(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20220204BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220204BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220204BHJP
C12P 19/22 20060101ALI20220204BHJP
C07H 19/01 20060101ALI20220204BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20220204BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220204BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
A61K8/67
A61K8/73
A61Q19/00
C12P19/22
C07H19/01 CSP
A61K31/7048
A61P17/00
A61P17/16
(21)【出願番号】P 2018554258
(86)(22)【出願日】2017-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2017043137
(87)【国際公開番号】W WO2018101431
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】P 2016233629
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100158872
【氏名又は名称】牛山 直子
(72)【発明者】
【氏名】梅山 晃典
(72)【発明者】
【氏名】田村 正明
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-208991(JP,A)
【文献】特開平06-211636(JP,A)
【文献】特表2010-539105(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2003-0024934(KR,A)
【文献】国際公開第2015/046848(WO,A1)
【文献】Agricultural and Biological Chemistry,1991年,Vol. 55, No. 7,p. 1751-1756
【文献】Applied Biochemistry and Microbiology,2007年,Vol. 43, No. 1,p. 36-40
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2002年,Vol. 50,p. 3309-3316
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2004年,Vol. 68, No. 1,p. 36-43
【文献】Food Chemistry,2015年,Vol. 169,p. 366-371
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00-19/64
C07H 19/01
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で表わされる2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸又はその塩を含有する組成物であって、前記2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸中の70モル%以上が2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸(n=2)である2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物、を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
前記2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸中の90モル%以上が2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸(n=2)であることを特徴とする、
請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
前記2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸中の、n=4以上の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の割合が1モル%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
前記2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物が粉末であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
(a)下記一般式(1)
【化2】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で表わされる2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸であって、n=1~7の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を全て含む混合物を用意する工程と、
(b)前記混合物にβ-アミラーゼを作用させる工程と、
(c)β-アミラーゼを作用させた前記混合物を精製して2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物を得る工程
を有することを特徴とする、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿性及び肌の濡れ性に優れた2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸は、下記一般式(1)
【0003】
【0004】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で示される化学構造を有し、加水分解によりL-アスコルビン酸と糖化合物に分解する。2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸はL-アスコルビン酸よりも酸化されにくく安定性に優れる一方で、体内では容易に加水分解されL-アスコルビン酸と同等の生理活性を有することが知られており(特許文献1及び2)、化粧品、食品及び医薬品など、広い応用が期待される。
【0005】
2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸は、L-アスコルビン酸とデキストリンとの混合物に糖転移酵素を作用させることにより、上記一般式(1)のnが1~7程度の化合物の混合物として得ることができる。しかし、当該混合物はべたつきが強いなど、応用材料として好ましくない性質を備えているため、当該混合物にグルコアミラーゼを作用させ、精製した結果の、n=1である2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸のみが用いられてきた(特許文献1)。一方で、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸は、保湿性や肌の濡れ性が不十分であり、化粧品などの皮膚外用剤としてより有用な化合物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平03-135992号公報
【文献】特開平03-183492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸を含有してなる、べたつきがなく、保湿性及び肌の濡れ性に優れた組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、下記一般式(1)で表される2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸のうち、
【0009】
【0010】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
これまで有用とは思われていなかったn=2である2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸が特に保湿性及び肌の濡れ性に優れることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下に示すとおりである。
【0011】
(1)下記一般式(1)
【0012】
【0013】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で表わされる2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸又はその塩を含有する組成物であって、前記2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸中の70モル%以上が2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸(n=2)であることを特徴とする、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物。
(2)
前記2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸中の90モル%以上が2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸(n=2)であることを特徴とする、(1)に記載の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物。
(3)
前記2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸中の、n=4以上の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の割合が1モル%以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物。
(4)
粉末であることを特徴とする(1)から(3)のいずれか一項に記載の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物。
(5)
(1)から(4)のいずれか一項に記載の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
(6)
2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸又はその塩。
(7)
(a)下記一般式(1)
【0014】
【0015】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で表わされる2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸であって、n=1~7の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を全て含む混合物を用意する工程と、
(b)前記混合物にβ-アミラーゼを作用させる工程と、
(c)β-アミラーゼを作用させた前記混合物を精製して2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物を得る工程
を有することを特徴とする、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保湿性及び肌の濡れ性に優れ、化粧品など皮膚外用剤として有用な2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸>
本明細書において、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸とは下記一般式(1):
【0018】
【0019】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
で表される2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の1種又はそれらの混合物である。前記一般式(1)のnは、L-アスコルビン酸の2位に結合しているグルコース残基のα位に結合する糖(グルコース)の数を意味する1以上の整数である。本発明の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸は、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(n=1)、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸(n=2)、2-O-α-D-マルトトリオシル-L-アスコルビン酸(n=3)、2-O-α-D-マルトテトラオシル-L-アスコルビン酸(n=4)、2-O-α-D-マルトペンタオシル-L-アスコルビン酸(n=5)、2-O-α-D-マルトヘキサオシル-L-アスコルビン酸(n=6)、2-O-α-D-マルトヘプタオシル-L-アスコルビン酸(n=7)、又は2-O-α-D-マルトオクタオシル-L-アスコルビン酸(n=8)のいずれか又はそれらの混合物であってよい。
【0020】
本発明の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物は、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸又はその塩を含有する組成物を意味する。本発明の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物は、保湿性、べたつき、肌への濡れ性の観点から、その組成中の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸のうち、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上が2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸であることが好ましい。2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物以外の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸は、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(n=1)、及び/又は2-O-α-D-マルトトリオシル-L-アスコルビン酸(n=3)であることが好ましい。n=4以上の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸は10モル%以下、5モル%以下、1モル%以下、0.1モル%以下であることが好ましく、実質的に含まないことが好ましい。
【0021】
2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸は公知の方法、例えば特許文献1に記載の方法により製造することができる。
2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物を含有し、かつn=4以上の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を実質的に含有しない組成物は、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸混合物にβ-アミラーゼを作用させることで得ることができる。
本発明の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸含有組成物は例えば以下のような工程によって得ることができる。
(1)L-アスコルビン酸とα-グルコピラノシル糖化合物とを含有する溶液に、糖転移酵素を作用させ、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸(n=1~7)の混合溶液を得、次いで当該混合溶液にβ-アミラーゼを作用させることによってn=4以上となる糖鎖を切断し、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸(n=1~3)含有溶液を作製する。
(2)当該2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸(n=1~3)含有溶液を、イオン交換樹脂等を用いて、未反応のL-アスコルビン酸と糖類を除去し精製する。
(3)溶媒を除去して粉末の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸(n=1~3)を得る。
工程(2)の生成時の条件によって2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸の含有比率を制御することができる。
【0022】
<2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸金属塩>
本発明の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸及び2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸以外の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸は塩であってもよく、好ましくは金属塩であってよい。2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸と、金属塩と、を反応させることで2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の金属塩を製造することができる。
2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の金属塩の金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオンのようなアルカリ金属;マグネシウムイオン、カルシウムイオンのような第2族元素の金属イオン;鉄イオン、銅イオンのような遷移金属イオン;及び亜鉛イオン、アルミニウムイオンなどのその他の金属イオンからなる群より選ばれる金属イオン又はその組み合わせであってよい。
2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸と反応させる金属塩としては、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウムなどがあげられる。水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの水酸化金属塩は、反応による副生成物が水であるため、特に好ましい。
【0023】
<2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の粉末の製造方法>
溶媒に前記2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を溶解させた溶液を作製する工程と、前記溶液を噴霧乾燥することによって、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を粉末にさせる工程と、を含む方法によって2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の粉末を製造することができる。
前記溶媒は2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸が溶解するものであれば公知の溶媒を自由に用いることができるが、好ましくは水及び/又はアルコールであり、特に好ましくは水である。前記アルコールとしてはエタノールが好ましい。
前記噴霧乾燥は、例えば、スプレードライヤーを用いて行うことができる。噴霧乾燥は、スプレードライヤーの入口温度を140~180℃で行うことが好ましく挙げられる。
140℃よりも低温であると溶媒を十分に蒸発させることができない可能性があるため、乾燥粉末が得られない恐れがある。一方、180℃よりも高温であると工程中に2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸が分解又は揮散してしまう恐れがある。また、スプレードライヤーの出口温度は50~100℃で行うことが好ましく挙げられる。
【0024】
本発明の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸及びそれを含有する組成物は、界面活性及び保湿性に優れ、べたつきが低く、肌への濡れ性に優れる。
本発明の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸及びそれを含有する組成物は、単独で、又は他の成分と併用して、飲食品、皮膚外用剤などとして用いることができる。
皮膚外用剤とは、外皮に適用する組成物を意味し、例えば化粧品、医薬品、医薬部外品を含む。外皮は、毛髪及び爪を含む。
皮膚外用剤としては、使用目的、製剤特性及び使用形態に応じて、一般的に皮膚外用剤の調製に際して使用される公知の基剤や担体などを適宜選択し、適用することができる。
また、必要に応じて、他の成分、例えば、界面活性剤、皮膚吸収促進剤、酸化防止剤、補助剤、紫外線吸収剤、増粘剤、増量剤、安定剤、着色剤、着香剤、防腐剤、防カビ剤、などと併用することができる。
皮膚外用剤は、軟膏剤、クリーム剤、噴霧剤、ローション剤、粉剤、ゲル剤、ゾル剤、エアロゾル剤、パップ剤、テープ剤などの剤形として、使用目的及び使用形態など所望により適宜選択し、調製することができる。
本発明の皮膚外用剤においては、皮膚外用剤全体に対して0.001~50重量%、0.01~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を含む。2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸中の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸の割合は前記したものが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下の例において、本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した先行技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0026】
(製造例1)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を含有する粉末の作製(n=1~3)
(1)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の合成
水1000gに液化澱粉125gとL-アスコルビン酸50gを加えて溶解させ、pHを5に調整した。これに、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ酵素製剤(Toruzyme3.0L、Novozymes社製)を20g加えて、50℃にて48時間反応させることで、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトトリオシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトテトラオシル-L-アスコルビン酸などの2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を含有する反応液を得た。
得られた反応液を加熱することで酵素失活させて反応を停止させた後、β-アミラーゼ酵素製剤(β-アミラーゼ F「アマノ」、天野エンザイム(株)製)を0.7g加えて、50℃にて2時間反応させることで、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトトリオシル-L-アスコルビン酸を含む反応液を得た。反応後、加熱することで酵素を失活させて反応を停止させた。
(2)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の精製
得られた反応液に活性炭を加えて脱色、ろ過した。ろ液を、H型カチオン交換樹脂を充填したカラムに通液して金属イオンを取り除いた後、OH型アニオン交換樹脂を充填したカラムに通液して2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトトリオシル-L-アスコルビン酸を吸着させた。吸着したアニオン交換樹脂を水洗して未反応の糖類を除去した後、0.1Nの水酸化ナトリウムを通液することで、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトトリオシル-L-アスコルビン酸、それぞれを分離させて溶出させた。この時、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸を高純度で含有する分画を回収し、回収分画を変えることで、下記の表1に示す各組成の精製液を得た。
【0027】
【0028】
【0029】
(表中の数値の単位はモル%である)
さらに、各精製液を、H型カチオン交換樹脂を充填したカラムに通液することで、金属イオンを除去した2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を含有する組成物の精製液を得た。
(3)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の噴霧乾燥
2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を含有した各水溶液を固形分15%程度まで加熱減圧濃縮した後、活性炭を加えて脱色精製を行い、ろ過した。ろ液をスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製、B-290)にて入口温度160℃、出口温度75℃で噴霧乾燥を行うことで、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を含有する組成物の粉末を得た。
【0030】
(製造例2)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を含有する粉末の作製(n=1~7)
(1)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の合成
水1000gに液化澱粉125gとL-アスコルビン酸50gを加えて溶解させ、pHを5に調整した。これに、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ酵素製剤(Toruzyme3.0L、Novozymes社製)を20g加えて、50℃にて48時間反応させることで、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトトリオシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトテトラオシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトペンタオシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトヘキサオシル-L-アスコルビン酸、2-O-α-D-マルトヘプタオシル-L-アスコルビン酸などの2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を含有する反応液を得た。
反応後、加熱することで酵素を失活させて反応を停止させた。
(2)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の精製
得られた反応液に活性炭を加えて脱色、ろ過した。ろ液を、H型カチオン交換樹脂を充填したカラムに通液して金属イオンを取り除いた後、OH型アニオン交換樹脂を充填したカラムに通液して2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を吸着させた。吸着したアニオン交換樹脂を水洗して未反応の糖類を除去した後、0.1Nの水酸化ナトリウムを通液することで、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸を溶出させた。
得られた2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の精製液の各組成比を下記表2に示す。
【0031】
【0032】
(表中の数値の単位はモル%である)
さらに、精製液を、H型カチオン交換樹脂を充填したカラムに通液することで、金属イオンを除去した2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の精製液を得た。
(3)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の噴霧乾燥
2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の水溶液を固形分15%程度まで加熱減圧濃縮した後、活性炭を加えて脱色精製を行い、ろ過した。ろ液をスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製、B-290)にて入口温度160℃、出口温度75℃で噴霧乾燥を行うことで、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸の粉末を得た。
【0033】
(製造例3)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸カリウム塩及びその粉末の作製
(1)前記した組成1の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸に対して、1モル当量の水酸化カリウムを加えて、40℃にて1時間撹拌することで、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸カリウム塩の水溶液を得た。
(2)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸カリウム塩の水溶液を固形分15%程度まで加熱減圧濃縮した後、活性炭を加えて脱色精製を行い、ろ過した。ろ液をスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製、B-290)にて入口温度160℃、出口温度75℃で噴霧乾燥を行うことで、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸カリウム塩の粉末(組成1K塩)を得た。
前記した組成2~7の2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸についても組成1と同様にして、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸カリウム塩の粉末(組成2~7K塩)を得た。
【0034】
(製造例4)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸ナトリウム塩及びその粉末の作製
1モル当量の水酸化カリウムに代えて、1モル当量の水酸化ナトリウムを用いた以外は製造例3と同様にして、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸ナトリウム塩の粉末(組成1~8Na塩)を得た。
【0035】
(製造例5)2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸マグネシウム塩及びその粉末の作製
1モル当量の水酸化カリウムに代えて、0.5モル当量の水酸化マグネシウム塩を用いた以外は製造例3と同様にして、2-O-α-D-グリコシル-L-アスコルビン酸マグネシウム塩の粉末(組成1~8Mg塩)を得た。
【0036】
(比較例)
比較例として、組成9:2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸、組成9K塩:2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸カリウム塩、組成9Na塩:2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸ナトリウム塩、組成9Mg塩:2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸マグネシウム塩、及び組成10:L-アスコルビン酸を用意した。
【0037】
<保湿性の評価>
組成1~10の各組成物及びその金属塩の10%水溶液20gを入れた、容量50mlのガラス瓶を、温度25℃、湿度35%のデシケーターに入れ、その時間当たり面積当たりの減少重量から保湿性を評価した。
<官能評価>
各組成物の10%水溶液を調製し、20~40歳の男性5名および女性5名の合計10名の被験者の前腕部に塗布し、塗布後30分間経過したときに、皮膚に対する保湿性を以下の評価基準に基づいて被験者に評価してもらい、その得点を合計した後、合計点を人数の10で除することにより、平均点を求めた。
評価基準
2点:塗布前よりも肌がしっとりする。
1点:塗布前よりも肌がややしっとりする。
0点:塗布前と変わらない。
【0038】
その結果を下記の表3に示す。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
(表中、保湿性の単位はmg/cm2・hrである)
保湿性の試験の結果、2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸を含有する組成物又はその塩(組成1~8又はその塩)は2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸のみの場合(組成9又はその塩)に比べて高い保湿性を有し肌の濡れ性に優れることが明らかになった。また、意外にも、n=4以上の糖鎖を含む組成物8又はその塩は保湿性に劣ることが分かった。n=2の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸又はその塩は、n=1やn=4以上の化合物よりも保湿性及び肌の濡れ性に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、保湿性が高く、べたつきがなく肌の濡れ性に優れた2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸及びそれを含有する組成物を提供する。本発明の2-O-α-D-マルトシル-L-アスコルビン酸は化粧品などの皮膚外用剤として特に有用である。