接することなく、第2速度依存ロータをトルク生成部材から離れる側へ付勢しながら、第2速度依存ロータと共に回転する。したがって、第2速度依存ロータおよびトルク生成部材と弾性部材との間に発生する摩擦抵抗(摺接抵抗)が排除される。このため、速度依存トルク生成機構列で生成される第2のトルクの大きさをより小さくすることができ、低トルク動作時から高トルク動作時までの広い範囲にわたって、回転ダンパをスムーズに動作させることができる。
【0019】
また、本発明は、複数の調整ロータの少なくともいずれか1つの側面および当該側面に対向するトルク調整部材の側面に、複数の調整ロータに対するトルク調整部材の相対移動により対向する面積が変化する側面を有する凸部または凹部が形成されることを特徴とする。
【0020】
本構成によれば、複数の調整ロータの少なくともいずれか1つの側面および当該側面に対向するトルク調整部材の側面に凸部または凹部が形成されることで、複数の調整ロータおよびトルク調整部材間の粘性流体によって生成される第1のトルクの大きさを大きくすることができる。また、複数の調整ロータおよびトルク調整部材間の相対距離が変化し、複数の調整ロータの少なくともいずれか1つの側面および当該側面に対向するトルク調整部材の側面に形成された凸部または凹部の対向する側面の面積が変化することで、複列式調整トルク生成機構列で生成される第1のトルクの大きさがより広範囲に調整される。
【0021】
また、本発明は、第2速度依存ロータの側面および当該側面に対向するトルク生成部材の側面に、トルク生成部材に対する第2速度依存ロータの相対移動により対向する面積が変化する側面を有する凸部または凹部が形成されることを特徴とする。
【0022】
本構成によれば、第2速度依存ロータの側面および当該側面に対向するトルク生成部材の側面に凸部または凹部が形成されることで、第2速度依存ロータおよびトルク生成部材間の粘性流体によって生成される第2のトルクの大きさを大きくすることができる。また、第2速度依存ロータおよびトルク生成部材間の相対距離が変化し、第2速度依存ロータの側面および当該側面に対向するトルク生成部材の側面に形成された凸部または凹部の対向する側面の面積が変化することで、速度依存トルク生成機構列で生成される第2のトルクの大きさがより広範囲に調整される。
【0023】
また、本発明は、第2速度依存ロータの側面に対向するトルク生成部材の側面に、弾性変形する材質からなる摩擦抵抗部材が第2速度依存ロータの回転に連れて滑らないように設けられ、第2速度依存ロータの摩擦抵抗部材に当接する側面に凹凸が形成されることを特徴とする。
【0024】
弾性部材の弾発力に抗する第2速度依存ロータのトルク生成部材側への移動により、第1速度依存ロータの回転速度に応じたトルクが速度依存トルク生成機構列に生成されるが、本構成によれば、第1速度依存ロータの回転速度が急激に高くなるときには、第2速度依存ロータのトルク生成部材側への更なる移動により、第2速度依存ロータの側面に形成された凹凸がトルク生成部材の側面に設けられた摩擦抵抗部材に押し付けられる。この状態で、第2速度依存ロータが回転すると、摩擦抵抗部材が弾性変形して凹凸にくいついて、摩擦抵抗部材と凹凸との間には大きな摩擦抵抗が生じ、第2速度依存ロータには大きなトルクが生成される。したがって、第1速度依存ロータの回転速度が急激に高くなるときには、第2速度依存ロータがトルク生成部材に近付くことで生成されるトルクに、摩擦抵抗部材と凹凸とが互いに押し付けられて生成される大きなトルクが加わって第2のトルクが生成される。シャフトの回転には、この大きな第2のトルクによる大きな抵抗が付与される。このため、急激にシャフトの回転速度が高くなった場合でも、制動対象物の動作を緩衝させ得るトルクを生成して、制動対象物を強制的に制動させることが可能な回転ダンパを提供することが出来る。
【0025】
また、本発明は、複数の調整ロータおよび第1速度依存ロータ間における回転の伝達が各ロータの外周に形成された歯車によって行われ、各ロータ間における歯車の歯数比が所定値に設定されることを特徴とする。
【0026】
本構成によれば、複数の調整ロータから第1速度依存ロータへ伝達される回転の速度、または第1速度依存ロータから複数の調整ロータのいずれかへ伝達される回転の速度は、各歯車に設定される歯数比に応じて速くまたは遅くなる。このため、複列式調整トルク生成機構列で生成される第1のトルクの大きさ、または、速度依存トルク生成機構列で生成される第2のトルクの大きさは、粘性流体の粘性抵抗を用いた調整とは別に、各歯車の歯数比の設定によっても調整することができ、その結果、シャフトの回転に抵抗を与えるトルクの調整範囲をさらに広げることが可能になる。
【0027】
また、本発明は、複数の調整ロータおよび第1速度依存ロータが、複数の調整ロータが隣接して互いに逆方向に回転するように配置されることを特徴とする。
【0028】
本構成によれば、隣接して配置されて互いに逆方向に回転する複数の調整ロータ間には、互いに逆方向に流れる粘性流体の渦が生じる。したがって、この逆転渦が衝突することで、隣接する複数の調整ロータそれぞれに回転抵抗が与えられる。このため、回転ダンパに生じる制動力を高く設定することができる。
【0029】
また、本発明は、複数の調整ロータおよび第1速度依存ロータが、複数の調整ロータが所定距離離れて互いに同方向に回転するように配置されることを特徴とする。
【0030】
本構成によれば、複数の調整ロータが所定距離離れて互いに同方向に回転するため、各調整ロータの周囲に生じる粘性流体の渦は、互いの流れを邪魔しない流れを作る。したがって、複数の調整ロータには、粘性流体の渦の衝突による回転抵抗が与えられない。このため、粘性流体の渦の衝突による制動力が回転ダンパに生じるのを抑えることができる。
【0031】
また、本発明は、ハウジングが制動対象物に固定される上記のいずれかの回転ダンパと、ハウジングから露出するシャフトに取り付けられる一方向クラッチとを備えて構成される一方向移動制動装置を構成した。
【0032】
本構成によれば、一方向へ制動対象物を移動させる場合において、制動対象物の移動に、広範囲に調整できる制動力を加えることが可能な一方向移動制動装置を幅寸法を小さくしながら実現することが出来る。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、シャフトの軸方向における幅寸法を小さくすることが出来ると共に、トルク調整によりトルクの自動調整範囲が狭まって回転ダンパの動作範囲が制限されてしまうことのない、トルク調整を簡潔に行える回転ダンパ、およびそれを用いた一方向移動制動装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の一実施の形態による回転ダンパを用いた扉制動装置を一側面側から見た分解斜視図である。
【
図2】一実施の形態による回転ダンパを用いた扉制動装置を反対の側面側から見た分解斜視図である。
【
図3】一実施の形態による回転ダンパを用いた扉制動装置の断面図である。
【
図4】(a)は、
図1に示した一側面側から見たトルク調整部材およびアジャスタの拡大斜視図、(b)は、
図2に示した反対の側面側から見たトルク調整部材およびアジャスタの拡大斜視図である。
【
図5】アジャスタが回転させられることでトルク調整部材が第1調整ロータおよび第2調整ロータに最も近づけられた状態における、一実施の形態による回転ダンパを用いた扉制動装置の断面図である。
【
図6】(a)は、
図1に示した一側面側から見た第1速度依存ロータおよび第2速度依存ロータの拡大斜視図、(b)は、
図2に示した反対の側面側から見た第1速度依存ロータおよび第2速度依存ロータの拡大斜視図である。
【
図7】第1速度依存ロータの回転により第2速度依存ロータが速度依存機構列収納ホルダに形成されたトルク発生部に最も近づいた状態における、一実施の形態による回転ダンパを用いた扉制動装置の断面図である。
【
図8】(a)は、一実施の形態による回転ダンパを構成する各ロータの配置構成を模式的に示す図、(b)は、一実施の形態の変形例による回転ダンパを構成する各ロータの配置構成を模式的に示す図である。
【
図9】一実施の形態による回転ダンパを用いた扉制動装置が右開きの扉に取り付けられた状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明による複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ、およびそれを用いた一方向移動制動装置を扉制動装置に適用した一実施の形態について説明する。
【0036】
図1は、本発明の一実施の形態による複列式トルク調整機構付き並列型回転ダンパ1を用いた扉制動装置11を一側面側から見た扉制動装置11の分解斜視図、
図2は、反対の側面側から見た扉制動装置11の分解斜視図である。また、
図3は扉制動装置11の断面図である。
【0037】
回転ダンパ1は、ケース2がキャップ3で蓋をされて形成されるハウジング内に、複列式調整トルク生成機構列4と速度依存トルク生成機構列5とが並列に配置されて構成される。ケース2およびキャップ3はそれぞれ合成樹脂材料から一体成形品として成形されるが、金属で形成してもよい。キャップ3のケース2に対する取り付けは、キャップ3およびケース2の各接合部3a,2aが当接され、四隅において4本のネジ7で締結することで行われる。ハウジングの内部にはシリコーンオイル等の粘性流体が充填される。キャップ3およびケース2間にはOリングからなるユニットシール部材6が挟持され、このユニットシール部材6により、ハウジング内部に充填される粘性流体の漏れが防止される。
【0038】
複列式調整トルク生成機構列4は、第1調整ロータ44からなる第1調整列と第2調整ロータ53からなる第2調整列とがトルク調整部材46に2列に並んで配置されて構成される。第1調整列は、ベアリング41,第1列キャップ側シール部材42,シャフト43,第1調整ロータ44,および第1列止め輪45から構成され、第2調整列は、第2列止め輪51,第2列キャップ側シール部材52,第2調整ロータ53,アジャスタ54,および第2列ケース側シール部材55から構成される。トルク調整部材46は、第1調整列に同軸に位置する第1円筒部46aと第2調整列に同軸に位置する第2円筒部46bとが樹脂で一体成型されて構成されている。
【0039】
第1調整列を構成する各部材は、ケース2の内側に窪んで形成される第1調整機構列収容ホルダ2bに同軸に、第2調整列を構成する各部材は、ケース2の内側に窪んで形成される第2調整機構列収容ホルダ2cに同軸に、トルク調整部材46と共に収納される。第1調整列の回転軸および第2調整列の回転軸は平行に設けられ、第1調整列の第1調整ロータ44および第2調整列の第2調整ロータ53は回転中心方向が平行になるように回転自在に設けられる。
【0040】
シャフト43は、金属材料あるいは合成樹脂材料からなり、太い大径部43aと細い小径部43bとからなる円筒状に形成され、大径部43aの小径部43b側端部の両側が平行に削られて平坦部43cが形成されている。このシャフト43は、大径部43aの一部がハウジング外部に露出し、残余の部分がハウジング内に収容される。キャップ3のハウジング外部に露出する面にはベアリング41の外輪が嵌まって固定される円筒穴3b、ハウジング内部の面には第1列キャップ側シール部材42が嵌まる円筒穴3cが形成されている。シャフト43の大径部43aは、円筒穴3cに嵌入された第1列キャップ側シール部材42に通されて、ハウジングの外部に露出し、ハウジングの外部で、円筒穴3bに嵌入したベアリング41の内輪に外周が固定される。ベアリング41はシャフト43の大径部43aをハウジングに対して回転自在に支持し、第1列キャップ側シール部材42は、ハウジング内部に充填される粘性流体が円筒穴3cから漏れるのを防止する。
【0041】
ハウジングの外部に露出したシャフト43の大径部43aには一方向クラッチ8が同軸に取り付けられ、一方向クラッチ8によって一方向の回転がシャフト43に伝達される。ここで、大径部43aの中心軸方向に形成された軸穴43dにリベット9が圧入されることで、一方向クラッチ8の大径部43aからの抜け止めとなる。回転ダンパ1および一方向クラッチ8は一方向移動制動装置である扉制動装置11を構成する。
【0042】
シャフト43は、ハウジング内部において平坦部43cが第1調整ロータ44の中心部に形成された矩形状取付穴44aに嵌入され、第1調整ロータ44の側面に露出する小径部43bの溝にEリングからなる第1列止め輪45が嵌められる。この第1列止め輪45によりシャフト43が矩形状取付穴44aから抜けるのが防止される。第1調整機構列収容ホルダ2bおよび第2調整機構列収容ホルダ2cにはトルク調整部材46が嵌入され、第1調整ロータ44から突出する小径部43bの先端部は、このトルク調整部材46の第1円筒部46aの中心部に開口した貫通穴46cを通されて、ケース2の内壁に中空円筒状に形成された軸受壁2dに嵌合させられる。この嵌合により、シャフト43は、大径部43aがベアリング41に、小径部43bが軸受壁2dに回転自在に支持される。第1調整ロータ44の矩形状取付穴44aを囲む外周には平歯車44bが形成されている。なお、平歯車44bおよび後述する平歯車53b並びに平歯車62aは、図面におけるその形態の図示を省略している。平坦部43cが矩形状取付穴44aに嵌入されることにより、シャフト43に連動して第1調整ロータ44が回転するようになり、シャフト43の回転が第1調整ロータ44に伝達される。
【0043】
トルク調整部材46の第2円筒部46bが嵌まる第2調整機構列収容ホルダ2cのケース2側壁には、第2調整ロータ53の回転中心を中心とする貫通穴2eが開口している。この貫通穴2eには、第2調整列を構成するアジャスタ54がケース2の外部から第2列ケース側シール部材55を介して挿入され、ケース2に回転自在に嵌められる。第2列ケース側シール部材55は、貫通穴2eから粘性流体がハウジングの外部へ漏れるのを防止する。アジャスタ54は、ケース2の外部に露出する円盤部54aと、外周がトルク調整部材46の第2円筒部46bの内周と後述するように係合する円筒部54bと、第2調整ロータ53を回転自在に支持する軸部54cとから構成される。
【0044】
キャップ3のハウジング内部側の側面には円筒穴3dが形成されており、この円筒穴3dには第2列キャップ側シール部材52が嵌められる。アジャスタ54の軸部54cは、第2調整ロータ53の中央に開口した貫通孔53aおよび第2列キャップ側シール部材52が嵌まった円筒穴3dを通されて、先端部がハウジングの外部に露出する。第2列キャップ側シール部材52は円筒穴3dからハウジング外部へ粘性流体が漏れるのを防止する。第2調整ロータ53の外周には第1調整ロータ44の外周に形成された平歯車44bに噛み合う平歯車53bが形成されている。したがって、第1調整ロータ44に伝えられたシャフト43の回転はこれら平歯車44b,53bによって第2調整ロータ53に伝えられる。
【0045】
トルク調整部材46は、その外周に、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各回転軸の軸方向に平行に、案内溝46dが複数箇所に形成されている。各案内溝46aは、第1調整機構列収容ホルダ2bおよび第2調整機構列収容ホルダ2cの内周に、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各回転軸の軸方向に平行に突出して複数箇所に形成された各突条2fと嵌合する。各案内溝46dが各突条2fと軸方向にスライド自在に嵌合することで、トルク調整部材46は、その軸方向に移動自在に、かつ、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53と連動して回転しないように、ハウジングに保持される。
【0046】
第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の少なくともいずれか1つの側面および当該側面に対向するトルク調整部材46の側面には、各調整ロータ44,53に対するトルク調整部材46の相対移動により対向する面積が変化する側面を有する凸部または凹部が形成される。本実施形態では、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の双方の側面に円筒状凸部44cおよび凸部53cが形成され、これら側面に対向するトルク調整部材46の側面に、凸部44cおよび凸部53cが嵌まる凹部46eが形成されている。
図3に示す凸部44cの側面44c1および凸部53cの側面53c1は、各調整ロータ44,53に対するトルク調整部材46の相対移動により、凹部46eの側面46e1に対向する面積が変化する。各側面44c1,53c1の側面46e1に対向する面積が変化することで、複列式調整トルク生成機構列4で生成される第1のトルクの大きさが調整される。
【0047】
なお、本実施形態では、各凸部44c,53cは、1列に軸方向および円周方向に環状に展延して突出し、軸方向の相対移動により凹部46eと嵌合するように形成されているが、同心状に複数列、軸方向および円周方向に環状に展延して突出して形成されるように構成してもよい。この場合、凹部46eは、複数の凸部44c,53cが嵌まる複数に形成される。また、凸部44c,53cおよび凹部46eは必ずしも環状に形成される必要は無く、半環状、その他、軸方向および円周方向に展延した形状であれば、どのような形状であってもよい。また、第1調整ロータ44、第2調整ロータ53およびトルク調整部材46はそれぞれ金属で形成されるが、合成樹脂材料から一体成形品として成形してもよい。
【0048】
トルク調整部材46における第2円筒部46bの内径部の対向する2箇所には、
図4に示すように、第1従動カム部46fが突出して形成されている。同図(a)は、
図1に示した一側面側から見たトルク調整部材46およびアジャスタ54の拡大斜視図、同図(b)は、
図2に示した反対の側面側から見たトルク調整部材46およびアジャスタ54の拡大斜視図である。第1従動カム部46fは、第2調整ロータ53の軸方向においてアジャスタ54から離れるに従って円周方向に傾く、幅を持った螺旋凸状をしており、第2円筒部46bの内径部から立ち上がる側面は第1従動カム面46f1を形成している。
【0049】
また、アジャスタ54における円筒部54bの外周の対向する2箇所には、第1原動カム部54dが溝状に形成されている。第1原動カム部54dは、第2調整ロータ53の軸方向においてトルク調整部材46に近づくに従って円周方向に傾く、幅を持った螺旋凹状をしており、円筒部54bの外径部から立ち下がる側面は第1原動カム面54d1を形成している。第1原動カム部54dの凹形状は第1従動カム部46fの凸形状を収容する形状になっており、第1原動カム部54dと第1従動カム部46fとは互いに当接して嵌まり合う寸法に設定されている。また、第2円筒部46bの第1従動カム部46fが形成された内径部と、円筒部54bの第1原動カム部54dが形成された外径部も、互いに当接して嵌まり合う寸法に設定されている。
【0050】
アジャスタ54のハウジング外部に露出させられる円盤部54aの側面には、工具等が差し込まれる溝54e,54fが形成されており、また、円盤部54aの外周には工具等が嵌合する複数の切り欠き54gが形成されている。アジャスタ47はこれら溝54e,54fや切り欠き54gが利用されて一定範囲において回転させられる。
【0051】
トルク調整部材46は、アジャスタ54の第1原動カム部54dに第1従動カム部46fが係合されて、
図3に示すようにハウジングに収容される。この状態では、第1原動カム部54dの第1原動カム面54d1と第1従動カム部46fの第1従動カム面46f1とが当接し、アジャスタ54が回転させられると、第1原動カム面54d1が第1従動カム面46f1を軸方向に押す。これにより、トルク調整部材46の案内溝46dが第1調整機構列収容ホルダ2bおよび第2調整機構列収容ホルダ2cの突条2fに案内され、トルク調整部材46が軸方向にスライド移動する。
【0052】
アジャスタ54は、その第1原動カム部54dが回転することによってトルク調整部材46をその軸方向に上記のように移動させる。この移動により、第1調整列における第1調整ロータ44の側面に形成された円筒状凸部44cの側面44c1と、トルク調整部材46における第1円筒部46aの側面に形成された凹部46eの側面46e1とが対向する面積が変化する。これと同時に、第2調整列における第2調整ロータ53の側面に形成された円筒状凸部53cの側面53c1と、トルク調整部材46における第2円筒部46bの側面に形成された凹部46eの側面46e1とが対向する面積も変化する。これら対向面積の変化は、アジャスタ54によるトルク調整部材46の軸方向における移動量によって調整される。したがって、複列式調整トルク生成機構列4においては、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面と、当該側面に対向するトルク調整部材46の側面との間に存在する粘性流体の粘性抵抗(剪断抵抗)により、アジャスタ54によって大きさが調整される第1のトルクが生成される。
【0053】
図3は、トルク調整部材46が第1調整機構列収容ホルダ2bおよび第2調整機構列収容ホルダ2cの各収納部底面側に最も寄せられ、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53から最も離れた状態を示す。この状態では、第1調整列における円筒状凸部44cの側面44c1と凹部46eの側面46e1とが対向する面積、および、第2調整列における円筒状凸部53cの側面53c1と凹部46eの側面46e1とが対向する面積が実質的にゼロもしくはゼロに近くなり、粘性流体の剪断抵抗が小さくなって、複列式調整トルク生成機構列4に生成される第1のトルクは最小となる。
【0054】
図5の扉制動装置11の断面図は、アジャスタ54が回転させられることでトルク調整部材46が軸方向に移動させられて、トルク調整部材46が第1調整機構列収容ホルダ2bおよび第2調整機構列収容ホルダ2cの収納部底面側から最も離れ、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53に最も近づいた状態を示す。なお、
図5において
図3と同一または相当する部分には同一符号付してその説明は省略する。この状態では、第1調整列における円筒状凸部44cの側面44c1と凹部46eの側面46e1とが対向する面積、および、第2調整列における円筒状凸部53cの側面53c1と凹部46eの側面46e1とが対向する面積が最も大きくなり、粘性流体の剪断抵抗が大きくなって、複列式調整トルク生成機構列4に生成される第1のトルクは最大となる。
【0055】
速度依存トルク生成機構列5は、キャップブッシュ61,第1速度依存ロータ62,第2速度依存ロータ63,弾性部材64,ホルダ65,同心止め輪66,ケースブッシュ67,摩擦抵抗部材68および凹部2gから構成され、ケース2の内側に窪んで形成される速度依存機構列収納ホルダ2hに各部材が同軸に、かつ、その軸が複列式調整トルク生成機構列4における第1調整列および第2調整列の各軸に平行に収納される。
【0056】
第1速度依存ロータ62の外周には、第2調整ロータ53の外周に形成された平歯車53bと互いに噛み合う平歯車62aが形成されている。各平歯車44b,53b,62aの歯数比は所定値に設定される。第1速度依存ロータ62の中心部に突出した軸62bの一端は、軸受や摺動部材等からなるキャップブッシュ61が嵌められ、キャップブッシュ61がキャップ3の円筒状窪み3eに嵌入されることで、キャップ3に回転自在に取り付けられて軸支される。また、第1速度依存ロータ62の軸62bの他端は、第2速度依存ロータ63の内径部に挿入されて、第2速度依存ロータ63の、第1速度依存ロータ62に対向する側面と反対の側面に突出する。この突出する軸62bの他端に形成された円筒状窪み62d(
図2参照)には、軸受や摺動部材等からなるケースブッシュ67が嵌合され、ケースブッシュ67はさらにケース2の速度依存機構列収納ホルダ2hに形成された突起2i(
図3参照)に回転自在に嵌められる。第1速度依存ロータ62は、キャップブッシュ61およびケースブッシュ67によってハウジングに回転自在に軸支され、この軸支により、第2調整ロータ53から伝達される回転駆動力を受けて回転する。
【0057】
なお、ケースブッシュ67を用いることなく、円筒状窪み62dを突起2iに相対回転可能に摺接させ、第1速度依存ロータ62をハウジングに回転自在に軸支させるように構成してもよい。
【0058】
軸62bの他端側には、
図6に示すように第2原動カム部62cが形成されている。同図(a)は、
図1に示した一側面側から見た第1速度依存ロータ62および第2速度依存ロータ63の拡大斜視図、同図(b)は、
図2に示した反対の側面側から見た第1速度依存ロータ62および第2速度依存ロータ63の拡大斜視図である。また、第2速度依存ロータ63の内径部の対向する2箇所には、第2原動カム部62cに係合する第2従動カム部63aが形成されている。第2従動カム部63aは、第2速度依存ロータ63の第1速度依存ロータ62に対向する側面側を頂点とし、反対の側面側を底辺とする二等辺三角形状に、第2速度依存ロータ63の内径部に突出して形成されている。第2速度依存ロータ63の内径部から立ち上がる第2従動カム部63aの側面は、第2従動カム面63a1を形成している。
【0059】
第2原動カム部62cは、隣合う2個で1個の第2従動カム部63aを囲む4個が、軸62bの他端側外周に突出して形成されている。この隣合う2個の第2原動カム部62cは、第2従動カム部63aの両側の第2従動カム面63a1に対向する第2原動カム面62c1を、軸62bの外周から立ち上がる側面にそれぞれ備えている。一対の傾いた第2原動カム面62c1間の軸62bの外周には、第2従動カム部63aの外形に対応した二等辺三角形状の空間が形成されている。
【0060】
軸62bの他端側外周と第2速度依存ロータ63の内径部とは、ハウジングに収納されたときに互いに嵌まり合う寸法に設定されており、第2速度依存ロータ63は、内径部に軸62bの他端が挿入されることで、第1速度依存ロータ62の回転中心方向に移動自在にかつ回転自在にハウジングに保持される。軸62bの他端側が第2速度依存ロータ63の内径部に挿入されて嵌まると、第2原動カム部62cと第2従動カム部63aとが係合する。第1速度依存ロータ62の回転は、この係合により、第2原動カム面62c1が第2従動カム面63a1を押すことで、第2速度依存ロータ63に伝達される。この際、第1速度依存ロータ62の回転トルクにより、第2原動カム面62c1が第2従動カム面63a1を押す圧力は、第2原動カム面62c1および第2従動カム面6a1の各傾きにより、第1速度依存ロータ62の回転方向とその軸方向との二方向の力に変換される。第2速度依存ロータ63は、その回転方向の力により回転し、その軸方向の力により軸方向に移動する。
【0061】
第2速度依存ロータ63は、第1速度依存ロータ62に対向する側面と反対の側面に、円環状凸部63bに囲まれる中空円筒部が形成され、中空円筒部の底には円環状溝63cが形成されている。この円環状溝63cには、圧縮コイルスプリングからなる弾性部材64の一端部側が収容される。また、第1速度依存ロータ62の軸62bの他端側端部外周には径が細くなった溝62eが形成されている。この溝62eには、
図3に示すように、ホルダ65が同心止め輪66によって抜け止めされて取り付けられる。弾性部材64は、円環状溝63cに一端部が支えられ、円環状溝63cに対向するホルダ65の側面に他端部が支えられる。この他端部は、凹部2gにより形成される後述するトルク生成部材側にある。ホルダ65は弾性部材64のこの他端部を支持する支持部材を構成し、第2速度依存ロータ63と共に回転する。弾性部材64により、ホルダ65は同心止め輪66側に、第2速度依存ロータ63は第1速度依存ロータ62側に押し付けられ、第2速度依存ロータ63はトルク生成部材から離れる側へ付勢される。また、第1速度依存ロータ62、第2速度依存ロータ63、ホルダ65、および弾性部材64は、第1速度依存ロータ62と一体になって回転する。
【0062】
第2速度依存ロータ63の側面に対向するケース2の速度依存機構列収納ホルダ2hの底面には、トルク生成部材を構成する凹部2gが形成されている。このトルク生成部材は、第2速度依存ロータ63の側面に対向するケース2の内壁によって形成されており、第2速度依存ロータ63と連動して回転しないようにハウジングに一体になって保持・固定されている。凹部2gは、突出壁2jと速度依存機構列収納ホルダ2hの側壁との間に形成され、第2速度依存ロータ63の側面に形成された円環状凸部63bが嵌まる寸法に形成されている。突出壁2jは、軸方向および円周方向に環状に展延してケース2の内壁に突出し、円周方向に一部が切り欠かれて形成されている。円環状凸部63bの側面63b1(
図3参照)は、トルク生成部材に対する第2速度依存ロータ63の相対移動により、凹部2gの側面2g1と対向する。側面63b1が側面2g1と対向する面積は、トルク生成部材に対する第2速度依存ロータ63の相対移動により変化する。
【0063】
第2速度依存ロータ63は、
図3に示す第1速度依存ロータ62の静止状態では、弾性部材64が最も伸張して、凹部2gによって形成されるトルク生成部材から最も離れた位置にあり、第2速度依存ロータ63のキャップ3側の側端面は第1速度依存ロータ62の側端面と当接する。この状態では円環状凸部63bの側面63b1と凹部2gの側面2g1との対向面積が実質的にゼロもしくはゼロに近くなり、粘性流体の剪断抵抗が小さくなって、速度依存トルク生成機構列5に生成される第2のトルクは最小となる。
【0064】
第1速度依存ロータ62の回転により、第2速度依存ロータ63は、この静止状態から、弾性部材64の弾発力に抗して移動する。第1速度依存ロータ62の回転速度が遅く、第2原動カム部62cが第2従動カム部63aを軸方向に押す圧力が弾性部材64の弾発力よりも小さい場合、第2速度依存ロータ63は静止位置から動かない。しかし、第1速度依存ロータ62の回転速度が増し、第2原動カム部62cが第2従動カム部63aを軸方向に押す圧力が弾性部材64の弾発力に打ち勝つと、第2速度依存ロータ63は弾性部材64の弾発力に抗して移動する。
【0065】
そして、最終的に、第2速度依存ロータ63は、
図7に示す、凹部2gによって形成されるトルク生成部材に最も近づいた状態に遷移する。なお、
図7において
図3と同一または相当する部分には同一符号付してその説明は省略する。この状態では円環状凸部63bの側面63b1と凹部2gの側面2g1とが最も長く対向するので、各側面63b1,2g1の対向面積が最大になり、粘性流体の剪断抵抗が大きくなって、速度依存トルク生成機構列5に生成される第2のトルクは最大となる。
【0066】
速度依存トルク生成機構列5は、上記のように、第1速度依存ロータ62の回転駆動力を第2原動カム部62cおよび第2従動カム部63aにより第2速度依存ロータ63へ伝えて、第2速度依存ロータ63を弾性部材64の弾発力に抗してトルク生成部材に近付ける側へ移動させる。これにより、第2速度依存ロータ63の側面とトルク生成部材の側面との間の距離を変化させて、第1速度依存ロータ62の回転速度に応じた第2のトルクを生成する。
【0067】
なお、円環状凸部63bも、複列式調整トルク生成機構列4における各凸部44c,53cと同様に、1列に軸方向および円周方向に環状に展延して突出し、軸方向の相対移動により凹部2gと嵌合するように形成されているが、同心状に複数列、軸方向および円周方向に環状に展延して突出して形成されるように構成してもよい。この場合、凹部2gは、複数の円環状凸部63bが嵌まる複数に形成される。また、円環状凸部63bは必ずしも環状に形成される必要は無く、半環状、その他、軸方向および円周方向に展延した形状であれば、どのような形状であってもよい。また、第1速度依存ロータ62、第2速度依存ロータ63およびホルダ65はそれぞれ合成樹脂材料から一体成形品として成形しても、金属で形成してもよい。
【0068】
本実施形態では、第2速度依存ロータ63の側面に対向するトルク生成部材の側面、つまり、速度依存機構列収納ホルダ2hの底面に摩擦抵抗部材68が設けられている。摩擦抵抗部材68は、弾性変形する材質、例えばウレタンシートからなり、
図1および
図2に示すように複数の溝68aが形成されている。これら溝68aに速度依存機構列収納ホルダ2hの底面に形成される突出壁2jが嵌合することで、摩擦抵抗部材68は、第2速度依存ロータ63の回転に連れて滑らないように、速度依存機構列収納ホルダ2hの底面に設けられる。また、第2速度依存ロータ63の摩擦抵抗部材68に当接する環状凸部63bの側面には、
図6(b)に示すように凹凸63dが形成されている。
【0069】
このような本実施の形態による回転ダンパ1の構成においては、シャフト43が回転すると、第1調整ロータ44がシャフト43に連動して回転する。第1調整ロータ44がシャフト43に連動して回転すると、第2調整ロータ53および第1速度依存ロータ62も第1調整ロータ44に連動して回転する。
【0070】
複列式調整トルク生成機構列4を構成する第1調整ロータ44および第2調整ロータ53が回転すると、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面とこれら各側面に対向するトルク調整部材46の側面との間における粘性流体により、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各回転に抵抗を与えるトルクが発生する。このトルクは、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面とトルク調整部材46の側面との間の距離に応じた大きさとなる。第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面とトルク調整部材46の側面との間の距離は、アジャスタ54を操作してアジャスタ54に形成された第1原動カム部54dを回転させ、第1原動カム部54dに係合する第1従動カム部46fを介してトルク調整部材46を各調整ロータ44,53の回転中心方向に移動させることで、変化する。このため、複列式調整トルク生成機構列4においては、アジャスタ54によって大きさが調整される第1のトルクが生成される。
【0071】
また、速度依存トルク生成機構列5を構成する第1速度依存ロータ62が回転すると、その回転駆動力が第2原動カム部62cおよび第2従動カム部63aを介して第2速度依存ロータ63へ伝えられ、第2速度依存ロータ63が弾性部材64の弾発力に抗して凹部2gからなるトルク生成部材側へ移動する。この移動により、第2速度依存ロータ63の側面とトルク生成部材の側面との間の距離が変化し、第2速度依存ロータ63の側面とトルク生成部材の側面との間の距離に応じた第2のトルクが、第1速度依存ロータ62の回転抵抗として粘性流体によって生成される。第2速度依存ロータ63の側面とトルク生成部材の側面との間の距離は、第1速度依存ロータ62の回転速度に応じて変化し、第1速度依存ロータ62の回転に抵抗を与える第2のトルクは、第1速度依存ロータ62の回転速度に応じた大きさとなる。
【0072】
したがって、第1調整ロータ44がシャフト43に連動して回転すると、シャフト43の回転には、複列式調整トルク生成機構列4で生成される第1のトルクと速度依存トルク生成機構列5で生成される第2のトルクとが合わさった大きさのトルクによる抵抗が付与される。複列式調整トルク生成機構列4と速度依存トルク生成機構列5とは、ハウジング内に並列に配置される。このため、本構成による回転ダンパ1は、従来の、移動調整機構とトルク自動調整機構とがシャフトの軸と同軸に直列に設けられる回転ダンパに比べて、シャフト43の軸方向における幅寸法を小さくすることが出来る。したがって、回転ダンパ1の取付部に大きな幅寸法を必要としなくなり、回転ダンパ1は、幅スペースの狭い場所に設置することが出来、取り付ける対象に制約が生じなくなって、広範囲に適用することが可能になる。
【0073】
また、複列式調整トルク生成機構列4と速度依存トルク生成機構列5とが別々に独立して配置されるため、複列式調整トルク生成機構列4において生成される第1のトルクの大きさをアジャスタ54によって調整しても、速度依存トルク生成機構列5ではその調整による影響を受けない。このため、従来の回転ダンパのように、移動調整機構によってトルク調整をすると、トルク自動調整機構によるトルクの自動調整範囲が狭まり、回転ダンパの動作範囲が制限されてしまう問題は解消される。また、複列式調整トルク生成機構列4におけるアジャスタ54による第1のトルクのトルク調整は、速度依存トルク生成機構列5における第2のトルクの自動調整を考慮することなく、簡潔に行える。
【0074】
また、2つの第1調整ロータ44および第2調整ロータ53が並列に配置される複列式に調整トルク生成機構列4が構成されるため、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面とトルク調整部材46の側面との間に大きな対向面積を形成することができる。したがって、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面とトルク調整部材46の側面との間に多量の粘性流体を介在させることができる。このため、シャフト43の軸方向における回転ダンパ1の幅寸法を小さくしながら、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面とトルク調整部材46の側面との間における粘性流体によって第1のトルクを大きな値に設定して、複列式調整トルク生成機構列4において大きなトルクを調整用に生成することができる。また、複列式調整トルク生成機構列4で生成される第1のトルクの大きさの可変範囲を広くとることができるため、シャフト43の軸方向における回転ダンパ1の幅寸法を小さくしながら、シャフト43の回転に付与する抵抗の大きさを広範囲に調整することができる。
【0075】
また、本実施形態の回転ダンパ1によれば、トルク生成部材が凹部2gとしてケース2の内壁に一体に形成されるため、回転ダンパ1の幅寸法をさらに小さくすることが出来ると共に、構成部品点数が減って回転ダンパ1を低価格化することが出来る。
【0076】
また、本実施形態の回転ダンパ1によれば、弾性部材64は、トルク生成部材と摺接することなく、第2速度依存ロータ63をトルク生成部材から離れる側へ付勢しながら、第2速度依存ロータ63と共に回転する。したがって、第2速度依存ロータ63およびトルク生成部材と弾性部材64との間に発生する摩擦抵抗(摺接抵抗)が排除される。このため、速度依存トルク生成機構列5で生成される第2のトルクの大きさをより小さくすることができ、低トルク動作時から高トルク動作時までの広い範囲にわたって、回転ダンパ1をスムーズに動作させることができる。
【0077】
また、本実施形態の回転ダンパ1によれば、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面および当該側面に対向するトルク調整部材46の側面に凸部44c,53cおよび凹部46eが形成されることで、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53とトルク調整部材46との間の粘性流体によって生成される第1のトルクの大きさを大きくすることができる。また、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53とトルク調整部材46との間の相対距離が変化し、第1調整ロータ44に形成された凸部44cの側面44c1および第2調整ロータ53の側面に形成された凸部53cの側面53c1と、これら側面44c1および53c1に対向するトルク調整部材46に形成された凹部46eの側面46e1との対向する面積が変化することで、複列式調整トルク生成機構列5で生成される第1のトルクの大きさがより広範囲に調整される。
【0078】
また、本実施形態の回転ダンパ1によれば、第2速度依存ロータ63の側面および当該側面に対向するトルク生成部材の側面に凸部63bおよび凹部2gが形成されることで、第2速度依存ロータ63およびトルク生成部材間の粘性流体によって生成される第2のトルクの大きさを大きくすることができる。また、第2速度依存ロータ63およびトルク生成部材間の相対距離が変化し、第2速度依存ロータ63の側面および当該側面に対向するトルク生成部材の側面に形成された凸部63bおよび凹部2gの対向する側面63b1,2g1の面積が変化することで、速度依存トルク生成機構列5で生成される第2のトルクの大きさもより広範囲に調整される。
【0079】
また、弾性部材64の弾発力に抗する第2速度依存ロータ63のトルク生成部材側への移動により、第1速度依存ロータ62の回転速度に応じたトルクが速度依存トルク生成機構列5に生成されるが、本実施形態の回転ダンパ1によれば、第1速度依存ロータ62の回転速度が急激に高くなるときには、第2速度依存ロータ63のトルク生成部材側への更なる移動により、第2速度依存ロータ63における環状凸部63bの側面に形成された凹凸63dがトルク生成部材の側面に設けられた摩擦抵抗部材68に押し付けられる。この状態で、第2速度依存ロータ63が回転すると、摩擦抵抗部材68が弾性変形して凹凸63dにくいついて、摩擦抵抗部材68と凹凸63dとの間には大きな摩擦抵抗が生じ、第2速度依存ロータ63には大きなトルクが生成される。したがって、第1速度依存ロータ62の回転速度が急激に高くなるときには、第2速度依存ロータ63がトルク生成部材に近付くことで生成されるトルクに、摩擦抵抗部材68と凹凸63dとが互いに押し付けられて生成される大きなトルクが加わって第2のトルクが生成される。シャフト43の回転には、この大きな第2のトルクによる大きな抵抗が付与される。このため、急激にシャフト43の回転速度が高くなった場合でも、制動対象物の動作を緩衝させ得るトルクを生成して、制動対象物を強制的に制動させることが可能な回転ダンパ1を提供することが出来る。
【0080】
また、本実施形態の回転ダンパ1では、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53と第1速度依存ロータ62との間における回転の伝達が、各ロータ44,53,62の外周に形成された平歯車44b,53b,62aによって行われ、各ロータ44,53,62間における歯車の歯数比が所定値に設定される。したがって、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53から第1速度依存ロータ62へ伝達される回転の速度は、各平歯車44b,53b,62aに設定される歯数比に応じて速くまたは遅くなる。
【0081】
例えば、第1調整ロータ44の平歯車44bの歯数を第1速度依存ロータ62の平歯車62aの歯数より大きく設定すると、第1速度依存ロータ62の回転数および回転速度が上がり、速度依存トルク生成機構列5で生成される第2のトルクの大きさは大きくなる。また、第1調整ロータ44の平歯車44bの歯数を第1速度依存ロータ62の平歯車62aの歯数より小さく設定すると、第1速度依存ロータ62の回転数および回転速度が下がり、速度依存トルク生成機構列5で生成される第2のトルクの大きさは小さくなる。また、第1調整ロータ44の平歯車44bの歯数を第2調整ロータ53の平歯車53bの歯数より大きく設定すると、第2調整ロータ53の回転数および回転速度が上がり、複列式調整トルク生成機構列4の第2調整列で生成されるトルクの大きさは大きくなる。また、第1調整ロータ44の平歯車44bの歯数を第2調整ロータ53の平歯車53bの歯数より小さく設定すると、第2調整ロータ53の回転数および回転速度が下がり、複列式調整トルク生成機構列4の第2調整列で生成されるトルクの大きさは小さくなる。
【0082】
このため、複列式調整トルク生成機構列4で生成される第1のトルクの大きさ、および、速度依存トルク生成機構列5で生成される第2のトルクの大きさは、粘性流体の粘性抵抗を用いた調整とは別に、各平歯車44b,53b,62aの歯数比の設定によっても調整することができ、その結果、シャフト43の回転に抵抗を与えるトルクの調整範囲をさらに広げることが可能になる。
【0083】
また、本実施形態の回転ダンパ1では、
図8(a)に模式的に示すように、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53と第1速度依存ロータ62が、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53が隣接して互いに逆方向a,bに回転するように配置される。本構成によれば、隣接して配置されて互いに逆方向に回転する第1調整ロータ44および第2調整ロータ53間には、互いに逆方向に流れる粘性流体の渦Ua,Ubが生じる。したがって、この逆転渦Ua,Ubが衝突することで、隣接する第1調整ロータ44および第2調整ロータ53それぞれに回転抵抗が与えられる。このため、回転ダンパ1に生じる制動力を高く設定することができる。
【0084】
また、
図8(b)に模式的に示すように、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53と第1速度依存ロータ62が、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53が所定距離離れて互いに同方向cに回転するように配置する構成とすることもできる。本構成によれば、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53が所定距離離れて互いに同方向cに回転するため、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各周囲に生じる粘性流体の渦Ucは、図示するように互いの流れを邪魔しない流れを作る。したがって、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53には、粘性流体の渦Ucの衝突による回転抵抗が与えられない。このため、粘性流体の渦Ucの衝突による制動力が回転ダンパ1に生じるのを抑えることができる。
【0085】
上述の回転ダンパ1を用いて構成される本実施の形態による扉制動装置11は、例えば、
図9の側面図に示すように、回転ダンパ1のハウジングが扉21の上端の角に固定される。なお、同図において
図1と同一部分には同一符号を付してその説明は省略する。扉21の上方に設けられるレール22の下面にはラックギヤ23が取り付けられ、一方向クラッチ8の外周に形成されたギヤはこのラックギヤ23にラック&ピニオン方式で噛合させられる。扉制動装置11は、矢示A方向へ右開きされる際(扉開時)、一方向クラッチ8が空転して軽く開き、逆方向移動時(扉閉時)には一方向クラッチ8がロックしてシャフト43を回転させ、扉21の閉方向への移動を制動する。本構成によれば、一方向へ扉21を閉める場合において、扉21の移動に、広範囲に調整できる制動力を加えることが可能な扉制動装置11を、シャフト43の軸方向における幅寸法を小さくしながら実現することが出来る。
【0086】
なお、本実施形態の回転ダンパ1では、シャフト43が、第1調整ロータ44の回転中心と同心に設けられる場合について説明したが、第2調整ロータ53の回転中心または第1速度依存ロータ62の回転中心と同心に設けて、第2調整ロータ53または第1速度依存ロータ62と連動して回転するように構成してもよい。この構成においては、シャフト43が回転すると、第2調整ロータ53または第1速度依存ロータ62がシャフト43に連動して回転する。第2調整ロータ53がシャフト43に連動して回転すると、第1調整ロータ44および第1速度依存ロータ62も第2調整ロータ53に連動して回転する。また、第1速度依存ロータ62がシャフト43に連動して回転すると、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の全ても第1速度依存ロータ62に連動して回転する。
【0087】
したがって、第2調整ロータ53がシャフト43に連動して回転する場合、および、第1速度依存ロータ62がシャフト43に連動して回転する場合にも、シャフト43の回転には、複列式調整トルク生成機構列4で生成される第1のトルクと速度依存トルク生成機構列5で生成される第2のトルクとが合わさった大きさのトルクによる抵抗が付与される。また、第1速度依存ロータ62から第2調整ロータ53へ回転が伝達される場合においても、伝達される回転の速度は、各平歯車44b,53b,62aに設定される歯数比に応じて速くまたは遅くなる。このため、本構成によっても上記の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【0088】
また、本実施形態の回転ダンパ1では、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面および当該側面に対向するトルク調整部材46の側面に凸部44c,53cおよび凹部46eが形成される場合について、説明した。しかし、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面および当該側面に対向するトルク調整部材46の側面に、これら凸部44c,53cおよび凹部46eを全く設けず、平坦に構成してもよい。また、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の何れか一方の側面に凸部44cまたは53cを設け、当該側面に対向するトルク調整部材46の側面にだけ凹部46eを設けるように構成してもよい。また、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の何れか一方の側面に凸部44cまたは53cを設け、当該側面に対向するトルク調整部材46の側面に全く凹部46eを設けずに平坦に構成するようにしてもよい。また、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の各側面に凸部44cおよび53cを全く設けずに平坦に構成し、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53の双方の各側面、または一方の側面に対向するトルク調整部材46の側面に、凹部46eを設けるように構成してもよい。
【0089】
凸部44cおよび53c並びに凹部46eを設けることで、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53とトルク調整部材46との間の粘性流体によって生成される第1のトルクの大きさを大きくすることができるが、それらを設けない場合には、設けない凸部44cもしくは53cまたは凹部46eの分だけ、生成される第1のトルクの大きさが小さくなり、回転ダンパ1の制動力の範囲が狭まるだけで、その他の作用効果は上記の実施形態と同様に奏される。
【0090】
また、本実施形態の回転ダンパ1では、複列式調整トルク生成機構列4に2列の調整列を設けた場合について説明したが、3列以上の複数の調整列を設けてもよく、その場合においても上記の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【0091】
また、上記の実施形態では、第1調整ロータ44および第2調整ロータ53と第1速度依存ロータ62との間において、回転駆動力を伝達するのに平歯車44b,53b,62aを用いた構成した場合について、説明した。しかし、回転駆動力の伝達は平歯車44b,53b,62aでなくても、はすば歯車等の歯車仕様で構成してもよい。また、歯車に限定されることはなく、例えば、摩擦車、タイミングベルト、Vベルト等によって構成するようにしてもよい。このような各構成においても、上記の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明による回転ダンパ1は扉制動装置11の一方向移動制動装置に限ることなく、その他の一方向移動制動装置にも同様に利用することができ、吊り戸、引き戸、パーティション、ロールスクリーン、手動シャッター、OA機器などに広範囲に利用することが出来る。
【符号の説明】
【0093】
1…回転ダンパ、2…ケース、2a,3a…接合部、2b…第1調整機構列収納ホルダ、2c…第2調整機構列収納ホルダ、2d…軸受壁、2e…貫通穴、2f…突条、2g…凹部、2g1…側面、2h…速度依存機構列収納ホルダ、2i…突起、2j…突出壁、3…キャップ、3b,3c,3d…円筒穴、3e…円筒状窪み、4…複列式調整トルク生成機構列、5…速度依存トルク生成機構列、6…ユニットシール部材、7…ネジ、8…一方向クラッチ、9…リベット、11…扉制動装置(一方向移動制動装置)、21…扉、22…レール、23…ラックギヤ、41…ベアリング、42…第1列キャップ側シール部材、43…シャフト、44…第1調整ロータ、44a…矩形状取付穴、44b,53b,62a…平歯車、44c,53c,63b…凸部、44c1,53c1,63b1…側面、45,51,66…止め輪、46…トルク調整部材、46a…第1円筒部、46b…第2円筒部、46c,53a…貫通穴、46d…案内溝、46e…凹部、46e1…側面、46f…第1従動カム部、52…第2列キャプ側シール部材、53…第2調整ロータ、54…アジャスタ、54a…円盤部、54b…円筒部、54c…軸部、54d…第1原動カム部、55…第2列ケース側シール部材、61…キャップブッシュ、62…第1速度依存ロータ、62c…第2原動カム部、63…第2速度依存ロータ、63a…第2従動カム部、63d…凹凸、64…弾性部材、65…ホルダ、67…ケースブッシュ、68…摩擦抵抗部材