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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】光断層画像撮影装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20220207BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
G01N21/17 630
A61B3/10 100
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018008265
(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公開番号】P2019128180
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山成 正宏
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-527434(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0221217(US,A1)
【文献】特開2016-202597(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0334707(US,A1)
【文献】国際公開第2014/085911(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0092363(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104958061(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
A61B 3/00 - A61B 3/18
G01B 9/00 - G01B 9/10
G01B 11/00 - G01B 11/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源の光から測定光を生成すると共に、生成した測定光を生体内の対象領域に照射して前記対象領域からの反射光を生成する測定光生成部と、
前記光源の光から参照光を生成する参照光生成部と、
前記測定光生成部で生成される前記対象領域からの反射光と、前記参照光生成部で生成される前記参照光とを合波して干渉光を生成する干渉光生成部と、
前記干渉光生成部で生成された前記干渉光から干渉信号を検出する干渉光検出部と、
演算装置と、を備えており、
前記演算装置は、
前記干渉光検出部で検出されフーリエ変換された干渉信号から前記対象領域内の同一断面における断層画像を時系列で複数取得する第1断層画像取得処理と、
時系列で取得した複数の断像画像に基づいて、前記フーリエ変換された干渉信号のエントロピーを算出する第1エントロピー算出処理と、
算出された前記フーリエ変換された干渉信号のエントロピーに基づいて、前記断層画像内における動的部位を特定する動的部位特定処理と、
前記時系列で取得した複数の断像画像に基づいて、前記フーリエ変換された干渉信号のノイズ成分のエントロピーを算出する第2エントロピー算出処理と、
前記第1エントロピー算出処理によって算出された前記フーリエ変換された干渉信号のエントロピーから、前記第2エントロピー算出処理によって算出された前記ノイズ成分のエントロピーを除去して、前記フーリエ変換された干渉信号のエントロピーを補正するエントロピー補正処理と、を実行可能に構成されている、光断層画像撮影装置。
【請求項2】
前記対象領域は血管部分を含んでおり、
前記動的部位は、前記血管部分である、請求項1に記載の光断層画像撮影装置。
【請求項3】
光源と、
前記光源の光から測定光を生成すると共に、生成した測定光を生体内の対象領域に照射して前記対象領域からの反射光を生成する測定光生成部と、
前記光源の光から参照光を生成する参照光生成部と、
前記測定光生成部で生成される前記対象領域からの反射光と、前記参照光生成部で生成される前記参照光とを合波して干渉光を生成する干渉光生成部と、
前記干渉光生成部で生成された前記干渉光から干渉信号を検出する干渉光検出部と、
演算装置と、を備えており、
前記演算装置は、
前記干渉光検出部で検出されフーリエ変換された干渉信号から前記対象領域内の同一断面における断層画像を時系列で複数取得する第1断層画像取得処理と、
時系列で取得した複数の断像画像に基づいて、前記フーリエ変換された干渉信号のエントロピーを算出する第1エントロピー算出処理と、
算出された前記フーリエ変換された干渉信号のエントロピーに基づいて、前記断層画像内における動的部位を特定する動的部位特定処理と、を実行可能に構成されており、
前記対象領域は血管部分を含んでおり、
前記動的部位は、前記血管部分である、光断層画像撮影装置。
【請求項4】
前記演算装置は、
前記対象領域内の複数の断面における断層画像を時系列で複数取得する第2断層画像取得処理と、
前記複数の断面のそれぞれについて、前記第1エントロピー算出処理及び前記動的部位特定処理を実行して、当該断面における動的部位が特定された特定済断層画像を生成する特定済断層画像生成処理と、をさらに実行可能に構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の光断層画像撮影装置。
【請求項5】
前記演算装置は、複数の前記特定済断層画像を重ねた3次元画像データを用いて、前記対象領域の正面画像を生成する正面画像生成処理をさらに実行可能に構成されている、請求項に記載の光断層画像撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、光断層画像撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の動的部位(例えば、血管の位置等)を特定する技術が開発されている。生体内の動的部位を特定する方法としては、例えば、現在臨床において一般的に用いられている蛍光造影法が知られている。蛍光造影法では、蛍光色素を含有する造影剤を患者の体内に注入し、蛍光色素による蛍光を検出することによって生体内の動的部位を特定している。また、生体内の動的部位を特定する他の方法として、光干渉断層法(Optical Coherence Tomography:OCT)を用いた方法が知られている。光干渉断層法を用いると、非侵襲で生体内の動的部位が特定される。例えば、特許文献1に、光干渉断層法を用いた生体内の血管造影方法の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0066798号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した蛍光造影法では、患者の体内に造影剤を注入する必要があり、患者への負担が大きいという問題があった。また、特許文献1に記載されるような光干渉断層法を用いた方法では、生体内の動的部位を精度よく特定することができないという問題があった。本明細書は、生体内の動的部位を非侵襲で精度よく検出する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する光断層画像撮影装置は、光源と、光源の光から測定光を生成すると共に生成した測定光を生体内の対象領域に照射して対象領域からの反射光を生成する測定光生成部と、光源の光から参照光を生成する参照光生成部と、測定光生成部で生成される対象領域からの反射光と参照光生成部で生成される参照光とを合波して干渉光を生成する干渉光生成部と、干渉光生成部で生成された干渉光から干渉信号を検出する干渉光検出部と、演算装置と、を備えている。演算装置は、干渉光検出部で検出された干渉信号から対象領域内の同一断面における断層画像を時系列で複数取得する第1断層画像取得処理と、時系列で取得した複数の断像画像に基づいて検出された干渉信号のエントロピーを算出する第1エントロピー算出処理と、算出された干渉信号のエントロピーに基づいて断層画像内における動的部位を特定する動的部位特定処理と、を実行可能に構成されている。
【0006】
上記の光断層画像撮影装置では、特定の対象領域内の同一断面における断層画像(干渉信号)を時系列で複数取得することによって、その取得した干渉信号のエントロピーを算出することができる。生体内の静的部位では、その断層画像は時間的に殆ど変化せず、生体内の動的部位では、その断層画像は時間的に変化することとなる。このため、エントロピーは、時系列で見たときに、生体内において動きがほとんどない組織等の静的部位においては低くなり、血管等の動的部位においては高くなる。このため、干渉信号のエントロピーを算出することによって、動的部位を非侵襲で精度よく特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例に係る光断層画像撮影装置の光学系の概略構成を示す図。
図2】実施例に係る光断層画像撮影装置の制御系を示すブロック図。
図3】本実施例の光断層画像撮影装置を用いて被検眼の動的部位を特定する処理の一例を示すフローチャート。
図4】干渉信号波形を処理する手順を説明するための図。
図5】被検眼への光の入射位置を所定の範囲で走査し、各入射位置について得られる情報(図4に示される手順で得られる情報)から被検眼の各部位の位置を特定する手順を説明するための図。
図6】被検眼の隅角付近の断層画像であり、信号強度を示す画像である。
図7図6の断像画像と一致する部分におけるエントロピーを示す画像であり、(a)は検出された干渉信号のエントロピーを示す画像であり、(b)はノイズ成分のエントロピーを示す画像であり、(c)は検出された干渉信号のエントロピーからノイズ成分のエントロピーを除去した画像である。
図8】ラジアルスキャン方式を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0009】
(特徴1)本明細書が開示する光断層画像撮影装置では、演算装置は、時系列で取得した複数の断像画像に基づいて検出された干渉信号のノイズ成分のエントロピーを算出する第2エントロピー算出処理と、第1エントロピー算出処理によって算出された検出された干渉信号のエントロピーから第2エントロピー算出処理によって算出された前記ノイズ成分のエントロピーを除去して、干渉信号のエントロピーを補正するエントロピー補正処理と、をさらに実行可能に構成されていてもよい。検出された干渉信号のエントロピーは、ノイズ成分のエントロピーを含んでいる。ここで、真の干渉信号が有する乱雑さ(エントロピー)は、ノイズ成分に起因する乱雑さ(エントロピー)と統計的に互いに相関しない。このため、検出された干渉信号のエントロピーは、真の干渉信号が有するエントロピーとノイズ成分のエントロピーの和となる。このため、ノイズ成分のエントロピーを算出し、これを検出された干渉信号のエントロピーから除去することによって、真の干渉信号のエントロピーを算出することができる。これによって、干渉信号のエントロピーをより正確に算出することができ、動的部位をより正確に特定することができる。
【0010】
(特徴2)本明細書が開示する光断層画像撮影装置では、演算装置は、対象領域内の複数の断面における断層画像を時系列で複数取得する第2断層画像取得処理と、複数の断面のそれぞれについて、第1エントロピー算出処理及び動的部位特定処理を実行して、当該断面における動的部位が特定された特定済断層画像を生成する特定済断層画像生成処理と、をさらに実行可能に構成されていてもよい。このような構成によると、対象領域を3次元的に把握することができる。このため、検査者は、対象領域の動的部位をより正確に把握することができる。
【0011】
(特徴3)本明細書が開示する光断層画像撮影装置では、演算装置は、複数の特定済断層画像を重ねた3次元画像データを用いて、対象領域の正面画像を生成する正面画像生成処理をさらに実行可能に構成されていてもよい。このような構成によると、動的部位を特定した対象領域について、2次元の正面画像が生成される。このため、検査者は、対象領域の動的部位をより簡便に把握することができる。
【0012】
(特徴4)本明細書が開示する光断層画像撮影装置では、対象領域は血管部分を含んでいてもよい。動的部位は、血管部分であってもよい。血管部分は血流によって経時的に変化するため、血管部分を動的部位とみなすことができる。このため、断層画像を用いて血管の位置を非侵襲で特定することができる。
【実施例
【0013】
以下、実施例に係る光断層画像撮影装置について説明する。図1に示すように、光断層画像撮影装置は、被検眼Eから反射される反射光と参照光とを干渉させる干渉光学系10と、被検眼Eの前眼部を観察する観察光学系42と、被検眼Eに対して光断層画像撮影装置を所定の位置関係にアライメントするためのアライメント光学系(図示省略)と、K-clock信号を生成するK-clock発生装置56(図2に図示)を備えている。なお、アライメント光学系は、公知の眼科装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な説明は省略する。
【0014】
干渉光学系10は、光源12と、光源12の光を被検眼Eの内部に照射すると共にその反射光を生成する測定光学系と、光源12の光から参照光を生成する参照光学系と、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合成した干渉光を検出するバランス検出器38によって構成されている。
【0015】
光源12は、波長掃引型の光源であり、出射される光の波長が所定の周期で変化するようになっている。光源12から出射される光の波長が変化すると、出射される光の波長に対応して、被検眼Eの深さ方向の各部位から反射される光のうち参照光と干渉を生じる反射光の反射位置が被検眼Eの深さ方向に変化する。このため、出射される光の波長を変化させながら干渉光を測定することで、被検眼Eの内部の各部位(例えば、水晶体や網膜等)の位置を特定することが可能となる。
【0016】
測定光学系は、ファイバカプラ16、36と、コリメータレンズ18と、フォーカスレンズ20と、ガルバノミラー22と、レンズ24と、ダイクロイックミラー26と、対物レンズ28によって構成されている。光源12から出力された光は、光ファイバを通ってファイバカプラ16に入力される。ファイバカプラ16に入力された光は、ファイバカプラ16において、測定光と参照光に分波されて出力される。ファイバカプラ16から出力された測定光は、光ファイバを通り、コリメータレンズ18に向かって出射される。コリメータレンズ18に出力された測定光は、フォーカスレンズ20、ガルバノミラー22、レンズ24、ダイクロイックミラー26及び対物レンズ28を介して、被検眼Eに照射される。被検眼Eからの反射光は、上記とは逆に、対物レンズ28、ダイクロイックミラー26、レンズ24、ガルバノミラー22及びフォーカスレンズ20を介して、コリメータレンズ18に入力される。コリメータレンズ18に入力された反射光は、光ファイバを通ってファイバカプラ16に入力される。ファイバカプラ16に入力された反射光は、光ファイバを通ってファイバカプラ36の一方の入力部に入力される。
【0017】
また、測定光学系は、フォーカスレンズ20を光軸方向に進退動させる第2駆動装置48(図2に図示)と、ガルバノミラー22を光軸に対して傾動させる第3駆動装置50(図2に図示)を備えている。第2駆動装置48がフォーカスレンズ20を図1の矢印Aの方向に駆動することで、被検眼Eに照射される光の焦点の位置が被検眼Eの深さ方向に変化する。また、第3駆動装置50がガルバノミラー22を傾動することで、被検眼Eへの測定光の照射位置が走査される。
【0018】
参照光学系は、ファイバカプラ16と、コリメータレンズ30、34と、プリズム32と、ファイバカプラ36によって構成されている。ファイバカプラ16から出力された参照光は、光ファイバを通り、コリメータレンズ30に向かって出射される。コリメータレンズ30に出力された参照光は、プリズム32で反射され、コリメータレンズ34に出力される。コリメータレンズ34に入力された参照光は、光ファイバを通ってファイバカプラ36の他方の入力部に入力される。
【0019】
また、参照光学系は、プリズム32をコリメータレンズ30、34に対して進退動させる第4駆動装置52(図2に図示)を備えている。第4駆動装置52がプリズム32を図1の矢印Bの方向に駆動することによって、参照光学系の光路長が変化する。これによって、参照光学系の光路長を、測定光学系の光路長と略一致するように調整することができる。
【0020】
ファイバカプラ36は、入力された被検眼Eからの反射光と参照光を合波して干渉光を生成する。ファイバカプラ36は、生成した干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、バランス検出器38に入力する。バランス検出器38は、ファイバカプラ36から入力する位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(干渉信号)に変換する。バランス検出器38は、干渉信号をADコンバータ40に出力する。ADコンバータ40は、入力した干渉信号をA/D変換し、デジタル信号としてサンプリングする。サンプリングされた干渉信号は、演算装置60に出力される。
【0021】
K-clock発生装置56(図2に図示)は、等間隔周波数(光の周波数に対して均等な周波数間隔)にて干渉信号のサンプリングを行うために、光源12の光からサンプルクロック(K-clock)信号を光学的に生成する。そして、生成されたK-clock信号は、演算装置60に向けて出力される。これにより、演算装置60がK-clock信号に基づいて干渉信号をサンプリングすることで、干渉信号の歪みが抑えられ、分解能が悪化することが防止される。なお、本実施例では、演算装置60には、K-clock信号が規定するタイミングでサンプリングされた干渉信号が入力されるが、このような構成に限定されない。例えば、演算装置60は、あらかじめ判明している掃引時間に対する周波数を示す関数や同時に取得した掃引プロファイルに対して、一定時間間隔でサンプリングされたデータをスケーリングする処理を施してもよい。
【0022】
観察光学系42は、ダイクロイックミラー26を介して被検眼Eに観察光を照射すると共に、被検眼Eから反射される反射光(すなわち、照射された観察光の反射光)を撮影する。ここで、ダイクロイックミラー26は、干渉光学系10の光源12からの光を透過する一方で、観察光学系42の光源からの光を反射する。このため、本実施例の光断層画像撮影装置では、干渉光学系10による測定と、観察光学系42による前眼部の観察を同時に行うことができる。なお、観察光学系42には、公知の光断層画像撮影装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な構成については説明を省略する。また、本実施例の光断層画像撮影装置は、被検者の固視を誘導して計測を容易にする固視標光学系を備えていてもよいし、被検眼Eの眼底の平面画像を取得するSLO光学系を備えていてもよい。
【0023】
また、本実施例の光断層画像撮影装置では、被検眼Eに対して光断層画像撮影装置の位置を調整するための位置調整機構44(図2に図示)と、その位置調整機構44を駆動する第1駆動装置46(図2に図示)を備えている。なお、位置調整機構44による位置を調整する処理については後述する。
【0024】
次に、本実施例の光断層画像撮影装置の制御系の構成を説明する。図2に示すように、光断層画像撮影装置は演算装置60によって制御される。演算装置60は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータ(マイクロプロセッサ)によって構成されている。演算装置60には、光源12と、第1~第4駆動装置46~52と、モニタ54と、観察光学系42が接続されている。演算装置60は、光源12のオン/オフを制御し、第1~第4駆動装置46~52を制御することで各部42、20、22、32を駆動する。また、観察光学系42を制御して観察光学系42で撮像される前眼部像をモニタ54に表示する。また、演算装置60には、ADコンバータ40と、K-clock発生装置56が接続されている。演算装置60には、K-clock発生装置56からK-clock信号が入力され、ADコンバータ40からK-clock信号のタイミングでサンプリングされた干渉信号が入力される。演算装置60は、ADコンバータ40からの干渉信号にフーリエ変換処理等の演算処理を行い、断層画像を生成する。演算装置60に入力されたデータや演算結果は、メモリ(図示省略)に記憶される。
【0025】
次に、図3図7を参照して、本実施例の光断層画像撮影装置を用いて被検眼Eの動的部位を特定する処理について説明する。図3は、本実施例の光断層画像撮影装置を用いて被検眼Eの動的部位を特定する処理の一例を示すフローチャートである。図3において、ステップS12~ステップS22は、被検眼Eの同一断面の断層画像を時系列で複数撮影する処理であり、ステップS24~ステップS30は、取得した断層画像から生体内の動的部位を特定する処理である。
【0026】
図3に示すように、まず、検査者は図示しないジョイスティック等の操作部材を操作して、被検眼Eに対して光断層画像撮影装置の位置合わせを行う(S12)。すなわち、演算装置60は、検査者の操作部材の操作に応じて、第1駆動装置46により位置調整機構44を駆動する。これによって、被検眼Eに対する光断層画像撮影装置のxy方向(縦横方向)の位置とz方向(進退動する方向)の位置が調整される。また、演算装置60は、第2駆動装置48を駆動してフォーカスレンズ20の位置を調整し、第4駆動装置52を駆動してプリズム32の位置を調整する。これによって、光源12から被検眼Eに照射される光の焦点の位置が被検眼Eの所定の位置(例えば、角膜の前面)となり、また、測定光学系の光路長と参照光学系の光路長が一致する0点の位置が被検眼Eの所定の位置(例えば、角膜の前面)となる。
【0027】
次いで、演算装置60は、第3駆動装置50を駆動して、ガルバノミラー22を走査角範囲内の1の走査角に調整する(S14)。これによって、光源12からの光は、調整された走査角に対応した入射位置及び入射角度で被検眼Eに入射することとなる。
【0028】
ガルバノミラー22の調整が終わると、演算装置60は、光源12をオンにして、光源12から照射される光の周波数を変化させながら、バランス検出器38で検出され、ADコンバータ40でサンプリングされた干渉信号を取り込む(S16)。ADコンバータ40から出力される干渉信号は、図4に示すように、信号強度が時間によって変化する信号となり、この信号は被検眼Eの各部(例えば、角膜の前面及び後面、水晶体の前面及び後面、及び網膜等)から反射された各反射光と参照光とを合成した干渉波による信号となる。そこで、演算装置60は、ADコンバータ40から入力する信号をフーリエ変換することで、その信号から被検眼Eの各部(例えば、角膜の前面及び後面、水晶体の前面及び後面、及び網膜等)から反射された反射光による干渉信号成分を分離する。これにより、演算装置60は、被検眼Eの各部の深さ方向の位置を特定することができる。なお、光源12から照射される光の周波数を変化させることで、被検眼Eの各部の深さ方向の位置情報を含む干渉信号を取得することを、本明細書ではAスキャンという。
【0029】
次いで、演算装置60は、上述したステップS16の測定を、測定前に予め設定された全ての走査角(すなわち、全ての入射位置及び入射角)について実施したか否かを判断する(S18)。全ての走査角についてステップS16の測定を実施していない場合(ステップS18でNOの場合)、ステップS14に戻って、ステップS14からの処理が繰り返される。これによって、ガルバノミラー22を走査する各走査角について、Aスキャンにより得られる干渉信号が取得される。なお、ガルバノミラー22の走査角を変化させることで、光源12からの光が入射する位置及び入射角度を変化させることを、本明細書ではBスキャンという。
【0030】
一方、全ての走査角についてステップS16の測定を実施している場合(ステップS18でYESの場合)、演算装置60は、各走査角について得られた干渉信号から、被検眼Eの各部位(例えば、角膜の前面及び後面、水晶体の前面及び後面、及び網膜等)の位置を特定する(S20)。具体的には、各走査角についてステップS16の処理を実行すると、各走査角について干渉信号の情報(Aスキャン情報)が取得される。したがって、図5に示すように、各走査角の数(n個)だけ干渉信号情報(Aスキャン情報)が並んだ2次元情報が得られる。このため、演算装置60は、各干渉信号情報に含まれる被検眼Eの各部位(例えば、角膜、前房、虹彩、水晶体等)の境界線を算出することで、被検眼Eの各部位の位置を特定する。演算装置60は、取得(撮影)された断層画像のデータを、メモリに取り込む。
【0031】
次いで、演算装置60は、上述したステップS14~S20で取得される断層画像のデータを、測定前に予め設定された全ての時間(撮影時点)について取得したか否かを判断する(S22)。本実施例では、被検眼Eの同一断面の断層画像を時系列で複数撮影する。したがって、演算装置60は、予め設定された時間間隔、かつ、予め設定された回数(すなわち、予め設定された撮影期間内の全ての撮影時点で)、被検眼Eの同一断面のBスキャン情報を取得する。全ての時間について断層画像を取得していない場合(ステップS22でNOの場合)、ステップS14に戻って、ステップS14からの処理が繰り返される。これによって、取得(撮影)された複数の断層画像のデータが、時系列でメモリに取込まれる。一方、全ての時間について断層画像を取得している場合(ステップS22でYESの場合)、次の処理に進む。
【0032】
次いで、取得した複数の断層画像から、検出された干渉信号のエントロピーを算出する(S24)。上記のステップS22までの処理によって、メモリには、被検眼Eの同一断面の複数の断層画像のデータが記憶される。複数の断層画像は、同一断面の画像であるため、生体内の静的部位については複数の画像間において差異が生じ難い。すなわち、エントロピーが低くなっている。一方、生体内の動的部位については複数の画像間において差異が生じ易い。すなわち、エントロピーが高くなっている。このため、時系列で取得した複数の画像からエントロピーを算出することによって、断層画像内の動的部位を非侵襲で精度よく特定することができる。また、断層画像から動的部位を特定する従来の方法では、時系列で撮影した複数の画像間の差異が、動的部位であるため生じるものであるのか、ノイズに起因するものであるのかを特定するためには、対象領域の測定時間を長くする必要があった。本実施例では、エントロピーを算出することによって動的部位を特定するため、対象領域の測定時間を短くすることができる。断層画像内の動的部位としては、例えば、被検眼Eの血管部分等である。
【0033】
ステップS24の処理は、以下の手順で行われる。時間tにおいて取得した干渉光の複素信号をg(t)と定義する。このとき、時間tと時間t+Δtに取得した干渉光の複素信号のペアを、以下の数1のように定義する。なお、E(t)は時間tにおける真の複素信号(すなわち、ノイズ成分を含まない複素信号)を示し、γは加法性複素ホワイトノイズを示す。
【数1】
【0034】
演算装置60は、上記の数1の共分散行列のアンサンブル平均を算出する。数1の共分散行列のアンサンブル平均は、以下の数2で表す。なお、上線はアンサンブル平均を表し、上付きのダガーはエルミート転置を表し、上付きのアスタリスクは複素共役を表す。
【数2】
【0035】
なお、任意の整数nを用いて、時間t+nΔtと時間t+(n+1)Δtに取得した干渉光の複素信号のペアを、以下の数3のように示してもよい。
【数3】
演算装置60は、上記の数1を数3に置き換え、数3の共分散行列のアンサンブル平均を算出してもよい。また、上記の数2は、空間のある1点の共分散行列のアンサンブル平均を表しているが、空間的に定義されたカーネルサイズ内の多数の点をアンサンブル平均に含めてもよい。
【0036】
次いで、演算装置60は、上記の数2を固有値分解する。すると、以下の数4が得られる。なお、λ、λは固有値を示し、λ≧λ≧0とする。また、Uは固有ベクトルで構成される行列を示す。
【数4】
このとき、λ、λは、以下の数5で示すように規格化される。
【数5】
上記の数5を用いると、検出された干渉信号のエントロピーは、以下の数6のように定義される。なお、Hは検出された干渉信号のエントロピーを示す。
【数6】
以上のように、演算装置60は、被検眼Eの同一断面の複数の断層画像のデータを用いて、検出された干渉信号のエントロピーを算出できる。
【0037】
なお、上記の数2において、アンサンブル平均に用いるサンプル数が十分でない場合、演算装置60は、上記の数5の固有値を、以下の数7のように補正してもよい。
【数7】
固有値として、上記の数5に代わり数7を用いる場合、検出された干渉信号のエントロピーは、数6に代わり以下の数8のように定義される。
【数8】
したがって、演算装置60は、検出された干渉信号のエントロピーとして、上記の数6と数8のいずれを用いてもよい。以下では、説明を容易にするために、検出された干渉信号のエントロピーとして数6を用いる。
【0038】
検出された干渉信号のエントロピーが算出されると、演算装置60は、干渉信号のノイズ成分のエントロピーを算出する(S26)。上記のステップS24で算出された検出された干渉信号のエントロピーは、真の干渉信号が有する乱雑さ(以下、真の干渉信号のエントロピーともいう)だけでなく、ノイズ成分に起因する乱雑さ(以下、ノイズ成分のエントロピーともいう)を含んでいる。ここで、真の干渉信号のエントロピーとノイズ成分のエントロピーは統計的に互いに相関しない。このため、真の干渉信号のエントロピーとノイズ成分のエントロピーの和は、検出された干渉信号のエントロピーと一致する。そこで、ステップS26では、真の干渉信号のエントロピーを算出するために、ノイズ成分のエントロピーを算出する。
【0039】
ステップS26の処理は、以下の手順で行われる。上記のステップS24とは別に、装置に測定対象を置かずにノイズのみ測定した断層画像を用意し、ステップS26の処理に用いる。上記の数1で表す式は、ジョーンズベクトルと同様な2行1列のベクトルである。また、ジョーンズベクトルは、DOP(偏光度、degree of polarization)に変形することができる。このため、数1で表す式は、ジョーンズベクトルをDOPに変形する算出方法を適用して変形できる。そこで、演算装置60は、ジョーンズベクトルをDOPに変形する算出方法を用いて、数1を以下の数9のように変形する。
【数9】
【0040】
また、ジョーンズベクトルから変形したDOPは、さらに固有値に変形できる。そこで、演算装置60は、ジョーンズベクトルから変形したDOPを固有値に変形する算出方法を用いて、上記の数9を以下の数10のように変形する。
【数10】
上記の数10を用いると、ノイズ成分のエントロピーを、以下の数11のように算出できる。なお、Hnoiseはノイズ成分のエントロピーを示す。
【数11】
【0041】
次いで、演算装置60は、真の干渉信号のエントロピーを算出する(S28)。真の干渉信号のエントロピーは、検出された干渉信号のエントロピーからノイズ成分のエントロピーを除去することによって算出できる。したがって、以下の数12で表す式が成立する。なお、Hsubjectは真の干渉信号のエントロピーを示す。
【数12】
【0042】
演算装置60は、上記の数12に、ステップS24で算出された干渉信号のエントロピーと、ステップS26で算出されたノイズ成分のエントロピーを代入して、真の干渉信号のエントロピーを算出する。本実施例では、検出された干渉信号のエントロピーとノイズ成分のエントロピーをそれぞれ別個に算出する。このため、例えば、干渉信号が小さい場合であっても、検出された干渉信号のエントロピーとノイズ成分のエントロピーをそれぞれ正確に算出できる。したがって、真の干渉信号のエントロピーをより正確に算出することができる。
【0043】
なお、本発明者が行なった実験では、検出された干渉信号のエントロピーからノイズ成分のエントロピーを除去することによって、真の干渉信号のエントロピーを正確に算出できることが確認されている。図6及び図7は、被検眼Eの隅角付近の断層画像を示している。図6は、干渉信号の強度を示す画像であり、図7(a)~図7(c)は、図6の画像と一致する部分におけるエントロピーを示す画像である。詳細には、図7(a)は検出された干渉信号のエントロピーを示す画像であり、図7(b)はノイズ成分のエントロピーを示す画像であり、図7(c)は検出された干渉信号のエントロピーからノイズ成分のエントロピーを除去した画像である。図7(a)~図7(c)の符号70で示す部分(以下、部分70と称する)は、角膜の一部を示しており、符号72で示す部分(以下、部分72と称する)は毛様体の一部を示している。なお、図7(a)~図7(c)では、エントロピーが高い部分を白色で表しており、エントロピーが低い部分を黒色で表している。
【0044】
角膜には血管が存在しないため、部分70ではエントロピーが低くなり、毛様体は血管を豊富に含むため、部分72ではエントロピーが高くなる。しかしながら、図7(a)に示すように、検出された干渉信号のエントロピーは、毛様体を示す部分72において非常に高くなっていると共に、角膜を示す部分70においても、毛様体を示す部分72より低くなっているものの、比較的高くなっている。
【0045】
これに対して、図7(b)に示すように、ノイズ成分のエントロピーは、角膜を示す部分70において高くなっている。したがって、角膜を示す部分70の検出された干渉信号のエントロピー(図7(a)参照)は、ノイズ成分によって高くなっていると言える。また、ノイズ成分のエントロピーは、毛様体を示す部分72においてもわずかに高くなっている。このため、毛様体を示す部分72の検出された干渉信号のエントロピー(図7(a)参照)も、ノイズ成分をわずかに含んでいると言える。
【0046】
そして、図7(c)に示すように、検出された干渉信号のエントロピーからノイズ成分のエントロピーを除去すると、角膜を示す部分70において、干渉信号のエントロピーは低くなった。すなわち、角膜を示す部分70には、血管部分が存在しないことが示された。また、毛様体を示す部分72において、干渉信号のエントロピーは十分に高かった。すなわち、毛様体を示す部分72には、血管部分が豊富に存在することが示された。したがって、検出された干渉信号のエントロピーからノイズ成分のエントロピーを除去することによって、干渉信号のエントロピーを正確に算出できることが確認できた。
【0047】
次いで、演算装置60は、算出された真の干渉信号のエントロピーから、被検眼Eの動的部位を特定する(S30)。具体的には、演算装置60は、ステップS28で算出された真の干渉信号のエントロピーが高い部位を被検眼Eの動的部位と特定する。動的部位を特定すると、演算装置60は、真の干渉信号のエントロピーを示す画像のデータをメモリに取り込み、被検眼Eの動的部位を特定する処理を終了する。
【0048】
なお、本実施例では、1つの断面の断層画像において動的部位を特定しているが、このような構成に限定されない。例えば、被検眼Eの断面の位置を変更して上記の動的部位の特定処理を実行し、複数の断面の断層画像から、3次元データを取得してもよい。例えば、図8に示すように、各走査線が角膜の頂点を通過するラジアルスキャン方式によって複数の断面の断層画像を取得する。このとき、各断面の断層画像を時系列で複数撮影する。これにより、被検眼Eの断層画像が全領域に亘ってそれぞれ時系列で複数取得される。つまり、Bスキャン方向を被検眼Eの角膜頂点から放射方向に設定し、Cスキャン方向を円周方向として断層画像の取り込みが行われる。そして、演算装置60は、取り込まれた各断面の断層画像について、真の干渉信号のエントロピーを算出すると共に動的部位を特定し、3次元データを構築する。これによって、被検眼Eの動的部位の3次元データを取得することができる。なお、3次元データの取得方法は、特に限定されない。例えば、ラスタースキャン方式によって複数の断面の断層画像を取得してもよい。
【0049】
また、上述のように構築したエントロピーの3次元データ(以下、3次元エントロピーデータともいう)を用いて、被検眼Eの正面画像を取得してもよい。正面画像は、例えば、en face(エンファス)画像である。具体的には、3次元エントロピーデータについて、Aスキャンごとに深さ方向で最大値や平均値などを算出し、3次元データを2次元のen face(エンファス)画像に圧縮する。動的部位を2次元のen face画像とすることで、検査者は対象物の動的部位をより簡便に把握することができる。
【0050】
さらに、被検眼E内の同じ部位(例えば、前眼部等)で3次元データを複数回取得し、複数の3次元エントロピーデータまたは2次元のエントロピーのen face画像の各位置における最大値や平均値を算出してもよい。これによって、測定ノイズの低減を行うことができる。また、複数回取得したデータは、被検眼Eのモーションによって厳密に同じ場所を示していないことがある。そのため、各位置におけるエントロピーの最大値や平均値を算出する前に、複数回撮影した部位の精密な位置合わせを予め行うと、さらに効果的に測定ノイズの低減を行うことができる。
【0051】
また、本実施例では、被検眼E内の血管部分を特定したが、このような構成に限定されない。生体内の動的部位であれば、同一断面の複数の断層画像からエントロピーを算出することによって特定でき、例えば、前眼部の血管部分だけでなく、眼底、脳、皮下の血管部分を特定することができる。
【0052】
また、本実施例の光断層画像撮影装置は、光干渉断層法を用いて生体内の動的部位を特定しているが、光干渉断層法の種類は特に限定されない。例えば、光断層画像撮影装置は、偏光感受型の光断層画像撮影装置であってもよい。
【0053】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
10:干渉光学系
12:光源
16、36:ファイバカプラ
20:フォーカスレンズ
22:ガルバノミラー
32:プリズム
38:バランス検出器
40:ADコンバータ
60:演算装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8