(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】水田用除草機
(51)【国際特許分類】
A01B 39/18 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
A01B39/18 Z
(21)【出願番号】P 2018061273
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591282205
【氏名又は名称】島根県
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100166659
【氏名又は名称】楠 和也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 眞二
(72)【発明者】
【氏名】安達 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 実
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 康弘
(72)【発明者】
【氏名】原 禎幸
(72)【発明者】
【氏名】松浦 賢一
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-069802(JP,A)
【文献】特開2012-187073(JP,A)
【文献】特開2002-034306(JP,A)
【文献】特開2000-300005(JP,A)
【文献】特開平09-238505(JP,A)
【文献】特開2003-204708(JP,A)
【文献】特開2014-76004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 39/00-39/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付苗(P)の条方向に沿って進行する除草フレーム(2)に対し、隣接する植付条を跨ぎ進行方向と交差する方向に左右動する
前側のブラシ本体(3b)と後側のブラシ本体
(3a)を
前後に隣接させて平行に取付け、該ブラシ本体
(3b),(3a)に下向きに突出しその先端で田面の雑草を掻き取り又は押込んで除草する弾力性を備えた
プラスチック材よりなるブラシ部材(28)を突設した水田用除草機であって、上記植付苗(P)の条間及び株間の除草が均一に行えるように、ブラシ本体
(3b),(3a)に対し、左右方向において共通の形状のブラシ部材(28)を配置し、ブラシ部材(28)を直線状又は緩やかな円弧状に形成し、該直線状又は円弧状の先端が田面に挿入される水田用除草機。
【請求項2】
前後のブラシ本体
(3b),(3a)を左右方向に
且つ前後で互に逆向きにスライド駆動させる駆動装置(10)と、田面に接して走行又は滑走し除草フレーム(2)を支持するフロート(11)とを該除草フレーム(2)に取付け、上記除草フレーム(2)を人力又は走行装置により前進走行若しくは滑走させる機構を備えた請求項1に記載の水田用除草機。
【請求項3】
除草フレーム(2)とフロート(11)との間にフロート(11)に対する除草フレーム(2)の高さを調節して田面に対するブラシ部材(28)の挿入深さを調節するアジャスター(7)を設けてなる請求項2に記載の水田用除草機。
【請求項4】
ブラシ部材(28)を前後複数列に分けて突設し、後列側のブラシ部材(28)の突設密度を前列側より高密度にして配置した請求項1又は2に記載の水田用除草機。
【請求項5】
除草フレーム(2)に対してブラシ本体(3)を前後に分けて複数列取付け、進行方向前側のブラシ本体(3b)に対して後側ブラシ本体(3a)のブラシ部材(28)の配置密度を高密度にして配置した請求項1~3のいずれかに記載の水田用除草機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は水田用除草機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来水田用除草機としては、特許文献1,2に示すように乗用走行機体の後方又は前方に除草作業機を昇降調節可能に連結し、除草作業機のフレームに対して互いに左右方向に逆スライドする独立した2本の揺動フレームを設け、各揺動フレームに下向きに多数突設し、先端を水平方向に近いL字形に折り曲げられた線状のツースの先端を田面に挿入して植付苗の条間と株間の除草を行うものが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-45003号公報
【文献】特開2000-69802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1,2の発明は、植付苗の株間に生えた雑草を線状(又は針状)のツースの先端で掻き取ることができる点で、従来の条間のみの雑草を除去するものに比して優れているが、ツース先端の水平部分(掻き取り部)の左右動によって泥内の雑草の根を左右方向にさらって掻き取るので、高い剛性を必要とする反面、左右動をする際に植付苗を押し倒したり損傷したりするという欠点がある。また上記除草機はいずれも昇降機能付の走行作業車両に連結されるタイプであるため、除草機を搭載した昇降機構を有する走行車両を必要とし、人力による牽引又は手押し走行用には不向きであり、汎用性に乏しいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の除草機は第1に、植付苗Pの条方向に沿って進行する除草フレーム2に対し、隣接する植付条を跨ぎ進行方向と交差する方向に左右動する前側のブラシ本体3bと後側のブラシ本体3aを前後に隣接させて平行に取付け、該ブラシ本体3b,3aに下向きに突出しその先端で田面の雑草を掻き取り又は押込んで除草する弾力性を備えたプラスチック材よりなるブラシ部材28を突設した水田用除草機であって、上記植付苗Pの条間及び株間の除草が均一に行えるように、ブラシ本体3b,3aに対し、左右方向において共通の形状のブラシ部材28を配置し、ブラシ部材28を直線状又は緩やかな円弧状に形成し、該直線状又は円弧状の先端が田面に挿入されることを特徴としている。
【0006】
第2に、前後のブラシ本体3b,3aを左右方向に且つ前後で互に逆向きにスライド駆動させる駆動装置10と、田面に接して走行又は滑走し除草フレーム2を支持するフロート11とを該除草フレーム2に取付け、上記除草フレーム2を人力又は走行装置により前進走行若しくは滑走させる機構を備えたことを特徴としている。
【0007】
第3に、除草フレーム2とフロート11との間にフロート11に対する除草フレーム2の高さを調節して田面に対するブラシ部材28の挿入深さを調節するアジャスター7を設けてなることを特徴としている。
【0008】
第4に、ブラシ部材28を前後複数列に分けて突設し、後列側のブラシ部材28の突設密度を前列側より高密度にして配置したことを特徴としている。
【0009】
第5に、除草フレーム2に対してブラシ本体3を前後に分けて複数列取付け、進行方向前側のブラシ本体3bに対して後側ブラシ本体3aのブラシ部材28の配置密度を高密度にして配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のように構成される本発明によれば、左右方向のブラシ本体に下向き突設した直線状又は緩やかな円弧状の弾力性に富んだ共通のブラシ部材の先端が、田面に接地挿入されて走行しながら左右動するので、条間,株間共に均一な除草が行われる。この時ブラシ部材は直線状又は緩やかな円弧状に形成され、その先端で田面の泥を弾力的に掻き均しながら雑草を掻き取るので、植付苗に当接しても弾力的に変形しながら植付苗を押し倒すことなく通過して除草を行う。
【0011】
またフロートとアジャスターを設けたものでは、除草機自体が独立した機能を持つので、人力や走行装置で牽引又は押し進めることが可能で、田面の泥深さに応じた除草ができ、除草機自体の汎用性も広い。
【0012】
さらに前後複数列にブラシ部材を設け、前列のものを低密度に後列のものを高密度にすることにより、前列では掻き取り除草とともに固まった田面の泥をほぐしながら足跡等による凹凸を切り崩して均平化し、後列のブラシ部材で切崩された田面の雑草を高密度に掻き取り除草し、より精度の高い除草と均平化を行う。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の手押式除草装置の全体側面図である。
【
図3】(A),(B)はそれぞれ後側ブラシ本体の平面図と正面図である。
【
図4】(A),(B)はそれぞれ前側ブラシ本体の平面図と正面図である。
【
図5】本発明の除草機を在来の田植機の走行車両に取付けた例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図示する本発明の実施形態につき説明すると、
図1~
図2はユニット化された単体のフロート付の除草機1の全体側面図及び平面図を示し、平面視で左右方向の長方形枠として角材や形鋼又はパイプ等によって形成された除草フレーム2は、前後方向の中央に左右方向の中フレーム2aを備えている。除草フレーム2は、この例では左右前後各方向の寸法が植付苗Pの条間と株間寸法の3倍前後で試作されている。
【0015】
除草フレーム2の中フレーム2aの前後両側の枠内には、左右方向の長方形に形成されたプレート状のブラシ本体3a,3bが収容され、各ブラシ本体3a,3bの前後側面と前後の枠材2b,2bとの間でいずれかの側に付設された(本例ではブラシ本体3側)各側複数のガイドローラー4を介し、枠材2bと中フレーム2aに沿って案内されながら左右移動可能に支持されている。
【0016】
除草フレーム2上にはその上面より所定寸法(例えば50mm程度)の高さを持ち、前後左右幅共に除草フレーム2の枠内に納まる小型の寸法の補助フレーム6が設置され、該補助フレーム6は、除草フレーム2の前後の枠材2b,2b間に前後方向に架設される左右両端の縦ビーム6a,6aと、該縦ビーム6a,6a間に左右方向に立設されるゲート状の前後の横ビーム6b,6bとを備えている。
【0017】
横ビーム6b,6b間には、右側より後述するフロート高さ調節用のアジャスター7,ブラシ本体3の左右スライド駆動用のモーター(アクチュエータ)8,該モーター8を駆動させるためのバッテリー9とが順次載置して前後方向に取付けられている。この他除草フレーム2の中央には後述するブラシ本体3を左右方向にスライド駆動する駆動装置(クランク機構)10が前後方向に設けられている。
【0018】
除草フレーム2の前後には左右に振り分けられてフロート11が各2個平面視で略前後左右対称位置に設けられており、このフロート11は軽量の発泡プラスチック材又は空気入りタイヤ等からなる転輪からなり、各フロート11は
図2に示すようにゲート状のフロートフレーム12の開放端両外側にフリー回転可能に軸支されており、左右のフロート11はこの列では隣接する2列の条間に接地して除草機の進行に伴って除草機1を支持しながら転動する。
【0019】
フロートフレーム12における除草フレーム2の前後枠材2bに沿った左右方向の軸フレーム12aの左右端は、上記前後の各枠材2bに対し、軸受13を介して前後のフロートフレーム12自体の前後突出先端が一体的に上下揺動可能な状態に軸支されている。
【0020】
この例では上記軸フレーム12aの左右両端で前方又は後方に突出してフロート11を軸支する左右の各揺動アーム12bのうち、進行方向右側(
図2において下側)の揺動アーム12bの前後から互いに向い合う端部は、前述したアジャスター7の下端に共に連結され、該アジャスター7により揺動アーム12bの突合せ端を昇降揺動することにより、全フロート11が除草フレーム2に対して同時に昇降移動して、田面に対する除草フレーム2の高さが変動し、調節される。
【0021】
アジャスター7は前後の横ビーム6b,6b間に架設されたチャンネル状断面のアジャスターフレーム14と、該アジャスターフレーム14の中央に上下方向に回転可能に支持されたスクリュー16,該スクリュー16をスクリューボス17を回転操作して昇降操作するハンドル18,上記スクリュー16の下端に前述の前後の各揺動アーム12bの突合せ端を連結するリンク付きの連結機構19とで構成され、ハンドル18の回転操作によりフロート11が昇降操作される。
【0022】
駆動装置10は、前後の枠材2b,2b間に軸受21を介して軸支されているクランク軸22,該クランク軸22と一体のクランク部23,ブラシ本体3上に立設され、クランク部23の回転を受けて前後のブラシ本体3を互いに逆向きに左右動させるクランク受け24とで構成されている。
【0023】
また前述したモーター8とクランク軸22の後端には、チェンホイール26,26と両者間に巻き掛けられるチェン27とが設けられ、モーター8の回転によりクランク機構10を介してブラシ本体3,3が左右スライド駆動される機構となっている。尚、上記モーター8の代わりにアクチュエータとして小型のエンジンを搭載することもできる。
【0024】
各ブラシ本体3の裏面(下面)には
図1,
図3,
図4に示すように多数の線状のブラシ部材28が差込み固定等により下向きに突設されており、図示する例ではそれぞれ2本のブラシ部材28が単一の孔に2列、一定ピッチ毎に植込まれている。ブラシ部材28は例えば2~3mm径で120mm前後の長さで突出しており、除草機1の進行とブラシ本体3の左右動によって、植付苗Pやその根張り部分を倒したり損傷しないで、成育初期の雑草Wのみを掻き取るように弾性変形可能な如く柔
軟性(弾力性)を備えた線状のプラスチック材とすることが望ましい。
【0025】
尚、ブラシ部材28は、図示するように直線状のものの他、緩やかな円弧状のものでもよく、その先端が田面に対して縦方向に挿入されることによって抵抗なく田面の泥を掻きほぐすことができるほか、左右動する際に植付苗Pの株内を弾性変形しながら通過し、植付苗Pを倒したり損傷したりすることがない。その他ブラシ部材28は上記機能を維持できる範囲で田面に対してある程度傾斜して取付けられてもよく、直線状のブラシ部材28が使用により湾曲した状態でも支障なく使用できる。
【0026】
そしてこの例では、
図3に示すように後側のブラシ本体3aのブラシ部材28は、高密度に配置されるように左右方向のピッチを狭く、前側のブラシ本体3bでは例えば1/3~1/2程度にブラシ部材28の配置密度が低密度となるように配置ピッチを広くしている。この構成により前側のブラシ本体3bでは、先ず前進しながらの左右動により、田面の泥を切削して均平化するとともに雑草の掻き取りの他、根張りの強い雑草の根をほぐして、後方のブラシ部材28による掻き残しの雑草の掻き取りを行い易くする。
これに対し、高密度の後方のブラシ部材28によって、上記掻き残されてほぐされた田面の雑草を掻き取り除草し、前後両方のブラシ部材により、高精度の除草を実現する。
【0027】
尚、図示する例では前後のブラシ本体3a,3b間のブラシ部材配置に上記のように密度差を設けたが、前後単体のブラシ本体3a,3b内において、後列のブラシ部材28の配置密度を高くし、前列のブラシ部材配置密度を低く(粗く)することにより、各ブラシ本体3a,3b内での前後列のブラシ部材列に異なる役割(機能)をもたせることも可能である。
【0028】
29は除草機1を手押し走行させるための走行ハンドルで、この例では、前方の揺動アーム12b,12b間に横設された横杆12cに回動可能に軸支して連結されている。このハンドル29は牽引用利用した方が、機能性が高いが手押し用にも利用できる。牽引用としてはベルトやロープ等(図示しない)を用いることもでき、いずれも除草フレーム2自体に連結してもよい。上記のようなハンドル29を使用する場合、このハンドル29に除草機駆動操作用の各種制御装置や操作ボタン等(図示しない)を取付けることができる。
【0029】
図5は前述した除草機1のフロート11及びフロート関連の機構を取外したものを、例えば特開2012-187073号公報中の
図1に示される公知の専用田植機(走行車両)31の昇降リンク32のヒッチ部33に、ブラケット34と取付フレーム35を介して取付けてそのまま使用する場合の実施形態を側面図で示したものである。
【0030】
この例では、除草機1の高さ制御は、昇降リンク32を昇降駆動する公知のリフトシリンダー36の制御によって行うことができるが、植付作業機のセンサーフロート(図示しない)が使用できない場合は、
図5に示すようにヒッチ部33側に又は除草機1側に、除草機1の沈み具合を感知して除草機自体の高さ制御、即ちブラシ部材28の田面挿入深さの制御を行わせるセンサーフロート37を取付けることができる。上記装置により、前述した除草機の主要部と乗用田植機を利用し、田植作業と同一走行要領で除草作業ができる。
【0031】
図5に示す例では、除草機1のブラシ部材28及びブラシ本体3等の機構及び作用は共通であるが、走行車両のサイズ等に応じて、除草機1の左右幅や前後幅、これに伴うブラシ本体3の左右長等は変更される。またいずれの場合も除草機1の駆動用動力は、図示するように独自のアクチュエータ8を設置する場合の他、走行車両側の走行動力系から、公知の田植機やトラクター等の作業機への入力装置と同様に入力することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 除草機
2 除草フレーム
3,3a,3b ブラシ本体
7 アジャスター
8 アクチュエータ
10 駆動装置
11 フロート
28 ブラシ部材
31 走行車両