(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】鉄道レール持ち上げ装置
(51)【国際特許分類】
E01B 33/21 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
E01B33/21
(21)【出願番号】P 2018068121
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390027292
【氏名又は名称】根本企画工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】大野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】北井 健博
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎也
(72)【発明者】
【氏名】根本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢治
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199992(JP,A)
【文献】特開昭59-076605(JP,A)
【文献】特開昭51-151908(JP,A)
【文献】特開2017-053788(JP,A)
【文献】特開2016-014263(JP,A)
【文献】米国特許第4203367(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 33/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
持ち上げるべきレールを挟んだ両側に配置される一対のベースと、
それぞれの前記ベースに設けられ、かつ前記レールと交差する方向の軸線を共通の回転中心軸線とするようにそれぞれの前記ベースに設けられた回転軸と、
それぞれの前記回転軸によって回転可能に前記ベースに取り付けられ、かつ前記レールの底部の幅以上の間隔を空けて配置される一対のアームと、
前記アームの前記回転軸からの距離が同じ箇所に前記アームを繋ぐように設けられたローラ軸と、
前記ローラ軸に保持されているローラとを備え、
前記アームもしくは前記回転軸にリフトバーを連結してそのリフトバーによって前記アームを回転させて前記ローラ上に前記レールを載せて前記レールを上げ下ろしするように構成されていることを特徴とする鉄道レール持ち上げ装置。
【請求項2】
前記アームが前記ベースの延長方向に略水平に倒れた状態、および前記アームが前記ベースから起立した状態において、前記ベースと前記アームとを相対的な回転を抑止するように係合する係合手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道レール持ち上げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道線路の軌道部分であるレールや、レールとまくら木あるいはスラブ(床版)との間に挿入されているゴムパッド等の交換、あるいはロングレールの設定変え等の作業を行なう際に、レールの締結装置を外してレールを持ち上げたり下ろしたりし、さらには持ち上げたレールを縦移動したりするための鉄道レール持ち上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の軌道部分は、従来、地盤の上にバラストと呼ばれる砕石を敷いて道床とし、その上にまくら木を並べ、さらにその上に所定間隔で2本のレールを置き、締結装置(ファスナ)によりレールをまくら木に固定する構造が採用されてきた。これに対して、近年、バラストの突き固めや砕石の補充、まくら木の腐蝕、割損による交換、締結装置のゆるみ防止などに対応するため、良好な乗り心地の維持と保線作業の省力化を目的としてバラスト道床をコンクリート床版に置き換え、これに直接レールを固定するスラブ軌道などの軌道構造が多く採用される傾向にある。しかしスラブ軌道はバラスト道床と比べてクッション性が劣るため、レールと床版との間に振動を吸収する軌道パッドを挿入することが必要である。レール、軌道パッドは共に列車運転に伴う消耗部分であり、所定期間毎に交換が必要である。また、ロングレールに関しては所定期間毎に張力の導入や変更を行なう設定変えという作業が必要である。
【0003】
設定変えを行なったり、レールや軌道パッドを交換したりするには、締結装置を外してレールを持ち上げる必要がある。たとえ1枚の軌道パッドを交換するだけでも、1箇所だけを持ち上げることは困難であり、前後に亙って複数箇所を一斉に持ち上げなければならない。
【0004】
従来、レールを持ち上げるには、「山越器」と呼ばれる門形のフレームをレールを跨いで設置し、その山越器に取り付けたチェーンブロック等を使用してレールを持ち上げることが行われてきた。その山越器やチェーンブロックは大型の重量物であるから、作業はかなり大がかりなものとなっていた。
【0005】
特許文献1には、レールの両側に、レールの頭部を持ち上げるローラを先端に有する小型のスクリュージャッキを設置して両側のジャッキを協調させながらレールを持ち上げる作業方法が提案されている。しかしこの方法では、両側のジャッキをバランスよく作動させる必要があるので作業が不安定にならざるを得ない。また、特許文献1に記載されているジャッキでは、ローラをレールの首の部分に下側から突き当ててレールを押し上げるように構成されている。これに対して、レールの底部は首の部分より幅が広い。そのため、ジャッキによってレールを押し上げるのに伴って、幅の広い底部が、レールに接近させて配置してある左右のジャッキに干渉することになる。このように、特許文献1に記載されているジャッキでは、レールを持ち上げることのできる高さが、レールの底部がジャッキに干渉しない高さに制限されるなどの問題点がある。
【0006】
特許文献2には、レールの脇に足踏み式の油圧ジャッキを設置し、レール底部を片持ちで持ち上げるレール扛上用ジャッキが記載されている。しかし足踏み式の油圧ジャッキは大きいのでレール脇に設置することが困難な場所も多く、また締結装置などがある場合にはレールに接近して設置できないので、このような箇所でのレールの持ち上げをできないなど作業に支障を来す可能性が高い。
【0007】
特許文献3には、上補強部材が下補強部材に対して平行に上下動するように、これら上補強部材と下補強部材とをリンク機構によって連結し、その上補強部材を上昇させるための手段として空気密封チューブを上補強部材と下補強部材との間に配置したジャッキ装置が記載されている。そのジャッキ装置は、レールを固定している締結装置の間に挿入し、空気密封チューブに圧縮空気を送り込んで空気密封チューブを膨張させることにより、上補強部材を上昇させ、これによりレールを持ち上げる、とされている。しかしながら、その空気密封チューブは締結装置同士の間隔以下の長さでかつレールの底部の幅程度の幅のものに限られるから、レールを持ち上げるために必要な空気圧はかなり高圧になる。しかも、空気密封チューブは制限されていない方向(例えば横方向もしくは外周方向)にも膨張するから、レールから受ける荷重と同等の荷重を横方向もしくは外周方向から掛けなければ、圧力が横方向もしくは外周方向に逃げてしまい、レールを持ち上げることができない。そのような横方向(もしくは外周方向)の膨張を制限する機構を設けるとすれば、特許文献3に記載のジャッキ装置は極めて大型かつ大重量になる可能性が高く、実用のためには未だ改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2009-501854号公報
【文献】特開平08-109602号公報
【文献】特開平10-245199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記した従来の技術やさまざまな提案に於ける問題点を解消し、レール下部に挿入が容易な薄い形状で持ち運びも容易な軽量であり、周囲の作業の邪魔にもならず、かつ人力でも簡単にレールを持ち上げ、下ろすことのできる鉄道レール持ち上げ装置を実現することを目的としている。ただし、本出願人はこのような目的に合致した鉄道レール持ち上げ装置を既に開発し、特願2016-041815号として特許出願している。しかしこれは通常の地上区間のスラブ軌道を想定し、スラブとレール下面との隙間が29.5mm程度あるものとしている。ところが、例えばトンネル区間などの軌道部分については前記のスラブとレール下面との隙間が更に小さくわずか10mm程度であり、前記の特許出願の明細書に記載の装置はレールの下面に挿入できないことがわかった。そこで今回は、そのような直結軌道にも適用できる新たな構造の鉄道レール持ち上げ装置を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明は、持ち上げるべきレールを挟んだ両側に配置される一対のベースと、それぞれの前記ベースに設けられ、かつ前記レールと交差する方向の軸線を共通の回転中心軸線とするようにそれぞれの前記ベースに設けられた回転軸と、それぞれの前記回転軸によって回転可能に前記ベースに取り付けられ、かつ前記レールの底部の幅以上の間隔を空けて配置される一対のアームと、前記アームの前記回転軸からの距離が同じ箇所に前記アームを繋ぐように設けられたローラ軸と、前記ローラ軸に保持されているローラとを備え、前記アームもしくは前記回転軸にリフトバーを連結してそのリフトバーによって前記アームを回転させて前記ローラ上に前記レールを載せて前記レールを上げ下ろしするように構成されていることを特徴とする鉄道レール持ち上げ装置である。
【0011】
また、請求項2に記載の本発明は、前記アームが前記ベースの延長方向に略水平に倒れた状態、および前記アームが前記ベースから起立した状態において、前記ベースと前記アームとを相対的な回転を抑止するように係合する係合手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道レール持ち上げ装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スラブとレールとの隙間が少ない直結軌道においても適用でき、装置全体が薄い形状で持ち運びも容易な軽量であり、周囲の作業の邪魔にもならず、レールを真下から簡単に持ち上げ、下ろすことのできる鉄道レール持ち上げ装置が実現し、作業の安全性ならびに作業性が大きく向上するというすぐれた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明実施例のレール持ち上げ装置を示す斜視図である。
【
図2】本発明実施例のレール持ち上げ装置示す平面図である。
【
図3】本発明実施例のレール持ち上げ装置を示す縦断側面図である。
【
図4】本発明実施例のレール持ち上げ装置のベースの部分を示す斜視図である。
【
図5】本発明実施例のレール持ち上げ装置のアームとローラを示す斜視図である。
【
図6】本発明実施例のレール持ち上げ装置のボールプランジャを示す断面図である。
【
図7】本発明実施例のレール持ち上げ装置の使用状況を示す説明図である。
【
図8】本発明実施例のリフトバーを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は実施例のレール持ち上げ装置の斜視図、
図2は平面図、
図3は縦断側面図である。このレール持ち上げ装置は、同一(共通)の回転中心軸線上に設けられた一対の回転軸3a,3bに、内側の間隔が持ち上げようとするレールRの底部の幅よりも広くなるように取り付けられた一対のアーム2a,2bと、そのアーム2a,2bに、前記回転軸3a,3bから等しい距離に取り付けられてローラ4を保持している1本のローラ軸5と、前記回転軸3a,3bを支持する軸受を有する一対のベース1a,1bとからなり、前記回転軸3a,3bまたはアーム2a,2bにリフトバー8を接続して前記回転軸3a,3bを人力で回転させることにより前記ローラ4によってレールRの上げ下ろしができる。
【0015】
そして前記アーム2a,2bがベース1a,1bの延長方向に略水平に倒れた状態(待機位置)、および前記アーム2a,2bが起立した状態(起立位置)において、前記ベース1a,1bと前記アーム2a,2bとが係合する係合手段を備える。
【0016】
前記回転軸3a,3bとローラ軸5との距離は等しくなっているので、ベース1a,1bを同一平面上に置けば、回転軸3a,3bは同一中心線上に並ぶこととなる。ローラ4については、
図2における寸法(ローラ4の全体としての長さ)Wを、持ち上げようとするレールRの底部幅に多少の余裕を加えた値とすれば良い。ローラ4は接触しているレールRに対して相対的に回転することが必要である。そのためには、ローラ4とローラ軸5を一体として、両端のアーム2a,2bの部分でローラ軸5を回転できるようにしても良いし、ローラ軸5を固定してローラ軸5とローラ4との間で回転させても良い。またローラ4は長さ方向に分割した構成としても良い。ローラ4は上げ下ろしの際にはわずかに回転するだけだが、溶接や切断等のためにレールRを縦移動する場合には、かなり回転する必要がある。
【0017】
図3に示すように、レールRの上げ下ろしに際してローラ4はほぼ水平の位置から立ち上がって頂点をわずかに越え、ベース1a,1bの角部に突き当たるまで100°ないし120°回転する。このようにして立ち上がって停止した位置では安定しているのでレールRの重量で戻されることがなく、そのままレールRを縦移動することができる。
【0018】
図4はベース1a,1bを示す斜視図、
図5はアーム2a,2bとローラ4とを示す斜視図である。これらの図を参照してそれぞれの詳細を説明する。ベース1a,1bはレールRを挟んでその左右に配置され、それぞれの構造あるいは形状は同一もしくは類似していてよく、あるいは左右対称の構造あるいは形状であってよい。
図4に示す例では、各ベース1a,1bはいわゆる「コ」字状をなしていて、
図4の右方向に突き出しているそれぞれ一対の突出部1
a1,1
b1の間に前記回転軸3a,3bが取り付けられている。
図4に示す例では、
図4の下側(手前側)のベース1bがいわゆるメインベースであって、前記突出部1
b1を繋いでいる基部1
b2が、他方のベース1aにおける基部1
a2より幅が広く(スラブS上に設置した状態でのレールRの長さ方向の寸法が大きく)形成されている。このメインベース1bの基部1
b2には、追って説明する落下防止アーム7を取り付けるようになっている。さらに、各ベース1a,1bの基部1
a2,1
b2には、回転軸3a,3bに取り付けられているアーム2a,2bの回転を抑止するボールプランジャ6が取り付けられている。このボールプランジャ6がこの発明の実施例における係合手段に相当している。
【0019】
図5に示す各アーム2a,2bは、互いに左右対称の構造もしくは形状に構成されている。各アーム2a,2bは、前述したベース1a,1bにおける突出部1
a1,1
b1の間に挿入されて前記回転軸3a,3bによって回転可能に支持される円柱部2
a1,2
b1を備えている。これらの円柱部2
a1,2
b1の外周の二箇所に溝21a,21bがそれぞれ形成されている。この溝21a,21bは、前述したボールプランジャ6を係合させる部分であり、アーム2a,2bが待機位置にある場合および起立位置に回転している場合にボールプランジャ6が係合する角度位置に形成されている。なお、溝21a,21bは必要に応じて更に形成してもよい。
【0020】
この円柱部2a1,2b1から半径方向に延び出た部分に、前記ローラ軸5が取り付けられるブロック部2a2,2b2が一体に形成されている。ブロック部2a2,2b2は、アーム2a,2bが回転軸3a,3bを中心にして回転した場合にベース1a,1bに干渉しないように円柱部2a1,2b1から半径方向に延び出た位置に設けられている。ローラ軸5の両側の各端部が、左右のブロック部2a2,2b2に取り付けられており、したがって左右のベース1a,1bは、アーム2a,2bおよびローラ軸5を介して互いに連結されている。そして、左右のベース1a,1bおよびアーム2a,2bは互いに同一もしくは類似あるいは対称となる構成もしくは形状であるから、各ベース1a,1bに設けられている回転軸3a,3bは同一の軸線上に並んで位置することになる。言い換えれば、各アーム2a,2bは同一の軸線を中心に回転するように構成されている。また、各アーム2a,2bにおけるローラ軸5を取り付けてある箇所の前記回転軸3a,3bからの距離は同じである。
【0021】
ブロック部2a2,2b2にはアーム2a,2bを回転させる(レールRを上げ下ろしする)操作具としてのリフトバー8を差し込むための孔22a,22bが形成されている。リフトバー8は、鋼製の棒状材あるいは管状材が一般的であり、操作性を良好にするために、単純な直線状でなく、幾分、曲げた形状をなしている。したがって、リフトバー8の向きを固定することが好ましいので、上記の孔22a,22bは矩形孔とし、リフトバー8の先端部は孔22a,22bに一致する矩形断面とすることが好ましい。
【0022】
図6はボールプランジャ6の断面図である。ボールプランジャ6は、前述した溝21a,21bにボールを弾性力で押し込み、そのボールを溝21a,21bから抜け出させるのに要する力をアーム2a,2bの回転を抑止する抑止力として作用させるように構成されている。具体的に説明すると、有底円筒状のケーシング61内にスプリング62が挿入され、先端にボール63(鋼球)が嵌められている。ボール63は後方のスプリング62により常に押し出されようとしているので、このボールプランジャ6をアーム2a,2bの回転軸3a,3bに嵌まる部分に押し当てておくと、溝21a,21bのところでボール63が飛び出すので、アーム2a,2bの自由な回転を抑止する。すなわちベース1a,1bとアーム2a,2bとを係合させることができる。溝21a,21bを、アーム2a,2bの回転に対して停止させたい箇所、すなわち装置全体をほぼ偏平な平面状態にしておく場合と、起立状態を保持させる場合との二箇所に設ける。本装置を持ち歩いたり、レールRの下に挿入したりする場合には、ベース1a,1bが吊り下げられて自由に回転しないほうが良い。またレールRを持ち上げ状態で保持したり縦移動したりする場合にも、アーム2a,2bがレールRに引きずられて戻ったりしないほうが良い。このようにアーム2a,2bの回転抑止力は大小に調整できることが好ましい。そのため、
図6に示す鋼製では、ケーシング61の外周面に雄ネジが形成され、このケーシング61を嵌め込む前記基部1
a2,1
b2には雌ネジ孔が形成されている。したがってケーシング61を回転させて基部1
a2,1
b2に深くねじ込めば、スプリング62の圧縮量すなわちスプリング62によってボール63を溝21a,21b側に押す力が強くなって回転抑止力が大きくなり、これとは反対にケーシング61を基部1
a2,1
b2から抜く方向に回転させれば、回転抑止力が小さくなる。
【0023】
続いて本発明のレール持ち上げ装置の使用方法について説明する。
【0024】
まずレール持ち上げ装置を
図1に示すような偏平な状態にして、持ち上げようとするレールRの下に挿入する。スラブSとレールRとの間隔が極めて狭い場合、このままでは挿入できない。しかしスラブ軌道の場合、敷設されたスラブSとスラブSとの間には所定の隙間があいている。この隙間は通常50±5mmである。したがって少なくとも40mmの隙間がある。そこで装置全体を、ローラ4が下に、ベース1a,1bが上になるように縦向きにしてこの隙間に挿入し、奥側のベース(例えば1a)をレールRの下に潜らせれば、ローラ4がレールRの真下になる。この状態で、ベース1a,1bをスラブSの上面側に引き上げるとともに、スラブSの表面と平行になるように装置の全体を水平にし、こうして、一対のベース1a,1bをレールRの両側に配置する。ベース1a,1bを片側のスラブSの上に倒して水平にすることにより、レール持ち上げ装置の設置が完了する。レール持ち上げ装置をこのように取り扱う過程において、前述したボールプランジャ6のボール63が所定の溝21a,21bに嵌まり込んでいるので、アーム2a,2bの回転が抑止される。すなわち、レール持ち上げ装置は、アーム2a,2bがベース1a,1bに対して水平状態に延びた状態(形状)に維持されので、レール持ち上げ装置のハンドリングが容易になる。
【0025】
図1ないし
図5に示すように、アーム2a,2bにはリフトバー8を差し込むための孔22a,22bが設けられている。
図7(a)に示すようにリフトバー8をこの孔22a,22bに差し込み、矢印の方向に回転させる。アーム2a,2bはリフトバー8と共に回転軸3a,3bを中心にして回転するので、その先端部分に取り付けられているローラ4が持ち上がってアーム2a,2bがレールRを持ち上げる。リフトバー8は
図7に示すように、先端側で幾分屈曲しているので、作業者(図示せず)側の端部の高さが過度に高くならず、そのためリフトバー8の端部を持ち上げやすいなど、レールRの持ち上げ操作が容易になる。また、前記孔22a,22bの形状やここに挿入されるリフトバー8の先端の断面形状が矩形であるから、リフトバー8の回転を阻止でき、この点でもレールRの持ち上げ操作が容易になる。さらに、レールRは上方向に押し上げられるのに対してアーム2a,2bは回転軸3a,3bを中心に回転するので、両者の間に相対移動が生じる。しかしながら、レールRに接触しているローラ4が回転するので、レールRとの間の摺動抵抗が緩和され、もしくは生じないので、レールRを持ち上げるのに要する力をその分小さくでき、レールRの持ち上げ操作がより一層容易になる。
【0026】
また、リフトバー8は左右のアーム2a,2bの孔22a,22bのそれぞれに差し込み、それら二本のリフトバー8を操作してレールRを持ち上げる。その場合、左右のリフトバー8のそれぞれを同時に同じ速さで回動させることが好ましい。そのためには左右のリフトバー8を一本もしくは複数本の横棒で繋いだいわゆる梯子形状のリフトバー8を使用することが好ましい。このようないわゆる梯子状のリフトバー8であれば、一人の作業者でも容易に操作できるだけでなく、左右のアーム2a,2bに掛ける力を均等化できる。
【0027】
図8に梯子形状のリフトバー8の一例を斜視図で示してある。ここに示すリフトバー8は、レールRの左右にそれぞれ配置されているアーム2a,2bにおける孔22a,22bに差し込む二本のリフトバー8a,8bを備えている。これらのリフトバー8a,8bの先端部8
a1,8
b1は、下向きに幾分曲がっており、また前記孔22a,22bの形状に一致する矩形断面に形成されている。これらのリフトバー8a,8bは互いに平行になっていて、それぞれの長手方向での中間部を一本もしくは複数本の横棒81で繋いで梯子状に構成されている。このリフトバー8は、レールRを持ち上げる操作時に、レールRを跨いだ状態で前記アームa,2bの孔22a,22bに差し込むから、横棒81はリフトバー8をアーム2a,2bに連結する場合およびレールRを持ち上げるべく
図7(a)の矢印方向に回転させた場合のいずれにおいてもレールRに干渉しないように、先端部8
a1,8
b1から十分、離れた位置に設けられている。
【0028】
図2、
図3の実施例のものについて寸法例を示すと、ローラ4の長さ(W)は160mm、ローラ4の径は25mm、ローラ頂部の回転半径は約42mm、重量は2.8kgで、ベース1a,1bの下面、すなわちスラブSの表面から50mmの高さまでレールRを持ち上げるのに必要な力は垂直方向に8526Nであった。これに相当するトルクは、適当な長さのリフトバー8を使用すれば作業者1人の力で十分実現できる。
【0029】
アーム2a,2bの水平状態からの回転角度は、前述したように100°ないし120°程度であり、レールRを持ち上げ終わった状態でアーム2a,2bは直立を越えて幾分倒れた状態になる。この状態は、アーム2a,2bがベース1a,1bにおける基部1a2,1b2の側面もしくは所定の角部に接触してそれ以上の回転が規制されている状態である。したがって、レールRはローラ4に載った状態でアーム2a,2bによって所定の高さに保持される。ローラ4は回転可能であるから、ローラ4上のレールRをその長さ方向に移動させることが容易であり、したがってレールRを上記のように持ち上げることによりレールRの設定変えを行うことができる。また、ローラ4が回転することによりレールRのいわゆる縦移動を容易に行うことができる。
【0030】
続いて落下防止について説明する。本発明に係るレール持ち上げ装置は、前述したようにスラブSなどの上に設置するのみであって、積極的な固定のための手段を有していないし、しかも軽量である。さらには、前述したように、スラブS同士の間の隙間からレールRの下を潜らせてレールRの左右両側にベース1a,1bを設置し、その状態でアーム2a,2bは上記の隙間を覗くように水平方向に延びている。これに対してリフトバー8は持ち上げ装置に比較して重量が大きい。そのため、リフトバー8をアーム2a,2bの孔22a,22bに差し込むときなどに、上記の隙間の上に延びているアーム2a,2bを押し下げることになり、その結果、持ち上げ装置を上記の隙間に向けて傾けさせる荷重(もしくはモーメント)が生じ、持ち上げ装置が設置位置から外れてスラブS同士の間の隙間などに落下してしまうことが起こる可能性がある。そこで上述したレール持ち上げ装置は、
図1ないし
図4に示すように落下防止アーム7(
図7では省略してある。)を取り付けてある。
【0031】
落下防止アーム7はそのようなモーメントに対抗する反力を生じさせるように構成されている。具体的には、前述したいわゆるメインベース1bの基部1b2の背面(突出部1b1とは反対側の面)に落下防止アーム71が水平方向に延びて取り付けられている。落下防止アーム71の先端部には、水平方向(ローラ4と平行な方向)に向けた円筒状のホルダが設けられており、そのホルダの内部にピン72が出し入れ可能に収容されている。そのピン72にはつまみ73が取り付けられており、つまみ73はホルダに形成されているガイド孔を貫通してホルダの外側に突き出ており、そのつまみ73によってピン72を出し入れできるようになっている。ピン72の最大突出長さは、ピン72の先端部がレールRの下面側に入り込む長さである。
【0032】
上記のピン72は通常時はホルダの内部に後退させて収納しておく。レールRを持ち上げるべく装置を前述したようにスラブS上に設置した後、ピン72をつまみ73によってホルダから突き出させて、ピン72の先端部をレールRの下面側に入り込ませる。アーム2a,2bの孔22a,22bにリフトバー8を差し込むときなどに、落下防止アーム71が持ち上げるようにベース1a,1b(もしくは装置の全体)が傾こうとした場合、ピン72がレールRの下面に引っ掛かるので、ベース1a,1b(もしくは装置の全体)の傾き、すなわちスラブS同士の間の隙間に落下することが阻止される。なお、落下防止アーム71は装置を持ち歩くときの持ち手としても使用できる。
【0033】
なお、本発明は上述した実施例に限定されないのであって、リフトバー8はアーム2a,2bに連結せずに、回転軸3a,3bに連結してアーム2a,2bを回転させるように構成してもよい。すなわち、回転軸とアームとを一体化すると共に、回転軸にはリフトバーを取り付ける連結部を設け、その連結部に繋いだリフトバーによって回転軸と共にアームを回転させるように構成してもよい。また、本発明における係合手段は、前述したボールプランジャ6および溝21a,21bに限定されないのであって、アーム2a,2bを所定の回転位置に仮止めしておくように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0034】
1a,1b…ベース、 2a,2b…アーム、 3a,3b…回転軸、 4…ローラ、 5…ローラ軸、 6…ボールプランジャ、 7…落下防止装置、 8…リフトバー、 21a,21b…(アームの)溝、 22a,22b…(リフトバー差し込み用の)孔、 61…(ボールプランジャの)ケーシング、 62…スプリング、 63…ボール、 71…落下防止アーム、 72…ピン、 73…つまみ、 R…レール、 S…スラブ。