(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/026 20060101AFI20220204BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20220204BHJP
A63B 23/18 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
A61B5/026 120
A61B5/0245 200
A63B23/18
(21)【出願番号】P 2017059626
(22)【出願日】2017-03-24
【審査請求日】2020-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】518070663
【氏名又は名称】株式会社NeU
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桂 卓成
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 清
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/038551(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/119665(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/066630(WO,A1)
【文献】特開2016-059804(JP,A)
【文献】特表2014-503240(JP,A)
【文献】特開2002-112974(JP,A)
【文献】特開2004-237066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
A61B 5/06-5/398
A61B 10/00
A63B 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の頭部に装着され、前記頭部の血流量を検出する頭部装着装置によって検出された検出値を受信する受信部と、
前記検出値から、前記血流量の時間変化を示す成分および前記頭部の脈波の時間変化を示す成分を抽出する抽出部と、
前記抽出した前記血流量の時間変化を示す成分に基づいて、前記利用者の呼吸の周期および深さを算出し、前記頭部の脈波の時間変化を示す成分に基づいて、前記利用者の心拍数の時間変化を算出する算出部と、
前記算出した前記利用者の心拍数の時間変化と前記利用者の呼吸の周期および深さとに基づいて、前記利用者の心拍数の変動幅が所定幅以内である時間帯における前記利用者の呼吸の周期および深さを特定する特定部と、
前記利用者の呼吸の周期および深さが前記特定した呼吸の周期および深さとなるように前記利用者の呼吸を誘導する情報を出力する出力部と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
コンピュータが、
利用者の頭部に装着され、前記頭部の血流量を検出する頭部装着装置によって検出された検出値を受信し、
前記検出値から、前記血流量の時間変化を示す成分および前記頭部の脈波の時間変化を示す成分を抽出し、
前記抽出した前記血流量の時間変化を示す成分に基づいて、前記利用者の呼吸の周期および深さを算出し、前記頭部の脈波の時間変化を示す成分に基づいて、前記利用者の心拍数の時間変化を算出し、
前記算出した前記利用者の心拍数の時間変化と前記利用者の呼吸の周期および深さとに基づいて、前記利用者の心拍数の変動幅が所定幅以内である時間帯における前記利用者の呼吸の周期および深さを特定し、
前記利用者の呼吸の周期および深さが前記特定した呼吸の周期および深さとなるように前記利用者の呼吸を誘導する情報を出力する
ことを
実行することを特徴とする情報処理方法。
【請求項3】
コンピュータに、
利用者の頭部に装着され、前記頭部の血流量を検出する頭部装着装置によって検出された検出値を受信するステップと、
前記検出値から、前記血流量の時間変化を示す成分および前記頭部の脈波の時間変化を示す成分を抽出するステップと、
前記抽出した前記血流量の時間変化を示す成分に基づいて、前記利用者の呼吸の周期および深さを算出し、前記頭部の脈波の時間変化を示す成分に基づいて、前記利用者の心拍数の時間変化を算出するステップと、
前記算出した前記利用者の心拍数の時間変化と前記利用者の呼吸の周期および深さとに基づいて、前記利用者の心拍数の変動幅が所定幅以内である時間帯における前記利用者の呼吸の周期および深さを特定するステップと、
前記利用者の呼吸の周期および深さが前記特定した呼吸の周期および深さとなるように前記利用者の呼吸を誘導する情報を出力するステップと
を実行させるための情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、人間は、深呼吸において呼吸の周期や深さが安定すると、自律神経の交感神経の活動が抑えられ、一定のリラックス効果が得られると考えられている。深呼吸によって交感神経の活動を抑えることは、心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)の治療などにも利用されている。そこで、深呼吸のタイミングを誘導する技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、呼吸を交感神経の活動を抑えることができるように誘導することについての提案はなされてこなかった。このため、瞑想などのリラックスすることを目的とした深呼吸のトレーニングにおいて、呼吸を安定させることができるかは、指導者の経験や手腕などによるところが大きく、交感神経の活動を抑えることを目的として呼吸を安定させる方法を提供することは困難であった。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、交感神経の活動を抑えることができる呼吸を行えるよう利用者を誘導することができる情報処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、以下の情報処理装置によって例示される。本情報処理装置は、利用者の頭部に装着され、頭部の血流量を検出する頭部装着装置によって検出された検出値を受信する受信部と、検出値から、血流量の時間変化を示す成分を抽出する抽出部と、抽出した血流量の時間変化を示す成分に基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度の時間変化と利用者の呼吸の周期および深さとを算出する算出部と、算出した頭部の血中の二酸化炭素濃度の時間変化と利用者の呼吸の周期および深さとに基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定する特定部と、利用者の呼吸の周期および深さが特定した呼吸の周期および深さとなるように利用者の呼吸を誘導する情報を出力する出力部とを備える。
【0007】
また、上記の情報処理装置において、抽出部は、検出値から、頭部の脈波の時間変化を示す成分を抽出し、算出部は、頭部の脈波の時間変化を示す成分に基づいて、利用者の心拍数の時間変化を算出し、特定部は、算出した利用者の心拍数の時間変化に基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯のうち、利用者の心拍数が略一定となる時間帯を特定し、特定した時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定してもよい。
【0008】
また、本発明の別の側面による情報処理装置は、利用者の心拍数の時間変化が略一定となる時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定する特定部と、利用者の呼吸の周期および深さが特定した呼吸の周期および深さとなるように利用者の呼吸を誘導する情
報を出力する出力部とを備えてもよい。
【0009】
本発明の第2の側面は、利用者の頭部に装着され、頭部の血流量を検出する頭部装着装置によって検出された検出値を受信し、検出値から、血流量の時間変化を示す成分を抽出し、抽出した血流量の時間変化を示す成分に基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度の時間変化と利用者の呼吸の周期および深さとを算出し、算出した頭部の血中の二酸化炭素濃度の時間変化と利用者の呼吸の周期および深さとに基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定し、利用者の呼吸の周期および深さが特定した呼吸の周期および深さとなるように利用者の呼吸を誘導する情報を出力することを実行する情報処理方法として例示できる。
【0010】
また、上記の情報処理方法において、さらに、検出値から、頭部の脈波の時間変化を示す成分を抽出し、頭部の脈波の時間変化を示す成分に基づいて、利用者の心拍数の時間変化を算出し、算出した利用者の心拍数の時間変化に基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯のうち、利用者の心拍数が略一定となる時間帯を特定し、特定した時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定してもよい。
【0011】
また、本発明の別の側面による情報処理方法は、利用者の心拍数の時間変化が略一定となる時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定し、利用者の呼吸の周期および深さが特定した呼吸の周期および深さとなるように利用者の呼吸を誘導する情報を出力してもよい。
【0012】
また、本発明の第3の側面は、コンピュータに、利用者の頭部に装着され、頭部の血流量を検出する頭部装着装置によって検出された検出値を受信するステップと、検出値から、血流量の時間変化を示す成分を抽出するステップと、抽出した血流量の時間変化を示す成分に基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度の時間変化と利用者の呼吸の周期および深さとを算出するステップと、算出した頭部の血中の二酸化炭素濃度の時間変化と利用者の呼吸の周期および深さとに基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定するステップと、利用者の呼吸の周期および深さが特定した呼吸の周期および深さとなるように利用者の呼吸を誘導する情報を出力するステップとを実行させる情報処理プログラムとして例示できる。
【0013】
また、上記の情報処理プログラムにおいて、コンピュータにさらに、検出値から、頭部の脈波の時間変化を示す成分を抽出するステップと、頭部の脈波の時間変化を示す成分に基づいて、利用者の心拍数の時間変化を算出するステップと、算出した利用者の心拍数の時間変化に基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯のうち、利用者の心拍数が略一定となる時間帯を特定し、特定した時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定するステップとを実行させてもよい。
【0014】
また、本発明の別の側面による情報処理プログラムは、コンピュータに、利用者の心拍数の時間変化が略一定となる時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定するステップと、利用者の呼吸の周期および深さが特定した呼吸の周期および深さとなるように利用者の呼吸を誘導する情報を出力するステップとを実行させてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、交感神経の活動を抑えることができる呼吸を行えるよう利用者を誘導することができる情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る計測システムの概略構成を例示する図である。
【
図2】
図2は、頭部装着装置を下後方から見た外観を例示する斜視図である。
【
図3】
図3は、頭部装着装置を上方から見た平面図である。
【
図4】
図4は、頭部装着装置を前方から見た正面図である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係る利用者端末において実行される処理のフローチャートの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、脳活動波形、血流量変化成分の信号、脈波成分の信号の例を示す図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る利用者端末において実行されるサブルーチンの処理の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、一実施形態に係る利用者端末において実行されるサブルーチンの処理の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、呼吸における呼吸の深さとCO
2濃度の相関を例示する図である。
【
図10】
図10は、一実施形態に係る利用者端末において表示される画面の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、一実施形態に係る利用者端末において実行される処理のフローチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して一実施形態に係る計測システムについて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る計測システムの概略構成を例示する図である。本計測システムは、利用者の頭部から血流量の変化を示す計測データ(検出値ともいう)を検出し、利用者の脳の活動状態を示す脳活動情報を取得する。
図1に示すように、本計測システムは、頭部装着装置1と利用者端末2を有する。頭部装着装置1は、情報処理の側面としては、制御部11と、無線通信部13と、一対のセンサ115、125とを有する。制御部11は、頭部装着装置1の計測と通信を制御する。制御部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、あるいはDSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサとメモ
リとを有し、メモリ上に実行可能に展開されたコンピュータプログラム、ファームウェアなどにより処理を実行する。ただし、制御部11は、無線通信部13とセンサ115、125を起動し、各構成要素との連携処理を実行する専用のハードウェア回路、FPGA(Field Programmable Gate Array)などであってもよい。また、制御部11は、CPU、
DSP、専用のハードウェア回路などが混在したものであってもよい。
【0018】
無線通信部13は、所定のインターフェースによって、制御部11およびセンサ115、125と接続される。ただし、無線通信部13は、制御部11を介して、センサ115、125からデータを取得する構成であってもよい。無線通信部13は、ネットワークN1を介して、利用者端末2と通信する。ネットワークN1は、例えば、Bluetooth(登録
商標)、無線LAN(Local Area Network)、ZigBee(登録商標)などの規格に従ったネットワークである。ただし、本計測システムにおいて、無線通信部13の無線インターフェースの規格に限定がある訳ではない。また、ネットワークN1は有線ネットワークでもよい。
【0019】
また、本計測システムにおいて、無線通信部13に代えて、あるいは、無線通信部13とともに有線で通信を行う通信部を設けてもよい。すなわち、頭部装着装置1と利用者端末2とが有線通信のインターフェースで接続されてもよい。この場合の有線通信のインターフェースに限定がある訳ではなく、計測システムの用途に応じてUSB(Universal Serial Bus)、PCI Expressなどの各種インターフェースを使用することができる。
【0020】
センサ115、125は、いずれも近赤外光を頭部に照射し、大脳皮質付近で一部吸収されて散乱された近赤外光を受光し、電気信号に変換する。大脳皮質は、例えば、脳の活
動状態に応じて、血流量が変化し、その変化に起因して、大脳皮質付近での近赤外光の吸収特性、あるいは、散乱特性が変化する。センサ115、125は、このような大脳皮質付近の血流の状態に応じた近赤外光吸収率の変化あるいは透過率の変化により光量が変化する近赤外光を電気信号に変換して出力する。
【0021】
本計測システムでは、センサ115、125は、0.1秒などの所定の時間間隔で近赤外光の照射および受光した近赤外光の電気信号への変換を行う。これにより、頭部装着装置1を装着した利用者の脳内の血流量の変化に関するデータが当該時間間隔で得られる。さらに、センサ115、125は、一方が右前額部の血流量の変化に関するデータを出力し、他方が左前額部の血流量の変化に関するデータを出力する。
【0022】
また、センサ115、125は、例えば、近赤外光を照射する近赤外光光源と、近赤外光を受光する受光部を含む。近赤外光光源は、例えば、LED(Light Emitting Diodes
)、赤外光ランプなどである。また、受光部は、フォトダイオード、フォトトランジスタなどの光電素子と、増幅器と、AD(Analog Digital)コンバータとを含む。なお、近赤外光光源と受光部とが対にして設けられなくてもよい。例えば、1つの近赤外光光源に対して、複数の受光部を設けてもよい。
【0023】
利用者端末2は、例えば、スマートフォン、携帯電話、携帯情報端末、PHS(Personal Handyphone System)、可搬型パーソナルコンピュータなどである。ただし、アプリケーションの機能によっては、利用者端末2は、据え置き型のデスクトップパーソナルコンピュータ、テレビジョン受信機、ゲーム機、健康管理専用の端末、マッサージ器、車載器などであってもよい。
【0024】
利用者端末2は、頭部装着装置1から、利用者の大脳皮質付近での近赤外光の吸収率または透過率の変化データを取得し、利用者の脳の活動状態に関連する様々な情報処理を含むサービスを提供する。
【0025】
利用者端末2は、CPU21と、メモリ22と、無線通信部23と、表示部24と、操作部25と、音声出力部26とを有する。CPU21は、メモリ22に実行可能に展開されたコンピュータプログラムにより、利用者端末2としての処理を実行する。利用者端末2としての処理とは、例えば、上記利用者の脳の活動状態に関連する様々な情報処理を含むサービスである。
【0026】
メモリ22は、CPU21で実行されるコンピュータプログラム、あるいは、CPU21が処理するデータを記憶する。メモリ22は、揮発性メモリと不揮発性メモリを含んでよい。無線通信部23は、頭部装着装置1の無線通信部13と同様である。また、利用者端末2は、無線通信部23に代えて、あるいは、無線通信部23とともに有線で通信を行う通信部を有してもよい。
【0027】
表示部24は、例えば、液晶ディスプレイ、EL(Electro-Luminescence)パネルなどであり、CPU21からの出力情報を表示する。操作部25は、例えば、押しボタン、タッチパネルなどであり、利用者の操作を受け付ける。音声出力部26は、例えば、音響あるいは音声を出力するスピーカなどである。
【0028】
図2は、頭部装着装置1を下後方から見た外観を例示する斜視図である。
図3は、頭部装着装置1を上方から見た平面図である。また、
図4は、頭部装着装置1を前方から見た正面図である。ただし、
図3、
図4では、
図2に例示する固定用部材101が省略されている。ここで、下後方とは、利用者が頭部装着装置1を装着したときの利用者の背後かつ、利用者の頭部を下から見上げる位置をいう。また、前方とは、例えば、利用者が頭部装
着装置1を装着したときの利用者(装着者)の前方をいう。さらに、上方とは、例えば、利用者の上方をいう。なお、以下、頭部装着装置1を装着した利用者に向かって右側に位置する頭部装着装置1の部分を右側部分、あるいは右側という。また、頭部装着装置1を装着した利用者に向かって左側に位置する頭部装着装置1の部分を左側部分、あるいは左側という。また、利用者に接触する頭部装着装置1の面を裏面という。裏面の反対面を表面という。表面は、利用者が頭部装着装置1を装着したときに、利用者の周囲から見える面である。
【0029】
図2に例示するように、頭部装着装置1は、鉢巻き状に利用者の頭部に巻き付けて装着し、固定用部材101を締めつけることで利用者の頭部に固定される構造を有する。そのため、頭部装着装置1は、人の頭部よりやや大きい空間で湾曲するベルト状の基材100と、基材100の両端に固定される固定用部材101を有する。固定部材101は、基材100の両端から延伸する線材110、120と、線材110、120を対にして引き込んで固定する留め具を有する。基材100は、利用者の頭部表面から離れた外側面を形成する。すなわち、頭部装着装置1は、頭部から離れた外側面に形状を保つ部材である基材100を配する構造となっている。基材100は例えば樹脂製である。ただし、基材100の材質に限定がある訳ではない。
【0030】
なお、本実施の形態において、固定用部材101の構造、形状、材質に限定がある訳ではない。例えば、
図2では、固定部材101は、線材110、120を有するが、線材の代わりに帯状の部材を用いてもよい。また、留め具はどのような構造のものでもよい。
【0031】
図2のように、頭部装着装置1の基材100の右側端部に電池ボックス102が設けられている。電池ボックス102は、扁平な略六面体であり、表面の面積と裏面の面積がいずれも4つの側面の面積よりも大きくなっている。電池ボックス102の裏面には、図示しない溝が設けられている。この溝には、基材100の右側端部から延伸する線材120の途中部分がはめ込まれている。したがって、電池ボックス102は、基材100の右側端部で固定されるとともに、線材120が溝にはめ込まれることで、頭部装着装置1に固定される。
【0032】
頭部装着装置1の基材100の表側両端近傍には、丸みを帯びた2つのハウジング111、121が設けられている。ハウジング111、121には、信号処理回路、および通信回路を有する制御基板などが収納される。
図4のように、頭部装着装置1を正面から見ると、頭部装着装置1の両脇に2つのハウジング111、121が位置して見える。
【0033】
図4のように、基材100の表側正面付近には、3つのマーカ113、103、123が、マーカ103を中心にして左右対称に、基材100の下縁に沿った位置に直線上に設けられている。マーカ113、103、123は、利用者端末2によって撮影されたときに画像上で、マーカ113、103、123の位置が識別できる構造のものであればどのような構造でもよい。
【0034】
基材100の表側正面付近で、マーカ113、123の上部には、帯状の開口114、124が形成され、開口114、124にはそれぞれ、つまみ112、122が挿入されている。つまみ112、122は、基材100の裏面に沿って設けられる図示しない、左右のスライダとそれぞれ連結されている。一方、
図2に例示するように、基材100の裏面では、センサ115、125がスライダに固定されている。したがって、基材100に対して、つまみ112、あるいは、つまみ122を帯状の開口114、あるいは、開口124に沿って相対移動することで、裏面側でセンサ115、あるいは125をそれぞれ移動することが可能である。さらに、つまみ112、122と同軸でねじが形成されており、センサの位置は、ねじ式にて固定することができる。
【0035】
図4では、つまみは背の低い円筒形状であるが、つまみの形状はこれに限定されない。また、
図4では、帯状の開口114、開口124の長手方向に沿って目盛りが刻まれている。目盛りは、中心位置が分かるように、中心位置の目盛りと中心位置以外の目盛りが異なる形状となっている。
図4では、中心位置の目盛りは、開口114、124に頂点を向けた三角形の形状であり、一方、中心位置以外の目盛りは、円形状、あるいは点状で形成されている。目盛りの形成の仕方は、マーカ113、103、123の形成の仕方と同様であるが、特に限定がある訳ではない。
【0036】
図2に例示するように、センサ115、125は、平板に、3つの窓部を設けた形状となっている。センサ115、125それぞれの1つの窓部には、近赤外光光源としてLEDが設けられている。また、センサ115、125それぞれの残り2つの窓部には、受光部として、フォトダイオードあるいはフォトトランジスタが設けられている。なお、センサ115、125の受光部の数がそれぞれ2個に限定される訳ではない。例えば、受光部はセンサ115、125にそれぞれ1個ずつ設けてもよいし、3個以上設けてもよい。
【0037】
また、基材100の上下の縁には、遮光部104、105が設けられる。したがって、センサ115、125は、基材100の裏面で、上下の縁の遮光部104、105に挟まれた空間に設置されている。そして、遮光部104、105は、頭部装着装置1の裏面で額と触れる部分で緩衝材としても作用する。遮光部104、105の材質に限定がある訳ではないが、利用者の頭部に接触するために、軽く柔らかい部材が望ましい。遮光部104、105は、例えば、ウレタンなどの樹脂、ゴムなどである。
【0038】
さらに、基材100の裏面では、電池ボックス102、センサ115、125、ハウジング111、121内の基板を接続する配線が敷設されている。ただし、基材100の裏面のセンサ115、125が設けられた部分以外は、カバー106で被覆されている。カバー106は、頭部側に接触する頭部装着装置1の裏面側で、基板や配線などが直接利用者の皮膚に触れないようする遮蔽版として作用する。したがって、配線は、基材100とカバー106との間の空間に敷設されている。
【0039】
(第1の実施形態)
以下に、上記の計測システムを使用した第1の実施形態について説明する。
図5、7、8に、第1の実施形態において、利用者端末2のCPU21が実行する処理のフローチャートの一例を示す。本実施形態において、利用者は、呼吸に伴う脳活動状態の測定を開始する前に、頭部装着装置1を頭部に装着し、センサ115、125と利用者の頭部との相対的な位置決めを完了しているものとする。
【0040】
OP101において、利用者端末2のCPU21は、頭部装着装置1を装着した利用者の脳活動状態の測定を実行する指示を、無線通信部23を介してネットワークN1経由で頭部装着装置1に送信する。頭部装着装置1は、利用者端末2から当該指示を受信すると、利用者に呼吸の開始の合図を表示部24や音声出力部26を通じて通知すると共に、脳活動状態の測定を開始する。脳活動状態は、所定のサンプリング周波数で繰り返し測定される。頭部装着装置1は、センサ115および125により利用者の脳活動状態を測定し、無線通信部13を介して、当該脳活動状態を示す検出値を利用者端末2に上記のサンプリング周波数で繰り返し送信する。そして、CPU21は、受信部として、利用者の頭部に装着され、頭部の血流量を検出する頭部装着装置1によって検出された検出値を上記のサンプリング周波数で繰り返し受信する。
【0041】
また、CPU21は、無線通信部23を介して頭部装着装置1から脳活動状態を示す検出値(脳活動波形)を受信すると、メモリ22などの記憶手段に格納する。ここで、検出
値は、測定された値そのものでもよいし、測定された値を利用者端末2に送信しやすいように処理した情報でもよいし、あるいは一定期間に上記のサンプリング周波数で繰り返し測定された値をまとめた情報などでもよい。検出値は、頭部装着装置1が頭部の血流量変化を測定した値に基づいた値であればよい。利用者には、あらかじめ、固有の識別子が割り当てられている。脳活動状態を示す検出値は、時系列データとして、時刻情報、利用者の識別子と共に格納される。
【0042】
OP101において、CPU21は、呼吸の開始の合図および終了の合図を、画像や音声により表示部24や音声出力部26を通じて出力する。利用者端末2は、呼吸の開始の合図および終了の合図の操作の入力を、操作部25を通じて、受け付けてもよい。さらに、CPU21は、脳活動状態を示す検出値(脳活動波形)を、利用者の識別子、時刻情報とともに、メモリ22に格納する。
【0043】
OP102では、CPU21は、頭部装着装置1から受信した検出値(脳活動波形)から、血流量変化成分の信号および脈波成分の信号を抽出する。
図6は、脳活動波形、血流量変化成分の信号、脈波成分の信号の例を示す図である。
図6において、横方向は、時間軸の方向である。
図6(A)は、検出値である脳活動波形の例を示す図である。OP102において、CPU21は、抽出部として、検出値から血流量の時間変化を示す成分を抽出する処理と検出値から頭部の脈波の時間変化を示す成分を抽出する処理を実行する。CPU21は、受信した脳活動波形を、第1のバンドパスフィルタにかけることにより、脳活動波形から血流量変化成分の信号を抽出する。バンドパスフィルタは、所定の周波数帯の信号を抽出するフィルタである。第1のバンドパスフィルタを通過する信号の周波数帯は、例えば、0.05Hzから0.14Hzである。当該第1のバンドパスフィルタを通過する0.1Hz程度の波をMayer波という。血流量変化成分は、脳の血管を単位時間に流れる血液の量である。
図6(B)は、脳活動波形から抽出された血流量変化成分の信号を示す図である。第1のバンドパスフィルタを通過する信号の周波数帯は、0.05Hz以上0.14Hz以下である。
【0044】
また、CPU21は、受信した脳活動波形を、第2のバンドパスフィルタにかけることにより、脈波成分の信号を抽出する。第2のバンドパスフィルタを通過する信号の周波数帯は、第1のバンドパスフィルタを通過する信号の周波数帯よりも高い周波数帯である。第2のバンドパスフィルタを通過する信号の周波数帯は、例えば、0.8Hzから2.0Hzである。脈波成分は、脈拍によって生じる波の成分である。
図6(C)は、脳活動波形から抽出された脈波成分の信号を示す図である。第2のバンドパスフィルタを通過する信号の周波数帯は、0.8Hz以上2.0Hz以下である。利用者端末2は、抽出された血流量変化成分の信号および脈波成分の信号を、メモリ22に格納する。次いで、CPU21は、処理をOP103に進める。
【0045】
OP103では、CPU21は、メモリ22に格納される血流量変化成分の信号と脈波成分の信号を用いて、以下に説明するデータを解析する処理(解析処理)を行う。本実施形態では、CPU21は、OP103の解析処理を実行し、利用者の心拍数、深呼吸の周期、深呼吸の深さ、血中の二酸化炭素(CO
2)の濃度変化を算出する。OP103において、CPU21は、算出部として、抽出した血流量の時間変化を示す成分に基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度の時間変化と利用者の呼吸の周期および深さとを算出する。また、CPU21は、算出部として、頭部の脈波の時間変化を示す成分に基づいて、利用者の心拍数の時間変化を算出する。
図7は、解析処理(
図5のOP103)の詳細を示すフローチャートである。解析処理は、例えば、CPU21が実行するプログラムのサブルーチンである。
図7を参照しながら、OP103のサブルーチンの処理について以下説明する。
【0046】
OP201において、CPU21は、メモリ22に格納された脈波成分の信号の周期に基づいて心拍数を算出する。例えば、CPU21は、脈波成分の極値間の時間幅と単位時間、例えば1秒との比に基づいて心拍数(Herat Rate(HR)やbeats per minute(bpm)などと称する)を算出する。CPU21は、算出した心拍数と心拍数の算出の対象となる時間帯とを示すデータを利用者の識別子に対応付けてメモリ22に格納する。次いで、CPU21は、処理をOP202に進める。
【0047】
OP202において、CPU21は、メモリ22に格納された血流量変化成分の信号の周期に基づいて呼吸の周期を算出する。例えば、CPU21は、血流量変化成分の信号の周期が示す時間を呼吸の周期とする。本実施形態において血流量変化成分の信号の周期に基づいて呼吸の周期を算出するのは、呼吸に伴って脳の血管が拡張と収縮を繰り返すため、呼吸が血流量の測定値に影響するためである。CPU21は、算出した呼吸の周期と呼吸の周期の算出の対象となる時間帯を示すデータをメモリ22に格納する。
【0048】
さらに、OP203において、CPU21は、メモリ22に格納された血流量変化成分の信号の振幅に基づいて呼吸の深さを算出する。ここで、呼吸の深さとは、1回の呼吸での酸素吸入量をいう。例えば、血流量変化成分の信号の振幅の単位はmM・mmであり、血流量変化成分の信号の振幅と呼吸の深さとは相関があることから、CPU21は、血流量変化成分の信号の振幅を呼吸の深さとみなす。なお、CPU21は、血流量変化成分の信号の振幅に所定の重み付けを行って得られる結果を呼吸の深さとしてもよい。CPU21は、算出した呼吸の深さと呼吸の深さの算出の対象となる時間帯を示すデータをメモリ22に格納する。
【0049】
次いで、OP204において、CPU21は、血流量変化成分の信号に基づいて、利用者の頭部の血中のCO2濃度変化の傾向を算出する。ここで、血中のCO2濃度変化の傾向とは、例えば、1分間などの周期(長周期)において血流量変化成分の信号の変化を1次関数でモデリングすることにより、1次関数の傾きから判定できる、血中のCO2濃度の増加傾向、減少傾向または略一定となる傾向である。OP204において、CPU21は、血流量変化成分の信号をローパスフィルタにかけて得られる血流量変化成分の信号の変化を1次関数でモデリングする。さらにCPU21は、モデリングにより得られる1次関数の傾きから血中のCO2濃度が増加傾向にあるか減少傾向にあるか略一定となる傾向にあるかを算出する。1次関数の傾きがそれぞれどの範囲にあるときにCO2濃度が増加傾向、減少傾向、略一定となる傾向にあるかについては、適宜決めることができる。そして、CPU21は、算出した利用者の血中のCO2濃度変化の傾向とCO2濃度変化の傾向の算出の対象となる時間帯を示すデータをメモリ22に格納する。次いで、CPU21は、処理をOP205に進める。
【0050】
OP201~OP204において、血流量変化成分の信号と脈波成分の信号が測定された時間帯は同じである。したがって、OP201~OP204の処理によって、ある時間帯における、心拍数、呼吸の周期および深さ、CO2濃度変化の傾向を示すデータが得られる。一般に、人間は、交感神経の活動が抑えられている、すなわちリラックスしているとき、心拍数および血中のCO2濃度が略一定となっていると考えられる。そこで、OP205において、CPU21は、OP201~OP204でメモリ22に格納した、心拍数、呼吸の周期、呼吸の深さ、CO2濃度変化の傾向を示す各データに基づいて、交感神経の活動が抑えられているか否かの観点から、ユーザの呼吸が安定しているか否かを解析する。
【0051】
図8に、OP205のサブルーチンの処理の一例を示す。OP205において、CPU21は、特定部として、算出した頭部の血中の二酸化炭素濃度の時間変化と利用者の呼吸の周期および深さとに基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯にお
ける利用者の呼吸の周期および深さを特定する処理を実行する。また、CPU21は、特定部として、算出した利用者の心拍数の時間変化に基づいて、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯のうち、利用者の心拍数が略一定となる時間帯を特定し、特定した時間帯における利用者の呼吸の周期および深さを特定する。
【0052】
OP301において、CPU21は、心拍数を示すデータから、所定の時間幅における心拍数の最大値および最小値から心拍数の変動幅を算出する。ここで、所定の時間幅とは、心拍数の最大値および最小値に基づいて心拍数の変動幅が算出できるだけの時間幅である。そして、CPU21は、心拍数の変動幅が所定幅以内である場合に心拍数が略一定となっていると判定する。そして、CPU21は、心拍数が略一定となっている時間帯をメモリ22に格納する。
【0053】
また、OP302において、CPU21は、算出したCO2濃度変化の傾向と算出の対象となる時間帯を示すデータから、CO2濃度が略一定となる時間帯を特定する。そして、CPU21は、特定した時間帯をメモリ22に格納する。
【0054】
さらに、OP303において、CPU21は、メモリ22に格納した上記の時間帯に基づいて、心拍数が略一定でありかつCO
2濃度が略一定となる時間帯を特定する。そして、CPU21は、特定した時間帯における呼吸の周期および深さを、メモリ22に格納されている呼吸の周期および深さを示すデータから特定する。なお、特定した時間帯に複数の周期または深さを示すデータがある場合は、いずれかの周期または深さを特定した時間帯における呼吸の周期および深さとして特定してもよいし、それらの平均の周期または深さを特定した時間帯における呼吸の周期および深さとしてもよい。CPU21は、特定した呼吸の周期および深さをメモリ22に格納する。そして、CPU21は、本サブルーチンを終了し、さらにOP205から
図7に示すサブルーチンを終了して、処理を
図5のOP104に進める。
【0055】
本実施形態では、OP205の処理によって、心拍数が略一定でありかつCO2濃度が略一定となる時間帯、すなわち交感神経の活動が抑えられているとみなすことができる時間帯を特定することができる。そして、利用者の呼吸の周期および深さを、当該特定した時間帯における利用者の呼吸の周期および深さになるように誘導することで、交感神経の活動を抑えられる呼吸ができるように利用者を誘導することができる。
【0056】
OP104において、CPU21は、頭部装着装置1を装着した利用者の呼吸に伴う脳活動状態の測定データを取得し、取得した測定データとOP303において特定した呼吸の周期および深さとに基づいて、利用者の呼吸を誘導する。具体的には、CPU21は、取得した測定データから算出される呼吸の周期がOP303において特定した呼吸の周期よりも長い場合は、呼吸の周期を短くするよう要求するメッセージを表示部24に表示する。また、取得した測定データから算出される呼吸の周期がOP303において特定した呼吸の周期よりも短い場合は、呼吸の周期を長くするよう要求するメッセージを表示部24に表示する。また、取得した測定データから算出される呼吸の周期とOP303において特定した呼吸の周期との差が所定の時間内である場合は、呼吸の周期は適正であるとみなし呼吸の周期を維持するよう要求するメッセージを表示部24に表示する。
【0057】
これにより、利用者は、表示部24に表示されるメッセージに従って呼吸の周期を調整することができる。なお、測定データから算出される呼吸の周期とOP303において特定した呼吸の周期との差がどの程度の場合に呼吸の周期が長い、短いまたは適正と判定するかについては、適宜決めることができる。
【0058】
また、OP104において、CPU21は、出力部として、利用者の呼吸の周期および
深さが特定した呼吸の周期および深さとなるように利用者の呼吸を誘導する情報を出力する。具体的には、CPU12は、取得した測定データから算出される呼吸の深さがOP303において特定した呼吸の深さよりも深い場合は、呼吸を浅くするよう要求するメッセージを表示部24に表示する。また、取得した測定データから算出される呼吸の深さがOP303において特定した呼吸の深さよりも浅い場合は、呼吸を深くするよう要求するメッセージを表示部24に表示する。また、取得した測定データから算出される呼吸の深さとOP303において特定した呼吸の深さとの差が所定量以内である場合は、呼吸の深さは適正であるとみなし呼吸の深さを維持するよう要求するメッセージを表示部24に表示する。
【0059】
これにより、利用者は、表示部24に表示されるメッセージにしたがって呼吸の深さを調整することができる。なお、測定データから算出される呼吸の深さとOP303において特定した呼吸の深さとの差がどの程度の場合に呼吸が深い、浅いまたは適正と判定するかについては、適宜決めることができる。また、表示部24に表示されるメッセージは文字に限らず、利用者の呼吸の調整を促す画像が表示されてもよい。どのように上記のメッセージを表示部24に表示するかについては、周知の技術を用いて種々の表示形態を適用できる。また、当該メッセージを音声メッセージとして音声出力部26から出力してもよい。上記の利用者に呼吸の周期の調整を要求するメッセージと呼吸の深さの調整を要求するメッセージは、同時に表示部24に表示されるようにしてもよいし、個別に表示部24に表示されるようにしてもよい。
【0060】
また、OP104において、CPU21は、測定データに基づく呼吸の周期および深さの判定とメッセージの表示を所定の時間間隔で繰り返し実行する。ここで所定の時間間隔の一例としては、1秒間から数秒間が挙げられるが適宜設定することができる。CPU21は、上記の呼吸の周期および深さの誘導を実行し、毎回の呼吸の周期および深さの判定結果をメモリ22に記憶して、処理をOP105に進める。本実施形態においては、呼吸のトレーニングなどにおいて、利用者の頭部の血流量の時間変化や脈波の時間変化から算出される血中のCO2濃度、呼吸の周期および深さを指標として用いて、利用者が交感神経の活動を抑えた呼吸ができるように利用者の呼吸の周期と深さを誘導することで、呼吸のトレーニングを担当する指導者の経験に左右されない、客観的な指標に基づく呼吸のトレーニングを行うことができる。
【0061】
次いで、OP105において、CPU21は、メモリ22に記憶した呼吸の周期の深さの判定結果に基づく呼吸の評価を行う。
図9に、CO
2濃度と呼吸の深さとの関係を模式的に示す。
図9に示すように、グラフの横軸を呼吸の深さ、縦軸をCO
2濃度とする。このとき、呼吸が深くかつCO
2濃度が低すぎることも高すぎることもない程度の呼吸を行うことが、交感神経の活動を抑えたよい深呼吸とみなすことができる。ただし、人間は、よい深呼吸をしているときでも、呼吸の周期および深さを安定させることができないと、図中の呼吸の軌跡T1が示すように、血中のCO
2濃度が変化し、よい深呼吸を継続して行うことができず、リラックス効果を得にくい。また、図中の呼吸の軌跡T2が示すように、人間は、呼吸の深さを維持できていても、呼吸の呼気が少ないとCO
2濃度が低下して、よい深呼吸を行うことができない。さらに、人間は、呼吸が浅くかつ呼気が少ない場合は、軌跡T3が示すように過呼吸になる可能性もある。
【0062】
本実施形態では、CPU21は、メモリ22に記憶した呼吸の周期の深さの判定結果から、利用者がどの程度
図9に示すよい深呼吸を行うことができたかの評価を行う。また、CPU21は、呼吸が過呼吸とみなすことができるか否かの判定を行う。なお、本実施形態では、OP303において呼吸の周期および深さを特定した際のCO
2濃度を、よい深呼吸を行っているときのCO
2濃度とみなす。また、当該CO
2濃度およびOP303において特定した呼吸の深さと、測定データから算出されるCO
2濃度および呼吸の深さと
の差がどの程度の範囲内にあるときによい深呼吸とみなすかは、適宜決定することができる。
【0063】
CPU21は、メモリ22に記憶した測定データおよび呼吸の周期の深さの判定結果から、利用者の呼吸の「深さ」、「周期性」、「心拍数」についての3軸評価を行い、評価結果を表示部24に表示する。さらに、CPU21は、表示部24に表示した評価結果を履歴として利用者の識別子に対応付けてメモリ22に格納する。メモリ22に格納された評価結果の履歴は、利用者が利用者端末2を操作して過去の呼吸の評価結果として表示部24に再度表示することができる。
【0064】
ここで、「深さ」の評価とは、呼吸の深さがよい深呼吸とみなす呼吸の深さにどの程度近いかを示す評価である。また、「周期性」の評価とは、呼吸をどの程度同じ周期で繰り返し行うことができたか、すなわち呼吸の周期に基づく呼吸の再現性を示す評価である。「周期性」の評価は、呼吸の周期について1周期前との相関性に基づいて行うことができる。また、「心拍数」の評価とは、どの程度心拍数の変動を抑えて呼吸を行うことができたかを示す評価である。
【0065】
図10に、OP105において利用者端末2の表示部24の一例としてのディスプレイ24aに表示される上記の評価結果の一例を示す。
図10に示すように、ディスプレイ24aには、利用者の呼吸の「深さ」、「周期性」、「心拍数」についての3軸評価の結果が評価スコアとして、三角グラフ24bで表示される。また、ディスプレイ24aには、3軸評価の結果の「深さ」、「周期性」、「心拍数」をスコア換算した結果の点数24cが表示される。
【0066】
「深さ」、「周期性」、「心拍数」の評価は、OP105において測定した利用者の呼吸の測定データとOP303において特定した呼吸の周期および深さ、呼吸の周期および深さを特定した時間帯における心拍数のデータとの比較に基づいて行われる。そして、どのようにスコア換算するかは、周知の技術を用いて利用者にとって確認しやすい点数がディスプレイ24aに表示されるようにすればよい。また、「深さ」、「周期性」、「心拍数」の評価結果は、三角グラフに限らず、種々の表示形態を用いてディスプレイ24aに表示することができる。
【0067】
CPU21は、利用者の呼吸の評価結果の表示および保存を実行した後、本フローチャートの処理を終了する。
【0068】
(第2の実施形態)
次に、上記の計測システムを使用した第2の実施形態について説明する。本実施形態では、血流量の変化から利用者の過呼吸を推定する処理が例示される。本実施形態の他の構成および作用は、上記の第1の実施形態と同様である。そこで、第2の実施形態の構成要素のうち、第1の実施形態と同一の構成要素に対しては同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
図11に、本実施形態において利用者端末2のCPU21が実行する処理のフローチャートの一例を示す。
【0069】
OP401、OP402の処理は、OP101、OP102の処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。次いで、OP403において、CPU21は、OP201と同様、メモリ22に格納された脈波成分の信号の周期に基づいて心拍数を算出する。さらに、CPU21は、心拍数の時間変化から心拍数が上昇傾向、下降傾向または略一定となる傾向のいずれにあるかを算出する。例えば、CPU21は、所定時間だけ過去に遡った時刻から現在時刻までの測定データに基づいて、心拍数の変動を1次関数でモデリングし、当該1次関数の傾きに応じて心拍数の傾向を算出することができる。なお、1次関数の傾き
がそれぞれどの範囲にあるときに心拍数が上昇傾向、下降傾向、略一定となる傾向にあるかについては、適宜決めることができる。CPU21は、心拍数変化の傾向を算出し、算出結果を示すデータをメモリ22に格納すると、処理をOP404に進める。
【0070】
OP404において、CPU21は、血流量変化成分の信号に基づいて、利用者の頭部の血流量変化の傾向を算出する。例えば、CPU21は、所定時間だけ過去に遡った時刻から現在時刻までの測定データに基づいて、血流量変化成分の信号の変化を1次関数でモデリングすることにより、1次関数の傾きから血流量変化の傾向を算出することができる。なお、1次関数の傾きがそれぞれどの範囲にあるときに血流量変化の傾向が増加傾向、減少傾向、略一定となる傾向にあるかについては、適宜決めることができる。そして、CPU21は、血流量変化の傾向を算出し、算出結果を示すデータをメモリ22に格納すると、処理をOP405に進める。
【0071】
OP405において、CPU21は、OP403において算出した心拍数変化の傾向およびOP404において算出した血流量変化の傾向に基づいて、心拍数が上昇しかつ血流量が減少しているか否かを判定する。CPU21は、心拍数が上昇しかつ血流量が減少していると判定すると(OP405:Yes)、処理をOP406に進める。一方、CPU21は、心拍数が上昇していないかあるいは血流量が減少していないと判定すると(OP405:No)、本フローチャートの処理を終了する。
【0072】
OP406において、CPU21は、利用者の呼吸が過呼吸であるとみなし、呼吸が過呼吸であることを利用者に報知する。例えば、CPU21は、呼吸が過呼吸であることを通知するメッセージを表示部24に表示する。表示部24によるメッセージの表示の代わりあるいは表示と共に、CPU21は、呼吸が過呼吸であることを通知する音声を音声出力部26によって出力してもよい。CPU21は、呼吸が過呼吸であることを利用者に報知する処理を実行すると、本フローチャートの処理を終了する。
【0073】
このように、本実施形態においては、利用者の頭部の血流量の時間変化や脈波の時間変化から算出される血流量変化の傾向および心拍数変化の傾向に基づいて、利用者の呼吸が過呼吸であるか否かを判定し、過呼吸を報知することができる。
【0074】
以上が本発明の実施形態に関する説明であるが、上記の計測システムの構成は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想と同一性を失わない範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上記の第1の実施形態において、CPU21は、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となり、かつ利用者の心拍数が略一定となる時間帯における呼吸の周期および深さを特定する。ただし、CPU21は、頭部の血中の二酸化炭素濃度が略一定となる時間帯における呼吸の周期および深さを特定し、特定した呼吸の周期および深さを用いて利用者の呼吸を誘導してもよい。あるいは、CPU21は、利用者の心拍数が略一定となる時間帯における呼吸の周期および深さを特定し、特定した呼吸の周期および深さを用いて利用者の呼吸を誘導してもよい。さらに、上記の実施形態において、血流量変化成分の信号の変化を1次関数でモデリングし、1次関数の傾きにから血流量の時間変化を算出しているが、血流量の時間変化の算出方法はこれに限られない。例えば、血流量の時間変化が所定の変化幅に収まっている場合に血流量が略一定であるとみなすなど、血流量の時間変化の変化幅に応じて血流量の時間変化の傾向を決定してもよい。
【0075】
また、上記の第1の実施形態において、利用者端末2において利用者の呼吸を誘導する際に、利用者に所定行動を行わせてもよい。所定行動とは、例えば、座禅、瞑想、ヨガ、睡眠、動画視聴、ゲームのプレイ、音楽鑑賞、運動、飲食、試験、アプリケーションのプレイなどである。所定行動は、特定のアプリケーションにおける特定の行動であってもよ
い。アプリケーションには、例えば、脳トレーニングアプリケーションが含まれる。例えば、利用者端末2は、動画視聴を行わせる際には、表示部24に動画を表示させ、音声出力部26に動画に伴う音声を出力させて、利用者に動画を視聴させる。また、利用者端末2は、ゲームのプレイを行わせる際には、表示部24および音声出力部26にゲーム用の画像や音声を出力させ、操作部25により利用者にゲームを操作させることにより、ゲームのプレイを行わせる。
【0076】
また、上記の第1の実施形態において、利用者端末2の表示部24に血流量変化成分の時間変化や脈波成分の時間変化を示すグラフが表示されてもよい。これにより、利用者端末2の利用者は、血流量変化時の脈波振幅の変化(すなわち、交感神経の活性の様子)を認識することができる。そして、利用者端末2の利用者は、当該グラフと上記の表示部24に表示されるメッセージを確認しながら、瞑想などのトレーニングを行うことができる。
【符号の説明】
【0077】
1 頭部装着装置
2 利用者端末
21 CPU
22 メモリ
24 表示部
26 音声出力部