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特許7018692繊維強化材及び繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】繊維強化材及び繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/568 20060101AFI20220204BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20220204BHJP
   D06M 101/36 20060101ALN20220204BHJP
【FI】
D06M15/568
C08J5/06 CES
D06M101:36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017040549
(22)【出願日】2017-03-03
(65)【公開番号】P2018145552
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-03-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】下山 明
(72)【発明者】
【氏名】宮内 理治
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-143625(JP,A)
【文献】特開2002-194669(JP,A)
【文献】特開2013-129764(JP,A)
【文献】特開2013-057146(JP,A)
【文献】特開2013-241575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
B29B 15/08-15/14
C08J 5/04-5/24
B29B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を補強するために用いられる繊維強化材であって、
前記繊維強化材が、紡出後水分量が15質量%未満になった履歴を有しない、水分量15~200質量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、ポリエーテル系ウレタン樹脂分散液(ただし、シランカップリング剤を含まない。)を浸透・含浸させてなるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体からなることを特徴とする繊維強化材。
【請求項2】
前記分散液中の樹脂を、前記ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の水分量を0質量%に換算したときの繊維質量に対して、0.1質量%以上20.0質量%以下、浸透・含浸させてなる、請求項1に記載の繊維強化材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維強化材を含む、繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料。
【請求項4】
請求項に記載の繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料を用いた自動車用部品もしくは部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂を補強するために用いられる繊維強化材及びそれを含む繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAと記すことがある。)繊維は、紡糸時にポリマー溶解の溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金によるせん断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は、紡糸直後に水洗およびアルカリにより中和処理され、200℃以上で乾燥・熱処理された後、フィラメントとして巻き取られて製造されることが知られている(特許文献1)。
【0003】
PPTA繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びないなどの高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと、軽量性を併せ持った合成繊維である。これらの特長から、自動車や自動二輪、および自転車用のタイヤ、自動車用歯付きベルト、コンベヤ等のゴム補強材料、あるいは、光ファイバーケーブルの補強やロープとして利用されている。さらに、防弾チョッキや、刃物に対して切れにくい性質を利用した作業用手袋や作業服などの防護衣料、燃え難さを利用した消防服への応用も行われている。
【0004】
ところが、PPTA繊維等のアラミド繊維は化学的に安定であるため、各種樹脂との接着性が良くないという問題点を有している。アラミド繊維と樹脂との接着性を改善する方法としては、例えば、アラミド繊維をポリアミン化合物とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とのアダクトで被覆する方法(特許文献2)、ビカット軟化点が40℃以上の炭素2~4のオレフィン系共重合体で被覆する方法(特許文献3)が提案されている。
【0005】
それ以外の方法として、特許文献4には、超臨界装置を用いて、シランカップリング剤(Siと親油性基を有するシラン化合物)とウレタンフォーマからなる表面処理剤を、二酸化炭素流体雰囲気中で、水分率30重量%のPPTA繊維に付与した後、熱処理することで、エポキシ樹脂との接着性を改善する方法が提案されている。
特許文献5には、シランカップリング剤とウレタンフォーマと界面活性剤を水に溶解した水溶液を、水分率30重量%のアラミド繊維に付与した後、熱処理することで、エポキシ樹脂との接着性を改善する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献6には、シランカップリング剤0.25重量%とウレタンバインダー1.25重量%を水に溶解した水溶液を、水分率30重量%のアラミド繊維に付与した後、熱処理して得た単糸をナイロン樹脂に付着させ、ナイロン樹脂複合材料を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第3,767,756号明細書
【文献】特公平1-12864号公報(特許請求の範囲等)
【文献】特開平4-50377号公報(特許請求の範囲等)
【文献】特開2001-303456号公報(特許請求の範囲、段落[0048]~[0052]等)
【文献】特開2002-194669号公報(特許請求の範囲、段落[0048]~[0051]等)
【文献】特開2004-91540号公報(特許請求の範囲、段落[0028]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3に記載された方法は、アダクトやオレフィン系共重合体をアラミド繊維と反応させる方法ではなく、アダクトやオレフィン系共重合体の溶液をアラミド繊維表面に塗布または該溶液に繊維を浸漬して絞った後、乾燥する方法であるため、被覆が均一でないという問題点がある。
【0009】
特許文献4~6に記載された方法は、低濃度のシランカップリング剤とウレタンフォーマの水溶液をPPTA繊維に付与するため、PPTA繊維中へのウレタンフォーマの含浸量を増加させることが難しい。また、シランカップリング剤を付与したPPTA繊維を繊維強化材として用いた場合、樹脂成形品の機械的特性が低下することが懸念される。マトリックス樹脂については、特許文献4、5にエポキシ樹脂が開示され、特許文献6にナイロン樹脂が開示されているだけである。ポリプロピレン樹脂には言及されていない。
【0010】
各種マトリックス樹脂の中でも、とりわけポリプロピレン樹脂は、優れた耐薬品性、耐衝撃性を有しているだけでなく、成形加工し易いため、フィルム、シート、ブロー、射出などのあらゆる成形加工が可能で、日用品から工業品まで広い分野で使用されている。一方、アラミド繊維は、高強度、高弾性率、耐衝撃性、耐摩耗性、耐熱性、非導電性、軽量性などの優れた特性を活かし、ゴムや樹脂などの補強用として広く用いられている。従って、アラミド繊維をポリプロピレン樹脂と複合化することにより、高機能で汎用性がある複合材料が期待できる。しかし、引き抜き成形によりアラミド繊維束にポリプロピレン樹脂を含浸させて複合化した例が報告されている程度である。
【0011】
本発明の目的は、ポリプロピレン樹脂と親和性がある、ポリプロピレン樹脂を補強するためのアラミド繊維補強材、及びアラミド繊維で補強した繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ポリプロピレン樹脂と親和性があるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を得るべく鋭意検討を行った結果、水分量が15質量%未満になった履歴を有しない水分量15~200質量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、樹脂分散液を浸透させることにより、ポリプロピレン樹脂と親和性があるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0013】
(1)ポリプロピレン樹脂を補強するために用いられる繊維強化材であって、
前記繊維強化材が、紡出後水分量が15質量%未満になった履歴を有しない、水分量15~200質量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、ポリエーテル系ウレタン樹脂分散液(ただし、シランカップリング剤を含まない。)を浸透・含浸させてなるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体からなることを特徴とする繊維強化材。
(2)前記分散液中の樹脂を、前記ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の水分量を0質量%に換算したときの繊維質量に対して、0.1質量%以上20.0質量%以下、浸透・含浸させてなる、前記(1)に記載の繊維強化材。
)前記(1)または(2)に記載の繊維強化材を含む、繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料。
)前記()に記載の繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料を用いた自動車用部品もしくは部材。
【発明の効果】
【0014】
本発明の繊維補強材は、樹脂分散液をポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に浸透・含浸させた繊維複合体を含むため、従来のアラミド繊維に比して、ポリプロピレン樹脂への接着性に優れ剥離荷重が高いだけでなく、ポリプロピレン樹脂と複合化する際に被る高温における強力低下が少なく、アラミド繊維本来の高い引張強さ、曲げ強さ、曲げ弾性率を有している。また、前記繊維補強材を含む繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料は、機械的特性、耐熱性及び摩擦摩耗性に優れている。そのため、自動車、船舶、電気・電子機器、AV機器、OA機器、建築用の部品もしくは部材に好適な繊維強化樹脂(FRP)を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明におけるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)とは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用でき、重合体または共重合体の分子量は通常20,000~25,000が好ましい。
【0016】
通常のPPTA繊維は、PPTAを濃硫酸に溶解し、その粘調な溶液を紡糸口金から押し出し、空気中または水中に紡出することによりフィラメント状にした後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、最終的には120~500℃の乾燥・熱処理をして得られる。
【0017】
本発明において、水分量15~200質量%に調整されたPPTA繊維は、例えば、以下のようにして得ることができる。すなわち、PPTAを濃硫酸に溶解して18~20質量%の粘調な溶液とし、これを紡糸口金から吐出して、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸し(この時、口金吐出時のせん断速度を25,000~50,000sec-1にするのが好ましい。)、水洗中和処理を経た後、得られた原糸を100~160℃で、好ましくは5~20秒間乾燥する。水分率が15質量%未満では、樹脂分散液を均一に繊維骨格内に浸透させることが困難となり、一方、水分率が200質量%を超えると、浸透させた樹脂分散液が巻き取り工程までにガイド等に接触した際に水分と共に脱落する恐れがあり、また、繊維の巻き取り工程が難しくなる。PPTA繊維の水分率は、樹脂分散液のPPTA繊維骨格内への浸透性、PPTA繊維の水分調整の容易性および生産効率等の観点より、好ましくは15~100質量%、より好ましくは20~50質量%、特に好ましくは35~50質量%である。
【0018】
本発明のPPTA繊維は、温度100~160℃で熱処理条件などを変更しながら、PPTA繊維の結晶サイズが50オングストローム未満の状態を保ち、かつ、水分率が15~200重量%の状態を保つようなPPTA繊維とし、該PPTA繊維骨格内に樹脂分散液を浸透・含浸させることによって得られる。PPTA繊維の結晶サイズが50オングストローム以上になると、樹脂分散液を繊維骨格内に浸透させることが難しくなる。
【0019】
また、PPTA繊維は、紡出後水分率が15質量%未満に乾燥された履歴を持たないことが望ましい。常に水分率が15質量%以上に調整されたPPTA繊維を用いることにより、樹脂分散液が浸透し易い状態を保持することができるからである。
【0020】
上記の水分量15~200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内に浸透・含浸させる樹脂分散液は、樹脂ディスパージョンあるいは樹脂エマルジョンであれば良く、樹脂の種類は特に限定されない。樹脂分散液として浸透・含浸させることで、樹脂を水溶液にして浸透・含浸させるよりも多量の樹脂を浸透させることができ、結果として、ポリプロピレン樹脂との親和性(特に接着性)を向上させることができる。また、浸透させる際にPPTA繊維表面に付着した樹脂による効果も期待できる。
【0021】
樹脂分散液を構成する樹脂としては、PPTA繊維及びポリプロピレン樹脂との接着性(密着性)に優れている点で、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂が好ましく、これらの樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂を用いることができる。
【0022】
ウレタン樹脂は、一つの分子内にポリイソシアネート成分とポリオール成分とが交互に存在するブロック共重合体であり、ポリイソシアネート成分を構成するウレタン、ウレア結合は分子内及び分子間の凝集力が強くハードセグメント、ポリオール成分はガラス転移点(Tg)が常温以下であり、分子鎖が回転しやすく、凝集力が弱いためソフトセグメントと呼ばれ、それぞれのセグメントがミクロ相分離した構造を形成する。このため、ハードセグメントの凝集力に由来し、接着性や耐摩耗性に優れ、ソフトセグメントのガラス転移温度(Tg)の低さに由来し、可撓性、低温特性に優れている。
エポキシ樹脂は、接着性、可撓性、耐熱性、耐摩耗性等に優れている。
【0023】
樹脂分散液中の樹脂濃度は、特に限定されるものではないが、樹脂濃度10質量%以上、好ましくは30~50質量%程度の分散液が用いられる。樹脂粒子径としては、浸透・含浸性に優れている点で粒子径が小さいものが好ましく、具体的には、平均粒子径(電子顕微鏡法による)が100nm以下であることがより好ましい。樹脂分散液のpHは6~10の範囲が好ましい。
【0024】
樹脂分散液の溶媒としては、水、水性溶媒またはこれらの混合溶媒が好ましく、特に水が好ましい。水性溶媒としては、エステル類、脂肪族アルコール類、(ポリ)アルキレングリコールエーテル類、ケトン類等が挙げられ、2種以上の混合溶媒でも良い。また、これら以外の有機溶媒が混合されていても良い。
【0025】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂分散液は、ウレタン樹脂を、界面活性剤を乳化剤に用いて強制乳化した乳化型エマルジョン、あるいは、ウレタン樹脂中に親水基を導入した自己乳化型エマルジョンのいずれであってもよい。前記の自己乳化型ウレタン樹脂エマルジョンの場合、PPTA繊維の表面官能基との反応性が良好なカルボン酸基あるいはスルホン酸基を導入したアニオン性自己乳化型ウレタン樹脂エマルジョン、あるいは、pH安定性に優れる非イオン性自己乳化型ウレタン樹脂エマルジョン等が好ましい。
【0026】
ウレタン樹脂としては、特に制限はなく、公知のウレタン樹脂を1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。ウレタン樹脂としては、ポリオールの種類により構造が異なるウレタン樹脂があり、例えば、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール類の炭素数2~4のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール等が挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリヘキサンメチレンカーボネートジオール等が挙げられる。
【0027】
また、ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタン-4,4´-ジイソシアネート(MDI)、3,3´-ジメチル-ジフェニルメタン-4,4´-ジイソシアネート、3,3´-ジメチル-4,4´-ビフェニレンジイソシアネート、3,3´-ジクロル-4,4´-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、1,3-または1,4-フェニレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、テトラメチレン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;及び、それらの変性物等から選択される1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0028】
ポリエーテル系ウレタン樹脂は、前記のポリエーテルポリオール、前記のポリイソシアネート、及び、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸等のカルボン酸含有ポリオールを原料として合成されるものでもよい。
【0029】
上記のウレタン樹脂のなかでも、耐水性に優れている点から、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂が好ましく、耐薬品性に優れている点から、ポリエーテル系ウレタン樹脂が好ましい。
【0030】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、公知のウレタン樹脂を1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリアルキレングリコール型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル化物が挙げられる。なお、エポキシ樹脂分散液は、エマルジョンタイプの水系エポキシ樹脂を用いたものでも良い。これらのエポキシ樹脂のなかでも、常温で液状のエポキシ樹脂、特にビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、中でも汎用型であるビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂分散液は、必要に応じて、脂肪族ポリアミン(例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン)、芳香族ポリアミン(例えばm-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン)、酸無水物(例えば無水フタル酸)等の公知の硬化剤が含むことができる。
【0032】
樹脂分散液を、水分量が15質量%未満になった履歴を有しない水分量15~200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内に浸透・含浸させる場合は、PPTA繊維の水分量を0%に換算した繊維質量に対して、固形分(樹脂)として0.1~20.0質量%浸透・含浸させることが好ましい。より好ましくは0.5~15.0質量%、さらに好ましくは1.0~12.0質量%、特に好ましくは3.0~10.0質量%である。浸透・含浸させる量が少ないと接着性付与効果が充分発揮されないことがある。
【0033】
例えば、樹脂分散液を浸透・含浸させたPPTA繊維を巻き取り工程でボビンに巻き取り、その後ボビンから巻き出し、熱処理して水分を除去し、水分率を15質量%未満とすることで、本発明のPPTA繊維複合体を製造することができる。
【0034】
本発明において樹脂分散液は、水分量15~200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内に浸透させる場合、油剤に含ませて用いてもよいし、油剤と別工程で用いてもよい。油剤としては、PPTA繊維に用いられる一般的な油剤、例えば、炭素数18以下の低分子量脂肪酸エステル、ポリエーテル、鉱物油等が挙げられる。樹脂を油剤に含ませて用いる場合は、上記油剤中に約20~60質量%含有させることが好ましく、より好ましくは30~50質量%である。
【0035】
樹脂分散液または樹脂分散液を含む油剤をPPTA繊維に付与する方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等の方法でPPTA繊維に付与される。
【0036】
樹脂分散液を浸透・含浸させたPPTA繊維複合体は、そのまま連続的に、もしくは一旦巻き取り工程でボビンに巻き取った後、巻き取ったPPTA繊維複合体をボビンから巻き出して、熱処理することにより、水分率を15質量%未満、より好ましくは10質量%未満とするのが良い。熱処理の条件は特に限定されない。例えば80~300℃、好ましくは100~250℃で熱処理をした場合に、水分率を15質量%未満にすることができる。この熱処理により、PPTAの結晶サイズが拡大し、結晶間間隙を狭くすることにより樹脂をPPTA繊維骨格内に固定することができる。
【0037】
本発明のPPTA繊維複合体は、樹脂分散液を浸透・含浸させていないPPTA繊維に比べて、ポリプロピレン樹脂との接着性が著しく向上する。その理由は明らかでないが以下のように考察する。
水分量が15~200質量%に調整されたPPTA繊維骨格内にエーテル基、エステル基、カーボネート基あるいはグリシジルエーテル基等を有する樹脂分散液を浸透・含浸させた後、熱処理して水分を除去することにより、PPTA繊維骨格内にエーテル基、エステル基、カーボネート基あるいはグリシジルエーテル基等を有する樹脂が固定される。ウレタン樹脂の場合、ハードセグメントを構成するウレタン結合がPPTA繊維との親和性が高く、ソフトセグメントを構成するエーテル結合がポリプロピレン樹脂と極性が近く親和性がある。
一方、PPTA繊維の表面官能基は、大部分がアミド基であるが、僅かではあるがアミド基の加水分解によりアミン基、カルボキシル基が存在する。PPTA繊維骨格内に固定された樹脂は、非加熱下および/または加熱下でPPTA繊維の官能基と反応し、PPTA繊維骨格内に固定される。かくして得られるPPTA繊維複合体は、ポリプロピレン樹脂との接着性が良好なものとなる。なお、反応性は、導入する樹脂の種類や導入後の乾燥条件によって異なるが、非加熱条件下よりも加熱す条件下で反応し易いと考えられる。
【0038】
本発明で得られるPPTA繊維複合体は、ポリプロピレン樹脂を補強するための繊維補強材として好適に用いられる。ポリプロピレン樹脂は、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、変性ポリプロピレン樹脂等であっても良い。それ以外でも、ゴム材料や、ポリプロピレン樹脂以外の各種樹脂材料との繊維補強材としても有用である。
【0039】
ゴム補強用として使用する場合は、本発明のPPTA繊維複合体に、公知のレゾルシンホルマリンラテックス(RFL)による浸漬処理を施す方法等が挙げられ、例えば、PPTA繊維複合体に、ゴムラテックス100質量部に対してレゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物を2~20質量部含有させた混合物を、固形分濃度で5~25質量%程度含有するRFL処理液を施した後、100~260℃で熱処理する方法が挙げられる。
【0040】
ゴムラテックスとしては、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、スチレン-ブタジエン系ゴムラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックスおよび天然ゴムラテックスなどが挙げられ、レゾルシン-ホルムアルデヒド初期縮合物としては、レゾルシン-ホルムアルデヒドを酸触媒またはアルカリ触媒下で縮合させて得られたノボラック型縮合物などが挙げられる。処理液には、ブロックドポリイソシアネート化合物、エチレンイミン化合物、ポリイソシアネートとエチレンイミンとの反応物などから選ばれた1種以上の化合物が混合されていてもよい。
【0041】
本発明のPPTA繊維複合体は、PPTA繊維骨格内に樹脂分散液を浸透・含浸させているので、RFL処理液の付着性がよい上に、RFL高温処理を行ったときコードの強力低下が生じにくい。
【0042】
また、RFLによる浸漬処理などを施した本発明のPPTA繊維複合体を0.1~5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体は、ゴムベルト用補強材としても有用である。
【0043】
本発明のPPTA繊維複合体に、RFL処理を施さずに0.1~5mmにカットしたフロック状の短繊維複合体は、歯車等に使用される紙、プリント配線板用シート状物、不織布、樹脂用添加剤等に有用である。
【0044】
本発明の繊維強化材は、上記した以外でも、PPTA繊維複合体をカットした短繊維、PPTA繊維複合体からなる繊維束、織物、編物、撚糸、加工糸など、種々の形態で用いられ形態は特に限定されない。
【0045】
本発明の繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料は、前記の繊維強化材とポリプロピレン樹脂とが複合化したものであり、複合化形態は特に限定されない。例えば、繊維強化材を引き揃えあるいは撚糸したものを、加熱プレス成形等でポリプロピレン樹脂シートに貼り付ける等の方法で、本発明の繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料を得ることができる。繊維強化材をポリプロピレン樹脂中に分散させる、繊維強化材の束や織編物にポリプロピレン樹脂を含浸させる、繊維強化材の束や織編物とポリプロピレン樹脂シートを積層させるなど種々の形態であって良い。
【0046】
繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料は、自動車、船舶、電気・電子機器、AV機器、OA機器または建築用の部品もしくは部材等として用いることができる。
【実施例
【0047】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中における各測定値は次の方法にしたがった。
【0048】
(1)水分率(質量%)
試料約5gの質量を測定し、105℃×1時間の熱処理を行い、24℃、55%RHで5分間放置した後、再度質量を測定する。ここで使う水分率は、[乾燥前質量-乾燥後質量]/[乾燥後質量]×100で得られるドライベース水分率である。
【0049】
(2)繊維への樹脂付着量(質量%)
樹脂分散液を処理する前の繊維を、あらかじめ決められた長さでサンプリングし、105℃、4時間処理を行い、24℃、55%RHで5分間放置した後の質量を測定する。次に、樹脂分散液処理後の繊維を、同じ長さでサンプリングし、同じく105℃、4時間処理した後の質量を測定する。ここで使う繊維への樹脂付着量は、[処理後の質量-処理前の質量]×100/[処理前の質量]で得られる。
【0050】
(3)剥離荷重(N)
引張試験機を用い、板状樹脂サンプルが水平方向にスムーズに動くように設計された治具に、樹脂表面上に端部から20mm程度が貼り付いていない長繊維を貼り付けた樹脂シートを設置し、貼り付いていない端部を垂直方向に移動するチャックにはさみ、チャックを上方(90度方向)に移動させた時の荷重を測定し、剥離荷重とした。
【0051】
(実施例1)
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1000個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間の低温乾燥をして、水分率35質量%のPPTA繊維(水分率0質量%換算のとき繊度1670dtex)になるように調整した。更に、このPPTA繊維を、ポリエーテル系ウレタン樹脂分散液(三洋化成工業株式会社製ケミチレン(R)GA-500)のディップ浴に通し、ロールで絞り、付着量を調整し、105℃、4時間乾燥させることにより、水分率0質量%換算としたときの繊維に対し7.6質量%(樹脂換算)の樹脂を、浸透・含浸させたPPTA繊維を製造した。
【0052】
得られたPPTA繊維に2.08回/インチの片撚りを加えた。
たて方向に1mm間隔で長さ265mm以上になるように、7本のPPTA繊維複合体を引き揃えた後、繊維端部となる部分を決め、端部から繊維引き揃え方向に対し長さ20mm、厚み0.1mmの離形フィルムを乗せ、更に繊維引き揃え方向に対し長さ265mm、厚さ4mmの東レプラスチック精工(株)製ポリプロピレン樹脂シート(密度:0.91g/cm、引張強度:29MPa)を乗せ、加熱プレス成形機にて3.8mmのスペーサーを用い、30kg/cmの荷重下180℃にて15分間処理し樹脂を溶融させた後、引き続き、常温、70kg/cmの条件下で、金型ごと50℃以下まで冷却固化させることにより、3.8mm厚の非強化ポリプロピレン樹脂シート上にPPTA繊維を貼り付けたPPTA繊維強化ポリプロピレン樹脂シートを得た。このシート試験片におけるPPTA繊維の剥離荷重は15Nであった。
【0053】
(実施例2)
実施例1で得た水分率35質量%のPPTA繊維をディップするディップ液に、ポリカーボネート系ウレタン樹脂分散液(MICHELMAN(R)製U2-04)を用い、実施例1と同様の方法で、水分率0質量%換算としたときの繊維に対し4.3質量%(樹脂換算)の樹脂を、浸透・含浸させたPPTA繊維を製造した。
得られたPPTA繊維に2.08回/インチの片撚りを加えたものを用い、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維を貼り付けたPPTA繊維強化ポリプロピレン樹脂シートを得た。このシート試験片におけるPPTA繊維の剥離荷重は12Nであった。
【0054】
(実施例3)
実施例1で得た水分率35質量%の処理前のPPTA繊維に通すディップ液にビスフェノールA型エポキシ樹脂分散液(吉村油化学株式会社製ユカレジンKE-307-N)を用い、実施例1と同様の方法で、水分率0質量%換算としたときの繊維に対し6.6質量%(樹脂換算)の樹脂を、浸透・含浸させたPPTA繊維を製造した。
得られたPPTA繊維に2.08回/インチの片撚りを加えたものを用い、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維を貼り付けたシートを得た。このシート試験片におけるPPTA繊維の剥離荷重は12Nであった。
【0055】
(比較例1)
実施例1で得た水分率35質量%の処理前のPPTA繊維にディップ液を通すことなく、乾燥させたこと以外は、実施例1と同様の方法で、樹脂分散液を付与していないPPTA繊維を貼り付けたPPTA繊維強化ポリプロピレン樹脂シートを得た。このシート試験片におけるPPTA繊維の剥離荷重は9Nであった。
【0056】
【表1】
【0057】
表1の結果から、ポリエーテル系ウレタン樹脂分散液を浸透・含浸させた本実施例1のPPTA繊維強化ポリプロピレン樹脂は、浸透・含浸させていないPPTA繊維強化ポリプロピレン樹脂(比較例1)に比べて、ポリプロピレ樹脂に対するPPTA繊維の接着性が1.7倍向上していることが認められた。また、ポリカーボネート系ウレタン樹脂分散液またはビスフェノールA型エポキシ樹脂を浸透・含浸させた本実施例2、3のPPTA繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料は、比較例1よりもポリプロピレン樹脂に対する接着性が1.3倍向上していることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維強化材及びそれを含む繊維強化ポリプロピレン樹脂複合材料は、各種産業資材に有用である。