(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】減衰装置及び減衰力切替え構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220204BHJP
F16F 7/04 20060101ALI20220204BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F7/04
E04H9/02 341A
(21)【出願番号】P 2017232164
(22)【出願日】2017-12-01
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 義仁
(72)【発明者】
【氏名】友野 量司
(72)【発明者】
【氏名】近本 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】明賀 秀行
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-026074(JP,A)
【文献】特開2012-132479(JP,A)
【文献】特開2010-242971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02-15/08
F16F 7/04
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体と、
前記筒体に対し相対回転する回転体と、
前記回転体を貫通し、軸方向に沿って直線運動するねじ軸と、
前記回転体に固定され、前記ねじ軸に螺合して前記ねじ軸の直線運動を前記回転体の回転運動に変換するナット部材と、
前記ねじ軸を回転可能に保持する保持体と、
前記保持体に設けられ、前記ねじ軸の回転を許容する回転許容位置と前記ねじ軸の回転を停止する回転停止位置の間を移動する制動部材と、
前記ねじ軸の直線運動における変位が設定値を超えると、前記制動部材を前記回転停止位置へ移動させる移動機構と、
を備える減衰装置。
【請求項2】
前記ねじ軸に設けられ、前記制動部材が前記回転停止位置にあるときに前記制動部材の一部が挿入される挿入穴を備える、請求項1に記載の減衰装置。
【請求項3】
前記移動機構は、
前記制動部材を前記回転許容位置から前記回転停止位置へ付勢する付勢部材と、
前記制動部材を前記回転許容位置に保持する保持部材と、
前記ねじ軸の直線運動における変位が設定値を超えると、前記保持部材による前記制動部材の保持を解除させる解除部材と、
を備える、請求項
1又は請求項2に記載の減衰装置。
【請求項4】
前記移動機構は、
前記ねじ軸と共に直線運動する軸部材と、
前記保持体に設けられ、前記軸部材の一端部を回転可能に支持する第1支持部と、
前記筒体に設けられ、前記軸部材の中間部を回転可能に支持する第2支持部と、
前記軸部材に設けられ、前記軸部材の一端部側から他端部側へ延びる案内溝と、
前記第2支持部に設けられ、前記案内溝に挿入される挿入部材と、
を備え、
前記案内溝は、前記軸部材の軸方向に沿って延びる第1溝部と、前記第1溝部の端部から前記軸部材の軸方向に対して斜めに延びる第2溝部と、を有しており、
前記挿入部材は、前記軸部材の直線運動によって前記第1溝部から前記第2溝部へ移動すると、前記第1支持部と前記第2支持部とによって回転可能に支持された前記軸部材を回転させ、
前記解除部材は、前記軸部材の回転にともない前記保持部材による前記制動部材の保持を解除させる、請求項
3に記載の減衰装置。
【請求項5】
互いに相対移動する構造物のうち、一方の前記構造物に連結された筒体と、
前記筒体に対し相対回転する回転体と、
前記回転体を貫通し、軸方向に沿って直線運動するねじ軸と、
前記回転体に固定され、前記ねじ軸に螺合して前記ねじ軸の直線運動を前記回転体の回転運動に変換するナット部材と、
他方の前記構造物に連結され、前記ねじ軸を回転可能に保持する保持体と、
前記保持体に設けられ、前記ねじ軸の回転を許容する回転許容位置と前記ねじ軸の回転を停止する回転停止位置の間を移動する制動部材と、
前記ねじ軸の直線運動における変位が設定値を超えると、前記制動部材を前記回転停止位置へ移動させる移動機構と、
を備える減衰力切替え構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギを減衰するための減衰装置及び減衰力切替え構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、粘性流体のせん断抵抗力を利用して振動エネルギを減衰する減衰装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された減衰装置は、一方の構造物に固定されるねじ軸と、他方の構造物に固定される筒体と、を備えている。この筒体の内部には、筒状の回転体が収容されており、この回転体にはねじ軸に螺合してねじ軸の軸方向に沿った運動を回転運動に変換するナット部材が固定されている。また、回転体の外周面と筒体の内周面との間に形成される密閉空間には粘性流体が充填されている。この粘性流体のせん断抵抗力が回転運動する回転体に作用するため、一方の構造物と他方の構造物との間で伝達される振動エネルギが減衰されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、建築構造物の免震構造として、建築構造物とその建築基盤との間に設けられて、かかる建築構造物を建築基盤の揺れから絶縁させるものが知られている。この種の免震構造によれば、地震等による振動エネルギが建築構造物に伝播したとしても、建築構造物が建築基盤の振動周期とは無関係にそれ独自の振動周期で揺れることができるようになっている。もっとも、上述の免震構造の場合、建築構造物を建築基盤の揺れから絶縁するものであるから、地震が収まった後にも建築構造物の揺れが残存してしまうことになる。この建築構造物の揺れの残存を早期に終息させるために、免震構造の構成要素として、上述の減衰装置を用いる例が挙げられている。
【0006】
減衰装置は振動エネルギを吸収するものではあるが、その反面、建築構造物を建築基盤に追従させる機能も発揮してしまう。このため、大地震を想定して減衰装置における振動エネルギの吸収能力を高く設定した場合、建築基盤の揺れが建築構造物に伝播し易くなり、建築構造物を建築基盤の揺れから絶縁するという免震構造本来の機能を発揮し難くなる。この点を考慮すると、免震構造の機能を活かすためには、減衰装置の吸収能力を極端に高く設定することができず、通常想定し得る規模の地震に対応させて減衰装置の吸収能力を決定せざるを得ない。しかし、減衰装置の吸収能力をそのように設定した状態で大地震が発生した場合には、減衰装置によって地震の振動エネルギを十分に吸収することができない。その結果建築基盤に対する建築構造物の揺れ幅が大きくなってしまう。また、減衰装置が振動エネルギを十分に吸収することができない分、建築構造物の揺れを早期に終息させることができなくなってしまう。
【0007】
一方、大地震を想定して減衰装置の設置数を増やした場合、小規模の地震に対して減衰機能が効きすぎて、免震構造による免震機能を発揮しなくなる問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮し、地震力の大きさに応じて減衰力を発生させる減衰装置及び減衰力切替え構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の減衰装置は、筒体と、前記筒体に対し相対回転する回転体と、前記回転体を貫通し、軸方向に沿って直線運動するねじ軸と、前記回転体に固定され、前記ねじ軸に螺合して前記ねじ軸の直線運動を前記回転体の回転運動に変換するナット部材と、前記ねじ軸を回転可能に保持する保持体と、前記保持体に設けられ、前記ねじ軸の回転を許容する回転許容位置と前記ねじ軸の回転を停止する回転停止位置の間を移動する制動部材と、を備える。
【0010】
本発明の他の態様の減衰力切替え構造は、互いに相対移動する構造物のうち、一方の前記構造物に連結された筒体と、前記筒体に対し相対回転する回転体と、前記回転体を貫通し、軸方向に沿って直線運動するねじ軸と、前記回転体に固定され、前記ねじ軸に螺合して前記ねじ軸の直線運動を前記回転体の回転運動に変換するナット部材と、他方の前記構造物に連結され、前記ねじ軸を回転可能に保持する保持体と、前記保持体に設けられ、前記ねじ軸の回転を許容する回転許容位置と前記ねじ軸の回転を停止する回転停止位置の間を移動する制動部材と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、地震力の大きさに応じて減衰力を発生させる減衰装置及び減衰力切替え構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1の矢印2Xで指し示す部分の一部断面を示す拡大斜視図である。
【
図4】
図2に対応する拡大斜視図であり、制動部材が回転停止位置にある状態を示している。
【
図5】
図3に対応する断面図であり、制動部材が回転停止位置にある状態を示している。
【
図6】実施形態の減衰装置を側方から見た模式図である。
【
図7】(A)実施形態の減衰装置の軸部材の変位と減衰力の関係を示すグラフである。(B)実施形態の減衰装置の軸部材の変位と時間の関係を示すグラフである。
【
図8】実施形態の減衰装置の軸部材の斜視図であり、挿入部材が案内溝の第1溝部にある状態を示している。
【
図9】実施形態の減衰装置の軸部材の斜視図であり、挿入部材が案内溝の第2溝部にある状態を示している。
【
図10】実施形態の減衰装置を側方から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1に示されるように、本実施形態の減衰装置22は、後述する装置構成部材と、保持体の一例としての保持ユニット24と、制動部材の一例としての制動ピン26とを備えている。
【0015】
減衰装置22は、粘性流体のせん断抵抗力を利用して振動エネルギを減衰する装置である。この減衰装置22は、筒体28と、回転体30と、ねじ軸32と、ナット部材34と、を備えている。なお、筒体28と、回転体30と、ねじ軸32と、ナット部材34が前述の装置構成部材である。
【0016】
筒体28は、略円筒状であり、軸方向の一端部(
図1では右側の端部)に一方の構造物C1への連結部36(
図6参照)が設けられている。なお、構造物としては、例えば、建物、橋梁が挙げられる。
【0017】
回転体30は、略円筒状であり、筒体28の内部に収容されている。また、筒体28の内周面28Aと回転体30の外周面30Aとの間には密閉空間が形成されている。この密閉空間には、粘性流体Lが充填されている。
【0018】
ねじ軸32は、軸方向の一端部(
図1では右側の端部)側が筒体28内に配置された回転体30を貫通している。このねじ軸32は、軸方向に沿って往復動可能に構成されている。また、
図2及び
図3に示されるように、ねじ軸32の他端部32Aには、制動ピン26の先端部26Aが挿入可能な挿入穴33が形成されている。なお、図中では、ねじ軸の軸方向を矢印Yで示している。
【0019】
図1に示されるように、ナット部材34は、回転体30に固定されている。このナット部材34は、ねじ軸32に螺合しており、ねじ軸32の軸方向に沿った往復動を回転体30の回転運動に変換するようになっている。
【0020】
図2及び
図3に示されるように、保持ユニット24は、ねじ軸32の他端部32Aを回転可能に保持している。この保持ユニット24は、ねじ軸32の他端部32Aを収容するハウジング40と、ハウジング40内に取り付けられ、ねじ軸32の他端部32Aを回転可能に保持する軸受け42を備えている。
図2に示されるように、ハウジング40は、円筒状とされており、一端が連結部41で閉塞されている。このハウジング40の周壁部40Aには、制動ピン26が収容される貫通孔43が設けられている。また、ハウジング40の連結部41は、ハウジング40を他方の構造物C2へ連結するための部位である(
図6参照)。
【0021】
図2乃至
図5に示されるように、制動ピン26は、ハウジング40の貫通孔43内に収容されており、ねじ軸32の回転を許容する回転許容位置(
図2及び
図3における制動ピン26の位置)とねじ軸32の回転を停止する回転停止位置(
図4及び
図5における制動ピン26の位置)の間を移動するように構成されている。具体的には、制動ピン26が回転停止位置にあるときは、制動ピン26が挿入穴33に挿入されて、制動ピン26と挿入穴33の係合により、ねじ軸32の回転が停止されている。一方、制動ピン26が回転許容位置にあるときは、制動ピン26が挿入穴33から離間しているため、ねじ軸32の回転が許容されている。
【0022】
また、制動ピン26の側面26Bには、後述する保持ピン48が挿入される挿入穴27が設けられている。
【0023】
また、減衰装置22は、ねじ軸32の直線運動における変位が設定値を超えた場合に、制動ピン26を回転許容位置から回転停止位置へ移動させる移動機構44を備えている。
【0024】
図2に示されるように、移動機構44は、付勢部材の一例としてのコイルスプリング46と、保持部材の一例としての保持ピン48と、解除部材の一例としての紐状部材50と、軸部材52と、第1支持部54と、第2支持部56(
図10及び
図11)と、案内溝58(
図8及び
図9)と、挿入部材の一例としての挿入ピン60(
図8及び
図9)と、を備えている。
【0025】
図2に示されるように、コイルスプリング46は、ハウジング40内に配置されており、制動ピン26を回転許容位置から前記回転停止位置へ付勢している。具体的には、コイルスプリング46は、制動ピン26をハウジング40の径方向内側へ向けて付勢している。
【0026】
保持ピン48は、制動ピン26を回転許容位置に保持する。具体的には、保持ピン48は、ハウジング40の貫通孔43の孔壁面からねじ軸32の軸方向に沿って周壁部40Aを貫通する貫通孔62に収容されている。この貫通孔62内には、保持ピン48を貫通孔43に向けて付勢するコイルスプリング64が収容されている。このコイルスプリング64の付勢力によって保持ピン48は、制動ピン26に向けて付勢され、先端部48Aが制動ピン26の挿入穴27に挿入されている。
【0027】
図2に示されるように、紐状部材50は、保持ピン48と軸部材52とをつないでいる。具体的には、紐状部材50の一端部が保持ピン48の基端部48Bに接続され、紐状部材50の他端部が軸部材52の一端部52A側の外周に接続されている。また、紐状部材50は、挿入ピン60が案内溝58の第1溝部58A内に位置している場合、保持ピン48と軸部材52とを所定のテンションが付与された状態でつないでいる。
【0028】
図1に示されるように、軸部材52は、ねじ軸32と共に直線運動する部材であり、ねじ軸32と平行に配置されている。
【0029】
図2及び
図3に示されるように、第1支持部54は、保持ユニット24のハウジング40の外周面に設けられている。この第1支持部54は、軸部材52の一端部52Aを回転可能に支持している。
【0030】
図1及び
図10に示されるように、第2支持部56は、筒体28の外周面に設けられている。この第2支持部56は、軸部材52の中間部52Cを回転可能に支持している。なお、ここでいう軸部材52の中間部52Cとは、軸部材52の一端部52Aと他端部52Bとの間の部分を指している(
図6参照)。
【0031】
図10に示されるように、案内溝58は、軸部材52に設けられており、一端部52A側から他端部52B側へ延びている。具体的には、案内溝58は、軸部材52の軸方向に沿って延びる第1溝部58Aと、第1溝部58Aの両端部から軸方向両外側へ向けて軸方向に対して斜めに延びる一対の第2溝部58Bと、を有している。なお、両側の第2溝部58Bは、第1溝部58Aから軸部材52の外周面に沿って同じ向きに延びている。また、案内溝58は、第2溝部58Bの端部から軸部材52の軸方向に沿って延びる第3溝部58C(
図8及び
図9参照)を有している。
【0032】
図11に示されるように、挿入ピン60は、第2支持部56に設けられており、案内溝58に挿入されている。この挿入ピン60は、ねじ軸32の直線運動によって第1溝部58Aから第2溝部58Bへ移動すると、第1支持部54と第2支持部56によって回転可能に支持された軸部材52を回転させるようになっている(
図8及び
図9参照)。
【0033】
次に本実施形態の減衰装置22の減衰力の切替えメカニズムについて説明する。
【0034】
まず、筒体28とねじ軸32とを相対移動させる。具体的には、筒体28に対してねじ軸32を直線運動(往復動)させる。ここで、
図2及び
図3に示されるように、挿入ピン60が案内溝58の第1溝部58A内にあり、移動機構44が機能していないときは、制動ピン26が回転許容位置にある。制動ピン26が回転許容位置にあるときは、ねじ軸32が回転しながら直線運動するので、ねじ軸32の軸方向の往復動がナット部材34の回転運動に変換されず、また、粘性流体のせん断抵抗力によって回転体30とナット部材34の回転も妨げられる。このとき、減衰装置22の減衰力は発生しない。
【0035】
また、ねじ軸32が直線運動すると、ねじ軸32と共に軸部材52も直線運動をする。軸部材52の直線運動により、挿入ピン60が案内溝58の第1溝部58Aから第2溝部58Bへ移動すると、固定された挿入ピン60に対し、回転可能に支持された軸部材52が回転する(
図8及び
図9参照)。
【0036】
軸部材52が回転すると、
図4に示されるように、軸部材52の外周面に巻き付けられた紐状部材50が引っ張られ、保持ピン48がコイルスプリング46の付勢力に抗して移動する(
図4及び
図5参照)。これにより、保持ピン48の先端部48Aが制動ピン26の挿入穴27から抜け出し、制動ピン26の保持状態が解除される。
【0037】
保持状態が解除されると、制動ピン26は、コイルスプリング46の付勢力によって回転許容位置から回転停止位置へと移動し、ねじ軸32の他端部32Aに設けられた挿入穴33に挿入され、制動ピン26と挿入穴33が係合する(
図4及び
図5参照)。これにより、保持ユニット24にねじ軸32の他端部32Aが固定され、ねじ軸32が回転せずに直線運動するようになる。ねじ軸32が回転せずに直線運動するため、ナット部材34が回転体30と共に回転する。回転体30が回転することで、密閉空間内の粘性流体Lのせん断抵抗力が回転体30に作用し、ねじ軸32の往復動に係るエネルギが減衰される。すなわち、減衰装置22の減衰力が発生する。
【0038】
次に、本実施形態の減衰装置22の加振開始から加振終了までの減衰特性について
図7(A)及び
図7(B)を用いて説明する。なお、以下の(1)~(7)は、
図7(A)及び
図7(B)中の(1)~(7)に対応している。
【0039】
(1)筒体28とねじ軸32を相対移動させて減衰装置22に振動エネルギを付与した状態。すなわち、減衰装置22への加振開始。
【0040】
(2)ねじ軸32と共に軸部材52が直線運動するが、挿入ピン60が案内溝58の第2溝部58Bに達していない状態。この状態では、減衰力が発生していない。
【0041】
(3)軸部材52の直線運動における変位が設定値を超えた、すなわち、挿入ピン60が案内溝58の第2溝部58Bに達したため、前述の切替えメカニズムに基づいて減衰力が発生した状態。
【0042】
(4)、(5)軸部材52の直線運動における変位が設定値を超えた状態が維持された状態。すなわち、挿入ピン60が一方の第2溝部58Bから第1溝部58Aを通って他方の第2溝部58Bへ移動し、その後、一方の第2溝部58Bへ戻った状態。
【0043】
(6)軸部材52の直線運動における変位が設定値以下、すなわち、挿入ピン60が第2溝部58Bに達していない状態。この状態では、減衰力の発生が維持されている。
【0044】
(7)減衰装置22の減衰力を発生可能な状態(制動ピン26が挿入穴27に挿入された状態)のまま、減衰装置22への加振終了。
【0045】
なお、上記(1)~(7)は、減衰装置22が減衰力を発生した1サイクル目の振動に対する減衰特性であり、1サイクル目以降(例えば、2サイクル目)の振動に対しては、最初から減衰装置22の減衰力が発生した状態になる。
【0046】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
減衰装置22では、地震時等により互いに相対移動する一方の構造物C1に筒体28の連結部36を連結し、他方の構造物C2に保持ユニット24の連結部41を連結した場合、地震時に制動ピン26が回転許容位置にあるときは、一方の構造物C1と他方の構造物C2が相対移動しても減衰装置22の減衰力が発生しない。このため、減衰装置22が抵抗となって例えば、免震構造の免震性能を劣化させるのを抑制できる。
【0047】
また制動ピン26が回転停止位置にあるときは、ねじ軸32の直線運動が筒体28に収容された回転体30の回転運動に変換され、回転体30に作用する粘性流体Lのせん断抵抗力によって減衰装置22の減衰力が発生する。このように制動ピン26を操作することで、地震力に応じて減衰装置22の減衰力を発生させることができる。例えば、地震力が大きい大地震では、減衰力を発生させ、地震地力が小さい小規模地震や中規模地震では免震構造の機能を阻害しないように減衰装置22の減衰力を発生させない、という免震設計が可能となる。
【0048】
さらに、減衰装置22では、減衰装置22が小規模地震や中規模地震において免震装置の機能を阻害しないため、減衰装置22の設置数を増やして大地震に対応させることができる。
【0049】
また、減衰装置22では、制動ピン26が回転停止位置にあるときに、制動ピン26の先端部26Aがねじ軸32の挿入穴33に挿入されて、ねじ軸32の回転が停止される。すなわち、制動ピン26の先端部26Aを挿入穴33に挿入する簡単な構造でねじ軸32の回転を停止することができる。
【0050】
さらに、減衰装置22では、ねじ軸32の直線運動における変位が設定値を超えると、移動機構44が機能して制動ピン26を回転停止位置へ移動させる。これにより、減衰装置22の減衰力を発生させることができる。ここで、減衰装置22の減衰力を発生させるねじ軸32の直線運動における変位の設定値、すなわち、軸部材52の案内溝58の第1溝部58Aの長さL1(
図10参照)を設定することで、ねじ軸32と筒体28の所望の相対位置において減衰力を発生させることが可能となる。これにより、複数の減衰装置22毎にねじ軸32の直線運動における変位の設定値を調節して、各々のタイミングで減衰装置22による減衰力を発生させることができる。
【0051】
また、減衰装置22では、ねじ軸32の直線運動における変位が設定値を超えると、紐状部材50が保持ピン48による制動ピン26の保持を解除させる。これにより、コイルスプリング46の付勢力で制動ピン26が回転許容位置から回転停止位置へと移動し、ねじ軸32の直線運動が回転体30の回転運動に変換される。ここで、減衰装置22では、コイルスプリング46の付勢力で制動ピン26を移動させるため、例えば、電動部材を用いて制動ピン26を移動させる構造と比べて、構造が簡単でかつ経済性に優れる。
【0052】
減衰装置22では、地震時には、ねじ軸32と共に軸部材52が直線運動をし、軸部材52の直線運動によって挿入ピン60が第1溝部58Aから第2溝部58Bへ移動すると、挿入ピン60に対して軸部材52が回転する。この軸部材52の回転にともなって紐状部材50が保持ピン48による制動ピン26の保持を解除させる。このように、減衰装置22では、電力を使用しない機構で制動ピン26の保持を解除させるため、例えば、電力を使用する機構と比べて、経済性に優れる。また、電力を使用しない機構のため、電力が供給されない状態であっても、ねじ軸32の直線運動における変位が設定値を超えた場合には、制動ピン26を回転許容位置から回転停止位置へ確実に移動させることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、一方の構造物C1に連結された筒体28と、回転体30と、ねじ軸32と、ナット部材34と、他方の構造物C2に連結された保持ユニット24と、制動ピン26とによって、減衰力切替え構造Sが構成されている。
【0054】
前述の実施形態では、軸部材52の回転により紐状部材50を介して保持ピン48を引っ張って挿入穴27から抜け出させる構成としているが、本発明はこの構成に限定されない。紐状部材50やコイルスプリング64の代わりに、例えば、プル型のソレノイドアクチュエータを用いて保持ピン48を挿入穴27から抜け出させる構成としてもよい。この場合に、ねじ軸32の直線運動における変位を光学センサなどで検出し、検出データに応じて上記ソレノイドアクチュエータを作動させる構成とすることで、紐状部材50、軸部材52及びコイルスプリング64等の部品点数を減らすことができる。また、前述の実施形態と同様の作用効果も得られる。
【0055】
また、前述の実施形態では、制動ピン26をコイルスプリング46の付勢力で回転許容位置から回転停止位置へ移動させる構成としているが、本発明はこの構成に限定されない。コイルスプリング46の代わりに、例えば、プッシュ型のソレノイドアクチュエータを用いて、可動鉄心の押出力で制動ピン26を回転許容位置から回転停止位置へ移動させる構成としてもよい。この場合に、ねじ軸32の直線運動における変位を光学センサなどで検出し、検出データに応じて上記ソレノイドアクチュエータを作動させる構成とすることで、コイルスプリング46、保持ピン48、紐状部材50、軸部材52及びコイルスプリング64等の部品点数を減らすことができる。また、前述の実施形態と同様の作用効果も得られる。
【0056】
さらに、前述の実施形態では、制動ピン26が回転許容位置から回転停止位置へ移動して挿入穴33に挿入された後は、コイルスプリング46の付勢力によって制動ピン26が挿入穴33に挿入された状態が維持されるが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、地震終了後に、制動ピン26を回転許容位置へ戻す機能を保持ユニット24に備えさせてもよい。例えば、プル型のソレノイドアクチュエータを用いて制動ピン26をコイルスプリング46の付勢力に抗して回転停止位置から回転許容位置へ移動させてもよい。この場合には、地震終了後に制動ピン26を自動で回転許容位置へ戻すことが可能になる。
【0057】
前述の実施形態では、筒体28内の回転体30を回転させる構成としているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、回転体30を筒体28の外側に配置して回転体30と筒体28との間の密閉空間に粘性流体を充填する構成としてもよい。この場合には、粘性流体のせん断力に加えて回転体30の慣性力によって振動エネルギを減衰することができる。
【0058】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0059】
22・・・減衰装置、24・・・保持ユニット(保持体)、26・・・制動ピン(制動部材)、26A・・・先端部(制動部材の一部)、27・・・挿入穴、28・・・筒体、30・・・回転体、32・・・ねじ軸、32A・・・他端部、33・・・挿入穴、34・・・ナット部材、44・・・移動機構、46・・・コイルスプリング(付勢部材)、48・・・保持ピン(保持部材)、50・・・紐状部材(解除部材)、52・・・軸部材、52A・・・一端部、52C・・・中間部、54・・・第1支持部、56・・・第2支持部、58・・・案内溝、58A・・・第1溝部、58B・・・第2溝部、60・・・挿入ピン(挿入部材)、S・・・減衰力切替え構造、C1・・・一方の構造物、C2・・・他方の構造物。