(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】コーティング液及びコーティングを有するガラス容器
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20220204BHJP
C03C 17/28 20060101ALI20220204BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20220204BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220204BHJP
C09D 175/06 20060101ALI20220204BHJP
B65D 23/08 20060101ALI20220204BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220204BHJP
【FI】
C09D175/04
C03C17/28 A
C03C17/30 A
C09D7/65
C09D175/06
B65D23/08 A
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2017224346
(22)【出願日】2017-11-22
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000222222
【氏名又は名称】東洋ガラス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504190685
【氏名又は名称】株式会社テクノ月星
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 祐二
(72)【発明者】
【氏名】堀江 睦
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-002734(JP,A)
【文献】特開2014-224023(JP,A)
【文献】特開昭57-147560(JP,A)
【文献】特開2000-033945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,C03C,B65D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス容器にコーティングを形成するためのコーティング液であって、
ウレタン樹脂と、
前記
ウレタン樹脂を硬化させるための硬化剤と、
ポリオキシエチレンポリオキシアルキレングリコールと、
シランカップリング剤とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項2】
前記
ポリオキシエチレンポリオキシアルキレングリコールは、
前記ウレタン樹脂100重量部に対して0.15~1.0重量部であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング液。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂は、ポリエステルウレタンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコーティング液。
【請求項4】
前記硬化剤は、ヘキサメチロールメラミンであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1つの項に記載のコーティング液。
【請求項5】
前記シランカップリング剤は、アミノ基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、ウレイド基、メルカプト基及びイソシアネート基の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載のコーティング液。
【請求項6】
前記シランカップリング剤は、アミノ基を含むことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載のコーティング液。
【請求項7】
前記シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシランであることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載のコーティング液。
【請求項8】
前記硬化剤は、前記
ウレタン樹脂100重量部に対して10~30重量部であることを特徴とする
請求項1~請求項7のいずれか1つの項に記載のコーティング液。
【請求項9】
滑剤を更に含むことを特徴とする請求項1~
請求項8のいずれか1つの項に記載のコーティング液。
【請求項10】
前記滑剤は、ワックスであり、前記
ウレタン樹脂100重量部に対して0.5~1.5重量部であることを特徴とする
請求項9に記載のコーティング液。
【請求項11】
前記シランカップリング剤は、前記
ウレタン樹脂100重量部に対して0.3~0.5重量部であることを特徴とする請求項1~
請求項10のいずれか1つの項に記載のコーティング液。
【請求項12】
微粒子からなるフロスト剤を更に含むことを特徴とする請求項1~
請求項11のいずれか1つの項に記載のコーティング液。
【請求項13】
請求項1~
請求項12のいずれか1つの項に記載の前記コーティング液が表面に塗布され、乾燥されたことを特徴とするガラス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス容器にコーティングを形成するためのコーティング液、及びコーティングを有するガラス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
傷の防止や破損時の飛散防止、加飾を目的として、ウレタン樹脂によるコーティングを施したガラス容器が公知である(例えば、特許文献1)。コーティングは、ガラス容器をコーティング液にディップ(浸漬)することによって形成される。コーティング液は、ウレタン樹脂からなる主剤と、メラミン樹脂からなる硬化剤と、ワックスからなる滑剤と、界面活性剤からなるレベリング剤と、主剤をガラス容器に結合するためのシランカップリング剤とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のコーティングは、疎水性であるため、ラベルを貼付するための接着剤として親水性のでんぷん混合糊を使用することができない。そのため、ラベルを貼付するために、接着が強力な化学糊や特殊なラベラーを使用する必要がある。一方、コーティングの表面にフッ素含有アニオン系界面活性剤を含む処理水を塗布することによって、コーティングの表面を親水化する手法がある。しかし、表面を親水化したコーティングは、数か月で親水性が低下すると共に、表面の滑性が低下するという問題がある。そのため、ラベルの貼付においてでんぷん混合糊を使用可能にするために、コーティング自体の親水化が要望されている。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、親水性のコーティングを作製することができるガラス容器のコーティング液を提供することを課題とする。また、親水性のコーティングを有するガラス容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、ガラス容器にコーティングを形成するためのコーティング液であって、樹脂を含む主剤と、前記主剤を硬化させるための硬化剤と、前記主剤100重量部に対して0.15~1.0重量部のノニオン系界面活性剤と、シランカップリング剤とを含むことを特徴とする。
【0007】
この態様によれば、ガラス容器の表面に親水性のコーティングを形成することができるコーティング液を提供することができる。コーティングは、親水性を18ヶ月以上維持することができ、でんぷん混合糊に対して良好な接着性を有する。ノニオン系界面活性剤はアニオン系界面活性剤やカチオン系界面活性剤よりも安全性が高く、環境負荷が低い。そのため、ノニオン系界面活性剤を含むコーティングを有するガラス容器は、食品や飲料等の容器として適している。また、でんぷん混合糊も安全性が高く、かつ環境負荷が低いため、食品や飲料等の容器として適している。
【0008】
また、第1の態様において、前記ノニオン系界面活性剤は、エーテル型であることが好ましい。また、前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンポリオキシアルキレングリコールであることが好ましい。
【0009】
また、第1の態様において、前記主剤は、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル-シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、及びアミノ樹脂から成る群から選択される1つであることが好ましい。
【0010】
また、第1の態様において、前記硬化剤は、メラミン系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤、オキサゾリン(オキサジン)系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、ポリエチレンイミン系硬化剤、アジリジン系硬化剤、ジルコニウム系硬化剤、及びエポキシ系硬化剤から成る群から選択される1つを含むとよい。また、前記硬化剤は、前記主剤100重量部に対して10~30重量部であるとよい。また、コーティング液は、滑剤を更に含むとよい。前記滑剤は、ワックスであり、前記主剤100重量部に対して0.5~1.5重量部であるとよい。また、前記シランカップリング剤は、前記主剤100重量部に対して0.3~0.5重量部であるとよい。また、第1の態様において、コーティング液は、微粒子からなるフロスト剤を更に含むとよい。
【0011】
本発明の第2の態様は、上記の前記コーティング液が表面に塗布され、乾燥されたことを特徴とするガラス容器を提供する。また、本発明の第3の態様は、表面にコーティングが形成されたガラス容器であって、前記コーティングは、樹脂を含む主剤と、前記主剤100重量部に対して0.2~1.0重量部のノニオン系界面活性剤と、滑剤と、シランカップリング剤とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、親水性のコーティングを作製することができるガラス容器のコーティング液を提供することができる。また、親水性のコーティングを有するガラス容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例及び比較例に係るガラス基板のDDI試験結果を示す表
【
図2】実施例に係るガラス基板の水の接触角及びFT-IRによる表面のアルキル基のピーク値を示すグラフ
【
図3】比較例に係るガラス基板の水の接触角及びFT-IRによる表面のアルキル基のピーク値を示すグラフ
【
図4】実施例及び比較例に係るガラス容器のラベル材破率測定試験の結果を示す表
【
図5】実施例及び比較例に係るガラス容器のラベル材破率測定試験の結果を示す表
【
図6】界面活性剤の含有量と親水性との関係を示す表
【発明を実施するための形態】
【0014】
(コーティング液)
以下、本発明の実施形態について説明する。実施形態に係るコーティングは、ガラス容器の表面にコーティングを形成するために使用される。
【0015】
コーティング液は、樹脂を含む主剤と、主剤を硬化させる硬化剤と、ノニオン系界面活性剤と、シランカップリング剤とを含む。また、コーティング液は、純水、滑剤、フロスト剤、及び顔料の少なくとも1つを含んでもよい。
【0016】
主剤は、疎水性の樹脂であり、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、アクリル-ウレタン樹脂、アクリル-シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、及びアミノ樹脂から成る群から選択される1つである。ウレタン樹脂は、ポリエステルウレタンやポリエーテルウレタンを含む。ポリエステルウレタンは、例えばポリエステルジオールをジイソシアネートで連結して得られる。
【0017】
硬化剤は、主剤を構成する樹脂を架橋する化合物であり、メラミン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤、オキサゾリン(オキサジン)系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、ポリエチレンイミン系硬化剤、アジリジン系硬化剤、ジルコニウム系硬化剤、及びエポキシ系硬化剤から成る群から選択される1つを含む。メラミン系硬化剤は、例えば、ヘキサメチロールメラミンや、テトラメチロールベンゾグアナミン等を含む。エポキシ系硬化剤は、分子内にエポキシ基を2つ以上有する化合物であり、例えばグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物等を含む。グリシジルエーテル型エポキシ化合物は、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型等を含む。
【0018】
ノニオン系界面活性剤は、コーティングの表面を平滑及び均一にするレベリング剤として機能する。ノニオン系界面活性剤は、エーテル型ノニオン系界面活性剤、エステル型ノニオン系界面活性剤、及びエステルエーテル型ノニオン系界面活性剤からなる群より選択される1種以上である。エーテル型ノニオン系界面活性剤は、一般的に[HO-(C2H4O)x-(CnH2nO)y-H]で表せられるポリオキシエチレンポリオキシアルキレングリコールであることが好ましい。中でも[HO-(C2H4O)a-(C3H6O)b-(C2H4O)c-H]で表される構造が好ましい。なお、a及びcの値は30~300、好ましくは60~150である。bの値は8~120、好ましくは15~60である。
【0019】
シランカップリング剤は、アミノ基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、ウレイド基、メルカプト基及びイソシアネート基の少なくとも1つを含む。シランカップリング剤は、例えば3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ポリエーテル変性トリアルコキシシラン、これらの部分加水分解物、及びこれらの部分加水分解縮合物等を含む。シランカップリング剤は、これらを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
シランカップリング剤は、アルコキシ基の加水分解反応によってシラノール基を生成する。シラノール基は、ガラス容器の表面に存在する水酸基と脱水縮合反応して共有結合を形成する。これにより、シランカップリング剤がガラス容器の表面に結合する。同時に、シランカップリング剤どうしは、シラノール基の脱水縮合によってシロキサン結合を形成する。シランカップリング剤は、ガラス容器の表面に層状に結合する。また、シランカップリング剤のシラノール基と主剤の水酸基とは脱水縮合反応して共有結合を形成することによって、シランカップリング剤と主剤とが結合する。これにより、シランカップリング剤は、主剤をガラス容器の表面に結合する。
【0021】
滑剤は、例えば、ポリエチレンワックスや変性ポリエチレンワックス等のオレフィン系ワックス、ポリエチレン、及びカルナウバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、密ロウ、ライスワックス、キャンデリラワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ラノリン、モンタンワックス等であってよい。滑剤は、コーティングの滑性を高めるために添加される。
【0022】
フロスト剤は、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、フエノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、メラミンシリコンエラストマー等の有機系高分子の微粒子や、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、マイカ、アルミノシリケート等の無機化合物の微粒子を含む。フロスト剤は、コーティングを透過する光を散乱させ、コーティングの外観をつや消し状態や曇り状態に変化させる。
【0023】
顔料は、公知の着色料であり、所望の色調に合せて任意に添加される。顔料は、光沢を与えるために雲母を含んでもよい。
【0024】
コーティング液は、主剤に、硬化剤、ノニオン系界面活性剤、シランカップリング剤、純水、滑剤、フロスト剤、及び顔料を溶解又は懸濁させることによって調製される。コーティング液において、ノニオン系界面活性剤は、主剤100重量部に対して0.15~1.0重量部であり、より好ましくは0.2~1.0重量部、更に好ましくは0.3~0.5重量部である。コーティング液において、主剤100重量部に対して、硬化剤は10~30重量部であり、滑剤は0.5~1.5重量部であり、シランカップリング剤は0.3~0.5重量部であり、純水は10~50重量部であるとよい。
【0025】
(ガラス容器)
コーティング液が塗布されるガラス容器は、ソーダ石灰シリカ系のガラスであり、珪素、ナトリウム、及びカルシウムを主要な成分として含む。また、ガラスはアルミニウム、カリウム、マグネシウム、及び硫黄を含む。また、ガラスは、着色剤として、クロム、ニッケル、及び鉄等を含んでもよい。
【0026】
本実施形態のガラスでは、ガラスの全重量に対して珪素はSiO2換算で65~80重量%であり、ナトリウムはNa2O換算で12~16重量%であり、カルシウムはCaO換算で7~12重量%であり、アルミニウムはAl2O3換算で1.3~3.0重量%であり、カリウムはK2O換算で0.0~1.7重量%であり、マグネシウムはMgO換算で0.0~3.0重量%であり、硫黄はSO3換算で0.03~0.40重量%である。
【0027】
本実施形態に係るガラス容器は、びん(瓶)の形態に形成されている。他の実施形態では、ガラス容器は、カップや、グラス、ポット、トレー等の形態であってもよい。
【0028】
上記のコーティング液を使用したコーティング処理は、成形され、徐冷され、洗浄された後のガラス容器に対して実施される。ガラス容器は、コーティング液を使用したコーティング処理の前に、ホットエンドコーティング処理が実施されてもよい。ホットエンドコーティング処理によって、ガラス容器の表面に金属酸化物層が形成される。金属酸化物層は、例えば酸化スズ、酸化チタン、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)を含むとよい。ホットエンドコーティング処理は、ガラス容器の成形工程の直後(ホットエンド)であり、徐冷工程の前において、高温(400℃~700℃)のガラス容器の表面に対して実施される。
【0029】
上記のコーティング液を使用したコーティング処理は、ディップ法(浸漬法)によって実施される。コーティング液が満たされたディップ槽にガラス容器を浸漬することによって、ガラス容器の表面にコーティング液を塗布する。コーティング液の粘度は、7.0~20.0cP、好ましくは9.0~16.0cPであるとよい。他の実施形態では、ディップ法に代えてスプレーによってコーティング液をガラス容器の表面に塗布してもよい。
【0030】
コーティング液が塗布されたガラス容器は、熱風乾燥によって乾燥させられる。熱風乾燥は、100~120℃で7~13分間行なうとよい。熱風乾燥によって、コーティング液に含まれる水分が蒸発すると共に、シランカップリング剤を介した主剤とガラス容器の表面との共有結合が形成される。熱風乾燥の後、ガラス容器は加熱炉において加熱される。加熱は、150~200℃で35~50分間行なうとよい。これにより、硬化剤が主剤を架橋し、コーティングが硬化する。このようにしてガラス容器の表面に形成されたコーティングは、硬化剤によって架橋された主剤と、ノニオン系界面活性剤と、滑剤と、シランカップリング剤とを含む。また、コーティングは、顔料やフロスト剤を含んでもよい。
【実施例】
【0031】
以下に上記実施形態の実施例について説明する。
【0032】
(コーティング液、ガラス容器、及びガラス基板)
実施例に係るコーティング液、及びコーティングを有するガラス容器は、以下の手順により調製した。実施例1に係るコーティング液は、主剤としてポリエステルウレタン、硬化剤としてヘキサメチロールメラミン、界面活性剤としてポリオキシエチレンポリオキシアルキレングリコール、滑剤としてポリエチレンワックス、シランカップリング剤として3-アミノプロピルトリエトキシシラン、純水、及びフロスト剤としてアクリル微粒子を含む。各成分の含有量は、主剤100重量部に対して、硬化剤を15重量部、界面活性剤を0.4重量部、滑剤を1重量部、シランカップリング剤を0.4重量部、純水を25重量部とした。実施例2に係るコーティング液は、実施例1のコーティング液に対して滑剤の含有量を0にした。比較例1に係るコーティング液は、実施例1のコーティング液に対して、界面活性剤の含有量を0にした。比較例2に係るコーティング液は、実施例1のコーティング液に対して、界面活性剤及び滑剤の含有量を0にした。
【0033】
実施例1、2及び比較例1、2に係るコーティング液を使用して、実施例1、2及び比較例1、2に係るコーティングを備えたガラス基板及びガラス容器を作製した。ガラス基板は平板状をなし、ガラス容器はびん形状をなす。ガラス基板又はガラス容器を常温で各コーティング液に浸漬することによって、ガラス基板の表面に各コーティング液を塗布した。その後、100℃の熱風乾燥を10分間行ない、続いて170℃で40分間加熱した。このようにして、実施例1、2及び比較例1、2に係るコーティングを備えたガラス基板及びガラス容器を作製した。
【0034】
また、比較例1のガラス容器において、更にコーティングの表面を親水化処理することによって比較例3に係るガラス容器を作製した。親水化処理は、比較例1に係るガラス容器が完成した後(加熱処理後)に、バーナーによって酸化炎をコーティングの表面に吹き付け、コーティングの表面を酸化することによって行なった。
【0035】
(DDI試験)
実施例1、2及び比較例1、2に係るガラス容器を40℃、45%RH(相対湿度)の環境下で所定期間保管して劣化を促進させ、各期間経過後にDDI試験を行なった。DDI試験は、白色の顔料を純水に懸濁させたDDI液にガラス基板を浸漬し、DDI液から引き上げた後のガラス基板の表面を目視で観察することによって行なった。ガラス基板の表面の親水性が高いとDDI液がガラス基板の表面において膜を形成し、表面が白色に見える。一方、ガラス基板の表面の親水性が低いとDDI液がガラス基板の表面に付着せず、ガラス基板の表面が露出する。
【0036】
DDI試験の結果を
図1に示す。実施例1及び2に係るガラス基板は、製造直後からDDI液はガラス基板のコーティングが形成された全領域に安定的に付着し、15ヶ月後においても製造直後と変わらずガラス基板のコーティングが形成された全領域に安定的に付着した。すなわち、実施例1及び2に係るガラス基板のコーティングは、少なくとも15ヶ月以上は親水性を有することが確認された。一方、比較例1及び2に係るガラス基板は、製造直後からDDI液に対して濡れず、その後も濡れ性は変化しなかった。すなわち、比較例1及び2に係るガラス基板のコーティングは、疎水性であることが確認された。実施例1、2と比較例1、2との対比から、界面滑性剤の含有量が親水性に影響を与えていることが判る。
【0037】
(水の接触角及び表面のFT-IRによるアルキル基のピーク値)
実施例1、2及び比較例1、2に係るガラス基板を40℃、45%RH(相対湿度)の環境下で所定期間保管して劣化を促進させ、その後にコーティングの表面の水の接触角を測定した。水の接触角の測定は、ガラス基板のコーティング上に純水を滴下し、表面上における液滴を撮像した。撮像した画像をθ/2法により解析することによって、水の接触角を得た。
【0038】
また、実施例1、2及び比較例1、2に係るガラス基板を40℃、45%RH(相対湿度)の環境下で所定期間保管して劣化を促進させ、その後にFT-IRによってコーティングの表面のアルキル基のピーク値を測定した。
【0039】
水の接触角及びFT-IRによるアルキル基のピーク値の測定結果を
図2及び
図3に示す。
図2(A)は実施例1、
図2(B)は実施例2、
図3(A)は比較例1、
図3(B)は比較例2における結果を示している。実施例1と比較例1との比較から、界面滑性剤を有するコーティングは、界面活性剤を有しないコーティングに対して、製造直後から水の接触角が小さく、親水性が高いことが確認された。同様に、実施例2と比較例2との比較から、滑剤を含有しない場合においても、界面滑性剤を有するコーティングは、界面活性剤を有しないコーティングに対して、製造直後から水の接触角が小さく、親水性が高いことが確認された。
【0040】
また、比較例1と比較例2との比較から、コーティングが滑剤を含有する場合、促進期間の増加に応じて接触角度が増加する、すなわち親水性が低下することが確認された。このとき、比較例1では、促進期間の増加に応じてコーティングの表面におけるアルキル基のピーク値が増加することが確認された。同様に、滑剤を有する実施例1でも促進時間の増加に応じてコーティングの表面におけるアルキル基のピーク値が増加することが確認された。コーティングの表面において、促進期間の増加に応じてアルキル基のピーク値が増加する現象は、滑剤のコーティングの表面へのブリード(漏出)に起因すると考えられる。そして、疎水性の滑剤がコーティングの表面に漏出することによって、コーティングの表面が疎水性になり、水の接触角が増加したと考えられる。
【0041】
実施例1におけるコーティングの表面におけるアルキル基のピーク値の増加速度は、比較例1よりも小さいことが確認された。このことから、界面活性剤が滑剤のブリードを抑制し、その結果水の接触角の増加が抑制されたと考えられる。
【0042】
(ラベル材破率測定試験)
実施例1、2及び比較例1、2に係るガラス容器の円筒形の外周面にでんぷん混合糊を使用してラベルを貼付した。でんぷん混合糊は、でんぷんを主成分とする糊(ヘンケルジャパン株式会社製「AQUENCE LG TV914」)を使用した。ガラス容器は、ラベルを貼付した後、室温で2日間乾燥させた。続いて、ラベルが貼られたガラス容器を40℃、45%RH(相対湿度)の環境下で所定期間保管して劣化を促進させた後に、ラベル材破率測定試験を行なった。材破率測定試験は、最初にガラス容器に貼付されたラベルを、ガラス容器の表面においてカッターナイフで1cm×1cmの格子状に切り分け、複数のラベル片に区画した。次に、ラベルの表面全域に1枚のクラフトテープ(紙製ガムテープ)を貼り付け、2分間放置した。その後、クラフトテープをガラス容器から剥がした。このとき、ラベルの内で接着性が低い部分はクラフトテープと共にガラス容器から剥がれた。そして、ガラス容器の表面に残存したラベルの面積を計測した。ラベル材破率は、次の式によって算出した。
ラベル材破率[%]=ガラス容器の表面に残存したラベルの面積[cm2]/ラベルの面積[cm2]×100
ラベル材破率は、値が大きいほどラベルの接着性が高いことを表す。
【0043】
図4に、実施例1、2及び比較例1、2に係るガラス容器のラベル材破率を示す。実施例1、2に係るガラス容器は、でんぷん混合糊に対して良好な接着性を有することが確認され、その接着性は少なくとも15ヶ月は持続することが確認された。
【0044】
図5に、実施例1と比較例3に係るガラス容器のラベル材破率測定試験の結果を示す。比較例3に係るガラス容器は、製造後から促進期間が12ヶ月間までは、ラベル材破率が100%であったが、15ヶ月経過後はラベル材破率が低下し、接着性が低下することが確認された。これに対して、実施例1に係るガラス容器の、でんぷん混合糊に対する接着性は少なくとも18ヶ月は持続することが確認された。
【0045】
(界面活性剤の含有量と親水性との関係)
実施例1に係るコーティング液において、界面活性剤の含有量が主剤100重量部に対して0、0.1、0.2、1.0重量部であるものを作製し、実施例1と同様にガラス容器を作製した。そして、作製したガラス容器の表面を、DDI液又は純水に数秒浸漬した後の各液体に対する濡れを目視によって確認した。評価は、液体がガラス容器の表面において均質な膜状に広がったものを親水性が高い(記号:○)、液体がガラス容器の表面において球状に弾かれたものを親水性が低い(記号:×)とした。
図6に示す結果から、界面活性剤の含有量が主剤100重量部に対して0.1重量部の場合には水に対する濡れが悪く、親水性が低いことが確認された。一方、界面活性剤の含有量が主剤100重量部に対して0.2重量部の場合にはDDI液及び水に対する濡れが共に良く、親水性が高いことが確認された。そのため、親水性が向上する下限値は、0.1重量部から0.2重量部の間にあることが推測され、その中間の値である0.15重量部以上が好ましいことが推測される。界面活性剤の含有量が主剤100重量部に対して0.2重量部以上である場合、コーティングに親水性を確実に与えることができる。なお、界面活性剤の含有量が主剤100重量部に対して1.0重量部以上のものについては、図示しないが0.2~1.0重量部のものと同様の親水性を示した。しかし、界面活性剤の含有量が主剤100重量部に対して1.0重量部以上のコーティングは、洗浄水等に使用されるアルカリ溶液への浸漬に対してコーティングが剥がれ易い傾向が確認されたため、界面活性剤の含有量は主剤100重量部に対して0.2~1.0重量部が好ましいと考えられる。
【0046】
以上より、実施例1及び2に係るコーティング液によって形成される、ガラス容器の表面上のコーティングは親水性を有する。実施例1及び2に係るコーティングは、親水性を18ヶ月以上維持することができ、でんぷん混合糊に対して良好な接着性を有する。ノニオン系界面活性剤はアニオン系界面活性剤やカチオン系界面活性剤よりも安全性が高く、環境負荷が低い。そのため、ノニオン系界面活性剤を含むコーティングを有するガラス容器は、食品や飲料等の容器として適している。また、でんぷん混合糊も安全性が高く、かつ環境負荷が低いため、食品や飲料等の容器として適している。
【0047】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。