(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-03
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】セレン酸化合物の還元方法、セレン酸化合物の除去方法、金属セレンの製造方法、セレン酸化合物還元製剤、硝酸化合物の還元方法、硝酸化合物の除去方法、窒素ガスの製造方法、硝酸化合物還元製剤、排水処理装置及び排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C12P 39/00 20060101AFI20220204BHJP
C02F 3/34 20060101ALI20220204BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220204BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220204BHJP
C12P 3/00 20060101ALI20220204BHJP
C12R 1/01 20060101ALN20220204BHJP
【FI】
C12P39/00
C02F3/34 Z
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C12N1/00 R
C12N1/20 F
C12P3/00 Z
C12R1:01
(21)【出願番号】P 2018006593
(22)【出願日】2018-01-18
【審査請求日】2020-11-13
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-1465
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-582
(73)【特許権者】
【識別番号】000217686
【氏名又は名称】電源開発株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 恭彦
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-018482(JP,A)
【文献】特開平09-253686(JP,A)
【文献】特開2014-124106(JP,A)
【文献】特開2009-034099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)を、セレン酸化合物の存在下で共培養する、セレン酸化合物の還元方法。
【請求項2】
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)を、セレン酸化合物の存在下で共培養し、
培養物から微生物を除去する、セレン酸化合物の除去方法。
【請求項3】
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)を、セレン酸化合物の存在下で共培養し、
培養物から金属セレンを回収する、金属セレンの製造方法。
【請求項4】
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)と、
スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)と、
を含む、セレン酸化合物還元製剤。
【請求項5】
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)を、硝酸化合物の存在下で共培養する、硝酸化合物の還元方法。
【請求項6】
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)を、硝酸化合物の存在下で共培養し、
培養物から微生物を除去する、硝酸化合物の除去方法。
【請求項7】
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)を、硝酸化合物の存在下で共培養し、
培養物から窒素ガスを回収する、窒素ガスの製造方法。
【請求項8】
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)と、
スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)と、
を含む、硝酸化合物還元製剤。
【請求項9】
セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を含む排水を処理する装置であって、
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)を、前記排水中で共培養する槽を備え
、
前記槽内の貯留液が、タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE BP-582)を含む、排水処理装置。
【請求項10】
セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を含む排水を処理する方法であって、
タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE
BP-582)を、前記排水中で共培養する、排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン酸化合物の還元方法、セレン酸化合物の除去方法、金属セレンの製造方法、セレン酸化合物還元製剤、硝酸化合物の還元方法、硝酸化合物の除去方法、窒素ガスの製造方法、硝酸化合物還元製剤、排水処理装置及び排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは半導体材料及び感光性材料等の用途で有用である。他にも、セレンはガラスの着色剤及び脱色剤としても利用されている。このように、セレンは産業界において利用価値の高い元素である。さらに、セレンは人体にとって必須元素であり、微量の摂取が必要とされる。
【0003】
しかし、必要量以上にセレンを摂取すると、セレンは人体に対する毒性を示すことが知られている。そこで、セレンは水質汚濁及び土壌汚染を防止するための環境基準の指定項目とされている。セレンを利用する産業界においては、工業排水中にセレンが混入する可能性がある。また、セレンは石炭中にも微量含まれていることから、火力発電所等の石炭を利用する産業施設の排水にも混入する可能性がある。以上より、排水中のセレンの除去は、水質汚濁及び土壌汚染を防止する観点から重要である。
【0004】
排水中のセレンは、6価のセレンの化合物であるセレン酸(H2SeO4)又はその塩、4価のセレンの化合物である亜セレン酸(H2SeO3)又はその塩等のセレン酸化合物として存在する。排水中では、セレン酸化合物の大半がセレン酸イオン(SeO4
2-)の形態で存在し、ごく一部が亜セレン酸イオン(SeO3
2-)の形態で存在していると考えられる。これらのセレン酸化合物は、還元されると0価の金属セレンとなる。
【0005】
セレンと同様に窒素は、産業界において利用価値が高く、人体にとって必須の元素である。窒素はセレンと同様に工業排水中にも含まれていることが多い。排水中の窒素は、5価の窒素の化合物である硝酸(HNO3)若しくはその塩又は3価の窒素の化合物である亜硝酸(HNO2)若しくはその塩等の硝酸化合物として存在する。
【0006】
ところで自然界には、これらセレン酸化合物のイオン及び硝酸化合物のイオンの少なくとも一方を体内に取り込んで還元処理できる微生物が存在する(特許文献1,2)。
特許文献1は、タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(NITE P-1465)を開示している。Se7-1株は、セレン酸化合物を還元する能力と硝酸化合物を還元する能力とを有している。Se7-1株は実地排水の条件下でもセレン酸化合物を還元できる。
特許文献2は、スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(NITE P-582)を開示している。SEP-3株は、セレン酸化合物を還元する能力を有し、セレン酸を金属セレンに還元する能力が高いとされている。
【0007】
実地排水でSe7-1株を培養すると、排水中の雑菌等及び外気等から培養物に混入する雑菌等の他の微生物の影響により、Se7-1株の生化学的活性が徐々に阻害されるおそれがある。よって、Se7-1株の還元能力が徐々に低下することが懸念されるため、実地排水中でSe7-1株を培養する際には、排水を一度滅菌処理し、滅菌した排水中でSe7-1株を培養し、Se7-1株の生化学的活性を最大限に高める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5608725号公報
【文献】特許第5227673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、排水の処理においては、さらなる低コスト化及び処理速度の高速化が課題である。そのため、セレン酸化合物及び硝酸化合物をより効率的に処理する方法が望まれている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、セレン酸化合物の還元速度が上昇するセレン酸化合物の還元方法;硝酸化合物の還元速度が上昇する硝酸化合物の還元方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、特許文献2に記載のSEP-3株が実験室条件下ではセレン酸を還元する能力を示すが、実地排水の条件下ではセレン酸を還元する能力を示しにくいことを突き止めた。
【0012】
ところが、本発明の発明者らが鋭意検討した結果、Se7-1株とSEP-3株とを排水中で共培養すると、意外にも排水中におけるセレン酸化合物の還元速度が上昇し、さらには硝酸化合物の還元速度も上昇することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)を、セレン酸化合物の存在下で共培養する、セレン酸化合物の還元方法。
[2] タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)を、セレン酸化合物の存在下で共培養し、培養物から微生物を除去する、セレン酸化合物の除去方法。
[3] タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)を、セレン酸化合物の存在下で共培養し、培養物から金属セレンを回収する、金属セレンの製造方法。
[4] タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)と、スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)と、を含む、セレン酸化合物還元製剤。
[5] タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)を、硝酸化合物の存在下で共培養する、硝酸化合物の還元方法。
[6] タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)を、硝酸化合物の存在下で共培養し、培養物から微生物を除去する、硝酸化合物の除去方法。
[7] タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)を、硝酸化合物の存在下で共培養し、培養物から窒素ガスを回収する、窒素ガスの製造方法。
[8] タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)と、スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)と、を含む、硝酸化合物還元製剤。
[9] セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を含む排水を処理する装置であって、タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)を、前記排水中で共培養する槽を備える、排水処理装置。
[10] セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を含む排水を処理する方法であって、タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)、及びスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)を、前記排水中で共培養する、排水処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセレン酸化合物の還元方法によれば、セレン酸化合物の還元速度が上昇する。
本発明の硝酸化合物の還元方法によれば、硝酸化合物の還元速度が上昇する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】Se7-1株及びSEP-3株を共培養した培養物を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真である。
【
図2】本発明を適用した一実施形態に係る排水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図3】実施例1~3及び比較例1,2の各例におけるSe7-1株及びSEP-3株のそれぞれの濃度を示すグラフである。
【
図4】実施例1~3及び比較例1,2の各例におけるセレン酸化合物及び硝酸化合物の還元速度を示すグラフである。
【
図5】実施例4で検討した、横軸にSe7-1株及びSEP-3株の混合比率を、縦軸にセレン酸化合物の還元速度の増強率をプロットしたグラフである。
【
図6】実施例5で検討した、横軸にSe7-1株及びSEP-3株の混合比率を、縦軸に硝酸化合物の還元速度の増強率をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書においては、「タウエラ・エスピー(Thauera sp.)JPCC Se7-1株(受託番号NITE P-1465)」を「Se7-1株」とも記す。また、本明細書においては、「スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP-3株(受託番号NITE P-582)」を「SEP-3株」とも記す。
本明細書における以下の用語の意味は以下の通りである。
「微生物」とは、主に細菌等の原核生物、並びに酵母類及び菌類等の真核生物を含む概念であり、ウイルス等の生体高分子の集合体を含んでもよい概念である。
「第1の微生物」とは、Se7-1株以外の微生物であるとともに、Se7-1株と同種の微生物であって、Se7-1株と分類学的性質が類似する微生物を意味する。
「第2の微生物」とは、SEP-3株以外の微生物であるとともに、SEP-3株と同種の微生物であって、SEP-3株と分類学的性質が類似する微生物を意味する。
「セレン酸化合物」とは、セレン酸(H2SeO4)、亜セレン酸(H2SeO3)及びこれらの塩並びにこれらのイオンを意味する。
「6価のセレン」とは、セレン酸、セレン酸塩又はセレン酸イオンの総称である。
「4価のセレン」とは、亜セレン酸、亜セレン酸塩又は亜セレン酸イオンの総称である。
「硝酸化合物」とは、硝酸(HNO3)、亜硝酸(HNO2)及びこれらの塩並びにこれらのイオンを意味する。
「5価の窒素」とは、硝酸、硝酸塩又は硝酸イオンの総称である。
「3価の窒素」とは、亜硝酸、亜硝酸塩又は亜硝酸イオンの総称である。
「共培養する」とは、異なる種類の微生物が混在した状態で、当該異なる種類の微生物を、同一の培地中でともに培養することを意味する。なお、「共培養」とは、特に断りのない限り、本培養を意味する。
「ppm」は、特に断りのない限り、質量比を意味する濃度単位である。
【0017】
<セレン酸化合物の還元方法>
以下、本発明のセレン酸化合物の還元方法について説明する。
本発明のセレン酸化合物の還元方法は、還元対象物中のセレン酸化合物を還元する方法である。還元対象物としては、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水が例示される。ただし、還元対象物はセレン酸化合物を含む形態であれば、これらに限定されない。
【0018】
本発明のセレン酸化合物の還元方法においては、Se7-1株及びSEP-3株を、セレン酸化合物の存在下で共培養する。
Se7-1株は、例えば特許第5608725号公報に開示されている方法により、取得できる。
Se7-1株の同定は、特許第5608725号公報に開示されている方法により、同定できる。
【0019】
Se7-1株は、セレン酸化合物を還元する能力を有する。Se7-1株においては、6価のセレンを4価のセレンに還元する能力が特に高い。
本発明の発明者らは、Se7-1株が実地排水の条件下、及び特許第5608725号公報に開示されている実験室条件下のいずれにおいても、セレン酸化合物を還元する能力を有し、6価のセレンを4価のセレンに還元する能力が特に高いことを確認した。
【0020】
Se7-1株は、培地の種類に応じて資化性が変化することがある。例えば、特許第5608725号公報の段落[0031]に開示されている組成の培地を用いる場合、Se7-1株が硝酸化合物を還元する能力を有することが確認されている。
本発明の発明者らは、Se7-1株が実地排水の条件下、及び特許第5608725号公報の段落[0031]等に開示されている実験室条件下のいずれにおいても、硝酸化合物を還元する能力を有することを確認した。
Se7-1株は、嫌気条件下でも良好に生育することが確認されている。
Se7-1株は、2012年11月16日付けで、受託番号NITE P-1465として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託されている。
【0021】
第1の微生物は、セレン酸化合物を還元する能力及び硝酸化合物を還元する能力の少なくとも一方においてSe7-1株と同様の性質を有する。ただし、第1の微生物は4価のセレンを0価の金属セレンに還元する能力を有してもよい。
【0022】
第1の微生物は、Se7-1株と同種であると考えられる微生物である。第1の微生物は、Se7-1株が属する種に属する微生物及び16SrDNAの塩基配列がSe7-1株の塩基配列と95%以上の相同性を有し、セレン酸化合物を還元する能力を有するタウエラ属に属する微生物を包含する。
【0023】
第1の微生物は、4価のセレンが存在せず、6価のセレンが存在する培地において単独で培養したときに、下記式1で算出される6価のセレンの除去率が、85%以上であると好ましく、90%以上であるとより好ましい。そして、第1の微生物を単独で培養する培養時間は、60~84時間が好ましい。
{[培養開始前における培地中の6価のセレンの濃度(ppm)]-[培養後における培地中の6価のセレンの濃度(ppm)]}/[培養開始前における培地中の6価のセレンの濃度(ppm)]×100 ・・・・式1
【0024】
SEP-3株は、例えば特許第5227673号公報に開示されている方法により、取得できる。
SEP-3株は、特許第5227673号公報に開示されている方法により、同定できる。
【0025】
SEP-3株は、特許第5227673号公報に開示されている実験室条件下においては、セレン酸化合物を還元する能力を有する。SEP-3株は特許第5227673号公報に開示されている実験室条件下で、6価のセレン及び4価のセレンを0価の金属セレンに還元する能力を有し、6価のセレンを0価の金属セレンに還元する能力が高い。
一方で、本発明の発明者らは、SEP-3株が実地排水の条件下では、セレン酸化合物を還元する能力を示しにくいことを確認した。
【0026】
SEP-3株は硝酸化合物を還元する能力を有し、5価の窒素を3価の窒素に還元する能力が高い。
本発明の発明者らは、SEP-3株が実地排水の条件下及び特許第5227673号公報に開示されている実験室条件下のいずれにおいても、硝酸化合物を還元する能力を有することを確認した。
さらに、本発明の発明者らは、SEP-3株が実地排水の条件下においては、5価の窒素及び3価の窒素の少なくとも一方を0価の窒素ガスに還元する能力を示しにくいことを確認した。また、本発明の発明者らは、SEP-3株が実地排水の条件下において、5価の窒素を3価の窒素に還元する能力を示すことを確認した。
SEP-3株は、嫌気条件下で良好に生育することが確認されている。
SEP-3株は、2008年6月4日付けで、受託番号NITE P-582として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託されている。その後SEP-3株は、2009年6月2日付で受託番号NITE BP-582としてブダペスト条約に基づく国際寄託へ移管されている。
【0027】
第2の微生物は、セレン酸化合物を還元する能力及び硝酸化合物を還元する能力の少なくとも一方においてSEP-3株と同様の性質を有する。ただし、第2の微生物は6価のセレンを4価のセレンに還元する能力を有してもよい。
【0028】
第2の微生物は、SEP-3株と同種であると考えられる微生物である。第2の微生物は、SEP-3株が属する種に属する微生物及び16SrDNAの塩基配列がSEP-3株の塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物を還元する能力を有するスルフロスピリラム属に属する微生物を包含する。
【0029】
本発明のセレン酸化合物の還元方法は、例えば、セレン酸化合物を含む培地と、後述するセレン酸化合物還元製剤とを混合する等して、Se7-1株及びSEP-3株を前記培地に植菌し、Se7-1株及びSEP-3株を共培養することで行うことができる。
【0030】
Se7-1株及びSEP-3株を共培養する際には、Se7-1株及びSEP-3株の他に、第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方の一種以上の微生物をさらに共培養してもよい。
共培養の条件は、特に限定されず、Se7-1株及びSEP-3株がともに良好に生育するように、適宜調節すればよい。共培養の条件は、例えば以下のように設定できる。
【0031】
共培養する際の培地は、セレン酸化合物を含む還元対象物そのものでもよく、前記還元対象物と、Se7-1株及びSEP-3株の少なくとも一方の生育に有用な成分との混合物でもよく、Se7-1株及びSEP-3株の取得で用いた培地と、前記還元対象物との混合物でもよい。
共培養する際の培地のpHは、6.5~9.0が好ましく、6.5~7.5がより好ましく、7.0程度が特に好ましい。共培養する際の培地のpHが6.5~9.0の範囲内であると、本発明の効果がさらに優れる。
【0032】
共培養を行う培地中のセレン酸化合物の濃度は、目的に応じて任意に設定できるが、0.1~100ppmであることが好ましく、0.5~50ppmであることがより好ましい。培地中のセレン酸化合物の濃度が100ppm以下であると、本発明の効果がさらに優れる。培地中のセレン酸化合物の濃度が0.5ppm以上であると、本発明を種々の還元対象物に適用できる。
【0033】
共培養する際の温度は、15~40℃が好ましく、25~40℃がより好ましく、33~37℃が特に好ましい。共培養する際の温度が15~40℃の範囲内であると、本発明の効果がさらに優れる。
共培養の時間は、培地中のセレン酸化合物の濃度、培地へのSe7-1株及びSEP-3株の総植菌量等を考慮して適宜調節すればよく、例えば、10分~120時間とすることができる。共培養の時間が前記範囲内であると、本発明の効果がさらに優れる。
【0034】
共培養する際の、培地へのSe7-1株及びSEP-3株の総植菌量は、培地中のセレン酸化合物の濃度等を考慮して適宜調節すればよく、特に限定されない。例えば、培地中におけるSe7-1株及びSEP-3株の合計濃度が、セレン酸化合物1ppmあたり2.0×108~1.0×109cells/mLとなるように総植菌量を調節することが好ましい。
【0035】
共培養する際の培地中におけるSEP-3株の数は、Se7-1株の数の0.2~2.6倍が好ましく、1.0~2.6倍がより好ましい。培地中におけるSEP-3株の数がSe7-1株の数の0.2~2.6倍であると、本発明の効果がさらに優れる。
【0036】
本発明において、共培養を嫌気条件下及び好気条件下のいずれで行うかは、併用され得る微生物の組合せを考慮して選択すればよい。例えば、Se7-1株は、通常、嫌気条件下で良好に生育するが、培地の種類を選択することで、好気条件下でも良好に生育する。そして、SEP-3株は、通常、嫌気条件下で良好に生育する。したがって、これら二種を併用する場合、嫌気条件下で共培養することが好ましい。
【0037】
本発明のセレン酸化合物の還元方法においては、Se7-1株及びSEP-3株を、共培養、すなわち本培養する前に、Se7-1株及びSEP-3株を前培養することが好ましい。
【0038】
前培養では、本培養と同様の培地を用いることができる。また、前培養は上述した本培養と同様の条件で行うことができる。ただし、前培養で用いる培地は、セレン酸化合物を必ずしも必要としない。
【0039】
本発明のセレン酸化合物の還元方法においては、Se7-1株及びSEP-3株並びに第1の微生物及び第2の微生物以外に、その他の微生物を共培養してもよい。その他の微生物としては、6価のセレンを4価のセレンに還元する能力を有する微生物、4価のセレンを0価の金属セレンに還元する能力を有する微生物等が例示される。
【0040】
(作用効果)
以上説明した本発明のセレン酸化合物の還元方法では、Se7-1株及びSEP-3株をセレン酸化合物の存在下で共培養するため、セレン酸化合物の還元速度が上昇する。
【0041】
上述のように、SEP-3株は実地排水の条件下では、セレン酸化合物を還元する能力を示しにくいことが確認されている。
一方で、Se7-1株による排水の処理においては、Se7-1株の還元能力が他の微生物の影響により、低下することが懸念されている。そのため、排水を一度滅菌処理し、滅菌した排水中でSe7-1株を単独培養することで、Se7-1株の生化学的活性を最大限に高めることが従来の技術常識である。
したがって、Se7-1株及びSEP-3株の組み合わせを選択することにより、Se7-1株のセレン酸化合物の還元速度が上昇するという本発明の効果は、全く意外であるといえる。
【0042】
<セレン酸化合物の除去方法>
以下、本発明のセレン酸化合物の除去方法について説明する。
本発明のセレン酸化合物の除去方法は、セレン酸化合物を含む除去対象物からセレン酸化合物を除去する方法である。除去対象物としては、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水が例示される。ただし、除去対象物はセレン酸化合物を含む形態であれば、これらに限定されない。
【0043】
本発明のセレン酸化合物の除去方法では、Se7-1株及びSEP-3株を、セレン酸化合物の存在下で共培養し、培養物から微生物を除去する。
本発明のセレン酸化合物の除去方法において、Se7-1株及びSEP-3株を共培養する条件は、セレン酸化合物の還元方法で述べた内容と同様である。
【0044】
本発明のセレン酸化合物の除去方法では、例えば、除去対象物を含む培地に、Se7-1株及びSEP-3株を植菌し、Se7-1株及びSEP-3株を共培養することができる。これにより、培地中のセレン酸化合物がSe7-1株及びSEP-3株の少なくとも一方に取り込まれつつ、取り込まれたセレン酸化合物が還元される。そのため、培養物からSe7-1株及びSEP-3株の少なくとも一方の微生物を除去することで、除去対象物から効率的にセレン酸化合物を除去できる。
【0045】
Se7-1株及びSEP-3株は、他の成分とともに培養物から除去してもよい。
Se7-1株及びSEP-3株は、例えば、フィルターを用いて培養物をろ過する方法、培養物を遠心分離する方法等により固形分を分離することで、単独で又は他の成分とともに、培養物から除去できる。
なお、Se7-1株及びSEP-3株を共培養する際に、Se7-1株及びSEP-3株の他に、第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方の一種以上の微生物を共培養する場合においては、Se7-1株及びSEP-3株に加えて、第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方の微生物を培養物から除去してもよい。
【0046】
上述のようにSe7-1株においては、6価のセレンを4価のセレンに還元する能力が特に高い。そのため、培養物におけるセレンの大半は4価のセレンの形態で存在し、残りが0価の金属セレンの形態で存在し、僅かに6価のセレンの形態でも存在すると考えられる。
そのため、本発明のセレン酸化合物の除去方法においては、培養物から微生物を除去した後、さらに4価のセレンを除去することが好ましい。4価のセレンを除去する方法としては、微生物を除去した培養物と、凝集剤とを混合する方法が例示される。
【0047】
微生物が除去された培養物と凝集剤とを混合すると、4価のセレンが0価の金属セレンとして析出する。そのため、微生物を除去した培養物から0価の金属セレンを析出させて4価のセレンを除去すると、除去対象物からセレン酸化合物をさらに効果的に除去できる。
【0048】
凝集剤は、Fe3+、Cu2+、Zn2+、Ag+、Al3+、Mg2+、Ca2+及びBa2+からなる群より選ばれる少なくとも一つのイオンを水溶液中で生成する化合物が好ましい。好ましい凝集剤としては、塩化鉄(III)、硫酸銅、硫酸亜鉛、塩化銀、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム及び塩化バリウム等が例示される。
【0049】
凝集剤を用いて析出させた0価の金属セレンを除去する方法としては、ろ過する方法、遠心分離する方法、沈降分離する方法等が例示される。
【0050】
(作用効果)
以上説明した本発明のセレン酸化合物の除去方法では、Se7-1株及びSEP-3株をセレン酸化合物の存在下で共培養するため、セレン酸化合物の還元速度が上昇し、除去対象物中のセレン酸化合物を還元する化学反応が活性化する。よって、本発明のセレン酸化合物の除去方法によれば、除去対象物からセレン酸化合物を効率的に、かつ効果的に除去できる。
【0051】
<金属セレンの製造方法>
以下、本発明の金属セレンの製造方法について説明する。
本発明の金属セレンの製造方法は、セレン酸化合物を含む原料から金属セレンを製造する方法である。原料としては、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水が例示される。ただし、原料はセレン酸化合物を含む形態であれば、これらに限定されない。
【0052】
本発明の金属セレンの製造方法では、Se7-1株及びSEP-3株を、セレン酸化合物の存在下で共培養し、培養物から金属セレンを回収する。
本発明の金属セレンの製造方法において、Se7-1株及びSEP-3株を共培養する条件は、セレン酸化合物の還元方法で述べた内容と同様である。
【0053】
図1は、Se7-1株及びSEP-3株を共培養した培養物を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した写真である。
図1中の矢印は、培養物中の金属セレンの粒子を示す。このように本発明の発明者らは、培養物中において0価の金属セレンは、微生物の体内及び微生物の体外に存在することを確認している。
したがって、培養物から金属セレンを回収する際においては、培養物から微生物を回収若しくは除去し、微生物の体内から金属セレンを回収すること、又は、微生物の体外の金属セレンを培養物から回収することが好ましい。
【0054】
培養物から微生物を回収又は除去し、微生物の体内から金属セレンを回収する際には、例えば、培養物をろ過又は遠心分離し、固形分として回収又は除去される微生物の細胞膜を破砕する方法を適用できる。細胞膜を破砕することにより、微生物の体内から金属セレンを回収できる。細胞膜を破砕する方法としては、超音波破砕を利用する方法が例示される。ただし、細胞膜を破砕する方法は超音波破砕に限定されない。
【0055】
本発明の金属セレンの製造方法においては、微生物の体内から金属セレンを回収する場合、細胞膜を破砕した後の破砕液をろ過又は遠心分離し、上澄みを回収し、回収した上澄みと凝集剤とを混合してもよい。これにより、微生物の体内に4価のセレン又は6価のセレンとして存在していたセレンが0価の金属セレンとして析出する。そのため、金属セレンの収率がさらに優れる。
【0056】
本発明の金属セレンの製造方法においては、微生物の体内から金属セレンを回収する場合、微生物を回収又は除去した後の培養物と凝集剤とを混合して、0価の金属セレンを析出させてもよい。これにより、培養物の液相に含まれる4価のセレン又は6価のセレンを0価の金属セレンとして回収できるため、金属セレンの収率がさらに優れる。
【0057】
微生物の体外の金属セレンを培養物から回収する際には、培養物をろ過又は遠心分離し、微生物を除去した培養物の液相に存在する0価の金属セレンを回収すればよい。培養物の液相に存在する0価の金属セレンを回収する方法としては、沈降分離を利用する方法が例示される。
【0058】
本発明の金属セレンの製造方法において微生物の体外の金属セレンを培養物から回収する場合、微生物を除去した後、直ちに0価の金属セレンを回収するよりも、微生物を除去した後の培養物と凝集剤とを混合してから、0価の金属セレンを回収することがさらに好ましい。これにより、培養物の液相に含まれる4価のセレン又は6価のセレンを0価の金属セレンとして回収できるため、金属セレンの収率がさらに優れる。
【0059】
(作用効果)
以上説明した本発明の金属セレンの製造方法では、Se7-1株及びSEP-3株をセレン酸化合物の存在下で共培養するため、セレン酸化合物の還元速度が上昇し、原料中のセレン酸化合物を還元する化学反応が活性化する。よって、本発明の金属セレンの製造方法によれば、原料から金属セレンを効率的に製造でき、金属セレンを高収率で製造できる。
【0060】
<セレン酸化合物還元製剤>
本発明のセレン酸化合物還元製剤は、Se7-1株とSEP-3株とを含む。
本発明のセレン酸化合物還元製剤は、Se7-1株及びSEP-3株の他に、第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方の一種以上の微生物をさらに含んでもよい。
本発明のセレン酸化合物還元製剤は、その他の微生物を含んでもよい。
本発明のセレン酸化合物還元製剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて各種添加剤を含んでもよい。
【0061】
本発明のセレン酸化合物還元製剤において、SEP-3株の数はSe7-1株の数の0.2~2.6倍が好ましく、1.0~2.6倍がより好ましい。培地中におけるSEP-3株の数がSe7-1株の数の0.2~2.6倍であると、本発明の効果がさらに優れる。
【0062】
セレン酸化合物還元製剤の具体的形態としては、SEP-3株非共存下でSe7-1株を培養して得られる培養物をさらにろ過して得られるろ過物と、Se7-1株非共存下でSEP-3株を培養して得られる培養物をさらにろ過して得られるろ過物と、を混合して得られるろ過混合物;前記ろ過混合物の乾燥物;Se7-1株及びSEP-3株を共培養して得られる培養物をさらにろ過して得られる共培養ろ過物;前記共培養ろ過物の乾燥物;SEP-3株非共存下で培養し、精製処理して得られるSe7-1株と、Se7-1株非共存下で培養し、精製処理して得られるSEP-3株と、を混合して得られる単独培養微生物の混合物;Se7-1株及びSEP-3株を共培養し、精製処理して得られるSe7-1株及びSEP-3株の共培養微生物等が例示できる。
さらに、本発明のセレン酸化合物還元製剤においては、Se7-1株及びSEP-3株が、例えば、寒天、ゲランガム等の天然物高分子ゲル;アクリルアミド;紫外線硬化樹脂等の高分子樹脂;炭素繊維、中空糸膜、不織布等の繊維等に固定化されてもよい。固定化は内包及び表面固定のいずれでもよい。
【0063】
本発明のセレン酸化合物還元製剤は、例えば、還元対象物に含まれるセレン酸化合物を還元する際に使用できる。
本発明のセレン酸化合物還元製剤は、例えば、除去対象物に含まれるセレン酸化合物を除去する際に使用できる。
本発明のセレン酸化合物還元製剤は、例えば、セレン酸化合物を含む原料から金属セレンを製造する際に使用できる。
【0064】
本発明のセレン酸化合物還元製剤の使用方法の一例として、本発明のセレン酸化合物還元製剤をセレン酸化合物の存在下で共培養する方法が例示される。共培養の条件は、セレン酸化合物の還元方法で述べた共培養の条件と同様である。
他にも本発明のセレン酸化合物還元製剤は、後述する排水処理装置が備える生物処理槽に適用できる。
【0065】
(作用効果)
以上説明した本発明のセレン酸化合物還元製剤は、Se7-1株とSEP-3株とを含むため、セレン酸化合物の還元速度が上昇する。よって、本発明のセレン酸化合物還元製剤によれば、還元対象物を効率的かつ効果的に還元できる。
【0066】
<硝酸化合物の還元方法>
以下、本発明の硝酸化合物の還元方法について説明する。
本発明の硝酸化合物の還元方法は、還元対象物中の硝酸化合物を還元する方法である。還元対象物としては、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水が例示される。ただし、還元対象物は硝酸化合物を含む形態であれば、これらに限定されない。
【0067】
本発明の硝酸化合物の還元方法においては、Se7-1株及びSEP-3株を、硝酸化合物の存在下で共培養する。
本発明の硝酸化合物の還元方法は、例えば、硝酸化合物を含む培地と、後述する硝酸化合物還元製剤とを混合する等して、Se7-1株及びSEP-3株を前記培地に植菌し、Se7-1株及びSEP-3株を共培養することで行うことができる。
【0068】
Se7-1株及びSEP-3株を共培養する際には、Se7-1株及びSEP-3株の他に、第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方の一種以上の微生物をさらに共培養してもよい。
共培養の条件は、特に限定されず、Se7-1株及びSEP-3株がともに良好に生育するように、適宜調節すればよい。共培養の条件は、例えば以下のように設定できる。
【0069】
共培養する際の培地は、硝酸化合物を含み、セレン酸化合物を任意で含む点以外は、上述したセレン酸化合物の還元方法で共培養する際の培地と同様である。
【0070】
共培養を行う培地中の硝酸化合物の濃度は、目的に応じて任意に設定できるが、10~100ppmであることが好ましく、30~50ppmであることがより好ましい。培地中の硝酸化合物の濃度が100ppm以下であると、本発明の効果がさらに優れる。培地中の硝酸化合物の濃度が10ppm以上であると、本発明を種々の還元対象物に適用できる。
【0071】
本発明の硝酸化合物の還元方法において、共培養する際の温度、時間、総植菌量、嫌気条件及び好気条件の選択、前培養の有無の選択等の各条件は、上述したセレン酸化合物の還元方法の各条件と同様である。
【0072】
本発明の硝酸化合物の還元方法においては、Se7-1株及びSEP-3株並びに第1の微生物及び第2の微生物以外に、その他の微生物を共培養してもよい。
前記その他の微生物としては、5価の窒素を3価の窒素又は0価の窒素ガスに還元する能力を有する微生物、3価の窒素を0価の窒素ガスに還元する能力を有する微生物等が例示される。
【0073】
(作用効果)
以上説明した本発明の硝酸化合物の還元方法では、Se7-1株及びSEP-3株を硝酸化合物の存在下で共培養するため、硝酸化合物の還元速度が上昇する。
【0074】
上述のように、SEP-3株は実地排水の条件下では、5価の窒素及び3価の窒素の少なくとも一方を0価の窒素ガスに還元する能力を示しにくいことが確認されている。
一方で本発明の発明者らは、Se7-1株が実地排水の条件下で、硝酸化合物を還元する能力を有することを確認した。さらに、排水を一度滅菌処理し、滅菌した排水中でSe7-1株を単独培養することで、Se7-1株の生化学的活性を最大限に高めることが従来の技術常識である。
したがって、Se7-1株及びSEP-3株の組み合わせを選択することにより、硝酸化合物の還元速度が上昇するという本発明の効果は、全く意外であるといえる。
【0075】
<硝酸化合物の除去方法>
以下、本発明の硝酸化合物の除去方法について説明する。
本発明の硝酸化合物の除去方法は、硝酸化合物を含む除去対象物から硝酸化合物を除去する方法である。除去対象物としては、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水が例示される。ただし、除去対象物は硝酸化合物を含む形態であれば、これらに限定されない。
【0076】
本発明の硝酸化合物の除去方法では、Se7-1株及びSEP-3株を、硝酸化合物の存在下で共培養し、培養物から微生物を除去する。
本発明の硝酸化合物の除去方法において、Se7-1株及びSEP-3株を共培養する条件は、硝酸化合物の還元方法で述べた内容と同様である。
【0077】
本発明の硝酸化合物の除去方法では、例えば、前記除去対象物を含む培地に、Se7-1株及びSEP-3株を植菌し、Se7-1株及びSEP-3株を共培養することができる。これにより、培地中の硝酸化合物がSe7-1株及びSEP-3株の少なくとも一方に取り込まれつつ、取り込まれた硝酸化合物が還元される。そのため、培養物からSe7-1株及びSEP-3株の少なくとも一方の微生物を除去することで、除去対象物から効率的に硝酸化合物を除去できる。
【0078】
本発明の硝酸化合物の還元方法において、Se7-1株及びSEP-3株を除去する方法は、セレン酸化合物の還元方法で述べた内容と同様である。
なお、Se7-1株及びSEP-3株を共培養する際に、Se7-1株及びSEP-3株の他に、第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方の一種以上の微生物を共培養する場合においては、Se7-1株及びSEP-3株に加えて、第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方の微生物を培養物から除去してもよい。
【0079】
上述のように、SEP-3株においては、5価の窒素を3価の窒素に還元する能力が特に高い。そのため、培養物における窒素の大半は3価の窒素の形態で存在すると考えられる。
そのため、本発明の硝酸化合物の除去方法においては、培養物から微生物を除去した後、さらに3価の窒素を除去することが好ましい。これにより、除去対象物から硝酸化合物をさらに効果的に除去できる。なお、3価の窒素を除去する方法としては、培養物から3価の窒素を除去できる方法であれば特に限定されない。
【0080】
本発明の硝酸化合物の除去方法においては、Se7-1株及びSEP-3株を共培養する際に、培養物から窒素ガスが発生することがある。共培養物から発生する窒素ガスは、除去対象物中に含まれる5価の窒素及び3価の窒素の少なくとも一方に由来する。そのため、本発明の硝酸化合物の除去方法においては、培養物から窒素ガスを排出させて除去してもよい。これにより、除去対象物から硝酸化合物をさらに効果的に除去できる。
【0081】
(作用効果)
以上説明した本発明の硝酸化合物の除去方法では、Se7-1株及びSEP-3株を硝酸化合物の存在下で共培養するため、硝酸化合物の還元速度が上昇し、除去対象物中の硝酸化合物を還元する化学反応が活性化する。よって、本発明の硝酸化合物の除去方法によれば、除去対象物から硝酸化合物を効率的かつ効果的に除去できる。
【0082】
<窒素ガスの製造方法>
以下、本発明の窒素ガスの製造方法について説明する。
本発明の窒素ガスの製造方法は、硝酸化合物を含む原料から窒素ガスを製造する方法である。原料としては、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水が例示される。ただし、原料は硝酸化合物を含む形態であれば、これらに限定されない。
【0083】
本発明の窒素ガスの製造方法では、Se7-1株及びSEP-3株を、硝酸化合物の存在下で共培養し、培養物から窒素ガスを回収する。
本発明の窒素ガスの製造方法において、Se7-1株及びSEP-3株を共培養する条件は、硝酸化合物の還元方法で述べた内容と同様である。
【0084】
培養物から窒素ガスを回収する際は、培養物から微生物を回収又は除去し、微生物の体内から硝酸化合物を回収し、回収した硝酸化合物を窒素ガスに化学変換すること、又は、共培養の際に発生する窒素ガスを回収することが好ましい。これにより、窒素ガスの収率がさらに優れる。
【0085】
培養物から微生物を回収又は除去し、微生物の体内から硝酸化合物を回収する際には、例えば、固形分として微生物を回収又は除去し、微生物の細胞膜を破砕して遠心分離し、上澄み液を回収する方法が例示される。回収した硝酸化合物を窒素ガスに化学変換する方法は、特に限定されない。
【0086】
(作用効果)
以上説明した本発明の窒素ガスの製造方法では、Se7-1株及びSEP-3株を硝酸化合物の存在下で共培養するため、硝酸化合物の還元速度が上昇し、原料中の硝酸化合物を還元する化学反応が活性化する。よって、本発明の窒素ガスの製造方法によれば、原料から窒素ガスを効率的に製造でき、窒素ガスを高収率で製造できる。
【0087】
<硝酸化合物還元製剤>
本発明の硝酸化合物還元製剤は、Se7-1株とSEP-3株とを含む。
本発明の硝酸化合物還元製剤は、Se7-1株及びSEP-3株の他に、第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方の一種以上の微生物をさらに含んでもよい。
本発明の硝酸化合物還元製剤は、その他の微生物を含んでもよい。
本発明の硝酸化合物還元製剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて各種添加剤を含んでもよい。
【0088】
本発明の硝酸化合物還元製剤において、SEP-3株の数は、Se7-1株の数の0.2~2.6倍が好ましく、1.0~2.6倍がより好ましい。培地中におけるSEP-3株の数がSe7-1株の数の0.2~2.6倍であると、本発明の効果がさらに優れる。
【0089】
硝酸化合物還元製剤の具体的な形態としては、上述したセレン酸化合物還元製剤の具体的形態として例示した内容と同様である。
【0090】
本発明の硝酸化合物還元製剤は、例えば、還元対象物に含まれる硝酸化合物を還元する際に使用できる。
本発明の硝酸化合物還元製剤は、例えば、除去対象物に含まれる硝酸化合物を除去する際に使用できる。
本発明の硝酸化合物還元製剤は、例えば、硝酸化合物を含む原料から窒素ガスを製造する際に使用できる。
【0091】
本発明の硝酸化合物還元製剤の使用方法の一例として、本発明の硝酸化合物還元製剤を硝酸化合物の存在下で共培養する方法が例示される。共培養の条件は、硝酸化合物の還元方法で述べた共培養の条件と同様である。
他にも本発明の硝酸化合物還元製剤は、後述する排水処理装置が備える生物処理槽に適用できる。
【0092】
(作用効果)
以上説明した本発明の硝酸化合物還元製剤は、Se7-1株とSEP-3株とを含むため、硝酸化合物の還元速度が上昇する。よって、本発明の硝酸化合物還元製剤によれば、還元対象物を効率的かつ効果的に還元できる。
【0093】
<排水処理装置>
以下、本発明を適用した一実施形態に係る排水処理装置を説明する。
図2は、本実施形態例に係る排水処理装置1の概略構成図である。
図2に示すように、排水処理装置1は、前処理部2と、生物処理部3と、化学処理部4とを備えている。
【0094】
排水処理装置1は、セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を含む排水を処理する装置である。
セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を含む排水の具体例としては、火力発電所等の石炭を利用する工業施設の脱硫排水及びスクラバー排水等が例示されるが、特に限定されない。
【0095】
前処理部2は、排水貯槽11と、滅菌器21と、濾過器23と、pH調整槽24と、調整水貯槽25とを備えている。
排水貯槽11は、排水を一時的に貯留する槽である。排水貯槽11は、流路12と流路13との間に設けられている。流路12は、工業施設(図示略)から排水貯槽11に、排水を供給する流路である。流路13は、排水貯槽11から排出された排水を滅菌器21に供給する流路である。流路13には、ポンプ14が設けられている。これにより滅菌器21に前記排水を供給しやすくなる。
【0096】
滅菌器21は、排水中の菌類等の微生物を滅菌できる。滅菌器21は、流路22に接続されている。流路22は、滅菌器21で滅菌された排水をpH調整槽24に供給する流路である。
滅菌器21は、排水中の雑菌等の微生物を滅菌できる形態であれば、特に限定されない。滅菌器21としては、紫外線式及び酸化剤注入式等の滅菌器が例示される。
【0097】
濾過器23は、排水中の不純物を除去できる。濾過器23は、流路22に設けられている。これにより流路22を流れる排水中の不純物が除去される。
濾過器23は、排水中の不純物を除去できる形態であれば、特に限定されない。
【0098】
pH調整槽24は、排水のpHを調整する槽である。pH調整槽24は、流路22に接続されている。これにより、滅菌器21と、濾過器23とを経由した排水が、pH調整槽24に貯留される。
pH調整槽24には、排出口24aが形成されている。これにより、pH調整槽24から、調整水貯槽25に、前記排水が排出される。
【0099】
pH調整槽24は、pH調整剤供給手段26を有している。pH調整剤供給手段26は、pH調整槽24にpH調整剤を供給できる形態であれば、特に限定されない。pH調整剤としては、苛性ソーダ、水酸化カリウム等の塩基、又は塩酸、硫酸等の酸が例示される。
【0100】
調整水貯槽25は、pH調整槽24でpHが調整された排水を貯留する槽である。調整水貯槽25は、pH調整槽24と隣接するとともに、pH調整槽24の後段に設けられている。これにより、調整水貯槽25には、pH調整槽24でpHが調整された排水が貯留される。
【0101】
調整水貯槽25は、流路27に接続されている。流路27は、調整水貯槽25から生物処理部3に、排水を供給する流路である。流路27には、ポンプ28が設けられている。これにより生物処理部3に排水を供給しやすくなる。
【0102】
生物処理部3は、生物処理槽31と、生物処理水貯槽51とを備えている。
生物処理槽31は、流路27に接続されている。これにより、調整水貯槽25内の排水が、生物処理槽31に貯留される。
【0103】
生物処理槽31は、Se7-1株及びSEP-3株を排水中で共培養する槽である。生物処理槽31でSe7-1株及びSEP-3株を共培養する条件は、上述したセレン酸化合物の還元方法又は硝酸化合物の還元方法でSe7-1株及びSEP-3株を共培養する際の条件を適用できる。
本実施形態においては、排水を含む生物処理槽31内の貯留液が、Se7-1株及びSEP-3株を共培養する際の培地である。また生物処理槽31内の貯留液は、Se7-1株及びSEP-3株を含む。これにより、生物処理槽31は排水中のセレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を還元する生物処理を行うことができる。
【0104】
生物処理槽31内の貯留液はSe7-1株及びSEP-3株の少なくとも一方の生育に有用な成分を含んでもよい。
生物処理槽31内の貯留液は第1の微生物及び第2の微生物の少なくとも一方を含んでもよい。
【0105】
排水処理装置1においては、生物処理槽31が、分離膜モジュール32と、ヒーター33と、酸供給手段34とを有している。
分離膜モジュール32は、生物処理槽31内の貯留液を、4価のセレンを溶解する溶解液と、微生物とに分離できる形態であれば、特に限定されない。排水処理装置1において、分離膜モジュール32は、生物処理槽31内の貯留液を前記溶解液と前記微生物とに分離する分離手段の一形態例である。
【0106】
分離膜モジュール32が備える分離膜の種類としては、精密濾過膜(MF膜)又は限外濾過膜(UF膜)が好ましい。
分離膜の形状としては、中空糸膜、平膜、管状膜及び袋状膜等が例示される。これらのうち、容積ベースで比較した場合に膜面積の高度集積が可能であることから、中空糸膜が好ましい。
分離膜の材質としては、有機材料(セルロース、ポリオレフィン、ポリスルフォン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン及びポリ4フッ化エチレン等)、金属(ステンレス等)、無機材料(セラミック等)が例示される。分離膜の材質は、生物処理槽31内の貯留液及び前記微生物の性状等に応じて適宜選択される。
分離膜の孔径は、生物処理の目的に応じて適宜選択すればよい。排水処理装置1において、分離膜の孔径は、0.01~1.0μmが好ましい。孔径が0.01μm未満では、膜の抵抗が大きくなりやすい。孔径が1.0μmを超えると、前記微生物を完全に分離することができないため、処理水(透過水)の水質が悪化するおそれがある。分離膜の孔径は、精密濾過膜、又は限外濾過膜の範囲とされる0.05~0.4μmがより好ましい。
なお、生物処理槽31は、分離膜モジュール32を1つ有してもよいし、複数有してもよい。
【0107】
なお、排水処理装置1においては、分離膜モジュールと、後述する散気管41とが一体化された分離膜ユニットを用いてもよい。このような分離膜ユニットとしては、特開2013-202524号公報に記載の分離膜ユニット等が例示される。
【0108】
分離膜モジュール32は、流路35に接続されている。流路35は生物処理水貯槽51に、4価のセレンを溶解する溶解液を生物処理水として供給する流路である。流路35には、ポンプ36が設けられている。これにより分離膜モジュール32における分離が進行しやすくなる。
【0109】
ヒーター33は、生物処理槽31内の貯留液の温度を任意に調整できる形態であれば、特に限定されない。ヒーター33を有することにより、生物処理槽31は、前記貯留液の温度を、生物処理を行える範囲に調整できる。このように、ヒーター33は、生物処理槽31内の貯留液の温度を調整する温度調整手段の一形態例である。
【0110】
酸供給手段34は、生物処理槽31に酸を供給できる形態であれば、特に限定されない。酸としては、塩酸、乳酸、硝酸及び硫酸等が例示される。酸供給手段34を有することにより、生物処理槽31は、前記貯留液のpHを生物処理を行える範囲に調整できる。
【0111】
生物処理槽31には、散気装置40が設けられている。散気装置40は、嫌気性ガスを生物処理槽31内に散気する散気管41と、散気管41に嫌気性ガスを供給するガス供給源42と、散気管41とガス供給源42とを接続するガス導入管43と、生物処理槽31の頂部とガス導入管43とを接続するガス循環管44と、生物処理槽31の気相のガスを吸引するブロアー45と、生物処理槽31の気相から気体を排出する排気管46を備えている。
【0112】
散気装置40は、分離膜モジュール32が備える分離膜の表面に付着した微生物等の不純物を分離膜から除去するために用いられる。また、排水処理装置1においては、散気装置40が、生物処理槽31内を嫌気条件に維持するためにも用いられる。
本実施形態においては、生物処理槽31の頂部が密閉されている。これにより、生物処理槽31内を嫌気条件に維持できる。
【0113】
散気管41は、生物処理槽31内かつ分離膜モジュール32の下方に設置されている。散気管41は、ガス供給源42から供給される嫌気性ガスを上方に吐出できる形態であれば、特に限定されない。散気管41としては、穴あきの単管及びメンブレンタイプのもの等が例示される。
【0114】
ガス供給源42は、生物処理槽31の外部に設置されている。ガス供給源42は、ガス導入管43を介して、散気管41に嫌気性ガスを導入できる形態であれば、特に限定されない。ガス供給源42としては、ガスボンベ及びPSAタイプのガス供給源等が例示される。ガス供給源42に貯蔵される嫌気性ガスとしては、特に限定されないが、窒素ガス等が例示される。
【0115】
ガス循環管44は、生物処理槽31の外部に設置されている。ガス循環管44には、ブロアー45が設けられている。これにより、散気装置40が生物処理槽31の気相のガスをガス循環管44を経由させて、ガス導入管43に導入できる。
【0116】
散気装置40は、生物処理槽31の気相のガスを回収し、回収したガスを再利用するための循環手段として、ガス循環管44とブロアー45とを備えている。散気装置40は前記循環手段を備えることにより、ガス供給源42から散気管41に供給した嫌気性ガスを再利用できる。
【0117】
排気管46は生物処理槽31の頂部に接続されている。これにより、散気装置40が生物処理槽31の気相のガスを排気管46から大気中に排出できる。
散気装置40は、生物処理槽31の気相からガスを排出する排気手段として、排気管46を備えている。散気装置40は前記排気手段を備えることにより、生物処理槽31内で発生する窒素ガス、硫化水素及びメタン等のガスを大気に排出できる。
【0118】
生物処理水貯槽51は、生物処理槽31で得られる生物処理水を一時的に貯留する槽である。生物処理水貯槽51は流路35に接続されている。これにより、生物処理水が生物処理水貯槽51に貯留される。
生物処理水貯槽51には、逆洗流路54が設けられている。逆洗流路54は、一端が前記生物処理水に浸漬されており、他端が流路35に接続されている。逆洗流路54には、ポンプ55が設けられている。これにより、生物処理水貯槽51は、生物処理水貯槽51に貯留された生物処理水を流路35に供給できる。ポンプ55と流路35との間の逆洗流路54には、濾過器56が設けられている。濾過器56は、逆洗流路54を流れる生物処理水に意図せずに混入した不純物を、除去できる形態であれば特に限定されない。
【0119】
生物処理水貯槽51は、分離膜モジュール32を生物処理水で逆洗する逆洗手段として、逆洗流路54と、ポンプ55と、濾過器56とを備えている。生物処理水貯槽51が前記逆洗手段を備えることにより、生物処理水貯槽51に貯留された生物処理水の一部を、流路35を経由させ、分離膜モジュール32の逆洗用に供給できる。
生物処理水貯槽51は濾過器56を備えることにより、分離膜モジュール32が備える分離膜の内側に、不純物が付着することを防止できる。
【0120】
生物処理水貯槽51は、流路52に接続されている。流路52は、生物処理水貯槽51から化学処理部4に、生物処理水を供給する流路である。流路52には、ポンプ53が設けられている。これにより化学処理部4に生物処理水を供給しやすくなる。
【0121】
化学処理部4は、第1の凝集槽61と、第2の凝集槽62と、第3の凝集槽63と、沈殿槽64と、処理水貯槽71とを備えている。
第1の凝集槽61は、4価のセレンを溶解する溶解液(生物処理水)と、凝集剤とを混合する槽である。これにより、化学処理部4は前記4価のセレンを0価の金属セレンに還元でき、又は金属セレンを含有する難溶性塩を生成できる。
【0122】
第1の凝集槽61は流路52に接続されている。これにより、第1の凝集槽61に生物処理水が貯留される。
第1の凝集槽61には、排出口61aが形成されている。これにより、第1の凝集槽61内の貯留された液体が第2の凝集槽62に排出される。
【0123】
第1の凝集槽61は、凝集剤供給手段65を有している。凝集剤供給手段65は、第1の凝集槽61に凝集剤を供給できる形態であれば特に限定されない。凝集剤としては、生物処理水中の4価のセレンを0価の金属セレンに還元できる形態、又は難溶性塩を生成できる形態であれば特に限定されない。
好ましい凝集剤の例としては、上述のセレン酸化合物の還元方法で例示した化合物と同様である。
【0124】
第2の凝集槽62は、第1の凝集槽61から排出された液体とpH調整剤とを混合し、前記液体のpHを調整する槽である。
第2の凝集槽62は、第1の凝集槽61と隣接するとともに、第1の凝集槽61の後段に設けられている。これにより、第2の凝集槽62には第1の凝集槽61から排出された液体が貯留される。
第2の凝集槽62には排出口62aが形成されている。これにより、第2の凝集槽62に貯留された液体が、第3の凝集槽63に排出される。
【0125】
第2の凝集槽62は、pH調整剤供給手段66を有している。pH調整剤供給手段66は、第2の凝集槽62にpH調整剤を供給できる形態であれば特に限定されない。
pH調整剤供給手段66で用いることができるpH調整剤としては、特に限定されないが、苛性ソーダ等が例示される。
【0126】
第3の凝集槽63は、第2の凝集槽62から排出された液体と凝集助剤とを混合し、金属セレン等を含有する凝集体の粗大化を促進する槽である。これにより後述する沈殿槽64において、前記凝集体が沈殿しやすくなる。
第3の凝集槽63は、第2の凝集槽62と隣接するとともに、第2の凝集槽62の後段に設けられている。これにより、第3の凝集槽63には第2の凝集槽62から排出された液体が貯留される。
第3の凝集槽63には、排出口63aが形成されている。これにより前記液体及び前記凝集体が沈殿槽64に排出される。
【0127】
第3の凝集槽63は、凝集助剤供給手段67を有している。凝集助剤供給手段67は、第3の凝集槽63に凝集助剤を供給できる形態であれば特に限定されない。
凝集助剤としては、金属セレン等を含有する凝集体の粗大化を促進できる形態であれば、特に限定されない。凝集助剤としては、アニオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤及び両性高分子凝集剤等が例示される。
【0128】
沈殿槽64は、第3の凝集槽63から排出された液体から、金属セレン等を含有する凝集体を汚泥として沈殿させる槽である。前記凝集体を沈殿させることにより、前記液体から金属セレンを分離できる。
沈殿槽64は、第3の凝集槽63と隣接するとともに、第3の凝集槽63の後段に設けられている。これにより、沈殿槽64には第3の凝集槽63から排出された液体が貯留される。
【0129】
沈殿槽64の底部は、流路68と接続されている。流路68は、金属セレンを含有する沈殿等の凝集体を沈殿槽64から排出する流路である。流路68にはポンプ69が設けられている。これにより、金属セレン等を含有する凝集体が沈殿槽64の底部に沈殿しやすくなる。そのため、沈殿槽64が沈殿槽64内の貯留液から前記凝集体を分離できる。
【0130】
沈殿槽64は、流路72に接続されている。流路72は、沈殿槽64から処理水貯槽71に、沈殿槽64の上澄み液を処理水として供給する流路である。これにより、沈殿槽64の上澄み液が、処理水貯槽71に排出される。
処理水貯槽71は、排水処理装置1により処理された処理水を貯留する槽である。処理水貯槽71は、流路72に接続されている。これにより、処理水貯槽71に処理水が貯留される。
【0131】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の排水処理装置によれば、Se7-1株及びSEP-3株を、排水中で共培養する槽を備えるため、セレン酸化合物の還元速度が上昇する。よって、生物処理によるセレン酸化合物の還元反応を高速化でき、単位時間当たりの処理能力を高めるとともに、生物処理槽を小型化できる。その結果、排水処理装置の導入に必要な初期費用を低減できる。
【0132】
本実施形態の排水処理装置によれば、硝酸化合物を還元する反応が活性化するため、同一の処理槽内で排水中の硝酸化合物を還元及び除去できる。よって、セレン酸化合物のみならず、硝酸化合物を含む排水をも処理できる。その結果、排水処理に必要な費用を低減できる。
【0133】
本実施形態の排水処理装置によれば、Se7-1株及びSEP-3株を生物処理槽内で共培養することにより、セレン酸化合物の還元速度を上昇させることができるため、微生物の活性が低下したときであっても、微生物の活性の緊急復旧が容易である。
【0134】
本実施形態の排水処理装置によれば、Se7-1株及びSEP-3株を用いて排水を生物処理して還元するため、生物処理水中に4価のセレンが多く含まれると考えられる。その結果、生物処理槽31内で発生する金属セレンの量が大幅に抑制される。そのため、処理前の排水に含まれるセレンの大部分が、沈殿槽64で金属セレン又は難溶性塩として沈殿する。よって、金属セレンを含む沈殿物を複数の異なる処理槽で別々に廃棄する必要がなく、沈殿槽64で発生した沈殿物を集中的に廃棄するだけで済む。したがって、本実施形態の排水処理装置によれば、排水中のセレンを簡便に除去できる。
【0135】
本実施形態の排水処理装置は、生物処理槽内の原水に浸漬された分離膜で、Se7-1株及びSEP-3株と4価のセレンを溶解する溶解液とを分離するため、生物処理槽に加えて、微生物を分離する分離槽を水処理システムに設ける必要がない。よって、本実施形態の排水処理装置は、装置の小型化が可能である。
【0136】
<排水処理方法>
以下、上述した排水処理装置1を用いた、本実施形態の排水処理方法について説明する。本実施形態の排水処理方法は、セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を含む排水を処理する方法である。
まず、本実施形態では、排水の前処理を前処理部2において行う。
図示略の工業施設の排水は、流路12を経て、排水貯槽11に供給される。次に、排水貯槽11に貯留された排水は、流路13を経て、滅菌器21に供給される。
滅菌器21では、排水を滅菌する滅菌処理が行われる。これにより、後段の生物処理槽31における処理効率を最大限に高められる。
【0137】
滅菌器21で滅菌された排水は、流路22を経て濾過器23に供給される。
濾過器23では、排水中の不純物を除去する前濾過処理が行われる。濾過器23で前濾過処理が施された排水は、流路22を経てpH調整槽24に供給される。pH調整槽24では、排水にpH調整剤を供給する処理が行われる。
【0138】
pH調整槽24でpH調整剤が供給された排水は、排出口24aから調整水貯槽25に排出される。調整水貯槽25に貯留された排水は、生物処理に適したpHに調整される。本実施形態においては、前記排水のpHを、6.0~9.5に調整することが好ましい。
【0139】
次に、本実施形態では、Se7-1株及びSEP-3株を生物処理槽31内の貯留液中、すなわち排水中で共培養する。これによりセレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を還元できる。本実施形態においては生物処理槽31内で、セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方が還元された処理水が得られる。
なお、生物処理槽31でSe7-1株及びSEP-3株を共培養する条件は、上述したセレン酸化合物の還元方法又は硝酸化合物の還元方法でSe7-1株及びSEP-3株を共培養する際の条件を適用できる。
【0140】
本実施形態においては、生物処理槽31内の排水に含まれるSe7-1株及びSEP-3株の総植菌量を、2.0×108~1.0×109cells/mLとすることが好ましい。Se7-1株及びSEP-3株の総植菌量を2.0×108以上とすると、Se7-1株及びSEP-3株によりセレンを還元する化学反応の反応速度がさらに優れる。Se7-1株及びSEP-3株の総植菌量を1.0×109以下とすると、分離膜モジュール32が備える分離膜の閉塞等を低減しやすい。
【0141】
生物処理槽31においては、生物処理を行う際に、生物処理槽31内の排水に酸を供給できる。これにより、生物処理槽31内の貯留液に水素供与体を供給することができ、Se7-1株及びSEP-3株を用いた還元反応が進行しやすくなる。
生物処理を行う時間は、2~4時間とすることが好ましい。これにより、セレン酸化合物及び硝酸化合物の少なくとも一方を効果的に還元できる。
【0142】
本実施形態においては、生物処理槽31内の貯留液のpHを、6.5~9.0とすることが好ましく、7.0程度とすることがより好ましい。これにより、Se7-1株及びSEP-3株を用いた還元反応が進行しやすくなる。
本実施形態においては、生物処理槽31内の貯留液の温度を、25~40℃とすることが好ましく、33~37℃程度とすることがより好ましい。これにより、Se7-1株及びSEP-3株を用いた還元反応が進行しやすくなる。
【0143】
次に、本実施形態の排水処理方法では、前記生物処理槽31内の排水に浸漬された、前記分離膜で、Se7-1株及びSEP-3株と4価のセレンを溶解する溶解液とを分離し、前記分離膜を透過した処理水を得る。
前記分離膜を透過した透過水は、流路35を経て生物処理水として生物処理水貯槽51に供給される。その後生物処理水は、生物処理水貯槽51に一時的に貯留される。
【0144】
生物処理槽31においては、ポンプ36を作動させることで、分離膜モジュール32を用いて、Se7-1株及びSEP-3株と4価のセレンを溶解する溶解液とを分離できる。この際、散気管41から嫌気性ガスを散気し、分離膜モジュール32に導入することによって、分離膜モジュール32の分離膜(例えば中空糸膜等)の表面を洗浄しながら、分離を行うことができる。これにより、Se7-1株及びSEP-3株による分離膜の閉塞等を防止できる。
【0145】
散気管41から散気したガスは、生物処理槽31の液相から気相に移行する。この際、ブロアー45を作動させ、生物処理槽31の気相のガスを、ガス循環管44に回収できる。これにより、回収した前記ガスを、ガス導入管43を経由して、散気管41に再導入し、再利用できる。このように、生物処理槽31の気相と、生物処理槽31の液相との間でガスを循環させることにより、ガス供給源42から導入される嫌気性ガスの使用量を減らし、前記嫌気性ガスを無駄なく効率的に利用できる。
【0146】
本実施形態においては、ガス供給源42から、嫌気性ガスを生物処理槽31内に供給できる。これにより、生物処理槽31内の気相の圧力を調整できる。よって、生物処理の際に、窒素ガス等が生物処理槽31内の気相で発生しても、ガス供給源42から嫌気性ガスを生物処理槽31内に供給することにより、生物処理槽31内の窒素ガス等の一部を排気管46から大気中に排気できる。なお、排気管46から回収される窒素ガス等を回収し、精製してもよい。
【0147】
生物処理水貯槽51内の生物処理水には、6価のセレン又は4価のセレンが含まれている。そこで、本実施形態の排水処理方法では、化学処理部4において、生物処理水と、凝集剤とを混合して、前記分離膜の透過水である生物処理水からセレンを析出させて沈殿除去する。
【0148】
生物処理水貯槽51内に貯留された前記生物処理水は、流路52を経て第1の凝集槽61に供給される。第1の凝集槽61においては、前記生物処理水と、凝集剤供給手段65から供給された凝集剤とが混合される。これにより、前記生物処理水から金属セレン又は難溶性塩を析出させることができる。
【0149】
第1の凝集槽61で凝集剤と混合された生物処理水は、その後、第2の凝集槽62でpHが調整され、第3の凝集槽で金属セレン等を含有する凝集体の粗大化が促進され、沈殿槽64に排出される。
沈殿槽64では、金属セレン等を含有する沈殿物(汚泥)が重力沈降によって沈殿槽64の底部に沈殿することで、0価の金属セレン等と上澄み液とが分離され、排水からセレンが除去される。
沈殿槽64で分離された上澄み液は、流路72を経て処理水貯槽71に貯留される。
【0150】
本実施形態の排水処理方法では、Se7-1株及びSEP-3株と4価のセレンを溶解する溶解液とを分離膜で分離する第1の操作の後に、第1の操作を停止し、前記分離膜を逆洗する第2の操作を行ってもよい。これにより、Se7-1株及びSEP-3株等に起因する分離膜の閉塞及び目詰まり等をさらに低減できる。
【0151】
また、本実施形態の排水処理方法においては、Se7-1株及びSEP-3株と4価のセレンを溶解する溶解液とを分離する第1の操作と、分離膜を逆洗する第2の操作とを交互に繰り返してもよい。これにより、分離膜の閉塞、及び目詰まり等をさらに解消しやすくなる。この場合、前記分離膜における排水側と透過水側との差圧の上昇を低減でき、分離効率の低下を防止できる。その結果、長時間にわたって、排水処理装置1を安定的に運転でき、継続的に処理水を得ることができる。
【0152】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の排水処理方法によれば、Se7-1株及びSEP-3株を、排水中で共培養する槽を備えるため、セレン酸化合物の還元速度が上昇する。よって、生物処理によるセレン酸化合物の還元反応を高速化でき、単位時間当たりの処理能力を高めるとともに、生物処理槽を小型化できる。
【0153】
さらに、本実施形態の排水処理方法によれば、硝酸化合物を還元する反応が活性化するため、同一の処理槽内で排水中の硝酸化合物を還元及び除去できる。よって、セレン酸化合物のみならず、硝酸化合物を含む排水をも処理できる。その結果、排水処理のコストを低減できる。
【0154】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が加えられてよい。
例えば、上述した排水処理装置1は、前処理部2、散気装置40、生物処理水貯槽51及び逆洗手段等の構成を備えるが、前処理部2、散気装置40、生物処理水貯槽51及び逆洗手段等の構成は、省略可能である。
他にも、分離膜の閉塞等を解消するために、透過水側から、閉塞を解消する薬液を分離膜に供給してもよい。
【実施例】
【0155】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載によって何ら限定されない。
【0156】
<実施例1~3、比較例1,2>
微生物はいずれも前培養したものを用いた。具体的には、Se7-1株を特許第5608725号公報に記載のME培地で、SEP-3株を特許第5227673号公報に記載のME培地で、それぞれの培地がセレン酸化合物を含まないこと以外は、後述するセレン酸化合物の還元と同じ培養条件で、それぞれ前培養した。
セレン酸化合物及び硝酸化合物の還元は、以下のように行った。
セレン酸イオンを60ppm、硝酸イオンを30ppmそれぞれ含む排水と、あらかじめ調製した培地(塩素を3077ppm、カルシウムを550ppm、硫酸を4861ppm、ナトリウムを4100ppm、乳酸を300ppm、リンを1ppmそれぞれ含む)とを混合し、30mL容積のバイアル瓶にこの培地を30mL添加した。また、Se7-1株及びSEP-3株をそれぞれ含む各前培養液の濁度をそれぞれ測定した。この前培養液を前記バイアル瓶中の培地に添加して、得られた本培養液の濁度が前培養液の濁度と同程度の値となるように植菌した。実施例1では、Se7-1株の濃度を1.2×108cells/mLとし、SEP-3株の濃度を3.0×108cells/mLとした。
次いで、植菌後の培地上の気相部分を窒素ガスで置換して嫌気条件としたバイアル瓶に対して、ブチル栓、アルミキャップの順で蓋をし、37℃の恒温槽で24時間静置培養した。
本培養が終了した後、島津製作所社製の原子吸光分光光度計を用いて原子吸光法により培地中のセレン酸イオン(SeO4
2-)の濃度を測定し、東ソー株式会社製のイオンクロマトグラフを用いて硝酸イオン(NO3
-)の濃度を測定した。測定したセレン酸イオン及び硝酸イオンの濃度から、セレン酸化合物及び硝酸化合物の還元速度をそれぞれ算出した。
【0157】
図3は実施例1~3及び比較例1,2の各例におけるSe7-1株及びSEP-3株のそれぞれの濃度を示すグラフである。
図3に示す各濃度となるように、Se7-1株及びSEP-3株の各濃度を変更した以外は、実施例1と同様の条件で前培養、本培養を行い、還元速度を測定した。なお、図中の「E」はべき乗を表す。例えば「2.9E+08」は「2.9×10
8」を表す。
【0158】
図4は実施例1~3及び比較例1,2の各例におけるセレン酸化合物及び硝酸化合物の還元速度を示すグラフである。一定濃度のSe7-1株(1.2×10
8cells/mL)に対して、SEP-3株の濃度が高くなるにつれて、セレン酸化合物及び硝酸化合物の還元速度が上昇することを確認できた。
【0159】
また、比較例1の結果から、SEP-3株単独の条件下では、セレン酸化合物を還元する化学反応は進行しないことが判った。また、比較例1では、培養物から窒素ガスが発生しなかった。これに対して、Se7-1株及びSEP-3株を共培養した実施例1~3では共培養物から窒素ガスが発生していた。
【0160】
<実施例4,5>
SEP-3株の数をSe7-1株の数の0.2~2.6倍となるように、Se7-1株及びSEP-3株の混合比率を変更し、各混合比率におけるセレン酸化合物及び硝酸化合物の還元速度を測定した。各混合比率のセレン酸化合物の還元速度を比較例2で測定したセレン酸化合物の還元速度で除し、セレン酸化合物の還元速度の増強率を算出した。同様に各混合比率の硝酸化合物の還元速度を比較例2で測定した硝酸化合物の還元速度で除し、硝酸化合物の還元速度の増強率を算出した。
【0161】
図5は実施例4で検討した、横軸にSe7-1株及びSEP-3株の混合比率を、縦軸にセレン酸化合物の還元速度の増強率をプロットしたグラフである。Se7-1株及びSEP-3株を共培養することにより、セレン酸化合物の還元速度が上昇することが確認できた。Se7-1株に対して2.6倍量のSEP-3株が存在する条件では、セレン酸化合物の還元速度が2.1倍程度に上昇することが確認できた。
【0162】
図6は実施例5で検討した、横軸にSe7-1株及びSEP-3株の混合比率を、縦軸に硝酸化合物の還元速度の増強率をプロットしたグラフである。Se7-1株及びSEP-3株を共培養することにより、硝酸化合物の還元速度が上昇することが確認できた。Se7-1株に対して2.6倍量のSEP-3株が存在する条件では、硝酸化合物の還元速度が1.6倍程度に上昇することが確認できた。
【0163】
以上説明した実施例より、Se7-1株及びSEP-3株を、セレン酸化合物の存在下で共培養することにより、セレン酸化合物の還元速度が上昇することを確認できた。また、Se7-1株及びSEP-3株を、硝酸化合物の存在下で共培養することにより、硝酸化合物の還元速度が上昇することを確認できた。さらに、共培養する際にはSe7-1株及びSEP-3株の混合比率を変更することにより、還元速度の増強率を調節できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明は、排水、土壌及び汚泥に含まれるセレン酸化合物又は硝酸化合物の除去に利用可能である。
【符号の説明】
【0165】
1…排水処理装置、11…排水貯槽、21…滅菌器、23…濾過器、24…pH調整槽、25…調整水貯槽、31…生物処理槽、51…生物処理水貯槽、61…第1の凝集槽、62…第2の凝集槽、63…第3の凝集槽、64…沈殿槽、71…処理水貯槽