IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

特許7018712中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構
<>
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図1
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図2
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図3
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図4
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図5
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図6
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図7
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図8
  • 特許-中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20220204BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
E04B1/30 K
E04B1/58 507P
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017049361
(22)【出願日】2017-03-15
(65)【公開番号】P2018150770
(43)【公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊坂 隆則
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智昭
(72)【発明者】
【氏名】上野 純
(72)【発明者】
【氏名】北村 公直
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-080444(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156072(WO,A1)
【文献】特開平05-280099(JP,A)
【文献】特開2004-332236(JP,A)
【文献】米国特許第05161340(US,A)
【文献】特開平02-136444(JP,A)
【文献】特開平06-316960(JP,A)
【文献】特開2001-011946(JP,A)
【文献】実開平05-057107(JP,U)
【文献】特開平06-220957(JP,A)
【文献】特開2001-288848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04B 1/16-1/18,1/30
E04C 3/34
E04C 5/16-5/20
E04G 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートの柱とH型鋼の梁が、前記柱の柱頭部に設けられた柱梁接合部材によって接合された、柱梁架構であって、
前記柱は、上下方向に延在して上端及び下端が開口する内部空間を有する、中空のプレキャストコンクリート柱であり、
前記柱梁接合部材は、中実の鉄筋コンクリート製で略直方体形状の本体と、該本体を水平方向に貫通して前記本体の外方に突出する、梁接合用の継手部と、前記本体に埋設されて主筋を囲う長方形状のフープ筋とを備え、
前記フープ筋の各々は、前記本体の断面4隅に位置する複数の前記主筋のうち、2か所の前記主筋を囲うように前記本体の各辺と平行に配筋され、
前記本体は、前記継手部の下面より下方に、所定の値以上の厚さの下部コンクリート部を備えており、該下部コンクリート部の下面が前記柱に接続されている、中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、建築構造物の柱梁架構として、例えば柱を鉄筋コンクリートとし、梁を鉄骨や鉄筋コンクリートとするような構造が広く使用されている。
【0003】
上記のような構造を使用するに際し、鉄筋コンクリート柱(以下、RC柱と呼称する)の構築には多くの工数と労務を要し、工期が長くなるため、工期を低減しようとした場合においては、RC柱の構築がボトルネックとなる。しかし、工期短縮のためにRC柱の全体、あるいは多くの部分をプレキャストコンクリート(以下、PCaと呼称する)で実現しようとして、RC柱のPCa率を高めると、RC柱の重量が重くなるために、現場への搬入や設置に大型の揚重機械や運搬機械が必要となり、施工コストが嵩む。したがって、RC柱のPCa率を低減してRC柱を軽量化すると同時に、RC柱全体をPCaとした場合と同等の工期で実現可能な施工方法が必要とされている。
【0004】
このような施工方法の一つとして、中空のRC柱、すなわち、上端が開口する内部空間を有するように形成することにより、PCa率を低減して軽量化した、中空RC柱を使用する施工方法が行われている。中空RC柱を使用すると、軽量化に伴って、大型の揚重機械や運搬機械が不要となる、ブームが長い揚重機械を使えるため揚重機械一台で柱を設置可能な場所が大きくなる、設置が容易となるため施工速度を向上できる、などの効果を奏することが可能となり、これにより、施工コストを低減できる。特許文献1には、このようなPCa柱が開示されている。
【0005】
一般には、中空RC柱を立設した後に、強固な構造躯体を実現するために、柱の内部空間に対してコンクリートを打設するが、建築構造物の軽量化や施工費の低減等を目的として、中空RC柱の内部にコンクリートを打設せず、柱を中空のままとした建築構造物が施工されることもある。しかし、中空RC柱により建築構造物を実現するには、中空RC柱の側面に梁を接合させることが難しい。これに対し、特許文献2は、次のような中空プレキャスト柱を開示している。
【0006】
図9は、特許文献2に開示されている中空プレキャスト柱を示す。中空プレキャスト柱は、中空のプレキャスト柱部材101、102同士を軸線方向に接合して形成されている。梁120を接合させるための柱梁接合部材103が上下のプレキャスト柱部材101、102の間に介在されている。プレキャスト柱部材101、102の中空部101a、102aの中にPC鋼材104…、105…が挿通され、PC鋼材104…、105…により柱梁接合部材103を介してプレキャスト柱部材101、102にプレストレスが付与されている。これにより、柱梁接合部材103の上面103aに上側のプレキャスト柱部材102の下端面102bが圧着されるとともに、柱梁接合部材103の下面103bに下側のプレキャスト柱部材101の上端面101cが圧着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-115418号公報
【文献】特開2007-224581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献2に記載の構造は、梁120の接合される柱梁接合部材103と、上下のプレキャスト柱部材101、102を、PC鋼材104…、105…によってプレストレスを付与することで、柱梁接合部材103とプレキャスト柱部材101、102の接合強度を高めている。また、プレキャスト柱部材101、102の上端面101cや下端面102bと、柱梁接合部材103の下面103bや上面103aが、それぞれ接触する部位においては、柱梁接合部材103は梁120の梁成程度の厚さしか有しておらず、プレキャスト柱部材101、102が梁120に直接接触するに近い構造となっている。このような構造においては、地震時に水平方向に力が作用した場合においては、プレキャスト柱部材101、102と梁120間の応力伝達が十分かつ確実に行われず、これにより建築構造物が損壊する危険性がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の構造においては、PC鋼材104…、105…によってプレストレスが付与されているが、現場においてプレストレスを与えながら柱梁接合部材103とプレキャスト柱部材101、102を接合するのは容易ではなく、すなわち施工が困難である。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、梁と中空鉄筋コンクリート柱間の確実な応力伝達が可能であり、施工が容易な、中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構及び該柱梁架構を備えた建築構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明による中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構は、鉄筋コンクリートの柱とH型鋼の梁が、前記柱の柱頭部に設けられた柱梁接合部材によって接合され、前記柱は、上下方向に延在して上端及び下端が開口する内部空間を有する、中空のプレキャストコンクリート柱であり、前記柱梁接合部材は、中実の鉄筋コンクリート製で略直方体形状の本体と、該本体を水平方向に貫通して前記本体の外方に突出する、梁接合用の継手部と、前記本体に埋設されて主筋を囲う長方形状のフープ筋とを備え、前記フープ筋の各々は、前記本体の断面4隅に位置する複数の前記主筋のうち、2か所の前記主筋を囲うように前記本体の各辺と平行に配筋され、前記本体は、前記継手部の下面より下方に、所定の値以上の厚さの下部コンクリート部を備えており、該下部コンクリート部の下面が前記柱に接続されている。
このような構成によれば、柱梁接合部材の本体は、本体を水平方向に貫通し、梁が接続される継手部と、継手部の下面より下方に、所定の値以上の厚さの下部コンクリート部を備えており、下部コンクリート部の下面が柱に接続されている。すなわち、柱の上面と継手部の下面の間に、支圧応力により求められる所定の値以上の厚さのコンクリートが介在している。このため、柱梁接合部材と、柱梁接合部材の下に位置する中空RC柱の間の応力伝達が、本体を貫通する継手部の下面から下部コンクリート部へ、及び、下部コンクリート部から中空RC柱へと、十分かつ確実に行われ、これにより、地震力に耐えうる柱梁架構を実現することが可能となる。
また、鋼材にプレストレスを与えるなどの特殊な施工を行う必要がないため、施工が容易である。
【0012】
本発明の一態様においては、前記本体は、前記継手部の上面より上方に、第2の所定の値以上の厚さの上部コンクリート部を備え、該上部コンクリート部の上面上に、第2の中空のプレキャストコンクリート柱が設けられている。
このような構成によれば、柱梁接合部材の本体は、柱が接続される継手部の上面より上方に、第2の所定の値以上の厚さの上部コンクリート部を備えており、上部コンクリート部の上面上に、第2の中空のプレキャストコンクリート柱が設けられている。すなわち、第2の柱の下面と継手部の上面の間に、支圧応力により求められる第2の所定の値以上の厚さのコンクリートが介在している。このため、柱梁接合部材と、柱梁接合部材の上に位置する第2の中空RC柱の間の応力伝達が、第2の中空RC柱から上部コンクリート部へ、及び、上部コンクリート部から本体を貫通する継手部の上面へと、十分かつ確実に行われ、これにより、地震力に耐えうる柱梁架構を実現することが可能となる。
【0013】
本発明の一態様においては、前記柱は、該柱の外側表面と、内部空間を形成する内壁の間に、鉛直方向に延在して、前記柱の上端から突出する主筋を備え、該主筋が、前記下部コンクリート部の下面から前記本体の内部を挿通されて、前記本体の上面上方で固定されている。
このような構成によれば、柱の主筋は、柱の外側表面と、内部空間を形成する内壁の間に設けられており、また、柱梁接合部材においては下部コンクリート部の下面から本体の内部を挿通されるように設けられているため、主筋は柱や柱梁接合部材を構成するコンクリートなどに埋設されている。すなわち、本構成においては、特許文献2に記載の構造とは異なり、主筋が空気に晒されていない。したがって、主筋はコンクリート等によって保護されているため、火災などに備えて特別に耐火被覆を施す必要がなく、したがって施工コストを低減可能である。
【0014】
本発明の一態様においては、前記柱梁接合部材はプレキャストコンクリート製である。
このような構成によれば、現場における施工工数を抑えることが可能となり、施工に要する工期を低減させることができる。
【0015】
本発明の一態様においては、建築構造物が、上記の、中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構を備えている。
このような構成によれば、上記の柱梁架構が適用可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、梁と中空鉄筋コンクリート柱間の確実な応力伝達が可能であり、施工が容易な、中空のプレキャストコンクリート柱を用いた柱梁架構及び該柱梁架構を備えた建築構造物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態として示した、中空のPCa柱を用いた柱梁架構の正面図である。
図2】上記柱梁架構を構成するPCa柱の、(a)は正面図、(b)(c)(d)は断面図である。
図3】上記柱梁架構の、柱梁接合部材近傍の斜視図である。
図4】上記柱梁架構を構成する柱梁接合部材の水平断面図である。
図5】上記柱梁架構を構成する柱梁接合部材の側断面図である。
図6】上記実施形態として示した、中空のPCa柱を用いた柱梁架構の、第1の変形例の正面図である。
図7】上記実施形態として示した、中空のPCa柱を用いた柱梁架構の、第2の変形例の正面図である。
図8】PCa柱の断面図である。
図9】従来の梁と柱の接合構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態として示した中空PCa柱を用いた柱梁架構1の正面図である。
【0019】
柱梁架構1は、基礎や床スラブ2等の上に立設されたPCa柱3(3A、3B)と梁5が、PCa柱3の柱頭部3aに設けられた柱梁接合部材4によって接合されることによって形成されている。PCa柱3は、上下方向に延在して上端3b及び下端3eが開口する内部空間3cを有する、中空PCa柱3である。他方、柱梁接合部材4は、中実、すなわち、内部空間を有することなく、コンクリートが密実に充填されて形成されている。本実施形態においては、梁5としてH型鋼を使用している。
【0020】
図2(a)は、PCa柱3の正面図であり、図2(b)は図2(a)のA-A断面図、図2(c)は図2(a)のB-B断面図、及び、図2(d)は図2(b)、(c)のC-C断面図である。
【0021】
本実施形態においては、高さ方向Z、すなわちPCa柱3の長さ方向Zに直交する左右方向Xにおける断面形状は、図2(b)、(c)に示されるように矩形形状である。PCa柱3の内部空間3cは、左右方向Xにおける断面形状が円形となるように、高さ方向Zに延在して形成されている。PCa柱3、及び内部空間3cの断面形状は、後に説明するように、他の形状であってもよいのは言うまでもない。
【0022】
PCa柱3の外側表面3gと、内部空間3cを形成する内壁3fとの間には、複数の主筋10が、高さ方向Z、すなわち、PCa柱3の長さ方向Zに延在するように設けられている。主筋10は、主筋10の上端10aがPCa柱3の上端3bから突出するように、設けられている。PCa柱3の下端3eには、機械式継手12が、その一方の端面12aが下端3eから露出するように埋設されており、機械式継手12の上記端面12aと他方の端面12b間を挿通するように形成された内部空間12cに、端面12b側から主筋10の下端10bが挿入されて、固定されている。PCa柱3の外側表面3gには、図2(c)に示されるように、機械式継手12の内部空間12cと外部を連通させる、グラウト注入用の孔3hが開設されている。
主筋10を囲うように、フープ筋11が配筋されている。
【0023】
PCa柱3は、図1に示される、上側に位置する第2のPCa柱3Bのように、柱梁接合部材4の上に設置されることがある。この際に、機械式継手12を備える下端3eは、柱梁接合部材4及び柱梁接合部材4より下に位置するPCa柱3Aとのジョイントとして機能する。
【0024】
次に、図3乃至図5を用いて、柱梁接合部材4を説明する。図3は、図1のH矢視部分を拡大した斜視図である。図4(a)、(b)はそれぞれ、PCa柱3に接続された状態の柱梁接合部材4の、図1におけるD-D及びE-E部分の断面図である。また、図5(a)、(b)はそれぞれ、図4におけるF-F及びG-G部分の断面図である。
【0025】
柱梁接合部材4は、中実の鉄筋コンクリート製の本体15と、梁接合用の継手部16を備えている。本体15は、略直方体形状をなしており、継手部16は、本体15を水平方向に貫通して本体15の外方に突出するように、本体15に設けられている。本実施形態においては、上記のように梁5としてH型鋼を使用しているため、この梁5と接合するように、継手部16もH型鋼を使用して製作されている。すなわち、各継手部16は上フランジ16a、下フランジ16b、及びウェブ16cを備えている。
【0026】
本実施形態においては、奥行方向Yに延在する梁接合用の継手部16Bが、本体15を貫通して設けられている。また、左右方向Xに延在する梁接合用の2本の継手部16Aが、各々の一端16gが本体15内において継手部16Bの奥行方向Yにおける略中央近傍の両側面に接続されて、他端16hが本体15の左右方向Xにおける両側面から突出するように設けられている。これにより、左右方向Xに延在する継手部16Aも、全体として、本体15を貫通するように設けられている。
【0027】
図5に示されるように、本体15は、継手部16の下面より下方に、すなわち、継手部16の下フランジ16bの下面16eの下方に、所定の値以上の厚さの下部コンクリート部15aを備えている。また、本体15は、継手部16の上面より上方に、すなわち、継手部16の上フランジ16aの上面16dの上方に、第2の所定の値以上の厚さの上部コンクリート部15bを備えている。
【0028】
柱梁接合部材4は、下部コンクリート部15aの下面15cがPCa柱3Aの上端3bに接続され、かつ、上部コンクリート部15bの上面15d上に、第2の中空PCa柱3B、すなわち上のPCa柱3Bの下端3eが接続されている。このように、柱梁接合部材4は、PCa柱3Aと第2のPCa柱3Bの間に介装されて設けられている。本体15を水平方向に断面視した時の、本体15の外形形状は、PCa柱3の断面形状と略同じ形状、すなわち矩形となっており、上記のように柱梁接合部材4が設けられた際に、PCa柱3の外側表面3gと、本体15の外側表面15eが滑らかに連続するように形成されている。
【0029】
下部コンクリート部15aの厚さT、すなわち、下部コンクリート部15aの下面15cと継手部16の下フランジ16bの下面16eの高さ位置の差は、支圧応力により定められている。
同様に、上部コンクリート部15bの厚さT、すなわち、上部コンクリート部15bの上面15dと継手部16の上フランジ16aの上面16dの高さ位置の差は、支圧応力により定められている。
【0030】
柱梁接合部材4が上記のようにPCa柱3A上に設けられた際に、PCa柱3Aの主筋10に対応する水平位置には、主筋10の外径よりもわずかに大きな内径を有するシース管17が設けられている。シース管17は、その両端が下部コンクリート部15aの下面15c及び上部コンクリート部15bの上面15dに露出するように、鉛直方向に延在して設けられている。
【0031】
PCa柱3Aの主筋10は、下部コンクリート部15aの下面15cから本体15の内部を挿通されて、本体15の上面15d上方で固定されている。すなわち、PCa柱3Aの主筋10は、下部コンクリート部15aの下面15cに露出したシース管17の端部から、シース管17の内部を挿通して、主筋10の上端10aが上部コンクリート部15bの上面15dに露出したシース管17の端部から上方に突出するように配されている。
【0032】
図4、5に示されるように、柱梁接合部材4内には、鉛直方向に延在する複数のシース管17を外方から囲うように、フープ筋18が配筋されている。図5(b)に示されるように、継手部16Bのウェブ16cには孔16fが開設されており、継手部16の位置する高さにおいては、フープ筋18はこの孔16fを挿通して配筋されている。図3においては、図面を簡潔にするために、フープ筋18は図示されていない。
【0033】
特に図5(b)に示されるように、主筋10の上端10aは、柱梁接合部材4の上に設けられた第2の中空PCa柱3Bの下端3eに露出した機械式継手12内に、下方から挿入されて固定されている。機械式継手12と、機械式継手12内に挿入されているPCa柱3Aの主筋10の上端10a及び第2の中空PCa柱3Bの主筋10の下端10bとの間には、グラウトが充填されている。図3においては、図面を簡潔にするために、紙面左側に位置するシース管17に対してのみ、対応する主筋10及び機械式継手12が図示されているが、実際には、他のシース管17についても同様に、対応する主筋10及び機械式継手12が設けられているのはいうまでもない。
【0034】
PCa柱3Aの上端3bと柱梁接合部材4の下面15cの間、及び、柱梁接合部材4の上面15dと第2の中空PCa柱3Bの下端3eの間には、外周近傍を囲うように図示しない封止部材が設けられており、封止部材の内側にはグラウトが充填されている。柱梁接合部材4の、シース管17の内壁と主筋10の表面間の空隙にもグラウトが充填されている。
【0035】
本実施形態においては、柱梁接合部材4はプレキャストコンクリート製である。
【0036】
次に、図1に示される上記柱梁架構1を施工する方法を説明する。
【0037】
まず、PCa柱3及び柱梁接合部材4を製作する。製作は工場で行って、その後施工現場へ移送してもよいし、施工現場で製作してもよい。
移送され、または現場で製作されたPCa柱3Aを、内部空間3cの上端が上方に向けて開口するように、基礎等の上に立設する。
【0038】
次に、PCa柱3Aの上に、図示しない封止部材を設置した後、柱梁接合部材4を設置する。このとき、図5(b)に示されるように、PCa柱3Aの主筋10を、下部コンクリート部15aの下面15cから本体15の内部に位置するシース管17を挿通させ、本体15の上面15d上方に突出させる。
【0039】
封止部材の内側に、グラウトを圧入する。封止部材は、PCa柱3A及び柱梁接合部材4の外周近傍を覆うように設けられているため、封止部材の内側には柱梁接合部材4のシース管17の下端が位置している。封止部材の内側にグラウトを圧入することにより、圧入されたグラウトがシース管17の下端から上方へ更に圧入されて、グラウトは、シース管17の内壁と主筋10の表面間の空隙にも充填される。
【0040】
設置された柱梁接合部材4の継手部16の先端に、梁5を接合する。
【0041】
更に、柱梁接合部材4の上に、図示しない封止部材を設置した後、第2の中空PCa柱3Bを設置する。このとき、図5(b)に示されるように、PCa柱3Aの主筋10の上端10aを、第2の中空PCa柱3Bの下端3eに露出した、機械式継手12内に下方から挿入する。
封止部材の内側に、グラウトを圧入する。また、機械式継手12と、機械式継手12内に挿入されているPCa柱3Aの主筋10の上端10a及び第2の中空PCa柱3Bの主筋10の下端10bとの間に、図2に示される孔3hから、グラウトを充填する。
【0042】
次に、上記の実施形態として示した、中空PCa柱を用いた柱梁架構及び該柱梁架構を備えた建築構造物の作用、効果について説明する。
【0043】
このような構成によれば、図5に示されるように、柱梁接合部材4の本体15は、本体15を水平方向に貫通し、梁5が接続される継手部16と、継手部16の下面16eより下方に、所定の値以上の厚さTの下部コンクリート部15aを備えており、下部コンクリート部15aの下面15cが柱3に接続されているため、柱3Aの上面3bと継手部16の下面16eの間に、支圧応力により求められる所定の値T以上の厚さのコンクリートが介在している。これにより、柱梁接合部材4と、柱梁接合部材4の下に位置する中空RC柱3Aの間の応力伝達が、本体15を貫通する継手部16の下面16eから下部コンクリート部15aへ、及び、下部コンクリート部15aから中空RC柱3Aへと、十分かつ確実に行われ、これにより、地震力に耐えうる柱梁架構1を実現することが可能となる。
【0044】
また、柱梁接合部材4の本体15は、柱3が接続される継手部16の上面16dより上方に、第2の所定の値以上の厚さTの上部コンクリート部15bを備えており、上部コンクリート部15bの上面15d上に、第2の中空PCa柱3Bが設けられているため、第2の中空PCa柱3Bの下面3eと継手部16の上面16dの間に、支圧応力により求められる第2の所定の値T以上の厚さのコンクリートが介在している。これにより、柱梁接合部材4と、柱梁接合部材4の上に位置する第2の中空PCa柱3Bの間の応力伝達が、第2の中空PCa柱3Bから上部コンクリート部15bへ、及び、上部コンクリート部15bから本体15を貫通する継手部16の上面16dへと、十分かつ確実に行われ、これにより、地震力に耐えうる柱梁架構1を実現することが可能となる。
【0045】
また、柱3の主筋10は、柱3の外側表面3gと、内部空間3cを形成する内壁3fの間に設けられており、また、柱梁接合部材4においては下部コンクリート部15aの下面15cから本体15の内部を挿通されるように設けられているため、主筋10は柱3や柱梁接合部材4を構成するコンクリートなどに埋設されている。すなわち、本構成においては、主筋10が空気に晒されていない。したがって、主筋10はコンクリート等によって保護されているため、火災などに備えて特別に耐火被覆を施す必要がなく、したがって施工コストを低減可能である。
【0046】
また、主筋にプレストレスを与えるなどの特殊な施工を行う必要がないため、施工が容易である。
【0047】
また、柱梁接合部材4はプレキャストコンクリート製であるため、現場における施工工数を抑えることが可能となり、施工に要する工期を低減させることができる。
【0048】
また、柱3は軽量の中空のPCa柱であるため、大型の揚重機械や運搬機械が不要となる、ブームが長い揚重機械を使えるため揚重機械一台で柱を設置可能な場所が大きくなる、設置が容易となるため施工速度を向上できる、などの効果を奏することが可能となり、これにより、施工コストを低減できる。
柱3が中空のPCa柱であることにより、コンクリートボリュームが減るため施工コストを低減できる、内部空間3cとして空気を含んだ中空断面を有するため、耐火性能が向上できる、等の効果を奏することも可能である。
【0049】
(実施形態の第1の変形例)
次に、図6を用いて、上記実施形態として示した柱梁架構1の、第1の変形例を説明する。図6は、第1の変形例における柱梁架構30の説明図である。第1の変形例における柱梁架構30は、上記の柱梁架構1とは、一部のPCa柱3Cの内部空間にコンクリートが充填されている点が異なっている。
【0050】
図6の中央に4本の柱3Cとして示されているような、ブレース13や連層耐震壁の脚元など、変動軸力が大きな箇所に位置する中空PCa柱3Cにおいては、その内部空間にコンクリートが充填されて、中実の柱3Cとなっている。図6の他の柱、すなわち、左右両端に示されているPCa柱3Dは、中空のままであり、コンクリートが充填されていない。
【0051】
中空PCa柱3Cへのコンクリートの充填は、中空PCa柱3Cの側面に、内部空間と連通する図示しない注入口を設けて、この注入口よりコンクリートを圧入することにより行われる。
【0052】
このような構成によれば、大きな力が作用する箇所の中空PCa柱3Cの内部空間にはコンクリートが充填されて柱が強化されているため、建築構造物の軽量化に配慮しながら、より強靭な柱梁架構30を実現することが可能となる。
【0053】
特に柱梁架構30は、建築構造物の骨組みとして中空PCa柱3と柱梁接合部材4で上記実施形態における柱梁架構1を構築した後に、必要な柱3に対してのみコンクリートを充填することで施工可能であるため、上記の実施形態において記した、大型の揚重機械や運搬機械が不要となる、ブームが長い揚重機械を使えるため揚重機械一台で柱を設置可能な場所が大きくなる、設置が容易となるため施工速度を向上できる、などの効果を奏することが可能となり、これにより、中空PCa柱を使用することに起因する効果は損なわれない。
【0054】
本第1の変形例が、上記実施形態と同等の効果を奏することは、いうまでもない。
【0055】
(実施形態の第2の変形例)
次に、図7を用いて、上記実施形態として示した柱梁架構1の、第2の変形例を説明する。図7は、第2の変形例における柱梁架構40の説明図である。本第2の変形例は、上記第1の変形例を、更に変形したものである。第2の変形例における柱梁架構40は、上記の第1の変形例における柱梁架構30とは、一部の柱梁接合部材41には鉛直方向に延在する内部空間が設けてあり、この内部空間は、柱梁接合部材41の設置後に、コンクリートが充填されている点が異なっている。
【0056】
図7において、中央に示されている4本の柱3Cの上には、柱梁接合部材41が設置されている。柱梁接合部材41は、上記実施形態において示した柱梁接合部材4と同様に、プレキャストコンクリート製である。柱梁接合部材41が柱3Cの上に設置される前の、製作直後の状態においては、柱梁接合部材41の内部に、鉛直方向に延在して上面41dと下面41cに開口する内部空間41aを備えている。第1の変形例において説明したように、中空PCa柱3Cにはコンクリートが充填されるが、この際に、柱梁接合部材41の内部空間41aにもコンクリートが充填される。図7の他の柱梁接合部材、すなわち、左右両端に示されている柱梁接合部材4は、上記実施形態において示した、内部空間を有さない柱梁接合部材4である。
【0057】
柱梁接合部材41と、中空PCa柱3Cの各々が、鉛直方向に延在して上面と下面に開口する内部空間を備えているため、柱梁接合部材41と中空PCa柱3Cの内部空間同士は互いに連通している。
【0058】
このような構成によれば、中空PCa柱3Cにコンクリートを圧入して充填する際に、一部の、例えば最下層の中空PCa柱3Cのみに注入口を設けて、この注入口よりコンクリートを圧入することで、柱梁接合部材41と中空PCa柱3Cの、互いに連通する内部空間を経由して、高さ方向に接合された複数の柱梁接合部材41と中空PCa柱3Cに、まとめてコンクリートを充填することができる。これにより、上記した第1の変形例の施工を、更に容易に行うことが可能である。
【0059】
本第2の変形例が、上記実施形態及び第1の変形例と同等の効果を奏することは、いうまでもない。
【0060】
なお、本発明の中空PCa柱を用いた柱梁架構及び該柱梁架構を備えた建築構造物は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態及び各変形例においては、中空PCa柱としては、図2に示されるように、外周が矩形で、内部空間を形成する壁面が円形の断面形状を備えているが、これに限られない。中空PCa柱の他の形状の例を図8に示す。図8に示されるように、外周の断面形状は円形、8角形等他の形状であってもよいし、内部空間の断面形状は矩形、8角形など他の形状であってもよい。図8に示されない他の形状であっても構わないのは、いうまでもない。
また、上記実施形態及び各変形例においては、柱梁接合部材4はプレキャストコンクリート製であったが、現場でコンクリートを打設することにより製作しても構わない。この場合、柱梁接合部材4内に予め中空PCa柱の主筋を通すことが可能となるため、シース管が不要となり、これに伴い、シース管へのグラウト注入作業が不要となる。
【0061】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 柱梁架構
3 中空PCa柱(柱)
3a 柱頭部
3b 上端
3c 内部空間
3e 下端
3f 内壁
3g 外側表面
3B 第2の中空PCa柱
4 柱梁接合部材
5 梁
10 主筋
15 本体
15a 下部コンクリート部
15b 上部コンクリート部
15c 下部コンクリート部の下面
15d 上部コンクリート部の上面
16 継手部
16d 継手部の上面
16e 継手部の下面
30 柱梁架構
40 柱梁架構
41 柱梁接合部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9